説明

微生物固定化用担体

【課題】 微生物の付着を阻害することなく、シクロデキストリンを粒子内に留めて芳香族化合物の包接効果を高めた微生物固定化用担体、及びこれを用いた排水処理方法を提供すること。
【解決手段】 不飽和基含有ウレタン樹脂、シクロデキストリンポリマー、重合開始剤、及び金属イオンと接触した際にゲル化する能力を有する水溶性高分子多糖類を含んでなる水性液状組成物を、金属イオンを含有する水性媒体中にて粒状にゲル化させ、次いで得られる粒状ゲルを該粒状ゲル中の不飽和基を光重合及び/又は熱重合させてなる微生物固定化用担体、及びこれを用いた排水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に排水処理に有用な微生物の固定化のための微生物固定化担体に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工場などから排出される排水中には、ベンゼン類やフェノール類などの芳香族化合物を含有するものが多く、これらの排水は、通常、活性炭などによる吸着処理や活性汚泥法などの生物処理に供された後、排水されたり、処理水として再利用される。しかしながら、活性炭は高価であるので、主に小規模の排水に適用され、大規模に排水する施設では、主に生物処理が行われる場合が多いが、芳香族などの有機化合物は、一般に生物処理によって分解、資化されにくく、濃度が低下しにくい。そのため、このような芳香族化合物を含む排水の処理には長時間を要したり、大型の装置を設置する必要があり、より簡便な排水処理方法の開発が望まれている。
【0003】
これに対し、排水中に含まれるフェノール類を吸着除去するため、有機化合物を吸着し包接する作用機能を有するシクロデキストリンを利用することが種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
また、特許文献4には、シクロデキストリンを表面に結合させた材料によって構成された微生物固定化担体を用いて排水を浄化する方法も提案されている。
【0005】
しかしながら、上記シクロデキストリンを用いる方法では、シクロデキストリンが水に溶けやすく、また水不溶のポリマーに改質しても表面の構造が微生物の付着に適していないため、微生物の付着量が少ないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−507618号公報
【特許文献2】特許4090979号公報
【特許文献3】特開2006−83379号公報
【特許文献4】特開2001−149975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、微生物の付着を阻害することなく、シクロデキストリンを粒子内に留めて芳香族化合物の包接効果を高めた微生物固定化用担体、及びこれを用いた排水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、(A)不飽和基含有ウレタン樹脂、(B)シクロデキストリンポリマー、(C)重合開始剤、及び(D)金属イオンと接触した際にゲル化する能力を有する水溶性高分子多糖類を含んでなる水性液状組成物を、金属イオンを含有する水性媒体中にて粒状にゲル化させ、次いで得られる粒状ゲル中の不飽和基を光重合及び/又は熱重合させてなることを特徴とする微生物固定化用担体、及びこれを用いることを特徴とする排水処理方法により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水に不溶としたシクロデキストリンの粉末を親水性の微生物固定化担
体に取り込み、微生物の付着を阻害することなく、芳香族化合物とシクロデキストリンとの接触面積を大きくして包接効果をより高めることが可能となる。
【0010】
また、本発明の微生物固定化用担体を用いて排水処理をすることによって、連続的に排水処理を行う際に発生する余剰汚泥を低減することが可能となるので、本発明の排水処理方法は非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例における排水の連続処理試験装置を示す概略図である。
【図2】実施例における連続排水処理試験中の浮遊汚泥量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
不飽和基含有ウレタン樹脂(A)
本発明で用いられる不飽和基含有ウレタン樹脂(A)としては、好ましくは1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する親水性光硬化性樹脂が包含され、数平均分子量が一般に300〜30,000、好ましくは500〜20,000の範囲内にあり、水に分散するに十分なイオン性又は非イオン性の親水基、例えば、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、アミノ基、エーテル結合等を分子中に有し、且つ約250〜600nmの範囲内の波長を有する活性光線を照射したとき、硬化して実質的に水に不溶性の樹脂に変わるものが好適に使用される。
【0013】
