説明

弾性表面波素子、弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置

【課題】 平衡度を劣化させることなく、挿入損失とVSWRが改善された弾性表面波素子を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波素子1は、圧電基板19と、前記圧電基板19上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って形成された3個以上の奇数個のIDT電極3,4,5とを有し、前記奇数個のIDT電極3,4,5,のうち、中央に形成されたIDT電極4の両側に配設されたIDT電極3,5には、第1及び第2の基準電位用端子14,15がそれぞれ接続されており、前記第1及び第2の基準電位用端子14,15は、前記中央に形成されたIDT電極3の中心を通り、前記伝搬方向に直交する方向に設けた仮想中心軸Aに対して、非対称に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子、弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものである。本発明の弾性表面波素子は、弾性表面波フィルタ素子,弾性表面波共振子などを含む。本発明の弾性表面波装置は、例えば、携帯電話機等の移動体通信機器に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機や自動車電話機等の移動体通信機器のRF(Radio Frequency;高周波(無線周波数))段に用いられる周波数選択(band pass)フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。この弾性表面波フィルタには、小型化に加え、広帯域化への対応、通信キャリアの高周波化への対応、通過帯域外減衰量の向上、通過帯域の挿入損失の向上が、要求されている。
【0003】
最近では、移動体通信機器等の小型化,軽量化や低コスト化のため、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。
その1つに、弾性表面波フィルタに対して、不平衡入力−平衡出力型、または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった不平衡−平衡変換機能の要求がある。
ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路での信号において、振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の信号線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0004】
従来からの多くの弾性表面波フィルタは、不平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、単に「不平衡型弾性表面波フィルタ」ともいう)であった。このため、不平衡型弾性表面波フィルタの後段に接続される回路や電子部品が平衡入力型となっている場合、この不平衡型弾性表面波フィルタと後段との間には、不平衡−平衡変換器(以下、変換器のことを単に「バラン」ともいう)が必要であった。また、不平衡型弾性表面波フィルタの前段の回路や電子部品が平衡出力型となっている場合、前段とこの不平衡型弾性表面波フィルタとの間には、バランが必要であった。
【0005】
よって、不平衡型弾性表面波フィルタ自体にバランの機能を付加するため、この不平衡型弾性表面波フィルタに、不平衡−平衡変換機能を持たせた不平衡入力−平衡出力型弾性表面波フィルタや、平衡−不平衡変換機能を持たせた平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、これらを「平衡型弾性表面波フィルタ」ともいう)の実用化が進められている。また、それに加え、平衡型弾性表面波フィルタの平衡度を改善することが提案されている。
【0006】
例えば、図32に示される多電極形とされた弾性表面波フィルタ900は、圧電基板上に、弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT(Inter Digital Transducer)電極901,902,903を配設している。また、前記3個のIDT電極901,902,903を挟み込む位置に、反射器電極904,905を配設している(特許文献1を参照)。
IDT電極902は、不平衡入力端子906から、互いに対向して配置された一対の櫛歯状電極の一方に電界を加えることにより、弾性表面波を励振する。そして、励振された弾性表面波は、IDT電極902の両側に位置するIDT電極901,903に伝搬される。そして、IDT電極901の櫛歯状電極の一方に接続された出力信号端子907から信号が出力され、IDT電極903の櫛歯状電極の一方に接続された出力信号端子908から信号が出力されることで、弾性表面波フィルタ900は、平衡信号を出力することができる。
【0007】
この構造により、弾性表面波フィルタ900は、バランとしての不平衡入力−平衡出力変換機能を有することができる。
図33に示される弾性表面波フィルタ910は、弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極911,912,913を近接配置し、これらのIDT電極を挟み込む位置に、反射器電極914,915を配設している(特許文献2を参照)。
【0008】
IDT電極912は、それを形成する一対の櫛歯状電極の一方が2分割されている。そして、2分割された櫛歯状電極はそれぞれ、音響的には縦続接続となり、電気的には直列接続となるよう、平衡信号端子916,917に接続されている。
IDT電極911,913はそれぞれ、IDT電極912に対して、極性が反転するような形状を有しており、ひとつの不平衡信号端子918に接続されている。
【0009】
このような構成により、弾性表面波フィルタ910は、バランとしての不平衡−平衡変換機能を有することができる。また、平衡信号端子916,917側のインピーダンス(約200Ω)は、不平衡信号端子918側のインピーダンス(約50Ω)の約4倍を有することができる。
特許文献3に記載の縦結合共振子型弾性表面波フィルタでは、弾性表面波の伝搬方向に3個並んだIDT電極のうち、中央に配置されたIDT電極を偶数対にすることにより、平衡度を改善する構成が提案されている。
【0010】
図34に示される弾性表面波フィルタ920は、弾性表面波の伝搬方向に沿って3個のIDT電極921,922,923を近接配置し、これらのIDT電極を挟み込む位置に、反射器電極924,925を配設した弾性表面波素子の電極パターン941を備えている。
IDT電極922は、それを形成する一対の櫛歯状電極の一方が2分割されている。そして、2分割された櫛歯状電極はそれぞれ、音響的には縦続接続となり、電気的には直列接続となるよう、平衡信号端子926,927に接続されている。
【0011】
IDT電極921,923はそれぞれ、IDT電極922に対して、極性が反転するような形状を有しており、IDT電極921,923とも、不平衡信号端子928に接続されている。
IDT電極922と平衡信号端子926とを接続する配線には、リアクタンス(キャパシタンス)成分929が接続されている。
【0012】
また、図35に示される弾性表面波フィルタ930は、前述の弾性表面波フィルタ920のIDT電極921,923と不平衡信号端子928との間に、IDT電極931,932,933を近接配置し、これらのIDT電極を挟み込むように反射器電極934,935を配設した弾性表面波素子の電極パターン942を備えている。そして、この弾性表面波素子の電極パターン942と弾性表面波素子の電極パターン941とは、縦続接続されている(特許文献4を参照)。
【0013】
IDT電極932は不平衡信号端子928に接続されており、IDT電極931は接続配線を介してIDT電極921に接続されており、IDT電極933は接続配線を介してIDT電極923に接続されている。
このようにして、弾性表面波フィルタ930は、弾性表面波フィルタ920に比べ、通過帯域外減衰量をさらに高めることができる。
【0014】
以上の他、特許文献5のように、IDT電極を、弾性表面波の伝搬方向に対して垂直となる中央の仮想軸を挟んで、非対称となるように形成した例も知られている。
【特許文献1】特開平6−204781号公報
【特許文献2】特開平11−97966号公報
【特許文献3】特開2002−84164号公報
【特許文献4】特開2004−96244号公報
【特許文献5】特開2003−46369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のような弾性表面波フィルタが提案されているが、特に最近では、通過帯域内での振幅平衡度及び位相平衡度の改善が求められており、これら振幅平衡度及び位相平衡度は、入力または出力の2つの信号線路間の電位差として測定される。ここで、「振幅平衡度」とは、各信号線路に流れる信号の振幅の大きさが、等しいことの程度を表す値のことで、振幅の大きさが等しいほど、振幅が近似するため、不要信号がキャンセルされて0dBに近くなり、振幅平衡度が良くなる。また、位相平衡度とは、入力または出力の2つの信号線路間の位相が、180度反転していることの程度を表す値のことで、位相差が180度に近いほど、位相平衡度は、0度に近くなり、位相平衡度が良くなる。
【0016】
ところで、特許文献1に開示されている弾性表面波素子(弾性表面波フィルタ)900(図32参照)では、IDT電極901,903から出力される信号の位相が互いに逆相になるように形成されている。そして、IDT電極901〜903において、電極指ピッチを変えたり、これらIDT電極同士の配置間隔を変えたりすることにより、弾性表面波素子900での平衡度を調整できる。
【0017】
しかし、このような構造では、平衡度が劣化し易いという問題点があった。
また、特許文献2に開示されている弾性表面波素子(弾性表面波フィルタ)910(図33参照)では、IDT電極912とIDT電極911との隣接した電極指の極性と、IDT電極912とIDT電極913との隣接した電極指の極性とが異なっている。このため、平衡信号端子916,917に生じる寄生容量が異なるため、弾性表面波素子910の平衡度が悪くなってしまうという問題点があった。
