説明

延伸フィルムの製造方法及び位相差フィルム

【課題】熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機により延伸する製造方法において、フィルム中央部の配向方向が本来配向させたい方向に揃うように配向方向のずれを補正可能である上に、フィルム中央部の配向方向とフィルム端部の配向方向のぶれが小さく、さらにレターデーションむらや厚さむらを悪化させることなく、幅広の延伸フィルムを安定期に得ることができる延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機にてフィルム幅方向に延伸する方法において、テンター延伸機の特定ゾーンにおいて、テンター延伸機の左右のレールパターンをフィルム配向角分布に応じて独立に変化させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる延伸フィルムの製造方法及び位相差フィルムに関する。さらに詳しくは、本発明は、フィルム幅方向に渡ってフィルムの配向方向を左右均等にすることができる上に、フィルム中央部の配向方向とフィルム端部の配向方向とのぶれを小さくすることができ、さらにレターデーションむらや厚さむらを悪化させることなく、幅広の延伸フィルムを安定的に得ることができる延伸フィルムの製造方法及び該方法により製造されてなる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの大型化に伴って、関連部材の大型化が進んでいる。液晶ディスプレイの表示品位を向上させるための部材である位相差フィルムについても、長尺で幅広なものが求められている。
これまで、その位相差フィルムを製造するための手法が種々提案されてきたが、中でも、樹脂フィルムを延伸により配向させることにより製造する手法は最も簡易的な手法の一つとして挙げられる。従来、その延伸手法には、ロール延伸機を用いてフィルム長手方向に延伸するロール延伸手法や、テンター延伸機を用いてフィルム幅方向に延伸するテンター延伸手法などが用いられてきたが、長尺で幅広な位相差フィルムを得るには、テンター延伸手法が適している。
【0003】
従来、テンター延伸による延伸フィルムの製造方法では、フィルム幅方向端部の配向方向が、フィルム中央部の配向方向と大きく異なる現象(ボーイングと称される現象等)が生じて、フィルム全幅に渡って光学特性を均一にすることは困難であった。このため、フィルム幅方向端部を大きく切り落とし、フィルム延伸方向の向きに配向方向が比較的に揃っている中央部のみを光学フィルムとして利用してきた。
【0004】
また、テンター延伸手法では、フィルム幅方向に対して左右対称な物性を有するフィルムが得られやすいとの考えから、特許文献1のような延伸機を用いて、左右のガイドレールを連動させてレールパターンを変化させることでフィルムを横方向に延伸する方法が用いられてきた。しかし、この方法では、フィルムの幅方向における左右の温度むら等に起因して、フィルムの幅方向に対してフィルムの左右で不均等な配向角分布が生じてしまい、その結果、フィルム中央部についても、フィルム延伸方向の向きからずれてしまい、これを補正することができなかった。
【特許文献1】特開2001−138394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機により延伸する製造方法において、フィルム中央部の配向方向が本来配向させたい方向に揃うように配向方向のずれを補正可能である上に、フィルム中央部の配向方向とフィルム端部の配向方向とのぶれが小さく、さらにレターデーションむらや厚さむらを悪化させることなく、幅広の延伸フィルムを安定的に得ることができる延伸フィルムの製造方法を提供することである。さらには、該方法により製造されてなる位相差フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明者は、熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機により延伸する方法において、テンター延伸機の特定ゾーンにおいて、テンター延伸機の左右のレールパターンをフィルム配向角分布に応じて独立に変化させることにより、上記課題を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば、
(1)左右のガイドレールの間隔が一定な第一ゾーン、ほぼ一定の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第二ゾーン、及び、ほぼ一定の別の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第三ゾーンを設け、
該熱可塑性樹脂フィルムの配向角の幅方向分布を観測し、観測した配向角の分布に応じて、第二ゾーン及び第三ゾーンの少なくとも一方において、左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程を有し、
前記左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程において、フィルムの送り方向に対する左右のガイドレールの開き角度が第一ゾーンよりも第二ゾーンの方が大きく、第一ゾーンよりも第三ゾーンの方が大きく、且つ、第二ゾーンよりも第三ゾーンの方が小さくなるように制限しつつ、
