説明

微小試料用トラップ装置

【課題】効率よく所定寸法の微小試料を分別し抽出できる、簡易な構成の微小試料用トラップ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】分離可能な複数の部分を有し、前記複数の部分のそれぞれは互いに異なる寸法の微小試料を分別抽出するトラップ部材と、前記微小試料を前記トラップ部材に導入する導入口と、前記トラップ部材を通過した微小試料を外部に排出する排出口と、を有し、前記トラップ部材を取り外し可能に保持する筐体と、を備える微小試料用トラップ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体等の微小試料を、その大きさにより分別抽出できる微小試料用トラップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー、医学、結晶構造解析、及び微小物体の観察が必要な産業分野等で利用される微小物体の分析操作を行うにあたり、遠心分離装置、沈降式分離装置、微細構造型分離装置等が利用されている。遠心分離装置では遠心力を利用し、沈降式分離装置では沈降速度の差異を利用することで、微小試料がその大きさに従い分別される。その後、分別された微小試料をサンプリングし、サンプリングされた微小試料に基づいて所望の寸法の微小試料を抽出するものである。
【0003】
従来の微細構造型分離装置について、図3、4を参照しつつ説明する。図3は、微細構造分離装置の平面図であり、図4は、図3の線IV−IVに沿った断面図である。
微細構造型分離装置501は、流体を所定の搬送方向530へ搬送するための搬送流路513と、搬送流路513から液体の部分流を排出し、液体中から所定の生体物質を分離する分離区域503と、を備える。分離区域503は、搬送流路513の底面から立ち上がって延びる傾斜面520と、傾斜面520に連続する収集室504と、を有し、比較的小さい生体物質が傾斜面520を越え収集室504内に捕獲し分別する構成である。なお、比較的大きい生体物質は傾斜面520を越えられずに、分離区域503の最も搬送流路513側に滞留するか、搬送流路513を流れる流体により搬送流路の下流に流される(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−283828
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の分離装置では、微小試料の分別作業を行った後、分別された微小試料からサンプルとして幾つかの微小試料を抽出し、そのサンプルの寸法を計測し、所望の寸法の微小試料を得る必要がある。従って、所望の寸法の微小試料を得るためには、分別作業そして抽出作業を別々の装置により行う必要があり、作業効率の向上には限界があった。またサンプルの抽出の仕方によっては、所望の寸法の微細試料を得られない恐れがある。
そこで本発明は、効率よく所定寸法の微小試料を分別し抽出できる、簡易な構成の微小試料用トラップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の微小試料用トラップ装置の第1の態様は、分離可能な複数の部分を有し、前記複数の部分のそれぞれが互いに異なる所定寸法の微小試料を分別抽出するトラップ部材と、前記微小試料を前記トラップ部材に導入する導入口と、前記トラップ部材を通過した微小試料を外部に排出する排出口と、を有し、前記トラップ部材を取り外し可能に保持する筐体と、を備える。
【0006】
また、本発明の生体試料用の流路形成チップの第2の態様によれば、前記筐体は、前記トラップ部材を挟持する一対の挟持部材を有する。
さらに、本発明の生体試料用の流路形成チップの第3の態様によれば、前記複数の部分のそれぞれは、貫通孔を有するフィルタ部材から構成される。
【0007】
本発明の生体試料用の流路形成チップの第4の態様によれば、前記フィルタ部材は前記導入口側から前記排出口側へ向かい前記貫通孔の径が順に小さくなるように配置される。
本発明の生体試料用の流路形成チップの第5の態様によれば、前記フィルタ部材は封止部材を介して互いに重ねられる。
【0008】
本発明の生体試料用の流路形成チップの第6の態様によれば、前記封止部材は、ゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートから形成される。
本発明の生体試料用の流路形成チップの第7の態様によれば、前記フィルタ部材は、ガラスから形成されている。
本発明の生体試料用の流路形成チップの第8の態様によれば、前記封止部材と前記フィルタ部材は一体成形されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明による微小試料用トラップ装置によれば、分離可能な複数の部分それぞれにより互いに異なる所定寸法の微小試料を分別できる。さらに、複数の部分それぞれが分離可能であるので所定寸法毎に分別された微小試料を確実に抽出することができる。このように簡易な構成において分別作業及び抽出作業を一の装置で実現できるので、作業効率が良い微小試料用トラップ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の微小試料用トラップ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。各図面中、同一要素は同一符号で示してある。
本発明の実施形態に係る微小試料用トラップ装置について、図1、2を参照しつつ説明する。図1は、チューブが連結された微小試料用トラップ装置の斜視図である。図2は、図1の展開図である。
【0011】
