説明

弾性波分波器

【課題】小型でありつつ、IMDの発生が抑制された弾性波分波器を提供する。
【解決手段】弾性波分波器1は、アンテナ端子10と送信側信号端子11との間に接続されている送信フィルタ部20と、アンテナ端子10と受信側信号端子12a、12bとの間に接続されている受信フィルタ部13とを備えている。送信フィルタ20は、アンテナ端子10と送信側信号端子11とを接続している直列腕21と、直列腕21において直列に接続されている複数の直列腕共振子S1〜S4と、直列腕21とグラウンド電位とを接続している複数の並列腕22a〜22cと、複数の並列腕22a〜22cのそれぞれに設けられている並列腕共振子P1〜P3とを有する。複数の並列腕共振子P1〜P3のうち、アンテナ端子10に最も近い第1の並列腕共振子P1の共振周波数が、他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波分波器に関する。特に、本発明は、送信フィルタ部と受信フィルタ部とを有し、送信フィルタ部がラダー型フィルタ部により構成されている弾性波分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話機などの通信機器に、弾性表面波や弾性境界波などの弾性波を利用した弾性波分波器などが用いられるようになってきている。この弾性波分波器は、非線形なデバイスである。このため、弾性波分波器には、相互変調歪み(IMD:Inter Moduration Distortion)が発生しやすいという問題がある。
【0003】
近年、通信の高速化を実現するために占有帯域幅を広げることが携帯電話システムに求められている。しかしながら、占有帯域幅を広くするとノイズレベルが高くなる傾向にある。このため、弾性波分波器においてIMDが発生すると、受信信号の感度が劣化してしまうという問題がある。このことから、従来、フィルタ装置においてIMDの発生を抑制する方策が種々提案されている。
【0004】
例えば下記の特許文献1では、ラダー型の弾性波分波器において、アンテナ端子に最も近い直列腕共振子または並列腕共振子を、静電容量を変えずに分割することにより、面積を大きくすることが提案されている。このようにすることで、アンテナ端子に最も近い直列腕共振子または並列腕共振子の単位面積あたりの消費電力を低くできる。従って、IMDの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−074698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のように、直列腕共振子や並列腕共振子を分割すると、直列腕共振子や並列腕共振子が大型化してしまう。従って、弾性波分波器の小型化が困難となるという問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みて成されたものであり、その目的は、小型でありつつ、IMDの発生が抑制された弾性波分波器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弾性波分波器は、アンテナ端子と、送信側信号端子及び受信側信号端子と、送信フィルタ部と、受信フィルタ部とを備えている。送信フィルタ部は、アンテナ端子と送信側信号端子との間に接続されている。受信フィルタ部は、アンテナ端子と受信側信号端子との間に接続されている。送信フィルタ部は、直列腕と、複数の直列腕共振子と、複数の並列腕と、並列腕共振子とを有する。直列腕は、アンテナ端子と送信側信号端子とを接続している。複数の直列腕共振子は、直列腕において直列に接続されている。複数の並列腕のそれぞれは、直列腕とグラウンド電位とを接続している。並列腕共振子は、複数の並列腕のそれぞれに設けられている。複数の並列腕共振子のうち、アンテナ端子に最も近い第1の並列腕共振子の共振周波数が、他の並列腕共振子の共振周波数よりも高い。
【0009】
なお、本発明において、「近い」及び「遠い」は、物理的な距離の短長を示すものではなく、電気回路的な距離の短長を示すものである。従って、「アンテナ端子に最も近い」とは、電気回路的に最も近いことを意味する。
【0010】
本発明に係る弾性波分波器のある特定の局面では、複数の並列腕共振子のそれぞれは、圧電基板と、圧電基板の上に設けられたIDT電極とを有する。第1の並列腕共振子のIDT電極は、複数の並列腕共振子の第1の並列腕共振子以外の並列腕共振子のそれぞれのIDT電極よりも、電極指のピッチが狭いか、デューティー比が小さいか、または電極指のピッチが狭く且つデューティー比が小さい。この場合、第1の並列腕共振子を大型化させることなく、第1の並列腕共振子の共振周波数を他の並列腕共振子の共振周波数よりも高くできる。従って、小型化とIMDの発生の抑制との両方を図ることができる。
