説明

弾性表面波装置およびその製造方法ならびに通信装置

【課題】 圧電基板の他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子をフェースダウン実装した弾性表面波装置の通過帯域外減衰量を改善する。
【解決手段】 従来、圧電基板2の励振電極形成面とは異なる他方主面の全面に、弾性表面波素子1の作製工程で発生する焦電破壊を防止するために設けていた導体層10を、フィルタ領域9の入力パッド部5および出力パッド部6の少なくとも一方に対向する領域5a,6aを他の領域と分離して形成することにより、フィルタ領域9の入力パッド部5および出力パッド部6間に形成されていた寄生容量による入力パッド部5および出力パッド部6間の結合量を大幅に小さくすることができる。これにより、通過帯域外減衰量を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置およびその製造方法ならびに通信装置に関する。より詳しくは、弾性表面波フィルタとして使用されるフェースダウン実装構造の弾性表面波装置であり、特に通過帯域外減衰量を改善した弾性表面波装置およびその製造方法ならびにその弾性表面波装置を用いた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小形化,無調整化を図ることができる弾性表面波フィルタが各種通信装置に使用されるようになり、通信装置の高周波化,高機能化の進展に伴い、バンドパスフィルタ等として用いられる弾性表面波フィルタの帯域外減衰量を上げる要求が益々増大してきている。例えば、900MHz帯の携帯電話用フィルタとしては、通過帯域近傍の帯域外減衰量を向上させることが望まれ、かつ数GHzの高周波数帯域における帯域外減衰量も向上させた高性能な高減衰フィルタが望まれている。
【0003】
従来の弾性表面波(Surface Acoustic Wave、以下SAWと略す。)装置における実装構造の模式的な断面図を図9に示す。図9に示す弾性表面波装置において、51は圧電基板、52は接地パッド、53はSAW素子用の圧電基板51上に形成された櫛形電極のIDT(Inter Digital Transducer)電極(励振電極)、54はパッケージ57に形成された導電パターン、55は接続用のバンプである。同図の構成では、接地パッド52およびIDT電極53を例えばAl−Cu膜で形成し、導電パターン54と接地パッド52とを例えばAuから成るバンプ55により電気的に接続している。さらに、蓋体56をシーム溶接等によりパッケージ57上から接合層58を介して封止して、弾性表面波素子を収容した内部の気密性を保っている。
【0004】
このような従来のフェースダウン構造の弾性表面波装置における帯域外減衰量レベルの劣化の主原因は、例えば、弾性表面波素子の接地パッド52やIDT電極53およびパッケージ57の導電パターン54等の電極の電気抵抗の増加、寄生インダクタンスや浮遊容量に起因する入出力間の電磁的結合である。特に、圧電基板51の一方主面にIDT電極53とともに接地パッド52等の入力パッド部と出力パッド部とを有するフィルタ領域が形成され、他方主面に導体層(図示せず)が形成された弾性表面波素子をフェースダウン実装した構造の弾性表面波装置の場合は、圧電基板51の他方主面にはフィルタ領域の入力パッド部および出力パッド部に対向する領域に導体層が形成されているため、入力パッド部と出力パッド部との間に容量結合が発生して、帯域外減衰量を劣化させてしまうという問題点がある。
【特許文献1】特開平4−313906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性表面波素子は圧電基板上に作製される櫛歯状の励振電極(IDT電極)を用いた素子である。通常、圧電体は急激な温度変化により焦電性を示すため、圧電基板に励振電極を有する素子を作製する際に急激な温度変化のある工程を通すと、圧電基板の焦電性のため励振電極の電極間にスパークが発生し、素子を破壊してしまうこととなる。そこで、なるべく圧電基板に電荷が蓄積しないようにするために、圧電基板の裏面全体にわたって導体層を形成することが一般的となっている。しかし、この裏面導電体層は、素子作製工程中は焦電破壊防止に有効であるが、上述のような理由から素子自体の構成により帯域外減衰量を向上させるには不利となる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
また、フェースアップ実装構造で、圧電基板の表面(一方主面)に励振電極,入力パッド部および出力パッド部が形成され、裏面(他方主面)に導体層が形成された弾性表面波素子を用いて、裏面側がパッケージの上面に載置されて接地された構造の場合は、裏面の導体層を介した表面側の入力パッド部と出力パッド部との間の容量結合は問題とならないが、フェースダウン実装の場合は、裏面が接地されていないので裏面の導体層を介した入力パッド部と出力パッド部との間の容量結合が問題となり、弾性表面波素子によるフィルタの帯域外減衰量を十分に確保することが難しくなるという問題点がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、弾性表面波素子のフェースダウン実装構造を持つ弾性表面波装置において、フィルタの帯域外減衰量を向上させることができ、信頼性に優れた弾性表面波装置およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の一方主面に励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の弾性表面波装置は、圧電基板の一方主面に励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記導体層が分離のために除かれている部位の前記他方主面の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の前記他方主面の表面粗さよりも大きいことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板の前記一方主面に前記フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記構成において、前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記各構成において、前記圧電基板は、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