説明

強化ポリマー複合物

強化ポリマー複合物は、熱可塑性材料の素地を含んでおり、該素地は、少なくとも1つの細長の金属要素によって強化されている。細長の金属要素は、素地内に埋設される前に、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されている。第1の層は、付着促進層を含み、第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む。強化ポリマー複合物は、0重量%〜95重量%の濃度の木材粒子をさらに含んでいる。本発明は、強化ポリマー複合物を製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ポリマー複合物に関する。また、本発明は、強化ポリマー複合物を製造する方法に関する。さらに、本発明は、複合物を強化する細長の金属要素に関する。
【背景技術】
【0002】
強化ポリマー複合物、特に、木材・ポリマー複合物(WPC)は、構造用途に広く用いられている。WPCは、木材およびポリマーから成る複合物である。構造用途では、強化ポリマー複合物、例えば、WPCは、住宅用壁パネル、遮光フェンス、テラス床、またはガーデンハウス、などに用いられている。しかし、この複合物は、重負荷下でクリープおよび著しい垂れを受けるので、建造物における負荷用途には利用することができない。
【0003】
この複合物の剛性および耐クリープ性を増すために、鋼ワイヤまたは鋼ケーブルが該複合物に埋設されている。
【0004】
特許文献1は、熱可塑性合成ポリマー材料および木材粒子またはセルロース含有粒子から成る素地を含む複合材料であって、鋼ワイヤまたは鋼ケーブルが埋設されている複合材料を開示している。鋼ワイヤまたは鋼ケーブルは、強化要素として用いられている。素地内に埋設される前に、変性ポリマーの薄層が鋼ワイヤまたは鋼ケーブルに塗布されている。変性ポリマーは、素地と鋼ワイヤまたは鋼ケーブルの両方と相互に作用するものである。変性ポリマーは、ポリプロピレンであってもよいとされている。欠点は、この強化要素が極めて容易に複合物から引き抜かれる可能性があることである。一方、鋼ワイヤまたは鋼ケーブルは、この強化要素と素地との間の付着力が乏しいので、素地内に堅固に埋設させることができない。従って、負荷構造体は、このような複合材料によって強化されている場合、安定しないことになる。
【0005】
特許文献2は、ポリマーと天然繊維との間の親和性を増すためにカップリング剤を用いるポリマー/天然繊維複合物ペレットを開示している。カップリング剤は、無水マレイン酸、無水マレイン酸変性ポリマー、単官能反応性窒素基または多官能反応性窒素基を含む化合物、およびシランから選択されている。複合物ペレットの強化を改良するために、一般的に用いられているオガ屑および製粉屑よりも長い天然繊維が用いられている。天然繊維は、綿、麻、黄麻、亜麻、ラミー、サイザル麻、またはセルロース系木材繊維である。天然繊維自体の特性によって、この複合物ペレットは、重量および力を支える負荷用途に用いられるのに十分な剛性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004/083541号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願公開第2009/082350号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、先行技術の欠点を解消することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、複合物とその強化材との間に良好な付着性を有する強化ポリマー複合物を提供することにある。さらに詳細には、本発明の目的は、強化木材・ポリマー複合物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、強化ポリマー複合物、特に、強化木材・ポリマー複合物を製造する方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、ポリマー複合物、特に、強化木材・ポリマー複合物を強化する細長(elongated)の金属要素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、強化ポリマー複合物は、熱可塑性材料の素地を含んでおり、この素地は、少なくとも1つの細長の金属要素によって強化されている。細長の金属要素は、素地内に埋設される前に、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されている。第1の層は、付着促進層を含み、第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む。
