説明

弾性表面波センサ素子及び弾性表面波センサ

【課題】部品点数を少なくして製造コストを低減した高感度かつ高分解能のSAWセンサを提供する。
【解決手段】SAWセンサ素子1は長さ方向に薄板部3aと厚板部3bとを有する圧電基板2と、薄板部上に形成された検出用SAW共振子5及び第1SAWフィルタ6と、厚板部上に形成された基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8とを備える。検出用SAW共振子と第1SAWフィルタ間に第1発振回路22を接続して検出用の発振周波数を発振させ、基準用SAW共振子と第2SAWフィルタ間に第2発振回路23を接続して基準用の発振周波数を発振させ、それらを第1及び第2SAWフィルタを通過させて不要な信号成分を除去した後、周波数混合器24に入力してそれらの差分又は和分を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に形成したIDT(すだれ状トランスデューサ)により励振される弾性表面波(SAW)を利用して、加速度、外力、変位等を検出測定するSAWセンサ及びそれに使用するためのSAWセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SAWを利用して加速度、外力又は変位を測定する様々なセンサが提案されている(特許文献1乃至3)。例えば、特許文献1記載の外力センサは、圧電材料からなる長板状のビームを片持ちに支持し、該ビームの表裏両面にそれぞれSAWを励振する送信電極及び受信電極と増幅器とからなる発振器を設けた構成を有する。前記ビームが外力の作用により撓むと、その表面に生じた歪みによりSAWの伝搬速度が変化して両発振器の発振周波数が変化するので、それら発振周波数の差をローパスフィルタで取り出して、外力の大きさを測定する。更に特許文献2記載の傾斜センサは、カンチレバーの両面に形成したSAW共振器の送信電極及び受信電極の電極パターンを互いに相似パターンとすることにより、両SAW共振器の温度特性の相違に起因する差周波数の温度ドリフトを抑えて計測精度の向上を図っている。
【0003】
また、特許文献3記載の外力センサは、同様に片持ちに支持したカンチレバーの表面にそれぞれ櫛形電極からなる送信部及び受信部を有するSAW共振器が配置されている。送信部及び受信部を前記カンチレバーの長さ方向に配置した実施例では、該レバーの長さ方向即ち上下の変位を検出でき、該レバーの長さ方向と垂直に即ち幅方向に配置した実施例では、ねじれ即ち幅方向の変位を検出することができる。更に、前記カンチレバーの表面に2つの平行に配置した受信部と共通の送信部とを設けた実施例では、各受信部の信号の和と差とから長さ方向の変位及びねじれ変位を同時に検出することができる。
【0004】
更に、SAWを利用して圧力を測定する圧力センサ装置が知られている(例えば、特許文献4を参照)。この圧力センサ装置は、圧電基板の厚みを薄くした肉薄部に圧力検出用SAW素子を設け、かつそれ以外の肉厚部に参照用SAW素子を設け、両SAW素子の共振周波数の差分をとり、その変化により圧力を検出する。
【0005】
【特許文献1】特開平2−228530号公報
【特許文献2】特開平5−141969号公報
【特許文献3】特開平9−133691号公報
【特許文献4】特再表WO2005/052533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般にSAWを利用したセンサは、SAW共振器から出力される周波数の変化を検出するので、出力される電圧の変化を検出するタイプのセンサに比して、測定対象の僅かな変動も高感度に検出し得る特徴を有する。高いセンサ感度を確保するためには、出力される信号の純度を高くする必要があり、そのためにバンドパスフィルタが使用されている。しかしながら、上述した従来のSAWを利用したセンサは、検出される2つの周波数を混合するミキサの後段に、SAW共振器を形成したカンチレバー状の圧電基板とは別個のバンドパスフィルタを接続している。その結果、部品点数が増加して製造コストが増大し、かつセンサ全体の構成が複雑になるという問題が生じる。
【0007】
また、高感度かつ高分解能のセンサを実現するためには、圧電基板のSAW共振器及び/又はそれからなる発振器と後段のバンドパスフィルタとをバランス良くマッチングさせることが必要である。しかしながら、従来のように圧電基板とバンドパスフィルタとを別個に構成した場合、例えば温度特性等において両者の個体差が大きくなり易く、センサ全体として性能にばらつきや低下を生じる等の不都合を生じる虞がある。
