説明

建設機械の油圧駆動装置

【課題】複数の油圧ポンプからの圧油を複数のコントロールバルブを介し複数の油圧アクチュエータへ導く建設機械の油圧駆動装置において、代わりに他の動作を不可能にすることなく、アームダンプ及び走行の複合操作を可能とする。
【解決手段】第1及び第2油圧回路7L,7Rの第1弁グループ30にアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20を設けるとともに第3弁グループ32にブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブを設けた建設機械の油圧駆動装置において、アーム用操作レバー装置50からアームダンプ操作信号が入力されると、切換弁装置62の作用で第1油圧回路7Lの右走行用コントロールバルブ22及び第2油圧回路7Rの左走行用コントロールバルブ26を中立位置にし、第1油圧回路7Lの第1アーム用コントロールバルブ23及び第2油圧回路7Rの第2アーム用コントロールバルブ29へ圧油を導く。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建設機械に備えられる油圧駆動装置に係わり、特に、複数の油圧ポンプからの圧油を複数のコントロールバルブを介し複数の油圧アクチュエータへ導く建設機械の油圧駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】建設機械の一例として、従来の油圧ショベルの一例を図4に示す。図4において、この油圧ショベルは、いわゆるローダタイプのものであり、多関節型のフロント装置1を構成する上下方向に回動可能なブーム1a、アーム1b、及びバケット1cと、下部走行体2及び上部旋回体3とを有している。
【0003】ブーム1a、アーム1b、及びバケット1cは垂直方向にそれぞれ回動可能であり、またブーム1aの基端は、上部旋回体3の前部に支持されている。下部走行体2は、履帯2Aを左・右に備えており、上部旋回体3は、操作者が搭乗する運転室3Aと、この運転室3Aの後方に位置し原動機(図示せず)、油圧ポンプ(同)、コントロールバルブグループ(同)等の各種の機器を内蔵した機械室3Bとを備え、下部走行体2の上部に旋回可能に搭載されている。ブーム1a、アーム1b、及びバケット1cは、それぞれブーム用の油圧シリンダ4、アーム用の油圧シリンダ5、及びバケット用の油圧シリンダ6により駆動される。またバケット1cは、開閉シリンダ(図示せず)によって駆動され、開閉動作する。また、下部走行体2は、左・右走行用油圧モータ(図示せず、後述の図5、図6参照)により駆動されて走行し、上部旋回体3は旋回用油圧モータ(図示せず、後述の図5、図6参照)により駆動されて下部走行体2に対し旋回するようになっている。運転室3A内には操作レバー装置(図示せず、後述の図7参照)や操作ペダル(図示せず)等の操作手段が設けられており、この運転室3Aに搭乗した操作者は、これら各操作手段を適宜操作することにより、前述した油圧モータ及び油圧シリンダ等の油圧アクチュエータを駆動し、この油圧ショベルを走行させたり、所要の作業を行ったりすることができるようになっている。
【0004】ここで、フロント装置1の先端には、バケット1c以外のアタッチメントを設けることもできるが、上記のようにバケット1cを用いる場合には、土砂の掘削等の作業を行うことができる。ここで、鉱山における露天掘り等の大規模掘削を行う場合においては、作業の効率化を図る等のために、バケット1cとして例えば積載容量が30トン〜60トンを超えるような大型バケットを備えたいわゆる超大型油圧ショベルが用いられる。このような油圧ショベルでは、バケット1cを駆動するバケット用の油圧シリンダ6やブーム1aを駆動するブーム用の油圧シリンダ4は極めて大きな駆動力が必要となり、それらには大流量の圧油を供給しなければならない。そのため、それらのシリンダ径を大きくしたり、あるいはそれぞれを複数本の油圧シリンダで構成したりすることが多い。このような超大型油圧ショベルの場合における、各油圧アクチュエータを備えた油圧駆動装置の従来構成の一例を図5、図6、及び図7に示す。
【0005】これら図5〜図7に示す油圧駆動装置は、図示のように互いに略同一構造である2組の油圧回路7L,7Rを備えている。以下、一方の油圧回路7Lを例にとって説明する。
【0006】油圧回路7Lは、3つの油圧ポンプ8,9,10と、これら油圧ポンプ8〜10から吐出される圧油が供給され、ブーム1a、アーム1b、及びバケット1cをそれぞれ駆動するブームシリンダ11、アームシリンダ12、及びバケットシリンダ13を含む7個の油圧アクチュエータ11〜17と、油圧ポンプ8〜10からそれら油圧アクチュエータ11〜17に供給される圧油の方向及び流量を制御する12個のコントロールバルブ18〜29とを有している。
【0007】油圧アクチュエータ11〜17は、上記ブームシリンダ11、アームシリンダ12、及びバケットシリンダ13のほかに、油圧ショベルの下部走行体2(図4参照)を駆動する左右の走行モータ14,15と、下部走行体2に対して上部旋回体3(同)を旋回させる旋回モータ16と、リンク部材(図示せず)を介してバケット4を開閉動作させる開閉シリンダ17とを含んでいる。
【0008】コントロールバルブ18〜29は、いずれもセンタバイパス型の切換弁であり、第1弁グループ30、第2弁グループ31、及び第3弁グループ32の3つの弁グループに分かれ、各グループごとに一体的にユニット化されて構成されている。
【0009】第1弁グループ30は、油圧アクチュエータ11〜17のうち旋回モータ16に接続される旋回用コントロールバルブ18、ブームシリンダ11のボトム側油室11aにのみ接続される第1ブーム用コントロールバルブ19、アームシリンダ12のボトム側油室12a及びブームシリンダ11のロッド側油室11bに接続されるアームクラウド(ローダタイプではアームエクステンドともいう)・ブーム下げ用コントロールバルブ20、及びバケットシリンダ13に接続される第1バケット用コントロールバルブ21から構成されている。
【0010】なお、第1ブーム用コントロールバルブ19は、図示右側のブーム下げ側の切換位置19Bにおいては、ブームシリンダ11側へ延びる2つの管路33a,33bのうち一方の管路33aはブームシリンダ11のボトム側油室11aに接続されているものの、他方の管路33bは途中で閉止されている。この閉止は、一般に油圧シリンダは、そのボトム側油室とロッド側油室との断面積差のために伸長・収縮動作時に必要な圧油流量に差が生じることに配慮したものである。すなわち、ブーム下げ時には、同じ第1弁グループ30のブーム下げ・アームクラウド用コントロールバルブ20の図示右側位置20Bと、第2弁グループ31の第2ブーム用コントロールバルブ24の図示右側位置24Bとを介してのみ、圧油がブームシリンダロッド側油室11bに供給されるようになっている。