料より比誘電率が小さい材料から成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングして励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法は、上記構成において、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を除去する工程に代えて、前記導体層の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法は、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、前記一方主面の前記導体層をパターニングして励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程とを具備するとともに、前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記実装する工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法は、上記構成において、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程に代えて、前記導体層の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とするものである。
【0020】
さらに、本発明の弾性表面波装置の第1および第2の製造方法は、上記各構成において、前記他方主面に形成した前記導体層を分離のために部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない領域の前記他方主面の表面粗さよりも大きくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面に形成された導体層が、入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されていることにより、フィルタの入力パッド部および出力パッド部の間に形成される寄生容量を各入出力パッド部間で分離することができるため、従来のように他方主面の全面にわたって導体層が形成されている場合よりも入出力パッド部間の寄生容量による結合量を大幅に低減することができるため、その寄生容量に起因する通過帯域外減衰量特性の劣化を抑えることができ、通過帯域外減衰量を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の他方主面に形成された導体層が、入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されている場合には、入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分および出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分によって形成される寄生容量による入出力パッド部間の結合量を低減することができるため、その寄生容量に起因する通過帯域外減衰量特性の劣化を抑えることができ、通過帯域減衰量をさらに向上させることができる。
【0023】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、上記各構成において、圧電基板の他方主面の導体層が分離のために除かれている部位の他方主面の表面粗さが、導体層が形成されている領域の他方主面の表面粗さよりも大きい場合には、通過帯域外減衰量特性の劣化のうち、バルク波の伝搬により劣化していた分をも低減することができるので、通過帯域外減衰量特性をさらに大幅に改善することができる。通過帯域外減衰量は、入出力パッド部間の容量結合に起因して劣化するとともに、共振器の励振電極で弾性表面波に変換されずバルク波となってしまった音響波が、圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面の表面や弾性表面波素子の端面で反射され、再びフィルタ領域に形成されている共振器の励振電極に結合することによっても劣化する。このバルク波の伝搬による劣化分は寄生容量による影響に比べると小さいが、通過帯域外減衰量特性に求められる厳しい要求を完全に満たすためにはバルク波による劣化も抑制することが好ましい。これに対し、圧電基板の他方主面の導体層が分離のために除かれている部位の他方主面の表面粗さが、導体層が形成されている領域の他方主面の表面粗さよりも大きいものとすることにより、部分的に粗くした圧電基板の他方主面でバルク波が散乱されるため、フィルタ領域の励振電極から発生したバルク波が再びフィルタ領域に形成されている励振電極で励振される弾性表面波と十分に結合しないようにすることができるので、通過帯域外減衰量特性をさらに改善することができる。
【0024】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板の一方主面にフィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、この環状導体が実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されている場合には、これら環状導体および基体側環状導体を接合することによって弾性表面波素子を実装用基体上に強固に、かつ励振電極および入力パッド部および出力パッド部を気密に封止した状態で実装することができるため、後述するように実装用基体上に弾性表面波素子を実装した後に圧電基板の他方主面の導体層を加工する際にも、圧電基板の一方主面に形成されている励振電極にダメージを与えずに加工することができる。
