説明

廃液回収装置及びこれを備えたインクジェット記録装置

【課題】吐出回復モードにおいて、複数のインクジェットヘッドから吐出されたインクが増粘するのを抑制してインクを効率よく回収することができる廃液回収装置を提供する。
【解決手段】廃液回収装置30は、複数の第1廃液受け31と、第2廃液受け32とを備えている。第1廃液受け31は、各インクジェットヘッド13の下方にそれぞれ配設され、内部に受け入れたインクを排出可能な第1排出孔54をそれぞれの底部50に有している。第2廃液受け32は、複数の第1廃液受け31の下方に配設され、各第1排出孔54から排出されるインクを受け入れ可能な開口部58を上部に有するとともに、内部に受け入れたインクを排出可能な第2排出孔60を底部56に有している。開口部58は、第1廃液受け31によりその一部が構成される蓋体91によって塞がれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドのノズルから吐出されたインクを回収する廃液回収装置及びこれを備えたインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録装置としては、多数のノズルを有するインクジェットヘッドによって印字を行うラインプリンタが知られている。前記インクジェットヘッドのノズル面には、シート搬送方向に対して直交する方向(シート幅方向)に多数のノズルがライン状に配列されている。シートは、これら多数のノズルからインクが吹き付けられることにより印字される。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、不使用時にインクが増粘するのを抑制するためにノズル面がキャップにより密閉されているが、長期間使用しない場合には、増粘したインクが流路やノズルを塞いでしまうことがある。このため、次に使用する際には、増粘したインクを強制的に排出する、いわゆる吐出回復モードが実行される。
【0004】
特許文献1には、上記のような吐出回復モードを実行可能な廃液回収装置が提案されている。この廃液回収装置は、複数のインクジェットヘッドから吐出されるインクを受け入れて第1排出孔から自然落下させて排出する複数の第1廃液受けと、各第1廃液受けの第1排出孔から排出されたインクを受け入れて第2排出孔から排出する第2廃液受けと、を備えている。
【0005】
この特許文献1の廃液回収装置では、インクは、各第1廃液受けから自然落下して1つの第2廃液受けに排出され、この第2廃液受けに収容されたインクを排出ポンプで吸引してインクを廃液回収容器に回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−83245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、インクが第2廃液受けに収容されてから排出ポンプにより吸引されて第2排出孔から排出されるまでの間にはある程度の時間を要するので、その間に第2廃液受け内においてインクの増粘が進行して廃液回収の効率が低下することがある。
【0008】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、吐出回復モードにおいて、インクジェットヘッドから吐出されたインクが増粘するのを抑制してインクを効率よく回収することができる廃液回収装置、及びこれを備えたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドのノズル面に形成されたノズルから吐出されるインクを回収する廃液回収装置に関するものである。この廃液回収装置は、第1廃液受けと、第2廃液受けとを備えている。前記第1廃液受けは、前記ノズルから吐出されるインクを受け入れ可能なように前記インクジェットヘッドの下方に配設され、内部に受け入れたインクを排出可能な第1排出孔を底部に有している。前記第2廃液受けは、前記第1廃液受けの下方に配設され、前記第1排出孔から排出されるインクを受け入れ可能な開口部を上部に有するとともに、内部に受け入れたインクを排出可能な第2排出孔を底部に有している。前記第2廃液受けの前記開口部は、前記第1廃液受けによりその一部又は全部が構成される蓋体によって塞がれている。
【0010】
この構成では、前記第2廃液受けの前記開口部が前記蓋体によって塞がれているので、前記第2廃液受けの内部空間に前記開口部を通じて空気が出入りするのを抑制できる。これにより、吐出回復モードにおいてインクジェットヘッドから吐出されたインクが第2廃液受けにおいて増粘するのを抑制することができるので、インクを効率よく回収できる。
【0011】
ここで、「開口部を塞ぐ」とは、前記開口部を通じて前記第2廃液受けの内部への空気の出入りが完全に遮断された状態だけでなく、前記蓋体により前記開口部の大半が塞がれることにより前記開口部を通じて前記第2廃液受けの内部への空気の出入りが抑制された状態も含む。
【0012】
例えば、前記インクジェット記録装置が複数の前記インクジェットヘッドを備えたものである場合には、前記複数のインクジェットヘッドの下方にそれぞれ配設された複数の前記第1廃液受けを備え、前記蓋体は、前記複数の第1廃液受けによりその一部又は全部が構成された形態が挙げられる。
【0013】
また、各第1廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第1側壁部を有し、前記第2廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第2側壁部を有し、前記蓋体は、前記第1側壁部から側方に延びて前記開口部をその上方から覆う天部と、この天部の周縁から下方に延びて前記第2側壁部に対向する第3側壁部とをさらに含んでいるのが好ましい。
【0014】
この構成では、前記第2側壁部と前記第3側壁部とが対向することによりこれらが厚み方向に重なり合った構造を有している。このような重なり部分を設けることにより、前記第2側壁部と前記第3側壁部との隙間を通じて前記第2廃液受けの内部に空気が流れ込みにくくなるので、前記開口部を通じた空気の出入りをさらに抑制することができる。
【0015】