【0011】第2弁グループ31は、油圧アクチュエータ11〜17のうち右走行モータ14に接続される右走行用コントロールバルブ22、アームシリンダ12に接続される第1アーム用コントロールバルブ23、ブームシリンダ11に接続される第2ブーム用コントロールバルブ24、及びバケットシリンダ13に接続される第2バケット用コントロールバルブ25から構成されている。
【0012】第3弁グループ32は、油圧アクチュエータ11〜17のうち左走行モータ15に接続される左走行用コントロールバルブ26、ブームシリンダ11のボトム側油室11a又はバケットシリンダ13のボトム側油室13aに接続されるブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27、開閉シリンダ17に接続される開閉用コントロールバルブ28、及びアームシリンダ12に接続される第2アーム用コントロールバルブ29から構成されている。なお、後述のようにバックホータイプの油圧ショベルに適用するときには、上記の開閉用コントロールバルブ28は不要となるが、この場合、開閉用コントロールバルブ28のあった位置は予備のコントロールバルブとし、例えばバケットにアタッチメントをつける場合等にアタッチメント用コントロールバルブとして活用するようになっている。
【0013】油圧ポンプ8〜10は、図示しない共通の原動機でそれぞれ駆動される可変容量型ポンプであり、第1弁グループ30への圧油を吐出する第1油圧ポンプ8と、第2弁グループ31への圧油を吐出する第2油圧ポンプ9と、第3弁グループ32への圧油を吐出する第3油圧ポンプ10とから構成されている。
【0014】そしてこのとき、第1弁グループ30においては、旋回用コントロールバルブ18及び第1ブーム用コントロールバルブ19が、残りのアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20及び第1バケット用コントロールバルブ21よりも優先的に第1油圧ポンプ8からの圧油を旋回モータ16及びブームシリンダ11に供給するようにこの例ではタンデムに接続されている。また旋回用コントロールバルブ18及び第1ブーム用コントロールバルブ19は互いにパラレルに接続されている。さらにアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20及び第1バケット用コントロールバルブ21については、アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20が第1バケット用コントロールバルブ21よりも優先的に第1油圧ポンプ8からの圧油をアームシリンダ12又はブームシリンダ11に供給するようにこの例ではタンデムに接続されている。
【0015】また、第2弁グループ31においては、右走行用コントロールバルブ22が残りの第1アーム用コントロールバルブ23、第2ブーム用コントロールバルブ24、及び第2バケット用コントロールバルブ25よりも優先的に第2油圧ポンプ9からの圧油を右走行モータ14に供給するようにタンデムに接続されており、第1アーム用コントロールバルブ23、第2ブーム用コントロールバルブ24、及び第2バケット用コントロールバルブ25は互いにパラレルに接続されている。
【0016】さらに、第3弁グループ32においては、左走行用コントロールバルブ26が残りのブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27、開閉用コントロールバルブ28、及び第2アーム用コントロールバルブ29よりも優先的に第3油圧ポンプ10からの圧油を左走行モータ15に供給するようにタンデムに接続されており、ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27、開閉用コントロールバルブ28、及び第2アーム用コントロールバルブ29は互いにパラレルに接続されている。
【0017】また油圧ポンプ8,9,10の吐出配管34,35,36から分岐する配管37,38,39には、それら吐出配管34,35,36の圧力がばね40a,41a,42aの付勢力で決まる設定リリーフ圧以上になったときに連通するリリーフ弁40,41,42がそれぞれ設けられており、油圧ポンプ8,9,10の最大吐出圧を規定するようになっている。そして、各油圧ポンプ8〜10の吐出圧は、配管43〜45を介して各油圧ポンプ8〜10の押しのけ容積をそれぞれ制御するレギュレータ46〜48に導かれており、これによって、各レギュレータ46〜48は、各油圧ポンプ8〜10の入力トルクがポンプを駆動する原動機の出力トルク以下に制限されるように、各油圧ポンプ8〜10の押しのけ容積を制御するようになっている。
【0018】また、この油圧駆動装置はさらに、被駆動部材であるブーム1a、アーム1b、バケット1c、下部走行体2、及び上部旋回体3の動作を指示するために油圧アクチュエータ11〜17のそれぞれに対応して設けられた操作手段として、ブーム用操作レバー装置49、アーム用操作レバー装置50、バケット用操作レバー装置51、左走行用操作レバー装置52、及び右走行用操作レバー装置53を含む複数の操作レバー装置を備えている。
【0019】上記のうち例えばブーム用操作レバー装置49を例にとって説明すると、ブーム用操作レバー装置49は、パイロット圧により、対応するコントロールバルブ19,24をそれぞれ駆動して切り換える油圧パイロット方式であり、操作者により操作される操作レバー49aと、操作レバー49aの操作量及び操作方向に応じたパイロット圧を生成する減圧弁49bとから構成されている。このとき、減圧弁49bの一次ポート側は、詳細は図示しないが、油圧源、例えばパイロットポンプにそれぞれ接続されている。また二次ポート側については、パイロットライン54a及び54bを介して、対応する第1及び第2ブーム用コントロールバルブ19,24の駆動部19a,19b及び駆動部24a,24bに接続されている。これにより、操作レバー装置49からの操作信号によって、対応するコントロールバルブ19,24が切り換えられ、油圧ポンプ8,9からブームシリンダ11に供給される圧油の方向及び流量を制御するようになっている。
【0020】他の操作レバー装置50,51,52,53も同様の構成となっており、操作レバー50a,51a,52a,53aに応じたパイロット圧が減圧弁50b,51b,52b,53bで生成され、パイロットライン55a,56a,57a,58a(又はパイロットライン55b,56b,57b,58b)を介し、対応する駆動部23a,29a、駆動部21a,25a、駆動部26a、及び駆動部22a(又は駆動部23b,29b、駆動部21b,25b、駆動部26b、及び駆動部22b)に導かれ、コントロールバルブ23,29、コントロールバルブ21,25、コントロールバルブ26、コントロールバルブ22が切り換えられ、油圧ポンプ8〜10から対応する油圧アクチュエータ12,13,15,14に供給される圧油の方向及び流量を制御するようになっている。
