説明

弾性波素子およびそれを用いた弾性波装置

【課題】弾性波の伝搬損失を低減できる弾性波素子を提供する。
【解決手段】圧電基板3と、圧電基板3の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極5とを有する弾性波素子である。IDT電極5は、圧電基板3を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバー21および第2バスバー22と、第1バスバー21から第2バスバー22に向かって延び、第2バスバー22に対して第1ギャップG1を有する位置に先端が位置している複数の第1電極指8と、第1電極指8に隣接して第2バスバー22から第1バスバー21に向かって延び、第1バスバー21に対して第2ギャップG2を有する位置に先端が位置している複数の第2電極指8とを有し、第1電極指7は、第1交差領域R1のみに位置する、伝搬方向に突出した第1凸部31を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子などの弾性波素子およ
びそれを用いた弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板と、圧電基板の主面上に設けられたIDT(InterDigital Transducer)電極
とを有する弾性波素子が知られている(例えば特許文献1)。IDT電極は、1対の櫛歯電極を有する。各櫛歯電極は、SAWの伝搬方向に延びるバスバーと、当該バスバーからSAWの伝搬方向に直交する方向に延び、SAWの伝搬方向に配列された複数の電極指を有している。そして、1対の櫛歯電極は、複数の電極指が噛み合うように配置される。また、特許文献1の各櫛歯電極は、バスバーからSAWの伝搬方向に延び、その先端が他方の櫛歯電極の電極指の先端と間隙を介して対向するダミー電極を有している。
【0003】
特許文献1では、ダミー電極の先端を太くすることが開示されている。特許文献1では、このような構成によって、電極指の先端とダミー電極の先端との間隙周辺におけるSAWの反射や散乱が抑制され、弾性波素子の共振特性やフィルタ特性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/126614号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載の技術は、弾性波の伝搬損失に着目したものではなく、伝搬損失を好適に抑制する形状とはなっていない。
【0006】
本発明の目的は、弾性波の伝搬損失を低減できる弾性波素子および弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る弾性波素子は、圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、前記IDT電極は、前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である第1交差領域のみに位置する、前記伝搬方向に突出した第1凸部を有している。
【0008】
また本発明の一態様に係る弾性波素子は、圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、前記IDT電極は、前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、
前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である第1交差領域に、前記伝搬方向に突出した凸部を有し、該凸部の平面形状は、前記電極指に下ろした垂線を対称軸とする線対称の形状であり、前記対称軸は、前記第1交差領域における前記第1バスバー側の端から前記第1電極指の先端側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある。
【0009】
また本発明の一態様に係る弾性波素子は、圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、前記IDT電極は、前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である交差領域に、前記伝搬方向に突出した凸部を有し、該凸部の重心は、前記第1電極指の先端から前記第1バスバー側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある。
【0010】
また本発明の一態様に係る弾性波装置は、上記の弾性波素子と、主面を有し、該主面と前記弾性波素子の前記IDT電極が形成された面とが対面するようにして前記弾性表面波素子が実装された回路基板と、前記弾性波素子を覆う封止部材とを有する。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成によれば、電極指が交差領域に伝搬方向に突出した凸部を有し、該凸部の重心が、電極指の先端からバスバー側にずれた位置にあることから、弾性波の伝搬損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係るSAW素子の平面図、図1(b)は図1(a)の領域Ibの拡大図である。
【図2】図1(b)のII−II線における断面図である。
【図3】図3(a)〜図3(e)はSAW素子の製造方法を説明する、図2に対応する断面図である。
【図4】図1のSAW素子を適用したSAW装置の例を示す断面図である。
【図5】図1のSAW素子の効果の原理を説明するための図である。
【図6】SAW素子の変形例を示す平面図である。
【図7】SAW素子の別の変形例を示す平面図である。
【図8】図8(a)および図8(b)はSAW素子の伝搬損失の評価方法を説明する図である。
【図9】実施例1の伝搬損失の評価結果を示すグラフである。
【図10】実施例2の伝搬損失の評価結果を示すグラフである。
【図11】SAW素子のさらに別の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るSAW素子およびSAW装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率などは現実のものとは必ずしも一致していない。
【0014】
(SAW素子の構成および製造方法)
図1(a)は本発明の実施形態に係るSAW素子1の要部の平面図である。図1(b)は図1(a)の領域Ibの拡大図である。図2は図1(b)のII−II線における断面図である。
【0015】
なお、SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に直交座標系xyzを定義するとともにz方向の正側を上方として、上面、下面などの用語を用いるものとする。
【0016】
