説明

建設機械の操作制御回路

【課題】エンジン回転数の低下に応じて、アクチュエータ(旋回モータ)の速度を低下させる。
【解決手段】エンジン回転数がフル回転数NHの場合、パイロット管路11のパイロット圧は、リリーフ弁13によるリリーフ圧P1に設定される。エンジン回転数が低下すると、パイロット圧油の流量が低下して、絞り部14の差圧ΔPの方がP1よりも小さくなるため、パイロット圧は差圧ΔPに設定される。この場合、オペレータが操作レバー12Aをフルストローク位置まで操作して、パイロット圧油を旋回用スプール弁1に供給しても、パイロット圧が低いため、スプール弁1は全開状態にならない。これにより、旋回モータ1Aに供給される作動油の流量が低下し、旋回速度が低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の操作制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベル等の建設機械では、下部の走行体に対して作業機を水平に旋回させるための旋回モータやアームシリンダ等の複数のアクチュエータを備えている。これらのアクチュエータは、エンジンにより駆動されるメインポンプからの圧油を動力源として、それぞれ作動する。
【0003】
エンジンがアイドリング回転数の場合でも、各アクチュエータを円滑に作動させるために、メインポンプから各アクチュエータには、それぞれの負荷に応じた作動油がそれぞれ供給される。
【0004】
なお、アクチュエータの負荷に応じた量の作動油を供給する技術は、ロードセンシング技術として知られている(特許文献1)。また、油圧回路にアキュムレータを設けて、エンジン停止後でも、アキュムレータを操作できるようにした技術も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−343511号公報
【特許文献2】特開昭61−261535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンがアイドリング回転数の場合でも、最大速度でアクチュエータを操作できるように構成すると、エンジン低速時に微妙な操作を行うことができない可能性がある。例えば、油圧ショベルの場合、上部構造体は、旋回モータの回転運動により、下部走行体に対して水平方向に回転する。エンジン回転速度にかかわらず旋回速度が一定である場合、上部旋回体を緩やかに旋回させて微妙な操作を行うことが難しくなる。
【0006】
このために、例えば、旋回モータを駆動するための旋回用ポンプを特別に用意し、この旋回用ポンプの吐出流量をエンジン回転数に比例させたり、または、ロードセンシング機構で使用されるロードセンシング差圧をエンジン回転数に応じて自動的に補正したりする構成も考えられる。しかし、このような解決策では、制御回路の構成が複雑化し、コストも増加する。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、比較的簡易な構成で、エンジン回転数が低下した場合に、アクチュエータの速度を低下させることができるようにした建設機械の操作制御回路を提供することにある。本発明の他の目的は、エンジン回転数が低下した場合にアクチュエータの速度を低下させることができ、さらに、エンジンが停止した場合でも、アキュムレータに蓄積されたパイロット圧油によって、アクチュエータを操作できるようにした建設機械の操作制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従う建設機械の操作制御回路は、エンジンにより駆動され、エンジン回転数に応じた流量でパイロット圧油をパイロット管路に供給するパイロット油圧源と、パイロット油圧源とパイロット管路を介して接続され、メイン油圧源からアクチュエータに供給される作動油の流量を制御するための制御弁に、パイロット油圧源からのパイロット圧油を供給することにより制御弁の動作を制御する操作弁と、パイロット管路の途中に設けられ、パイロット管路の圧力を所定圧に調整する圧力調整弁と、パイロット管路の途中とタンクとの間を接続して設けられた絞り部と、を備える。そして、絞り部は、エンジンのエンジン回転数が第1エンジン回転数以下になった場合に、前後の差圧が所定圧よりも低い値となるように設定されている。
