説明

弾性境界波素子、共振子およびラダー型フィルタ

【課題】 温度特性の良好な弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタを提供すること。
【解決手段】 本発明は、圧電性を有する第1の媒質(10)と、第1の媒質上に形成された櫛型電極(16)と、櫛型電極および第1の媒質上に形成された誘電体膜(12)と、誘電体膜上に形成された第2の媒質(14)と、を具備し、誘電体膜は酸化珪素膜を主に含み、その密度が2.05g/cm以上である弾性境界波素子である。第1の媒質(10)と温度係数の符号が反対の酸化珪素膜を誘電体膜(12)として使用することにより、温度特性の良好な弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタ、特に、温度特性の良い弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を応用した装置の一つとして、弾性表面波素子(SAWデバイス:Surface Acoustic Wave Device)が以前より良く知られている。このSAWデバイスは、例えば携帯電話に代表される45MHz〜2GHzの周波数帯における無線信号を処理する各種回路、例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ、FM変調器等に用いられている。近年、携帯電話なので高性能化にともない、例えばバンドパスフィルタに用いられるSAWデバイスに対し、温度特性の向上が求められている。さらに、デバイスの小型化が求められている。
【0003】
温度特性を向上させるため、特許文献1においては、圧電基板上に温度特性の符号が異なる酸化珪素膜を成膜した弾性表面波素子が開示されている。さらに、弾性表面波素子は波が基板表面に集中して伝播するため、その基板表面に異物が付着すると、周波数の変動、電気的損失の増大などの特性変化あるいは劣化が生じてしまう。そこで、通常、弾性表面波素子は密閉された構造のパッケージに実装される。このため、素子の小型化が容易ではなく、製造コストの増大の要因ともなっている。
【0004】
そこで、温度特性の改善および素子の小型化および製造コスト削減を実現させるため、表面波ではなく、異なる媒質の境界を伝播する境界波を用いるデバイスが非特許文献1に開示されている。非特許文献1では、0°の回転Y板LiNbO基板上と、LN基板上、酸化珪素膜および珪素膜が積層された構造における境界波について、計算結果をもとに開示されている。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【非特許文献1】Masatsune Yamaguchi, Takashi Yamashita, Ken-ya Hashimoto, Tatsuya Omori、「Highly Piezoelectric Boundary Waves in Si/SiO2/LiNbO3 Structure」、Proceeding of 1998 IEEE International Frequency Control Symposium、(米国)、IEEE、1998年、p484−488。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1においては、温度特性が良好な弾性境界波素子の可能性について示唆されているが、具体的な弾性境界波素子の実現方法は開示されていない。
【0006】
本発明は、温度特性の良好な弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電性を有する第1の媒質と、該第1の媒質上に形成された弾性波励振する電極と、該櫛型電極および前記第1の媒質上に形成された誘電体膜と、前記誘電体膜上に形成された第2の媒質と、を具備し、前記誘電体膜は酸化珪素を主に含み、その密度が2.05g/cm以上である弾性境界波素子である。本発明によれば、第1の媒質と温度係数の符号が反対の酸化珪素膜を誘電体膜として使用することにより、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。
【0008】
本発明は、前記誘電体膜の膜厚をh、前記電極の周期をλとしたとき、h/λが0.7より小さい弾性境界波素子とすることができる。本発明によれば、1周波数での応答が得ることが可能な弾性境界波素子を提供することができる。
【0009】
本発明は、前記電極は、金と銅の少なくとも一方を主に含む金属からなる弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、櫛形電極の膜厚を薄くした場合も高周波損失を抑制することができる。
【0010】
本発明は、前記電極と前記誘電体膜との間にバリア層を具備する弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、バリア層により、櫛形電極を構成する金属が誘電体膜に拡散することを防止することができる。
【0011】