【0021】ここで、上記従来構造の要部は、第3弁グループ32にブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27を設けたことと、第1弁グループ30にアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20を設けたことにあった。以下、それらについて詳細に説明する。
【0022】(1)ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27は、前述のように、ブーム上げ側の切換位置27Aに切り換えられるとブームシリンダ11のボトム側油室11aに第3油圧ポンプ10からの圧油を供給し、バケットクラウド側の切換位置27Bに切り換えられるとバケットシリンダ13のボトム側油室13aに圧油を供給するように接続されている。
【0023】このとき、ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27は、ブーム用操作レバー装置49からブーム上げ側の切換位置27Aに切り換える操作信号がパイロットライン54cを介して入力されるブーム上げ側の駆動部27aと、バケット用操作レバー装置51からバケットクラウド側の切換位置27Bに切り換える操作信号がパイロットライン56cを介して入力されるバケットクラウド側の駆動部27bとを備えており、前述した切り換えは、これら操作信号の入力によって行われる。
【0024】また、バケットクラウド側の駆動部27bに接続されるパイロットライン56cには、駆動部59Aにパイロットライン54cのパイロット圧が導かれるか否かによりパイロットライン56cを連通・遮断可能な切換弁59が設けられている。これにより、切換弁59は、ブーム用操作レバー装置49からのブーム上げ操作信号とバケット用操作レバー装置51からのバケットクラウド操作信号とが同時に出力されているときには、ブーム上げ操作信号をバケットクラウド操作信号に優先して駆動部27aに導くようになっており、これによってブーム1a及びバケット1cを円滑に動作できるようになっている。
【0025】なお、図6に示すように、もう1つの油圧回路7Rについても、油圧回路7Lと同様に構成され(同一の部分は同一の符号で示す)ており、操作レバー装置49〜53は、両者共通に設けられている。また、特に明確に図示しなかったが、図4の油圧ショベルの油圧アクチュエータ11〜17はそれぞれ、単一の油圧シリンダや油圧モータでなく複数個の油圧シリンダや油圧モータの集合体となっている。上記油圧回路7L,7Rは、それら複数個ずつ設けられた油圧アクチュエータ11〜17のうち、対応するものを駆動するようになっている。
【0026】ここで、上記の油圧駆動装置において、ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27を設けたことによる作用は以下のようであった。すなわち、油圧シリンダのボトム側油室とロッド側油室とでは断面積差によって各油圧シリンダ伸長・伸縮のために必要な圧油流量が異なることに着目し、1つのブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27を設け、ブーム上げ側の切換位置27Aではブームシリンダ11のボトム側油室11aに圧油を供給するように接続し、バケットクラウド側の切換位置27Bではバケットシリンダ13のボトム側油室13aに圧油を供給するように接続した。これによって、ブーム1a、アーム1b、及びバケット1cを駆動制御するコントロールバルブの数を通常の9つから1つ減らして合計8つとし、その分油圧回路の構成を簡素化することができた。
【0027】また上記のようにコントロールバルブの数を減少させることにより、油圧ポンプの数を減少させることができた。すなわち、油圧ポンプの吐出側に接続できるコントロールバルブの数の限界が4つという制限のもとでも、全部でコントロールバルブが12個であれば油圧ポンプは3つで足りる。したがって、通常、コントロールバルブが13個配置され4個の油圧ポンプ数が必要であったのに比べ、油圧ポンプ数を1つ減少することができた。
【0028】このように、コントロールバルブの数を減少でき、また圧力損失によるエネルギロスを増大させることなく油圧ポンプの数を減少できた。したがって、エネルギロスを十分に低減しつつ油圧回路を簡素化することができた。
【0029】(2)アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20は、前述のように、アームクラウド側の切換位置20Aに切り換えられるとアームシリンダ12のボトム側油室12aに第1油圧ポンプ8からの圧油を供給するように接続され、ブーム下げ側の切換位置20Bに切り換えられるとブームシリンダ11のロッド側油室11bに第1油圧ポンプ8からの圧油を供給するように接続さている。
【0030】このとき、アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20は、アーム用操作レバー装置50からアームクラウド側の切換位置20Aに切り換える操作信号がパイロットライン55aを介して入力されるアームクラウド側の駆動部20aと、ブーム用操作レバー装置49からブーム下げ側の切換位置20Bに切り換える操作信号がパイロットライン54dを介して入力されるブーム下げ側の駆動部20bとを備えており、前述した切り換えは、これら操作信号の入力によって行われる。
【0031】また、ブーム下げ側の駆動部20bに接続されるパイロットライン54dには、上記切換弁59と同様、駆動部60Aにパイロットライン55cのパイロット圧が導かれるか否かによりパイロットライン54dを連通・遮断可能な切換弁60が設けられている。これにより、切換弁60は、ブーム用操作レバー装置49からのブーム下げ操作信号と、アーム用操作レバー装置50からのアームクラウド操作信号とが同時に出力されているときには、アームクラウド操作信号をブーム下げ操作信号に優先して駆動部20Aに導き、これによってブーム1a及びアーム1bが円滑に動作できるようになっている。
【0032】上記のようなアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20を設けることにより、旋回・ブーム上げ複合操作時と旋回・ブーム下げ複合操作時のいずれの場合においても良好な操作性を確保できた。
【0033】すなわち、旋回・ブーム上げ複合操作の場合は、第1油圧ポンプ8からの圧油は、旋回用コントロールバルブ18及び第1ブーム用コントロールバルブ19が互いにパラレルに接続されていることにより、旋回用コントロールバルブ18の切換位置18A(又は18B)及び第1ブーム用コントロールバルブ19のブーム上げ側の切換位置19Aを介し旋回モータ16及びブームシリンダ11のボトム側油室11aの両方に十分に供給される。またこのとき併せて、第2及び第3油圧ポンプ9,10からの圧油が第2ブーム用コントロールバルブ24のブーム上げ用切換位置24A及びブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27のブーム上げ側の切換位置27Aを介してブームシリンダ11のボトム側油室11aに供給される。これにより、上部旋回体2が確実に回転するとともにブーム1aが確実に上昇するので、旋回・ブーム上げ複合操作時における良好な操作性を確保できる。