【0025】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、励振電極が抵抗体を介して環状導体に電気的に接続されており、この環状導体が接地電位とされている場合には、励振電極は直流的には接地電位に接続されているが、弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ接地電位からは絶縁されている状態とすることができるため、フィルタの帯域通過特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも、弾性表面波装置の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0026】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板が、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成る場合には、この圧電基板は、励振電極を環状導体に電気的に接続する抵抗体と同様に、直流的には導体に見えるが弾性表面波装置が使用される周波数帯ではほぼ絶縁体に見えるという性質を持つ。従って、これを弾性表面波装置の基板として使用することによって、フィルタの帯域通過特性に影響を与えずに励振電極に電荷が蓄積することを防止できる。従って、圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも弾性表面波装置の焦電破壊をより確実に防止することができる。しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない。
【0027】
また、以上の本発明の弾性表面波装置においては、圧電基板の他方主面の導体層の所定の領域を他の領域と分離して形成することによりフィルタの入出力パッド部間の容量を低減してきたが(これは寄生容量を形成する電極の面積を小さくすることに相当する。)、圧電基板が、一方主面側が圧電材料から成り、他方主面側がその圧電材料よりも比誘電率が小さい材料から成る場合には、フィルタの入力パッド部と出力パッド部との間の実効誘電率を小さくすることができ、これによっても寄生容量を低減することができる(これは寄生容量を形成する電極間の誘電率を小さくすることに相当する。)ので、通過帯域外減衰特性をさらに改善することができる。特に、この圧電材料として、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。
【0028】
そして、本発明の通信装置によれば、以上のような本発明の弾性表面波装置を通信装置の受信回路および送信回路の少なくとも一方に用いることにより、従来より要求されていた厳しい通過帯域外減衰量を満たすことができるものが得られ、また、良好な通過帯域外減衰量特性を有する弾性表面波装置でありながら小型であるので、他部品の実装面積をより大きく取ることができ、部品の選択の幅が広がるため、高機能な通信装置を実現することができる。
【0029】
以上のような本発明の弾性表面波装置を作製するには、以下のような本発明の弾性表面波装置の製造方法が好適である。
【0030】
本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記一方主面の前記導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に他方主面の導体層の入力パッド部および出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して、他方主面の導体層に対する処理を一括して行なえるため、効率が良いものとなる。また、弾性表面波素子を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層の所定の領域を部分的に分離する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。
【0031】
本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法によれば、圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および一方主面の導体層をパターニングして励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と圧電基板の弾性表面波素子領域を実装用基体上に一方主面を対面させて実装する工程との間に他方主面の導体層を部分的に分離する場合には、多数個の弾性表面波素子が一体に形成された圧電基板に対して、他方主面の導体層に対する処理を一括して行なえるため、除去工程における効率が良いものとなる。また、圧電基板の弾性表面波素子領域を実装用基体に一方主面を対面させて実装する工程の後に圧電基板の他方主面の導体層の所定の領域を部分的に分離する場合には、実装工程で温度履歴がかかることによって起こる可能性のある弾性表面波素子の焦電破壊を確実に防止することができる。さらに、多数個の弾性表面波素子領域が作製されている圧電基板を実装用基体に実装した状態で他方主面の導体層に対する処理を行なえるため、分離工程における効率も良いものとなる。もちろん、他方主面の導体層に対する分離処理は、圧電基板および実装用基体を弾性表面波素子領域毎に分離する工程の後に行なっても構わない。また、この弾性表面波素子領域毎に分離する工程では、圧電基板と実装用基体のどちらか片方を先に分離しても、圧電基板と実装用基体とを同時に分離しても構わない。
【0032】
ところで、バルク波の伝搬による通過帯域外減衰量の劣化は、元々表面を大きく荒らした圧電基板を使用すれば抑制することができるが、弾性表面波を伝搬させる励振電極を形成している一方主面は鏡面である必要があるため、他方主面のみが大きく荒れた圧電基板は温度変化により大きく反ってしまい、弾性表面波素子の作製工程中に破損しやすいという問題点がある。一方、近年の電子部品への小型化・低背化の要求から、弾性表面波素子の圧電基板の厚みが次第に薄くされているが、圧電基板の厚みが薄くなるとますます破損する確率は大きくなってしまう。
【0033】
これに対し、本発明の弾性表面波装置の製造方法によれば、圧電基板の他方主面に形成した導体層の所定の領域を分離する際に、導体層が除かれる領域の他方主面の表面粗さを導体層が形成されている領域の他方主面の表面粗さよりも大きくするようにしたときには、薄型化が進められている圧電基板についても破損する危険性を大きくせずに、バルク波の伝搬による通過帯域外減衰特性の劣化を効率良く抑えることができる。また、これを寄生容量による通過帯域外減衰特性の劣化に対する対策と同時に行なえるため、効率的である。
【0034】