【0018】
さらに、特許文献3に開示されている弾性表面波素子では、例えば、圧電基板としてLiTaO3単結晶の基板を用いた場合、振幅平衡度は1.2dB程度であり、位相平衡度は11度程度しか得られない。よって、この弾性表面波素子は、充分な平衡度を得ることができなかった。
また、特許文献4に開示されている弾性表面波素子(弾性表面波フィルタ)930(図35参照)について、効果の検証を行った。
【0019】
図36は、弾性表面波素子930及び弾性表面波素子930’の周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
ここで、比較例としての弾性表面波素子930’は、図37に示されるように、図35での弾性表面波素子930におけるリアクタンス(キャパシタンス)成分929を付加しないものを用いた。
【0020】
図36において、横軸は周波数(単位:MHz)を表し、縦軸は挿入損失(単位:dB)を表している。また、図中の破線は、図35に示される弾性表面波素子930の挿入損失の特性曲線を示しており、図中の実線は、図37に示される弾性表面波素子930’の挿入損失の特性曲線を示している。
弾性表面波素子930の特性曲線(破線)によると、弾性表面波素子930’に比べ、通過帯域内のリップルが増加している。これは、弾性表面波素子930において、平衡信号端子926にリアクタンス成分929としてキャパシタンス成分を並列接続した構造により、平衡信号の一方にキャパシタンス成分が並列接続して付加されたため、伝送特性に変化が生じたためと考えられる。
【0021】
図38は、弾性表面波素子930及び弾性表面波素子930’の周波数とVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)との関係を示すグラフである。
図38において、横軸は周波数(単位:MHz)を表し、縦軸はVSWRを表している。また、図中の破線は、図35に示される弾性表面波素子930での特性曲線を示し、図中の実線は、図37に示される弾性表面波素子930’での特性曲線を示している。
【0022】
弾性表面波素子930の特性曲線(破線)によると、弾性表面波素子930’に比べ、VSWRが劣化していることが分かる。これは、平衡信号の一方にキャパシタンス成分(リアクタンス成分929)が並列接続して付加されたため、弾性表面波の反射特性が変化したためと考えられる。
図39(a)は、弾性表面波素子930及び弾性表面波素子930’の通過帯域近傍での振幅平衡度を示したグラフであり、図39(b)は、弾性表面波素子930及び弾性表面波素子930’の通過帯域近傍での位相平衡度を示したグラフである。
【0023】
図39(a)において、横軸は周波数(単位:MHz)を表し、縦軸は振幅平衡度(単位:dB)を表している。図39(b)において、横軸は周波数(単位:MHz)を表し、縦軸は位相平衡度(単位:度)を表している。また、図中の破線は、図35に示される弾性表面波素子930での特性曲線(上下の2つの破線は、リアクタンス成分929を2水準で振ったことによる)を示し、図中の実線は、図37に示される弾性表面波素子930’での測定結果を示している。
【0024】
図39(a)によれば、弾性表面波素子930は、弾性表面波素子930’に比べ、0dBの値から離れた値を有しており、振幅平衡度が良好ではなかった。これは、弾性表面波素子930において、平衡信号にキャパシタンス成分(リアクタンス成分929)を並列接続して付加しても、振幅の大きさのずれを補正できていないためと考えられる。
また、図39(b)によれば、弾性表面波素子930は、弾性表面波素子930’に比べ、0度の値から離れた値を有しており、位相平衡度が良好ではなかった。これは、弾性表面波素子930において、平衡信号にキャパシタンス成分を並列接続して付加しても、位相のずれを補正できていないためと考えられる。
【0025】
弾性表面波素子930は、図36,図38及び図39に示されたように、一方の平衡信号端子926にリアクタンス成分929としてのキャパシタンス成分を並列接続させても、挿入損失,VSWR,振幅平衡度及び位相平衡度に大きな改善は見られず、むしろ、悪化する特性もある。
そこで、本発明は、弾性表面波素子の振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することを少なくし、挿入損失及びVSWRを低減した高品質な弾性表面波フィルタとして機能する弾性表面波素子、弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記の目的を達成するための弾性表面波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って形成された3個以上の奇数個のIDT電極とを有し、前記奇数個のIDT電極のうち、中央に形成されたIDT電極の両側に配設されたIDT電極には、第1及び第2の基準電位用端子がそれぞれ接続されており、前記第1及び第2の基準電位用端子は、前記中央に形成されたIDT電極の中心を通り、前記伝搬方向に直交する方向に設けた仮想中心軸に対して、非対称に形成されているものである。
【0027】
この構成によれば、第1及び第2の基準電位用端子を非対称に配置することにより、弾性表面波素子の基準電位用端子にインダクタンス成分が接続されている状態になる。このため、接続用端子に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じ、弾性表面波素子の挿入損失およびVSWRを低減させることができる。
前記奇数個のIDT電極のうち、前記中央に形成されたIDT電極を構成する一対ある櫛歯状電極のうちの一方を少なくとも2つに分割し、前記分割された櫛歯状電極のそれぞれに接続用端子を接続している場合、弾性表面波素子を実装用基板へ実装した弾性表面波装置は、不平衡−平衡変換器の機能を有することができる。また、弾性表面波装置の接続用端子側には寄生容量を付加した形態とはならないので、弾性表面波素子の振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することが少ない。
【0028】
前記接続用端子と前記奇数個のIDT電極との間に、弾性表面波共振子が、少なくとも1つ以上接続されていてもよい。これにより、弾性表面波装置は、複数の弾性表面波素子を縦続接続した構造となるため、所望の通過帯域外の信号をさらに減衰することができる。これにより、これらの弾性表面波素子を有する弾性表面波装置は、良好に所望の通過帯域の信号を好適に抽出することができる。
【0029】
なお、前記基準電位用端子は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されるように、位置、形状及び面積の少なくとも1つが異なって形成されることが好ましい。
また、前記第1及び第2の基準電位用端子のそれぞれに生じるインダクタンス成分の大きさが0.1〜0.3nHであることが好ましい。
また、前記第1及び第2の基準電位用端子のそれぞれに生じるインダクタンス成分の大きさの差が0.1〜0.2nHであることが好ましい。
【0030】
また、本発明の弾性表面波素子は、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に形成された電極指を複数備えた反射器電極を有しているものであってもよい。
本発明の弾性表面波装置は、前記構成の弾性表面波素子と、当該弾性表面波素子を実装する実装用基板とを有しており、前記実装用基板は、前記第1及び第2の基準電位用端子に対向して配置された第1及び第2の接地用導体を配設しているものである。
【0031】
前記第1及び第2の接地用導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されているものであることが好ましい。
具体的には、前記第1及び第2の接地用導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されるように、位置、形状及び面積の少なくとも1つが異なって形成されていることが好ましい。
【0032】
この構成によれば、弾性表面波素子を実装用基板へ実装した弾性表面波装置において、前述の第1及び第2の接地用導体を非対称に配置することにより、接続用端子に整合回路が接続されている状態とほぼ同じ作用を生じる。これにより、この弾性表面波装置の振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することを少なくし、結果として、この弾性表面波装置の挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0033】
また、前述の弾性表面波装置の構成に加え、前記第1及び第2の接地用導体から前記実装用基板を貫くように接続された第1及び第2の貫通接地導体を有し、前記第1及び第2の貫通接地導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されているものであってもよい。
本発明の通信装置は、前述の弾性表面波装置を含む受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えている。この通信装置によれば、本発明の弾性表面波装置を、移動体通信機器等の高周波回路に好適に適用することができる。
【0034】
例えば、携帯電話機から送信される高周波信号は、弾性表面波フィルタにより不要信号が除去され、パワーアンプで増幅された後、アイソレータと本発明の弾性表面波装置を含む分波器を通り、アンテナから放射される。一方、アンテナで受信された高周波信号は、前記分波器で切り分けられ、ローノイズアンプで増幅され、弾性表面波フィルタでその不要信号を除去された後、アンプで再増幅されミキサで低周波信号に変換される。
【0035】
以上のように、本発明の弾性表面波装置を、通信装置の分波器に適用することにより、良好な高周波特性を有する通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下の図面において、各電極の大きさや電極間の距離、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に描いたものである。
図1は、本発明の弾性表面波素子の第1の実施形態を示した平面図である。図2は前記弾性表面波素子を実装する実装用基板における各層を示した平面図、図3は、積層された実装用基板の断面図である。