【0009】
さらに、パイロット管路に接続されるアキュムレータと、絞り部とパイロット管路との接続点とアキュムレータとの間に位置してパイロット管路に設けられ、アキュムレータから絞り部に向かう圧油の流れを阻止し、逆向きの流れを許可する逆止弁と、逆止弁とアキュムレータとの間に位置してパイロット管路の途中に設けられ、アキュムレータからパイロット管路に向かう圧油の流れを阻止し、逆向きの流れを許可する第1位置と、アキュムレータからパイロット管路へ向かう圧油の流れを許可する第2位置とを備えた切替弁と、パイロット油圧源がパイロット管路にパイロット圧油を供給してるか否かを検出する検出手段と、を備え、切替弁は、パイロット油圧源がパイロット圧油を供給している場合に、第1切替位置に切り替わり、パイロット油圧源がパイロット圧油の供給を停止した場合に、第2切替位置に切り替わるように構成することもできる。
【0010】
また、メイン油圧源の吐出圧とアクチュエータの負荷圧との差圧が一定となるように、メイン油圧源からアクチュエータに供給される作動油の流量を制御するロードセンシング機構を備えることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジン回転数が第1エンジン回転数以下になると、絞り部の前後の差圧が所定圧よりも低下するため、パイロット管路の圧力は、絞り部によって所定圧よりも低い値に調整される。これにより、操作弁から制御弁に供給されるパイロット圧油の圧力が低下し、制御弁の動作が制限される。この結果、アクチュエータに供給される作動油の流量が低下し、アクチュエータの速度が低下する。
【0012】
さらに、本発明によれば、アキュムレータの動作がパイロット圧油の圧力制御に影響を与えるのを防止することができ、エンジン停止時にアキュムレータに蓄積されたパイロット圧油を用いてアクチュエータを操作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、以下に詳述するように、エンジン5の回転数の低下に応じて、パイロット管路11の圧力を低下させることにより、旋回用スプール弁1の動作を制限し、旋回モータ1Aの速度を低下させるようになっている。以下、建設機械としての油圧ショベルにおいて、旋回モータ1Aの速度を制御する場合を例に挙げて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本実施形態による油圧ショベルの操作制御回路100の全体を示す油圧回路図である。この操作制御回路100は、油圧ショベルの旋回速度を制御するために好適に用いることができる。
【0015】
先に、油圧ショベルの構造例について簡単に説明する。油圧ショベルは、例えば、左右一対の履帯を備えた下部走行体と、下部走行体に旋回可能に設けられた上部構造体と、上部構造体の前側に設けられた作業機と、上部構造体に設けられた操作装置及び機械装置等を備えて構成される。操作装置には、後述の旋回用操作弁12が含まれる。機械装置には、後述のエンジン5、メインポンプ4及びパイロットポンプ10等が含まれる。
【0016】
下部走行体は、油圧モータによって履帯を駆動することにより、走行する。下部走行体と上部構造体との間には、旋回モータ1Aが設けられており、旋回モータ1Aの回転運動によって、上部構造体は旋回することができる。
【0017】
作業機は、例えば、上部構造体に回動可能に取り付けられたブームと、ブームの先端に回動可能に取り付けられたアームと、アームの先端に回動可能に取り付けられたバケットとを備えて構成される。バケットはバケットシリンダ3Aによって、ブームはブームシリンダ2Aによって、アームはアームシリンダによって、それぞれ回動する。
【0018】
このように、油圧ショベルには、例えば、旋回モータ1A、ブームシリンダ2A、バケットシリンダ3A等の種々のアクチュエータが設けられている。これら以外に、アームシリンダ、右走行用モータ、左走行用モータ等のアクチュエータも、油圧ショベルは備えることができるが、紙面の都合上、図示を省略する。
【0019】
旋回モータ1Aは旋回用スプール弁1によって、ブームシリンダ2Aはブーム用スプール弁2によって、バケットシリンダ3Aはバケット用スプール弁3によって、それぞれ操作される。各スプール弁1,2,3は、メインポンプ4からメイン管路6を介して供給された作動油を、それぞれのアクチュエータ1A,2A,3Aに供給する。
