説明

建築用遮熱性透湿防水シート

【課題】
遮熱性に優れ、なおかつ優れた防滑性、透湿防水性および止水性をも有し、さらには施工性および作業安全性にも優れた建築用防水シートを提供する。
【解決手段】
本発明は、透湿防水フィルムの上面に不織布が配置され、その上にさらに樹脂層が配置されており、かつ透湿防水フィルムの下面には膨潤層が配置され、その下にさらに不織布が配置されてなる建築用遮熱性透湿防水シートであって、該樹脂層が遮熱性を有する粉末を含有した発泡性樹脂によって構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用の遮熱性透湿防水シートに関し、更に詳しくは、遮熱性、防滑性、透湿防水性および止水性に優れ、さらには施工性および作業安全性にも優れた建築用遮熱性透湿防水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家屋への雨水等の水分の浸入を防ぐ目的で、建築用防水シートが用いられてきた。建築用防水シートには、瓦と屋根裏板との間に配置する屋根用防水シートや、外装材と内装材との間等に貼り付けるハウスラップ用防水シートなどがある。
【0003】
従来使用されてきた建築用防水シートの具体例として、アスファルトフェルトがある。アスファルトフェルトとは、不織布にアスファルトを含浸させてなる建築用防水シートであり、防水性や釘を打ち込んだ部分からの漏水防止性に優れている。
しかし、アスファルトフェルトは重量が大きく、運ぶ際にバランスを崩しやすいなど作業安全性の点で問題があった。また硬さもありカッター等で切りにくいため、施工性が悪いという問題もあった。
そのため、従来の防水性を有し、より軽量でかつ施工性に優れた建築用防水シートの開発が求められてきた。
【0004】
また、これらのシートには、単に雨水の浸入を防止する機能だけでなく、屋内の水蒸気を外に逃がし結露を防止する機能をも求められている。
例えば、屋根用防水シートとして従来使用されてきたアスファルトフェルトは、透湿性に欠けるため屋内の水蒸気を外部に放散できず、水蒸気が屋内にこもり、そのため屋根裏板に腐食を生じたりすることがあった。
そこで、防水性を保ちながらなおかつ透湿性を有するような素材の開発についても、これまで進められてきた。
【0005】
一方、建築用防水シートは、屋根裏板や壁材に固定される際などに、釘やタッカーを打ちつけるなどの人為的な破断が生じる。また、災害等で自然発生的に穴や亀裂が生じることもある。そして従来の建築用防水シートでは、こうした釘まわりの間隙(釘穴)や亀裂から雨水が浸入するという欠点があった。
そのため、建築用防水シートには、防水性のほかに、こうした釘穴や亀裂などを自ら塞いで水分の浸入を食い止める機能、すなわち止水性が要求されている。
【0006】
また、近年では、夏期の冷房効果を高めて省エネルギー化を図る等の観点から、遮熱塗料を建築物の屋根等に塗布するケースが増えてきている。しかし、遮熱塗料を直接屋根等に塗布する場合、工数が多くかかり、かつ職人の技量によって品質にばらつきが生じるおそれがあった。また、遮熱塗料を直接屋根等に塗布したものは、雨等によって汚れることで遮熱効果が低下するという問題があり、定期的に手入れを行う必要があった。
そのため、施工の簡便性や品質の均一性を保つという点で、遮熱性を有する建築用シートの開発も進められている。
【0007】
これらの問題を解決するものとして、例えば特許文献1には、アルミ単体またはアルミ蒸着フィルムの裏面に、低融点樹脂をコートしてミクロな穴をあけたシートと、不織布単体または樹脂割布織布積層シートとを積層してなる、遮熱性、断熱性、透湿防水性および止水性を有する建材用複合シートが開示されている。
このシートは、シート表面のアルミ単体またはアルミ蒸着フィルムからなる層(遮熱層)によって遮熱性を有するとともに、該遮熱層にミクロな穴を設けることで水蒸気を外部に排出することができる。
しかし、アルミ単体またはアルミ蒸着フィルムからなるシート表面は、摩擦抵抗が少ないために滑りやすく、また可視光を反射し作業中に視界が遮られるおそれがある。そのため、特にシートの上に乗って作業をする必要のある屋根用防水シートにおいては、作業時の安全性が低下し非常に危険である。