【0037】
弾性表面波装置S1は、図1に示される弾性表面波素子1を、図3に示される実装用基板100へ実装した構造を有する。
なお、本明細書での「主面」とは、板状に形成された圧電基板19の表面であって、電極パターン等が形成されている電極形成面のことをいう。
また、圧電基板19上において、弾性表面波が伝搬する方向軸をX軸とし、このX軸に対して直交する方向軸をY軸とする。
【0038】
弾性表面波素子1は、図1に示すように、圧電基板19の主面上に、弾性表面波素子の電極パターンNと、信号入出力用の接続用端子11,12,13と、第1,第2の基準電位用端子14,15とを有している(以下、接続用端子11〜13及び基準電位用端子14,15を総称するときは、「端子11〜15」という)。
また、弾性表面波素子1に駆動の基準となる基準電位が与えられる第1,第2の基準電位用端子14,15は、以下の実施形態の説明では、基準電位として接地電位が用いられているので、第1,第2の基準電位用端子14,15を「第1,第2の接地用端子14,15」と称する。
【0039】
弾性表面波素子の電極パターンNには、一対の櫛歯状(comb shaped)電極を備えた電極(IDT(Inter Digital Transducer)電極という)3,4,5が、3個、X軸方向に並んで配設されている。各櫛歯状電極は、Y軸方向に沿って複数形成された電極指を有する。IDT電極は、一対の櫛歯状電極の電極指どうしを噛み合わせて構成される。前記3個のIDT電極3〜5の両側には、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器電極(以下、「反射器」ともいう)6,7が配設されている。
【0040】
IDT電極3〜5のうち、中央に配設されたIDT電極4では、一対の櫛歯状電極の一方が2分割されている。そして、IDT電極4の前記2分割された櫛歯状電極のそれぞれが、平衡信号端子としての接続用端子12,13に接続されている。
両側に配置されたIDT電極3,5ではそれぞれ、一対の櫛歯状電極の一方が、不平衡信号端子としての接続用端子11に接続されている。また、IDT電極3の一対の櫛歯状電極の他方及び反射器6は接地用端子14に接続され、IDT電極5の一対の櫛歯状電極の他方及び反射器7は接地用端子15に接続されている。
【0041】
圧電基板19は、タンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶、四ホウ酸リチウム単結晶等の大きな圧電性を有する材料で形成されている。この材料を使用することにより、圧電基板19の電気機械結合係数を大きくすることができ、かつ、群遅延時間温度係数を小さくすることができる。
また、これらの圧電性を有する材料において、酸素欠陥を生じさせる処理やFe等の固溶処理を行うこととすれば、圧電基板19に生じる焦電効果を著しく低減することができる。これにより、圧電基板19の主面上のIDT電極3〜5の電極指の形成過程で発生する静電破壊を防止することができ、弾性表面波素子1の信頼性を良好に保つことができる。
【0042】
圧電基板19の厚みは、好ましくは、0.1〜0.5mm程度である。このため、この厚みが0.1mm未満で薄く形成されたときのように、圧電基板19が脆くなることもなく、逆に、この厚みが0.5mmを超えて厚く形成されたときのように、材料コストが大きくなることもなく、弾性表面波素子1の寸法が大きくなることもない。
圧電基板19上に形成される弾性表面波素子の電極パターンNや端子パターン(以下、圧電基板19の主面上に形成された各種の電極パターン、端子パターンを総称するときは、単に「各種電極パターン」ともいう)は、蒸着法、スパッタリング法やCVD法(Chemical Vapor Deposition method:化学気相成長法)等の薄膜形成法を用いて、AlやAl合金(例えば、Al−Cu系、Al−Ti系)等の金属を形成することにより製作される。
【0043】
また、各種電極パターン上には、Si,SiO2,SiNx,Al23等の半導体や絶縁体を材料とする保護膜(図示せず)が覆っている。この保護膜は、導電性異物が各種電極パターンに付着することによる電気的短絡を防ぎ、耐電力向上を図ることができる。この保護膜は、IDT電極3〜5や反射器6,7を形成した後に、蒸着法やスパッタリング法等の薄膜を形成する方法を用いて形成することができる。
【0044】
IDT電極3〜5は、その電極厚みを0.1μm〜0.5μm程度とすることで、弾性表面波を好適に励振することができる。
一方、弾性表面波素子1が実装される実装用基板100は、図2、図3に示されるように、弾性表面波素子1に対向して接合する面の上面層101と、ビアホールとしての貫通導体120が形成された第1貫通導体層102と、内部電極パターン層103と、貫通導体140が形成された第2貫通導体層104と、下面電極パターン層105と、下面誘電体層106とが積層された構造となっている。
【0045】
上面層101上には、接続用端子11,12,13に対向する位置にそれぞれ形成された接続用パッド導体111,112,113と、接地用端子14,15に対向する位置にそれぞれ形成された接地用導体114,115とが配設されている(以下、接続用パッド導体111〜113及び接地用導体114,115を総称するときは、「導体111〜115」という)。
【0046】
第1貫通導体層102には、接続用パッド導体111〜113に接続されている貫通導体120と、接地用導体114,115にそれぞれ接続されている貫通接地導体124,125(以下、これらを総称するときは貫通導体120という)とが配設されている。
内部電極パターン層103上には、貫通導体120に接続された内部電極パターン130が形成されている。
【0047】
第2貫通導体層104には、内部電極パターン130に接続された貫通導体140が形成されている。
下面電極パターン層105上には、貫通導体140に接続された下面電極パターン150が形成されている。
実装用基板100は、絶縁性の材料で形成された絶縁層を複数積層して構成されている。具体的には、実装用基板100の各層101〜106は、セラミックスやガラスセラミックスなどの絶縁性の材料で形成される。そして、セラミックス等の金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーを、シート状に成型したグリーンシートを作製し、貫通導体などのパターンを形成する。そして、これらグリーンシートを積層し圧着して、一体形成して焼成することによって、実装用基板100が作製される。
【0048】
導体111〜115、内部電極パターン130及び下面電極パターン150は、Au,Cu,Ag,Ag−Pd,W等の導電性材料で、スクリーン印刷等の成膜法やエッチングを用いたり、導体層を電解めっき法や無電解めっき法を用いて下層から順に前記材料を積層したりして、所望のパターンに形成される。
貫通導体120,140は、Ag等の導電性材料で形成されており、マイクロドリル,パンチング,レーザ加工,金型打ち抜き加工,フォトリソグラフィ法等の方法を用いて、グリーンシートの所定の位置に貫通孔が形成される。そして、これら貫通孔にAg系などの導体ペーストを充填することで、貫通導体120,140が形成される。
【0049】
導体111〜115上には、弾性表面波素子1の実装用基板100への実装(接合)のため、スクリーン印刷等の印刷法やディスペンサーを用いて、半田ペースト,Au−Snペースト等の溶融性導体で接合層が形成されている。
なお、接合層は、実装用基板100の導体111〜115上に形成されるものとしたが、弾性表面波素子1の端子11〜15上に形成されてもかまわない。このとき、接合層は、前述の方法と同じように、端子11〜15上に形成することができる。
【0050】
以下、弾性表面波素子1の実装用基板100への実装方法について、説明する。
弾性表面波素子1には、圧電基板19の主面上のIDT電極3〜5や反射器6,7などの各種電極パターンを取り囲むように、四角枠状の環状電極(図示せず)が形成されている。
一方、弾性表面波素子1を実装するための実装用基板100上には、弾性表面波素子1上の環状電極に対向する位置に、環状導体(図示せず)が連続的に形成されている。
【0051】
弾性表面波素子1の実装用基板100への実装に際して、弾性表面波素子1における圧電基板19の主面側を、実装用基板100の上面層101へ、フェースダウン実装する。つまり、弾性表面波素子1における圧電基板19の主面と実装用基板100の上面層101とを対向して配置する。そして、接合層により、接続用端子11〜13及び接地用端子14,15がそれぞれ、接続用パッド導体111〜113及び接地用導体114,115に接合されることで、弾性表面波素子1の実装用基板100への実装が完了する。この構造により、実装用基板100に実装された弾性表面波素子1は、実装用基板100に接続される他の回路部材との電気的接続を行うことができる。
【0052】
また、接合層により、弾性表面波素子1上の環状電極が、実装用基板100上の環状導体に接合される。これにより、IDT電極3〜5及び反射器6,7は、圧電基板19の主面、実装用基板100の上面層101及び環状電極で囲まれた空間が密閉される。
次に、実装用基板100への実装を完了した弾性表面波素子1の外周は、樹脂で封止される。これは、密閉空間への湿度の高い空気の侵入を防ぐと共に、弾性表面波装置S1の機械的強度を高めるために設けられる。ここで用いられる樹脂は、例えば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂,紫外線硬化樹脂や低融点ガラス等の材料である。そして、この封止樹脂は、ポッティング法や印刷法を用いて弾性表面波素子1上に塗布された後、硬化処理される。
【0053】
このようにして、弾性表面波素子1を実装用基板100へ実装することで、弾性表面波装置S1が作製される。
なお、本発明の弾性表面波装置の実装構造は、前述した態様に限定されるものではない。例えば、前述のような環状電極で囲まれた封止構造を有しない弾性表面波装置でもよい。
【0054】
ところで、弾性表面波素子1の接地用端子14と接地用端子15とは、図1に示されるように、中央に設けられたIDT電極4の中心を通り、前記伝搬方向に直交するY軸方向に設けられた仮想中心軸A(以下、単にA軸ともいう)に対して、非対称に配置されている。
