弾性表面波デバイス
【課題】 SH波型表面波を用いた縦続接続型縦結合二重モードSAWフィルタのスプリアスを改善する手段を得る。
【解決手段】 カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板のZ軸方向に沿って、第1及び第2の2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極ピッチλで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦続接続型縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、第一段のIDT電極の電極周期と、第二段のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせた弾性表面波デバイスを構成する。
【解決手段】 カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板のZ軸方向に沿って、第1及び第2の2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極ピッチλで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦続接続型縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、第一段のIDT電極の電極周期と、第二段のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせた弾性表面波デバイスを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)に関し、特に回転Yカット水晶基板上に励起されるSH波型表面波を用いて構成される多重モードSAWフィルタのスプリアス改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話、LAN等に多く用いられている。STカット水晶基板(結晶軸Xを回転軸としてXZ面(Y面)を結晶軸Zより反時計方向に42.75°回転した水晶基板)上をX軸方向に伝搬するレイリー波((P+SV)波)を用いて構成するSAWデバイスが広く用いられてきた。STカット水晶SAWデバイスの1次温度係数は零であるものの、2次温度係数は約−0.034(ppm/℃2)と比較的大きいので、広温度範囲の使用では周波数変動量が大きくなるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するものとして、Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)や、特公昭62−016050号公報等に開示されたSAWデバイスがある。このSAWデバイスは、図5(a)に示すように回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶軸Zより反時計方向に−50°回転(回転後の基板の軸をそれぞれX、Y’、Z’軸とする)し、X軸に対して垂直な方向(Z'軸方向)に伝搬するSH波を利用して構成したSH波型SAWデバイスである。なお、このカット角をオイラー角で表示すると(0°,θ+90°,90°)=(0°,40°,90°)と表示できる。図5(b)は、回転Yカット水晶基板11の主表面上にZ’軸に沿ってIDT電極12と、その両側にグレーティング反射器13a、13bとを配置して構成したSH波型SAW共振子である。このSAWデバイスは、圧電基板の表面直下を伝搬するSH波型表面波をIDT電極12によって励起し、その振動エネルギーを電極(12、13a、13b)直下に閉じ込めるものである。SH波型SAWデバイスの周波数温度特性は3次曲線を呈し、広温度範囲で良好な周波数温度特性が得られる。
【0004】
しかし、SH波型弾性表面波は本質的に基板内部を潜って進んでいく波であるため、STカット水晶板に励起されるレイリー波のように圧電基板表面に沿って伝搬するSAWデバイスと比較して、グレーティング反射器による弾性表面波の反射効率が悪く、小型で高いQのSH波型SAWデバイスを実現することが難しいという問題があった。
この問題を解決すべく、特公平01−034411号公報では、図6に示すようにカット角θが−50°である回転Yカット水晶基板11上を、Z'軸方向に伝搬するSH波型表面波を用いたSAW共振子が開示されている。IDT電極14を800対±200対とし、グレーティング反射器を用いることなく、IDT電極14の電極指からの反射だけでSH波型表面波の振動エネルギーを閉じ込め、高Q化を図った所謂多対IDT電極型SAW共振子である。
【0005】
しかし、この多対IDT電極型SAW共振子は、グレーティング反射器を用いたレイリー波型SAW共振子と比較してエネルギー閉じ込め効果が小さく、高いQ値を得るにはIDT電極対数が800対±200対と非常に多くの対数を必要とするので、STカット水晶SAW共振子よりも基板が大きくなり、ひいてはデバイスサイズが大きくなって、最近の小型化の要求に応えることができないという問題があった。
【0006】
また、特公平01−034411号公報に開示されているSAW共振子では、IDT電極によって励振されるSH波型表面波の電極周期(波長)をλとしたとき、電極膜厚を2%λ以上、好ましくは4%λ以下とすることによりQ値を高めることができると記されている。例えば周波数を200MHzとした場合、基準化電極膜厚が4%λ付近でQ値が飽和するが、そのときのQ値は20,000程度であり、STカット水晶SAW共振子と比較してもほぼ同等のQ値しか得られてない。この原因として、基準化電極膜厚が2%λ以上、4%λ以下の膜厚ではSH波型表面波が圧電基板表面に十分集まらず十分な反射効率が得られないので、Q値が大きくならないものと考えられる。
