説明

引抜プラグ及び引抜加工装置

【課題】管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができる引抜プラグを提供する。
【解決手段】引抜プラグ30は、管状ワーク40の中空部40c内に配置されるとともにワーク40の内表面40bを加工するプラグ本体32を備える。プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33に、引抜方向Nと平行に延びた溝条部35が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状ワークを引抜加工する際に用いられる引抜プラグ、該引抜プラグを備えた引抜加工装置、管状ワークの引抜加工方法、及び引抜管に関する。
【0002】
なお本明細書及び特許請求の範囲において、「アルミニウム」の語は、特に示さない限り順アルミニウム及びアルミニウム合金の両方を含む意味で用いる。また、「上流」及び「下流」とはそれぞれ管状ワークの引抜方向の上流及び下流を意味する。
【背景技術】
【0003】
従来、外表面の表面粗さRyが1.0〜3.0μm程度のアルミニウム管は、例えば、アルミニウム素材(例:アルミニウムビレット)を順次、押出加工及び引抜加工することにより製造されていた。こうして得られた引抜管は「ED(Extrusion Drawing)管」と呼ばれている。この引抜管は、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に用いられている。
【0004】
このような引抜管を得るための引抜加工方法として、管状ワークの中空部内に引抜プラグを配置して引抜加工を行う方法、即ちプラグ引き方式を採用した方法が知られている。例えば、特開昭63−168219号公報は、引抜プラグのプラグ本体の表面に設けた突起部によって引抜管の内表面に溝を引抜方向に連続して形成する引抜加工方法を開示している(特許文献1)。また、特開平9−225522号公報は、引抜プラグとしてのフローティングプラグ(浮きプラグ)の表面の所定部位に周方向に延びたくびれ部を設け、このフローティングプラグを用いて管状ワークを引抜加工することにより、フローティングプラグの位置ずれを防止する方法を開示している(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭63−168219号公報
【特許文献2】特開平9−225522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、引抜管は様々な用途に用いられるものであるが、例えば上述した感光ドラム基体に用いられる引抜管は、その外表面が鏡面状態であることが望ましい。そこで従来では、管の外表面を切削加工することにより、管の外表面を鏡面状態にしていた。このように外表面が切削加工された引抜管は「切削管」と呼ばれている。一方、外表面が切削加工されていない引抜管は「無切削管」と呼ばれている。
【0006】
切削管は、管の外表面を切削加工する必要があるため、製造コストが高くつくという問題があった。したがって、製造コストを低くするためには、切削管ではなく無切削管を用いることが望ましい。
【0007】
しかしながら、無切削管は、その外表面に引抜加工時に生じた凹状欠陥としてのオイルピットが多数存在している。そのため、表面粗さRyが例えば1.0μm以下といった高平滑な外表面を有する無切削管を得ることは非常に困難であった。
【0008】
そこで本発明者らは、引抜加工においてオイルピットが生じる原因について鋭意研究したところ、次のような知見を得た。この知見について図8及び9を参照して以下に説明する。
【0009】
図8〜10は、従来の引抜加工装置110によって管状ワーク40を引抜加工する方法を説明する図である。この引抜加工装置110は、図8及び9に示すように、引抜ダイス120と引抜プラグ130とを含む引抜加工工具111を具備しており、更に、牽引装置112、潤滑油供給装置113などを具備している。引抜ダイス120は、ワーク40の外表面40aを加工するものである。引抜プラグ130は、ワーク40の内表面40bを加工するものである。
【0010】
引抜プラグ130のプラグ本体132の形状は略玉形又は略球状である。そして、プラグ本体132は、支持棒131の先端部に設けられるとともに、ワーク40の中空部40c内に配置されている。図9に示すように、このプラグ本体132の表面には、プラグアプローチ部103Aとプラグベアリング部103Bとが設けられている。プラグアプローチ部103Aとプラグベアリング部103Bとの間の角部103Cは丸く面取り加工されている。プラグベアリング部103Bは、ワーク40の内表面40b及び内径寸法を仕上げ加工する部位である。。
【0011】
引抜ダイス120のダイス孔121の周面において、ダイスアプローチ部101Aの下流端に縦断面円弧状の曲面部101Cが滑らかに連なって形成されており、さらに、ダイスベアリング部102Bの上流端にこの曲面部101Cが滑らかに連なって形成されている。ダイスアプローチ部101Aと曲面部101Cは、ワーク41の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス120のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する曲面部101Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。ダイスベアリング部102Bはダイス軸Xと略平行に形成されている。102Eは、引抜ダイス120のリリーフ部である。なお図8及び9では、ワーク40は他の部材と区別し易くするためドットハッチングで示している。
【0012】
牽引装置112は、ワーク40の先端部の口付け部41dをチャックするチャック部112aと、チャック部112aに引抜方向Nの牽引力を付与する駆動源112bとを備えている。
【0013】
この引抜加工装置110を用いて管状ワーク40を引抜加工する場合、ワーク40は、まずその外表面40aに潤滑油供給装置113により引抜加工用潤滑油114が付着される。そしてこの状態で、ワーク40は、引抜ダイス120のダイスアプローチ部101A又は曲面部101Cに接触して曲面部101Cにより縮径加工されながら曲面部101Cからダイスベアリング部102Bへ案内される。そして、該ワーク40がダイスベアリング部102Bとプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部102B及びプラグベアリング部103Bによって同時に仕上げ加工される。この仕上げ加工のとき、ワーク40はダイスベアリング部102Bとプラグベアリング部103Bとにより加圧されて、ワーク40の肉厚が減少する。このようなワーク40の材料流動を経て引抜管41が得られる。
【0014】
このようなワーク40の材料流動において、従来では、一般に、引抜加工の教科書に記載されているように、引抜ダイス120の曲面部101Cに接触したワーク40は、曲面部101Cに接触した状態のままで曲面部101Cからダイスベアリング部102Bへ案内されるものと考えられていた。しかしながら、実際の引抜加工ではそのようなワーク40の材料流動は生じなかった。すなわち、ワーク40が引抜ダイス120のダイス孔121内に挿入される前では、ワーク40の外表面40a及び内表面40bは、図10Aに示すように、共に円形状である。そして、引抜ダイス120の曲面部101Cに接触したワーク40は、図9に示すように、曲面部101Cからダイスベアリング部102Bへ案内される際に曲面部101Cから一旦離れ、そしてダイスベアリング部102Bに再接触していた。そのため、ワーク40が曲面部101Cからダイスベアリング部102Bへ移動する途中で、ワーク40が過度に縮径加工される。これにより、図10Bに示すように、ワーク40の材料がワーク40の長さ方向と更にその周方向とに流動して、ワーク40の材料がその長さ方向と周方向とに余剰した状態になる。その結果、ワーク40の外表面40aが縦断面円弧状に凹んで該外表面40aに激しい微細な凹凸が多数発生する。この激しい凹凸の凹部に潤滑油114が溜まる。そしてこの状態のままでワーク40がダイスベアリング部102Bとプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部102B及びプラグベアリング部103Bにより加圧され、その結果、引抜管41の外表面41aに多数の微細なオイルピット(図示せず)が発生する。このような多数のオイルピットが原因で引抜管41の外表面41aが粗くなる。なお図10Bでは、ワーク40の外表面40aに激しい凹凸が発生することを理解し易くするため、激しい凹凸を誇張して図示している。
【0015】
以上のような知見を発明者らは得ることができた。
【0016】
