説明

弾性波フィルタおよびそれを用いた通信機

圧電基板上に複数の縦結合共振子型弾性波フィルタ素子を形成し、これらをカスケード接続して構成した弾性波フィルタにおいて、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続線に入る寄生容量の悪影響を軽減することで、カスケード接続点のインピーダンス整合を改善し、弾性波フィルタ入出力端のVSWRを改善する。 圧電基板300上に弾性波の伝搬方向に沿って形成された3つのIDT302,303,304;308,309,310をそれぞれ含む2つの縦結合共振子型弾性波フィルタ306,312をカスケード接続した弾性波フィルタ350において、縦結合共振子型弾性波フィルタ306,311の少なくとも一方について、カスケード接続されたIDT302,304;308,310の電極指ピッチを、他の前記IDT303;309電極指ピッチよりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタおよびそれを用いた通信機に関し、詳しくは、弾性波を利用した弾性表面波フィルタや弾性境界波フィルタなどの弾性波フィルタおよびそれを用いた通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
数十MHz〜数GHzを通過帯域周波数とするバンドパスフィルタの一例として、弾性表面波フィルタを挙げることができる。弾性表面波フィルタは、小型、軽量であるという特徴から、近年、携帯型通信機に使用されている。
【0003】
弾性表面波フィルタの中にもいくつかの種類が存在するが、圧電基板上の表面波伝搬方向に沿って二つの反射器を設置し、その二つの反射器に挟まれた区間の中に入力用のIDTと出力用のIDTを交互に配設する縦結合共振子型弾性表面波フィルタは、帯域内周波数における挿入損失が小さく、かつ、平衡信号−不平衡信号変換が容易にできるという特徴から、携帯型通信機のフロントエンドに多用されている。
【0004】
縦結合共振子型弾性表面波フィルタの動作原理は、以下の通りである。
【0005】
入力された電気信号を入力用IDTが表面波に変換することで、二つの反射器の間に表面波の定在波を発生させる。そして、発生した定在波のエネルギーを出力用のIDTが電気信号へと変換することで、出力信号が発生する。このとき、入力用IDTおよび出力用IDTの電気信号−表面波変換効率が周波数特性を持ち、また、反射器の表面波反射効率が周波数特性を持つことから、縦結合共振子型弾性表面波フィルタは特定の周波数帯域内の信号だけを伝送するバンドパス特性を持つ。
【0006】
通過帯域外の信号減衰量を大きくしたい場合には、一つの圧電基板の上に、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子を2つ以上形成し、それらをカスケード接続した構成の弾性表面波フィルタを使用する。複数の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子をカスケード接続することにより、通過帯域外の信号は、おのおのの縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子によって順次減衰を受けるので、帯域外減衰量が大きくなる(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
図1に、圧電基板100の上に、2つの縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子106,112を形成して、それらをカスケード接続して形成した弾性表面波フィルタ150を示す。
【0008】
縦結合共振子型弾性表面波フィルタ106は、反射器101,105の間に3つのIDT102,103,104が、弾性表面波の伝搬方向を揃えて一列に配置されている。同様に、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ112は、反射器107,111の間に3つのIDT108,109,110が、弾性表面波の伝搬方向を揃えて一列に配置されている。反射器101,105,107,111は周期的なグレーティングである。IDT102〜104,108〜110は、相互に間挿する櫛型電極である。
【0009】
IDT102とIDT108が配線113で接続されるとともに、IDT104とIDT110が配線114で接続されることで、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子106,112がカスケード接続されている。
【0010】
配線115〜122は、パッド123〜130(128なし)とIDT102〜104,108〜110との間で導通をとるための配線である。パッド123〜127は接地用のパッドであって、接地して用いる。一方、パッド129は入力用のパッドであって、このパッドに入力電圧を印加する。パッド130は出力用のパッドであって、このパッドに出力電圧が発生する。
【0011】
