説明

弾性表面波素子

【課題】通過帯域外減衰量を向上し、通過帯域幅の広いフィルタ特性を有し、かつ、小型化が可能な弾性表面波素子を提供すること。
【解決手段】IDT電極を有する弾性表面波共振子10,20と、信号を入力する入力端子31,32と、信号を出力する出力端子33,34とを備えている。弾性表面波共振子10では、IDT電極11が有する一対のバスバーのうち、2つに分割されたバスバー13a,13bはそれぞれ、出力端子33,34に接続されており、バスバー12は、入力端子31に接続されている。弾性表面波共振子20では、IDT電極21が有する一対のバスバーのうち、2つに分割されたバスバー23a,23bはそれぞれ、出力端子33,34に接続されており、バスバー22は、入力端子32に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子に関し、特に、携帯電話機等の移動体通信機器に好適に用いられる弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の移動体通信装置に搭載された弾性表面波素子が小型化されており、移動体通信装置が用いられる分野以外においても、幅広く用いられている。
また、この小型化に加え、広帯域化や通信キャリアの高周波化への対応、通過帯域外減衰量の向上、通過帯域の挿入損失の向上が、弾性表面波素子に要求されている。
最近では、移動体通信機器等の小型化、軽量化および低コスト化のため、使用部品の削減が進められ、弾性表面波素子に新たな機能の付加が要求されている。その1つに、不平衡入力−平衡出力型、または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった不平衡−平衡変換機能の要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路での信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の信号線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0003】
図6は、従来の共振子型弾性表面波素子100の電極構造における平面図を示す。
共振子型弾性表面波素子100は、圧電基板102上に、弾性表面波共振子110と、弾性表面波共振子120とを備えている。
圧電基板102上に形成された弾性表面波共振子110と弾性表面波共振子120とに含まれる複数のIDT(Inter Digital Transducer)電極は、電極指を互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極で形成されており、この櫛歯状電極に電界を印加することで、弾性表面波を励振する。
【0004】
IDT電極111に接続された入力端子131から不平衡信号を入力することにより、IDT電極111から弾性表面波が励振される。この弾性表面波は、IDT電極111の両側に配置されたIDT電極112,113に伝搬する。そして、IDT電極112,113に接続されたIDT電極122,123を介して、IDT電極121に接続された出力端子132から不平衡信号が出力される。
【0005】
また、反射器電極119a,119b,129a,129bは、前記IDT電極111〜113,121〜123で励振された弾性表面波を反射することができ、励振された弾性表面波のエネルギーを増幅することで、これら反射器電極119a,119b間及び反射器電極129a,129b間に定在波が生成される。
このようにして、弾性表面波共振子110,120を2段縦続接続して、1段目の弾性表面波共振子110と2段目の弾性表面波共振子120との定在波が相互干渉することで、通過帯域外減衰量を向上することができる。すなわち、同様の特性を有する弾性表面波共振子を2段縦続接続した場合、弾性表面波共振子110で減衰された通過帯域外の信号を、弾性表面波共振子120でさらに減衰することができ、結果として、通過帯域外減衰量を約2倍に向上することができる。
【0006】
前述の弾性表面波素子100は、不平衡入力信号から不平衡出力信号への変換を行う不平衡−不平衡変換機能と、通過帯域外の高減衰量化との機能を有するものである。これ以外にも、複数の機能を有する弾性表面波素子として、特許文献1に開示されているような弾性表面波共振子を複数個使用している平衡型弾性表面波フィルタ(平衡型弾性表面波素子)や、特許文献2に開示されているような多電極型を用いた弾性表面波フィルタ(弾性表面波素子)等がある。
【特許文献1】特開平7−288442号公報
【特許文献2】特開2001−292050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示されている平衡型弾性表面波フィルタは、複数の弾性表面波共振子を用いて平衡信号に対応する機能を有したものであるが、多くの励振電極を接続しなければならず、配線接続時の配線抵抗が大きくなってしまう。また、この平衡型弾性表面波フィルタでは、複数の励振電極を配設するための容積が大きくなってしまう。よって、この平衡型弾性表面波フィルタは、小型化することが難しかった。
