説明

往復動エンジン

【課題】エンジン運転が長期に渡り、上記ガス室に高圧燃焼ガスの導入、保持、排出が繰り返されても、ガス室にはカーボンの付着、堆積が発生しない往復動エンジンを提供すること。
【解決手段】往復動エンジン1は、ピストン2のトップリング5、セカンドリング6、セカンドランド7及びシリンダ内面8によって囲まれたガス室4に、膨張行程の初期においてシリンダ内面8のスラスト側10の上部位22に設けたガス通路23からピストン上方の高圧燃焼ガス12を導入し、この導入した高圧燃焼ガス12によってピストン2をスラスト側10から支持するようになっており、上記ガス室4内に、当該ガス室4内に沿って伸びた掃除部材13が上下方向に隙間20をもって上下動自在に挿入され、ピストン2の往復運動による掃除部材13の上記隙間20分の上下移動によってガス室4内に蓄積される異物が掃除されるようになっている往復動エンジン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発膨張行程において、ピストンに作用する側圧に対抗して、ピストンを高圧燃焼ガスによって支持(ガス圧フロート)し、ピストンとシリンダとの摩擦抵抗を減少させた往復動エンジンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
これら(特許文献1から4)に記載の技術は、ピストンのセカンドランド部にガス室を形成し、爆発膨張行程初期に、このガス室に、シリンダ内面に設けたガス通路から、ピストン上方の高圧燃焼ガスを導入、保持させ、この導入、保持の高圧燃焼ガスによりピストンをスラスト側から支持し、ピストンとシリンダ内面との摩擦抵抗を減少する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第92/02722号
【特許文献2】国際公開第2004/079177号
【特許文献3】欧州特許出願公開第1878901号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/047453号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エンジン運転中、上記ガス室には、ピストン上方の高圧燃焼ガスの導入、保持、排出が繰り返される。すると、ガス室の表面には次第にカーボンの付着堆積が発生してくる。
【0005】
そこで、本発明は、エンジン運転が長期に渡り、上記ガス室に高圧燃焼ガスの導入、保持、排出が繰り返されても、ガス室にはカーボンの付着、堆積が発生しない往復動エンジンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の往復動エンジンは、ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ガス室内に、当該ガス室内に沿って伸びた掃除部材がスラスト側から上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内に蓄積される異物が掃除されるようになっている。
【0007】
本発明の往復動エンジンによれば、ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ガス室内に、当該ガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内に蓄積される異物が掃除されるようになっているために、エンジン運転が長期に渡り、上記ガス室に高圧燃焼ガスの導入、保持、排出が繰り返されても、ガス室にはカーボンの付着、堆積が発生し難い。
【0008】
本発明の往復動エンジンでは、トップリング及びセカンドリング間は、反スラスト側よりもスラスト側で上下方向において離反しており、掃除部材はその両端よりもスラスト側で上下方向において拡幅されていてもよい。このような往復動エンジンによれば、掃除部材の上下方向及び円周方向の運動をより好適に行わせ得る。本発明の往復動エンジンでは、掃除部材は、内周面及び外周面に凹凸部が形成されるように複数本のワイヤが重ね合わされてなっていてもよく、斯かる場合には、掃除部材の内周面及び外周面に凹凸部が形成されるために、カーボンの付着、堆積の発生をより好ましく防止し得る。また、本発明の往復動エンジンでは、掃除部材は、内周面及び外周面に凹凸部が形成されるように圧縮成形された金属メッシュからなっていてもよく、斯かる場合には、掃除部材の内周面及び外周面に凹凸部が形成されるために、カーボンの付着、堆積の発生をより好ましく防止し得る。
【0009】
尚、本発明往復動エンジンにおいて、上記「上下方向」及び「上下動」はピストンの往復運動方向に沿った方向であり、動きである。
【発明の効果】
【0010】
上記ガス室が高圧燃焼ガスの導入、保持、排出の繰り返しにさらされていても、ガス室内は掃除部材が常に上下動を続け、掃除行為を行っているため、ガス室内はカーボンの付着、堆積が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の例の往復動エンジンの縦断面説明図である。
【図2】図2は、図1において掃除部材を断面で示した縦断面説明図である。
【図3】図3は、上記図1及び図2において示す掃除部材の斜視説明図である。
【図4】図4は、図3に示す掃除部材のIV−IV断面矢視説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例に用いられる他の掃除部材の斜視説明図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態の他の例の往復動エンジンの縦断面説明図である。