反射器101,105,107,111、およびIDT102〜104,108〜110、および配線113〜122、およびパッド123〜130(128なし)は、すべて圧電基板100の上に形成された金属薄膜のパターンであって、薄膜微細加工プロセス、例えば、真空成膜、フォトトリソグラフィー、エッチング、リフトオフなどによって形成される。
【0012】
図2に、圧電基板200上に、2つの縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子206,212を形成して、それらをカスケード接続して形成した不平衝信号−平衡信号変換機能付弾性表面波フィルタ250を示す。弾性表面波フィルタ150と共通する部分が多いため、弾性表面波フィルタ150と異なる点を中心に、以下に説明する。
【0013】
IDT209が2つに分割されたIDTとなっており、このIDT209が平衡信号を発生するようになっている。パッド223〜227を接地して、パッド229に入力不平衡信号を入力すると、パッド230とパッド231に出力平衡信号が発生する。
【0014】
弾性表面波フィルタ250では、IDT202とIDT204の極性が反転されており、また、IDT208とIDT210の極性も反転されている。よって、接続配線213と接続配線214は逆相信号を伝送することになる。この手法は、弾性表面波フィルタ250の出力平衡信号の平衡度を向上させる働きがある。この手法を用いず、IDT202とIDT204の極性を同じにして、IDT208とIDT210の極性を同じにすることで、接続配線213と接続配線214が同相信号を伝送するようにしても、弾性表面波フィルタ250は不平衡信号−平衡信号変換機能付弾性表面波フィルタとして十分に機能するが、この手法を用いた方が、出力平衡信号の平衡度が良くなる。
【0015】
ここまで弾性表面波フィルタについて述べてきたが、これと類似したフィルタとして、弾性境界波フィルタがある。弾性境界波フィルタは、弾性表面波フィルタと同様に、圧電基板上に金属薄膜からなるIDT及び反射器を形成して構成するフィルタである。例えば、圧電単結晶基板の表面にAlなどからなるIDT、反射器で構成されるフィルタ電極を形成し、その上に圧電単結晶とは弾性定数もしくは密度の異なるSiOなどの充分厚い薄膜を形成したものである。作用原理や構成は、弾性表面波フィルタとほぼ同じであるが、弾性境界波フィルタは、素子形成された圧電基板面の上に固体層が設けられており、圧電基板と固体層の境界を伝搬する弾性波(弾性境界波)とIDTを相互作用させて動作する。弾性表面波フィルタでは、基板表面を拘束しないように、空洞を有するパッケージを用いる必要があるが、弾性境界波フィルタでは、波が圧電単結晶基板と薄膜との境界面を伝搬するため、空洞を有するパッケージを必要としないという長所がある。
【0016】
圧電基板の表面を伝搬する弾性表面波を用いて動作するのが弾性表面波フィルタであり、圧電基板と固体層の境界を伝搬する弾性境界波を用いて動作するのが弾性境界波であるが、両者の動作原理は基本的に同じであり、用いられる設計手法も類似している。
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲においては、弾性表面波フィルタや弾性境界波フィルタのように、弾性波(レイリー波、SH波、擬似弾性表面波、Love波、Sezawa波、Stonely波、境界波など)を利用したフィルタの総称として「弾性波フィルタ」という呼称を用いる。また、縦結合共振子型弾性表面波フィルタと縦結合共振子型弾性境界波フィルタの総称として「縦結合共振子型弾性波フィルタ」という呼称を用いる。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
弾性波フィルタをはじめとする高周波用バンドパスフィルタには、良好なインピーダンス整合が求められる。入出力端においてインピーダンス整合の悪いフィルタ、すなわち入出力端における信号反射の大きいフィルタは、反射によって信号を損失する分、挿入損失が悪く(大きく)なるからである。また、フィルタの入出力端で反射した信号が、フィルタに接続する他の電子部品に再入力することによって、回路が異常発信などの不具合を発生する危険性があるからである。
【0019】
ちなみに、「良好なインピーダンス整合」、「小さな信号反射」、「小さなVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)」は、全て同義である。インピーダンス整合が良好であれば、信号反射は小さくなり、VSWRは小さくなる。VSWRが小さいことは信号反射が小さいことを意味し、これはすなわちインピーダンス整合が良好であることを意味する。
【0020】
圧電基板の上に複数の縦結合共振子型弾性波フィルタ素子を形成し、これらをカスケード接続して構成した弾性波フィルタにおいては、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続点におけるインピーダンス整合が、弾性波フィルタ全体のインピーダンス整合に影響をもつ。これは、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続点のインピーダンス整合が悪く、ここで信号の反射が発生すると、反射した信号が結局、弾性波フィルタの反射波としてフィルタ外部へと放射されてしまうからである。