【0008】
また、特許文献2に開示されている弾性表面波フィルタは、不平衡−平衡変換機能を有したものではあるが、平面的な配線が難しく、この弾性表面波フィルタの製造に手間がかかってしまっていた。
本発明の目的は、前述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであって、通過帯域外減衰量を向上し、通過帯域幅の広いフィルタ特性を有し、かつ、小型化が可能な弾性表面波素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための弾性表面波素子は、圧電基板の主面上に形成された励振電極により弾性表面波を励振する弾性表面波素子であって、前記励振電極を有する第1及び第2の弾性表面波共振子と、信号の入力を行う第1及び第2の入力端子と、信号の出力を行う第1及び第2の出力端子とを備えており、前記励振電極は、対向配置した一対のバスバーと、前記各バスバーから延びる弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に櫛歯状の電極指とを有しており、前記第1の弾性表面波共振子は、前記一対のバスバーのうちの一方が、少なくとも2つに分割され、前記2つに分割されたバスバーがそれぞれ、前記第1及び第2の出力端子に接続され、前記一対のバスバーのうちの他方が、前記第1の入力端子に接続されており、前記第2の弾性表面波共振子は、前記一対のバスバーのうちの一方が、少なくとも2つに分割され、前記2つに分割されたバスバーがそれぞれ、前記第1及び第2の出力端子に接続され、前記一対のバスバーのうちの他方が、前記第2の入力端子に接続されている。
【0010】
この構成によれば、前記励振電極を同一の弾性表面波の伝搬方向に沿って並べて形成された第1の弾性表面波共振子及び第2の弾性表面波共振子は、前記励振電極の一方のバスバーを入力端子に接続し、かつ、2つに分割した他方のバスバーを、それぞれ2つの出力端子に接続した3ポートを有する構造となっている。また、第1の弾性表面波共振子と、第2の弾性表面波共振子とは、第1及び第2の出力端子を介して接続された2入力2出力配線を有する構造となっている。これにより、配線接続が容易となり、前記励振電極のバスバーと入力端子及び出力端子に接続する引き出し電極との接続幅を広くし、引き出し電極の面積を大きくした平面的な接続配線を実現できるため、配線抵抗を低減することができ、弾性表面波素子の挿入損失を小さくすることができる。
【0011】
また、引き出し電極の面積を大きくして平面的に接続しており、弾性表面波の伝搬路をずらして弾性表面波素子を配置できるため、平衡信号が接地電極等に漏れ出ることなく、入力端子及び出力端子において、接地電極からのノイズを非対称に受信することがなく、平衡度の劣化が少ない良好な平衡信号を保つことができる。
さらに、弾性表面波素子は、不平衡−平衡変換機能を有する。これにより、例えば、後段に備えられる平衡入力にのみ対応した装置に対して、平衡信号の変換のための不平衡−平衡変換器(以下、バランともいう)を設置する必要がなく、部材設置のための容量を削減し、コストを抑えることができる。
【0012】
また、本発明の弾性表面波素子は、3ポート共振子としての第1の弾性表面波共振子と第2の弾性表面波共振子とを、格子状に接続した回路構造を有しているので、対称モードと非対称モードとの2つの共振モードを有することができる。これにより、2つの共振モードを格子状に接続するフィルタ特性を発現することが可能となる。
なお、前記第1の弾性表面波共振子は、前記2つに分割されたバスバーの間に、接地端子に接続されたバスバーが挿入された形状を有しており、前記第2の弾性表面波共振子は、前記2つに分割されたバスバーの間に、接地端子に接続されたバスバーが挿入された形状を有していることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第1の弾性表面波共振子における接地端子に接続されたバスバーを含む励振電極は、不平衡入力に対応することができる。同様に、第2の弾性表面波共振子における接地端子に接続されたバスバーを含む励振電極は、不平衡入力に対応することができる。これにより、この弾性表面波素子の前記接地端子に接続されたバスバーを含む2つの励振電極は、それぞれ不平衡−平衡変換機能を有しているので、回路部材の後段にバランを挿入することなく、入力信号を平衡信号に変換して出力することができる。また、変換後の平衡信号が良好に保たれフィルタ特性を得ることができ、不平衡−平衡フィルタと平衡フィルタとの縦続により、高減衰なフィルタを得ることができる。それに加え、この平衡信号を出力する配線が平面上で難なく接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下では、本発明の弾性表面波素子の実施の形態を、共振子型の弾性表面波素子を例にとり、図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に説明する図面において、同一構成のものには同一符号を付すものとする。