本発明は、前記誘電体膜は、窒素を含む弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、誘電体膜である酸化珪素膜の密度を高くし、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。
【0012】
本発明は、前記誘電体膜は、スパッタ法またはCVD法を用い形成された弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、酸化珪素膜の密度の高い誘電体膜を形成することができ、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。
【0013】
本発明は、前記第2の媒質は、珪素を主に含む弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、珪素は誘電体膜である酸化珪素より音速が早いため境界波を誘電体膜に閉じ込めることができる、また珪素を主に含むため容易に加工することができる。
【0014】
本発明は、前記第2の媒質は、酸化珪素よりも音速が早い絶縁体を主に含む弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、誘電体膜である酸化珪素よりも音速が早いため境界波を誘電体膜に閉じ込めることができる、また、絶縁体であるため誘導損失を抑えることができる。
【0015】
本発明は、前記第2の媒質は、窒化珪素、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともひとつを主に含む弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、誘電体膜である酸化珪素よりも音速が早いため境界波を誘電体膜に閉じ込めることができる、また、絶縁体であるため誘導損失を抑えることができる。さらに、成膜および加工を容易に行うことができる。
【0016】
本発明は、前記第2の媒質はパッド電極上に接続窓を有する弾性波境界素子とすることができる。本発明によれば、第2の媒質はパッド電極上に接続窓を有するため電気的接続が容易となる。
【0017】
本発明は、前述の弾性波境界素子を用い反射器を有する共振子である。本発明によれば、温度特性が良好な共振子を提供することができる。本発明は、前述の弾性波境界素子有するラダー型フィルタである。本発明によれば、温度特性が良好なラダー型フィルタを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度特性の良好な弾性境界波素子、これを用いた共振子およびラダー型フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照に実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は実施例1の断面図である。第1の媒質10に弾性波を励振する電極16が形成されている。その上に誘電体膜12、第2の媒質14が形成されている。電極16は、例えば弾性波である境界波を励振する電極であり、櫛形電極を用いている。ここで、誘電体膜12の膜厚をh、櫛形電極16の膜厚をH、櫛形電極16の周期をλとする。実施例1においては、第1の媒体10は42°回転Y板のLiTaO(以下、LT)基板、電極16はCuを主に含む櫛型電極16、誘電体膜12は酸化珪素膜(酸化珪素を主に含む膜)、第2の媒質14は珪素を用いた。
【0021】
ここで、42°回転Y板のLT基板のX軸方向は図1の水平方向、すなわち境界波の伝播方向である。実施例1においては、境界波は第1の媒質10と誘電体膜12の境界面を伝播する。そのため、第2の媒質14表面に異物が付着した場合であっても、表面波を用いた素子のように周波数の変動、電気的損失の増大などの特性の変化あるいは劣化が生じることはない。このため、密閉された構造のパッケージに実装する必要がなく、弾性境界波素子を用いた装置の小型化が容易で、製造コストの削減を図ることができる。
【0022】
図2に実施例1に係る弾性境界波素子における、酸化珪素膜の膜厚(SiO厚)に相当する量であるh/λに対する境界波の速度の温度係数(TCV:Temperature Coefficient of Velocity)を有限要素法を用い計算した結果を示す。TCVは0に近ければ境界波の速度の温度依存が小さいことを示しており、良好な温度特性であることを示している。図2は、誘電体膜12である酸化珪素膜の密度(SiO密度)を1.5g/cm、から2.6g/cmまで変えた場合について図示している。
【0023】
酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.05g/cm以下のときはh/λに対するTCVの傾きが非常に小さい。酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.05g/cm以下のときはh/λを変化させたとしても、TCVが0付近とはならない。これでは、良好な温度特性を有する弾性境界波素子は得られない。一方、酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.05g/cm以上のときは、h/λを変化させることにより、TCVは0付近とすることができる。例えば、酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.2g/cm、2.4g/cmおよび2.62g/cmのとき、h/λがそれぞれ、0.8、0.7および0.6のときTCVをほぼ0とすることができる。これより良好な温度特性を有す弾性境界波素子を提供することができる。
【0024】
図3に実施例1に係る弾性境界波素子における、酸化珪素膜の膜厚(SiO厚)に相当する量であるh/λに対する弾性境界波素子の周波数の温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)を測定した結果を示す。誘電体膜12である酸化珪素膜の密度(SiO密度)を2.1g/cm、から2.3g/cmの場合について図示している。TCVの測定は困難なためTCFの結果を示している。TCVと同様に、TCFが0に近ければ弾性境界波素子の周波数の温度特性が良いことを示している。温度特性が良好な弾性境界波素子を得るにはTCFが0±10ppm/°Cであることが好ましい。図3より、酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.1g/cm以下のときはh/λを変化させたとしても、TCFが0付近とはならない。一方、酸化珪素膜の密度(SiO密度)が2.3g/cmのとき、h/λを0.6とすることにより、TCFは0付近となる。これより良好な温度特性を有す弾性境界波素子を提供することができる。
【0025】
図2および図3の結果を以下にまとめる。LT基板を用いた弾性表面波素子(すなわち誘電体膜を有さない素子)のTCFは約−40ppm/°Cである。図2および図3とり、酸化珪素膜の密度が2.05g/cm以下のときはh/λを大きくしたとしても、TCVは−40ppm/°Cであり、LT基板の温度特性とほとんど変わらないことがわかる。これは、酸化珪素膜の密度が小さいと、境界波の温度特性にほとんど影響しないことを示している。一方、密度が2.05g/cm以上の酸化珪素膜は、LT基板に対し逆の温度係数を有しているため、酸化珪素膜の膜厚を厚くすることでTCFが大きくなる。よって、酸化珪素膜の膜厚を最適化することにより、温度特性の小さい弾性境界波素子を提供することができる。
【0026】
このように、誘電体膜12を構成する酸化珪素膜の密度を2.05g/cm以上とすることにより、h/λを最適化することにより良好な温度特性を有する弾性境界波素子を提供することができる。
【0027】
誘電体膜12である酸化珪素膜の密度を大きくする方法としては、例えば、酸化珪素膜に窒素を含有させる方法がある。これにより、酸化窒化珪素膜となり密度が大きくなる。スパッタ法やCVD法を用いることにより、通常用いられている方法で簡単に窒素を含有させることができる。また、スパッタ法やCVD法の成膜条件を変えることにより酸化珪素膜の密度を大きくしても良い。
【0028】
図4は実施例1と同じ構成の弾性境界波素子における、LT基板の方位に対するTCFを示している。使用した酸化珪素膜のh/λは0.5である。LT方位が10°から55°の間においては、弾性境界波素子のTCFは−20ppm/°Cから−5ppm/°Cである。前述のように、酸化珪素膜のない弾性表面波素子のTCFは約−40ppm/°Cである。これより、LT方位が変化した場合も、誘電体膜12として酸化珪素膜を用いることにより、TCFを改善させる効果があることがわかる。また、前述のように境界波の温度特性に影響を及ぼすには、酸化珪素膜の密度は2.05g/cm以上が必要である。この境界波の温度特性に影響を及ぼす酸化珪素膜の密度(2.05g/cm以上)は、酸化珪素膜の温度特性とLT基板の温度特性によって決まるため、LT方位によって変化しない。よって、第1の媒質10は42°Y軸回転LT基板以外のLT方位の基板を用いた場合であっても、例えば2.05g/cm以上の密度を有する酸化珪素膜を用いれば、h/λを最適化することにより、温度特性の良好な弾性境界波素子が提供することができる。
【0029】
櫛形電極16上に誘電体膜12として酸化珪素膜を形成する場合、櫛形電極16間に酸化珪素膜の空洞が形成されてしまうことがある。この空洞の発生を抑えるためには櫛型電極16の膜厚Hを薄くし、酸化珪素膜を形成する際の表面の凸凹を小さくすることが有効である。しかし、櫛型電極16の膜厚が薄いと櫛型電極16の質量が軽くなる。その結果、櫛型電極16での境界波の反射率が低下する。これにより、境界波の閉じ込めが悪くなり高周波損失の原因となる。さらに、櫛型電極16の膜厚が薄いと電気抵抗が増加するため、さらに高周波損失が大きくなる。そのため、櫛型電極16膜厚を薄くする場合は、櫛型電極16を例えば、銅または金のように密度が高く抵抗率の低い金属を含むことが好ましい。そこで、実施例1においては櫛形電極16は、銅を主に含む金属を用いた。このように、櫛形電極16として銅または金を主に含む金属を用いることにより、誘電体膜12に空洞が形成されることがなくかつ高周波損失を抑制することができる
