説明

形状良否判定装置および形状良否判定方法

【課題】 予め教示用のサンプルを作成しなくて良否判定が実行できる形状良否判定装置および形状良否判定方法の提供を課題とする。
【解決手段】 本発明において、特徴値F,Gのうち不良品の特徴値Fを実際に撮像した撮像イメージ33aではなく、推定により生成された推定イメージ33bから算出しているため、大量の不良品を作為的に作成し、実際に撮像する必要がない。従って、不良品の特徴値Fを収集するための手間とコストをなくすことができる。また、不良品の形状を表す形状データ34dは、不良品の範囲内で無限に作成することができる。従って、形状データ34dに基づいて算出される特徴値Fも無限に用意することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の形状の良否を判定する形状良否判定装置および形状良否判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の形状良否判定装置として、予め欠陥が形成された教示用の基板を撮影し、その画像データから複数の特徴値を算出しておくものが知られている(例えば、特許文献1、参照。)。
かかる構成によれば、欠陥を有する基板を撮像した画像データの特徴値と、製品基板を撮像した画像データから得られる特徴値とを判別関数を利用して比較することができるため、製品基板を撮像した画像データと欠陥を有する基板を撮像した画像データとの類似性を判断することができた。すなわち、製品基板を撮像した画像データと欠陥を有する基板を撮像した画像データとの類似性が強い場合には、当該製品基板が欠陥を有していると判定することができ、製品基板を撮像した画像データと欠陥を有する基板を撮像した画像データとの類似性が弱い場合には当該製品基板が良品であると判定することが可能であった。
【特許文献1】特開平11−344450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の形状良否判定装置においては、予め欠陥が形成された教示用の基板を撮影しておかなければならず、良否判定を実行する前に欠陥を有する教示用の基板を用意しておく必要があった。しかし、製品基板の歩留まりがよければ、欠陥を有する基板が作成されることは稀であり、作為的に欠陥を有する基板を作成しなければならなかった。従って、作為的に欠陥を有する基板を作成するための手間とコストが無駄となっていた。また、統計的に信頼性の高い判別関数を算出するためには大量の教示用基板を用意しなければならず、手間とコストを増大させるという問題もあった。さらに、欠陥が発生する要因が明らかでない場合には、作為的に欠陥のある基板を作成することすらできないという問題もあった。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、予め教示用のサンプルを作成しなくて良否判定が実行できる形状良否判定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1にかかる発明では、検査対象物を撮像して撮像イメージを生成する撮像手段と、上記撮像イメージの特徴値を実特徴値として算出する実特徴値算出手段と、良品または不良品の形状を表す3次元データを取得する形状データ取得手段と、上記3次元データに基づいて上記良品または不良品を撮像したときの上記撮像イメージを推定した推定イメージを生成する推定手段と、同推定された上記推定イメージの上記特徴値を推定特徴値として算出する推定特徴値算出手段と、上記実特徴値と上記推定特徴値とを比較することにより上記検査対象物の良否判定を行う良否判定手段とを具備する構成としてある。
【0005】
上記のように構成した請求項1の発明において、撮像手段は検査対象物を撮像することにより、撮像イメージを生成する。実特徴値算出手段は、上記撮像イメージから同撮像イメージについての特徴値を実特徴値として算出する。形状データ取得手段は、良品または不良品の形状を表す3次元データを取得する。そして、この3次元データに基づいて、推定手段が上記良品または不良品の撮像イメージを推定することにより、推定イメージを生成する。
【0006】
さらに、推定特徴値算出手段は、上記良品または不良品についての上記推定イメージの特徴値を推定特徴値として算出する。良否判定手段は、上記実特徴値と上記推定特徴値とを比較することにより上記検査対象物の良否判定を行う。すなわち、上記良品の形状を表す3次元データに基づく上記推定特徴値に上記検査対象物を撮像して得られた上記実特徴値が近似していれば、当該検査対象物は良品であるということができる。逆に、上記不良品の形状を表す3次元データに基づく上記推定特徴値に上記検査対象物を撮像して得られた上記実特徴値が近似していれば、当該検査対象物は不良品であるということができる。
【0007】
かかる構成によれば、上記良品または不良品を実際に撮像しなくても上記推定特徴値を得ることができ、同推定特徴値を利用して良否判定を行うことができる。従って、上記良品または不良品を実体的に作成する必要がなくて済むため、同良品または不良品を作成するための手間とコストをなくすことができる。
【0008】
さらに、請求項2にかかる発明では、上記撮像手段は、上記検査対象物を経由して入射される電磁波の状態を位置ごとに取得することにより上記撮像イメージを生成するとともに、上記推定手段は、上記撮像手段が上記検査対象物を撮像する際に同検査対象物に入射する上記電磁波の入射角度を取得する入射角度取得手段と、上記3次元データと上記入射角度に基づいて、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の挙動を推定する挙動推定手段と、上記挙動に基づいて上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を推定する到達状態推定手段と、上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を示す値を位置ごとに配列させることにより上記推定イメージを生成する推定イメージ生成手段とを具備する構成としてある。
【0009】
上記のように構成した請求項2の発明において、上記撮像手段は、上記検査対象物を経由して入射される電磁波の状態を位置ごとに取得することにより撮像イメージを生成する。すなわち、上記検査対象物を経由して入射される電磁波には、上記検査対象物の特徴が反映されるため、同電磁波の状態を位置ごとに取得することにより、同検査対象物の特徴が表現された撮像イメージを生成することができる。例えば、上記検査対象物にて反射させた可視光を上記撮像手段としてのカメラにて入力することにより、同検査対象物の特徴が反映された反射イメージを生成することができる。むろん、上記電磁波が上記検査対象物を透過して上記撮像手段に入射する場合であっても、同検査対象物の特徴が反映された反射イメージを生成できることはいうまでもない。
【0010】
一方、入射角度取得手段は、上記撮像手段が上記検査対象物を撮像する際に同検査対象物に入射される電磁波の入射角度を取得する。挙動推定手段は、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の挙動を推定する。すなわち、上記電磁波が上記良品または不良品に到達した場合を想定し、そのときの挙動を推定する。例えば、上記電磁波が上記良品または不良品に到達したときの挙動として、反射や透過や屈折や散乱や回折等が推定される。上記挙動推定手段は、上記入射角度と、上記3次元データから上記良品または不良品の形状とを取得するため、これらから上記電磁波が上記良品または不良品に到達したときの挙動を推定することができる。