また、前記廃液回収装置は、付勢手段と、昇降手段とを備えているのが好ましい。前記付勢手段は、前記複数の第1廃液受けを前記第2廃液受けに対して上方に付勢する。前記昇降手段は、前記付勢手段により前記複数の第1廃液受けを上方に付勢して前記複数のインクジェットヘッドの各ノズル面を各第1廃液受けによりそれぞれ覆うキャップモードと、各第1廃液受けが各ノズル面から下方に離隔した状態で各ノズル面の前記ノズルからインクを吐出させ、そのインクを回収する吐出回復モードとの間のモード切り替え時に前記第2廃液受けを上下方向に昇降可能である。そして、前記モード切り替え時において前記昇降手段により前記第2廃液受けが昇降する際に、前記第2側壁部は、前記第3側壁部に対向した状態を維持しつつ前記第3側壁部に対して相対的に上下方向に移動可能である。
【0016】
この構成では、各第1廃液受けは、前記キャップモードにおいては各ノズル面を覆うキャップとしての機能を果たし、前記吐出回復モードにおいては各ノズル面のノズルから吐出されるインクを内部に受け入れ、このインクを前記第1排出孔から排出する容器の機能を果たす。また、この構成では、前記キャップモードと前記吐出回復モードとの間のモード切り替え時において、前記昇降手段により前記第2廃液受けが昇降する際に、前記第2側壁部は、前記第3側壁部に対向した状態を維持しつつ前記第3側壁部に対して相対的に上下方向に移動可能である。したがって、各モードにおいて前記第2側壁部と前記第3側壁部とが厚み方向に重なり合った構造を維持することができるので、各モードにおいて前記開口部を通じた空気の出入りを抑制する効果を得ることができる。
【0017】
また、前記第2側壁部と前記第3側壁部との間には、これらの隙間を塞ぐシール部材が配設されているのが好ましい。
【0018】
この構成では、前記第2側壁部と前記第3側壁部との隙間に配設された前記シール部材により前記開口部を通じた空気の出入りをさらに抑制することができる。
【0019】
また、前記シール部材は前記第2側壁部及び第3側壁部のそれぞれに設けられており、これらのシール部材が相対的に上下に摺動可能なように対向して配置されているのがさらに好ましい。
【0020】
この構成では、前記第2側壁部と前記第3側壁部の双方に前記シール部材が設けられ、これらが対向して配置されているので、前記開口部を通じた空気の出入りを一段と抑制することができる。しかも、これらのシール部材が相対的に上下に摺動可能であるので、前記キャップモードと前記吐出回復モードとの間のモード切り替えを円滑に行うことができる。
【0021】
また、前記第2廃液受けの前記底部の上面に配置され、前記キャップモードにおいて前記第1廃液受けの前記底部の下面に当接して前記第1排出孔を下方から塞ぎ、前記吐出回復モードにおいて前記第1廃液受けの前記底部の下面から離隔して前記第1排出孔を開放する封止部材をさらに備えているのが好ましい。この構成の場合には、前記キャップモードにおいて前記第2側壁部の前記シール部材と前記第3側壁部の前記シール部材とが対向している部分の上下方向の長さは、前記吐出回復モードにおいて前記封止部材の上端部と前記第1廃液受けの前記底部の下面との離間距離よりも大きいのが好ましい。
【0022】
この構成では、前記封止部材を備えているので、前記キャップモードにおいて前記ノズル面と前記第1廃液受けとの間の空間の気密状態をより高めて、前記ノズル面におけるインクの増粘をさらに抑制することができる。
【0023】
ところで、前記吐出回復モードにおいて前記封止部材の上端部と前記第1廃液受けの底部の下面との離間距離は、キャップモードから吐出回復モードに切り替える時に第2廃液受けが第1廃液受けに対して相対的に下方に移動する移動距離に相当する。そこで、この構成においては、前記キャップモードにおいて前記第2側壁部のシール部材と前記第3側壁部のシール部材とが対向している部分の上下方向の長さを前記離間距離よりも大きくしているので、吐出回復モードにモード切り替えを行ったとしても、前記第2側壁部と前記第3側壁部のシール部材同士が対向した状態を維持できる。これにより、前記第2側壁部と前記第3側壁部の間の隙間を通じた空気の出入りを抑制する効果が低下するのを抑えることができる。
【0024】
また、前記第2廃液受けの内部に受け入れたインクを前記第2排出孔を通じて吸引可能な排出ポンプをさらに備え、前記排出ポンプは、前記吐出回復モードにおいて、前記第2廃液受けの内部を負圧の状態に調整可能であるのが好ましい。
【0025】
前述の通り、蓋体により第2廃液受けを塞ぐことにより第2廃液受けの内部への空気の浸入が抑制されている。したがって、吐出回復モードにおいては、排出ポンプにより第2排出孔を通じて第2廃液受けの内部の空気及びインクを吸引することにより、前記第2廃液受けの内部を負圧の状態に調整することができる。このように第2廃液受けの内部が負圧になると、各第1排出孔に対してほぼ均等な吸引圧力をかけることができる。これにより、従来のように各第1排出孔からインクを自然落下させる場合と比較して、各第1排出孔からのインクの排出効果を高めることができるとともに、各第1排出孔からのインクの排出状態のばらつきを低減することができる。
【0026】
本発明のインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの前記ノズルから吐出されるインクを回収する前記のいずれかの廃液回収装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、吐出回復モードにおいて、複数のインクジェットヘッドから吐出されたインクが増粘するのを抑制してインクを効率よく回収可能な廃液回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録装置を、シート搬送方向(矢印Ks方向)に直交する正面側(前側)から見たときの概略図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置をシート搬送方向上流側(右側)から見たときの概略図である。
【図3】(a)は、本発明の一実施形態にかかる廃液回収装置を上方から見たときの概略図であり、(b)はその廃液回収装置を右側(シート搬送方向上流側)から見たときの概略図である。