また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる弾性表面波素子での、圧電基板の主面上の電極配置を示す平面図である。
なお、本明細書での「主面2s」とは、板状に形成された圧電基板2の表面であって、弾性表面波共振子10,20等の電極パターンが形成されている電極形成面のことをいう。
【0016】
弾性表面波素子1は、圧電基板2と、この圧電基板2の主面2s上に形成された弾性表面波共振子10と、弾性表面波共振子10とほぼ同じ形状を有する弾性表面波共振子20とを備えている。また、弾性表面波素子1は、外部接続するために各弾性表面波共振子10,20に接続された入力端子31,32及び出力端子33,34(以下、総称するときは入出力端子31〜34という)を備えている。
【0017】
圧電基板2は、タンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶、四ホウ酸リチウム単結晶等の大きな圧電性を有する材料で形成されている。これにより、圧電基板2は、電気機械結合係数を大きくすることができ、かつ、群遅延時間温度係数を小さくすることができる。
また、これらの圧電性を有する材料において、酸素欠陥やFe等の固溶を行うこととすれば、圧電基板2に生じる焦電効果を著しく低減することができる。これにより、圧電基板2の主面2s上に形成された弾性表面波共振子10,20の電極指の破壊を防止することができ、弾性表面波素子1の信頼性を良好に保つことができる。
【0018】
圧電基板2の厚みは、好ましくは、0.03〜0.5mm程度である。このため、この厚みが0.03mm未満で薄く形成されたときのように、圧電基板2が脆くなることもなく、逆に、この厚みが0.5mmを超えて厚く形成されたときのように、材料コストが大きくなることもなく、弾性表面波素子1の寸法が大きくなることもない。
弾性表面波共振子10は、励振電極としてのIDT電極部11a,11b(以下、総称するときはIDT電極11という)及び反射器電極(以下、単に反射器ともいう)19a,19b(以下、総称するときは反射器19という)を有している。弾性表面波共振子20は、弾性表面波共振子10とほぼ同様の形状を有しており、IDT電極部21a,21b(以下、総称するときはIDT電極21という)及び反射器29a,29b(以下、総称するときは反射器29という)を有している。
【0019】
弾性表面波共振子10は、入力端子31、出力端子33,34の3つのポートに接続されている。弾性表面波共振子20は、入力端子32、出力端子33,34の3つのポートに接続されている。入力端子31,32から平衡信号が入力されることで、出力端子33,34から平衡信号を出力することにより、弾性表面波素子1は、3ポート共振子としての不平衡−平衡変換機能を有している。
【0020】
弾性表面波共振子10,20の電極パターンは、蒸着法、スパッタリング法やCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)等の薄膜形成法を用いて、AlやAl合金(例えば、Al−Cu系、Al−Ti系、Al−Mg系、Al−Cu−Mg系)等の金属で形成されている。
弾性表面波共振子10,20は、その電極厚みを0.1μm〜0.5μm程度とすることで、弾性表面波を好適に励振することができる。
【0021】
圧電基板2の主面2s上に形成されたIDT電極11,21や反射器19,29等の電極パターン(以下、圧電基板2の主面2s上に形成された電極パターンを総称するときは、単に「各種電極パターン」という)上には、Si,SiO2,SiNx,Al23等の半導体や絶縁体を材料とする保護膜(図示せず)が覆っており、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることができる。
【0022】
以下、この弾性表面波素子1の実装用基板(図示せず)への実装方法について、説明する。
実装用基板上には、弾性表面波素子1上の導体バンプとしての入出力端子31〜34に対向する位置に、導体パッド(図示せず)が形成されている。
また、弾性表面波素子1には、圧電基板2の主面2s上の弾性表面波共振子10,20を取り囲むように、四角枠状の環状電極(図示せず)が形成されている。
【0023】
一方、弾性表面波素子1を実装するための実装用基板上には、弾性表面波素子1上の環状電極に対向する位置に、環状導体(図示せず)が形成されている。
弾性表面波素子1と実装用基板との実装に際して、圧電基板2の主面2s側を、実装用基板に向けて、フェースダウン実装する。つまり、入出力端子31〜34が、実装用基板上の対向した導体パッドに載置固定され、入出力端子31〜34と導体パッドとが、半田等の溶融性材料を用いて接続される。
