説明

微生物迅速染色方法及び微生物迅速染色装置

本発明の微生物迅速染色方法は、室温でない温度に加温された染色液を用いるものである。本発明の微生物迅速染色装置は、試薬を貯液する複数の試薬用貯液槽と、洗浄液を貯液する複数又は単数の洗浄液用貯液槽と、試薬用貯液槽の下流側に接続され、試薬を規定温度に制御する少なくとも一つ設けられる温度制御手段と、温度制御手段の下流側に接続され、試薬を吐出させる複数の試薬用吐出弁と、洗浄液用貯液槽の下流側に接続され、洗浄液を吐出させる単数又は複数の洗浄液用吐出弁と、試薬用吐出弁、洗浄液用吐出弁、又は試薬用吐出弁及び洗浄液用吐出弁の下流側に接続され、試薬、洗浄液を試料に噴射する液体噴射装置とを備えるものである。さらに、本発明の微生物迅速染色装置は、使用済み試薬を回収する回収貯蔵槽を備えるものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、病医院や各研究所に於いて、組織片或いは細胞(本明細書に於いては、これらをまとめて試料とする)を顕微鏡観察すべく、迅速に染色処理するのに利用される顕微鏡標本の染色方法及び染色装置に関するものである。
【背景技術】
現在、臨床検査室で実施している微生物学的検査は依然、培養法を主体とした検査法が根強く残っているため、臨床的に有用な成績を医師に供給するには1日以上の時間を要する。しかし、敗血症、髄膜炎、肺炎のような、緊急に適切な治療が要求される感染症に関しては隔日単位のレポートでは全く意味のないことが多い。この時間的なロスを克服するために新しい方法が導入されてきたが、従来法の一つとして行われてきた顕微鏡学的検査も有用で迅速な診断法として評価されている。
この顕微鏡学的検査において顕微鏡観察による病気の原因菌診断を容易に行うため、スライドグラスに塗抹した試料を染色することが行われており、その中で診断的価値の高い顕微鏡検査としてグラム染色と抗酸性染色がある。そのうちグラム染色は、費用対効果、取扱いの柔軟性の点から顕微鏡学的検査法の代表的な方法として広く用いられている。
グラム染色法にはHucker法、Huckerの変法、Bartholomew&Mittwer法などがある。おのおのの方法で用いられる色素や試薬にはわずかな違いはあるが、いずれも染色に要する時間は大差なく、例えばHuckerの変法では、各染色に約30〜60秒間、脱色には約20〜30秒を要し、水洗を加えると、全工程に約5分間を要するのが一般的である。
感染症その他の診断にグラム染色法を用いる場合、試料中のグラム陽性菌、グラム陰性菌および形態を識別することによってその診断がなされる。この識別には、例えば、図解臨床細菌検査(第2版)16頁(坂崎利一著 文光堂)に示されている下記手順が採られている。
まず、1枚のスライドグラス上に顕微鏡検査の対象となる試料と標本となる陽性菌、陰性菌を塗抹したものを準備し、染色工程として、前染色、水洗、媒染色、水洗、脱色、水洗、後染色、水洗、を経て染色作業を終え、染色されたスライドグラス上の試料を顕微鏡検査により、グラム陽性菌は青、グラム陰性菌は赤に染色された像として観察している。この場合、全工程は全て室温で実施され、前染色、媒染色は、それぞれ約60秒、水洗、脱色、後染色はそれぞれ約30秒で、全ての染色作業を終了するのに約5分間を必要としている。この時間は、用手法でも自動染色装置利用の場合でも同じ程度である。
また、上記のような検査の効率を向上させるために各種の用手装置又は自動染色装置が創作されている。例えば、特開平8−43380号公報の「グラム染色装置及び方法」、特開平10−90146号公報の「顕微鏡標本の自動染色装置」、特開2000−346769号公報の「顕微観察用試料を着色するための自動着色装置」などがある。しかし、これらの装置は染色時間を短縮するものではなく、検査する側の効率を向上させるために多数の検体を一度に染色するものである。この結果、検査するための単位数が揃うまで採取された検体は時間待ちの状態となり、診察したその場で検査の結果を出すことは困難であった。このため診察した後日に診察結果が判明し、治療が開始されることとなり、緊急の処置を要する感染症患者に適切に対応できない状態である。
本発明は、かかる緊急を要する患者にも適切に対応すべく、迅速に染色する方法及び装置を提供するものである。
【発明の開示】
前記課題を解決するために、本発明に係る微生物迅速染色法は、室温でない温度に加温された染色液を用いるものである。
また、本発明に係る微生物迅速染色装置は、複数の試薬用の試薬用貯液槽と、複数又は単数の洗浄液用の洗浄液用貯液槽と、前記試薬用貯液槽の下流側に接続され、試薬を規定温度に制御する温度制御手段と、前記温度制御手段の下流側に接続され、試薬を吐出させる複数の試薬用吐出弁と、前記洗浄液用貯液槽の下流側に接続され、洗浄液を吐出させる単数又は複数の洗浄液用吐出弁と、前記試薬用吐出弁、前記洗浄液用吐出弁、又は前記試薬用吐出弁及び前記洗浄液用吐出弁の下流側に接続され、試薬、洗浄液、又は試薬及び洗浄液を試料に噴射する少なくとも一つの液体噴射装置とを備えるものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、グラム陽性菌の青強調度、グラム陽性菌の青の強調度を室温で染色した従来法と染色液を30℃から60℃の各温度に加温した本発明法で染色した場合の青の強調度をMicro analyzerにより計測し比較した図である。
図2は、グラム陰性菌の赤強調度、グラム陰性菌の赤の強調度を室温で染色した従来法と染色液を30℃から60℃の各温度に加温した本発明法で染色した場合の赤の強調度をMicro analyzerにより計測し比較した図である。
図3は、従来法と本発明法の染色手順を示す図である。
図4の(a)は第1実施形態の微生物迅速染色装置の側面図、(b)は(a)の微生物迅速染色装置の上視図である。
