説明

微小磁性金属異物の検査装置

【課題】 微小磁性金属異物であっても確実に計測することができる、微小磁性金属異物の検査装置を提供する。
【解決手段】 微小磁性金属異物の検査装置において、微小磁性金属異物2へ磁場を印加する円筒型永久磁石3の磁場の影響下であって前記微小磁性金属異物2の移動方向に配置される差動型検出コイル5と、この差動型検出コイル5の磁束をSQUID磁気センサ8に磁気的に結合して入力する入力コイル6とを有する磁束トランス4を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小磁性金属異物の検査装置に係り、特にリチウム電池用活物質バインダーなど液体中に混入された微小磁性金属異物を、高感度磁気センサ、例えばSQUID磁気センサを用いて磁気的に検査する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したような微小磁性金属異物の検査装置では、異物の残留磁化を計測するため、SQUID磁気センサで計測を行う前に強力な磁石で微小磁性金属異物を磁化させる必要がある。この装置では、検出信号を大きくするために、0.2テスラ以上の磁場を与えて磁化することが多いが、検査対象となる異物の大きさが10ミクロン程度と小さくなると、さらに大きな磁場が必要となる。
【0003】
一般的には、図7に示すように、液体配管101内を移動する異物102を円筒型永久磁石103で磁化し、この磁化された異物102を、多層磁気シールド104でシールドされた液体窒素クライオスタット105中に配置されているSQUID磁気センサ106により計測することが多い(下記特許文献1参照)。なお、107は多層磁気シールド104に形成される液体配管101を貫通させる開口部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−237081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の検査装置では、異物102が小さい場合、自己磁場によって減磁する作用が働くので、せっかく円筒型永久磁石103で磁化しても、SQUID磁気センサ106で計測する時には異物102の磁化が小さくなっており、十分な計測が難しいといった問題があった。
本発明は、上記状況に鑑みて、微小な磁性金属異物であっても確実に計測することができる、微小磁性金属異物の検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕微小磁性金属異物の検査装置において、微小磁性金属異物へ磁場を印加する磁場印加装置の磁場の影響下であって前記微小磁性金属異物の移動方向に配置される差動型検出コイルと、この差動型検出コイルの磁束を磁気センサに磁気的に結合して入力する入力コイルとを有する磁束トランスを具備することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁場印加装置が円筒型永久磁石であり、この円筒型永久磁石を貫通して配置される液体配管内で前記微小磁性金属異物を移動させることを特徴とする。
〔3〕上記〔2〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記円筒型永久磁石内に、前記微小磁性金属異物の移動方向に沿って、巻き数が同じで巻き方向を逆にした一対のコイルを直列に接続した前記差動型検出コイルを配置することを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔2〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記微小磁性金属異物の移動方向に沿って、前記液体配管の外側でかつ同軸状に差動型検出コイル用配管を配置し、該差動型検出コイル用配管内に前記差動型検出コイルを配置することを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記差動型検出コイルと前記入力コイルとを互いに離隔しリード線によって接続することを特徴とする。
【0009】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕の何れか一項記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがSQUID磁気センサであり、多層磁気シールド内に配置されたクライオスタット内に配置することを特徴とする。
〔7〕上記〔5〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記差動型検出コイルに接続される前記リード線は前記多層磁気シールドに対して電磁シールドされた状態で配線することを特徴とする。
【0010】
〔8〕上記〔1〕から〔5〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがフラックスゲートセンサであることを特徴とする。