【0030】
例えば、スパッタ法またはCVD法を用い窒化珪素膜の成膜条件の最適化、あるいは成膜装置の改良により、空洞が形成されることなく酸化珪素膜を形成してもよい。この場合、櫛形電極16は例えばアルミニウム等の比較的密度の軽い金属であっても用いることもできる。また、境界波は第1の媒質10と誘電体層12の間を伝播するため、櫛形電極16を実施例1で使用した銅以外の材料に変更しても、誘電体膜12である酸化珪素膜の密度を2.05g/cm以上とすることにより、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。さらに、実施例1においては、弾性波である境界波を励振する電極として櫛形電極の例を示した。境界波を励振する電極であれば、櫛形電極以外であっても良い。
【0031】
第2の媒質14は、誘電体膜12より音速の速い材料であることが好ましい。境界波のエネルギを誘電体膜12中に閉じ込めておくためであり、その結果、高周波損失が小さくなる。第2の媒質には、酸化珪素膜の音速より早い材料として、珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムまたは酸化アルミニウムを使用することが好ましい。実施例1においては、第2の媒質14として珪素を用いた。これは、加工がし易く、電極パッドに電気的接続を行う接続窓を形成し易いためである。しかし、絶縁体でないため誘電損失が生じ高周波損失の原因となってしまう。そこで、第2の媒質14は、誘電体膜12より音速の速い絶縁体を主に含む材料とすることが好ましい。さらに、成膜および加工の容易性から窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムまたは結晶性が高く高抵抗の珪素を主に含む材料を使用することがより好ましい。また、境界波は第1の媒質10と誘電体層12の間を伝播するため、第2の媒質を前述の範囲で変更しても、誘電体膜12である酸化珪素膜の密度を2.05g/cm以上とすることにより、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。
【0032】
以上のように、実施例1によれば、誘電体膜12を酸化珪素を主に含む膜とし、その密度を2.05g/cm以上とすることにより、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。
【実施例2】
【0033】
図5は実施例2の断面図である。第2の媒質14として酸化アルミニウムを用いたこと、弾性波を励振する電極16と誘電体膜12の間にバリア層18を具備したこと、以外は実施例1と同じ構成である。すなわち、第1の媒体10は42°回転Y板のLT基板、弾性波を励振する電極16はCuを主に含む櫛型電極、誘電体膜12は酸化珪素膜であり、バリア層は窒化珪素膜を用いた。第2の媒質14として酸化アルミニウムを使用したのは、前述のように、誘電損失を抑えることおよび第2の媒質の成膜および加工が容易となるためである。
【0034】
櫛形電極16と誘電体膜12の間にバリア層18を配置したのは以下の理由による。前述のように、高周波損失を防ぐため櫛形電極16に銅を主に含む金属を用いた場合、銅が誘電体膜12中に拡散する場合がある。そこで、銅の誘電体膜12中への拡散防止のためバリア層18を設けた。バリア層18としては、銅の拡散を防ぐ材料であれば良い。実施例2においては、バリア層の機能を有し、絶縁膜であり、形成が容易な窒化珪素膜とした。窒化珪素膜は、誘電体膜12と同一成膜装置で連続して成膜できるため製造工程の負担が少ないという利点も有している。
【0035】
図6は実施例2に係る弾性境界素子における、周波数に対する減衰量を示している。櫛形電極16の周期λを2μmとし、誘電体膜12の膜厚hとの比h/λを0.5から0.9までを変えたときの結果を示している。h/λが0.7および0.9では、約1700MHzと約1900MHzの2周波数で減衰量の応答がある。一方、h/λが0.5および0.6では、減衰量の応答は約1750MHzのみである。1700MHzから1750MHzの応答は境界波による応答である。一方、h/λが0.7および0.9で観測された約1900MHzの応答の原因は明確ではないが、例えば表面波の応答と考えられる。
【0036】
弾性境界素子を例えばラダー型フィルタとして使用する場合、複数の周波数で応答があることは好ましくない。よって、1周波数でのみ応答を得るため、h/λは0.7より小さいことが好ましい。さらに、確実に1周波数でのみ応答を得るためには0.6以下が好ましく、より確実に1周波数でのみ応答を得るためには0.5以下がより好ましい。
【0037】