【0011】
また、上記電磁波は、電波と光(赤外光,紫外光,可視光)とX線とγ線等の種々の波長のものを適用することができる。上記電磁波の波長によっては上記良品または不良品に到達したときの挙動が大きく異なることとなる。さらに、上記良品または不良品の物性等によっても上記良品または不良品に到達したときの挙動が大きく異なることとなる。従って、上記挙動推定手段は、上記入射角度と上記良品または不良品の形状のみならず、以上のような他の挙動変動要因を取得し、これらから上記電磁波が上記良品または不良品に到達したときの挙動を推定する。
【0012】
到達状態推定手段は、推定された上記挙動に基づいて上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を推定する。すなわち、上記良品または不良品に到達したときの上記電磁波の挙動が得られるため、同良品または不良品を経由した上記電磁波が上記撮像手段に到達する状態を推定することができる。例えば、上記良品または不良品に到達したときの上記電磁波の挙動が上記撮像手段と異なる方向への反射なのであれば、同反射した上記電磁波が同撮像手段に到達しないという到達状態を推定することができる。反対に、上記良品または不良品に到達したときの上記電磁波の挙動が上記撮像手段に向かう方向への反射なのであれば、同反射した上記電磁波が同撮像手段にどれくらい到達するかという到達状態を推定することができる。さらに、推定イメージ生成手段は、上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を示す値を位置ごとに配列させることにより上記推定イメージを生成する。それぞれが上記電磁波の状態を示す値を有する複数の画素データで構成される上記推定イメージを生成することができる。
【0013】
さらに、請求項3にかかる発明では、上記挙動推定手段は、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の反射挙動を推定する構成としてある。 上記のように構成した請求項3の発明において、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の反射挙動が上記挙動推定手段によって推定される。すなわち、上記撮像手段によって上記検査対象物の撮像反射イメージが撮像される場合において、これと比較可能な上記良品または不良品の推定反射イメージを生成することができる。
【0014】
さらに、請求項4にかかる発明では、上記挙動推定手段が上記反射挙動を推定するにあたり、鏡面反射と拡散反射とが考慮される構成としてある。
上記のように構成した請求項4の発明において、鏡面反射と拡散反射の双方を考慮した上記反射挙動を推定することができる。
【0015】
また、請求項5にかかる発明では、形状データ取得手段は、上記良品または不良品の形状にばらつきを持たせた複数の3次元データを取得する構成としてある。
上記のように構成した請求項5の発明において、形状データ取得手段が上記良品または不良品の形状にばらつきを持たせた複数の3次元データを取得するため、形状のばらつきを考慮した上記推定特徴値を算出することができる。従って、上記良否判定手段が統計的手法により上記実特徴値と上記推定特徴値とを比較して良否判定を行う場合には、信頼性を向上させることができる。むろん、上記推定特徴値の度数も容易に増大させることができるため、統計的信頼性をより向上させることができる。
【0016】
また、請求項6にかかる発明では、上記実特徴値算出手段と上記推定特徴値算出手段は、上記撮像イメージと上記推定イメージから多種の上記実特徴値と上記推定特徴値を算出するとともに、上記良否判定手段は、多種の上記実特徴値と上記推定特徴値をそれぞれ線形結合させた判別値を比較することにより良否判定を行う構成としてある。
上記のように構成した請求項6の発明において、上記実特徴値算出手段と上記推定特徴値算出手段によって上記撮像イメージと上記推定イメージから多種の上記実特徴値と上記推定特徴値が算出される。そして、上記良否判定手段は、多種の上記実特徴値を線形結合させた判別値と、多種の上記推定特徴値を線形結合させた判別値を比較することにより良否判定を行う。単一種の上記実特徴値と上記推定特徴値のみでは正確な良否判定を行うことができない場合に、多種の上記実特徴値と上記推定特徴値を利用して正確に良否判定を行うことができる。多種の上記実特徴値と上記推定特徴値をそれぞれ線形結合する際の係数は、公知の多変量解析手法を用いて最適化することができる。
【0017】
また、上述した装置は、かかる装置を実現する方法としても適用可能であり、請求項7にかかる発明においても、基本的には同様の作用となる。むろん、請求項2〜請求項6に記載された構成を請求項7の方法に対応させることも可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、請求項1および請求項7にかかる発明によれば、予め教示用のサンプルを作成しなくて良否判定が実行できる形状良否判定装置および形状良否判定方法を提供することができる。
請求項2にかかる発明によれば、電磁波の挙動から推定イメージを推定することができる。
請求項3にかかる発明によれば、検査対象物の反射像を推定することができる。
請求項4にかかる発明によれば、反射像を正確に推定することができる。
請求項5にかかる発明によれば、良否判定を正確に行うことができる。
請求項6にかかる発明によれば、誤判定を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施形態について説明する。
(1)形状良否判定装置の構成:
(2)不良データ蓄積処理:
(3)良データ蓄積処理:
(4)判別関数について:
(5)良否判定処理:
(6)変形例:
【0020】
(1)形状良否判定装置の構成:
図1は、本発明にかかる形状良否判定装置の構成を示している。同図において、形状良否判定装置10は、相互に接続された撮像ユニット20とコンピュータ30とから構成されている。撮像ユニット20は検査対象物の実装基板50を撮像して撮像イメージを生成し、同撮像イメージをコンピュータ30に出力する。コンピュータ30は撮像イメージを入力し、同撮像イメージを解析することにより、撮像を行った実装基板50の良否を判定する。図1において、撮像ユニット20は、実装基板50が一定位置に載置されるとともに、コントローラ21の指令に基づいてX−Y(水平)方向に移動可能なX−Yステージ23を備えている。カメラ22は、所定の光学レンズからなる光学系22aを鉛直下方に配向させており、鉛直下方の像を入力することが可能となっている。カメラ22の内部にはCCD撮像板22bが備えられており、光学系22aは鉛直下方の像をCCD撮像板22bに結像することが可能となっている。
【0021】
