説明

強制潤滑式変速機のシャフト構造

【課題】シャフトの回転軸に直交する方向に形成された連通孔を介してシャフトの周囲からその軸芯に形成されたオイル通路に向かって比較的容易に潤滑油を流通させる。
【解決手段】シャフト13の軸芯にオイル通路13aが形成され、オイル通路と外周を連通する連通孔13cがシャフトに径方向に形成され、連通孔が形成されたシャフトの周囲に潤滑油を供給して連通孔を介してオイル通路に潤滑油を流入させる強制潤滑式変速機のシャフト構造である。シャフト13外周の連通孔13c周囲に連通孔13cに直交する底面26aを有する切り欠き部26が形成され、切り欠き部26は、底面26aがシャフト13の回転方向前方の外周に連通し、かつ底面26aとシャフト13外周面との間に生じる段差壁26b,26c,26dがシャフト13の軸方向両側と連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在するように、円周方向に延びて形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアケース内の潤滑油を吸引して各給油部にその潤滑油を供給する強制潤滑式変速機に関する。更に詳しくは、そのような変速機に用いられてその軸芯にオイル通路が形成された強制潤滑式変速機のシャフト構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、変速機の各給油部への潤滑をオイルポンプから送られる潤滑油によって強制的に行う強制潤滑式変速機が知られている。この変速機は、カウンタシャフトによって駆動されるオイルポンプによってギアケース内の潤滑油を吸引して各給油部の潤滑油取入れ部であるオイルマフラーに導くようにしている。図5に示すように、変速機のシャフト1には、その軸芯にオイル通路2が形成され、そのオイル通路2とシャフト1外周におけるオイルマフラー6を連通するように、その径方向に連通孔4が形成される。シャフト1の連通孔4が形成された部位は、その周囲がフロントリテーナ3に枢支され、シャフト1とフロントリテーナ3の間の隙間にオイルマフラー6が形成される。このシャフト1は、オイルマフラー6に供給された潤滑油を、連通孔4を介してオイル通路2に案内するように構成され、オイル通路2に案内された潤滑油は、そのオイル通路2を通して、図示しない各ギアのジャーナル部やシンクロ機構部に供給され、その供給された潤滑油によってそれらを潤滑するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−317860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、この強制潤滑式変速機におけるシャフト1は、通常毎分2千回転以上の速度で回転するといわれている。一方、潤滑油の流路である連通孔4は、シャフト1の回転軸に直交する方向にその回転中心から放射状に形成される。このため、シャフト1の回転により、連通孔4に流入した潤滑油にはシャフト1の回転中心から径方向外側に移動しようとする遠心力が生じる。従って、その遠心力に抗して、その連通孔4を介してシャフト1の周囲からその中心のオイル通路2に向かって潤滑油を流通させるには、比較的大きな圧力が必要とされることになり、オイルポンプの大型化や、他の潤滑油経路との間における潤滑油の配分調整が困難になる等の不具合を生じさせる。
【0005】
本発明の目的は、シャフトが回転するにもかかわらず、シャフトの回転軸に直交する方向に形成された連通孔を介してシャフトの周囲からその軸芯に形成されたオイル通路に向かって比較的容易に潤滑油を流通させ得る強制潤滑式変速機のシャフト構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シャフトの軸芯にオイル通路が形成され、オイル通路と外周を連通する連通孔がシャフトに径方向に形成され、連通孔が形成されたシャフトの周囲に潤滑油を供給して連通孔を介してオイル通路に潤滑油を流入させる強制潤滑式変速機のシャフト構造の改良である。
【0007】
その特徴ある構成は、シャフト外周に連通孔に交わる底面を有する切り欠き部が形成され、その切り欠き部は、底面がシャフトの回転方向前方の外周に連通し、かつ底面とシャフト外周面との間に生じる段差壁がシャフトの軸方向両側と連通孔のシャフトの回転方向後方に存在するように形成されたところにある。
【0008】