【0012】
強化ポリマー複合物は、0重量%〜95重量%の濃度の木材粒子をさらに含んでいる。木材粒子の濃度は、0重量%〜95重量%の間である。好ましくは、木材粒子の濃度は、20重量%〜80重量%の間である。さらに好ましくは、木材粒子の濃度は、35重量%〜80重量%の間である。最も好ましくは、木材粒子の濃度は、70重量%〜80重量%の間である。ここで、「重量%」は、強化ポリマー複合物の重量を全重量とした場合の重量百分率を意味している。
【0013】
素地に良好に付着させるために、柱状(elongated)の金属要素は、素地内に埋設される前に、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されている。これらの2つの層によって、柱状の金属要素は、素地内に堅固に埋設されることになる。
【0014】
第1の層は、シリコン基被膜、チタン基被膜、またはジルコニウム基被膜のような付着促進層を含む。
【0015】
本発明によれば、「シリコン基被膜」は、シリコンを含む任意の被膜を意味している。好ましくは、シリコン基被膜は、シラン基被膜を含む。
【0016】
本発明では、「シラン基被膜」は、有機官能シランを含む任意の被膜を指している。好ましくは、シラン基被膜は、以下の式を有している。
Y’−R’−SiX’
式中、
−SiX’:第1の官能基
−R’:スペーサ
−Y’:第2の官能基
【0017】
第1の官能基SiX’は、細長の金属要素に結合することが可能である。
【0018】
X’は、−OH、−R、−OR、−OC(=O)Rおよび−Cl、−Br、−Fのようなハロゲンから成る群から独立して選択されるシリコン官能基を表しており、−Rは、アルキル、好ましくは、C−Cアルキル、最も好ましくは、−CHおよび−Cである。
【0019】
第2の官能基Y’は、変性ポリオレフィンの少なくとも一種の官能基に結合または相互作用することが可能である。好ましくは、Y’は、−NH,−NHR’,−NR’,未飽和末端二重または三重炭素−炭素基、(アクリル酸基、メタクリル酸基、およびそのメチルエステルまたはエチルエステル)、−CH、−SH、イソシアネート基、チオシアネート基、およびエポキシ基から成る群から選択されるものである。
【0020】
本発明によれば、「チタン基被膜」は、チタンを含む任意の被膜を意味している。好ましくは、チタン基被膜は、チタン酸塩を含む。
【0021】
本発明によれば、「ジルコニウム基被膜」は、ジルコニウムを含む任意の被膜を意味している。好ましくは、ジルコニウム基被膜は、ジルコン酸塩を含む。
【0022】
第1の層の厚みは、好ましくは、1μm以下、さらに好ましくは、第1の層の厚みは、5nm〜1000nmの範囲内にあり、最も好ましくは、第1の層の厚みは、5nm〜200nmの範囲内にある。
【0023】
第2の層は、細長の金属要素の第1の層の上に被覆されている。この第2の層は、第1の層と熱可塑性材料の素地との間の付着性を改良するために、用いられるものである。この目的のために、第2の層は、変性ポリオレフィン、具体的には、共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む。さらに、変性ポリオレフィンは、少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンであり、このモノマーは、無水物またはカルボン酸官能基を含んでいる。第2の層は、素地内の熱可塑性材料と良好に相互作用することになる。
【0024】
国際特許出願公開第99/20682号パンフレットは、ポリマー物品を強化するための金属要素が、良好な付着性を得るために、2官能性シランカップリング剤に基づく単分子層によって被覆され、金属要素のこの単分子層が、非変性ポリオレフィン層、すなわち、非変性ポリエチレン、非変性ポリプロピレン、または非変性ポリブタジエンによってさらに被覆されることを記載している。アミノシランおよび非変性ポリオレフィン、すなわち、非変性ポリエチレンまたは非変性ポリプロピレンによって被覆された金属要素とポリマー素地との間の付着性は、POF試験によって、測定することができる。POF試験は、ポリマー素地から金属要素を引き抜く力を測定するために用いられるものである。POF試験の結果から、アミノシランおよび非変性ポリオレフィンによって被覆された金属要素とポリマー素地との間の付着性は、極めて弱く、金属要素は、ポリマー素地から極めて容易に引き抜かれることが分かっている。付着試験の結果によれば、国際特許出願公開第99/20682号パンフレットにおける非変性ポリオレフィンであるポリオレフィン層は、単分子によって被覆された金属要素に(ポリマー物品に対する)特別の付着効果をもたらすことができない。換言すれば、単分子膜および非変性ポリオレフィン層によって被覆された金属要素のポリマー物品に対する付着性は、単分子膜によって被覆された金属要素の付着性と同等かまたはそれよりも劣っている。非変性ポリオレフィンは、シランに対して付着性を有していない。
