説明

建設機械における誤作動防止装置

【課題】オペレータの意図に反する油圧アクチュエータの誤作動を防止するにあたり、オペレータが操作レバーを把持したことの検知を、操作性を損なうことなく確実に行なえるようにする。
【解決手段】把持検知手段として、左右の操作レバー2L、2Rの握り部2aの全面に装着され、オペレータが握り部2aを把持する圧力を検知する触覚センサ3L、3Rを用いると共に、左右両方の操作レバー2L、2Rの触覚センサ3L、3Rによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、左右の操作レバー2L、2Rの把持が検知されたとして油圧ロック機構を解除するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械において、オペレータの意図に反する油圧アクチュエータの誤作動を防止するための建設機械における誤作動防止装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械には、走行用や作業用の各種油圧アクチュエータが設けられていると共に、これら油圧アクチュエータを作動させるための操作レバーが設けられているが、オペレータが運転席に乗降するときに誤って操作レバーに触れてしまうと、オペレータの意図に反して油圧アクチュエータが不意に作動してしまう惧れがある。この様な油圧アクチュエータの誤作動を防止するため、従来から、油圧アクチュエータへの圧油供給を停止する油圧ロック機構と、運転席への乗降通路を遮断するロックレバーとを設け、該ロックレバーが乗降通路を遮断する遮断位置に位置している状態では油圧ロック機構を解除して油圧アクチュエータへの圧油供給を許容する一方、ロックレバーが乗降通路を開いている状態では油圧ロック機構により油圧アクチュエータへの圧油供給を停止するように構成した誤作動防止装置が実用化されている。
しかしながら、オペレータが運転席に乗車してロックレバーを遮断位置にした後に、車外の作業状況確認のために運転席から一時的に立ち上がったり、或いは窓やドアを開閉したり、或いは運転席後方の荷物に手を伸ばしたりしたような場合に、オペレータの身体や衣類が操作レバーに触れてしまうことがあって、この様な場合には、ロックレバーは遮断位置に位置しているから油圧アクチュエータへの圧油供給は許容されてしまうことになり、誤作動を回避できないことになる。
そこで、操作レバーの表面の特定領域にタッチスイッチを配置し、該タッチスイッチのON動作に応動して油圧ロック機構を解除するように構成した技術が提唱されている(例えば、特許文献1参照。)。このものでは、オペレータがタッチスイッチに触れていなければ、油圧ロック機構は解除されないことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−63248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献のものにおいて、タッチスイッチは、オペレータの身体が誤って触れないように、操作レバーの表面の特定領域、つまり、操作レバーの側面或いは背面に配置されている。しかしながら、オペレータのなかには、操作レバーの握り部の頭部を把持して操作する人もあり、この様なオペレータにとっては、いつも通りに操作レバーを把持してもタッチスイッチに触れないため、油圧ロック機構を解除することができず、操作レバーを操作しても油圧アクチュエータが作動しないことになる。このため、常にタッチスイッチに触れるように操作レバーを把持することが強いられて、操作性が損なわれ、オペレータの疲労感が増大して作業効率が低下するという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、油圧ポンプからの圧油供給により作動する油圧アクチュエータと、運転席の左右側方に配され、前記油圧アクチュエータを作動させるべく操作される左右の操作レバーと、前記油圧アクチュエータへの圧油供給を停止する油圧ロック機構とを備えた建設機械において、オペレータが前記左右の操作レバーを把持しているか否かを検知するための把持検知手段と、左右の操作レバーの把持が検知された場合には前記油圧ロック機構を解除して油圧アクチュエータへの圧油供給を許容するが、左右の操作レバーの把持が検知されない場合には油圧アクチュエータへの圧油供給を停止するべく油圧ロック機構を制御する制御手段とを設けて油圧アクチュエータの誤作動を防止するにあたり、前記把持検知手段は、左右の操作レバーの握り部の全面に装着され、オペレータが握り部を把持する圧力を検知する触覚センサを用いて構成されると共に、制御手段は、左右両方の操作レバーの触覚センサによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、左右の操作レバーの把持が検知されたとして油圧ロック機構を解除することを特徴とする建設機械における誤作動防止装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、オペレータが左右の操作レバーの握り部のどの部分を把持しても、該把持したことが握り部の全面に装着された触覚センサによって検知されることになり、よって、操作性が損なわれたり疲労感を与えたりすることなく、オペレータが操作レバーを把持したことを確実に検知できることになる。