説明

建設機械の油圧回路

【課題】パイロット油中のエアを自動的に、しかも迅速かつ確実に抜く。
【解決手段】ブレーキ切換弁28を備え、このブレーキ切換弁28は、コントロールバルブ9を操作するリモコン弁10の操作に連動して、リモコン弁10の操作時にはサブポンプ13からの圧油を旋回ブレーキ11に供給する作動位置イに、リモコン弁10の非操作時には旋回ブレーキ11に対する圧油の供給を停止する停止位置ロにそれぞれセットされるように構成された旋回回路において、ブレーキ切換弁28に絞り31を有するエア抜き油通路32を設け、ブレーキ切換弁28が停止位置ロにセットされた状態で、サブポンプ13からの圧油をエア抜き油としてエア抜き油通路32を通じてパイロットライン14,15に導き、パイロットライン14,15中のエアをリモコン弁10を介してタンクTに抜くように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械において、パイロットラインのエア抜きを自動的に行う油圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
図4において、1はクローラ式の下部走行体、2はこの下部走行体1上に縦軸Oまわりに旋回自在に搭載された上部旋回体で、この上部旋回体2に、ブーム3、アーム4及びバケット5を備えた作業アタッチメント6が装着される。
【0004】
この油圧ショベルにおける旋回回路の構成を図5に示す。
【0005】
同図において、7はメイン油圧源としてのメインポンプ、8はこのメインポンプ7からの圧油により回転して上部旋回体2を旋回駆動するメインアクチュエータとしての旋回モータ(油圧モータ)で、この旋回モータ8とメインポンプ7及びタンクTとの間に、油圧パイロット式の切換弁であるコントロールバルブ9が設けられてメイン回路(符号省略)が構成され、コントロールバルブ9によって旋回モータ8に対する圧油の給排(旋回モータ8の回転/停止、回転方向、回転速度)が制御される。
【0006】
一方、上記メイン回路とは別に、コントロールバルブ9を操作するリモコン弁10と、旋回モータ8にブレーキ力を付与する旋回ブレーキ11と、この旋回ブレーキ11の作動を制御するブレーキ切換弁12と、旋回ブレーキ11の油圧源であってリモコン弁10の一次圧源であるサブポンプ(パイロットポンプともいう)13とから成るサブ回路(符号省略)が設けられている。
【0007】
リモコン弁10の二次側は、左右旋回用のパイロットライン14,15を介してコントロールバルブ9の両側パイロットポート9a,9bに接続され、リモコン弁10の操作量に応じたパイロット圧がコントロールバルブ9に加えられて同バルブ9が中立、左旋回、右旋回各位置イ,ロ,ハ間で作動する。
【0008】
また、両パイロットライン14,15は、シャトル弁16及び切換弁パイロットライン17を介してブレーキ切換弁12のパイロットポート18にも接続されている。
【0009】
これにより、ブレーキ切換弁12がリモコン弁10の操作に連動して、リモコン弁10の操作時にはサブポンプ13からの油圧を旋回ブレーキ11に供給する作動位置イに、リモコン弁10の非操作時(中立時)には旋回ブレーキ11に対する圧油の供給を停止する停止位置ロにそれぞれセットされる。19は同切換弁12のポンプポートである。
【0010】
旋回ブレーキ11は、加圧されないときはバネ力によってブレーキ作動し、加圧時にバネに抗してブレーキ解除するネガティブブレーキとして構成されている。
【0011】
この旋回ブレーキ11の油圧室11aは、ブレーキ切換弁12の停止位置ロで開通するタンク通路20を介して、バネ室11bは直接、それぞれタンクTに通じるタンクライン21に接続されている。
【0012】
図5中、22,23はコントロールバルブ9と旋回モータ8とを結ぶモータ両側管路、24,25はこのモータ両側管路22,23間に相対向して設けられたブレーキ弁としてのリリーフ弁、26,27はキャビテーション防止用のチェック弁である。
【0013】
このような旋回回路において、パイロットライン14,15中の油(パイロット油)にエアが混入すると、コントロールバルブ9の応答性が悪くなるため、このエアを抜く必要がある。
【0014】
このパイロット油のエア抜きを自動的に行う技術として、特許文献1に示されるように、コントロールバルブ内に、パイロットラインに通じるパイロット油路を設け、アクチュエータからの戻り油の一部をパイロット油路、パイロットライン、リモコン弁を介してタンクに還流させることにより、パイロット油中のエアをこの戻り油とともにタンクに排出する技術が公知である。
【特許文献1】特開平10−89315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、この公知技術によると、アクチュエータ戻り油というごく低圧(タンク圧)の油でパイロット油を長いパイロットライン経由でタンクに流す構成であるため、流量が十分でないことからエア抜きの効果が低いものとなる。すなわち、エア抜きに長時間を要し、しかも確実なエア抜きが難しいという問題があった。
【0016】
