弾性表面波共振子
【課題】弾性表面波共振子の素子基板の切断位置、端面形状によって共振周波数が左右されず、小型化された弾性表面波共振子を提供する。
【解決手段】水晶基板10上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子1において、水晶基板10にSH波の位相伝搬方向X’に略直交して極性の異なる電極指12a,12bが交互に配置されたIDT12が形成されたIDT形成領域13と、水晶基板10に、SH波の位相伝搬方向X’におけるIDT形成領域13の両側に電極指12a,12bの交差幅以上の幅寸法で、SH波の位相伝搬方向X’に長さ寸法を有する付加膜14が形成された付加膜形成領域15とを備え、付加膜形成領域15の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下である。
【解決手段】水晶基板10上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子1において、水晶基板10にSH波の位相伝搬方向X’に略直交して極性の異なる電極指12a,12bが交互に配置されたIDT12が形成されたIDT形成領域13と、水晶基板10に、SH波の位相伝搬方向X’におけるIDT形成領域13の両側に電極指12a,12bの交差幅以上の幅寸法で、SH波の位相伝搬方向X’に長さ寸法を有する付加膜14が形成された付加膜形成領域15とを備え、付加膜形成領域15の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ閉じ込め型の弾性表面波共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波フィルタ、弾性表面波共振子などの弾性表面波デバイスが広く電子機器に利用されている。
弾性表面波デバイスの一般的な形態は、圧電基板に、例えばアルミニウム膜からなる多数の平行導体(電極指)を周期的に配置したすだれ状電極を形成し、さらにその両側に一対の反射器をストリップ形状からなる金属導体を平行にかつ周期的に配置して構成している。反射器はすだれ状電極から伝搬する表面波を反射させるために多数の金属導体を配置しなくてはならず、総じて表面波の伝搬方向に長い素子を形成している。
これに対して特許文献1には、SH波を利用する弾性表面波デバイスとして反射器を設けず、SH波が伝搬する方向において対向する素子基板の両端面で、SH波を反射させる小型化に対応した弾性表面波デバイスが開示されている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5953433号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示した弾性表面波デバイスでは、素子基板の両端面でSH波を反射していることから、伝搬した波のどの位置で端面に到達して反射するかによって弾性表面波デバイスの共振周波数が変化する。図13は素子基板の端部切断位置と共振周波数の変化量df/fとの関係を示すグラフである。このグラフでは、端部切断位置(端面反射位置)を端面で反射される波の1波長の中における位置として示している。図13では312MHzの弾性表面波共振子の場合を示し、例えば、0.1λの位置で端面反射した場合と1λの位置で端面反射した場合では、およそ4000ppmの周波数差が生じることになる。また、切断面のチッピングなどの欠陥においても弾性表面波デバイスの共振周波数に影響を与えることが知られている。
以上のように特許文献1の弾性表面波デバイスでは、素子基板の切断において、端面の切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥のない端面形状が必要とされ、精度の高い端面加工技術が必要である。このため、製造負荷が大きく歩留まりが低いという課題がある。
また、特に周波数精度の必要な弾性表面波共振子には、さらに精度の高い素子基板の端面加工が求められ、上記の端面反射を利用した弾性表面波共振子の製作が困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]圧電体平板上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子であって、前記圧電体平板上に前記SH波の位相伝搬方向に略直交して極性の異なる電極指が交互に配置されたすだれ状電極が少なくとも1つ形成されたIDT形成領域と、前記圧電体平板上に、前記SH波の位相伝搬方向における前記IDT形成領域の両側に前記電極指の交差幅以上の幅寸法で、前記SH波の位相伝搬方向に長さ寸法を有する付加膜が形成された付加膜形成領域と、を備え、前記付加膜形成領域の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【0007】
この構成によれば、付加膜形成領域において、IDT形成領域から伝搬した弾性表面波が伝搬方向に減衰する、いわゆるエネルギ閉じ込め現象を利用して、弾性表面波の反射効果を実現することができる。本適用例によれば素子基板の端面で弾性表面波の反射が行われないため、素子基板の端面における切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥が弾性表面波共振子の共振周波数に影響を与えることがない。よって、素子基板の端面加工(切断)において、精度の高い加工を必要とせず、製造工数の低減、製造歩留まりの向上を果たすことができる。
【0008】
[適用例2]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で形成され、前記付加膜の厚みHaと、前記SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲である弾性表面波共振子。
【0009】
この構成によれば、付加膜がアルミニウム膜で形成され、付加膜の厚みHaと、SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であれば、付加膜形成領域に伝搬した弾性表面波を効率的に減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。
【0010】
[適用例3]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成され、前記付加膜における前記SH波の位相伝搬方向の長さ寸法が、励振される前記SH波の2波長以上の寸法である弾性表面波共振子。
【0011】
この構成によれば、すだれ状電極および付加膜がアルミニウム膜にて同じ膜厚に形成された場合、付加膜の長さ寸法が励振されるSH波の2波長以上であれば、付加膜形成領域に伝搬した弾性表面波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。そして、従来、多数の金属導体を配列して形成した反射器に比べて付加膜形成領域は小さくなり、弾性表面波共振子の小型化を可能にする。
【0012】
[適用例4]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極はM対の電極指からなり、前記電極指の前記SH波の位相伝搬方向の幅寸法をLTとし、電極指の存在しない領域の前記SH波の位相伝搬方向の寸法をSTとして、前記配列周期長であるPT=LT+STであり、前記すだれ状電極が有する電極指の対数Mが20以上120以下の範囲であり、LT/PTは0.4以上0.6以下の範囲であり、前記すだれ状電極の膜厚Hbと前記弾性表面波の波長λとの比Hb/λが0.05以上0.06以下の範囲である弾性表面波共振子。
【0013】
この構成によれば、弾性表面波共振子のQ値を良好に維持した上で、電極指1本が有する反射係数を大きくでき、結果としてすだれ状電極の電極指の対数Mを少なくすることが可能である。さらに、Q値が高い構成をとっているので、すだれ状電極のみで共振周波数が決定され、良好な周波数精度を得ることができる。このことから、小型で周波数精度が高い弾性表面波共振子が提供できる。
また、弾性表面波共振子の等価直列共振抵抗値R1を30Ω以下に設定することができ、この弾性表面波共振子を発振回路に組み込んだ際に、低消費電力にて弾性表面波共振子を発振させることが可能である。
【0014】
[適用例5]上記弾性表面波共振子であって、前記付加膜がアルミニウム、タングステン、銅、金、銀、から選択される材料で形成されている弾性表面波共振子。
【0015】
付加膜としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料を選択することができることから、付加膜の形成が容易で、また付加膜の設計における自由度が増す。
【0016】
[適用例6]上記弾性表面波共振子であって、前記圧電体平板が水晶単結晶からなり、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲で回転し、つぎに電気軸であるX軸の回りに反時計方向にθが29.2°以上40.7°以下の範囲で回転した圧電体平板であって、前記X軸と新たに生成されたZ’軸とで構成される面を主面とする水晶基板において、前記Z’軸の回りに反時計方向に回転して、ψが90°±2°の範囲である方向が前記弾性表面波の位相伝搬方位である弾性表面波共振子。
【0017】
この構成によれば、周波数温度特性に優れたオイラー角表示で(0°±1°,29.2°≦θ≦40.7°,90°±2°)の水晶基板(SHカット基板)を使用することにより、高精度な弾性表面波共振子が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、弾性表面波共振子の実施形態について図面に従って説明する。
(実施形態)
【0019】