【図4】(a)は第2廃液受けが廃液回収位置Aに配置された状態における図3(a)のX−X線断面図であり、(b)は第2廃液受けがキャップ位置Bに配置された状態における図3(a)のX−X線断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態にかかる廃液回収装置の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態にかかる廃液回収装置及びこれを備えたインクジェット記録装置について図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、「廃液」とは、インクジェットヘッドの目詰まり抑制のため、インクジェットヘッド内の空気の入った、又は粘度が高くなったインクをインクジェットヘッドから排出したもののことをいう。なお、各図においては、説明に不要な部材等については適宜、図示を省略している。
【0030】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、表面にシートSを担持して搬送する搬送ベルト(シート搬送部材)11を有するシート搬送部12と、搬送ベルト11によって搬送されるシートSにインクを吹き付けて印字する複数のインクジェットヘッド13を有する印字領域(印字部)Pとが設けられている。
【0031】
同図に示す例では、インクジェット記録装置10は、4色フルカラーのタイプである。複数のインクジェットヘッド13は、シート搬送方向(矢印Ks方向)に沿っての上流側から順に、ブラック(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)のインクをそれぞれ吐出させる4つのインクジェットヘッド13A,13B,13C,13Dにより構成されている。なお、以下の説明において、各インクジェットヘッド13A〜13Dについて特に色を区別する必要がない場合や、総称していう場合には、適宜「インクジェットヘッド13」と記載する。この点については、後述する第1廃液受け31(31A,31B,31C,31D)についても同様である。
【0032】
図1に示すように、搬送ベルト11は、駆動ローラ14と従動ローラ15とに無端状(エンドレス)に掛け渡されている。この搬送ベルト11は、モータ16による駆動ローラ14の矢印R14方向(同図中の反時計回り)の回転に伴って矢印R11方向に移動(回転)する。搬送ベルト11と各インクジェットヘッド13A〜13Dとの間の領域は、印字領域Pとなる。
【0033】
搬送ベルト11の下方には、給紙カセット17が配設されている。給紙カセット17に積層状態で収納されたシートSは、給紙ローラ18によって給紙カセット17から給紙され、さらに搬送ローラ20及び重送防止用のリタードローラ21によって1枚ずつ分離され、搬送ガイド22に沿って下流側に搬送される。さらに、シートSはレジストローラ対23によって斜行が矯正された後、搬送ベルト11に供給される。このとき、シートSは、帯電バイアスが印加された吸着ローラ24によって電荷が付与され、搬送ベルト11のシート担持面11a(搬送ベルト11の表面のうち、従動ローラ15の下流側で、かつ、駆動ローラ14の上流側に位置する部分)に静電的に吸着されて担持される。
【0034】
搬送ベルト11のシート担持面11aに担持されたシートSは、搬送ベルト11の矢印R11方向の回転に伴って印字領域Pに供給され、後述するインクジェットヘッド13A〜13Dによって印字が行われる。印字が終了したシートSは、搬送ベルト11から分離されて排紙トレイ25に排出される。
【0035】
各インクジェットヘッド13A〜13Dは、シート幅方向(シート搬送方向(矢印Ks方向)に対して直交する方向)に長い形状を有しており、いわゆるラインヘッドを構成している。本実施形態では、4個のインクジェットヘッド13A,13B,13C,13Dは、図1に示すように、シート搬送方向に沿っての上流側から下流側にかけて等間隔に配列されている。
【0036】
インクジェットヘッド13A〜13Dの下方の搬送ベルト11の裏面側には、平板状の搬送ガイド26が配設されている。搬送ベルト11は、その裏面を搬送ガイド26に摺擦させるようにして印字領域Pを通過する。これにより、後述する各インクジェットヘッド13A〜13Dのノズルnと、搬送ベルト11のシート担持面11aに担持されて搬送されるシートSとの間隙が高い精度で調整される。
【0037】
各インクジェットヘッド13は、搬送ベルト11のシート担持面11aに対面する平面状のノズル面Nを有している。各ノズル面Nには、インクを吐出するための多数のノズルnがシート幅方向に沿ってライン状に配列されている。各ノズルnは、例えばインクジェット記録装置10の解像度が600dpi(ドット/インチ:1インチ当たりのドット数)である場合には、その直径が20μm程度である。また、この場合には、隣接する2つのノズルn,n間のピッチは40μm程度となる。ライン状に整列された多数のノズルnは、シート幅方向に1列に直線状に整列されていてもよく、また、シート幅方向に千鳥状に整列されていてもよい。
【0038】
インクジェット記録装置10は、搬送ベルト11によって印字領域Pに担持搬送されてきたシートSに対して、インクジェットヘッド13A〜13Dによりライン単位で印字を行い、全体として4色フルカラーの印字を行うことができる。
【0039】
インクジェットヘッド31A〜31Dは、供給チューブ70を介してインクタンク73に接続されている(図3(b))。供給チューブ70は、インクタンク73側において二股に分岐されてインクタンク73に接続されている。二股に分岐された一方には電磁弁71が設けられ、他方には供給ポンプ(加圧ポンプ)72が設けられている。
【0040】
インクジェットヘッド13A〜13Dは、使用しない状態が長時間続くと、インクタンク73からノズルnに至るまでの間のインク流路(不図示)やノズルnの近傍において、インクが増粘したり乾燥したりして目詰まりが発生することがある。目詰まりが発生すると、ノズルnからインクが吐出されなかったり、吐出されたとしてもその吐出速度が遅くなったりして、インクがシートSの表面の適正な位置に到達しなくなり、印字不良が発生する。
【0041】
本実施形態では、このような印字不良が生じるのを抑制するため、インクジェットヘッド13A〜13Dの不使用時にはそのノズルnを密閉するキャップモードを実行し、再使用開始時には増粘や乾燥しているインクを吐出させる吐出回復モードを実行する。図2に示すように、インクジェット記録装置10は、搬送ベルト11、インクジェットヘッド13A〜13Dの他に、さらに、廃液回収装置30、移動機構40を備えている。キャップモード及び吐出回復モードの実行は、主に廃液回収装置30及び移動機構40により行われる。