【0020】
メインポンプ4は、旋回モータ1A等のアクチュエータを駆動させるための作動油を供給する。メインポンプ4は、例えば、ギアポンプや斜板型ポンプ等のように構成することができる。メインポンプ4の駆動軸は、エンジン5の回転軸に接続されており、メインポンプ4は、エンジン5の回転運動を動力源として駆動する。
【0021】
ここで、各スプール弁1,2,3の負荷側の圧力とメインポンプ4の吐出圧との差圧が一定となるように、いわゆるロードセンシング機構が設けられている。ロードセンシング機構は、例えば、各スプール弁1,2,3に内蔵させることができる。図2と共に、ロードセンシングによる流量制御について後述する。
【0022】
次に、旋回モータ1Aを操作するための制御回路について説明する。上述のように、旋回モータ1Aは、油圧ショベルの上部構造体を下部走行体に対して旋回させるものであり、旋回用スプール弁1によって制御される。
【0023】
旋回用スプール弁1は、メイン管路6を介してメインポンプ4に接続されており、メインポンプ4から吐出された作動油の量及び方向を制御することにより、旋回モータ1Aの旋回速度及び旋回方向を制御する。
【0024】
旋回用スプール弁1は、旋回用操作弁12によって操作される。旋回用操作弁12は、上部構造体に設けられる操作装置の一部を構成する。旋回用操作弁12は、オペレータによる操作レバー12Aの操作量及び操作方向に応じて、旋回用スプール弁1に供給するパイロット圧油の量及び方向を制御する。パイロット圧油の量及び方向が制御されることにより、旋回用スプール弁1の動作が制御される。
【0025】
パイロット圧油は、パイロットポンプ10により供給される。パイロットポンプ10は、例えば、ギヤポンプ等のように構成されており、その駆動軸はエンジン5の回転軸に接続されている。従って、エンジン5が始動すると、パイロットポンプ10は、メインポンプ4と共に作動を開始する。パイロットポンプ10は、タンク7内の作動油を吸い込んで、吐出口からパイロット圧油を吐出する。
【0026】
パイロット管路11は、パイロットポンプ10の吐出口と旋回用操作弁12の流入口との間を接続して設けられている。パイロットポンプ10から吐出されたパイロット圧油は、パイロット管路11を介して、旋回用操作弁12に供給される。
【0027】
ここで、パイロット管路11の下流側管路11Aは、ロック用切替弁18の流入ポートに接続されており、ロック用切替弁18を介して、旋回用操作弁12とパイロット管路11とは接続されている。
【0028】
ロック用切替弁18は、旋回用操作弁12による操作の可否を決定する弁である。ロック用切替弁18は、オペレータからの操作によって、旋回操作を許可する位置(a)と、旋回操作を禁止する位置(b)とが切り替わるようになっている。ロック用切替弁18が位置(a)に切り替わっている場合、旋回用操作弁12とパイロット管路11とは、ロック用切替弁18を介して接続される。これに対し、ロック用切替弁18が位置(b)に切り替わった場合、旋回用操作弁12とパイロット管路11とは遮断され、管路11Aからの圧油はタンク7に戻される。
【0029】
パイロット管路11の途中には、下流側管路11Aとパイロットポンプ10の吐出口との間に位置して、分岐管路11Bの一端側が接続されている。分岐管路11Bの他端側はタンク7に接続されている。分岐管路11Bの途中には、後述の絞り部14が設けられているため、パイロットポンプ10の作動が停止した場合でも、パイロット管路11の圧力が直ちにタンク圧まで低下することはない。さらに、パイロット管路11は、接続管路11Cを介して、後述のアキュムレータ16に接続されている。
【0030】
パイロット管路11の途中には、パイロット管路11の圧力(パイロット元圧)を所定圧P1に調整するためのリリーフ弁13が設けられている。所定圧P1は、例えば、30kg/cm^2(2942kPa)程度の値に設定される。所定圧P1とは、リリーフ圧である。リリーフ弁13は、余分なパイロット圧油をタンク7に戻すことにより、パイロット管路11の圧力をP1に調整する。
【0031】