図1は本実施形態の弾性表面波共振子の構成を示し、図1(a)は平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う断面図である。
弾性表面波共振子(以下、SAW共振子と呼ぶこともある)1は、圧電体平板としての水晶基板10表面にすだれ状電極(以下、IDT(Interdigital Transducer)と呼ぶこともある)12が形成されたIDT形成領域13と、その両側に設けられ付加膜14が形成された付加膜形成領域15とを備えている。
IDT12は正極側の電極指12aと負極側の電極指12bとが交互に間挿されて構成されている。そして、この電極指12aと電極指12bの極性は時間と共に交互に逆相となるように構成されている。この1つの電極指12aと、隣接する1つの電極指12bとで1対の電極指と呼ぶ。そして、この1対の電極指の数を対数と呼び、本実施形態では20〜120対の範囲で電極指が形成されている。なお、IDT12の電極指12a,12bはSH波の位相伝搬方向X’に対して、ほぼ直交して形成されている。
そして、付加膜14はSH波の位相伝搬方向X’に、IDT12の両側に設けられている。
SAW共振子1の水晶基板10表面に設けられたIDT12、付加膜14はアルミニウム(Al)膜をフォトリソ加工により形成された金属パターンである。
【0020】
つぎに、IDT12および付加膜14において、SH波の位相伝搬方向X’に沿った各寸法および位置関係について図1(b)を用いて詳細に説明する。
IDT12において、寸法LTは電極指12aまたは電極指12bの幅寸法であり、寸法STは電極指12aと電極指12bとの間(電極指が存在しない部分)の寸法である。また、寸法PTはLTとSTの和(PT=LT+ST)からなるIDT配列周期長である。そして、SH波の波長をλとすると、λ=2PTの関係にある。
【0021】
付加膜14はIDT12の両脇の電極指12aまたは電極指12bから寸法STの間隔をあけて形成されている。そして、付加膜14は長さ寸法L1,L2にて形成されている。この付加膜14はSH波の位相伝搬方向X’からみて、電極指12a,12bの重なり合う幅である交差幅WCR以上の幅寸法W(図1(a)参照)であり、SH波の位相伝搬方向の長さ寸法L1,L2がIDT12で励振されるSH波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
幅寸法Wは少なくとも交差指幅WCRの寸法があればよいが、この幅方向へのSH波の良好なエネルギ閉じ込めを考慮すると交差指幅WCRより広く設定するのが好ましい。また、長さ寸法L1,L2は素子の対称性から同じ長さ寸法が好ましいが、長さ寸法L1とL2は異なる長さであっても良い。
なお、付加膜14の電極指12a,12bと向かい合う辺はSH波の位相伝搬方向X’に対して、ほぼ直交して形成されている。
【0022】
また、IDT12の膜厚Hbと付加膜14の膜厚Haは同じ膜厚に設定されている。そして、寸法LTと寸法PTとの比LT/PTは0.4以上0.6以下、IDT12の膜厚HbとSH波の波長λとの比Hb/λは0.05以上0.06以下に設定されている。
【0023】
つぎに、本実施形態に用いる圧電体平板としての水晶基板のカット面について説明する。図2は本実施形態における水晶基板のカット面を説明する模式図である。
水晶単結晶からなる水晶基板10は、水晶結晶の基本軸において、X軸(電気軸)とY軸(機械軸)、Z軸(光軸)を備え、右手系の直交座標系を構成している。
水晶基板10は、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まずZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲であり、つぎにX軸の回りに反時計方向にθが29.2°〜40.7°の範囲であり、X軸と新たに生成したY’軸とで形成される面を主面とする水晶基板10である。そして、新たに生成したZ’軸の回りに水晶基板10内において、X軸を起点として反時計方向(X軸からY’軸方向)に面内回転して、ψが90°±2°範囲である方向X’が弾性表面波の位相伝搬方位である。このような水晶基板10をSHカットと呼ぶことにする。このSHカットの水晶基板10を用いSH波を励振させた場合、周波数温度特性に優れたSAW共振子を構成できることが知られている。
【0024】
つぎに上記のようなSAW共振子における振動変位および、IDT形成領域と付加膜形成領域におけるSH波の自由表面速度について説明する。
図3はSAW共振子における振動変位および、IDT形成領域と付加膜形成領域におけるSH波の表面速度の一例を示す説明図である。図3(a)はSAW共振子の断面を示す模式図、図3(b)はSH波の振動変位振幅状態を示す説明図、図3(c)は基板表面におけるSH波の周波数ポテンシャルを示す説明図である。この説明図では、横軸にSAW共振子における弾性波の伝搬方向の長さをとって、SAW共振子の位置と対応するように表している。
【0025】
図3(b)の振動変位振幅状態に示すように、IDT12で励振されたSH波は、付加膜形成領域15の終端に行くに従い振動の変位が減衰している。そして、IDT形成領域13のほぼ中央部で振動の変位が最大となり、振動エネルギが閉じ込められている状態にある。
また、基板の自由表面を伝搬するSH波の速度を3300m/sとすると、f=V/2PT(f:周波数,V:SH波の速度,PT:IDT配列周期長)の関係から基板の自由表面を伝搬するSH波の周波数fが求まる。この周波数fを基準にすると、図3(c)に示すように、IDT形成領域13における周波数fbは、基準からおよそ−40000ppmの周波数低下がみられ、付加膜形成領域15の周波数faは、基準からおよそ−10000ppmの低下がみられる。
【0026】
IDT形成領域13と付加膜形成領域15とでは、振幅の存在する基板深さおよびSH波の表面速度が異なってくる。振幅の存在する基板深さは、付加膜形成領域15に比べてIDT形成領域13のほうが浅く、SH波の表面速度は、IDT形成領域13に比べて付加膜形成領域15のほうが速い。また、表面速度を周波数で言い換えれば、付加膜形成領域15ではIDT形成領域13に比べてSH波の周波数が高くなっている。つまり、IDT形成領域13のSH波の表面速度をVb、付加膜形成領域15におけるSH波の表面速度をVaとすると、Va>Vbの関係にある。
【0027】
上記のような、付加膜形成領域15でSH波の閉じ込め現象が発生するメカニズムは、ATカット水晶振動子におけるエネルギ閉じ込め現象と同様に考察できる。
図4はSH波における振動の分散特性を示すグラフである。このグラフの縦軸は周波数であり、横軸は伝搬定数である。破線はIDT形成領域の分散特性を示し、実線は付加膜形成領域の分散特性を示す。
IDT形成領域で励振された弾性表面波は、周波数fbで実なる伝搬定数cを有し、波は自由に伝搬する。そして、付加膜形成領域に進入すると周波数faとなり虚なる伝搬定数dを有することになる。虚なる伝搬定数を有する波は、進行するに従い振幅が指数関数的に減少する。このようにして、付加膜形成領域とIDT形成領域とにSH波の表面速度の差を設けて弾性表面波のエネルギ閉じ込めを行っている。
また、付加膜形成領域においては、付加膜の質量効果により、弾性表面波の振幅は基板表面に集中して深さ方向には拡散しない。このことから、付加膜形成領域ではエネルギの損失原因とはならず、Q値を高く維持できることになる。
【0028】
つぎに、付加膜の厚みについて検討する。
水晶基板にIDTを形成しSH波を励振する場合、IDTの膜厚をHb、IDTが有する共振周波数(動作周波数)をfb、このときのSH波の伝搬速度をVb、SH波の波長をλ、付加膜が発生するSH波の伝搬速度をVa、付加膜の厚みをHaとする。
まず、IDTの膜厚HbとSH波の波長λとの比である規格化電極厚みHb/λは一般にアルミニウム膜を用いた場合、0.05〜0.06で利用されている。このとき、IDT形成領域では、IDTの電極指1本が有する反射係数が約6%であることから、電極膜が存在しない場合の基板自由表面のSH波伝搬速度VF(=3300m/s)に対して、約40000ppm低い動作周波数に相当する伝搬速度Vbとなる。すなわち、Vb=0.96VF、となる。
【0029】
これに対して、付加膜形成領域では、約6000〜10000ppm低い動作周波数に相当する伝搬速度Vaとなる。すなわち、Va=(1.0−(0.006〜0.01))=(0.994〜0.99)VF、となる。
【0030】
付加膜形成領域においてエネルギ閉じ込め現象を発生させるためには、Va>Vbの条件が必要である。一般には付加膜の膜厚に比例して伝搬速度Vaは低下すると考えられることから、規格化付加膜厚みHa/λ=0.05のとき、周波数降下を10000ppmとすると、付加膜が発生するSH波の伝搬速度Va=0.99VFとなる。
また、Va=Vbのときにエネルギ閉じ込めを与える限界値となることから、このときの付加膜が発生するSH波の伝搬速度Va=0.96VFである。これは規格化付加膜厚みHa/λ=0.05のときの4倍の周波数降下を意味しており、Ha/λ=0.2に相当する。
以上のことから、エネルギ閉じ込めを可能とする規格化付加膜厚みHa/λの範囲は、Ha/λ=0.05〜0.2であると考察できる。
【0031】
つぎに、付加膜形成領域の全体が有する反射係数の観点から、エネルギ閉じ込めを可能とする反射係数の範囲について検討する。
ここでは、付加膜形成領域の全体が有する反射係数を規定したときにSAW共振子が有する等価直列共振抵抗R1およびQ値を計算し、その値がSAW共振子として実用可能かを検討した。
