説明

徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法

【課題】 コラーゲンが早期に分解することなく患部において長期間保持し、含有する薬剤等の物質を当該患部において徐放することができ、その結果当該患部を治癒、修復、再生することができる生体親和性に優れた徐放性微粒子と、製造工程が少なく簡便な徐放性微粒子の製造方法とを提供する。
【解決手段】 物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子であって、連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させて調製したエマルションを前記連続相において架橋剤を用いて架橋してなる徐放性微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法に関し、特に水性溶媒にコラーゲンを溶解したコラーゲン溶液を用いて油中水滴エマルションを形成し、架橋剤にて架橋してなる徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形成外科や美容整形皮膚科において、老化や疾病、事故等によって形成したシミ、皺、傷を修復する際、皮下注射による充填材料の注入が行われている。この皮下注入材料(インジェクタブル・フィラー)として、生体適合性や生分解性に優れているコラーゲン水溶液やヒアルロン酸水溶液等が用いられている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、コラーゲン水溶液やヒアルロン酸水溶液等を皮下に注入すると、皮下環境でゲル化するものの速やかに生体吸収され、真皮再生の足場になり得ない。また、皮膚再生を促す目的で当該水溶液に所望の薬剤を混合して皮下注入した場合でも、薬剤は速やかに拡散してしまい、その効果を十分に発揮できない。
【0004】
このような問題を解決するため、コラーゲンをバイオマテリアル化する取り組みがなされている。例えば、鮭皮アテロコラーゲンを水溶性カルボジイミドである1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)で架橋することにより作製したコラーゲンナノ繊維ゲルが開示されている(非特許文献2)
【0005】
また、水性溶媒にコラーゲンを溶解したものを用いて油中水滴エマルション(Water in Oil Emulsion:W/Oエマルション)を調製し、これを架橋して作製した微粒子を薬剤等の生分解性担体として利用しようとする試みもなされている。例えば、特開2006−291198号公報では、酸性の水性溶媒によるコラーゲン溶液を用いて油中でエマルションを調製し、これをコラーゲン小球体として回収した後に架橋を施した架橋型コラーゲン小球体とその製造方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、特表平8−502922号公報では、ほぼ均質な溶液を調製し、連続相においてエマルションを形成し、これを微粒子として回収・洗浄した後に架橋したマイクロカプセルとその製造方法が開示されている(特許文献2)。
【0007】
【非特許文献1】Plast. Reconstr. Surg. 119: 98e, 2006
【非特許文献2】生物工学会誌 第85巻 第3号 126-131. 2007
【特許文献1】特開2006−291198号公報
【特許文献2】特表平8−502922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に開示された技術は、W/Oエマルションを架橋して作製した微粒子に関するものではなく、コラーゲンの架橋にEDCが用いられているのも、他の架橋剤と比較して生体親和性が高いという理由のみが挙げられており、親和性を担保しつつ、特に徐放性を発揮させるために用いられているということではない。
【0009】
また、特許文献1および特許文献2に開示された発明は、W/Oエマルションを回収した後に架橋することにより架橋型コラーゲン小球体やマイクロカプセルを作製しており、連続相においてW/Oエマルションを架橋したものではない。また、これら架橋型コラーゲン小球体やマイクロカプセルの徐放性については何ら示されていない。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、コラーゲンが早期に分解することなく患部において長期間保持し、含有する薬剤等の物質を当該患部において徐放することができ、その結果当該患部を治癒、修復、再生することができる生体親和性に優れた徐放性微粒子と、製造工程が少なく簡便な徐放性微粒子の製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る徐放性微粒子の特徴は、物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子であって、連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させて調製したエマルションを前記連続相において架橋剤を用いて架橋してなる点にある。
【0012】