図5の(a)は第2実施形態の微生物迅速染色装置の上視図であって一部透視したものを示す図、(b)は(a)の(b)−(b)断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。まず、本発明に係る微生物迅速染色法の実施の形態について説明する。
試料については従来法で採用されている上記の手順に従って試料が作成される。次に、染色はHuckerの変法に本発明を適用した方法(本明細書においては本発明法という)が用いられた。
前染色で使用する試薬はクリスタルバイオレット、媒染色で使用する試薬はルゴール液で、この2種の液は共に45℃に加温し、脱色用の試薬はアセトンとエタノールの等量混合液とし室温状態で用いた。これらの試薬は日本ビオメリュウ株式会社からの購入品である。後染色で使用する試薬のサフラニン液は和光純薬株式会社から購入の原液を5倍に希釈した希釈液を45℃に加温したものを用いた。水洗用の水は室温状態で用いた。以上のそれぞれの温度に設定された、前染色液、媒染色液、脱色液、後染色液、水洗用水を用意し、既に準備されている、スライドグラス上に塗抹された菌株などを水洗用水以外は全て1秒間それぞれの試薬でおおい、後直ちに約10秒間水洗し、水きり後、次工程に移す方法をとった。これらの染色手順は従来法と本発明法として図3に比較して示した。なお、手順は表の上から下へ順次進める。
この図3から従来法では5分間必要としていた染色時間が本発明法では44秒即ち約1分以下に短縮できることがわかる。
顕微鏡検査により本発明法により染色した試料と従来法で染色した試料を比較し同等の染色結果が得られていることを確かめた。
従来法と本発明法を比較するため、試料の作成は従来法と本発明法の双方に同一の菌株を用いた。即ち一枚のスライドグラス上に複数の区画を設けその区画中2箇所の区画にそれぞれ陽性および陰性の対照菌を塗抹し、さらに残りの区画に菌株を塗抹し、試料とした。標準手順に従い、標準菌株として陽性対照菌はStaphylococcus aureus ATCC25923を、陰性対照菌はEscherichia coli ATCC25922を塗抹した。試料としての菌株は臨床分離株の中でグラム腸性菌に較べ染色性がやや劣るグラム陰性菌と特に難染色性菌といわれているHaemophilius influenzaeを用いた。グラム陰性菌としてはEnterobacter aerogenes,Morganella.morganii,Klebsiella pneumoniae,Pseudomonas aeruginosa,Citrobacter kosei,Entrobacter cloacae,Klebsiella oxytca,Haemophilus influenzaeの各菌種を用いた。染色後の試料の色強調度計測には日本ポラデジタル株式会社製のデジタル画像計測ソフトMicro analyzer Ver.1.1cを用いた。
準備された試料を図3の従来法による染色方法に従って染色し、他方本発明法による染色は前染色、媒染色、後染色の液温を30℃から60℃まで5℃間隔で変化させ、水洗、脱色は室温で、また、各工程の時間は図3の値に設定し全染色時間は44秒になるようにした。本発明法に記載の脱色、後染色については図3記載の方法を見出すまでに各種の探索が行われた。脱色については加温の効果と液の組成が調べられ、また後染色については液の濃度の影響も調べられ染色の迅速性を発揮する本発明法の液組成と温度が設定された。本発明法における加温の効果をみるために多数枚のスライドグラスについて行いその平均的結果を図1および図2に示す。上記の各温度に加温された染色液で染色し、室温で水洗、脱色して染色作業を終えた試料を顕微鏡写真にとり、その画像をパソコン搭載の前記、デジタル画像計測ソフトMicro analyzerにより色強調度を計測し表示した。図1は各スライドグラス上の標準菌株としての陽性対象菌の染色即ちグラム陽性菌の青強調度を各染色液温度ごとに表示した。図中左端の室温とあるのは従来法による図3記載の方法で所要時間5分間の染色後の青強調度計測値である。この図から本発明法による45℃の加温液による染色が従来法よりグラム陽性菌の染色が強調されているのが判る。図2は各スライドグラス上の標準菌株としての陰性対象菌の染色即ちグラム陰性菌の赤強調度を染色液温度ごとに表示した。図中左端の室温とあるのは従来法による図3記載の方法で所要時間5分間の染色後の赤強調度計測値である。この図から本発明法による45℃の加温液による染色が従来法よりグラム陰性菌の染色が強調されているのが判る。
この図では30℃以上60℃まで全ての範囲で従来法よりグラム陰性菌の染色が強調されているのが判る。その他、前記の難染色性菌、グラム陰性菌の全ての試料について本発明法が従来法に較べ同等以上の染色作用を示すことが確認された。
本発明法では染色液温を45℃としているが、これは染色時間を作業上の最短時間として1秒を設定していることにより、前染色、媒染色の染色時間を3秒に設定しその他の条件は本発明法の通りに設定すれば染色液温度は40℃から50℃の範囲に設定することができる。
本実施形態によれば、緊急に適切な治療が要求される感染症その他の診断にグラム染色法を用いる場合、染色液を適当な温度に設定、加温することにより、従来法では約5分間要していた染色時間が本発明法を用いることにより約1分以下に短縮されより迅速な診断が可能となるだけでなく、従来、用手法では個人の技能に左右された染色作業が各染色、脱色に1秒という短時間ですむため、個人技能による影響を少なくできる。
次に、本発明に係る微生物迅速染色装置の実施の形態について説明する。まず、本発明に係る微生物迅速染色装置の第1実施形態について説明する。図4の(a)は第1実施形態の徴生物迅速染色装置の側面図であって、一部に微生物迅速染色装置内部を示す図、(b)は(a)の微生物迅速染色装置の上視図である。