【0011】
本発明に係る弾性波分波器の他の特定の局面では、複数の並列腕共振子のそれぞれは、圧電基板と、圧電基板の上に設けられたIDT電極とを有する。第1の並列腕共振子のIDT電極には、間引き重み付けが施されている。この構成では、弾性波分波器を大型化することなく、IMDの発生をより効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明に係る弾性波分波器の別の特定の局面では、第1の並列腕共振子には、キャパシタが並列に接続されている。この構成では、弾性波分波器を大型化することなく、IMDの発生をより効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る弾性波分波器のさらに他の特定の局面では、送信フィルタ部の通過帯域をfTx1以上fTx2以下とし、受信フィルタ部の通過帯域をfRx1以上fRx2以下とした場合に、送信フィルタ部の通過帯域低域側近傍の減衰域が、2fTx1−fRx1と2fTx2−fRx2との間の周波数帯内にある。
【0014】
本発明に係る弾性波分波器のさらに別の特定の局面では、複数の直列腕共振子のうちアンテナ端子に最も近い直列腕共振子と、第1の並列腕共振子とのそれぞれが、ひとつの弾性波共振子により構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型でありつつ、IMDの発生が抑制された弾性波分波器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る弾性波デュプレクサの略図的回路図である。
【図2】弾性表面波共振子の略図的断面図である。
【図3】弾性境界波共振子の略図的断面図である。
【図4】第1の比較例に係る弾性波デュプレクサの略図的回路図である。
【図5】第1の実施形態に係る第1の並列腕共振子の反射特性(実線)と、第1の比較例に係る第1の並列腕共振子の反射特性(破線)とを表すグラフである。
【図6】第1の実施形態に係る弾性波デュプレクサのIMD(実線)と、第1の比較例に係る弾性波デュプレクサのIMD(破線)とを表すグラフである。
【図7】第1の実施形態及び第1の比較例における、送信側信号端子からアンテナ端子への通過特性を表すグラフである。
【図8】第1の実施形態及び第1の比較例における、アンテナ端子から受信側信号端子への通過特性を表すグラフである。
【図9】第1の実施形態及び第1の比較例における、送信側信号端子から受信側信号端子へのアイソレーション特性を表すグラフである。
【図10】第2の実施形態における第1の並列腕共振子のIDT電極の略図的平面図である。
【図11】第3の実施形態における第1〜第3の並列腕共振子のそれぞれの反射特性を表すグラフである。
【図12】第2の比較例における第1〜第3の並列腕共振子のそれぞれの反射特性を表すグラフである。
【図13】第3の実施形態に係る弾性波デュプレクサのIMD(実線)と、第2の比較例に係る弾性波デュプレクサのIMD(破線)とを表すグラフである。
【図14】第3の実施形態及び第2の比較例における、送信側信号端子からアンテナ端子への通過特性を表すグラフである。
【図15】第3の実施形態及び第2の比較例における、アンテナ端子から受信側信号端子への通過特性を表すグラフである。
【図16】第3の実施形態及び第2の比較例における、送信側信号端子から受信側信号端子へのアイソレーション特性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1に示す弾性波デュプレクサ1を例に挙げて説明する。但し、弾性波デュプレクサ1は、単なる例示である。本発明は、弾性波デュプレクサ1に何ら限定されない。本発明に係る弾性波分波器は、例えば、弾性波トリプレクサであってもよい。
【0018】
図1は、本実施形態の弾性波デュプレクサ1の略図的回路図である。図1に示す弾性波デュプレクサ1は、分波器の一種である。弾性波デュプレクサ1は、詳細には、UMTS−BAND8用のデュプレクサである。このため、弾性波デュプレクサ1の送信周波数帯は、880MHz〜915MHzであり、受信周波数帯は、925MHz〜960MHzである。
【0019】
弾性波デュプレクサ1は、アンテナに接続されるアンテナ端子10と、送信側信号端子11と、第1及び第2の受信側信号端子12a、12bとを有する。アンテナ端子10と第1及び第2の受信側信号端子12a、12bとの間には、受信フィルタ部13が接続されている。一方、アンテナ端子10と送信側信号端子11との間には、送信フィルタ部20が接続されている。送信フィルタ部20と受信フィルタ部13との間の接続点とアンテナ端子10との間の接続点と、グラウンド電位との間には、インピーダンス整合回路としてのインダクタL1が接続されている。
