弁装置
【課題】弁体の周縁にシールリングが装着されている弁装置において、シールリングと壁との摺動磨耗の進行を低減する材質構成を提供する。
【解決手段】ノズル3および弁体4を、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材で構成する。これにより、閉弁時のシールリング5と壁15との接触、および、接触後のシールリング5と壁15との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリング5と壁15との接触による磨耗の進行、および、接触後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【解決手段】ノズル3および弁体4を、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材で構成する。これにより、閉弁時のシールリング5と壁15との接触、および、接触後のシールリング5と壁15との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリング5と壁15との接触による磨耗の進行、および、接触後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関するものであり、弁体の周縁にシールリングが装着されているものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から、弁装置100では、図8に示すように、弁体101の周縁にシールリング102が装着されているものが公知であり、例えば、内燃機関から排気される排気ガスの一部を吸気側に再循環するEGR装置において、排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置として採用されている
【0003】
弁装置100は、流体の通路103を有する通路形成体104と、通路103に回転自在に収容されて通路103の開度を可変する板状の弁体101と、弁体101の周縁に装着されるシールリング102とを備える。
【0004】
ここで、シールリング102は、弁体101の周縁と通路103の壁105との間を封鎖するものであって、図9に示すようにC字状に設けられ、弁体101の周縁に設けられた環状の溝106に嵌まっている(例えば、特許文献1参照)。そして、シールリング102は、自身の周方向に対向する2つの端面により周方向隙間(以下、合口隙間と呼ぶ)107を形成するとともに、溝106の底面と自身の内周縁との間に径方向の隙間(以下、溝内隙間と呼ぶ。)108を形成しながら弁体101とともに回転する。
【0005】
また、シールリング102は、全閉のときに、壁105に環状に当接して合口隙間107および溝内隙間108が最も縮まるように弾性変形している。このとき、シールリング102は、自身の張力によって壁105に当接するとともに通路103の上流側から作用する排気ガスの圧力によって溝106の側面109に当接することで、弁体101の周縁と壁105との間を封鎖している。
【0006】
ここで、弁体101が、全閉の回転角(以下、全閉角と呼ぶ。)から全開の回転角(以下、全開角と呼ぶ。)まで、開側に回転していくときのシールリング102の状態の推移について図10を参照しながら説明する。
【0007】
まず、全閉角から開側に回転していくと、シールリング102は、合口隙間107および溝内隙間108を広げながら自身の外周縁の全周において壁105との当接を保ち、弁体101の周縁と壁105との間の封鎖を維持し続ける。やがて、シールリング102は、弁体101の周縁と壁105との間を封鎖しない開放状態との境界角(以下、第1境界角と呼ぶ。)に到達し、外周縁が部分的に壁105と当接しなくなる。
【0008】
さらに、第1境界角よりも開側に回転していくと、シールリング102は、外周縁において壁105と当接しない部分を拡大しながら張力を弱めていき、同時に、合口隙間107および溝内隙間108を広げ続ける。やがて、シールリング102は、溝106に嵌まった状態で張力を有さずに自在に動くことができるフリー状態との境界角(以下、第2境界角と呼ぶ。)に到達する。
【0009】
そして、第2境界角よりも開側の回転角において、シールリング102は、フリー状態を保ちながら合口隙間107および溝内隙間108を第2境界角における数値以上に広げることなく、全開角まで回転する。
【0010】
以上により、弁体101の回転角と排気ガスの循環量とは図11のような相関を示す。
すなわち、回転角が全閉角から第1境界角の範囲にある間では、シールリング102によって弁体101の周縁と壁105との間の封鎖が維持されるので循環量はゼロに略一致している。そして、第1境界角以上の範囲では、回転角の開側への移行に応じて循環量が増加していく。
【0011】
ところで、弁装置100によれば、弁体101がシールリング102のフリー状態から閉側に回転する場合、シールリング102は、合口隙間107および溝内隙間108が大きく広がった径大の状態で壁105に衝突し、衝突後、合口隙間107および溝内隙間108を縮めるように弾性変形していく。
【0012】
このため、衝突によって、シールリング102と壁105との間、およびシールリング102と側面109との間に衝撃が発生し、衝撃発生部位において磨耗の進行が著しくなる。さらに、シールリング102と壁105との間では、衝突後も、シールリング102が張力を増しながら壁105を摺動するので、摺動摩擦による磨耗の進行も著しい。
【0013】
なお、特許文献2には、流路形成体、弁体およびシールリングを全て窒化珪素質の焼結体により設け、さらにシールリングに関してはポリテトラフルオロエチレンのコーティングを施して磨耗を抑制する構成が開示されている。しかし、セラミックを素材としているために耐衝撃性が低く、焼結助剤の添加によって強度アップしても衝撃による欠損は回避できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−285311号公報
【特許文献2】特開平7−269718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、弁体の周縁にシールリングが装着されている弁装置において、閉弁時のシールリングと通路の壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと通路の壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、弁装置は、流体の通路を有する通路形成体と、通路に回転自在に収容されて通路の開度を可変する板状の弁体と、弁体の周縁に装着されて弁体とともに回転し、通路の開度が全閉のときに、通路の壁に環状に当接して弁体の周縁と通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備える。そして、通路形成体および弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けている。