パイロット管路11の途中には、絞り部14も設けられている。絞り部14は、パイロット管路11の途中から分岐し、タンク7に連通する分岐管路11Bの途中に設けられている。この絞り部14は、エンジン回転数がローアイドル回転数NL以下に低下した場合に、絞り部14の前後の差圧ΔPが、所定圧P1よりも小さくなるように、絞り面積等が設定されている(ΔP<P1)。差圧ΔPは、例えば、10kg/cm^2(980kPa)程度の値に設定される。絞り部14による圧力調整機能については、さらに後述する。
【0032】
アキュムレータ16は、接続管路11Cを介してパイロット管路11に接続されており、パイロットポンプ10が作動している間に、リリーフ圧(P1)のパイロット圧油を蓄積する。そして、パイロットポンプ10が停止した場合、即ち、エンジン5が停止した場合、アキュムレータ16は、蓄積したパイロット圧油をパイロット管路11に放出するようになっている。
【0033】
逆止弁15は、絞り部14とアキュムレータ16との間に位置して、パイロット管路11の途中に設けられている。即ち、逆止弁15は、分岐管路11Bとパイロット管路11との接続点よりも下流側に位置して、パイロット管路11の途中に設けられている。逆止弁15は、アキュムレータ16に畜圧されたパイロット圧油が絞り部14に向けて流れるのを防止し、逆向きの流れを許可する。
【0034】
切替弁17は、アキュムレータ16の作動を制御するための油圧式切替弁である。アキュムレータ制御用の切替弁17は、逆止弁15とアキュムレータ16との間に位置して、パイロット管路11の途中に設けられている。この切替弁17は、第1位置(a)及び第2位置(b)を備えている。
【0035】
切替弁17が第1位置(a)に切り替わっている場合、アキュムレータ16からパイロット管路11に向かうパイロット圧油の流れは阻止され、パイロット管路11からアキュムレータ16に向かうパイロット圧油の流れは許可される。切替弁17が第2位置(b)に切り替わっている場合、アキュムレータ16に畜圧されたパイロット圧油は、パイロット管路11に流入する。
【0036】
切替弁17は、パイロット管路11から導出される圧力により、第1位置(a)と第2位置(b)とを切り替えるようになっている。即ち、パイロットポンプ10と逆止弁15との間に位置してパイロット管路11から検出された圧力は、圧力検出管路17Aを介して、切替弁17に入力される。
【0037】
パイロット管路11内に圧力が発生している場合、パイロット管路11から圧力検出管路17Aを介して導かれた圧力により、切替弁17は、バネ力に抗して、第1位置(a)に切り替わっている。パイロット管路11内の圧力が0近傍に低下し、バネ力を下回ると、切替弁17は、第1位置(a)から第2位置(b)に切り替わる。
【0038】
つまり、切替弁17は、エンジン5が始動してパイロットポンプ10が作動している間は、第1位置(a)に切り替わっている。これにより、パイロット管路11内のパイロット圧油の一部がアキュムレータ16に流入し、アキュムレータ16内に蓄積される。また、切替弁17が第1位置(a)に切り替わっている場合、アキュムレータ16からパイロット管路11へのパイロット圧油の流入は禁止されている。従って、アキュムレータ16からのパイロット圧油の影響を受けることなく、パイロット管路11の圧力を、絞り部14によって比較的低い値に調節することができる。
【0039】
次に、パイロット管路11の圧力を調整する方法について説明する。パイロットポンプ10の吐出容量をq(cc/rev)、所定係数をηvとすると、エンジン回転数がフル回転数(NH(rpm))の場合に、パイロットポンプ10から吐出されるパイロット圧油の流量QHは、下記の式1から求めることができる。
【0040】
QH=ηv・q・NH/1000・・・(式1)
【0041】
同様に、エンジン回転数がアイドリング回転数(NL(rpm))の場合に、パイロットポンプ10から吐出されるパイロット圧油の流量QLは、下記の式2から求められる。
【0042】
QL=ηv・q・NL/1000・・・(式2)
【0043】
絞り部14の圧力−流量特性は、絞り部14を通過する流量をQa、絞り面積をAmm^2、流量係数をC、絞り部14の差圧をΔPとすると、下記式3で示される。
【0044】
ΔP=(Qa/C・A)^2・・・(式3)
【0045】
