説明

建設機械の油圧制御装置

【課題】作業時の反力によってブームシリンダのロッド圧が高く、ヘッド圧が低い状況でのブーム上げ操作時に、公知技術のような弊害を招かずに、ロッド圧を逃がしながらヘッド側へのポンプ油の供給を抑え、他の油圧シリンダへの必要流量を確保する。
【解決手段】油圧ショベルにおいて、アーム引きによる掘削反力によってブームシリンダ6のロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時のみに、油圧ポンプ14からブームシリンダ6のヘッド側に供給される流量を制限する流量制御弁16と、タンク油をブームシリンダ6のヘッド側油室6bに補給するアンチキャビテーション回路17とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベルのような作業アタッチメントを備えた建設機械の油圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブームとアームと作業装置とこれらを駆動するブーム、アーム、作業装置各シリンダから成る作業アタッチメントを備えた建設機械において、作業時の反力がブームシリンダを伸長させる方向に作用し、これにより同シリンダのロッド側圧力(以下、ロッド圧という)が高く、ヘッド側圧力(以下、ヘッド圧という)が低くなる状況が発生する場合がある。
【0003】
代表的な油圧ショベルの場合で説明する。
【0004】
油圧ショベルは、図5に示すようにクローラ式の下部走行体1と、この下部走行体1上に地面に対して鉛直な軸のまわりに旋回自在に搭載された上部旋回体2とを具備する。
【0005】
上部旋回体2には、ブーム3、アーム4、バケット5、及びこれらを駆動するブーム、アーム、バケット各シリンダ(油圧シリンダ)6,7,8から成る作業アタッチメント9が装着され、ブーム3の上げ/下げ、アーム4の押し(上向き回動)/引き(下向き回動)、バケット5の掘削(すくい)/戻しの各単独または複合操作によって掘削、積み込み、均し等の各種作業が行われる。
【0006】
図6はブーム、アーム両シリンダ6,7を駆動する従来の油圧回路を示す。
【0007】
ブーム、アーム両シリンダ6,7は、それぞれ操作手段としてのブーム用、アーム用両リモコン弁10,11によって操作される油圧パイロット式の切換弁であるコントロールバルブ12,13を介して油圧ポンプ14及びタンクTに接続されている。
【0008】
ブームシリンダ用のコントロールバルブ(以下、ブームコントロールバルブという)12は、中立、ブーム上げ、ブーム下げ各位置イ,ロ,ハの間で、またアームシリンダ用のコントロールバルブ(以下、アームコントロールバルブという)13は、中立、アーム引き、アーム押しの各位置イ,ロ,ハの間でそれぞれ切換わり作動し、これにより両シリンダ6,7に対する圧油の給排が制御される。
【0009】
図6中、6a,7aは両シリンダ6,7のヘッド側(伸長側)油室、6b,7bは同、ロッド側(縮小側)油室である。
【0010】
この油圧ショベルにおいて、アーム引きのみによって掘削作業を行うと、掘削反力によってアームシリンダ回路が高圧となるとともに、この掘削反力がブーム3に上向き(ブームシリンダ6を伸長させる方向)に作用してブームシリンダ6のロッド圧が高く、ヘッド圧が低くなる。
【0011】
この状態では、掘削反力をブームシリンダ6で支えきれず、車体が持ち上がって掘削作業を継続できなくなる。
【0012】
そこで、通常はブームシリンダ6のロッド圧を逃がすためにブーム上げ操作を行い、ロッド側の油をブームコントロールバルブ12経由でタンクTに逃がす。
【0013】
すなわち、アーム引き/ブーム上げの複合操作を行う。
【0014】
これにより、ロッド圧が低下して掘削反力をブームシリンダ6で支え、掘削作業が可能となる。
【0015】
ところが、ブームコントロールバルブ12がブーム上げ側に操作されることで同バルブ12のメータアウト開口が開くと同時にメータイン開口も開くため、低圧となったブームシリンダ6のヘッド側油室6aに油圧ポンプ14の吐出油が流れ込む。
【0016】
すなわち、本来、油を必要としないブームシリンダ6にポンプ油が供給されるため、この分が損失となるだけでなく、同じポンプ油によって駆動されるアームシリンダ(バケットシリンダ等の他の油圧シリンダも同ポンプ14に接続されている場合はそれを含む)へのポンプ油の供給量(アーム動力)が減少して作業効率が低下するという問題があった。
【0017】
このようなブームシリンダ6のロッド圧が高く、ヘッド圧が低くなる状況は、アーム引き/ブーム上げの複合操作時だけでなく、バケット5のすくいと、これによる掘削反力を逃がすためのブーム上げの複合操作時にも生じる。
【0018】
