説明

形状測定センサ

【課題】被検物を傷めることなくより短時間で表面形状測定を行うことができる形状測定センサを提供する。
【解決手段】被検物100の表面形状を測定するための形状測定センサ1は、自身の軸方向に摺動可能に支持され、軸方法に摺動することにより被検物の表面形状に追従するプローブ11と、プローブを軸方向に摺動可能に支持する静圧軸受12と、プローブを、その摺動範囲内における中間部の所望の位置に位置決めして保持する第一の状態と、プローブの摺動に干渉しない第二の状態とに切り替え可能なストッパ部60とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触式表面形状測定に用いる形状測定センサ、より詳しくは、より短時間で表面形状測定を行うことができる形状測定センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズや金型等の光学関連素子の表面形状測定を行う装置として、プローブ(触針子)を光学関連素子等の被検物の面上に接触させて追従させる接触走査式の測定方法を採用した接触式形状測定センサ(以下、単に「形状測定センサ」と称することがある。)が用いられている。
【0003】
特許文献1には、プローブを水平方向に対して傾斜させることにより被検物と所定の接触力で接触させる、いわゆる自重傾斜式の形状測定センサが記載されている。
この形状測定センサでは、被検物表面上の各点における接触力が一定となり、かつ極めて微小な接触力で表面形状の測定が行えるという優れた利点がある。
【0004】
特許文献1に記載の形状測定センサでは、プローブを支持する案内手段として、リニアガイドやエアスライダ等の、プローブとの間に発生する摩擦が極めて小さい手段を用いると、高精度の測定を行うことができ、好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3926793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の形状測定センサでは、プローブを傾斜させると、プローブが移動可能範囲の限界まで前進し、移動可能範囲の中間位置でプローブを止めることはできない。このため、通常特許文献1の形状測定センサの使用時は、まずプローブを限界まで前進させてから、被検物を毎分数ミリメートル程度の超低速で移動させてプローブに接触させることにより、被検物の表面がプローブによって傷められることを防止している。その後、当該被検物の測定に必要なストローク量だけ被検物でプローブを押して超低速で後退させてから測定を開始するため、前準備を含めた総測定時間が長くなりがちであるという課題が残されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、被検物を傷めることなくより短時間で表面形状測定を行うことができる形状測定センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検物の表面形状を測定するための形状測定センサであって、自身の軸方向に摺動可能に支持され、前記軸方法に摺動することにより前記被検物の表面形状に追従するプローブと、前記プローブを前記軸方向に摺動可能に支持する軸受部と、前記プローブを、その摺動範囲内における中間部の所望の位置に位置決めして保持する第一の状態と、前記プローブの摺動に干渉しない第二の状態とに切り替え可能なプローブ保持機構とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記プローブ保持機構は、前記プローブに設けられた係止部が係止される被係止部を有し、前記軸方向と平行に移動することにより前記第一の状態と前記第二の状態とを切り替えてもよい。
また、前記軸受部と前記プローブとの間に流体が供給され、前記プローブ保持機構は前記流体の供給を制御することにより前記第一の状態と前記第二の状態とを切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の形状測定センサによれば、被検物を傷めることなくより短時間で表面形状測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の形状測定センサの概略構成を示す図である。
【図2】同形状測定センサの触針子部およびストッパ部を一部断面で示す図である。
【図3】同形状測定センサの使用時の動作を示す図である。
【図4】同形状測定センサの使用時の動作を示す図である。
【図5】同形状測定センサの使用時の動作を示す図である。
【図6】同形状測定センサの使用時の動作を示す図である。
【図7】同形状測定センサの使用時の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。なお、特に説明のない限り、「前方」および「後方」とは、それぞれ図1に示すz軸の負方向及び正方向を指すものとする。
【0013】