【0024】
一方、弾性表面波素子1上の環状電極が、半田等の溶融性材料を用いて、実装用基板上の環状導体に接合される。そして、弾性表面波共振子10,20は、圧電基板2の主面2s、実装用基板の実装面及び環状電極で囲まれた空間で密閉される。
このようにして、実装用基板へ弾性表面波素子1を実装することで、弾性表面波装置が作製される。
【0025】
なお、本発明の弾性表面波素子1の実装構造は、前述した環状電極で囲まれた封止構造の態様に限定されるものではない。
以下、弾性表面波共振子10及び弾性表面波共振子20の詳細な構成を説明する。
弾性表面波共振子10は、前述のように、IDT電極11と反射器19とを備えている。
【0026】
IDT電極11は、図1に示されるように、IDT電極部11aとIDT電極部11bとに区分けされた領域を有しており、平行に対向配置されたバスバー12とバスバー13a,13bとを有している。IDT電極11は、このバスバー12から延びる電極指とバスバー13a,13bから延びる電極指とが互いに対向して噛み合わさった櫛歯状電極である。
【0027】
バスバー12は、分割されておらず、入力端子31に配線接続されている。
一方、バスバー12に対向配置されているバスバーは、2つのバスバー13a及びバスバー13bに分割されている。IDT電極11は、バスバー13aが形成された側をIDT電極部11aとして、また、バスバー13bが形成された側をIDT電極部11bとして、2つの領域に区分けされている。そして、バスバー13aは出力端子33に配線接続され、バスバー13bは出力端子34に配線接続されている。
【0028】
反射器19a,19bはそれぞれ、IDT電極11の両端に配設されており、IDT電極11から励振される弾性表面波の伝搬方向に直交する向きに平行配置された複数の電極指を有している。
IDT電極11の電極指ピッチPiは一定(等ピッチ)であり、約2.01μmである。一方、反射器19の電極指ピッチPrは、IDT電極11の電極指ピッチPiに比べて、わずかに広く形成されており、好ましくは1.01〜1.02倍の値を有するように形成されている。
【0029】
IDT電極11と反射器19との電極指ピッチの広さをわずかにずらして形成されている理由は、以下のとおりである。
反射器19は電気的に短絡状態であり、一方、IDT電極11は終端抵抗がついた状態である。このため、反射器19とIDT電極11とは、電気回路的に異なる状態にあり、その結果、反射器19における弾性表面波を反射する実効周波数帯域と、IDT電極11における弾性表面波の実効周波数帯域とに、わずかなズレが生じる。よって、反射器19とIDT電極11との実効周波数帯域を合致させるために、反射器19の電極指ピッチは、IDT電極11の電極指ピッチよりもわずかに広く形成されている。
【0030】
一方、弾性表面波共振子20は、前述のように、IDT電極21と反射器29とを備えている。
IDT電極21は、図1に示されるように、IDT電極部21aとIDT電極部21bとに区分けされた領域を有しており、平行に対向配置されたバスバー22とバスバー23a,23bとを有している。IDT電極21は、このバスバー22から延びる電極指とバスバー23a,23bから延びる電極指とが互いに対向して噛み合わさった櫛歯状電極である。
【0031】
バスバー22は、分割されておらず、入力端子32に配線接続されている。
一方、バスバー22に対向配置されているバスバーは、2つのバスバー23a及びバスバー23bに分割されている。IDT電極21は、バスバー23aが形成された側をIDT電極部21aとして、また、バスバー23bが形成された側をIDT電極部21bとして、2つの領域に区分けされている。そして、バスバー23aは出力端子33に配線接続され、バスバー23bは出力端子34に配線接続されている。
【0032】
反射器29a,29bはそれぞれ、IDT電極21の両端に配設されており、IDT電極21から励振される弾性表面波の伝搬方向に直交する向きに平行配置された複数の電極指を有している。
IDT電極21の電極指ピッチPiは、弾性表面波共振子10と同様に、一定(等ピッチ)であり、約2.01μmである。一方、反射器29の電極指ピッチPrは、IDT電極21の電極指ピッチPiに比べて、前述のように、わずかに広く形成されている。
【0033】
図2は、図1での弾性表面波素子1の回路構造を示す回路図である。
弾性表面波素子1に含まれる共振子は、前述のとおり、弾性表面波共振子10,20である。
弾性表面波共振子10は、図1に示されるように、バスバー12と、バスバー12の対をなす2つのバスバー13a,13bとを有している。そして、バスバー12は入力端子31に接続され、IDT電極部11aのバスバー13aは出力端子33に接続され、IDT電極部11bのバスバー13bは出力端子34に接続されている。弾性表面波共振子10は、3つの入力端子31及び出力端子33,34に接続されていることから、3ポート共振子構造を有している。