また、油圧ショベルにおける掘削作業時に限らず、たとえばアーム4の先端にバケット5に代えて「ニブラ」と称される開閉式の圧砕装置を取付けた解体機による解体作業時等、作業時の反力がブームシリンダ6に伸長方向に作用してロッド圧が高く、ヘッド圧が低くなる作業時にも発生する。
【0019】
この問題の解決策として、特許文献1に、上記のように掘削反力によってブームシリンダ6のロッド圧が高く、ヘッド圧が低くなる状況で、ロッド圧をアームシリンダ7のヘッド側に逃がす技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO2004/005727
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、特許文献1の公知技術によると、ブームシリンダ6のロッド圧をアームシリンダ7のヘッド圧として利用できる値まで高めるために、ロッド側からタンクTに戻る通路を絞る必要がある。
【0022】
このため、水平引き等の負荷方向(ブームシリンダ伸長方向)のブーム作業時に余分なロッド圧が立ち、圧力損失が大きくなるという弊害が生じる。
【0023】
そこで本発明は、作業時の反力によってブームシリンダのロッド圧が高く、ヘッド圧が低い状況でのブーム上げ操作時に、特許文献1記載の公知技術のような弊害を招かずに、ロッド圧を逃がしながらヘッド側へのポンプ油の供給を抑え、他の油圧シリンダへの必要流量を確保することができる建設機械の油圧制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載されるとともに、この上部旋回体に作業アタッチメントが装着され、この作業アタッチメントは、ブームと、このブームの先端に取付けられたアームと、このアームの先端に取付けられたバケット等の作業装置と、上記ブーム、アーム、作業装置を駆動するブーム、アーム、作業装置各シリンダとによって構成され、上記各シリンダは、それぞれブーム用、アーム用、作業装置用の各操作手段の操作に応じたブームシリンダ用、アームシリンダ用、作業装置シリンダ用各コントロールバルブの作動によって制御され、かつ、上記ブームシリンダと、このブームシリンダよりも作業アタッチメント先端側に位置する先端側シリンダとしての上記アーム及び作業装置両シリンダのうちの一方の先端側シリンダとが共通の油圧ポンプによって駆動されるとともに、上記先端側シリンダを伸長させて行う作業時の反力がブーム上げ方向に作用して上記ブームシリンダのロッド側圧力が高く、ヘッド側圧力が低くなるように構成された建設機械の油圧制御装置において、上記ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時のみに、上記油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側に供給される流量を制限する流量制限手段と、タンク油を上記ブームシリンダのヘッド側油室に補給するアンチキャビテーション回路とを設けたものである。
【0025】
この構成によれば、たとえば油圧ショベルにおいて、先端側シリンダの操作(請求項2ではアーム引き操作)に伴う掘削反力によってブームシリンダのロッド圧が高く、ヘッド圧が低い状況でのブーム上げ操作時(以下、ロッド圧逃がし操作時という)に、油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側に供給される流量を制限するため、ポンプ油が先端側シリンダ(アームシリンダ等)に供給される。
【0026】
このため、先端側シリンダに十分な流量を供給して動力を確保し、作業効率を高めることができる。
【0027】
しかも、上記ヘッド側流量の制限作用はロッド圧逃がし操作時のみに働き、それ以外では制限しないため、特許文献1記載の公知技術のように他のブーム作業時に余分なロッド圧が立つという弊害を招くおそれがない。
【0028】
本発明においては、上記請求項1または2の構成を前提として、上記操作手段としてリモコン弁、コントロールバルブとして上記リモコン弁の操作に応じて作動する油圧パイロット式の切換弁をそれぞれ設けるとともに、上記流量制限手段として、上記油圧ポンプとブームシリンダのヘッド側油室とを結ぶヘッド側供給管路に、開口面積を絞る位置と絞らない位置との間で作動する油圧パイロット式の流量制御弁を設け、この流量制御弁の一方のパイロットポートに上記リモコン弁からのブーム上げパイロット圧とブームシリンダのロッド側圧力、他方のパイロットポートにブームシリンダのヘッド側圧力をそれぞれ導入することにより、ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時のみに、上記流量制御弁を絞り位置に設定するように構成するのが望ましい(請求項3)。
【0029】