第一ゾーンではフィルムを加熱しつつ、第二ゾーンでは、第一ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え300%以下の範囲の幅になるようにフィルムを加熱しながら延伸し、第三ゾーンでは、第二ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え200%以下の範囲の幅になるようにフィルムを加熱しながら延伸することを特徴とする延伸フィルムの製造方法、
(2)観測した配向角の分布に応じて、フィルムの走行方向の張力を50〜1000N/mの範囲内で調整することを特徴とする(1)記載の製造方法、
(3)(1)又は(2)の方法により製造されてなることを特徴とする位相差フィルム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂からなる延伸フィルムの製造方法によれば、フィルム中央部の配向方向のずれを矯正できる上に、ボーイングを効果的に抑制することができるので、フィルム中央部の遅相軸の方向が本来配向させたい方向に対して平行で、フィルム中央部の配向方向とフィルム端部の配向方向とのぶれが小さく、厚さむらとレターデーションむらの少ない幅広の延伸フィルムを、長尺に渡って安定的に得ることができる。本発明方法により製造された延伸フィルムは、上記のような特性を有するため、光学補償用の位相差フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法に用いるフィルムは熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンの如きポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、トリアセチルセルロースの如きアセテート系樹脂、液晶性樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ビニル芳香族系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、前記樹脂の単量体の共重合体や前記樹脂の混合物を用いることができる。これらの中で、脂環式ポリオレフィン系樹脂は、機械強度と耐熱性と透明性に優れる観点から、好適に用いることができる。
【0010】
脂環式ポリオレフィン系樹脂としては、ポリノルボルネン系樹脂、単環の環状ポリオレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ポリノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好であり、好適に用いることができる。
【0011】
ポリノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0012】
熱可塑性樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、熱可塑性樹脂を含有するフィルムの機械的強度および成形加工性が高度にバランスされ好適である。
また、熱可塑性樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1〜10、好ましくは1.1〜4、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0013】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にある熱可塑性樹脂を含有するフィルムは、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0014】
熱可塑性樹脂の光弾性係数は、その絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折(直交する二方向の屈折率の差)をΔn、応力をσとしたとき、
C=Δn/σ
で表される値である。熱可塑性樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、熱可塑性樹脂を含有するフィルムの配向角や面内レターデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0015】
本発明方法に用いるフィルムは、揮発性成分の含有量が、0.1重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以下であることがさらに好ましい。フィルムの揮発性成分の含有量が上記範囲にあることにより、フィルムを延伸する際の寸法安定性が向上し、さらに、延伸フィルムの面内のレターデーション値Reやフィルムの厚さ方向のレターデーション値Rthの温度湿度による環境依存変化を小さくすることができ、延伸フィルム物性の長期安定性が得られる。
揮発性成分は、フィルムに微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルムに含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0016】
本発明方法に用いるフィルムは、飽和吸水率が、0.05重量%以下であることが好ましく、0.03重量%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以下であることが特に好ましい。フィルムの飽和吸水率が上記範囲であると、フィルムを延伸する際の自由度が増す(例えば、延伸倍率を大きくできる)、延伸時にフィルムが割れにくい、長期安定性に優れるなどの利点がある。
