説明

弾性表面波装置及び通信装置

【課題】 通過帯域内でのリップル発生を低減させ、また通過帯域の平衡度を向上できる優れた特性の弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波素子31,32が複数段、縦続接続されており、初段の素子31の中央のIDT電極3は不平衡信号端子12に接続され、最終段の素子32の中央のIDT電極6は櫛歯状電極の一方が2分割されてそれぞれに平衡信号端子13,14が接続されており、素子31,32のIDT電極の段間側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線27,28と、素子31,32同士を縦続接続した全ての信号用引き出し配線20,21とが、絶縁体16〜19を介して交差して配設された交差配線部23〜26を形成しており、交差配線部23〜26はIDT電極2〜4及び5〜7のIDT電極3,6を中心に対称的に形成され、各交差配線部23〜26によって生じる抵抗が略同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器などの弾性表面波装置及びこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器のRF(無線周波数)段に用いられる周波数選択フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く用いられている。一般に、周波数選択フィルタに求められる特性としては、広通過帯域、低損失、通過帯域外の高減衰量などの諸特性が挙げられる。近年、特に移動体通信機器における受信感度の向上、低消費電力化のために、さらに弾性表面波フィルタに対する低損失化の要求が高まっている。また、近年、移動体通信機器において、小型化のためアンテナが従来のホイップアンテナから誘電体セラミックス等を用いた内蔵アンテナに移行してきている。そのため、アンテナのゲインを充分に得ることが難しくなり、弾性表面波フィルタに対してさらに挿入損失を改善させる要求が増大している。
【0003】
このような広帯域化、低損失化を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT電極(Inter Digital Transducer)を設け、縦1次モードと縦3次モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
特に、隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、共振モードの状態を制御することにより広帯域化及び低損失化が図られていた(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化のため、弾性表面波装置の小型化が要求され、実装形態も従来のワイヤボンディング方式を用いたパッケージ実装から、フリップチップ実装方式を用いたCSP(Chip Scale Package)タイプへと変遷してきている。そのため、実装形態のみならず弾性表面波装置自体の小型化をよりいっそう進める傾向にある。
【0006】
図3は、従来の弾性表面波装置の電極構造を模式的に示す平面図である。圧電基板201上に並列接続させた弾性表面波フィルタ212,213を形成し、弾性表面波フィルタ212,213は、それぞれ3個のIDT電極202,203,204及び205,206,207と、その両側に配置された反射器電極208,209及び210,211とから構成されている。
【0007】
不平衡信号端子231に接続された弾性表面波フィルタ212,213は、さらに、弾性表面波共振子214、215を介して、弾性表面波フィルタ216,217に接続されている。不平衡信号端子231に接続されたIDT電極203,206は、一対の互いに対向させた櫛歯状電極に電界を加えられ、弾性表面波を励振する。励振された弾性表面波は、IDT電極203,206に隣接するIDT電極202,204及び205及び207に伝搬される。また、中央のIDT電極203の位相は、もう一方の中央のIDT電極206の位相に対して180°異なった逆相となっており、最終的に中央のIDT電極203,206の一方の櫛状電極から平衡出力信号端子232,233へ信号が伝わり平衡出力される。このような構造により、平衡−不平衡変換機能を実現している。さらに、弾性表面波素子及び弾性表面波共振子214,215間の配線の一部に、絶縁体241〜248を介した立体配線構造を採用することにより、弾性表面波装置の小型化を実現している(例えば、特許文献2を参照。)。
【0008】
なお、弾性表面波フィルタ216,217において、218〜223はIDT電極、224〜227は反射器電極である。また、250は接地端子である。
【0009】
また、近年、移動体通信機器等の小型化、軽量化及び低コスト化のために、使用部品の削減が進められ、弾性表面波フィルタに新たな機能の付加が要求されてきている。その1つに不平衡入力−平衡出力型または平衡入力−不平衡出力型に構成できるようにするといった要求がある。ここで、平衡入力または平衡出力とは、信号が2つの信号線路間の電位差として入力または出力するものをいい、各信号線路の信号は振幅が等しく、位相が逆相になっている。これに対して、不平衡入力または不平衡出力とは、信号がグランド電位に対する1本の線路の電位として入力または出力するものをいう。
【0010】