【0034】また、旋回・ブーム下げ複合操作の場合は、第1ブーム用コントロールバルブ19がブームシリンダ11のロッド側油室11bには接続されず、かつ旋回用コントロールバルブ18がアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20よりも優先的に旋回モータ16に圧油を供給するように接続されていることにより、第1油圧ポンプ8からの圧油は、ブームシリンダ11のロッド側油室11bの負荷圧が極めて小さくなっても、それに関係なく、まず旋回モータ16に優先的に供給される。そして余剰となった分がセンタバイパス通路61及びアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20の切換位置20Bを介してブームシリンダ11のロッド側油室11bに導かれる。
【0035】このとき併せて、第2油圧ポンプ9からの圧油が上記旋回・ブーム上げ複合操作の場合と同様にしてブームシリンダ11のロッド側油室11bに供給される。これらにより、上部旋回体3が確実に回転するとともにブーム1aが確実に下降するので、旋回・ブーム下げ複合操作時における良好な操作性を確保できる。
【0036】なお、上記のうち、ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ27を設ける構成は、例えば特開平10−299027号公報に開示されており、アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20を設ける構成は、例えば特開平10−306470号公報に開示されており、図5〜図7に示した油圧駆動装置は、これら2つの公知技術を組み合わせた構成となっている。
【0037】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来構造には、以下の課題が存在する。
【0038】上記の油圧駆動装置は、図4に示したようないわゆるローダタイプの油圧ショベルに適用するものであった。しかし、油圧ショベルには、このようなローダタイプのほかに、図8に示すようないわゆるバックホータイプのものがある(図4と同等の部分に同一の符号を付し、説明を省略する)。そして、同一積載容量の油圧ショベルであっても、例えば掘削用にはバックホータイプを使用し、掘削土砂のダンプカーへの積み込み用にはローダタイプを使用するといったように、用途に応じてそのタイプを適宜使い分ける場合がある。このような顧客のニーズに適切に対応するためには、同一の油圧駆動装置を、ローダタイプの油圧ショベルとバックホータイプの油圧ショベルとでなるべく共通に使用できるようにしてタイプの変更を容易にしておくことが、生産性の観点からも望ましい。
【0039】ところで、上述したようにローダタイプの油圧ショベルでは、通常、ダンプカーへの積み込み作業が主であるのに対し、バックホータイプの油圧ショベルでは、ローダタイプでは行わない種々の掘削作業を行う。そのため、バックホータイプの油圧ショベルでは、ローダタイプの油圧ショベルでは考えにくい特有の動作を行う場合がある。その一例を図9(a)〜(c)に示す。
【0040】図9(a)は、掘削作業中に泥地へ侵入してしまったときに、その泥地から脱出する場合の動作を示している。このとき、後退方向(図示右側)への走行操作だけでは足場がぬかるんで速やかに脱出できない場合があり、その場合、バケット1cを泥中に突っ込んで泥より下部の堅土に接触させ、これを支点としてアーム1bのダンプ操作を併せて行う(すなわち走行及びアームダンプの複合操作となる)ことにより、速やかに泥地脱出を行う。
【0041】図9(b)は、段差のある高台の上面を掘削中、その面がゆるんで崩壊し転落する可能性が生じたとき、転落防止のために脱出する場合の動作を示している。上記図9(a)の場合と同様、後退方向の走行と、バケット1cを支点としたアームダンプとの複合操作を行い、速やかに脱出を行う。
【0042】図9(c)は、大規模掘削を行うために移動するとき、傾斜面の坂道登坂を行う場合の動作を示している。傾斜が急な場合は、安全の確保のためにバケット1cを坂道の下側面に接触させ、これをつっかえ棒のようにして車体の転倒を防止しつつ登坂する。この場合も、アームダンプと走行との複合操作となる。
【0043】以上のように、バックホー油圧ショベルでは、アームダンプと走行との複合操作は不可欠である。
【0044】しかしながら、上記図5〜図7に示した油圧駆動装置においては、このようなアームダンプ及び走行の複合操作を行うことができない。すなわち、油圧回路7L,7Rにおいて、第3弁グループ32では左走行用コントロールバルブ26が第2アーム用コントロールバルブ29よりも優先的に第3油圧ポンプ10からの圧油を左走行モータ15に供給するようにタンデムに接続されており、第2弁グループ31では右走行用コントロールバルブ22が第1アーム用コントロールバルブ23よりも優先的に第2油圧ポンプ9からの圧油を右走行モータ14に供給するようにタンデムに接続されている。したがって、走行時には第1及び第2アーム用コントロールバルブ23,29を介しアームシリンダ12のロッド側油室12bに圧油を供給することが困難である。
【0045】また、もう1つの第1弁グループ30には、アームシリンダ12に係わるコントロールバルブとしてアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20が設けられているが、これはアームシリンダ12のボトム側油室12aにのみ接続されており、アームクラウド動作を行わせることはできるものの、アームダンプ動作(ローダタイプではアームリトラクトともいう)を行わせることはできない。但し、第1弁グループ30に別途アームダンプ用のコントロールバルブを追加すればアームダンプ及び走行の複合操作を可能とすることができるが、この場合、その追加した分、他の動作が犠牲になって不可能となるため、好ましくない。
【0046】本発明の目的は、複数の油圧ポンプからの圧油を複数のコントロールバルブを介し複数の油圧アクチュエータへ導くとき、エネルギロスを十分低減しつつ油圧回路を簡素化し、かつ旋回・ブーム上げ又は下げの複合操作時に良好な操作性を確保した建設機械の油圧駆動装置において、代わりに他の動作を不可能にすることなく、アームダンプ及び走行の複合操作を可能とする構成を提供することにある。
【0047】