この構成によれば、リモコン弁からのブーム上げパイロット圧とブームシリンダのロッド圧及びヘッド圧という回路の圧力のみを利用して流量制御弁を作動させて流量制限作用を行うため、つまり、純油圧制御であるため、回路構成が簡単でコストが安くてすむ。
【0030】
また本発明においては、請求項1〜3のいずれかの構成において、上記ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時に、ブームシリンダのロッド側油室からの戻り油を同シリンダのヘッド側に供給する再生回路を設けるのが望ましい(請求項4)。
【0031】
請求項1の構成によると、ブームシリンダのヘッド側への油の供給がアンチキャビテーション回路でのタンク油の吸い上げ作用のみに依存するため、ヘッド側が負圧になるおそれが残る。
【0032】
これに対し請求項4の構成によれば、ロッド側からの戻り油をヘッド側に利用(再生)するため、ヘッド側が負圧になるおそれがない。
【0033】
さらに本発明においては、請求項4の構成において、上記ブームシリンダのヘッド側及びロッド側両圧力、上記油圧ポンプの吐出圧、上記ブーム用操作手段の操作量をそれぞれ検出する検出手段と、上記流量制御弁の開口面積を制御する制御手段とを設け、この制御手段は、ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時に、
(i) 上記ブームシリンダ用コントロールバルブのメータイン及びメータアウト両開口面積、
(ii) ブームシリンダのロッド側油室からヘッド側油室へ再生可能な流量、
(iii) ブームシリンダのロッド側油室からの流出流量から、同シリンダの面積比に応じてヘッド側油室に供給すべき必要流量、
(iv) キャビテーション防止のために上記油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側油室に供給すべき必要ポンプ流量、
(v) ポンプ圧とブームシリンダのヘッド側圧力とから、油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側油室に上記必要ポンプ流量を供給するために必要なメータイン開口面積、
(vi) 上記必要なメータイン開口面積のうち上記流量制御弁の開口面積
をそれぞれ演算し、流量制御弁の開口面積を、上記(vi)で演算された値に制御するように構成するのが望ましい(請求項5)。
【0034】
この構成によれば、ブームシリンダのヘッド側にキャビテーション回避のために必要な流量を確保できるため、確実にキャビテーションの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、作業時の反力によってブームシリンダのロッド圧が高く、ヘッド圧が低い状況でのブーム上げ操作時に、他のブーム作業時に余分なロッド圧が立つという弊害を招かずに、ロッド圧を逃がしながらヘッド側へのポンプ油の供給を抑え、他の油圧シリンダへの必要流量を確保することができる
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態を示す回路図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す回路図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す回路図である。
【図4】第3実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の適用対象である油圧ショベルの概略側面図である。
【図6】油圧ショベルの従来の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施形態は油圧ショベルを適用対象としている。また、背景技術で説明した、アーム引き/ブーム上げの複合操作による掘削作業時の制御を例にとっている。
【0038】
以下の実施形態において、次の点は図6に示す従来回路と同じである。
【0039】
(A) ブーム、アーム両シリンダ6,7は、それぞれ操作手段としてのブーム用、アーム用両リモコン弁10,11によって操作される油圧パイロット式の切換弁であるコントロールバルブ12,13を介して油圧ポンプ14及びタンクTに接続されている点。
【0040】
(B) ブームコントロールバルブ12は、中立、ブーム上げ、ブーム下げ各位置イ,ロ,ハの間で、またアームコントロールバルブ13は、中立、アーム引き、アーム押しの各位置イ,ロ,ハの間でそれぞれ切換わり作動し、これにより両シリンダ6,7に対する圧油の給排が制御される点。
【0041】
第1実施形態(図1参照)
第1実施形態においては、油圧ポンプ14とブームシリンダ6のヘッド側油室6aとを結ぶヘッド側供給管路15に、開口面積を絞る絞り位置aと絞らない全開位置bとの間で作動する油圧パイロット式の流量制御弁16が設けられている。