現在、弾性表面波フィルタに不平衡−平衡変換機能または平衡−不平衡変換機能を持たせた、不平衡入力−平衡出力型弾性表面波フィルタまたは平衡入力−不平衡出力型弾性表面波フィルタ(以下、平衡型弾性表面波フィルタという)の実用化が進められている。不平衡−平衡変換機能の要求を満たすため、縦結合二重モードフィルタが多く用いられている。また、RF用フィルタとしては、接続端子の一方を不平衡接続で入出力インピーダンスが50Ω、他方を平衡接続で入出力インピーダンスが100〜200Ωに整合させるという要求が多い。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特開2004−282707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3に示すような特許文献2に開示されている弾性表面波装置では、従来の弾性表面波フィルタを用いた場合、弾性表面波素子間の配線の一部に立体配線を採用することにより、弾性表面波フィルタの小型化を実現することができる。しかしながら、平衡信号用の配線または不平衡信号用の配線の片側のみに立体配線構造を用いた場合、弾性表面波フィルタの通過帯域の周波数特性において通過帯域内でのリップルが発生するため、挿入損失が劣化する問題があった。
【0012】
また、特許文献1に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けると、弾性表面波が結合した状態で電極指ピッチが異なる部分が存在するため、通過帯域におけるフィルタ特性のリップルが大きくなり、肩特性が劣化して通過帯域の平坦な特性が得られない。また、IDT電極の端部に狭ピッチ部を設けるだけでは、弾性表面波の励振に利用できる基本的な共振モードの数が縦1次モードと縦3次モードに限定され、他の共振モードが利用できないので、設計の自由度が小さくなっていた。そのため、通過帯域におけるフィルタ特性の平坦性を向上させ、広帯域化しつつ挿入損失を向上させるには不充分であった。
【0013】
さらに、特許文献2に開示されている弾性表面波装置では、弾性表面波素子間の配線の一部にのみ立体配線を用いているので、弾性表面波素子の3個のIDT電極の中央にIDT電極に対して、引出し配線の配線抵抗及び配線容量が非対称となるため、振幅平衡度、位相平衡度が劣化してしまう問題点があった。
【0014】
従って、本発明は上記従来の技術における問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、弾性表面波フィルタの小型化を実現するとともに、弾性表面波フィルタの通過帯域における挿入損失を劣化させず、かつリップルの発生を抑制することができ、高品質な平衡型弾性表面波フィルタとしても機能できる弾性表面波装置及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の弾性表面波装置は、1)圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する電極群から成る弾性表面波素子が複数段、縦続接続されて配設されているとともに、初段の前記電極群の中央に配設されたIDT電極は不平衡信号端子に接続され、最終段の前記電極群の中央に配設されたIDT電極は、前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されてそれぞれに平衡信号端子が接続された弾性表面波装置であって、前記弾性表面波素子の前記IDT電極の段間側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記弾性表面波素子同士を縦続接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、
前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極の中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴するとするものである。
【0016】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、前記平衡信号端子に、前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、前記IDT電極の両側にそれぞれ配置されるとともに前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波共振子が、直列または並列に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の通信装置は、3)上記1)または2)の各構成の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の弾性表面波装置によれば、圧電基板上に、圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する電極群から成る弾性表面波素子が複数段、縦続接続されて配設されているとともに、初段の電極群の中央に配設されたIDT電極は不平衡信号端子に接続され、最終段の電極群の中央に配設されたIDT電極は、電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されてそれぞれに平衡信号端子が接続された弾性表面波装置であって、弾性表面波素子のIDT電極の段間側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、弾性表面波素子同士を縦続接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、交差配線部は、奇数個のIDT電極の中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることから、配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。その結果、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。