【0025】
国際特許出願公開第99/20682号パンフレットと比較して、本発明は、第2の層を非変性ポリオレフィンから変性オレフィンに改良している。無水物またはカルボン酸官能基と共重合またはグラフト重合されたポリオレフィン層は、付着促進層によって被覆された金属要素とポリマー複合物との間に良好な付着性をもたらす利点を有している。付着促進層および無水物またはカルボン酸官能基と共重合またはグラフト重合されたポリオレフィン層によって被覆された金属要素の熱可塑性材料の素地に対する付着性は、付着促進層および非変性ポリオレフィン層によって被覆された金属要素の付着性よりも著しく良好である。本発明における変性ポリオレフィンは、シリコン基被膜、チタン基被膜、またはジルコニウム基被膜のような促進層と素地内の熱可塑性材料との間に著しく改良された付着性をもたらしている。促進層と無水物またはカルボン酸官能基と共重合またはグラフト重合されたポリオレフィン層との2つの層は、細長の金属要素と素地内の熱可塑性材料との間に改良された付着性をもたらしている。
【0026】
好ましくは、無水物は、無水酸を含む。さらに好ましくは、無水物は、無水マレイン酸を含む。
【0027】
カルボン酸官能基は、好ましくは、アクリル酸官能基を含む。
【0028】
第2の層の厚みは、第1の層と熱可塑性材料の素地との間の付着性の要求によって決定されている。好ましくは、第2の層の厚みは、10μm〜100μmの範囲内にあり、さらに好ましくは、第2の層の厚みは、30μm〜50μmの範囲内にある。
【0029】
本発明によれば、ポリオレフィンは、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレンから選択されている。
【0030】
この被膜は、第1の層と第2の層との2つの層によって、縦長(elongated)の金属要素と熱可塑性材料の素地との間に良好な付着性をもたらし、その結果、縦長の金属要素は、素地内に良好に埋設されることになる。
【0031】
本発明の目的から、細長の金属要素は、金属ワイヤ、または金属コード、例えば、鋼ワイヤまたは鋼コードとすることができる。
【0032】
「金属ワイヤ」は、任意の種類の断面および任意の直径を有する金属フィラメントを意味している。好ましくは、鋼ワイヤは、丸鋼ワイヤまたは平角鋼ワイヤである。また、異形ワイヤも考えられる。
【0033】
この発明の目的のために、「金属コード」は、2本以上のフィラメント、ストランドの組合せ、またはフィラメントおよびストランドの組合せから構成された構造体として定義されている。
【0034】
鋼コードの例として、以下の構成、1+6、2+7、3+9、4+6、3×1、7×1、または1+6+12を有する鋼コードが挙げられる。
【0035】
「ストランド」は、さらなる加工のための単位物品を形成するために一緒に組み合わされたフィラメントの群として定義されている。
【0036】
上記の構成の記述は、コードを製造する順番、すなわち、最も内側のフィラメントまたはストランドから始まり、外方に進む順序に従っている。コードの完全な記述は、以下の式によって与えられている。
(N×F)+(N×F)+(N×F)
式中、
N=ストランドの数
F=フィラメントの数
(NまたはFは、1と等しいとき、含まれるべきではない)
【0037】
一方に伸びる(elongated)金属要素をもたらすために、どのような金属が用いられてもよい。好ましくは、合金、例えば、高炭素鋼合金、低炭素鋼合金、またはステンレス鋼合金が用いられる。
【0038】
細長の金属要素は、第1の層によって塗布される前に、適切な被膜によって、被覆されていなくてもよいし、または被覆されていてもよい。このような適切な被膜は、亜鉛被膜または亜鉛合金被膜、例えば、亜鉛真鍮被膜、亜鉛アルミニウム被膜、または亜鉛アルミニウムマグネシウム被膜であるとよい。このような被膜は、水または酸による細長の金属要素の腐食を防ぐことができると共に、細長の金属要素と第1の層との間の付着性を改良することもできる。
【0039】
細長の金属要素の強化によって、ポリマー複合物は、良好な剛性および良好な耐クリープ性を有することになる。
【0040】