次の表1にその計算結果を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の表1のように、反射係数1.000の完全反射状態では、等価直列共振抵抗R1は十分に小さく、Q値も高い水準にあり良好な特性が得られる。また、反射係数0.75の場合には、等価直列共振抵抗R1は30Ω以下で実用可能であるが、Q値が6891であり実用には不可である。さらに、反射係数0.875では、等価直列共振抵抗R1は19.75Ωで30Ω以下であり、Q値も9000以上の9648であり実用が可能である。このように、付加膜形成領域の全体が有する反射係数は0.875以上1.000以下であれば実用できる範囲であると考える。
【0034】
続いて、付加膜形成領域における等価な反射係数と付加膜の長さ寸法(L1,L2)との関係を詳細に計算する。
この計算については、尾上守夫、外1名“側面が傾いた板の厚みねじり振動”(Thickness Twist Vibration of a Plate with Tilted Edges)、電子通信学会論文誌‘75/5 Vol.58−A No.5、UDC534.121.1.013)を参考にした。なお、本計算ではIDTと付加膜の膜厚は等しく、それぞれの膜はアルミニウムとして計算している。
まず、直角座標系を用いて、等方性平板を図5のように考える。図5は平板上を伝搬するSH波を解析するためのモデル図である。等方性板の厚み方向をX1方向、SH波の伝播方向をX2方向、X1方向およびX2方向と直行する方向をX3方向とする。
図5において厚みHを有する平板にて、X2方向に伝搬するSH波を考察すると、u3以外の変位は0になり、また、X3方向には変化しない。このとき、支配方程式は、次のようになる。添え字のカンマ(,)を座標および時間に関する微分として、変位については、u1=u2=0とする。またひずみは、S1=S2=S3=S6=0かつS4=u3,2 ,S5=u3,1 とする。また応力は、T1=T2=T3=T6=0,T4=C44S4,T5=C44S5 とする。この場合の運動方程式は、次式(1)で与えられる
ρu3,tt=C44(u3,11+u3,22) ・・・(1)
ここで、ρは密度、C44は弾性定数である。
式(1)の解は時間tの依存項exp(jωt)を省略してつぎの形に書ける。ただし、j2=1、ω=2πfは角周波数である。
【0035】
【数1】
そして、運動方程式(1)を満足するためには、次の条件が必要である。
η2+ξ2=(ω/Cs)2 ・・・(3)
ただし、Cs=(C44/ρ)1/2はSH波の速度であり、η,ξはX1,X2方向の伝搬定数,ω(=2πf)は角周波数である。
【0036】
ここで、SH波を考察する場合には、上面固定かつ下面自由の条件による解が参考になる。なぜならば、SH波を励振するSAW共振子の場合において、表面は自由で底面は変位ゼロ状態となっているからである。この場合は、X1=0においてT5=0、X1=Hにおいてu3=0であるから、式(2)は、A1≠0,A2=0となる。よって、cosηH=0から、ηH=(π/2)(2n+1) (n=0,1,2,・・・・) が成り立つ。このηを式(3)に代入し、Ω=ωH/Csを規格化周波数とおけば次式が得られる。
Hξ={Ω2−(π/2)2(2n+1)2}1/2 ・・・(4)
【0037】
つぎに、SH波として最小の反射係数をもつ次数n=0の基本波の場合とし、SH波がX1軸方向にu3=exp(−ξ0X1)の振幅減衰変化する状態について考えると、規格化周波数Ωがπ/2より小さい条件において、近似的にH=λ程度とすれば、式(4)から、
ξ00={(π/2)2−Ω2}1/2 ・・・(5)
この場合の振幅u3の変化は、
u3(X1)=exp{−(1/λ)ξ00X1} ・・・(6)
反射領域の付加膜の長さLが波長のm倍とすれば、X1=L=mλとなり、これを代入して、
u3(X1=L)=exp(−ξ00m) ・・・(7)
ここで入射波の振幅を1として、エネルギ−保存則を使って付加膜領域全体の反射係数γ0を求める。反射波の振幅をBとして、
12=B2+u3(L)2=B2+exp2(−ξ00m) ・・・(8)
式(8)から、付加膜領域からの反射波の振幅Bすなわち反射係数γ0が次式で求まる。
γ0=B={1−exp2(−ξ00m)}1/2 ・・・(9)
【0038】
さらに、新たに膜厚H=(1/4)λ程度と設定すると、カットオフ周波数Ω0=ωH/Cs=π/2となり、付加膜領域の周波数降下率ε=(Ω0−Ω)/Ω0と定義して、Ω/Ω0=1−εを式(5)に代入すれば、つぎの近似式が得られる。
ξ00≒(π/2)(2ε)1/2 ・・・(10)
周波数降下率εをSHカットの場合の条件として、図3の(c)に示す周波数ポテンシャル差の0.03(30000ppm)程度とすれば式(10)より、ξ00=(π/2)(2ε)1/2=(3.14/2)(0.2449)=0.3844、となる。
【0039】
従って、ξ00=0.3844の場合において、
m=1のとき、反射係数γ0=0.73240、
m=2のとき、反射係数γ0=0.88606、
m=3のとき、反射係数γ0=0.94888、
m=5のとき、反射係数γ0=0.98923、
m=10のとき、反射係数γ0=0.99977、となる。
【0040】
この反射係数と付加膜の長さ(波長に換算)の関係を図6のグラフに示す。
このように、付加膜の長さ寸法が長くなるに従い反射係数は大きくなり、付加膜の長さ寸法が2波長以上であれば、前述したSAW共振子として実用可能な反射係数0.875より大きく、実用に供することができる。また、付加膜の長さ寸法が10波長程度になると完全反射状態の1.0に近づくことがわかる。このことから、付加膜の長さ寸法を2波長以上とすれば、実用可能なSAW共振子を提供できる。
【0041】
つぎに、基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量について説明する。
図7は水晶基板の端部切断位置と共振周波数の変化量df/fを示すグラフである。このグラフでは水晶基板の端部における切断位置を図13と同様に、1波長間の位置として表している。
このグラフように、本実施形態のSAW共振子は、付加膜形成領域にて伝搬する振動エネルギを減衰させるエネルギ閉じ込め型の共振子であることから、端面の切断位置が変っても共振周波数の変化はほとんどない。また、切断面のチッピングなどの欠陥においてもSAW共振子の共振周波数に影響を与えることがない。
このように、本実施形態のSAW共振子は、素子基板の端部の切断位置が共振周波数に影響を与えることがなく、SAW共振子の製造が容易である。
【0042】
続いて、本実施形態におけるIDTの対数とSAW共振子の各特性との関係について説明する。
図8は、SAW共振子の等価直列共振抵抗R1とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図であり、図9は、SAW共振子のQ値とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図である。図10は、SAW共振子の容量比γとIDTの電極対数Mの関係を示す特性図である。
図8において、等価直列共振抵抗R1はIDTの電極対数Mが多くなるに従って小さくなる傾向にある。また、図9において、IDTの電極対数Mが20対のときQ値は約19000であり、IDTの電極対数Mが40対以上の場合のQ値は約16000で、ほぼ一定の値である。さらに、図10によれば、容量比γはIDTの電極対数Mが多くなるに従って大きくなる傾向にあることがわかる。
以上のように、等価直列共振抵抗R1が30Ω以下、Q値が9000以上、容量比γが1200以下を良好なSAW共振子の特性であるとすると、IDTの電極対数Mが20対以上120対以下の範囲で、良好なSAW共振子の特性を得ることができる。
【0043】
また、これらの結果から、IDTおよび付加膜をアルミニウムで同じ膜厚で構成したSAW共振子の場合、IDTの電極対数Mが20対〜80対、付加膜の長さ寸法を弾性表面波の2波長〜10波長とすれば、SAW共振子の小型化を実現できる。
なお、本実施形態では、IDTおよび付加膜をアルミニウムで形成した例にて説明したが、IDTおよび付加膜としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料から選択することができる。
【0044】
以上、本実施形態のSAW共振子1は、付加膜形成領域15において、IDT形成領域13から伝搬したSH波が伝搬方向に減衰する、いわゆるエネルギ閉じ込め現象を利用して、SH波の反射効果を実現することができる。このように、本実施形態によればSH波の反射を水晶基板10の端面で行わないため、水晶基板10の端面における切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥がSAW共振子1の共振周波数に影響を与えることがない。よって、水晶基板10の端面加工(切断)において、精度の高い加工が要求されず、製造工数の低減、製造歩留まりの向上を果たすことができる。
【0045】
また、付加膜14がアルミニウム膜で形成された場合、付加膜14の厚みHaと、SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であれば、付加膜形成領域15に伝搬したSH波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。
また、IDT12および付加膜14がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成された場合、付加膜14の長さ寸法L1,L2が励振されるSH波の2波長以上あれば、付加膜形成領域15に伝搬したSH波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。そして、従来、多数の金属導体を配列して形成した反射器に比べて付加膜形成領域15は小さくなり、SAW共振子1の小型化を可能にする。
【0046】
