説明

弦楽器

【課題】軽量化を図る一方で、全体としての強度を維持することのできる弦楽器を提供すること。
【解決手段】弦楽器のボディ構造の軽量化と音質向上を図ることができるように、幅方向両側が中央部よりも薄くなるように湾曲したソリッドタイプの軽量木材からなる芯材20を用い、この芯材20の表面と裏面の各面に貼り付けられるとともに、芯材20よりも硬質の木材からなる表裏の表装材21,22とにより弦楽器のボディ11が形成されている。ボディ11の表側にはブリッジ13が配置されている。ブリッジ13は、ボディに形成された穴11A内に当該ボディの裏面側からボルト29をねじ込むことでボディに取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弦楽器に係り、特に、ソリッドタイプのボディ構造として軽量化及び音質向上を図ることのできる電気弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
公知の電気弦楽器、例えば、電気ギター(エレキギター)等のボディとしては、複数枚の木材を貼り合わせて所定の平面形状に形成したソリッドタイプの構造が知られている。このタイプのボディは、中空構造に比べて重量構造となる結果、奏者への身体的負担が重くなる、という不都合を招来する。
【0003】
そこで、ボディを軽量化すべく、軽量木材を一部に採用した電気弦楽器のボディが提案されている(例えば、特許文献1参照)。同文献に記載されたボディは、複数種の木材を同一平面内で貼り合わせて一つのボディブロックを形成し、当該ボディブロックの外周側を切り落としてボディ形状に形成されるものとなっている。ここで用いられているボディブロックは、弦が張設される領域、すなわち中央部にマホガニーを採用する一方、周辺領域にバルサ及びマホガニーを採用した構成とされ、これにより、部分的な強度を図りつつ一定程度において軽量化させようとする試みがなされている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−170696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたボディ構造にあっては、複数種の木材を相互に接着したボディブロックをボディ成形素材とするものであり、木材を所定形状の形成する工程と、これらのブロックを接着する工程とが必要となり、製作工程を複雑化するという不都合がある。
【0006】
また、ピックアップ等の部品を取り付ける領域となるボディの中央部と、周辺部分に硬質なマホガニーを用いている構造となっている。つまり、マホガニーのような質量の大きい木材を中央部及び周辺部分に用いているため、軽量化を図る上では必ずしも相応しい材料使用とは言えないものであった。
【0007】
ところで、一般に、木材を素材として軽量化を達成する場合には、比重の小さいもの或いは質量の小さいものを用いればよいと理解されているが、比重或いは質量等の小さい木材の場合には、それに対応して強度若しくは硬度が低下する関係にある。従って、軽量化を達成しようとする要請と、硬質化による強度確保を達成しようする要請は、相反する要請ということができ、ここに、これらを合一的に満足し得る弦楽器のボディ構造が待望されている。
【0008】
[発明の目的]
本発明は、前述した不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、軽量化を達成することで、奏者への負担軽減を図ることのできるボディ構造を有する弦楽器を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、軽量化を達成した場合に生じ得る反射的不利益、例えば、強度若しくは硬度低下を回避するとともに、中空ボディと同様な共鳴の発現を可能として演奏性にも優れた効果を奏するボディ構造を有する弦楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、ソリッドタイプの芯材と、この芯材の表裏各面に設けられるとともに当該芯材よりも硬質となる表装材とからなるボディと、このボディの表側に配置されたブリッジとを備えた弦楽器であって、
前記芯材は、前記表装材よりも比重の小さい単一の軽量材料からなり、
前記ブリッジは、ボディに形成された穴内に当該ボディの裏面側からねじ込まれたボルトによりボディに取り付けられる、という構成を採っている。
【0011】
本発明において、前記ボディの表側及び/又は裏側の少なくとも周縁部が湾曲形状に設けられる、という構成を採っている。
【0012】
本発明における芯材としては、ファルカタ、バスウッド、バルサ等、比重0.4以下となる軽量木材の一種を選択的に用いることができる。これらの木材による芯材は、前記ボディが電気ギターに適用される場合に、ネック部に沿う方向を長さ方向とし、この長さ方向に対して略同一平面内で略直交する方向を幅方向としたときに、当該幅方向両側の厚みが中央部に対して次第に小さくなるように幅方向に扁平となる湾曲した断面形状に設けることが好ましい。このように湾曲した芯材の最大厚みとなる部分、すなわち中央部の厚みは、最大30mm〜55mm程度であり、最小厚みとなる部分は、10mm〜30mm程度とするとよく、これにより、芯材の外周面が露出する構成であっても、その面積を小さくすることができ、軽量化を達成しつつ一定の強度を保持させることが可能となる。
【0013】
前記表装材は、芯材よりも比重が重い硬質のメイプル等が用いられる。この表装材は、前述した芯材を用いたことによる軽量化の効果を維持できる範囲の板厚、例えば、2mm〜6mmのものを採用することが好ましく、これにより、ボディに要求される強度確保と、部品取り付け強度を確保することができる。また、表装材は、それ自体の周縁部の厚みが、当該表装材の中央部の厚みに対して次第に薄肉となるように形成されたものも採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芯材が表裏の表装材よりも比重の小さい単一の軽量材料により構成されていることで、ソリッド構造のボディとしても全体的な重さを軽くすることができる。また、表裏各面が表装材で覆われる構成となり、軽量化を達成する芯材を用いても、これに伴う強度低下を補完して強度を維持することが可能になるとともに、中空タイプのボディと同様の共鳴効果を得ることができる。しかも、表装材の存在により、弦楽器の部品を取り付ける場合の、当該取り付け部位における強度を十分に確保することができる。
【0015】
また、ボディの周縁部を湾曲させる構成とすることで、奏者の腕領域が接触した際の抵抗感がなく、演奏性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1には、実施形態に係る電気ギターの概略正面図が示され、図2には、その一部断面図が示されている。これらの図において、電気ギター10は、ボディ11と、当該ボディ11の側端部に連結されたネック12と、ボディ11の表側に配置されたブリッジ13及びピックアップ14並びにボリューム等の摘み15と、前記ブリッジ13からネック12の先端に位置するヘッド16との間に張設された複数の弦17を含んで構成されている。