そのうえ、前記触覚センサは、オペレータが握り部を把持する圧力を検知するものであるから、手袋をしていても支障なく検知することができる。しかもこのものにおいて、油圧ロック機構を制御する制御手段は、左右両方の触覚センサによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、左右の操作レバーの把持が検知されたとして油圧ロック機構を解除することになるから、例えば、車外の作業状況確認のために運転席から一時的に立ち上がったり、窓やドアを開閉したりする場合等に、オペレータの身体や衣類が誤って操作レバーに触れても、これが左右の操作レバーが把持されていると誤判断されてしまう惧れがなく、而して、オペレータの意図に反する油圧アクチュエータの誤作動を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】左右の操作レバーに装着された触覚センサを示す図である。
【図2】誤作動防止装置の油圧制御回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1は建設機械の一例である油圧ショベルの運転室に配設される運転席であって、該運転席の左右側方には、左右の操作レバー2L、2Rが配設されている。
【0009】
前記左右の操作レバー2L、2Rには、該操作レバー2L、2Rの握り部2aの全面に、オペレータが握り部2aを把持する圧力を検知する触覚センサ3L、3Rが装着されている。而して、オペレータが握り部2aのどの部分を把持しても、該把持したことが触覚センサ3L、3Rによって検知されると共に、該触覚センサ3L、3Rの検知信号は、図示しない電線を経由して後述する制御部4に入力されるようになっている。
【0010】
ここで、前記左右の操作レバー2L、2Rは、前後左右の揺動操作で二つの油圧アクチュエータを操作できるジョイスティック型レバーであって、左側の操作レバー2Lは、図2に示す第一、第二油圧アクチュエータ5、6を操作するための操作レバーに設定されており、また、右側の操作レバー2Rは、図2に示す第三、第四油圧アクチュエータ7、8を操作するための操作レバーに設定されている。尚、前記第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8は、本発明の油圧アクチュエータに相当する。また、本実施の形態において、第一油圧アクチュエータ5は、図示しないブームを揺動させるためのブームシリンダであり、また、第二油圧アクチュエータ6は、図示しないバケットを揺動させるためのバケットシリンダであり、また、第三油圧アクチュエータ7は、図示しない上部旋回体を旋回せしめるための旋回モータであり、また、第四油圧アクチュエータ8は、図示しないアームを揺動させるためのアームシリンダである。
【0011】
次いで、図2に示す油圧制御回路図に基づいて、本発明が実施された誤作動防止装置について説明する。図2において、9は前記第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8の油圧供給源である油圧ポンプ、10はパイロットポンプ、11は油タンクであり、また、12〜15は、前記第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8に対する圧油供給制御をそれぞれ行なう第一〜第四コントロールバルブである。尚、図2において、丸付きの数字は結合子記号であって、対応する丸付き数字同士が接続される。
【0012】
前記第一〜第四コントロールバルブ12〜15は、パイロットポート12a、12b〜15a、15bを備えた三位置切換弁であって、両パイロットポート12a、12b〜15a、15bにパイロット圧が入力されていない状態では、第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を停止する中立位置Nに位置しているが、パイロットポート12a〜15a或いは12b〜15bにパイロット圧が入力されることにより、第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8に圧油供給する作動位置X或いはYに切換るように構成されている。
【0013】
さらに、16、17は前記左側操作レバー2Lの操作に基づいてパイロット圧を出力する第一、第二パイロットバルブ、18、19は右側操作レバー2Rの操作に基づいてパイロット圧を出力する第三、第四パイロットバルブであって、これら第一〜第四パイロットバルブ16〜19から出力されたパイロット圧は、それぞれ対応する第一〜第四コントロールバルブ12〜15のパイロットポート12a〜15a或いは12b〜15bに入力されるようになっている。そして、該パイロット圧が入力されることにより、前述したように、第一〜第四コントロールバルブ12〜15が作動位置X或いはYに切換わり、而して、左右の操作レバー2L、2Rの操作に基づいて第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8に圧油供給されるように構成されている。