そこで本発明は、パイロット油中のエアを自動的に、しかも迅速かつ確実に抜くことができる建設機械の油圧回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、メインポンプを油圧源としてメインアクチュエータを駆動するメイン回路と、サブポンプを油圧源としてサブアクチュエータを駆動するサブ回路とを備え、上記メイン回路は、上記メインアクチュエータの作動を制御する油圧パイロット式のコントロールバルブを有し、上記サブ回路は、操作量に応じたパイロット圧をパイロットラインを介して上記コントロールバルブに送るリモコン弁と、上記サブアクチュエータに対する圧油の供給を制御する切換弁とを備え、この切換弁は、上記リモコン弁に連動して、リモコン弁の操作時には上記サブポンプからの圧油をサブアクチュエータに供給する作動位置に、リモコン弁の非操作時には上記サブアクチュエータに対する圧油の供給を停止する停止位置にそれぞれセットされるように構成された建設機械の油圧回路において、上記切換弁が上記停止位置にセットされた状態で上記サブポンプからの圧油をエア抜き油としてパイロットラインに導くエア抜き油通路と、このエア抜き油通路を通るエア抜き油の圧力を上記コントロールバルブが作動する圧力以下の値に落とす絞りとが設けられたものである。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、上記絞り付きのエア抜き油通路が切換弁のスプール内に設けられたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、リモコン弁の非操作時に、リモコン弁の一次圧源であるサブポンプからの圧油を、エア抜き油としてコントロールバルブの作動圧以下に落としてパイロットラインに導く構成としたから、パイロットラインの配管長さと絞りとで決まる圧力をエア抜きに効果のある流量が得られる値として設定することにより、パイロット油中のエアを自動的に、そして迅速かつ確実にタンクに排出することができる。
【0020】
しかも、リモコン弁と連動する既存の切換弁をエア抜き弁として利用し、絞り付きのエア抜き油通路を付加するだけでよいため、エア抜き専用の設備一式を新設する必要がなく、低コスト、省スペースとなる。
【0021】
とくに、請求項2の発明によると、絞り付きのエア抜き油通路を切換弁のスプール内に設けるため、切換弁のボディに専用ポートとともに同通路を設ける場合のようにボディが大形化したり、別配管を追加したりする弊害が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態を図1〜図3によって説明する。
【0023】
実施形態では、背景技術の説明に合わせて油圧ショベルの旋回回路を適用対象としている。
【0024】
第1実施形態(図1参照)
図1の回路において、次の基本的構成は図5に示す従来の旋回回路と同じである。なお、図1において図5と全く同一部分には同一符号を付して示している。
【0025】
(A)メインポンプ7と、このメインポンプ7からの圧油により回転して図4の上部旋回体2を旋回駆動するメインアクチュエータとしての旋回モータ8と、この旋回モータ8とメインポンプ7及びタンクTとの間に設けられた油圧パイロット切換弁であるコントロールバルブ9とによってメイン回路が構成される点。
【0026】
(B)メイン回路とは別に、コントロールバルブ9を操作するリモコン弁10と、旋回モータ8にブレーキ力を付与する旋回ブレーキ11と、この旋回ブレーキ11の作動を制御するブレーキ切換弁(請求項1,2の切換弁)28と、旋回ブレーキ11の油圧源であってリモコン弁10の一次圧源であるサブポンプ13とから成るサブ回路が設けられている点。
【0027】
(C)リモコン弁10の二次側は、左右旋回用のパイロットライン14,15を介してコントロールバルブ9の両側パイロットポート9a,9bに接続され、リモコン弁10の操作量に応じたパイロット圧がコントロールバルブ9に加えられて同バルブ9が中立、左旋回、右旋回各位置イ,ロ,ハ間で作動する点。
【0028】
(D)両パイロットライン14,15は、シャトル弁16及び切換弁パイロットライン17を介してブレーキ切換弁28のパイロットポート29にも接続され、これによりブレーキ切換弁28がリモコン弁10の操作に連動して、リモコン弁10の操作時にはサブポンプ13からの油圧を旋回ブレーキ11に供給する作動位置イに、リモコン弁10の非操作時には旋回ブレーキ11に対する圧油の供給を停止する停止位置ロにそれぞれセットされる点。
【0029】
(E)旋回ブレーキ11は、加圧されないときはバネ力によってブレーキ作動し、加圧時にバネに抗してブレーキ解除するネガティブブレーキとして構成され、この旋回ブレーキ11の油圧室11aは、ブレーキ切換弁28の停止位置ロで開通するタンク通路30(図5中のタンク通路20と同じ)を介して、バネ室11bは直接、それぞれタンクTに通じるタンクライン21に接続されている点。
【0030】
上記基本構成に加えて、この回路においては、ブレーキ切換弁28に絞り31付きのエア抜き油通路32が、停止位置ロでポンプポート33(図5中のポンプポート19と同じ)に通じる状態で設けられている。
【0031】
このエア抜き油通路32の出口ポート34にはエア抜き油導出管路35,36が互いに並列状態で接続され、このエア抜き油導出管路35,36がそれぞれチェック弁37,38を介してシャトル弁16の両側ポートに接続されている。
【0032】
この回路構成において、リモコン弁10の非操作(中立)状態で、サブポンプ13からの圧油が、ブレーキ切換弁28の絞り付きエア抜き油通路32、エア抜き油導出管路35,36、チェック弁37,38を介してパイロットライン14,15に流入し、同ライン内のパイロット油及びエアとともにリモコン弁10を通じてタンクTに排出される。
【0033】
こうして、リモコン弁10が操作状態から中立復帰するたびにパイロットライン14,15のエア抜き作用が自動的に行われる。