【0020】
本実施形態においては、受信フィルタ部13は、縦結合共振子型弾性波フィルタ部により構成されている。受信フィルタ部13は、平衡−不平衡変換機能を有する所謂バランス型のフィルタ部である。従って、第1及び第2の受信側信号端子12a、12bからは平衡信号が出力される。なお、受信フィルタ部13は、例えば、弾性表面波を利用するものであってもよいし、弾性境界波を利用するものであってもよい。
【0021】
送信フィルタ部20は、所謂ラダー型の弾性波フィルタ部である。送信フィルタ部20は、直列腕21を有する。直列腕21においては、複数の直列腕共振子S1〜S4が直列に接続されている。本実施形態においては、複数の直列腕共振子S1〜S4のうち、直列腕共振子S2,S3は、互いに直列に接続されている2つの弾性波共振子により構成されている。アンテナ端子10に最も近い直列腕共振子S1は、ひとつの弾性波共振子により構成されている。また、本実施形態では、直列腕共振子S2には、キャパシタC2が並列に接続されている。
【0022】
送信フィルタ部20には、複数の並列腕22a〜22cが設けられている。複数の並列腕22a〜22cのそれぞれは、直列腕21とグラウンド電位とを接続している。複数の並列腕22a〜22cのそれぞれには、並列腕共振子P1〜P3が設けられている。並列腕22aと並列腕22bとの間の接続点とグラウンド電位との間には、インダクタL2が接続されている。一方、並列腕共振子P3とグラウンド電位との間には、インダクタL3が接続されている。
【0023】
複数の並列腕共振子P1〜P3及び複数の直列腕共振子S1〜S4のそれぞれを構成している弾性波共振子は、図2に示す弾性表面波共振子30または図3に示す弾性境界波共振子40により構成されている。
【0024】
弾性表面波共振子30は、圧電基板31と、圧電基板31の上に設けられたIDT電極32とを備えている。弾性表面波共振子30は、圧電基板31の上にIDT電極32を覆うように設けられた誘電体層をさらに備えていてもよい。この誘電体層は、例えば、酸化ケイ素や窒化ケイ素により形成することができる。
【0025】
弾性境界波共振子40は、圧電基板41と、圧電基板41の上に設けられたIDT電極42と、圧電基板41の上にIDT電極42を覆うように設けられた第1の誘電体層43と、第1の誘電体層43の上に設けられており、第1の誘電体層43よりも速い音速を有する第2の誘電体層44とを備えている。なお、第2の誘電体層44は必須ではなく、弾性境界波共振子は、圧電基板、IDT電極及び第1の誘電体層のみにより構成されていてもよい。
【0026】
圧電基板31,41は、例えば、LiNbO基板、LiTaO基板、水晶基板などにより構成することができる。IDT電極32,42は、例えば、Al,Pt,Au,Ag,Cu,Ni,Ti,Cr及びPdからなる群から選ばれた金属、もしくは、Al,Pt,Au,Ag,Cu,Ni,Ti,Cr及びPdからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金により形成することができる。また、IDT電極32,42は、例えば、上記金属や合金からなる複数の導電層の積層体により構成されていてもよい。第1の誘電体層43は、例えば、酸化ケイ素により形成することができる。第2の誘電体層44は、例えば、窒化ケイ素により形成することができる。
【0027】
本実施形態においては、複数の並列腕共振子P1〜P3のうち、アンテナ端子10に最も近い第1の並列腕共振子P1は、ひとつの弾性波共振子により構成されている。第1の並列腕共振子P1には、キャパシタC1(静電容量:0.30pF)が並列に接続されている。一方、その他の並列腕共振子P2,P3には、キャパシタは、並列に接続されていない。これにより、第1の並列腕共振子P1の共振周波数が、他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くされている。具体的には、本実施形態では、第1の並列腕共振子P1の共振周波数は、867.2MHzである。第2の並列腕共振子P2の共振周波数は、866.5MHzである。第3の並列腕共振子P3の共振周波数は、865.0MHzである。
【0028】
ところで、前述したように、弾性波分波器は非線形なデバイスであるため、IMDが発生しやすい。例えば、アンテナから送信信号の2倍の周波数と受信信号の周波数との差と一致する周波数の信号が入力されると、送信信号との相互変調により、受信信号と等しい周波数のIMDが発生する。UMTS−BAND8用の弾性波デュプレクサの場合、送信フィルタ部の通過帯域をfTx1以上fTx2以下とし、受信フィルタ部の通過帯域をfRx1以上fRx2以下としたときの2fTx1−fRx1と2fTx2−fRx2との間の周波数帯(以下、「2Tx−Rx帯」とする。)は、835MHz〜870MHzとなる。この周波数帯に妨害波が入力され、弾性波デュプレクサ内で妨害波による消費電力が大きくなると、受信フィルタ部の通過帯域にIMDが発生する。