図1は、本実施形態の形状測定センサ1を示す図である。形状測定センサ1は、被検物の表面形状を測定するものであり、プローブ11が取り付けられた触針子部10と、被検物100が支持される被検物保持部20と、触針子部10を移動させるためのy軸駆動機構30と、被検物保持部20を移動させるためのx軸z軸駆動機構40と、形状測定センサ1全体の動作制御及び取得された表面形状データの処理を行うパソコン50と、プローブ11を位置決めするストッパ部(プローブ保持機構)60とを備えている。
【0014】
触針子部10は、自身の軸方法に摺動することにより被検物100の表面形状に追従するプローブ11と、プローブ11が自身の軸方向に摺動可能に挿通された静圧軸受(軸受部)12と、プローブ11の水平方向に対する傾斜角を調整する傾斜角調整部13とを備えている。
プローブ11は、被検物100に接触追従する先端部11Aと、先端側に先端部11Aが取り付けられた略円柱状の軸部11Bとを有する公知の構成のものを適宜選択して採用可能である。図1では、プローブの一例として、先端部11Aが尖ったダイヤモンドスタイラスが示されている。プローブ11は、静圧軸受12内を滑らかに摺動可能となるように静圧軸受12に挿通されている。静圧軸受12は、挿通されたプローブ11の先端部11Aが被検物100の配置された前方に向くようにベース平板14上に固定される。軸部11Bの後方側には、プローブ11の変位量を検出するための変位計15が取り付けられている。
【0015】
図2は、触針子部10およびストッパ部60の構造を示す図であり、プローブ11を形状測定センサ1の上方(図1に示すy軸正側)から見た状態かつ一部断面で示している。静圧軸受12は、外形が略直方体状であり、径方向の断面が円形の貫通孔12Aを有する。プローブ11の軸部11Bは、貫通孔12Aに挿通されている。貫通孔12Aの内面と、軸部11Bの外周面との間には、貫通孔12Aの径方向両側において、数マイクロメートル(μm)程度のクリアランスが確保されている。
【0016】
また、静圧軸受12には、エア供給ライン12Bが接続されており、図示しない供給源から空気等の気体(流体)が供給される。供給された気体は、静圧軸受12内に形成された図示しない管路を通って貫通孔12Aの内面に形成された図示しない多数の送気穴から貫通孔12Aと軸部11Bとの間の空間に気流として供給される。この気流により、プローブ11と静圧軸受12との間に生じる摩擦力が低減され、プローブ11が静圧軸受12の貫通孔12A内を滑らかに摺動可能に支持される。
【0017】
傾斜角調整部13は、図1に示すように、前方の支点13Aと、y軸方向に伸縮可能な伸縮部13Bとを備えており、プローブ11の傾斜角を変化させてプローブ11を前方に摺動させる。伸縮部13Bとしては、例えば圧電アクチュエータや、ねじと角度調整部材とからなる機構等を採用することができる。
【0018】
被検物保持部20は、基台2上に取り付けられたベース21と、ベース21に取り付けられた揺動部22とを備えている。被検物100は、揺動部22に固定されてプローブ11に対向配置される。揺動部22は、ベース21に対して揺動可能であり、揺動部22とベース21との位置関係を変化させることによって、揺動部22に取り付けられた被検物100とプローブ11とがなす角度を変化させることができる。
なお、本実施形態では、測定される表面が球面状の被検物を示しているが、測定される表面の形状には特に制限はない。
【0019】
y軸駆動機構30は、触針子部10と基台2との間に設けられており、y軸方向に移動することによって、傾斜角調整部13が設定したプローブ11の傾斜角を保持したまま、触針子部10およびストッパ部60を上下に移動させることができる。y軸駆動機構30の後方には、y軸駆動機構の移動量を検出するための変位計31が設けられている。
【0020】
x軸z軸駆動機構40は、被検物保持部20のベース21と基台2との間に設けられており、x軸方向およびz軸方向に移動することによって、被検物保持部20全体をx軸方向およびz軸方向に移動させることができる。x軸z軸駆動機構40の前方には、被検物保持部20のx軸方向の変位を検出する変位計41が設けられる。
y軸駆動機構30およびx軸z軸駆動機構40により、プローブ11と被検物保持部20に保持された被検物100とは、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向に相対移動することができる。
【0021】
パソコン50は、使用者の入力や指示等を受け付ける入力部51と、各種情報を表示する表示部52とを備えている。パソコン50は、傾斜角調整部13、揺動部22、y軸駆動機構30、x軸z軸駆動機構40、およびストッパ部60に接続されており、これらの各機構の動作を制御可能である。また、パソコン50は、各変位計15、31、および41とも接続されており、これらの検出値を受信して被検物100の複数の部分表面形状データに再構成するとともに、各部分表面形状データをつなぎ合わせて被検物100全体の表面形状データを取得する処理を行う。
