説明

強化ガラス及び強化ガラス基板、並びにその製造方法

【課題】 ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立させ、かつ短時間でイオン交換処理を行っても、圧縮応力層の厚みが大きくなるために機械的強度が高く、成形性に優れた強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
【解決手段】 本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス基板に関するものであり、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、あるいはタッチパネルディスプレイに好適な強化ガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、あるいはタッチパネルディスプレイといったデバイスは、ますます普及する傾向にある。
【0003】
従来、これらの用途ではディスプレイを保護するための保護部材としてアクリル等の樹脂が用いられていた。しかしアクリル樹脂ではヤング率が低いため、指などでディスプレイが押された場合にアクリル樹脂基板がたわみ、ディスプレイに接触して表示不良が発生する場合があった。また傷がつきやすく、視認性が悪化しやすくなるといった問題があった。これらの問題を解決するひとつの方法は保護部材としてガラス基板を用いる方法である。これらの保護部材に用いられるガラス基板には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)低密度であること、(3)安価で多量に供給できること、(4)泡品位に優れることが求められる。(1)の要件を満たすため、従来イオン交換等で強化したガラス基板(所謂、強化ガラス基板)が用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、ガラス組成中のAl23含有量を増加させていくと、ガラスのイオン交換性能が向上し、ガラス基板の機械的強度を向上できることが記載されている。
【0005】
しかし、ガラス組成中のAl23含有量を増加させていくと、ガラスの耐失透性が悪化し、成形中にガラスが失透しやすくなり、ガラス基板の製造効率、品位等が悪化する。またガラスの耐失透性が悪いと、ロール成形等の方法でしか成形できず、表面精度の高いガラス板を得ることができない。それ故、ガラス板の成形後、別途研磨工程を付加しなければならない。しかしながらガラス基板を研磨すると、ガラス基板の表面に微小な欠陥が発生しやすくなり、ガラス基板の機械的強度を維持し難くなる。
【0006】
このような事情から、ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立することが困難であり、ガラス基板の機械的強度を顕著に向上させることが困難となっていた。また、デバイスの軽量化を図るため、タッチパネルディスプレイ等のデバイスに用いられるガラス基板は、年々薄肉化されてきている。薄板のガラス基板は破損しやすいことから、ガラス基板の機械的強度を向上させる技術は益々重要となってきている。
【0007】
またガラスにイオン交換処理を施し、ガラス表面に高い圧縮応力値を形成したとしても、その圧縮応力値より低い応力で破損する場合があり、結果として強度のばらつきが大きくなることがある。この原因としては、圧縮応力層の深さが小さいことが考えられる。そのため圧縮応力層の厚みを大きくすることが望まれるが、圧縮応力層の厚みを大きくすると、イオン交換処理時間が長くなったり、圧縮応力値が低下しやすくなる。また強度のばらつきを小さくする方法として、ガラスをKNO3溶液で処理した後、さらにNaNO3溶液で処理する方法が知られているが、この方法も処理時間が長くなり、コストが高くなるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、ガラスのイオン交換性能と耐失透性を両立させ、かつ短時間でイオン交換処理を行っても、圧縮応力層の厚みが大きくなるため、機械的強度が高く、成形性に優れた強化ガラスを得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス中のAl23とMgOの割合を規制することによって、イオン交換性能と耐失透性を向上することができることを見いだした。またAl23とアルカリ金属酸化物の割合を規制することによって耐失透性を向上することができることを見いだした。またK2Oを所定量含有させることによって、圧縮応力層の厚みを大きくすることができることを見いだした。またK2OとNa2Oの割合を規制することによって、圧縮応力値を低下させることなく、圧縮応力層の厚みを大きくすることができることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0010】
即ち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。なお、特に断りのない限り、以下の説明において「%」はモル%を意味する。
【0011】
また本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、モル%で、SiO2 45〜80%、Al23 8〜11%、B23 0〜5%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜8%、CaO 0〜6%、MgO 0〜6%、Al23+MgO 8〜16.5%、CaO+MgO 0〜7%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.1〜0.8であり、実質的にAs2O3、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0012】
また本発明の強化ガラスは、SnO2を0.01〜6%含有することを特徴とする。
【0013】
また本発明の強化ガラスは、平均破壊応力が300MPa以上であり、ワイブル係数が15以上であることを特徴とする。ここで、「平均破壊応力」は、3mm×4mm×40mmの寸法を有し、全面を光学研磨したガラス試験片を使用して3点曲げ試験を行い、得られた破壊荷重から算出した破壊応力の平均値を指す。また「ワイブル係数」は、平均値ランク法を用いて破壊応力をワイブルプロットした際に得られる近似直線の傾きを指す。
【0014】
また本発明の強化ガラス基板は、表面の圧縮応力が300MPa以上であり、圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする。ここで、「表面の圧縮応力」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0015】
また本発明の強化ガラス基板は、上記強化ガラスからなることを特徴とする。
【0016】
また本発明の強化ガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法によって板状に成形されてなることを特徴とする。
【0017】
