説明

往復移動装置の故障判別方法

【課題】突然の装置故障によるダウンタイムを低減し、装置の信頼性を向上させる。
【解決手段】走行体を往復移動させる往復駆動手段と、前記走行体の停止状態からのモータ駆動パルス数をカウントするカウント手段と、ホームポジション近傍の所定の位置に設けられ走行体を検知するための検知手段と、反転位置近傍に設けられ走行体を検知するための検知手段とを備え、前記所定距離の移動に必要なモータ駆動パルス数よりも多い所定のしきい値を設け、前記ホームポジションから前記反転位置近傍の検知手段が検知するまでを、前記カウント手段によってカウントされたモータ駆動パルスのカウント値が前記しきい値を超過した割合を算出し、該割合が所定の割合を超過したことにより、ステッピングモータ及びモータ駆動系に故障の予兆があると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復移動におけるステッピングモータやモータ駆動系の故障の予兆を事前に検出可能とし、印刷装置内部の走行体に適用可能な往復移動装置の故障判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に高速印刷装置の分野において、突然の装置故障による装置ダウンを防止する目的で、故障が発生する前に装置故障の予兆を事前に検出する要求が高まっている。具体的には、特に業務用途向けの高速印刷装置は、大量印刷業務中に装置の故障が発生すると、装置修復のために印刷業務が中断してしまい、指定日時までに印刷業務が終了しなくなり、多大な影響が発生する。このため、寿命が近づいている部品や故障部品の予兆を検出し、印刷装置が稼動していない日時や定期保守日などに故障の予兆のある部品を事前に交換する事で、突然の装置ダウンによる影響を低減したいニーズがある。
【0003】
一方、従来より、印刷装置内に実装されているデバイス(センサ、レンズ、清掃部材など)を往復させて所定距離を移動する装置において、その駆動源となるモータは、位置決めが容易でありモータ自身が安価という特徴からステッピングモータが使われている。ステッピングモータはギヤ等を介してベルト等と連結されており、ある一定距離を往復移動する事により所定の動作を行っている。その際、各種デバイスの走行は停止位置であるホームポジションから所定位置まで移動し、反転位置近傍に実装されたセンサで反転位置を検出後、再び元の位置であるホームポジションまで戻る動作を繰り替えし行っている。
【0004】
この過程において、劣化などに起因するステッピングモータの脱調やベルトの磨耗が発生した場合、走行体が反転位置まで到達できないことがあるため、ホームポジションから反転位置センサまでの移動に要する規定パルス数よりも多い任意の駆動パルス数を上限値に設定し、この上限値を超過した場合はステッピングモータやモータ駆動系の故障と判断している(例えば、特許文献1参照)。このようにステッピングモータによる往復移動装置における故障検出手段は、駆動パルス数をカウントし規定の上限値を超過したことで、正常状態ではないと判断し故障検出を行っている。
【0005】
上述したように故障の予兆検出というニーズに対して、従来技術のように、ステッピングモータの駆動パルスに所定のしきい値を設けて、そのしきい値を超過した回数で故障の予兆を検出しようとすると、故障の予兆には達していないが、環境変化などの外的要因で月に1度の頻度で所定のしきい値を超過するような状態が発生した場合、数ヶ月後にしきい値を超過した回数が規定値に到達するため、故障の予兆と判断してしまう。従って、しきい値を超過した回数をカウントする累積回数による判別方法は、故障の予兆を検出するには不向きである。
【0006】
また、特許文献2のように、モータに流れる電流値を検出して適正な電流値と比較し、適正値を外れた電流が所定時間を超えて流れたときに故障を予知する方法がある。