説明

建設機械の前窓開閉装置

【課題】アシスト構造本来のアシスト作用を有効に発揮させながら、閉窓状態でのシール性を確保する。
【解決手段】キャビン4の前面開口部を開閉する前窓1の上部に設けられた上部ガイドローラ2のローラ軸2aにリンク11の上端部を取付ける一方、リンク11の下端部に、ワイヤガイドレール10内を移動するワイヤ止めピン12を設け、バネ8につながれたアシストワイヤ9の先端をこのワイヤ止めピン12に連結することにより、閉窓状態では引っ張り力を前窓1にこれを前方に押し付ける力として作用させ、前窓1を開くときには引っ張り力がリンク11を介して前窓1にアシスト力として働くように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械におけるキャビンの前窓を開閉する前窓開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の前窓開閉装置として、図6,7に示すように、前窓1の上下両側(図6の閉窓状態での上下関係をいう。以下同じ)に左右一対のガイドローラ(上部、下部ガイドローラという。左右片側のみ図示)2,3を設ける一方、キャビン4の左右両側壁に、ガイドローラ2,3を前面側から天井に沿って後方にガイドするローラガイドレール(片側のみ図示)5を設け、このガイドローラ2,3とローラガイドレール5とにより、前窓1を、図6に示すようにキャビン4の前面開口部を閉塞する閉じ位置と、図7に示すようにキャビン天井に沿う開き位置との間でスライド移動させる構造のものが公知である(特許文献1参照)。
【0003】
図中、1aは開閉操作用の取っ手である。なお、前窓1は閉じ、開き両位置で図示しないロック装置によってロックされる。
【0004】
ローラガイドレール5は、前窓1の閉じ側でガイドローラ2,3をガイドする前部レール6と、同開き側でガイドローラ2,3をガイドする後部レール7とから成っている。
【0005】
なお、前部レール6の上下両側に前方に凹んだ凹部6a,6bが設けられ、閉窓時にガイドローラ2,3がこの凹部6a,6bに嵌まり込むことにより、前窓1全体が前方に移動して開口縁部のシール(図示省略)に押し付けられる。
【0006】
また、同装置において、とくに大型機の場合に、重い前窓1を軽快に開閉するためのアシスト構造として、キャビン後部にバネ(バランサースプリング)8を設けてこれにアシストワイヤ9をつなぎ、同ワイヤ9の先端を前窓1に連結することにより、バネ力によって前窓1を後方、すなわち開き位置に向けて引っ張るようにしたものが公知である。
【0007】
このアシスト構造をとる場合、アシストワイヤ9をガイドする手段として、ローラガイドレール5に沿ってワイヤガイドレール10が設けられる。
【特許文献1】実開平4−62775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記アシスト構造付きの公知装置では、図示のようにアシストワイヤ9を前窓1の下端部(下部ガイドローラ3のローラ軸3a)に連結し、同ワイヤ9の引っ張り力を前窓下端部に加える構成をとっている。
【0009】
ところが、この構成によると、アシストワイヤ9の先端側が、ワイヤガイドレール10とローラガイドレール5とに跨る状態で前窓下端部に連結されるため、このワイヤ先端側とガイドレール10,5(なかでもローラガイドレール5)との間)の摩擦抵抗が大きくなる。
【0010】
とくに、前部レール6の下部は凹部6bを持った屈曲形状となっていることから、前窓1の開き操作初期にこの部分での摩擦抵抗が大きくなる。
【0011】
このため、前窓開閉時に上記摩擦抵抗が抵抗となり、本来のアシスト作用を生かせずに操作が重くなるという問題があった。
【0012】
なお、アシストワイヤ9の先端を前窓上端部に連結することが考えられる。こうすると、上記摩擦抵抗は前窓下端部に連結する場合よりは小さくなる反面、閉窓状態で引っ張り力が前窓上端部に直接後向きに加えられるため、前面開口部に対する前窓1の押し付け力が弱まってシール性が低下するという弊害が生じる。
【0013】