実施例2においてはバリア層18を有しているが、その膜厚は誘電体膜12に比べ薄いため、境界波の特性には大きな影響は及ぼさない。よって、バリア層18を有さない弾性境界波素子においても、h/λを0.7より小さくすることにより、1周波数でのみ応答を得ることができる。さらに、境界波は第1の媒質10と誘電体層12の間を伝播するため、第2の媒質16を酸化アルミニウム以外の材料、例えば珪素、窒化珪素または窒化アルミニウムとしても、h/λを0.7より小さくすることにより、1周波数でのみ応答を得ることができる。
【0038】
バリア層18は薄いため、境界波に対する影響は小さい。よって、実施例2においても、実施例1と同様の効果が得られる。すなわち、誘電体膜12を酸化珪素を主に含む膜とし、その密度を2.05g/cm以上とすることにより、温度特性の良好な弾性境界波素子を提供することができる。加えて、バリア層18を形成したことにより、櫛形電極16を銅を主に含む金属とした場合、銅の誘電体膜12への拡散を防止することができる。
【実施例3】
【0039】
実施例3は実施例2の弾性境界波素子を用いた共振子の例である。図7は実施例3に係る共振子の上視図(第2の媒質14、誘電体膜12、バリア層は図示せず)である。櫛形電極を有する弾性境界波素子20の両側に反射器26、28を配置している。弾性境界波素子20は入力電極22および出力電極24を有している。反射器26、28は櫛形電極を有する弾性境界波素子20と同時に作製される。すなわち、弾性波境界素子20と反射器26、28は、第1の媒質、電極、バリア層、誘電体膜、第2の媒質は共通している。弾性境界波素子20より両側に伝播した境界波は反射器で反射される。反射された境界波は弾性境界波素子20内で境界波の定在波となる。これにより共振子として機能する。実施例3によれば、実施例2に係る弾性境界波素子を用いることにより、温度特性が良好な共振子を提供することができる。
【実施例4】
【0040】
実施例4は実施例3に係る共振子を用いた4段ラダー型フィルタの例である。図8は実施例4に係るラダー型フィルタの上視図(第2の媒質14、誘電体膜12、バリア層は図示せず)である。直列共振器30として、実施例3の共振子32、34、36、38を直列に接続する。共振子32の一端は入力パッド電極50に接続され、共振子38の一端は出力パッド電極52に接続される。共振子32と共振子34が接続された電極は共振子40に接続され、共振子38と共振子36が接続された電極は共振子42に接続される。共振子40および共振子42の共振子の接続されていない一端は接地パッド電極54、56に接続される。共振子42および44は並列共振器として機能する。実施例4は、以上の構成により、ラダー型フィルタとして機能する。
【0041】
弾性境界波素子は電極上に誘電体膜12および第2の媒質14が形成されている。このため、ラダー型フィルタのパッド電極に、ワーヤ等を用い電気的に接続するためには、パッド電極上の第2の媒質14に接続窓60を有することが好ましい。図9は図8と同じ構成の図に第2の媒質14が有する接続窓60を示した図である。入力パッド電極50、出力パッド電極52および接地パッド電極54、56上に接続窓60が形成されている。接続窓60は第2の媒質14に加え誘電体膜12およびバリア層18にも形成することが好ましい。
【0042】
以上のように、実施例4によれば、実施例3に係る共振子を用いることにより、温度特性が良好なラダー型フィルタを提供することができる。さらに、第2の媒質がパッド電極上に接続窓を有するため電気的接続が容易となる。
【0043】
なお、本明細書中にて、ある物質を主に含むとは、その物質に他の物質が含まれていたとしても、本明細書に記載した作用効果と同質の作用効果が得られる範囲で含まれることを意味する。
【0044】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は実施例1に係る弾性境界波素子の断面図である。
【図2】図2は実施例1に係る弾性境界波素子のSiO厚(h/λ)に対するTCVの計算結果を示した図である。
【図3】図3は実施例1に係る弾性境界波素子のSiO厚(h/λ)に対するTCFを示した図である。
【図4】図4は実施例1に係る弾性境界波素子のLT方位(Y回転角)に対するTCFを示した図である。
【図5】図5は実施例2に係る弾性境界波素子の断面図である。
【図6】図6は実施例2に係る弾性境界波素子の周波数に対する減衰量を示した図である。
【図7】図7は実施例3に係る共振子の上視図である。
【図8】図8は実施例4に係るラダー型フィルタの上視図(その1)である。
【図9】図9は実施例4に係るラダー型フィルタの上視図(その2)である。
【符号の説明】
【0046】
10 第1の媒質
12 誘電体膜
14 第2の媒質
16 櫛形電極
18 バリア層
20 弾性境界波素子
22 入力電極
24 出力電極
26、28 反射器
30 直列共振器
32、34、36、38、40、42 共振子
50 入力パッド電極
52 出力パッド電極
54、56 接地パッド電極
60 接続窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性を有する第1の媒質と、