【0042】
この流量制御弁16は、両側パイロットポート16a,16bに入力されるパイロット圧によって制御される油圧パイロット式の切換弁として構成され、絞り位置aに向けてスプールを付勢する第1パイロットポート16aにブーム用リモコン弁10からのブーム上げパイロット圧Piとブームシリンダ6のロッド圧PR、全開位置bに向けてスプールを付勢する第2パイロットポート16bにブームシリンダ6のヘッド圧PHがそれぞれ導入される。
【0043】
つまり、ロッド圧がヘッド圧よりも高い状況でのブーム上げ操作時(ロッド圧逃がし操作時)のみに流量制御弁16が絞り位置aにセットされ、他のケースでは全開位置bに保持される。
【0044】
また、ブームシリンダ6のヘッド側油室6aとタンクTとの間に、タンク油をヘッド側油室6aに補給するチェック弁付きのアンチキャビテーション回路17が設けられている。
【0045】
なお、このアンチキャビテーション回路は、通常、ブームシリンダ6のロッド側油室6b及びアームシリンダ7の両側油室7a,7bについても設けられるが、本発明とは直接関係ないため図示省略している。
【0046】
この構成において、ロッド圧逃がし操作時に流量制御弁16が絞り位置aに切換わるため、油圧ポンプ14からブームシリンダ6のヘッド側油室6aに供給される油がこの流量制御弁16で制限(ブロック)される。
【0047】
これにより、ポンプ油がもっぱらアームシリンダ7に供給されるため、同シリンダ7による掘削動力が増加し、作業効率が高められる。
【0048】
一方、ブームシリンダ6のヘッド側は負圧となるが、アンチキャビテーション回路17によってタンク油がヘッド側油室6aに供給されるため、キャビテーションの発生を抑えることができる。
【0049】
また、この第1実施形態の構成によると、リモコン弁10からのブーム上げパイロット圧Piとブームシリンダ6のロッド圧PR及びヘッド圧PHという回路の圧力のみを利用して流量制御弁16を作動させて流量制限作用を行うため、つまり、純油圧制御であるため、回路構成が簡単でコストが安くてすむ。
【0050】
第2実施形態(図2参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0051】
第1実施形態では、ブームシリンダ6のヘッド側油室6aへの油の供給がアンチキャビテーション回路17によるタンク油の吸い上げ作用のみに依存するため、ヘッド側油室6aが負圧になるおそれが残る。
【0052】
第2実施形態はこの点の解決を図っている。
【0053】
すなわち、ブームコントロールバルブ12とタンクTとを結ぶタンク通路18に、同通路18をブームシリンダ6のヘッド側油室6aに連通させるヘッド側連通位置aと、同通路18をタンクTに連通させるタンク位置bとの間で切換わる連通弁19が設けられている。
【0054】
この連通弁19は、流量制御弁16と同様に、両側パイロットポート19a,19bに入力されるパイロット圧によって制御される油圧パイロット式の切換弁として構成され、ヘッド側連通位置aに向けてスプールを付勢する第1パイロットポート19aにブーム上げパイロット圧Piとブームシリンダロッド圧PR、タンク位置aに向けてスプールを付勢する第2パイロットポート19bにブームシリンダヘッド圧PHがそれぞれ導入される。
【0055】
つまり、流量制御弁16と同様にロッド圧逃がし操作時のみにこの連通弁19がヘッド側連通位置aに切換わり、ブームシリンダ6のヘッド側油室6aからの戻り油がヘッド側油室6aに供給(再生)される。
【0056】
図2中、20は連通弁19とブームシリンダ6のヘッド側油室6aとを結ぶ連通路、21はこの連通路20に設けられた逆流防止用のチェック弁で、これら連通弁19、連通路20、チェック弁21によって再生回路が構成されている。
【0057】
この構成によると、ロッド圧逃がし操作時に、ロッド側からの再生流量がヘッド側油室6aに補給されるため、アンチキャビテーション回路17によるタンク油吸い上げ作用と合わせてヘッド側のキャビテーション防止効果を高めることができる。
【0058】
第3実施形態(図3参照)
ブームシリンダ6のヘッド側及びロッド側両油室6a,6bにはピストンロッドによる面積差があるため、ロッド側からの再生流量のみではヘッド側流量は不足し、この不足分をアンチキャビテーション回路17で補うことになる。
【0059】
つまり、なおアンチキャビテーション作用に依存するため、ヘッド側が負圧になる懸念が残る。
【0060】
第3実施形態は、この点を解決すべく、上記ロッド側からの再生流量の不足分を流量制御弁16経由のポンプ油で補うように同制御弁16の開口面積(絞り度合い)を制御する構成がとられている。
【0061】