そこで本発明は、アシスト構造本来のアシスト作用を有効に発揮させながら、閉窓状態でのシール性を確保することができる建設機械の前窓開閉装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、キャビンの前面開口部を開閉する前窓の上部に上部ガイドローラ、下部に下部ガイドローラがそれぞれ設けられるとともに、キャビンに、このガイドローラをガイドするローラガイドレールと、このローラガイドレールに沿うワイヤガイドレールとが設けられ、上記ガイドローラとローラガイドレールとによって前窓を閉じ位置とキャビン天井に沿う開き位置との間で移動させる一方、バネ力を付与された状態で上記ワイヤガイドレール内を移動するアシストワイヤによって前窓を開き方向に引っ張るように構成された建設機械の前窓開閉装置において、上記前窓の上部にリンクを、
(A) 上端部が前窓に対して左右方向の水平なリンク軸まわりに回動可能に連結され、
(B) 下端部がワイヤガイドレール内を移動可能で、
(C) 前窓が閉じたときに起立する
状態で設けるとともに、上記アシストワイヤをワイヤガイドレール内でこのリンクの下端部に連結し、前窓が閉じた状態で、上記リンク下端部に対するアシストワイヤの連結点とリンク軸の中心とを結ぶ直線が、アシストワイヤによって上記リンク下端部に加えられる引張り力の作用線に対して前方に傾くように構成したものである。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、リンク上端部を前窓上部に対し、リンク軸としての上部ガイドローラのローラ軸まわりに回動可能に連結したものである。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、リンクの下端部に、ワイヤガイドレール内を移動するワイヤ止めピンを設け、アシストワイヤの先端をこのワイヤ止めピンに連結したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、閉窓状態でアシストワイヤの引っ張り力がリンクに、下端部を支点として前倒れ方向の回動力として作用し、このリンクの回動力によって前窓の上端部が前方に押される。
【0018】
すなわち、前窓の開き操作をアシストするための引っ張り力を、閉窓状態では前窓をキャビン側(前面開口部のシール)に押し付ける力として作用させることができる。
【0019】
しかも、リンクは、アシストワイヤに連結された下端部(請求項3ではワイヤ止めピン)がワイヤガイドレール内を移動するため、同ワイヤとレールとの間に、前窓を開く際の抵抗となる摩擦抵抗は発生しない。
【0020】
これにより、アシスト構造本来の前窓開き操作時のアシスト作用を有効に発揮させながら、閉窓状態でのシール性を確保することができる。
【0021】
この場合、請求項2の発明によると、上部ガイドローラのローラ軸をリンク軸として、リンク上端部をこのローラ軸まわりに回動可能に連結しているため、たとえば上部ガイドローラの下方位置でリンク上端部を前窓にリンク軸を介して取付ける場合と比較して、上記閉窓状態におけるリンクの回動力を前窓に前方への押し付け力として効率良く加えることができる。
【0022】
また、ローラ軸がリンク軸を兼ねるため、リンクの取付構造が簡単となり、組み付けが容易でコストが安くてすむ。
【0023】
一方、請求項3の発明によると、リンクの下端部に、ワイヤガイドレール内を移動するワイヤ止めピンを設け、アシストワイヤの先端をこのワイヤ止めピンに連結したから、いいかえればワイヤ止めピンがアシストワイヤの連結部分とワイヤガイドレール内を移動する移動部材とを兼ねる構成としたから、ワイヤ連結部分と移動部材を別々に設ける場合と比較して構造を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態を図1〜図5によって説明する。
【0025】
実施形態において、図6,7に示す公知装置と同一部分には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
【0026】
図1は前窓1を閉じた状態、図2はこの状態から前窓1を一旦後方に倒し(実線)、その後、後向きにスライドさせて開いた状態(二点鎖線)をそれぞれ示す。
【0027】
また、図1の状態での前窓上部を図3に、図2実線の状態での前窓上部を図4にそれぞれ拡大して示す。