〔9〕上記〔1〕から〔5〕記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがMI効果素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)従来の微小磁性金属異物の検査装置では、SQUID磁気センサの多層磁気シールドには液体配管を貫通させる開口部が必要であり、SQUID磁気センサの磁気遮蔽が十分でなかったが、本発明によれば、磁石による磁場印加部と磁気センサによる信号計測部とを分離することができるので、磁気センサの磁界の遮蔽を十分に行うことができ、ノイズが小さくなり、S/N(信号とノイズとの比)を改善することができる。
【0012】
(2)磁石による磁場印加部と磁気センサによる信号計測部との距離を離すことができるので、微小磁性金属異物に対してより大きな磁場を印加することができ、計測信号が大きくなり、S/Nを改善することができる。
(3)微小磁性金属異物の磁化と磁気センサによる計測が同時であるため、磁化された微小磁性金属異物の減磁による信号減衰がないので、計測信号が大きくなり、S/Nを改善することができる。
【0013】
(4)磁場印加部と磁気センサによる信号計測部との構成が簡便である。特に、差動型検出コイル及び入力コイルは受動的回路で構成されるため、構成が簡便であるとともに、高精度の計測のための調整も極めて容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す磁束トランスを用いた微小磁性金属異物の検査装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す微小磁性金属異物の検査装置の磁束トランスを示す模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す微小磁性金属異物の検査装置による信号波形を示す図である。
【図4】比較例としての微小磁性金属異物の検査装置の模式図である。
【図5】比較例としての微小磁性金属異物の検査装置による信号波形を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例を示す微小磁性金属異物の検査装置の磁場印加部を示す模式図である。
【図7】従来の微小磁性金属異物の検査装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の微小磁性金属異物の検査装置は、微小磁性金属異物へ磁場を印加する磁場印加装置の磁場の影響下であって前記微小磁性金属異物の移動方向に配置される差動型検出コイルと、この差動型検出コイルの磁束を磁気センサに磁気的に結合して入力する入力コイルとを有する磁束トランスを具備する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す磁束トランスを用いた微小磁性金属異物の検査装置を示す模式図、図2はその微小磁性金属異物の検査装置の磁束トランスを示す模式図である。
本発明では、特に、リチウム電池用活物質バインダーなど液体中に混入された微小磁性金属異物を、超高感度SQUID磁気センサを用いて磁気的に検査する装置について説明する。
【0017】
図1および図2において、1は液体配管、2は液体配管1内を移動する微小磁性金属異物、3は液体配管1が貫通する円筒型永久磁石、4は磁束トランス、5は円筒型永久磁石3内に配置される磁束トランス4の差動型検出コイルであり、巻き数が同じで巻き方向が逆になった一対のコイル、例えば、左巻きコイル(又は右巻きコイル)5Aと右巻きコイル(又は左巻きコイル)5Bとからなる。6は磁束トランス4の入力コイル、7は差動型検出コイル5と入力コイル6とを接続するリード線、8は入力コイル6内に配置されるSQUID磁気センサ、9はSQUID磁気センサ8の液体窒素容器(クライオスタット)、10は液体窒素容器9の外側に配置される多層磁気シールドである。
【0018】
本発明の微小磁性金属異物の検査装置は、磁束トランス4を用いている。この磁束トランス4は、巻き数が同じで巻き方向が逆になった一対のコイル5A,5Bからなる差動型検出コイル5と、その磁束をSQUID磁気センサ8に磁気的に結合して入力する入力コイル6とから構成されている。このように構成することで、差動型検出コイル5に均一な静磁場あるいは時間的に変化する磁場が印加されているときには、磁束トランス4に電流は流れず、入力コイル6に信号は発生しないが、磁化された微小磁性金属異物2がある速度を持って差動型検出コイル5を通過すると、一対の左巻きコイル5Aと右巻きコイル5Bのバランスが崩れて磁束トランス4に電流が流れる。その電流の大きさは磁束の時間変化に比例した大きさとなる。
【0019】