以上のように、本発明によれば、圧電基板の励振電極形成面を実装用基体の主面に対向させた実装(フリップチップ実装)を行なっても、フィルタの入力パッド部と出力パッド部とが他方主面の導体層を介して容量結合することがないので、小型の弾性表面波装置でありながら通過帯域外減衰量を劣化させないものとなる。しかも、作製工程において圧電基板の他方主面の全面に導体層が無くとも弾性表面波素子の焦電破壊を防止することができる。また、近年の部品に対する小型化・低背化の要求から、弾性表面波装置に対しても圧電基板の厚みを薄くすることが求められているが、圧電基板の一方主面の電極と他方主面の導体層との間の容量は大きくなり、従ってフィルタの入出力パッド部間の寄生容量の結合によって起こる通過帯域外減衰量の劣化はさらに深刻化するが、これに対しても、他方主面の導体層を部分的に分離することにより、薄型でかつ良好な通過帯域外減衰量特性を有する弾性表面波装置を得ることができる。
【0035】
そして、本発明の弾性表面波装置は、良好な通過帯域外減衰量特性を有するものでありながら小型であるので、この本発明の弾性表面波装置を有する受信回路および本発明の弾性表面波装置を有する送信回路の少なくとも一方を備えた本発明の通信装置によれば、本発明の弾性表面波装置による良好なフィルタ特性を利用しつつ他部品の実装面積を大きく取れる等により、高機能を実現できる通信装置を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の弾性表面波装置およびその製造方法の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
【0037】
<実施の形態の例1>
本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を図4に示す。また、この例1における弾性表面波素子の他方主面の上面図を図1に示す。
【0038】
図4に示すように、弾性表面波素子1の圧電基板2上にはフィルタ領域9が形成されている。フィルタ領域9には、共振器を構成する複数の励振電極3およびこれらを接続する接続電極4と、弾性表面波素子1と実装用基体(図示せず)とを接続するための励振電極3に電気的に接続された入力パッド部5および出力パッド部6が形成されている。
【0039】
また、環状導体7は実装用基体の基体側環状導体と半田等を用いて接続され、弾性表面波フィルタの接地電極として機能するとともに圧電基板2と実装用基体との間の空間を封止する役割を持つ。8は接地電極パッドを示している。
【0040】
また、図1に示すように、圧電基板2の他方主面には導体層10が形成されている。ここで、導体層10は図1にそのパターンを示すように、圧電基板2の一方主面のフィルタ領域9の入力パッド部5に対向する領域5aとその周囲、およびフィルタ領域9の出力パッド部6に対向する領域6aとその周囲が他の領域と分離されて形成されていることによって、フィルタ領域9の入力パッド部5とフィルタ領域9の出力パッド部6とが導体層10との間で発生する寄生容量を介して容量的な結合をするのを防ぐことができ、従って、通過帯域外減衰量を大幅に改善することができる。なお、図1において、9aはフィルタ領域9に対向する領域を示している。
【0041】
なお、本例では圧電基板2の他方主面のフィルタ領域9の入力パッド部5に対向する領域5aとその周囲、および出力パッド部6に対向する領域6aとその周囲の両方が導体層10の他の領域と分離されているパターンを示したが、これらの領域5a,6aのうち少なくともどちらか片方の領域が導体層10の他の領域と分離されていれば、ある程度の通過帯域外減衰量改善の効果が得られる。
【0042】
本例では環状導体7を弾性表面波フィルタの接地電極として利用したが、環状導体7を接地電極として用いずに、弾性表面波フィルタの接地電極を実装用基体の接地電極に直接接続しても構わない。
【0043】
<実施の形態の例2>
図2に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の他方主面を示す上面図を示す。本例では、圧電基板2の一方主面側の構成は例1と同じであるが、他方主面の導体層10のパターンが異なっている。例1では圧電基板2の他方主面のフィルタ領域9の入力パッド部5に対向する領域5aとその周囲、およびフィルタ領域9の出力パッド部6に対向する領域6aとその周囲のみを導体層10の他の領域と分離したパターンを用いたが、この例2では、圧電基板2の一方主面の領域フィルタ9の入力パッド部5から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域5bおよびフィルタ領域9の出力パッド部6から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分に対向する領域6bの少なくとも一方の領域を他の領域と分離させて導体層10が形成されている。このように領域5bや領域6bを他の領域と分離させて導体層10を形成することによって、寄生容量をさらに低減させることができ、寄生容量を介した容量的な結合をより確実に抑えることができる。
【0044】
また、導体層10のパターンは図3に同様の上面図で示すように、圧電基板2の一方主面のフィルタ領域9の入力パッド部5から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分の全体に対向する領域5cおよびフィルタ領域9の出力パッド部6から共振器の励振電極3まで直流的に接続されている部分の全体に対向する領域6cを他の領域と分離させた単純なパターンであっても構わない。
【0045】
<実施の形態の例3>
図5に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例3における弾性表面波素子の一方主面を示す上面図を示す。本例では、圧電基板2の他方主面側の構成は図3に示す例と同様とし、圧電基板2の一方主面側で全ての励振電極3が環状導体7と直流的に導通するように、共振器を形成する励振電極3と環状導体7とを抵抗体11を介して接続した。また、環状電極7は実装用基体の基体側環状導体に接続して接地電位としている。このように、励振電極3が抵抗体11を介して環状導体7に電気的に接続されており、この環状導体7が接地電位とされているものとすることにより、圧電基板2の一方主面から実装用基体の接地電極に電荷を逃がすことができるため、弾性表面波素子1の焦電破壊を効果的に防止することができる。
【0046】
なお、この抵抗体11には、フィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見える抵抗値のものを選択する。抵抗体11の材料としてはシリコンや酸化チタン等の高抵抗半導体を用いるのが好適である。これらの材料はホウ素等の元素を微量に添加したり、組成比を調整したりすることにより、抵抗値を適正な値に制御することができる。
【0047】
<実施の形態の例4>