さらに、本実施形態のSAW共振子1は、SAW共振子1のQ値を良好に維持した上で、電極指1本が有する反射係数を大きくでき、結果としてIDT12の電極指の対数Mを少なくすることが可能である。さらに、Q値が高い構成をとっているので、IDT12のみで共振周波数が決定され、良好な周波数精度を得ることができる。このことから、小型で周波数精度が高いSAW共振子1が提供できる。
また、SAW共振子1の等価直列共振抵抗値R1を30Ω以下に設定することができ、このSAW共振子1を発振回路に組み込んだ際に、低消費電力にてSAW共振子1を発振させることが可能である。
【0047】
また、付加膜14としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料を選択することができることから、付加膜14の形成が容易で、また付加膜14の設計における自由度を向上させることができる。
さらに、周波数温度特性に優れたオイラー角表示で(0°±1°,29.2°≦θ≦40.7°,90°±2°)の水晶基板(SHカット基板)を使用することにより、高精度なSAW共振子1が提供できる。
(変形例)
【0048】
つぎに、付加膜の形状における変形例について説明する。
図11は、付加膜の形状における変形例を説明する部分平面図である。図1で説明した同じ構成要素については同符号を付し、説明を省略する。
図11(a)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜21が形成されている。付加膜21の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成されている。そして、その付加膜21には膜が形成されていない凹部22を備えている。また、付加膜21の電極指12a,12bと向かい合う辺から凹部22までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さが確保されている。
図11(b)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜24が形成されている。付加膜24の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成され、他方の辺は円弧状となり円弧部25が形成されている。また、付加膜24の電極指12a,12bと向かい合う辺から円弧部25手前までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
図11(c)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜26が形成されている。付加膜26の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成され、他方の辺には突部27が形成されている。また、付加膜26の電極指12a,12bと向かい合う辺から突部27手前までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
【0049】
このように、付加膜21,24,26において規定のL1寸法が確保できれば、他方の辺の形状はどのような形状であっても実施可能であり、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
なお、IDT12の両側に配置される付加膜は両側同じ形状のものを配置してもよいし、それぞれの側で異なった形状の付加膜を配置してもよい。また、IDT12と向かい合う辺からの長さ寸法L1については、反射係数が0.875以上を確保できる長さであってもよい。
【0050】
続いて、付加膜の層構成の変形例について説明する。
図12は、付加膜の層構成の変形例を説明する断面図である。図1で説明した同じ構成要素については同符号を付し、説明を省略する。
図12(a)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜31が形成されている。付加膜31の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて厚く形成されている。この場合、付加膜の材料はIDT12と同じ材料で形成してもよく、他の異なる材料で形成してもよい。
図12(b)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜32が形成されている。付加膜32の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて薄く形成されている。この場合、付加膜の材料はIDT12と同じ材料で形成してもよく、他の異なる材料で形成してもよい。
図12(c)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜35が形成されている。付加膜35は水晶基板10の上に形成された第1の膜33と、その上に形成された第2の膜34から構成されている。付加膜35の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて厚く図示しているが、薄く形成してもよい。また、付加膜35の層構成も3層以上の多層膜であってもよい。
なお、上記の付加膜31,32,35は付加膜形成領域15の全体が有する反射係数が0.875以上になるように形成されている。
このように、付加膜の層構成において反射係数が0.875以上を確保できる構成であれば、どのように構成してもよく、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0051】
なお、本発明はSAW共振子フィルタ、SAW発振器、キーレスエントリーシステム、センサ素子などへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態の弾性表面波共振子の構成を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断線に沿う断面図。
【図2】本実施形態における水晶基板のカット面を説明する模式図。
【図3】本実施形態の弾性表面波共振子における振動変位および、SH波のIDT形成領域と付加膜形成領域における自由表面速度の一例を示す説明図。
【図4】SH波における振動の分散特性を示すグラフ。
【図5】平板上を伝搬するSH波を解析するためのモデル図。
【図6】付加膜の長さ寸法と反射係数の関係を示すグラフ。
【図7】本実施形態における水晶基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量を示すグラフ。
【図8】本実施形態の弾性表面波共振子における等価直列共振抵抗R1とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図9】本実施形態の弾性表面波共振子におけるQ値とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図10】本実施形態の弾性表面波共振子の容量比γとIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図11】本実施形態における付加膜の形状の変形例を示す部分平面図。
【図12】本実施形態における付加膜の層構成の変形例を示す断面図。
【図13】従来の端面反射型の弾性表面波共振子における素子基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1…弾性表面波共振子(SAW共振子)、10…水晶基板、12…すだれ状電極(IDT)、12a,12b…電極指、13…IDT形成領域、14…付加膜、15…付加膜形成領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギ閉じ込め型の弾性表面波共振子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波フィルタ、弾性表面波共振子などの弾性表面波デバイスが広く電子機器に利用されている。
弾性表面波デバイスの一般的な形態は、圧電基板に、例えばアルミニウム膜からなる多数の平行導体(電極指)を周期的に配置したすだれ状電極を形成し、さらにその両側に一対の反射器をストリップ形状からなる金属導体を平行にかつ周期的に配置して構成している。反射器はすだれ状電極から伝搬する表面波を反射させるために多数の金属導体を配置しなくてはならず、総じて表面波の伝搬方向に長い素子を形成している。
これに対して特許文献1には、SH波を利用する弾性表面波デバイスとして反射器を設けず、SH波が伝搬する方向において対向する素子基板の両端面で、SH波を反射させる小型化に対応した弾性表面波デバイスが開示されている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5953433号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示した弾性表面波デバイスでは、素子基板の両端面でSH波を反射していることから、伝搬した波のどの位置で端面に到達して反射するかによって弾性表面波デバイスの共振周波数が変化する。図13は素子基板の端部切断位置と共振周波数の変化量df/fとの関係を示すグラフである。このグラフでは、端部切断位置(端面反射位置)を端面で反射される波の1波長の中における位置として示している。図13では312MHzの弾性表面波共振子の場合を示し、例えば、0.1λの位置で端面反射した場合と1λの位置で端面反射した場合では、およそ4000ppmの周波数差が生じることになる。また、切断面のチッピングなどの欠陥においても弾性表面波デバイスの共振周波数に影響を与えることが知られている。