本発明は、上記技術背景と発明者らが得た上記知見とに基づいてなされたもので、その目的は、管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができる引抜プラグ、該引抜プラグを備えた引抜加工装置、引抜プラグを用いた管状ワークの引抜加工方法、及び引抜プラグを用いて製造された引抜管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下の手段を提供する。
【0018】
[1] 管状ワークの中空部内に配置されるとともに前記ワークの内表面を加工するプラグ本体を備えた引抜プラグであって、
プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、引抜方向と平行に延びた溝条部が設けられていることを特徴とする引抜プラグ。
【0019】
[2] プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部は、プラグベアリング部を含み、
溝条部の下流端の位置が、プラグ本体のプラグベアリング部の下流端の位置に対して同じ位置か又は上流側に配置している前項1記載の引抜プラグ。
【0020】
[3] プラグ本体のプラグベアリング部の長さが、管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスのダイスベアリング部の長さよりも短く設定されている前項2記載の引抜プラグ。
【0021】
[4] 溝条部の少なくとも下流側の部分の幅が、引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少している前項1〜3のいずれかに記載の引抜プラグ。
【0022】
[5] 溝条部の少なくとも下流側の部分の深さが、引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少している前項1〜4のいずれかに記載の引抜プラグ。
【0023】
[6] 溝条部の下流端の幅が0に設定されている前項4又は5記載の引抜プラグ。
【0024】
[7] 溝条部の下流端の深さが0に設定されている前項4〜6のいずれかに記載の引抜プラグ。
【0025】
[8] 溝条部の幅方向の両側縁部の角部がそれぞれ丸く形成されている前項1〜7のいずれかに記載の引抜プラグ。
【0026】
[9] 溝条部は、プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、プラグ本体の周方向に間隔をおいて複数個設けられている前項1〜8のいずれかに記載の引抜プラグ。
【0027】
[10] 管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスと、
前項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグとを具備していることを特徴とする引抜加工装置。
【0028】
[11] 引抜ダイスは、
ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに、第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
を備えており、
引抜プラグのプラグ本体のプラグベアリング部は、ダイスベアリング部に対応する位置に配置される前項10記載の引抜加工装置。
【0029】
[12] 管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に前項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークを引抜加工することを特徴とする管状ワークの引抜加工方法。
【0030】
[13] 管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に前項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークを引抜加工することを特徴とする管の製造方法。
【0031】
[14] 管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に前項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークが引抜加工されることにより、製造された引抜管。
【発明の効果】
【0032】
本発明は以下の効果を奏する。
【0033】
[1]の発明では、プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、引抜方向と平行に延びた溝条部が設けられているので、ワークが縮径する途中でワークの余剰材料が溝条部内へ移動する。これにより、ワークの外表面に生じる凹凸が減少する。そのため、この凹凸の凹部に潤滑油が溜まり難くなる。その結果、引抜管の外表面にオイルピットが発生するのを抑制することができ、すなわちワークの外表面を高平滑面に加工することができる。
【0034】
[2]の発明では、溝条部の下流端の位置が、プラグ本体のプラグベアリング部の下流端の位置に対して同じ位置か又は上流側に配置しているので、ワークの内周面に溝条部による突条部が形成されるのを防止することができる。そのため、ワークの内表面を平滑面に加工することができる。
【0035】
[3]の発明では、プラグ本体のプラグベアリング部の長さが引抜ダイスのダイスベアリング部の長さよりも短く設定されているので、プラグベアリング部とダイスベアリング部との両部位からワークにその外表面を高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に加えることができる。さらに、このプラグ本体は、ダイスベアリング部よりも長いプラグベアリング部を有する長芯プラグに比べて、ワークの内表面とプラグベアリング部との接触面積が小さいので、ワークの断管を確実に防止することができる。
【0036】
[4]の発明では、溝条部の少なくとも下流側の部分の幅が引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少しているので、ワークの余剰材料が溝条部内へ移動しながら引抜方向の下流側へスムーズに移動する。これにより、ワークの内表面を確実に平滑面に加工することができる。
【0037】
[5]の発明では、溝条部の少なくとも下流側の部分の深さが引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少しているので、ワークの余剰材料が溝条部内へ移動しながら引抜方向の下流側へスムーズに移動する。これにより、ワークの内表面を確実に平滑面に加工することができる。
【0038】
[6]の発明では、溝条部の下流端の幅が0に設定されているので、ワークの内表面を更に確実に平滑面に加工することができる。
【0039】
[7]の発明では、溝条部の下流端の深さが0に設定されているので、ワークの内表面を更に確実に平滑面に加工することができる。
【0040】
[8]の発明では、溝条部の幅方向の両側縁部の角部がそれぞれ丸く形成されているので、ワークの余剰材料が溝条部内へスムーズに移動するようになるし、ワークの内表面が角部に接触することによるワークの内表面の傷の発生を防止することができる。これにより、ワークの内表面を確実に平滑面に加工することができる。
【0041】
[9]の発明では、溝条部は、プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、プラグ本体の周方向に間隔をおいて複数個設けられているので、ワークの余剰材料が溝条部内に収容される収容量が増加する。これにより、ワークの外表面に生じる凹凸を確実に減少させることができる。その結果、引抜管の外表面にオイルピットが発生するのを確実に抑制することができ、すなわちワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる。
【0042】
[10]の発明では、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる引抜加工装置を提供できる。
【0043】
[11]の発明では、管状ワークは引抜ダイスの第1曲面部により縮径加工されながら、案内部に向かって誘導されるように第1曲面部から離れる。そして、該ワークは案内部に再接触して案内部により縮径加工されながら案内部からダイスベアリング部へ案内されて、ワークがダイスベアリング部と引抜プラグのプラグベアリング部との間を通過する。これにより、ワークの内表面及び外表面がそれぞれ加工される。
【0044】
上記のようなワークの材料流動において、引抜ダイスのダイスベアリング部は第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側に配置されているので、ワークが第1曲面部からダイスベアリング部へと移動する間にワークが過度に縮径加工されるのを防止することができる。
【0045】
さらに、ダイスベアリング部の上流端に案内部の第2曲面部が滑らかに連なっているので、案内部に再接触したワークはこの第2曲面部を通ってダイスベアリング部に向かって円滑に移動することができる。