【0042】
廃液回収装置30は、全体が印字領域Pから外れた領域、すなわち、印字動作の妨げとならないように搬送ベルト11の後方の領域に配設されている。この廃液回収装置30は、蓋体91と、第2廃液受け32と、排出チューブ33と、廃液回収容器34と、排出ポンプ35と、昇降手段としての昇降機構36とを有している。
【0043】
蓋体91は、複数の第1廃液受け31と、後述する天部92と、第3側壁部93とを含む。複数の第1廃液受け31は、各インクジェットヘッド13に対応した合計4つの第1廃液受け31A,31B,31C,31Dを含む。廃液回収装置30の詳細については後述する。
【0044】
移動機構40は、駆動モータ41と、この駆動モータ41の出力軸に固定された駆動プーリ42と、この駆動プーリ42と対をなす従動プーリ43と、これら駆動プーリ42及び従動プーリ43に掛け渡された伝動ベルト44と、従動プーリ43と一体の送りねじ45と、この送りねじ45の前端側に螺合された送りナット46とを有している。送りナット46は、4個のインクジェットヘッド13A〜13Dを一体的に保持しているフレーム47に固定されている。
【0045】
駆動モータ41を正回転(例えば、右回り)させると、この回転が駆動プーリ42、伝動ベルト44、及び従動プーリ43に伝達されて、送りねじ45が正回転する。これにより、送りナット46と一体のフレーム47及びインクジェットヘッド13A〜13Dが後方(図2中の右側)に移動する。そして、各インクジェットヘッド13A〜13Dが、各第1廃液受け31A〜31Dの上方に到達すると、これをセンサ(不図示)が検知して、駆動モータ41が停止する。これにより、各インクジェットヘッド13A〜13Dからインクを吐出させて廃液を回収する吐出回復モードの準備が完了する。
【0046】
次に、図3及び図4を参照して、廃液回収装置30について詳述する。
【0047】
4つの第1廃液受け31A〜31Dは、金属(例えばアルミニウム)や合成樹脂により形成されており、十分な剛性を有している。各第1廃液受け31は、前後方向に長いほぼ直方体の容器形状を有している。4個の第1廃液受け31A〜31Dは、いずれもほぼ同形状である。各第1廃液受け31は、前後方向に長い長方形状の底部50と、この底部50における4つの辺(周縁)から上方に立設された4つの第1側壁部51とを有している。
【0048】
各第1廃液受け31の上部には、4つの第1側壁部51の上縁部分により形成された第1開口部52が設けられている。インクジェットヘッド13A,13B,13C,13Dのノズル面Nのノズルnから吐出されるインクは、この第1開口部52を通じて第1廃液受け31内に受け入れられる。
【0049】
底部50の下面50b側における長手方向の中央には、下方に向けてガイドバー53が突設されている。このガイドバー53は、後述する第2廃液受け32によって上下移動可能にガイドされている。これにより、第1廃液受け31A〜31Dは、第2廃液受け32に対して相対的に上下移動(昇降)可能である。
【0050】
底部50には、ガイドバー53を基準として長手方向のほぼ対称な位置に、2個の第1排出孔54が穿設されている。各第1排出孔60は、底部50を上面50a側から下面50b側に上下方向に貫通している。底部50の上面50aは、第1開口部52を通じて受け入れたインクを受け止める。
【0051】
上面50aは、受け止めたインクが第1排出孔54に向かって流れるように傾斜している。ただし、この傾斜は緩やかであるので、同図では便宜上、平面で図示している。底部50によって受け止められ、上面50aの傾斜に沿って第1排出孔54に到達したインクは、この第1排出孔54を通じて自然落下するか、又は後述するように排出ポンプ35により吸引されて第1排出孔54を通じて落下して第2廃液受け32に受け入れられる。
【0052】
各第1廃液受け31は、4つの第1側壁部51の上縁部分に沿って(第1開口部52の周縁部に沿って)枠状に設けられたノズル封止部材55を有している。ノズル封止部材55は、インクに対して耐腐食性のある弾性部材(例えば、フッ素ゴム、PTFE等)によって形成されている。ノズル封止部材55の上面55aは、内周端55b側よりも外周端55c側の方が高くなるように傾斜している。これにより、第1封止部材55は、後述するように、第1廃液受け31が上昇して、インクジェットヘッド13A〜13Dのノズル面Nに押圧された際にノズル面Nに密着してノズルnを密閉することができる。
【0053】
第2廃液受け32は、図3(a)に示すように、4つの第1廃液受け31A〜31Dの下方をカバーするように形成されている。つまり、第2廃液受け32は、上面視したときの占有面積が、4つの第1廃液受け31A〜31Dの占有面積の合計よりも大きくなるように形成されている。
【0054】
第2廃液受け32は、第1廃液受け31A〜31Dと同様の材質、すなわちアルミニウム等の金属や合成樹脂により形成されており、ほぼ直方体の容器形状を有している。第2廃液受け32は、長方形状の底部56と、その4つの辺(周縁)から上方に立設された4つの第2側壁部57を有している。
【0055】
第2廃液受け32の上部には、4つの第2側壁部57の上縁部分により形成された第2開口部58が設けられている。各第1排出孔54を通じて落下したインクは、第2開口部58を通じて第2廃液受け32内に受け入れられる。
【0056】
第2廃液受け32は、その底部56の前後方向の寸法が第1廃液受け31A〜31Dの前後方向に寸法よりも長く、また、底部56の左右方向の寸法が、整列状態の4つの第1廃液受け31Aの右端から第1廃液受け31Dの左端までの寸法よりも長くなるように形成されている。
【0057】
第2廃液受け32は、図3(a)に示すように、底部56における右端側でかつ後端側の位置に設けられた第2排出孔60有している。第2排出孔60は、底部56を上面56a側から下面56b側に上下方向に貫通している。第2排出孔60における下面56b側には排出チューブ33の一方の端部が取り付けられている。
【0058】
第2廃液受け32は、底部56における上面56aが第2排出孔60に向かって傾斜している。ただし、この傾斜は緩やかであるので、同図では便宜上、平面で図示している。これにより、第1廃液受け31A〜31Dの第1排出孔54から上面56aに落下したインクは第2排出孔60に向かって流れる。
【0059】