第2実施形態との相違点のみを説明すると、検出手段として、ブームシリンダ6のヘッド側及びロッド側両圧力PH,PR、ポンプ圧PP、ブーム上げパイロット圧(ブーム上げ操作量)Piをそれぞれ検出する圧力センサ22〜25が設けられ、これらからの圧力信号がコントローラ26に入力される。
【0062】
一方、流量制御弁16は、パイロットポートとして絞り位置aに向けてスプールを付勢するパイロットポート16aのみを有し、このパイロットポート16aに、コントローラ26によって二次圧が制御される比例弁(電磁比例減圧弁)27が接続されている。
【0063】
すなわち、コントローラ26とこの比例弁27とによって制御手段が構成され、各圧力センサ22〜25によって検出された各圧力PH,PR,PP,Piに基づいて流量制御弁16の開口面積が制御される。
【0064】
具体的な作用を図4のフローチャートを用いて説明する。
【0065】
制御開始とともにステップS1でブームヘッド圧PH、同ロッド圧PR、ブーム上げパイロット圧Pi、ポンプ圧PPが検出され、ステップS2で、予め記憶されたブーム上げパイロット圧Piとブームコントロールバルブ12のブーム上げメータイン、メータアウト両開口面積Ain,Aoutとの関係を表すマップから両開口面積Ain,Aoutを演算する。
【0066】
続くステップS3では、ブーム上げ操作があったか否か、及びロッド圧PR>ヘッド圧PHか否かがそれぞれ判定され、両方YESの場合(ロッド圧逃がし操作時)にステップS4に移行する。
【0067】
ステップS4では、次の演算を行う。
【0068】
・ ステップS2で求めたメータアウト開口面積Aoutとブームシリンダヘッド圧PH、同ロッド圧PRから、ブームシリンダ6のロッド側油室6bからヘッド側油室6aに再生可能な流量Qrを次式で演算する。
【0069】
Qr=CAout√(PR−PH)
・ ブームシリンダロッド側油室6bからの流出流量からシリンダ面積比(AH/AR)にて、ヘッド側油室6aへの必要供給流量Qhを次式で演算する。
【0070】
Qh=Qr×AH/AR (Cは流量係数)
ブームシリンダヘッド側にキャビテーションを発生させないためには、油圧ポンプ14からヘッド側油室6aに油を供給する必要がある。このポンプ14からの必要供給流量QPを次式で演算する。
【0071】
QP=Qh−Qr
・ 検出されたポンプ圧PPとヘッド圧PHから、油圧ポンプ14からブームシリンダヘッド側油室6aに上記流量QPを供給するために必要な総メータイン開口面積A0を次式で求める。
【0072】
A0=Qh/C√(PP−PH)
このメータイン開口面積A0は、ブームコントロールバルブ12と流量制御弁16の開口面積の合成開口面積であり、メータイン流量を制限する流量制御弁16の開口面積Aaを次式で演算する。
【0073】
Aa=√〔(1/(1/A0−1/Ain)〕
そして、ステップS5で、この開口面積Aaが得られるように比例弁27に電流値を指令する。
【0074】
一方、ステップS3でNO(逃がし操作でない)となると、ステップS6に移行し、流量制御弁16の開口面積が最大(全開位置b)となるように比例弁27に電流値を指令する。
【0075】
この制御により、逃がし操作時にブームシリンダ6のヘッド側にキャビテーション回避のために必要な流量を供給できるため、ヘッド側のキャビテーションをより確実に防止することができる。
【0076】
但し、シリンダヘッド側にポンプ流量を送る分、アームシリンダ7に供給されるポンプ流量は減少する。
【0077】
ところで、上記実施形態では、ブームシリンダ6のロッド側が高圧、ヘッド側が低圧となる状況でブーム上げ操作を行う最も一般的なケースであるアーム/ブーム複合操作による掘削時を例に挙げたが、本発明は、前記のようにバケット/ブーム複合操作による掘削時や、作業装置として圧砕装置を取付けた解体機による解体作業時等、作業時の反力がブームシリンダに伸長方向に作用してロッド圧が高く、ヘッド圧が低くなる状況でブーム上げ操作を行う作業時に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 ブーム
4 アーム
5 バケット
6 ブームシリンダ
6a ブームシリンダのヘッド側油室
6b 同、ロッド側油室
7 アームシリンダ
9 作業アタッチメント
10 ブーム用リモコン弁(操作手段)
11 アーム用リモコン弁(操作手段)
12 ブームコントロールバルブ
13 アームコントロールバルブ
T タンク
14 油圧ポンプ
15 ヘッド側供給管路
16 流量制御弁(流量制限手段)
17 アンチキャビテーション回路
19 再生回路を構成する連通弁
20 同、連通路
21 同、チェック弁
22〜25 圧力センサ
26 制御手段を構成するコントローラ
