説明

弾性波装置及びその製造方法

【課題】第1の電極と、第2の電極の上面の一部に積層されて第1の電極に電気的に接続される第2の電極とを有し、第1,第2の電極形成工程の間に、アルカリ現像液を用いたパターニングが行われる弾性波装置及びその製造方法において、第1,第2の電極間の接触抵抗を小さくする。
【解決手段】圧電基板1上にIDT電極2に電気的に接続される第1の電極21が形成されており、第1の電極21の少なくとも上面がアルカリに可溶な金属とアルカリに不溶な金属とからなる合金であって、アルカリに可溶な金属に対するアルカリに不溶な金属の含有率が5重量%以上、20重量%以下である合金により形成されており、第1の電極21の形成後に、アルカリ現像液によるパターニングが行われ、しかる後、第1の電極21の上面の一部に積層されることにより第1の電極21に電気的に接続される第2の電極26Aが形成される、弾性波装置及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば共振子や帯域フィルタとして用いられる弾性波装置及びその製造方法に関し、より詳細には、圧電基板上において、アルカリ現像液を用いたパターニング工程を経て得られる弾性波装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信機器のフィルタや共振子を構成するために、弾性表面波装置や弾性境界波装置などの弾性波装置が用いられている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、圧電体と、圧電体上に形成された誘電体との界面を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置が開示されている。特許文献1に記載の弾性境界波装置は、バンプを用いて実装基板などにフリップチップボンディングされ得る。図20は、特許文献1に記載の弾性境界波装置において、バンプが形成される部分を示す部分拡大断面図である。
【0004】
弾性境界波装置1001は、圧電基板1002と、誘電体層1003とを有する。圧電基板1002と誘電体層1003との界面に、IDT電極1004が形成されている。ここでは、IDT電極1004の端部のみが図示されている。IDT電極1004に電気的に接続されるように、圧電基板1002上に第1の配線電極1005が形成されている。第1の配線電極1005は、その一端が、IDT電極1004のバスバーの上面に積層され、それによってIDT電極1004に電気的に接続されている。また、誘電体層1003の上面に、絶縁層1006が形成されている。
【0005】
他方、誘電体層1003には、開口部が形成されており、該開口部内に、上記第1の配線電極1005が露出している。この開口部において、第1の電極1005に電気的に接続されるように、第2の配線電極1007が形成されている。第2の配線電極1007は、誘電体層1003の開口部内において、第1の配線電極1005の上面に積層されることにより、第1の配線電極1005に電気的に接続されている。第2の配線電極1007は、誘電体層1003の開口部から開口部外の誘電体層1003の上面に至っている。そして、絶縁層1006においては、第2の配線電極1007が露出している貫通孔1006aが形成されている。この貫通孔1006a内に、アンダーバンプメタル層1008が形成されている。アンダーバンプメタル層1008の上部に、バンプ1009が形成されている。
【0006】
ところで、特許文献1では、上記第1の配線電極1005は、AlCu合金により形成され得る旨が示されている。この種の電極材料においては、AlCu合金として、一般に、Al−1%Cu合金が用いられている。すなわち、Alが100重量%に対し、Cuを1重量%含むAlCu合金が一般的に用いられている。
【特許文献1】特開2007−28195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の弾性境界波装置1001の製造に際しては、圧電基板1002上に、まず、IDT電極1004及び第1の配線電極1005を形成する。次に、誘電体層1003を構成する誘電体材料を全面に形成した後、フォトリソグラフィーによりパターニングし、開口部を形成する。このパターニングに際しては、アルカリに可溶なフォトレジストを用い、アルカリ現像液を用い、パターニングが行われる。
【0008】
しかる後、開口部内から誘電体層1003の上面に至る第2の配線電極1007を形成する。その後、絶縁層1006、アンダーバンプメタル層1008及びバンプ1009を形成する。
【0009】