【0028】
この前窓開閉装置においては、前窓1の側面上部にリンク11を設けている。このリンク11は、
(A) 上端部が前窓1に対して左右方向の水平軸まわりに回動可能に連結され、
(B) 下端部がワイヤガイドレール10内を移動可能で、
(C) 前窓1が閉じたときに図1,3に示すように起立する
状態で設けている。具体的には、
(I) リンク11の上端部を、上部ガイドローラ2の回転中心軸であって左右方向の水平軸であるローラ軸2aに回動可能に取付け、
(II) このリンク11の下端部にワイヤ止めピン12をローラ軸2aと平行に取付け、
(III) このワイヤ止めピン12をワイヤガイドレール10に、同レール10内を移動可能な状態で係合させ、
(IV) 同ピン12にアシストワイヤ9の先端を連結している。
【0029】
ここで、図3に示すように閉窓状態で、リンク下端部に対するアシストワイヤ9の連結点(ワイヤ止めピン12の中心)とローラ軸2aの中心とを結ぶ直線Xが、アシストワイヤ9によってリンク下端部に加えられる引張り力の作用線Yに対して前方に傾くように関係各部の寸法、位置関係等を設定している。図3中、θは上記直線Xと作用線Yのなす角度である。
【0030】
なお、この実施形態では、閉窓状態でリンク11が少し前倒れの起立状態となるように設定している。
【0031】
この構成によると、前窓1が閉じた図1,3の状態で、バネ8からアシストワイヤ9に加えられる引っ張り力がリンク11を介して前窓1に、これを前方に押す力Fとして作用する。
【0032】
これにより、前窓1が前面開口部側(図示しないシール)に押し付けられるため、閉窓状態でのシール性を確保することができる。
【0033】
一方、前窓1を開くときは、図示しないロックを解除し、取っ手1aにより図2,4に示すように前窓1を一旦後方に倒して上部ガイドローラ2を前部レール6の凹部6aから本線部分に引き込んだ後、前窓1全体を引き上げながら後方にスライドさせる。
【0034】
このとき、アシストワイヤ9の引っ張り力は、リンク11に、ワイヤガイドレール10に沿って斜め後上方に作用し、この力が前窓1に開き位置に向かう力として加えられる。
【0035】
また、引っ張り力は、前窓1の閉じ操作時には、前部レール6を降下する際のブレーキ力としても作用する。
【0036】
この場合、リンク11は、下端部(ワイヤ止めピン12)がワイヤガイドレール10内でアシストワイヤ9に連結され、前窓1の開き操作時にこのリンク下端部がワイヤガイドレール10内を移動するため、図6,7に示す公知装置のようにアシストワイヤ9の先端側を、ワイヤガイドレール10とローラガイドレール5とに跨る状態で前窓下端部に連結した場合と異なり、アシストワイヤ9とローラ、ワイヤ両ガイドレール5,10との間に余分な摩擦抵抗が発生しない。
【0037】
このため、アシスト構造本来のアシスト作用を有効に発揮させ、前窓1を少ない力で軽快に開閉することができる。
【0038】
加えて、上部ガイドローラ2のローラ軸2aをリンク軸としてこれにリンク11の上端部を連結しているため、たとえば上部ガイドローラ2の下方位置でリンク上端部を前窓1にリンク軸を介して取付ける場合と比較して、閉窓状態におけるリンク11の回動力を前窓1に前方への押し付け力として効率良く加えることができる。
【0039】
また、ローラ軸2aがリンク軸を兼ねるため、リンク11の取付構造が簡単となり、組み付けが容易でコストが安くてすむ。
【0040】
一方、ワイヤガイドレール10内を移動する移動部材としてのワイヤ止めピン12にアシストワイヤ9の先端を連結したから、いいかえればワイヤ止めピン12がアシストワイヤ9の連結部分と移動部材とを兼ねる構成としたから、ワイヤ連結部分と移動部材を別々に設ける場合と比較して構造を簡略化することができる。
【0041】
なお、リンク11は、閉窓状態でアシストワイヤ9の引っ張り力を前窓1にこれを前方に押し付ける力として作用させる半面、開き時には引っ張り力を前窓1に後上方への引き上げ力として作用させる必要がある。
【0042】
従って、上記した閉窓状態における直線Xと作用線Yのなす角度θは、上記二つの作用をともに効率良く行い得る角度として選択される。
【0043】