この強制潤滑式変速機のシャフト構造では、シャフトの軸方向両側における段差壁の間隔が、シャフトの回転方向前方に向かって拡大するように切り欠き部を形成することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の強制潤滑式変速機のシャフト構造では、シャフト外周にその連通孔に交わる底面を有する切り欠き部を形成し、その切り欠き部の底面をシャフトの回転方向前方の外周に連通させるとともに、底面とシャフト外周面との間に生じる段差壁をシャフトの軸方向両側と連通孔のシャフトの回転方向後方に存在するようにしたので、シャフトが回転すると、連通孔のシャフトの回転方向後方に存在する段差壁は、回転するシャフトの周囲における潤滑油を連通孔に掻き込むように作用する。従って、シャフトの回転により連通孔に流入した潤滑油に遠心力が生じたとしても、段差壁により生じる作用により、その連通孔を介してシャフトの周囲からその中心のオイル通路に向かって比較的容易に潤滑油を流通させることが可能となる。
【0010】
また、シャフトの軸方向両側における段差壁の間隔が、シャフトの回転方向前方に向かって拡大するように切り欠き部を形成すれば、回転方向前方に広がるシャフトの軸方向両側における段差壁が、シャフトの回転によりシャフトの周囲における潤滑油を集めるように作用する。すると、潤滑油が集められることに起因して、その切り欠き部で潤滑油の圧力が高められ、それにより潤滑油が連通孔に流入し易いような状態となる。そして、連通孔のシャフトの回転方向後方に存在する段差壁がシャフトの周囲の切り欠き部にあって圧力が高められた潤滑油を連通孔に効果的に掻き込むので、シャフトの周囲からその中心のオイル通路に向かって更に容易に潤滑油を流通させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施形態のシャフト構造を示す図4のA−A線断面図である。
【図2】そのシャフトの連通孔周囲に形成された切り欠き部を図1のB方向からみた上面図である。
【図3】本発明の別の切り欠き部を示す図2に対応する上面図である。
【図4】そのシャフト構造を有する強制潤滑式変速機の要部断面図である。
【図5】従来のシャフト構造を示す図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図4に、本発明の強制潤滑式変速機であって、前進6速、後退1速のトラックに用いられるオイルポンプ付き変速機10を示す。この変速機10は、そのギアケース11の内部の上側にメインシャフト12がトラックの前後方向に延びて配置される。メインシャフト12は、図示しないクラッチに連結されるインプットシャフト13と、その後方に同軸に設けられるアウトプットシャフト14を備える。一方、そのメインシャフト12の下方のギアケース11の内部には、カウンタシャフト16がそのメインシャフト12に平行に配置される。このカウンタシャフト16は、インプットシャフト13からエンジンの回転が直接的に伝達されて回転するように構成される。
【0014】
ギアケース11の前方には、その開口部を塞ぐようにクラッチハウジング20が設けられ、カウンタシャフト16の前端部におけるクラッチハウジング20にオイルポンプ19が設けられる。インプットシャフト13はクラッチハウジング20に枢支され、クラッチハウジング20から前方に突出するインプットシャフト13を包囲するフロントリテーナ22がクラッチハウジング20に一体的に取付けられる。このフロントリテーナ22に包囲されるインプットシャフト13には、その外周に凹溝13bが周方向に連続して形成され、インプットシャフト13の外周、即ちこの凹溝13bの内面とフロントリテーナ22との間の空間に、各給油部の潤滑油取入れ部となるオイルマフラー21が形成される。そして、オイルポンプ19は、カウンタシャフト16の回転によって駆動し、駆動するオイルポンプ19によってギアケース11内の潤滑油を吸引してオイルマフラー21に導くように構成される。
【0015】
メインシャフト12であるインプットシャフト13とアウトプットシャフト14には、それらの軸芯にオイル通路13a,14aが長手方向に延びてそれぞれ形成される。オイルマフラー21に位置するインプットシャフト13には、そのオイル通路13aとインプットシャフト13の外周におけるオイルマフラー21を連通するこの実施の形態では4本の連通孔13cが、径方向に放射状に形成される。そして、この連通孔13cが形成されたインプットシャフト13の周囲にあるオイルマフラー21に潤滑油が供給されると、その連通孔13cを介して軸芯に形成されたオイル通路13aにその潤滑油を流入させるように構成される。
【0016】