このようにして得られた従来の弾性境界波装置1001では、第1の配線電極1005と第2の配線電極1007との接触抵抗がばらつきがちであり、かつ高くなりがちであった。そのため、誘電体層1003を形成した後に、開口部に露出している第1の電極1005の上面を粗面とするために、エッチングを実施しなければならなかった。従って、製造工程が煩雑であり、コストが高くつくという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、アルカリ現像液を用いたパターニングを経て得られ、下方の第1の電極と、上方の第2の電極とが電気的に接続される構造を備えた弾性波装置であって、第1,第2の電極の接触抵抗が低く、しかも煩雑な製造工程を得ることなく製造することができ、コストを低減することが可能な弾性波装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極に電気的に接続されるように前記圧電基板上に設けられている第1の電極と、前記IDT電極及び前記第1の電極を覆うように設けられており、前記第1の電極の一部が露出している開口部を有する絶縁層と、前記絶縁層の前記開口部において、前記第1の電極の上面に積層されて第1の電極に電気的に接続されており、かつ前記開口部内から開口部外に延び前記絶縁層上に至っている第2の電極とを備え、前記第1の電極の少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属と、アルカリに不溶な金属とからなり、かつ前記アルカリに可溶な金属に対する前記アルカリに不溶な金属の含有率が5%以上、20%以下である合金からなる、弾性波装置が提供される。
【0012】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記IDT電極と前記第1の電極とが同じ材料からなり、かつ前記IDT電極に前記第1の電極が連ねられている。この場合には、IDT電極と第1の電極とを同じ材料を用いて同時に形成することができるので、製造工程のより一層の簡略化を果たすことができ、かつコストをより一層低減することができる。
【0013】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記アルカリに可溶な金属がAlであり、前記アルカリに不溶な金属がCu、Au、Pt、Ni、Ag、Mg及びZnからなる群から選択された少なくとも1種の金属である。この場合には、主となるアルカリに可溶な金属にコストの安いAlを用いることで、製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明において、第1の電極は、複数の金属膜を積層した積層導電膜からなることが好ましく、その場合には、複数の金属膜を構成する材料を種々選択することにより、反射係数を高めたり、導電率を高めたり、圧電基板への密着性を高めたりすることができる。
【0015】
本発明に係る弾性波装置の製造方法は、圧電基板と、圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極に電気的に接続された第1の電極とを有し、前記第1の電極の少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属とアルカリに不溶な金属との合金からなり、該合金においてアルカリに可溶な金属に対するアルカリに不溶な金属の含有率が5%以上、20%以下とされている、弾性波装置用基板材を用意する工程と、前記弾性波装置用基板材の圧電基板の上面において、前記IDT電極及び前記第1の電極を覆うように、かつ前記第1の電極の少なくとも一部が露出する開口部を有する絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層上に、光の照射によりアルカリ現像液に可溶な部分と、アルカリ現像液に不溶な部分とが形成されるフォトレジスト材料からなるフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層に光を照射し、前記絶縁層の前記開口部が設けられている部分を少なくとも覆う前記フォトレジスト層部分を前記アルカリ現像液に可溶な部分とする工程と、前記フォトレジスト層をアルカリ現像液で処理し、アルカリに可溶な部分を除去しレジスト層をパターニングする工程と、前記レジスト層のパターニング後に、第2の電極を形成するための金属膜を全面に成膜し、該金属膜の一部を前記開口部内において前記第1の電極の上部に積層する工程と、前記アルカリ現像液に不溶な前記フォトレジスト部分をその上部に残存している金属膜とともにリフトオフ法により除去する工程とを備える。