CCD撮像板22bはドットマトリックス状に配列された複数のCCD撮像素子で構成されている。CCD撮像素子は、それぞれ入力した光に応じて電荷を発生させる光電素子であるとともに、同発生した電荷を一時的に記憶する。そして、CCD撮像素子にて生成した電荷をデジタル信号に変換しつつ、順次コントローラ21に転送する。コントローラ21は、転送された上記デジタル信号をCCD撮像板22bにおけるCCD撮像素子の個々のアドレスに対応づけながら画像メモリ(VRAM)21aに蓄積する。すなわち、VRAM21aにおいてCCD撮像素子に対応する画素ごとに上記デジタル信号の階調を有する画像データが生成される。なお、本実施形態において、上記デジタル信号はCCD撮像素子に入力された光の輝度を表現するものとする。すなわち、画素ごとに輝度値を有する画像データがVRAM21aにおいて記憶される。
【0022】
上記のようにしてVRAM21aに記憶された画像データはコンピュータ30に対して出力される。また、カメラ22にて撮像を行うごとにVRAM21aには新たな画像データが記憶される。コントローラ21は、X−Yステージ23に対して駆動信号を出力しており、同駆動信号に応じてX−Yステージ23が水平方向に駆動される。むろん、X−Yステージ23上の一定位置に載置された実装基板50も水平移動することとなる。このようにすることにより、カメラ22を移動させることなく、実装基板50上のあらゆる位置にカメラ22の視野を移動させることが可能となる。なお、カメラ22にて撮像する際には、X−Yステージ23が停止するため、静止画像が撮像されることとなる。
【0023】
X−Yステージ23から所定量上方にリングライト24が保持されている。リングライト24は発光素子としてLEDを具備している。このLEDは円環状に形成されており、その中心位置が上方視においてカメラ22の光学系22aの中心位置と一致させられている。すなわち、リングライト24はカメラ22の視野を外側から一定の角度で照射することが可能となっている。なお、カメラ22の視野は、リングライト24の大きさや実装基板50との距離よりも十分に小さいため、視野内におけるリングライト24の入射角度や光量の誤差は無視できるものとする。このようにすることにより、実装基板50のリングライト24による反射像をカメラ22にて撮像した2次元の画像データを生成することができる。なお、カメラ22にて撮像した画像データを撮像イメージというものとする。
【0024】
図2は、コンピュータ30の内部構成をブロック図により示している。同図において、コンピュータ30は、主要な構成としてCPU31とRAM32とビデオメモリ(VRAM)33とハードディスク(HDD)34を備えている。CPU31は、HDD34に記憶されたオペレーティングシステム(O/S)34aや良否判定プログラム34b等に基づいた処理を実行させる演算装置であり、同処理を実行する際にRAM32をワークエリアとして使用する。VRAM33は、画像データを記憶するために特化したメモリであり、撮像イメージ33aや推定イメージ33bが記憶される。なお、撮像イメージ33aは、コントローラ21のVRAM21aから転送された画像データである。
【0025】
その他の構成として、コンピュータ30にはビデオインターフェイス(I/F)35と入力インターフェイス(I/F)37とI/O39が備えられている。ビデオI/F35にはディスプレイ36が接続され、入力I/F37にはキーボード38aおよびマウス38bが接続され、I/O39には撮像ユニット20のコントローラ21が接続されている。I/O39は、コントローラ21に対してX−Yステージ23を駆動させるための信号や、カメラ22にて撮像を実行させるための信号等を出力するとともに、コントローラ21から撮像イメージの入力を受け付けている。
【0026】
図3は、コンピュータ30にて実現されるソフトウェアの構成とデータの流れを示している。CPU31およびRAM32にて、O/S34aと良否判定プログラム34bとが実行されており、そのモジュール構成が示されている。良否判定プログラムMは、主要な構成として、撮像実行部M1と形状データ取得部M2と推定部M3と特徴値算出部M4と判別関数算出部M5と良否判定部M6とから構成されている。さらに、推定部M3は、入射角度取得部M3aと反射挙動推定部M3bと到達光量推定部M3cと推定イメージ生成部M3dとから構成されている。
【0027】
撮像実行部M1は、HDD34に記憶された基板データ34cを取得し、同基板データ34cに基づいて撮像ユニット20に撮像を実行させる。具体的に、基板データ34cには、実装基板50の大きさや実装された部品の種類や位置や大きさや形状や個数といった情報が格納されており、これらの情報に基づいてX−Yステージ23を駆動させる。従って、実装基板50上における所望の位置にカメラ22の視野を動かすことができ、実装基板50上における所望の位置について良否判定を実行することができる。
【0028】
形状データ取得部M2は、HDD34から形状データ34dを取得する。形状データ34dは、実装基板50上のはんだ形状を表した3次元データであり、例えば(X,Y,Z)の3成分で表現される複数の点ではんだの形状が特定されている。むろん、はんだの三次元形状が近似関数やベクトル等で表現されるデータ形式であってもよい。形状データ取得部M2は、形状データ34dに基づいた複数のはんだ形状の画像をディスプレイ36に出力する。そして、ディスプレイ36に表示されたはんだ形状のいずれかを使用者がマウス38bまたはキーボード38aによって選択する。選択されたはんだ形状に対応する形状データ34dは、推定部M3の反射挙動推定部M3bに出力される。
【0029】
推定部M3の入射角度取得部M3aは、撮像ユニット20からリングライト24の大きさ(径)、および、リングライト24と実装基板50との距離を入力しており、これらの値に基づいてカメラ22による視野に対してリングライト24から発光された光が入射する角度を算出する。そして、入射角度取得部M3aにて算出された入射角度は反射挙動推定部M3bに出力される。反射挙動推定部M3bは、形状データ34dと入射角度とを入力し、これらに基づいてリングライト24から発光された光が形状データ34dによって表現されたはんだ形状に入射した際の反射挙動を推定する。リングライト24から発光された光の入射角度と、その光が衝突するはんだの角度とが分かるため、光の反射挙動を推定することができる。また、基板データ34cから当該実装基板50上に形成されるはんだの反射特性も取得しており、反射挙動を推定する際には同反射特性も考慮される。反射挙動推定部M3bにて推定された反射挙動は到達光量推定部M3cに入力される。
【0030】
到達光量推定部M3cは反射挙動を入力し、同反射挙動に基づいてCCD撮像板22bの各CCD撮像素子に到達する光量を推定する。反射挙動推定部M3bにて反射挙動が推定されているため、その反射光をCCD撮像板22bまでたどることにより、CCD撮像板22bがCCD撮像板22bの各CCD撮像素子に到達する光量を推定することができる。到達光量推定部M3cにて推定された各CCD撮像素子の光量は、推定イメージ生成部M3dに入力され、ここで画像データとしての推定イメージ33bが生成される。すなわち、各CCD撮像素子の光量に相応する輝度の階調が算出され、この階調が各CCD撮像素子の位置に応じて配列された2次元の推定イメージ33bが生成される。推定イメージ33bは、撮像イメージ33aと同様にVRAM33に記憶される。
【0031】