しかし、ステッピングモータの場合は、負荷の増減に応じてモータに流れる電流値が変化せず、モータの許容負荷を超えると脱調となるため、故障の予兆を検出するには不向きである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような従来の技術において、ステッピングモータやモータ駆動系の故障の予兆を検出しようとすると、規定のしきい値を超過した累積回数による判別であるため、故障の予兆を検出するのは不向きである問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような故障の予兆検出というニーズに対して、従来技術では対応できない問題点に鑑みて、ステッピングモータやモータ駆動系の故障の予兆を検出できる往復移動装置の故障判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の手段は、ステッピングモータを駆動源として所定距離を往復移動する走行体を備える往復移動装置において、前記走行体を往復移動させる往復駆動手段と、前記走行体の停止状態からのモータ駆動パルス数をカウントするカウント手段と、ホームポジション近傍の所定の位置に設けられ走行体を検知するための検知手段と、反転位置近傍に設けられ走行体を検知するための検知手段とを備え、前記所定距離の移動に必要なモータ駆動パルス数よりも多い所定のしきい値を設け、前記ホームポジションから前記反転位置近傍の検知手段が検知するまでを前記カウント手段によってカウントされたモータ駆動パルスのカウント値が前記しきい値を超過した割合を算出し、該割合が所定の割合を超過したことにより、ステッピングモータ及びモータ駆動系に故障の予兆があると判断することを特徴とする。
【0010】
ここで、所定距離を往復移動させる往復駆動手段とは、ステッピングモータの回転方向を時計方向と反時計方向に切り替えることにより往復移動する往復駆動手段に限定されるものではなく、例えばクランク機構を設けて、ステッピングモータをある一定の回転方向に回転させることにより、走行体を往復移動させる往復駆動手段でもよい。また、前記走行体とは、印刷装置内部に搭載される様々な走行体であり、センサ、清掃用のフェルト、レンズ、画像読取装置、印刷ヘッドなどである。
【0011】
第2の手段は前記第1の手段において、前記所定の割合の値をユーザまたは保守員が任意の所定値に変更する手段により、故障の予兆と判断する度合いを変更することができることを特徴とする。
【0012】
第3の手段は前記第1の手段において、前記故障の予兆が有ると判断した場合に、前記ステッピングモータ及びモータ駆動系に故障の予兆が有ることを表示する表示手段を備えていることを特徴とする。ここで、故障の予兆が有ることを表示する手段は、操作パネルへの表示に限定されるものではなく、通信回線等を利用して遠隔地の保守員への通知であってもよい。また、装置内部の不揮発性メモリへ格納しておいて、必要な時にその情報を読み出す方法でもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成された本発明の往復移動装置の故障判定方法は、故障の予兆を検出できるので、印刷装置の状態を把握できることにより予防保守が可能となり、突然の装置故障によるダウンタイムを低減できるので、装置の信頼性を向上させることができる。また、突然の装置故障に伴う保守員の現地派遣等が抑制されるので、保守費の低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る往復移動装置の概略ブロック図である。
【図2】本発明の一実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態である往復移動装置の概略ブロック図、図2は本発明の一実施形態を示すフローチャートである。
【0016】
始めに、図1を使用して本発明の全体を説明する。本発明は往復移動を行う部位に適用が可能なものであるので、本実施形態の走行体は清掃部材を例に説明する。
【0017】
ステッピングモータ1はギヤ2を介してベルト3に連結されており、ベルト3にはスパイラルシャフト4を介してフェルト等の清掃部材5が取り付けられている。これにより清掃部材5は所定距離を往復移動することにより、被清掃体6の清掃を行う。ホームポジションセンサ7はホームポジションを検出するためのもので、ホールセンサである。また、反転ポジションセンサ8は反転位置を検出するためのセンサであり、同様にホールセンサである。なお、上記センサは発行ダイオードとホトトランジスタで構成されるホトインタラプタでもよい。
【0018】
ホームポジションセンサ7及び反転ポジションセンサ8で走行体である清掃部材5を検出すると検出信号は制御回路9を介して、CPU10へ送られてセンサ部に清掃部材5があることをCPU10が認識する。本実施形態では、反転する契機を反転ポジションセンサ8の検出後としたが、反転ポジションセンサ8を設けず、規定の駆動パルスをカウント後、反転するように構成してもよい。
