説明

建物補強構造

【課題】ブレース部材に力が作用した場合において該ブレース部材の内部応力を低下させ、該ブレース部材による効果的な補強を実現することができる。
【解決手段】ブレース部材3には、局部的に幅が広い拡幅部3Aを少なくとも一方の端部に設けており、その結果、前記柱側当接面3a及び前記梁側当接面3bの少なくとも一方の面積が、そのような拡幅部3Aが形成されていないものに比べて広くなるように構成されている。このため、ブレース部材3に力が作用した場合において該ブレース部材3の内部応力を低下させ、該ブレース部材3による効果的な補強を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁とからなる軸組構造と、該軸組構造の隅部に当接するようにその対角線上に配置されて該軸組構造を補強するブレース部材と、を備えた建物補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱と梁とからなる軸組構造を補強するものとして、該軸組構造の対角線上にブレース部材を配置するようにした構造(本明細書において“建物補強構造”とする)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5(a) は、建物補強構造の従来例の一つを示す模式図であり、同図(b)
はその拡大図である。図示の建物補強構造においては、コンクリート製のブレース部材103が軸組構造102の対角線上に配置されており、各端部は軸組構造102の隅部102aにそれぞれ当接されている。ここで、図中の符号104は、ブレース部材103と軸組構造102との間に介装されてなるグラウト材を示す。
【特許文献1】特開平6−193135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図示のような均等幅のブレース部材103の場合、軸組構造102との接触面積(図5(b) の符号S,S参照)を広く確保するためにはその幅Wを大きくする必要があった。
【0005】
本発明は、上述の問題を解消又は低減することができる建物補強構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、図1に例示するものであって、柱(20)と梁(21)とからなる軸組構造(2)と、該軸組構造(2)の隅部(2a)に当接するようにその対角線上に配置されて該軸組構造(2)を補強するブレース部材(3)と、を備えた建物補強構造(1)において、
前記ブレース部材(3)は、幅の広い拡幅部(3A)を少なくとも一端に有し、
該拡幅部(3A)は、前記隅部(2a)にて前記柱(20)に当接される柱側当接面(3a)、及び前記隅部(2a)にて前記梁(21)に当接される梁側当接面(3b)の少なくとも一方が、そのような拡幅部(3A)が形成されていないものに比べて広くなるように構成されたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記ブレース部材(3)における前記柱側当接面(3a)及び前記梁側当接面(3b)、前記柱(20)であって前記柱側当接面(3a)が当接される部分、並びに前記梁(21)であって前記梁側当接面(3b)が当接される部分はコンクリート製であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、図3(a) 〜(c) に例示するように、前記拡幅部(3A)は前記ブレース部材(3)の上端に少なくとも形成され、
前記柱(20)は、前記ブレース部材(3)の柱側当接面(3a)の下端縁の高さ(H)と略同じか該下端縁の高さ以上の高さであって、前記梁(21)の下面の(H)と略同じか該下面の高さ以下の高さに打ち継ぎ面(20A)を有することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、図3(a) に例示するように、前記打ち継ぎ面(20A)の高さは、前記梁(21)の下面の高さ(H)と略同じであって、
該梁(21)と前記ブレース部材(3)とはコッター(4)を介して当接されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項3に係る発明において、図3(b) (c) に例示するように、前記打ち継ぎ面(20A)の高さは、前記柱側当接面(3a)の下端縁の高さ(H)と略同じか該下端縁の高さ以上であって、前記梁(21)の下面の高さ(H)よりも低くなるよう設定されたことを特徴とする。
【0011】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1乃至3に係る発明によれば、前記ブレース部材と前記軸組構造との間の接触面積が広い分だけ力の流れを良くすることができてブレース部材の内部応力を低下させ、該ブレース部材による効果的な補強を実現することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、ブレース部材と梁との間で確実に力が伝達され、拡幅部と柱との間で伝達される力は減少し、打ち継ぎ面に作用する剪断力(水平方向の剪断力)を低減できる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、打ち継ぎ面の直上の堅固な柱部がブレース部材に当接されるので、該柱部とブレース部材との間で力が効果的に伝達され、前記ブレース部材による補強を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1乃至図4に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1は、本発明に係る建物補強構造の構造の一例を示す模式図であり、図2(a) 〜(c) は、拡幅部の構造の様々な態様を示す模式図であり、図3(a) 〜(c) は、ブレース部材と打ち継ぎ面高さとの関係を説明するための模式図であり、図4(a)