【0014】
一方、パイロットポンプ10は、前記第一〜第四パイロットバルブ16〜19の油圧源になるポンプであるが、該パイロットポンプ10から第一〜第四パイロットバルブ16〜19に至るパイロット供給ライン20には、油圧ロック弁21が配設されている。該油圧ロック弁21は、電磁式の二位置切換弁であって、制御部4からの制御信号に基づいて、パイロット供給ライン20を遮断するロック位置Nと、パイロット供給ライン20を開くロック解除位置Xとに切換わるように構成されている。
【0015】
そして、前記油圧ロック弁21がロック位置Nに位置している状態では、パイロットポンプ10から第一〜第四パイロットバルブ16〜19への供給圧油が遮断され、而して、左右の操作レバー2L、2Rが操作されても第一〜第四パイロットバルブ16〜19からパイロット圧は出力されず、これにより第一〜第四コントロールバルブ12〜15は、第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を停止する中立位置Nに保持されるようになっている。つまり、油圧ロック弁21がロック位置Nに位置している状態では、左右の操作レバー2L、2Rの操作にかかわらず第一〜第四コントロールバルブ12〜16は中立位置Nに保持されることになって、第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給が停止されるようになっており、この様にして、第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を停止する油圧ロック機構が構成されている。
【0016】
一方、油圧ロック弁21がロック解除位置Xに位置している状態では、パイロットポンプ10から第一〜第四パイロットバルブ16〜19に圧油供給され、而して、左右の操作レバー2L、2Rが操作されると、該操作に対応する第一〜第四パイロットバルブ16〜19から第一〜第四コントロールバルブ12〜15にパイロット圧が出力される。これにより、第一〜第四コントロールバルブ12〜15が作動位置XまたはYに切換わって、第一〜第四アクチュエータ5〜8に圧油供給されるようになっている。つまり、油圧ロック弁21がロック解除位置Xに位置している状態では、前述した油圧ロック機構が解除されて第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給が許容され、而して、左右の操作レバー2L、2Rの操作に基づいて第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8を作動させることができるようになっている。
【0017】
次いで、前記制御部(本発明の制御手段に相当する)4の制御について説明すると、制御部4は、前記左右の操作レバー2L、2Rに装着された触覚センサ3L、3Rからの検知信号を入力し、そして、左右両方の触覚センサ3L、3Rによる圧力検知が予め設定される設定時間(例えば、2、3秒間)継続した場合に、オペレータが第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8を作動させるべく左右の操作レバー2L、2Rを把持していると判断して、前記油圧ロック弁21にロック解除位置Xに位置するように制御信号を出力する。これにより、前述したように油圧ロック機構が解除されて、左右の操作レバー2L、2Rの操作に基づいて第一〜第四油圧アクチュエータに圧油供給されることになる。
【0018】
一方、制御部4は、左右両方の触覚センサ3L、3Rから検知信号が入力されない場合、或いは左右何れか一方の触覚センサ3L或いは3Rから検知信号が入力されない場合、或いは、左右両方の触覚センサ3L、3Rから検知信号が入力されても該検知信号の入力が前記設定時間継続されない場合には、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持していないと判断して、前記油圧ロック弁21にロック位置Nに位置するように制御信号を出力する。これにより、前述した油圧ロック機構によって、操作レバー2L、2Rの操作にかかわらず第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給が停止されるようになっている。
【0019】
つまり、制御部4は、左右両方の触覚センサ3L、3Rによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持しているとして、油圧ロック機構を解除して第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を許容する一方、上記以外の場合には、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持していないとして、油圧ロック機構により第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を停止するようになっており、これによって、オペレータの意図に反する第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8の誤作動を防止できるようになっている。