また、リンク11、アシストワイヤ9及びバネ8は、前窓1の左右両側に対称に設けてもよいし、左右片側のみに設けてもよい。この装置によると、上記のようにアシスト力を前窓1に効率良く伝えることができるため、左右片側のみに設けた場合でも、必要なアシスト作用を十分得ることができる。
【0044】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、上部ガイドローラ2のローラ軸2aをリンク軸として兼用してこれにリンク11の上端部を取付けたが、このローラ軸2aとは別のリンク軸によってリンク上端部を前窓1に取付けてもよい。
【0045】
(2) 上記実施形態では、閉窓状態でリンク11が少し前倒れの起立状態となるように設定したが、要は、図3中の直線Xが作用線Yに対して前方に傾く起立状態となればよく、この条件を満足する範囲であれば鉛直状態または後倒れの起立状態となるように設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態にかかる前窓開閉装置の概略側面図である。
【図2】図1の状態から前窓を開く過程を示す側面図である。
【図3】図1の状態での前窓上部の拡大図である。
【図4】図2実線の状態での前窓上部の拡大図である。
【図5】同、部分正面図である。
【図6】従来の前窓開閉装置の概略側面図である。
【図7】図6の状態から前窓を開く過程を示す側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 前窓
2 上部ガイドローラ
2a リンク軸を兼ねるローラ軸
3 下部ガイドローラ
4 キャビン
5 ローラガイドレール
6 ローラガイドレールの前部レール
7 同後部レール
8 バネ
9 アシストワイヤ
10 ワイヤガイドレール
11 リンク
12 ワイヤ止めピン
X リンク下端部に対するアシストワイヤの連結点とリンク軸の中心とを結ぶ直線
Y アシストワイヤによってリンク下端部に加えられる引張り力の作用線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビンの前面開口部を開閉する前窓の上部に上部ガイドローラ、下部に下部ガイドローラがそれぞれ設けられるとともに、キャビンに、このガイドローラをガイドするローラガイドレールと、このローラガイドレールに沿うワイヤガイドレールとが設けられ、上記ガイドローラとローラガイドレールとによって前窓を閉じ位置とキャビン天井に沿う開き位置との間で移動させる一方、バネ力を付与された状態で上記ワイヤガイドレール内を移動するアシストワイヤによって前窓を開き方向に引っ張るように構成された建設機械の前窓開閉装置において、上記前窓の上部にリンクを、
(A) 上端部が前窓に対して左右方向の水平なリンク軸まわりに回動可能に連結され、
(B) 下端部がワイヤガイドレール内を移動可能で、
(C) 前窓が閉じたときに起立する
状態で設けるとともに、上記アシストワイヤをワイヤガイドレール内でこのリンクの下端部に連結し、前窓が閉じた状態で、上記リンク下端部に対するアシストワイヤの連結点とリンク軸の中心とを結ぶ直線が、アシストワイヤによって上記リンク下端部に加えられる引張り力の作用線に対して前方に傾くように構成したことを特徴とする建設機械の前窓開閉装置。
【請求項2】
リンク上端部を前窓上部に対し、リンク軸としての上部ガイドローラのローラ軸まわりに回動可能に連結したことを特徴とする請求項1記載の建設機械の前窓開閉装置。
【請求項3】
リンクの下端部に、ワイヤガイドレール内を移動するワイヤ止めピンを設け、アシストワイヤの先端をこのワイヤ止めピンに連結したことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械の前窓開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−138479(P2007−138479A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331889(P2005−331889)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】