飽和吸水率は、前記フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。
【0017】
本発明方法に用いるフィルムを成形する方法としては、特に制限されず、例えば、溶液流延法や溶融押出法などの従来公知の方法が挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法の方が、フィルム中の揮発性成分の含有率を効率よく減らすことができ、地球環境上や作業環境上、及び製造コストの観点から好ましい。
溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
本発明方法に用いるフィルムは、配向したものであっても無配向のものであってもよく、さらには、単層であっても多層であってもよい。本発明方法に用いるフィルムの厚さは、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは30〜500μmである。
【0018】
本発明方法は、熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機により延伸する製造方法において、左右のガイドレールの間隔が一定な第一ゾーン、ほぼ一定の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第二ゾーン、及び、ほぼ一定の別の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第三ゾーンを設け、第一ゾーンではフィルムを加熱し、第二ゾーンではフィルムを加熱しながら延伸し、第三ゾーンではフィルムを加熱しながら延伸する。
【0019】
図1は、本発明方法に用いる装置を示す図である。図2は、ガイドレールパターンの開き状態を示す図である(図1のI−I部分の断面図)。図1および図2においては、繰り出しロール1から巻き出されたフィルムが、オーブン3内の第一ゾーン4で加熱され、第二ゾーン5及び第三ゾーン6で延伸され、引き取りロール2に巻き取られる。各ゾーンにおいては、オーブン3の上下から吹き出す温風により、フィルム7が加熱される。オーブンには、隣接するゾーン間で温風が混流しないように仕切り板8が設けられている。
【0020】
本発明方法は、該熱可塑性樹脂フィルムの配向角の幅方向分布を観測し、観測した配向角の分布に応じて、第二ゾーン及び第三ゾーンの少なくとも一方において、左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程を有する。例えば、フィルム中央部の配向角において本来配向させたい方向からのずれが見られた場合は、ずれの方向や度合を特定し、ずれを低減させるように左右のレールパターンを独立に変化させる。
図2においては、以下の4箇所のガイドレールパターンを変化させる工程を有する。
(I)第二ゾーン内のガイドレール9
(II)第二ゾーン内のガイドレール10
(III)第三ゾーン内のガイドレール9
(IV)第三ゾーン内のガイドレール10
上記(I)〜(IV)のガイドレールパターンを変化させることで、レールの開き角度θ9a、θ10a、θ10b、θ10bを0°を超え、90°の範囲で開いたり閉じたりして調整する。上記(I)〜(IV)のガイドレールパターンを独立に変化させるには、(I)〜(IV)のガイドレールパターンを変化させることができるモーター等の駆動装置を、各ゾーン内のガイドレールにそれぞれ独立に設けることにより行うことができる。(I)〜(IV)のガイドレールパターンは、それぞれ同時に変化させてもよいし、別々に変化させてもよい。
【0021】
図3および図4は、観測した配向角の分布に応じてガイドレールパターンを変化させる一例である。図3は左右のガイドレールパターンを独立に変化させる前のレールパターンであり、図4は左右のガイドレールパターンを独立に変化させた後のレールパターンである。観測した配向角分布に基づいて、左右のガイドレールパターンを独立に変化させる操作は、以下のように行うことができる。
フィルムの配向角(フィルムの幅方向と平行な方向の角度の絶対値を0とする)は、フィルムの幅方向における左右の温度むらや、テンター延伸機の左右一対の把持具の把持開始位置のずれ等、何らかの原因により、フィルムの幅方向に対してフィルムの左右で不均等な配向角分布が生じることがある。もし、フィルムの配向角分布において、図3に示すような、フィルム幅方向に対してフィルムの左右で不均等な分布(下述の曲線14の両端を最短距離で結ぶ直線がフィルム幅方向に対して傾斜している現象)が見られた場合は、以下のように補正することができる。
【0022】