【0046】
以上の効果が相乗的に作用することにより、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる。
【0047】
[12]の発明では、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる。
【0048】
[13]の発明では、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる。管としては、感光ドラム基体を始め、その他の用途に用いられる管が挙げられる。
【0049】
[14]の発明では、高平滑な外表面を有する引抜管を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0051】
図1〜4Cは、本発明の第1実施形態に係る引抜プラグを備えた引抜加工装置を説明する図である。図1において、10は本第1実施形態の引抜加工装置である。なお、これらの図では、ワーク40及び引抜管41は他の部材と区別し易くするためドットハッチングで示している。
【0052】
この引抜加工装置10は、図1に示すように、管状ワーク40を引抜加工するものである。この引抜加工装置10によって管状ワーク40が引抜加工されることにより、引抜管41が製造される。この引抜管41は、外表面41aが高平滑面であることを要求される管に用いられるものであり、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に好適に用いられるものである。なお、感光ドラム基体の外表面にはOPC(有機光導電体)膜等の所定の膜が塗工される。したがって、ワーク40は、感光ドラム基体製造用素管として捉えることができる。
【0053】
ワーク40は、例えば、素材としての金属ビレット(例:アルミニウムビレット)を押出加工することにより得られた金属押出管(例:アルミニウム押出管)からなるものである。ワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の外径は例えば15〜50mm、、その肉厚は例えば0.5〜2mmに設定されている。
【0054】
ワーク40の材質は、鉄、鋼、銅、マグネシウム(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)等の金属であり、特にアルミニウムであることが望ましい。
【0055】
本実施形態では、ワーク40の縮径率を例えば10〜20%に設定してワーク40を引抜加工装置10により引抜加工し、これにより断面円環状の引抜管41が製造される。このとき、引抜管41の肉厚は、ワーク40の肉厚に対して例えば60〜90%に減少する。
【0056】
なお、ワーク40の縮径率(詳述するとワーク40の外径の縮径率)Qは、引抜加工前のワーク40の外径をD0、引抜加工後のワーク40(即ち引抜管41)の外径をD1としたとき、次式(1)により算出される。
【0057】
Q={1−(D1/D0)}×100% …(1)
【0058】
この引抜加工装置10は、図1及び2に示すように、空引き方式ではなくプラグ引き方式を採用したものである。したがって、この引抜加工装置10は、引抜ダイス20と本第1実施形態に係る引抜プラグ30とを含む引抜加工工具11を具備しており、更に、牽引装置12、潤滑油供給装置13などを具備している。
【0059】
引抜ダイス20は、ワーク40の外表面40aを加工するものであり、ダイスホルダ(図示せず)により固定状態に保持されている。引抜ダイス20の材質は、超硬、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミック等である。この引抜ダイス20の詳細な構成は後述する。
【0060】
引抜プラグ30は、ワーク40の中空部40c内に配置されるとともにワーク40の内表面40bを加工するプラグ本体32と、プラグ本体32を支持してプラグ本体32の位置を固定する支持棒31とを備えている。プラグ本体32は、支持棒31の先端部に固定状態に設けられている。プラグ本体32の形状は略玉形又は略球状である。プラグ本体32の材質は、超硬、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミック等である。この引抜プラグ30の詳細な構成は後述する。
【0061】
図1に示すように、牽引装置12は、ワーク40を引抜方向Nに牽引するためのものであり、チャック部12aと、チャック部12aに引抜方向Nの牽引力を付与する駆動源12bとを備えている。チャック部12aは、ワーク40の先端部に形成された口付け部40dをチャックするものである。駆動源12aとしては油圧シリンダ等が用いられている。なお、ワーク40の引抜方向Nは、引抜ダイス20のダイス軸Xに沿う方向である。
【0062】
潤滑油供給装置13は、ワーク40の外表面40aに引抜加工用潤滑油14を供給付着するものであり、潤滑油14をワーク40の外表面40aに向けて噴出するノズル13aを備えている。ノズル13aは引抜ダイス20の上流側に配置されている。
【0063】
潤滑油14としては、特に限定されるものではなく、具体的に例示すると、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー」、スギムラ化学工業(株)製の商品名「サンドロー」、共栄油化(株)製の商品名「ストロール」等が用いられる。また、潤滑油14の動粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、40℃で引抜速度が20〜40m/nimの時の動粘度が300〜500mm2/sであることが望ましい。
【0064】
引抜ダイス20の構成は次のとおりである。
【0065】
引抜ダイス20は、そのダイス孔21の内側に配置される引抜プラグ30と組み合わされて用いられるものであり、図2に示すように、ダイスアプローチ部1Aと曲面部1Cとダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eとを備えている。これらの部位(1A、1C、2B、2E)は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面に、ワーク40の引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。
【0066】
ダイスアプローチ部1Aは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
【0067】
曲面部1Cは、ダイスアプローチ部1Aとダイスベアリング部2Bとを滑らかに繋いでいる。したがって、曲面部1Cは、ダイスアプローチ部1Aの下流端にダイスアプローチ部1Aに対して滑らかに連なって形成されており、すなわち第1曲面部1Cはダイスアプローチ部1Aの下流端に段差及び角が生じないように連なって形成されている。また、曲面部1Cは、ダイスベアリング部2Bの上流端にダイスベアリング部2Bに対して滑らかに連なって形成されている。
【0068】
曲面部1Cの縦断面形状は円弧状である。なお本明細書では、縦断面とは引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面であり、即ち図2に示した断面である。
【0069】
曲面部1Cの曲率半径は、例えば1〜10mmに設定されている。
【0070】
ダイスアプローチ部1Aと曲面部1Cは、ワーク40を縮径加工(詳述するとワーク40の外表面40aを縮径加工)する部位である。
【0071】
ダイスベアリング部2Bは、ワーク40の外表面40a及び外径寸法を仕上げ加工する部位であり、ダイス軸Xと略平行に形成されている。
【0072】
ダイスベアリング部2Bの長さ、詳述するとダイスベアリング部2Bのダイス軸Xと平行な方向の長さは、例えば3〜15mmに設定されており、好ましくは5mm以上に設定されるのが良い。
【0073】
リリーフ部2Eは、引抜ダイス20のワーク出口部を形成する部位であり、ワーク40(詳述すると引抜管41)と接触しなようにするため、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されている。
【0074】
引抜プラグ30の構成は次のとおりである。
【0075】
引抜プラグ30は、図2に示すように、その中心軸(プラグ軸)が引抜ダイス20のダイス軸Xと一致して配置されている。引抜プラグ30のプラグ本体32は、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとを備えている。これらの部位(3A、3B)は、プラグ本体32の表面に、ワーク40の引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。さらに、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとの間の角部3Cは丸く面取り加工されることで丸く形成されている。したがって、この角部3Bは曲面部に形成されており、角部3Bの縦断面形状は円弧状である。この角部3Bの曲率半径(R)は例えば10〜60mmに設定されている。