さらに、図示を省略するが、パソコン50はエア供給ライン12Bとも接続されており、静圧軸受12への気体供給はパソコン50によって制御される。
【0022】
ストッパ部60は、図1および図2に示すように、ベース平板14上に設けられており、プローブ11が係止される被係止部61と、被係止部61をプローブ11の軸方向と平行に移動させるためのレール62とを有する。
被係止部61は、ベース平板14上に突出しており、図示しないモータ等の移動機構によりレール62上を移動し、所望の位置に停止させることができる。レール62は、ベース平板14上において静圧軸受12の長手方向(貫通孔12Aの軸線方向)と平行に延びており、静圧軸受12に挿通されたプローブ11の軸方向と略平行である。被係止部61は、静圧軸受12の後端よりも後方にあるときは、プローブ11の軸部11Bに取り付けられた係止部16が係止されることにより、プローブ11を、摺動範囲において前端と後端を除く中間部の所望の位置に位置決めすることができる(第一の状態)。一方、被係止部61が静圧軸受12の後端よりも前方にあるときは、被係止部61と係止部16とが干渉せず、被係止部61はプローブ11の摺動に干渉しない(第二の状態)。
【0023】
上記の構成を備えた形状測定センサ1の使用時の動作について、以下に説明する。
まず使用者は、被検物100を、形状測定を行う面が触針子部10に対向するように、被検物保持部20の揺動部22に支持固定する。
【0024】
次に、使用者は、被検物100の厚み等の各部寸法や、形状測定を行う面の大まかな形状等に基づき、被検物100の形状測定に必要なプローブ11のストロークを決定し、入力部51を介してパソコン50に入力する。
【0025】
パソコン50は、入力されたストロークの量が確保されるようにストッパ部60の被係止部61を停止させる所定位置を決定し、移動機構を駆動して被係止部61をレール62に沿って移動させる。被係止部61は、図3に示すように、プローブ11の軸方向と略平行に移動して所定位置に停止する。図3における破線L1は、当該ストローク量を確保するためにプローブ11の先端を移動させる位置を示している。
【0026】
次に、使用者は静圧軸受12へ気体を供給しつつ、入力部51を介して傾斜角調整部13を操作して、ベース平板14の後部を上方に移動させる。すると、ベース平板14は支点13Aを支点として傾斜し、静圧軸受12で保持されたプローブ11は、自身の重力によって、静圧軸受12内を滑らかに摺動する。摺動によってプローブ11は被検物100に向かって前進し、図4に示すように、係止部16が被係止部61に係止されることで、プローブ11の先端が破線L1の位置に移動した状態で位置決めされて停止する。
入力されたストロークの量を確保するためには、例えば、予めプローブ11を摺動可能範囲の後端に位置させる、すなわち限界まで後退させてから、当該ストローク量だけ前進させればよく、安全を見込んで当該ストローク量に所定量を加算した長さだけ前進させるとより好ましい。
【0027】
プローブ11が位置決めされて停止された後、使用者はパソコン50を介してx軸z軸駆動機構40を動作させ、図5に示すように、被検物保持部20に保持された被検物100をプローブ11に向かって接近するように移動させる。このとき、プローブ11は停止しており、前進する恐れもないため、被検物100を上述の超低速で移動させる必要はない。使用者は、被検物100を、プローブ11の先端部11Aのごく近くであって、先端部11Aに接触しない位置までより高速(例えば、毎秒数mm程度)で移動させる。
【0028】
被検物100が先端部11Aのごく近くまで移動したところで、使用者は被検物100の移動速度を落とし、図6に示すように、プローブ11の先端と接触しても被検物100の表面を傷めない程度の超低速でプローブ11に接近させ、先端部11Aと被検物100の表面とを接触させる。
【0029】
プローブ11と被検物100の表面とが接触したら、使用者は、図7に示すように、被係止部61を静圧軸受12の後端よりも前方に移動させ、プローブ11の摺動に干渉しない位置に退避させてストッパ部60を第二の状態に切り替える。
被係止部61の退避後、使用者は、パソコン50によってx軸z軸駆動機構40とy軸駆動機構30とを駆動し、被検物100とプローブ11とを相対移動させることにより、被検物100の表面をプローブ11によって走査させる。プローブ11の走査方向はx軸に平行な方向であり、y軸駆動機構30により先端部11Aの高さを変化させながら被検物100の表面全体が走査される。各変位計15、31及び41の検出値はパソコン50に入力され、被検物100の表面形状が順次測定、記録される。
【0030】
本実施形態の形状測定センサ1によれば、ストッパ部60を備えているため、プローブ11を傾斜させた状態で、摺動範囲の中間部における所望の位置で位置決めして保持することができる。