従って、エンジン回転数がフル回転数NHの場合における絞り部14の差圧ΔPは、ΔP=(QH/C・A)^2となる。エンジン回転数がアイドリング回転数NLの場合におけるΔPは、ΔP=(QL/C・A)^2となる。
【0046】
本実施例では、フル回転数NHの場合のΔPの値が、所定圧であるリリーフ圧P1よりも大きくなり(ΔP>P1)、かつ、少なくともアイドリング回転数NLの場合のΔPの値がリリーフ圧P1よりも小さくなるように(ΔP<P1)、パイロットポンプ10の吐出容量qや絞り面積Aを設定している。
【0047】
ΔP>P1が成立する場合、リリーフ圧P1の方が低いため、パイロット管路11の圧力は、リリーフ弁13によって、比較的高い値のP1に調整される。これに対し、ΔP<P1が成立する場合、絞り部14の差圧ΔPの方が低いため、パイロット管路11の圧力は、絞り部14によって比較的低い値のΔPに調整される。
【0048】
即ち、本実施例の操作制御回路では、エンジン回転数の低下によってパイロット圧油の流量が低下するほど、パイロット圧もP1から次第に低下していく。つまり、エンジン回転数の低下に応じて、パイロット圧が低下するように制御される。
【0049】
図2は、ロードセンシング機構による流量制御の概略を示す流量−エンジン回転数特性を示す特性図である。エンジン5の始動によって、メインポンプ4は、メイン管路6に作動油を吐出する。図2中の太線は、メイン管路6から旋回用スプール弁1を介して旋回モータ1Aに供給される作動油の流量変化を示す。図6中の細線は、メインポンプ4の総吐出量を示す。
【0050】
エンジン回転数がアイドリング回転数NLにある場合、旋回モータ1Aには、所定流量Qmが供給される。その後、エンジン回転数がフル回転数NHに上昇するまでの間も、旋回モータ1Aには、一定量Qmの作動油が安定して供給される。この所定流量Qmは、旋回モータ1Aを最高速度で旋回させるために十分な値として設定することができる。
【0051】
ロードセンシングによって、他のアクチュエータ2A,3Aの作動状況にかかわらず、また、エンジン回転数にかかわらず、安定した流量Qmを旋回モータ1Aに供給することができるようになっている。
【0052】
従って、本発明を適用しない場合、エンジン回転数をアイドリング回転数NLにしたまま、最大の旋回速度で、油圧ショベルを旋回可能である。しかし、停車または低速状態で、微少な操作を行う場合、オペレータは、より緩やかな旋回速度を希望する。
【0053】
そこで、本実施例では、リリーフ弁13に加えて、絞り部14をパイロット管路11に並列に接続することにより、パイロット圧を可変に調整し、旋回モータ1Aの速度を制御する。
【0054】
以下、本実施例による操作制御回路の動作を、図3〜図6を用いて説明する。図3〜図5では、説明の便宜上、図1に示す回路の一部を抜き出して示す。
【0055】
図3は、エンジン5がフル回転数NHで回転している場合の様子を示す。この場合、パイロットポンプ10から吐出されるパイロット圧油の流量が大きく、リリーフ弁13のリリーフ圧P1の方が、絞り部14の差圧ΔPよりも低くなる。従って、パイロット管路11の圧力は、リリーフ圧P1に調節される(パイロット圧=P1)。
【0056】
そして、圧力P1のパイロット圧油は、パイロット管路11から旋回用操作弁12に供給される。オペレータが旋回用操作弁12を操作すると、圧力P1のパイロット圧油が旋回用スプール弁1に供給され、旋回用スプール弁1が動作する。これにより、旋回モータ1Aが旋回し、油圧ショベルはオペレータの希望する方向に旋回する。
【0057】
また、圧力P1のパイロット圧油の一部は、パイロット管路11から接続管路11C及び切替弁17を介して、アキュムレータ16に流入する。これにより、アキュムレータ16は、圧力P1のパイロット圧油を蓄積する。
【0058】
図4は、エンジン5の回転数をアイドリング回転数NLに低下させた場合を示す。この場合、パイロットポンプ10から吐出されるパイロット圧油の流量が低下し、絞り部14の差圧ΔPがリリーフ圧P1よりも低下する。従って、パイロット管路11の圧力は、差圧ΔPに調節される(パイロット圧=ΔP<P1)。
【0059】