微生物迅速染色装置10は、試薬を貯液する試薬用貯液槽11a、11c、11d、11fと、洗浄液を貯液する洗浄液用貯液槽11b、11eと、試薬用貯液槽11a、11c、11fの各下流側に接続され、試薬を規定温度に制御する3つの温度制御装置(温度制御装置全体は不図示)と、これらの温度制御装置の各下流側に接続され、試薬を吐出させる試薬用吐出弁13a、13c、13fと、試薬用貯液槽11dの下流側に接続され、一時的に液体を貯蔵できる一時貯液槽12dと、一時貯液槽12dの下流側に接続され、試薬を吐出させる試薬用吐出弁13dと、洗浄液用貯液槽11b、11eの各下流側に接続され、一時的に液体を貯蔵できる一時貯液槽12b、12eと、一時貯液槽12dの下流側に接続され、試薬を吐出させる洗浄液を吐出させる洗浄液用吐出弁13b、13eと、試薬用吐出弁13a、13c、13f及び洗浄液用吐出弁13b、13eの下流側に接続され、試薬及び洗浄液を試料18に噴射する液体噴射装置17と、試料18に噴射された使用済み試薬及び使用済み洗浄液を回収し貯蔵する回収貯液槽19とを備えるものである。
試薬用貯液槽11a、11c、11d、11fは、蓄圧型の試薬用貯液槽である。ここで、蓄圧型の試薬用貯液槽とは、試薬用貯液槽11a内を加圧状態にするために、液圧または気圧による蓄圧装置(不図示)を内装しているものであり、例えば弾力性を有する液袋または気袋を内装し、その圧力源配管(例えば、水道配管)として配管40を設置し、試薬用貯液槽11aに対しては継手41aを介して圧力を供給するものである。同様に、試薬用貯液槽11c、11d、11fについても、継手41c、41d、41fを介して圧力を供給するものである。なお、液体噴射装置17で必要な圧力が得られるまで位置的に高水程位置に通常の試薬用貯液槽11a、11c、11d、11fを設置することが可能である場合には蓄圧装置を省略することができる。これらの試薬用貯液槽11a、11c、11d、11fには、種類の異なる試薬をそれぞれ充填することができる。
洗浄液用貯液槽11b、11eも、試薬用貯液槽11a、11c、11d、11fと同様の蓄圧型の洗浄液用貯液槽であり、蓄圧装置(不図示)により配管40及び継手41b、41eを介して加圧することができるものである。なお、液体噴射装置17で必要な圧力が得られるまで位置的に高水程位置に通常の洗浄液用貯液槽11b、11eを設置することが可能である場合には蓄圧装置を省略することができる。なお、試料の水洗は、常温の洗浄液で十分であるため、洗浄液用貯液槽11b、11eの下部に設置されている一時貯液槽12b、12e内の洗浄液の温度制御を行う必要は必ずしもない。また、洗浄液には水道水、蒸留水やアルコールなどが使用される。
温度制御装置(温度制御装置全体は不図示)は、試薬用貯液槽11a、11c、11fと各試薬用吐出弁13a、13c、13fとの接続途中に設けられる一時貯液部12a、12c、12fと、一時貯液部12a、12c、12f内の試薬の温度を計測する温度計(不図示)と、一時貯液部12a、12c、12f内の試薬を加熱する加熱装置(不図示)と、温度計の測定値によって加熱手段の加熱の強弱を制御する制御部(不図示)とを備えるものである。一時貯液部12a、12c、12fは、各配管14a、14c、14fを介して試薬用貯液槽11a、11c、11fと接続されており、試薬用貯液槽11a、11c、11fからの試薬を一時的に貯めるものであり、温度制御装置の加温装置や制御部などによって噴射する一時貯液部12a、12c、12f内の試薬の温度制御が行われる。この温度制御装置は、一時貯液部12a、12c、12f内の温度を15〜60℃までの範囲又は45℃±3℃の範囲に制御するものであることが好ましい。なお、試薬は、加熱装置によって直接加熱されてもよいし、一時貯液部12a、12c、12fを加熱して間接的に加熱されてもよい。また、加熱装置としては、例えば電気ヒーターなどがあげられる。
試薬用吐出弁13a、13c、13fは、図示しない制御装置などによって解放される時間が制御されるものである。例えば、試薬用吐出弁13aが解放されているときには、温度制御装置(不図示)の一時貯液槽12aに貯められていた試薬を配管14a、試薬用吐出弁13a、配管15a、ヘッダー16の順に流通させるものである。試薬用吐出弁13c、13fについても同様である。試薬用吐出弁13d及び洗浄液用吐出弁13b、13eも試薬用吐出弁13a、13c、13fと同様に図示しない制御装置などによって解放される時間が制御されるものである。例えば、試薬用吐出弁13dが解放されているときには、一時貯液部20dに貯められていた洗浄液を配管14d、試薬用吐出弁13d、配管15d、ヘッダー16の順に流通させるものである。洗浄液用吐出弁13b、13eについても同様である。なお、試薬用吐出弁13a、13c、13d、13f及び洗浄液用吐出弁13b、13eは、支持部材(不図示)により固定支持されている。
配管14a、14b、14c、14d、14e、14fは、試薬用貯液槽11a、11c、11d、11f内や洗浄液用貯液槽11b、11e内が加圧される場合には、その加圧に耐えることができるものであることが好ましい。
ヘッダー16は、各配管15a、15b、15c、15d、15e、15fを一箇所に集める管寄せである。
液体噴射装置17は、図示しない噴射制御装置によって、試料18に噴射する試薬及び洗浄液の噴射順序、噴射時間及び噴射量を制御されるものであることが好ましい。
試料18は、例えばスライドグラスの平面部に菌株が塗布されたものなどであり、その平面部を傾くように配置して、試薬や洗浄液を下方へ流れやすくしておくことが好ましい。