【0076】
プラグベアリング部3Bは、ワーク40の内表面40b及び内径寸法を仕上げ加工する部位であり、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応した位置に配置されており、詳述するとダイスベアリング部2Bに対向して且つダイス軸Xと略平行に配置されている。さらに、プラグベアリング部3Bの上流端の位置は、ワーク40の引抜方向Nにおいて、ダイスベアリング部2Bの上流端の位置に対して同じ位置か又は下流側に配置されている。
【0077】
プラグベアリング部3Bの長さ、詳述するとプラグベアリング部3Bのダイス軸Xと平行な方向の長さは、ダイスベアリング部2Bの長さよりも短く設定されている。さらに、このプラグベアリング部3Bの長さは、ダイスベアリング部2Bの長さに対して5〜70%の範囲に設定されるのが望ましく、特に6〜30%の範囲に設定されるのが良い。
【0078】
プラグアプローチ部3Aは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
【0079】
プラグアプローチ部3Aは、ワーク40(詳述するとワーク40の内表面40b)と接触して該ワーク40を減肉加工しながらプラグベアリング部3Bへ案内する部位である。
【0080】
プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33は、プラグベアリング部3Bとプラグアプローチ部3Aとからなり、プラグベアリング部3Bとプラグアプローチ部3Aとの間の角部3Cを含んでいる。
【0081】
さらに、図3A〜3Cに示すように、プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33には、引抜方向Nと平行に延びた複数個の溝条部35が、プラグ本体32の周方向に等間隔に配設されている。本発明では、溝条部35の数は限定されるものでないが、3〜6個であることが望ましい。本第1実施形態では溝条部35の数は3個である。これらの溝条部35は互いに同一形状及び同一寸法である。なおこれらの図では、溝条部35はその役割を理解し易くするためにその大きさが誇張して示されている。
【0082】
溝条部35は、その内部に、ワーク40が縮径される途中でワーク40の余剰材料が移動する部位である。すなわち、ワーク40が縮径される途中でワーク40の余剰材料はこの溝条部35内へ移動される。
【0083】
図3Dに示すように、溝条部35の下流端35bの位置は、プラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して同じ位置か又は上流側に配置している。本第1実施形態では、溝条部35の下流端35bの位置は、プラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して上流側に配置しており、詳述するとプラグベアリング部3Bの上流端と下流端3Bbとの中間位置に配置している。
【0084】
ここで、もし溝条部35の下流端35bの位置がプラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して下流側に配置している場合には、引抜管41の内表面41bに溝条部35によって突条部が引抜方向Nに延びて形成されることとなる。そのような引抜管41は、該引抜管41が感光ドラム基体に用いられるものである場合には、引抜管41の端開口部にフランジ(図示せず)を嵌合して取り付ける際に突条部が干渉してしまってフランジを引抜管41の端開口部に取り付けることができなくなる。したがって、引抜管41が例えば感光ドラム基体に用いられるものである場合には、本第1実施形態のように溝条部35の下流端35bの位置はプラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して同じ位置か又は上流側に配置していることが望ましく、特にプラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して上流側に配置していることがより望ましい。
【0085】
なお本発明では、溝条部35の下流端35bの位置は、プラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して同じ位置であっても良いし、プラグベアリング部3Bの上流端の位置に対して同じ位置であっても良いし、プラグベアリング部3Bの上流端と下流端3Bbとの間に配置していても良い。
【0086】
溝条部35の上流端35aの位置は、プラグアプローチ部3Aに配置している。
【0087】
溝条部35の上流側の部分35uと下流側の部分35dとのうち、溝条部35の上流側の部分35uの幅と深さは、共に引抜方向Nの下流側に進むに従って漸次増大している。そして、溝条部35の上流端35aの幅と深さは、共に0に設定されている。一方、溝条部35の下流側の部分35dの幅と深さは、共に引抜方向Nの下流側に進むに従って漸次減少している。そして、溝条部35の下流端35bの幅と深さは、共に0に設定されている。また、溝条部35の最も幅が広い部分と溝条部35の最も深さが深い部分とは一致している。
【0088】
溝条部35の長さ(すなわち溝条部35の上流端35aから下流端35bまでの長さ)は例えば5〜10mmに設定されている。また、溝条部35の最大幅は例えば1〜5mmに設定されている。また、溝条部35の最大深さは例えば0.3〜1mmに設定されている。また、溝条部35の断面形状は図3Bに示すように例えば略半円形状である。
【0089】
なお本発明では、溝条部35の長さ、幅、深さ、断面積、容量などは、ワーク40の肉厚、ワーク40の縮径率Q、溝条部35の数などに応じて様々に設定されるものである。また、溝条部35の断面形状は、本第1実施形態のように半円形状等の円弧形状であっても良いし、略楕円形状(例:半楕円状)であっても良いし、U字状であっても良いし、V字状であっても良いし、その他の形状であっても良い。
【0090】
また本発明では、溝条部35の上流側の部分35uの幅や深さは、引抜方向Nの下流側に進むに従って必ずしも漸次増大していなくても良い。すなわち、例えば、溝条部35の上流側の部分35uの幅や深さは、溝条部35の全長さ領域に亘って引抜方向Nの下流側に進むに従って漸次減少していても良い。
【0091】
また、図3Dに示すように、溝条部35の幅方向の各側縁部は、平面視で円弧状に形成されている。
【0092】
また、図3Cに示すように、溝条部35の底面の縦断形状は、円弧状に形成されている。
【0093】
また、図3Bに示すように、溝条部35の幅方向の両側縁部の角部(すなわち、溝条部35の幅方向の両側面とプラグ本体32の表面との間の角部)35z、35zは、それぞれ丸く面取り加工されることで丸く形成されている。本発明では、この角部35zの曲率半径(R)は限定されるものではないが、1〜3mmであることが望ましい。
【0094】
本第1実施形態の引抜加工装置10を用いて管状ワーク40を引抜加工する方法は、従来の引抜加工方法と略同じであり、これを簡単に説明すると次のとおりである。
【0095】
まず、管状ワーク40の先端部にスエージング加工等によってワーク40よりも小径の口付け部40dを形成する(図1参照)。そして、ワーク40の中空部40c内に引抜プラグ30のプラグ本体32を挿入配置するとともに、ワーク40の先端部(即ち口付け部40d)を引抜ダイス20のダイス孔21内に挿入する。このとき、プラグ本体32のプラグベアリング部3Bは、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応する位置に配置されている。
【0096】
次いで、ワーク40の先端部の口付け部40dを牽引装置12のチャック部12aによりチャックする。そして、図1に示すように、潤滑油供給装置13のノズル13aから潤滑油14をワーク40の外表面40aに供給付着しながら、引抜速度が例えば10〜100m/min(特に好ましくは20〜40m/min)の範囲になるようにワーク40を牽引装置12により引抜方向Nに牽引する。これにより、ワーク40が引抜ダイス20のダイス孔21内に挿通されてワーク40が引抜方向Nに移動される。これにより、ワーク40を引抜加工する。
【0097】