第2廃液受け32は、図4(a)に示すように、底部56における前後方向のほぼ中央で、かつ、各第1廃液受け31のガイドバー53に対応する位置に穿設された4つのガイド孔61有している。各ガイド孔61には各ガイドバー53が挿通されており、各第1廃液受け31A〜31Dが昇降可能に支持されている。
【0060】
底部56の上面56aにおけるガイド孔61の回りには、底部56の上面56aを流れるインクが、ガイド孔61を介して下方に漏れ出ることを防止するための円筒状の漏洩防止壁62が設けられている。底部56の下面56b側におけるガイド孔61の下方には、ガイド孔61及びガイドバー53の下端を下方から覆うようにカバー部材63が取り付けられている。
【0061】
第2廃液受け32の底部56の上面56aには、図4(a),(b)に示すように、ブロック状の弾性部材によって形成された排出孔封止部材64が設けられている。この排出孔封止部材64は、底部56の上面56aにおける各第1廃液受け31A〜31Dの第1排出孔54に対応する位置に設けられている。排出孔封止部材64の高さは漏洩防止壁62よりも高く、排出孔封止部材64の上端面は第1排出孔54の開口を塞ぐことができる大きさに形成されている。
【0062】
排出孔封止部材64は、吐出回復モードにおいて第2廃液受け32が図4(a)に示す廃液回収位置Aに配置されたときには、第1廃液受け31に対して相対的に下方に退避して、第1排出孔54を開放する。一方、排出孔封止部材64は、キャップモードにおいて第2廃液受け32が図4(b)に示すキャップ位置Bに配置されたときには、第1廃液受け31の底部50の下面50bに接して第1排出孔54を下方から塞ぐ。
【0063】
図3(a),(b)及び図4(a),(b)に示すように、第2廃液受け32の第2開口部58は、蓋体91により塞がれている。前述したように、蓋体91は、4つの第1廃液受け31A〜31Dと、各第1廃液受け31の第1側壁部51から側方に延びて第2開口部58をその上方から覆う天部92と、この天部92の周縁(4つの端辺)から下方に延設された4つの第3側壁部93とを有している。
【0064】
図3(a)に示すように、天部92は、隣り合う第1廃液受け31間にも設けられており、隣り合う第1側壁部51間をつないでいる。これにより、第2開口部58の上方は、第1排出孔54を除いたほぼ全体が4つの第1廃液受け31と天部92とにより覆われている。
【0065】
本実施形態では、天部92及び第3側壁部93は、4つの第1廃液受け31A〜31Dと一体化されている。このように一体化するには、金属材料の場合にはプレス成形などにより一体成形してもよく、また、樹脂材料の場合には射出成形などにより一体成形してもよい。また、天部92、第3側壁部93及び各第1廃液受け31を別体として成形したのち、これらを連結(接合)してもよい。
【0066】
4つの第3側壁部93は、周方向に連続して形成されており、断面が四角形の筒形状を有している。4つの第3側壁部93は、4つの第2側壁部57とそれぞれ対向して配置されている。各第3側壁部93は、対向する第2側壁部57との間に所定の隙間をあけて配置されている。
【0067】
図4(a),(b)に示すように、第2側壁部57と第3側壁部93との間には、シール部材94,95が配置されている。シール部材94は、4つの第2側壁部57の外表面に周方向に沿って連続して帯状に取り付けられている。シール部材95は、4つの第3側壁部93の内表面に周方向に沿って連続して帯状に取り付けられている。
【0068】
これらのシール部材94,95は、相対的に上下に摺動可能なように対向して配置されている。具体的には、シール部材94,95の材料としては、摺動時の摩擦抵抗が小さくなるように摩擦係数の小さな材料を用いるのが好ましい。例えば、このような材料としては、例えばテフロン(登録商標)などのフッ素樹脂系の合成樹脂材料が挙げられる。例えば、この材料をテープ形状に成形し、一方の面に接着層を形成したものを第2側壁部57及び第3側壁部93の各表面に貼り付ければよい。
【0069】
各シール部材94,95の配設位置、幅などは特に限定されるものではないが、次のような条件で設けるのが好ましい。すなわち、図4(a)に示すように、吐出回復モードにおいて排出孔封止部材64の上端面と第1廃液受け31の底部50の下面50bとが離間している離間距離L1は、キャップモード(図4(b))から吐出回復モード(図4(a))に切り替える時に第2廃液受け32が第1廃液受け31に対して相対的に下方に移動する移動距離に相当する。したがって、図4(b)に示すように、キャップモードにおいて第2側壁部57のシール部材94と第3側壁部93のシール部材95とが対向している部分(厚み方向に重なっている部分)の上下方向の長さL2を前記離間距離L1よりも大きくするのが好ましい。これにより、キャップモードから吐出回復モードにモード切り替えを行ったとしても、シール部材94,95同士が対向した状態を維持できる。
【0070】
また、各シール部材94,95の上下方向の長さL3は、前記離間距離L1の2倍よりも大きくするのが好ましい。このように各シール部材94,95の長さに余裕を持たせることにより、後述する圧縮ばね65の伸び縮みにより第1廃液受け31と第2廃液受け32との相対位置が多少大きく変動した場合であっても、シール部材94,95同士の対向状態を維持することができる。これにより、シール部材94の端部とシール部材95の端部とが引っかかったり、第2側壁部57の上端部と第3側壁部93の下端部とが引っかかったりするのを抑制できる。
【0071】
各第1廃液受け31と第2廃液受け32との間には付勢部材としての圧縮ばね(コイルばね)65がそれぞれ配設されている。各圧縮ばね65は、第1廃液受け31の底部50の下面50bと第2廃液受け32の底部56の上面56aとの間において漏洩防止壁62の内側にそれぞれ配置されている。各圧縮ばね65のコイル内には各ガイドバー53が挿通されている。これにより、第1廃液受け31A〜31Dが第2廃液受け32に対して上方に付勢されている。
【0072】
圧縮ばね65は、図4(a)に示すように、第2廃液受け32が廃液回収位置Aに配置されたときには、第1廃液受け31A〜31Dを上方に付勢して、第1排出孔54を排出孔封止部材64から離間させる。一方、図4(b)に示すように、第2廃液受け32がキャップ位置Bに配置されたときには、圧縮ばね65は縮んだ状態となり、排出孔封止部材64が第1廃液受け31の下面50bに当接して第1排出孔54が塞がれるとともに、第1廃液受け31A〜31Dのノズル封止部材55がインクジェットヘッド13A〜13Dのノズル面Nに密着する。これにより、各ノズル面Nは、第1廃液受け31A〜31Dにより密閉される。