【0017】
これにより、閉弁時のシールリングと壁との衝突、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0018】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域は、金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面である。
切削加工等を施す前の焼結体の表面は密度が高く、表面から内部に向かって遠ざかるほど、密度が下がって粗くなる。このため、潤滑剤の露出量は、切削加工等を施す前から表面であった面部分よりも、切削により表面となった切削面の方が多い。
【0019】
したがって、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域を切削面により構成することで、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を、さらに抑制することができる。
【0020】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段によれば、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
これにより、シールリングと壁との衝突時には、通路形成体および弁体に含浸された液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリングと壁との間、およびシールリングと溝の側面との間に積極的に浸入して衝撃を緩和する。
【0021】
同様に、衝突後のシールリングと壁との摺動時にも、液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリングと壁との間に積極的に浸入して摺動摩擦を緩和する。
このため、より一層、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0022】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されている。
これにより、シールリングと壁との間の摩擦係数を下げることができるので、より一層、シールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0023】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段によれば、樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
ポリテトラフルオロエチレンは、様々な高分子の中でも摩擦係数を下げる効果が大きい。このため、より一層、シールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0024】
〔請求項6の手段〕
請求項6の手段によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
この手段は、液体状の潤滑剤以外の潤滑剤の一例を示すものであり、請求項1〜5と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は弁装置の構成図であり、(b)は(a)のA−A断面図である(実施例1)。
【図2】(a)はシールリングの平面図であり、(b)はシールリングによる弁体周縁の封鎖状態を示す説明図である(実施例1)。
【図3】(a)と(a´)とは全閉角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(b)と(b´)とは第1境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(c)と(c´)とは第2境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(d)と(d´)とは全開角におけるシールリングの状態を示す説明図である(実施例1)。
【図4】弁装置における回転角と流量(循環量)との相関図である(実施例1)。
【図5】(a)はノズルおよび弁体の素材を示す説明図であり、(b)はノズルおよび弁体を示す説明図である(実施例1)。
【図6】両軸斜めのバタフライ弁を示す説明図である(変形例)。
【図7】オフセット弁を示す説明図である(変形例)。
【図8】(a)は弁装置の要部断面図であり、(b)は(a)のB−B断面図である(従来例)。
【図9】(a)はシールリングの平面図であり、(b)はシールリングによる弁体周縁の封鎖状態を示す説明図である(従来例)。
【図10】(a)と(a´)とは全閉角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(b)と(b´)とは第1境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(c)と(c´)とは第2境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(d)と(d´)とは全開角におけるシールリングの状態を示す説明図である(従来例)。
【図11】弁装置における回転角と流量(循環量)との相関図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態1の弁装置は、流体の通路を有する通路形成体と、通路に回転自在に収容されて通路の開度を可変する板状の弁体と、弁体の周縁に装着されて弁体とともに回転し、通路の開度が全閉のときに、通路の壁に環状に当接して弁体の周縁と通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備える。そして、通路形成体および弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けている。
【0027】
また、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域は、金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面である。
そして、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
【0028】
実施形態2の弁装置によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されている。また、樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
実施形態3の弁装置によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
【実施例】
【0029】
〔実施例1の構成〕
実施例1の弁装置1の構成を、図1および図2に基づいて説明する。