この引抜加工では、ワーク40が引抜ダイス20のダイス孔21内に挿入される前では、ワーク40の外表面40a及び内表面40bは、図4Aに示すように、共に円形状である。そして、ワーク40が引抜ダイス20のダイス孔21内を引抜方向Nに牽引移動されることにより、図2に示すように、ワーク40は引抜ダイス20の曲面部1Cに接触して曲面部1Cにより縮径加工されながら曲面部1Cから一旦離れる。次いで、該ワーク40がダイスベアリング部2Bとプラグベアリング部3Bとの間を通過することにより、ワーク40の肉厚が減少するようにワーク40の外表面40a及び内表面40bがそれぞれダイスベアリング部2B及びプラグベアリング部3Bにより加圧される。その結果、ワーク40の外径寸法がダイスベアリング部2Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の外表面40aがダイスベアリング部2Bにより仕上げ加工され、さらに、ワーク40の内径寸法がプラグベアリング部3Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の内表面40bがプラグベアリング部3Bにより仕上げ加工される。
【0098】
以上の工程により、所望する引抜管41を得ることができる。
【0099】
而して、本第1実施形態の引抜加工装置10には次の利点がある。
【0100】
引抜プラグ30のプラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33に、引抜方向Nと平行に延びた溝条部35が設けられているので、図4Bに示すように、ワーク40が縮径する途中でワーク40の余剰材料が溝条部35内へ移動する。すなわち、ワーク40の余剰材料が溝条部35内に一時的に収容される。これにより、ワーク40の外表面40aに生じる凹凸(例:皺)が減少する。そのため、この凹凸の凹部に潤滑油14が溜まり難くなる。その結果、図4Cに示すように、引抜管41の外表面41aにオイルピットが発生するのを抑制することができ、すなわちワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができる。
【0101】
さらに、溝条部35の下流端35bの位置は、プラグ本体32のプラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して同じ位置か又は上流側に配置しているので(図3D参照)、ワーク40の内周面40bに溝条部35による突条部が形成されるのを防止することができる。そのため、ワーク40の内表面40bを平滑面に加工することができる。特に、本第1実施形態では、溝条部35の下流端35bの位置は、プラグベアリング部3Bの下流端3Bbの位置に対して上流側に配置しているので、ワーク40の内周面40bに突条部が形成されるのを確実に防止することができる。そのため、ワーク40の内表面40bを確実に平滑面に加工することができる。
【0102】
さらに、プラグ本体32のプラグベアリング部3Bの長さが引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さよりも短く設定されているので、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に加えることができる。さらに、このプラグ本体32は、ダイスベアリング部2Bよりも長いプラグベアリング部を有する長芯プラグに比べて、ワーク40の内表面40bとプラグベアリング部3Bとの接触面積が小さいので、ワーク40の断管を確実に防止することができる。
【0103】
さらに、溝条部35の下流側の部分35dの幅が引抜方向Nの下流側に進むに従って漸次減少しているので、ワーク40の余剰材料が溝条部35内へ移動しながら引抜方向Nの下流側へスムーズに移動する。これにより、ワーク40の内表面40bを確実に平滑面に加工することができる。
【0104】
さらに、溝条部35の下流側の部分35dの深さが引抜方向Nの下流側に進むに従って漸次減少しているので、ワーク40の余剰材料が溝条部35内へ移動しながら引抜方向Nの下流側へ更にスムーズに移動する。これにより、ワーク40の内表面40bを更に確実に平滑面に加工することができる。
【0105】
さらに、溝条部35の下流端35bの幅が0に設定されているので、ワーク40の内表面40bを更に確実に平滑面に加工することができる。
【0106】
さらに、溝条部35の下流端35bの深さが0に設定されているので、ワーク40の内表面40bをより一層確実に平滑面に加工することができる。
【0107】
さらに、溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zがそれぞれ丸く形成されているので、ワーク40の余剰材料が溝条部35内へ更にスムーズに移動するようになるし、さらにワーク40の内表面40bが角部35zに接触することによるワーク40の内表面40bの傷の発生を防止することができる。これにより、ワーク40の内表面40bを更に確実に平滑面に加工することができる。
【0108】
さらに、溝条部35は、プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33に、プラグ本体32の周方向に間隔をおいて複数個設けられているので、ワーク40の余剰材料が溝条部35内に収容される収容量が増加する。これにより、ワーク40の外表面40aに生じる凹凸を確実に減少させることができる。その結果、引抜管41の外表面41aにオイルピットが発生するのを更に確実に抑制することができ、すなわちワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。したがって、本第1実施形態の引抜加工装置10を用いてワーク40を引抜加工することにより、高平滑な外表面41aを有する引抜管41を更に確実に製造することができる。さらに、複数個の溝条部35がプラグ本体32の周方向に等間隔に配設されているので、ワーク40の余剰材料が周方向に均等に各溝条部35内へ移動する。これにより、ワーク40の内表面40bをより一層確実に平滑面に加工することができる。
【0109】
図5は、本発明の第2実施形態に係る引抜加工装置10を説明する図である。この図は、図2に対応する図である。この図には、上記第1実施形態の引抜加工装置10と同一の要素に同じ符号が付されている。
【0110】
この引抜加工装置10の引抜ダイス20は、ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2Dとダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eとを備えている。これらの部位(1A、1C、1B、2D、2B、2E)は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面に、ワーク40の引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。
【0111】
第1曲面部1Cは、ダイスアプローチ部1Aの下流端にダイスアプローチ部1Aに対して滑らかに連なって形成されており、すなわち第1曲面部1Cはダイスアプローチ部1Aの下流端に段差及び角が生じないように連なって形成されている。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面、すなわち引抜ダイス20の縦断面において、ダイス軸Xに対する第1曲面部1Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。第1曲面部1Cの縦断面形状は円弧状である。
【0112】
第1曲面部1Cの曲率半径R1は、例えば1〜10mmに設定されている。
【0113】
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cは、最初にワーク40を縮径加工(詳述するとワーク40の外表面40aを縮径加工)する部位である。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク40が縮径加工されながら離れる部位である。
【0114】
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cとを合計したダイス軸Xと平行な方向の長さL1は、例えば10〜50mmに設定されている。
【0115】
ここで、ワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)がダイスアプローチ部1A又は第1曲面部1Cに最初に接触する位置を「J」とする。また、ワーク40が縮径加工されながら第1曲面部1Cから離れる位置を「K」とする。本第2実施形態では、ワーク40は、ダイスアプローチ部1Aではなく第1曲面部1Cに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40は第1曲面部1Cではなくダイスアプローチ部1Aに最初に接触しても良い。
【0116】
ダイスベアリング部2Bは、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側(即ちダイス軸X側)且つ下流側に第1曲面部1Cに対して離間して配置されている。このダイスベアリング部2Bは、ワーク40の外表面40a及び外径寸法を仕上げ加工する部位であり、ダイス軸Xと略平行に形成されている。
【0117】
ダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