そのような不飽和基含有ウレタン樹脂(A)としては、例えば、1分子中に水酸基を少なくとも2個含むポリオール又は第3級アミノ基含有ジオールに、ポリイソシアネート化合物を反応させ、さらにエチレン性不飽和基および水酸基を有する化合物あるいはエチレン性不飽和基およびイソシアネート基を有する化合物を反応させて得られるものが好適である。
【0014】
上記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量6,000以下)、トリメチレングリコール、ポリプロピレングリコール(分子量6,000以下)、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ヘキシレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、1,10−デカンジオール、シクロヘキサンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、3−シクロヘキセン−1,1−ジメタノール、4−メチル−3−シクロヘキセン−1,1−ジメタノール、3−メチレン−1,5−ペンタンジオール、(2−ヒドロキシエトキシ)−1−プロパノール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−1−ブタノール、5−(2−ヒドロキシエトキシ)−ぺンタノール、3−(2−ヒドロキシプロポキシ)−1−プロパノール、4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−1−ブタノール、5−(2−ヒドロキシプロポキシ)−1−ペンタノール、1−(2−ヒドロキシエトキシル)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ペンタノール、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール吉草酸、水素化ビスフエノールA、グリセリン、ポリカプロラクトン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタントリオール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、3−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(2−ヒドロキシプロポキシ)−1,2−プロパンジオール、6−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−ヘキサンジオール、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリット、マニトール、グルコースなどが挙げられるが、中でも、親水性、強度などの観点から、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分
子量6,000以下)やこれらとポリプロピレングリコールの混合物などが好適である。
【0015】
上記第3級アミノ基含有ジオールとしては、ジグリシジル化合物と水酸基を有しない第2級アミンを反応させてなる化合物、またはモノグリシジル化合物と水酸基を有する第2級アミンを反応させてなる化合物が好適である。
【0016】
上記ジグリシジル化合物としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物、脂環式ジグリシジル化合物などが挙げられ、ジグリシジルエーテル化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノールのジグリシジルエーテル、ダイセル化学工業社製のエポリードNT212、同NT214、同NT228、同CDM(以上いずれも商品名)、ナガセ化成工業社製デナコールEX−201、同EX−211、同EX−212、同EX−810、同EX−811、同EX−850、同EX−851、同EX−821、同EX−830、同EX−832、同EX−841、同EX−861、同EX−911、同EX−941、同EX−920、同EX−921、同EX−931、同EX−992、同EX−701、同EX−721、同EX−203、同EX−711(以上いずれも商品名)などが挙げられ、脂環式ジグリシジル化合物としては、例えば、ダイセル化学工業社製のセロキサイド2021、同2080、同3000(以上いずれも商品名)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
ジグリシジル化合物と反応させる水酸基を有しない第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、モルホリンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
また、上記モノグリシジル化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレート、メチルグリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、ダイセル化学工業社製のAOEX24、AOEX68、サイクロマーM100、同A−200、セロキサイド2000(以上いずれも商品名)、ナガセ化成工業社製のデナコールEX−121、同EX−145、同EX−146、同EX−171(以上いずれも商品名)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