【課題を解決するための手段】(1)上記目的を達成するために、本発明は、下部走行体、この下部走行体の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体、及びこの上部旋回体に上下方向へ回動可能に接続されたブーム・アーム・バケットを含む複数の被駆動部材を備えた建設機械に設けられ、前記複数の被駆動部材の動作をそれぞれ指示し、前記アームの動作を指示するアーム用操作手段を含む複数の操作手段と、第1及び第2油圧回路とを有し、前記第1及び第2の油圧回路がそれぞれ、第1〜第3の油圧ポンプを含む複数の油圧ポンプと、それら複数の油圧ポンプから吐出される圧油が供給され対応する前記被駆動部材をそれぞれ駆動し、前記下部走行体、上部旋回体、ブーム、アーム、及びバケットをそれぞれ駆動する左・右走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、前記複数の油圧ポンプから前記複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の方向及び流量を制御する複数のコントロールバルブをそれぞれ備えた複数の弁グループとを備えており、かつ、これら複数の弁グループは、前記第1油圧ポンプから前記旋回モータに供給される圧油の方向及び流量を制御する旋回用コントロールバルブを備えた第1弁グループと、前記第2油圧ポンプから前記右走行モータ及び前記アームシリンダに供給される圧油の方向及び流量をそれぞれ制御する右走行用コントロールバルブ及び第1アーム用コントロールバルブを備えた第2弁グループと、前記第3油圧ポンプから前記左走行モータ及び前記アームシリンダに供給される圧油の方向及び流量をそれぞれ制御する左走行用コントロールバルブ及び第2アーム用コントロールバルブを備えた第3弁グループとを含み、前記第1弁グループは、前記ブームシリンダのボトム側に圧油を供給するように該ボトム側に接続可能なブーム上げ用切換位置を有する第1コントロールバルブと、前記ブームシリンダのロッド側に圧油を供給するように該ロッド側に接続可能なブーム下げ用切換位置を有する第2コントロールバルブとをさらに備え、前記旋回用コントロールバルブ及び前記第1コントロールバルブは、前記第2コントロールバルブを含む前記第1弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第1油圧ポンプからの圧油を前記旋回モータ及び前記ブームシリンダのボトム側に供給するように接続されるとともに、前記旋回用コントロールバルブ及び前記第1コントロールバルブは、互いにパラレルに接続されており、前記第2弁グループは、前記右走行用コントロールバルブが、前記第1アーム用コントロールバルブを含む前記第2弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第2油圧ポンプからの圧油を前記右走行モータに供給するように接続されており、前記第3弁グループは、前記左走行用コントロールバルブが、前記第2アーム用コントロールバルブを含む前記第3弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第3油圧ポンプからの圧油を前記左走行モータに供給するように接続されており、かつ前記第2弁グループ及び第3弁グループのうちいずれか一方は、一の側の切換位置に切り換えられると前記ブームシリンダのボトム側に圧油を供給し、他の側の切換位置に切り換えられると前記バケットシリンダのボトム側に圧油を供給するように接続されているブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブを備えている建設機械の油圧駆動装置において、前記アーム用操作手段から前記アームをダンプさせるアームダンプ操作信号が入力されると、前記第1油圧回路における前記第2油圧ポンプから前記右走行用コントロールバルブを介し前記右走行モータへの圧油供給と、前記第2油圧回路における前記第3油圧ポンプから前記左走行用コントロールバルブを介し前記左走行モータへの圧油供給とを停止させる圧油供給停止手段を設ける。
【0048】第1及び第2油圧回路のそれぞれにおいて、第2弁グループに、第2油圧ポンプからの圧油を右走行モータへ導く右走行用コントロールバルブが設けられており、第3弁グループに、第3油圧ポンプからの圧油を左走行モータへ導く左走行用コントロールバルブが設けられている。これにより、走行単独操作時には、右走行モータには2つの油圧回路それぞれの第2油圧ポンプからの圧油が供給され、左走行モータには2つの油圧回路それぞれの第3油圧ポンプからの圧油が供給される。
【0049】ここで、アームダンプ操作を併せて行っても、第1及び第2油圧回路のそれぞれにおいて、第2弁グループでは右走行用コントロールバルブが他のコントロールバルブよりも優先的に第2油圧ポンプからの圧油を右走行モータに供給するように接続され、第3弁グループでは、左走行用コントロールバルブが他のコントロールバルブよりも優先的に第3油圧ポンプからの圧油を左走行モータに供給するように接続されているため、そのままでは、第2弁グループに配置された第1アーム用コントロールバルブや第3弁グループに配置された第2アーム用コントロールバルブに第2油圧ポンプや第3油圧ポンプからの圧油は導かれず、アームをダンプさせることはできない。
【0050】そこで本発明においては、圧油供給停止手段を設けることにより、アームダンプ操作信号が入力に応じて、第1油圧回路における第2油圧ポンプから右走行用コントロールバルブを介し右走行モータへの圧油供給と、第2油圧回路における第3油圧ポンプから左走行用コントロールバルブを介し左走行モータへの圧油供給とを停止させる。これにより、第1油圧回路にあっては、第2弁グループに配置された第1アーム用コントロールバルブを介し第2油圧ポンプからの圧油をアームシリンダのロッド側に導き、第2油圧回路にあっては、第3弁グループに配置された第2アーム用コントロールバルブを介し第3油圧ポンプからの圧油をアームシリンダのロッド側に導くことが可能となる。
【0051】そしてこのとき、第1油圧回路の第3弁グループでは、上記した優先的な接続配置によって左走行用コントロールバルブを介し第3油圧ポンプからの圧油を引き続き左走行モータへと導き、第2油圧回路の第2弁グループでも、同様に右走行用コントロールバルブを介し第2油圧ポンプからの圧油を引き続き右走行モータへと導くことができる。
【0052】したがって、アームシリンダのロッド側及び左・右走行モータへ圧油を供給することができるので、代わりに他の動作を不可能にすることなく、アームダンプ及び走行の複合操作を実現することができる。
【0053】(2)上記(1)において、好ましくは、前記複数のコントロールバルブはセンターバイパス型の弁であり、前記圧油供給停止手段は、前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブ及び前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブを中立位置にするコントロールバルブ制御手段を備えている。
【0054】(3)上記(2)において、さらに好ましくは、前記複数の操作手段は、油圧源からの圧油を基に操作レバーの操作量に応じたパイロット操作信号を出力する油圧パイロット方式であるとともに、下部走行体の動作を指示するために前記左・右走行モータをそれぞれ操作する左・右走行用操作手段を含み、前記複数のコントロールバルブは、前記パイロット操作信号によって切り換えられるパイロット弁であり、前記コントロールバルブ制御手段は、前記右走行用操作手段から前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号及び前記左走行用操作手段から前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号を遮断する操作信号遮断手段を備えている。