本実施形態の微小試料用トラップ装置3は、筐体を構成する、締結部材に35により固定される一対の板状部材である挟持部材5、7と、挟持部材5、7の間に挟持され、分離可能な複数の部分を有し、前記複数の部分のそれぞれが互いに異なる所定寸法の微小試料を分別抽出するトラップ部材9と、から構成される。
【0012】
挟持部材5、7は、同一寸法で同一形状であるので、挟持部材5について説明する。挟持部材5は、矩形状の薄板部材である。挟持部材5のほぼ中央に、厚さ方向に貫通する導入口11が設けられている。導入口11には、微小試料を貯留する貯留部(不図示)に微小試料を移送するためのチューブ13が装着され、チューブ13を介して微小試料が導入口11を通り微小試料用トラップ装置3内に導入される。
【0013】
また、上側の挟持部材5及び下側の挟持部材7の角部には、それぞれねじ止め用孔11、33が設けられている。ねじ止め用孔11、33には、雌ねじ部が刻設されている。よって、締結部材35の両端部に設けられた雄ねじ部をねじ止め用孔11,33に螺合することにより、挟持部材5、7の間に後述するトラップ部材9を固定できる。
【0014】
トラップ部材9は、複数の部分であるフィルタ部材、すなわち矩形状の第1〜第3のフィルタチップ17、19、21と、各フィルタチップ17、19、21の間に介在させる第1〜第4の封止部材23、25、27、29と、を有する。
【0015】
各フィルタチップ17、19、21には、半導体等の作製に用いられる微細加工技術、精密機械加工技術、レーザ加工技術を利用して、その厚さ方向に貫通させた複数の貫通孔17a、19a、21aが形成されている。よって、第1〜第3のフィルタチップ17、19、21は、微細試料を分別するためのフィルタとして機能する。なお、貫通孔17a、19a、21aは、各フィルタチップの縁辺より所定距離だけ内側であってほぼ矩形状の領域内に複数設けられている。また、貫通孔を形成する領域の形状は、円形、楕円形状等、適宜変更できることは言うまでもない。
【0016】
第1〜第4の封止部材23、25、27、29は、略矩形状の孔23a、25a、27a、29aを有するリング部材である。なお、略矩形状の孔を構成する4つの角のうちの一つには、封止部材同士の向きを揃えるための指標となる傾斜部23b、25b、27b、29bが設けられている。また、略矩形状の孔23a、25a、27a、29aは、フィルタチップ17、19、21に設けられている複数の貫通孔17a、19a、21aが形成された領域を取り囲むことができるように寸法付けされている。したがって、第1〜第4の封止部材23、25、27、29と第1〜第3のフィルタチップ17、19、21とを、その厚さ方向に重ねると、孔23a、25a、27a、29aと、貫通孔17a、19a、21aとが連通する。
【0017】
上記構成の第1〜第3のフィルタチップ17、19、21及び第1〜第4の封止部材23、25、27、29をそれぞれ交互に重ね合わせたトラップ部材9は、挟持部材5、7の間に挟持されると、上側の挟持部材5の導入口11及び下側の挟持部材7の排出口31がそれぞれ孔23a、29aに連通する。したがって、チューブ13を介して導入口11に到達した微小試料は、トラップ部材9内に進入し、トラップ部材9を通過した微小試料は、排出口31から排出される。また、封止部材は、フィルタチップ、上板、及び下板それぞれとの間で密着する構成であり、微小試料が前者と後者の連結部分において漏れることはない。
【0018】
上記構成の微小試料用トラップ装置1を用いた微小試料の分別、抽出方法について説明する。まず、不図示の送液ポンプによりチューブ13を介して微小試料用トラップ装置1内に導入された微小試料は、まず、第1のフィルタチップ17に到達する。そして、貫通孔17aの内径より小さい寸法の微小試料が、貫通孔17aを通過する。貫通孔17aの径より大きい寸法の生体試料は、第1フィルタチップ17で留まる。
【0019】
貫通孔17aを通過した生体試料は、貫通孔17aより内径の小さい貫通孔19aが設けられた第2のフィルタチップ19に到達する。貫通孔19aの径より大きい寸法の生体試料は第2のフィルタチップ19で留まり、貫通孔19aより小さい寸法の微小試料は、貫通孔19aを通り第3のフィルタチップ21へ到達する。第3フィルタチップ21に到達した微小試料の内、貫通孔21aの内径より大きい寸法の試料が第3のフィルタチップ21に留まり、貫通孔21aの内径より小さい寸法の微小試料が第3のフィルタチップ21を透過する。
【0020】
このようにトラップ部材9を構成する第1〜第3のフィルタチップ17、19、21の各々により、所定寸法ごとに微小試料が捕獲され分別される。なお、本実施形態では、第1のフィルタチップ17と、第1の封止部材23の孔23aとにより形成される凹部内に第1フィルタチップ17により留められた生体試料が保持される。同様に、生体試料を保持するための凹部が、第2のフィルタチップ19と第2の封止部材25、及び第3フィルタチップ21と第3の封止部材27により形成される。
【0021】
よって、各フィルタチップで分別され、凹部に捕獲された微小試料は、締結部材35を挟持部材5、7から取り外した後、凹部内に保持された状態で観察するか、微小試料を一定容積で吸い取って計量するピペット若しくは微小試料を把持する把持指を有するマニュピュレータを用いて容易に抽出することができる。
【0022】
このように、上記実施形態に係る微小試料用トラップ装置は、複数のフィルタチップを備え、各フィルタチップが取り外し可能である構成である。したがって、複数の寸法の大きさ毎に微小試料を分別ができるとともに、分別された微小試料はフィルタチップを取り外すことにより容易に抽出することが可能である。