この例では、さらに簡単に焦電破壊を防止する構成として、圧電基板2に、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を用いた。これらの材料は前述の抵抗体11と同様に、直流的には導体に見えてもフィルタが使用される周波数帯においては十分に高抵抗で、ほとんど絶縁体に見えるという性質を有している。従って、これらの材料を圧電基板2に使用することによって、フィルタの帯域通過特性に影響を与えずに励振電極3に電荷が蓄積することを防止できるので、圧電基板2の他方主面の全面に導体層10が無くとも、弾性表面波素子1の焦電破壊を良好に防止することができる。しかも、焦電破壊を防止するために弾性表面波装置の製造工程において工程数を増加させることがない点でも好都合となる。
【0048】
<実施の形態の例5>
本例では、圧電基板2の一方主面の各電極(励振電極3,接続電極4,入力パッド部5,出力パッド部6)と他方主面の導体層10との間の実効誘電率を小さくすることにより、寄生容量の低減を図った。具体的には、圧電基板2に、一方主面側がタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶等の圧電材料から成り、他方主面側が一方主面の圧電材料よりも比誘電率の小さい材料から成るものを用いることにより、必要な圧電特性を確保しつつ実現できる。
【0049】
この圧電材料としては、弾性表面波素子に使用される種々の圧電材料を用いればよいが、特に前述の酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶を使用すると、焦電破壊を良好に防止する効果と実効誘電率を小さくする効果との両方を得ることができる。また、比誘電率の小さい誘電体材料としては水晶,シリコン,シリコンカーバイド,ガラス等を用いることができる。このような2種類の材料から成る圧電基板2は、これら圧電材料から成る基板と誘電体材料から成る基板とを貼り合わせることによって得ることができる。
【0050】
本発明の弾性表面波装置は、通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備える通信装置において、本発明の弾性表面波装置をこれらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置や、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通って、受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能であり、これら受信回路および送信回路の少なくとも一方に本発明の弾性表面波装置を採用すれば、伝送特性が向上した優れた本発明の通信装置を提供できる。
【0051】
次に、本発明の弾性表面波装置の製造方法の実施の形態の例について、工程に従って説明する。
【0052】
<実施の形態の例6>
図6(a)〜(j)に本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を工程毎の断面図で示す。
【0053】
まず、図6(a)に示すように、(1)圧電基板の一方主面に導体層を形成し、図6(b)に示すように、(2)圧電基板の一方主面の導体層をパターニングしてそれぞれ励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成し、図6(c)に示すように、(3)圧電基板の他方主面に導体層を形成する。ここまでの工程は、以上の順番以外に(1),(3),(2)または(3),(1),(2)の順番で行なっても構わない。
【0054】
ここで、圧電基板としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
【0055】
また、一方主面上の導体層にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。導体層の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0056】
この導体層をパターニングする方法としては、導体層の成膜後にフォトリソグラフィを行ない、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行なう方法がある。または、導体層の成膜前に圧電基板の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行なって所望のパターンを開口した後、導体層を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層ごと除去するリフトオフプロセスを行なってもよい。
【0057】
また、圧電基板の他方主面の導体層の材料としてはアルミニウム等を用いることができる。その成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0058】
次に、図6(d)に示すように、励振電極を保護するための保護膜を成膜する。保護膜の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。この保護膜成膜工程においては、良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合において他方主面の導体層は焦電破壊の防止に有効に機能する。
【0059】
次に、図6(e)に示すように、(4)入力パッド部および出力パッド部の上に新たな導体層を積層して、入力パッドおよび出力パッドを形成する。この新たな導体層は弾性表面波素子と実装用基体とを高い信頼性で電気的および/または構造的に接続するための構造であり、例えば接続に半田を用いる場合であれば、半田の濡れ性を確保し拡散を防止する機能を持ち、また接続に金バンプを用いる場合であれば、パッドの硬度を金が超音波等を用いて接着できるように調整する機能を持つ。このような新たな導体層の材料・構造としては、クロム/ニッケル/金あるいはクロム/銀/金の積層膜や、金やアルミニウムの厚膜を用いることができる。成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。なお、この新たな導体層成膜工程においても良い膜質や密着性を得るために50〜300℃程度の温度が必要である場合があるが、そのような場合においても他方主面の導体層は焦電破壊防止に有効に機能する。
【0060】