【0008】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なくして製造コストの増大を抑制でき、性能のばらつきが少なく、高感度かつ高分解能のSAWセンサを実現することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、かかるSAWセンサを実現するのに適したSAWセンサ素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記目的を達成するために、長さ方向に沿って薄板部と厚板部とを有する圧電基板、圧電基板の薄板部上に形成されてSAWを励振するための検出用IDT、圧電基板の厚板部上に形成されてSAWを励振するための基準用IDT、圧電基板上に形成されかつ検出用IDTの出力に接続する第1SAWフィルタ、及び圧電基板上に形成されかつ基準用IDTの出力に接続する第2SAWフィルタを備えるSAWセンサ素子と、SAWセンサ素子の検出用IDTと第1SAWフィルタとの間を接続する第1発振回路と、SAWセンサ素子の基準用IDTと第2SAWフィルタとの間を接続する第2発振回路と、SAWセンサ素子の第1SAWフィルタ及び第2SAWフィルタの各出力に接続した周波数混合器と、周波数混合器に接続した周波数検波器とを備えるSAWセンサが提供される。
【0011】
SAWを励振する検出用IDT及び基準用IDTは、例えばそれぞれ交差指電極対からなる入力用及び出力用の2つのIDTとその両側に配置した反射器とを有する2ポート型のSAW共振子若しくはSAWフィルタとして、又は1対の交差指電極対からなるIDTとその両側に配置した反射器とを有する1ポート型のSAW共振子として、又は、それぞれ交差指電極対からなる入力用及び出力用の2つのIDTを有するトランスバーサル型のSAWフィルタとして構成することができる。
【0012】
外力等の負荷がSAWセンサ素子に作用したとき、それにより生じた薄板部表面の歪みによってSAWの伝搬速度が変化して、周波数混合器から取り出される検出側の発振周波数と基準側の発振周波数との差分及び和分が無負荷状態での周波数値から変動するので、これらのいずれか一方を周波数検波器で検出することにより、作用した外力等を測定することができる。その際に第1及び第2発振回路から出力される発振周波数は、それぞれ第1及び第2SAWフィルタによって、ノイズとなり得る余分な周波数成分がカットされ、所望範囲の周波数成分のみが後段の周波数混合器に入力するので、作用した外力等を高感度にかつ高分解能で検出することができる。
【0013】
更に、検出用IDT及び基準用IDTと同じ圧電基板上に第1及び第2SAWフィルタが形成されているので、SAWセンサ全体として構成を簡単にしかつ部品点数を少なくすることができる。また、検出用IDT及び基準用IDTと第1及び第2SAWフィルタとは、従来の製造工程をそのまま利用して圧電基板上に同時に形成できるので、製造コストを低減でき、かつそれらの個体差による性能のばらつきを少なくすることができる。
【0014】
このとき、第1SAWフィルタを検出用IDTと共に圧電基板の薄板部に設けると、その周波数特性は、温度変化や該薄板部に生じる歪み等の影響を受けて検出用IDTと同様にシフトなどするので、好都合である。特に検出用IDTと第1SAWフィルタとは、圧電基板の長さ方向に互いに平行に配置すると、薄板部の撓みにより生じる歪みが圧電基板の長さ方向に沿って略等しく作用するので、好都合である。
【0015】
また、圧電基板の薄板部には検出用IDTのみを設けて、それ以外の圧電基板の領域に第1SAWフィルタを設けると、薄板部の面積を小さくできるので、SAWセンサ素子に作用する外力等が同じ大きさであっても、薄板部の単位面積当たりに受ける応力が大きくなる。その結果、検出側の発振周波数の変動量がより大きくなるので、SAWセンサをより高感度にすることができる。
【0016】
或る実施例では、第1発振回路及び第2発振回路の構成部品の全部又は一部がSAWセンサ素子の圧電基板上に形成される。これにより、SAWセンサを構成する部品点数をより少なくして構成全体をより簡単にし、製造コストをより低減することができる。