一方、アウトプットシャフト14のオイル通路14aは、インプットシャフト13のオイル通路13aに連通するように長手方向に連続して形成され、このアウトプットシャフト14の外周に複数のスピードギア17や、図示しないシンクロメッシュ、及びニードルベアリングなどが支持される。また、このアウトプットシャフト14には、外周に設けられた複数のスピードギア17、シンクロメッシュ、及びニードルベアリング等と、軸芯に形成されたオイル通路14aを連結する油路14bが形成される。このため、インプットシャフト13のオイル通路13aからアウトプットシャフト14のオイル通路14aに流れ込んだ潤滑油は、そのオイル通路14aから油路14bに流れ、そのアウトプットシャフト14の外周に設けられた複数のスピードギア17、シンクロメッシュ、及びニードルベアリングなどに供給されて潤滑するように構成される。
【0017】
本発明の特徴ある構成は、図1及び図2に詳しく示すように、インプットシャフト13外周の連通孔13c周囲にその連通孔13cに交わる底面26aを有する切り欠き部26が形成されたところにある。この切り欠き部26は、例えばエンドミル等の切削工具を用い、インプットシャフト13の外周からその軸芯に向けてそのシャフト13を切削することにより作られる。このように、切り欠き部26はインプットシャフト13を外周から切削するので、その切り欠き部26の底面26aとシャフト13の外周面との間には切削により生じた段差が生じ、その段差により底面26aを包囲する段差壁26b,26c,26dが連通孔13cの周囲に形成される。けれども、この切り欠き部26は、その底面26aが連通孔13cに直交してシャフト13の回転方向前方の外周に滑らかに連通するように、シャフト13の円周方向に延びて細長く形成される。このため、底面26aを包囲する段差壁26b,26c,26dはシャフト13の回転方向前方に生じない。即ち、図2に詳しく示すように、この切り欠き部26は、底面26aとシャフト13外周面との間に生じる段差壁26b,26c,26dが、シャフトの軸方向両側と連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在するように、円周方向に延びて形成される。
【0018】
ここで、図2には、シャフト13の軸方向両側における段差壁26b,26cが互いに平行になるような切り欠き部26であって、シャフト13の回転方向後方に存在する段差壁26dが、軸方向両側における互いに平行な段差壁26b,26cを滑らかに連続させるような円弧状に形成される場合を示す。けれども、この切り欠き部26の形状はこれに限られない。例えば、図3に示すように、シャフト13の軸方向両側における段差壁26b,26cの間隔が、シャフト13の回転方向前方に向かって拡大するように切り欠き部26を形成しても良い。
【0019】
このようなシャフト構造を有する強制潤滑式変速機10では、図示しないエンジンが駆動すると、カウンタシャフト16はインプットシャフト13からエンジンの回転が直接的に伝達されて回転し、カウンタシャフト16の回転によって駆動するオイルポンプ19によってギアケース11内の潤滑油がオイルマフラー21に導かれる。オイルマフラー21に潤滑油が供給されると、連通孔13cを介して軸芯に形成されたオイル通路13aにその潤滑油が流入し、そのオイル通路13a,14aから油路14bに流れた潤滑油がアウトプットシャフト14の外周に設けられた複数のスピードギア17、シンクロメッシュ、及びニードルベアリングなどを強制的に潤滑することになる。
【0020】
オイルマフラー21に潤滑油が供給されると、メインシャフト12を構成するインプットシャフト13の連通孔13cを介してシャフト13の周囲から軸芯に形成されたオイル通路13aにその潤滑油が流入するけれども、この強制潤滑式変速機10におけるインプットシャフト13は、通常毎分2千回転以上の速度で回転するといわれている。一方、本発明では、シャフト13外周の連通孔13c周囲にその連通孔13cに直交する底面26aを有する切り欠き部26を形成し、その切り欠き部26の底面26aをシャフト13の回転方向前方の外周に連通させるとともに、底面26aとシャフト13外周面との間に生じる段差壁26b,26c,26dをシャフト13の軸方向両側と連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在するようにしたので、図1の実線矢印で示すようにシャフト13が回転すると、連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在する段差壁26dは、回転するシャフト13の周囲における潤滑油を連通孔13cに掻き込むように作用する。
【0021】