弁装置1は、流体の通路2を有する通路形成体3と、通路2に回転自在に収容されて通路2の開度を可変する板状の弁体4と、弁体4の周縁に装着されるシールリング5と、弁体4に与える回転トルクを発生する電動機6と、電動機6の出力軸7から弁体4の回転軸8に回転トルクを減速して伝達する減速機構9と、電動機6への通電を制御して弁体4の動作を制御する制御手段10と、弁体4の回転角を検出して制御手段10に出力する回転角センサ11とを備える。
【0030】
そして、弁装置1は、例えば、内燃機関から排気される排気ガスの一部を吸気側に再循環するEGR装置において、流体としての排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置として採用されている。
【0031】
通路形成体3は、排気ガスを再循環するための全ての通路2の内の一部を形成するものであり(以下、通路形成体3をノズル3と呼ぶ。)、ノズル3により形成される通路2の一部に弁体4が収容されている(以下、通路2という場合、特に断らない限りノズル3により形成される部分を示すものとする。)。また、ノズル3は、弁装置1のハウジング14とは別体であり、排気ガスに含まれる水分等に対する耐食性の点から、例えば、ステンレス鋼を素材として設けられている。
【0032】
弁体4は、略円形板状のバタフライ弁であり、弁体4の回転軸8は、弁体4の面方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態で弁体4に溶接等で固定されている。そして、弁体4は、回転することにより、通路2の開口面積に相当する開度を全閉から全開の範囲で可変する。
【0033】
ここで、全閉とは、弁体4の周縁と通路2の壁15との間の隙間が最小となる開度であり、仮に、弁体4の周縁にシールリング5を配さない場合に通路2を通る排気ガスの流量が最小となる開度である。また、全開とは、通路2を通る排気ガスの流量が最大となる開度である。
【0034】
なお、弁体4も、水分等に対する耐食性の点からステンレス鋼を素材として設けられている。
また、回転軸8は、メタル軸受16、オイルシール17およびボールベアリング18を介してハウジング14に、回転自在に支持されている。
【0035】
シールリング5は、弁体4の周縁と通路2の壁15との間を封鎖するものであり、C字状に設けられて弁体4の周縁に設けられた環状の溝20に嵌まっている。そして、シールリング5は、自身の周方向に対向する2つの端面により周方向隙間(合口隙間)21を形成するとともに、溝20の底面22と自身の内周縁との間に径方向の隙間(溝内隙間)23を形成しながら弁体4とともに回転する。
【0036】
また、シールリング5は、全閉のときに、壁15に環状に当接して合口隙間21および溝内隙間23が最も縮まるように弾性変形している。このとき、シールリング5は、自身の張力によって壁15に当接するとともに通路2の上流側から作用する排気ガスの圧力によって溝20の側面24に当接することで、弁体4の周縁と壁15との間を封鎖している。
なお、シールリング5も、水分等に対する耐食性の点からステンレス鋼を素材として設けられている。
【0037】
電動機6は、ブラシレスDCモータ等の周知の回転電機であり、例えば、電機子コイルへの通電が制御されて、出力する回転トルクを可変する。
減速機構9は、電動機6の出力軸7に固定される小ギヤ26と、弁体4の回転軸8に固定される大ギヤ27と、小ギヤ26および大ギヤ27の両方に噛み合って回転する中間ギヤ28とを有し、中間ギヤ28は、小ギヤ26と噛み合う大径ギヤ部29と、大ギヤ27と噛み合う小径ギヤ部30とを同軸的に有する。
【0038】
制御手段10は、制御処理、演算処理を行うCPU、各種プログラムや各種データを保存する記憶装置、入力回路、出力回路等の機能を含んで構成される周知構造のマイクロコンピュータであり、回転角センサ11およびその他の各種センサから入力されるパラメータに応じて、通路2の開度や弁体4の回転角を目標値に制御する。
【0039】
すなわち、制御手段10は、例えば、内燃機関の運転状態に応じて回転角の目標値を算出するとともに、回転角の現在値と目標値との差分に応じて電動機6への通電量等を制御して回転角の現在値を目標値に略一致させる。
【0040】
回転角センサ11は、例えば、回転軸8に固定された永久磁石等の磁束発生手段と、磁束発生手段が発生する磁束を検出するホールIC等の磁束検出手段とからなる周知構造を有するものである。
【0041】
以上の構成により、弁装置1は、電動機6への通電を制御することで、内燃機関の運転状態に応じて通路2の開度を操作し、排気ガスの循環量を可変している。
ここで、弁体4が、全閉の回転角(全閉角)から全開の回転角(全開角)まで、開側に回転していくときのシールリング5の状態の推移について、図3を参照しながら説明する。
【0042】
まず、全閉角から開側に回転していくと、シールリング5は、合口隙間21および溝内隙間23を広げながら自身の外周縁の全周において壁15との当接を保ち、弁体4の周縁と壁15との間の封鎖を維持し続ける。やがて、シールリング5は、弁体4の周縁と壁15との間を封鎖しない開放状態との境界角(第1境界角)に到達し、外周縁が部分的に壁15と当接しなくなる。
【0043】
さらに、第1境界角よりも開側に回転していくと、シールリング5は、外周縁において壁15と当接しない部分を拡大しながら張力を弱めていき、同時に、合口隙間21および溝内隙間23を広げ続ける。やがて、シールリング5は、溝20に嵌まった状態で張力を有さずに自在に動くことができるフリー状態との境界角(第2境界角)に到達する。
【0044】
そして、第2境界角よりも開側の回転角において、シールリング5は、フリー状態を保ちながら合口隙間21および溝内隙間23を第2境界角における数値以上に広げることなく、全開角まで回転する。
【0045】
以上により、弁体4の回転角と排気ガスの循環量とは図4のような相関を示す。
すなわち、回転角が全閉角から第1境界角の間では、シールリング5によって弁体4の周縁と壁15との間の封鎖が維持されるので循環量はゼロに略一致している。そして、回転角が第1境界角以上の範囲では、回転角の開側への移行に応じて循環量が増加していく。
【0046】
そして、弁装置1によれば、弁体4がシールリング5のフリー状態から閉側に回転する場合、シールリング5は、合口隙間21および溝内隙間23が大きく広がった径大の状態で壁15に衝突し、衝突後、合口隙間21および溝内隙間23を縮めるように弾性変形していく。
【0047】
〔実施例1の特徴〕
実施例1の弁装置1の特徴を、図5に基づいて説明する。
弁装置1によれば、ノズル3および弁体4は、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材33、34を材料として設けられている。また、潤滑剤は、オイルを含む液体状である。なお、ステンレス粒子の焼結および焼結体への潤滑剤の含浸は周知の方法により行なわれる。
【0048】