以上のように特許文献1の弾性表面波デバイスでは、素子基板の切断において、端面の切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥のない端面形状が必要とされ、精度の高い端面加工技術が必要である。このため、製造負荷が大きく歩留まりが低いという課題がある。
また、特に周波数精度の必要な弾性表面波共振子には、さらに精度の高い素子基板の端面加工が求められ、上記の端面反射を利用した弾性表面波共振子の製作が困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]圧電体平板上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子であって、前記圧電体平板上に前記SH波の位相伝搬方向に略直交して極性の異なる電極指が交互に配置されたすだれ状電極が少なくとも1つ形成されたIDT形成領域と、前記圧電体平板上に、前記SH波の位相伝搬方向における前記IDT形成領域の両側に前記電極指の交差幅以上の幅寸法で、前記SH波の位相伝搬方向に長さ寸法を有する付加膜が形成された付加膜形成領域と、を備え、前記付加膜形成領域の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【0007】
この構成によれば、付加膜形成領域において、IDT形成領域から伝搬した弾性表面波が伝搬方向に減衰する、いわゆるエネルギ閉じ込め現象を利用して、弾性表面波の反射効果を実現することができる。本適用例によれば素子基板の端面で弾性表面波の反射が行われないため、素子基板の端面における切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥が弾性表面波共振子の共振周波数に影響を与えることがない。よって、素子基板の端面加工(切断)において、精度の高い加工を必要とせず、製造工数の低減、製造歩留まりの向上を果たすことができる。
【0008】
[適用例2]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で形成され、前記付加膜の厚みHaと、前記SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲である弾性表面波共振子。
【0009】
この構成によれば、付加膜がアルミニウム膜で形成され、付加膜の厚みHaと、SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であれば、付加膜形成領域に伝搬した弾性表面波を効率的に減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。
【0010】
[適用例3]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成され、前記付加膜における前記SH波の位相伝搬方向の長さ寸法が、励振される前記SH波の2波長以上の寸法である弾性表面波共振子。
【0011】
この構成によれば、すだれ状電極および付加膜がアルミニウム膜にて同じ膜厚に形成された場合、付加膜の長さ寸法が励振されるSH波の2波長以上であれば、付加膜形成領域に伝搬した弾性表面波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。そして、従来、多数の金属導体を配列して形成した反射器に比べて付加膜形成領域は小さくなり、弾性表面波共振子の小型化を可能にする。
【0012】
[適用例4]上記弾性表面波共振子であって、前記すだれ状電極はM対の電極指からなり、前記電極指の前記SH波の位相伝搬方向の幅寸法をLTとし、電極指の存在しない領域の前記SH波の位相伝搬方向の寸法をSTとして、前記配列周期長であるPT=LT+STであり、前記すだれ状電極が有する電極指の対数Mが20以上120以下の範囲であり、LT/PTは0.4以上0.6以下の範囲であり、前記すだれ状電極の膜厚Hbと前記弾性表面波の波長λとの比Hb/λが0.05以上0.06以下の範囲である弾性表面波共振子。
【0013】
この構成によれば、弾性表面波共振子のQ値を良好に維持した上で、電極指1本が有する反射係数を大きくでき、結果としてすだれ状電極の電極指の対数Mを少なくすることが可能である。さらに、Q値が高い構成をとっているので、すだれ状電極のみで共振周波数が決定され、良好な周波数精度を得ることができる。このことから、小型で周波数精度が高い弾性表面波共振子が提供できる。
また、弾性表面波共振子の等価直列共振抵抗値R1を30Ω以下に設定することができ、この弾性表面波共振子を発振回路に組み込んだ際に、低消費電力にて弾性表面波共振子を発振させることが可能である。
【0014】
[適用例5]上記弾性表面波共振子であって、前記付加膜がアルミニウム、タングステン、銅、金、銀、から選択される材料で形成されている弾性表面波共振子。
【0015】
付加膜としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料を選択することができることから、付加膜の形成が容易で、また付加膜の設計における自由度が増す。
【0016】
[適用例6]上記弾性表面波共振子であって、前記圧電体平板が水晶単結晶からなり、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲で回転し、つぎに電気軸であるX軸の回りに反時計方向にθが29.2°以上40.7°以下の範囲で回転した圧電体平板であって、前記X軸と新たに生成されたZ’軸とで構成される面を主面とする水晶基板において、前記Z’軸の回りに反時計方向に回転して、ψが90°±2°の範囲である方向が前記弾性表面波の位相伝搬方位である弾性表面波共振子。
【0017】
この構成によれば、周波数温度特性に優れたオイラー角表示で(0°±1°,29.2°≦θ≦40.7°,90°±2°)の水晶基板(SHカット基板)を使用することにより、高精度な弾性表面波共振子が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、弾性表面波共振子の実施形態について図面に従って説明する。
(実施形態)
【0019】
図1は本実施形態の弾性表面波共振子の構成を示し、図1(a)は平面図、図1(b)は同図(a)のA−A断線に沿う断面図である。
弾性表面波共振子(以下、SAW共振子と呼ぶこともある)1は、圧電体平板としての水晶基板10表面にすだれ状電極(以下、IDT(Interdigital Transducer)と呼ぶこともある)12が形成されたIDT形成領域13と、その両側に設けられ付加膜14が形成された付加膜形成領域15とを備えている。
IDT12は正極側の電極指12aと負極側の電極指12bとが交互に間挿されて構成されている。そして、この電極指12aと電極指12bの極性は時間と共に交互に逆相となるように構成されている。この1つの電極指12aと、隣接する1つの電極指12bとで1対の電極指と呼ぶ。そして、この1対の電極指の数を対数と呼び、本実施形態では20〜120対の範囲で電極指が形成されている。なお、IDT12の電極指12a,12bはSH波の位相伝搬方向X’に対して、ほぼ直交して形成されている。
そして、付加膜14はSH波の位相伝搬方向X’に、IDT12の両側に設けられている。
SAW共振子1の水晶基板10表面に設けられたIDT12、付加膜14はアルミニウム(Al)膜をフォトリソ加工により形成された金属パターンである。
【0020】
つぎに、IDT12および付加膜14において、SH波の位相伝搬方向X’に沿った各寸法および位置関係について図1(b)を用いて詳細に説明する。
IDT12において、寸法LTは電極指12aまたは電極指12bの幅寸法であり、寸法STは電極指12aと電極指12bとの間(電極指が存在しない部分)の寸法である。また、寸法PTはLTとSTの和(PT=LT+ST)からなるIDT配列周期長である。そして、SH波の波長をλとすると、λ=2PTの関係にある。
【0021】
付加膜14はIDT12の両脇の電極指12aまたは電極指12bから寸法STの間隔をあけて形成されている。そして、付加膜14は長さ寸法L1,L2にて形成されている。この付加膜14はSH波の位相伝搬方向X’からみて、電極指12a,12bの重なり合う幅である交差幅WCR以上の幅寸法W(図1(a)参照)であり、SH波の位相伝搬方向の長さ寸法L1,L2がIDT12で励振されるSH波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
幅寸法Wは少なくとも交差指幅WCRの寸法があればよいが、この幅方向へのSH波の良好なエネルギ閉じ込めを考慮すると交差指幅WCRより広く設定するのが好ましい。また、長さ寸法L1,L2は素子の対称性から同じ長さ寸法が好ましいが、長さ寸法L1とL2は異なる長さであっても良い。
なお、付加膜14の電極指12a,12bと向かい合う辺はSH波の位相伝搬方向X’に対して、ほぼ直交して形成されている。
【0022】
また、IDT12の膜厚Hbと付加膜14の膜厚Haは同じ膜厚に設定されている。そして、寸法LTと寸法PTとの比LT/PTは0.4以上0.6以下、IDT12の膜厚HbとSH波の波長λとの比Hb/λは0.05以上0.06以下に設定されている。
【0023】
つぎに、本実施形態に用いる圧電体平板としての水晶基板のカット面について説明する。図2は本実施形態における水晶基板のカット面を説明する模式図である。
水晶単結晶からなる水晶基板10は、水晶結晶の基本軸において、X軸(電気軸)とY軸(機械軸)、Z軸(光軸)を備え、右手系の直交座標系を構成している。