【0019】
ドライバ11はFET(Field Effect Transistor)等の駆動素子および制御回路等で構成されるモータドライバである。制御回路9からのMODE信号によって、ステッピングモータ1の励磁パターンを切り替える信号で、1−2相励磁や2相励磁等を選択できる。CW/CCW信号はステッピングモータ1の回転方向をCWまたはCCW方向に切り替える。VREF信号はステッピングモータ1に通電する電流値を決定するための信号であり、具体的には制御回路9で設定した電圧を与えることで、本電圧とドライバ内蔵または外付けの抵抗値による定電流値が決定される。
【0020】
DRV CLK信号はステッピングモータ1の駆動パルスとなるクロック信号であり、本クロック信号の周期を速くすると、ステッピングモータは高速で回転し、クロックの周期を遅くするとステッピングモータは低速で回転する。このようにステッピングモータ1の位置は駆動パルス数で制御できる。カウント手段12はステッピングモータ1の駆動パルス数をカウントする回路であり、CPU10はカウント手段12でカウントした値をリードすることで、ステッピングモータ1の駆動パルス数を認識する。
【0021】
次に、ステッピングモータ及びモータ駆動系の故障を検出する方法を説明する。例えば、清掃部材5がホームポジションから反転ポジションまでの移動に要する駆動パルス数を1,000パルスとする。清掃部材5をホームポジションから反転ポジションまで移動する過程において、ステッピングモータの脱調やベルトの飛びなどにより、反転ポジションに到達できないことを防止するため、所定距離の移動に要する駆動パルス数よりも多い1,050パルスを上限値として設定する。清掃部材5がホームポジションにある状態で、1,050パルス分のプロフィールパターンをDRV CLK信号から送信する。その後、反転ポジションセンサ8からの信号を受信すれば、1,050パルス以内で清掃部材が反転ポジションに移動したことになるが、もし反転ポジションセンサ8からの信号を受信できなければ、故障と判断する。故障を検出した場合はステッピングモータの駆動停止、供給電源停止等の故障検出処理を行い、操作パネルに故障発生等のエラー表示を行う。
【0022】
次に故障の予兆を検出する方法を説明する。所定距離の移動に要する駆動パルス数である1,000パルスよりも多く、上限値の1,050パルスよりも少ない新たなしきい値を設ける。本実施例では1,030パルスとする。清掃部材5を往復移動した任意回数(本実施形態では以下10回として説明する)を分母とし、1,030パルスを超過した回数を分子とする。ここで、1,030パルスを超過した回数は往復移動した最近の10回中に発生した回数とし、その割合が50%を超過した場合は故障の予兆と判断し、操作パネル13に故障の発生が近いことを表示する。
【0023】
具体的には、装置の停止処理は行わず、操作パネルに、故障が近づいているので点検を促す旨の警告表示や、故障の予兆を意味する表示を行う。また、装置内部の不揮発性メモリ14に故障の予兆が発生していることを記憶しておけば、保守員が定期保守作業の際にその情報を取り出すことができる。また、図示しない通信回線等を利用して遠隔地の保守員に知らせるようにしてもよい。本実施形態では、50%を超過した場合に故障の予兆と判断したが、その値は走行体の状態に合わせた最適な値とするとよい。更に、その割合をユーザ又は保守員が任意の所定値に変更できるようにすると、使い勝手がよい。例えば、故障の予兆を検出する頻度を「低」とする場合は上述した割合を80%とし、「標準」とする場合は50%とし、頻度を「高」とする場合は20%にすることにより、印刷装置の使用状況に合わせた故障の予兆検出が可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、最近の10回を分母としたが、頻繁に往復移動を繰り返す装置においては、その値を高く設定した方が故障の予兆を検出する精度が向上する。また、最近の10回を分母としているため、10回未満の場合は故障の予兆を検出できないので、10回未満の場合は故障予知を無視するとよい。
【0025】