また、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域は、素材33、34を切削することにより形成される切削面である。
つまり、ノズル3では、通路2の壁15の壁面の内、少なくともシールリング5の衝突を受ける衝突領域や、シールリング5が摺動する摺動領域を含む領域が切削面により構成される。また、弁体4では、溝20の底面22および側面24が切削面により構成される。
【0049】
〔実施例1の効果〕
実施例1の弁装置1によれば、ノズル3および弁体4は、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材33、34を材料として設けられている。
これにより、閉弁時のシールリング5と壁15との衝突、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0050】
また、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域は、素材33、34を切削することにより形成される切削面である。
切削加工等を施す前の素材33、34の表面は密度が高く、表面から内部に向かって遠ざかるほど、密度が下がって粗くなる。このため、潤滑剤の露出量は、切削加工等を施す前から表面であった面部分よりも、切削により表面となった切削面の方が多い。
【0051】
したがって、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域を切削面によって構成することで、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を、さらに抑制することができる。
【0052】
また、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
これにより、シールリング5と壁15との衝突時には、ノズル3および弁体4に含浸された液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリング5と壁15との間、およびシールリング5と溝20の側面24との間に積極的に浸入して衝撃を緩和する。
【0053】
同様に、衝突後のシールリング5と壁15との摺動時にも、液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリング5と壁15との間に積極的に浸入して摺動摩擦を緩和する。
このため、より一層、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0054】
〔実施例2〕
実施例2の弁装置1によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されており、この樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
樹脂粉末を液体状の潤滑剤に含ませることによって、シールリング5と壁15との間の摩擦係数を下げることができるので、より一層、シールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、様々な高分子の中でも摩擦係数を下げる効果が大きい。このため、より一層、シールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0055】
〔実施例3〕
実施例3の弁装置1によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
ワックスは、暖められて軟化したり、液化したりするので、潤滑剤にワックスを含む固体状のものを採用しても、液体状の潤滑剤を含浸させる場合と同等の磨耗抑制効果を得ることができる。
【0056】
〔変形例〕
弁装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例1、2の弁装置1によれば潤滑剤はオイルを含む液体状であり、実施例3の弁装置1によれば潤滑剤はワックスを含む固体状であったが、液体状の潤滑剤と固体状の潤滑剤とを併用してもよい。
また、実施例2の弁装置1によれば、潤滑剤にはポリテトラフルオロエチレンの粉末が混合されていたが、混合すべき樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンに限定されず、他の高分子の樹脂粉末でもよい。
【0057】
また、実施例1〜3の弁装置1によれば、弁体4は、回転軸8が一方の面にのみ固定されている片軸のバタフライ弁であったが、図6に示すように、両方の面から回転軸8が正反対の方向に伸びる両軸のバタフライ弁を弁体4として採用してもよい。
【0058】
また、実施例1〜3の弁装置1によれば、弁体4は、回転軸8が弁体4の面方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態で弁体4に固定されている斜めのバタフライ弁であったが、図7に示すように、回転軸8が弁体4の片方の面に面方向と平行に固定されたオフセット弁を弁体4として採用してもよい。
【0059】
さらに、実施例1〜3の弁装置1は、排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置に採用されていたが、他の流体の流量を可変するための弁装置に採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 弁装置
2 通路
3 ノズル(通路形成体)
4 弁体
5 シールリング
15 壁(通路の壁)
33 素材(金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたもの)
34 素材(金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたもの)
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関するものであり、弁体の周縁にシールリングが装着されているものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から、弁装置100では、図8に示すように、弁体101の周縁にシールリング102が装着されているものが公知であり、例えば、内燃機関から排気される排気ガスの一部を吸気側に再循環するEGR装置において、排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置として採用されている
【0003】
弁装置100は、流体の通路103を有する通路形成体104と、通路103に回転自在に収容されて通路103の開度を可変する板状の弁体101と、弁体101の周縁に装着されるシールリング102とを備える。
【0004】