特徴値算出部M4は、VRAM33から撮像イメージ33aと推定イメージ33bとを入力し、それぞれに基づいて実特徴値34e1と推定特徴値34e2とを算出する。算出された実特徴値34e1と推定特徴値34e2は、HDD34に蓄積される。判別関数算出部M5は、HDD34に蓄積された実特徴値34e1と推定特徴値34e2を取得し、これらについて多変量解析を行うことにより、判別関数34fを算出する。判別関数34fはHDD34に記憶され、良否判定部M6が良否判定を行う際に利用される。具体的には、良否判定部M6が実特徴値34e1を判別関数34fに代入して得られた値によって良または否のいずれかの判定が行われる。良否判定の結果はディスプレイ36やプリンタといった出力機器に出力してもよいし、HDD34に記憶しておいてもよい。なお、本実施形態においては、単一のコンピュータ30において全処理が行われるものとしたが、複数のコンピュータを通信可能に接続し、各コンピュータにて処理を分散させてもよい。
【0032】
(2)不良データ蓄積処理:
図4は、本発明において実行される不良データ蓄積処理の流れを示している。同図において、ステップS100において、形状データ取得部M2は、形状データ34dに基づいた複数のはんだ形状の画像をディスプレイ36に出力する。ここでは、はんだ小を不良として判定するための不良データを作成する手順を例に挙げて説明する。図5は、ステップS100でディスプレイ36に表示される画像の例を示している。同図において、予め6通り用意された形状データ34dに基づいて、チップ部品51を実装基板50に実装した際のはんだ52の中央断面形状がA〜Fの6通り示されている。形状データ34dは3次元の形状を表すデータであるが、ここでは形状を比較しやすくするために2次元画像で表現している。また、A〜Fは順にはんだ量が少なくなり、はんだの最高点の高さ(以下、はんだ高さhという。)も順に低くなる傾向を有している。
【0033】
ステップS105においては、境界形状の選択を受け付けている。すなわち、断面形状A〜Fのうち使用者がはんだ小として不良選別したい上限のものを選択する。例えば、使用者が断面形状Dを選択したものとして以下説明する。この場合、使用者が断面形状A,B,Cについては良品として選別し、断面形状D,E,Fについては不良品として選別したいということが分かる。ステップS110では、不良品となるはんだの形状について、ばらつきを設定する。使用者の意向によれば、断面形状Dよりもはんだ高さhが低いものが全て不良となる。そこで、断面形状Dのはんだ高さh1よりも低いはんだ高さhについてばらつきを設定する。
【0034】
具体的には、図6に示すようにはんだ高さh1からはんだ高さh=0までを100等分し、それぞれのはんだ高さh1〜100について形状データ34dを取得する。各はんだ高さh1〜100となる形状データ34dを取得するにあたっては、予め全てのはんだ形状について形状データ34dが用意されていてもよいし、断面形状Dの形状データ34dから予測してもよい。例えば、形状データ34dを構成する全座標(X,Y,Z)に対して単純に(hn/h1)を乗算することにより、はんだ高さhnを満足する新たな形状データ34dを得ることができる。また、100通りのばらつきを設定するものに限られるものではない。
【0035】
ステップS115においては、nとして1が選択される。すなわち、はんだ高さh1となる形状データ34dが選択され、ステップS120では当該形状データ34dが取得される。形状データ取得部M2は、形状データ34dを取得すると、ステップS125にて形状データ34dについて画素を定義する。図7は、形状データ34dによって表現されるはんだ52を上方から見た状態を仮想的に示している。同図において、はんだ52がX,Y方向の破線によって格子状に仕切られており、同破線で囲まれた領域を画素Pa,bとして生成している。なお、a(1〜amax)はX方向の位置を示し、b(1〜bmax)はY方向の位置を示すものとする。同図において図示の簡略化のため画素Pa,bを大きく表示しているが、実際には、画素Pa,bは微小である。
【0036】
ステップS130においては、各画素Pa,bにおける平均傾斜角度θa,bを算出する。図7の下段は、画素Pa,b内の曲面が平面によって近似され、同平面の傾斜角度が平均傾斜角度θa,bとして算出される様子を図示している。
【0037】
ステップS135においては、入射角度取得部M3aが入射角度を算出する。図8は、入射角度取得部M3aが入射角度を算出する様子を説明している。同図において、入射角度取得部M3aにはリングライト24の径r、および、リングライト24と実装基板50との距離dとが示されている。なお、径rと距離dは撮像ユニット20から取得される。むろん、使用者が径rと距離dをキーボード38aによって直接入力してもよい。リングライト24から発光された光が視野Sに入射する角度が入射角度γとされている。同図に示す関係から入射角度γは、径rと距離dにより下記式(1)のように表すことができる。
γ=arctan(d/r) ・・・(1)
【0038】
なお、視野Sは2cm×2cmであり、径rと距離dと比較して十分に小さいため、視野Sにおいて入射角度γは一様であると考えることができる。また、視野Sにおいてはんだが上方向に突出することとなるが、はんだの高さhも、径rと距離dと比較して十分に小さいため、はんだの高さhに依存することなく入射角度γは一様であると考えることができる。
【0039】
ステップS140においては、反射挙動推定部M3bにて反射挙動の推定が行われる。図9は、リングライト24から発光された光がはんだに入射する様子を仮想的に示している。むろん、同図に示すはんだ52や光は計算上推定されるものであって、実際に、はんだ52に光を入射させているわけではない。同図において、はんだ52をCCD撮像板22bのCCD撮像素子が鉛直上方から撮像すると想定している。一方、画素Pa,bにはリングライト24から発光された入射光Ciが入射しており、同入射光Ciは画素Pa,bにおいて所定の方向に反射することが分かる。
【0040】
画素Pa,bにおいて入射光Ciから鏡面反射光Csと拡散反射光Cdとが生成されると推定される。鏡面反射光Csは、入射光Ciと対称な方向のみに放射される反射光である。そして、鏡面反射光Csのうち直上のCCD撮像素子に到達する成分を到達成分Cs'とすると、到達成分Cs'の光量ls'は下記式(2)によって表すことができる。
s'=li・(1−c)・cosmβ ・・・(2)
【0041】
なお、上記式(2)において、βは鏡面反射光Csと到達成分Cs'とがなす角を示し、c(0〜1)ははんだ表面の粗さを示し、mは鏡面反射の局所化度合いを示し、liは入射光Ciの単位面積(画素Pa,bの面積)当たりの光量を示している。上記式(2)において、到達成分Cs'の光量ls'は、鏡面反射光Csと到達成分Cs'とがなす角βの余弦のべき乗に比例している。局所化度合いmとは、鏡面反射の輪郭の明瞭さを表す係数であり、はんだの表面状態に依存する。例えば、共晶はんだの場合は鏡面反射の輪郭がはっきりするため、局所化度合いmが高いといえる。一方、鉛フリーはんだの場合は鏡面反射の輪郭がぼやけるため、局所化度合いmが低いといえる。なお、反射挙動推定部M3bでは、基板データ34cに含まれるはんだ材料の情報から実装基板50上に形成されるはんだの反射特性として粗さcと局所化度合いmとが取得されており、リングライト24の仕様から入射光Ciの光量liが判明しているため、上記式(2)に基づいてls'を算出することができる。