モノグリシジル化合物と反応させる水酸基を有する第2級アミンとしては、例えば、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含む化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4もしくは2,6−ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ハロゲン化フェニルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、オクタ
デシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート重合体、ジフェニルメタンジイソシアネートの重合体、ヘキサメチレンジイソシアネートの重合体、3−フェニル−2−エチレンジイソシアネート、クメン−2,4−ジイソシアネート、4−メトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−エトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、5,6−ジメチル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、ベンジジンジイソシアネート、9,10−アンスラセンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートベンジル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、2,6−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートジフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアネートジフェニル、1,4−アンスラセンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、2,4,6−トリレントリイソシアネート、2,4,4’−トリイソシアネートジフェニルエーテル、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−メチレン−ビス(シクロヘキシルイソシアネート)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
以上に述べたポリオール又は第3級アミノ基含有ジオールとポリイソシアネート化合物を反応させ、さらにエチレン性不飽和基を導入することにより不飽和基含有ウレタン樹脂(A)を合成することができる。
【0022】
上記ポリオール又は第3級アミノ基含有ジオールとポリイソシアネート化合物との反応において、水酸基に対しイソシアネート基過剰の条件下でポリイソシアネート化合物を反応させた場合には、得られる樹脂にはイソシアネート基が残存するため、これとエチレン性不飽和基および水酸基を有する化合物を反応させることによりエチレン性不飽和基が導入されたウレタン樹脂を合成することができる。また、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基に対し水酸基が過剰になるような条件下でポリイソシアネート化合物を反応させた場合には、得られる樹脂には水酸基が残存するため、これとエチレン性不飽和基およびイソシアネート基を有する化合物を反応させることによりエチレン性不飽和基が導入されたウレタン樹脂を合成することができる。
【0023】
上記エチレン性不飽和基および水酸基を有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、ブタンジオールモノアクリレート、ブタンジオールモノメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、クロチルアルコール、プロピレングリコールモノアクリレートなどがあげられ、さらに、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートとカルボキシル基含有化合物(例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸など)との付加物、アクリル酸またはメタクリル酸とエポキシ化合物(例えば、エピクロルヒドリンなど)との付加物なども使用することができる。これらはそれぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、エチレン性不飽和基およびイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、イソシアナトエチルメタクリレート、ジイソシアネート化合物の1個のイソシアネート基に水酸基とエチレン性不飽和基を有する単量体を付加させて得られる付加物(例えば、イソホロンジイソシアネートとヒドロキシエチルメタクリレートとのモノアダクト)などが挙げられる。
【0025】
シクロデキストリンポリマー(B)