SAW素子1は、圧電基板3と、圧電基板3の上面3aに設けられたIDT電極5および反射器6と、IDT電極5および反射器6上に設けられた付加膜9(図2)と、上面3aを付加膜9の上から覆う保護層11(図2)とを有している。なお、SAW素子1は、この他にも、IDT電極5に信号の入出力を行うための配線などを有していてもよい。
【0017】
圧電基板3は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶などの圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。より好適には、圧電基板3は、128°±10°Y−XカットのLiNbO基板によって構成されている。圧電基板3の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板3の厚み(z方向の寸法)は、0.2〜0.5mmである。
【0018】
IDT電極5は、圧電基板3を伝搬するSAWの伝搬方向(x方向)に延びている第1バスバー21と、同じく伝搬方向に延びて第1バスバー21に対向して配置された第2バスバー22と、第1バスバー21から第2バスバー22に向かって延びている複数の第1電極指7と、第2バスバー22から第1バスバー21に向かって延びている複数の第2電極指8とを有している。以下では、「第1」、「第2」などが付された構成部材を一まとめにして称するときは、「第1」、「第2」を省略して、例えば「第1バスバー」と「第2バスバー」を単に「バスバー」と称することがある。また、IDT電極5を構成するバスバー、電極指、凸部などが一体的に形成されている場合は、実際にはそれらの境界に境界線は現れないが、図面上は便宜的にそれらの境界を明示している。
【0019】
第1バスバー21および第2バスバー22は、概ね一定の幅で延びて長尺状に形成されている。この第1バスバー21および第2バスバー22は、SAWの伝搬方向に平行に配置され、SAWの伝搬方向に直交する方向において互いに対向している。
【0020】
第1電極指7と第2電極指8とは、基本的にはSAWの伝搬方向に沿って交互に配列されている。すなわち、第1電極指7と第2電極指8とは隣接している。
【0021】
なお、第1バスバー21と第1電極指7とを一体的にみると櫛歯状の電極をなしており、同様に第2バスバー22と第2電極指8とを一体的にみると櫛歯状の電極をなしている。IDT電極5は、これらの櫛歯状電極同士が噛み合うように配置された電極によって構成されていると捉えることもできる。
【0022】
複数の第1、第2電極指7,8は、SAWの伝搬方向に概ね一定の間隔で配列されている。この間隔は、例えば、第1電極指7とこれに隣接する第2電極指8との中心間距離p(図2)によって規定される。中心間距離pは、例えば、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等となるように設けられている。波長λ(2p)は、例えば、1.5〜6μmである。各電極指の幅w1(図2)は、SAW素子1に要求される電気特性などに応じて適宜に設定され、例えば、中心間距離pに対して0.4p〜0.6pである。
【0023】
第1、第2電極指7,8の長さは、SAWの伝搬方向において変化している。換言すれ
ば、第1、第2電極指7,8の先端の位置はSAWの伝搬方向において変化している。したがって第1電極指7のうち隣接する第2電極指8とx方向において重なる領域である第1交差領域R1の長さL(SAWの伝搬方向に直交する方向(y方向)の長さ)は、SAWの伝搬方向において変化している。同様に、第2電極指8のうち隣接する第1電極指7とx方向において重なる領域である第2交差領域R2の長さLは、SAWの伝搬方向において変化している。すなわち、IDT電極5は、電極指の交差領域の幅をSAWの伝搬方向に沿って変化させたアポダイズが施されている。このようなアポダイズが施されることにより、いわゆる横モードのスプリアスの発生が抑制される。
【0024】
本実施形態においては、IDT電極5のx方向における中央に位置する第1電極指7からIDT電極5のx方向における端に位置する第1電極指7に向かうにつれて、第1交差領域R1の長さLが漸次小さくなるように複数の第1電極指7の長さが調整されている。よって、IDT電極5のx方向における中央に位置する第1電極指7の第1交差領域R1の長さLが複数の第1電極指7の第1交差領域R1の長さの中で最大となり、端に位置する第1電極指7の第1交差領域R1の長さLが複数の第1電極指7の第1交差領域R1の長さの中で最小となる。第2電極指8についても同様に、IDT電極5のx方向における中央に位置する第2電極指8からIDT電極5のx方向における端に位置する第2電極指8に向かうにつれて、第2交差領域R2の長さLが漸次小さくなるように複数の第2電極指8の長さが調整されている。よって、IDT電極5のx方向における中央に位置する第2電極指8の第2交差領域R2の長さLが複数の第2電極指8の第2交差領域R2の長さの中で最大となり、端に位置する第2電極指8の第2交差領域R2の長さLが複数の第2電極指8の第2交差領域R2の長さの中で最小となる。
【0025】
このようにしてアポダイズが施されているため、複数の第1電極指8の第1交差領域R1と複数の第2電極指8の第2交差領域R2からなる領域全体の外周は概ね菱形となる。換言すれば、SAW素子1においては、第1電極指7の先端の位置および第2電極指8の先端の位置のそれぞれが、x方向におけるIDT電極5の中央から端に向かうにつれて、第1バスバー21の第2バスバー22側の辺における中点M1と第2バスバー22の第1バスバー22側の辺における中点M2とを結ぶ線分の中点に漸次近付くように変化している。なお、アポダイズの施し方としては、上述のように交差領域全体の外周が概ね菱形となるものの他、菱形の辺の部分がコサインカーブ状になったもの、複数の菱形が連結された状態のものなど種々の形態が可能である。
【0026】
第1交差領域R1の長さLの最大値L1maxは、例えば、20λ〜50λであり、第
1電極指7の第1交差領域R1の長さLの最小値L1minは、例えば、最大値L1maxの20%程度であり、4λ〜10λである。
【0027】
なお、アポダイズが施されているときの第1電極指7の第1交差領域R1の長さLは、第1電極指7の一方側に隣接する第2電極指8からみたときと、他方側に隣接する第2電極指8からみたときとで異なるが、ここでは短くなる方の交差領域の長さをいうこととする。第2交差領域R2も同様に、短くなる方の交差領域の長さをいうこととする。
【0028】
第1バスバー21は、複数の第1電極指7の間において第1バスバー21からSAWの伝搬方向に直交する方向(y方向)に延びる複数の第1ダミー電極指13を有している。同様に第2バスバー22は、複数の第2電極指8の間において第2バスバー22からy方向に延びる複数の第2ダミー電極指14を有している。
【0029】
複数の第1、第2ダミー電極指13,14は、複数の第1、第2電極指7,8と共に概ね一定の間隔pで配列されている。
【0030】