【0021】
縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続点においては、カスケード接続点からみた一方の縦結合共振子型弾性波フィルタ素子のインピーダンスと、カスケード接続点からみたもう一方の縦結合共振子型弾性波フィルタ素子のインピーダンスが、複素共役になっていることが理想である。両者が複素共役の関係にあれば、カスケード接続点でのインピーダンス整合は完全であることになり、この部分での信号反射は全く発生しない。
【0022】
しかし、現実には、カスケード接続線とアース電位のパターンの間に入る寄生容量のために、カスケード接続点から見た縦結合共振子型弾性波フィルタ素子のインピーダンスは、どちらも容量性(インピーダンス虚部が負)になりやすい傾向があり、理想的な複素共役の状態(一方のインピーダンス虚部が正で、もう一方のインピーダンス虚部が負)にはなりにくい。これが、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続点における信号反射を増大させる原因になっている。そして、結果的に、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子をカスケード接続して構成する弾性波フィルタのVSWRを悪化させている。この問題は、使用する圧電基板の比誘電率が大きいほど、カスケード接続線とアース電位のパターンの間に入る寄生容量が大きくなるため、顕著になる。また、フィルタの通過帯域周波数が高くなるほど、寄生容量に流入する電流が増えるため、この問題は顕著になる。
【0023】
本発明の目的は、圧電基板上に複数の縦結合共振子型弾性波フィルタ素子を形成し、これらをカスケード接続して構成した弾性波フィルタにおいて、縦結合共振子型弾性波フィルタ素子間のカスケード接続線に入る寄生容量の悪影響を軽減することで、カスケード接続点のインピーダンス整合を改善し、弾性波フィルタ入出力端のVSWRを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記目的を達成するため、以下のように構成した弾性波フィルタを提供する。
【0025】
弾性波フィルタは、圧電基板上に弾性波の伝搬方向に沿って形成された3つのIDTをそれぞれ含む2つの縦結合共振子型弾性波フィルタがカスケード接続されたタイプのものである。前記縦結合共振子型弾性波フィルタの少なくとも一方は、カスケード接続された前記IDTの電極指のピッチがカスケード接続された前記IDTのコンダクタンスピークの周波数が他の前記IDTのコンダクタンスピークの周波数より高くなるように、他の前記IDTの電極指のピッチよりも小さい。
【0026】
上記構成において、縦結合共振子型弾性波フィルタは、一般に、カスケード接続されたIDTの間に、他のIDTが配置される。カスケード接続されていない他のIDTは、弾性波フィルタの入力端子又は出力端子となる。従来はどのIDTも電極指のピッチは同じであったが、上記構成のようにカスケード接続されたIDTの電極指のピッチが他のIDTの電極指のピッチよりも小さくなると、カスケード接続されたIDTのインピーダンスが小さくなる(正確には、インピーダンスの実部が小さくなる)ので、カスケード接続されたIDTのインピーダンスの実部は小さくなる。これにより、カスケード接続部は、高電圧小電流伝送系から低電圧大電流伝送系へと変化する。
【0027】
インピーダンス実部の大きな伝送系、すなわち高電圧小電流伝送系と比較して、インピーダンス実部の小さな伝送系、すなわち低電圧大電流伝送系は、寄生容量の影響を受けにくい。なぜなら、低電圧伝送系になることにより、寄生容量に印加される電圧が小さくなるから、寄生容量に流出する電流が小さくなる。加えて、大電流伝送系になることにより、同じ量の電流が寄生容量に流出する場合でも、伝送電流そのものが増えているから、その影響が小さくなるからである。
【0028】
したがって、上記構成によれば、カスケード接続部における寄生容量の影響が小さくなり、これに起因するインピーダンスの不整合も小さくなる。この結果、カスケード接続部での信号反射が小さくなり、弾性波フィルタのVSWRが改善される。
【0029】
好ましくは、前記縦結合共振子型弾性波フィルタは、いずれも、カスケード接続された前記IDTの電極指のピッチが他の前記IDTの電極指のピッチよりも小さい。
【0030】
カスケード接続されたIDTのインピーダンスをすべて小さくすることにより、弾性波フィルタのVSWRをより改善することできる。
【0031】
具体的には、以下のように構成する。
【0032】
好ましくは、前記圧電基板の比誘電率が30以上である。
【0033】
比誘電率が30以上である圧電基板では、寄生容量が大きくなるため、VSWRの改善効果が顕著である。