【0018】
ボディ11は、図2(A)に示されるように、ソリッドタイプの芯材20と、当該芯材20の表裏(図2(A)中上下)各面に設けられた表側表装材21及び裏側表装材22とにより構成されている。芯材20は、本実施形態では比重0.4以下のファルカタ、バスウッド、バルサ等の木材から選ばれる単一の素材が用いられている。この芯材20は、例えば、幅10cm程度の木材を厚さ方向及び幅方向に接着して形成された図示しないボディ成形用ブロックを素材とし、当該素材の表裏各面及び外周面を切削加工することにより、幅方向(図1中左右方向)の両側の厚みが中央部の厚みに対して薄くなるように湾曲した略扁平形状に設けられている。ここで、本実施形態における芯材20の最大厚み(中央部厚み)T1は、45mm程度であり、最小厚み(幅方向両側厚み)T2は、14mm程度に設けられ、幅方向及び上下方向においてそれぞれ対称となる形状に設けられている。なお、芯材20は一定の曲率半径で湾曲させることで強度保持効果を確保することができ、曲率半径としては、600mm〜2000mmが例示できる。
【0019】
前記表装材21,22は、接着剤を介して芯材20の表裏各面にそれぞれ固定されている。これらの各表装材21,22は、芯材20よりも比重が重い木材、本実施形態では、メイプルが用いられている。これらの各表装材21,22は、それぞれ厚みが4mm程度とされて、ブリッジ13やピックアップ14等を取り付けるための領域の強度若しくは硬度が保持される。
【0020】
前記ブリッジ13は、図2(B)に例示されるように、表装材21上に位置する基板24と、この基板24の上面側に設けられた弦受け台25と、基板24の裏面にねじ26を用いて連結されるとともにボディ11に形成された穴11A内に挿入されるねじ管27と、前記穴11Aの隣接位置に形成された弦通路11Bの下端部であってボディ11の裏面側に配置された弦受け部材28と、裏面側から前記ねじ管27の下半部にねじ込んで当該ねじ管27に連結されるボルト29とを備えて構成され、これにより、ブリッジ13の取り付け強度が強く保たれるようになっている。また、ここでは図示省略しているが、ピックアップ14等も実質的に同様に固定される。更に、図2(C)に示されるように、前述したボリュームなどの摘み15は、ナット30を介して表側の表装材21上に固定されている。なお、図2(C)中符号31は、ボディ11若しくは芯材20に形成された凹部若しくは中空部を示す。
【0021】
このような本実施形態によれば、前述したように、比重0.4以下の芯材20を用いる一方、芯材20よりも比重の重い表装材を用いたことにより、ボディ11の軽量化を達成することができる。また、ボディ11が、横断面形状において、幅方向両側が中央部よりも厚みが小さくなるように湾曲した扁平形状に設けられているため、外周面において芯材20が露出する総面積が小さくなり、表裏の硬質材20,21を設けた構成と相俟って必要な強度を維持することができる。更に、芯材20の表裏各面に表装材21,22を貼り合わせているため、中空タイプのボディで得られる共鳴と同様の振動を得ることが期待でき、音質も良好に維持することが可能となる。
【0022】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施例に対し、形状、位置若しくは方向、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、配置などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。
【0023】
例えば、前記実施形態では、芯材20は、その外周面(側端面)が表出する構成を図示、説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ボディ11全体としての軽量化を維持することができる限り、芯材20の外周面に硬質材を貼り合わせる構成も採用することができる。このような構成とした場合には、ボディ11の強度を更に高めることができるとともに、ショルダー用のストラップの端部を係合させるためのピン32(図1参照)の取り付け強度を高めることが可能となる。また、芯材20は、多孔質部材、例えば、樹脂材料による発泡体を採用してもよい。
【0024】
更に、本発明は、電気ギターに限定されず、アコースティックギターやその他の弦楽器への適用を妨げない。
【0025】
また、前記実施形態では、ボディ11が左右及び上下に対称となるように湾曲した形状を図示、説明したが、例えば、裏面側をフラットな面とし、表面のみ湾曲した形状、ボディ11の周縁部のみ又は周縁部の一部を湾曲させた形状等を採用してもよい。要するに、本発明は、軽量化と強度維持という双方の要請を同時に満足させるとともに、音質並びに演奏性を向上ないし維持できるものであれば足りる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る電気ギターの概略正面図。
【図2】(A)は図1のA−A線に沿う矢視拡大断面図、(B)はブリッジ取り付け領域を示す断面図、(C)は摘みの取り付け領域を示す断面図。
【符号の説明】
【0027】
10…電気ギター、11…ボディ、20…芯材、21,22…表装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリッドタイプの芯材と、この芯材の表裏各面に設けられるとともに当該芯材よりも硬質となる表装材とからなるボディと、このボディの表側に配置されたブリッジとを備えた弦楽器であって、
前記芯材は、前記表装材よりも比重の小さい単一の軽量材料からなり、
前記ブリッジは、ボディに形成された穴内に当該ボディの裏面側からボルトをねじ込むことでボディに取り付けられていることを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記ボディの表側及び又は裏側の少なくとも周縁部が湾曲形状に設けられていることを特徴とする請求項1記載の弦楽器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−9458(P2008−9458A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230867(P2007−230867)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【分割の表示】特願2004−267756(P2004−267756)の分割
【原出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】