本発明において用いられるシクロデキストリンポリマー(B)としては、シクロデキストリンと、該シクロデキストリン中の官能基と反応し得る化合物、例えば、エピクロルヒドリンやポリイソシアネートとの反応物などが挙げられ、フェノール類の吸着能の観点から、特に、シクロデキストリンとポリイソシアネート化合物との反応物が好適である。
【0026】
シクロデキストリン(以下、CDと略記することもある)は、巨大空洞構造を示し、通常、デンプンからシクロデキストリン合成酵素(Cyclomaltodextrin Glucanotransferase、略してCDTase)の作用により得られる少なくとも6個のグルコースからなる環状オリゴ糖であり、具体的には、グルコースユニット数が6個のα−シクロデキストリン(以下α−CDと略記することもある)、7個のβ−シクロデキストリン(以下β−CDと略記することもある)、8個のγ−シクロデキストリン(以下γ−CDと略記することもある)などが挙げられ、中でも、β−シクロデキストリンが好適である。これらのシクロデキストリンはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
さらに、シクロデキストリンは、他の官能基の付加により修飾されたものであってもよい。例えば、C1〜C4の低級アルキル基、C8〜C20の長鎖脂肪族基のいずれか、あるいはヒドロキシアルキル基、スルホン基、アルキルスルホン基などによって置換されているシクロデキストリンなどが挙げられる。
【0028】
シクロデキストリンとの反応に供されるポリイソシアネート化合物としては、前述の不飽和基含有ウレタン樹脂(A)で例示したものの中から適宜選択して使用することができる。
【0029】
シクロデキストリンに対するポリイソシアネート化合物の使用割合は、とくに制限されないが、CD1モルに対し、ポリイソシアネートが一般に3〜24モル、特に4〜16モル、さらに特に6〜12モル、さらに一層特に8〜10モル倍の範囲内が好適である。ポリイソシアネートの使用量がCD1モルに対し3モルより少ないと、シクロデキストリンポリマーの収率が低く、使用に耐えられる強い強度のシクロデキストリンポリマーが得られない場合があり望ましくない。
【0030】
シクロデキストリンとポリイソシアネート化合物との反応条件には、特に制限はなく、反応は通常の方法で実施することができる。具体的には、例えば、30〜150℃、好ましくは50〜100℃の範囲内の温度で、0.5〜10時間程度行なうことができる。反応は溶媒中で行うこともでき、さらに、必要に応じて、遷移金属化合物触媒、例えば、チタンテトラブトキシド、ジブチルスズオキシド、ジラウリン酸ジブチルスズ、2−エチルカプロン酸スズ、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルカプロン酸亜鉛、グリコール酸モリブデン、塩化鉄、塩化亜鉛などや、アミン触媒、たとえばトリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジブチルアミンなどの触媒を添加することもできる。反応は、通常、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましいが、乾燥空気雰囲気下や密閉条件下など水分が混入しない条件下であれば何ら問題はない。
【0031】
得られるシクロデキストリンポリマーは、細かく粉砕して粉末として使用される。粉砕して得られる粒子は、一般に0.1mm以下、特に0.06mm以下の粒子径を有することが好ましい。
【0032】
重合開始剤(C)
本発明において用いられる重合開始剤(C)としては、光重合開始剤及び/又はレドッ
クス系熱重合開始剤が好適である。
【0033】
上記光重合開始剤としては、それ自体既知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロ)−S−トリアジン、2−(4−メトキシフェニル)−4、6−ビス(トリクロロメチル)−S−トリアジンなどが挙げられ、これらの光重合開始剤はそれぞれ単独でもしくは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
また、これらの光重合開始剤による光重合反応を促進させるため、光増感促進剤を光重合開始剤と併用してもよい。併用し得る光増感促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、ミヒラーケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン等の第3級アミノ基系光増感促進剤;トリフェニルホスフィン等のアルキルフォスフィン系光増感促進剤;β−チオジグリコール等のチオエーテル系光増感促進剤などが挙げられ、これらの光増感促進剤はそれぞれ単独でもしくは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
上記レドックス系熱重合開始剤としては、それ自体邸既知ものを使用することができ、例えば、約−10℃〜約50℃の比較的低温でラジカル重合を行ない得る、酸化剤と還元剤の組み合わせからなる重合開始剤が好適に使用される。
【0036】