【0034】
好ましくは、通過帯域の中心周波数が500MHz以上である。
【0035】
通過帯域の中心周波数が500MHz以上のフィルタにおいて、VSWRの改善効果が顕著である。
【0036】
好ましくは、前記IDTは、弾性表面波の伝搬方向を揃えて一列に配置される。
【0037】
この場合、弾性波フィルタは、圧電基板の表面を伝搬する弾性表面波を利用する弾性表面波フィルタである。
【0038】
好ましくは、前記圧電基板とは弾性定数又は密度が異なる薄膜をさらに備える。前記IDTは、前記圧電基板と前記薄膜との間に弾性境界波の伝搬方向を揃えて一列に配置される。
【0039】
この場合、弾性波フィルタは、圧電基板と固体層である薄膜の境界を伝搬する弾性境界波を利用する弾性境界波フィルタである。
【0040】
また、本発明は、上記各構成の弾性波フィルタを用いたことを特徴とする通信機を提供する。
【発明の効果】
【0041】
本発明の弾性波フィルタは、入出力端のVSWRを改善することができる。また、本発明の通信機は、VSWRが改善された弾性波フィルタを備えるので、特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
[図1]弾性表面波フィルタの構成図(従来例)
[図2]弾性表面波フィルタの構成図(従来例)
[図3]弾性表面波フィルタの構成図(実施例)
[図4]弾性表面波フィルタの特性を示すグラフ(実施例、従来例)
【符号の説明】
【0043】
350 弾性表面波フィルタ(弾性波フィルタ)
302,303,304 IDT
306 縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子(縦結合共振子型弾性波フィルタ)
308,309,310 IDT
312 縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子(縦結合共振子型弾性波フィルタ)
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態として実施例を、図3及び図4を参照しながら説明する。
【0045】
図3に、本発明の実施例である不平衡信号−平衡信号変換機能付の弾性表面波フィルタ350の構成を示す。なお、図3は模式図であり、反射電極や電極指の本数は実際よりも少なく図示しているが、隣接する反射器やIDTの間の極性関係は正確に図示している。
【0046】
弾性表面波フィルタ350は、従来例として図2に示した弾性表面波フィルタ250と略同様に構成されており、基本的な動作原理は同じである。
【0047】
すなわち、弾性表面波フィルタ350は、圧電基板300上に、2つの縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306,312、配線313〜321、パッド323〜331(328なし)が形成されている。
【0048】
縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306,312は、それぞれ、2つの反射器301,305;307,311の間に、3つのIDT302,303,304;308,309,310が、弾性表面波の伝搬方向を揃えて一列に配置されている。
【0049】
一方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306の中央のIDT303の両端は、それぞれ、配線316,322によってパッド329,325に接続されている。他方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子312の中央のIDT309は、対向する櫛型電極の一方が2つに分割され、それぞれ、配線319,320によってパッド330,331に接続されている。
【0050】
一方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306の両側のIDT302,304の一端と、他方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子312の両側のIDT308,310の一端とは、配線313,314によって接続されている。これによって、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306,312は、カスケード接続されている。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306,312の両側のIDT302,304;308,310の他端は、それぞれ、配線315,317;318,321によって、パッド323,324;326,327に接続されている。IDT302とIDT304の極性が反転されている。また、IDT308とIDT310の極性も反転されている。
【0051】
パッド323〜327を接地して、パッド329に入力不平衡信号を入力すると、パッド330,331に出力平衡信号が発生する。
【0052】