次に図2のフローチャートで故障の予兆検出方法について、具体的に説明する。S20でホームポジションを検出した後、S21にてモータ回転方向を出力し(図示せず)、往復移動回数のカウンタを+1加算し、1,050パルス分の駆動プロフィールでモータを駆動する。モータの移動時間を考慮して、S22にて所定時間のウェイト時間を設ける。S23にて反転ポジションを検出できなければ、S24にてモータ停止やエラー表示などのエラー処理を行う。
【0026】
一方、S23にて反転ポジションを検出した場合は、カウント手段にて、予めホームポジションから反転ポジションセンサが検出するまでの駆動パルス数をカウントしているので、S25にて、そのカウント値が1,030以上かを判別する。もし、1,030未満の場合は故障の予兆は無いと判断し、本フローを終了する。S25にて1,030以上の場合は、故障の予兆が有ると判断し、S26にて故障予兆カウンタを+1のインクリメントを行う。なお、本カウンタは、FIFO(First In First Out)のように順次新しいデータに書き換わる方式とするのが好ましい。なぜなら、分母を往復移動回数の総数で算出すると、所定のしきい値を超過した割合が極端に低くなるため、しきい値の設定が難しくなる。
【0027】
次にS27にて、10回の往復移動回数を分母とし、S26にてカウントしたカウント値を分子とする割合値が50%以上かを判別する。もし、50%未満であれば、本フローを終了する。仮に50%以上であれば、故障の予兆があると判断し、S28の故障予兆処理にて、操作パネルへのメッセージ表示や不揮発性メモリなどへ故障の予兆が発生している情報を記憶する。
【0028】
以上のように本実施形態によれば、所定距離の移動過程において、駆動パルス数の上限値よりも少ないしきい値を設け、そのしきい値を超過した割合を、順次書き換わる最新の状態をもとに算出したので、脱調の頻度やベルトの磨耗によるベルト飛びが徐々に増加することで発生する故障の予兆を検出することができる。
【符号の説明】
【0029】
1はステッピングモータ、2はギヤ、3はベルト、4はスパイラルシャフト、5は清掃部材(走行体)、6は被清掃体、7はホームポジションセンサ、8は反転ポジションセンサ、9は制御回路、10はCPU、11はドライバ、12はカウント手段、13は操作パネル、14は不揮発性メモリである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2008−076540号公報
【特許文献2】特開2005−313495号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータを駆動源として所定距離を往復移動する走行体を備える往復移動装置において、
前記走行体を往復移動させる往復駆動手段と、前記走行体の停止状態からのモータ駆動パルス数をカウントするカウント手段と、ホームポジション近傍の所定の位置に設けられ走行体を検知するための検知手段と、反転位置近傍に設けられ走行体を検知するための検知手段とを備え、
前記所定距離の移動に必要なモータ駆動パルス数よりも多い所定のしきい値を設け、前記ホームポジションから前記反転位置近傍の検知手段が検知するまでを、前記カウント手段によってカウントされたモータ駆動パルスのカウント値が前記しきい値を超過した割合を算出し、該割合が所定の割合を超過したことにより、ステッピングモータ及びモータ駆動系に故障の予兆があると判断することを特徴とする往復移動装置の故障判定方法。
【請求項2】
前記所定の割合をユーザまたは保守員が任意の所定値に変更する手段により、故障の予兆と判断する度合いを変更することができることを特徴とする請求項1記載の往復移動装置の故障判定方法。
【請求項3】
前記故障の予兆が有ると判断した場合に、前記ステッピングモータ及びモータ駆動系に故障の予兆が有ることを表示する表示手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の往復移動装置の故障判定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−208248(P2010−208248A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58914(P2009−58914)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】