27 同、比例弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載されるとともに、この上部旋回体に作業アタッチメントが装着され、この作業アタッチメントは、ブームと、このブームの先端に取付けられたアームと、このアームの先端に取付けられたバケット等の作業装置と、上記ブーム、アーム、作業装置を駆動するブーム、アーム、作業装置各シリンダとによって構成され、上記各シリンダは、それぞれブーム用、アーム用、作業装置用の各操作手段の操作に応じたブームシリンダ用、アームシリンダ用、作業装置シリンダ用各コントロールバルブの作動によって制御され、かつ、上記ブームシリンダと、このブームシリンダよりも作業アタッチメント先端側に位置する先端側シリンダとしての上記アーム及び作業装置両シリンダのうちの一方の先端側シリンダとが共通の油圧ポンプによって駆動されるとともに、上記先端側シリンダを伸長させて行う作業時の反力がブーム上げ方向に作用して上記ブームシリンダのロッド側圧力が高く、ヘッド側圧力が低くなるように構成された建設機械の油圧制御装置において、上記ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時のみに、上記油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側に供給される流量を制限する流量制限手段と、タンク油を上記ブームシリンダのヘッド側油室に補給するアンチキャビテーション回路とを設けたことを特徴とする建設機械の油圧制御装置。
【請求項2】
上記アームシリンダを伸長させるアーム引き操作と、このアーム引き操作での作業時の反力によるブームシリンダのロッド側圧力を逃がすためのブーム上げ操作とが同時に行われる複合操作時に、上記流量制限手段による流量制限を行うように構成したことを特徴とする請求項1記載の建設機械の油圧制御装置。
【請求項3】
上記操作手段としてリモコン弁、コントロールバルブとして上記リモコン弁の操作に応じて作動する油圧パイロット式の切換弁をそれぞれ設けるとともに、上記流量制限手段として、上記油圧ポンプとブームシリンダのヘッド側油室とを結ぶヘッド側供給管路に、開口面積を絞る位置と絞らない位置との間で作動する油圧パイロット式の流量制御弁を設け、この流量制御弁の一方のパイロットポートに上記リモコン弁からのブーム上げパイロット圧とブームシリンダのロッド側圧力、他方のパイロットポートにブームシリンダのヘッド側圧力をそれぞれ導入することにより、ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時のみに、上記流量制御弁を絞り位置に設定するように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械の油圧制御装置。
【請求項4】
上記ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時に、ブームシリンダのロッド側油室からの戻り油を同シリンダのヘッド側に供給する再生回路を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の建設機械の油圧制御装置。
【請求項5】
上記ブームシリンダのヘッド側及びロッド側両圧力、上記油圧ポンプの吐出圧、上記ブーム用操作手段の操作量をそれぞれ検出する検出手段と、上記流量制御弁の開口面積を制御する制御手段とを設け、この制御手段は、ブームシリンダのロッド側圧力がヘッド側圧力よりも高い状況でのブーム上げ操作時に、
(i) 上記ブームシリンダ用コントロールバルブのメータイン及びメータアウト両開口面積、
(ii) ブームシリンダのロッド側油室からヘッド側油室へ再生可能な流量、
(iii) ブームシリンダのロッド側油室からの流出流量から、同シリンダの面積比に応じてヘッド側油室に供給すべき必要流量、
(iv) キャビテーション防止のために上記油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側油室に供給すべき必要ポンプ流量、
(v) ポンプ圧とブームシリンダのヘッド側圧力とから、油圧ポンプからブームシリンダのヘッド側油室に上記必要ポンプ流量を供給するために必要なメータイン開口面積、
(vi) 上記必要なメータイン開口面積のうち上記流量制御弁の開口面積
をそれぞれ演算し、流量制御弁の開口面積を、上記(vi)で演算された値に制御するように構成したことを特徴とする請求項4記載の建設機械の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172491(P2012−172491A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38642(P2011−38642)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】