第1電極指7の先端は、第2ダミー電極指14の先端と第1ギャップG1を介して対向している。第1ギャップG1の大きさ(以下、第1ギャップの大きさもG1の符号によって表現することがある。)は、複数の第1電極指7において概ね一定である。同様に、第2電極指8の先端は、第1ダミー電極指13の先端と第2ギャップG2を介して対向している。第2ギャップGの大きさは、複数の第2電極指8において概ね一定である。
【0031】
第1、第2ダミー電極指13,14の先端の位置は、第1、第2交差領域R1,R2の長さL、LがSAWの伝搬方向において変化していることに対応して、SAWの伝搬方向において変化している。第1、第2ダミー電極指13,14の各種寸法は適宜に設定
されてよい。例えば、第1、第2ダミー電極指13,14の幅は、第1、第2電極指7,8の幅w1と同等であり、また、第1、第2ギャップG1、G2の大きさは、λ/8からλ/2程度である。
【0032】
第1電極指7および第2電極指8は、それぞれ複数の凸部を有している。具体的には、第1電極指7は、第1凸部31および第3凸部33を有し、第2電極指8は、第2凸部32および第4凸部34を有している。
【0033】
第1凸部31は、第1電極指7からSAWの伝搬方向に突出した部分であり、第1交差領域R1における一方端側(第1電極指7の先端側)に位置している。そして、第1凸部31は、その重心が第1電極指7の先端から第1バスバー側に若干ずれたところに位置するようにして形成されている。
【0034】
このように第1凸部31の重心を第1電極指7の先端から第1バスバー側に若干ずらして第1凸部31を形成することによって、SAW素子1の伝搬損失特性を改善することができる。かかる効果は、後述の実施例において述べるように電極指に設けた凸部とSAW素子1の電気特性との関係に関する実験を行うことによって初めて確かめられたものであって、その理由は必ずしも明らかではないが考えられる理由の1つを図5を用いて説明する。
【0035】
図5は、第1電極指7の先端付近におけるSAWの伝搬速度と第1電極指7に励振されるSAWの分布を示す図であり、図5(a)は第1凸部31がない状態のものであり、図5(b)は第1凸部31を設けた状態のものである。図5(a)において、1番上に示したのが第1電極指7の先端付近の拡大平面図、上から2番目に示したのが第1電極指7の先端付近を伝搬するSAWの速度を示すグラフ、1番下に示したのが第1電極指7の先端付近に励振されるSAWの分布を示すグラフである。図5(b)も同様である。
【0036】
一番下に示したSAWの分布を示すグラフにおいて、破線は第1電極指7に励振されるSAWの理想的な状態の分布であり、第1電極指7の第1交差領域R1においてのみSAWが励振され、第1電極指7の先端から第2バスバー22までの領域(非交差領域)においてはSAWが励振されない状態である。一方、実線は第1電極指7に励振されるSAWの実際の状態における分布であり、第1交差領域R1から第2バスバー22にかけてSAWの分布がなだらかになっている。このようにSAWの分布がなだらかになるのは第1電極指7の先端付近の境界条件を満たすためである。
【0037】
SAWの分布が理想形に近いほどSAW素子1の伝搬損失が小さくなるが、実際に励振されるSAWの分布は実線で示したようになだらかになるため、その部分で伝搬損失が発生する。
【0038】
これに対し、図5(b)に示されるように第1電極指7にその先端から若干ずらした位置に第1凸部31を形成すると、第1凸部31がないものに比べて、SAWの分布が理想
形に近くなると考えられる。これは、第1凸部31が形成された部分は局所的にSAWの伝搬速度が遅くなり、その部分にSAWが集中しやすくなることによるものと推測される。また、凸部を第1電極指7の交差領域から外れた位置、例えば、図5(a)一番上の図において点線で示したように第1電極指7の先端に凸部を形成すると、第1電極指7の長さが長くなったのとほぼ同じ状態(第1ギャップG1が小さくなった状態)となるだけであり、SAWの分布の形状は殆ど変わらない。
【0039】
以上のことから、第1凸部31の重心を第1電極指7の先端から第1バスバー側に若干ずらして第1凸部31を形成することによって、SAW素子1の伝搬損失特性の改善効果が得られるものと考えられる。なお、SAWの速度は、電極指の質量が大きい部分ほど遅くなると考えられることから、第1凸部31の重量の位置がSAWの分布を考慮する上で重要となる。ただし、第1凸部31は全体にわたって厚みがほぼ均等であり、その厚みも極めて薄いため、実際には平面視したときの第1凸部31の中心の位置を考えればよい。第1凸部31の中心とは、例えば、第1凸部31の平面形状が三角形であれば、その三角形の3つの中線の交点である。また第1凸部31の平面形状が点対称の形状であれば、第1凸部31の中心は、回転の中心となる点である。また第1凸部31の平面形状が台形状であれば、台形を頂点同士を結ぶ直線によって4つの三角形に分け、辺を共有しない三角形同士の中心を結んだ2つの直線の交点が第1凸部31の中心である。その他、第1凸部31の中心は図式による求め方あるいは数式による求め方によって求めることができる。
【0040】
第1凸部31の中心の第1電極指7の先端からのずれ量d(図1(b))は、SAWの波長をλとすると、例えば、0.4λ〜0.6λである。
【0041】
第1凸部31の平面形状は、例えば、台形状、矩形状、半円状、三角状、またはこれらの組み合わせからなる形状など任意の形状が可能である。SAW素子1においては、第1凸部31の平面形状は山なりになっており、第1電極指7に下ろした垂線を第1対称軸SL1とする線対称の形状である。したがって第1凸部31の中心はこの第1対称軸SL1上に位置している。また、第1凸部31は、平面視における頂点31tを含む外周部分が円弧状となっている。
【0042】
第1凸部31の高さは、例えば、0.05λ〜0.2λ、裾部分の幅(第1電極指7との接続部分の幅)は、例えば、0.35λ〜0.65λである。
【0043】
一方、第1電極指7に設けられている第3突部33は、第1交差領域R1の両端のうち、第1バスバー21側の端の辺りに位置しており、その第1交差領域R1の端から第1電極指7の先端側に若干ずらされている。第3凸部33は、第1凸部31と同じ方向に突出しており、その平面形状は、第1電極指7に下ろした垂線を第3対称軸とする線対称の形状となっている。この第3対称軸の第1交差領域R1の端からのずれ量は、0.4λ〜0.6λである。その他、第3凸部33に関する形状、寸法などは第1凸部31と同じである。
【0044】
第2電極指8に設けられている第2凸部32は、第2交差領域R2の両端のうち、第2電極指8の先端付近に位置しており、第2電極指8の先端から第2バスバー22側に若干ずらされている。第2凸部32は、第1凸部31と同じ方向に突出しており、その平面形状は、第2電極指8に下ろした垂線を第2対称軸とする線対称の形状となっている。この第2対称軸の第2交差領域R2の端からのずれ量は、0.4λ〜0.6λである。その他、第2凸部32に関する形状、寸法などは第1凸部31と同じである。