また本発明の強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することを特徴とする。ここで「未研磨の表面」とはガラス基板の主表面(いわゆる表面と裏面)が研磨されていないということである。言い換えれば両表面が火造り面であるということを意味し、表面の平均表面粗さ(Ra)はSEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した場合に平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、好ましくは5Å以下、より好ましくは2Å以下である。なお端面部については、面取り等の研磨処理がなされていてもよい。
【0018】
また本発明の強化ガラス基板は、液相温度が1075℃以下であることを特徴とする。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0019】
また本発明の強化ガラス基板は、液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を指す。なお、液相粘度が高く、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性は優れ、ガラス基板の成形性に優れている。
【0020】
また本発明の強化ガラス基板は、タッチパネルディスプレイに用いることを特徴とする。
【0021】
また本発明の強化ガラス基板は、携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする。
【0022】
また本発明の強化ガラス基板は、太陽電池のカバーガラスに用いることを特徴とする。
【0023】
また本発明の強化ガラス基板は、ディスプレイの保護部材として用いられることを特徴とする。
【0024】
また本発明のガラスは、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0025】
また本発明のガラスは、SnO2を0.01〜6%含有することを特徴とする。
【0026】
また本発明の強化ガラス基板の製造方法は、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、ガラスを板状に成形した後、イオン交換処理を施すことによって、ガラス表面に圧縮応力層を形成することを特徴とする。
【0027】
また本発明の強化ガラス基板の製造方法は、SnO2を0.01〜6%含有することを特徴とする。
【0028】
また本発明の強化ガラス基板の製造方法は、ダウンドロー法にて板状に成形することを特徴とする。
【0029】
また本発明の強化ガラス基板の製造方法は、オーバーフローダウンドロー法にて板状に成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の強化ガラスは、イオン交換性能が高く、短時間で処理を行ったとしても高い圧縮応力が、より深くまで形成されるため、機械的強度が高くなり、また機械的強度のばらつきが小さくなる。
【0031】
また本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法等を採用することが可能である。それゆえ成形後の研磨が不要であり、研磨により生じる微小欠陥がない。それゆえ機械的強度が高いという効果がある。
【0032】
さらに本発明の強化ガラスは、研磨工程を行うことなく作製可能であるため、製造コストが低減でき、安価に供給することが可能である。
【0033】
それゆえ、本発明の強化ガラス基板は、タッチパネルディスプレイ、携帯電話のカバーガラス、太陽電池のカバーガラス、ディスプレイの保護部材等に好適に使用できる。なおタッチパネルディスプレイは、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等に搭載されている。モバイル用途のタッチパネルディスプレイでは、軽量化、薄型化、高強度化の要請が強く、薄型で機械的強度が高いガラス基板が要求されている。その点、本発明の強化ガラス基板は、板厚を薄くしても、実用上、十分な機械的強度を有するため、モバイル用途に好適である。
【0034】
また本発明のガラスは、高いイオン交換性能を有している。また耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法等で成形可能である。
【0035】
それゆえ本発明のガラスを用いれば、機械的強度が高い強化ガラス基板を安価に作製可能である。
【0036】
また本発明の強化ガラスの製造方法は、イオン交換性能が高く、且つ耐失透性に優れるガラスを用いるものであるため、機械的強度が高い強化ガラス基板を安価に作製可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の強化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。ガラスの表面に圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄くても、良好に強化処理を施すことができ、所望の機械的強度を得ることができる。さらに、ガラスに圧縮応力層を形成した後にガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法で強化されたガラスのように容易に破壊することがない。
【0038】
イオン交換の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性等を考慮して決定すればよい。特に、KNO3溶融塩中のKイオンをガラス基板中のNa成分とイオン交換すると、ガラス基板の表面に圧縮応力層を効率良く形成することができるため好ましい。
【0039】
本発明の強化ガラス基板において、ガラス組成を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。
【0040】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は40〜80%、好ましくは45〜80%、55〜75%、60〜75%、特に60〜70%である。SiO2の含有量が多くなり過ぎると、ガラスの溶融、成形が難しくなり、また熱膨張係数が小さくなり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。一方、SiO2の含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下する。
【0041】
Al23はイオン交換性能を高める成分である。またガラスの歪点およびヤング率を高くする効果もあり、その含有量は5〜15%である。Al23の含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出しやすくなってオーバーフローダウンドロー法等による成形が困難になる。またガラスの熱膨張係数が小さくなり過ぎて周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなり、またガラスの高温粘性が高くなり溶融し難くなる。Al23の含有量が少な過ぎると、十分なイオン交換性能を発揮できない虞が生じる。従ってAl23の好適な範囲は、7〜11%、さらに8〜11%、8〜10%、特に8〜9%である。
【0042】