【0007】
本願発明者らは先願の特願2004−108608号において上記課題を解決するため、Yカット水晶基板の回転角θを結晶軸Zより反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°の範囲とし、結晶軸Xに対し90°±5°方向に伝搬するSH波型表面波を用い、基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、高Qと良好な2次温度係数とが得られたこと示した。
【0008】
図7は、図5(b)に示したSAW共振子の水晶基板11に−51°回転Yカット90°X伝搬水晶基板を用い、共振周波数を315MHz、IDT電極12の対数を100対、グレーティング反射器13a、13bの本数を各々100本とし、基準化電極膜厚H/λを0.03から0.15まで変化させたときのSAW共振子のQ値を測定した図である。基準化電極膜厚H/λを0.03から大きくするに応じてQ値も急激に増大し、基準化電極膜厚H/λが0.06近辺でQ値は最大値となり、さらに基準化電極膜厚H/λを大きくするとQ値は単調に減少することを示している。つまり、基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、STカット水晶共振子のQ値(=15000)を上回る値が得られることを示した。更に、0.05<H/λ<0.10の範囲に設定することにより20000以上もの高いQ値が得られることが分かる。
また、図8は、図7と同じ定数を用い、SAW共振子の基準化電極膜厚H/λと2次温度係数との関係を示した図である。基準化電極膜厚H/λを高いQ値が得られる0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、STカット水晶共振子の2次温度係数−0.034(ppm/℃2)より良好な2次温度係数が得られることを、図8は示している。
また、特願2004−108608号によると、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−61.4°<θ<−51.4°に設定すれば、周波数温度特性の頂点温度を実用的な0〜70℃の間に設定できることが開示されている。
【0009】
特願2004−108608号に基づいて、1次−2次縦結合二重モードSAWフィルタ(以下、縦DMSフィルタと称す)を2段縦続接続したフィルタを試作した。縦DMSフィルタの構成は、図9の平面図に示すように圧電基板21の主表面上にZ’軸方向に沿って2つのIDT電極22、23を近接して配置し、その両側にグレーティング反射器24a、24bを配設して、これを第1の縦DMSフィルタF1とする。なお、IDT電極22、23はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対の櫛形電極により形成される。第1の縦DMSフィルタF1と同様に、IDT電極22’、23’、グレーティング反射24’a、24’bからなる第2の縦DMSフィルタF2を同一の圧電基板21上に形成し、縦DMSフィルタF1、F2の基板21中央寄りの対向するバスバー同士をリード電極にて接続し、2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成した。
【0010】
図10は、カット角θが−52°の水晶基板上に、図9に示した2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成し、中心周波数を315MHz、IDT電極22、23(22’、23’)の対数をそれぞれ45対、グレーティング反射器24a、24b(24’a、24’b)の本数をそれぞれ110本、交差幅Wを20λ(λは電極周期)、基準化電極膜厚H/λを0.06とした場合のフィルタ特性である。通過域に近接して高域側に横3次−縦2次モードのスプリアスと、横3次−縦1次モードのスプリアス等が生じ、これらが減衰域特性を劣化させている。
【0011】
図11は、交差幅Wを10λとし、その他は図10と同一のパラメータを用いた場合の2段縦続接続型縦DMSフィルタの特性である。交差幅Wを10λと狭めることにより高次モードのスプリアスは抑圧されるものの、IDT電極から圧電基板へのエネルギー漏れは大きく、図12の通過域特性に示すようにフィルタの挿入損失が1dB以上大きくなる。図12で実線は交差幅Wが20λ、破線は10λとしたときのそれぞれのパスバンド特性である。
【特許文献1】特公昭62−016050号公報
【特許文献2】特公平01−034411号公報
【特許文献3】特願2004−108608号
【非特許文献1】Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、基準化膜厚を上記のように適切に設定して、高Qと良好な2次温度係数とが得られ、カット角を適切に設定して、周波数温度特性が呈する2次曲線の頂点温度が実用的な温度に設定できるというものの、縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性例を図10に示したように通過域近傍に高次横モードのスプリアスが生じ、これを低減すべく図11、12に示したように交差幅を狭めると挿入損失が大きくなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る弾性表面波デバイスの第1の発明は、カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板の結晶軸Xの垂直方向(Z’軸方向)に沿って、少なくとも2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極周期λで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、前記フィルタの1段目のIDT電極の電極周期と、2段目のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせて弾性表面波デバイスを構成することを特徴とする。