該第1の媒質上に形成された弾性波を励振する電極と、
該電極および前記第1の媒質上に形成された誘電体膜と、
前記誘電体膜上に形成された第2の媒質と、を具備し、
前記誘電体膜は酸化珪素を主に含み、その密度が2.05g/cm以上であることを特徴とする弾性境界波素子。
【請求項2】
前記誘電体膜の膜厚をh、前記電極の周期をλとしたとき、h/λが0.7より小さいことを特徴とする請求項1記載の弾性境界波素子。
【請求項3】
前記電極は、金と銅のいずれか一方を主に含む金属からなることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波境界素子。
【請求項4】
前記電極と前記誘電体膜との間にバリア層を具備することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項5】
前記誘電体膜は、窒素を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項6】
前記誘電体膜は、スパッタ法またはCVD法を用い形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項7】
前記第2の媒質は、珪素を主に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項8】
前記第2の媒質は、酸化珪素よりも音速が早い絶縁体を主に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項9】
前記第2の媒質は、窒化珪素、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1つを主に含むことを特徴とする請求項8記載の弾性波境界素子。
【請求項10】
前記第2の媒質はパッド電極上に接続窓を有する請求項1から9のいずれか一項記載の弾性波境界素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波境界素子を用い、反射器を有することを特徴とする共振子
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波境界素子を用いることを特徴とするラダー型フィルタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性を有する第1の媒質と、
該第1の媒質上に形成された弾性波を励振する電極と、
該電極および前記第1の媒質上に形成された誘電体膜と、
前記誘電体膜上に形成された第2の媒質と、を具備し、
前記誘電体膜は酸化珪素を主に含み、その密度が2.05g/cm以上であることを特徴とする弾性境界波素子。
【請求項2】
前記誘電体膜の膜厚をh、前記電極の周期をλとしたとき、h/λが0.7より小さいことを特徴とする請求項1記載の弾性境界波素子。
【請求項3】
前記電極は、金と銅のいずれか一方を主に含む金属からなることを特徴とする請求項1または2記載の弾性境界波素子。
【請求項4】
前記電極と前記誘電体膜との間にバリア層を具備することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項5】
前記誘電体膜は、窒素を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項6】
前記誘電体膜は、スパッタ法またはCVD法を用い形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項7】
前記第2の媒質は、珪素を主に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項8】
前記第2の媒質は、酸化珪素よりも音速がい絶縁体を主に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項9】
前記第2の媒質は、窒化珪素、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの少なくとも1つを主に含むことを特徴とする請求項8記載の弾性境界波素子。
【請求項10】
前記第2の媒質はパッド電極上に接続窓を有する請求項1から9のいずれか一項記載の弾性境界波素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性境界波素子を用い、反射器を有することを特徴とする共振子
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性境界波素子を用いることを特徴とするラダー型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−279609(P2006−279609A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96518(P2005−96518)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】