ここまでの工程で作製した圧電基板の一方主面の励振電極や入力パッド部および出力パッド部等のパターンは図4に示したものと同様である。ただし、図4では保護膜は図示していない。
【0061】
次に、ここまで1枚の圧電基板に多数個の弾性表面波素子領域を形成したいわゆる多数個取りの方法で作製を行なってきた場合は、図6(g)に示すように、(5)圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る。分離する方法としては、例えばダイシングブレードを用いたダイシング法やレーザ加工によるレーザカッティング法等を用いることができる。
【0062】
次に、図6(h)に示すように、(6)弾性表面波素子を実装用基体上に一方主面を対面させて実装する。ここで、図6(f)に示すように、(1)〜(3)の工程と(5)の多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または(6)の実装する工程の後に、圧電基板の他方主面に形成した導体層のフィルタ領域の入力パッド部および出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する。
【0063】
この導体層を他の領域と分離する方法としては、(5)の工程の前においては圧電基板の一方主面をレジスト等で保護した後、圧電基板の他方主面にレジストを形成してフォトリソグラフィを行ない、必要部分のレジストを開口した後、その開口部分の導体層をウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト等の方法で除去すればよい。このとき、主として化学的な作用により導体層をエッチングして除去する方法を用いると、圧電基板に大きなダメージを与えずに他方主面の導体層を部分的に確実に除去することができる。また、主として物理的な作用により導体層を研削して除去する方法を用いると、導体層を除去すると同時にその部分の圧電基板の他方主面を元々の状態よりも粗くすることができ、これにより、一方のフィルタ領域から圧電基板の内部を伝搬し、圧電基板の他方主面で反射され、他方のフィルタ領域に形成されている励振電極に結合して通過帯域外減衰量特性を劣化させていたバルク波を、圧電基板の他方主面のこの部分で散乱させることができ、通過帯域外減衰量特性をさらに改善することができる。
【0064】
その後に、圧電基板の一方主面側のレジストおよび他方主面側のレジストを除去する。
【0065】
これらの工程においては複数の弾性表面波素子が形成された圧電基板に対してそれぞれの処理が行なえるため、複数の弾性表面波素子を一括して処理することができ、効率的である。
【0066】
また、(6)の工程の後に導体層の所定の領域を他の領域と分離する場合においては、既に圧電基板の一方主面が実装用基体に対向して配置されているため、一方主面を保護する工程を省略することができる。特に、環状導体を用いて封止している場合は、弾性表面波素子は実装用基体に強固に固定されており、また、フィルタ領域が外気からも遮断されているため、前述のようにウェットエッチング,RIE(Reactive Ion Etching),サンドブラスト等の方法を用いて他方主面の処理したい部分の導体層を効率良く除去することができる。また、他方主面の導体層は、リューターやサンドペーパーを用いて研削・研磨して除去してもよい。
【0067】
そして、この例では、図6(i)に示すように、(7)実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次いで図6(j)に示すように、(8)実装用基体を弾性表面波素子毎にモールド樹脂とともにダイシング等により分断して、本発明の弾性表面波装置を得る。
【0068】
なお、この例では圧電基板の他方主面に形成した導体層のフィルタ領域の入力パッド部およびフィルタ領域の出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離したが、この分離は一方の領域について行なっても、両方の領域について行なってもよい。また、他方主面の導体層のさらにフィルタ領域の入力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分およびフィルタ領域の出力パッド部から励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離してもよい。さらにまた、圧電基板の他方主面のフィルタ領域に対向する領域を他の領域と分離してもよい。
【0069】
<実施の形態の例7>
実施の形態の例6では、(5)の工程で多数個の弾性表面波素子を形成した圧電基板を弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程を経た後、(6)の工程で実装用基体に実装したが、本例では図7(a)〜(j)に図6(a)〜(j)と同様の工程毎の断面図で示すように、図7(g)に示す工程で、弾性表面波素子領域毎に分離する前に実装用基体上に多数個の弾性表面波素子領域が形成された圧電基板の一方主面を対面させて実装し(この工程を(7)とする。)、その後、図7(h)に示すように、実装用基体と一体となった圧電基板をいわゆるハーフダイシングにより弾性表面波素子領域毎に分割し、次いで図7(i)に示すように、実装用基体上に実装された弾性表面波素子を封止樹脂を用いて樹脂モールドし、次に、実装用基体をモールド樹脂とともに弾性表面波素子毎に分離し(この工程を(8)とする。)てもよい。この例7の場合は、(1)〜(3)の工程と(7)の工程との間に、または図7(g)に示すように(7)の工程の後に、圧電基板の他方主面に形成したフィルタ領域の入力パッド部および出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する。この分離方法やその領域については前述と同様である。
【実施例】
【0070】
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面にスパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の導体層を成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/209nm/6nm/209nmである。次に、この導体層をフォトリソグラフィとRIEとによりパターニングして、それぞれ励振電極3と入力パッド部5と出力パッド部6とを具備するフィルタ領域を形成し、多数の弾性表面波素子領域を形成した。このときのエッチングガスにはBClおよびClの混合ガスを用いた。励振電極3を形成する櫛歯状電極の線幅および隣り合う櫛歯状電極間の距離はどちらも約1μmである。