【0017】
別の実施例では、圧電基板をその長さ方向に沿って厚板部側の端部を自由端としかつ薄板部側の端部を剛固に固定して、SAWセンサ素子を片持ちに支持する。これにより、SAWセンサ素子に外力や加速度が作用すると、その大きさ及び向きに対応して厚板部側の端部が変位して薄板部が撓み、該薄板部表面におけるSAWの伝搬速度が変化するので、検出側の発振周波数と基準側発振周波数との差分又は和分から加速度、外力又は変位を測定するためのセンサを構成することができる。
【0018】
更に別の実施例では、周波数混合器と周波数検波器との間に接続したバンドパスフィルタを更に備える。これにより、周波数混合器から出力される前記発振周波数の差分又は和分を選択的に取り出すことができる。
【0019】
本発明の別の側面によれば、長さ方向に沿って薄板部と厚板部とを有する圧電基板と、圧電基板の薄板部上に形成されてSAWを励振するための検出用IDTと、圧電基板の厚板部上に形成されてSAWを励振するための基準用IDTと、圧電基板上に形成されかつ検出用IDTの出力に接続する第1SAWフィルタと、圧電基板上に形成されかつ基準用IDTの出力に接続する第2SAWフィルタとを備えるSAWセンサ素子が提供される。
【0020】
このSAWセンサ素子は、第1及び第2SAWフィルタが、それぞれ検出用IDT及び基準用IDTの共振周波数に基づいて発振される発振周波数からノイズとなり得る余分な周波数成分をカットし、所望帯域の周波数成分のみを出力させるので、高感度かつ高分解能のSAWセンサを実現することができる。1つの圧電基板上に検出用IDT及び基準用IDTと第1及び第2SAWフィルタとが形成されているので、これを用いてSAWセンサを構成したとき、センサ全体の構成を簡単にしかつその部品点数を少なくすることができる。
【0021】
或る実施例では、SAWセンサ素子が、検出用IDTと第1SAWフィルタとの間を接続する第1発振回路の構成部品の全部又は一部と、基準用IDTと第2SAWフィルタとの間を接続する第2発振回路の構成部品の全部又は一部とを圧電基板上に備える。これを用いて構成されるSAWセンサは、その部品点数をより少なくし、製造コストをより低減することができる。また、これら第1発振回路及び第2発振回路の構成部品を含めて、圧電基板上の構成要素及び配線は、従来の製造工程をそのまま利用して形成できるので、より好都合である。
【0022】
別の実施例では、第1SAWフィルタ及び第2SAWフィルタの出力に接続されるバンドパスフィルタの構成部品の一部を圧電基板上に備える。これを用いて構成されるSAWセンサは、その部品点数を更に少なくし、製造コストを更に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。各図において、同一又は類似の構成要素には、同一又は類似の参照符号を付して表示する。
【0024】
図1(A)、(B)は、本発明によるSAWセンサ素子の第1実施例の構成を概略的に示している。本実施例のSAWセンサ素子1は、所定の長さ及び幅を有する矩形の水晶からなる圧電基板2を有する。圧電基板2は、長さ方向に沿って図中左側の長さ方向端部2a寄りにエッチング等で下面に凹部を設けた薄板部3aと、それから右側の長さ方向端部2bまで延長する厚板部3bとを有する。圧電基板2は、例えばリチウムタンタレート、リチウムナイオベート等の水晶以外の公知の圧電材料で形成することができる。SAWセンサ素子1を用いるSAWセンサが加速度、外力又は変位を測定するセンサである場合、圧電基板2は、一方の長さ方向端部2aを固定端として支持部4に剛固に固定し、かつ他方の長さ方向端部2bを自由端として、片持ちに支持する。
【0025】
圧電基板2の上面には、薄板部3aの領域に検出用SAW共振子5と第1SAWフィルタ6とが形成され、厚板部3bの領域に基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8とが形成されている。検出用SAW共振子5は2ポート型で、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極9a,9b,10a,10bからなる入力側IDT9及び出力側IDT10と、それらの両側に配置された各1個の反射器11,11とを有する。第1SAWフィルタ6は縦二重モードで、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極12a,12b,13a,13bからなる入力側IDT12及び出力側IDT13と、それらの両側に配置された各1個の反射器14,14とを有する。本実施例の検出用SAW共振子5と第1SAWフィルタ6とは、それぞれSAWの伝搬方向を圧電基板2の長さ方向と平行に、かつ互いに並列に配置されている。