また、アルミからなる層は外力によって剥離しやすく、耐久性に劣るという問題もある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−193390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、遮熱性に優れ、なおかつ優れた防滑性、透湿防水性および止水性をも有し、さらには施工性および作業安全性にも優れた建築用防水シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の樹脂層を表面に設けることによって、遮熱性と防滑性を同時に得ることができることを見出し、それに基づいて本発明の建築用遮熱性透湿防水シートを完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、透湿防水フィルムの上面に不織布が配置され、その上にさらに樹脂層が配置されており、かつ透湿防水フィルムの下面には膨潤層が配置され、その下にさらに不織布が配置されてなる建築用遮熱性透湿防水シートであって、該樹脂層が遮熱性を有する粉末を含有した発泡性樹脂によって構成されていることを特徴とする。
【0012】
前記樹脂層に含有する遮熱性を有する粉末は、セラミックス系粉末であることが好ましく、さらには粒径が0.5〜5μmの酸化チタン粉末であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、前記樹脂層表面に撥水剤を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遮熱性に優れ、なおかつ優れた防滑性、透湿防水性および止水性をも有し、さらには施工性および作業安全性にも優れた建築用防水シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書においては、建築用防水シート自体や、それを構成する透湿防水フィルム、不織布等の各面について、建築用防水シートを通常使用する状態で水平面上に置いた際に上方を向く面を「上面」、下方を向く面を「下面」と称す。
【0016】
図1は、本発明の好適な実施の形態における建築用遮熱性透湿防水シートの断面を示す模式図である。
本発明の建築用遮熱性透湿防水シート1は、透湿防水フィルム2と、その上面に接着された不織布3と、透湿防水フィルム2の下面に接着された不織布4との三重構造を基本骨格とし、さらに不織布3の上面に樹脂層5が形成され、また、透湿防水フィルム2と不織布4との間に膨潤層7が介在されてなる。
【0017】
本発明の建築用遮熱性透湿防水シート1は、樹脂層5に遮熱性を有する粉末6を含有させることによって、遮熱性を具備している。
ここで、本発明における遮熱性は、実施工想定試験においてシート上面側に設置した瓦の表面温度とシート下面側の表面温度との温度差によって判断し、具体的には、瓦表面温度が65℃のとき(一般的に夏期における瓦表面温度を想定)、シート下面側の表面温度が45℃以下(20℃以上の温度差)である場合に、遮熱性ありと判断する。
また、遮熱性を発揮する上で、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、70%以上の赤外線反射率を保持していることが好ましい。赤外線反射率が70%未満であると、目的とする遮熱性が十分に得られないおそれがある。
【0018】
さらに、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、一般に屋根用防水シートやハウスラップ用防水シートに求められている防水性、透湿性および防滑性をも具備する。
すなわち、防水性としては、耐水圧が30kPa以上であることが好ましい。
また、防滑性としては、不織布3の上面に形成する樹脂層5が防滑性をも有していることにより得られ、防滑面に対する静摩擦係数測定による滑り角度が40°以上であることが好ましい。
また、透湿性としては、透湿防水フィルムに依存されるが、少なくとも1500g/m・24hr以上の透湿度を有していることが好ましい。
【0019】
次に、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートを構成するフィルム、各層、および各不織布について説明する。
【0020】
透湿防水フィルム2は、防水性および透湿性を有するフィルムであり、建築用遮熱性透湿防水シートとしての防水性や透湿性を担保するものである。
【0021】
透湿防水フィルムの素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ウレタン系の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。なかでも、加工しやすく特に透湿性に優れる微多孔質ポリエチレンフィルムが好ましく用いられる。
このとき、微多孔質ポリエチレンフィルムが有する孔径は、0.5〜5.0μmであることが好ましい。孔径が0.5μm未満であると、透湿性が十分に得られないおそれがあり、5.0μmよりも大きいと、透湿性は高くなるが水も通しやすくなり、防水性が十分に得られないおそれがある。