アキュムレータ16内の圧力はP1であるから、アキュムレータ16内の圧力P1の方が、パイロット管路11内の圧力ΔPよりも大きくなる。しかし、切替弁17は、パイロット管路11の圧力ΔPによって、第1位置(a)に切り替わったままである。従って、アキュムレータ16内の圧油が、パイロット管路11に流入することはない。なお、パイロット管路11の圧力ΔPの方がアキュムレータ16内の圧力P1よりも低いため、パイロット管路11からアキュムレータ16に、パイロット圧油は流入しない。
【0060】
パイロット管路11の圧力がΔPに低下した場合に、オペレータが、操作レバー12Aを介して、旋回用操作弁12を操作すると、低圧(ΔP)のパイロット圧油が旋回用スプール弁1に供給される。パイロット圧油の圧力が低いため、旋回用スプール弁1の弁体はフルストロークまで移動せず、スプール弁1の開口面積が制限される。従って、メインポンプ4から旋回モータ1Aに供給される作動油の流量も低下し、旋回モータ1Aの速度が低下する。これにより、オペレータは、操作レバー12Aをフルストローク位置まで操作した場合でも、比較的緩やかな速度で油圧ショベルを旋回させることができる。
【0061】
図5は、エンジン5が停止した場合を示す。エンジン5が停止すると、エンジン5の回転力を駆動源とするメインポンプ4及びパイロットポンプ10も、作動を停止する。パイロット管路11内に残留していたパイロット圧油は、絞り部14を介してタンク7に戻され、パイロット管路11の圧力は0に近づいていく。
【0062】
パイロット管路11の圧力が低下し、切替弁17のバネ力を下回ると、切替弁17は、第1位置(a)から第2位置(b)に切り替わる。これにより、アキュムレータ16に蓄積されていた圧力P1のパイロット圧油は、接続管路11Cを介して、パイロット管路11に流入する。
【0063】
アキュムレータ16と絞り部14との間には、逆止弁15が設けられているため、アキュムレータ16からパイロット管路11に流入した圧油が、絞り部14を介してタンク7に流れ込むことはない。
【0064】
このように、エンジン停止後に、パイロット管路11の圧力は、いったんΔPよりも小さな値に低下した後、切替弁17の位置が切り替わることにより、P1に上昇する。従って、オペレータは、アキュムレータ16から放出されたパイロット圧油を利用して、旋回用スプール弁1を作動させることができる。これにより、オペレータは、例えば、油圧ショベルが安全な姿勢となるように、旋回させることができる。
【0065】
図6は、旋回速度が調整される様子を示す特性図である。図6(a)は、操作レバー12Aのストローク量と旋回モータ1Aに供給される作動油の流量Qmとの関係を示す特性図である。図6(a)中の二点鎖線は、フル回転数の場合の特性を示し、太線はアイドリング回転数の場合の特性を示す。
【0066】
フル回転数の場合、操作レバー12Aの操作量に応じて、旋回モータ1Aに供給される作動油流量は増大していく。少なくとも操作レバー12Aがフルストローク位置(Lmax)まで操作された場合、作動油流量は最大値Qmhに到達する。これに対し、アイドリング回転数の場合、操作レバー12Aがフルストローク位置まで操作されても、作動油流量は、最大流量Qmhに達しない。アイドリング回転数の場合、旋回用スプール弁1は、全開しないため、旋回モータ1Aに供給される作動油流量は、Qmhよりも低い値のQml(Qml<Qmh)となる。
【0067】
図6(b)は、エンジン回転数と旋回速度との関係を示す特性図である。上述のように、エンジン回転数が低下すると、旋回モータ1Aに供給される作動油流量も低下するため、旋回速度も低下する。エンジン5のフル回転時における最大旋回速度をVHとすると、エンジン5のアイドリング回転時における旋回速度はVLとなる(VL<VH)。
【0068】
本実施例は、上述のように、絞り部14をパイロット管路11に設けることにより、エンジン回転数に応じてパイロット圧を制御することができる。これにより、比較的簡易な構成で、エンジン回転数の低下に応じて旋回速度を低下させることができ、使い勝手が向上する。
【0069】