【0016】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のある特定の局面では、前記弾性波装置用基板材を用意するにあたり、前記圧電基板上に、前記IDT電極と前記第1の電極とが同じ材料により同時に形成される。この場合には、同じ材料を用いて同時にIDT電極及び第1の電極が形成されるので、製造工程のより一層の簡略化を図ることができ、かつコストをより一層低減することができる。
【0017】
本発明に係る弾性波装置の製造方法の他の特定の局面では、前記第1の電極の形成にあたり、複数の金属膜を順次形成してなる積層導電膜からなる第1の電極が形成される。この場合には、複数の金属膜を構成する各材料を適宜選択することにより、反射係数を高めたり、導電率を高めたり、圧電基板への密着性を高めたりすることができる。
【0018】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記アルカリに可溶な金属がAlであり、前記アルカリに不溶な金属がCu、Au、Pt、Ni、Ag、Mg及びZnからなる群から選択された少なくとも1種の金属である。この場合には、主となるアルカリに可溶な金属にコストの安いAlを用いることで、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る弾性波装置及びその製造方法によれば、第1の電極の少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属に対するアルカリに不溶な金属の含有率が5重量%以上、20重量%以下である合金からなるため、アルカリ現像液を用いてパターニングを行った場合に、第1の電極の上面が適度に荒らされることになる。そのため、第1の電極と第2の電極との接触抵抗を十分に低くすることができ、かつ接触抵抗のばらつきを小さくすることができる。従って、煩雑なエッチング工程を実施せずとも、第1,第2の電極の接触抵抗を低め、かつ接触抵抗のばらつきを小さくし得るので、製造工程の簡略化及びコストの低減を果たすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより本発明を明らかにする。
【0021】
図1〜図10を参照して、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の製造方法を説明する。なお、本実施形態では、弾性波装置として、弾性境界波装置が製造される。
【0022】
まず、図1(b)に示す圧電基板1を用意する。本実施形態では、圧電基板1として、LiNbO単結晶基板が用いられている。もっとも、圧電基板1は、KNbO、LiTaO、KTaO、LiB、AlN、水晶、ダイヤモンド、ランガサイト、サファイアまたはZnOなどの他の圧電材料により形成されてもよい。
【0023】
圧電基板1の上面に、弾性境界波装置として動作させるために、IDT電極2を含む電極構造を形成する。IDT電極2を含む電極構造は、本実施形態では、Auを全面に形成し、パターニングすることにより形成されている。
【0024】
図1(a)は、IDT電極2を含む上記電極構造を示す模式的平面図である。本実施形態では、IDT電極2の両側に、IDT電極3,4及び反射器5,6が形成されており、それによって3IDT型の第1の縦結合共振子型の弾性境界波フィルタ部7が形成されている。さらに、弾性境界波フィルタ部7の側方に、同じく3個のIDT電極8〜10及び反射器11,12を有する、3IDT型の第2の縦結合共振子型の弾性境界波フィルタ部13が配置されている。ここでは、平衡−不平衡変換機能を有する2個の弾性境界波フィルタ部7,13が設けられている。もっとも、本発明においては、弾性波装置を形成するIDT電極を含む電極構造は図示の構造に限定されず、目的とする用途に応じて、少なくとも1つのIDT電極を含む適宜の電極構造を形成することができる。
【0025】
また、上記IDT電極2はAuからなるが、Al、Cu、Pt、Ag、Ti、Cr、Ni、Pd、Co、Mg、WまたはRhなどの様々な他の金属により形成されてもよく、またこれらを主体とする合金により形成されていてもよい。さらに、IDT電極2を含む電極構造は、複数のこれらの金属層を積層してなる積層導電膜により形成されていてもよい。
【0026】
次に、図2(a)及び(b)に示すように、IDT電極2に電気的に接続されるように、第1の電極21を形成する。図2(a)では、第1の電極21の平面形状を明確にするために、ハッチングを付して第1の電極21を示す。図2(b)に示すように、IDT電極2のバスバーに第1の電極21の一部が重ねられており、それによって、第1の電極21が、IDT電極2に電気的に接続されている。