【0118】
ダイスベアリング部2Bの長さL4、詳述するとダイスベアリング部2Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL4は、例えば3〜15mmに設定されており、好ましくは5mm以上に設定されるのが良い。
【0119】
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kとダイスベアリング部2Bとの間の段差H1は、様々に設定されるものであるが、好ましくは0.3mm以上3mm未満に設定されるのが良い。
【0120】
案内部2Dは、第1曲面部1Cから離れたワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)と再接触して該ワーク40を縮径加工しながらダイスベアリング部2Bへ案内する部位である。この案内部2Dは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。ここで、ワーク40が案内部2Dに再接触する位置を「M」とする。
【0121】
この案内部2Dは、ダイスベアリング部2Bの上流端Fにダイスベアリング部2Bに対して滑らかに連なる縦断面円弧状の第2曲面部2Cを有しており、更に、第2曲面部2Cの上流端に第2曲面部2Cに対して滑らかに連なる縦断面円弧状の補助曲面部2Aを有している。
【0122】
引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面、すなわち引抜ダイス20の縦断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する第2曲面部2Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。一方、補助曲面部2Aは、第2曲面部2Cの曲がり方向とは反対方向に曲がっている。したがって、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する補助曲面部2Aの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次大きくなっている。
【0123】
案内部2Dのダイス軸Xと平行な方向の長さL3は、例えば2〜5mmに設定されている。第2曲面部2Cの曲率半径R21は、例えば1〜10mmに設定されている。補助曲面部2Aの曲率半径R22は、例えば1〜10mmに設定されている。さらに、第2曲面部2Cの曲率半径R21は、第1曲面部1Cの曲率半径R1に対して等しいか又は小さく設定されている(即ち、R21≦R1)。
【0124】
繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとの間に配置され、第1曲面部1Cと案内部Dとを繋ぐ部位である。本実施形態では、繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとを一体に繋いでいる。したがって、第1曲面部1Cと案内部2Dとは繋ぎ部1Bを介して一体形成されている。さらに、繋ぎ部1Bは、引抜加工時にワーク40と接触しないようにするため、ダイス軸Xと略平行に形成されている。さらに、繋ぎ部1Bの上流端が第1曲面部1Cの下流端に滑らかに連なっている。また、繋ぎ部1Bの下流端が案内部2D(詳述すると案内部2Dの補助曲面部2A)の上流端に滑らかに連なっている。
【0125】
繋ぎ部1Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL2は、例えば3〜10mmに設定されている。
【0126】
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、繋ぎ部1Bとダイスベアリング部2Bとの間の段差H2は、上記の段差H1と等しいか又は僅かに小さく設定されている(即ちH2≦H1)。しかるに、H2とH1との差は一般的に非常に小さい。したがって、H2とH1は、厳密には異なっているが、通常、等しいと捉えても良い。
【0127】
リリーフ部2Eは、引抜ダイス20のワーク出口部を形成する部位であり、ワーク40(詳述すると引抜管41)と接触しないようにするため、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されている。
【0128】
リリーフ部2Eのダイス軸Xと平行な方向の長さL5は、例えば2〜10mmに設定されている。
【0129】
引抜プラグ30は、プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとを備えている。これらの部位(3A、3C、3B)は、引抜プラグ30の表面に、ワーク40の引抜方向Nに順に並んで設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。
【0130】
プラグベアリング部3Bは、ワーク40の内表面40b及び内径寸法を仕上げ加工する部位であり、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応した位置に配置されており、詳述するとダイスベアリング部2Bに対向して且つダイス軸Xと略平行に配置されている。さらに、プラグベアリング部3Bの上流端Gの位置は、ワーク40の引抜方向Nにおいて、ダイスベアリング2Bの上流端Fの位置に対して同じ位置か又は下流側に配置されている。Sは、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対するプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置の下流側へのずれ量を示している。したがって、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対してプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置が下流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「+(正)」である。これとは逆に、プラグベアリング部3Bの上流端Gの位置が上流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「−(負)」である。このずれ量Sは、例えば−5〜5mmの範囲に設定されており、好ましくは−1〜3mmの範囲に設定されるのが良く、特に0〜2mmの範囲に設定されるのが非常に良い。
【0131】
ダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
【0132】
プラグベアリング部3Bの長さL6、詳述するとプラグベアリング部3Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されている(即ち、L6<L4)。さらに、この長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4に対して5〜70%の範囲に設定されるのが望ましく、特に6〜30%の範囲に設定されるのが良い。なお、Dpは引抜プラグ30のプラグ本体32のプラグベアリング部3Bの直径である。
【0133】
プラグアプローチ部3Aは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
【0134】
第3曲面部3Cは、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとの間の角部が丸く形成されてなる部位であり、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとの間に配置されており、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとを滑らかに繋いでいる。すなわち、この第3曲面部3Cは、プラグベアリング部3Bの上流端Gにプラグベアリング部3Bに対して滑らかに連なって形成されている。さらに、この第3曲面部3Cの上流端にプラグアプローチ部3Aが滑らかに連なって形成されている。引抜プラグ30のダイス軸Xを含む断面、すなわち引抜プラグ30の縦断面において、ダイス軸Xに対する第3曲面部3Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。詳述すると、第3曲面部3Cの縦断面形状は円弧状である。
【0135】
第3曲面部3Cの曲率半径R3は、例えば10〜60mmに設定されている。
【0136】
プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cは、ワーク40(詳述するとワーク40の内表面40b)と接触して該ワーク40を減肉加工しながら第3曲面部3Cからプラグベアリング部3Bへ案内する部位である。本実施形態では、ワーク40の内表面40bは、プラグアプローチ部3Aではなく第3曲面部3Cに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40の内表面40bは第3曲面部3Cではなくプラグアプローチ部3Aに最初に接触しても良い。