【0042】
さらに、鏡面反射光Csと到達成分Cs'とがなす角βについて、幾何学的に下記式(3),(4)の関係が成り立つ。
α=π/2−γ−θa,b ・・・(3)
β=θa,b−α=−π/2+γ+2θa,b ・・・(4)
なお、上記式(3),(4)において、αは画素Pa,bにおけるはんだ表面の法線と入射光Ciとがなす角を表している。上記式(2)に上記式(4)を代入することにより、下記式(5)を得ることができる。
s'=li・(1−c)・cosm(−π/2+γ+2θa,b) ・・・(5)
以上により、鏡面反射に由来するCCD撮像素子への到達成分Cs'の光量ls'を入射光の光量liとはんだ表面の粗さcと鏡面反射の局所化度合mと入射角度γと平均傾斜角度θa,bとから算出することができる。
【0043】
一方、拡散反射光Cdの光量ldは、下記式(6)のように表すことができる。
d=li・c・cosα ・・・(6)
すなわち、拡散反射光Cdの光量ldは、画素Pa,bにおけるはんだ表面の法線と入射光Ciとがなす角αの余弦に比例する。また、拡散反射光Cdは、はんだ52の表面において入射光Ciが乱反射することにより生じる反射光であり、全方向一様な光量で反射すると考えることができる。従って、拡散反射に由来するCCD撮像素子への到達成分Cd'の光量ld'は、光量ldと同じとなる。さらに、上記式(6)に上記式(3)を代入すると下記式(7)を得ることができる。
d=li・c・cos(π/2−γ−θa,b) ・・・(7)
【0044】
上記式(7)において、拡散反射に由来するCCD撮像素子への到達成分Cd'の光量ld'も、入射光の光量liとはんだ表面の粗さcと入射角度γと平均傾斜角度θa,bとから算出することができる。さらに、鏡面反射に由来する光量ls'と、拡散反射に由来する光量ld'とを下記式(8)にて重畳することにより、CCD撮像素子へ到達する合計の到達光量loを算出することができる。
o=ls'+ld' ・・・(8)
【0045】
さらに、上記式(8)に上記式(5)と上記式(7)を代入して整理すると下記式(9)を得ることができる。
o=li・(1−c)・sinm(γ+2θa,b
+li・c・sin(γ+θa,b) ・・・(9)
【0046】
上記式(9)において第一項が鏡面反射項であり、第二項が拡散反射項である。上記式(9)によれば、CCD撮像素子に到達する到達光量loを既知のパラメータli,c,m,γ,θa,bから正確に算出することができる。そして、ステップS145では、CCD撮像板22bに到達する光量loを上記式(9)に基づいて画素Pa,bごとに算出する。ステップS150では、全ての画素Pa,bについて到達光量loが算出されたことが確認され、全ての画素Pa,bについて算出が完了していればステップS155が実行される。
【0047】
ステップS155においては、推定イメージ生成部M3dが推定イメージを生成する。すなわち、全ての画素Pa,bについて到達光量loが算出されているため、これらに画素Pa,bの位置a,bに応じたアドレスを付与することにより、画素数がamax個×bmax個となる画像データとなる推定イメージを生成することができる。なお、到達光量loと輝度値は比例関係にあるため、画素Pa,bごとに輝度を有する推定イメージを生成することができる。
【0048】
ところで、カメラ22にて実際に撮像を行った場合には、途中で解像度変換を行わない限り、CCD撮像板22bの有効CCD撮像素子数と同数の画素数の撮像イメージ33aが生成される。ステップS155においては、上述のようにして生成した推定イメージにおける実装基板50上の解像度が、撮像イメージ33aにおける実装基板50上の解像度と一致するように解像度変換し、同変換した推定イメージ33bをVRAM33に記憶する。この解像度変換においては、間引きや補間等の手法を適用することができる。むろん、予め推定イメージにおける実装基板50上の解像度が、撮像イメージ33aにおける実装基板50上の解像度と一致するように実装基板50上における画素Pa,bの大きさを設定しておけば、ここで解像度変換を行う必要はない。
【0049】
ステップS160においては、特徴値算出部M4が推定特徴値の算出を行う。特徴値は、VRAM33に記憶された推定イメージ33bを入力し、同推定イメージ33bから多数の推定特徴値Fを算出する。推定特徴値Fは、推定イメージ33bから算出される多数のパラメータであり、数十から数百種類程度用意しておくことが望ましい。なお、本実施形態では300種類の推定特徴値Fが算出されるものとする。具体的に、推定特徴値Fとして、推定イメージ33bの平均輝度や輝度のレンジや輝度のエッジ数や輝度の分散値等を適用することができる。また、算出された推定特徴値Fは、HDD34において推定特徴値34e2として記憶される。
【0050】
ステップS165においては、nが100であるかどうかが確認され100でない場合には、nに(n+1)が代入され、ステップS120以降が繰り返される。すなわち、ステップS110にて設定した全はんだ形状(はんだ高さhn)について推定特徴値Fが算出されたかどうかが確認され、全て算出されていない場合には次のはんだ形状(はんだ高さhn+1)について推定特徴値Fを算出する処理が繰り返して行われる。そして、nが100になるまで繰り返されたところで、全はんだ形状(はんだ高さhn)について推定特徴値Fが算出されたとして、処理を終了させる。
【0051】
これにより、はんだ小不良として選別したい100通りのはんだ形状について、それぞれ推定特徴値Fを算出し、蓄積することができる。図10は、不良データ蓄積処理によって算出された推定特徴値Fを一覧にして示している。同図において、各はんだ高さhnに対して推定特徴値F1〜F300が算出されている。また、右欄において、推定特徴値F1〜F300が不良品の特徴を示す値であることが分かるように識別されている。
【0052】
(3)良データ蓄積処理:
次に、良データ蓄積処理について説明する。良データ蓄積処理は、不良データ蓄積処理とは別途実行される。図11は、良データ蓄積処理の流れを示している。同図において、ステップS200では、実際に作成した実装基板50の撮像をカメラ22にて行う。撮像を行う際には、リングライト24から単位面積当たりの光量liで照明が行われる。なお、実装基板50を量産する際の製造条件を適用することにより、良品である実装基板50を作成することができるため、良品である実装基板50の作成が手間となることはない。
【0053】
また、良品であれば製品として出荷することもできるため、実装基板50自体が無駄となることもない。上述したとおり、カメラ22にて撮像することにより、画像データとしての撮像イメージ33aが生成され、VRAM33に転送、記憶される。図12に示すように、カメラ22にて撮像する際の視野Sには、他の実装部品や他のはんだが含まれることとなるが、推定イメージ33bと同じ画角となるように実線で示すはんだ52の周辺以外をマスクしたものが、撮像イメージ33aとして記憶されるものとする。なお、視野Sに他の検査箇所が存在する場合には、当該検査箇所以外をマスクした別の撮像イメージ33aも生成される。
【0054】