従来の自重傾斜式形状測定センサでは、摺動するプローブには自重により発生する重力以外にほとんど外力が作用しないため、摺動範囲の中間において停止させることはできなかった。このため、被検物を接近させた状態でプローブを傾斜させると、摺動したプローブの先端により被検物の表面が傷められる恐れがあり、これを確実に防ぐには、上述のようにプローブを摺動範囲の前端まで前進させ、それ以上前進しない状態にしてから被検物を接近させる必要があった。
これに対し、形状測定センサ1では、ストローク量を確保できる最低限の量だけプローブ11を前進させた状態でストッパ部60によりプローブ11を位置決めすれば、それ以上プローブ11は前進しない。したがって、被検物保持部20に保持された被検物100をより高速でプローブ11の近傍まで移動させても、被検物100の表面を傷める恐れがなく、被検物100を超低速で移動させる距離は、プローブ11の近傍からプローブ11と接触するまでのごく短距離とすることができる。その結果、測定の前準備を含めた被検物100の形状測定に要する総時間を著しく短縮させて効率よく測定を行うことができる。
【0031】
また、従来の自重傾斜式形状測定センサでは、確保しようとするストローク量が多くなるほど被検物を超低速で移動させる距離が長くなり、測定の前準備に要する時間が長くなるが、形状測定センサ1では、高速でプローブ先端の近傍まで被検物を移動させることができるため、確保しようとするストローク量が変化しても、被検物を超低速で移動させる距離は基本的に変化しない。したがって、確保しようとするストローク量に関係なく、常に効率よく測定を行うことができる。また、形状測定センサ1が発揮する測定時間短縮効果は、確保しようとするストローク量が大きくなるほど顕著になる。
【0032】
また、ストッパ部60の被係止部61は、プローブ11の摺動方向前方においてプローブ11に取り付けられた係止部16と当接することによりプローブ11を位置決めするため、位置決め時にプローブ11に対してその摺動方向と交差する方向に力を加えない。したがって、プローブ11の摺動に与える影響はほとんどなく、高精度に形状測定を行うことができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明の形状測定センサにおけるプローブ保持機構は、上記のストッパ部60のような構成のものには限られない。一例として、静圧軸受12へのエア供給経路に電磁弁を設け、エア供給を停止するあるいは摺動が停止する程度にエア供給量を減少させるよう制御することにより、プローブ11が滑らかに摺動する第二の状態から、第一の状態に当該電磁弁を切り替えて、プローブ11の位置決めを行ってもよい。
【0034】
また、被検物保持部に被検物を取り付けてからプローブと被検物とを接触させるまでの一連の動作を、予め作成したプログラムをパソコンに実行させる等により、形状測定センサに自動で行わせてもよい。
【0035】
さらに、本発明の形状測定センサの構成は、実施形態のような自重傾斜式以外の形状測定センサにも適用可能である。したがって、例えばプローブを垂直方向に進退させるような形状測定センサであっても、ストッパ部を設けることにより、同様に測定に要する総時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 形状測定センサ
11 プローブ
12 静圧軸受(軸受部)
16 係止部
60 ストッパ部(プローブ保持機構)
61 被係止部
100 被検物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物の表面形状を測定するための形状測定センサであって、
自身の軸方向に摺動可能に支持され、前記軸方法に摺動することにより前記被検物の表面形状に追従するプローブと、
前記プローブを前記軸方向に摺動可能に支持する軸受部と、
前記プローブを、その摺動範囲内における中間部の所望の位置に位置決めして保持する第一の状態と、前記プローブの摺動に干渉しない第二の状態とに切り替え可能なプローブ保持機構と、
を備えることを特徴とする形状測定センサ。
【請求項2】
前記プローブ保持機構は、前記プローブに設けられた係止部が係止される被係止部を有し、前記軸方向と平行に移動することにより前記第一の状態と前記第二の状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の形状測定センサ。
【請求項3】
前記軸受部と前記プローブとの間には流体が供給されており、
前記プローブ保持機構は、前記流体の供給を制御することにより前記第一の状態と前記第二の状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の形状測定センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−103111(P2012−103111A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251970(P2010−251970)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】