第2の発明は、前記IDT電極及びグレーティング反射器をAl又はAlを主成分とする合金とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイスである。
第3の発明は、モジュール化したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の弾性表面波デバイスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載のSH波型表面波を用いた多段接続縦DMSフィルタは、それぞれの縦DMSフィルタのIDT電極周期(波長)を互いに異ならせて構成したので、通過域の高域側に発生するスプリアスを抑圧でき、高減衰量の多段接続型縦DMSフィルタが実現できるという利点がある。
本発明の請求項2に記載のSAWデバイスは、コストも安価で容易に入手できるAlあるいはAlを主とする合金を電極に用いることにより、実用性のあるSAWデバイスを構成することができるという利点がある。
本発明の請求項3に記載の発明は、スプリアスの少ないSAWデバイスを用いてモジュールを構成するので、高性能のモジュールが構成できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明に係るSH波型の1次−2次縦結合二重モードSAWフィルタ(縦DMSフィルタ)の実施の形態を示す平面図であって、圧電基板1の主表面上にZ’軸方向に沿って2つのIDT電極2、3を近接して配置し、その両側にグレーティング反射器4a、4bを配設して第1の縦DMSフィルタF1を構成する。なお、IDT電極2、3はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対の櫛形電極により形成される。第1の縦DMSフィルタF1と同様に、IDT電極2’、3’、グレーティング反射4’a、4’bからなる第2の縦DMSフィルタF2を同一の圧電基板1上に形成し、縦DMSフィルタF1、F2の圧電基板1の中央寄りで対向するバスバー同士をリード電極5a、5bにて接続し、2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成する。
【0016】
圧電基板1は回転Yカット水晶基板を用い、カット角θを結晶軸Zより反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とし、結晶軸Xに対し垂直方向(Z’軸方向)に伝搬するSH波を利用する。SAWデバイスが呈する周波数温度特性の頂点温度Tp(℃)を0℃≦Tp≦+70℃の範囲とするには、カット角θを−61.4°<θ<−51.1°に設定する必要がある。また、電極の材料としてはアルミニウム、あるいはアルミニウムを主とする合金を用い、電極周期λで基準化した基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12、好ましくは0.05<H/λ<0.10に設定することによりSTカット水晶SAWデバイスよりQ値が高いSAWデバイスが得られる。
【0017】
本発明の特徴は図1に示すように、第1の縦DMSフィルタF1のIDT電極2、3の電極周期(波長)λ1と、第2の縦DMSフィルタF2のIDT電極2’、3’の電極周期(波長)λ2とを互いに異ならせたところである。このように、縦続接続するそれぞれの縦DMSフィルタの電極周期を僅かに異ならせることにより、高次モードによるスプリアスの発生する周波数が異なり、縦続接続することによりスプリアスを抑制することが期待できる。
【0018】
図2は水晶基板のカット角θを−52°とし、図1に示した電極パターンを用いて、中心周波数を315MHz、IDT電極2、3(2’、3’)の対数をそれぞれ45対、グレーティング反射器4a、4b(4’a、4’b)の本数をそれぞれ110本、交差幅を20λ(λは波長)、基準化電極膜厚H/λ0(ここでλ0=(λ1+λ2)/2)を0.06、第1の縦DMSフィルタF1の電極周期(波長)λ1を10.3092μm、第2の縦DMSフィルタF2の電極周期(波長)λ2を10.3125μmとした場合の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性である。図10に示す従来のIDT電極の電極周期(波長)を同一とした2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と比較し、高次横モードによるスプリアスが大幅に改善されることが分かった。図3は、本発明の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と、従来のそれとを比較するために、図2と図10とを重ね書きしたもので、実線が本発明のフィルタ、破線は従来のフィルタである。
【0019】
図4は、本発明の2段縦続接続型縦DMSフィルタの通過域特性と、従来のそれとを比較するために重ね書きしたもので、実線が本発明のフィルタ、破線は従来のフィルタである。帯域幅は若干狭まるものの挿入損失はほぼ同等の値となることが分かる。
【0020】