【0023】
なお、フィルタチップの材料としては、金属、ガラス、シリコン等を使用できる。また、封止部材としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、メタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等のポリマを使用できる。特に、封止部材にPDMSを使用した場合には、接着剤を使用することなく封止部材をフィルタチップに固定できる。したがって、微小試料トラップ装置を分解するにあたり、挟持部材を外した後でも、例えば第1のフィルタチップと第1の封止部材を密着させた状態を維持できるので、第1のフィルタチップにより分別された微小試料を、第1のフィルタチップと第1の封止部材とにより画成される凹部内に保持することが容易になる。
【0024】
上述した実施形態では、微小試料用のトラップ装置に微小試料を供給する手段として、送液ポンプを用いたが、ピペットを用いて装置内に微小試料を供給したり、重力により滴下し装置内に導入し、分別を行う構成としても良い。
【0025】
さらに、上記実施形態のように、積層された複数のフィルタチップは、それぞれ分離可能であるので、分離されたフィルタチップに捕獲された微小試料は、次の抽出工程における所望の試料を、前述のピペットやマイクロマニューピュレータを用いて容易に抽出することができる。
【0026】
さらに、本発明の微小試料用トラップ装置をピペットに連結する構成としてもよい。この場合には、ピペットに吸い取られた微小試料は、ピペットから微小試料用トラップ装置に導入され、トラップ装置内で微小試料がその寸法に従って分別される。
【0027】
さらに、フィルタ自体に微小試料についての特性や重量等を計測する機能を設けることにより、各フィルタにより抽出された微小試料の特性を検出する機能をも付与することができる。この構成を採用することにより分別抽出機能と計測機能を併せ持つ微小試料トラップ装置を実現できる。
【0028】
実施形態では、フィルタチップと封止部材を別部材としたが、一体成形としてもよい。例えば、第1の封止部材23と第1のフィルタチップ17を一体に、第2の封止部材25と第2のフィルタチップ19とを一体に、第3の封止部材27と第1のフィルタチップ121とを一体に成形してもよい。
【0029】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】微小試料用トラップ装置の斜視図である。
【図2】図1に示す微小試料用トラップ装置の展開図である。
【図3】従来の微細構造型分離装置の平面図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿った断面図である。
【符号の説明】
【0031】
3 微小試料用トラップ装置
5、7 挟持部材
9 トラップ部材
11、31 貫通口
17、19、21 フィルタチップ
23、25、27、29 封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小試料を分別抽出する微小試料用トラップ装置であって、
分離可能な複数の部分を有し、前記複数の部分のそれぞれが互いに異なる所定寸法の微小試料を分別抽出するトラップ部材と、
前記微小試料を前記トラップ部材に導入する導入口と、前記トラップ部材を通過した微小試料を外部に排出する排出口と、を有し、前記トラップ部材を取り外し可能に保持する筐体と、を備える微小試料用トラップ装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記トラップ部材を挟持する一対の挟持部材を有する請求項1に記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項3】
前記複数の部分のそれぞれは、貫通孔を有するフィルタ部材から構成される請求項1又は請求項2に記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項4】
前記フィルタ部材は前記導入口側から前記排出口側へ向かい前記貫通孔の径が順に小さくなるように配置される請求項3に記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項5】
前記フィルタ部材は封止部材を介して互いに重ねられる請求項3又は請求項4に記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項6】
前記封止部材は、ゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、ポリスチレン、又はポリエチレンテレフタレートから形成される請求項5に記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項7】
前記フィルタ部材は、ガラスから形成されている請求項3乃至請求項6のいずれかに記載の微小試料用トラップ装置。
【請求項8】
前記封止部材と前記フィルタ部材は一体成形されている請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の微小試料用トラップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−11940(P2009−11940A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177055(P2007−177055)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】