【0045】
また、第2電極指8に設けられている第4凸部34は、第2交差領域R2の両端のうち、第2バスバー22側の端の辺りに位置しており、その第2交差領域R2の端から第2電
極指8の先端側に若干ずらされている。第4凸部34は、第1凸部31と同じ方向に突出しており、その平面形状は、第2電極指8に下ろした垂線を第4対称軸とする線対称の形状となっている。この第4対称軸の第2交差領域R2の端からのずれ量は、0.4λ〜0.6λである。その他、第4凸部34に関する形状、寸法などは第1凸部31と同じである。
【0046】
IDT電極5は、例えば、金属により形成されている。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)によって形成されている。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。なお、IDT電極5は、複数の金属層から構成されてもよい。IDT電極5の各種寸法は、SAW素子1に要求される電気特性などに応じて適宜に設定される。一例として、IDT電極5の厚みe(図2)は、100〜300nmである。
【0047】
IDT電極5は、圧電基板3の上面3aに直接配置されていてもよいし、別の部材を介して圧電基板3の上面3aに配置されていてもよい。別の部材は、例えば、Ti、Crあるいはこれらを積層したものなどである。このようにIDT電極5を別の部材を介して圧電基板3の上面3aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極5の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極5の厚みの5%の厚み)に設定される。
【0048】
なお、図1には圧電基板3に1個IDT電極5を設けた例を示しているが、複数のIDT電極5が直列接続や並列接続などの方式で接続されたラダー型SAWフィルタが構成されてもよいし、複数のIDT電極5をX方向に沿って配置した2重モードSAW共振器フィルタなどが構成されてよい。
【0049】
IDT電極5によって圧電基板3に電圧が印加されると、圧電基板3の上面3a付近において上面3aに沿ってx方向に伝搬するSAWが誘起される。そして、第1電極指7および第2電極指8の中心間距離pを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、第1電極指7および第2電極指8によって取り出される。このようにして、SAW素子1は、共振子もしくはフィルタとして機能する。
【0050】
反射器6は、IDT電極5の第1電極指7と第2電極指8との中心間距離pと概ね同等の間隔で配置された複数の電極指を有する。反射器6は、例えば、IDT電極5と同一の材料によって形成されるとともに、IDT電極5と同等の厚みに形成されている。
【0051】
IDT電極5を覆う保護層11は、例えば、圧電基板3の上面3aの概ね全面に亘って設けられており、付加膜9が設けられたIDT電極5および反射器6を覆うとともに、上面3aのうちIDT電極5および反射器6から露出する部分を覆っている。保護層11の上面3aからの厚みT(図2)は、IDT電極5および反射器6の厚みeよりも大きく設定されている。例えば、厚みTは、厚みeよりも100nm以上厚く、200〜700nmである。また厚みTは、別の観点では、SAWの波長λに対して例えば0.2λ〜0.5λである。
【0052】
保護層11は、絶縁性を有する材料からなる。好適には、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiOなどの材料によって形成されており、これによってSAW素子1の温度の変化による電気特性の変化を小さく抑えることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0053】
圧電基板3の温度が上昇すると、圧電基板3におけるSAWの伝搬速度が遅くなり、また、圧電基板3の熱膨張によって中心間距離pが大きくなる。その結果、共振周波数が低くなり、所望の特性が得られないおそれがある。しかし、保護層11が設けられていると
、弾性波は、圧電基板3だけでなく、保護層11においても伝搬する。そして、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなる材料(SiO)によって形成されていることから、圧電基板3および保護層11を伝搬するSAW全体としては、温度上昇による速度の変化が抑制されることになる。なお、保護層11は、IDT電極5を腐食などから保護することにも寄与する。
【0054】
保護層11の表面は、大きな凹凸がないようにしておくことが望ましい。圧電基板3上を伝搬するSAWの伝搬速度は保護層11の表面の凹凸に影響を受けて変化するため、保護層11の表面に大きな凹凸が存在すると、製造された各SAW素子1の共振周波数に大きなばらつきが生じることとなる。したがって、保護層11の表面を平坦にしておけば、各弾性波素子の共振周波数が安定化する。具体的には、保護層11の表面の平坦度を、圧電基板3上を伝搬するSAWの波長の1%以下とすることが望ましい。
【0055】
付加膜9は、IDT電極5および反射器6の電気特性を向上させるためのものである。付加膜9は、例えば、IDT電極5および反射器6の上面の全面に亘って設けられている。付加膜9は、電極指の長手方向(y方向)に直交する断面形状が、例えば、矩形とされている。ただし、付加膜9の断面形状は、台形やドーム状とされてもよい。付加膜9の厚さt(図2)は、付加膜9が保護層11を露出しない範囲で適宜に設定されてよい。例えば、付加膜9の厚さは、SAWの波長λに対して0.01λ〜0.4λである。
【0056】
付加膜9を構成する材料は、IDT電極5、反射器6、および保護層11を構成する材料とは音響インピーダンスが異なる材料である。音響インピーダンスの相違は、ある程度以上であることが好ましく、例えば、15MRayl以上、より好ましくは20MRayl以上であることが好ましい。
【0057】
このような材料としては、例えば、IDT電極5がAl(音響インピーダンス:13.5MRayl)により構成され、保護層11がSiO(12.2MRayl)により構成されている場合、WC(102.5MRayl)、TiN(56.0MRayl)、TaSiO(40.6MRayl)、Ta(33.8MRayl)、WSi(67.4MRayl)が挙げられる。
【0058】
IDT電極5がAlにより構成され、保護層11がSiOにより構成されている場合においては、これらの音響インピーダンスが近いことから、電極指と電極指の非配置領域との境界が音響的に曖昧になり、当該境界における反射係数が低下する。その結果、SAWの反射波が十分に得られず、所望の特性が得られないおそれがある。しかし、IDT電極5および保護層11の材料とは音響インピーダンスが異なる材料により形成された付加膜9がIDT電極5の上面に設けられることにより、電極指と電極指の非配置領域との境界における反射係数が高くなり、所望の特性が得られやすくなる。