次に、図2の弾性表面波フィルタ250と異なる点について、説明する。
【0053】
弾性表面波フィルタ350は、一方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ306において、カスケード接続されたIDT302,304の電極指のピッチが、他のIDT303の電極指のピッチよりも狭くなっている。同様に、他方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ312において、カスケード接続されたIDT308,310の電極指のピッチが、他のIDT309の電極指のピッチよりも狭くなっている。
【0054】
このように電極指ピッチを狭くして、カスケード接続部のインピーダンスを下げることにより、カスケード接続配線を流れる電流が大きくなり、また、カスケード接続配線の電圧が小さくなり、カスケード接続配線に入っている寄生容量の影響が小さくなる。この結果、カスケード接続部におけるインピーダンス不整合が小さくなり、弾性波フィルタ350のVSWR特性を改善することができる。
【0055】
弾性表面波フィルタ350は、例えば、通過帯域の中心周波数が500MHz以上のバンドパスフィルタとして、携帯型通信機に好適に使用することができる。
【0056】
以下に、弾性表面波フィルタ350の具体的な設計パラメータを例示する。
【0057】
圧電基板300として、LiTaOの36°Y軸回転X方向表面波伝播の単結晶板を用いる。圧電基板300は、36°に限らず、34〜44°程度のカット角のLiTaOを用いてもよい。厚み349nmのアルミニウム薄膜パターンによって、2つの縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306,312などを形成する。
【0058】
一方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子306の設計パラメータは以下のとおりである。
【0059】
交叉幅は135μmである。反射器301,305は、ピッチ2.128μm、メタライズ比0.687のグレーティングであり、その本数は反射器301,305ともに60本である。IDT302,304は、ピッチ2.108μm、メタライズ比0.687であり、その電極指本数はIDT302,304ともに27本である。ただし、IDT302,IDT304とも、IDT303に隣接する電極指4本は、ピッチ1.941μm、メタライズ比0.687となっている。IDT303は、ピッチ2.117μm、メタライズ比0.684であり、その電極指本数は36本である。ただし、IDT303の両端各4本の電極指は、ピッチ1.941μm、メタライズ比0.687となっている。反射器301とIDT302の間隔(電極指中心間隔)は2.085μmであり、反射器305とIDT304の間隔(電極指中心間隔)も同じく2.085μmである。IDT302とIDT303の間隔(電極指中心間隔)は1.940μmであり、IDT304とIDT303の間隔(電極指中心間隔)も同じく1.940μmである。IDT302,304のコンダクタンスピークの周波数はIDT303のコンダクタンスピークの周波数より高い。
【0060】
他方の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ素子312の設計パラメータは、以下の通りである。
【0061】
交叉幅は135μmである。反射器307,311は、ピッチ2.128μm、メタライズ比0.687のグレーティングであり、その本数は反射器307,311ともに60本である。IDT308,310は、ピッチ2.108μm、メタライズ比0.687であり、その電極指本数はIDT308,310ともに27本である。ただし、IDT308,310とも、IDT309に隣接する電極指4本は、ピッチ1.957μm、メタライズ比0.682となっている。IDT309は、ピッチ2.117μm、メタライズ比0.684であり、その電極指本数は40本である。ただし、DT309の両端各5本の電極指は、ピッチ1.941μm、メタライズ比0.687となっている。反射器307とIDT308の間隔(電極指中心間隔)は2.085μmであり、反射器311とIDT310の間隔(電極指中心間隔)も同じく2.085μmである。IDT308とIDT309の間隔(電極指中心間隔)は1.940μmであり、IDT310とIDT309の間隔(電極指中心間隔)も同じく1.940μmである。IDT308,310のコンダクタンスピークの周波数はIDT309のコンダクタンスピークの周波数より高い。
【0062】
なお、カスケード接続されたIDT302,304;308,310の電極指ピッチは、入出力端子に接続された他のIDT303;309の電極指ピッチに対して、適宜な比率で小さくすればよいが、特に、0.995〜0.850の比率で小さくすることが好ましい。VSWRの改善のためには0.995以下の比率にすればよく、弾性表面波フィルタの特性などに悪影響が出ないようにするためには0.850以上の比率とすればよい。