以上では1次−2次縦モードを利用した2段縦続接続型縦DMSフィルタについて説明したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、1次−3次縦モードを利用した2段縦続接続型二重モードSAWフィルタ、縦多重モードを利用した多段縦続接続型縦多重モードSAWフィルタにも適用できることは説明するまでもない。
また、SH型表面波を用いた1次−2次縦DMSフィルタを縦続接続した場合を説明したが、1次−2次縦DMSフィルタや、1次−3次二重モードSAWフィルタあるいは多重モードフィルタを並列接続した並列接続型縦多重モードSAWフィルタにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタの構成を示す概略平面図である。
【図2】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図3】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と、従来のフィルタのそれとを重ね書きした図である。
【図4】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタの通過域特性と、従来のフィルタのそれとを重ね書きした図である。
【図5】(a)はSH波型表面波を励起する切断角度、(b)はSH波型SAW共振子の電極パターンを示す平面図である。
【図6】多対IDT電極型SAW共振子の構成を示す平面図である。
【図7】SH波型SAW共振子の基準化電極膜厚H/λとQ値との関係を示す図である。
【図8】SH波型SAW共振子の基準化電極膜厚H/λと二次温度係数との関係を示す図である。
【図9】従来の2段縦続接続型縦DMSフィルタの構成を示す平面図である。
【図10】従来の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である(交差幅が20λ)。
【図11】交差幅を10λとしたときの2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図12】交差幅を10λ、20λとしたときの2段縦続接続型縦DMSフィルタのそれぞれの通過域特性を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 圧電基板
2、3、2’、3’ IDT電極
4a、4b、4’a、4’b グレーティング反射器
5a、5b リード電極
λ1、λ2 電極周期(波長)
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)に関し、特に回転Yカット水晶基板上に励起されるSH波型表面波を用いて構成される多重モードSAWフィルタのスプリアス改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話、LAN等に多く用いられている。STカット水晶基板(結晶軸Xを回転軸としてXZ面(Y面)を結晶軸Zより反時計方向に42.75°回転した水晶基板)上をX軸方向に伝搬するレイリー波((P+SV)波)を用いて構成するSAWデバイスが広く用いられてきた。STカット水晶SAWデバイスの1次温度係数は零であるものの、2次温度係数は約−0.034(ppm/℃2)と比較的大きいので、広温度範囲の使用では周波数変動量が大きくなるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するものとして、Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)や、特公昭62−016050号公報等に開示されたSAWデバイスがある。このSAWデバイスは、図5(a)に示すように回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶軸Zより反時計方向に−50°回転(回転後の基板の軸をそれぞれX、Y’、Z’軸とする)し、X軸に対して垂直な方向(Z'軸方向)に伝搬するSH波を利用して構成したSH波型SAWデバイスである。なお、このカット角をオイラー角で表示すると(0°,θ+90°,90°)=(0°,40°,90°)と表示できる。図5(b)は、回転Yカット水晶基板11の主表面上にZ’軸に沿ってIDT電極12と、その両側にグレーティング反射器13a、13bとを配置して構成したSH波型SAW共振子である。このSAWデバイスは、圧電基板の表面直下を伝搬するSH波型表面波をIDT電極12によって励起し、その振動エネルギーを電極(12、13a、13b)直下に閉じ込めるものである。SH波型SAWデバイスの周波数温度特性は3次曲線を呈し、広温度範囲で良好な周波数温度特性が得られる。
【0004】
しかし、SH波型弾性表面波は本質的に基板内部を潜って進んでいく波であるため、STカット水晶板に励起されるレイリー波のように圧電基板表面に沿って伝搬するSAWデバイスと比較して、グレーティング反射器による弾性表面波の反射効率が悪く、小型で高いQのSH波型SAWデバイスを実現することが難しいという問題があった。
この問題を解決すべく、特公平01−034411号公報では、図6に示すようにカット角θが−50°である回転Yカット水晶基板11上を、Z'軸方向に伝搬するSH波型表面波を用いたSAW共振子が開示されている。IDT電極14を800対±200対とし、グレーティング反射器を用いることなく、IDT電極14の電極指からの反射だけでSH波型表面波の振動エネルギーを閉じ込め、高Q化を図った所謂多対IDT電極型SAW共振子である。
【0005】