【0059】
なお、付加膜9の材料は、IDT電極5、反射器6、および保護層11の材料よりも弾性波の伝搬速度が遅いことが好ましい。伝搬速度が遅いことによって、振動分布が付加膜9に集中しやすく、電極指と電極指の非配置位置との境界における反射係数が実効的に高くなる。
【0060】
このような材料としては、例えば、IDT電極5がAl(伝搬速度:5020m/s)により構成され、保護層11がSiO(5560m/s)により構成されている場合、TaSiO(4438m/s)、Ta(4352m/s)、WSi(4465m/s)が挙げられる。なお、IDT電極5などの材料よりも弾性波の伝搬速度が遅い材料は、IDT電極5などの材料よりも音響インピーダンスが小さい材料よりも、音響インピーダンスが大きい材料のほうが選択の自由度が高いと思われる。
【0061】
図3(a)〜図3(e)は、SAW素子1の製造方法の概要を説明する、製造工程毎の図2に対応する断面図である。製造工程は、図3(a)から図3(e)まで順に進んでいく。なお、各種の層は、プロセスの進行に伴って形状などが変化するが、変化の前後で共通の符号を用いることがあるものとする。
【0062】
図3(a)に示すように、まず、圧電基板3の上面3a上には、IDT電極5および反射器6となる導電層15、ならびに付加膜9となる付加層17が形成される。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的
気相堆積)法などの薄膜形成法によって、上面3a上に導電層15が形成される。次に、同様の薄膜形成法によって、付加層17が形成される。
【0063】
付加層17が形成されると、図3(b)に示すように、付加層17および導電層15をエッチングするためのマスクとしてのレジスト層19が形成される。具体的には、ネガ型もしくはポジ型の感光性樹脂の薄膜が適宜な薄膜形成法によって形成され、フォトリソグラフィー法などによってIDT電極5および反射器6などの非配置位置において薄膜の一部が除去される。
【0064】
次に、図3(c)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)などの適宜なエッチング法によって、付加層17および導電層15のエッチングを行う。これによって、付加膜9が設けられたIDT電極5および反射器6が形成される。その後、図3(d)に示すように、適宜な薬液を用いることによって、レジスト層19は除去される。
【0065】
そして、図3(e)に示すように、スパッタリング法もしくはCVD法などの適宜な薄膜形成法によって保護層11となる薄膜が形成される。この時点においては、保護層11となる薄膜の表面には、IDT電極5などの厚みに起因して凹凸が形成されている。そして、必要に応じて化学機械研磨などによって表面が平坦化され、図2に示すように、保護層11が形成される。なお、保護層11は平坦化の前もしくは後において、後述するパッド16(図4)などを露出させるために、フォトリソグラフィー法などによって一部が除去されてもよい。
【0066】
(SAW装置の構成)
図4は、上述したSAW素子1と同じ構成を有するSAW素子31を用いて作製したSAW装置51の例を示す断面図である。
【0067】
SAW装置51は、例えば、フィルタもしくはデュプレクサを構成している。SAW装置51は、SAW素子31と、SAW素子31が実装される回路基板53、SAW素子31を覆う封止部材59とを有している。
【0068】
SAW素子31は、例えば、いわゆるウェハレベルパッケージのSAW素子として構成されている。SAW素子31は、上述したSAW素子1と、圧電基板3のSAW素子1側を覆うカバー18と、カバー18を貫通する端子20と、圧電基板3のSAW素子1とは反対側を覆う裏面部12とを有している。
【0069】
カバー18は、樹脂などによって構成されており、SAWの伝搬を容易化するための振動空間18aをIDT電極5および反射器6の上方(z方向の正側)に構成している。圧電基板3の上面3a上には、IDT電極5と接続された配線10と、配線10に接続されたパッド16とが形成されている。端子20は、パッド16上において形成され、IDT電極5と電気的に接続されている。裏面部12は、例えば、特に図示しないが、温度変化
などによって圧電基板3表面にチャージされた電荷を放電するための裏面電極と当該裏面電極を覆う保護層とを有している。
【0070】
回路基板53は、例えば、いわゆるリジッド式のプリント配線基板によって構成されている。回路基板53の実装面53aには、実装用パッド55が形成されている。
【0071】
SAW素子31は、カバー18側を実装面53aに対向させて配置される。そして、端子20と実装用パッド55は、半田57によって接着される。その後、SAW素子31は封止部材59によって封止される。封止部材59は、例えば、樹脂からなる。
【0072】
以上の実施形態によれば、SAW素子1は、第1電極指7の第1交差領域R1のみに位置する伝搬方向に突出した第1凸部31を有している。これによって、SAW素子1の伝搬損失特性を改善することができる。
【0073】
(変形例)
図6は、SAW素子1の変形例を示す図1(b)に対応する図である。図6の変形例においては、第1電極指7が、第1交差領域R1の第1凸部31と同じ位置に第1凸部31と反対方向に突出する第5凸部35をさらに有している。第5凸部35は、例えば、平面形状が第1対称軸SL1に対称な形状であり、大きさが第1凸部33と同じである。
【0074】
このような第5凸部35を設けることによっても、SAW素子1の伝搬損失特性を改善することができる。
【0075】
また、第5凸部35と同様にして、第2電極指8の第2凸部32と同じ位置、第1電極指7の第3凸部33と同じ位置、第2電極指8の第4凸部34と同じ位置のそれぞれの位置に各凸部と反対方向に突出する凸部を設けてもよい。
【0076】
図7は、SAW素子1の別の変形例を示す図1(b)に対応する図である。図7の変形例においては、第1ダミー電極指13が第1補助電極指41を有し、第2ダミー電極指14が第2補助電極指42を有している。
【0077】
図7に示すように第2補助電極指42は、第2ダミー電極指14の先端部から第1バスバー21側に向かって斜め方向に延びて、第2ダミー電極指14に隣接する第2電極指8に接続された電極指である。図7においては、第2補助電極指42は、第2ダミー電極指8の先端部両側から2本延びているが、片側のみから1本延びる態様であってもよい。なお、図7には現れていないが、第1補助電極41も、第2補助電極指42と同様に、第1ダミー電極指13の先端部から第2バスバー22側に向かって斜め方向に延びて、第1ダミー電極指13に隣接する第1電極指7に接続された電極指である。
【0078】
このような第1補助電極指41および第2補助電極指42を設けることによって、電極指の先端とダミー電極指の先端との間のギャップGにおけるSAWの散乱や反射が抑制され、弾性波素子の共振特性、あるいはフィルタ特性を向上させることができる。