【0027】
上記第1の電極21は、本実施形態では、上から順に、Al−5重量%Cu合金層/Ti層の順にこれらの複数の金属膜を積層してなる積層導電膜からなる。すなわち、最上部の金属膜が、Al−5重量%Cu合金からなる。
【0028】
なお、第1の電極21は、単一の金属膜により形成されてもよいが、少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属と、アルカリに不溶な金属とからなる合金であって、アルカリに可溶な金属に対するアルカリに不溶な金属の含有率が5重量%以上、20重量%以下である合金からなる。このような合金としては、Al−Cu合金、すなわちAlに対し、Cuを5重量%以上、20重量%以下で含むAlCu合金が好適に用いられる。上記アルカリに可溶な金属としては、Alを用い得る。アルカリに不溶な金属としては、Cu、Au、Pt、Ni、Ag、Mg及びZnからなる群から選択した少なくとも1種を用いることができる。
【0029】
上記第1の電極21は、単一の金属膜により形成されてもよく、その場合には、上記アルカリに可溶な金属とアルカリに不溶な金属とからなる上記合金により形成される。また、本実施形態のように、複数の金属膜を積層してなる積層導電膜の場合、最上部に上記アルカリに可溶な金属と、アルカリに不溶な金属とからなる合金により形成された金属膜が設けられればよく、残りの金属膜は、適宜の金属もしくは合金により形成され得る。このような金属もしくは合金としては、アルカリに可溶な金属であってもよく、アルカリに不溶な金属であってもよい。
【0030】
なお、第1の電極21は、前述した弾性境界波フィルタ部7,13のバスバーを後述する第2の電極26Aと電気的に接続するための配線電極として形成されている。第1の電極21の形成方法は特に限定されないが、本実施形態では、全面に第1の電極21を形成する積層導電膜を形成した後、フォトリソグラフィー等によりパターニングすることにより形成されている。積層導電膜を全面に形成するに際しては、蒸着、スパッタリングなどの適宜の方法を用いることができる。
【0031】
次に、図3に示すように、圧電基板1上において、第1の電極21及びIDT電極2を含む電極構造を被覆するように全面に絶縁層22を形成する。絶縁層22は、本実施形態では、SiOをスパッタリングすることにより形成されている。なお、絶縁層22は、Si、SiON、SiOF、SiC、SiCN、TiOまたはTaなどの他の無機絶縁性材料により形成されてもよい。あるいは、絶縁層22は、ポリイミドやエポキシ樹脂などの有機絶縁性材料により形成されてもよい。
【0032】
次に、ドライエッチングにより、図4(a)及び(b)に示すように、絶縁層22に、開口部22a,22aを形成する。開口部22a,22aは、下方の第1の電極21の一部を開口部22a,22aに露出するように形成される。
【0033】
開口部22a,22aの形成は、ドライエッチング以外の方法で行われてもよく、あるいは絶縁層22の形成に際し、フォトリソグラフィー法などを用いてパターニングすることにより、開口部22aを有する絶縁層22を形成してもよい。
【0034】
次に、図5(a)に示すように、全面にフォトレジスト層23を形成する。フォトレジスト層23は、アルカリ現像液で現像される公知のフォトレジスト材料からなる。このような公知のフォトレジスト材料としては、例えば紫外線などの光の照射により硬化し、未硬化部分がアルカリ現像液により溶解して除去され、硬化した部分がアルカリ現像液に可溶でない部分となる光硬化性樹脂組成物を用いることができる。
【0035】
このようなフォトレジスト層23を形成した後に、アルカリ現像液で除去すべき部分を遮光部とするマスクを用いて上方から光を照射する。このようにして、図5(b)に示すように、上記開口部22a,22aに位置している未照射部分23aの周囲に光が照射された照射部分23bが位置するようにフォトレジスト層23に光を照射する。
【0036】
次に、アルカリ水溶液のようなアルカリ現像液で処理することにより、図5(c)に示すように、未照射部分23aをアルカリ現像液25により除去する。図5(c)に示すように、照射部分23bはアルカリ現像液25に溶解しない。
【0037】
この場合、アルカリ現像液25に、第1の電極21の上面が晒されることになる。第1の電極21の上面は、前述したAl−5重量%Cu合金からなるため、アルカリ水溶液により部分的に溶解し、表面が粗面状態となる。この粗面状態を図5(c)において、矢印Aで模式的に示す。
【0038】