水晶基板10は、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まずZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲であり、つぎにX軸の回りに反時計方向にθが29.2°〜40.7°の範囲であり、X軸と新たに生成したY’軸とで形成される面を主面とする水晶基板10である。そして、新たに生成したZ’軸の回りに水晶基板10内において、X軸を起点として反時計方向(X軸からY’軸方向)に面内回転して、ψが90°±2°範囲である方向X’が弾性表面波の位相伝搬方位である。このような水晶基板10をSHカットと呼ぶことにする。このSHカットの水晶基板10を用いSH波を励振させた場合、周波数温度特性に優れたSAW共振子を構成できることが知られている。
【0024】
つぎに上記のようなSAW共振子における振動変位および、IDT形成領域と付加膜形成領域におけるSH波の自由表面速度について説明する。
図3はSAW共振子における振動変位および、IDT形成領域と付加膜形成領域におけるSH波の表面速度の一例を示す説明図である。図3(a)はSAW共振子の断面を示す模式図、図3(b)はSH波の振動変位振幅状態を示す説明図、図3(c)は基板表面におけるSH波の周波数ポテンシャルを示す説明図である。この説明図では、横軸にSAW共振子における弾性波の伝搬方向の長さをとって、SAW共振子の位置と対応するように表している。
【0025】
図3(b)の振動変位振幅状態に示すように、IDT12で励振されたSH波は、付加膜形成領域15の終端に行くに従い振動の変位が減衰している。そして、IDT形成領域13のほぼ中央部で振動の変位が最大となり、振動エネルギが閉じ込められている状態にある。
また、基板の自由表面を伝搬するSH波の速度を3300m/sとすると、f=V/2PT(f:周波数,V:SH波の速度,PT:IDT配列周期長)の関係から基板の自由表面を伝搬するSH波の周波数fが求まる。この周波数fを基準にすると、図3(c)に示すように、IDT形成領域13における周波数fbは、基準からおよそ−40000ppmの周波数低下がみられ、付加膜形成領域15の周波数faは、基準からおよそ−10000ppmの低下がみられる。
【0026】
IDT形成領域13と付加膜形成領域15とでは、振幅の存在する基板深さおよびSH波の表面速度が異なってくる。振幅の存在する基板深さは、付加膜形成領域15に比べてIDT形成領域13のほうが浅く、SH波の表面速度は、IDT形成領域13に比べて付加膜形成領域15のほうが速い。また、表面速度を周波数で言い換えれば、付加膜形成領域15ではIDT形成領域13に比べてSH波の周波数が高くなっている。つまり、IDT形成領域13のSH波の表面速度をVb、付加膜形成領域15におけるSH波の表面速度をVaとすると、Va>Vbの関係にある。
【0027】
上記のような、付加膜形成領域15でSH波の閉じ込め現象が発生するメカニズムは、ATカット水晶振動子におけるエネルギ閉じ込め現象と同様に考察できる。
図4はSH波における振動の分散特性を示すグラフである。このグラフの縦軸は周波数であり、横軸は伝搬定数である。破線はIDT形成領域の分散特性を示し、実線は付加膜形成領域の分散特性を示す。
IDT形成領域で励振された弾性表面波は、周波数fbで実なる伝搬定数cを有し、波は自由に伝搬する。そして、付加膜形成領域に進入すると周波数faとなり虚なる伝搬定数dを有することになる。虚なる伝搬定数を有する波は、進行するに従い振幅が指数関数的に減少する。このようにして、付加膜形成領域とIDT形成領域とにSH波の表面速度の差を設けて弾性表面波のエネルギ閉じ込めを行っている。
また、付加膜形成領域においては、付加膜の質量効果により、弾性表面波の振幅は基板表面に集中して深さ方向には拡散しない。このことから、付加膜形成領域ではエネルギの損失原因とはならず、Q値を高く維持できることになる。
【0028】
つぎに、付加膜の厚みについて検討する。
水晶基板にIDTを形成しSH波を励振する場合、IDTの膜厚をHb、IDTが有する共振周波数(動作周波数)をfb、このときのSH波の伝搬速度をVb、SH波の波長をλ、付加膜が発生するSH波の伝搬速度をVa、付加膜の厚みをHaとする。
まず、IDTの膜厚HbとSH波の波長λとの比である規格化電極厚みHb/λは一般にアルミニウム膜を用いた場合、0.05〜0.06で利用されている。このとき、IDT形成領域では、IDTの電極指1本が有する反射係数が約6%であることから、電極膜が存在しない場合の基板自由表面のSH波伝搬速度VF(=3300m/s)に対して、約40000ppm低い動作周波数に相当する伝搬速度Vbとなる。すなわち、Vb=0.96VF、となる。
【0029】
これに対して、付加膜形成領域では、約6000〜10000ppm低い動作周波数に相当する伝搬速度Vaとなる。すなわち、Va=(1.0−(0.006〜0.01))=(0.994〜0.99)VF、となる。
【0030】
付加膜形成領域においてエネルギ閉じ込め現象を発生させるためには、Va>Vbの条件が必要である。一般には付加膜の膜厚に比例して伝搬速度Vaは低下すると考えられることから、規格化付加膜厚みHa/λ=0.05のとき、周波数降下を10000ppmとすると、付加膜が発生するSH波の伝搬速度Va=0.99VFとなる。
また、Va=Vbのときにエネルギ閉じ込めを与える限界値となることから、このときの付加膜が発生するSH波の伝搬速度Va=0.96VFである。これは規格化付加膜厚みHa/λ=0.05のときの4倍の周波数降下を意味しており、Ha/λ=0.2に相当する。
以上のことから、エネルギ閉じ込めを可能とする規格化付加膜厚みHa/λの範囲は、Ha/λ=0.05〜0.2であると考察できる。
【0031】
つぎに、付加膜形成領域の全体が有する反射係数の観点から、エネルギ閉じ込めを可能とする反射係数の範囲について検討する。
ここでは、付加膜形成領域の全体が有する反射係数を規定したときにSAW共振子が有する等価直列共振抵抗R1およびQ値を計算し、その値がSAW共振子として実用可能かを検討した。
次の表1にその計算結果を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の表1のように、反射係数1.000の完全反射状態では、等価直列共振抵抗R1は十分に小さく、Q値も高い水準にあり良好な特性が得られる。また、反射係数0.75の場合には、等価直列共振抵抗R1は30Ω以下で実用可能であるが、Q値が6891であり実用には不可である。さらに、反射係数0.875では、等価直列共振抵抗R1は19.75Ωで30Ω以下であり、Q値も9000以上の9648であり実用が可能である。このように、付加膜形成領域の全体が有する反射係数は0.875以上1.000以下であれば実用できる範囲であると考える。
【0034】
続いて、付加膜形成領域における等価な反射係数と付加膜の長さ寸法(L1,L2)との関係を詳細に計算する。
この計算については、尾上守夫、外1名“側面が傾いた板の厚みねじり振動”(Thickness Twist Vibration of a Plate with Tilted Edges)、電子通信学会論文誌‘75/5 Vol.58−A No.5、UDC534.121.1.013)を参考にした。なお、本計算ではIDTと付加膜の膜厚は等しく、それぞれの膜はアルミニウムとして計算している。
まず、直角座標系を用いて、等方性平板を図5のように考える。図5は平板上を伝搬するSH波を解析するためのモデル図である。等方性板の厚み方向をX1方向、SH波の伝播方向をX2方向、X1方向およびX2方向と直行する方向をX3方向とする。
図5において厚みHを有する平板にて、X2方向に伝搬するSH波を考察すると、u3以外の変位は0になり、また、X3方向には変化しない。このとき、支配方程式は、次のようになる。添え字のカンマ(,)を座標および時間に関する微分として、変位については、u1=u2=0とする。またひずみは、S1=S2=S3=S6=0かつS4=u3,2 ,S5=u3,1 とする。また応力は、T1=T2=T3=T6=0,T4=C44S4,T5=C44S5 とする。この場合の運動方程式は、次式(1)で与えられる
ρu3,tt=C44(u3,11+u3,22) ・・・(1)
ここで、ρは密度、C44は弾性定数である。
式(1)の解は時間tの依存項exp(jωt)を省略してつぎの形に書ける。ただし、j2=1、ω=2πfは角周波数である。
【0035】
【数1】
そして、運動方程式(1)を満足するためには、次の条件が必要である。
η2+ξ2=(ω/Cs)2 ・・・(3)
ただし、Cs=(C44/ρ)1/2はSH波の速度であり、η,ξはX1,X2方向の伝搬定数,ω(=2πf)は角周波数である。
【0036】
ここで、SH波を考察する場合には、上面固定かつ下面自由の条件による解が参考になる。なぜならば、SH波を励振するSAW共振子の場合において、表面は自由で底面は変位ゼロ状態となっているからである。この場合は、X1=0においてT5=0、X1=Hにおいてu3=0であるから、式(2)は、A1≠0,A2=0となる。よって、cosηH=0から、ηH=(π/2)(2n+1) (n=0,1,2,・・・・) が成り立つ。このηを式(3)に代入し、Ω=ωH/Csを規格化周波数とおけば次式が得られる。
Hξ={Ω2−(π/2)2(2n+1)2}1/2 ・・・(4)
【0037】
つぎに、SH波として最小の反射係数をもつ次数n=0の基本波の場合とし、SH波がX1軸方向にu3=exp(−ξ0X1)の振幅減衰変化する状態について考えると、規格化周波数Ωがπ/2より小さい条件において、近似的にH=λ程度とすれば、式(4)から、
ξ00={(π/2)2−Ω2}1/2 ・・・(5)
この場合の振幅u3の変化は、
u3(X1)=exp{−(1/λ)ξ00X1} ・・・(6)
反射領域の付加膜の長さLが波長のm倍とすれば、X1=L=mλとなり、これを代入して、
u3(X1=L)=exp(−ξ00m) ・・・(7)
ここで入射波の振幅を1として、エネルギ−保存則を使って付加膜領域全体の反射係数γ0を求める。反射波の振幅をBとして、