ステップS210においては、撮像イメージ33aに基づいて、特徴値算出部M4が実特徴値Gの算出を行う。実特徴値Gは、推定特徴値Fと同様のパラメータであり、同様の手法によって算出される。また、上述したとおり撮像イメージ33aと推定イメージ33bにおいては実装基板50上の解像度が一致させられているため、実特徴値Gと推定特徴値Fを同じ条件で算出することができる。ステップS220においては、実特徴値GをHDD34に記憶する。ステップS220が完了すると、再びステップS200に戻り、次の良品に対して実特徴値Gを算出する処理が行われる。これにより、多数の良品について実特徴値Gを蓄積することができる。そして、所定量(例えば、良品数100個まで)実特徴値Gが蓄積されたところで、良データ蓄積処理を終了させる。
【0055】
図13は、良データ蓄積処理によって算出された実特徴値Gを一覧にして示している。同図において、各良品に対して実特徴値G1〜G300が算出されている。また、右欄において、実特徴値G1〜G300が良品の特徴を示す値であることが分かるように識別されている。
【0056】
(3)判別関数について:
以上のようにして、推定特徴値F1〜F300と実特徴値G1〜G300が算出できると、これらに基づいて判別関数を算出することができる。図14は、判別関数を概念的に示している。同図において、横軸に実特徴値G1と推定特徴値F1をとり、縦軸に実特徴値G2と推定特徴値F2をとったグラフが示されており、実特徴値G1,G2と推定特徴値F1,F2の分布領域が示されている。(G1,G2)の分布は良品を撮像して得られたものであるため、良品の集合として示している。一方、(F1,F2)の分布は不良の形状データ34dから推定的に算出されたものであるため、不良品の集合として示している。(G1,G2)は製造工程のばらつきの範囲で分布することとなり、(F1,F2)はステップS110にて設定したばらつきの範囲で分布することとなる。
【0057】
このように、良品と不良品はそれぞれ何らかの形状的特徴を有しているため、特徴値F,Gに異なる分布傾向を有することとなる。従って、特徴値F,Gの分布傾向を解析し適正な閾値を設定することにより、良否判定を行うことができる。しかしながら、単一種の特徴値G1,F1の度数分布のみで良否判定を行おうとすると、同図下段に示すように良品分布と不良品分布とが重なり合う場合がある。同様に、単一種の特徴値G2,F2の度数分布のみで良否判定を行おうとすると、同図左段に示すように良品分布と不良品分布とが重なり合う。かかる状態においては、良品と不良品を誤判定なく区別することが可能な閾値を設定することが不可能である。
【0058】
一方、判別関数は、下記式(10)で定義される。
G=s11+s22+s3
F=s11+s22+s3 ・・・(10)
なお、上記式(10)において、HGおよびHFは判別関数を示しており、s1,s2,s3は係数を示している。すなわち、上記式(10)において、判別関数HG,HFは、実特徴値G1,G2および推定特徴値F1,F2の線形結合により与えられている。
【0059】
また、係数s1,s2は、良品の判別関数HGの分布と、不良品の判別関数HFの分布とができるだけ離反するように設定される。係数s1,s2によれば、特徴値(G1,G2),(F1,F2)に傾きを与えることができるため、良品の判別関数HGの分布と不良品の判別関数HFの分布と離反する傾きを設定することができる。さらに、定数項s3は、良品の判別関数HGの分布と、不良品の判別関数HFの分布の中心値が0となるように設定される。従って、判別関数HG,HFを0を閾値として分離させることができる。従って、良否が分からないはんだ52を撮像することにより得られた撮像イメージ33aから算出された実特徴値(G1,G2)を代入した判別関数HGが正となれば、当該はんだ52は良品であるということが分かる。
【0060】
図14においては、説明と図示を簡単にするために2種類の特徴値G1,G2,F1,F2を変数とした2次元の判別関数HG,HFを例示したが、実際には特徴値F,Gは、300種類算出されているため、これらから良否の分布を最も分離させることが可能な特徴値F,Gが数個選択され、同選択された特徴値F,Gを線形結合した高次元の判別関数HG,HFが算出される。なお、判別関数HG,HFを算出するにあたっては、公知の多変量解析手法を適用することができる。
【0061】
(5)良否判定処理:
図15は、良否判定処理の流れを示している。同図において、ステップS300において、検査対象の実装基板50の撮像を行う。ここでは、良データ蓄積処理のステップS200と同様にはんだ52の周辺以外をマスクした撮像イメージ33aがVRAM33に記憶される。ステップS310においては、ステップS210と同様に特徴値算出部M4が実特徴値Gの算出を行う。ステップS320では、判別関数HGをHDD34から読み出して、同判別関数HGに実特徴値Gを代入し、判別関数HGの値を算出する。
【0062】
そして、ステップS330において、判別関数HGが正である場合には、ステップS340において当該実装基板50のはんだ52が良品であると判定する。一方、判別関数HGが0以下である場合には、ステップS350において当該実装基板50のはんだ52が不良品であると判定する。判別関数HGによれば、良品分布と不良品の分布とが0を挟んで離反しているため、正確な良否判定を行うことができる。
【0063】
以上説明したように、一般的に良否判定においては判別関数Hのように統計的手法を用いて良否を判定することが行われる。その場合、基準となる良品または不良品について予め標本のデータを収集しておくことが要求される。統計的手法においては、標本数が多ければ多いほど推測の信頼性が増し、それに基づいて行う良否判定の精度も向上する。本実施形態においては、特徴値F,Gをできるだけ多く収集しておくことが、良否判定の精度向上の条件となる。特徴値F,Gのうち不良品の特徴値Fを実際に撮像した撮像イメージ33aではなく、推定により生成された推定イメージ33bから算出しているため、大量の不良品を作為的に作成し、実際に撮像する必要がない。
【0064】
従って、不良品の特徴値Fを収集するための手間とコストをなくすことができる。また、不良品の形状を表す形状データ34dは、不良品の範囲内で無限に作成することができる。従って、形状データ34dに基づいて算出される特徴値Fも無限に用意することができる。さらに、不良品の形状を表す形状データ34dは任意に作成することができるため、ごく稀に発生するような不良モードの形状であっても、容易に形状データ34dを作成し、その特徴値Fを収集することができる。
【0065】
(6)変形例:
以上説明した実施形態において、不良品の形状を表す形状データ34dに基づいて不良品の推定特徴値Fを算出するものを例示したが、良品についても推定特徴値Fを算出してもよい。例えば、図5に示した良品の断面形状A,B,Cに対応する形状データ34dに基づいて推定特徴値Fを算出してもよい。その場合、図10に示す右欄において当該推定特徴値Fが良品のものであることを識別しておき、判別関数を算出する際に、図10に示す右欄を参照して、当該推定特徴値Fを良品の分布に帰属させればよい。このようにすることにより、良品についても実際に撮像を行う必要をなくすことができる。
【0066】