本発明の特定の実施形態によれば、強化ポリマー複合物は、木材粒子と混合されるようになっている。強化ポリマー複合物内の木材粒子は、該複合物の弾性係数を改良するものである。木材粒子が熱可塑性材料と良好に相互作用し、これによって、複合物の弾性係数が高くなる。加えて、木材粒子によって、木材のように見える最終製品の自然な外観も得られることになる。
【0041】
本発明によれば、熱可塑性材料は、好ましくは、ポリオレフィン、共重合ポリオレフィン、グラフト重合ポリオレフィン、またはその組合せから成る群から選択されたポリマーである。好ましくは、共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンは、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンである。
【0042】
好ましくは、熱可塑性材料は、第2の層の材料と同じである。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、強化ポリマー複合物を製造する方法が提供されている。
【0044】
この方法は、以下のステップ:
少なくとも1つの細長の金属要素を準備するステップと、
細長の金属要素に第1の層を塗布するステップであって、第1の層は、付着促進層を含む、ステップと、
第1の層上に第2の層を塗布するステップであって、第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む、ステップと、
第1の層および第2の層によって被覆された少なくとも1つの細長の金属要素を熱可塑性材料の素地内に埋設させるステップと、
を含んでいる。
【0045】
好ましくは、熱可塑性材料の素地は、金属要素が埋設される前に、木材粒子と混合されている。木材粒子の濃度は、0重量%〜95重量%の間である。
【0046】
第1の層および第2の層は、当技術分野において知られているどのような技術によって塗布されてもよい。
【0047】
好ましくは、第1の層は、細長の金属要素を付着促進剤の浴内に浸漬することによって塗布されている。次いで、被覆された細長の金属要素は、乾燥されるとよい。
【0048】
好ましくは、第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合された溶融ポリオレフィンを押出ダイを通る細長の金属要素上に高圧下で塗布するか、または無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンの溶液または乳濁液によって細長の金属要素を被覆し、次いで、前記被膜を乾燥することによって、第1の層上に塗布されるようになっている。
【0049】
さらに、強化ポリマー複合物を製造する方法は、乾燥、硬化、成形、および/または市場または顧客にとって望ましい断面輪郭を得るための切断を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の他の目的によれば、ポリマー複合物を強化するのに用いられる細長の金属要素が提供されている。細長の金属要素は、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されている。第1の層は、付着促進層を含み、第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む。
【0051】
第1の層は、シリコン基被膜、チタン基被膜、またはジルコニウム基被膜から成る付着促進層を含む。
【0052】
第2の層は、少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含む。該モノマーは、無水物またはカルボン酸官能基を含んでいる。好ましくは、ポリオレフィンは、ポリプロピレンまたはポリエチレンである。
【0053】
細長の金属要素は、第1の層によって塗布される前に、適切な被膜によって、被覆されていなくてもよいし、または被覆されていてもよい。このような適切な被膜は、亜鉛被膜または亜鉛合金被膜、例えば、亜鉛真鍮被膜、亜鉛アルミニウム被膜、または亜鉛アルミニウムマグネシウムであるとよい。このような被膜は、水または酸による細長の金属要素の腐食を防ぐことができると共に、細長の金属要素と第1の層との間の付着を改良することもできる。
【0054】
細長の金属要素と熱可塑性材料の素地との間の良好な付着性および細長の金属要素の良好な強化によって、強化ポリマー複合物は、剛性を有し、負荷用途、特に、住宅、電柱、窓フレームおよびドアフレーム、作業ボード、支柱強化材、などに用いられるのに十分安定である。さらに、強化ポリマー複合物は、特に薄壁を備える多数の中空断面を有する輪郭に作られてもよい。ポリマー複合物が高靱性を有することによって、圧力およびせん断が加えられる多数の空洞間の仕切りに高弾性的安定がもたらされることになる。