回収貯液槽19は、使用済みの試薬及び洗浄液を回収し貯蔵するものであるが、本発明に使用される試薬及び洗浄液は有害物質ではないので、回収貯液槽19を有しない装置とし、そのまま試薬を下水へ流すこととしてもよい。
次に、本実施形態に係る微生物迅速染色装置10の染色作用の一例について説明する。
ここでは一例の染色法としてHuckerの変法の迅速染色法に本発明を適用した場合について述べる。
試薬用貯液槽11aにはクリスタルバイオレットが充填されており、このクリスタルバイオレットの一部は試薬用貯液槽11a下部の配管14aを通じて温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽12aに貯められる。そして、このクリスタルバイオレットを温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽12aにて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁13aの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、加温されたクリスタルバイオレットを配管15a、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を前染色する。前染色工程を終えた試薬は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
前染色工程が終了すると次に水洗工程に入る。試薬用貯液槽11aに隣接する洗浄液用貯液槽11bには水道水が充填されており、この水道水の一部は洗浄液用貯液槽11b下部の配管14bを通じて一時貯液槽12bに室温程度で貯蔵する。制御装置(不図示)からの指令に従って、洗浄液用吐出弁13bの開口時期及び時間を制御して約10秒間弁口を開き、一時貯液槽12b内の水道水を配管15b、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を水洗する。この水洗工程を終えた使用済み水道水は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
水洗工程が終了すると次に媒染工程に入る。そのために洗浄液用貯液槽11bに隣接する試薬用貯液槽11cの系統が使用される。試薬用貯液槽11cにはルゴール液を充填しておき、このルゴール液をその下部に設置された温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽12c内にて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁13cの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、加温されたルゴール液を配管15c、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を媒染色する。媒染工程を終えた試薬は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
媒染色工程が終了すると次は水洗工程に入る。そのために試薬用貯液槽11cに隣接する水道水が充填された洗浄液用貯液槽11bの系統が使用される。ここでは、すでに上述した前染色工程後の水洗工程と同様の水洗工程を行うものである。
水洗工程が終了すると次は脱色工程に入る。そのためには洗浄液用貯液槽11eに隣接する試薬用貯液槽11dの系統が使用される。試薬用貯液槽11dにはアセトンとエタノールを等量混合した液を充填しておく。そして、この混合液を試薬用貯液槽11d下部の一時貯液槽12d内にて室温程度で貯蔵する。なお、この混合液は必ずしも加温される必要はない。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、一時貯液槽12d下部の試薬用吐出弁13dの開口時期及び時間を制御して約10秒間弁口を開き、上記一時貯液槽12d内の混合液を配管15d、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を脱色する。この脱色工程を終えた試薬は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
脱色工程が終了すると次は水洗工程に入る。そのためには試薬用貯液槽11dに隣接する水道水が充填された洗浄液用貯液槽11eの系統が使用される。まず、洗浄液用貯液槽11e内の水道水の一部を洗浄液用貯液槽11e下部の一時貯液槽12e内にて室温程度で貯蔵する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁13eの開口時期及び時間を制御して約10秒間弁口を開き、一時貯液槽12e内の水道水を配管15e、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を水洗する。この水洗工程を終えた使用済み水道水は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
水洗工程が終了すると次は後染色工程に入る。そのためには洗浄液用貯液槽11eに隣接する試薬用貯液槽11fの系統が使用される。試薬用貯液槽11fにはサフラニン液の5倍希釈液を充填しておき、このサフラニン液の5倍希釈液を試薬用貯液槽11f下部に設置された温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽12f内にて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁13fの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、サフラニン液の5倍希釈液を配管15f、ヘッダー16、液体噴射装置17の順に流通させ、液体噴射装置17の噴射により試料18の菌株を後染色する。後染色工程を終えた試薬は、試料18下方に設置された回収貯液槽19内に貯蔵される。