このように、本発明では、差動型検出コイル5と入力コイル6で構成される磁束トランス4を用いており、強力な円筒型永久磁石3の中に差動型検出コイル5を設置して、液体配管1をその差動型検出コイル5に貫通させる構成としている。差動型検出コイル5の信号は磁束トランス4で伝達され、磁気遮蔽率が十分高い多層磁気シールド10内部の液体窒素容器9内に設置したSQUID磁気センサ8に磁気的に結合した入力コイル4から伝達される。微小磁性金属異物2が混入していない場合、差動型検出コイル5には電流が流れないのでSQUID磁気センサ8は信号を検出しないが、微小磁性金属異物2が流れてきた場合、微小磁性金属異物2には円筒型永久磁石3による磁化が発生し、この磁化された微小磁性金属異物2が移動することによって磁場が時間的に変化し差動型検出コイル5のバランスが崩れるので、SQUID磁気センサ8では信号が計測される。なお、リード線7は密封状態にした前記多層磁気シールド10に貫通して配線することにより、SQUID磁気センサの磁界の遮蔽を十分に行うことができる。
【0020】
例えば、円筒型永久磁石3内に差動型検出コイル5を配置した図1に示す本発明の装置において、微小磁性金属異物2としての直径0.6mmの鉄球を磁場を印加しながら差動型検出コイル5内で移動させた場合の信号波形を図3に示す。この場合、計測信号は極めて大きく、S/Nは1000以上であり、信号計測と同時に磁場を印加するという本発明の有効性が示されている。
【0021】
図4は比較例としての微小磁性金属異物の検査装置の模式図、図5はその微小磁性金属異物の検査装置による信号波形を示す図である。
図4において、11は液体配管、12は液体配管11内を移動する微小磁性金属異物、13は液体配管11が貫通する円筒型永久磁石、14は円筒型永久磁石13から離された位置に配置される磁束トランス、15は液体配管11の周囲に配置された磁束トランス14の差動型検出コイル、16は差動型検出コイル15に接続される入力コイル、17は差動型検出コイル15と入力コイル16とを接続するリード線、18は入力コイル16内に配置されるSQUID磁気センサ、19はSQUID磁気センサ18の液体窒素容器(クライオスタット)、20は液体窒素容器19の外側に配置される多層磁気シールドである。
【0022】
ここでは、微小磁性金属異物12としての直径0.6mmの鉄球を円筒型永久磁石13であらかじめ磁化して、その磁化した微小磁性金属異物12としての鉄球を磁束トランス14の差動型検出コイル15内を移動させて信号を測定しており、その信号波形が図5に示されている。
このように、差動型検出コイル15を円筒型永久磁石13内に置かず、信号計測中には微小磁性金属異物12としての鉄球に磁場を印加しなかった。この場合、あらかじめ磁化された微小磁性金属異物12としての鉄球の自己磁場が計測時点では減衰するので、計測信号は小さく、S/Nはほぼ1程度である。したがって、図1のように円筒型永久磁石による磁化と差動型検出コイルによる信号検出を同位置で行うことで、自己磁場の減衰をなくすことができ、大きく変化する信号を得られ、S/Nを改善することができる。
【0023】
図6は本発明の他の実施例を示す微小磁性金属異物の検査装置の磁場印加部を示す模式図である。
この図において、21は液体配管、22は液体配管11内を移動する微小磁性金属異物、23は液体配管21の外部に同心状に配置される差動型検出コイル24が巻回される差動型検出コイル用配管、25はその差動型検出コイル用配管24の外部に同心状に配置される円筒型永久磁石である。
【0024】
このように、差動型検出コイル24を液体配管21とは別体の差動型検出コイル用配管23に配置するようにしたので、液体配管21と差動型検出コイル24との直接の干渉をなくすことができる。例えば、液体配管21に起因する振動などが差動型検出コイル24に直接影響を及ぼすことがなくなるという利点がある。
また、上記実施例では、SQUID磁気センサによる計測について述べたが、SQUID磁気センサに限定されるものではなく、SQUID磁気センサに代えて、フラックスゲートセンサ(flux gate sensor)、つまり、大きさと位相が軸に沿って働く外部磁場の大きさと方向に比例する電気的出力信号を出す検出器を用いるようにしてもよい。
【0025】
さらに、磁気インピーダンス効果素子(MI効果素子)(例えば、特開平7−181239号公報、特開平9−80133号公報参照)を用いるようにしてもよい。つまり、MI効果素子が、ホール素子や磁気抵抗(MR)素子と同程度の微小寸法が可能で、磁気検出感度がホール素子やMR素子の100倍以上であり、フラックスゲートセンサと同程度であるため、本発明の磁気センサとして利用することができる。
【0026】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)従来の微小磁性金属異物の検査装置では、図7に示すように、SQUID磁気センサ106の多層磁気シールド104には液体配管101を貫通させる開口部107が必要であり、SQUID磁気センサ106の磁気遮蔽が十分でなかったが、本発明によれば、磁石による磁場印加部とSQUID磁気センサによる信号計測部とを分離することができるので、SQUID磁気センサの磁界の遮蔽を十分に行うことができ、ノイズが小さくなり、S/Nが改善される。