しかし、この多対IDT電極型SAW共振子は、グレーティング反射器を用いたレイリー波型SAW共振子と比較してエネルギー閉じ込め効果が小さく、高いQ値を得るにはIDT電極対数が800対±200対と非常に多くの対数を必要とするので、STカット水晶SAW共振子よりも基板が大きくなり、ひいてはデバイスサイズが大きくなって、最近の小型化の要求に応えることができないという問題があった。
【0006】
また、特公平01−034411号公報に開示されているSAW共振子では、IDT電極によって励振されるSH波型表面波の電極周期(波長)をλとしたとき、電極膜厚を2%λ以上、好ましくは4%λ以下とすることによりQ値を高めることができると記されている。例えば周波数を200MHzとした場合、基準化電極膜厚が4%λ付近でQ値が飽和するが、そのときのQ値は20,000程度であり、STカット水晶SAW共振子と比較してもほぼ同等のQ値しか得られてない。この原因として、基準化電極膜厚が2%λ以上、4%λ以下の膜厚ではSH波型表面波が圧電基板表面に十分集まらず十分な反射効率が得られないので、Q値が大きくならないものと考えられる。
【0007】
本願発明者らは先願の特願2004−108608号において上記課題を解決するため、Yカット水晶基板の回転角θを結晶軸Zより反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°の範囲とし、結晶軸Xに対し90°±5°方向に伝搬するSH波型表面波を用い、基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、高Qと良好な2次温度係数とが得られたこと示した。
【0008】
図7は、図5(b)に示したSAW共振子の水晶基板11に−51°回転Yカット90°X伝搬水晶基板を用い、共振周波数を315MHz、IDT電極12の対数を100対、グレーティング反射器13a、13bの本数を各々100本とし、基準化電極膜厚H/λを0.03から0.15まで変化させたときのSAW共振子のQ値を測定した図である。基準化電極膜厚H/λを0.03から大きくするに応じてQ値も急激に増大し、基準化電極膜厚H/λが0.06近辺でQ値は最大値となり、さらに基準化電極膜厚H/λを大きくするとQ値は単調に減少することを示している。つまり、基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、STカット水晶共振子のQ値(=15000)を上回る値が得られることを示した。更に、0.05<H/λ<0.10の範囲に設定することにより20000以上もの高いQ値が得られることが分かる。
また、図8は、図7と同じ定数を用い、SAW共振子の基準化電極膜厚H/λと2次温度係数との関係を示した図である。基準化電極膜厚H/λを高いQ値が得られる0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することにより、STカット水晶共振子の2次温度係数−0.034(ppm/℃2)より良好な2次温度係数が得られることを、図8は示している。
また、特願2004−108608号によると、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−61.4°<θ<−51.4°に設定すれば、周波数温度特性の頂点温度を実用的な0〜70℃の間に設定できることが開示されている。
【0009】
特願2004−108608号に基づいて、1次−2次縦結合二重モードSAWフィルタ(以下、縦DMSフィルタと称す)を2段縦続接続したフィルタを試作した。縦DMSフィルタの構成は、図9の平面図に示すように圧電基板21の主表面上にZ’軸方向に沿って2つのIDT電極22、23を近接して配置し、その両側にグレーティング反射器24a、24bを配設して、これを第1の縦DMSフィルタF1とする。なお、IDT電極22、23はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対の櫛形電極により形成される。第1の縦DMSフィルタF1と同様に、IDT電極22’、23’、グレーティング反射24’a、24’bからなる第2の縦DMSフィルタF2を同一の圧電基板21上に形成し、縦DMSフィルタF1、F2の基板21中央寄りの対向するバスバー同士をリード電極にて接続し、2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成した。
【0010】
図10は、カット角θが−52°の水晶基板上に、図9に示した2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成し、中心周波数を315MHz、IDT電極22、23(22’、23’)の対数をそれぞれ45対、グレーティング反射器24a、24b(24’a、24’b)の本数をそれぞれ110本、交差幅Wを20λ(λは電極周期)、基準化電極膜厚H/λを0.06とした場合のフィルタ特性である。通過域に近接して高域側に横3次−縦2次モードのスプリアスと、横3次−縦1次モードのスプリアス等が生じ、これらが減衰域特性を劣化させている。
【0011】
図11は、交差幅Wを10λとし、その他は図10と同一のパラメータを用いた場合の2段縦続接続型縦DMSフィルタの特性である。交差幅Wを10λと狭めることにより高次モードのスプリアスは抑圧されるものの、IDT電極から圧電基板へのエネルギー漏れは大きく、図12の通過域特性に示すようにフィルタの挿入損失が1dB以上大きくなる。図12で実線は交差幅Wが20λ、破線は10λとしたときのそれぞれのパスバンド特性である。
【特許文献1】特公昭62−016050号公報
【特許文献2】特公平01−034411号公報
【特許文献3】特願2004−108608号