【0019】
なお、交差配線部に生じる抵抗は、例えば、交差配線部の上側の配線が部分的に薄い部分が生じたり、上や下に曲がったり、段差が生じるといった細かな厚みや形状の変化によって生じるものであり、他の配線部よりも若干高い抵抗になり易い。このような他の配線部と変わった抵抗値を示す交差配線部について、各々の交差配線部の抵抗を略同じにすることによって上記のような効果(挿入損失向上等の効果)を得ることができる。また、各々の交差配線部の抵抗を略同じにするには、例えば、その形成方法、即ちスパッタリング法等による配線部の形成条件、CVD法,フォトリソグラフィ法やビルドアップ法等の絶縁体の形成条件を同じにすることによって達成することができる。
【0020】
また、縦結合弾性表面波素子を2段並列接続することにより、通過帯域外減衰量を改善することができる。
【0021】
さらに、上記の構成により、弾性表面波装置(縦結合共振器型弾性表面波フィルタ)の段間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを弾性表面波素子間の領域以外の外側の領域にレイアウトすることが可能となり、弾性表面波装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能となる。
【0022】
また、本発明の弾性表面波装置は、上記の構成において好ましくは、平衡信号端子に、伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、IDT電極の両側にそれぞれ配置されるとともに伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波共振子が、直列または並列に接続されていることにより、上記と同様に、交差配線部における抵抗さらには電気的な容量を略同じとすることができ、配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、弾性表面波共振子が付加されることにより、通過帯域外減衰量を大幅に低減することができる。
【0023】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことにより、従来より要求されていた厳しい挿入損失及び平衡度を満たすことができるものが得られ、消費電力が低減されかつ感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照にしつつ詳細に説明する。また、本発明の弾性表面波装置について、簡単な構造の共振器型の弾性表面波フィルタを例にとり説明する。なお、以下に説明する図面において同一構成には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示している。
【0025】
図1に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の1例における電極構造についての平面図を示す。本発明の弾性表面波装置は、圧電基板1上に、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7と、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7の両側にそれぞれ配置され、伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極8,9及び10,11とを有する電極群から成る弾性表面波素子31,32が複数段(図1では2段)、縦続接続されて配設されているとともに、初段の電極群の中央に配設されたIDT電極3は不平衡信号端子(不平衡信号入力端子または不平衡信号出力端子)12に接続され、最終段の電極群の中央に配設されたIDT電極6は、電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されてそれぞれに平衡信号端子(平衡信号出力端子または平衡信号入力端子)13,14が接続された弾性表面波装置であって、弾性表面波素子31,32のIDT電極の段間側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線27,28と、弾性表面波素子31,32同士を縦続接続した全ての信号用引き出し配線20,21とが、絶縁体16〜19を介して交差して配設された交差配線部23〜26をそれぞれ形成しており、交差配線部23〜26は、奇数個のIDT電極2〜7の中央に配設されたIDT電極3,6を中心に対称的に形成されているとともに、各々の交差配線部23〜26によって生じる抵抗が略同じである。
【0026】
本発明の弾性表面波装置は、上記の構成により、配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。その結果、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。
【0027】
また、縦結合弾性表面波素子を2段並列接続することにより、通過帯域外減衰量を改善することができる。
【0028】
さらに、弾性表面波装置(縦結合共振器型弾性表面波フィルタ)の段間に接地用パッド電極等を配設する必要がなくなり、接地用パッド電極等のパターンを弾性表面波素子間の領域以外の外側の領域にレイアウトすることが可能となり、弾性表面波装置面積を極力低減して弾性表面波装置を小型化することが可能となる。
【0029】