12=B2+u3(L)2=B2+exp2(−ξ00m) ・・・(8)
式(8)から、付加膜領域からの反射波の振幅Bすなわち反射係数γ0が次式で求まる。
γ0=B={1−exp2(−ξ00m)}1/2 ・・・(9)
【0038】
さらに、新たに膜厚H=(1/4)λ程度と設定すると、カットオフ周波数Ω0=ωH/Cs=π/2となり、付加膜領域の周波数降下率ε=(Ω0−Ω)/Ω0と定義して、Ω/Ω0=1−εを式(5)に代入すれば、つぎの近似式が得られる。
ξ00≒(π/2)(2ε)1/2 ・・・(10)
周波数降下率εをSHカットの場合の条件として、図3の(c)に示す周波数ポテンシャル差の0.03(30000ppm)程度とすれば式(10)より、ξ00=(π/2)(2ε)1/2=(3.14/2)(0.2449)=0.3844、となる。
【0039】
従って、ξ00=0.3844の場合において、
m=1のとき、反射係数γ0=0.73240、
m=2のとき、反射係数γ0=0.88606、
m=3のとき、反射係数γ0=0.94888、
m=5のとき、反射係数γ0=0.98923、
m=10のとき、反射係数γ0=0.99977、となる。
【0040】
この反射係数と付加膜の長さ(波長に換算)の関係を図6のグラフに示す。
このように、付加膜の長さ寸法が長くなるに従い反射係数は大きくなり、付加膜の長さ寸法が2波長以上であれば、前述したSAW共振子として実用可能な反射係数0.875より大きく、実用に供することができる。また、付加膜の長さ寸法が10波長程度になると完全反射状態の1.0に近づくことがわかる。このことから、付加膜の長さ寸法を2波長以上とすれば、実用可能なSAW共振子を提供できる。
【0041】
つぎに、基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量について説明する。
図7は水晶基板の端部切断位置と共振周波数の変化量df/fを示すグラフである。このグラフでは水晶基板の端部における切断位置を図13と同様に、1波長間の位置として表している。
このグラフように、本実施形態のSAW共振子は、付加膜形成領域にて伝搬する振動エネルギを減衰させるエネルギ閉じ込め型の共振子であることから、端面の切断位置が変っても共振周波数の変化はほとんどない。また、切断面のチッピングなどの欠陥においてもSAW共振子の共振周波数に影響を与えることがない。
このように、本実施形態のSAW共振子は、素子基板の端部の切断位置が共振周波数に影響を与えることがなく、SAW共振子の製造が容易である。
【0042】
続いて、本実施形態におけるIDTの対数とSAW共振子の各特性との関係について説明する。
図8は、SAW共振子の等価直列共振抵抗R1とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図であり、図9は、SAW共振子のQ値とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図である。図10は、SAW共振子の容量比γとIDTの電極対数Mの関係を示す特性図である。
図8において、等価直列共振抵抗R1はIDTの電極対数Mが多くなるに従って小さくなる傾向にある。また、図9において、IDTの電極対数Mが20対のときQ値は約19000であり、IDTの電極対数Mが40対以上の場合のQ値は約16000で、ほぼ一定の値である。さらに、図10によれば、容量比γはIDTの電極対数Mが多くなるに従って大きくなる傾向にあることがわかる。
以上のように、等価直列共振抵抗R1が30Ω以下、Q値が9000以上、容量比γが1200以下を良好なSAW共振子の特性であるとすると、IDTの電極対数Mが20対以上120対以下の範囲で、良好なSAW共振子の特性を得ることができる。
【0043】
また、これらの結果から、IDTおよび付加膜をアルミニウムで同じ膜厚で構成したSAW共振子の場合、IDTの電極対数Mが20対〜80対、付加膜の長さ寸法を弾性表面波の2波長〜10波長とすれば、SAW共振子の小型化を実現できる。
なお、本実施形態では、IDTおよび付加膜をアルミニウムで形成した例にて説明したが、IDTおよび付加膜としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料から選択することができる。
【0044】
以上、本実施形態のSAW共振子1は、付加膜形成領域15において、IDT形成領域13から伝搬したSH波が伝搬方向に減衰する、いわゆるエネルギ閉じ込め現象を利用して、SH波の反射効果を実現することができる。このように、本実施形態によればSH波の反射を水晶基板10の端面で行わないため、水晶基板10の端面における切断位置ずれおよびチッピングなどの欠陥がSAW共振子1の共振周波数に影響を与えることがない。よって、水晶基板10の端面加工(切断)において、精度の高い加工が要求されず、製造工数の低減、製造歩留まりの向上を果たすことができる。
【0045】
また、付加膜14がアルミニウム膜で形成された場合、付加膜14の厚みHaと、SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であれば、付加膜形成領域15に伝搬したSH波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。
また、IDT12および付加膜14がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成された場合、付加膜14の長さ寸法L1,L2が励振されるSH波の2波長以上あれば、付加膜形成領域15に伝搬したSH波を減衰させ、振動エネルギの閉じ込めが可能である。そして、従来、多数の金属導体を配列して形成した反射器に比べて付加膜形成領域15は小さくなり、SAW共振子1の小型化を可能にする。
【0046】
さらに、本実施形態のSAW共振子1は、SAW共振子1のQ値を良好に維持した上で、電極指1本が有する反射係数を大きくでき、結果としてIDT12の電極指の対数Mを少なくすることが可能である。さらに、Q値が高い構成をとっているので、IDT12のみで共振周波数が決定され、良好な周波数精度を得ることができる。このことから、小型で周波数精度が高いSAW共振子1が提供できる。
また、SAW共振子1の等価直列共振抵抗値R1を30Ω以下に設定することができ、このSAW共振子1を発振回路に組み込んだ際に、低消費電力にてSAW共振子1を発振させることが可能である。
【0047】
また、付加膜14としてアルミニウム、タングステン、銅、金、銀の材料を選択することができることから、付加膜14の形成が容易で、また付加膜14の設計における自由度を向上させることができる。
さらに、周波数温度特性に優れたオイラー角表示で(0°±1°,29.2°≦θ≦40.7°,90°±2°)の水晶基板(SHカット基板)を使用することにより、高精度なSAW共振子1が提供できる。
(変形例)
【0048】
つぎに、付加膜の形状における変形例について説明する。
図11は、付加膜の形状における変形例を説明する部分平面図である。図1で説明した同じ構成要素については同符号を付し、説明を省略する。
図11(a)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜21が形成されている。付加膜21の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成されている。そして、その付加膜21には膜が形成されていない凹部22を備えている。また、付加膜21の電極指12a,12bと向かい合う辺から凹部22までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さが確保されている。
図11(b)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜24が形成されている。付加膜24の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成され、他方の辺は円弧状となり円弧部25が形成されている。また、付加膜24の電極指12a,12bと向かい合う辺から円弧部25手前までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
図11(c)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜26が形成されている。付加膜26の電極指12a,12bと向かい合う辺は弾性表面波の位相伝搬方向X’に対してほぼ直交して形成され、他方の辺には突部27が形成されている。また、付加膜26の電極指12a,12bと向かい合う辺から突部27手前までの寸法L1は、弾性表面波の波長の2波長以上の長さで形成されている。
【0049】
このように、付加膜21,24,26において規定のL1寸法が確保できれば、他方の辺の形状はどのような形状であっても実施可能であり、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
なお、IDT12の両側に配置される付加膜は両側同じ形状のものを配置してもよいし、それぞれの側で異なった形状の付加膜を配置してもよい。また、IDT12と向かい合う辺からの長さ寸法L1については、反射係数が0.875以上を確保できる長さであってもよい。
【0050】
続いて、付加膜の層構成の変形例について説明する。
図12は、付加膜の層構成の変形例を説明する断面図である。図1で説明した同じ構成要素については同符号を付し、説明を省略する。
図12(a)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜31が形成されている。付加膜31の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて厚く形成されている。この場合、付加膜の材料はIDT12と同じ材料で形成してもよく、他の異なる材料で形成してもよい。