23は、ガラスの高温粘度及び密度を低下させると共に、ガラスのイオン交換性能、特に圧縮応力値を向上させる効果がある。さらにガラスを安定化させて結晶を析出させにくくし、ガラスの液相温度を低下させる効果がある。しかしながらB23が多くなりすぎると、イオン交換によってヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、ガラスの耐水性が低下したり、圧縮応力層の深さが小さくなるため好ましくない。従ってB23の含有量は、0〜8%、好ましくは0〜5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%である。
【0043】
Li2Oは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる成分である。さらにLi2Oは、ガラスのヤング率を向上させる効果がある成分である。またLi2Oはアルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が高い。しかしLi2Oの含有量が多くなり過ぎると液相粘度が低下してガラスが失透しやすくなる。またガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、低温粘性が低下しすぎて応力緩和が起こりやすくなると、かえって圧縮応力値が低くなる場合がある。従ってLi2Oの含有量は0〜10%であり、さらに0〜5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%であることが好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満に抑えることが最も好ましい。
【0044】
Na2Oは、イオン交換成分であるとともに、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させる効果がある。また、Na2Oは、ガラスの耐失透性を改善する成分でもある。Na2Oの含有量は5〜20%であるが、より好適な含有量は、8〜20%、8.5〜20%、10〜18%、10〜16%、11〜16%、12〜16%、特に13〜16%である。Na2Oの含有量が多くなり過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向がある。一方、Na2Oの含有量が少ないと、溶融性が悪化し、熱膨張係数が小さくなり、さらにイオン交換性能が悪化する。
【0045】
2Oは、イオン交換を促進する効果があり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の深さを深くする効果が高い。またガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める効果がある。また、K2Oは、耐失透性を改善する成分でもある。しかしながらK2Oの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに歪点が低下しすぎたり、ガラス組成のバランスを欠き、かえってガラスの耐失透性が悪化する傾向がある。従って、その含有量は、0.5〜20%、好ましくは、0.5〜8%、1〜7.5%、2〜7.5%、3〜7.5%、特に3.5〜7.5%である。
【0046】
MgOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高めたりする成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。しかし、MgOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透しやすくなる傾向がある。したがって、その含有量は、0〜10%、0〜6%、0〜4%とすることが望ましい。
【0047】
また本発明では、Al23とMgOの合量が、8〜16.5%であることを特徴とする。この合量値が少なくなると、ガラスのイオン交換性能が悪化する。逆に多くなると、ガラスの耐失透性が悪化し、成形性が低下する。従って好ましくは8〜16%、より好ましくは8〜14%とする。
【0048】
また本発明は、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O/Al23の比が、1.4〜3であり、かつNa2O/Al23の比が、1〜3であることを特徴とする。すなわち、これらの比が、1.4〜3の範囲であると、ガラスの耐失透性を効果的に改善することができる。尚、(Li2O+Na2O+K2O/Al23の比のより好ましい範囲は、1.5〜2.5であり、さらに1.8〜2.5である。またNa2O/Al23の比のより好ましい範囲は、1.2〜3、さらには1.2〜2.5である。
【0049】
また本発明は、MgO/Al23の比が0〜1であることを特徴とする。この比が1より大きくなると耐失透性が悪化する。MgO/Al23比の好ましい範囲は、0〜0.7、特に0〜0.5である。
【0050】
また本発明は、環境面の配慮から、実質的にAs23、PbO、Fを含有しない。ここで「実質的に含有しない」とは、積極的に原料として用いず、不純物として混入するレベルであることを意味し、含有量としては0.1%未満となる。
【0051】
本発明の強化ガラス基板は、上記成分から構成されるが、ガラスの特性を損なわない範囲で、以下の成分を添加することができる。
【0052】
CaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高めたりする成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を向上させる効果が高い。CaOの含有量は0〜6%である。しかし、CaOの含有量が多くなると、ガラスの密度、熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透しやすくなったり、更にはイオン交換性能が悪化する傾向がある。したがって、その含有量は0〜5%、特に0〜4%とすることが望ましい。
【0053】
MgO+CaOは、0〜7%にすることが好ましい。7%より多くなると、ガラスのイオン交換性能は向上するが、ガラスの耐失透性が悪化したり、密度や熱膨張係数が高くなりすぎる。好ましい範囲は、0〜6%、0〜5%、0〜4%、特に0〜3%である。
【0054】
SrO及びBaOは、ガラスの高温粘度を低下させて溶融性や成形性を向上させたり、歪点やヤング率を高めたりする成分であるが、その含有量は、各々0〜6%である。6%より多くなると、イオン交換反応を阻害する。またガラスの密度、熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透しやすくなる。SrOの好ましい含有量は、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.2%である。またBaOの好ましい含有量は、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.2%である。
【0055】