すなわち、フィルムの左右の端部付近で観測した配向角の絶対値が、左右で異なる場合において、第二ゾーンでは、該配向角の絶対値が大きい方の側のガイドレールの開き角度(図3の場合、10cに相当する側)が、第二ゾーンにおける当初のガイドレールの開き角度よりも大きくなるように、ガイドレールパターンを変化させる(つまり、図3と図4において、θ10C<θ10C‘となる)。さらに、該配向角の絶対値が小さい方の側のガイドレールの開き角度(図3の場合、9cに相当する側)が、第二ゾーンにおける当初のガイドレールの開き角度よりも小さくなるように、ガイドレールパターンを変化させる(つまり、図3と図4において、θ9C>θ9C’となる)。これらの操作により、フィルムの延伸倍率の変化を抑えつつ、曲線14の両端のフィルム送り方向への移動距離を揃えることができ、結果的に、フィルム中央部分の配向方向を本来配向させたい方向に平行にすることが可能となり、本発明のフィルムを表示装置に適用した場合の表示の色むらを低減させることができる。なお、図3及び図4のフィルム上の曲線14は、フィルムの配向角分布の一例を表す。
【0023】
また、フィルムの左右の端部付近で観測した配向角の絶対値が、左右で異なる場合において、第三ゾーンでは、該配向角の絶対値が大きい方の側のガイドレールの開き角度の方が、該配向角の絶対値が小さい方の側のガイドレールの開き角度よりも大きくなるように、ガイドレールパターンを変化させる(つまり、図4において、θ10d>θ9dとする)。これらの操作により、曲線14の両端のフィルム送り方向への移動距離を揃えることができ、結果的に、フィルム中央部分の配向方向を本来配向させたい方向に平行にすることが可能となり、本発明のフィルムを表示装置に適用した場合の表示の色むらを低減させることができる。特に、第三ゾーンにおいて左右のガイドレールパターンを独立に変化させると、効率よく、フィルム中央部の配向方向が本来配向させたい方向に揃うように配向方向のずれを補正できる。
【0024】
配向角は、何らかの原因により、フィルム生産中に変動することがある。特に長時間に渡って連続生産を行う場合は、例えば、フィルムの配向角分布がフィルムの幅方向に対して全体的に左に傾斜したり右に傾斜したりして変動するおそれがある。左右のガイドレールパターンを独立に変化させる操作を配向角分布の観測結果に基づいて行えば、上記のような配向角の変動を低減させることができ、これにより、フィルムの配向方向が本来配向させたい方向に平行である部分を安定的に増やすことができる。
フィルムの配向角の幅方向分布の観測は、生産ライン中で行っても、生産ラインからフィルムを切り出してオフラインで行ってもよい。生産ライン中で行うことが、観測結果を素早く生産に反映させることができるので好ましい。生産ライン中で観測する場合、観測する位置は、テンター延伸機によってフィルムの延伸を施す箇所より生産ライン後方であれば特に制限はない。
【0025】
本発明方法は、前記左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程において、フィルムの送り方向に対する左右のガイドレールの開き角度が第一ゾーンよりも第二ゾーンの方が大きく、第一ゾーンよりも第三ゾーンの方が大きく、且つ、第二ゾーンよりも第三ゾーンの方が小さくなるように制限する。さらに同時に、第二ゾーンにおいて、第一ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え300%以下の範囲の幅となるようにフィルムを延伸し、第三ゾーンにおいて、第二ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え200%以下の範囲の幅となるように制限してフィルムを延伸する。
【0026】
上述の図3および図4においては、該配向角の絶対値が大きい方のガイドレールの開き角度(図3の場合、10cに相当する側)が、該配向角の絶対値が小さい方のガイドレールの開き角度(図4の場合、9cに相当する側)よりも大きくなるように第三ゾーンのガイドレールパターンを独立に変化させ(つまり、図4において、θ10d>θ9dとする)、且つ、θ9C‘、θ10C’>θ9d、θ9dとなるように第二ゾーンまたは第三ゾーンにおいて左右のガイドレールパターンを独立に変化させる。さらに同時に、第二ゾーンにおいて100%を超え300%以下の範囲でフィルムが延伸され、第三ゾーンにおいて100%を超え200%以下の範囲でフィルムが延伸されるように、第二ゾーンまたは第三ゾーンにおいて左右のガイドレールパターンを独立に変化させる。特に、ボーイングの低減効果が大きいことから、第三ゾーンにおいて、左右のガイドレールパターンを独立に変化させることが好ましい。これらの操作により、曲線14の両端のフィルム送り方向への移動距離を揃えることができる上に、ボーイングを低減させることができる。そして、結果的に、フィルム中央部分の配向方向が本来配向させたい方向に平行である部分を増やすことができるため、フィルム中央部の配向方向とフィルム端部の配向方向とのぶれが小さいフィルムを得ることが可能となり、本発明のフィルムを表示装置に適用した場合の表示の色むらをさらに低減させることができる。
延伸フィルムに大きい量のボーイングが発生すると、特に、フィルム中央部の遅相軸方向とフィルム端部の遅相軸方向とのぶれが大きくなり、本発明のフィルムを表示装置に適用した場合の表示の色むらの程度が大きくなるおそれがある。
【0027】
本発明方法のさらに好ましい態様は、該熱可塑性樹脂フィルムの配向角の幅方向分布を観測し、観測した配向角の分布に応じて、左右のガイドレールパターンを独立に変化させてフィルム幅方向に延伸する工程を有する前記の方法において、第一ゾーンの温度をT1(℃)、第二ゾーンの温度をT2(℃)、第三ゾーンの温度をT3(℃)としたとき、T1(℃)が、T2−20(℃)とT2+5(℃)の範囲にあり、T3(℃)が、T2−20(℃)とT2+20(℃)の範囲とすることが好ましい。これによりフィルムのボーイングを効果的に低減させることができる。本発明方法において、T1〜T3の温度は、各ゾーンにおける加熱手段の設定温度を意味する。