後染色工程が終了すると次は水洗工程に入る。そのためには試薬用貯液槽11fに隣接する水道水が充填された洗浄液用貯液槽11eの系統が使用される。ここでは、すでに上述した脱色工程後の水洗工程と同様の水洗工程を行うものである。
以上のようにして1枚のスライドグラス上に塗布された菌株のグラム染色作業は行われるが、約1分以下で上記のグラム染色作業の全工程を終了することができる。従って、緊急を要する患者にも適切に対応することができ、検査結果を迅速に出すことができる。
なお、本実施形態の場合、洗浄用に使用された洗浄液貯液槽は11bまたは11eのいずれか一方のみで済ますことができることは勿論である。
次に、本発明に係る微生物迅速染色装置の第2実施形態について説明する。図5の(a)は第2実施形態の微生物迅速染色装置の上視図であって一部透視したものを示す図、(b)は(a)の(b)−(b)断面図である。
微生物迅速染色装置20は、試薬を貯液する試薬用貯液槽21a、21c、21e、21gと、洗浄液を貯液する洗浄液用貯液槽(不図示)と、試薬用貯液槽21a、21c、21gの各下流側に接続され、試薬を規定温度に制御する3つの温度制御装置(温度制御装置全体は不図示)と、これらの温度制御装置の各下流側に接続され、試薬を吐出させる試薬用吐出弁23a、23c、23gと、試薬用貯液槽21eの下流側に接続され、一時的に液体を貯蔵できる一時貯液槽22eと、一時貯液槽22eの下流側に接続され、試薬を吐出させる試薬用吐出弁23eと、洗浄液用貯液槽(不図示)に配管40、継手41b、41d、41f、41h及び配管24b、24d、24f、24hを介して接続され、一時的に液体を貯蔵できる一時貯液槽22b、22d、22f、22hと、一時貯液槽22b、22d、22f、22hの各下流側に接続され、洗浄液を吐出させる洗浄液用吐出弁23b、23d、23f、23hとを備えてなる。さらに、微生物迅速染色装置20は、試薬用吐出弁23a、23c、23e、23gの各下流側に接続され、試薬を試料28a、28c、28e、28gに噴射する液体噴射装置27a、27c、27e、27gと、洗浄液用吐出弁23b、23d、23f、23hの各下流側に接続され、洗浄液を試料28b、28d、28f、28hに噴射する液体噴射装置27b、27d、27f、27hと、液体噴射装置27a、27b、27c、27d、27e、27f、27g、27h(以下、液体噴射装置27a〜27hとする)によって噴射された使用済み試薬及び使用済み洗浄液を回収し貯蔵する回収貯液槽29a、29b、29c、29d、29e、29f、29g、29h(以下、回収貯液槽29a〜29hとする)と、試料28a、28b、28c、28d、28e、28f、28g、28h(以下、試料28a〜28hとする)を載置可能な円盤30と、円盤30の回転角度を制御自在なモータ31と、モータ31を固定支持する土台32とを備えてなる。
試薬用貯液槽21a、21c、21e、21gは、蓄圧型の試薬用貯液槽である。ここでは、弾力性を有する液袋を内装し、その圧力源配管(例えば、水道配管)として配管40を設置し、試薬用貯液槽11aに対しては継手41aを介して圧力を供給するものである。なお、液体噴射装置27a、27c、27e、27gで必要な圧力が得られるまで位置的に高水程位置に通常の試薬用貯液槽21a、21c、21e、21gを設置することが可能である場合には蓄圧装置を省略することができる。これらの試薬用貯液槽21a、21c、21e、21gには、種類の異なる試薬をそれぞれ充填することができる。
図示していない洗浄液用貯液槽は、蓄圧型の洗浄液用貯液槽である。図5(a)に示すように、洗浄液を継手41aを介して配管40に送ることができるものである。加圧された洗浄液は継手41a、41b、41c、41d、41e、41f、41g、41hを介して所望される各部位へと配送される。なお、液体噴射装置27b、27d、27f、27hで必要な圧力が得られるまで位置的に高水程位置に通常の洗浄液用貯液槽を設置することが可能である場合には蓄圧装置を省略することができる。なお、試料の水洗は、常温の洗浄液で十分であるため、一時的に液体を貯蔵できる一時貯液槽22b、22d、22f、22h内の洗浄液の温度制御を行う必要は必ずしもない。また、洗浄液には水道水、蒸留水やアルコールなどが使用される。
温度制御装置(温度制御装置全体は不図示)は、試薬用貯液槽21a、21c、21gと各試薬用吐出弁23a、23c、23gとの接続途中に設けられる一時貯液槽22a、22c、22gと、一時貯液槽22a、22c、22g内の試薬の温度を計測する温度計(不図示)と、一時貯液槽22a、22c、22g内の試薬を加熱する加熱装置(不図示)と、温度計の測定値によって加熱手段の加熱の強弱を制御する制御部(不図示)とを備えるものである。一時貯液槽22a、22c、22gは、各配管24a、24c、24gを介して試薬用貯液槽21a、21c、21gと接続されているものであって、試薬用貯液槽21a、21c、21gからの試薬を一時的に貯めるものであって、温度制御装置の加温装置や制御部などによって噴射する一時貯液槽22a、22c、22g内の試薬の温度制御が行われる。なお、一時貯液槽22a、22c、22g内の温度は、15〜60℃までの範囲又は45℃±3℃の範囲に制御されるものであることが好ましい。また、試薬は、加熱装置によって直接加熱されてもよいし、一時貯液槽22a、22c、22gを加熱して間接的に加熱されてもよい。また、加熱装置としては、例えば電気ヒーターなどがあげられる。