〜(c) は、本発明に係る建物補強構造を構築する手順の一例を示す模式図である。
【0016】
本発明に係る建物補強構造は、図1に符号1で例示するものであって、
・ 柱20と梁21とからなる軸組構造2と、
・ 該軸組構造2を補強するようにその対角線上に配置されてなるブレース部材3と、
を備えている。このブレース部材3は、軸組構造2の隅部2aにおいて柱20と梁21にそれぞれ当接されることとなるが、柱20に当接される面を“柱側当接面”と称し、梁21に当接される面を“梁側当接面”と称することとする。図1では、ブレース部材3は、軸組構造2の2本の対角線の内の1本の部分にのみ配置されているが、もちろんこれに限られるものではなく、2本の対角線の両方に(X字状に)配置されるようにしても良い。
【0017】
このブレース部材3は、少なくとも前記柱側当接面(図1の符号3a参照)及び前記梁側当接面(同図の符号3b参照)の部分がコンクリート製である。また、前記柱20も、少なくとも前記柱側当接面3aが当接される部分はコンクリート製であり、前記梁21も、少なくとも前記梁側当接面3bが当接される部分(符号21bで示す部分)はコンクリート製である。図1の符号21aは、梁21を構成する鉄骨部分を示し、符号21bは、ブレース部材3の梁側当接面3bと全面で接触するよう幅広に設けられたコンクリート部分(根巻き部)を示す。梁が鉄骨製でブレース部材がコンクリート製の場合には、梁の幅がブレース部材の幅よりも狭くなって接触面積が小さくなり、ブレース部材の内部応力が高くなってしまうという問題があり、また、梁が鉄骨製であるために滑りやすい等の問題があるため、梁側には上述のようなコンクリート製の根巻き部を設けると良い。当然ながら、梁全体をコンクリート製にしても良い。
【0018】
ところで、上述のブレース部材3は、その幅は均一ではなく、少なくとも一端(以下、“拡幅部”とする)3Aの幅(図1の符号W参照)が、端部以外の部分の幅(同図の符号W参照)に比べて広くなるように設定されており、その結果、前記柱側当接面3a及び前記梁側当接面3bの少なくとも一方の面積が、そのような拡幅部3Aが形成されていないもの(つまり、軸心の上下位置や左右位置、及び軸心の傾斜角度が(拡幅部を有するブレース部材と)同じで、拡幅部が形成されずに均等幅に形成されたブレース部材)に比べて広くなるように構成されている。このため、接触面積が広い分だけ該ブレース部材3と軸組構造2との間の力の流れを良くすることができてブレース部材3の内部応力を低下させ、該ブレース部材3による効果的な補強を実現することができる。また、この場合、ブレース部材3の全体を幅広にする必要が無く、材料の使用を最小限に止めることができる。
【0019】
なお、図1に示す拡幅部3Aは、図2(a) に詳示するように柱20に当接される側(符号A参照)が拡幅されているが、同図(b)
に符号3Bで示すように、梁21に当接される側(符号B参照)を拡幅しても、さらには、同図(c) に符号3Cで示すように、柱20に当接される側C及び梁21に当接される側Cの両方を拡幅するようにしても良い。
【0020】
また、図1に示すブレース部材3では、両方の端部がそれぞれ拡幅されているが、
・ 下端のみが拡幅されていて上端は拡幅されていないもの
・ 上端のみが拡幅されていて下端は拡幅されていないもの
を本発明の範囲から除外するものではない。
【0021】
ところで、拡幅部3A,3B又は3Cをブレース部材の少なくとも上端に形成しておき、柱20の打ち継ぎ面20Aの高さは、
・ ブレース部材の柱側当接面3aの下端縁の高さ(図3(a) 〜(c) の符号H参照)と略同じか該下端縁の高さ以上の高さであって、
・ 前記梁21の下面の高さ(符号H参照)と略同じか該下面の高さ以下の高さ
にすると良い。具体的には、
(1) 図3(a) に示すように、柱20の打ち継ぎ面20Aを、該ブレース部材3の梁側当接面3b(柱側当接面3aの上端縁)と略同じ高さにする態様
(2) 同図(b) に示すように、柱20の打ち継ぎ面20Aを、柱側当接面3aの下端縁と略同じ高さにする態様
(3) 同図(c) に示すように、柱20の打ち継ぎ面20Aを、前記柱側当接面3aの下端縁と前記梁側当接面3b(前記柱側当接面3aの上端縁)との間の高さにする態様
を挙げることができる。
【0022】
ここで、上記(1) の場合(図3(a) の場合)には、該ブレース部材3と梁21との当接部分にコッター(凹凸部)4を設けておいて、ブレース部材3と梁21との間で確実に力が伝達されるようにすると良い。このようなコッター4を設けることにより、拡幅部3Aと柱20との間で伝達される力(矢印+F,−F参照)は減少し、打ち継ぎ面20Aに作用する剪断力(水平方向の剪断力)を低減できる。このようなコッターを上記(2)
や上記(3) の場合にも使用すれば、打ち継ぎ面20Aに作用する剪断力を確実に低減できる。
【0023】