【0034】
また、弾性表面波共振子20は、図1に示されるように、バスバー22と、バスバー22の対をなす2つのバスバー23a,23bとを有している。そして、バスバー22は入力端子32に接続され、IDT電極部21aのバスバー23aは出力端子33に接続され、IDT電極部21bのバスバー23bは出力端子34に接続されている。弾性表面波共振子20は、3つの入力端子32及び出力端子33,34に接続されていることから、3ポート共振子構造を有している。
【0035】
このように、弾性表面波共振子10は、図2に示されるように、バスバー12に相当する部分が入力端子31に接続され、バスバー13aに相当する部分が出力端子33に接続され、バスバー13bに相当する部分が出力端子34に接続された回路構造を形成している。すなわち、弾性表面波共振子10は、IDT電極部11aに相当する共振子が、入力端子31と出力端子33とに接続され、IDT電極部11bに相当する共振子が、入力端子31と出力端子34とに接続された回路構造を形成している。
【0036】
また、弾性表面波共振子20は、図2に示されるように、バスバー22に相当する部分が入力端子32に接続され、バスバー23aに相当する部分が出力端子33に接続され、バスバー23bに相当する部分が出力端子34に接続された回路構造を形成している。すなわち、弾性表面波共振子20は、IDT電極部21aに相当する共振子が、入力端子32と出力端子33とに接続され、IDT電極部21bに相当する共振子が、入力端子32と出力端子34とに接続された回路構造を形成している。
【0037】
したがって、弾性表面波素子1では、図2に示されるように、4つの共振子に相当するIDT電極部11a,11b,21a,21bを格子状に平面配線した回路構造が形成されている。そして、弾性表面波素子1は、格子状に4つの共振子を接続したときと同様の電気特性を有するため、より高いフィルタ特性を得ることができる。
また、弾性表面波素子1は、対称モードと非対称モードとの2つの共振モードを生成することができる。これは、前述のような励振電極構成および構造により、縦結合共振子型弾性表面波フィルタと同等の構成となり、その共振子中を伝搬する波が定在波となり、その定在波の共振モードとして、対称モードと非対称モードとの2つの共振モードが励振することにより、2重共振状態を生成し、この共振状態でのフィルタ特性を得ることができる。
【0038】
以上のようにして、弾性表面波素子1は、弾性表面波共振子10と弾性表面波共振子20とが平面配線を形成しているため、配線接続が容易となり、IDT電極11,21の有するバスバー12,13a,13b,22,23a,23bと入出力端子31〜34に接続した引き出し配線との接続幅を広くし、引き出し配線の面積を大きくした平面的な接続配線を実現できるため、配線抵抗を低減することができ、弾性表面波素子1の挿入損失を小さくすることができる。
【0039】
また、弾性表面波素子1は、弾性表面波を効率よく閉じ込めることができる3ポート共振子構造を有しているため、挿入損失の劣化が少なく、通過帯域幅の広い優れたフィルタ特性を有することができる。それに加え、引き出し配線の面積を大きくして平面的に接続しており、弾性表面波の伝搬路をずらして弾性表面波素子1を配置できるため、平衡信号が接地電極等に漏れ出ることなく、入出力端子31〜34において接地電極からのノイズを非対称に受信することがなく、平衡度の劣化が少ない良好な平衡信号を保つことができる。
【0040】
さらに、弾性表面波素子1は、バランとしての不平衡−平衡変換機能を有する。これにより、例えば、後段に備えられる平衡入力にのみ対応した装置に対して、平衡信号の変換のためのバランを設置する必要がなく、部材設置のための容量を削減し、コストを抑えることができる。
また、弾性表面波素子1は、図2に示されるように、格子状に接続された回路構造を有しているので、弾性表面波素子1が形成されたチップのサイズを小さくしても、より高いフィルタ特性を得ることができ、かつ、2つの共振モードを有することができる。
【0041】
以下では、本発明の他の実施形態にかかる弾性表面波素子の構成を説明する。
図3は、本発明の他の実施形態にかかる弾性表面波素子1aの平面図である。
弾性表面波素子1aは、圧電基板2と、この圧電基板2の主面2s上に形成された弾性表面波共振子50と、弾性表面波共振子50とほぼ同じ形状を有する弾性表面波共振子60とを備えている。また、弾性表面波素子1aは、外部接続するための入力端子31,32及び出力端子33,34に加え、接地するための接地端子39a〜39e(以下、総称するときは接地端子39という)を備えている。
【0042】
弾性表面波共振子50は、IDT電極51を備えている。このIDT電極51は、バスバーにより区切られた、IDT電極部51aと、IDT電極部51aを挟む位置に配設されたIDT電極部51b,51cとを有している。そして、IDT電極51の両端には、反射器59a,59b(以下、総称するときは反射器59という)が配設されている。