【0022】
ここで、フィルムの厚さは、40〜100μmであることが好ましい。厚さが40μm未満であると、上面および下面に不織布を貼り付けてもフィルムの強度が必ずしも十分でない可能性があり、また100μmより厚いと、全体として屈曲性が悪くなり、施工性の点で劣ったものとなる可能性がある。
【0023】
次に、透湿防水フィルムの上面に接着する不織布3は、透湿防水フィルム2を補強するとともに、建築用遮熱性透湿防水シート1に加えられた衝撃を吸収して建築用遮熱性透湿防水シート1の破損を極力防止する等の役割を果たす。
【0024】
ここで、本発明で使用される不織布(不織布3および不織布4)は、取扱性の点から目付10〜100g/mの不織布が好ましい。
また、素材としては、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系の合成繊維が好ましく、これらを単独または複数で用いることができる。また、合成繊維とともに、セルロース系、タンパク質系や、その他の半合成繊維、再生繊維などを混合してもよい。
なかでも、成形性、寸法安定性、強度、耐久性等の点で、ポリエステル系および/またはポリプロピレン系の合成繊維からなる不織布が好ましい。
【0025】
前記不織布の製造方法としては、スパンボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法などが挙げられ、なかでも強度、寸法安定性、廉価性の点で、スパンボンド法が好ましい。
【0026】
さらに、これらの不織布はカレンダー処理を施したものであってもよい。カレンダー処理を施すことにより、引張強度、防水性、遮熱性を向上させることができる。
【0027】
また、不織布3の上面には、樹脂層5が形成されており、この樹脂層5が遮熱性および防滑性を有することによって、建築用遮熱性透湿防水シート1の遮熱性および防滑性が担保されている。
【0028】
樹脂層5を構成する樹脂としては、発泡性樹脂が用いられ、なかでも、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、アクリル系、ウレタン系、ポリスチレン系等の熱発泡性樹脂が好ましく用いられる。発泡性樹脂を用いることで樹脂層表面に凹凸が形成され、この表面凹凸が防滑性を発揮する。これにより、晴天時はもちろんのこと、雨天時でも作業者が滑るのを防ぎ、安全に作業をすることができる。
熱発泡性樹脂のなかでは、加工性の点でアクリル系の熱発泡性樹脂が特に好ましい。
【0029】
また、前記樹脂層5には、遮熱性を有する粉末6を含有していることが求められる。
遮熱性を有する粉末としては、アルミニウム、亜鉛等の金属系粉末と、酸化チタン、酸化亜鉛等のセラミックス系粉末が挙げられるが、本発明においては、特にセラミックス系粉末が好ましく用いられる。
セラミックス系粉末は、樹脂と混合した場合に遮熱効果を発揮することが困難となる金属系粉末とは異なり、樹脂と混合させても遮熱性を保持することができる。また、セラミックス系粉末を用いた遮熱層は、金属系粉末を用いた遮熱層のような照り返しがなく、作業安全性においても優れている。
セラミックス系粉末のなかでは、高い遮熱性を有する点や、加工性、廉価性、安全性の点で、酸化チタン粉末が特に好ましい。
【0030】
ここで、酸化チタン粉末は、その粒径が0.5〜5μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。粒径が0.5μm未満であると、酸化チタン粉末自体が有する遮熱性が低くなり、樹脂に含有した際に十分な遮熱性が得られないおそれがある。また粒径が5μmより大きくなると、酸化チタン自体が赤外線を吸収しやすくなり、酸化チタンが熱を帯びることによってシート自体の温度が上昇しやすくなるため、やはり遮熱効果が得られないおそれがある。
なお、本発明における酸化チタン粉末の粒径は、ふるい分け試験によって測定する。
【0031】
遮熱性を有する粉末は、発泡性樹脂中に対し、5〜30重量%の割合で含有されていることが好ましく、10〜15重量%の割合で含有されていることがより好ましい。含有割合が5重量%未満であると、樹脂層を形成した場合に目的とする遮熱性が十分に得られないおそれがある。また30重量%よりも多くなると、樹脂に混入した粉末が樹脂中で均一に分散しにくくなるため好ましくない。
【0032】
遮熱性を有する粉末を発泡性樹脂に混合する方法としては、遮熱性を有する粉末を、分散剤を含む水溶液中に分散させた後、樹脂と混合する方法が好ましく用いられる。遮熱性を有する粉末を、あらかじめ分散剤を含む水溶液中に分散させることによって、樹脂と混合した際に粉末が凝集するのを防ぎ、樹脂中に均一に分散させることができる。