本発明では、SrOとBaOの合量を0〜6%に規制することによって、より効果的にイオン交換性能を向上させることができる。好ましい合量値は、0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.2%である。
【0056】
TiO2は、イオン交換性能を向上させる効果がある成分である。またガラスの高温粘度を低下させる効果があるが、その含有量が多くなりすぎると、ガラスが着色したり、失透しやすくなる。従って、その含有量は、0〜3%、好ましくは0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0057】
ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させると共にガラスの液相粘度付近の粘性や歪点を高くする効果があるが、その含有量が多くなりすぎると、耐失透性が著しく低下する。従って、その含有量は、0〜10%、好ましくは0〜5%、0〜3%、0.001〜3%、0.1〜3%、1〜3%、特に1.5〜3%である。
【0058】
本発明においては、イオン交換性能向上の観点から、ZrO2とTiO2を合量で0.1〜15%含有させることが望ましいが、TiO2源、ZrO2源として試薬を用いても良いし原料等に含まれる不純物から含有させても良い。
【0059】
またアルカリ金属酸化物R2O(RはLi、Na、Kから選ばれる1種以上)の含有量が多くなり過ぎると、ガラスが失透しやすくなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなったりする。またガラスの歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られにくくなる場合がある。さらに液相温度付近の粘性が低下し、高い液相粘度を確保することが困難となる場合がある。一方、R2Oの合量が少なすぎると、ガラスのイオン交換性能や溶融性が悪化する。従ってR2Oは10〜25%、好ましくは13〜22%、さらに15〜20%、特に16.5〜20%含有することが望ましい。
【0060】
またK2O/Na2Oのモル比の範囲は、0.1〜0.8であることが好ましい。0.1より小さくなると、圧縮応力層の深さが小さくなりやすく、1より大きくなると、得られる圧縮応力値が低下したり、組成のバランスを欠いて失透しやすくなる。K2O/Na2Oのモル比の範囲は、0.2〜0.8、0.2〜0.5、0.2〜0.4の範囲に規制することが望ましい。
【0061】
アルカリ土類金属酸化物R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上)が多くなると、ガラスの密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が悪化したりすることに加えて、イオン交換性能が悪化する傾向がある。それ故、アルカリ土類金属酸化物R’Oの合量は、0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜7、さらに0〜6%、最も好ましくは0〜4%である。
【0062】
ZnOは、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力値を高くする効果が大きい。またガラスの低温粘性を低下させずに高温粘性を低下させる効果を有する成分である。しかし、ZnOの含有量が多くなると、ガラスが分相したり、失透性が悪化したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。従って、その含有量は0〜6%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、さらに好ましくは0〜1%である。
【0063】
またR’Oの合量をR2Oの合量で除した値が大きくなると、ガラスの耐失透性が悪化する傾向が現れる。それ故、質量分率でR’O/R2Oの値を0.5以下、0.3以下、0.2以下に規制することが望ましい。
【0064】
またSnO2は、ガラスの清澄剤として働くと共に、イオン交換性能をより向上させる効果があるが、その含有量が多くなるとSnO2に起因する失透が発生したり、ガラスが着色しやすくなる傾向がある。従って、0.01〜6%、0.01〜3%、特に0.1〜1%含有することが望ましい。
【0065】
25は、ガラスのイオン交換性能を高める成分であり、特に、圧縮応力厚みを厚くする効果が大きいため、10%まで含有させることができる。しかし、P25の含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性が悪化したりするため、その含有量は0〜10%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%にすることが望ましい。
【0066】
また清澄剤としてAs23、Sb23、CeO2、SnO2、F、Cl、SO3の群から選択された一種または二種以上を0〜3%含有させてもよい。ただし、As23及びFは、環境に対する配慮から、使用は極力控えるべきであり、本発明では実質的に含有しない。従って本発明において好ましい清澄剤の含有量はSnO2+CeO2+Cl 0.001〜1%、好ましくは0.01〜0.5%、より好ましくは0.05〜0.4%である。
【0067】
また上記したようにSnO2にはイオン交換性能を向上させる効果もあるため、清澄効果とイオン交換性能向上効果を同時に得るためにSnO2 0.01〜6%、好ましくは0.01〜3%、より好ましくは0.1〜1%含有することが望ましい。一方、清澄剤としてSnO2を使用すると、ガラスが着色することがあるため、ガラスの着色を抑制しながら溶融性を向上させる必要がある場合には、清澄剤としてSb23 0.01〜5%、好ましくは0.01〜3%、あるいはSO3 0.001〜5%、好ましくは0.001〜3%を使用することが望ましい。またSnO2、Sb23、SO3を共存させることで、ガラスのイオン交換性能を向上させながら、着色を抑えることが可能となり、SnO3+Sb23+SO3 0.001〜10%、好ましくは0.01〜5%の含有量とすることが適当である。
【0068】
またNb25やLa23等の希土類酸化物は、ガラスのヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に含有させると耐失透性が悪化する。それ故、それらの含有量は、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下に制限することが望ましい。
【0069】
なお、本発明において、Co、Ni等のガラスを強く着色するような遷移金属元素は、ガラス基板の透過率を低下させるため好ましくない。特に、タッチパネルディスプレイ用途に用いる場合、遷移金属元素の含有量が多いと、タッチパネルディスプレイの視認性が損なわれる。具体的には0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下となるよう、原料あるいはカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0070】
また、PbO、Bi23等の物質は環境に対する配慮から、使用は極力控えるべきであり、本発明では、PbOを実質的に含有しない。
【0071】