【0073】
排出チューブ33は、図4(a),(b)に示すように、一方の端部33aが第2廃液受け32の第2排出孔60に接続されている。この接続部分は、Oリングを有するキャップ66によってインクの漏れ止めが図られている。図2に示すように、排出チューブ33の他方の端部33bは、廃液回収容器34に接続されている。排出チューブ33は、一方の端部33aが接続されている第2廃液受け32が昇降可能に構成されているため、例えば、変形が容易で長さに余裕を持たせたビニールチューブ等によって構成されている。
【0074】
排出ポンプ35は、排出チューブ33の途中に配設されていて、第2廃液受け32の第2排出孔60に貯まったインクを積極的に廃液回収容器34に排出する。
【0075】
廃液回収容器34は、第2廃液受け32から排出ポンプ35によって排出チューブ33を介して排出されたインクを回収する容器である。廃液回収容器34は、廃液回収装置本体(不図示)に対して着脱自在に挿着されていて、廃液回収装置本体から引き出して、中に貯まった廃液を適宜、他の容器に移し替えることができる。
【0076】
昇降機構36は、例えば、図2に示すように、第2廃液受け32の底部56の下面56bの4隅に配設された4個のカム部材67と、これらを回転させるモータ68とを有している。カム部材67は、軸67aを中心に回転する偏心カムである。モータ68が駆動すると、カム部材67の周縁のカム面が第2廃液受け32の底部56の下面56bに当接しながらカム部材67が回転する。これにより、第2廃液受け32は、下方の廃液回収位置A(図4(a))と、上方のキャップ位置B(図4(b))との間を移動する。
【0077】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置10の動作について説明する。
【0078】
インクジェットヘッド13A〜13Dは、図2に示すように、印字時には搬送ベルト11の上方の印字位置に配置される一方で、キャップモード時及び吐出回復モード時には、退避位置(二点鎖線参照)に配置される。具体的に説明すると以下のようになる。
【0079】
印字時において印字位置に配置されたインクジェットヘッド13A〜13Dは、電磁弁71が開弁されて、インクがノズルnからシートSに向けて噴射されて印字が行われる。印字が終了すると、電磁弁71が閉鎖される。
【0080】
供給ポンプ72が停止すると、移動機構40が作動して、インクジェットヘッド13A〜13Dが印字位置から退避位置に移動する。すなわち、移動機構40の駆動モータ41が逆回転し、駆動プーリ42、伝動ベルト44、及び従動プーリ43がそれぞれ逆回転して、送りねじ45が逆回転する。これにより、送りナット47とともにこれと一体のインクジェットヘッド13A〜13Dが後方(図2中の右方)に移動して、二点鎖線で示す退避位置に配置される。
【0081】
つづいて、昇降機構36が作動して、第2廃液受け32が廃液回収位置A(図4(a))からキャップ位置B(図4(b))に上昇する。第2廃液受け32がキャップ位置Bに配置されることにより、圧縮ばね65によって第1廃液受け31A〜31Dが上方に付勢されて、第1封止部材55がインクジェットヘッド13A〜13Dのノズル面Nに押圧される。これとほぼ同時に、第2廃液受け32側の第2封止部材64が第1廃液受け31A〜31Dの第1排出孔60を閉鎖する(キャップモード)。これにより、第1廃液受け31A〜31D内に位置するノズルnが密閉されるため、ノズルn近傍のインクが増粘したり乾燥したりすることを抑制できる。また、このとき、第2廃液受け32の第2開口部58は、蓋体91を構成する第1廃液受け31、天部92及び第3側壁部93により塞がれている。
【0082】
再び印字が行われる場合には、インクジェットヘッド13A〜13Dが印字位置に移動する前に、吐出回復モードが実行される。すなわち、インクジェットヘッド13A〜13Dは、駆動モータ68を逆回転させることで、カム部材67が回転し、第2廃液受け32が、キャップ位置Bから廃液回収位置Aに移動する(下降する)。この移動過程においては、第2廃液受け32が下方に移動するのに伴って、圧縮ばね65の付勢力により第1廃液受け31は第2廃液受け32に対して相対的に上方に移動する。また、この相対移動時には、第3側壁部93は、第2側壁部57の対向状態を維持しつつ、第2側壁部57に対して相対的に上方に移動する。
【0083】
これにより、図4(a)に示すように、第1封止部材55がノズル面Nから離間し、また、第2封止部材64が下降することで、第1排出孔54が開放される。また、第2廃液受け32が廃液回収位置Aにあるとき、及びキャップ位置Bから廃液回収位置Aへの移動中は、第2廃液受け32の第2開口部58は、蓋体91を構成する第1廃液受け31、天部92及び第3側壁部93により塞がれている。この状態で,吐出回復モードが実行される。
【0084】
吐出回復モードにおいては、電磁弁71が閉じられ、供給ポンプ72が駆動すると、インクジェットヘッド13A〜13D内のインクが加圧されてノズルnから排出される。排出されたインクは、ノズル面Nに滴を作り、この滴が大きくなると、第1廃液受け31A〜31Dの底部50の上面50aに落下する。落下したインクは、上面50aの傾斜に沿って第1排出孔54に導かれ、この第1排出孔54から第2廃液受け32の底部56の上面56aに自然落下する。自然落下したインクは、上面56aの傾斜に沿って第2排出孔60に向かって流れる。第2排出孔60に到達したインクは、排出ポンプ35(図2参照)によって吸引され、排出チューブ33を介して、廃液回収容器34に回収される。
【0085】
なお、吐出回復モードにおいて、供給ポンプ72の駆動を開始するとともに排出ポンプ35の駆動も同時期に開始する場合には、第2廃液受け32の内部を負圧の状態に調整して各第1排出孔54を通じて各第1廃液受け31のインクを吸引することもできる。この場合には、インクは第1排出孔54から自然落下するのではなく、排出ポンプ35により吸引されるので、インクの排出をより効率的に行うことができる。
【0086】