【0029】
本実施形態においては、第1〜第3の並列腕共振子P1〜P3の共振周波数が、2Tx−Rx帯(835MHz〜870MHz)内にあり、送信フィルタ部20の通過帯域近傍の減衰域を形成している。そのため、第1〜第3の並列腕共振子P1〜P3で妨害波による消費電力が大きくなると、大きなIMDが発生する虞がある。特に、並列腕共振子P1は最もアンテナ端子10に近いため、妨害波の消費電力が大きくなる。他の並列腕共振子P2、P3でIMDが発生しても、受信フィルタ部13に伝送するまでに大きく減衰するが、並列腕共振子P1は受信フィルタ部13に近いため、それほど減衰することなく、受信フィルタ部13に伝送してしまう。
【0030】
しかしながら、本実施形態では、複数の並列腕共振子P1〜P3のうち、アンテナ端子10に最も近い第1の並列腕共振子P1の共振周波数が、他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くされている。このため、IMDの発生を抑制することができる。以下、この効果について、具体例に基づいて詳細に説明する。
【0031】
本実施形態の弾性波デュプレクサ1の比較例(第1の比較例)として、図4に示すように、アンテナ端子に最も近い第1の並列腕共振子P101にキャパシタが並列に接続されていないこと以外は弾性波デュプレクサ1と実質的に同様の構成を有する弾性波デュプレクサ100を挙げる。この弾性波デュプレクサ100では、第1の並列腕共振子P101の共振周波数は、864.8MHzである。第2の並列腕共振子の共振周波数は、866.5MHzである。第3の並列腕共振子の共振周波数は、865.0MHzである。このため、第1〜第3の並列腕共振子のうちで、第2の並列腕共振子が最も高い共振周波数を有している。
【0032】
本実施形態に係る第1の並列腕共振子P1の反射特性を表すグラフを図5に実線で示す。第1の比較例に係る第1の並列腕共振子P101の反射特性を表すグラフを図5に破線で示す。
【0033】
図6は、本実施形態に係る弾性波デュプレクサ1のIMD(実線)と、第1の比較例に係る弾性波デュプレクサ100のIMD(破線)とを表すグラフである。なお、各弾性波デュプレクサのIMDは、受信信号の周波数と送信信号の周波数との差を一定(45MHz)とし、且つ受信信号の周波数と妨害波信号の周波数との差も一定(90MHz)として、受信信号の周波数を925MHz〜960MHzの間で変化させて測定した。例えば、受信信号の周波数を925MHzとした場合は、送信信号の周波数を880MHzとし、妨害波信号の周波数を835MHzとした。また、例えば、受信信号の周波数を960MHzとした場合は、送信信号の周波数を915MHzとし、妨害波信号の周波数を870MHzとした。なお、IMDの測定においては、アンテナ端子における送信信号の電力を+21dBmとし、アンテナ端子における妨害波信号の電力を−15dBmとした。そして、第1及び第2の受信側信号端子にバランを接続し、バランから出力されるIMDを測定した。
【0034】
図7は、本実施形態及び第1の比較例における、送信側信号端子からアンテナ端子への通過特性を表すグラフである。図8は、本実施形態及び第1の比較例における、アンテナ端子から受信側信号端子への通過特性を表すグラフである。図9は、本実施形態及び第1の比較例における、送信側信号端子から受信側信号端子へのアイソレーション特性を表すグラフである。
【0035】
図5に示す結果から、キャパシタC1を本実施形態の第1の並列腕共振子P1に並列に接続することにより、第1の並列腕共振子P1の共振周波数を第1の比較例の第1の並列腕共振子P101の共振周波数より高周波数側にシフトさせることができることが分かる。そのため、第1の並列腕共振子P1の共振周波数は、2Tx−Rx帯の上端付近に位置する。そして、2Tx−Rx帯において、第1の並列腕共振子P1の反射損失は、第1の並列腕共振子P101の反射損失より小さくなっている。
【0036】
また、図6に示すように、第1の並列腕共振子P1の共振周波数が高周波数シフトされた弾性波デュプレクサ1の方が、第1の並列腕共振子P101の共振周波数が高周波数シフトされてない弾性波デュプレクサ100よりも受信周波数帯(925MHz〜960MHz)の高域側部分(約950MHz〜960MHz)においてIMD特性が改善していることが分かる。
【0037】