【0063】
図4に、実施例と従来例の弾性表面波フィルタの特性を示す。図4(a)は挿入損失、図4(b)は入力側のVSWR、図4(c)は出力側のVSWRである。ここで、実施例は、上記の具体的な設計パラメータの弾性表面波フィルタ350であり、図4において、その特性を細線で示している。従来例は、実施例の弾性表面波フィルタ350のIDT303の電極指ピッチとIDT302,304の電極指ピッチを同じ2.108μmにして、IDT309の電極ピッチとIDT308,310の電極指ピッチを同じ2.108μmにした以外は実施例と同じであり、図4において、その特性を太線で示している。
【0064】
両者のVSWRを比較すると、実施例の弾性表面波フィルタの方が、従来例の弾性表面波フィルタよりも、通過帯域内の大部分の周波数において、VSWRが小さくなっている(改善されている)ことがわかる。特に、従来例の弾性表面波フィルタにおいて最も大きかった通過帯域低周波端での入力側VSWRは、実施例の弾性表面波フィルタにおいては大幅に小さくなっている。
【0065】
なお、周波数935MHz付近においては、従来例の弾性表面波フィルタのVSWRの方が、実施例の弾性表面波フィルタのVSWRよりも小さくなっている。これは、周波数935MHz付近においては、カスケード接続配線とアースパターンの間の寄生容量が、カスケード接続点におけるインピーダンス整合を助ける方向に働いていたため、実施例では、その寄生容量の働きを阻害した結果、逆にカスケード接続点におけるインピーダンス整合が悪化してしまったからである。帯域内のある周波数領域においては、カスケード接続配線とアースパターンの間の寄生容量が、カスケード接続点におけるインピーダンス整合を助けていることもあるため、電極指ピッチを小さくしても、必ずしも、帯域内の全周波数においてVSWRが改善するとは限らない。しかしながら、カスケード接続線とアースパターンの間の寄生容量は一般的に過剰であり、帯域内のほとんどの周波数領域においては、カスケード接続点におけるインピーダンス整合を悪化させる要因となっている。
【0066】
したがって、実施例のように電極ピッチを狭くすれば、帯域内の多くの部分において、VSWRを小さくする効果があり、全体として見れば、VSWRは改善される。
【0067】
使用する圧電基板の比誘電率が大きければ大きいほど、また、通過帯域の周波数が高ければ高いほど、カスケード接続線とアースパターンの間の寄生容量の影響が強くなりすぎる傾向があるので、実施例のように電極指ピッチを狭くすることが、VSWRの改善に有効である。
【0068】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様で実施可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に弾性波の伝搬方向に沿って形成された3つのIDTをそれぞれ含む2つの縦結合共振子型弾性波フィルタがカスケード接続された弾性波フィルタにおいて、
前記縦結合共振子型弾性波フィルタの少なくとも一方は、カスケード接続された前記IDTの電極指のピッチがカスケード接続された前記IDTのコンダクタンスピークの周波数が他の前記IDTのコンダクタンスピークの周波数より高くなるように、他の前記IDTの電極指のピッチよりも小さくされていることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記縦結合共振子型弾性波フィルタは、いずれも、カスケード接続された前記IDTの電極指のピッチが他の前記IDTの電極指のピッチよりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記圧電基板の比誘電率が30以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
通過帯域の中心周波数が500MHz以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記IDTは、それぞれ、弾性表面波の伝搬方向を揃えて一列に配置されたことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記圧電基板上に形成され、該圧電基板とは弾性定数又は密度が異なる薄膜をさらに備え、
前記IDTは、それぞれ、前記圧電基板と前記薄膜との間に弾性境界波の伝搬方向を揃えて一列に配置されたことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載の弾性波フィルタを用いたことを特徴とする通信機。

【国際公開番号】WO2005/104363
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516891(P2006−516891)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006609
【国際出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】