使用する分散剤としては、ポリカルボン酸系のものが好ましく用いられる。
【0033】
樹脂層5は、このようにして遮熱性を有する粉末を含有した発泡性樹脂を不織布3上に塗布することによって形成される。
【0034】
ここで、遮熱性を有する粉末を含有した発泡性樹脂の塗布量は、乾燥重量で4〜16g/mであることが好ましく、4〜12g/mであることがより好ましい。塗布量が4g/m未満であると、目的とする防滑性および遮熱性が十分に得られないおそれがあり、16g/mよりも多くなると、シートの透湿度が低下して十分な透湿性が得られないおそれがある。
【0035】
また、塗布する方法としては、コーティング法、グラビアロール法、凸版印刷法、スクリーン捺染法などが挙げられる。なかでも加工性の点でグラビアロール法が好ましく用いられる。
このとき、樹脂層は、前記透湿防水フィルムの透湿性を妨げないで、かつ遮熱性および防滑性を発揮することができる限り、不織布3の上面全体に形成してもよいし、格子状やドット状等に形成してもよい。また、端に重ね代を設けるようにして樹脂層を形成してもよい。
【0036】
樹脂層5は、その表面にさらに撥水剤を付与してもよい。撥水剤を付与することによって、樹脂層表面の水切れがよくなり、水が建築用遮熱性透湿防水シートに浸入するのを抑制することができる。さらに、樹脂層表面の水切れがよくなることで防滑性がさらに向上し、雨が降った後の作業であっても滑りにくいなど、作業安全性をさらに向上させることができる。
また、撥水剤を付与することで樹脂層に汚れがつきにくくなり、建築用遮熱性透湿防水シート表面の防汚性を向上させることができる。
【0037】
使用する撥水剤としては、フッ素系、シリコーン系、ワックス系、水系等の撥水剤が挙げられるが、なかでも環境への配慮という点で水系の撥水剤が好ましく用いられる。
【0038】
前記撥水剤の塗布量は、乾燥重量で2〜7g/mであることが好ましい。塗布量が2g/mよりも少ないと目的とする撥水性およびそれによる効果を得ることができないおそれがある。また、7g/mよりも多いと透湿防水フィルムの透湿性を妨げるおそれがある。
【0039】
撥水剤の付与方法としては、常法の撥水加工方法を用いればよく特に限定されるものではないが、なかでも加工性がよく透湿性を妨げないという点でグラビアロール法が好ましく用いられる。
なお、撥水剤の付与は、樹脂層5を形成させた不織布3と、透湿防水フィルム2と、膨潤層7を形成させた不織布4とを積層させた後に、樹脂層5に付与することが好ましい。
【0040】
不織布3と前記透湿防水フィルム2は、常法のドライラミネート法、ウエットラミネート法、ホットメルトラミネート法、熱ラミネート法などの方法により接着することができる。なかでも、加工性の点でドライラミネート法、ホットメルトラミネート法が好ましい。
【0041】
接着に使用される接着剤としては、溶剤系、エマルジョン系の接着剤など特に限定されない。この場合でも、接着剤が前記透湿防水フィルムの透湿性を妨げない限り、接着面全体に塗布してもよいし、格子状、ドット状、縞状等に塗布してもよい。
【0042】
また、透湿防水フィルム2の下面に接着される不織布4には膨潤層7が形成されており、止水機能を発揮する。
【0043】
ここで、本発明の建築用遮熱性透湿防水シート1が止水性を発揮する様子を具体的に説明する。
【0044】
本発明の建築用遮熱性透湿防水シート1は、上から水をかけた場合(例えば雨水に曝した場合)に、防水性を有する透湿防水フィルム2によって水がシート内を通過するのを防止する。
【0045】
しかし、建築用防水シートを実際に使用する際には釘などで固定する必要があり、そのときに釘まわりにわずかな間隙が生じるため、水はその部分を通して浸入してくる。
ちなみに、1回の降雨で浸入する水の量はわずかであっても、長期間にわたって水の浸入が繰り返されると、結果的に屋根裏板を腐食させることとなる。
【0046】
ところが、本発明の建築用遮熱性透湿防水シート1においては、釘の周囲の膨潤層7(正確には膨潤層中の膨潤剤)が浸入してきた水を吸収して膨潤し、釘まわりの間隙を充填して水の浸入を阻止する。
特に、膨潤層7の上面には透湿防水フィルムがあり水を通さないために、膨潤層7中の膨潤剤が不用意に上面からの水によって膨潤することはなく、釘まわりの間隙から浸入してきた水を吸収して釘まわりの膨潤剤のみが迅速に膨潤する。
【0047】
この機能は、シートに亀裂が入った場合にも同様に働き、亀裂から浸入してきた水が膨潤層に吸収され、膨潤層が膨潤して亀裂内部の空間を塞ぐ。
このように、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、膨潤層が水を吸収して膨潤し、空間(例えば釘穴や亀裂等)を充填して塞ぐことで止水を確実にする。