本実施例では、エンジン5が停止してパイロット圧が十分低下するまで、アキュムレータ16のパイロット圧油がパイロット管路11に流入するのを防止するための切替弁17を設ける構成とした。従って、エンジン回転数が低下した場合、絞り部14によりパイロット圧を速やかに低下させて、旋回速度を低下させることができる。切替弁17を設けない場合、エンジン回転数が低下してパイロット圧がP1よりも低下すると、アキュムレータ16内の圧力P1のパイロット圧油が、パイロット管路11に直ちに流れ込む。従って、アキュムレータ16の作動により、絞り部14によるパイロット圧の調整が遅れることになる。これに対し、本実施例では、切替弁17によって、アキュムレータ16の作動を制御するため、エンジン回転数の低下に応じて速やかにパイロット圧を低下させることができ、使い勝手が向上する。
【0070】
本実施例では、絞り部14とアキュムレータ16との間に逆止弁15を設けることにより、アキュムレータ16から供給されたパイロット圧油が絞り部14を介してタンク7に流入するのを防止することができる。これにより、エンジン停止後の操作機会確保というアキュムレータ16の機能を損なうことがなく、使い勝手及び信頼性が向上する。
【実施例2】
【0071】
図7は、本発明の第2実施例を示す回路図である。本実施例では、パイロット管路11の圧力を検出するための手段として、圧力センサ20を用いている。また、本実施例のアキュムレータ制御用の切替弁17は、電磁式切替弁として構成される。
その他の構成は、第1実施例と同様であるため、説明を省略し、本実施例に特徴的な構成を中心に説明する。
【0072】
圧力センサ20は、パイロット管路11の圧力が所定の設定圧(0または0近傍の値)よりも大きい場合に、電気信号を出力する。切替弁17は、圧力センサ20からの電気信号によって、第1位置(a)を維持する。エンジン5が停止して、パイロット管路11の圧力が設定圧以下に低下すると、圧力センサ20からの電気信号が停止する。これにより、切替弁17は、第1位置(a)から第2位置(b)に切り替わる。
このように構成される本実施例でも、前記第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例3】
【0073】
図8は、本発明の第3実施例を示す回路図である。本実施例では、エンジン5の作動状態を検出するためのセンサ30を設け、このセンサ30からの信号によって、電磁式切替弁17を切り替える。
【0074】
センサ30は、例えば、燃料噴射量やエンジン回転数等に基づいて、エンジン5が始動しているか否かを検出し、電気信号を出力する。エンジン5が始動している場合、パイロットポンプ10も作動しており、パイロット圧が発生している。これに対し、エンジン5が停止した場合、パイロットポンプ10も作動を停止するため、パイロット圧は、0または0近傍まで低下する。
【0075】
従って、エンジン5の始動状態を検出することにより、パイロット圧の有無を間接的に検出することができる。なお、エンジン5が停止してからパイロット圧が0または0近傍に低下するまでには、多少の遅延時間が存在すると考えられる。従って、この遅延時間を考慮して、センサ30の出力信号が「エンジン始動」から「エンジン停止」に遷移する際の時間を調節すればよい。
このように構成される本実施例も、前記第1実施例と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0076】
図9は、本発明の第4実施例を示す回路図である。本実施例では、図1に示す回路から、逆止弁15,アキュムレータ16及び切替弁17に関する構成を取り去っている。その他の構成は、第1実施例と同様である。
アキュムレータ16によるエンジン停止後の操作機会確保という機能が要求されない場合は、本実施例のように構成することもできる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。
【0078】
例えば、旋回モータ以外の他のアクチュエータ(ブームシリンダ、アームシリンダ、走行モータ等)にも、本発明を適用可能である。また、建設機械として、油圧ショベルを例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、油圧クレーン車等の他の建設機械にも適用可能である。さらに、第3実施例では、エンジンの始動を電気的に検出する場合を述べたが、これに代えて、例えば、クランクシャフトの回転運動等を機械的に検出し、これによって、アキュムレータ制御用の切替弁を切り替える構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】操作制御回路の回路図。