即ち、潤滑油の流路である連通孔13cは、シャフト13の回転軸に直交する方向にその回転中心から放射状に形成されているので、シャフト13の回転により連通孔13cに流入した潤滑油には遠心力が生じる。しかし、本発明では、連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在する段差壁26dが、その回転によりシャフト13の周囲における潤滑油の抵抗となり、そのシャフト13の周囲における潤滑油を連通孔13cに効果的に掻き込むように作用する。よって、連通孔13cに流入した潤滑油に遠心力が生じたとしても、そのシャフト13の周囲からその中心のオイル通路13aに向かって比較的容易に潤滑油を流通させることが可能となる。このように、容易に潤滑油をオイル通路13aに流通させることができるので、その流通した潤滑油により、アウトプットシャフト14上に支持される複数のスピードギア17、シンクロメッシュ、及びニードルベアリングなどを強制的でかつ効率的に潤滑することが可能になる。
【0022】
また、図3に示すように、シャフト13の軸方向両側における段差壁26b,26cの間隔が、シャフト13の回転方向前方に向かって拡大するように切り欠き部26を形成すれば、シャフト13が回転すると、回転方向前方に広がるシャフト13の軸方向両側における段差壁26b,26cが、シャフト13の周囲における潤滑油を集めるようになり、その切り欠き部26で潤滑油の圧力を高めるような作用を成す。そして、連通孔13cのシャフト13の回転方向後方に存在する段差壁26dが、連通孔13cの周囲の切り欠き部26にあって圧力が高められた潤滑油をその連通孔13cに効果的に掻き込むので、シャフト13の周囲からその中心のオイル通路13aに向かって更に容易に潤滑油を流通させることが可能となる。
【0023】
また、連通孔13cは、従来からインプットシャフト13の外周からその軸芯に向けてシャフト13に孔あけ加工を施すことにより作られるけれども、その連通孔13cをあける位置に本発明の切り欠き部26を予め切削により形成することにより、その切り欠き部26における平らな底面26aから孔あけ加工を行うことが可能になる。このため、連通孔13cを形成するための孔あけ加工が従来より容易になるという効果も生じさせる。
【0024】
なお、上述した実施の形態では、4本の連通孔13cがシャフトの径方向に放射状に形成される場合を例示したが、連通孔13cの本数はこれに限定されるものではない。連通孔13cは、例えば、2本であっても良く、3本であっても良い。更に5本であっても、6本であっても、7本又は8本であっても良い。
【0025】
また、上述した実施の形態では、インプットシャフト13の外周に凹溝13bを形成して、その凹溝13bの内面とフロントリテーナ22との間の空間にオイルマフラー21が形成される旨説明したが、インプットシャフト13の外周にオイルマフラー21用の空間を形成しうる限り、この凹溝13bは形成しなくても良い。
【符号の説明】
【0026】
13 シャフト
13a オイル通路
13c 連通孔
26 切り欠き部
26a 底面
26b,26c 軸方向両側における段差壁(段差壁)
26d 回転方向後方に存在する段差壁(段差壁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(13)の軸芯にオイル通路(13a)が形成され、前記オイル通路(13a)と外周を連通する連通孔(13c)が前記シャフト(13)に径方向に形成され、前記連通孔(13c)が形成された前記シャフト(13)の周囲に潤滑油を供給して前記連通孔(13c)を介して前記オイル通路(13a)に前記潤滑油を流入させる強制潤滑式変速機のシャフト構造において、
前記シャフト(13)外周に前記連通孔(13c)に交わる底面(26a)を有する切り欠き部(26)が形成され、
前記切り欠き部(26)は、前記底面(26a)が前記シャフト(13)の回転方向前方の外周に連通し、かつ前記底面(26a)と前記シャフト(13)外周面との間に生じる段差壁(26b,26c,26d)が前記シャフト(13)の軸方向両側と前記連通孔(13c)の前記シャフト(13)の回転方向後方に存在するように形成された
ことを特徴とする強制潤滑式変速機のシャフト構造。
【請求項2】
シャフト(13)の軸方向両側における段差壁(26b,26c)の間隔が、前記シャフト(13)の回転方向前方に向かって拡大するように切り欠き部(26)が形成された請求項1記載の強制潤滑式変速機のシャフト構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−47530(P2013−47530A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185411(P2011−185411)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】