本発明の強化ガラス基板は、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好ましいガラス組成範囲とすることができる。その中でも、より好適なガラス組成範囲の例は以下の通りである。
【0072】
(1)モル%で、SiO2 50〜80%、Al23 8〜10.5%、B23 0〜3%、Li2O 0〜4%、Na2O 8〜20%、K2O 1〜7.5%、CaO 0〜6%、MgO 0〜6%、SrO 0〜6%、BaO 0〜6%、ZnO 0〜6%、Al23+MgO 8〜16.5%、CaO+MgO 0〜7%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.5〜2.5、Na2O/Al23比が1.2〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.2〜0.8であり、実質的にAs23、PbO、F、BaOを含有しないことを特徴とする。
【0073】
(2)モル%で、SiO2 55〜75%、Al23 8〜10%、B23 0〜2%、Li2O 0〜4%、Na2O 8.5〜20%、K2O 3.5〜7.5%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜1.5%、BaO 0〜1.5%、ZnO 0〜1%、TiO2 0〜0.8%、ZrO2 0〜3%、MgO+Al23 8〜16%、MgO+CaO 0〜7%、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.8〜2.5、Na2O/Al23比が1.2〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.2〜0.5であり、実質的にAs23、PbO、F、BaOを含有しないことを特徴とする。
【0074】
(3)モル%で、SiO2 55〜75%、Al23 8〜10%、B23 0〜2%、Li2O 0〜4%、Na2O 10〜16%、K2O 3.5〜7.5%、MgO 0〜4%、CaO 0〜4%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、ZnO 0〜1%、TiO2 0〜0.5%、ZrO2 0〜3%、P25 0〜1%、MgO+Al23 8〜14%、MgO+CaO 0〜3%、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.8〜2.5、Na2O/Al23比が1.2〜3、MgO/Al23比が0〜0.5、K2O/Na2O比が0.2〜0.4であり、実質的にAs23、PbO、F、BaOを含有しないことを特徴とする。
【0075】
(4)モル%で、SiO2 55〜75%、Al23 8〜10%、B23 0〜2%、Li2O 0〜4%、Na2O 11〜16%、K2O 3.5〜7.5%、MgO 0〜4%、CaO 0〜3%、SrO 0〜0.5%、BaO 0〜0.5%、ZnO 0〜1%、TiO2 0〜0.5%、ZrO2 0〜3%、P25 0〜1%、SnO2 0.01〜2%、MgO+Al23 8〜14%、MgO+CaO 0〜3%、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.8〜2.5、Na2O/Al23比が1.2〜2.5、MgO/Al23比が0〜0.5、K2O/Na2O比が0.2〜0.4であり、実質的にAs23、PbO、F、BaOを含有しないことを特徴とする。
【0076】
(5)モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%、Sb23 0.01〜5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0077】
(6)モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%、SO3 0.001〜5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0078】
(7)モル%で、SiO2 45〜80%、Al23 8〜12%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、CaO 0〜6%、MgO 0〜6%、Al23+MgO 8〜16.5%、CaO+MgO 0〜7%、SnO2+Sb23+SO3 0.001〜10%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.1〜0.8であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0079】
本発明の強化ガラスは、下記の特性を満足することが好ましい。
【0080】
本発明の強化ガラスは、上記ガラス組成を有するとともに、ガラス表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力は、300MPa以上、400MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、600MPa以上が更に好ましく、900MPa以上が更に好ましい。圧縮応力が大きくなるにつれて、ガラス基板の機械的強度が高くなる。一方、ガラス基板表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、基板表面にマイクロクラックが発生し、かえってガラスの強度が低下する虞がある。また、ガラス基板に内在する引っ張り応力が極端に高くなる恐れがあるため、2000MPa以下とするのが好ましい。なお圧縮応力が大きくなるようにするには、Al23、TiO2、ZrO2、MgO、ZnO、の含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減したりすればよい。またイオン交換に要する時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げればよい。
【0081】
圧縮応力層の厚みは、10μm以上が好ましく、15μm以上、20μm以上、30μm以上、40μ以上が最も好ましい。圧縮応力層の厚みが大きい程、ガラス基板に深い傷がついても、ガラス基板が割れにくくなる。また機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、ガラス基板が切断しにくくなるため、圧縮応力層の厚みは500μm以下とするのが好ましい。なお圧縮応力層の厚みを大きくするには、K2O、P25の含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減したりすればよい。またイオン交換に要する時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を高めたりすればよい。
【0082】
本発明の強化ガラスは、平均破壊応力が300MPa以上であり、ワイブル係数が15以上であることが好ましい。
【0083】