図12(b)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜32が形成されている。付加膜32の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて薄く形成されている。この場合、付加膜の材料はIDT12と同じ材料で形成してもよく、他の異なる材料で形成してもよい。
図12(c)において、SAW共振子の付加膜形成領域15には付加膜35が形成されている。付加膜35は水晶基板10の上に形成された第1の膜33と、その上に形成された第2の膜34から構成されている。付加膜35の膜厚HaはIDT12の膜厚Hbに比べて厚く図示しているが、薄く形成してもよい。また、付加膜35の層構成も3層以上の多層膜であってもよい。
なお、上記の付加膜31,32,35は付加膜形成領域15の全体が有する反射係数が0.875以上になるように形成されている。
このように、付加膜の層構成において反射係数が0.875以上を確保できる構成であれば、どのように構成してもよく、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0051】
なお、本発明はSAW共振子フィルタ、SAW発振器、キーレスエントリーシステム、センサ素子などへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態の弾性表面波共振子の構成を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断線に沿う断面図。
【図2】本実施形態における水晶基板のカット面を説明する模式図。
【図3】本実施形態の弾性表面波共振子における振動変位および、SH波のIDT形成領域と付加膜形成領域における自由表面速度の一例を示す説明図。
【図4】SH波における振動の分散特性を示すグラフ。
【図5】平板上を伝搬するSH波を解析するためのモデル図。
【図6】付加膜の長さ寸法と反射係数の関係を示すグラフ。
【図7】本実施形態における水晶基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量を示すグラフ。
【図8】本実施形態の弾性表面波共振子における等価直列共振抵抗R1とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図9】本実施形態の弾性表面波共振子におけるQ値とIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図10】本実施形態の弾性表面波共振子の容量比γとIDTの電極対数Mの関係を示す特性図。
【図11】本実施形態における付加膜の形状の変形例を示す部分平面図。
【図12】本実施形態における付加膜の層構成の変形例を示す断面図。
【図13】従来の端面反射型の弾性表面波共振子における素子基板の端部の切断位置と共振周波数の変化量を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
1…弾性表面波共振子(SAW共振子)、10…水晶基板、12…すだれ状電極(IDT)、12a,12b…電極指、13…IDT形成領域、14…付加膜、15…付加膜形成領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体平板上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子であって、
前記圧電体平板上に前記SH波の位相伝搬方向に略直交して極性の異なる電極指が交互に配置されたすだれ状電極が少なくとも1つ形成されたIDT形成領域と、
前記圧電体平板上に、前記SH波の位相伝搬方向における前記IDT形成領域の両側に前記電極指の交差幅以上の幅寸法で、前記SH波の位相伝搬方向に長さ寸法を有する付加膜が形成された付加膜形成領域と、を備え、
前記付加膜形成領域の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で形成され、前記付加膜の厚みHaと、前記SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項3】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成され、前記付加膜における前記SH波の位相伝搬方向の長さ寸法が、励振される前記SH波の2波長以上の寸法であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極はM対の電極指からなり、前記電極指の前記SH波の位相伝搬方向の幅寸法をLTとし、電極指の存在しない領域の前記SH波の位相伝搬方向の寸法をSTとして、前記配列周期長であるPT=LT+STであり、前記すだれ状電極が有する電極指の対数Mが20以上120以下の範囲であり、LT/PTは0.4以上0.6以下の範囲であり、前記すだれ状電極の膜厚Hbと前記弾性表面波の波長λとの比Hb/λが0.05以上0.06以下の範囲であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項5】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記付加膜がアルミニウム、タングステン、銅、金、銀、から選択される材料で形成されていることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の弾性表面波共振子において、
前記圧電体平板が水晶単結晶からなり、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲で回転し、つぎに電気軸であるX軸の回りに反時計方向にθが29.2°以上40.7°以下の範囲で回転した圧電体平板であって、
前記X軸と新たに生成されたZ’軸とで構成される面を主面とする水晶基板において、前記Z’軸の回りに反時計方向に回転して、ψが90°±2°の範囲である方向が前記弾性表面波の位相伝搬方位であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項1】
圧電体平板上に弾性表面波のSH波が励振される弾性表面波共振子であって、
前記圧電体平板上に前記SH波の位相伝搬方向に略直交して極性の異なる電極指が交互に配置されたすだれ状電極が少なくとも1つ形成されたIDT形成領域と、
前記圧電体平板上に、前記SH波の位相伝搬方向における前記IDT形成領域の両側に前記電極指の交差幅以上の幅寸法で、前記SH波の位相伝搬方向に長さ寸法を有する付加膜が形成された付加膜形成領域と、を備え、
前記付加膜形成領域の全体が有する反射係数が0.875以上1.000以下であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で形成され、前記付加膜の厚みHaと、前記SH波の波長λとの比Ha/λが0.05以上0.2以下の範囲であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項3】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極および前記付加膜がアルミニウム膜で同じ膜厚に形成され、前記付加膜における前記SH波の位相伝搬方向の長さ寸法が、励振される前記SH波の2波長以上の寸法であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極はM対の電極指からなり、前記電極指の前記SH波の位相伝搬方向の幅寸法をLTとし、電極指の存在しない領域の前記SH波の位相伝搬方向の寸法をSTとして、前記配列周期長であるPT=LT+STであり、前記すだれ状電極が有する電極指の対数Mが20以上120以下の範囲であり、LT/PTは0.4以上0.6以下の範囲であり、前記すだれ状電極の膜厚Hbと前記弾性表面波の波長λとの比Hb/λが0.05以上0.06以下の範囲であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項5】
請求項1に記載の弾性表面波共振子において、
前記付加膜がアルミニウム、タングステン、銅、金、銀、から選択される材料で形成されていることを特徴とする弾性表面波共振子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の弾性表面波共振子において、
前記圧電体平板が水晶単結晶からなり、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で、まず光軸であるZ軸の回りに反時計方向にφが0°±1°の範囲で回転し、つぎに電気軸であるX軸の回りに反時計方向にθが29.2°以上40.7°以下の範囲で回転した圧電体平板であって、
前記X軸と新たに生成されたZ’軸とで構成される面を主面とする水晶基板において、前記Z’軸の回りに反時計方向に回転して、ψが90°±2°の範囲である方向が前記弾性表面波の位相伝搬方位であることを特徴とする弾性表面波共振子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−77209(P2009−77209A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244895(P2007−244895)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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