また、接地用端子14と接地用端子15とに対応する実装用基板100の接地用導体114と接地用導体115も、図2に示されるように、A′軸に対して、非対称に配置されており、接地用端子14と接地用端子15とに対応する貫通接地導体124と貫通接地導体125も、A′軸に対して、非対称に配置されている。
【0055】
なお、図2に示された実装用基板100のA′軸は、弾性表面波素子1を実装用基板100へ実装したときに、図1に示された弾性表面波素子1のA軸と一致する軸である。
弾性表面波素子1を実装用基板100へ実装して成る弾性表面波装置S1は、不平衡−平衡変換器の機能を有する。
さらに、接地用端子14,15をA軸に対して非対称に配置し、接地用導体114,115及び貫通接地導体124,125をA′軸に対して非対称に配置している。この配置により、図4の等価回路図に示すとおり、弾性表面波素子1の接地用端子14,15にインダクタンス成分L1,L2が付加されている状態になる。L1の値は0.1nH以上0.3nH以下であることが好ましく、L2の値も0.1nH以上0.3nH以下であることが好ましい。L1とL2との差の絶対値|L1−L2|は、0.1nH以上0.2nH以下であることが好ましい。差の絶対値|L1−L2|が0.1nHより小さい場合、弾性表面波素子の接地用端子にインダクタンス成分が接続されている状態になって、接続用端子に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じ、弾性表面波素子の挿入損失及びVSWRを低減させることができる、という効果が不十分となる。差の絶対値|L1−L2|が0.2nHより大きい場合、弾性表面波素子の接地用端子に接続されるインダクタンス成分が大きくなりすぎるため、平衡度が悪化する。
【0056】
この回路構成により、接続用端子12,13に整合回路を接続した場合と同じ作用を生じる。すなわち、弾性表面波素子1の挿入損失を低減し、VSWRを1に近づけることができる。
なお、接続用端子12,13側には寄生容量が付加された形態とはならないので、弾性表面波素子1の振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することもない。
【0057】
図5は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第1の変形例を示す平面図である。
この変形例に係る弾性表面波素子1aでは、図1に示される弾性表面波素子1に比べ、IDT電極3及び反射器6に接続された接地用端子14aが、IDT電極5及び反射器7に接続された接地用端子15に比べて、大きな面積を有している。
この弾性表面波素子1aを実装した弾性表面波装置は、接地用端子14a及び15において、これらの面積の比を大きくすることにより、接地用端子14a,15の配線経路に、さらに大きさの違うインダクタンス成分を付加することができる。これにより、この弾性表面波素子1aを有した弾性表面波装置の平衡度が劣化することが少なく、結果として、弾性表面波装置の挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0058】
図6は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第2の変形例を示す平面図である。
弾性表面波素子1bでは、図1に示される弾性表面波素子1における接続用端子11と弾性表面波素子の電極パターンNとの間に、弾性表面波共振子Bが接続された形状を有している。
弾性表面波共振子Bは、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、このIDT電極の両側にそれぞれ配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器電極とを有している。弾性表面波共振子Bは、この形状により、1つ以上のモード共振を発生する。
【0059】
この弾性表面波共振子Bを電極パターンNに直列接続させることにより、弾性表面波共振子Bの反共振周波数は、弾性表面波素子1bの反共振周波数と一致することとなり、通過帯域内のインピーダンス整合の度合いが改善されるため、通過帯域内の挿入損失が大きく低減される。また、弾性表面波共振子Bの反共振周波数を、弾性表面波素子1bの高域側の遮断周波数と略一致させることにより、弾性表面波素子1bの周波数特性において、弾性表面波共振子Bによる減衰極が生じるため、通過帯域外減衰量をより大きくすることができる。
【0060】
よって、弾性表面波素子1bを有する弾性表面波装置は、通過帯域内での平衡度の劣化をさらに少なくし、挿入損失及びVSWRをさらに低減することができる。
なお、弾性表面波共振子Bは、図6に示される実施形態では、電極パターンNに対して直列に接続されているが、並列に接続されてもよい。
図7は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第3の変形例を示す平面図である。
【0061】
この弾性表面波素子1cでは、図1に示される弾性表面波素子1における弾性表面波素子の電極パターンNと接続用端子12,13との間のそれぞれに、弾性表面波共振子C1,C2が接続された形状を有している。
弾性表面波共振子C1,C2はそれぞれ、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、このIDT電極の両側にそれぞれ配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器電極とを有している。
【0062】
弾性表面波素子1cは、この構成により、通過帯域内での平衡度の劣化を少なくし、挿入損失及びVSWRをさらに低減することができる。
なお、弾性表面波共振子C1,C2は、図7に示される実施形態では、電極パターンNに対して直列に接続されているものとしたが、弾性表面波共振子C1,C2を電極パターンNに対して並列に接続してもよい。
【0063】
図8は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第4の変形例を示す平面図である。
この変形例にかかる弾性表面波素子1dは、図1に示される弾性表面波素子の電極パターンNの構成に、挿入反射器8d,9dを挿入した弾性表面波素子の電極パターンDを有している。
この弾性表面波素子の電極パターンDは、図1に示される弾性表面波素子の電極パターンNのIDT電極の間(IDT電極3,4の間及びIDT電極4,5の間)のそれぞれに、Y軸方向に長い電極指を複数備えた挿入反射器8d,9dが配設された構成を有している。挿入反射器8d,9dは、その隣り合う電極指の中心間距離が、両端部から中心部に向かって、漸次狭く形成されている。
【0064】
この弾性表面波素子1dは、挿入反射器8d,9dの電極指ピッチを変更することにより、IDT電極4にて励振された弾性表面波から生じる、多重結合した定在波モードの周期を調整することができるため、フィルタリングされる周波数を制御することができる。このため、この弾性表面波素子1dを有した弾性表面波装置は、さらに広帯域かつ低損失で良好な電気特性を得ることができる。
【0065】
図9は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第5の変形例を示す平面図である。
この変形例に係る弾性表面波素子1eは、図1に示される弾性表面波素子1に比べ、IDT電極3,5に接続された接地用端子16e,17eを備えており、それらは、A軸に対して、対称な位置に形成されている。
一方、反射器電極6,7に接続された接地用端子14e,15eは、A軸に対して、非対称な位置に形成されている。
【0066】
この弾性表面波素子1eは、接地用端子14e,15e以外の電極パターンを、A軸に対して対称に配置している。
弾性表面波素子1eの接地用端子14e,15eにインダクタンス成分が接続されている状態になる。そして、図4を用いて前述したのと同様、弾性表面波素子1eの等価回路上、接続用端子12,13に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じる。このため、弾性表面波素子の挿入損失およびVSWRを低減させることができる。また、接続用端子12,13側には寄生容量を付加した形態とはならないので、弾性表面波素子1eの振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することもない。よって、この弾性表面波素子1eを有する弾性表面波装置の平衡度をさらに向上することができる。
【0067】
以下では、図2に示す実装用基板100の変形例の構成を説明する。
図10は、図2に示す実装用基板での、第1の変形例に係る各層を示した平面図である。
この変形例に係る実装用基板100aでは、図2に示される実装用基板100に比べ、接地用導体114aの面積が大きく形成されている。そして、接地用導体114aに接続された貫通接地導体124aも、図2の貫通接地導体124に比べ、その径(つまり、断面積)が大きく形成されている。
【0068】
接地用導体114a,115や貫通接地導体124a,125の面積(断面積)の比を大きくすることにより、接地用導体114a,115に生じるインダクタンスの比を大きくすることができる。これにより、弾性表面波装置の接続用端子12,13に、寄生容量が付加することを抑制するため、平衡度を良好に保つことができる。したがって、この実装用基板100aを有する弾性表面波装置は、挿入損失及びVSWRをさらに低減することができる。
【0069】
図11は、図2に示す実装用基板での、第2の変形例に係る各層を示した平面図である。
この第2の変形例において、図11に示される実装用基板100bのように、図10に示される実装用基板100aにおける接地用導体124aに相当する部分が、複数の貫通接地導体124b(本実施形態では、2本)として形成されている。
【0070】
この実装用基板100bは、結果として、貫通接地導体124bと貫通接地導体125とが、A軸に対して、本数(したがって結果的には断面積)が異なって形成されているので、図10に示される実装用基板100aとほぼ同様の効果が得られる。
なお、図11に示されるように、複数本で形成された貫通接地導体124bのうちの一本は、A′軸に対して、貫通接地導体125に対称となる位置に配置されてもよい。
【0071】