本発明の強化ガラス基板は、板厚が3.0mm以下、1.5mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、特に0.3mm以下であることが好ましい。ガラス基板の板厚が薄い程、ガラス基板を軽量化することできる。また、本発明の強化ガラス基板は、板厚を薄くしても、ガラス基板が破壊しにくい利点を有している。なおガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行う場合、ガラスの薄肉化を研磨等を行うことなく達成できるため有利である。
【0084】
本発明の強化ガラス基板は、未研磨の表面を有することが好ましく、未研磨の表面の平均表面粗さ(Ra)は10Å以下、好ましくは5Å以下、より好ましくは2Å以下である。尚、表面の平均表面粗さ(Ra)はSEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定すればよい。ガラスの理論強度は本来非常に高いのであるが、理論強度よりも遥かに低い応力でも破壊に至ることが多い。これは、ガラス基板の表面にグリフィスフローと呼ばれる小さな欠陥がガラスの成形後の工程、例えば研磨工程等で生じるからである。それ故、強化ガラス基板の表面を未研磨とすれば、本来のガラス基板の機械的強度を損ない難くなり、ガラス基板が破壊し難くなる。また、ガラス基板の表面を未研磨とすれば、ガラス基板の製造工程で研磨工程を省略できるため、ガラス基板の製造コストを下げることができる。本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の両面全体を未研磨とすれば、ガラス基板が更に破壊し難くなる。また、本発明の強化ガラス基板において、ガラス基板の切断面から破壊に至る事態を防止するため、ガラス基板の切断面に面取り加工等を施してもよい。なお、未研磨の表面を得るためには、ガラスの成形をオーバーフローダウンドロー法で行えばよい。
【0085】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相温度が1075℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下であることが好ましく、860℃以下が特に好ましい。ここで、「液相温度」とは、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。なお液相温度を低下させるには、Na2O、K2O、B23の含有量を増加させたり、Al23、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減したりすればよい。
【0086】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの液相粘度は、104.0dPa・s以上が好ましく、104.6dPa・s以上がより好ましく、105.0dPa・s以上が更に好ましく、105.6dPa・s以上が特に好ましく、105.8dPa・s以上が最も好ましい。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を指す。なお液相粘度を上昇させるには、Na2O、K2Oの含有量を増加させたり、Al23、Li2O、MgO、ZnO、TiO2、ZrO2の含有量を低減したりすればよい。
【0087】
なお、液相粘度が高く、液相温度が低いほど、ガラスの耐失透性は優れるとともに、ガラス基板の成形性に優れている。そしてガラスの液相温度が1075℃以下で、ガラスの液相粘度は、104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法で成形可能である。
【0088】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの密度が2.7g/cm3以下であることが好ましく、2.55g/cm3以下がより好ましく、2.5g/cm3以下が更に好ましく、2.43g/cm3以下が特に好ましい。ガラスの密度が小さい程、ガラス基板の軽量化を図ることができる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。なおガラスの密度を低下させるには、SiO2、P25、B23の含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO2、TiO2の含有量を低減したりすればよい。
【0089】
本発明の強化ガラス基板は、30〜380℃の温度範囲におけるガラスの熱膨張係数が70〜110×10-7/℃であることが好ましく、75〜100×10-7/℃であることがより好ましく、80〜100×10-7/℃であることが更に好ましく、85〜96×10-7/℃であることが特に好ましい。ガラスの熱膨張係数を上記範囲とすれば、金属、有機系接着剤等の部材と熱膨張係数が整合しやすくなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止することができる。ここで、「熱膨張係数」とは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお熱膨張係数を上昇させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加さればよく、逆に低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0090】
本発明の強化ガラス基板は、歪点が400℃以上であることが好ましく、430℃以上がより好ましく、450℃以上がより好ましく、490℃以上がさらに好ましい。ガラスの歪点が高いほどガラスの耐熱性が優れることなり、強化ガラス基板に熱処理を施したとしても、強化層が消失しがたくなる。またガラスの歪点が高いとイオン交換中に応力緩和が起こりにくくなるため高い圧縮応力値を得ることが可能になる。ガラスの歪点を高くするためにはアルカリ金属酸化物の含有量を低減させたり、アルカリ土類金属酸化物、Al23、ZrO2、P25の含有量を増加させればよい。
【0091】
本発明の強化ガラス基板は、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が1650℃以下が好ましく、1610℃以下がより好ましく、1600℃以下がより好ましく、1500℃以下がより好ましく、1450℃以下が更に好ましい。ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、溶融窯等のガラスの製造設備への負担が小さいとともに、ガラス基板の泡品位を向上させることができる。つまり、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、ガラス基板を安価に製造することができる。なお、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は、ガラスの溶融温度に相当しており、ガラスの高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低いほど、低温でガラスを溶融することができる。なお102.5dPa・sに相当する温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B23、TiO2の含有量を増加させたり、SiO2、Al23の含有量を低減すればよい。
【0092】