IDT電極部51aは、対向配置された一対のバスバー52aとバスバー53aとを有している。バスバー52aは、入力端子31に接続されており、バスバー53aは、接地端子39aに接続されている。
【0043】
IDT電極部51bは、対向配置された一対のバスバー52bとバスバー53bとを有している。バスバー52bは、接地端子39bに接続されており、バスバー53bは、出力端子33に接続されている。また、バスバー52bは、反射器59aの片方のバスバーに接続されている。
IDT電極部51cは、対向配置された一対のバスバー52cとバスバー53cとを有している。バスバー52cは、接地端子39cに接続されており、バスバー53cは、出力端子34に接続されている。また、バスバー52cは、反射器59bの片方のバスバーに接続されている。
【0044】
一方、弾性表面波共振子60は、IDT電極61を備えている。このIDT電極61は、バスバーにより区切られた、IDT電極部61aと、IDT電極部61aを挟む位置に配設されたIDT電極部61b,61cとを有している。そして、IDT電極61の両端には、反射器69a,69b(以下、総称するときは反射器69という)が配設されている。
【0045】
IDT電極部61aは、対向配置された一対のバスバー62aとバスバー63aとを有している。バスバー62aは入力端子32に接続されており、バスバー63aは接地端子39dに接続されている。
IDT電極部61bは、対向配置された一対のバスバー62bとバスバー63bとを有している。バスバー62bは接地端子39eに接続されており、バスバー63bは出力端子33に接続されている。また、バスバー62bは、反射器69aの片方のバスバーに接続されている。
【0046】
IDT電極部61cは、対向配置された一対のバスバー62cとバスバー63cとを有している。バスバー62cは接地端子39cに接続されており、バスバー63cは出力端子34に接続されている。また、バスバー62cは、反射器69bの片方のバスバーに接続されている。
IDT電極50は、前述のとおり、IDT電極部51aにおいて、バスバー52aが入力端子31に接続されており、バスバー53aが接地端子39aに接続されているので、不平衡入力に対応することができる。IDT電極60は、IDT電極50と同様に、IDT電極部61aにおいて、バスバー62aは入力端子32に接続されており、バスバー63aは接地端子39dに接続されているので、不平衡入力に対応することができる。よって、弾性表面波素子1aは、図1に示される弾性表面波素子1に比べて、図3に示される弾性表面波素子1aの構成では、3つのIDT電極部を有する構造の励振電極構成により、縦結合共振器型弾性表面波フィルタと同等の構成となり、その共振器中を伝搬する波が定在波となり、その定在波の共振モードとして、対称モードと非対称モードとの2つの共振モードが励振することにより、2重共振状態を生成し、この共振状態でのフィルタ特性を得られる。
【0047】
以上のように、この弾性表面波素子1aのIDT電極部51a,61aはそれぞれ、不平衡−平衡変換機能を有しているので、回路部材の後段に不平衡−平衡変換器を挿入することなく、入力信号を平衡信号に変換して出力することができる。また、変換後の平衡信号が良好に保たれたフィルタ特性を得ることができ、不平衡−平衡フィルタと平衡フィルタとの縦続により、高減衰なフィルタを得ることができる。それに加え、この平衡信号を出力する配線が平面上で難なく接続することができる。そして、図1に示される2つのIDT電極部を有する構造に比べて、非常に広帯域なフィルタ特性が得られる。
【0048】
ところで、本発明の弾性表面波素子1,1aは、小型化が求められている移動体通信機器等の高周波回路に好適に適用することができる。
図4は、携帯電話機の高周波回路90のブロック回路図である。
携帯電話機から送信される高周波信号は、弾性表面波フィルタ91によりその不要信号が除去され、パワーアンプ92で増幅された後、アイソレータ93と本発明の弾性表面波素子1,1aを含む分波器(DPX)94を通り、アンテナ99から放射される。
【0049】
また、アンテナ99で受信された高周波信号は、前記分波器94で切り分けられ、ローノイズアンプ95で増幅され、弾性表面波フィルタ96でその不要信号を除去された後、アンプ97で再増幅されミキサ98で低周波信号に変換される。
以上のように、本発明の弾性表面波素子1,1aを、高電力の高周波信号が入力される分波器94に適用することにより、通過帯域外減衰量を向上し、通過帯域幅の広いフィルタ特性を有し、かつ、小型化が可能な高周波回路90を提供することができる。
【0050】
なお、前述の弾性表面波素子1,1a上に形成された弾性表面波共振子(10,20,50,60)等の各種電極パターンの構造は、図示された態様に限定されるものではない。例えば、圧電基板2上に弾性表面波の伝搬方向に対して直交する方向に電極指を複数本備えたIDT電極を1つ以上配設してなり、電極指ピッチが一定でなくとも2つ以上の共振モードを得ることが出来ればよい。よって、3ポート共振子の電気接続構造を有している弾性表面波素子であれば、弾性表面波共振子を多数段に形成することもできる。これにより、通過帯域外減衰量を向上することができる。