以上のように、図2、図10及び図11に示される実装用基板100,100a,100bにおいて、A′軸に対して、接地用導体115に対する接地用導体114,114a,114bや、貫通接地導体125に対する貫通接地導体124,124a,124bの配置を非対称とすることや、断面積に差を設けることで、結果として、実装用基板100(100a,100b)を有する弾性表面波装置は、挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0072】
図12は、本発明の弾性表面波装置に含まれる弾性表面波素子における、第2の実施形態を示した平面図である。図13は、この弾性表面波装置に用いられる実装用基板における各層を示した平面図である。
弾性表面波素子2は、弾性表面波素子1の弾性表面波素子の電極パターンNと弾性表面波素子の電極パターンFとを縦続接続させている。
【0073】
この弾性表面波素子の電極パターンFは、圧電基板19の主面上に、X軸方向に沿って並んで配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた3個のIDT電極21,22,23を配設している。また、電極パターンFには、前記IDT電極21〜23の両側にそれぞれ配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器24,25が配設されている。
【0074】
また、弾性表面波素子の電極パターンFにおいて、IDT電極21及び反射器24は、接地用端子26に接続されており、IDT電極23及び反射器25は、接地用端子27に接続されている。
一方、弾性表面波素子2が実装される実装用基板200は、図13に示されるように、弾性表面波素子2に対向して接合する面の上面層101と、ビアホールとしての貫通導体120が形成された第1貫通導体層102と、内部電極パターン層103と、貫通導体140が形成された第2貫通導体層104と、下面電極パターン層105と、下面誘電体層106とが積層された構造になっている。
【0075】
実装用基板200の上面層101には、接続用端子11,12,13に対向する位置に、接続用パッド導体111,112,113が配設され、接地用端子14,15に対向する位置に、接地用導体114,115が配設されている。そして、接地用端子26,27に対向する位置に、接地用導体116,117が配設されている。そして、接地用導体114〜117は、実装用基板200の第1貫通導体層102を貫いて形成された貫通導体124〜127に接合されている。
【0076】
この構造により、弾性表面波素子2は、実装用基板200を介して、他の回路部材との電気的接続を行うことができる。
ところで、弾性表面波素子2の接地用端子14と15とは、図12に示されるように、中央に設けられたIDT電極4の中心を通るA軸に対して、非対称に配置されている。
また、接地用端子14と15とに対応する実装用基板200の接地用導体114と115も、図13に示されるように、A′軸に対して、非対称に配置されており、接地用端子14と15とに対応する貫通接地導体124と125も、A′軸に対して、非対称に配置されている。
【0077】
この弾性表面波素子2を実装用基板200へ実装した弾性表面波装置S2は、不平衡−平衡変換器の機能を有する。
また、接地用端子14,15、接地用導体114,115、貫通接地導体124,125のそれぞれを非対称に配置することにより、弾性表面波素子2の接地用端子14,15に互いに異なったインダクタンス成分が接続されている状態になる。
【0078】
このため、図4を用いて説明したのと同様、弾性表面波素子2の挿入損失およびVSWRを低減させることができる。また、接続用端子12,13側には寄生容量を付加した形態とはならないので、弾性表面波素子2の振幅平衡度及び位相平衡度が劣化することもない。よって、この弾性表面波装置S2の特性を向上することができる。
また、前記に加え、弾性表面波素子2は、弾性表面波素子の電極パターンN及び電極パターンFを縦続接続した構造であるので、所望の通過帯域外の信号をさらに大きく減衰させることができる。これにより、この弾性表面波素子2を有する弾性表面波装置は、所望の通過帯域の信号を良好に分離して、抽出することができる。
【0079】
図14は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第1の変形例を示す平面図である。
この変形例に係る弾性表面波素子2gでは、図12の弾性表面波素子の電極パターンNに比べて、IDT電極3及び反射器6に接続された接地用端子14gがIDT電極5及び反射器7に接続された接地用端子15に比べて、非常に大きな面積を有している。
この弾性表面波素子2gを実装した弾性表面波装置は、A軸に対して非対称な、接地用端子14g,15の面積比を大きくすることにより、接地用端子14g,15の配線経路に、さらに大きく異なるインダクタンス成分を付加することができる。これにより、この弾性表面波素子2gを有した弾性表面波装置の平衡度が劣化することを少なくし、結果として、弾性表面波装置の挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0080】
図15は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第2の変形例を示す平面図である。
弾性表面波素子2hでは、図12に示される弾性表面波素子2における接続用端子11と弾性表面波素子の電極パターンFとの間に、弾性表面波共振子Hが接続された形状を有している。
弾性表面波共振子Hは、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、このIDT電極の両側にそれぞれ配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器電極とを有している。弾性表面波共振子Hは、この構造により、1つ以上のモード共振を発生する。
【0081】
この弾性表面波素子2hは、弾性表面波共振子Hを接続した形状を有するため、入力信号(または、出力信号)のための接続用端子11,12,13とIDT電極の入力/出力電極との間のインピーダンスの整合を容易にとることができる。
また、弾性表面波素子2hの周波数特性において、弾性表面波共振子Hによる減衰極が生じるため、通過帯域外減衰量をより改善することができる。
【0082】
よって、この弾性表面波素子2hを有する弾性表面波装置は、通過帯域内での平衡度の劣化をさらに少なくし、挿入損失及びVSWRをさらに低減することができる。
なお、弾性表面波共振子Hは、図15に示される実施形態では、電極パターンFに対して直列に接続されているが、電極パターンFに対して並列に接続されてもよい。
図16は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第3の変形例を示す平面図である。
【0083】
この変形例に係る弾性表面波素子2iでは、電極パターンNと接続用端子12,13との間のそれぞれに、弾性表面波共振子I1,I2が接続された形状を有している。
弾性表面波共振子I1,I2はそれぞれ、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、このIDT電極の両側にそれぞれ配置され、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた反射器電極とを有している。
【0084】
弾性表面波素子2iは、この構成により、通過帯域内での平衡度の劣化を少なくし、挿入損失及びVSWRをさらに低減することができる。
なお、弾性表面波共振子I1,I2は、図16に示される実施形態では、電極パターンNに対して直列に接続されているものとしたが、電極パターンNに対して弾性表面波共振子I1,I2を並列に接続してもよい。
【0085】
図17は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第4の変形例を示す平面図である。
弾性表面波素子2jは、図12に示される弾性表面波素子の電極パターンNの構成に挿入反射器8j,9jを挿入した形状の弾性表面波素子の電極パターンJ1と、弾性表面波素子の電極パターンFの構成に挿入反射器28j,29jを挿入した形状の弾性表面波素子の電極パターンJ2とを有している。
【0086】
この弾性表面波素子の電極パターンJ1は、図12に示される弾性表面波素子の電極パターンNのIDT電極の間(IDT電極3,4の間及びIDT電極4,5の間)に、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた挿入反射器8j,9jがそれぞれ配設された構成である。挿入反射器8j,9jは、その隣り合う電極指の中心間距離が、両端部から中心部に向かって、漸次狭く形成されている。
【0087】
また、弾性表面波素子の電極パターンJ2は、図12に示される弾性表面波素子の電極パターンFのIDT電極の間(IDT電極22,21の間及びIDT電極22,23の間)に、Y軸方向に沿って形成された電極指を複数備えた挿入反射器28j,29jがそれぞれ配設された構成である。挿入反射器28j,29jは、その隣り合う電極指の中心間距離が、両端部から中心部に向かって、漸次狭く形成されている。
【0088】
この弾性表面波素子2jは、挿入反射器8j,9jの電極指ピッチを変更することにより、IDT電極4にて励振させた弾性表面波から生じる多重結合した定在波モードの周期を調整することができるため、この定在波モードの共振現象により、フィルタリング周波数を制御することができる。このため、この弾性表面波素子2jを有した弾性表面波装置は、さらに広帯域かつ低損失で良好な電気特性を得ることができる。
【0089】
図18は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第5の変形例を示す平面図である。
この変形例に係る弾性表面波素子2kでは、図12に示される弾性表面波素子2に比べ、反射器6には接地用端子14kが接続され、IDT電極3には接地用端子16kが接続され、反射器7には接地用端子15kが接続され、IDT電極5には接地用端子17kが接続されている。接地用端子14k,16kは、接地用端子15k,17kに比べて、大きな面積を有している。
【0090】
この弾性表面波素子2kは、接地用端子14k〜17k以外の電極パターンを、A軸に対して対称に配置することにより、この弾性表面波素子2kを有する弾性表面波装置の平衡度をさらに改善することができる。