【0137】
プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33は、プラグベアリング部3Bと第3曲面部3Cとプラグアプローチ部3Aとからなる。
【0138】
さらに、プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの当接部33には、引抜方向Nと平行に延びた複数個の溝条部35が、プラグ本体32の周方向に等間隔に配設されている。この溝条部35の構成は、上記第1実施形態の溝条部と同じである。
【0139】
本第2実施形態の引抜加工装置10を用いて管状ワーク40を引抜加工する方法は、上記第1実施形態と同じである。
【0140】
この引抜加工では、ワーク40は引抜ダイス20の第1曲面部1Cに接触して第1曲面部1Cにより縮径加工されながら、案内部2Dに向かって誘導されるように第1曲面部1Cから離れる。次いで、該ワーク40が引抜ダイス20の案内部2Dに再接触して案内部2Dにより縮径加工されながら案内部2Dからその第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bへ案内される。このとき、ワーク40の内表面40bは、引抜プラグ30の第3曲面部3Cに接触して第3曲面部3Cからプラグベアリング部3Bへ案内される。
【0141】
そして、該ワーク40がダイスベアリング部2Bとプラグベアリング部3Bとの間を通過することにより、ワーク40の肉厚が減少するようにワーク40の外表面40a及び内表面40bがそれぞれダイスベアリング部2B及びプラグベアリング部3Bにより加圧される。その結果、ワーク40の外径寸法がダイスベアリング部2Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の外表面40aがダイスベアリング部2Bにより高平滑面に仕上げ加工され、さらに、ワーク40の内径寸法がプラグベアリング部3Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の内表面40bがプラグベアリング部3Bにより仕上げ加工される。
【0142】
以上の工程により、所望する引抜管41を得ることができる
而して、本第2実施形態の引抜加工装置10には、上記第1実施形態の引抜加工装置10の利点の他に更に次の利点がある。
【0143】
引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bは第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側に配置されているので、ワーク40が第1曲面部1Cからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aに、潤滑油14が溜まる激しい凹凸が生じ難くなる。
【0144】
さらに、ダイスベアリング部2Bの上流端Fに案内部2Dの第2曲面部2Cが滑らかに連なっているので、案内部2Dに再接触したワーク40はこの第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bに向かって円滑に移動することができる。
【0145】
さらに、引抜プラグ30のプラグ本体32のプラグベアリング部3Bの長さL6が引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されることにより、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に与えることができる。
【0146】
その上、プラグ本体32の表面におけるワーク内表面40bとの接触部33に、溝条部35が設けられているので、ワーク40の外表面40aに生じる凹凸が更に一層減少する。そのため、この凹凸の凹部に潤滑油14が更に一層溜まり難くなる。その結果、引抜管41の外表面41aにオイルピットが発生するのを更に一層抑制することができ、すなわちワーク40の外表面40aを更に一層高平滑面に加工することができる。
【0147】
さらに、溝条部35の大きさ(例:長さ、幅、深さ)や個数を上記第1実施形態の溝条部の大きさや個数よりも小さく(少なく)することができる。そのため、溝条部35を形成するための加工を容易に行うことができる。
【0148】
以上で、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
【0149】
また本発明では、溝条部35の形状は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に変更可能である。その一変形形態を具体的に示すと、以下のとおりである。
【0150】
図6A及び6Bは、第1実施形態の引抜プラグ30の一変形形態を説明する図である。
【0151】
この引抜プラグ30では、溝条部35の上流側の部分の幅方向の各側縁部と溝条部35の下流側の部分の幅方向の各側縁部とは、それぞれ、平面視で直線状に形成されている。さらに、図6Bに示すように、溝条部35の上流側の部分の底面の縦断形状と溝条部35の下流側の部分の底面の縦断形状とは、それぞれ、直線状に形成されている。
【0152】
また本発明では、本発明に係る引抜加工装置によって引抜加工されて得られる引抜管は、感光ドラム基体に用いられるものであることが望ましいが、これに限定されるものではなく、様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0153】
次に、本発明の具体的な実施例を以下に示す。
【0154】
<実施例1〜16>
引抜加工用ワークとして、アルミニウム製管状ワーク40を準備した。このワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の材質は、JIS(日本工業規格) A3003相当のアルミニウム合金である。このワーク40は、アルミニウムビレットを押出加工することにより得られたアルミニウム押出管からなるものである。ワーク40の外径は20mm、その内径は17mm、その肉厚は1.5mmである。
【0155】
図1〜4Cに示した上記第1実施形態に係る引抜加工装置10を用いて、溝条部35の形状と溝条部35の数を様々に変えて、ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。引抜管41の外径は16.0mm、その内径は14.4mm、その肉厚は0.8mmである。したがって、ワーク40の縮径率Qは20%である。この引抜加工の際に使用した潤滑油14は鉱油からなるものであり、この潤滑油14の40℃での動粘度は300〜500mm2/sである。また、引抜速度は20m/minである。
【0156】
そして、引抜管41の外表面41aの表面粗さRyを測定し、外表面41aの表面粗さを評価した。さらに、引抜管41の内表面41bに傷がついているか否かを肉眼で調べた。その結果を表1に示す。
【0157】
表1中の「表面粗さ」とは、引抜管41の外表面41aの表面粗さであり、その記号の意味は次のとおりである。
【0158】
○:Ryが1.0μm未満(即ちRy<1.0μm)
△:Ryが1.0〜1.5μm(即ち1.0≦Ry≦1.5μm)
×:Ryが1.5μmを超える(即ちRy>1.5μm)
【0159】
引抜管41の外表面41aの表面粗さRyは、レーザ表面粗さ計(レーザのプローブ:2μm)により、引抜管41の外表面41aの周方向と長さ方向とのそれぞれ5箇所を測定し、これらの平均値を表面粗さRyとした。またその測定は、JIS B 0601:1994に準拠して行った。
【0160】
表1中の「内表面の状態」とは、引抜管41の内表面41bの状態であり、その記号の意味は次のとおりである。
【0161】
○:引抜管41の内表面41bに傷が付いていない。
×:引抜管41の内表面41bに傷が付いている。
【0162】
実施例1〜4で用いた引抜プラグ30の溝条部35の断面形状は、図7Aに示されている。この溝条部35の断面形状は半円形状である。溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zは、それぞれ丸く形成されており、その曲率半径(R)は2mmである。溝条部35の長さは10mm、その最大幅は5mm、その最大深さは1mmである。溝条部35の数は2個(実施例1)、3個(実施例2)、6(実施例3)及び8個(実施例4)である。これらの溝条部35はプラグ本体32の表面の所定部位にその周方向に等間隔に配設されている。
【0163】
実施例5〜8で用いた引抜プラグ30の溝条部35の断面形状は、図7Bに示されている。この溝条部35の断面形状は半円形状である。溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zは、それぞれ丸く形成されており、その曲率半径(R)は1mmであって実施例1〜4の溝条部35の角部35zの曲率半径よりも小さい。溝条部35のその他の構成は、実施例1〜4の溝条部35と同じである。