【0048】
この止水性は、具体的には、透水試験(JIS A5430 5.6)において、24時間放置後、水の裏抜け(裏漏れともいう)を生じないことで示される。
すなわち、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、透湿防水フィルムの下に膨潤層を設けたことにより、釘穴等からの水の浸入を阻止し、上記実験においても水の裏抜けを生じさせない。
【0049】
透湿防水フィルム2と不織布4との間に膨潤層7を形成するには、不織布4を透湿防水フィルム2に接着する前に行うことが必要である。
すなわち、不織布4の上面に膨潤層7を形成した後、膨潤層7を介して透湿防水フィルム2に接着させることで、透湿防水フィルム2と不織布4との間に膨潤層7を介在させることができる。
【0050】
ここで、参考までに、仮にも、膨潤層を透湿防水フィルムの上面、すなわち透湿防水フィルム2と不織布3との間に形成した場合を想定すると、膨潤層の止水機能は必ずしも有効に働かない。
つまり、膨潤層全体が雨水を吸収して膨潤しきってしまうため、すなわち水分吸収力が飽和状態となってしまうため、新たに釘まわりの間隙や亀裂を伝わって浸入してくる水分の吸収に寄与することができない。
【0051】
膨潤層に使用される膨潤剤としては、通常使用される高吸水性ポリマーが使用され、その種類は特に限定されない。
高吸水性ポリマーとしては、具体的には、橋かけポリアクリル酸塩、橋かけポリビニルアルコール、澱粉−ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩、イソブチレン−マレイン酸塩等や、これらの組み合わせが採用可能である。
【0052】
また、高吸水性ポリマーは、バインダーを使用して不織布4に固着させるが、そのために高吸水性ポリマーに含まれるバインダーとしては、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂等が採用される。なかでも、加工時の取扱性のよさやコストの点で、アクリル系樹脂が好ましく使用される。
このとき、アクリル系樹脂と高吸水性ポリマーとの配合の割合は、固形重量比率でアクリル系樹脂が1に対して高吸水性ポリマーが2〜6であることが好ましい。
【0053】
高吸水性ポリマーの不織布4への付与方法としては、コーティング法、グラビアロール法、凸版印刷法、スクリーン捺染法等が挙げられる。
なかでも、グラビアロール法は、全面への付与や、格子状等に付与することが可能であり、透湿性が損なわれないように不織布4の素材に応じた加工ができることから、より好ましく採用される。
【0054】
このようにして上面に膨潤層が形成された不織布4を、不織布3と透湿防水フィルム2とを接着するのと同様の要領で、透湿防水フィルムの下面に、膨潤層7が透湿防水フィルム2と不織布4との間に介在するように接着させる。
【0055】
ここで、不織布4は、不織布3と同様に、透湿防水フィルムの補強、衝撃吸収による建築用遮熱性透湿防水シート1の破損防止等の役割を果たしていることは当然である。
【0056】
また、膨潤層は水分を吸収して膨潤するとゲル状になりヌメリを生じるが、膨潤層自体は、透湿防水フィルム2と不織布4との間に介在させるため、ゲル化した膨潤層が屋根裏板や壁材に直接触れることはない。
このように不織布4は、屋根裏板や壁材に対して建築用遮熱性透湿防水シート自体がゲル化した膨潤層の影響により滑るのを防止する効果も有している。
【0057】
本発明の建築用遮熱性透湿防水シートは、さらに不織布4の下面に防滑層を形成してもよい。これにより、屋根裏板や壁材等に対する建築用遮熱性透湿防水シートの滑り防止効果をより高めることができる。
【0058】
防滑層の形成に使用される防滑剤としては、滑り止め効果を有するものであればよく、ゴム状のものや樹脂等が好ましく使用される。
具体的には、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、合成ゴム系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、あるいはアスファルト類等の防滑剤等が挙げられる。
【0059】
防滑剤の不織布4への付与は、コーティング法、グラビアロール法、凸版印刷法、スクリーン捺染法等が採用される。
前記防滑剤は、前記透湿防水フィルムの透湿性を妨げないで、なおかつ防滑性を発揮することができる限り、不織布4の下面全体に形成してもよいし、格子状やドット状等に形成してもよい。
【0060】
以上のように、本発明にかかる建築用遮熱性透湿防水シートは、優れた遮熱性を有するとともに、防滑性、防水性、止水性にも優れ、さらには施工性や作業安定性にも優れたものとなる。