ここで、シールリング102は、弁体101の周縁と通路103の壁105との間を封鎖するものであって、図9に示すようにC字状に設けられ、弁体101の周縁に設けられた環状の溝106に嵌まっている(例えば、特許文献1参照)。そして、シールリング102は、自身の周方向に対向する2つの端面により周方向隙間(以下、合口隙間と呼ぶ)107を形成するとともに、溝106の底面と自身の内周縁との間に径方向の隙間(以下、溝内隙間と呼ぶ。)108を形成しながら弁体101とともに回転する。
【0005】
また、シールリング102は、全閉のときに、壁105に環状に当接して合口隙間107および溝内隙間108が最も縮まるように弾性変形している。このとき、シールリング102は、自身の張力によって壁105に当接するとともに通路103の上流側から作用する排気ガスの圧力によって溝106の側面109に当接することで、弁体101の周縁と壁105との間を封鎖している。
【0006】
ここで、弁体101が、全閉の回転角(以下、全閉角と呼ぶ。)から全開の回転角(以下、全開角と呼ぶ。)まで、開側に回転していくときのシールリング102の状態の推移について図10を参照しながら説明する。
【0007】
まず、全閉角から開側に回転していくと、シールリング102は、合口隙間107および溝内隙間108を広げながら自身の外周縁の全周において壁105との当接を保ち、弁体101の周縁と壁105との間の封鎖を維持し続ける。やがて、シールリング102は、弁体101の周縁と壁105との間を封鎖しない開放状態との境界角(以下、第1境界角と呼ぶ。)に到達し、外周縁が部分的に壁105と当接しなくなる。
【0008】
さらに、第1境界角よりも開側に回転していくと、シールリング102は、外周縁において壁105と当接しない部分を拡大しながら張力を弱めていき、同時に、合口隙間107および溝内隙間108を広げ続ける。やがて、シールリング102は、溝106に嵌まった状態で張力を有さずに自在に動くことができるフリー状態との境界角(以下、第2境界角と呼ぶ。)に到達する。
【0009】
そして、第2境界角よりも開側の回転角において、シールリング102は、フリー状態を保ちながら合口隙間107および溝内隙間108を第2境界角における数値以上に広げることなく、全開角まで回転する。
【0010】
以上により、弁体101の回転角と排気ガスの循環量とは図11のような相関を示す。
すなわち、回転角が全閉角から第1境界角の範囲にある間では、シールリング102によって弁体101の周縁と壁105との間の封鎖が維持されるので循環量はゼロに略一致している。そして、第1境界角以上の範囲では、回転角の開側への移行に応じて循環量が増加していく。
【0011】
ところで、弁装置100によれば、弁体101がシールリング102のフリー状態から閉側に回転する場合、シールリング102は、合口隙間107および溝内隙間108が大きく広がった径大の状態で壁105に衝突し、衝突後、合口隙間107および溝内隙間108を縮めるように弾性変形していく。
【0012】
このため、衝突によって、シールリング102と壁105との間、およびシールリング102と側面109との間に衝撃が発生し、衝撃発生部位において磨耗の進行が著しくなる。さらに、シールリング102と壁105との間では、衝突後も、シールリング102が張力を増しながら壁105を摺動するので、摺動摩擦による磨耗の進行も著しい。
【0013】
なお、特許文献2には、流路形成体、弁体およびシールリングを全て窒化珪素質の焼結体により設け、さらにシールリングに関してはポリテトラフルオロエチレンのコーティングを施して磨耗を抑制する構成が開示されている。しかし、セラミックを素材としているために耐衝撃性が低く、焼結助剤の添加によって強度アップしても衝撃による欠損は回避できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−285311号公報
【特許文献2】特開平7−269718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、弁体の周縁にシールリングが装着されている弁装置において、閉弁時のシールリングと通路の壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと通路の壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、弁装置は、流体の通路を有する通路形成体と、通路に回転自在に収容されて通路の開度を可変する板状の弁体と、弁体の周縁に装着されて弁体とともに回転し、通路の開度が全閉のときに、通路の壁に環状に当接して弁体の周縁と通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備える。そして、通路形成体および弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けている。
【0017】
これにより、閉弁時のシールリングと壁との衝突、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0018】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域は、金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面である。
切削加工等を施す前の焼結体の表面は密度が高く、表面から内部に向かって遠ざかるほど、密度が下がって粗くなる。このため、潤滑剤の露出量は、切削加工等を施す前から表面であった面部分よりも、切削により表面となった切削面の方が多い。
【0019】
したがって、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域を切削面により構成することで、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を、さらに抑制することができる。
【0020】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段によれば、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
これにより、シールリングと壁との衝突時には、通路形成体および弁体に含浸された液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリングと壁との間、およびシールリングと溝の側面との間に積極的に浸入して衝撃を緩和する。
【0021】
同様に、衝突後のシールリングと壁との摺動時にも、液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリングと壁との間に積極的に浸入して摺動摩擦を緩和する。
このため、より一層、シールリングと壁との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0022】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されている。