【0028】
本発明方法の好ましい態様は、該フィルムの配向角の配向角分布を観測し、観測した配向角の分布に応じて、引き取りロールによって該フィルムを引き取る張力を調整する。配向角は、何らかの原因により、フィルム生産中に周期的に変動することがある。特に長時間に渡って連続生産を行う場合は、例えば、下述のボーイング量が変動するおそれがある。該張力調整を配向角分布の観測結果に基づいて行えば、上記のような配向角の周期的変動を低減させることができる。
さらに、上記引き取りロールによって該フィルムを引き取る張力の調整において、熱可塑性フィルムの走行方向の張力を50〜1000N/mの範囲内で調整することが好ましく、該張力を80〜600N/mの範囲内で調整することが特に好ましい。該張力がこの範囲にあると、レターデーションの制御性、ボーイング量の低減効果が向上し、配向が全幅に渡って均一な延伸フィルムが安定的に得られる。特に、フィルム中央部分の配向方向が本来配向させたい方向に平行である部分をさらに多くすることができる。該張力が1000N/mよりも大きくなると、フィルムを破断させる場合があり、該張力が50N/mよりも小さくなると、フィルム長手方向の配向角の経時変動が特に大きくなる場合がある。
【0029】
図5及び図6は、フィルムの幅方向に対して平行な方向へ延伸を行った場合のボーイングの説明図である。フィルム11に、長さ方向と垂直な直線12を油性マーキングペンなどで記し(図5)、該フィルムをテンター延伸機を通して延伸すると、延伸フィルム13に記した直線がフィルム走行方向に対して凹の曲線14になる場合がある(図6)。該曲線14の方向は、フィルムの配向の方向とほぼ一致する。さらに、該曲線の両端を最短距離で結ぶ線と該曲線とが最も離れる間隔hが、ボーイングの量である。
【0030】
熱可塑性フィルムの走行方向の張力は、引き取りロールにより調整することができる。引き取りロールは、モーターなどの駆動装置によって自転し、この自転するロールによってフィルムを引き取ることができるロールである限り特に制限はない。引き取りロールは1個であっても、複数であってもよい。引き取りロールの設置位置は、フィルムの延伸が施される箇所より生産ライン後方であれば特に制限はないが、テンター延伸機外に設置されることが好ましく、テンター延伸機出口からフィルムが引き出された箇所よりライン後方へフィルムの走行距離にして2〜5mの位置に設置することが好ましい。
【0031】
観測した該配向角の分布に応じた該張力の調整は、以下のように行う。観測した配向角分布にボーイングが観測された場合は、フィルムの走行方向の張力を上げるように調整する。該張力の調整量は、例えば、P制御により設定(例えば、ボーイング量に比例させた値に設定)したり、PID制御やファジー制御などの自動制御法によって設定したり、エキスパートシステムを用いたりして決定することができる。本発明方法では、前記張力は、前記把持具によるフィルム送り速度(すなわち、把持具のガイドレール上の走行速度)と引き取りロールによるフィルム引き取り速度との速度差を変化させることによって調整できる。また、速度差の調整は、自動でも手動でもよいが、製造効率に優れる観点から、自動であることが好ましい。
【0032】
本発明方法においては、最終的な延伸幅が、延伸前のフィルム幅に対して、好ましくは105〜350%、より好ましくは110〜250%のフィルム幅となるように延伸する。
【0033】
本発明方法に縦一軸延伸した縦延伸フィルムを適用すると、逐次二軸延伸フィルムを製造することができる。また、本発明方法により製造された延伸フィルムを、さらに縦一軸延伸して、逐次二軸延伸フィルムを製造することができる。さらに、本発明方法において、テンター延伸機による延伸で用いる把持具の間隔を縦方向に徐々に広げてフィルムを縦方向にも延伸し、同時二軸延伸フィルムを製造することもできる。
本発明の方法により得られる延伸フィルムは、包装用フィルム、記録材料用テープの基材、光学用フィルムなどに用いることができる。中でも、光学用フィルムに好適であり、位相差フィルムに最も好適である。
【0034】
本発明方法により得られる延伸フィルムの正面レターデーションRe(すなわち、フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnzとした場合に、Re=(nx-ny)dで表される値)は、好ましくは0〜1000nmであり、より好ましくは50〜500nmである。
本発明方法により得られる延伸フィルムは、フィルムの幅が1350mm以上において、フィルム幅の80%以上の割合で配向角のバラツキが0.5°以下、且つ、幅方向における正面レターデーションの最大値と最小値の差が5nm以下、ボーイング量が5mm以内であり、好ましくは、フィルムの幅が1400mm以上において、フィルム幅の85%以上の割合で配向角のバラツキが0.5°以下、且つ、幅方向における正面レターデーションの最大値と最小値の差が3nm以下、ボーイング量が3mm以内である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、測定及びフィルムの特性評価は、下記の方法により行う。
(1)フィルムの配向角