以下では、図13に示す実装用基板200の変形例の構成を説明する。
図19は、図13に示す第2の実施形態の実装用基板での、第1の変形例の各層を示した平面図である。
【0091】
この変形例に係る実装用基板200gでは、図13に示される実装用基板200の接地用導体114に比べ、接地用導体114gの径(断面積)が大きく形成されている。そして、接地用導体114gに接続された貫通接地導体124gも、貫通接地導体124に比べ、その径(断面積)が大きく形成されている。
つまり、接地用導体114gと115との径(断面積)の比、貫通接地導体124gと125の径(断面積)の比を大きくしている。これにより、接地用導体114g,貫通接地導体124gに生じるインダクタンスと、接地用導体115,貫通接地導体125に生じるインダクタンスとを容易に制御することができる。これにより、弾性表面波装置の接続用端子12,13に、寄生容量が付加することを抑制して平衡度を良好に保つことができるとともに、この実装用基板200gを有する弾性表面波装置は、挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0092】
図20は、図13に示す第2の実施形態の実装用基板での、第2の変形例の各層を示した平面図である。
図20に示される実装用基板200hでは、図19に示される実装用基板200gにおける接地用導体124gに相当する部分が、複数の貫通接地導体124h(本実施形態では、2本)として形成されている。
【0093】
実装用基板200hは、この構成により、貫通接地導体124hと貫通接地導体125とが、A′軸に対して、本数が異なって形成されているので、図19に示される実装用基板200hとほぼ同様の効果が得られる。
なお、図20に示されるように、複数本で形成された貫通接地導体124hのうちの一本は、A′軸に対して、貫通接地導体125に対称となる位置に配置されることが好ましい。
【0094】
以上、図13,図19及び図20に示されているような実装用基板200,200g,200hは、接地用導体115に対応する接地用導体114,114g,114hや、貫通接地導体125に対応する貫通接地導体124,124g,124hにおいて、配置をA′軸に対して非対称とすることや、断面積に差を設けることで、結果として、実装用基板200(200g,200h)を有する弾性表面波装置は、挿入損失及びVSWRを低減することができる。
【0095】
なお、前述した弾性表面波素子1,1a〜1e,2,2g〜2kにおいて、接地のために備えられている接地用端子(14,15)、接地用導体(114,115)及び貫通接地導体(124,125)を除く各種電極パターンは、A軸、A′軸に対して対称に配置されていることが好ましい。
前述した弾性表面波素子を含む本発明の弾性表面波装置は、移動体通信機器等の高周波回路に好適に適用することができる。
【0096】
図21は、携帯電話機の高周波回路90を示すブロック回路図である。
携帯電話機から送信される高周波信号は、弾性表面波フィルタ91によりその不要信号が除去され、パワーアンプ92で増幅された後、アイソレータ93と本発明の弾性表面波装置を搭載した分波器94を通り、アンテナ99から放射される。
また、アンテナ99で受信された高周波信号は、前記分波器94で切り分けられ、ローノイズアンプ95で増幅され、弾性表面波フィルタ96でその不要信号を除去された後、アンプ97で再増幅されミキサ98で低周波信号に変換される。
【0097】
以上のように、前述の弾性表面波素子を有する本発明の弾性表面波装置を分波器94に適用することにより、振幅平衡度及び位相平衡度を劣化することがなく、挿入損失及びVSWRを低減した高品質な弾性表面波フィルタとして機能する分波器94を提供することができる。この結果、良好な特性を有する高周波回路90を得ることができる。
なお本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば図1を参照して説明すると、中央のIDT電極4には、一対ある櫛歯状電極のうちの一方が少なくとも2つ以上に分割され、分割された櫛歯状電極のそれぞれに接続用端子12,13が接続されており、また、中央のIDT電極4の両側に配設されたIDT電極3,5にはそれぞれ、一方の櫛歯状電極に接続用端子11が接続されているが、これらの接続用端子11,12,13は、配線よりも大きく形成された円形状のもの、楕円形状のもの、三角形状のもの、四角形状のもの、五角形以上の多角形状のものなどの種々の大きさ、形状のものを用いることができる。また、配線とほぼ同じ大きさの円形状のもの、楕円形状のもの、三角形状のもの、四角形状のもの、五角形以上の多角形状のものなどの種々の大きさ、形状のものを用いることができる。さらには、配線とほぼ同じ幅で十字状に形成したものなどを用いることもできる。
【実施例】
【0098】
本発明の弾性表面波装置の実施例について以下に説明する。
図1に示される弾性表面波素子1を図2に示される実装用基板100へ実装した弾性表面波装置S1について、具体的に説明する。
ここでは、移動体通信装置に用いられる1800MHz帯に中心周波数を持つPCS(Personal Communication Service)仕様の弾性表面波装置S1を作製した。
【0099】
まず、ベース基板には、38.7°YカットX伝搬のLiTaO3単結晶を用いた。この「ベース基板」とは、個々の圧電基板19にダイシング(切断)される前の基板のことである。
そして、ベース基板の各圧電基板19上に形成されるIDT電極3〜5、反射器電極6,7、接続配線、端子11〜15等の各種電極パターンは、以下のように、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)やRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いて、フォトリソグラフィを行って形成した。
【0100】
このベース基板を、アセトン,IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。
次に、クリーンオーブンによって、ベース基板の乾燥を充分に行った後、各種電極パターンとなる金属膜の成膜(deposit)を行った。金属膜の成膜には、スパッタリング装置を用いて、金属膜の材料として、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金を用いた。このときの金属膜の厚みは、約0.16μmであった。
【0101】
次に、スピンコート法により、金属膜上にフォトレジスト層を約0.5μmの厚みに形成した。そして、縮小投影露光装置(Step and Repeat Exposure Systems)(ステッパー)により、所望の形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジスト層をアルカリ現像液で溶解させ、所望のパターンを表出させた。その後、RIE装置により、金属膜のエッチングを行い、パターニングを完了した。このようにして、ベース基板上に本発明の弾性表面波素子1の各種電極パターンを得た。
【0102】
次に、各種電極パターンが形成されている領域上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用いて、保護膜として、SiO2膜を約0.02μmの厚みで形成した。
その後、前記ベース基板の各種電極パターンが形成された面にフォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィによって、そのフォトレジスト層にフリップチップ用の窓開け部を形成するためのパターニングを行い、RIE装置等を用いて、窓開け部をエッチングによって形成した。その後、スパッタリング装置を用いて、ベース基板の下面のフォトレジスト層上に、Alを主成分とする金属膜を成膜した。このときの金属膜の厚みは約1.0μmとした。その後、リフトオフ法により、フォトレジスト層及び不要箇所のAlの金属膜を同時に除去した。そして、窓開け部に、弾性表面波素子1を外部回路基板等にフリップチップ実装するための接合層を形成するための電極を形成した。
【0103】
次に、バンプボンディング装置を用いて、前記電極パッドにAuの材料で形成されたフリップチップ用の接合層を形成した。この接合層の直径は約80μmであり、その厚みは約30μmであった。
次に、ベース基板にその分割線(ダイシングライン)に沿ってダイシング加工を施し、チップとして、個々の弾性表面波素子1に分割した。
【0104】
次に、実装用基板100を作製した。実装用基板100の各層101〜106は、絶縁性の材料として、セラミックスまたはガラスセラミックス等の材料で形成された絶縁層を複数積層して構成した。そして、セラミックス等の金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーを、シート状に成型したグリーンシートを作製し、貫通導体120,140などのパターンを形成した。そして、これらグリーンシートを積層し圧着して、一体形成して焼成することによって、実装用基板100を作製した。
【0105】
その後、各チップをフリップチップ実装装置にて、端子11〜15の形成面を下面にして、実装用基板100に載置固定した。実装用基板100は、セラミック層が多層積層された2.5×2.0mm角の積層構造のものを用いた。次いで、N2雰囲気中でベーキングを行った。
このようにして、図1に示される弾性表面波素子1と図2に示される実装用基板100とを備える弾性表面波装置S1を作製した。
【0106】
勿論、弾性表面波素子1a〜1e,2,2g〜2kや、実装用基板100a,100b,200,200g,200hを有する弾性表面波装置を、前述と同様の方法により、作製することができる。
次に、本発明の弾性表面波装置の各種周波数特性の測定を行った。
以下に説明する図24〜図26において、次の条件のもと、各弾性表面波装置の周波数特性の測定を行った。
【0107】
以下の測定には、弾性表面波素子1(図1参照)を実装用基板100(図2参照)に実装した弾性表面波装置S1を用いた。この弾性表面波装置S1は、接地用端子14、接地用導体114及び貫通接地導体124を配置する位置を調整し、この弾性表面波装置S1の接地用端子14,15に生じるインダクタンス成分の大きさをそれぞれL1,L2になるよう調節した。ここで数値L1=0.1nH、L2=0.18nHとした。この数値は0.1≦L1≦0.3nH,0.1≦L2≦0.3nH,かつ0.1≦|L1−L2|≦0.2nHを満たしている。