なお、本発明にかかる建築用遮熱性透湿防水シートは、建築用資材としての使用に十分耐えうる強度(引張強度、引裂強度、つづり針強度等)を有していることは言うまでもない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明の建築用遮熱性透湿防水シートをさらに詳しく説明するが、本発明は必ずしもこれら実施例に限定されるものではない。
また、本発明の建築用遮熱性透湿防水シートの諸特性は、下記の方法によって測定した。
【0062】
[遮熱性(赤外線反射率測定)]
分光光度計(株式会社島津製作所製、UVPC−3100)を用いて、試験布の上面側の表面における、波長領域2500〜3000nmに対する赤外線反射率を求めた。
なお、上記赤外線反射率は、2500〜3000nmの波長領域において、2nm毎の赤外線反射率を測定し、その各測定結果の平均(単純平均)によって求めた。
【0063】
[遮熱性(実施工想定試験)]
木製の型枠に、型枠を挟むようにして、一方に30cm×30cmにカットした試験布を配置し、もう一方に瓦を配置した。このとき、試験片の上面側が瓦と向かい合うようにして配置した。
次いで、35℃に設定した恒温室中において、瓦の表面にハロゲンランプを照射して瓦の表面温度を65℃にした状態(夏場を想定)で1時間放置し、1時間後の試験布の下面側の表面温度を放射温度計(株式会社キーエンス製、IT2−80)にて測定した。
【0064】
[透湿性]
JIS A 6111に準じて測定した。
【0065】
[防水性]
JIS A 6111に準じて測定した。
【0066】
[防滑性]
静摩擦係数測定機(新東科学株式会社製、トライボギアTYPE:10)を用いて、下記測定方法により試験布の滑り角度を測定した。
まず、試験布を、試験布の上面側が外側になるよう100gの平面圧子に取り付けた。
次いで、試験布を取り付けた平面圧子を上昇板に設置した。このとき、試験布の上面側と上昇板とが接するように設置した。
測定前の上昇板は水平状態にあり、測定開始と同時に傾斜していき、平面圧子が滑り始めた瞬間に平面圧子に取り付けられたセンサーが反応して上昇板が停止する。
この平面圧子が滑り始めたときの傾斜角度を読み取ることにより、滑り角度を測定した。
【0067】
[止水性]
JIS A 5430 5.6、および建築研究所法に準じて測定した。
まず、合板に試験布を載せてタッカーもしくはスクリング釘を打ち込み、その上に内径4cm、高さ200mmのアクリル製円筒を立てて試験布と接触しているふち部分をシーリングした。
次いで、円筒の中に水を150mmの高さまで入れ、24時間放置した後の、減水高さを測定した。
【0068】
[防汚性(撥水性)]
JIS L 1092に準じて撥水性を測定した。
【0069】
また、建築用資材としての評価として、次の強度を測定した。
[引張強度]
JIS A 6111に準じて測定した。
【0070】
[引裂強度]
JIS A 6111に準じて測定した。
【0071】
[つづり針強度]
JIS A 6111に準じて測定した。
【0072】
[実施例1]
酸化チタン粉末(テイカ株式会社製、JR−1000、粒径1μm(誤差0.1μm以下))を、ポリカルボン酸ナトリウム塩分散剤(サンノプコ株式会社製、ノプコスパース44−C)および水と混合し、さらにアクリル系の発泡性樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカー−NSCL−03)と混合して、樹脂液Aを作製した。

<樹脂液Aの調液条件>
酸化チタン粉末(テイカ株式会社製、JR−1000) 10重量%
ポリカルボン酸ナトリウム塩分散剤(サンノプコ株式会社製、ノプコスパース44−C)
0.1重量%
アクリル系発泡性樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカー−NSCL−03)
87重量%
水 2.9重量%
【0073】
次いで、目付70g/mのポリエステルスパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製、3701B)からなる不織布3の上面に、前記樹脂液Aをグラビアロールにて乾燥重量で8g/mとなるよう塗布し、乾燥させて樹脂層を形成した。
【0074】
次いで、目付50g/mのポリプロピレンスパンボンド不織布(東レ株式会社製、SD0504)からなる不織布4の上面に、高吸水ポリマーであるアクリル系樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカーWP−01)をグラビアロールにて付与し膨潤層を形成した。
【0075】