上記アルカリ現像液25としては、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)やNaOH水溶液やKOH水溶液などの適宜のアルカリ水溶液を用いることができる。このようにして、図6(a)に示すように、パターニングされたフォトレジスト層23が得られる。次に、図6(b)に示すように、全面に第2の電極を形成するための金属膜26を蒸着により形成する。なお、蒸着以外に、スパッタリングまたはメッキ等により金属膜26を形成してもよい。
【0039】
金属膜26は、本実施形態では、上方から順にAl/Tiの順序でAl膜及びTi膜が積層されてなる積層導電膜からなる。金属膜26は、複数の金属膜を積層してなる積層導電膜により形成されてもよく、単一の金属膜により形成されてもよい。用い得る金属材料としては、特に限定されず、Al、Cu、Au、Pt、Ag、Ti、Cr、Ni、Pd、Co及びMgからなる群から選択された少なくとも1種の金属、またはこれらの金属を主体とする合金を用いることができる。
【0040】
次に、残存している照射部分23b及びその上に位置している金属膜26をリフトオフ法により除去する。リフトオフ法により除去するに際しては、残存しているフォトレジスト層の照射部分23bを溶解し得る適宜の溶剤、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を用いて、処理することにより行われる。
【0041】
このようにして、図6(c)に示すように、金属膜26からなる第2の電極26Aが形成される。第2の電極26Aは、開口部22a内に入り込んでおり、下方の第1の電極21の上面に接触されている。この接触部分では、第1の電極21の上面が粗面とされているため、第1の電極21と第2の電極26Aとが十分な面積で接触する。従って、接触抵抗を確実に低くすることができ、かつ接触抵抗のばらつきを小さくすることができる。
【0042】
上記のようにして、図6(c)及び図7に示す弾性波装置28を得ることができる。
【0043】
上記のように、本実施形態の弾性波装置の製造方法及び該弾性波装置の特徴は、第1の電極21として、少なくとも上面がAl−5重量%Cu合金からなる金属膜で形成されていることにある。それによって、第1の電極21の上面がアルカリ現像液に晒された際に粗面とされ、第1の電極21と第2の電極26Aとの接触を良好なものとすることにある。それによって、接触抵抗を確実に低くすることができる。これを、具体的な実験例に基づき説明する。
【0044】
図8(a)及び(b)は、第1の電極21の最上部の金属膜をAl−1重量%Cu合金により形成した場合のアルカリ現像液による現像前及び現像後の表面状態をそれぞれ示す各電子顕微鏡写真である。また、図9(a)及び(b)は、第1の電極21の最上部の金属膜をAl−10重量%Cu合金により形成した場合のアルカリ現像前及びアルカリ現像後の表面状態をそれぞれ示す各電子顕微鏡写真である。
【0045】
図8(b)と図9(b)とを比較すれば明らかなように、Al−1重量%Cu合金に比べ、Al−10重量%Cu合金を用いた場合の方が、表面の凹凸が大きくなっていることがわかる。これは、Cuがアルカリ水溶液に不溶であるため、残存する部分が多くなることにより、表面に大きな凹凸が形成されるものと考えられる。従って、より表面状態を粗くすることができるので、Al−10重量%Cu合金を用いた場合、Al−1重量%Cu合金を用いた場合に比べて、第2の電極26Aとの接触抵抗を小さくし得ることがわかる。
【0046】
図10(a)は、上記実施形態において、第1の電極21の最上部の金属膜におけるAlCu合金のCuの割合を変化させた場合の第1の電極21と第2の電極26Aとの接触抵抗の変化を示す図である。また、図10(b)は、上記実施形態において、第1の電極21の最上部の金属膜におけるAlCu合金のCuの割合を変化させた場合の第1の電極21の導通抵抗の変化を示す図である。ここでは、図10(a)の縦軸はAl−1重量%Cu合金を用いた場合の接触抵抗を1とする接触抵抗比率を示し、図10(b)の縦軸はAl−1重量%Cu合金を用いた場合の導通抵抗を1とする抵抗比率を示す。
【0047】
図10(a)から明らかなように、Al−Cu合金において、Cuの含有割合が高くなるにつれて接触抵抗比率が低くなり、特に、Cuの含有割合が5重量%以上であれば、接触抵抗比率を0.05以下と低くし得ることがわかる。なお、Alに対してCuの含有割合が高くなりすぎると、図10(b)から明らかなように、20重量%を越えると抵抗化率が10倍以上に増加する。従って、Cuの含有割合は20重量%以下とすることが必要である。
【0048】
図11(a)〜(c)〜図13(a)〜(c)を参照して、第1の実施形態の変形例の製造方法を説明する。
【0049】