【図2】旋回モータに供給される作動油の流量とエンジン回転数との関係を示す特性図。
【図3】エンジンがフル回転時の様子を示す回路図。
【図4】エンジンがアイドリング回転時の様子を示す回路図。
【図5】エンジン停止時の様子を示す回路図。
【図6】(a)は操作レバーの操作量と旋回モータに供給される作動油流量の関係を示す特性図、(b)はエンジン回転数と旋回速度の関係を示す特性図。
【図7】本発明の第2実施例に係る操作制御回路の回路図。
【図8】本発明の第3実施例に係る操作制御回路の回路図。
【図9】本発明の第4実施例に係る操作制御回路の回路図。
【符号の説明】
【0080】
1…旋回用スプール弁、1A…旋回モータ、2…ブーム用スプール弁、2A…ブームシリンダ、3…バケット用スプール弁、3A…バケットシリンダ、4…メインポンプ、5…エンジン、6…メイン管路、7…タンク、10…パイロットポンプ、11…パイロット管路、11A…下流側管路、11B…分岐管路、11C…接続管路、12…旋回用操作弁、12A…操作レバー、13…リリーフ弁、14…絞り部、15…逆止弁、16…アキュムレータ、17…切替弁、17A…圧力検出管路、18…ロック用切替弁、20…圧力センサ、30…エンジン作動状態検出センサ、P1…リリーフ圧、ΔP…絞り部の差圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の操作制御回路(100)であって、
エンジン(5)により駆動され、エンジン回転数に応じた流量でパイロット圧油をパイロット管路(11)に供給するパイロット油圧源(10)と、
前記パイロット油圧源と前記パイロット管路を介して接続され、メイン油圧源(4)からアクチュエータ(1A)に供給される作動油の流量を制御するための制御弁(1)に、前記パイロット油圧源からのパイロット圧油を供給することにより前記制御弁の動作を制御する操作弁(12)と、
前記パイロット管路の途中に設けられ、前記パイロット管路の圧力を所定圧(P1)に調整する圧力調整弁(13)と、
前記パイロット管路の途中とタンク(7)との間を接続して設けられた絞り部(14)と、を備え、
前記絞り部は、前記エンジン(5)のエンジン回転数が第1エンジン回転数(NL)以下になった場合に、前後の差圧(ΔP)が前記所定圧よりも低い値となるように(ΔP<P1)設定されている建設機械の操作制御回路。
【請求項2】
さらに、前記パイロット管路(11)に接続されるアキュムレータ(16)と、
前記絞り部(14)と前記パイロット管路との接続点と前記アキュムレータとの間に位置して前記パイロット管路に設けられ、前記アキュムレータから前記絞り部に向かう圧油の流れを阻止し、逆向きの流れを許可する逆止弁(15)と、
前記逆止弁と前記アキュムレータとの間に位置して前記パイロット管路の途中に設けられ、前記アキュムレータから前記パイロット管路に向かう圧油の流れを阻止し、逆向きの流れを許可する第1位置と、前記アキュムレータから前記パイロット管路へ向かう圧油の流れを許可する第2位置とを備えた切替弁(17)と、
前記パイロット油圧源(10)が前記パイロット管路にパイロット圧油を供給してるか否かを検出する検出手段(17A,20,30)と、を備え、
前記切替弁は、前記パイロット油圧源がパイロット圧油を供給している場合に、前記第1切替位置に切り替わり、前記パイロット油圧源が前記パイロット圧油の供給を停止した場合に、前記第2切替位置に切り替わるように構成されている請求項1に記載の建設機械の操作制御回路。
【請求項3】
前記メイン油圧源(4)の吐出圧と前記アクチュエータ(1A)の負荷圧との差圧が一定となるように、前記メイン油圧源から前記アクチュエータに供給される作動油の流量を制御するロードセンシング機構をさらに備えている請求項2に記載の建設機械の操作制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−255506(P2007−255506A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78868(P2006−78868)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000184632)小松ゼノア株式会社 (60)
【Fターム(参考)】