フィルム幅方向に渡って、オンライン複屈折計測装置[王子計測機器(株)製、KOBRA-WIST]を用いて、延伸フィルムの幅方向の配向角プロファイルを、フィルム送り方向へ100m毎に測定する。その一連のプロファイルから、延伸フィルムの中央部での配向角について、平均値を算出する。加えて、その一連のプロファイルにおいて、フィルム幅方向に平行な方向に対する配向角のズレが0.5°以内である幅の割合(配向角の有効幅効率)の最小値を求める。なお、フィルム幅方向に平行な方向の配向角を0°とする。
(2)ボーイング量
未延伸のフィルムに、フィルム長手方向に対して垂直に、マーキングペンで100m毎に線(マーキング線)を引く。この未延伸フィルムを、テンター延伸装置を用いて延伸し、ボーイング量を測定し、延伸後のフィルムのボーイング量の変動幅を求める。加えて、延伸後のマーキング線の両端について、フィルム長手方向(フィルム幅方向に垂直な方向)に対する位置ずれの長さ(マーキング線の両端のフィルム送り方向への移動距離の差)を測定する。
(3)正面レターデーションのバラツキ
フィルム幅方向に渡って0.48mmごとに、自動複屈折計[王子計測機器(株)、KOBRA-21SDH]を用いて、延伸フィルムの波長550nmの光での正面レターデーションを、長さ方向へ100m毎に測定する。そして、測定した正面レターデーションの最大値と最小値との差を正面レターデーションのバラツキとする。
(4)厚さむら
フィルム幅方向に渡って0.48mmごとに、卓上型厚さ計[明産(株)、RC‐1‐200/1000]を用いて、延伸フィルムの厚さを、長さ方向へ100m毎に測定し、その測定値の算術平均値を平均厚さT1とする。また、測定した厚さの最大値をTMAX、最小値TMINから、次式により厚さむらを算出する。
厚さムラ(%)= {(TMAX−TMIN)/T1}×100
(5)色むら
延伸フィルムの送り方向200mごとに、送り方向に300mmで、幅方向に全幅に渡る長さで、サンプルを切り出す。切り出したサンプルを、クロスニコルに配置した一対の偏光板の間に挿入し、色むらが最も目立つ角度にサンプルの向きを変えて目視観察を行う。その一連の観察において、色むらが見られない幅の割合(有効幅効率)の最小値を求める。
【0036】
(製造例1)
ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン(株)製、「ZEONOR1420」、ガラス転移温度は136℃)のペレットを、窒素を流通させた熱風乾燥機を用いて100℃で、4時間乾燥した。そしてこのペレットを、50mmφのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出成形機を使用し、溶融樹脂温度260℃で押出し成形することにより、幅1000mm、厚さ100μmの未延伸フィルムa1を得た。このフィルムa1をロール状に巻き取ってロール巻状体とした。
【0037】
(実施例1)
最初、図3に示す構成で、第一ゾーンは温風温度T1を140℃とし、クリップ間隔一定のレールパターンとした。また、第二ゾーンは温風温度T2を140℃とし、左右のレールの開き角度を6.2度に調整して、第二ゾーン出口でフィルムが初期幅に対して125%の幅となるように延伸されるレールパターンとした。さらに、第三ゾーンは温風温度T3を140℃とし、第三ゾーンではクリップ間隔一定のレールパターンとした。そして、製造例1で得られた未延伸フィルムa1の両端をクリップに把持させて、フィルムa1をテンター延伸機内に導入し、フィルム送り方向と垂直な方向へ一軸延伸を開始した。この時、仕切り板で仕切られた各ゾーンの長さは1,150mmであり、フィルム送り速度は5m/minとした。
この際、図7に示す構成で、テンションメーター(図示略)、引き取りロール17及びオンライン複屈折計測装置19は、テンター延伸機出口からフィルムが送り出された箇所よりライン後方へフィルムの走行距離にして、それぞれ2m、4m、6mの位置に設置した。そして、オンライン複屈折計測装置で配向角を観測しつつ、テンター延伸機外の室温雰囲気下に設置した引き取りロールにより、フィルム走行方向へ300N/mの一定張力をフィルムに加え続けた。なお、観測された配向角に応じてのフィルム走行方向の張力調整は行わなかった。
延伸開始後、フィルム中央部から右側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.6度、フィルム中央部から左側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.8度と観測されたため、第一ゾーンと第二ゾーンのレールパターンはそのままにして、第三ゾーンの左右のガイドレールパターンを独立に変化させることで、フィルム走行方向に対する右側のレールの開き角度を7.7度、左側のレールの開き角度を9.6度に調整し、第3ゾーン出口でフィルムが初期幅に対して160%の幅となるように延伸されるレールパターンとした。その後、延伸フィルムの巻取りを開始し、最終的に、幅1600mmのロール状の延伸フィルムA1を得た。
得られた延伸フィルムA1について、物性値を測定した結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
最初、図3に示す構成で、第一ゾーンは温風温度T1を140℃で、クリップ間隔一定、第二ゾーンは温風温度T2を140℃で、左右のレールの開き角度を6.2度に調整して、第二ゾーン出口でフィルムが初期幅の125%の幅となるように延伸されるレールパターンとし、第三ゾーンは温風温度T3を140℃で、第三ゾーンではクリップ間隔一定のレールパターンとして、他は実施例1と同様にして、フィルム送り方向と垂直な方向へ一軸延伸を開始した。