この変形例では、図11(a)に示すように、圧電基板1上にIDT電極2を含む電極構造の形成に際し、同じ材料で、第1の電極21も形成されることにある。従って、本実施形態では、IDT電極2及び第1の電極21は、上面がAl−5重量%Cu合金からなる金属膜を有する積層導電膜により形成されている。このように、IDT電極2を、第1の電極21と同じ材料で同時に形成してもよい。この場合には、第1の電極21をIDT電極2と別途形成する必要がないため、製造工程の簡略化を果たすことができ、かつ電極材料の種類を少なくすることができる。従って、コストを低減することができる。
【0050】
本変形例では、第1の電極21をIDT電極2と同時に、同じ材料で形成した後には、上記実施形態と同様にして、弾性波装置が製造される。従って、同一部分に同一の参照番号を付することにより、詳細な説明は省略する。
【0051】
図11(b)及び(c)に示すように、絶縁層22を形成し、開口部22a,22aをドライエッチングにより形成する。次に、図12(a)〜(c)に示すように、フォトレジスト層23を形成し、アルカリ現像し、図13(a)に示すように、第1の電極21の上面が粗面とされた構造を有する。しかる後、図13(b)及び(c)に示すように、金属膜26を形成し、リフトオフ法により余分な金属膜を除去し、第2の電極26Aを形成する。
【0052】
本変形例においても、第1の電極21の上面がアルカリ現像液25に接触されて粗面とされるので、第1の実施形態の場合と同様に、第1の電極21と第2の電極26Aとの接触抵抗を確実に低くすることができ、かつ接触抵抗のばらつきを小さくすることができる。
【0053】
図14(a),(b)〜図20(a)〜(c)を参照して、本発明の第2の実施形態の弾性波装置の製造方法及び弾性波装置を説明する。
【0054】
本実施形態では、図14(a)及び(b)に示すように、第1の実施形態と同様にして、圧電基板1上に、IDT電極2を含む電極構造を形成し、さらに第1の電極21を形成する。次に、第1の実施形態の場合と同様に、図15(a)及び(b)に示すように、上面の全面に絶縁層22を形成する。
【0055】
次に、図16(a)及び(b)に示すように、第1の電極21のIDT電極2とは離れた第1の部分21A上に絶縁層22Aを部分的に残すようにパターニングする。このパターニングは、絶縁層22を部分的にエッチングし除去することにより行われる。もっとも、フォトリソグラフィー法などの適宜のパターニング方法を用いてもよい。このようにして、絶縁層22Aが部分的に形成される。
【0056】
このようにして、配線の一部である第1の部分21Aを被覆するように絶縁層22Aが形成される。
【0057】
しかる後、図17に示すように、全面にフォトレジスト層23を形成する。そして、図18(a)及び(b)に示すように、フォトレジスト層23において、マスクを用いて選択的に露光する。図18(a)において、クロスのハッチングで示した部分が光が未照射である未照射部分23aであり、アルカリ現像液に可溶な部分に相当する。斜線のハッチングで付した部分23bが光の照射により硬化し、アルカリ現像液に不溶な部分である。次に、アルカリ現像液で現像を行う。
【0058】
その結果、図19(a)に示すように、アルカリ現像液25に晒されている部分では、第1の電極21の上面が矢印B,Bで示すように粗面となる。絶縁層22Aで被覆されている第1の部分21Aの上面は粗面とはならない。
【0059】
このようにして、図19(b)及び(c)に示す構造が得られる。しかる後、図20(a)に示すように、全面に第2の電極26Aを形成するための金属膜26を第1の実施形態の場合と同様に形成し、リフトオフ法により不用な金属膜を除去する。このようにして、第2の電極26Aが形成される。
【0060】
図20(b)及び(c)に示すように、このようにして得られた弾性波装置では、第2の電極26Aが、第1の電極21の第2,第3の部分21B,21Cに電気的に接続されているが、第2,第3の部分において、両者の接触抵抗が十分に低くなり、かつ接触抵抗のばらつきが低くされ得る。
【0061】
本実施形態では、上記絶縁層22Aが形成されている部分は、図19(c)及び図20における配線交差部分に相当する。すなわち、絶縁層22Aにより、配線としての第2の電極26Aが、下方の第1の電極21の第1の部分21Aとの絶縁が図られている。
【0062】
このように、第1の電極21と第2の電極26Aとが電気的に接続される部分においては、両者の接触抵抗を確実に低くすることができ、両者が短絡されてはならない部分においては、上記のように絶縁層22Aの形成により、確実に両者を電気的に分離することができる。
【0063】