【0071】
次に、スパッタリング法により圧電基板2の他方主面に純Alから成る導体層10を形成した。この導体層10の厚みは200nmである。
【0072】
次に、入力パッド部5および出力パッド部6の上に新たなCr/Ni/Auからなる導体層を積層して入力パッドおよび出力パッドを形成した。この新たな導体層の厚みはそれぞれ6nm/1000nm/100nmである。
【0073】
次に、圧電基板2の一方主面をフォトレジストで保護し、その後、他方主面にもフォトレジストを塗布してフォトリソグラフィを行ない、次いで、硝酸と燐酸と酢酸との混酸によるウェットエッチングによって圧電基板2の他方主面の導体層10を図1に示すようにパターニングした。
【0074】
次に、フォトレジストを除去した後、圧電基板2を弾性表面波素子領域毎にダイシングによって分離して多数個の弾性表面波素子1を得た。
【0075】
次に、弾性表面波素子1をLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板からなる実装用基体上に一方主面を対面させて実装した。ここで、LTCC基板は圧電基板2の一方主面に形成した環状導体7に対応する基体側環状導体および弾性表面波素子1の入出力パッドと接続されるパッド電極を有しており、予めこれら基体側環状導体およびパッド電極には半田を印刷しておいた。これに弾性表面波素子1を実装するにおいては、これら半田パターンに一致するように弾性表面波素子1を配置して超音波を印加することにより仮固定し、その後、加熱することにより半田を溶融することによって環状導体7と基体側環状導体とを、および入出力パッドとパッド電極とを接続した。これにより、弾性表面波素子1のフィルタ領域9はLTCC基板の基体側環状導体とこれに接続された環状導体7とによって完全に気密封止される。なお、弾性表面波素子1の実装工程は窒素雰囲気下で行なった。
【0076】
次に、樹脂モールドを行ない、弾性表面波素子1の他方主面(裏面)をモールド樹脂で保護し、最後に実装用基体を各弾性表面波素子間でダイシングすることにより、本発明の弾性表面波装置を得た。
【0077】
また、比較例として従来のように圧電基板の一方主面に励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を形成し、他方主面の全面に導体層を形成した弾性表面波素子を、実装用基体上に一方主面を対面させて実装させた弾性表面波装置を作製した。本比較例の上面図は図4と同様である。
【0078】
このようにして作製した本発明の実施例と比較例について、図8にその周波数特性を線図で示す。図8の線図において、横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、破線の特性曲線はLT基板の他方主面の全面に導体層を形成した比較例の結果を示し、実線の特性曲線はLT基板の他方主面の導体層がフィルタ領域の入力パッド部および出力パッド部に対向する領域が他の領域と分離された実施例の結果を示している。図8に示す結果から分かるように、この例の本発明の弾性表面波装置は、比較例のものに比べて非常に良好な通過帯域外減衰量を有している。特に、比較例のものと比べて、通過帯域近傍の通過帯域外減衰量が大幅に改善されている。
【0079】
また、実施例に対して導体層10を図2,図3に示すようにパターニングしたものについても作製して同様に周波数特性を評価したところ、同じく通過帯域近傍の通過帯域外減衰量が大幅に改善されていることが確認できた。
【0080】
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、2個以上のフィルタ領域を同一の圧電基板上に設けてもよい。その場合には複数の弾性表面波素子を別々に作製した場合に比べて全体の占める面積を小型にすることができる。
【0081】
また、図4等ではラダー型フィルタを用いた場合を示したが、本発明はフィルタの構造を限定するものではなく、DMS型やIIDT型のフィルタを用いてもよい。また、入出力端子の配置も図4等に示したものに限定されるものではなく、圧電基板の対角上に位置していても構わない。
【0082】
また、励振電極の材料も実施例に挙げた材料に限定されるものではなく、単層のAl,Au,Ta,W,Mo,Ti,Cuやその合金を用いたり、これらと圧電基板の間に密着層を挿入した構造としても構わない。
【0083】
さらに、以上の例では圧電基板の他方主面に導体層を一旦形成してから所望の領域の周囲の導体層を除去することによって他の領域と分離することを主に説明したが、導体層を形成しない領域を予め設定しておいて、その領域以外に導体層を形成するようにして所望の領域を導体層の他の領域と分離するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図3】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例2における弾性表面波素子の圧電基板の他方主面(導体層のパターン)を示す上面図である。
【図4】本発明の弾性表面波装置の一例を表す弾性表面波素子の圧電基板の一方主面を示す上面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の一例を表す弾性表面波素子の圧電基板の一方主面を示す上面図である。
【図6】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第1の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図7】(a)〜(j)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の第2の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図である。
【図8】本発明の実施例で作製した弾性表面波装置の帯域通過特性を示す線図である。
【図9】従来の弾性表面波装置の実装構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1:弾性表面波素子
2:圧電基板
3:励振電極
4:接続電極
5:入力パッド部
6:出力パッド部
7:環状導体
8:接地電極パッド
9:フィルタ領域
10:導体層
11:抵抗体
5a:入力パッド部に対向する領域