吐出回復モードが終了すると、移動機構40の駆動モータ41が正回転し、駆動プーリ42、伝動ベルト44、及び従動プーリ43を介して送りねじ45が正回転する。これより、送りねじ45に螺合された送りナット46と一体のインクジェットヘッド13A〜13Dは、後方の退避位置から前方に向けて移動し、搬送ベルト11の上方の印字位置に配置される。そして、適宜、印字が行われる。
【0087】
以上の実施形態をまとめると、以下の通りである。
【0088】
前記実施形態では、前記第2廃液受けの前記開口部は、前記第1廃液受けによりその一部又は全部が構成される蓋体によって塞がれているので、前記第2廃液受けの内部空間に前記開口部を通じて空気が出入りするのを抑制できる。これにより、吐出回復モードにおいてインクジェットヘッドから吐出されたインクが第2廃液受けにおいて増粘するのを抑制することができるので、インクを効率よく回収できる。
【0089】
また、前記実施形態では、各第1廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第1側壁部を有し、前記第2廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第2側壁部を有し、前記蓋体は、前記第1側壁部から側方に延びて前記開口部をその上方から覆う天部と、この天部の周縁から下方に延びて前記第2側壁部に対向する第3側壁部とをさらに含んでいる。すなわち、前記実施形態では、前記第2側壁部と前記第3側壁部とが対向することによりこれらが厚み方向に重なり合った構造を有している。このような重なり部分を設けることにより、前記第2側壁部と前記第3側壁部との隙間を通じて前記第2廃液受けの内部に空気が流れ込みにくくなるので、前記開口部を通じた空気の出入りをさらに抑制することができる。
【0090】
また、前記実施形態では、前記複数の第1廃液受けを前記第2廃液受けに対して上方に付勢する付勢手段と、前記キャップモードと前記吐出回復モードとの間のモード切り替え時に前記第2廃液受けを上下方向に昇降可能な昇降手段と、を備え、前記モード切り替え時において前記昇降手段により前記第2廃液受けが昇降する際に、前記第2側壁部は、前記第3側壁部に対向した状態を維持しつつ前記第3側壁部に対して相対的に上下方向に移動可能である。したがって、各モードにおいて前記第2側壁部と前記第3側壁部とが厚み方向に重なり合った構造を維持することができるので、各モードにおいて前記開口部を通じた空気の出入りを抑制する効果を得ることができる。
【0091】
また、前記実施形態では、前記第2側壁部と前記第3側壁部との間には、これらの隙間を塞ぐシール部材が配設されているので、前記開口部を通じた空気の出入りが前記シール部材によりさらに抑制される。
【0092】
また、前記実施形態では、前記第2側壁部と前記第3側壁部の双方に前記シール部材が設けられ、これらが対向して配置されているので、前記開口部を通じた空気の出入りを一段と抑制することができる。しかも、これらのシール部材が相対的に上下に摺動可能であるので、前記キャップモードと前記吐出回復モードとの間のモード切り替えを円滑に行うことができる。
【0093】
また、前記実施形態では、前記封止部材を備えているので、前記キャップモードにおいて前記ノズル面と前記第1廃液受けとの間の空間の気密状態をより高めて、前記ノズル面におけるインクの増粘をさらに抑制することができる。しかも、前記キャップモードにおいて前記第2側壁部の前記シール部材と前記第3側壁部の前記シール部材とが対向している部分の上下方向の長さは、前記吐出回復モードにおいて前記封止部材の上端部と前記第1廃液受けの前記底部の下面との離間距離よりも大きいので、吐出回復モードにモード切り替えを行ったとしても、前記第2側壁部と前記第3側壁部のシール部材同士が対向した状態を維持できる。これにより、前記第2側壁部と前記第3側壁部の間の隙間を通じた空気の出入りを抑制する効果が低下するのを抑えることができる。
【0094】
また、前記実施形態では、前記第2廃液受けの内部に受け入れたインクを前記第2排出孔を通じて吸引可能な排出ポンプをさらに備え、前記排出ポンプは、前記吐出回復モードにおいて、前記第2廃液受けの内部を負圧の状態に調整可能である。これにより、従来のように各第1排出孔からインクを自然落下させる場合と比較して、各第1排出孔からのインクの排出効果を高めることができるとともに、各第1排出孔からのインクの排出状態のばらつきを低減することができる。
【0095】
また、前記実施形態では、第2廃液受けに収容されたインクは、少なくとも1台の排出ポンプを第2排出孔に接続すれば吸引可能である。したがって、装置が大型化するのを抑制することができる。
【0096】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、蓋体91の第3側壁部93が第2廃液受け32の第2側壁部57を外側から覆う場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、図5に示すように、蓋体91が第2廃液受け32の第2開口部58を通じて第2廃液受け32内に嵌り込むような形態であってもよい。この場合には、蓋体91の第3側壁部93は第2廃液受け32の第2側壁部57の内側面と対向している。
【0097】
また、前記実施形態では、第2側壁部と第3側壁部の双方にシール部材をそれぞれ配設する場合を例に挙げて説明したが、第2側壁部及び第3側壁部の一方にのみシール部材を配設してもよい。
【0098】
また、前記実施形態では、第2側壁部と第3側壁部との間にシール部材を配設する場合を例に挙げて説明したが、シール部材に代えて例えばグリスなどの潤滑剤が第2側壁部と第3側壁部との間に充填されるようにしてもよい。また、第2側壁部と第3側壁部との間に配設されるシール部材や潤滑剤などは必須ではなく、これらを省略することもできる。
【0099】
また、前記実施形態では、4色フルカラーのインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、5色以上又は単色のインクを用いたインクジェット記録装置に適用することもできる。
【0100】
また、前記実施形態では、キャップモードと吐出回復モードの両方を備えている場合を例に挙げて説明したが、吐出回復モードのみを備えていてもよい。
【0101】
