説明

弾性表面波デバイス

【課題】SAWデバイスの圧電基板上に設けたヒータ電極による熱応力の影響を解消して周波数安定性を向上させる。
【解決手段】
圧電基板2,12上にIDT3,13及び反射器4,14を備えるSAW共振子1,11において、圧電基板の弾性表面波伝搬方向の長さL及び厚さTを、ヒータ電極5を圧電基板の主面に形成したときは、T/Lが0.065以下となるように、ヒータ電極15を圧電基板の裏面に形成したときは、T/Lが0.129以上となるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上に弾性表面波(SAW)を励振するIDT(すだれ状トランスデューサ)とその両側に配置した反射器とを形成した弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SAWデバイスは、携帯電話等の情報通信機器、その他様々な電子機器に広く使用されている。特に通信機器等の分野では、優れた周波数温度特性を発揮するSAWデバイスが要求されている。そこで、環境温度の変化による周波数の変動を抑制するために、圧電基板の主面又は裏面にヒータ用の抵抗体を形成し、該抵抗体に印加する電流を調整して圧電基板の温度を調整可能にしたSAW素子が提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。この抵抗体は、圧電基板上の電極パターンと同様に、圧電基板上に成膜した電極材料の薄膜をエッチングすることにより形成される。
【0003】
更に、環境温度によらずに圧電基板の温度を一定に維持するために、圧電基板の温度を測定するための抵抗体を圧電基板上に設けたSAW素子が提案されている(例えば、特許文献2,3を参照)。この抵抗体に微量の定電流を印加し、その両端で測定した電圧に応じた電流をヒータ用の抵抗体に印加することにより、圧電基板の温度を一定にフィードバック制御することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−218794号公報
【特許文献2】特開平1−261013号公報
【特許文献3】実開平4−132738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなヒータ付きのSAWデバイスは実用化されていないのが現状である。その理由は、圧電基板を該基板上に設けた抵抗体からなるヒータ電極で直接加熱したとき、ヒータ電極付近とそれ以外の部分との間で基板内部に温度分布が生じ、その不均一な熱応力により基板自体が変形し、その内部応力が周波数を変動させるためと考えられる。
【0006】
SAWデバイスをヒータ電極で加熱しない場合に、その周波数温度特性が、図5に示すように例えば65°の使用温度を頂点温度とする2次曲線を示すと仮定する。この場合、圧電基板の温度を65°±10°に制御すれば、その周波数を数ppm程度の変動範囲に安定させることができる。しかしながら、SAWデバイスの周波数変動量は、図6に示すように、圧電基板の温度を環境温度よりも上昇させたとき、温度上昇幅Δtに関して直線状に変化することを本願出願人は見出した。これは、温度上昇により圧電基板内部に生じた熱応力の影響であると考えられる。
【0007】
このため、例えば環境温度が25°の状態から65°まで圧電基板の温度を上昇させたとき、SAWデバイスの周波数温度特性は、図7に実線で示すようになる。即ち、図5の2次曲線から図6の変動量を、25°の位置で交差させて差し引いた周波数温度特性となる。その結果、温度変化に対する周波数変動量が大きくなり、周波数を安定させることが困難になるという問題が生じる。
【0008】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電基板上にその温度を調整するためのヒータ電極を設けたSAWデバイスにおいて、ヒータ電極の発熱による熱応力の影響を解消して、環境温度によらず、周波数安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、SAWデバイスにおいて、圧電基板上にヒータ電極を設けてその温度を調整したときに、圧電基板の温度分布や熱応力がどのように発生するかを検討した。その結果、後述するように、圧電基板の寸法を制御することによって、熱応力による周波数変動を抑制し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0010】
本発明によれば、上記目的を達成するために、例えば水晶基板からなる圧電基板と、圧電基板の主面に形成したIDTと、その両側に配置した反射器と、圧電基板主面に形成したヒータ電極とを備え、圧電基板のSAW伝搬方向の長さL及び厚さTを、T/Lが0.065以下となるように設定したSAWデバイスが提供される。
【0011】
IDTを形成した圧電基板の主面にヒータ電極を形成した場合、圧電基板は、その厚さTをSAW伝搬方向の長さLに関して相対的に薄くすることによって、より自由に変形可能になるので、圧電基板の内部応力が緩和される。従って、ヒータ電極で圧電基板の温度を調整した場合に、環境温度によらず、SAWデバイスの周波数安定性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明によれば、同様に水晶基板等からなる圧電基板と、圧電基板の主面に形成したIDTと、その両側に配置した反射器と、圧電基板の裏面に形成したヒータ電極とを備え、圧電基板のSAW伝搬方向の長さL及び厚さTを、T/Lが0.129以上となるように設定したSAWデバイスが提供される。
【0013】
IDTを形成した圧電基板の裏面にヒータ電極を形成した場合、圧電基板は、その厚さTをSAW伝搬方向の長さLに関して相対的に厚くすることによって、圧電基板主面の熱分布をより均一にすることができ、圧電基板主面の内部応力が低下する。従って、ヒータ電極で圧電基板の温度を調整した場合に、環境温度によらず、SAWデバイスの周波数安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1(A)(B)は、本発明を適用したSAWデバイスの第1実施例を示している。本実施例のSAWデバイス1は、水晶からなる矩形平板の圧電基板2を有する。圧電基板2の主面には、その略中央に交差指電極対からなるSAW励振用のIDT3が形成されている。IDT3のSAW伝搬方向の両側には、それぞれ反射器4,4が配置されている。更に、圧電基板2主面のSAW伝搬方向に沿う各辺とIDT3との間には、それぞれヒータ電極5,5が形成されている。ヒータ電極5,5は、比較的細幅の配線からなり、前記IDT及び反射器の電極形成と同時に、フォトエッチングによりパターン形成される。