これにより、シールリングと壁との間の摩擦係数を下げることができるので、より一層、シールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0023】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段によれば、樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
ポリテトラフルオロエチレンは、様々な高分子の中でも摩擦係数を下げる効果が大きい。このため、より一層、シールリングと壁との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0024】
〔請求項6の手段〕
請求項6の手段によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
この手段は、液体状の潤滑剤以外の潤滑剤の一例を示すものであり、請求項1〜5と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は弁装置の構成図であり、(b)は(a)のA−A断面図である(実施例1)。
【図2】(a)はシールリングの平面図であり、(b)はシールリングによる弁体周縁の封鎖状態を示す説明図である(実施例1)。
【図3】(a)と(a´)とは全閉角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(b)と(b´)とは第1境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(c)と(c´)とは第2境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(d)と(d´)とは全開角におけるシールリングの状態を示す説明図である(実施例1)。
【図4】弁装置における回転角と流量(循環量)との相関図である(実施例1)。
【図5】(a)はノズルおよび弁体の素材を示す説明図であり、(b)はノズルおよび弁体を示す説明図である(実施例1)。
【図6】両軸斜めのバタフライ弁を示す説明図である(変形例)。
【図7】オフセット弁を示す説明図である(変形例)。
【図8】(a)は弁装置の要部断面図であり、(b)は(a)のB−B断面図である(従来例)。
【図9】(a)はシールリングの平面図であり、(b)はシールリングによる弁体周縁の封鎖状態を示す説明図である(従来例)。
【図10】(a)と(a´)とは全閉角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(b)と(b´)とは第1境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(c)と(c´)とは第2境界角におけるシールリングの状態を示す説明図であり、(d)と(d´)とは全開角におけるシールリングの状態を示す説明図である(従来例)。
【図11】弁装置における回転角と流量(循環量)との相関図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態1の弁装置は、流体の通路を有する通路形成体と、通路に回転自在に収容されて通路の開度を可変する板状の弁体と、弁体の周縁に装着されて弁体とともに回転し、通路の開度が全閉のときに、通路の壁に環状に当接して弁体の周縁と通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備える。そして、通路形成体および弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けている。
【0027】
また、通路形成体および弁体の表面の内、シールリングの当接を受ける領域は、金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面である。
そして、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
【0028】
実施形態2の弁装置によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されている。また、樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
実施形態3の弁装置によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
【実施例】
【0029】
〔実施例1の構成〕
実施例1の弁装置1の構成を、図1および図2に基づいて説明する。
弁装置1は、流体の通路2を有する通路形成体3と、通路2に回転自在に収容されて通路2の開度を可変する板状の弁体4と、弁体4の周縁に装着されるシールリング5と、弁体4に与える回転トルクを発生する電動機6と、電動機6の出力軸7から弁体4の回転軸8に回転トルクを減速して伝達する減速機構9と、電動機6への通電を制御して弁体4の動作を制御する制御手段10と、弁体4の回転角を検出して制御手段10に出力する回転角センサ11とを備える。
【0030】
そして、弁装置1は、例えば、内燃機関から排気される排気ガスの一部を吸気側に再循環するEGR装置において、流体としての排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置として採用されている。
【0031】
通路形成体3は、排気ガスを再循環するための全ての通路2の内の一部を形成するものであり(以下、通路形成体3をノズル3と呼ぶ。)、ノズル3により形成される通路2の一部に弁体4が収容されている(以下、通路2という場合、特に断らない限りノズル3により形成される部分を示すものとする。)。また、ノズル3は、弁装置1のハウジング14とは別体であり、排気ガスに含まれる水分等に対する耐食性の点から、例えば、ステンレス鋼を素材として設けられている。
【0032】
弁体4は、略円形板状のバタフライ弁であり、弁体4の回転軸8は、弁体4の面方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態で弁体4に溶接等で固定されている。そして、弁体4は、回転することにより、通路2の開口面積に相当する開度を全閉から全開の範囲で可変する。
【0033】
ここで、全閉とは、弁体4の周縁と通路2の壁15との間の隙間が最小となる開度であり、仮に、弁体4の周縁にシールリング5を配さない場合に通路2を通る排気ガスの流量が最小となる開度である。また、全開とは、通路2を通る排気ガスの流量が最大となる開度である。
【0034】
なお、弁体4も、水分等に対する耐食性の点からステンレス鋼を素材として設けられている。
また、回転軸8は、メタル軸受16、オイルシール17およびボールベアリング18を介してハウジング14に、回転自在に支持されている。
【0035】