また、前記実施形態では、蓋体が天部と第3側壁部とを有している場合を例に挙げて説明したが、第3側壁部を省略した形態であってもよい。このような形態としては、例えば吐出回復モードにおいて、第2廃液受けの開口部が第1廃液受けとこの側壁部から側方に延びる天部とにより塞がれる構造が例示できる。
【0102】
また、前記実施形態では、蓋体が第1廃液受けと天部と第3側壁部とを含む場合を例に挙げて説明したが、前記蓋体は1つ又は複数の第1廃液受けからなるものであってもよい。すなわち、前記蓋体が第1廃液受けのみから構成されていてもよい。この場合、第2廃液受けの開口部は、例えば1つ又は複数の第1廃液受けの底部及び第1側壁部により塞がれる。
【0103】
また、前記実施形態では、ブロック状(直方体形状)の弾性部材によって形成された排出孔封止部材64を設ける場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。排出孔封止部材としては、例えば円錐形状、角錐形状、円錐又は角錐の上部が切り取られたような形状(断面が台形状のもの)などを用いてもよい。これらの形状の場合には、第1排出孔54から落下したインクが封止部材に付着すると、封止部材の側面の傾斜に沿って第2廃液受けの底部に流れやすくなる。
【0104】
また、第1排出孔及び第2排出孔の大きさや配設位置については、任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0105】
10 インクジェット記録装置
11 搬送ベルト(シート搬送部材)
13,13A,13B,13C,13D インクジェットヘッド
30 廃液回収装置
31 第1廃液受け
32 第2廃液受け
33 排出チューブ
34 廃液回収容器
35 排出ポンプ
36 昇降機構
40 移動機構
50 底部
52 開口部
54 第1排出孔
55 ノズル封止部材
56 底部
60 第2排出孔
64 排出孔封止部材
65 圧縮ばね(付勢部材)
81 第2開口部
91 蓋体
A 廃液回収位置
B キャップ位置
N ノズル面
n ノズル
P 印字領域(印字部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置におけるインクジェットヘッドのノズル面に形成されたノズルから吐出されるインクを回収する廃液回収装置であって、
前記ノズルから吐出されるインクを受け入れ可能なように前記インクジェットヘッドの下方に配設され、内部に受け入れたインクを排出可能な第1排出孔を底部に有する第1廃液受けと、
前記第1廃液受けの下方に配設され、前記第1排出孔から排出されるインクを受け入れ可能な開口部を上部に有するとともに、内部に受け入れたインクを排出可能な第2排出孔を底部に有する第2廃液受けと、を備え、
前記第2廃液受けの前記開口部は、前記第1廃液受けによりその一部又は全部が構成される蓋体によって塞がれていることを特徴とする廃液回収装置。
【請求項2】
前記インクジェット記録装置が複数の前記インクジェットヘッドを備えたものであり、
前記複数のインクジェットヘッドの下方にそれぞれ配設された複数の前記第1廃液受けを備え、
前記蓋体は、前記複数の第1廃液受けによりその一部又は全部が構成されている、請求項1に記載の廃液回収装置。
【請求項3】
各第1廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第1側壁部を有し、
前記第2廃液受けは、その前記底部の周縁から上方に立設された第2側壁部を有し、
前記蓋体は、前記第1側壁部から側方に延びて前記開口部をその上方から覆う天部と、この天部の周縁から下方に延びて前記第2側壁部に対向する第3側壁部とをさらに含む、請求項2に記載の廃液回収装置。
【請求項4】
前記複数の第1廃液受けを前記第2廃液受けに対して上方に付勢する付勢手段と、
前記付勢手段により前記複数の第1廃液受けを上方に付勢して前記複数のインクジェットヘッドの各ノズル面を各第1廃液受けによりそれぞれ覆うキャップモードと、各第1廃液受けが各ノズル面から下方に離隔した状態で各ノズル面の前記ノズルからインクを吐出させ、そのインクを回収する吐出回復モードとの間のモード切り替え時に前記第2廃液受けを上下方向に昇降可能な昇降手段と、をさらに備え、
前記モード切り替え時において前記昇降手段により前記第2廃液受けが昇降する際に、前記第2側壁部は、前記第3側壁部に対向した状態を維持しつつ前記第3側壁部に対して相対的に上下方向に移動可能である、請求項3に記載の廃液回収装置。
【請求項5】
前記第2側壁部と前記第3側壁部との間には、これらの隙間を塞ぐシール部材が配設されている、請求項4に記載の廃液回収装置。
【請求項6】
前記シール部材は前記第2側壁部及び第3側壁部のそれぞれに設けられており、これらのシール部材が相対的に上下に摺動可能なように対向して配置されている、請求項5に記載の廃液回収装置。
【請求項7】
前記第2廃液受けの前記底部の上面に配置され、前記キャップモードにおいて前記第1廃液受けの前記底部の下面に当接して前記第1排出孔を下方から塞ぎ、前記吐出回復モードにおいて前記第1廃液受けの前記底部の下面から離隔して前記第1排出孔を開放する封止部材をさらに備え、
前記キャップモードにおいて前記第2側壁部の前記シール部材と前記第3側壁部の前記シール部材とが対向している部分の上下方向の長さは、前記吐出回復モードにおいて前記封止部材の上端部と前記第1廃液受けの前記底部の下面との離間距離よりも大きい、請求項6に記載の廃液回収装置。
【請求項8】
前記第2廃液受けの内部に受け入れたインクを前記第2排出孔を通じて吸引可能な排出ポンプをさらに備え、
前記排出ポンプは、前記吐出回復モードにおいて、前記第2廃液受けの内部を負圧の状態に調整可能である、請求項4〜7のいずれかに記載の廃液回収装置。
【請求項9】
インクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの前記ノズルから吐出されるインクを回収する請求項1〜8のいずれかに記載の廃液回収装置と、を備えたインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−104838(P2011−104838A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261020(P2009−261020)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】