【図7】図7は、図6に示す例のVII−VII線断面矢視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に示した実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0013】
図1及び図2は、爆発膨張行程におけるピストン2の降下工程初期の様子を示す。
【0014】
図1及び図2には、爆発膨張行程初期にある本実施例の往復動エンジン1が示されている。
【0015】
2はピストン、3はシリンダである。そして、4はガス室である。
【0016】
ガス室4は、ピストン2のトップリング5とセカンドリング6と、セカンドランド7とシリンダ内面8とにより囲まれて形成されている。ガス室4は縦巾9がスラスト側10で広く、反スラスト側11で狭くなっている。
【0017】
これは、ガス圧を受ける面積をスラスト側10において広くし、反スラスト側11で小さくし、導入、保持した高圧燃焼ガス12によってピストン2をスラスト側10から支持(ピストン側圧に対抗して)し、反スラスト側11からの押し返しをわずかにするためにある。
【0018】
さて、上記ガス室4には、当該ガス室4内に沿って伸びた円弧状の掃除部材13がスラスト側10から上記セカンドランド7に被せた状態で挿入されている。
【0019】
かつ、上記掃除部材13はガス室4内において、上下方向(ピストン2の往復動方向)に隙間17をもって上下動自在に挿入されている。
【0020】
以下、図3に示すように、上記掃除部材13は、上記セカンドランド7の円周面に合わせて円弧形状に形成されている。
【0021】
また、掃除部材13は、正面、側面をガス室4の形状に合わせ、縦巾14が正面中央部15において、広く、両側端16、16で狭く形成されている。換言すれば、トップリング5及びセカンドリング6間は、反スラスト側11よりもスラスト側10で上下方向において離反しており、掃除部材13はその両側端16よりもスラスト側10で上下方向において拡幅されている。
【0022】
さらに掃除部材13は上記縦巾14が全体として、ガス室4の縦巾9より短くしてある。これは、この掃除部材13がガス室4に挿入された状態で、上下方向に隙間17を作るためである。この隙間17の距離分、掃除部材13はガス室4内で上下動する。
【0023】
図1及び図2に示すように、掃除部材13はその正面中央部15をスラスト側10に合わせてガス室4に挿入されている。
【0024】
特に、掃除部材13はエンジン運転中、ピストン2の往復運動によって、ガス室4を形成するセカンドランド7の表面を上下に掃くように上下動する。
【0025】
また、もちろん、掃除部材13の厚みtは、シリンダ内面8とセカンドランド7の表面19との隙間20内において、エンジン運転中、自由に上下(ピストン2の往復動方向に沿って)移動できる厚さである。
【0026】
上記掃除部材13は、ステンレス、バネ鋼等耐熱性金属板により形成されている。本例の掃除部材13は、図3及び図4に示すように、複数本のステンレスワイヤ31が上下方向において互いに重ね合わされてなる。複数本のステンレスワイヤ31は互いに溶接されている。各ステンレスワイヤ31は、中央部で図4に示すように断面円形であって、中央部から離れるに従って断面において徐々に一部切欠かれた円形状である。複数本のステンレスワイヤ31が重ね合わされてなる掃除部材13は、その内周面及び外周面に凹凸部が形成されるために、カーボンの付着、堆積の発生をより好ましく防止し得る。また、往復動エンジン1は、上述の掃除部材13に代えて、例えば図5に示すように、ガス室4に沿って伸びるように円弧状に圧縮成形された金属メッシュからなる掃除部材32を具備していてもよい。金属メッシュからなる掃除部材32は、その内周面及び外周面に凹凸部が形成されるために、カーボンの付着、堆積の発生をより好ましく防止し得る。掃除部材13及び32は、Cリング状である。
【0027】
尚、本実施例往復動エンジン1のピストン2について、ガス室4を形成するところのトップリング5は、ピストン頂面18と平行に設けられており、他方セカンドリング6はスラスト側10に向かって下り傾斜して設けられている。即ち、セカンドリング6はスラスト側10において上記トップリング5から遠く離れ、反スラスト側に近づくにつれて接近して設けられている。
【0028】
よって、トップリング5とセカンドリング6との間(距離)、即ちガス室4の縦巾9はスラスト側10において幅広く、反スラスト側11に近づくにつれて次第に幅狭になっている。
【0029】
また、シリンダ内面8のスラスト側10の上部位22には、複数のガス通路23が設けられている。ピストン2の降下行程において、ピストン2のトップリング5が上記ガス通路23上を通過するとき、このガス通路23の凹み24を介して、ピストン2上方の燃焼室25とピストン2の上記ガス室4とが連通し、燃焼室25の高圧燃焼ガス12がガス室4に導入され保持される。
【0030】
即ち、爆発膨張行程の初期において、ピストン2のトップリング5がシリンダ内面8の上部位のガス通路23を通過するとき、ピストン2の上方の燃焼室25とピストン2のガス室4とが通じ合い、高圧燃焼ガス12がガス室4に導入、保持される。
【0031】
このとき、ピストン2は側圧の作用を受けスラスト側10にシリンダ内面8に押し付けられようとするが、上記ガス室4に導入、保持された上記高圧燃焼ガス12によってスラスト側10から支持(ピストン2に作用する側圧に対抗して)された状態で降下行程を降下する。
【0032】