但し、この際、実施例1と同様の図7に示す構成にした上で、引き取りロールによって、フィルム走行方向へ300N/mの張力をフィルムに加えながら延伸を開始した。
延伸開始後、フィルム中央部から右側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.6度、フィルム中央部から左側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.8度と観測されたため、第一ゾーンと第二ゾーンのレールパターンはそのままにして、第三ゾーンの左右のガイドレールパターンを独立に変化させることで、フィルム走行方向に対する右側のレールの開き角度を7.7度、左側のレールの開き角度を9.6度に調整し、第三ゾーン出口でフィルムが初期幅の160%の幅となるように延伸されるレールパターンとした。さらに、ボーイング量がDmm見られた場合は、引き取りロールによってフィルムを引き取る速度を1.0012xD倍にして、該張力が80〜600N/mを超えない範囲で、フィルムを引き取る速度を調整した。その後、延伸フィルムの巻取りを開始し、最終的に、幅1600mmのロール状の延伸フィルムA2を得た。
得られた延伸フィルムA2について、物性値を測定した結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
最初、図3に示す構成で、第一ゾーンは温風温度T1を140℃で、クリップ間隔一定、第二ゾーンは温風温度T2を140℃で、左右のレールの開き角度を13.4度に調整して、第二ゾーン出口でフィルムが初期幅の155%の幅になるように延伸されるレールパターンとし、第三ゾーンは温風温度T3を140℃で、左右のレールの開き角度を1.2度に調整して、第三ゾーン出口でフィルムが初期幅の160%の幅になるように延伸されるレールパターンとして、他は実施例1と同様にして、フィルム送り方向と垂直な方向へ一軸延伸を開始した。
但し、この際、実施例1と同様の図7に示す構成にした上で、引き取りロールによって、フィルム走行方向へ300N/mの張力をフィルムに加えながら延伸を開始した。
延伸開始後、フィルム中央部から右側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.6度、フィルム中央部から左側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.8度と観測されたため、第一ゾーンと第三ゾーンのレールパターンはそのままにして、第二ゾーンの左右のガイドレールパターンを独立に変化させることで、フィルム走行方向に対する右側のレールの開き角度を12.3度、左側のレールの開き角度を14.6度に調整し、第二ゾーン出口でフィルムが初期幅に対して155%の幅となるように延伸されるレールパターンとし、第三ゾーン出口でフィルムが初期幅に対して160%の幅となるように延伸されるレールパターンとした。その後、延伸フィルムの巻取りを開始し、最終的に、幅1600mmのロール状の延伸フィルムA3を得た。
得られた延伸フィルムA3について、物性値を測定した結果を表1に示す。
【0040】
(比較例1)
最初、図3に示す構成で、第一ゾーンは温風温度T1を140℃で、クリップ間隔一定、第二ゾーンは温風温度T2を140℃で、左右のレールの開き角度を8.7度にして第二ゾーンでフィルムが1.35倍に延伸されるレールパターンとし、第三ゾーンは温風温度T3を140℃で、第三ゾーンではクリップ間隔一定のレールパターンとして、他は実施例1と同様にして、フィルム送り方向と垂直な方向へ一軸延伸を開始した。
この際、実施例1と同様にして、フィルム走行方向へ300N/mの一定張力をフィルムに加え続けた。なお、観測された配向角に応じてのフィルム走行方向の張力調整は行わなかった。
延伸開始後、フィルム中央部から右側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.5度、フィルム中央部から左側へ750mmの位置の配向角の絶対値が0.9度と観測されたため、第一ゾーンと第二ゾーンのレールパターンはそのままにして、第三ゾーンの左右のガイドレールパターンを連動して変化させることで、フィルム走行方向に対する左右のレールの開き角度を6.2度に調整し、第3ゾーン出口でフィルムが初期幅に対して1.6倍に延伸されるレールパターンとした。その後、延伸フィルムの巻取りを開始し、最終的に、幅1600mmのロール状の延伸フィルムB1を得た。
得られた延伸フィルムB1について、物性値を測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に見られるように、実施例1〜3では、1600mm幅のフィルムにおいて、テンター延伸機の左右のガイドレールパターンを独立に変化させて延伸を行っているため、長尺に渡って、フィルム中央部の配向角の平均値がフィルム幅方向に対して平行となるように補正されている。さらに、実施例1では、左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程を第三ゾーンで行っており、ガイドレールの開き角度を本発明方法に沿って制御しつつ、第二ゾーンおよび第三ゾーンの延伸倍率を本発明方法に沿った範囲としているため、得られたフィルムは、ボーイング量が小さくなる。加えて、実施例2では、上記操作に加えて、配向角分布を観測しながらフィルムの走行方向の張力を特定範囲内で調整しているため、得られた延伸フィルムにはボーイングがほとんど見られない。このため、実施例1および2で得られたフィルムは、クロスニコルに配置した一対の偏光板の間に挿入した観察において、色むらが見られるのはフィルム全幅に渡って10%以下である。