【0055】(4)上記(3)において、さらに好ましくは、前記操作信号遮断手段は、前記右走行用操作手段から前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブへの第1パイロットライン及び前記左走行用操作手段から前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブへの第2パイロットラインに設けられ、前記アーム用操作手段からのアームダンプパイロット操作信号が駆動部に入力されると、前記第1及び第2パイロットラインを遮断する遮断位置に切り換えられる切換弁手段を備えている。
【0056】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図1R>1、図2、及び図3により説明する。図1〜図3は、本実施形態による油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。図5〜図7と同等の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0057】これら図1〜図3において、本実施形態の油圧駆動装置は、図5〜図7に示した油圧駆動装置に対して切換弁装置62を新たに設けた構造となっている。この切換弁装置62は、右走行用操作レバー装置53から第1油圧回路7Lの右走行用コントロールバルブ22へのパイロットライン58aL,58bL及び左走行用操作レバー装置52から第2油圧回路7Rの左走行用コントロールバルブ26へのパイロットライン57aR,57bRにそれぞれ設けられる切換弁62a,62b,62c,62dを備えている。
【0058】これら切換弁62a,62b,62c,62dはそれぞれ、パイロットライン63を介しアーム用操作レバー装置50からのアームダンプ操作信号が導入される駆動部62aa,62ba,62ca,62daと、ばね62ab,62bb,62cb,62dbとを備えている。そして、駆動部62aa,62ba,62ca,62daにアームダンプ操作信号が入力されていないときは、ばね62ab,62bb,62cb,62dbの付勢力によって、図3中上方側の連通位置に保持され、対応するパイロットライン58aL,58bL,57aR,57bRを連通させる。また駆動部62aa,62ba,62ca,62daにアームダンプ操作信号が入力されると、対応するパイロットライン58aL,58bL,57aR,57bRを遮断するとともにタンク64に連通させる。これにより、第1油圧回路7Lの右走行用コントロールバルブ22の駆動部22a,22b及び第2油圧回路7Rの左走行用コントロールバルブ26の駆動部26a,26bに加わる圧力はいずれもタンク圧となり、それら右走行用コントロールバルブ22及び左走行用コントロールバルブ26は、それぞればね22c,22d及びばね26c,26dの付勢力によって中立位置に復帰するようになっている。
【0059】その他の構造は、図5〜図7に示した従来の油圧駆動装置とほぼ同様である。
【0060】なお上記構成において、操作レバー装置49〜53が、複数の被駆動部材の動作をそれぞれ指示する複数の操作手段を構成し、第1及び第2油圧回路7L,7Rそれぞれの第1弁グループ30における第1ブーム用コントロールバルブ19が、ブームシリンダのボトム側に圧油を供給するようにボトム側に接続可能なブーム上げ用切換位置を有する第1コントロールバルブを構成し、第1及び第2油圧回路7L,7Rそれぞれの第1弁グループ30におけるアームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ20が、ブームシリンダのロッド側に圧油を供給するようにロッド側に接続可能なブーム下げ用切換位置を有する第2コントロールバルブを構成する。
【0061】また、パイロットライン58aL,58bLが、右走行用操作手段から第1油圧回路の右走行用コントロールバルブへの第1パイロットラインを構成し、パイロットライン57aR,57bRが、左走行用操作手段から第2油圧回路の左走行用コントロールバルブへの第2パイロットラインを構成する。
【0062】さらに、切換弁装置62が、アーム用操作手段からのアームダンプパイロット操作信号が駆動部に入力されると、第1及び第2パイロットラインを遮断する遮断位置に切り換えられる切換弁手段を構成し、また右走行用操作手段から第1油圧回路の右走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号及び左走行用操作手段から第2油圧回路の左走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号を遮断する操作信号遮断手段をも構成する。そして、この切換弁装置62とパイロットライン57aR,57bR,58aL,58bLとが、第1油圧回路の右走行用コントロールバルブ及び第2油圧回路の左走行用コントロールバルブを中立位置にするコントロールバルブ制御手段を構成し、またアーム用操作手段から前記アームをダンプさせるアームダンプ操作信号が入力されると、第1油圧回路における第2油圧ポンプから右走行用コントロールバルブを介し右走行モータへの圧油供給と、第2油圧回路における第3油圧ポンプから左走行用コントロールバルブを介し左走行モータへの圧油供給とを停止させる圧油供給停止手段をも構成する。
【0063】以上のように構成した本実施形態の動作について以下に説明する。
【0064】(1)走行単独操作走行単独操作時には、操作者が左走行用操作レバー装置52及び右走行用操作レバー装置53を操作することにより、パイロットライン57aL,57aR,58aL,58aR(又はパイロットライン57bL,57bR,58bL,58bR)にパイロット操作信号が立ち、これが第1及び第2油圧回路7L,7Rの左・右走行用コントロールバルブ26,22の駆動部26a,22a(又は駆動部26b,22b)に導かれ、左・右走行用コントロールバルブ26,22が図1、図2中左側の切換位置26A,22A(又は図1、図2中右側の切換位置26B,22B)に切り換えられる。これにより、第1油圧回路7L及び第2油圧回路7Rのそれぞれにおいて、第2油圧ポンプ9からの圧油が右走行用コントロールバルブ22の切換位置22A(又は22B)を介して右走行モータ14へ導かれ、第3油圧ポンプ10からの圧油が左走行用コントロールバルブ26の切換位置26A(又は26B)を介して左走行モータ15へ導かれる。