該酸化剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルパ−ベンゾエート、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物類;ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸塩;過酸化水素などが挙げられる。
【0037】
また、該還元剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸水素類;硫酸第一鉄、塩化第一鉄などの二価の鉄塩類;N,N−ジメチルアニリン、フェニルモルホリンなどのアミン類;ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸銅などのナフテン酸金属塩類などを挙げることができる。
【0038】
レドックス系熱重合開始剤は酸化剤と還元剤とを組み合わせて使用されるが、両者の混合割合は、モル比で、一般に5:1〜1:5、好適には2.5:1〜1:2.5の範囲内とするのが適当である。また、光重合開始剤とレドックス系重合開始剤を併用することもできる。
【0039】
水溶性高分子多糖類(D)
本発明において用いられる水溶性高分子多糖類(D)は、水溶性であり且つ水性媒体中で金属イオンと接触したときに水に不溶性または難溶性のゲルに変化する能力のある高分
子多糖類であって、一般に約3,000〜約2,000,000、特に約5,000〜約1,500,000の範囲内の数平均分子量を有し、また、金属イオンと接触させる前の水溶性の状態で、通常少なくとも約10g/l(25℃)の溶解度を示すものが好適に使用される。
【0040】
かかる特性を持つ水溶性高分子多糖類としては、具体的には、例えば、アルギン酸のアルカリ金属塩、カラギ−ナンなどが包含される。これら水溶性高分子多糖類は、水性媒体中に溶解した状態で、カラギ−ナンの場合は、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンと接触することによって、また、アルギン酸のアルカリ金属塩の場合は、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオン等の多価金属イオンのうちの少なくとも1種の多価金属イオンと接触することによってゲル化しうるものである。ゲル化が起こるアルカリ金属イオンまたは多価金属イオンの濃度は、水溶性高分子多糖類の種類などにより異なるが、一般には0.01〜5mol/l、特に0.1〜1mol/lの範囲内である。これらの水溶性高分子多糖類はそれぞれ単独でもしくは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明において、上記不飽和基含有ウレタン樹脂(A)及びシクロデキストリンポリマー粉末(B)の使用比は、芳香族化合物の包接効果と固定化担体の物性の観点から、不飽和基含有ウレタン樹脂(A)/シクロデキストリンポリマー粉末(B)の固形分質量比で、一般に99/1〜30/70、特に90/10〜50/50の範囲内であることが望ましい。
【0042】
また、重合開始剤(C)及び水溶性高分子多糖類(D)の各成分の相互の使用割合は、厳密に制限されるものではなく、各成分の種類などに応じて広範にわたって変えることができるが、重合開始剤(C)及び水溶性高分子多糖類(D)の各成分は、樹脂(A)100質量部に対し、一般には、それぞれ下記の割合で使用するのが適当である。
【0043】
重合開始剤(C):0.1〜10質量部、好ましくは0.3〜5質量部。
【0044】
水溶性高分子多糖類(D):0.1〜15質量部、好ましくは0.3〜8質量部。
【0045】
本発明に従い上記樹脂(A)、粉末(B)、重合開始剤(C)及び水溶性高分子多糖類(D)のみから製造される粒状成形物は、一般に水とほぼ同じ1.00〜1.03の範囲内の比重を有しているが、顔料、中空粒子などの比重調整材を添加することにより所望の比重に調整することができる。比重を高くしたい場合には、ガラスビーズ、タルク、マイカ、バリタなどの比重が1以上の比重調整材を前記樹脂(A)及び粉末(B)の合計100質量部に対し0.1〜50質量部の割合で添加することによって粒状成形物の比重が1.00〜1.25の範囲内になるように調整することができる。また、比重を低くしたい場合には、中空ガラスビーズ、中空セライト、中空ポリマ−などの比重が1以下の比重調整材を樹脂(A)及び粉末(B)の合計100質量部に対し0.1〜30質量部の割合で添加することによって粒状成形物の比重が0.90〜1.00の範囲内になるように調整することができる。
【0046】
以上に述べた(A)〜(D)の各成分及び必要に応じて添加される比重調整材は水性媒体中に溶解ないし分散させることにより、水性液状組成物が調製される。この液状組成物の固形分濃度は、一般に5〜50質量%、特に25〜40質量%の範囲内が適当である。
【0047】
なお、重合開始剤(C)としてレドックス系熱重合開始剤を使用する場合は、重合開始剤(C)として酸化剤及び還元剤を同時に水性液状組成物中に含有させてもよいが、水性
液状組成物中に含有させるものを酸化剤又は還元剤のいずれか一方とし、もう一方を金属イオンを含有する水性媒体中に、例えば0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%の範囲内の濃度で含有させるようにしてもよい。