なお、本発明において、前記架橋剤がカルボジイミドであることが好ましく、前記カルボジイミドが1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)であることがより好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記界面活性剤がソルビタンモノラウレート(Span20)であることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、前記物質が薬剤であることが好ましく、前記薬剤がビタミンCまたはビタミンC誘導体であることがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明において、前記コラーゲンがアテロコラーゲンであることが好ましい。
【0016】
一方、本発明に係る徐放性微粒子の製造方法の特徴は、物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子の製造方法であって、連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させてエマルションを連続相に調製する連続相エマルション調製工程と、架橋剤を用いて前記連続相エマルションを架橋することにより微粒子を調製する微粒子調製工程と、前記連続相の下層に水相を設けることにより前記微粒子を回収する微粒子回収工程とを有する点にある。
【0017】
また、本発明に係る別の態様である徐放性微粒子の製造方法の特徴は、物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子の製造方法であって、連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液に前記物質を混合したものを界面活性剤を用いて分散させてエマルションを連続相に調製する連続相エマルション調製工程と、架橋剤を用いて前記連続相エマルションを架橋することにより微粒子を調製する微粒子調製工程と、前記連続相の下層に水相を設けることにより前記微粒子を回収する微粒子回収工程とを有する点にある。
【0018】
なお、本発明において、前記水相がエタノールまたは水性溶媒を用いたエタノール溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コラーゲンが早期に分解することなく患部等の所望の生体内箇所において長期間保持し、含有する薬剤等の物質を当該生体内箇所において徐放することができ、その結果、当該生体内箇所を治癒、修復、再生することができる。また、生体内を長時間巡回しつつ含有する薬剤等の物質を徐放することもできる。以上から、アンチエイジング等の美容整形分野において新たなインジェクタブル皮膚再建材料として、あるいは医療分野におけるドラッグデリバリーとしての利用等が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る徐放性微粒子の実施形態について説明する。本発明に係る徐放性微粒子は、物質を包含した場合にこの物質を徐放する作用を有している。ここで、「徐放」とは、必要な期間にわたり必要な量および速度にて物質を徐々に放出することをいうが、特に本発明においては、徐放性微粒子が生体内の所望の箇所にとどまりつつ、または生体内を巡回しつつ、必要な量および速度にて包含する物質を徐々に放出することをいう。なお、本実施形態においては、図4に示すとおり、包含する物質を一日あたり11.5%〜37.6%の割合で徐放することができる。
【0021】
また、本発明において「物質」とは、本発明に係る徐放性微粒子が徐放することができるものであれば特に限定されないが、例えば、薬剤等が挙げられる。本実施形態においては、薬剤であるアスコルビン酸すなわちビタミンCもしくはビタミンC誘導体を好適な物質としており、ビタミンC誘導体としては、例えば、L−アスコルビン酸−2−リン酸エステル(APS)が挙げられる。なお、APSは生体内において、またはAlkaline phosphatase(ALP)を用いて処理することによりビタミンCに誘導される。
【0022】
次に、本発明における「連続相」は油であるが、「油」とは、一般には水と混じらない可燃性の物質をいい、植物性、動物性、あるいは鉱物性のものが挙げられるが、本発明においてはこれに限られず、例えば、疎水性溶媒である非極性有機溶媒をも含む趣旨である。なお、本実施形態においては、流動パラフィンを好適な油としている。また、「連続相」とは、分散系において最も量の多い構成要素をいう。
【0023】
また、本発明における「水性溶媒」も特に限定されないが、本実施形態においては水が用いられている。また、本発明における「水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液」の濃度は、W/Oエマルションを調製することができれば特に限定されないが、1.0%(weight/volume:w/v)〜2.0%(w/v)の濃度であることが好ましい。なお、本実施形態における当該濃度は1.5%(w/v)を好適としている。
【0024】
次に、本発明における「界面活性剤」は、いわゆる両親媒性分子であれば特に限定されず、アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。本実施形態においては、ソルビタンモノラウレート(Span20)を好適な界面活性剤としている。