【0079】
図11は、SAW素子1のさらに別の変形例を示す図1(b)に対応する図である。図11に示すSAW素子1は、複数の第1凸部31の大きさが異なっている。具体的には、IDT電極5のSAWの伝搬方向における中央寄りに位置する第1電極指7の第1凸部31は、その第1凸部31よりもIDT電極5のSAW伝搬方向における端寄りに位置する第1電極指7の第1凸部31よりも大きい。
【0080】
第1電極指7に第1凸部31のような凸部を形成すると、その部分において隣接する電
極指と凸部との距離が近くなり、その分だけ隣接する電極指間における容量が大きくなる。そうすると共振子全体の容量が幾分大きくなると考えられる。共振子全体の容量が大きくなると共振子の共振周波数と反共振周波数との差Δfが小さくなる傾向にあるが、Δfが小さくなると共振子をフィルタに使用した際に通過帯域幅が小さくなることが懸念される。
【0081】
一方、IDT電極5に図1(a)に示すようなアポダイズ、すなわち、IDT電極5のx方向における中央から端に向かうにつれて、第1交差領域R1および第2交差領域R2の長さが漸次小さくなるように複数の第1電極指7および第2電極指8の長さが調整さたアポダイズが施されている場合は、複数の第1電極指7に設けた第1凸部31がすべて同じ大きさのものからなるとすると、第1凸部31による伝搬損失特性の改善効果への寄与率は、IDT電極5のSAWの伝搬方向における中央に近い第1凸部31ほど大きいと考えられる。これは、IDT電極5に図1(a)に示すようなアポダイズが施されている場合は、電極指の交差幅が大きい部分、すなわち、SAW素子1ではIDT電極5のSAWの伝搬方向における中央付近ほどSAWのエネルギーが大きいためである。
【0082】
したがって、SAWのエネルギーが大きくなるIDT電極5の中央寄りに位置する第1凸部31の方が、それよりIDT電極5の端寄りに位置する第1凸部31よりも伝搬損失の改善効果への寄与率が大きい。
【0083】
逆にいえば、SAWのエネルギーが小さいIDT電極5の端寄りに位置する第1凸部31を小さくしても、伝搬損失特性は、第1凸部31をすべて同じ大きさにしたものと比べてそれ程劣化しない。同時にIDT電極5の端寄りに位置する第1凸部31を小さくすることによって、第1凸部31をすべて同じ大きさにしたものと比べて共振子全体として容量小さくすることができ、ひいてはΔfが小さくなるのを抑制することができる。
【0084】
すなわち、図11に示したSAW素子1によれば、Δfが小さくなるのを抑制しつつ伝搬損失特性の改善を図ることができる。
【0085】
このような効果は、複数の第1凸部31のうち、少なくともいずれか1つの第1凸部31とそれ以外の他の第1凸部31の1つとを比較したときに、IDT電極5のSAWの伝搬方向の中央に近い方の第1凸部31をもう一方の第1凸部31よりも大きくすれば得られるが、IDT電極5のSAWの伝搬方向の中央に位置する第1凸部31から端に位置する第1凸部31に向かうにつれて、その大きさが漸次小さくなるようにすることによって前記の効果はより顕著になる。
【0086】
第1凸部31の大きさをIDT電極5の中央から端に向かうにつれて漸次小さくしていく場合の各第1電極指7の大きさの一例をあげると、例えば、IDT電極5の中央から端にかけての第1電極指7の本数が150本であれば、IDT電極5の中央に位置する最も大きい第1凸部31は、高さが0.2λ、裾部分の幅が0.65λであり、IDT電極5の端に位置する最も小さい第1凸部31は、高さが0.05λ、裾部分の幅が0.35λである。最も大きい第1凸部31と最も小さい第1凸部31との間に位置する第1凸部31の高さ及び裾部分の幅は、第1電極指7の本数に応じた割合で順次変えていった値となる。
【0087】
大きさの異なる第1凸部31同士は、相似形状で面積を変えたものでもよいし、形状を変えて面積を変えたものでもよい。また、第1電極指7の先端からのずれ量dは、大きさの異なる第1凸部31同士において同じにしてもよいし変えてもよい。
【0088】
第1凸31と同様にして、第2凸部32乃至第5凸部35の大きさも異なるようにして
もよい。
【実施例】
【0089】
図1に示すSAW素子1を作製し、電気特性を調べてSAWの伝搬損失を評価した。
【0090】
(SAWの伝搬損失の評価方法)
図8(a)および図8(b)は、SAWの伝搬損失の評価方法を説明する図である。
【0091】
図8(a)は、共振子としてのSAW素子1のインピーダンス特性を示す図である。同図において、横軸は、周波数f(MHz)を示し、縦軸はインピーダンスの絶対値|Z|(Ω)およびインピーダンスZの位相θ(deg.)を示している。実線Lzはインピーダンスの絶対値|Z|の周波数変化を示し、実線Lθはインピーダンスの位相θの周波数変化を示している。
【0092】
インピーダンス特性の図においては、実線Lzにより示されるように、インピーダンスの絶対値|Z|が極小となる共振点と、インピーダンスの絶対値|Z|が極大となる反共振点とが現れる。また、共振点と反共振点との間においては、インピーダンスの位相θが最大位相θmaxとなる。
【0093】
図8(b)は、最大位相θmaxとSAWの伝搬損失LSとの関係を示す図である。同図において、横軸は伝搬損失LS(dB/μm)を示し、縦軸は最大位相θmaxを示している。
【0094】
この図に示されるように、共振子の損失が小さいほど、最大位相θmaxは大きくなる。従って、最大位相θmaxを調べることにより、共振子の損失を評価することができる。なお、損失0の理想状態では、最大位相θmaxは90(deg.)となる。
【0095】
図8(a)に示されるように、位相θは、最大位相θmax付近において周波数fの変化に対して緩やかに変化している一方で、絶対値|Z|は、共振点および反共振点の付近において周波数fの変化に対して急激に変化している。従って、最大位相θmaxは、絶対値|Z|よりも安定して測定可能であり、最大位相θmaxに基づく損失の評価は、絶対値|Z|に基づく損失の評価よりも誤差が小さいものと期待される。
【0096】
(SAWの伝搬損失の評価結果)
図9は、従来例のSAW素子、実施例1のSAW素子および比較例のSAW素子の伝搬損失の評価結果を示すグラフである。
【0097】
従来例は電極指に凸部がない従来のSAW素子、実施例1は電極指の交差領域のみに凸部を設けたSAW素子、比較例は実施例1のSAW素子にさらに交差領域から外れた領域にも凸部を設けたSAW素子である。
【0098】
凸部の形態以外は同じ条件にして、従来例、実施例1および比較例のSAW素子を作製した。SAW素子の作製条件を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
実施例1および比較例において凸部の裾部分の幅は0.54λ、高さは0.11λとした。また凸部の対象軸のずれ量dは、すべての電極指において一律0.53λとした。図9のグラフにおいて縦軸は従来例の最大位相θmaxを基準とした、実施例1および比較例