【0027】
(2)磁石による磁場印加部とSQUID磁気センサによる信号計測部との距離を離すことができるので、微小磁性金属異物に対してより大きな磁場を印加することができ、計測信号が大きくなり、S/Nが改善される。
(3)微小磁性金属異物への磁化とSQUID磁気センサによる計測が同時であるため、磁化された微小磁性金属異物の減磁による信号減衰がないので、計測信号が大きくなり、S/Nが改善される。
【0028】
(4)また、SQUID磁気センサに代えて、フラックスゲートセンサやMI効果素子を用いる場合には、SQUID磁気センサに比して取り付けが簡単であるとともに、大幅な磁気センサのコストの低減を図ることができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の微小磁性金属異物の検査装置は、微小な磁性金属異物であっても確実に計測することができる、微小磁性金属異物の検査装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1,11,21 液体配管
2,12,22 微小磁性金属異物
3,13,25 円筒型永久磁石
4,14 磁束トランス
5,15,24 差動型検出コイル
5A 左巻きコイル
5B 右巻きコイル
6,16 入力コイル
7,17 リード線
8,18 SQUID磁気センサ
9,19 液体窒素容器(クライオスタット)
10,20 多層磁気シールド
23 差動型検出コイル用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微小磁性金属異物へ磁場を印加する磁場印加装置の磁場の影響下であって前記微小磁性金属異物の移動方向に配置される差動型検出コイルと、
(b)該差動型検出コイルの磁束を磁気センサに磁気的に結合して入力する入力コイルとを有する磁束トランスを具備することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁場印加装置が円筒型永久磁石であり、該円筒型永久磁石を貫通して配置される液体配管内で前記微小磁性金属異物を移動させることを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項3】
請求項2記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記円筒型永久磁石内に、前記微小磁性金属異物の移動方向に沿って、巻き数が同じで巻き方向を逆にした一対のコイルを直列に接続した前記差動型検出コイルを配置することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項4】
請求項2記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記微小磁性金属異物の移動方向に沿って、前記液体配管の外側でかつ同軸状に差動型検出コイル用配管を配置し、該差動型検出コイル用配管内に前記差動型検出コイルを配置することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記差動型検出コイルと前記入力コイルとを互いに離隔しリード線によって接続することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがSQUID磁気センサであり、多層磁気シールド内に配置されたクライオスタット内に配置することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項7】
請求項5記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記差動型検出コイルに接続される前記リード線は前記多層磁気シールドに対して電磁シールドされた状態で配線することを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項8】
請求項1から5記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがフラックスゲートセンサであることを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。
【請求項9】
請求項1から5記載の微小磁性金属異物の検査装置において、前記磁気センサがMI効果素子であることを特徴とする微小磁性金属異物の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−198202(P2012−198202A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49371(P2012−49371)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(598159997)アドバンスフードテック株式会社 (14)
【Fターム(参考)】