【0025】
また、本発明における「架橋剤」は、ポリマー同士を連結し、物理的、化学的性質を変化させる反応を引き起こす物質であれば特に限定されないが、本発明における架橋剤として、カルボジイミドが好ましい。カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)やジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が挙げられるが、本実施形態においては、水溶性カルボジイミドであるEDCを、より好適な架橋剤としている。
【0026】
また、本発明におけるコラーゲンは、型を含め特に限定されないが、コレクチンやフィコリン、アディポネクチン、マクロファージスカベンジャー受容体等のコラーゲン様領域を有するタンパク質も含む趣旨である。本実施形態においては、主たる抗原部位であるテロペプチドをペプシン処理により消化して得られるアテロコラーゲンを好適なコラーゲンとしている。
【0027】
さらに、本発明に係る徐放性微粒子の大きさは、図1に示すとおり、界面活性剤の濃度と乳化、分散時の撹拌回転数とにより制御することができる。すなわち、本発明に係る徐放性微粒子が包含し得る物質の量は、徐放性微粒子の直径を調節することにより適宜変更することができる。本実施形態における徐放性微粒子の直径は、一度の製造工程で複数得られる徐放性微粒子の平均直径により算出でき、物質を包含しない場合の平均直径を70μm〜681μm、物質を包含する場合の平均直径を24.3μm〜429μmとしている。ここで、本発明に係る徐放性微粒子を細胞増殖の足場として用いる場合、細胞の大きさ(約10μm〜20μm)を考慮すれば、本発明に係る徐放性微粒子の平均直径は70μm〜130μmであることが好ましいということが本発明者によって明らかになっている。
【0028】
一方、本発明に係る徐放性微粒子の製造方法は、
(i)連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させてエマルションを連続相に調製する連続相エマルション調製工程
(ii)架橋剤を用いて連続相エマルションを架橋することにより微粒子を生成する微粒子生成工程
(iii)連続相の下層に水相を設けることにより微粒子を回収する微粒子回収工程
以上各工程(i)〜(iii)を有している。
【0029】
工程(i)の連続相エマルション調製工程とは、所望の水性溶媒を用いてコラーゲン溶液を調製し、油が連続相、当該コラーゲン溶液が分散相を形成するよう、所望の油中にて界面活性剤を用いて分散させ、W/Oエマルションを調製する工程である。ここで、界面活性剤は、当該コラーゲン溶液を油中に加えると同時に添加してもよく、当該コラーゲン溶液を油中に加えた後に添加してもよい。また、本発明の別の態様として、当該コラーゲン溶液を油中に加える前に、徐放の対象となる目的の物質を当該コラーゲン溶液に混合させ、あるいは溶解させてもよい。
【0030】
すなわち、本発明において「混合」とは、一般には、性質の違う物がまざりあうこと。まぜあわせることをいうが(三省堂「大辞林 第二版」)、溶解をも含む趣旨である。なお、本発明における「連続相エマルション」とは、油中にて乳化、分散したままであって、未だ回収されていないW/Oエマルションをいう。
【0031】
工程(ii)の微粒子生成工程とは、油中にて乳化、分散したままのW/Oエマルションである連続相エマルションを、架橋剤を用いて架橋することにより徐放性微粒子を生成する工程である。ここで、架橋剤を用いるタイミングは、微粒子を生成することができれば特に限定されない。また、架橋剤そのものを用いてもよく、あるいは溶液等の形態で用いてもよい。なお、本実施形態においては、なるべく均一の架橋を施すことを主たる目的として架橋剤を用いた後に撹拌を行っているが、本発明においてはこれに限定されない。
【0032】
工程(iii)の微粒子回収工程とは、連続相である油相の下に水相を設け、生成した徐放性微粒子を水相に沈降させることにより当該徐放性微粒子を油から分離し、回収する工程である。すなわち、当該水相の比重は連続相である油相の比重より大きいものとなる。ここで、本発明における「水相」とは、水性溶媒や水等を含む溶液や混合液、あるいは水であって連続相である油相の比重より大きいものであれば特に限定されないが、エタノールや水性溶媒を用いたエタノール溶液が好ましい。本実施形態においては、50%(volume/volume;v/v)濃度のエタノール水溶液を好適な水相としている。
【0033】
以下、本発明に係る徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法の実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例1】
【0034】
<徐放性微粒子の生成>