また、上記(3) の場合(図3(c) の場合)には、軸組構造の下側部(符号2Lで示す部分であって、前記打ち継ぎ面20Aより下側の部分)を構築してから、軸組構造の上側部(符号2Uで示す部分であって、前記打ち継ぎ面20Aより上側の部分)を構築するまでの間、前記ブレース部材3を前記柱20(正確には、前記打ち継ぎ面20Aより下方の柱部20L)に仮固定しておくことができ、施工が簡単になるという効果を奏する。この点を、図4に沿って説明する。本発明に係る建物補強構造を構築するに際しては、軸組構造2の下側部2Lをまず構築し(同図(a)
参照)、上方からブレース部材3を吊り降ろす。すると、その上端にある拡幅部3Aは柱部20L(図示右側の柱部20L)に当接された状態になるので、その部分で仮支持がなされる。その後、軸組構造の上側部2Uを吊り降ろし(同図(b)
参照)、同図(c) に示すように固定する。なお、符号5は、該柱部20Lに植設されたダボ筋を示し、符号6は、下側部2Lの梁部21Lに植設されたダボ筋を示す。これらのダボ筋5,6を鉛直方向に植設しておくことにより、ブレース部材3や上側部2Uの組み付け時の位置合わせを行うことができ、かつ、脱落を防止することができる。また、符号7は、ブレース部材3を柱部20Lに仮止めするためのL字金具を示す。
【0024】
一方、上記(2) 又は(3) の場合(つまり、前記打ち継ぎ面20Aの高さが、前記柱側当接面3aの下端縁の高さHと略同じか該下端縁の高さ以上であって、前記梁21の下面の高さHよりも低くなるよう設定された場合)には、打ち継ぎ面20Aの直上の堅固な柱部(符号20U参照)がブレース部材3に当接されるので、該柱部20Uとブレース部材3との間で力が効果的に伝達され、前記ブレース部材3による補強を効果的に行うことができる。
【0025】
ところで、本発明に係る建物補強構造は、既設の軸組構造2に新設のブレース部材3を組み込んで構成したものであっても良く、或いは、軸組構造2及びブレース部材3の両方を新設としても良い。また、後者の場合(つまり、軸組構造2及びブレース部材3の両方を新設する場合)、それらはプレキャスト製としても、現場打ちで作成するものとしてもどちらでも良い。
【0026】
ところで、コンクリート製のブレース部材は圧縮には強いが引っ張りには弱いという性質があるので、公知の方法で該ブレース部材への引っ張り力を低減するようにしても良い。例えば、図3(a) 〜(c) に符号3cで例示するように、ブレース部材3を途中で分断してスリットを入れておいて(内部に埋設した鉄筋に沿って微少量移動可能に構成して)、該ブレース部材3に引っ張り力がほとんど作用しないようにすると良い。圧縮力のみを受け引っ張り力を受けないブレース部材3であっても、適切位置に配置することにより建物を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明に係る建物補強構造の構造の一例を示す模式図である。
【図2】図2(a) 〜(c)は、拡幅部の構造の様々な態様を示す模式図である。
【図3】図3(a) 〜(c)は、ブレース部材と打ち継ぎ面高さとの関係を説明するための模式図である。
【図4】図4(a) 〜(c)は、本発明に係る建物補強構造を構築する手順の一例を示す模式図である。
【図5】図5(a) は、建物補強構造の従来例の一つを示す模式図であり、同図(b) はその拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 建物補強構造
2 軸組構造
2a 軸組構造の隅部
3 ブレース部材
3a 柱側当接面
3b 梁側当接面
3A,3B,3C 拡幅部
4 コッター
20 柱
20A 打ち継ぎ面
21 梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁とからなる軸組構造と、該軸組構造の隅部に当接するようにその対角線上に配置されて該軸組構造を補強するブレース部材と、を備えた建物補強構造において、
前記ブレース部材は、幅の広い拡幅部を少なくとも一端に有し、
該拡幅部は、前記隅部にて前記柱に当接される柱側当接面、及び前記隅部にて前記梁に当接される梁側当接面の少なくとも一方が、そのような拡幅部が形成されていないものに比べて広くなるように構成された、
ことを特徴とする建物補強構造。
【請求項2】
前記ブレース部材における前記柱側当接面及び前記梁側当接面、前記柱であって前記柱側当接面が当接される部分、並びに前記梁であって前記梁側当接面が当接される部分はコンクリート製である、
ことを特徴とする請求項1に記載の建物補強構造。
【請求項3】
前記拡幅部は前記ブレース部材の上端に少なくとも形成され、
前記柱は、前記ブレース部材の柱側当接面の下端縁の高さと略同じか該下端縁の高さ以上の高さであって、前記梁の下面の高さと略同じか該下面の高さ以下の高さに打ち継ぎ面を有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物補強構造。
【請求項4】
前記打ち継ぎ面の高さは、前記梁の下面の高さと略同じであって、
該梁と前記ブレース部材とはコッターを介して当接される、
ことを特徴とする請求項3に記載の建物補強構造。
【請求項5】
前記打ち継ぎ面の高さは、前記柱側当接面の下端縁の高さと略同じか該下端縁の高さ以上であって、前記梁の下面の高さよりも低くなるよう設定された、
ことを特徴とする請求項3に記載の建物補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−270395(P2009−270395A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124216(P2008−124216)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】