【0048】
このようにして調製される水性液状組成物は、次いで、前述した如き種類の金属イオンを含有する水性媒体中に滴下するか、又は平均粒子径が5mm以上の粒状物を形成したい場合には、該水性媒体表面上に所定の時間連続的に注加して液滴を所望の粒径になるまで生長させた後、その液滴を沈降させることにより、該液状組成物が粒状でゲル化せしめられる。
【0049】
金属イオンを含有する水性媒体中への水性液状組成物の滴下は、例えば、注射器の先端から該液状組成物を滴下する方法;遠心力を利用して該液状組成物を粒状に飛散させる方法;スプレーノズルの先端から該液状組成物を霧化して粒状とし滴下する方法などの方法により行なうことができる。また、水性液状組成物の水性媒体表面への注加は、所望の孔径のノズル口から細い液流として連続的に供給することによって行うことができる。液滴の大きさは、最終の粒状固定化物に望まれる粒径に応じて自由に変えることができるが、滴下法では、直径が通常約0.1〜約5mm、好ましくは約0.5〜約4mmの範囲内の液滴として滴下させるのが、また注加法では、通常約0.5〜3cmの範囲内の液滴とするのが好都合である。
【0050】
上記の如くして生成せしめた粒状ゲルは、そのまま水性媒体中に分散させた状態で、或いは水性媒体から分離した後、光重合又は熱重合させることにより、該粒状ゲル中の不飽和基含有ウレタン樹脂(A)を硬化せしめることができる。これにより粒状ゲルは水に実質的に不溶性で機械的強度の大きい微生物菌体固定化用粒状成形物とすることができる。
【0051】
上記の硬化を光重合によって行う場合、使用しうる活性光線の波長は、該粒状ゲル中に含まれる不飽和基含有ウレタン樹脂(A)の種類などに応じて異なるが、一般には約250〜約600nmの範囲内の波長の光を発する光源を照射に使用するのが有利である。そのような光源の例としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、蛍光灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯、太陽光などが挙げられる。照射時間は光源の光の強さ、光源からの距離などに応じて変える必要があるが、一般には約0.5〜約10分間の範囲内とすることができる。
【0052】
また、不飽和基含有ウレタン樹脂(A)の硬化を熱重合によって行う場合、粒状ゲルはレドックス系熱重合開始剤を含有していれば、室温で放置しておくだけでも熱重合が進行して必要な機械的強度が得られるまでに硬化するが、必要に応じ、加熱硬化させてもよい。硬化温度は一般に約0℃〜約50℃、特に約20℃〜約40℃の範囲内が好適である。また、必要な機械的強度を得るためには、少なくとも硬化に10分〜30分の時間をかけることが望ましい。
【0053】
このように光重合及び/又は熱重合による硬化処理が終った粒状ゲルは、水又は緩衝水溶液で洗浄し、そのままあるいは凍結乾燥して保存することができる。
【0054】
本発明によって製造される微生物固定化用担体は、芳香族化合物とシクロデキストリンとの接触面積が大きく、また、表面の構造が特に微生物の付着に適しており、微生物を大量に付着させることができる。該担体に付着させうる微生物は、特に制限はなく、嫌気性微生物、好気性微生物のどちらでも用いることができる。微生物の種類としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、フザリウム属などのカビ類、サッカロミセス属、ファフィア属、カンジダ属などの酵母類;大腸菌、シュードモナス属、ニトロソモナス属、ニトロバクター属、パラコッカス属、ビブリオ属、メタノサルシナ属、バチルス属など
の細菌類などを挙げることができる。これらのうちフェノール化合物の分解菌として有用なシュードモナス属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、ロドコッカス属などを好適に使用することができる。
【0055】
なお、上記した微生物は、不飽和基含有ウレタン樹脂(A)の硬化温度が常温のような低温度であれば、予め(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分からなる水性液状物に混合しておいて包括固定化してもよい。
【0056】
かくして得られる本発明の微生物固定化担体は、常法により微生物を付着・固定させ、水処理を行う各種設備で使用することができる。使用の条件などは、特に限定されず、従来の固定化担体の使用に従うことができる。本発明の担体は、水処理を行う際には、担体養生として事前に汚泥等から微生物を付着させ使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0058】
シクロデキストリンポリマー粉末の製造
還流冷却基及び滴下ロートの備えた300mlのフラスコに、β−シクロデキストリン(β−CD)と、β−CD20gに対し、ジラウリン酸ジ−n−ブチル錫(BLTと略記することもある)10滴及び精製ジメチルホルムアミド(DMFと略記する)150mlと、フットボール型スターラーを入れ、攪拌しながら溶解させた。フラスコ内の窒素置換を十分に行った後、ヘキサメチレンジイソシアネートを29.6g含むDMF溶液50mlをゆっくりと滴下し、70℃で24時間攪拌した。このときのβ−CDとヘキサメチレンジイソシアネートの使用モル比は1:10であった。反応が進行すると直ちに白色ポリマーが析出した(収率98%)。反応液をクロロホルム中に投じ、3時間攪拌し、DMF、触媒および未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを除去した。