20℃の条件下、油相として流動パラフィン(和光純薬製)を48ml用い、これに1.5%(w/v)の豚皮由来アテロコラーゲン水溶液(新田ゼラチン製)を10ml、流動パラフィン相が連続相となり、かつアテロコラーゲン水溶液が分散相となるように加え、これにソルビタンモノラウレート(Span20;和光純薬製)を加えて油中にアテロコラーゲン水溶液を分散させることにより乳化させ、W/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを流動パラフィン中において、グルタルアルデヒド(GA;和光純薬製)を用いて架橋して徐放性微粒子を生成した後、50%(v/v)濃度のエタノール水溶液50mlを加えることによって流動パラフィン相の下層に水相を設け、生成した徐放性微粒子を水相に沈降させて回収した。徐放性微粒子の粒子径は、Span20の濃度と乳化時の撹拌回転数とを調節することにより制御した。
【0035】
得られた徐放性微粒子を図1(a)に、徐放性微粒子の平均直径を図1(b)に示す。図1(b)に示すとおり、徐放性微粒子の平均直径を、界面活性剤の濃度について0.1%(w/v)〜0.3%(w/v)の範囲、および攪拌回転数について300rpm〜500rpmの範囲において各々適宜変更することにより、70μm〜681μmの範囲で制御することができた。なお、界面活性剤の濃度を0.1%上げるごとに徐放性微粒子の平均直径は約230μm減少し、回転数を100rpm上げるごとに約130μm減少した。
【実施例2】
【0036】
<ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の生成>
20℃の条件下、1.8%(w/v)の豚皮由来アテロコラーゲン水溶液8.3mlに30%(w/v)のAPS含有水溶液1.7mlを混合し、アテロコラーゲンとAPSとの終濃度が各々、1.5%(w/v)、5%(w/v)となるようAPSを含むアテロコラーゲン水溶液を10ml調製した。流動パラフィン48mlに前記APSを含むアテロコラーゲン水溶液を10ml、流動パラフィン相が連続相となり、かつアテロコラーゲン水溶液が分散相となるように加え、これにSpan20を加えて油中にアテロコラーゲン水溶液を分散させることにより乳化させ、W/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを流動パラフィン中で、GAを用いて架橋してビタミンC誘導体包含徐放性微粒子を生成した後、50%(v/v)濃度のエタノール水溶液50mlを加え、生成したビタミンC誘導体包含徐放性微粒子をエタノール水溶液相に沈降させて回収した。実施例1と同様にして、ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の粒子径をSpan20の濃度と乳化時の撹拌回転数とを調節することにより制御した。
【0037】
得られたビタミンC誘導体包含徐放性微粒子を図2(a)に、ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の平均直径を図2(b)に示す。図2(b)に示すとおり、ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の平均直径を、実施例1と同様にして24.3μm〜429μmの範囲で制御することができた。なお、界面活性剤の濃度を0.1%上げるごとにビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の平均直径は約84.8μm減少し、回転数を100rpm上げるごとに約188μm減少した。
[比較例1]
【0038】
実施例1および実験2において用いた50%(v/v)濃度のエタノール水溶液の代わりに、2−プロパノールを用いたところ、水相である2−プロパノール相の下層の流動パラフィン相が形成されて流動パラフィン相に徐放性微粒子またはビタミンC誘導体包含徐放性微粒子が沈降してしまい、徐放性微粒子またはビタミンC誘導体包含徐放性微粒子形成の確認と流動パラフィンと粒子の分離とが困難であった。このことから、50%(v/v)濃度のエタノール水溶液を用いることによってエタノール水溶液相が流動パラフィン相の下層となり、徐放性微粒子またはビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の確認と分離とが容易になったことが分かる。
【実施例3】
【0039】
<GAとEDCとを各々架橋剤として用いて作製したゲルの細胞親和性>
GAを架橋剤として用いて作製したゲル(以下、「GA固化ゲル」という。)は、以下の手順により作製した。すなわち、細胞培養用24穴プレート上に30%(w/v)のAPS水溶液を混合した1.5%(w/v)アテロコラーゲン水溶液を添加し、4℃の条件下、GAを用いてアテロコラーゲン水溶液をゲル化することにより作製した。GA固化ゲル上に皮膚線維芽細胞(三光純薬社)を播種して37℃で培養し、3日目の細胞成長性を評価することによりGA固化ゲルの細胞親和性を評価した。
【0040】
一方、EDCを架橋剤として用いて作製したゲル(以下、「EDC固化ゲル」という。)は、以下の手順により作製した。すなわち、細胞培養用24穴プレート上に1.5%(w/v)アテロコラーゲン水溶液を添加し、4℃の条件下、EDCを用いてアテロコラーゲン水溶液をゲル化することにより作製した。その後、0%、10%、20%、30%(w/v)のAPS溶液を各々、4℃の条件下でEDC固化ゲルに含浸させた。APSを含浸させたEDC固化ゲル上に皮膚線維芽細胞を播種して37℃で培養し、1日目、3日目、および7日目の細胞増殖性とコラーゲン産生能とを、各々MTS法(Cell Titer 96 Non-Radioactive Cell Proliferation Assay Technical Bulletin, #TB112, Promega Corporation)とELISA法(procollagen type I C-peptide (PIP) EIA Kit, TakaraBio)とにより評価することによって、EDC固化ゲルの細胞親和性を評価した。