【0065】すなわち、この油圧駆動装置全体で見ると、右走行モータ14,14には2つの油圧回路7L,7R両方の第2油圧ポンプ9,9からの圧油が供給されて駆動され、左走行モータ15,15には2つの油圧回路7L,7R両方の第3油圧ポンプ10,10からの圧油が供給されて駆動される。この結果、操作レバー装置52,53に対する操作者の操作量に応じた速度で、下部走行体2の後退(又は前進)を行うことができる。
【0066】(2)アームダンプ・走行複合操作上記(1)の走行単独操作状態から、操作者がさらにアーム用操作レバー装置50を操作してアームダンプ操作を併せて行った場合、パイロットライン55bにパイロット操作信号が立ち、これが第1及び第2油圧回路7L,7Rそれぞれの第1アーム用コントロールバルブ23の駆動部23b及び第2アーム用コントロールバルブ29の駆動部29bに導かれ、それら第1及び第2アーム用コントロールバルブ23,29が図1、図2中左側の切換位置23A,29Aに切り換えられる。
【0067】このとき、第1及び第2油圧回路7L,7Rそれぞれにおいて、第2弁グループ31では右走行用コントロールバルブ22が第1アーム用コントロールバルブ23よりも優先的に第2油圧ポンプ9からの圧油を右走行モータ14に供給するようにタンデムに接続され、第3弁グループ32では、左走行用コントロールバルブ26が第2アーム用コントロールバルブ29よりも優先的に第3油圧ポンプ10からの圧油を左走行モータ15に供給するようにタンデムに接続されている。そのため、本来であれば第1及び第2油圧回路7L,7Rそれぞれにおいて第1及び第2アーム用コントロールバルブ23,29には圧油は導かれない。
【0068】しかしながら、本実施形態ではこのとき、アーム用操作レバー装置50からのアームダンプ操作信号がパイロットライン63を介して切換弁62a,62b,62c,62dの駆動部62aa,62ba,62ca,62daに入力され、切換弁62a,62b,62c,62dが図3中下方の遮断位置に切り換えられる。これにより、第1油圧回路7Lの右走行用コントロールバルブ22の駆動部22a,22b及び第2油圧回路7Rの左走行用コントロールバルブ26の駆動部26a,26bに加わる圧力はいずれもタンク圧となるため、第1油圧回路7Lの右走行用コントロールバルブ22及び第2油圧回路7Rの左走行用コントロールバルブ26はそれぞれ中立位置に復帰する。
【0069】これにより、第1油圧回路7Lにあっては、第2弁グループ31の第1アーム用コントロールバルブ23の切換位置23Aを介し第2油圧ポンプ9からの圧油がアームシリンダ12のロッド側12bに導かれ、第2油圧回路7Rにあっては、第3弁グループ32の第2アーム用コントロールバルブ29の切換位置29Aを介し第3油圧ポンプ10からの圧油がアームシリンダ12のロッド側12bに導かれる。これにより、アーム1bをダンプ方向に動作させることができる。
【0070】一方、第1油圧回路7Lの第3弁グループ32では、前述した優先的な接続関係によって左走行用コントロールバルブ26を介し第3油圧ポンプ10からの圧油が引き続き左走行モータ15へと導かれ、第2油圧回路7Rの第2弁グループ31でも、同様に右走行用コントロールバルブ22を介し第2油圧ポンプ9からの圧油が引き続き右走行モータ14へと導かれる。これにより、上記(1)の場合よりも多少駆動速度は落ちる可能性はあるものの、引き続き下部走行体2を後退(又は前進)させることができる。
【0071】以上説明したように、本実施形態によれば、代わりに他の動作を不可能にすることなく、アームダンプ及び走行の複合操作を実現することができる。したがって、図8に示したバックホータイプの油圧ショベルに適用した場合において、アームダンプ及び走行の複合操作によって、図9を用いて前述した泥地脱出、転落防止、及び坂道登坂等を容易に行うことができる。
【0072】また、図5〜図7のような構造の従来の油圧駆動装置から変更する場合にも、パイロットライン58aL,58bL及び57aR,57bRの途中に切換弁装置62を設けるだけで足りるので、容易に改造を行うことができる。
【0073】なお、上記実施形態においては、建設機械の一例として油圧ショベルに適用した場合について説明したが、これに限られず、クレーン等の他の建設機械にも適用できることは言うまでもない。
【0074】
【発明の効果】本発明によれば、エネルギロスを十分低減しつつ油圧回路を簡素化し、かつ旋回・ブーム上げ又は下げの複合操作時に良好な操作性を確保した建設機械の油圧駆動装置において、圧油供給停止手段を設けるので、代わりに他の動作を不可能にすることなく、アームダンプ及び走行の複合操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。
【図2】本発明の一実施形態による油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。
【図3】本発明の一実施形態による油圧駆動装置の構成を表す油圧回路図である。
【図4】ローダタイプの油圧ショベルの全体構造を表す側面図である。
【図5】従来の油圧駆動装置の構成の一例を表す油圧回路図である。
【図6】従来の油圧駆動装置の構成の一例を表す油圧回路図である。
【図7】従来の油圧駆動装置の構成の一例を表す油圧回路図である。
【図8】バックホータイプの油圧ショベルの全体構造を表す側面図である。
【図9】バックホータイプの油圧ショベルに特有の動作を表す説明図である。
【符号の説明】
1a ブーム(被駆動部材)
1b アーム(被駆動部材)
1c バケット(被駆動部材)
2 下部走行体(被駆動部材)
3 上部旋回体(被駆動部材)
4 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
5 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
6 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
7L 第1油圧回路
7R 第2油圧回路
8 第1油圧ポンプ
9 第2油圧ポンプ
10 第3油圧ポンプ
14 右走行モータ(油圧アクチュエータ)
15 左走行モータ(油圧アクチュエータ)
19 第1ブーム用コントロールバルブ(第1コントロールバルブ)
20 アームクラウド・ブーム下げ用コントロールバルブ(第2コントロールバルブ)
22 右走行用コントロールバルブ
23 第1アーム用コントロールバルブ
26 左走行用コントロールバルブ
27 ブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブ
29 第2アーム用コントロールバルブ
30 第1弁グループ
31 第2弁グループ
32 第3弁グループ
49 ブーム用操作レバー装置(操作手段)
50 アーム用操作レバー装置(操作手段)
51 バケット用操作レバー装置(操作手段)
52 左走行用操作レバー装置(操作手段)
53 右走行用操作レバー装置(操作手段)
57aR パイロットライン(第2パイロットライン、コントロールバルブ制御手段、圧油供給停止手段)
57bR パイロットライン(第2パイロットライン、コントロールバルブ制御手段、圧油供給停止手段)