また、透湿防水フィルムには、42μmのポリエチレンフィルム(大和川ポリマー株式会社製、YP−4400SER−1、透湿度6000g/m・24h)を用いた。
【0076】
この透湿防水フィルムに対して、不織布3をその樹脂層が上面になるようにドライラミネート法により接着し、また不織布4を膨潤層が透湿防水フィルムとの間に介在するようにホットメルトラミネート法により接着し、実施例1の建築用遮熱性透湿防水シートを得た。
実施例1のシートに対する各評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例2]
実施例1のシートにおいて、樹脂層表面に、下記処方からなる撥水剤を乾燥重量で3g/mとなるよう塗布した以外は、全て実施例1と同様の方法により、実施例2の建築用遮熱性透湿防水シートを得た。

<撥水剤処方>
撥水剤(日華化学株式会社製、NKガードNDN7E) 9重量%
撥水剤(日華化学株式会社製、TH−44) 3重量%
架橋剤(日華化学株式会社製、NKガード) 1重量%
水 残量

実施例2のシートに対する各評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
アクリル系発泡性樹脂(日華化学株式会社製、ネオステッカーNSBK−01)のみを、目付90g/mのポリエステルスパンボンド不織布(東レ株式会社製、アクスターG2055−1S)からなる不織布3の上面に、グラビアロールにて乾燥重量で8g/mとなるよう塗布し、乾燥させて樹脂層を形成した以外は、全て実施例1と同様の方法により、比較例1のシートを得た。
比較例1のシートに対する各評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例2]
従来の屋根用防水シートであるアスファルトルーフィング(JIS A 6005に規定のアスファルトルーフィング940)を使用した。
比較例2のシートに対する各評価結果を表1に示す。
【0080】
[評価]
実施例1および2で得られたシートは、軽量で、高い赤外線反射率を有するとともに、実施工想定試験においても優れた遮熱性を示した。さらに、透湿性、防水性、防滑性、止水性に対しても優れていた。
止水性に関しては、上記実験では、実施例1においてタッカーで1.2mm、スクリング釘で8mmの減水が見られたが、試験布の下面、特にタッカーまたは釘を打ち込んだ部分のまわりを確認したところ、ともに水の裏抜けは生じていないことが確認できた。また、実施例2についても同様に水の裏抜けは生じていないことが確認できた。
さらに、実施例1および2のシートは、建築用資材としての使用に十分耐えうる強度(引張強度、引裂強度、つづり針強度)を有するものであった。
また、実施例2は高い撥水性も有しており、よって防汚性についても優れたものであった。
【0081】
一方、比較例1については、目的とする遮熱性を有するものではなかった。
また、比較例2についても目的とする遮熱性は得られず、透湿性にも劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の好適な実施の形態における建築用遮熱性透湿防水シートの断面を示す模式図。
【符号の説明】
【0083】
1 建築用遮熱性透湿防水シート
2 透湿防水フィルム
3 不織布
4 不織布
5 樹脂層
6 遮熱性を有する粉末
7 膨潤層
【0084】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透湿防水フィルムの上面に不織布が配置され、その上にさらに遮熱性を有する粉末を含有した発泡性樹脂からなる樹脂層が配置されており、かつ透湿防水フィルムの下面には膨潤層が配置され、その下にさらに不織布が配置されてなる建築用遮熱性透湿防水シート。
【請求項2】
前記遮熱性を有する粉末がセラミックス系粉末である請求項1に記載の建築用遮熱性透湿防水シート。
【請求項3】
前記セラミックス系粉末が酸化チタンからなり、かつ粒径が0.5〜5μmである請求項2に記載の建築用遮熱性透湿防水シート。
【請求項4】
前記樹脂層表面にさらに撥水剤を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の建築用遮熱性透湿防水シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−43496(P2010−43496A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209807(P2008−209807)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】