上記絶縁層22Aは、ポリイミドやエポキシ樹脂などの有機絶縁性材料により形成されていてもよい。このような有機絶縁性材料を用いる場合には、絶縁材料を塗布することにより絶縁層22を容易に形成することができる。
【0064】
なお、上述した第1,第2の実施形態及び変形例は、弾性境界波装置の製造方法につき説明したが、弾性境界波装置に代えて、弾性表面波装置にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態の製造方法において、圧電基板上に形成されるIDT電極2を含む電極構造を示す模式的平面図及び圧電基板上に上記電極構造が形成された状態を示す略図的正面断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、第1の実施形態の製造方法において、第1の電極を形成した状態を示す模式的平面図及び正面断面図である。
【図3】第1の実施形態の製造方法において、圧電基板上に絶縁層を全面に形成した状態を示す正面断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、第1の実施形態の製造方法において、絶縁層に開口部を形成した状態を示す正面断面図及び平面図である。
【図5】(a)〜(c)は、第1の実施形態の製造方法において、フォトレジスト層を全面に形成した状態、フォトレジスト層に光を照射し、アルカリ現像液に不溶な部分を形成した状態を示す模式的正面断面図及びアルカリ現像液により現像する工程を説明するための模式的正面断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ、第1の実施形態の製造方法において、フォトレジスト層が現像された後の状態を示す模式的正面断面図、全面に第2の電極を形成するための金属膜を形成した状態を示す模式的正面断面図及び電極形成により得られた実施形態の弾性波装置の模式的正面断面図である。
【図7】第1の実施形態の製造方法で得られた弾性波装置の模式的平面図である。
【図8】(a)及び(b)は、第1の電極の最上部の金属膜をAl−1重量%Cu合金により形成した場合のアルカリ現像前及びアルカリ現像後の表面を示す各電子顕微鏡写真である。
【図9】(a)及び(b)は、第1の電極の最上部の金属膜をAl−10重量%Cu合金により形成した場合のアルカリ現像前及びアルカリ現像後の表面を示す各電子顕微鏡写真である。
【図10】(a)及び(b)は、第1の電極の最上部の金属膜でのAlCu合金におけるCu含有割合と、第1の電極と第2の電極との接触抵抗比率との関係をそれぞれ示す図である。
【図11】(a)〜(c)は、第1の実施形態の変形例に係る製造方法の各工程を示す模式的正面断面図である。
【図12】(a)〜(c)は、第1の実施形態の変形例に係る製造方法の各工程を説明するための模式的正面断面図である。
【図13】(a)〜(c)は、第1の実施形態の変形例に係る製造方法の各工程を説明するための模式的正面断面図である。
【図14】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る製造方法において、圧電基板上にIDT電極を含む電極構造及び第1の電極を形成した状態を示す正面断面図及び平面図である。
【図15】(a)及び(b)は、第2の実施形態の製造方法において、絶縁層が形成された構造を示す正面断面図及び平面図である。
【図16】(a)及び(b)は、第2の実施形態の製造方法において、絶縁層をパターニングした後の状態を示す正面断面図及び模式的平面図である。
【図17】本実施形態の製造方法において、全面にフォトレジスト層を形成した状態を示す模式的正面断面図である。
【図18】(a)及び(b)は、第2の実施形態の製造方法において、フォトレジスト層に光を照射し、アルカリ現像液に不溶な部分を形成した状態を示す模式的正面断面図及び平面図である。
【図19】(a)は、アルカリ現像液で現像する工程を説明するための正面断面図、(b)及び(c)は、アルカリ現像後の状態を示す正面断面図及び平面図である。
【図20】(a)は、第2の実施形態において、全面に第2の電極を形成するための金属膜を形成した状態を示す正面断面図であり、(b)及び(c)は、第2の実施形態により得られた弾性波装置の正面断面図及び模式的平面図である。
【図21】従来の弾性波装置を説明するための部分正面断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1…圧電基板
2…IDT電極
3,4…IDT電極
5,6…反射器
7…弾性境界波フィルタ部
8〜10…IDT電極
11,12…反射器
13…弾性境界波フィルタ部
21…第1の電極
21A〜21C…第1〜第3の部分