【0108】
一方、比較例として、弾性表面波素子1p(図22参照)を、実装用基板100p(図23参照)に実装した弾性表面波装置Pを用いた。
図22に示される弾性表面波素子1pでは、弾性表面波素子1に比べ、A軸に対して、接地用端子14pと15とが対称な位置及び形状に配置されている。
図23に示される実装用基板100pでは、実装用基板100に比べ、A′軸に対して、接地用導体114pと接地用導体115とが対称な位置及び形状に配置され、貫通接地導体124pと貫通接地導体125とが対称な位置及び形状に配置されている。
【0109】
以下の測定では、測定機器としてマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)を用い、周波数1640〜2140MHzにおいて、0dBmの信号を入力し、801ポイントの測定ポイントで、弾性表面波装置S1,弾性表面波装置Pを測定した。各弾性表面波装置S1,弾性表面波装置Pのサンプル数は30個であった。
【0110】
図24〜図26のグラフにおいて、実線が本発明の弾性表面波装置S1のフィルタ特性を示し、破線が比較例の弾性表面波装置Pのフィルタ特性を示している。
図24は、弾性表面波装置S1,Pの周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
図24によれば、本発明の弾性表面波装置S1は、周波数が1947MHzのとき、挿入損失が約1.97dBであった。一方、比較例の弾性表面波装置Pは、周波数が1947MHz(及び1941MHz)のとき、挿入損失が約1.99dBであった。
【0111】
また、図24によれば、本発明の弾性表面波装置S1は、周波数が約1930〜1960MHzにおいて、比較例の弾性表面波装置Pに比べ、挿入損失が平均約0.02dB程度、改善していた。
よって、この弾性表面波素子1を含む本発明の弾性表面波装置S1は、通過帯域内における挿入損失を改善することができたといえる。このことは、弾性表面波素子1の等価回路上、弾性表面波素子1の接地用端子14,15にインダクタンス成分が付加されている状態になり、接続用端子12,13に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じたためと考えられる。
【0112】
図25は、弾性表面波装置S1,Pの周波数とVSWRとの関係を示したグラフである。
図25によれば、本発明の弾性表面波装置S1では、比較例の弾性表面波装置Pに比べ、フィルタ特性の通過帯域内におけるVSWRが全体的に減少していた。特に、約1915MHz〜1955MHzの間においては、VSWRが平均約0.1減少していた。
【0113】
よって、本発明の弾性表面波装置S1は、この構成により、通過帯域内におけるVSWRを低減することができたといえる。このことは、弾性表面波装置S1の接地用端子にインダクタンス成分が付加されたことによるものと考えられる。
図26(a)は、弾性表面波装置S1,Pの周波数と振幅平衡度との関係を示したグラフであり、図26(b)は、周波数と位相平衡度との関係を示したグラフである。
【0114】
図26(a)によれば、本発明の弾性表面波装置S1は、比較例の弾性表面波装置Pに比べ、周波数が約1900MHz〜2000MHzの間において、振幅平衡度を“0dB”に近づけることができた。
さらに、図26(b)によれば、本発明の弾性表面波装置S1は、比較例の弾性表面波装置Pに比べ、周波数が約1910MHz〜2000MHzの間において、位相平衡度を“0度”に近づけることができた。
【0115】
よって、本発明の弾性表面波装置S1は、通過帯域における振幅平衡度及び位相平衡度を改善することができたといえる。このことは、弾性表面波素子1の接地用端子14,15に値の調整されたインダクタンス成分が付加されている状態になることにより、接続用端子12,13に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じたためと考えられる。
以下に説明する図29〜図31において、次の条件のもと、各弾性表面波装置の周波数特性の測定を行った。
【0116】
以下の測定には、弾性表面波素子2(図12参照)を実装用基板200(図13参照)に実装した弾性表面波装置S2を用いた。この弾性表面波装置S2は、接地用端子14、接地用導体114及び貫通接地導体124を配置する位置を調整し、この弾性表面波装置S2の接地用端子14,15に生じるインダクタンス成分の大きさを、それぞれL1,L2になるよう調節した。ここで数値L1=0.1nH、L2=0.18nHとした。
【0117】
一方、比較例として、弾性表面波素子2q(図27参照)を、実装用基板200q(図28参照)に実装した弾性表面波装置Qを用いた。
図27に示される弾性表面波素子2qでは、弾性表面波素子2に比べ、A軸に対して、接地用端子14qと15とが対称な形状及び位置に配置されている。
図28に示される実装用基板200qでは、実装用基板200に比べ、A軸に対して、接地用導体114qと接地用導体115とが対称な形状及び位置に配置され、貫通接地導体124qと貫通接地導体125とが対称な形状及び位置に配置されている。
【0118】
以下の測定では、測定機器としてマルチポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製「E5071A」)を用い、周波数780〜960MHzにおいて、0dBmの信号を入力し、測定ポイントを、800ポイントの条件にて、弾性表面波装置S2,Qを測定した。各弾性表面波装置S2,Qのサンプル数は30個であった。
また、図29〜図31のグラフにおいて、実線が本発明の弾性表面波装置S2のフィルタ特性を示し、破線が比較例の弾性表面波装置Qのフィルタ特性を示している。
【0119】
図29は、弾性表面波装置S2,Qの周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
図29によれば、本発明の弾性表面波装置S2は、周波数が887MHzのとき、挿入損失が約1.64dBであった。一方、比較例の弾性表面波装置Qは、周波数が887MHzのとき、挿入損失が約1.65dBであった。
【0120】
したがって、本発明の弾性表面波装置S2は、周波数が約870〜892MHzにおいて、比較例の弾性表面波装置Qに比べ、挿入損失が平均約0.01dB程度、低減していた。
よって、この弾性表面波素子2を含む本発明の弾性表面波装置S2は、通過帯域内における挿入損失を低減することができたといえる。このことは、弾性表面波素子2の接地用端子14,15に、値の調整されたインダクタンス成分が付加接続されている状態になることにより、接続用端子12,13に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じたためと考えられる。
【0121】
図30は、弾性表面波装置S2,Qの周波数とVSWRとの関係を示したグラフである。
図30によれば、本発明の弾性表面波装置S2では、比較例の弾性表面波装置Qに比べ、フィルタ特性の通過帯域内におけるVSWRが低減した。特に、約870MHz〜898MHzの間においては、VSWRが平均約0.03低減した。
【0122】
よって、本発明の弾性表面波装置S2は、この構成により、通過帯域内におけるVSWRを低減することができたといえる。このことは、弾性表面波装置S2の接地用端子にインダクタンス成分が付加されている状態になり、接続用端子12,13に整合回路が接続されている状態とほぼ同じ機能が働いたためと考えられる。
図31(a)は、弾性表面波装置S2,Qの周波数と振幅平衡度との関係を示したグラフであり、図31(b)は、周波数と位相平衡度との関係を示したグラフである。
【0123】
図31(a)によれば、本発明の弾性表面波装置S2は、比較例の弾性表面波装置Qとほぼ同様に、周波数が約865MHz〜910MHzの間において、振幅平衡度を“0dB”に近づけることができた。
さらに、図26(b)によれば、本発明の弾性表面波装置S2は、比較例の弾性表面波装置Qとほぼ同様に、周波数が約865MHz〜910MHzの間において、位相平衡度を“0度”に近づけることができた。
【0124】
よって、本発明の弾性表面波装置S2は、この構成により、通過帯域における振幅平衡度及び位相平衡度を改善することができたといえる。このことは、弾性表面波素子2の接地用端子14,15にインダクタンス成分が付加されることにより、接続用端子12,13に整合回路が接続された場合と同じ作用を生じたためと考えられる。
なお、弾性表面波装置の接地用端子に接続されることになるインダクタンス成分の大きさをL1,L2を0.5nHにしたところ、従来例より平衡度が劣化した。よって、本発明では、接地用端子14や15に生じるインダクタンス成分L1,L2の大きさは、それぞれ約0.1〜0.3nHの範囲であることが望ましい。また、0.1≦|L1−L2|≦0.2nHを満たしていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる弾性表面波装置に含まれる弾性表面波素子における、第1の実施形態を示した平面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態にかかる弾性表面波装置に含まれる実装用基板における、第1の実施形態の各層を示した平面図である。
【図3】図3は、積層された実装用基板の断面図である。
【図4】図4は、図1の弾性表面波素子1の等価回路図である。
【図5】図5は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第1の変形例を示す平面図である。
【図6】図6は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第2の変形例を示す平面図である。
【図7】図7は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第3の変形例を示す平面図である。
【図8】図8は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第4の変形例を示す平面図である。
【図9】図9は、第1の実施形態の弾性表面波素子での、第5の変形例を示す平面図である。