本発明の強化ガラスは、ヤング率が65GPa以上、69GPa以上、71GPa以上、75GPa以上、77GPa以上であることが好ましい。ヤング率が高いほど、ガラスがたわみにくく、タッチパネル等に用いた際、ペンなどで強く押されても、変形量が小さくなるため、背面に位置する液晶素子に接触して表示不良が起きるのを防止することができる。
【0093】
また本発明のガラスは、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とし、好ましくはモル%で、SiO2 45〜80%、Al23 8〜11%、B23 0〜5%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜8%、CaO 0〜6%、MgO 0〜6%、Al23+MgO 8〜16.5%、CaO+MgO 0〜7%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.1〜0.8であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする。
【0094】
本発明のガラスにおいて、ガラス組成を上記範囲に限定した理由および好ましい範囲は、既述の強化ガラス基板と同様であるため、ここではその記載を省略する。さらに、本発明のガラスは、当然のことながら、既述の強化ガラス基板の特性、効果を有している。
【0095】
本発明のガラスは、430℃のKNO3溶融塩中でイオン交換したとき、表面の圧縮応力が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、また表面の圧縮応力が500MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが30μm以上になることが好ましく、さらに表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが40μm以上になることが好ましい。尚、このような応力を得る条件は、KNO3の温度が400〜550℃、イオン交換処理時間が2〜10時間、好ましくは4〜8時間である。本発明のガラスは、上記組成を有するため、KNO3溶液とNaNO3溶液の混合液等を使用することなく、高い圧縮応力値を達成しながら、圧縮応力層を深くすることが可能となる。
【0096】
本発明に係るガラスは、上記組成範囲内のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0097】
成形は、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形すれば、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス基板の表面となるべき面は桶状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されることにより、無研磨で表面品位が良好なガラス基板を成形できるからである。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融状態のガラスを耐熱性の桶状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを桶状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス基板を製造する方法である。桶状構造物の構造や材質は、ガラス基板の寸法や表面精度を所望の状態とし、ガラス基板に使用できる品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラス基板に対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラス基板に接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラス基板の端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明のガラスは、耐失透性が優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法による成形を精度よく実行することができる。なお、液相温度が1075℃以下、液相粘度が104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を製造することができる。
【0098】
なおオーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の様々な成形方法を採用することができる。例えばプレス法でガラスを成形すれば、小型のガラス基板を効率良く製造することができる。
【0099】
本発明の強化ガラス基板を製造するには、まず上記ガラスを用意する。次いで強化処理を施す。ガラス基板を所定サイズに切断するのは、強化処理の前でもよいが、強化処理後に行う方が製造コストを低減できるため好ましい。強化処理は、イオン交換処理にて行うことが望ましい。イオン交換処理は、例えば400〜550℃の硝酸カリウム溶液中にガラス板を1〜8時間浸漬することによって行うことができる。イオン交換条件は、ガラスの粘度特性や、用途、板厚、ガラス内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0101】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜12)のガラス組成と特性を示すものである。尚、表中の「未」の表示は、未測定を意味している。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
表1〜3の各試料は次のようにして作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した。得られたガラス基板について、種々の特性を評価した。
【0106】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した。
【0107】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した。
【0108】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定を行った。
【0109】
ガラスの粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sに相当する温度は、白金球引き上げ法で測定した。
【0110】
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定したものである。
【0111】
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定したものである。
【0112】
液相粘度は、液相温度における各ガラスの粘度を示す。
【0113】
ヤング率及び剛性率は、共振法により測定した。
【0114】