【0041】
以上の結果、GA固化ゲル上で細胞培養を行った場合は、洗浄を複数回繰り返したにもかかわらず、細胞の接着や増殖を確認することができなかった(図示しない)。GAはもともと細胞毒性が強いためと考えられる。一方、EDC固化ゲル上で細胞培養を行った場合は、細胞の増殖とコラーゲン産生能とが確認できた。EDC固化ゲル上で培養された皮膚線維芽細胞の増殖性を図3(a)に、コラーゲン産生能を図3(b)に示す。洗浄を複数回繰り返すことによってEDCは架橋結合中に残らないため、EDC固化ゲルは細胞親和性に優れていたと考えられる。従って、徐放性微粒子の作成にはEDCを架橋剤として用いることが好ましいことが分かる。また、図3(a)(b)に示すとおり、APSを30%含浸させたEDC固化ゲルでは増殖が抑制され、かつコラーゲン産生能が増加した。従って、APSは線維芽細胞のコラーゲン産生を促進することがわかった。
【実施例4】
【0042】
<EDCを架橋剤として用いて作製した徐放性微粒子についてのAPS包含能の評価>
20℃の条件下、油相として流動パラフィンを48ml用い、これに1.5%(w/v)の豚皮由来アテロコラーゲン水溶液を10ml、流動パラフィン相が連続相となり、かつアテロコラーゲン水溶液が分散相となるように加え、これにSpan20を加えて乳化させてW/Oエマルションを調製した。このW/Oエマルションを流動パラフィン中において、EDCを加えて一晩撹拌し架橋することにより徐放性微粒子を生成した後、50%(v/v)濃度のエタノール水溶液50mlを加え、生成した徐放性微粒子をエタノール水溶液相に沈降させて回収することによりEDCを架橋剤として用いて作製した徐放性微粒子(以下、「EDC徐放性微粒子」という。)を作製した。
【0043】
次に、APSの包含能の評価を以下の手順により行った。すなわち、0.5%、1%、2%、5%、10%(w/v)のAPS溶液を各々、4℃の条件下で一晩、EDC徐放性微粒子に含浸させることによりAPSをEDC徐放性微粒子に包含させた。APSを包含させたEDC徐放性微粒子を回収し、Phosphate buffered saline(PBS;和光純薬製)にて15分間、2回洗浄した。その後、湿潤状態のEDC徐放性微粒子0.5gをPBS 1mlに浸漬し、Collagenase(from clostridium histolyticum for collagen analysis;和光純薬製)を5000U/ml添加し、37℃の条件下、一晩放置することによりコラーゲンを消化した。消化液 50μlにAlkaline phosphatase(ALP;from calf intestine、和光純薬製)を100U/μl添加し、50℃で4時間処理した。ALP処理によってEDC徐放性微粒子中のAPSはアスコルビン酸すなわちビタミンCに誘導され、これをビタミンC定量キット(コスモバイオ製)を用いて定量することによりAPSの包含能の評価を行った。
【0044】
その結果を図4に示す。図4に示すとおり、含浸用のAPS溶液のAPS濃度が高いほどEDC徐放性微粒子中のAPS包含量は増加したことが分かる。
【実施例5】
【0045】
<EDC徐放性微粒子についてのAPS徐放性の評価>
実施例4で5%および10%(w/v)のAPS溶液を用いて作製した、APSを包含させた湿潤状態のEDC徐放性微粒子0.5gをPBS1mlに浸漬し、37℃、20rpmの条件で回転攪拌した。各々1,2,7,14日後、PBS溶液を全て回収して新しいPBS 1mlを加え、37℃、20rpmの条件で回転攪拌を続けた。PBS中のAPS濃度を実施例4と同様、ALPでAPSをビタミンCに誘導後、ビタミンC定量キットによって定量した。
【0046】
その結果を図5に示す。図5に示すとおり、2日目までEDC徐放性微粒子のビタミンC徐放性が確認された。また、EDC徐放性微粒子の1日目のビタミンC徐放量である、APS濃度が5%の場合の37.6%の徐放量と、APS濃度が10%の場合の32.2%の徐放量とは、細胞増殖に好適なAPS量である10〜20mmolであることが本発明者により分かっている。
【0047】
以上のような各実施形態の徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法によれば、コラーゲンが早期に分解することなく患部等の所望の生体内箇所において長期間保持し、含有する薬剤等の物質を当該生体内箇所において徐放することができ、その結果、当該生体内箇所を治癒、修復、再生することができる。また、生体内を長時間巡回しつつ含有する薬剤等の物質を徐放する効果も奏する。その結果、アンチエイジング等の美容整形分野において新たなインジェクタブル皮膚再建材料として、あるいは医療分野におけるドラッグデリバリーとしての利用等が可能となる。
【0048】