【0026】
第1SAWフィルタ6の通過帯域は、検出用SAW共振子5の共振周波数が確実に含まれるように設定する。或る実施例では、第1SAWフィルタ6の中心周波数を検出用SAW共振子5の共振周波数と一致させることができる。これは、例えば基準用SAW共振子7の入力側及び出力側IDT9,10の電極ピッチと第1SAWフィルタ6の入力側及び出力側IDT12,13の電極ピッチとを同じにすることにより実現される。
【0027】
同様に、基準用SAW共振子7は2ポート型で、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極15a,15b,16a,16bからなる入力側IDT15及び出力側IDT16と、それらの両側に配置された各1個の反射器17,17とを有する。第2SAWフィルタ8は縦二重モードで、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極18a,18b,19a,19bからなる入力側IDT18及び出力側IDT19と、それらの両側に配置された各1個の反射器20,20とを有する。本実施例の基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8とは、それぞれSAWの伝搬方向を圧電基板2の長さ方向と平行に、かつ互いに並列に配置されている。
【0028】
第2SAWフィルタ8の通過帯域は、基準用SAW共振子7の共振周波数が確実に含まれるように設定する。或る実施例では、第2SAWフィルタ8の中心周波数を基準用SAW共振子7の共振周波数と一致させることができる。これは、同様に基準用SAW共振子7の入力側及び出力側IDT15,16の電極ピッチと第2SAWフィルタ8の入力側及び出力側IDT18,19の電極ピッチとを同じにすることにより実現される。
【0029】
図2は、図1のSAWセンサ素子1を用いたSAWセンサ21の構成を示している。SAWセンサ21は、SAWセンサ素子1に加えて、検出用SAW共振子5と第1SAWフィルタ6との間に接続された第1発振回路22と、基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8との間に接続された第2発振回路23とを有する。前記第1及び第2SAWフィルタの各出力端子6a,8aは周波数混合器24に接続され、その出力は周波数検波器25に接続されている。周波数検波器25は、例えば周波数カウンタで構成される。
【0030】
第1発振回路22は、例えば前記検出用SAW共振子の出力用IDT10に接続された増幅器と位相器とDCカット用キャパシタからなり、該位相器の出力が前記検出用SAW共振子の入力用IDT9に帰還させる帰還回路で構成されている。第1発振回路22は、検出用SAW共振子5の共振周波数に基づいて所定の検出周波数fs を発振させて出力する。
【0031】
同様に、第2発振回路23は、例えば前記基準用SAW共振子の出力用IDT16に接続された増幅器と位相器とDCカット用キャパシタからなり、該位相器の出力が前記検出用SAW共振子の入力用IDT15に帰還させる帰還回路で構成されている。第2発振回路23は、基準用SAW共振子7の共振周波数に基づいて所定の基準周波数fr を発振させて出力する。
【0032】
第1発振回路22から出力された発振周波数fs は、第1SAWフィルタ6によりノイズとなり得る余分な周波数成分をカットし、所望範囲の周波数成分を通過させて周波数混合器24に出力する。同様に、第2発振回路23から出力された発振周波数fr は、第2SAWフィルタ8によりノイズとなり得る余分な周波数成分をカットし、所望範囲の周波数成分を通過させて前記周波数混合器に出力する。周波数混合器24は、入力した2つの発振周波数fs ,fr の差分(Δf=fs −fr )と和分(fs +fr )とを取り出し、周波数検波部25に出力する。前記発振周波数の差分及び和分は、周波数混合器24と周波数検波部25との間にローパスフィルタ又はハイパスフィルタを挿入することにより、選択的に取り出すことができる。