5b,5c:入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分に対向する領域
6a:出力パッド部に対向する領域
6b,6c:出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分に対向する領域
9a:フィルタ領域に対向する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方主面に励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
圧電基板の一方主面に励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域が形成され、他方主面に導体層が形成された弾性表面波素子を、実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装しており、前記導体層は、前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域が他の領域と分離されて形成されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項3】
前記導体層が分離のために除かれている部位の前記他方主面の表面粗さが、前記導体層が形成されている領域の前記他方主面の表面粗さよりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記圧電基板の前記一方主面に前記フィルタ領域を取り囲んで環状導体が形成されており、該環状導体が前記実装用基体上に対応して形成された基体側環状導体に接合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記励振電極が抵抗体を介して前記環状導体に電気的に接続されており、該環状導体が接地電位とされていることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記圧電基板は、酸素含有量が化学量論比組成より少ない、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶または四ホウ酸リチウム単結晶から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記圧電基板は、前記一方主面側が圧電材料から成り、前記他方主面側が前記圧電材料より比誘電率が小さい材料から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の弾性表面波装置を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項9】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングして励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板を前記弾性表面波素子領域毎に分離して多数個の弾性表面波素子を得る工程と、
次に、前記弾性表面波素子を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と
を具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記多数個の弾性表面波素子を得る工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項10】
前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を除去する工程に代えて、前記導体層の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離することを特徴とする請求項9記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項11】
圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程と、
前記一方主面の前記導体層をパターニングして励振電極と入力パッド部と出力パッド部とを具備するフィルタ領域を有する多数の弾性表面波素子領域を形成する工程と、
前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と、
次に、前記圧電基板の前記弾性表面波素子領域を実装用基体上に前記一方主面を対面させて実装する工程と、
次に、前記圧電基板および前記実装用基体を前記弾性表面波素子領域毎に分離する工程とを具備するとともに、
前記圧電基板の一方主面に導体層を形成する工程および前記多数の弾性表面波素子領域を形成する工程および前記圧電基板の他方主面に導体層を形成する工程と前記実装する工程との間に、または前記実装する工程の後に、前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項12】
前記他方主面に形成した前記導体層の前記入力パッド部および前記出力パッド部の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程に代えて、前記導体層の前記入力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分および前記出力パッド部から前記励振電極まで直流的に接続されている部分の少なくとも一方に対向する領域を他の領域と分離する工程を具備することを特徴とする請求項11記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項13】
前記他方主面に形成した前記導体層を分離のために部分的に除去する際に、除去する部分の前記他方主面の表面粗さを除去しない領域の前記他方主面の表面粗さよりも大きくすることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の弾性表面波装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−86699(P2006−86699A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268255(P2004−268255)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】