【0020】
叙述の如く構成された本形態において、オペレータの意図に反する第一〜第四油圧アクチュエータの誤作動を防止するべく、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持しているか否かの検知に基づいて油圧ロック機構が制御されることになるが、この場合に、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持しているか否かを検知するための把持検知手段として、左右の操作レバー2L、2Rの握り部2aの全面に装着され、オペレータが握り部2aを把持する圧力を検知する触覚センサ3L、3Rが用いられていると共に、油圧ロック機構を制御する制御部4は、左右両方の触覚センサ3L、3Rによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持していることが検知されたとして、油圧ロック機構を解除して第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8への圧油供給を許容することになる。
【0021】
而して、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持した場合には、該左右の操作レバー2L、2Rの握り部2aのどの部分を把持しても、該把持したことが握り部2aの全面に装着された触覚センサ3L、3Rによって検知されることになり、よって、操作性が損なわれたり疲労感を与えたりすることなく、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持したことを確実に検知できることになる。そのうえ、前記触覚センサ3L、3Rは、オペレータが握り部2aを把持する圧力を検知するものであるから、手袋をしていても支障なく検知することができる。
【0022】
しかもこのものにおいて、制御部4は、左右両方の触覚センサ3L、3Rによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、オペレータが左右の操作レバー2L、2Rを把持しているとして油圧ロック機構を解除することになるから、例えば、車外の作業状況確認のために運転席から一時的に立ち上がったり、窓やドアを開閉したりする場合等に、オペレータの身体や衣類が誤って操作レバー2L、2Rに触れても、これが左右の操作レバー2L、2Rが把持されていると誤判断されてしまう惧れがなく、而して、オペレータの意図に反する第一〜第四油圧アクチュエータ5〜8の誤作動を確実に防止することができる。
尚、本発明の誤作動防止装置は、運転席への乗降通路を遮断するロックレバーを用いた従来の誤作動防止装置と併用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械において、オペレータの身体や衣類が操作レバーに触れた場合に、油圧アクチュエータが誤作動してしまうことを防止するための誤作動防止装置として利用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 運転席
2L、2R 左右の操作レバー
2a 握り部
3L、3R 触覚センサ
4 制御部
5〜8 第一〜第四アクチュエータ
9 油圧ポンプ
21 油圧ロック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプからの圧油供給により作動する油圧アクチュエータと、運転席の左右側方に配され、前記油圧アクチュエータを作動させるべく操作される左右の操作レバーと、前記油圧アクチュエータへの圧油供給を停止する油圧ロック機構とを備えた建設機械において、オペレータが前記左右の操作レバーを把持しているか否かを検知するための把持検知手段と、左右の操作レバーの把持が検知された場合には前記油圧ロック機構を解除して油圧アクチュエータへの圧油供給を許容するが、左右の操作レバーの把持が検知されない場合には油圧アクチュエータへの圧油供給を停止するべく油圧ロック機構を制御する制御手段とを設けて油圧アクチュエータの誤作動を防止するにあたり、前記把持検知手段は、左右の操作レバーの握り部の全面に装着され、オペレータが握り部を把持する圧力を検知する触覚センサを用いて構成されると共に、制御手段は、左右両方の操作レバーの触覚センサによる圧力検知が予め設定される設定時間継続した場合にのみ、左右の操作レバーの把持が検知されたとして油圧ロック機構を解除することを特徴とする建設機械における誤作動防止装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−250459(P2010−250459A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97650(P2009−97650)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】