また、不良モードとしてはんだ小について良否判定されるものを例示したが、当然、他の不良モードの良否判定においても本発明を適用することができる。例えば、はんだ大や欠品やぬれ不良やはんだ流れ等の不良モードについての同様の装置構成により良否判定を行うことができる。すなわち、各不良モードに対応した形状データ34dをコンピュータ上にて用意することにより、推定特徴値Fを多数取得し、精度のよい良否判定を行うことができる。はんだ大や欠品やぬれ不良やはんだ流れ等の各不良モードは、それぞれ固有の形状的特徴を有しているため、同形状的特徴が反映された推定イメージを推定することができる。むろん、検査対象がはんだに限られるものでもなく、形状の良否を判定するものであれば本発明を適用することができる。例えば、金属、プラスチックの成型品やプリント基板の配線等の良否判定にも本発明を適用することができる。
【0067】
さらに、上記実施形態においては、カメラ22にて反射光を撮像して良否判定を行うものを例示したが、他の撮像方式について本発明を適用することも可能である。すなわち、上記実施形態のように検査対象に電磁波としての可視光を照射するものに限られず、X線や赤外光等を検査対象に照射して、その透過光の状態を撮像するものであっても本発明を適用することができる。X線によれば、はんだのような金属に対する透過率が厚みに応じて変動するため、予め3次元の形状データを用意しておくことにより、透過像としての推定イメージを生成することができる。また、赤外光によれば、プラスチックを透過するため、同様に透過像としての推定イメージを生成することができる。
【0068】
すなわち、電磁波が検査対象物を経由するときの挙動を推測することにより、推定イメージを推定することができれば、本発明を適用することができる。従って、電磁波の屈折像や散乱像や回折像等を撮像するような撮像方式であっても、良品または不良品の推定特徴値を予め用意しておくことができる。特に、透過像の推定イメージを生成するにあたっては、検査対象の厚みが推定イメージにおける光量(輝度)に対応するため、3次元の形状データから容易に推定イメージを生成することができる。さらに、透過像においては、検査対象物の内部に発生し得るボイドの径や位置を指定することにより、ボイドが介在する検査対象物の推定イメージを推定することができる。具体的には、電磁波がボイドを貫通する画素群については局所的に光量(輝度)が大きいという特徴を有する推定イメージが作成される。そして、実際に検査対象物を撮像した際の撮像イメージが上記の特徴を有する推定イメージに類似し、かつ、表面形状が平坦である場合には、当該検査対象物にボイドがあることを特定することができる。
【0069】
さらに、上記実施形態においては単一のリングライトについて推定イメージを生成するものを例示したが、例えば2個や3個の複数のリングライトを想定して複数の推定イメージを生成してもよい。すなわち、複数の入射角についての推定イメージを生成するとともに、これらの推定イメージとそれぞれの入射角で実際に撮像した撮像イメージとを比較してもよい。このようにすることにより、複数組の推定イメージと撮像イメージについての比較結果を得ることができ、これらの比較結果から総合的に良否を判定することができる。従って、ある入射角において判定結果の信頼性が低くなるような条件においても、信頼性の高い他の入射角の判定結果を考慮しつつ良否判定を行うことができるため、安定性の高い良否判定を実現することができる。
【0070】
また、上記実施形態において判別関数を用いて良否判定を行うものを例示したが、必ずしも判別関数を用いなくてもよい。すなわち、実際に検査対象物を撮像して得られた実特徴値が不良品の推定特徴値から遠い値となっていれば、その検査対象物が良品であると判定することができるし、不良品の推定特徴値に近い値となっていれば、その検査対象物が不良品であると判定することができる。すなわち、良品または不良品の推定特徴値が予め算出されていれば、同推定特徴値と実際に検査対象物を撮像して得られた実特徴値とを比較することにより、良否判定を行うことができる。
【0071】
また、上記実施形態においては、はんだ小不良の上限の形状Dからはんだ高さhが均等に低くなるようなばらつきを設定したが、他の態様でばらつきを設定してもよい。すなわち、量産した際におけるはんだ高さhの分布傾向が予測できる場合には、その分布傾向に応じて重み付けを行ってもよい。例えば、上限形状D付近のはんだ高さhの分布度数が他のはんだ高さhよりも多い場合には、上限形状D付近のはんだ高さhの付近においては、はんだ高さhの偏差を細かく設定し、他のはんだ高さhよりも多数の推定特徴値が算出されるようにしてもよい。これにより、推定特徴値に重み付けをすることができる。また、ばらつきの範囲を前工程の工程能力等に基づいて設定してもよい。
【0072】
さらに、形状データ34dを取得する手法も種々適用することができる。なお、上記実施形態においては、使用者が視覚的に不良となる形状データ34dを特定するものを例示している。その他の手法として、例えばはんだ形状であれば、はんだ溶融時の物理特性から形状データ34dを作成してもよい。この場合、実装部品やパッドの濡れ性と溶融はんだの表面張力や粘性と溶融温度プロファイルとはんだ量等の条件を入力することにより、3次元の形状データ34dを予測することができる。
【0073】
図16と図17において3次元の形状データ34dを作成する様子を説明している。図16では、はんだ形状に影響を与えるパラメータを一覧化して示している。具体的には、はんだ量、実装部品の形状、パッドの形状、はんだ比重、はんだ接触角、重力、溶融はんだの表面張力、パッドに対する実装部品の位置等がはんだ形状に影響を与えるパラメータとして挙げられる。そして、これらのパラメータの具体的な数値を流体シミュレーションプログラムに入力し、流体シミュレーションを実行することにより、3次元の形状データ34dを作成することができる。
【0074】
図17では、流体シミュレーションプログラムが作成した3次元の形状データ34dをいくつか例示している。流体シミュレーションにおいては、上記したパラメータを考慮しつつ、時系列に沿って溶融はんだ表面の形状を計算していく。また、計算の途中において、適宜、ポリゴン(図中に示す3角形の単位図形)の分割や修正などを行ってもよい。例えば、パラメータとして入力されたはんだ量を少なくした場合には、同図左上に示す”はんだ小”の形状データ34dを作成することができる。反対に、パラメータとして入力されたはんだ量を多くした場合には、同図右上に示す”はんだ大”の形状データ34dを作成することができる。
【0075】
さらに、パラメータとして入力された接触角を高くした場合には、同図左下に示す”濡れ不良”の形状データ34dを作成することができる。また、パッドに対する実装部品の位置を大きくずらした場合には、同図右下に示す”欠品”の形状データ34dを作成することができる。このように、流体シミュレーションを利用して形状データ34dを取得することにより、不良サンプル等を一切作成することなく大量の形状データ34dを取得することができる。なお、流体シミュレーションプログラムに対して指定するパラメータとして、溶融温度プロファイルやリフロー搬送方向やはんだ成分やフラックス成分等を指定するようにしてもよい。
【0076】
さらに、流体シミュレーションを利用する場合においては、上記したパラメータに対してばらつきを設定することにより、はんだ形成条件のばらつきが考慮された形状データ34dを多数得ることができる。例えば、パッド上に印刷されるはんだ量のばらつきが予め分かっている場合には、同はんだ量のばらつきを設定することにより、はんだ高さhにばらつきを持った形状データ34dを多数得ることができる。従って、上記実施形態のように均等なばらつきを設定するよりも、物理法則や工程能力に則した形状データ34dのばらつきを得ることができる。