【図10】図10は、図2に示す第1の実施形態の実装用基板での、第1の変形例の各層を示した平面図である。
【図11】図11は、図2に示す第1の実施形態の実装用基板での、第2の変形例の各層を示した平面図である。
【図12】図12は、本発明の他の実施形態にかかる弾性表面波装置に含まれる弾性表面波素子における、第2の実施形態を示した平面図である。
【図13】図13は、本発明の他の実施形態にかかる弾性表面波装置に含まれる実装用基板における、第2の実施形態の各層を示した平面図である。
【図14】図14は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第1の変形例を示す平面図である。
【図15】図15は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第2の変形例を示す平面図である。
【図16】図16は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第3の変形例を示す平面図である。
【図17】図17は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第4の変形例を示す平面図である。
【図18】図18は、第2の実施形態の弾性表面波素子での、第5の変形例を示す平面図である。
【図19】図19は、図13に示す第2の実施形態の実装用基板での、第1の変形例の各層を示した平面図である。
【図20】図20は、図13に示す第2の実施形態の実装用基板での、第2の変形例の各層を示した平面図である。
【図21】図21は、携帯電話機の高周波回路のブロック回路図である。
【図22】図22は、比較例としての弾性表面波装置に含まれる弾性表面波素子を示す平面図である。
【図23】図23は、比較例としての弾性表面波装置に含まれる実装用基板での各層を示す平面図である。
【図24】図24は、各弾性表面波装置の周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
【図25】図25は、各弾性表面波装置の周波数とVSWRとの関係を示したグラフである。
【図26】(a)は、各弾性表面波装置の周波数と振幅平衡度との関係を示したグラフであり、(b)は、周波数と位相平衡度との関係を示したグラフである。
【図27】図27は、比較例としての弾性表面波装置に含まれる弾性表面波素子を示す平面図である。
【図28】図28は、比較例としての弾性表面波装置に含まれる実装用基板での各層を示す平面図である。
【図29】図29は、各弾性表面波装置の周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
【図30】図30は、各弾性表面波装置の周波数とVSWRとの関係を示したグラフである。
【図31】(a)は、各弾性表面波装置の周波数と振幅平衡度との関係を示したグラフであり、(b)は、周波数と位相平衡度との関係を示したグラフである。
【図32】図32は、多電極形とされた弾性表面波フィルタの平面図である。
【図33】図33は、従来の弾性表面波フィルタの平面図である。
【図34】図34は、従来の弾性表面波フィルタの平面図である。
【図35】図35は、従来の弾性表面波フィルタの平面図である。
【図36】図36は、各弾性表面波素子の周波数と挿入損失との関係を示したグラフである。
【図37】図37は、図35に示す弾性表面波素子でのリアクタンス(キャパシタンス)成分を付加しない弾性表面波素子の平面図である。
【図38】図38は、各弾性表面波素子の周波数とVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)との関係を示すグラフである。
【図39】(a)は、各弾性表面波素子の通過帯域近傍の振幅平衡度を示したグラフであり、(b)は、各弾性表面波素子の位相平衡度を示したグラフである。
【符号の説明】
【0126】
1,S2 弾性表面波装置
1,1a〜1e,2,2g〜2k 弾性表面波素子
N,D,F,J1,J2 弾性表面波素子の電極パターン
B,C1,C2,E,H,I1,I2 弾性表面波共振子
19 圧電基板
3,4,5,21,22,23 IDT電極
6,7,24,25 反射器電極
8d,9d,28j,29j 挿入反射器電極
11 接続用パッド端子(入力用)
12,13 接続用パッド端子(出力用)
14,14a〜14h,15,26,27 接地用端子
100,100a,100b,200,200g,200h 実装用基板
101 上面層
102 第1貫通導体層
111,112,113 接続用パッド導体
114,114a,114b,114g,114h,115 接地用導体
120 貫通導体
124,124a,124b,124g,124h,125 貫通接地導体
A 仮想軸
X 弾性表面波の励振方向
Y 弾性表面波の励振方向に直交する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に形成されたIDT電極により、弾性表面波を励振する弾性表面波素子であって、
圧電基板と、
前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って形成された3個以上の奇数個のIDT電極とを有し、
前記奇数個のIDT電極のうち、中央に形成されたIDT電極の両側に配設されたIDT電極には、第1及び第2の基準電位用端子がそれぞれ接続されており、
前記第1及び第2の基準電位用端子は、前記中央に形成されたIDT電極の中心を通り、前記伝搬方向に直交する方向に設けた仮想中心軸に対して、非対称に形成されている、弾性表面波素子。
【請求項2】
前記奇数個のIDT電極のうち、前記中央に形成されたIDT電極を構成する一対ある櫛歯状電極のうちの一方が少なくとも2つに分割されている請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記分割された櫛歯状電極のそれぞれに接続用端子が接続されている請求項2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記第1及び第2の基準電位用端子は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されるように、位置、形状及び面積の少なくとも1つが異なって形成されている、請求項1から請求項3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の基準電位用端子のそれぞれに生じるインダクタンス成分の大きさが0.1以上0.3nH以下である請求項1から請求項4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記第1及び第2の基準電位用端子のそれぞれに生じるインダクタンス成分の大きさの差が0.1以上0.2nH以下である請求項1から請求項4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に直交する方向に形成された電極指を複数備えた反射器電極を有している、請求項1から請求項6のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
請求項3に記載の弾性表面波素子の構成に加え、
前記接続用端子と前記奇数個のIDT電極との間に、弾性表面波共振子が、少なくとも1つ以上接続されている、弾性表面波素子。
【請求項9】
圧電基板上に形成されたIDT電極により弾性表面波を励振する弾性表面波素子と、当該弾性表面波素子を実装する実装用基板とを有しており、
前記弾性表面波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って形成された3個以上の奇数個のIDT電極とを有し、
前記奇数個のIDT電極のうち、中央に形成されたIDT電極の両側に配設されたIDT電極には、第1及び第2の基準電位用端子がそれぞれ接続されており、
前記第1及び第2の基準電位用端子は、前記中央に形成されたIDT電極の中心を通り、前記伝搬方向に直交する方向に設けた仮想中心軸に対して、非対称に形成されており、
前記実装用基板は、前記第1及び第2の基準電位用端子に対向して配置された第1及び第2の接地用導体を配設している、弾性表面波装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の接地用導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されている、請求項9に記載の弾性表面波装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の接地用導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されるように、位置、形状及び面積の少なくとも1つが異なって形成されている、請求項10に記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の接地用導体から前記実装用基板を貫くように接続された第1及び第2の貫通接地導体を有し、前記第1及び第2の貫通接地導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されている、請求項9から請求項11のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項13】
前記第1及び第2の貫通接地導体は、前記仮想中心軸に対して非対称に形成されるように、径、断面形状及び本数の少なくとも1つが異なって形成されている、請求項12に記載の弾性表面波装置。
【請求項14】
請求項9から請求項13のいずれかに記載の弾性表面波装置を含む受信回路を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項15】
請求項9から請求項13のいずれかに記載の弾性表面波装置を含む送信回路を備えたことを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2007−181195(P2007−181195A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323618(P2006−323618)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】