なお、本発明に係る徐放性微粒子および徐放性微粒子の製造方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、本実施形態で使用した架橋剤である水溶性カルボジイミドすなわちEDCに限られるのではなく、非水溶性のカルボジイミドであるDCCやDICを用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1において得られた物質を包含しない徐放性微粒子と、制御された当該徐放性微粒子の平均直径とを示す図である。(a)は物質を包含しない徐放性微粒子を、(b)は界面活性剤の濃度と撹拌の回転数とにより制御された当該徐放性微粒子の平均直径を示す図である。
【図2】実施例2において得られたビタミンC誘導体包含徐放性微粒子と、制御された当該ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の平均直径とを示す図である。(a)はビタミンC誘導体包含徐放性微粒子を、(b)は界面活性剤の濃度と撹拌の回転数とにより制御された当該ビタミンC誘導体包含徐放性微粒子の平均直径を示す図である。
【図3】実施例3において得られたEDC固化ゲル上で培養された皮膚線維芽細胞の増殖性とコラーゲン産生能とを示す図である。(a)はEDC固化ゲル上で培養された皮膚線維芽細胞の増殖性を、(b)はEDC固化ゲル上で培養された皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生能を示す図である。
【図4】実施例4において得られたEDC徐放性微粒子についての、含浸用APS溶液のAPS濃度とEDC徐放性微粒子に包含されたAPS量との関係を示した図である。
【図5】実施例5において、EDC徐放性微粒子のビタミンC徐放性を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子であって、連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させて調製したエマルションを前記連続相において架橋剤を用いて架橋してなることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項2】
請求項1において、前記架橋剤がカルボジイミドであることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項3】
請求項2において、前記カルボジイミドが1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)であることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記界面活性剤がソルビタンモノラウレート(Span20)であることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかにおいて、前記物質が薬剤であることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項6】
請求項5において、前記薬剤がビタミンCまたはビタミンC誘導体であることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかにおいて、前記コラーゲンがアテロコラーゲンであることを特徴とする徐放性微粒子。
【請求項8】
物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子の製造方法であって、
連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液を界面活性剤を用いて分散させてエマルションを連続相に調製する連続相エマルション調製工程と、
架橋剤を用いて前記連続相エマルションを架橋することにより微粒子を生成する微粒子生成工程と、
前記連続相の下層に水相を設けることにより前記微粒子を回収する微粒子回収工程と
を有することを特徴とする徐放性微粒子の製造方法。
【請求項9】
物質を包含した場合に前記物質を徐放する徐放性微粒子の製造方法であって、
連続相としての油中に水性溶媒を用いた分散相としてのコラーゲン溶液に前記物質を混合したものを界面活性剤を用いて分散させてエマルションを連続相に調製する連続相エマルション調製工程と、
架橋剤を用いて前記連続相エマルションを架橋することにより微粒子を生成する微粒子生成工程と、
前記連続相の下層に水相を設けることにより前記微粒子を回収する微粒子回収工程と
を有することを特徴とする徐放性微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9において、前記水相がエタノールまたは水性溶媒を用いたエタノール溶液であることを特徴とする徐放性微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−167136(P2009−167136A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8716(P2008−8716)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(506156665)株式会社アグリバイオインダストリ (16)
【Fターム(参考)】