【0033】
SAWセンサ21は、上述したようにSAWセンサ素子1を一方の長さ方向端部2aで支持部4に剛固に固定して片持ちに支持した場合、次のように動作する。SAWセンサ素子1は、加速度や外力が作用すると、長さ方向端部2aを支点として、自由端の長さ方向端部2bが、図1(B)に矢印26で示すように圧電基板2の表面に対して垂直方向に変位する。
【0034】
SAWセンサ素子1に加速度又は外力が全く作用せず、長さ方向端部2bが変位していない無負荷状態において、検出側の発振周波数fs と基準側の発振周波数fr とを同一に設定することができる。この場合、発振周波数fs ,fr の差分Δfは0である。別の実施例では、発振周波数fs ,fr を異なる値に設定することができる。
【0035】
SAWセンサ素子1に加速度又は外力が作用して長さ方向端部2bが変位すると、圧電基板2の薄板部3aが撓み、その上面に撓みの向きによって引張歪み又は圧縮歪みが発生する。これにより、薄板部3a上面におけるSAWの伝搬速度が変化し、検出側の第1発振回路22からの発振周波数が増加又は減少する。他方、厚板部3bは、長さ方向端部2bが変位しても撓まないので、基準側の第2発振回路23からの発振周波数fr は変動しない。従って、前記SAWセンサ素子に作用した加速度又は外力の大きさを、発振周波数fs ,fr の差分又は和分として高感度に検出することができる。
【0036】
本実施例では、検出用SAW共振子5及び基準用SAW共振子7を形成した1つの圧電基板2上に第1及び第2SAWフィルタ6,8を形成することにより、SAWセンサを構成する部品点数を少なくでき、かつそれらを同時に従来の製造工程をそのまま利用して形成できるので、製造コストを低く抑制することができる。
【0037】
更に本実施例では、第1SAWフィルタ6が検出用SAW共振子5と同じ薄板部3aに設けられるので、その周波数範囲は温度変化や該薄板部の歪みに応じて、検出用SAW共振子5と同様に変化する。従って、それらを別個に設けた場合に比して性能のばらつきを少なくすることができ、第1SAWフィルタ6を比較的狭帯域に設定しても、その周波数範囲に検出側の発振周波数fs が確実に含まれるようにできるので、より高性能で高感度なSAWセンサが得られる。
【0038】
図3は、本実施例のSAWセンサ21の周波数特性を示している。同図において、実線は、本実施例において周波数検波部25から出力された信号を電圧に変換して表示したものである。更に同図には、比較例として、本実施例のSAWセンサ素子1から第1及び第2SAWフィルタ6,8を省略した場合の出力信号を破線で示す。同図から、本実施例では、中心周波数付近の狭い範囲以外の周波数領域に含まれるノイズ成分を有効に除去できることが分かる。
【0039】
また別の実施例では、検出用SAW共振子5及び基準用SAW共振子7をそれぞれSAWフィルタで構成することができる。この場合、これらの検出用及び基準用SAWフィルタは位相器として使用し、それぞれ所定の発振周波数fs ,fr を発振できるように第1及び第2発振回路22,23を構成する。
【0040】
図4(A)、(B)は、第1実施例の変形例の構成を概略的に示している。本実施例は、第1及び第2発振回路22,23の一部を構成するDCカット用キャパシタ27,28を圧電基板1上に形成した点において、図1の構成と異なる。これにより、SAWセンサを構成する部品点数をより少なくし、製造コストをより低く抑制することができる。また、SAWセンサ素子1は、圧電基板上に各構成要素及び配線を同時に従来の製造工程をそのまま利用して形成できるので、より好都合である。
【0041】
更に別の実施例では、DCカット用キャパシタ27,28だけでなく、第1及び第2発振回路22,23を構成する他の全ての構成部品を圧電基板2上に形成することができる。これにより、更に部品点数を少なくしかつ製造コストを低減させることができる。
【0042】
図5(A)、(B)図は、第1実施例の別の変形例の構成を概略的に示している。本実施例は、図2のSAWセンサ21において周波数混合器25の出力から発振周波数の和分を除去するためのローパスフィルタの一部を構成するキャパシタ29を圧電基板1上に形成した点において、図1の構成と異なる。この実施例では、キャパシタ29以外の前記ローパスフィルタを構成するインダクタ等の部品30が、SAWセンサ素子1とは別個の構成要素としてキャパシタ29と周波数混合器24との間に接続され、かつその出力30aが周波数検波器25に接続されている。これにより、同様にSAWセンサを構成する部品点数をより少なくし、製造コストをより低く抑制することができる。