この結果から、第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他のいずれの並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くすることにより、弾性波デュプレクサを大型化することなくIMD特性が改善できることが分かる。これは、2Tx−Rx帯において、第1の並列腕共振子P1の反射損失が小さくなったことにより、妨害波が入力されたときにおける第1の並列腕共振子P1の消費電力が低減されたため、IMDの発生が抑制されたものと考えられる。
【0038】
なお、図7〜図9に示すように、本実施形態と第1の比較例とで伝送特性が同等であることから、キャパシタC1を設けて第1の並列腕共振子P1の共振周波数を高周波数側にシフトさせても伝送特性は劣化しないことが分かる。
【0039】
以下、本発明を実施した好ましい形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0040】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態における第1の並列腕共振子P1のIDT電極の略図的平面図である。
【0041】
上記第1の実施形態では、キャパシタC1を第1の並列腕共振子P1に並列に接続することにより第1の並列腕共振子P1の共振周波数を高周波数側にシフトさせる例について説明した。但し、本発明において、第1の並列腕共振子の共振周波数を高周波数側にシフトさせる方法は特に限定されない。
【0042】
例えば、キャパシタC1を設けずに、またはキャパシタC1を設けると共に、第1の並列腕共振子P1のIDT電極を、図10に示すような間引き重み付けが施されたIDT電極50により構成することで第1の並列腕共振子P1の共振周波数を高周波数側にシフトさせてもよい。その場合であっても、上記第1の実施形態と同様にIMDの発生を抑制することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、キャパシタC1を設ける必要もないため、第1の実施形態よりも弾性波デュプレクサをさらに小型化することが可能となる。
【0044】
なお、間引き重み付けとは、IDT電極を構成している一対のくし歯状電極の少なくとも一方のくし歯状電極の電極指の一部が除去されることにより、部分的に弾性波が励振しない領域を形成することである。しかし、電極指の一部を完全に除去すると、その部分で弾性波の音速が低下する。そのため、通常は、図10に示すように、一方のくし歯状電極の電極指の一部をバスバーから切り離し、他方のくし歯状電極のバスバーに接続する。
【0045】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の並列腕共振子P1のIDT電極の電極指のピッチを他の並列腕共振子P2,P3のIDT電極の電極指のピッチよりも狭くすることにより、第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くした例について説明する。
【0046】
具体的には、本実施形態では、第1の並列腕共振子P1のIDT電極の電極指のピッチを2.237μmとし、第2の並列腕共振子P2のIDT電極の電極指のピッチを2.238μmとし、第3の並列腕共振子P3のIDT電極の電極指のピッチを2.244μmとし、キャパシタC1を設けなかったこと以外は、上記第1の実施形態と実質的に同様の構成となっている。図11に示すように、本実施形態では、第1の並列腕共振子P1の共振周波数が他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高い。
【0047】
本実施形態の比較例(第2の比較例)として、第1の並列腕共振子P1のIDT電極の電極指のピッチを2.242μmとし、第2の並列腕共振子P2のIDT電極の電極指のピッチを2.234μmとし、第3の並列腕共振子P3のIDT電極の電極指のピッチを2.241μmとし、図12に示すように、第1〜第3の並列腕共振子P1〜P3のうち、第2の並列腕共振子P2の共振周波数を最も高くした例を挙げる。
【0048】
図13は、第3の実施形態に係る弾性波デュプレクサのIMD(実線)と、第2の比較例に係る弾性波デュプレクサのIMD(破線)とを表すグラフである。図14は、第3の実施形態及び第2の比較例における、送信側信号端子とアンテナ端子との間の挿入損失を表すグラフである。図15は、第3の実施形態及び第2の比較例における、アンテナ端子と受信側信号端子の間の挿入損失を表すグラフである。図16は、第3の実施形態及び第2の比較例における、送信側信号端子と受信側信号端子の間の挿入損失を表すグラフである。
【0049】