その結果、得られたガラス基板は、密度が2.54g/cm3以下、熱膨張係数が88〜100×10-7/℃であり、強化ガラス素材として好適であった。また液相粘度が104.6dPa・s以上と高いため、オーバーフローダウンドロー成形が可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1650℃以下と低いので、生産性が高く安価に大量のガラス基板を供給できるものと考えられる。なお、未強化ガラス基板と強化ガラス基板は、ガラス基板の表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、ガラス基板全体としてガラス組成が実質的に相違していない。続いて各ガラス基板の両表面に光学研磨を施した後、No.1〜7、11及び12は、430℃のKNO3溶液中に各試料を4時間浸漬し、またNo.8〜10は、460℃のKNO3溶液中に6時間浸漬することによってイオン交換処理を行った。処理を終えた各試料は表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力値と圧縮応力層の厚みを算出した。算出に当たり、試料の屈折率は1.53、光学弾性定数は28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0115】
その結果、本発明の実施例である試料No.1〜12の各ガラス基板は、その表面に324MPa以上の圧縮応力が発生しており、且つその厚みは15μm以上と深かった。
【0116】
なお、上記実施例は、本発明の説明の便宜上、ガラスを溶融し、流し出しによる成形を行った後、イオン交換処理前に光学研磨を行った。工業的規模で実施する場合には、オーバーフローダウンドロー法等でガラス基板を成形し、ガラス基板の両表面が未研磨の状態でイオン交換処理することが望ましい。
【0117】
また試料No.7のガラスから、3mm×4mm×40mmの寸法の試験片を作製し、3点曲げ試験を行った。尚、試験片は、全面に光学研磨を施し、面取りは行わなかった。この試験片を、KNO3溶液中に、460℃−8時間の条件と、490℃−8時間の条件で浸漬してイオン交換処理を行った。イオン交換後に試験片を流水洗浄してから、3点曲げ試験に供した。試験から得られた破壊荷重から破壊応力を算出すると共に、平均値ランク法によりワイブルプロットを行い、ワイブル係数を求めた。その結果を表4に示す。尚、参考のため、イオン交換処理を施していないガラス試験片(未強化品)についても3点曲げ試験を行った。
【0118】
【表4】

【0119】
表4から、本発明の強化ガラスは、平均破壊応力とワイブル係数が高く、強度のばらつきが小さいことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の強化ガラス基板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、あるいはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス基板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、モル%で、SiO2 45〜80%、Al23 8〜11%、B23 0〜5%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜8%、CaO 0〜6%、MgO 0〜6%、Al23+MgO 8〜16.5%、CaO+MgO 0〜7%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1、K2O/Na2O比が0.1〜0.8であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とする請求項1記載の強化ガラス。
【請求項3】
SnO2 0.01〜6%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
平均破壊応力が300MPa以上であり、ワイブル係数が15以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化ガラス。
【請求項5】
表面の圧縮応力が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の強化ガラスからなることを特徴とする強化ガラス基板。
【請求項7】
オーバーフローダウンドロー法によって板状に成形されてなることを特徴とする請求項6記載の強化ガラス基板。
【請求項8】
未研磨の表面を有することを特徴とする請求項6又は7記載の強化ガラス基板。
【請求項9】
液相温度が1075℃以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項10】
液相粘度が104.0dPa・s以上のガラスからなることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項11】
タッチパネルディスプレイに用いられることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項12】
携帯電話のカバーガラスに用いられることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項13】
太陽電池のカバーガラスに用いられること特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項14】
ディスプレイの保護部材として用いられることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の強化ガラス基板。
【請求項15】
モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないことを特徴とするガラス。
【請求項16】
SnO2 0.01〜6%を含有することを特徴とする請求項15に記載のガラス。
【請求項17】
モル%で、SiO2 40〜80%、Al23 5〜15%、B23 0〜8%、Li2O 0〜10%、Na2O 5〜20%、K2O 0.5〜20%、MgO 0〜10%、Al23+MgO 8〜16.5%を含有し、モル比で、(Li2O+Na2O+K2O)/Al23比が1.4〜3、Na2O/Al23比が1〜3、MgO/Al23比が0〜1であり、実質的にAs23、PbO、Fを含有しないガラス組成となるように調合したガラス原料を溶融し、ガラスを板状に成形した後、イオン交換処理を施すことによって、ガラス表面に圧縮応力層を形成することを特徴とする強化ガラス基板の製造方法。
【請求項18】
SnO2 0.01〜6%を含有することを特徴とする請求項17に記載の強化ガラス基板の製造方法。
【請求項19】
ダウンドロー法にてガラスを板状に成形することを特徴とする請求項17又は18に記載の強化ガラス基板の製造方法。
【請求項20】
オーバーフローダウンドロー法にてガラスを板状に成形することを特徴とする請求項17〜19のいずれかに記載の強化ガラス基板の製造方法。

【公開番号】特開2009−84076(P2009−84076A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252589(P2007−252589)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】