試薬用吐出弁23a、23c、23gは、図示しない制御装置などによって解放される時間が制御されるものである。例えば、試薬用吐出弁23aが解放されているときには、温度制御装置(不図示)の一時貯液槽22aに貯められていた試薬を配管24a、試薬用吐出弁23a、配管25aの順に流通させるものである。試薬用吐出弁23c、23gについても同様である。試薬用吐出弁23e及び洗浄液用吐出弁23b、23d、23f、23hも試薬用吐出弁23a、23c、23fと同様に図示しない制御装置などによって解放される時間が制御されるものである。例えば、洗浄液用吐出弁23dが解放されているときには、一時貯液槽22dに貯められていた洗浄液を配管24d、洗浄液用吐出弁23d、配管25dの順に流通させるものである。試薬用吐出弁23e及び洗浄液用吐出弁23b、23f、23hについても同様の動作が行われる。なお、試薬用吐出弁23a、23c、23e、23g及び洗浄液用吐出弁23b、23d、23f、23hは、支持部材33により固定支持されている。
配管24a、24b、24c、24d、24e、24f、24g、24hは、試薬用貯液槽21a、21c、21e、21g内や洗浄液用貯液槽内が加圧される場合には、その加圧に耐えることができるものであることが好ましい。
液体噴射装置27a〜27hは、図示しない噴射制御装置によって、試料28a〜28hに噴射する試薬及び洗浄液の噴射順序、噴射時間及び噴射量を制御されるものであることが好ましい。また、図5では噴射ノズルを3本示している態様としているがこれに限られず、1本以上あればよい。
試料28a〜28hは、例えばスライドグラスの平面部に菌株が塗布されたものなどであり、その平面部を傾くように配置して、試薬や洗浄液を下方へ流れやすくしておくことが好ましい。
回収貯液槽29a〜29hは、使用済みの試薬及び洗浄液を回収し貯蔵するものである。本発明に使用される試薬及び洗浄液は有害物質ではないので、回収貯液槽29a〜29hを有しない装置とし、そのまま試薬を下水へ流すこととしてもよいが、本実施形態に係る微生物迅速染色装置においては、試薬を各液体噴射装置27a〜27hにおいて別々に噴射するため、使用済み試薬ごとに分別して回収できるので各試薬の再利用が可能となる。
円盤30は、試料28a〜28hを等間隔で放射状に、かつ、試料28a〜28hの平面部をやや傾けて載置できるようになっている。また、試料28a〜28hの回りには噴射された試薬及び洗浄液を下方の回収貯液槽29a〜29hに流れ落とすための穴が設けられている。
モータ31は、その回転軸が円盤30の中心部に固定接続され、円盤30をその中心を軸として水平に回転させることができるものである。なお、モータ31に接続された制御装置(不図示)によって、円盤30の回転角度の制御を行うものである。
次に、第2実施形態の微生物迅速染色装置の染色作用について説明する。
ここでは一例の染色法としてHuckerの変法の迅速染色法に本発明を適用した場合について述べる。Huckerの変法の迅速染色法では薬液を使用する工程は、前染色、媒染色、脱色、後染色があり図5に適用した場合、試薬用貯液槽21aの系統は前染色に、試薬用貯液槽21cの系統は媒染色に、試薬用貯液槽21eの系統は脱色に、試薬用貯液槽21gの系統は後染色に対応する。他方、洗浄液用貯液槽21b系統、洗浄液用貯液槽21d系統、洗浄液用貯液槽21f系統、洗浄液用貯液槽21h系統はすべて水洗工程に対応するものである。
次に、各工程について説明する。
まず、液体噴射装置27a下部の回転円盤30上に菌株を上面に塗布した試料28aを載せる。試薬用貯液槽21aにはクリスタルバイオレットが充填されており、このクリスタルバイオレットの一部は試薬用貯液槽21a下部の配管24aを通じて温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22aに貯められる。そして、このクリスタルバイオレットを温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22aにて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁23aの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、加温されたクリスタルバイオレットを配管25a、液体噴射装置27aの順に流通させ、液体噴射装置27aの噴射により試料28aの菌株を前染色する。前染色工程を終えた試薬は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29a内に単独で貯蔵される。
次に回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、前染色工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28bがあった位置にくる(図5(a)参照)。そこで洗浄水分岐継手41bから導入された加圧水(水道水)は制御装置からの信号により開口作動を開始した洗浄液用吐出弁23bを通過して約10秒間、配管25bを経由して液体噴射装置27bから鉛直下方に位置する試料28a上に貼着された前染色工程終了済みの試料に向けて噴射し、水洗工程を行う。水洗工程を終えた洗浄液は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29b内に単独で貯蔵される。なお、洗浄液は下水にそのまま流すこととしてもよい。また、必ずしも洗浄液は加温されている必要はない。以下の水洗工程においても同様である。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、水洗工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28cがあった位置にくる(図5(a)参照)。