図13に示すように、電極指ピッチを調整することにより第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くした場合であっても、上記第1の実施形態の場合と同様にIMDを効果的に抑制できることが分かる。また、図14〜図16の結果から、電極指ピッチを調整することにより第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くした場合であっても、伝送特性が劣化しないことが分かる。
【0050】
同様に、第1の並列腕共振子P1のIDT電極のデューティー比を他の並列腕共振子P2,P3のIDT電極のデューティー比よりも小さくことにより、第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くした場合であっても、IMDの発生を抑制することができる。また、第1の並列腕共振子P1のIDT電極の電極指のピッチを他の並列腕共振子P2,P3のIDT電極の電極指のピッチよりも狭くすると共に、第1の並列腕共振子P1のIDT電極のデューティー比を他の並列腕共振子P2,P3のIDT電極のデューティー比よりも小さくことにより、第1の並列腕共振子P1の共振周波数を他の並列腕共振子P2,P3の共振周波数よりも高くした場合であっても、IMDの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…弾性波デュプレクサ
10…アンテナ端子
11…送信側信号端子
12a、12b…受信側信号端子
13…受信フィルタ部
20…送信フィルタ部
21…直列腕
22a〜22c…並列腕
30…弾性表面波共振子
40…弾性境界波共振子
31,41…圧電基板
32,42…IDT電極
43…第1の誘電体層
44…第2の誘電体層
50…IDT電極
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S4…直列腕共振子
L1〜L3…インダクタ
C1,C2…キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ端子と、
送信側信号端子及び受信側信号端子と、
前記アンテナ端子と前記送信側信号端子との間に接続された送信フィルタ部と、
前記アンテナ端子と前記受信側信号端子との間に接続された受信フィルタ部と、
を備える弾性波分波器であって、
前記送信フィルタ部は、
前記アンテナ端子と前記送信側信号端子とを接続している直列腕と、
前記直列腕において直列に接続されている複数の直列腕共振子と、
前記直列腕とグラウンド電位とを接続している複数の並列腕と、
前記複数の並列腕のそれぞれに設けられている並列腕共振子と、
を有し、
前記複数の並列腕共振子のうち、前記アンテナ端子に最も近い第1の並列腕共振子の共振周波数が、他の並列腕共振子の共振周波数よりも高い、弾性波分波器。
【請求項2】
前記複数の並列腕共振子のそれぞれは、圧電基板と、前記圧電基板の上に設けられたIDT電極とを有し、
前記第1の並列腕共振子のIDT電極は、前記複数の並列腕共振子の前記第1の並列腕共振子以外の並列腕共振子のそれぞれのIDT電極よりも、電極指のピッチが狭いか、デューティー比が小さいか、または電極指のピッチが狭く且つデューティー比が小さい、請求項1に記載の弾性波分波器。
【請求項3】
前記複数の並列腕共振子のそれぞれは、圧電基板と、前記圧電基板の上に設けられたIDT電極とを有し、
前記第1の並列腕共振子のIDT電極には、間引き重み付けが施されている、請求項1または2に記載の弾性波分波器。
【請求項4】
前記第1の並列腕共振子には、キャパシタが並列に接続されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性波分波器。
【請求項5】
前記送信フィルタ部の通過帯域をfTx1以上fTx2以下とし、前記受信フィルタ部の通過帯域をfRx1以上fRx2以下とした場合に、前記送信フィルタ部の通過帯域低域側近傍の減衰域が、2fTx1−fRx1と2fTx2−fRx2との間の周波数帯内にある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の弾性波分波器。
【請求項6】
前記複数の直列腕共振子のうち前記アンテナ端子に最も近い直列腕共振子と、前記第1の並列腕共振子とのそれぞれが、ひとつの弾性波共振子により構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記に記載の弾性波分波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−147175(P2012−147175A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3049(P2011−3049)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】