【非特許文献1】Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、基準化膜厚を上記のように適切に設定して、高Qと良好な2次温度係数とが得られ、カット角を適切に設定して、周波数温度特性が呈する2次曲線の頂点温度が実用的な温度に設定できるというものの、縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性例を図10に示したように通過域近傍に高次横モードのスプリアスが生じ、これを低減すべく図11、12に示したように交差幅を狭めると挿入損失が大きくなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る弾性表面波デバイスの第1の発明は、カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板の結晶軸Xの垂直方向(Z’軸方向)に沿って、少なくとも2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極周期λで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、前記フィルタの1段目のIDT電極の電極周期と、2段目のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせて弾性表面波デバイスを構成することを特徴とする。
第2の発明は、前記IDT電極及びグレーティング反射器をAl又はAlを主成分とする合金とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイスである。
第3の発明は、モジュール化したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の弾性表面波デバイスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載のSH波型表面波を用いた多段接続縦DMSフィルタは、それぞれの縦DMSフィルタのIDT電極周期(波長)を互いに異ならせて構成したので、通過域の高域側に発生するスプリアスを抑圧でき、高減衰量の多段接続型縦DMSフィルタが実現できるという利点がある。
本発明の請求項2に記載のSAWデバイスは、コストも安価で容易に入手できるAlあるいはAlを主とする合金を電極に用いることにより、実用性のあるSAWデバイスを構成することができるという利点がある。
本発明の請求項3に記載の発明は、スプリアスの少ないSAWデバイスを用いてモジュールを構成するので、高性能のモジュールが構成できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明に係るSH波型の1次−2次縦結合二重モードSAWフィルタ(縦DMSフィルタ)の実施の形態を示す平面図であって、圧電基板1の主表面上にZ’軸方向に沿って2つのIDT電極2、3を近接して配置し、その両側にグレーティング反射器4a、4bを配設して第1の縦DMSフィルタF1を構成する。なお、IDT電極2、3はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対の櫛形電極により形成される。第1の縦DMSフィルタF1と同様に、IDT電極2’、3’、グレーティング反射4’a、4’bからなる第2の縦DMSフィルタF2を同一の圧電基板1上に形成し、縦DMSフィルタF1、F2の圧電基板1の中央寄りで対向するバスバー同士をリード電極5a、5bにて接続し、2段縦続接続型縦DMSフィルタを構成する。
【0016】
圧電基板1は回転Yカット水晶基板を用い、カット角θを結晶軸Zより反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とし、結晶軸Xに対し垂直方向(Z’軸方向)に伝搬するSH波を利用する。SAWデバイスが呈する周波数温度特性の頂点温度Tp(℃)を0℃≦Tp≦+70℃の範囲とするには、カット角θを−61.4°<θ<−51.1°に設定する必要がある。また、電極の材料としてはアルミニウム、あるいはアルミニウムを主とする合金を用い、電極周期λで基準化した基準化電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12、好ましくは0.05<H/λ<0.10に設定することによりSTカット水晶SAWデバイスよりQ値が高いSAWデバイスが得られる。
【0017】
本発明の特徴は図1に示すように、第1の縦DMSフィルタF1のIDT電極2、3の電極周期(波長)λ1と、第2の縦DMSフィルタF2のIDT電極2’、3’の電極周期(波長)λ2とを互いに異ならせたところである。このように、縦続接続するそれぞれの縦DMSフィルタの電極周期を僅かに異ならせることにより、高次モードによるスプリアスの発生する周波数が異なり、縦続接続することによりスプリアスを抑制することが期待できる。
【0018】
図2は水晶基板のカット角θを−52°とし、図1に示した電極パターンを用いて、中心周波数を315MHz、IDT電極2、3(2’、3’)の対数をそれぞれ45対、グレーティング反射器4a、4b(4’a、4’b)の本数をそれぞれ110本、交差幅を20λ(λは波長)、基準化電極膜厚H/λ0(ここでλ0=(λ1+λ2)/2)を0.06、第1の縦DMSフィルタF1の電極周期(波長)λ1を10.3092μm、第2の縦DMSフィルタF2の電極周期(波長)λ2を10.3125μmとした場合の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性である。図10に示す従来のIDT電極の電極周期(波長)を同一とした2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と比較し、高次横モードによるスプリアスが大幅に改善されることが分かった。図3は、本発明の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と、従来のそれとを比較するために、図2と図10とを重ね書きしたもので、実線が本発明のフィルタ、破線は従来のフィルタである。