試薬用貯液槽21cにはルゴール液が充填されており、このルゴール液の一部は試薬用貯液槽21c下部の配管24cを通じて温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22cに貯められる。そして、このルゴール液を温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22cにて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁23cの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、加温されたルゴール液を配管25c、液体噴射装置27cの順に流通させ、液体噴射装置27cの噴射により試料28aの菌株を媒染色する。媒染色工程を終えた試薬は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29c内に単独で貯蔵される。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、媒染色工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28dがあった位置にくる(図5(a)参照)。そこで洗浄水分岐継手41dから導入された加圧水(水道水)は制御装置からの信号により開口作動を開始した洗浄液用吐出弁23dを通過して約10秒間、配管25dを経由して液体噴射装置27dから鉛直下方に位置する試料28a上に貼着された媒染色工程終了済みの試料に向けて噴射し、水洗工程を行う。水洗工程を終えた洗浄液は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29d内に単独で貯蔵される。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、水洗工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28eがあった位置にくる(図5(a)参照)。試薬用貯液槽21eには、脱色工程に必要な脱色薬液としてアセトンとエタノールとを等量混合した液が充填されており、この混合液の一部は一時貯液槽22eに貯められる。一時貯液槽22e内の混合液は、制御装置からの信号により開口作動を開始した試薬用吐出弁23eを通過して約10秒間、配管25eを経由して、液体噴射装置27eから鉛直下方に位置する試料28a上に貼着された試料に向けて噴射し、脱色工程を行う。脱色工程を終えた試薬は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29e内に単独で貯蔵される。なお、必ずしも上記混合液は加温されている必要はない。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、脱色工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28fがあった位置にくる(図5(a)参照)。そこで洗浄水分岐継手41fから導入された加圧水(水道水)は制御装置からの信号により開口作動を開始した洗浄液用吐出弁23fを通過して約10秒間、配管25fを経由して液体噴射装置27fから鉛直下方に位置する試料28a上に貼着された脱色工程終了済みの試料に向けて噴射し、水洗工程を行う。水洗工程を終えた洗浄液は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29f内に単独で貯蔵される。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、水洗工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28gがあった位置にくる(図5(a)参照)。試薬用貯液槽21gには後染色工程に必要な薬液としてサフラニン液の5倍希釈液が充填されており、このサフラニン液の5倍希釈液の一部は試薬用貯液槽21g下部の配管24gを通じて温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22gに貯められる。そして、このルゴール液を温度制御装置(不図示)内の一時貯液槽22gにて15〜60℃までの範囲、好ましくは45℃±3℃の範囲に加温する。その後、制御装置(不図示)からの指令に従って、試薬用吐出弁23gの開口時期及び時間を制御して最低1秒間弁口を開き、加温されたルゴール液を配管25g、液体噴射装置27gの順に流通させ、液体噴射装置27gの噴射により試料28aの菌株を後染色する。後染色工程を終えた試薬は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29g内に単独で貯蔵される。
次に再び回転円盤30は、制御装置からの信号によって回転するモータ31により、反時計方向に45度回転した位置に静止する。このとき、水洗工程を終了した菌株を貼着した試料28aは試料28aの前染色工程のときに試料28hがあった位置にくる(図5(a)参照)。そこで洗浄水分岐継手41hから導入された加圧水(水道水)は制御装置からの信号により開口作動を開始した洗浄液用吐出弁23hを通過して約10秒間、配管25hを経由して液体噴射装置27hから鉛直下方に位置する試料28a上に貼着された脱色工程終了済みの試料に向けて噴射し、水洗工程を行う。水洗工程を終えた洗浄液は、試料28a下方に設置された回収貯液槽29h内に単独で貯蔵される。