シールリング5は、弁体4の周縁と通路2の壁15との間を封鎖するものであり、C字状に設けられて弁体4の周縁に設けられた環状の溝20に嵌まっている。そして、シールリング5は、自身の周方向に対向する2つの端面により周方向隙間(合口隙間)21を形成するとともに、溝20の底面22と自身の内周縁との間に径方向の隙間(溝内隙間)23を形成しながら弁体4とともに回転する。
【0036】
また、シールリング5は、全閉のときに、壁15に環状に当接して合口隙間21および溝内隙間23が最も縮まるように弾性変形している。このとき、シールリング5は、自身の張力によって壁15に当接するとともに通路2の上流側から作用する排気ガスの圧力によって溝20の側面24に当接することで、弁体4の周縁と壁15との間を封鎖している。
なお、シールリング5も、水分等に対する耐食性の点からステンレス鋼を素材として設けられている。
【0037】
電動機6は、ブラシレスDCモータ等の周知の回転電機であり、例えば、電機子コイルへの通電が制御されて、出力する回転トルクを可変する。
減速機構9は、電動機6の出力軸7に固定される小ギヤ26と、弁体4の回転軸8に固定される大ギヤ27と、小ギヤ26および大ギヤ27の両方に噛み合って回転する中間ギヤ28とを有し、中間ギヤ28は、小ギヤ26と噛み合う大径ギヤ部29と、大ギヤ27と噛み合う小径ギヤ部30とを同軸的に有する。
【0038】
制御手段10は、制御処理、演算処理を行うCPU、各種プログラムや各種データを保存する記憶装置、入力回路、出力回路等の機能を含んで構成される周知構造のマイクロコンピュータであり、回転角センサ11およびその他の各種センサから入力されるパラメータに応じて、通路2の開度や弁体4の回転角を目標値に制御する。
【0039】
すなわち、制御手段10は、例えば、内燃機関の運転状態に応じて回転角の目標値を算出するとともに、回転角の現在値と目標値との差分に応じて電動機6への通電量等を制御して回転角の現在値を目標値に略一致させる。
【0040】
回転角センサ11は、例えば、回転軸8に固定された永久磁石等の磁束発生手段と、磁束発生手段が発生する磁束を検出するホールIC等の磁束検出手段とからなる周知構造を有するものである。
【0041】
以上の構成により、弁装置1は、電動機6への通電を制御することで、内燃機関の運転状態に応じて通路2の開度を操作し、排気ガスの循環量を可変している。
ここで、弁体4が、全閉の回転角(全閉角)から全開の回転角(全開角)まで、開側に回転していくときのシールリング5の状態の推移について、図3を参照しながら説明する。
【0042】
まず、全閉角から開側に回転していくと、シールリング5は、合口隙間21および溝内隙間23を広げながら自身の外周縁の全周において壁15との当接を保ち、弁体4の周縁と壁15との間の封鎖を維持し続ける。やがて、シールリング5は、弁体4の周縁と壁15との間を封鎖しない開放状態との境界角(第1境界角)に到達し、外周縁が部分的に壁15と当接しなくなる。
【0043】
さらに、第1境界角よりも開側に回転していくと、シールリング5は、外周縁において壁15と当接しない部分を拡大しながら張力を弱めていき、同時に、合口隙間21および溝内隙間23を広げ続ける。やがて、シールリング5は、溝20に嵌まった状態で張力を有さずに自在に動くことができるフリー状態との境界角(第2境界角)に到達する。
【0044】
そして、第2境界角よりも開側の回転角において、シールリング5は、フリー状態を保ちながら合口隙間21および溝内隙間23を第2境界角における数値以上に広げることなく、全開角まで回転する。
【0045】
以上により、弁体4の回転角と排気ガスの循環量とは図4のような相関を示す。
すなわち、回転角が全閉角から第1境界角の間では、シールリング5によって弁体4の周縁と壁15との間の封鎖が維持されるので循環量はゼロに略一致している。そして、回転角が第1境界角以上の範囲では、回転角の開側への移行に応じて循環量が増加していく。
【0046】
そして、弁装置1によれば、弁体4がシールリング5のフリー状態から閉側に回転する場合、シールリング5は、合口隙間21および溝内隙間23が大きく広がった径大の状態で壁15に衝突し、衝突後、合口隙間21および溝内隙間23を縮めるように弾性変形していく。
【0047】
〔実施例1の特徴〕
実施例1の弁装置1の特徴を、図5に基づいて説明する。
弁装置1によれば、ノズル3および弁体4は、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材33、34を材料として設けられている。また、潤滑剤は、オイルを含む液体状である。なお、ステンレス粒子の焼結および焼結体への潤滑剤の含浸は周知の方法により行なわれる。
【0048】
また、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域は、素材33、34を切削することにより形成される切削面である。
つまり、ノズル3では、通路2の壁15の壁面の内、少なくともシールリング5の衝突を受ける衝突領域や、シールリング5が摺動する摺動領域を含む領域が切削面により構成される。また、弁体4では、溝20の底面22および側面24が切削面により構成される。
【0049】
〔実施例1の効果〕
実施例1の弁装置1によれば、ノズル3および弁体4は、それぞれ、ステンレス粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させた素材33、34を材料として設けられている。
これにより、閉弁時のシールリング5と壁15との衝突、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦が、潤滑剤の存在によって緩和される。このため、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0050】
また、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域は、素材33、34を切削することにより形成される切削面である。
切削加工等を施す前の素材33、34の表面は密度が高く、表面から内部に向かって遠ざかるほど、密度が下がって粗くなる。このため、潤滑剤の露出量は、切削加工等を施す前から表面であった面部分よりも、切削により表面となった切削面の方が多い。
【0051】
したがって、ノズル3および弁体4の表面の内、シールリング5の当接を受ける領域を切削面によって構成することで、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を、さらに抑制することができる。
【0052】
また、潤滑剤はオイルを含む液体状である。
これにより、シールリング5と壁15との衝突時には、ノズル3および弁体4に含浸された液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリング5と壁15との間、およびシールリング5と溝20の側面24との間に積極的に浸入して衝撃を緩和する。
【0053】
同様に、衝突後のシールリング5と壁15との摺動時にも、液体状の潤滑剤が、弾性潤滑理論により、シールリング5と壁15との間に積極的に浸入して摺動摩擦を緩和する。