【0019】
図4は、本発明の2段縦続接続型縦DMSフィルタの通過域特性と、従来のそれとを比較するために重ね書きしたもので、実線が本発明のフィルタ、破線は従来のフィルタである。帯域幅は若干狭まるものの挿入損失はほぼ同等の値となることが分かる。
【0020】
以上では1次−2次縦モードを利用した2段縦続接続型縦DMSフィルタについて説明したが、本発明はこれのみに限定するものではなく、1次−3次縦モードを利用した2段縦続接続型二重モードSAWフィルタ、縦多重モードを利用した多段縦続接続型縦多重モードSAWフィルタにも適用できることは説明するまでもない。
また、SH型表面波を用いた1次−2次縦DMSフィルタを縦続接続した場合を説明したが、1次−2次縦DMSフィルタや、1次−3次二重モードSAWフィルタあるいは多重モードフィルタを並列接続した並列接続型縦多重モードSAWフィルタにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタの構成を示す概略平面図である。
【図2】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図3】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性と、従来のフィルタのそれとを重ね書きした図である。
【図4】本発明に係る2段縦続接続型縦DMSフィルタの通過域特性と、従来のフィルタのそれとを重ね書きした図である。
【図5】(a)はSH波型表面波を励起する切断角度、(b)はSH波型SAW共振子の電極パターンを示す平面図である。
【図6】多対IDT電極型SAW共振子の構成を示す平面図である。
【図7】SH波型SAW共振子の基準化電極膜厚H/λとQ値との関係を示す図である。
【図8】SH波型SAW共振子の基準化電極膜厚H/λと二次温度係数との関係を示す図である。
【図9】従来の2段縦続接続型縦DMSフィルタの構成を示す平面図である。
【図10】従来の2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である(交差幅が20λ)。
【図11】交差幅を10λとしたときの2段縦続接続型縦DMSフィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図12】交差幅を10λ、20λとしたときの2段縦続接続型縦DMSフィルタのそれぞれの通過域特性を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 圧電基板
2、3、2’、3’ IDT電極
4a、4b、4’a、4’b グレーティング反射器
5a、5b リード電極
λ1、λ2 電極周期(波長)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板の結晶軸Xの垂直方向(Z’軸方向)に沿って、少なくとも2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極周期λで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、前記フィルタの1段目のIDT電極の電極周期と、2段目のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記IDT電極及びグレーティング反射器をAl又はAlを主成分とする合金とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
モジュール化したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項1】
カット角θをZ軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°とした回転Yカット水晶基板の結晶軸Xの垂直方向(Z’軸方向)に沿って、少なくとも2つのIDT電極を近接配置すると共に、その両側にグレーティング反射器を配設し、該電極の膜厚Hを前記IDT電極の電極周期λで基準化して0.04<H/λ<0.12とした縦結合二重モードSAWフィルタを2段縦続接続した縦結合二重モードSAWフィルタにおいて、前記フィルタの1段目のIDT電極の電極周期と、2段目のIDT電極の電極周期とを互いに異ならせたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記IDT電極及びグレーティング反射器をAl又はAlを主成分とする合金とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
モジュール化したことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の弾性表面波デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−13681(P2007−13681A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192661(P2005−192661)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
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