【0055】
「負荷(load bearing)」は、荷重および力を支えることを意味している。
【0056】
強化ポリマー複合物は、断面で見て、本体、脚部、または腕部を備えるI形、H形、または任意の他の輪郭を有していてもよい。加えて、強化ポリマー複合物は、管形断面、多管形断面、中空形断面、または多中空形断面の形状を有していてもよい。
【0057】
本発明では、「重量%」は、強化ポリマー複合物の重量を全重量とした場合の重量百分率を意味している。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】いかなる層も有していない先行技術による丸鋼ワイヤの断面図である。
【図2】第1の層および第2の層を有する丸鋼ワイヤの断面図である。
【図3】第1の層および第2の層を有する平角鋼ワイヤの断面図である。
【図4】第1の層および第2の層を有する7×1鋼コードの断面図である。
【図5】第1の層を有する7×1鋼コードの断面図である。
【図6】強化ポリマー複合物のI形材の断面図である。
【図7】強化ポリマー複合物の管状形材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
丸鋼ワイヤは、以下のようにして製造される。
【0060】
ワイヤロッド組成は、好ましくは、0.60%の最小炭素含量から約1.10%の最大炭素含量の範囲内の炭素含量、0.40%〜0.70%の範囲内のマンガン含量、0.15%〜0.30%の範囲内のケイ素含量、0.03%の最大硫黄含量、0.3%の最大燐含量を有している(ただし、%は、いずれもワイヤロッドの重量を全重量とした場合の重量百分率である)。通常、超高張力鋼を除けば、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、および窒素および/またはクロムは、微量しか含有されていない。
【0061】
ワイヤロッドは、まず、表面に存在する酸化物を除去するために、機械的なスケール除去および/またはHSO溶液またはHCl溶液による化学的酸洗いによって、洗浄される。次いで、ワイヤロッドは、水洗され、かつ乾燥される。この後、第1の中間直径まで減径するために、第1の連続乾式伸線作業が乾燥されたワイヤロッドに施される。
【0062】
この第1の中間直径、例えば、約3.0mm〜3.5mmの直径において、パテンチングと呼ばれる第1の中間熱処理が乾式伸線された鋼ワイヤに施される。これによって、この鋼ワイヤのさらなる機械的な変形を施す準備が整えられたことになる。
【0063】
その後、第2の連続減径ステップにおいて、鋼ワイヤは、第1の中間直径から第2の中間直径までさらに乾式伸線される。第2の直径は、典型的には、1.0mm〜2.5mmの範囲内にある。
【0064】
この第2の中間直径において、パーライトへの変態を可能とするために、第2のパテンチング処理が鋼ワイヤに施される。
【0065】
加えて、この第2のパテンチング処理の後、亜鉛被膜または亜鉛合金被膜が鋼ワイヤに設けられてもよい。
【0066】
次いで、湿式伸線機によって、最終的な減面ステップが(付加的な亜鉛被膜または亜鉛合金被膜が施されているかまたは施されていない)鋼ワイヤに施され、これによって、所定の直径が得られることになる。
【0067】
可能であれば、鋼ワイヤは、オイルテンパ鋼ワイヤである。
【0068】
可能であれば、平角鋼ワイヤまたは他の異形ワイヤ、例えば、楕円形ワイヤ、I形ワイヤ、またはH形ワイヤを得るために、1本の丸鋼ワイヤが1つ以上の適切な異形成形ダイを通されてもよい。
【0069】
可能であれば、鋼コードを得るために、いくつかの鋼ワイヤ、具体的には、丸鋼ワイヤおよび/または平角鋼ワイヤが撚り機を通されてもよい。
【0070】
図1は、先行技術から知られているいかなる層も有していない丸鋼ワイヤ10を示している。
【0071】
図2は、裸鋼ワイヤ10と第1の層14および第2の層16とを備える鋼ワイヤ12を示している。第1の層14は、アミノシラン被膜から構成されている。第2の層16は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン被膜から構成されている。
【0072】
第1の層14は、アミノシランを含む溶液内にコードを浸漬し、次いで、乾燥することによって、鋼ワイヤ10上に塗布されている。第2の層16は、押出ダイを通して高温の溶融無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを塗布することによって、第1の層14上に塗布されている。