本発明において、交差配線部23〜26によって生じる抵抗は1.5Ω程度以下であり、1.5Ωを超えると、抵抗の増大によって信号の損失が大きくなる。また、交差配線部23〜26によって生じる抵抗は略同じであるが、交差配線部23の抵抗と交差配線部24の抵抗との差、及び交差配線部25の抵抗と交差配線部26の抵抗との差は、10%以下であればよい。10%を超えると、2つの平衡出(入)力信号の振幅の差が大きくなって振幅平衡度が劣化し易くなる。
【0030】
また、交差配線部23〜26には電気的な容量も生じており、その値は0.1pF程度以下であり、交差配線部23〜26によって生じるそれぞれの容量も略同じである。交差配線部23の容量と交差配線部24の容量との差、及び交差配線部25の容量と交差配線部26の容量との差は、10%以下であればよい。10%を超えると、2つの平衡出(入)力信号の所定の位相差(位相差180°)からのずれが大きくなって位相平衡度が劣化し易くなる。
【0031】
また、交差配線部23,24及び25,26は、奇数個のIDT電極2〜4及び5〜7において中央に配設されたIDT電極3,6を中心に対称的に形成されているが、例えば、IDT電極3,6の弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に平行な中心軸、換言すれば電極指の長手方向に平行な中心軸に関して、線対称に形成されている。
【0032】
本発明の絶縁体16〜19としては、酸化シリコン,ポリイミド系樹脂,アクリル系レジスト等を用いることがよい。これにより、接地用引き出し配線27と信号用引き出し配線20,21との間の絶縁性、及び接地用引き出し配線28と信号用引き出し配線20,21との間の絶縁性を、良好に保つことができる。
【0033】
絶縁体16〜19の厚みは1.0μm〜10.0μm程度がよく、1.0μm未満では、配線間の絶縁性を確保することが難しくなり、10.0μmを超えると、配線の断線の発生を抑制することが難しくなって弾性表面波装置の信頼性が低下し易くなる。
【0034】
また、絶縁体16〜19は、ビルドアップ法等の方法で形成される。絶縁体16〜19を形成する際に、複数の絶縁層を積層させた構成としてもよい。
【0035】
また、絶縁体16〜19中にアルミナセラミックス等からなる絶縁体粒子や銀等からなる金属粒子を混入させることによって、あるいは絶縁体16〜19を多数の気泡が形成された多孔質体とすることによって、絶縁体16〜19の誘電率を所望のものに調整することができる。
【0036】
なお、交差配線部23〜26は、例えば以下のようにして形成する。まず、圧電基板1の主面上に、IDT電極2〜7や反射器電極8〜11の各電極となる金属層の成膜を行う。金属層の成膜にはスパッタリング装置を使用し、金属層の材料としてAl(99質量%)−Cu(1質量%)合金等を用いる。次に、金属層上にフォトレジストを0.5μm程度の厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出させる。その後、RIE装置により金属層のエッチングを行い、パターニングを終了し、弾性表面波装置を構成する各電極パターンを得る。この後、電極の所定領域上に保護膜及び絶縁体16〜19を形成する。即ち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極パターン及び圧電基板1上に保護膜及び絶縁体16〜19となるSiO膜を1.0μm程度の厚みで形成する。さらに、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等により絶縁体16〜19以外の箇所のSiO膜をエッチングして、膜厚を0.2μm程度までに調整加工する。その後、スパッタリング装置を使用し、Al−Cu合金にて信号用引き出し電極20,21を成膜する。これにより、交差配線部23〜26を有する弾性表面波装置が作製される。
【0037】
また、絶縁体16〜19としてポリイミド系樹脂等の樹脂を用いる場合、例えば、各電極パターン及び圧電基板1上に保護膜となるSiO膜を0.01μm程度の厚みで形成し、そのSiO膜上に絶縁体16〜19となる樹脂層を2〜3μm程度の厚みにスピンコートし、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、RIE装置等により絶縁体16〜19以外の箇所の樹脂層を除去して、SiO膜及び樹脂層が積層されて成る絶縁体16〜19を形成する。
【0038】
また、図2に本発明の弾性表面波装置の好適な実施の形態であって、実施の形態の他例における電極構造についての平面図を示す。図2の弾性表面波装置は、上記の構成において、平衡信号端子13,14に、伝搬方向に沿って、伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、IDT電極の両側にそれぞれ配置されるとともに伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波共振子33が、直列または並列に接続されている。
【0039】
本発明の図2の弾性表面波装置は、上記の構成により、交差配線部23〜26における抵抗、さらには容量を略同じとすることができ、その結果配線を流れる電流が略同じになり、通過帯域内のリップルを大幅に低減することができる。そのため、通過帯域内における挿入損失を向上させることができる。さらに、弾性表面波共振子33が付加されることにより、通過帯域外減衰量を大幅に低減することができる。
【0040】
なお、IDT電極2〜7、反射器電極8〜11、弾性表面波共振子31,32の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶので、簡単のため、図においてはそれらの形状を簡略化して図示している。
【0041】