このようにして図5における円盤30の所定位置に取り付けられた試料28aは、上記したように回転円盤を45度づつ反時計方向に回転させる毎に前染色、水洗、媒染色、水洗、脱色、水洗、後染色、水洗とHuckerの変法の迅速染色法に従って染色工程を終えることができる。
以上は試料28aの染色工程を示したものであるが、図5(a)に示すように他の試料も円盤30に載置すれば、上記と同じ手順を順次繰り返すことにより、複数の試料について順次染色することができる。例えば、以下の手順である。最初に図5(a)の試料28aの位置に試料を円盤30に載置し、前染色工程を1秒間行う。次に、試料28aをモーター31により反時計回りに45度回転させ(図5(a)の試料28bの位置に載置される)、水洗工程を10秒間行う。このとき、図5(a)の試料28aの位置には、まだ次の試料を入れることができない。なぜなら、前染色工程の試薬の噴射時間と、水洗工程の洗浄液の噴射時間とが異なる上、噴射圧力源が同じであるので、試薬と洗浄液との同時及び同期間一斉噴射をすることができないからである。
次に、再び試料28aをモーター31により反時計回りに45度回転させ(図5(a)の試料28cの位置に載置される)、図5(a)の試料28aの位置に新たな試料を載置し、最初の試料(図5(a)の試料28cの位置にある試料)については媒染色工程を、新たな試料(図5(a)の試料28aの位置にある試料)については前染色工程を行う。
このように、先に載置された試料が水洗工程にあるときは新たな試料の載置をせず、各染色工程や脱色工程にあるときに新たな試料を順次追加載置するという作業を行う。これにより、本実施形態の微生物迅速染色装置は、最大4枚の試料の載置が可能で、これらの試料について、前染色、水洗、媒染色、水洗、脱色、水洗、後染色、水洗の各工程が順次行われることとなり、迅速に染色を行うことができる。
本実施形態によれば、約1分以下で一つの試料についてのグラム染色作業の全工程を終了することができる。従って、緊急を要する患者にも適切に対応することができ、検査結果を迅速に出すことができる。しかも、複数の試料を順次検査していくことができるため、一定時間における試料検査数を従来よりも大幅に増加させることができ、効率のよい検査をすることができる。
【産業上の利用可能性】
緊急に適切な治療が要求される感染症その他の診断にグラム染色法を用いる場合、従来、約5分間要していた染色時間が微生物迅速染色法により約1分以下に短縮されたことから従来費用対効果の面から採用されなかった1枚を含む少数枚数の染色作業も採用する可能性が生じてきた。その可能性をさらに強化するには構造簡単な低コストの装置が求められていた。この発明により費用対効果の面も向上し、1枚でも迅速に低コストで診断に利用されるようになり、緊急時でも適切な治療の機会が増加し、感染症などの予防が推進される。
【図1】

【図2】

【図3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温でない温度に加温された染色液を用いる微生物迅速染色方法。
【請求項2】
前記室温でない温度が40℃から50℃の範囲である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記室温でない温度が45℃±3℃の範囲である請求項1記載の方法。
【請求項4】
試薬を貯液する複数の試薬用貯液槽と、
洗浄液を貯液する複数又は単数の洗浄液用貯液槽と、
前記試薬用貯液槽の下流側に接続され、試薬を規定温度に制御する少なくとも一つ設けられる温度制御手段と、
前記温度制御手段の下流側に接続され、試薬を吐出させる複数の試薬用吐出弁と、
前記洗浄液用貯液槽の下流側に接続され、洗浄液を吐出させる単数又は複数の洗浄液用吐出弁と、
前記試薬用吐出弁、前記洗浄液用吐出弁、又は前記試薬用吐出弁及び前記洗浄液用吐出弁の下流側に接続され、試薬、洗浄液、又は試薬及び洗浄液を試料に噴射する少なくとも一つの液体噴射装置とを備える微生物迅速染色装置。
【請求項5】
前記温度制御手段が、前記試薬用貯液槽と前記吐出弁との接続途中に設けられる一時貯液部と、前記一時貯液部内の試薬の温度を計測する温度計と、前記一時貯液部内の試薬を加熱する加熱手段と、前記温度計の測定値によって加熱手段の加熱の強弱を制御する制御部とを備える請求項4記載の微生物迅速染色装置。
【請求項6】
前記温度制御手段が、前記一時貯液部内の温度を15〜60℃までの範囲に制御する請求項5に記載の微生物迅速染色装置。
【請求項7】
前記温度制御手段が、前記一時貯液部内の温度を45℃±3℃の範囲に制御する請求項5に記載の微生物迅速染色装置。
【請求項8】
前記液体噴射装置から噴射する試薬及び洗浄液の噴射順序、噴射時間及び噴射量を制御する噴射制御手段をさらに備える請求項4〜7のいずれかに記載の微生物迅速染色装置。
【請求項9】
少なくとも一つの試料を載置可能であって、中心を軸として水平に回転自在な円盤と、前記円盤の回転角度制御機構とをさらに備える請求項4〜7のいずれかに記載の微生物迅速染色装置。
【請求項10】
試料に噴射された各使用済み試薬を個別に回収し貯蔵する複数の回収貯液槽をさらに備える請求項9記載の微生物迅速染色装置。
【請求項11】
前記試薬用貯液槽、前記洗浄液用貯液槽、又は前記試薬用貯液槽及び前記洗浄液用貯液槽を前記噴射装置が必要とする圧力に加圧する加圧手段をさらに備える請求項4〜7のいずれかに記載の微生物迅速染色装置。

【国際公開番号】WO2004/053482
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558484(P2004−558484)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015934
【国際出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】