【0051】
むろん、弾性表面波の極性を利用した不平衡信号と平衡信号との相互の変換を行うような弾性表面波素子を、前段や後段へ接続すれば、通過帯域以外の周波数の出力を、さらに減衰することができる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0052】
図1に示される本発明にかかる弾性表面波素子1を製造した。
まず、弾性表面波素子1の圧電基板2には、38.7°YカットX伝搬のLiTaO3単結晶を用いた。
圧電基板2上に形成されるIDT電極11,21、反射器電極19,29、配線電極や端子31〜34等の各種電極パターンは、以下のように、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)やRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いて、フォトリソグラフィを行って形成した。
【0053】
各種電極パターンを形成するため、まず、アセトンやIPA(イソプロピルアルコール)等の材料によって、圧電基板2の表面を超音波洗浄し、この圧電基板2上に付着した有機成分を落とした。そして、クリーンオーブンによって、圧電基板2を充分に乾燥した。
次に、スパッタリング装置を用いて、Al99重量%−Cu1重量%合金で、各種電極パターンとなる金属薄膜の成膜を行った。この金属薄膜の膜厚は、約0.3μmであった。
【0054】
次に、この金属薄膜上に、フォトレジスト層を約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置を用いて、各種電極パターンが所定の形状となるようにパターニングを行った。そして、現像装置を用いて、不要部分のフォトレジスト層をアルカリ現像液で溶解することで、所定形状の各種電極パターンを表出した。その後、RIE装置を用いて、金属薄膜のエッチングを行い、IDT電極11,21、反射器電極19,29、配線電極や端子31〜34等の各種電極パターンを形成した。
【0055】
このとき、圧電基板2上に形成されたIDT電極11の電極指の対数は全44対であり、IDT電極部11aは22対であり、IDT電極部11bは22対であった。
一方、IDT電極21は全44対であり、IDT電極部21aは22対であり、IDT電極部21bは22対であった。
IDT電極11,21の平均電極指ピッチは、ともに約2.01μmであった。また、反射器19,29の平均電極指ピッチは、ともに約2.02μmであった。
【0056】
その後、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用いて、圧電基板2の主面2s上の各種電極パターンを覆うように、SiO2で約0.02μmの厚みの保護膜を形成した。
次に、入出力端子31〜34上に電極パッドを形成するために、圧電基板2の各種電極パターンが形成された主面2s上にフォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィによって、そのフォトレジスト層のパターニングを行った。そして、RIE装置等を用いて、入出力端子31〜34の下地となる電極パッドの窓開け部用のエッチングを行った。その後、スパッタリング装置を用いて、フォトレジスト層上にAlを主成分とする金属膜を約1.0μmの膜厚で形成した。その後、リフトオフ法を用いて、フォトレジスト層及び不要箇所に形成した金属膜を除去し、弾性表面波素子1の入出力端子31〜34上に、外部回路基板等にフリップチップ実装するための電極パッドを形成した。
【0057】
次に、バンプボンディング装置を用いて、前記電極パッド上に、フリップチップ用の導体バンプをAuで形成した。導体バンプは、その直径が約80μmであり、その高さが約30μmであった。これにより、電極パッド上に金属膜を積層した導体バンプとしての入出力端子31〜34を形成した。
次に、所定の各種電極パターン等が形成された圧電基板2を、所定のダイシングラインに沿ってダイシングし、個々のチップとして、弾性表面波素子1に切り分けた。その後、フリップチップ実装装置を用いて、弾性表面波素子1上の入出力端子31〜34が形成された面(圧電基板2の主面2s)を、実装用基板に対向して載置固定し、弾性表面波素子1を実装用基板に接合した。この実装用基板は、セラミック層を多層積層した2.5×2.0mm角のものを用いた。
【0058】
その後、N2雰囲気中でベークを行った。このベークとは、半導体デバイスの半製品、製品の各製造段階で付着した不要な水分を取り除くために、一定時間、高温で処理すること、または、各製造段階で形成されている部品材料のなじみをよくしたりするために、所定以上の温度をかけて処理すること、である。