また、弾性表面波装置用の圧電基板1としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は電気機械結合係数が大きく、かつ周波数温度係数が小さいため、圧電基板1として好ましい。また、これらの焦電性圧電単結晶のうち、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた圧電基板1であれば、弾性表面波装置の信頼性上良好である。圧電基板1の厚みは0.1〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板1が脆くなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用に適さない。
【0042】
また、IDT電極2〜7及び反射器電極8〜11は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタリング法またはCVD法等の薄膜形成法により形成する。それらの電極の厚みは0.1〜0.5μm程度とすることが弾性表面波装置(弾性表面波フィルタ)としての特性を得る上で好適である。
【0043】
さらに、本発明に係る弾性表面波装置の電極及び圧電基板1上の弾性表面波伝搬部に、SiO,SiN,Si,Alを保護膜として形成して、導電性異物による通電防止や耐電力向上を図ることもできる。
【0044】
また、本発明の弾性表面波装置(弾性表面波フィルタ)を通信装置に適用することができる。即ち、少なくとも受信回路及び送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置、または、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能である。従って、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、弾性表面波装置の挿入損失が改善されるため、消費電力が低減され感度が格段に良好な優れた通信装置を提供できる。
【0045】
なお、上述した実施の形態の説明では、簡単のために、1つの弾性表面波素子において、圧電基板1上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、この伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を多数本有する3つのIDT電極を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、IDT電極を5個以上の奇数個配設するようにしてもよく、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の1例を示す平面図である。
【図2】本発明の弾性表面波装置について実施の形態の他例を示す平面図である。
【図3】従来の弾性表面波装置の電極構造例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0047】
1:圧電基板
2〜7:IDT電極
8〜11:反射器電極
12:不平衡信号端子(不平衡入(出)力端子)
13,14:平衡信号端子(平衡出(入)力端子)
16〜19:絶縁体
20,21:信号用引き出し配線
27,28:接地用引き出し配線
31,32:弾性表面波素子
33:弾性表面波共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に、前記圧電基板上を伝搬する弾性表面波の伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた3個以上の奇数個のIDT電極と、前記奇数個のIDT電極の両側にそれぞれ配置され、前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する電極群から成る弾性表面波素子が複数段、縦続接続されて配設されているとともに、初段の前記電極群の中央に配設されたIDT電極は不平衡信号端子に接続され、最終段の前記電極群の中央に配設されたIDT電極は、前記電極指をそれぞれ有して相対する櫛歯状電極のうちの一方が2分割されてそれぞれに平衡信号端子が接続された弾性表面波装置であって、
前記弾性表面波素子の前記IDT電極の段間側のバスバー電極に接続された接地用引き出し配線と、前記弾性表面波素子同士を縦続接続した全ての信号用引き出し配線とが、絶縁体を介して交差して配設された交差配線部をそれぞれ形成しており、
前記交差配線部は、前記奇数個のIDT電極の中央に配設されたIDT電極を中心に対称的に形成されているとともに、各々の前記交差配線部によって生じる抵抗が略同じであることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記平衡信号端子に、前記伝搬方向に沿って、前記伝搬方向に直交する方向に長い電極指を複数備えた1個以上のIDT電極と、前記IDT電極の両側にそれぞれ配置されるとともに前記伝搬方向に対して直交する方向に長い電極指を複数備えた反射器電極とを有する弾性表面波共振子が、直列または並列に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の弾性表面波装置を有する、受信回路及び送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−28826(P2008−28826A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200679(P2006−200679)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】