上記の如くなる本実施例往復動エンジン1によれば、エンジン運転中、即ち、ピストン2が往復運動中、ピストン2のガス室4には、高圧燃焼ガス12の導入(流入)、保持、排出が繰り返し行われていると共に、このガス室4内は掃除部材13が上下動を続け、そのガス室4内の掃除行為を常に行っている。このため、ガス室4は繰り返して高圧燃焼ガス12の導入、保持を受けるが、上記掃除部材13の掃除行為によって、ガス室4内、特に、セカンドランド7の表面19等にカーボンの付着、堆積の発生が防止される。
【0033】
尚、往復動エンジン1においては、セカンドリング6がトップリング5に対して図1及び図2に示すように傾斜しているが、斯かるセカンドリング6に代えて、例えば図6に示すように、トップリング5に対して平行に配設されたセカンドリング6aを具備していてもよく、また、トップリング5及びセカンドリング6a間のガス室4をスラスト側10の半環状の空間35及び反スラスト側11の半環状の空間36に区画する区画手段37を具備していてもよい。斯かるセカンドリング6a及び区画手段37を具備している往復動エンジン1では、掃除部材13に代えて、例えば、空間35に配されていると共に縦巾が円周方向において全体として均等となるように形成された掃除部材38を具備していてもよい。掃除部材38は、掃除部材13と同様に、複数本のステンレスワイヤ31が往復動方向において重ね合わされてなる。
【0034】
区画手段37は、トップリング5及びセカンドリング6a間に設けられた区画部材40及び41と、区画部材40をシリンダ内面8に向かって弾性的に付勢する付勢部材としてのばね42と、区画部材41をシリンダ内面8に向かって弾性的に付勢する付勢部材としてのばね43と、トップリング5及びセカンドリング6a間に位置して側周面6bに配されていると共に、シリンダ内面8に向かって凹状となっている溝部44及び45と、図7に示すリング溝8aを規定する底面54と底面54に対向するセカンドリング6aの内周面55との間に生じる隙間を介して空間35及び36が互いに連通するのを阻止するように、リング溝8aに配された阻止部材56及び57と、リング溝8aに配されていると共に、阻止部材56及び57をセカンドリング6aの内周面55に向かって夫々弾性的に押圧する押圧部材としてのコイルばね58及び59と、底面54に配されており、セカンドリング6aの内周面55に向かって凹状となっている凹状部(穴部)60及び61とを具備している。阻止部材56及び57の夫々は、本例では、円柱状のピンからなっている。区画部材40は、溝部44によって規定される空間に配されており、区画部材41は、溝部45によって規定される空間に配されている。阻止部材56及びコイルばね58は、凹状部60によって規定される空間に配されており、阻止部材57及びコイルばね59は、凹状部61によって規定される空間に配されている。区画部材40及び41と、ばね42及び43と、溝部44及び45と、阻止部材56及び57と、コイルばね58及び59と、凹状部60及び61とは、ピストンピン4aの軸方向で夫々互いに対向して配されている。区画部材40と阻止部材56とは、往復動方向で互いに一直線上に並んで配されており、区画部材41と阻止部材57とは、往復動方向で互いに一直線上に並んで配されている。以上の区画手段37によれば、阻止部材56及び57の夫々をリング溝8aに配し、且つ、これらをコイルばね58及び59によって夫々弾性的に押圧することで、往復動エンジン1の各作動行程において、空間35及び36がリング溝8aを介して連通することを阻止すると共に、区画部材40及び41をトップリング5及びセカンドリング6a間に夫々配し、且つ、これらをばね42及び43によって夫々弾性的に押圧することで、往復動エンジン1の各作動行程において、空間35及び36が互いに連通することを阻止することができ、更に、例えば、ピストン3がガス圧及び慣性力によりピストンピン4aの軸方向に直交する面内で回転運動した場合にあっても、阻止部材56及び57と、セカンドリング6aとの間に隙間が生じることをなくすことができると共に、区画部材40及び41とシリンダ内面8との間に隙間が生じることをなくすことができるため、スラスト側10の空間35に導入された燃焼ガスのガス圧を維持することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 往復動エンジン
2 ピストン
3 シリンダ
4 ガス室
5 トップリング
6 セカンドリング
7 セカンドランド
8 シリンダ内面
9 ガス室の縦巾
10 スラスト側
11 反スラスト側
12 高圧燃焼ガス
13、32 掃除部材
14 掃除部材の縦巾
15 正面中央部
16 両側端
17 上下隙間
18 ピストン頂面
19 セカンドランドの表面
20 隙間
22 上部位
23 ガス通路
24 凹み
25 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ガス室内に、当該ガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内に蓄積される異物が掃除されるようになっている往復動エンジン。
【請求項2】
掃除部材は、内周面及び外周面に凹凸部が形成されるように複数本のワイヤが重ね合わされてなる請求項1に記載の往復動エンジン。
【請求項3】
掃除部材は、内周面及び外周面に凹凸部が形成されるように圧縮成形された金属メッシュからなる請求項1に記載の往復動エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72297(P2013−72297A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209892(P2011−209892)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000174220)坂東機工株式会社 (51)
【Fターム(参考)】