58aL パイロットライン(第1パイロットライン、コントロールバルブ制御手段、圧油供給停止手段)
58bL パイロットライン(第1パイロットライン、コントロールバルブ制御手段、圧油供給停止手段)
62 切換弁装置(切換弁手段、操作信号遮断手段、コントロールバルブ制御手段、圧油供給停止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】下部走行体、この下部走行体の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体、及びこの上部旋回体に上下方向へ回動可能に接続されたブーム・アーム・バケットを含む複数の被駆動部材を備えた建設機械に設けられ、前記複数の被駆動部材の動作をそれぞれ指示し、前記アームの動作を指示するアーム用操作手段を含む複数の操作手段と、第1及び第2油圧回路とを有し、前記第1及び第2の油圧回路がそれぞれ、第1〜第3の油圧ポンプを含む複数の油圧ポンプと、それら複数の油圧ポンプから吐出される圧油が供給され対応する前記被駆動部材をそれぞれ駆動し、前記下部走行体、上部旋回体、ブーム、アーム、及びバケットをそれぞれ駆動する左・右走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダを含む複数の油圧アクチュエータと、前記複数の油圧ポンプから前記複数の油圧アクチュエータに供給される圧油の方向及び流量を制御する複数のコントロールバルブをそれぞれ備えた複数の弁グループとを備えており、かつ、これら複数の弁グループは、前記第1油圧ポンプから前記旋回モータに供給される圧油の方向及び流量を制御する旋回用コントロールバルブを備えた第1弁グループと、前記第2油圧ポンプから前記右走行モータ及び前記アームシリンダに供給される圧油の方向及び流量をそれぞれ制御する右走行用コントロールバルブ及び第1アーム用コントロールバルブを備えた第2弁グループと、前記第3油圧ポンプから前記左走行モータ及び前記アームシリンダに供給される圧油の方向及び流量をそれぞれ制御する左走行用コントロールバルブ及び第2アーム用コントロールバルブを備えた第3弁グループとを含み、前記第1弁グループは、前記ブームシリンダのボトム側に圧油を供給するように該ボトム側に接続可能なブーム上げ用切換位置を有する第1コントロールバルブと、前記ブームシリンダのロッド側に圧油を供給するように該ロッド側に接続可能なブーム下げ用切換位置を有する第2コントロールバルブとをさらに備え、前記旋回用コントロールバルブ及び前記第1コントロールバルブは、前記第2コントロールバルブを含む前記第1弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第1油圧ポンプからの圧油を前記旋回モータ及び前記ブームシリンダのボトム側に供給するように接続されるとともに、前記旋回用コントロールバルブ及び前記第1コントロールバルブは、互いにパラレルに接続されており、前記第2弁グループは、前記右走行用コントロールバルブが、前記第1アーム用コントロールバルブを含む前記第2弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第2油圧ポンプからの圧油を前記右走行モータに供給するように接続されており、前記第3弁グループは、前記左走行用コントロールバルブが、前記第2アーム用コントロールバルブを含む前記第3弁グループ内の他のコントロールバルブよりも優先的に前記第3油圧ポンプからの圧油を前記左走行モータに供給するように接続されており、かつ前記第2弁グループ及び第3弁グループのうちいずれか一方は、一の側の切換位置に切り換えられると前記ブームシリンダのボトム側に圧油を供給し、他の側の切換位置に切り換えられると前記バケットシリンダのボトム側に圧油を供給するように接続されているブーム上げ・バケットクラウド用コントロールバルブを備えている建設機械の油圧駆動装置において、前記アーム用操作手段から前記アームをダンプさせるアームダンプ操作信号が入力されると、前記第1油圧回路における前記第2油圧ポンプから前記右走行用コントロールバルブを介し前記右走行モータへの圧油供給と、前記第2油圧回路における前記第3油圧ポンプから前記左走行用コントロールバルブを介し前記左走行モータへの圧油供給とを停止させる圧油供給停止手段を設けたことを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】請求項1記載の建設機械の油圧駆動装置において、前記複数のコントロールバルブはセンターバイパス型の弁であり、前記圧油供給停止手段は、前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブ及び前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブを中立位置にするコントロールバルブ制御手段を備えていることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項3】請求項2記載の建設機械の油圧駆動装置において、前記複数の操作手段は、油圧源からの圧油を基に操作レバーの操作量に応じたパイロット操作信号を出力する油圧パイロット方式であるとともに、下部走行体の動作を指示するために前記左・右走行モータをそれぞれ操作する左・右走行用操作手段を含み、前記複数のコントロールバルブは、前記パイロット操作信号によって切り換えられるパイロット弁であり、前記コントロールバルブ制御手段は、前記右走行用操作手段から前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号及び前記左走行用操作手段から前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブへのパイロット操作信号を遮断する操作信号遮断手段を備えていることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項4】請求項3記載の建設機械の油圧駆動装置において、前記操作信号遮断手段は、前記右走行用操作手段から前記第1油圧回路の前記右走行用コントロールバルブへの第1パイロットライン及び前記左走行用操作手段から前記第2油圧回路の前記左走行用コントロールバルブへの第2パイロットラインに設けられ、前記アーム用操作手段からのアームダンプパイロット操作信号が駆動部に入力されると、前記第1及び第2パイロットラインを遮断する遮断位置に切り換えられる切換弁手段を備えていることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−336700(P2000−336700A)
【公開日】平成12年12月5日(2000.12.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−147620
【出願日】平成11年5月27日(1999.5.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】