このようにして、弾性表面波素子1を作製した。
【0059】
図5は、本発明の実施形態にかかる弾性表面波素子1の、規格化した周波数帯域と、挿入損失(dB)との関係を示すグラフである。
ここでは、図1に示される弾性表面波素子1の入力端子31,32から、所定の周波数の差分信号を入力したとき、出力端子33,34からどれほどの信号が出力されたかを測定することで、弾性表面波素子1の有する周波数特性がわかる。このとき、通過帯域比の基準となる周波数(横軸の周波数帯域での“1”となる周波数)は、942.5MHzであった。
【0060】
弾性表面波素子1は、図5のグラフによると、横軸の通過帯域比が約0.98〜1.02の周波数帯域では、挿入損失量を約3dB以内に抑えることができた。このことは、この通過帯域比が0.98〜1.02の周波数帯域において、良好な通信を行うことができることを表している。また、通過帯域比を約4%(=1.02−0.98)有していることにより、弾性表面波素子1は、近年の通信装置における十分な通過帯域幅を有することができた。
【0061】
また、弾性表面波素子1は、通過帯域比が約0.98〜1.02の周波数帯域以外では、減衰量を急激に向上することができた。これにより、弾性表面波素子1は、弾性表面波素子1は、ノイズ等の原因となりうるような通過帯域外減衰量を向上することができ、所望の通過帯域(通過帯域比が0.98〜1.02の周波数帯域)における周波数を良好に通過させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態にかかる弾性表面波素子での、圧電基板の主面上の電極配置を示す平面図である。
【図2】図1での弾性表面波素子の回路構造を示した回路図である。
【図3】本発明の他の実施形態にかかる弾性表面波素子の平面図である。
【図4】携帯電話機の高周波回路のブロック回路図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる弾性表面波素子1の、規格化した周波数帯域と、挿入損失(dB)との関係を示すグラフである。
【図6】従来の共振子型弾性表面波素子の電極構造における平面図を示す。
【符号の説明】
【0063】
1 弾性表面波素子
2 圧電基板
2a 主面
10 弾性表面波共振子
11 IDT電極
11a,11b IDT電極部
12 入力側バスバー
13a,13b 出力側バスバー
20 弾性表面波共振子
21 IDT電極
21a,21b IDT電極部
22 入力側バスバー
23a,23b 出力側バスバー
31,32 入力端子
33,34 出力端子
39a〜39e 接地端子
50 弾性表面波共振子
51 IDT電極
51a〜51c IDT電極部
52a〜52c 入力側バスバー
53a〜53c 出力側バスバー
60 弾性表面波共振子
61 IDT電極
61a〜61c IDT電極部
62a〜62c 入力側バスバー
63a〜63c 出力側バスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の主面上に形成された励振電極により弾性表面波を励振する弾性表面波素子であって、
前記励振電極を有する第1及び第2の弾性表面波共振子と、
信号の入力を行う第1及び第2の入力端子と、
信号の出力を行う第1及び第2の出力端子とを備えており、
前記励振電極は、対向配置した一対のバスバーと、前記各バスバーから延びる弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に櫛歯状の電極指とを有しており、
前記第1の弾性表面波共振子は、
前記一対のバスバーのうちの一方が、少なくとも2つに分割され、
前記2つに分割されたバスバーがそれぞれ、前記第1及び第2の出力端子に接続され、
前記一対のバスバーのうちの他方が、前記第1の入力端子に接続されており、
前記第2の弾性表面波共振子は、
前記一対のバスバーのうちの一方が、少なくとも2つに分割され、
前記2つに分割されたバスバーがそれぞれ、前記第1及び第2の出力端子に接続され、
前記一対のバスバーのうちの他方が、前記第2の入力端子に接続されている、弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第1の弾性表面波共振子は、
前記2つに分割されたバスバーの間に、接地端子に接続されたバスバーが挿入された形状を有しており、
前記第2の弾性表面波共振子は、
前記2つに分割されたバスバーの間に、接地端子に接続されたバスバーが挿入された形状を有している、請求項1に記載の弾性表面波素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−142654(P2007−142654A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331815(P2005−331815)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】