このため、より一層、シールリング5と壁15との衝突による磨耗の進行、および、衝突後のシールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0054】
〔実施例2〕
実施例2の弁装置1によれば、潤滑剤には樹脂粉末が混合されており、この樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末である。
樹脂粉末を液体状の潤滑剤に含ませることによって、シールリング5と壁15との間の摩擦係数を下げることができるので、より一層、シールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。また、ポリテトラフルオロエチレンは、様々な高分子の中でも摩擦係数を下げる効果が大きい。このため、より一層、シールリング5と壁15との摺動摩擦による磨耗の進行を抑制することができる。
【0055】
〔実施例3〕
実施例3の弁装置1によれば、潤滑剤はワックスを含む固体状である。
ワックスは、暖められて軟化したり、液化したりするので、潤滑剤にワックスを含む固体状のものを採用しても、液体状の潤滑剤を含浸させる場合と同等の磨耗抑制効果を得ることができる。
【0056】
〔変形例〕
弁装置1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例1、2の弁装置1によれば潤滑剤はオイルを含む液体状であり、実施例3の弁装置1によれば潤滑剤はワックスを含む固体状であったが、液体状の潤滑剤と固体状の潤滑剤とを併用してもよい。
また、実施例2の弁装置1によれば、潤滑剤にはポリテトラフルオロエチレンの粉末が混合されていたが、混合すべき樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンに限定されず、他の高分子の樹脂粉末でもよい。
【0057】
また、実施例1〜3の弁装置1によれば、弁体4は、回転軸8が一方の面にのみ固定されている片軸のバタフライ弁であったが、図6に示すように、両方の面から回転軸8が正反対の方向に伸びる両軸のバタフライ弁を弁体4として採用してもよい。
【0058】
また、実施例1〜3の弁装置1によれば、弁体4は、回転軸8が弁体4の面方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態で弁体4に固定されている斜めのバタフライ弁であったが、図7に示すように、回転軸8が弁体4の片方の面に面方向と平行に固定されたオフセット弁を弁体4として採用してもよい。
【0059】
さらに、実施例1〜3の弁装置1は、排気ガスの循環量を可変するためのEGR弁装置に採用されていたが、他の流体の流量を可変するための弁装置に採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 弁装置
2 通路
3 ノズル(通路形成体)
4 弁体
5 シールリング
15 壁(通路の壁)
33 素材(金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたもの)
34 素材(金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたもの)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の通路を有する通路形成体と、
前記通路に回転自在に収容されて前記通路の開度を可変する板状の弁体と、
この弁体の周縁に装着されて前記弁体とともに回転し、前記通路の開度が全閉のときに、前記通路の壁に環状に当接して前記弁体の周縁と前記通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備え、
前記通路形成体および前記弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弁装置において、
前記通路形成体および前記弁体の表面の内、前記シールリングの当接を受ける領域は、前記金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面であることを特徴とする弁装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弁装置において、
前記潤滑剤はオイルを含む液体状であることを特徴とする弁装置。
【請求項4】
請求項3に記載の弁装置において、
前記潤滑剤には樹脂粉末が混合されていることを特徴とする弁装置。
【請求項5】
請求項4に記載の弁装置において、
前記樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末であることを特徴とする弁装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の弁装置において、
前記潤滑剤はワックスを含む固体状であることを特徴とする弁装置。
【請求項1】
流体の通路を有する通路形成体と、
前記通路に回転自在に収容されて前記通路の開度を可変する板状の弁体と、
この弁体の周縁に装着されて前記弁体とともに回転し、前記通路の開度が全閉のときに、前記通路の壁に環状に当接して前記弁体の周縁と前記通路の壁との間を封鎖するシールリングとを備え、
前記通路形成体および前記弁体は、金属粒子の焼結体に潤滑剤を含浸させたものを材料として設けていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弁装置において、
前記通路形成体および前記弁体の表面の内、前記シールリングの当接を受ける領域は、前記金属粒子の焼結体を切削することにより形成される切削面であることを特徴とする弁装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弁装置において、
前記潤滑剤はオイルを含む液体状であることを特徴とする弁装置。
【請求項4】
請求項3に記載の弁装置において、
前記潤滑剤には樹脂粉末が混合されていることを特徴とする弁装置。
【請求項5】
請求項4に記載の弁装置において、
前記樹脂粉末はポリテトラフルオロエチレンの粉末であることを特徴とする弁装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の弁装置において、
前記潤滑剤はワックスを含む固体状であることを特徴とする弁装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−202537(P2012−202537A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70322(P2011−70322)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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