これに対して、比較例1では、テンター延伸機の左右のガイドレールパターンを連動して変化させて延伸を行っており、且つ、配向角分布を観測しながらフィルムを引き取る張力の調整を行っていないため、得られた延伸フィルムの中央部の配向角の平均値がフィルム幅方向に対して傾斜しており、且つ、ボーイング量が大きくなる。このため、クロスニコルに配置した一対の偏光板の間に挿入した観察において、比較例1のフィルムは、フィルム全幅に渡って40%近く色むらが見られる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明方法によれば、熱可塑性樹脂からなるフィルムのテンター延伸機による一軸延伸に際して、延伸されるフィルムにボーイングの発生がなく、均一な光学特性を有する延伸フィルムを安定的に得ることができる。本発明方法により製造される延伸フィルムは、位相差フィルムとして特に有用であり、大型ディスプレイ用途の幅広の偏光板と、長尺のロール状に積層させて、全幅に渡って均一な物性を有する光学素子を得ることができ、生産性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明方法に用いる装置の説明図である。
【図2】レールパターンの開き状態を示す図である(図1に示すI−I線に沿う断面図)。
【図3】左右のガイドレールパターンを独立に変化させる前のレールパターンとボーイングの説明図である。観測した配向角に応じて左右のガイドレールパターンを独立に変化させる一例を示す図である
【図4】左右のガイドレールパターンを独立に変化させた後のレールパターンとボーイングの説明図である。観測した配向角に応じて左右のガイドレールパターンを独立に変化させる一例を示す図である
【図5】未延伸フィルムに記した直線の説明図である。
【図6】テンター延伸機によって、フィルム幅に平行な方向へ一軸延伸した場合のボーイングの説明図である。
【図7】本発明方法に用いる装置の配置状態を示すの説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 繰り出しロール
2 引き取りロール
3 オーブン
4 第一ゾーン
5 第二ゾーン
6 第三ゾーン
7 フィルム
8 仕切り板
9 左ガイドレール
10 右ガイドレール
11 未延伸フィルム
12 フィルム長さ方向と垂直に記した直線
13 延伸フィルム
14 ボーイング
15 テンター延伸機
16 延伸フィルム
17 引き取りロール
18 テンションメーターを設置したフリーロール
19 配向角測定装置
20 フリーロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムをテンター延伸機により延伸する製造方法であって、
左右のガイドレールの間隔が一定な第一ゾーン、ほぼ一定の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第二ゾーン、及び、ほぼ一定の別の開き角度で左右のガイドレール間隔が徐々に広がる第三ゾーンを設け、
該熱可塑性樹脂フィルムの配向角の幅方向分布を観測し、観測した配向角の分布に応じて、第二ゾーン及び第三ゾーンの少なくとも一方において、左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程を有し、
前記左右のガイドレールパターンを独立に変化させる工程において、フィルムの送り方向に対する左右のガイドレールの開き角度が第一ゾーンよりも第二ゾーンの方が大きく、第一ゾーンよりも第三ゾーンの方が大きく、且つ、第二ゾーンよりも第三ゾーンの方が小さくなるように制限しつつ、
第一ゾーンではフィルムを加熱しつつ、第二ゾーンでは、第一ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え300%以下の範囲の幅になるようにフィルムを加熱しながら延伸し、第三ゾーンでは、第二ゾーン出口のフィルム幅に対して100%を超え200%以下の範囲の幅になるようにフィルムを加熱しながら延伸することを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
観測した配向角の分布に応じて、フィルムの走行方向の張力を50〜1000N/mの範囲内で調整することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造されてなることを特徴とする位相差フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−281628(P2006−281628A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105109(P2005−105109)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】