【0015】
室温でヒータ電極5,5に電流を印加して圧電基板2を所定の使用温度に調整し、該圧電基板のSAW伝搬方向の長さLを一定として、その厚みTに対する圧電基板の内部応力を解析した。本実施例では、圧電基板2のSAW伝搬方向長さLを2.32mmとした。その結果を図2(A)に示す。同図から、厚さTが薄い範囲では、内部応力が比較的小さい値に略一定であるが、厚さTが厚くなるに連れて、内部応力が漸次大きくなることが分かった。
【0016】
そこで、同じ条件で圧電基板2の温度を調整し、圧電基板の厚さとSAW伝搬方向長さとの比T/Lに対する圧電基板の内部応力を解析した。その結果を図2(B)に示す。同図から、厚さ対長さ比T/Lが小さい範囲では、内部応力が比較的小さい値に略一定であるが、厚さ対長さ比T/Lが大きくなるに連れて、内部応力が漸次大きくなることが分かった。従って、図2(B)から、厚さ対長さ比T/Lを0.0129以上かつ0.065以下に設定することにより、圧電基板2の厚さ又はSAW伝搬方向長さに制限されることなく、常に圧電基板の内部応力を緩和して、環境温度によらず、周波数を安定させることができる。
【0017】
図3(A)(B)は、本発明を適用したSAWデバイスの第2実施例を示している。本実施例のSAWデバイス11は、第1実施例と同様に、水晶からなる矩形平板の圧電基板12を有する。圧電基板12の主面には、その略中央に交差指電極対からなるSAW励振用のIDT13が形成されている。IDT13のSAW伝搬方向の両側には、それぞれ反射器14,14が配置されている。更に、圧電基板12の裏面には、IDT13の位置に対応する略中央にヒータ電極15が形成されている。ヒータ電極15は、比較的細幅の配線からなり、前記IDT及び反射器の電極形成と同様に、フォトエッチングによりパターン形成される。
【0018】
室温でヒータ電極15に電流を印加して圧電基板12を所定の使用温度に調整し、該圧電基板のSAW伝搬方向の長さLを一定として、その厚みTに対する圧電基板の内部応力を解析した。本実施例においても、圧電基板12のSAW伝搬方向長さLを2.32mmとした。その結果を図4(A)に示す。同図から、厚さTが厚い範囲では、内部応力が比較的小さい値に略一定であるが、厚さTが薄くなるに連れて、内部応力が急激に大きくなることが分かった。
【0019】
そこで、同じ条件で圧電基板12の温度を調整し、圧電基板の厚さとSAW伝搬方向長さとの比T/Lに対する圧電基板の内部応力を解析した。その結果を図4(B)に示す。同図から、厚さ対長さ比T/Lが大きい範囲では、内部応力が比較的小さい値に略一定であるが、厚さ対長さ比T/Lが小さくなるに連れて、内部応力が急激に大きくなることが分かった。従って、図4(B)から、厚さ対長さ比T/Lを0.129以上に設定することにより、圧電基板12の厚さ又はSAW伝搬方向長さに制限されることなく、常に圧電基板の内部応力を緩和して、環境温度によらず、周波数を安定させることができる。
【0020】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、ヒータ電極は、圧電基板上の上記実施例以外の様々な位置に、様々な異なるパターンで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)図は本発明によるSAWデバイスの第1実施例を示す平面図、(B)図はその側面図。
【図2】(A)図は、図1のSAWデバイスにおいて、圧電基板の厚さTに関する内部応力の大きさを示す線図、(B)図は、圧電基板のSAW伝搬方向の厚さTと長さLとの比に関する内部応力の大きさを示す線図。
【図3】(A)図は本発明によるSAWデバイスの第2実施例を示す平面図、(B)図はその底面図、(C)図はその側面図。
【図4】(A)図は、図2のSAWデバイスにおいて、圧電基板の厚さTに関する内部応力の大きさを示す線図、(B)図は、圧電基板のSAW伝搬方向の厚さTと長さLとの比に関する内部応力の大きさを示す線図。
【図5】ヒータ電極で加熱しない場合のSAWデバイスの周波数温度特性を示す線図。
【図6】ヒータ電極で加熱した場合のSAWデバイスの温度上昇に対する周波数変動量を示す線図。
【図7】ヒータ電極で加熱した場合のSAWデバイスの周波数温度特性を示す線図。
【符号の説明】
【0022】
1,11…SAWデバイス、2,12…圧電基板、3、13…IDT、4、14…反射器、
5,15…ヒータ電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板の主面に形成したIDTと、前記IDTの両側に配置した反射器と、前記圧電基板主面に形成したヒータ電極とを備え、
前記圧電基板の弾性表面波伝搬方向の長さL及び厚さTを、T/Lが0.065以下となるように設定したことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
圧電基板と、前記圧電基板の主面に形成したIDTと、前記IDTの両側に配置した反射器と、前記圧電基板裏面に形成したヒータ電極とを備え、
前記圧電基板の弾性表面波伝搬方向の長さL及び厚さTを、T/Lが0.129以上となるように設定したことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記圧電基板が水晶基板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−94983(P2009−94983A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266384(P2007−266384)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】