【0077】
流体シミュレーションプログラムにて作成された形状データ34dは、図4に示すステップS120にて取得され、以降の処理が前実施形態と同様に実行される。すなわち、形状データ取得部M2と推定部M3が流体シミュレーションプログラムにて作成された形状データ34dを対象に処理を行うことにより、形状データ34dに対応する推定イメージ33bを得ることができる。従って、流体シミュレーションプログラムにて作成された形状データ34dが、形状データ取得部M2と推定部M3にて取り扱い可能な形式となっている必要がある。ところで、流体シミュレーションプログラムとして、市販されている種々のCG作成用ソフトウェアを適用することができる。一方、形状データ34dに対して処理を行う形状データ取得部M2と推定部M3としても、一般的なレイトレーシング(光線追跡)ソフトウェアを適用することができ、上記実施形態と同様にリングライトの情報やはんだ面の情報などを設定することで推定イメージを作成することができる。
【0078】
このように、個別に各ソフトウェアが個別に提供され、各ソフトウェアにおける形状データ34dに互換性がない場合には、CG作成用ソフトウェアにて作成された形状データ34dをレイトレーシングソフトウェアにて取り扱い可能な形式に調整したり、両ソフトウェア間のデータや指令等の授受を実現する連携ソフトウェアを設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明にかかる良否判定装置の全体図である。
【図2】コンピュータの内部ブロック図である。
【図3】良否判定を行うためのソフトウェアブロック図である。
【図4】不良データ蓄積処理のフローチャートである。
【図5】ディスプレイの表示画面である。
【図6】ばらつき設定を説明する図である。
【図7】形状データにおける画素を示す図である。
【図8】入射角度γの算出を説明する図である。
【図9】反射挙動を説明する図である。
【図10】推定特徴値が蓄積されたテーブルである。
【図11】良データ蓄積処理のフローチャートである。
【図12】視野Sを示す平面図である。
【図13】実特徴値が蓄積されたテーブルである。
【図14】判別関数を説明するグラフである。
【図15】良否判定処理のフローチャートである。
【図16】3次元データ作成に使用されるパラメータの一覧である。
【図17】3次元データの説明図である。
【符号の説明】
【0080】
10…形状良否判定装置
20…撮像ユニット
21…コントローラ
21a…画像メモリ(VRAM)
22…カメラ
22a…光学系
22b…CCD撮像板
23…X−Yステージ
24…リングライト
30…コンピュータ
31…CPU
32…RAM
33…ビデオメモリ(VRAM)
33a…撮像イメージ
33b…推定イメージ
34…ハードディスク(HDD)
34b,M…良否判定プログラム
34c…基板データ
34d…形状データ
34e1,G…実特徴値
34e2,F…推定特徴値
34f,H…判別関数
36…ディスプレイ
38a…キーボード
38b…マウス
50…実装基板
51…チップ部品
52…はんだ
A〜F…断面形状
M1…撮像実行部
M2…形状データ取得部
M3…推定部
M3a…入射角度取得部
M3b…反射挙動推定部
M3c…到達光量推定部
M3d…推定イメージ生成部
M4…特徴値算出部
M5…判別関数算出部
M6…良否判定部
P…画素
S…視野
γ…入射角度
θ…平均傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を撮像して撮像イメージを生成する撮像手段と、
上記撮像イメージの特徴値を実特徴値として算出する実特徴値算出手段と、
良品または不良品の形状を表す3次元データを取得する形状データ取得手段と、
上記3次元データに基づいて上記良品または不良品を撮像したときの上記撮像イメージを推定した推定イメージを生成する推定手段と、
同推定された上記推定イメージの上記特徴値を推定特徴値として算出する推定特徴値算出手段と、
上記実特徴値と上記推定特徴値とを比較することにより上記検査対象物の良否判定を行う良否判定手段とを具備することを特徴とする形状良否判定装置。
【請求項2】
上記撮像手段は、上記検査対象物を経由して入射される電磁波の状態を位置ごとに取得することにより上記撮像イメージを生成するとともに、
上記推定手段は、
上記撮像手段が上記検査対象物を撮像する際に同検査対象物に入射する上記電磁波の入射角度を取得する入射角度取得手段と、
上記3次元データと上記入射角度に基づいて、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の挙動を推定する挙動推定手段と、
上記挙動に基づいて上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を推定する到達状態推定手段と、
上記撮像手段に到達する上記電磁波の状態を示す値を位置ごとに配列させることにより上記推定イメージを生成する推定イメージ生成手段とを具備することを特徴とする請求項1に記載の形状良否判定装置。
【請求項3】
上記挙動推定手段は、上記電磁波が上記良品または不良品に到達する際の反射挙動を推定することを特徴とする請求項2に記載の形状良否判定装置。
【請求項4】
上記挙動推定手段が上記反射挙動を推定するにあたり、鏡面反射と拡散反射とが考慮されることを特徴とする請求項3に記載の形状良否判定装置。
【請求項5】
形状データ取得手段は、上記良品または不良品の形状にばらつきを持たせた複数の3次元データを取得することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の形状良否判定装置。
【請求項6】
上記実特徴値算出手段と上記推定特徴値算出手段は、上記撮像イメージと上記推定イメージから多種の上記実特徴値と上記推定特徴値を算出するとともに、
上記良否判定手段は、多種の上記実特徴値と上記推定特徴値をそれぞれ線形結合させた判別値を比較することにより良否判定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の形状良否判定装置。
【請求項7】
検査対象物を撮像して撮像イメージを生成する撮像工程と、
上記撮像イメージの特徴値を実特徴値として算出する実特徴値算出工程と、
良品または不良品の形状を表す3次元データを取得する形状データ取得工程と、
上記3次元データに基づいて上記良品または不良品を撮像したときの上記撮像イメージを推定した推定イメージを生成する推定工程と、
同推定された上記撮像イメージの上記特徴値を推定特徴値として算出する推定特徴値算出工程と、
上記実特徴値と上記推定特徴値とを比較することにより上記検査対象物の良否判定を行う良否判定工程とを具備することを特徴とする形状良否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−208186(P2006−208186A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20347(P2005−20347)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】