【0059】
残留物を吸引ろ過後、さらに水中に投じて数時間攪拌し、未反応のβ−CDを除去した。溶媒抽出後の残留物を吸引ろ過後、60℃で真空乾燥して精製シクロデキストリンポリマーを得た。精製したシクロデキストリンポリマーはボールミルにより粉砕し、粒子径が0.053mm以下のものを製造した。
【0060】
担体の製造
実施例1
分子量約4,000のポリエチレングリコール2,000gとイソホロンジイソシアネート222g(1モル)及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル130g(1モル)を反応させてなる不飽和基含有ウレタン樹脂50部と、上記のとおり製造したシクロデキストリンポリマー粉末50部と、2−ヒドロキシプロピオフェノン1部及び1%アルギン酸ナトリウム水溶液25部をよく混合して得られる水性液状組成物を、3%の塩化カルシウム水溶液中に、注射器(ノズル径1.99mm)の先端から液面高さ10cmより滴下したところ、粒径約2mmの粒状物が得られた。この粒状物を平らなペトリ皿にとり、ペトリ皿の上面および下面から1kw高圧水銀灯で紫外光線を30秒照射して担体粒子(1)を得た。
【0061】
実施例2
上記実施例1において、不飽和基含有ウレタン樹脂の使用量を60部及びシクロデキストリンポリマー粉末の使用量を40部とする以外は、実施例1と同様にして担体粒子(2)を得た。
【0062】
実施例3
上記実施例1において、不飽和基含有ウレタン樹脂の使用量を70部及びシクロデキストリンポリマー粉末の使用量を30部とする以外は、実施例1と同様にして担体粒子(3)を得た。
【0063】
実施例4
上記実施例1において、不飽和基含有ウレタン樹脂の使用量を80部及びシクロデキストリンポリマー粉末の使用量を20部とする以外は、実施例1と同様にして担体粒子(4)を得た。
【0064】
実施例5
上記実施例1において、不飽和基含有ウレタン樹脂の使用量を90部及びシクロデキストリンポリマー粉末の使用量を10部とする以外は、実施例1と同様にして担体粒子(5)を得た。
【0065】
比較例1
上記実施例1において、不飽和基含有ウレタン樹脂の使用量を100部とし、シクロデキストリンポリマー粉末を配合しない以外は、実施例1と同様にして担体粒子(6)を得た。
【0066】
実施例6
4つ口フラスコに、トルエン3,000部、グリシジルメタクリレート142部及びハイドロキノン0.1部を入れて撹拌し、空気を吹き込みながらN−メチルエタノールアミン75部を110℃で1時間かけて滴下し、さらに8時間その温度を保持し反応させ、アミン含有ジオールの溶液を得た。さらに、空気を吹き込みながら、この溶液にポリエチレングリコール(平均分子量約1,000)2,000部及びイソホロンジイソシアネート888部を添加して撹拌し、100℃で8時間保持し反応させイソシアネート基含有ウレタン樹脂を得た。さらに、アクリル酸2−ヒドロキシエチル232部を反応容器に入れ、空気を吹き込みながら80℃で3時間反応させ、イソシアネート基の残存がほとんど認められなくなったのを確認した後、脱イオン水5,000部を添加し、70℃で反応槽内を真空ポンプで1時間減圧してトルエンを除去し、固形分約40%の不飽和基含有ウレタン樹脂の水溶液を得た。樹脂の数平均分子量は3,300、エチレン性不飽和基の含有量は1分子当り平均約3個であった。
【0067】
この不飽和基含有ウレタン樹脂の水溶液100部、上記のとおり製造したシクロデキストリンポリマー粉末100部、ベンゾインイソブチルエーテル2部及び1%アルギン酸ナトリウム水溶液50部をよく混合して得られる水性液状組成物を、3%塩化カルシウム水溶液中に注射器の先端から液面高さ約10cmより滴下したところ、粒径約2mmの粒状物が得られた。この粒状物を平らなペトリ皿にとり、ペトリ皿の上面および下面から1kw高圧水銀灯で紫外光線を30秒照射して担体粒子(7)を得た。
【0068】
比較例2
上記のとおり製造したシクロデキストリンポリマー粉末100部と、1%アルギン酸ナトリウム水溶液50部及び蒸留水100部をよく混合して得られる水性液状組成物を、3%の塩化カルシウム水溶液中に、注射器(ノズル径1.99mm)の先端から液面高さ10cmより滴下したところ、粒径約2mmの粒状物が得られた。この粒状物を平らなペトリ皿にとり、水洗して担体粒子(8)を得た。
【0069】
試験方法
上記で得た実施例及び比較例の担体粒子をそれぞれフェノール分解菌培地中に浸漬し、
フェノール分解菌を接種して1ヶ月間培養しながらフェノール分解菌を付着させ、微生物固定化担体とした。フェノール分解菌はノボジャイムジャパン(株)提供のDC1002CGを用いた。
【0070】
(フェノール化合物の除去試験)