【0073】
図3は、裸鋼ワイヤ20と第1の層26および第2の層28とを備える平角鋼ワイヤ22を示している。第1の層26は、アミノシラン被膜から構成されており、第2の層28は、アクリル酸官能基共重合ポリプロピレン被膜から構成されている。鋼ワイヤ20は、第1の層被膜26によって塗布される前に、亜鉛被膜24によって被覆されている。
【0074】
第1の層26は、アミノシランを含む溶液内に鋼ワイヤを浸漬し、次いで、乾燥することによって、亜鉛被膜24上に塗布されている。第2の層28は、押出ダイを通して高温の溶融アクリル酸官能基共重合ポリプロピレンを塗布することによって、第1の層26上に塗布されている。加えて、鋼ワイヤ22は、押出の後、乾燥されるとよい。
【0075】
図4は、0.35mmの直径の7本の鋼フィラメントから成る裸鋼コード30と第1の層34および第2の層36とを備える7×1構成の鋼コード32を示している。第1の層34は、アミノシラン被膜から構成されており、第2の層36は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン被膜から構成されている。
【0076】
第1の層34は、アミノシランを含む溶液内に裸鋼コード30を浸漬し、次いで、乾燥させることによって、裸鋼コード30上に塗布されている。第2の層36は、押出ダイを通して高温の溶融無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを塗布することによって、第1の層34上に塗布されている。
【0077】
図5は、裸鋼コード30と第1の層34とを備える7×1構成の先行技術による鋼コード40を示している。
【0078】
第1の層34は、アミノシランを含む溶液内に裸鋼コード30を浸漬し、次いで、乾燥することによって、裸鋼コード30上に塗布されている。
【0079】
次いで、強化ポリマー複合物が製造される。熱可塑性材料、例えば、ポリオレフィン、共重合ポリオレフィン、グラフト重合ポリオレフィン、またはその組合せから成る素地は、木材粒子と混合されていてもよい。木材粒子が添加される場合、該木材粒子は、0重量%〜95重量%の範囲内の濃度、例えば、35%重量を超える濃度、さらに具体的には、70重量%〜80重量%の範囲内の濃度で添加されることになる。木材粒子は、好ましくは、素地内に混合される前に、それらの湿気が1%未満になるまで乾燥されている(ここで、%は、木材粒子の重量を全重量とした場合の重量百分率である)。次いで、少なくとも2つの層を含む少なくとも1つの細長の金属要素、例えば、鋼ワイヤ12、鋼ワイヤ22、または鋼コード32が、素地内に埋設される。次いで、素地が冷却され、これによって、強化ポリマー複合物が得られることになる。さらに、強化ポリマー複合物は、所望の輪郭に形成され、移送上の要件および顧客の要求に従って、所望の長さに切断されてもよい。詳細な説明は、国際特許出願公開第2004/03541号パンフレットに開示されている。
【0080】
細長の金属要素とポリマー複合物との間の付着性は、引抜力(POF)を得ることによって測定されるようになっている。ポリマー複合物内に埋設された細長の金属要素の長さ(「埋設長さ」)は、規定されている。細長の金属要素を複合物から引き抜くのに必要な力が測定されることになる。付着性は、POFの値が大きいほど、良好である。
【0081】
2つの層によって被覆された鋼ワイヤ12と先行技術による鋼ワイヤ10の強化ポリマー複合物に対する付着性が比較されている。表1は、その結果をまとめたものである。
【表1】

【0082】
表1によれば、先行技術による鋼ワイヤ10とポリマー複合物との間の引抜力と比較して、2つの層によって被覆された鋼ワイヤ12とポリマー複合物との間の引抜力は、かなり大きくなっている。換言すれば、2つの層によって被覆された細長の金属要素とポリマー複合物との間の付着性は、どのような被膜も有していない細長の金属要素とポリマー複合物との間の付着性よりもすぐれている。
【0083】
2つの層によって被覆された鋼コード32、先行技術による鋼コード40、先行技術による鋼コード30、および先行技術による鋼コード70のポリプロピレンを熱可塑性材料として含む強化ポリマー複合物に対する付着性が比較されている。先行技術による鋼コード70は、第1の層としてのアミノシラン被膜および第2の層としてのポリプロピレン被膜によって被覆された鋼コードである。表2は、その結果をまとめたものである。
【表2】

【0084】
表2によれば、本発明による2つの層によって被覆された鋼コード32を用いることによって、鋼コードと熱可塑性材料の素地との間の付着性が大きく改良されていることが明らかである。先行技術による鋼コード30(どのような被膜も有していない鋼コード)と比較して、熱可塑性材料と鋼との間の付着性は、20倍を超えて改良されている。