【0034】
また、ブレーキ切換弁28の切換弁パイロットライン17もシャトル弁16を介してパイロットライン14,15の一方(直前に操作された側)に連通するため、同ライン17中のエアも同様にタンクTに排出される。
【0035】
ここで、エア抜き油通路32を通る(パイロットライン14,15に導入される)圧力は、コントロールバルブ9が作動する圧力以下の圧力であって、上記エア抜きラインの全長と絞り31の開度とから、エア抜きに最も効果のある流量が得られる値として設定される。いいかえれば、このような適正エア抜き流量が得られるように絞り26の開度が設定される。
【0036】
この回路によると、パイロット油中のエアを自動的に、そして十分なエア抜き流量によって迅速かつ確実にタンクTに排出することができる。
【0037】
しかも、リモコン弁10と連動する既存のブレーキ切換弁28をエア抜き弁として利用し、絞り31付きの通路32を同切換弁28に付加するだけでよいため、エア抜き専用の設備一式を新設する必要がなく、低コスト、省スペースとなる。
【0038】
第2実施形態(図2,3参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0039】
第1実施形態では、絞り付きエア抜き油通路32をブレーキ切換弁28のスプールとボディとに跨って設け、かつ、出口ポート34をボディに追加するため、同切換弁28が大形化するとともに、エア抜き油導出管路35,36も追加する必要がある。
【0040】
そこで第2実施形態では、絞り付きエア抜き油通路32をブレーキ切換弁28のスプール内に設け、同通路32をパイロットポート29に連通させた構成をとっている。
【0041】
こうすれば、ボディにポートを追加する必要がなくなるとともに、エア抜き油導出管路35,36を省略することができる。
【0042】
この場合、サブポンプ13からのエア抜き油は、エア抜き油通路32、切換弁パイロットライン17、シャトル弁16、パイロットライン14,15、リモコン弁10の経路でタンクTに戻り、第1実施形態と同様、自動エア抜き作用が行われる。
【0043】
ところで、本発明は上記実施形態で例示した旋回回路に限らず、これと同様の回路構成、すなわち、油圧パイロット切換式のコントロールバルブを備えたメイン回路と、上記コントロールバルブを操作するリモコン弁とサブアクチュエータ制御用の切換弁とを備えたサブ回路とを有し、上記切換弁はリモコン弁に連動して、リモコン弁の操作時にはサブポンプからの圧油をサブアクチュエータに供給する作動位置に、リモコン弁の非操作時には上記サブアクチュエータに対する圧油の供給を停止する停止位置にそれぞれセットされるように構成された各種回路に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる旋回回路の回路図である。
【図2】本発明の第2実施形態にかかる旋回回路の回路図である。
【図3】第2実施形態にかかるブレーキ切換弁の断面図である。
【図4】本発明が適用される油圧ショベルの概略側面図である。
【図5】油圧ショベルにおける従来の旋回回路の回路図である。
【符号の説明】
【0045】
7 メインポンプ
8 メインアクチュエータとしての旋回モータ
9 コントロールバルブ
10 リモコン弁
11 サブアクチュエータとしての旋回ブレーキ
13 サブポンプ
14,15 パイロットライン
16 シャトル弁
17 切換弁パイロットライン
18 ブレーキ切換弁のパイロットポート
21 タンクライン
28 ブレーキ切換弁
29 ブレーキ切換弁のパイロットポート
30 同タンク通路
31 同絞り
32 同エア抜き油通路
33 ポンプポート
34 出口ポート
35,36 エア抜き油導出管路
37,38 チェック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインポンプを油圧源としてメインアクチュエータを駆動するメイン回路と、サブポンプを油圧源としてサブアクチュエータを駆動するサブ回路とを備え、上記メイン回路は、上記メインアクチュエータの作動を制御する油圧パイロット式のコントロールバルブを有し、上記サブ回路は、操作量に応じたパイロット圧をパイロットラインを介して上記コントロールバルブに送るリモコン弁と、上記サブアクチュエータに対する圧油の供給を制御する切換弁とを備え、この切換弁は、上記リモコン弁に連動して、リモコン弁の操作時には上記サブポンプからの圧油をサブアクチュエータに供給する作動位置に、リモコン弁の非操作時には上記サブアクチュエータに対する圧油の供給を停止する停止位置にそれぞれセットされるように構成された建設機械の油圧回路において、上記切換弁が上記停止位置にセットされた状態で上記サブポンプからの圧油をエア抜き油としてパイロットラインに導くエア抜き油通路と、このエア抜き油通路を通るエア抜き油の圧力を上記コントロールバルブが作動する圧力以下の値に落とす絞りとが設けられたことを特徴とする建設機械の油圧回路。
【請求項2】
上記絞り付きのエア抜き油通路が切換弁のスプール内に設けられたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144752(P2010−144752A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319861(P2008−319861)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】