炭素源としてフェノールのみが加えられたフェノール分解菌培地に、フェノール分解菌を付着させた生体触媒を投入して培養した。培養液の成分は、フェノールのほか、水1Lに対してKHPO10.49g、KHPO5.44g、MgSO・7HO 0.05g、MnSO・4HO 5.0mg、CaCl・2HO 0.662mg、FeSO・7HO 0.125mg、L−トリプトファン 30mg、及び(NHSO2.00gからなる。培養液の初期フェノール濃度は500mg/Lとした。所定時間毎に培養液をシリンジで1mL採取し、前処理ディスクにて除菌処理したサンプル液をガスクロマトグラフで測定し、残留フェノール濃度を追跡した。
【0071】
フェノール化合物除去試験結果を下表に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
シクロデキストリンポリマーを含有した担体では、すべての担体で36時間以内に完全にフェノールを除去することができた(実施例1〜6)のに対して、シクロデキストリンポリマーを含まない担体(比較例1)では、完全にフェノールを除去するのに48時間を要した。
【0074】
シクロデキストリンポリマーの含有量が多いほど、フェノールの除去速度が大きくなる傾向が認められた。しかし、不飽和基含有ウレタン樹脂とシクロデキストリンポリマーの重量比が7:3以上(実施例1〜3及び6)では、ほぼ同等の除去速度を示した。
【0075】
また、比較例2の担体粒子は、非常に脆弱で、フェノール分解菌を付着させる段階で崩壊し、フェノール化合物の除去試験に供することができなかった。
【0076】
(フェノール模擬排水の連続処理試験)
実施例3及び比較例1で得た担体粒子を用いてフェノール模擬排水の連続処理試験を行なった。フェノール模擬排水としては、前述のフェノール分解菌培地に用いた培養液を用いた。連続処理試験に用いた装置の概略(連続培養の流れ)を図1に示す。
【0077】
容積4Lのリアクターに担体粒子を10wt%投入し、水温を25℃に調節しながら、曝気処理を行なった(曝気DO=約8ppm)。また、模擬排水の水理学的滞留時間は24時間に設定した。この際のポンプの流量は2.8ml/minとなった。なお、リアクター内で発生する浮遊汚泥は排水中にほぼ均一に懸濁した状態となるため、浮遊汚泥量(MLSS)の測定はリアクターから排水(懸濁液)をサンプリングして下水試験法に準じて行なった。各例の経時の浮遊汚泥量を表2に示す。また、この浮遊汚泥量の経時変化を図2に示す。
【0078】
なお、連続処理試験期間を通じて、シクロデキストリンポリマーを含有した実施例3の担体粒子(3)では99%以上のフェノールの除去率を示し、シクロデキストリンポリマーを含有しない比較例1の担体粒子(6)では98%以上のフェノールの除去率を示した。
【0079】
【表2】

【0080】
図2から、シクロデキストリン(CyD)ポリマーを含有した担体粒子を用いることにより、浮遊汚泥の発生を1/4から1/5に低減することができることが分かった。さらに、このときの担体粒子の断面を蛍光顕微鏡で観察すると、シクロデキストリンポリマーを含有した担体粒子では担体内部でも微生物の増殖が観察できたのに対して、シクロデキストリンポリマーを含有しない担体粒子では担体表面のみにしか微生物の増殖が観察できなかった。この蛍光顕微鏡観察結果から、担体内のシクロデキストリンポリマーが担体内部でも効率よくフェノールを包接し、包接されたフェノールを微生物が分解・資化することにより、浮遊汚泥の発生を低減することができたものと考えられる。浮遊汚泥の発生が減少するということは、余剰汚泥の低減につながり、排水処理においては非常に有効な手段となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和基含有ウレタン樹脂、(B)シクロデキストリンポリマー、(C)重合開始剤、及び(D)金属イオンと接触した際にゲル化する能力を有する水溶性高分子多糖類を含んでなる水性液状組成物を、金属イオンを含有する水性媒体中にて粒状にゲル化させ、次いで得られる粒状ゲル中の不飽和基を光重合及び/又は熱重合させてなることを特徴とする微生物固定化用担体。
【請求項2】
不飽和基含有ウレタン樹脂(A)が300〜30000の範囲内の数平均分子量を有し且つ不飽和基含量が0.04〜5モル/kg樹脂である請求項1に記載の微生物固定化用担体。
【請求項3】
シクロデキストリンポリマー(B)がシクロデキストリンとポリイソシアネート化合物との反応物である請求項1に記載の微生物固定化用担体。
【請求項4】
不飽和基含有ウレタン樹脂(A)及びシクロデキストリンポリマー(B)の使用比が、固形分質量比で、99/1〜30/70である請求項1に記載の微生物固定化用担体。
【請求項5】
重合開始剤(C)が光重合開始剤及び/又は酸化剤と還元剤との組み合わせからなるレドックス系熱重合開始剤である請求項1に記載の微生物固定化用担体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の微生物固定化用担体を用いることを特徴とする排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−119389(P2010−119389A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244802(P2009−244802)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】