【0043】
図6(A)、(B)図は、本発明によるSAWセンサ素子の第2実施例の構成を概略的に示している。第2実施例のSAWセンサ素子31は、圧電基板32が第1実施例の圧電基板2よりも細長く形成され、その上面には薄板部33aの領域に検出用SAW共振子5のみが形成され、それと固定端である図中左側の長さ方向端部32aとの間の厚板部分に第1SAWフィルタ6が形成されている点において、第1実施例と異なる。検出用SAW共振子5と第1SAWフィルタ6とは、圧電基板32の長さ方向に沿って、かつSAWの伝搬方向を圧電基板32の長さ方向と平行に配置されている。
【0044】
更に、本実施例では、自由端である図中右側の長さ方向端部32bとの間の厚板部33bの領域に基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8とが、圧電基板32の長さ方向に沿って形成されている点において、第1実施例と異なる。基準用SAW共振子7と第2SAWフィルタ8とは、同様にSAWの伝搬方向を圧電基板2の長さ方向と平行に配置されている。
【0045】
本実施例では、薄板部33に検出用SAW共振子5のみが設けられるので、その面積を小さくすることができる。これにより、SAWセンサ素子31に作用する外力が同じ大きさであっても、薄板部32aが単位面積当たりに受ける応力が大きくなるので、周波数の変動量がより大きくなる。その結果、より高感度なSAWセンサが得られる。
【0046】
また、本発明は、上記各実施例と異なるタイプのSAW素子を第1実施例の検出用SAW共振子5及び基準用SAW共振子7に代えて用いることができる。
【0047】
図7(A)、(B)図は、本発明によるSAWセンサ素子の第3実施例の構成を概略的に示している。第3実施例のSAWセンサ素子41は、第1実施例と同じ圧電基板2を有するが、薄板部3aの検出用SAW共振子5及び厚板部3bの基準用SAW共振子7が、それぞれトランスバーサル型SAWフィルタ42,43で構成されている点において、第1実施例と異なる。検出用SAWフィルタ42は、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極からなる入力側IDT44及び出力側IDT45と、その間に配置された遮蔽電極46とを備える。基準用SAWフィルタ43は、SAWの伝搬方向に沿って各1対の交差指電極からなる入力側IDT47及び出力側IDT48と、その間に配置された遮蔽電極49とを備える。
【0048】
図8(A)、(B)図は、本発明によるSAWセンサ素子の第4実施例の構成を概略的に示している。第4実施例のSAWセンサ素子51は、第1実施例と同じ圧電基板2を有するが、薄板部3aの検出用SAW共振子5及び厚板部3bの基準用SAW共振子7が、それぞれ1ポート型SAW共振子52,53で構成されている点において、第1実施例と異なる。検出用SAW共振子52は、SAWの伝搬方向に沿って1対の交差指電極からなるIDT54とその両側に配置された反射器55,55とを備える。基準用SAW共振子53は、SAWの伝搬方向に沿って1対の交差指電極からなるIDT56とその両側に配置された反射器57,57とを備える。
【0049】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、特許文献4に記載されるような圧力センサにも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(A)図は本発明によるSAWセンサ素子の第1実施例の概略平面図、(B)図はその側面図。
【図2】第1実施例のSAWセンサ素子を用いた本発明によるSAWセンサのブロック図。
【図3】図2のSAWセンサの周波数特性を示す線図。
【図4】(A)図は第1実施例の変形例を示す概略平面図、(B)図はその側面図。
【図5】(A)図は第1実施例の別の変形例を示す概略平面図、(B)図はその側面図。
【図6】(A)図は本発明によるSAWセンサ素子の第2実施例の概略平面図、(B)図はその側面図。
【図7】(A)図は本発明によるSAWセンサ素子の第3実施例の概略平面図、(B)図はその側面図。
【図8】(A)図は本発明によるSAWセンサ素子の第4実施例の概略平面図、(B)図はその側面図。