の最大位相θmaxの改善量dθmaxを示している。
【0101】
図9のグラフに示されるように、電極指に凸部を設けることによって伝搬損失特性が大幅に改善されることが確認できた。また実施例1と比較例とを比較すると、交差領域から外れた領域にも凸部を設けると伝搬損失特性が悪化することが確認できる。したがって、凸部を電極指の交差領域のみに設けることによって、SAW素子の伝搬損失を小さくすることができるといえる。
【0102】
次に凸部の位置とSAW素子の伝搬損失特性との関係について調べた実施例2について説明する。実施例2では、電極指の本数および交差領域の長さを異ならせた5種類のSAW素子のサンプルA〜Eを作製し、それぞれについて凸部の対称軸(重心の位置)を変えたときの伝搬損失特性を調べた。
【0103】
実施例2におけるサンプルA〜Eの電極指の本数および交差領域の長さの条件を表2に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
実施例2のSAW素子において、表2に示した条件以外の条件については表1に示した実施例1のSAW素子とすべて同じである。また、凸部の裾部分の幅は0.54λ、高さは0.11λとした。このときの凸部の対称軸の交差領域の端からのずれ量dの最小値は0.4λである。ずれ量dの最小値が凸部の裾部の幅の半分の値(0.27λ)よりも大きいのは、電極指の先端部が矩形状でなく若干丸みをおびており、その丸みをおびた部分の長さが加算されているためである。
【0106】
図10のグラフにおいて、横軸は凸部の対称軸の位置(交差領域の端からの対称軸のずれ量d)、縦軸は凸部の対称軸のずれ量dが最小のときの最大位相θmaxを基準とした、
実施例2のサンプルA〜Eの最大位相θmaxの改善量dθmaxを示している。
【0107】
図10のグラフから、いずれのサンプルにおいても凸部の対称軸のずれ量dが、最小値の0.4λから0.6λの範囲であれば伝搬損失特性が改善されることが確認できた。
【0108】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0109】
弾性波素子は、(狭義の)SAW素子に限定されない。例えば、保護層(11)の厚さが比較的大きい(例えば0.5λ〜2λ)、いわゆる弾性境界波素子(ただし、広義のSAW素子に含まれる。)であってもよい。なお、弾性境界波素子においては、振動空間の形成は不要であり、ひいては、カバーなども不要である。
【0110】
弾性波素子は、ウェハレベルパッケージのものに限定されない。例えば、SAW素子は、カバー18および端子20などを有さず、圧電基板3の上面3a上のパッド16と、回路基板53の実装用パッド55とが半田57によって直接接着されてもよい。そして、SAW素子1と回路基板53の実装面53aとの隙間によって振動空間が形成されてよい。また、ウェハレベルパッケージの弾性波素子も、端子が設けられず、実装用パッド55に配置された半田ボールにパッド39が当接する構成とされるなど、種々の構成とされてよい。
【0111】
IDT電極は、交差幅が弾性波の伝搬方向において変化するアポダイズ電極に限定されず、交差幅が一定のものであってもよい。第1電極指および第2電極指は、弾性波の伝搬方向の全体に亘って交互に配置されていなくてもよく、一部において、第1電極指同士もしくは第2電極指同士が弾性波の半波長程度で隣接していてもよい。
【0112】
第1凸部31乃至第4凸部34は、実施形態や変形例において例示したものに限定されない。例えば、第1凸部31のみ設けるようにするなど、第1凸部31乃至第4凸部34のうち、いずれか1つの凸部が形成された態様であってもよい。
【0113】
保護層11の上面は、電極指の位置において凸となるように、凹凸を有していてもよい。この場合、電極指とその非配置位置における反射係数を高くすることができる。当該凹凸は、図3(e)を参照して説明したように、保護層の成膜時に電極指の厚みに起因して形成されるものであってもよいし、保護層の表面を電極指の間の領域においてエッチングして形成されるものであってもよい。
【0114】
付加膜9は、電極の全面に亘って設けられることが好ましい。ただし、付加膜は、電極指のみに設けられるなど、電極の一部にのみ設けられてもよい。さらに、付加膜は、電極指の長手方向に見て中央側の一部のみに設けられるなどしてもよい。また、付加膜は、電極の上面だけでなく、側面にも設けられてもよい。付加膜の材料は、導電材料であってもよいし、絶縁材料であってもよい。具体的には、タングステン、イリジウム、タンタル、銅などの導電材料、BaSr1−x、PbZn1−x、ZnOなどの絶縁材料を付加膜の材料として挙げることができる。
【0115】
付加膜9を絶縁材料により形成することによって、付加膜を金属材料によって形成したものに比べ、電極の腐食を抑制し弾性波素子の電気特性を安定化させることができる。SiOからなる保護層にはピンホールが形成されることがあり、このピンホールが形成されると、これを介して電極部分まで水分が浸入することとなるが、電極上に電極材料と異なる材料からなる金属膜が配置されていると、浸入した水分によって、異種金属間の電池
効果よる腐食が発生するからである。よって、付加膜9をTaなどの絶縁材料によって形成すれば、電極と付加膜との間において電池効果は殆ど起きないため、電極の腐食が抑制された信頼性の高い弾性波素子とすることができる。
【0116】
基板は、128°±10°Y−XカットのLiNbO基板の他にも、例えば、38.7°±Y−XカットのLiTaOなどを用いることができる。電極(電極指)の材料は
、AlおよびAlを主成分とする合金に限定されず、例えば、Cu、Ag、Au、Pt、W、Ta、Mo、Ni、Co、Cr、Fe、Mn、Zn、Tiであってもよい。保護層の材料は、SiOに限定されず、例えば、SiO以外の酸化珪素であってもよい。
【0117】
IDT電極5はアポダイズが施されていないものであってもよい。
【符号の説明】
【0118】
1・・・SAW素子(弾性波素子)
3・・・圧電基板
5・・・IDT電極
6・・・反射器
7・・・第1電極指
8・・・第2電極指
21・・・第1バスバー
22・・・第2バスバー
31・・・第1凸部
32・・・第2凸部
33・・・第3凸部
34・・・第4凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、
前記IDT電極は、
前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、
前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、
前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、
前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である第1交差領域のみに位置する、前記伝搬方向に突出した第1凸部を有している弾性波素子。