【0085】
先行技術による鋼コード40、すなわち、1つの層(アミノシラン)によって被覆された鋼コードは、熱可塑性材料に対して弱い付着性しか示していない。先行技術による鋼コード70、すなわち、第1の層としてのアミノシラン被膜および第2の層としてのポリプロピレン(非変性ポリプロピレン)被膜を備える鋼コードの場合、鋼と熱可塑性材料との間に極めて弱い付着性しか得られていない。先行技術による鋼コード70と熱可塑性材料との間の付着性は、先行技術による鋼コード40と熱可塑性材料との間の付着性よりもさらに悪い。
【0086】
表2から、アミノシラン被膜またはアミノシラン被膜と非変性ポリプロピレン被膜との組合せは、鋼コードと熱可塑性材料との間に全く付着性をもたらさないかまたは極めて弱い付着性しかもたらさないことが結論付けられる。
【0087】
さらに、図2から、アミノシランおよび変性ポリプロピレン被膜を用いる本発明による鋼コードの驚くほどすぐれた付着性が明らかである。
【0088】
被覆されていない4×7構成の鋼コード(鋼コードA)、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの1層によって被覆された4×7構成の鋼コード(鋼コードB)、およびアミノシランの第1の層および無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの第2層によって被覆された4×7構成の鋼コード(鋼コードC)のポリプロピレンを熱可塑性材料として含む強化ポリマー複合物に対する付着性が比較されている。鋼コードA,B,Cは、0.10mmの直径を有する亜鉛メッキ鋼フィラメントから成っている。表3は、その結果をまとめたものである。
【表3】

【0089】
表3から、アミノシランの第1の層および無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンの第2の層から成る被膜は、鋼コードとポリマー複合物との間に最良の付着性をもたらすことが明らかである。
【0090】
表1、表2および表3は、少なくとも第1の層および第2の層を備える細長の金属要素がポリマー複合物に対して良好な付着性をもたらすことを示している。本発明の金属要素の熱可塑性材料の素地に対する付着性は、付着促進層のみによって被覆された金属要素の付着性、変性ポリオレフィンのみによって被覆された金属要素の付着性、または付着促進層および非変性ポリオレフィン層の2つの層によって被覆された金属要素の付着性よりも著しく良好である。このような強化ポリマー複合物は、負荷用途、特に、住宅、電柱、窓フレームおよびドアフレーム、作業ボード、支柱強化材、などに用いられるのに十分安定である。
【0091】
図6は、I形断面を有する強化ポリマー複合物50の第1の実施形態を示している。ポリマー複合物50は、40重量%の濃度の木材粒子を含むポリプロピレンの素地を含んでおり、平角ワイヤ22が素地内に埋設されている。木材粒子の湿気は、0.8%である。上側フランジ52および下側フランジ54が、平角ワイヤ22によって補強されている。
【0092】
図7は、管形断面を有する強化ポリマー複合物60の第2の実施形態を示している。ポリマー複合物60は、70重量%の濃度の木材粒子を含むポリエチレンの素地から含んでおり、鋼コード32が素地内に埋設されている。木材粒子の湿気は、0.6%である。上側壁および下側壁は、鋼コード32によって強化されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性材料の素地を含んでいる強化ポリマー複合物であって、前記素地は、少なくとも1つの細長の金属要素によって強化されている、強化ポリマー複合物であって、前記細長の金属要素は、前記素地内に埋設される前に、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されており、前記第1の層は、付着促進層を含み、前記第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含むことを特徴とする強化ポリマー複合物。
【請求項2】
前記熱可塑性材料の素地は、木材粒子をさらに含んでおり、前記木材粒子は、0重量%〜95重量%の範囲内の濃度で含まれていることを特徴とする請求項1に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項3】
前記無水物は、無水酸を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項4】