22…絶縁層
22A…絶縁層
22a…開口部
23…フォトレジスト層
23a…未照射部分
23b…照射部分
25…アルカリ現像液
26…金属膜
26A…第2の電極
28…弾性波装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDT電極と、
前記IDT電極に電気的に接続されるように前記圧電基板上に設けられている第1の電極と、
前記IDT電極及び前記第1の電極を覆うように設けられており、前記第1の電極の一部が露出している開口部を有する絶縁層と、
前記絶縁層の前記開口部において、前記第1の電極の上面に積層されて第1の電極に電気的に接続されており、かつ前記開口部内から開口部外に延び前記絶縁層上に至っている第2の電極とを備え、
前記第1の電極の少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属と、アルカリに不溶な金属とからなり、かつ前記アルカリに可溶な金属に対する前記アルカリに不溶な金属の含有率が5%以上、20%以下である合金からなる、弾性波装置。
【請求項2】
前記IDT電極と前記第1の電極とが同じ材料からなり、かつ前記IDT電極に前記第1の電極が連ねられている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記アルカリに可溶な金属がAlであり、前記アルカリに不溶な金属がCu、Au、Pt、Ni、Ag、Mg及びZnからなる群から選択された少なくとも1種の金属である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1の電極が複数の金属膜を積層した積層導電膜からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
圧電基板と、圧電基板上に形成されたIDT電極と、前記IDT電極に電気的に接続された第1の電極とを有し、前記第1の電極の少なくとも上面が、アルカリに可溶な金属とアルカリに不溶な金属との合金からなり、該合金においてアルカリに可溶な金属に対するアルカリに不溶な金属の含有率が5%以上、20%以下とされている、弾性波装置用基板材を用意する工程と、
前記弾性波装置用基板材の圧電基板の上面において、前記IDT電極及び前記第1の電極を覆うように、かつ前記第1の電極の少なくとも一部が露出する開口部を有する絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に、光の照射によりアルカリ現像液に可溶な部分と、アルカリ現像液に不溶な部分とが形成されるフォトレジスト材料からなるフォトレジスト層を形成する工程と、
前記フォトレジスト層に光を照射し、前記絶縁層の前記開口部が設けられている部分を少なくとも覆う前記フォトレジスト層部分を前記アルカリ現像液に可溶な部分とする工程と、
前記フォトレジスト層をアルカリ現像液で処理し、アルカリに可溶な部分を除去しレジスト層をパターニングする工程と、
前記レジスト層のパターニング後に、第2の電極を形成するための金属膜を全面に成膜し、該金属膜の一部を前記開口部内において前記第1の電極の上部に積層する工程と、
前記アルカリ現像液に不溶な前記フォトレジスト部分をその上部に残存している金属膜とともにリフトオフ法により除去する工程とを備える、弾性波装置の製造方法。
【請求項6】
前記弾性波装置用基板材を用意するにあたり、前記圧電基板上に、前記IDT電極と前記第1の電極とを同じ材料により同時に形成する、請求項5に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項7】
前記第1の電極の形成にあたり、複数の金属膜を順次形成してなる積層導電膜からなる第1の電極を形成する、請求項6に記載の弾性波装置の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリに可溶な金属がAlであり、前記アルカリに不溶な金属がCu、Au、Pt、Ni、Ag、Mg及びZnからなる群から選択された少なくとも1種の金属である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の弾性波装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−50726(P2010−50726A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213012(P2008−213012)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】