【符号の説明】
【0051】
1,31,41,51…SAWセンサ素子、2,32…圧電基板、2a,2b,32a,32b…長さ方向端部、3a,33a…薄板部、3b,33b…厚板部、4…支持部、5…検出用SAW共振子、6…第1SAWフィルタ、7…基準用SAW共振子、8…第2SAWフィルタ、9,12,15,18,44,47…入力側IDT、9a,9b,10a,10b,12a,12b,13a,13b,15a,15b,16a,16b,18a,18b,19a,19b…交差指電極、10,13,16,19,45,48…出力側IDT、11,14,17,20,55,57…反射器、21…SAWセンサ、22…第1発振回路、23…第2発振回路、24…周波数混合器、25…周波数検波器、26…矢印、27,28,29…キャパシタ、30…部品、30a…出力、42,43…トランスバーサル型SAWフィルタ、46,49…遮蔽電極、52,53…1ポート型SAW共振子、54,56…IDT。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に沿って薄板部と厚板部とを有する圧電基板と、前記圧電基板の前記薄板部上に形成されて弾性表面波を励振するための検出用IDTと、前記圧電基板の前記厚板部上に形成されて弾性表面波を励振するための基準用IDTと、前記圧電基板上に形成されかつ前記検出用IDTの出力に接続する第1弾性表面波フィルタと、前記圧電基板上に形成されかつ前記基準用IDTの出力に接続する第2弾性表面波フィルタとを備える弾性表面波センサ素子と、
前記弾性表面波センサ素子の前記検出用IDTと前記第1弾性表面波フィルタとの間を接続する第1発振回路と、
前記弾性表面波センサ素子の前記基準用IDTと前記第2弾性表面波フィルタとの間を接続する第2発振回路と、
前記弾性表面波センサ素子の前記第1弾性表面波フィルタ及び前記第2弾性表面波フィルタの各出力に接続した周波数混合器と、
前記周波数混合器に接続した周波数検波器とを備えることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記第1発振回路及び前記第2発振回路の構成部品の全部又は一部が前記弾性表面波センサ素子の前記圧電基板上に形成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記圧電基板をその長さ方向に沿って前記厚板部側の端部を自由端としかつ前記薄板部側の端部を剛固に固定して、前記弾性表面波センサ素子を片持ちに支持したことを特徴とする請求項1又は2記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記周波数混合器と前記周波数検波器との間に接続したバンドパスフィルタを更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
長さ方向に沿って薄板部と厚板部とを有する圧電基板と、前記圧電基板の前記薄板部上に形成されて弾性表面波を励振するための検出用IDTと、前記圧電基板の前記厚板部上に形成されて弾性表面波を励振するための基準用IDTと、前記圧電基板上に形成されかつ前記検出用IDTの出力に接続する第1弾性表面波フィルタと、前記圧電基板上に形成されかつ前記基準用IDTの出力に接続する第2弾性表面波フィルタとを備えることを特徴とする弾性表面波センサ素子。
【請求項6】
前記検出用IDTと前記第1弾性表面波フィルタとの間を接続する第1発振回路の構成部品の全部又は一部と、前記基準用IDTと前記第2弾性表面波フィルタとの間を接続する第2発振回路の構成部品の全部又は一部とを前記圧電基板上に備えることを特徴とする請求項5記載の弾性表面波センサ素子。
【請求項7】
前記第1弾性表面波フィルタ及び前記第2弾性表面波フィルタの出力に接続されるバンドパスフィルタの構成部品の一部を前記圧電基板上に備えることを特徴とする請求項5又は6記載の弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−246572(P2009−246572A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88867(P2008−88867)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】