前記無水酸は、無水マレイン酸を含むことを特徴とする請求項3に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項5】
前記カルボン酸官能基は、アクリル酸官能基を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは、ポリエチレンまたはポリプロピレンであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項7】
前記付着促進層は、シリコン基被膜、チタン基被膜、またはジルコニウム基被膜を含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項8】
前記シリコン基被膜は、シラン基被膜を含むことを特徴とする請求項7に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項9】
前記熱可塑性材料は、ポリオレフィン、共重合ポリオレフィン、グラフト重合ポリオレフィン、またはその組合せから成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項10】
前記熱可塑性材料は、前記第2の層の材料と同じであることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項11】
前記細長の金属要素は、少なくとも鋼ワイヤまたは鋼コードを含んでいることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項12】
前記鋼ワイヤは、平角鋼ワイヤであることを特徴とする請求項11に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項13】
前記鋼ワイヤは、オイルテンパ鋼ワイヤであることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の強化ポリマー複合物。
【請求項14】
前記強化ポリマー複合物は、I形断面、H形断面、管形断面、または多管形断面の形状を有することを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載の強化ポリマー複合物。
【請求項15】
強化ポリマー複合物を製造する方法において、
少なくとも1つの細長の金属要素を準備するステップと、
前記細長の金属要素に第1の層を塗布するステップであって、前記第1の層は、付着促進層を含むステップと、
前記第1の層上に第2の層を塗布するステップであって、前記第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含むステップと、
前記第1の層および前記第2の層によって被覆された少なくとも1つの前記細長の金属要素を熱可塑性材料の素地内に埋設するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項16】
前記第1の層上に第2の層を塗布する前記ステップは、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合された溶融した前記ポリオレフィンを押出ダイを通る前記細長の金属要素上に高圧下で塗布することによって、または無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合された前記ポリオレフィンの溶液または乳濁物によって前記細長の金属要素上を被覆し、次いで、前記被膜を乾燥することによって、行なわれることを特徴とする請求項15に記載の強化ポリマー複合物を製造する方法。
【請求項17】
細長の金属要素であって、前記細長の金属要素は、少なくとも第1の層および第2の層によって被覆されており、前記第1の層は、付着促進層を含み、前記第2の層は、無水物またはカルボン酸官能基を含む少なくとも一種のモノマーと共重合またはグラフト重合されたポリオレフィンを含むことを特徴とする細長の金属要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−512321(P2013−512321A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541403(P2012−541403)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068017
【国際公開番号】WO2011/067137
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】