【0164】
実施例9〜12で用いた引抜プラグ30の溝条部35の断面形状は、図7Cに示されている。この溝条部35の断面形状はU字状である。溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zは、それぞれ丸く形成されておらず、すなわちその断面角度が約90°で角ばっている。溝条部35のその他の構成は、実施例1〜4の溝条部35と同じである。
【0165】
実施例13〜16で用いた引抜プラグ30の溝条部35の断面形状は、図7Dに示されている。この溝条部35の断面形状はV字状である。溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zは、それぞれ丸く形成されておらず、すなわちその断面角度が約125°で角ばっている。溝条部35のその他の構成は、実施例1〜4の溝条部35と同じである。
【0166】
<比較例>
引抜プラグ30のプラグ本体32の表面に溝条部を設けなかったこと以外は、上記実施例と同じ引抜加工条件でワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。
【0167】
そして、引抜管41の外表面41aの表面粗さRyを測定し、外表面41aの表面粗さを評価した。さらに、引抜管41の内表面41bに傷がついているか否かを肉眼で調べた。その結果を表1に示す。
【0168】
【表1】

【0169】
表1に示すように、引抜プラグ30のプラグ本体32の表面の所定部位に溝条部35が設けられている場合(即ち実施例1〜16の場合)には、引抜管41の外表面41aの表面粗さが小さく、すなわち高平滑な外表面を有する引抜管41を得ることができた。特に、溝条部35の幅方向の両側縁部の角部35z、35zが丸く形成されている場合(即ち実施例1〜8の場合)には、引抜管41の内表面41bに傷がついておらず、すなわち平滑な内表面41bを有する引抜管41を得ることができた。
【0170】
一方、引抜プラグ30のプラグ本体32の表面に溝条部35が設けられていない場合(即ち比較例の場合)には、引抜管41の外表面41aの表面粗さが大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、高平滑な外表面を有する引抜管を得ることができる引抜プラグ、引抜加工装置及び引抜加工方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る引抜プラグを備えた引抜加工装置の概略全体図である。
【図2】図2は、同引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの拡大断面図である。
【図3A】図3Aは、同引抜加工装置の引抜プラグの斜視図である。
【図3B】図3Bは、同引抜プラグのプラグ本体の横断面図である。
【図3C】図3Cは、同引抜プラグのプラグ本体の縦断面図である。
【図3D】図3Dは、同引抜プラグのプラグ本体の拡大平面図である。
【図4A】図4Aは、図1中のZ1−Z1線断面図である。
【図4B】図4Bは、図1中のZ2−Z2線断面図である。
【図4C】図4Cは、図1中のZ3−Z3線断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係る引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの拡大断面図である。
【図6A】図6Aは、第1実施形態の引抜プラグの一変形形態を示す斜視図である。
【図6B】図6Bは、同引抜プラグの斜視図である。
【図7A】図7Aは、実施例1〜4で用いた引抜プラグの溝条部の断面図である。
【図7B】図7Bは、実施例5〜8で用いた引抜プラグの溝条部の断面図である。
【図7C】図7Cは、実施例9〜12で用いた引抜プラグの溝条部の断面図である。
【図7D】図7Dは、実施例13〜16で用いた引抜プラグの溝条部の断面図である。
【図8】図8は、従来の引抜加工装置の概略全体図である。
【図9】図9は、同引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの断面図である。
【図10A】図10Aは、図8中のZ1−Z1線断面図である。
【図10B】図10Bは、図8中のZ2−Z2線断面図である。
【図10C】図10Cは、図8中のZ3−Z3線断面図である。
【符号の説明】
【0173】
10:引抜加工装置
20:引抜ダイス
2B:ダイスベアリング部
30:引抜プラグ
32:プラグ本体
35:溝条部
35b:溝条部の下流端
35u:溝条部の上流側の部分
35d:溝条部の下流側の部分
3A:プラグアプローチ部
3B:プラグベアリング部
40:管状ワーク
41:引抜管
N:ワークの引抜方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状ワークの中空部内に配置されるとともに前記ワークの内表面を加工するプラグ本体を備えた引抜プラグであって、
プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、引抜方向と平行に延びた溝条部が設けられていることを特徴とする引抜プラグ。
【請求項2】
プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部は、プラグベアリング部を含み、
溝条部の下流端の位置が、プラグ本体のプラグベアリング部の下流端の位置に対して同じ位置か又は上流側に配置している請求項1記載の引抜プラグ。
【請求項3】
プラグ本体のプラグベアリング部の長さが、管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスのダイスベアリング部の長さよりも短く設定されている請求項2記載の引抜プラグ。
【請求項4】
溝条部の少なくとも下流側の部分の幅が、引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少している請求項1〜3のいずれかに記載の引抜プラグ。
【請求項5】
溝条部の少なくとも下流側の部分の深さが、引抜方向の下流側に進むに従って漸次減少している請求項1〜4のいずれかに記載の引抜プラグ。
【請求項6】
溝条部の下流端の幅が0に設定されている請求項4又は5記載の引抜プラグ。
【請求項7】
溝条部の下流端の深さが0に設定されている請求項4〜6のいずれかに記載の引抜プラグ。
【請求項8】
溝条部の幅方向の両側縁部の角部がそれぞれ丸く形成されている請求項1〜7のいずれかに記載の引抜プラグ。
【請求項9】
溝条部は、プラグ本体の表面におけるワーク内表面との当接部に、プラグ本体の周方向に間隔をおいて複数個設けられている請求項1〜8のいずれかに記載の引抜プラグ。
【請求項10】
管状ワークの外表面を加工する引抜ダイスと、
請求項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグとを具備していることを特徴とする引抜加工装置。
【請求項11】
引抜ダイスは、
ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに、第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
を備えており、
引抜プラグのプラグ本体のプラグベアリング部は、ダイスベアリング部に対応する位置に配置される請求項10記載の引抜加工装置。
【請求項12】
管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に請求項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークを引抜加工することを特徴とする管状ワークの引抜加工方法。
【請求項13】
管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に請求項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークを引抜加工することを特徴とする管の製造方法。
【請求項14】
管状ワークを引抜ダイスのダイス孔内に挿通し且つ管状ワークの中空部内に請求項1〜9のいずれかに記載の引抜プラグのプラグ本体を配置した状態で、管状ワークが引抜加工されることにより、製造された引抜管。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【公開番号】特開2010−110804(P2010−110804A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287558(P2008−287558)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】