【請求項2】
前記第1凸部の平面形状は、前記第1電極指に下ろした垂線を第1対称軸とする線対称の形状であり、
前記第1対称軸は、前記第1電極指の先端から前記第1バスバー側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記第2電極指は、該第2電極指に隣接した前記第1電極指と前記伝搬方向において重なる領域である第2交差領域のみに位置する、前記弾性波の伝搬方向に突出した第2凸部を有している請求項1または2に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記第2凸部の平面形状は、前記第2電極指に下ろした垂線を第2対称軸とする線対称の形状であり、
前記第2対称軸は、前記第2電極指の先端から前記第2バスバー側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある請求項3に記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記第1電極指は、前記第1交差領域の前記第1凸部よりも前記第1バスバー側寄りの位置に、前記第1凸部が突出する方向と同一方向または反対方向に突出した第3凸部をさらに有し、
前記第3凸部の平面形状は、前記第1電極指に下ろした垂線を第3対称軸とする線対称の形状であり、
前記第3対称軸は、前記第1交差領域における前記第1バスバー側の端から該第1電極指の先端側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある請求項2に記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記第2電極指は、前記第2交差領域の前記第2凸部よりも前記第2バスバー側寄りの位置に、前記伝搬方向に突出した第4凸部をさらに有し、
前記第4凸部の平面形状は、前記第2電極指に下ろした垂線を第4対称軸とする線対称の形状であり、
前記第4対称軸は、前記第2交差領域における前記第2バスバー側の端から該第2電極指の先端側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある請求項4に記載の弾性波素子。
【請求項7】
前記第1電極指は、前記第1交差領域の前記第1凸部と同じ位置に、該第1凸部と反対方向に突出する第5凸部をさらに有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波素子。
【請求項8】
前記第1バスバーは、該第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延びた、前記第2電極指の先端に対して前記第2ギャップを有する位置に先端が位置している第1ダミー電極指をさらに有し、
前記第2バスバーは、該第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延びた、前記第1電極指の先端に対して前記第1ギャップを有する位置に先端が位置している第2ダミー電極指をさらに有している請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性波素子。
【請求項9】
前記第1電極指および前記第2電極指のそれぞれの先端の位置が、前記IDT電極の前記伝搬方向における中央から前記伝搬方向における端に向かうにつれて、前記第1バスバーの中点と前記第2バスバーの中点とを結ぶ線分の中点に漸次近づくように変化している請求項8に記載の弾性波素子。
【請求項10】
前記第1凸部のうち前記IDT電極の前記伝搬方向における中央寄りに位置する前記第1凸部は、この第1凸部よりも前記IDT電極の前記伝搬方向における端寄りに位置する前記第1凸部よりも大きい請求項9に記載の弾性波素子。
【請求項11】
前記第1凸部の平面形状の外周は、前記第1対称軸に頂点を有する円弧状の部分を有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の弾性波素子。
【請求項12】
圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、
前記IDT電極は、
前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、
前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、
前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、
前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である第1交差領域に、前記伝搬方向に突出した凸部を有し、
該凸部の平面形状は、前記電極指に下ろした垂線を対称軸とする線対称の形状であり、前記対称軸は、前記第1交差領域における前記第1バスバー側の端から前記第1電極指の先端側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある弾性波素子。
【請求項13】
圧電基板と、該圧電基板の上面に位置した少なくとも1つのIDT電極とを有する弾性波素子であって、
前記IDT電極は、
前記圧電基板を伝搬する弾性波の伝搬方向に延びて互いに対向して配置された一対の第1バスバーおよび第2バスバーと、
前記第1バスバーから前記第2バスバーに向かって延び、該第2バスバーに対して第1ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第1電極指と、
前記第1電極指に隣接して前記第2バスバーから前記第1バスバーに向かって延び、該第1バスバーに対して第2ギャップを有する位置に先端が位置している複数の第2電極指とを有し、
前記第1電極指は、該第1電極指に隣接した前記第2電極指と前記伝搬方向において重なる領域である交差領域に、前記伝搬方向に突出した凸部を有し、
該凸部の中心は、前記第1電極指の先端から前記第1バスバー側に0.4λ〜0.6λ(λは弾性波の波長)ずれた位置にある弾性波素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の弾性波素子と、
主面を有し、該主面と前記弾性波素子の前記IDT電極が形成された面とが対面するようにして前記弾性表面波素子が実装された回路基板と、
前記弾性波素子を覆う封止部材とを有する弾性波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−253738(P2012−253738A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263026(P2011−263026)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】