微粒子の分泌を阻害することによりエイズまたは癌を治療することを目的とした組成物および方法
細胞からの微粒子の放出を阻害する新規ペプチドが開示される。ペプチドはN末端に少なくとも1つのVGFPVモチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有する。ペプチドをコードするポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを担持する発現ベクター、および新規ペプチドを用いてエイズおよび腫瘍を治療するための方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2009年6月12日に出願された米国仮出願番号第61/213,471号および2010年5月20日に出願された米国出願番号第12/783,829からの優先権を主張する。前述の明細書の全文は本明細書に参照文献として援用される。
【0002】
本発明は、全般的に医学的治療、特に微粒子の分泌を阻害することによりエイズまたは腫瘍を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
膜小胞は、一般的に直径が200nm未満である球状の膜微粒子である。微粒子はサイトソル分画を含有する脂質二重膜より構成される。より具体的には、個々の膜小胞は細胞によって細胞内コンパートメントから細胞の細胞質膜との融合を経て生成され、これによりそれらは生体の細胞外生体液または培養細胞の上清に放出される。これらの小胞/微粒子は数多くの様式で放出されうる。古典的な分泌系路は、主として小胞体(ER)膜を介して受容体を担持する従来の膜シグナルを処理する(Lee他、(2004)Annu.Rev.Cell Dev.Biol.20,87−123)。
【0004】
分泌タンパク質は輸送小胞内に封入され、ゴルジ装置に送達され、最終的には細胞外空隙に放出される。
【0005】
一方で、非古典的分泌系路が存在しかつサイトソル非シグナル担持分子の細胞外空隙への移動を媒介する(Lippincott−Schwartz他(1989)Cell 56,801−813;およびMisumi他(1986)J Biol.Chem.261,11398−11403)。これら2つは、分泌型リソソーム(Muesch et al.,(1990)TrendsBiochem.Sci.15,86−88)およびエキソソーム(Johnstone et al.,(1987)J.Biol.Chem.262,9412−9420)などのエンドサイトーシス膜系の細胞内小胞を包含し、後者は後期エンドソームまたは多胞体(MVB)の内部小胞である。細胞毒性Tリンパ球の分泌型リソソームなどの特殊化されたエンドサイトーシス構造が形質膜と融合するとき、リソソームの内容物は細胞の外部とのアクセスを得る。MVBが形質膜と融合するとき、後期エンドサイトーシス構造の管腔内容物は細胞外空隙に放出され、これにより内部多胞体エンドソームがその担持分子と共に細胞外空隙へと放出される(エキソソームと呼ばれる)。他の非古典的経路は、チャネルを伝導するタンパク質または膜小疱形成と呼ばれるプロセスを用いた、サイトソル因子の形質膜を横切る直接的移動を包含する(Nickel,W.(2005)Traffic.6,607−614)。膜小疱形成は、形質膜由来の微小胞の細胞外空隙への漏出を特徴とする。
【0006】
多様な生理学的状況において異なる細胞種から微粒子が放出されることが証明されている。腫瘍細胞は、腫瘍抗原を担持し、かつこれらの抗原を提示するかまたはそれらを抗原提示細胞に転送することのできるエキソソーム、テキソソーム、Texまたは腫瘍テキソソームなどの微粒子を、制御された様式で分泌することが証明されている(Yu他(2007)J.Immunol.178,6867−6875)(国際公開特許第WO99/03499号)。これらの微粒子は腫瘍細胞によって放出されかつ免疫細胞の殺傷または調節不全によって免疫抑制を引き起こし、腫瘍の増殖を可能とする。これらのFasLまたはTNF含有エキソソームの放出は、それにより腫瘍が免疫優越/免疫抑制状態を促進する1つの機構であることが確認されている。一方で、HIV感染細胞がNef含有小胞を放出することが示されている(Guy他(1990)Virology176,413−425;およびCampbell他(2008)Ethn.Dis.18,S2−S9)。我々は、これらの粒子がHIVによって同様に用いられて免疫系を調節不全とし、HIVの生存を可能にしていると推定する。最後に、エンドソームトラフィック経路も感染細胞からのウイルス粒子放出に関与していることが示唆されている(Sanfridson他(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 94,873−878;およびEsser他(2001)J Virol.75,6173−6182)。したがって、HIV感染時に、いくつかの小胞放出経路に関与しているエンドソーム経路が、免疫系の調節および感染細胞のウイルス粒子放出において二重の役割を果たす。微粒子/小胞放出を減衰または阻害するために用いることが可能な有効な方法を有することは特に重要であろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの態様は、細胞からの微粒子の放出を阻害する新規ペプチドに関する。ペプチドは10〜100アミノ酸長を有し、かつ(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(3)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。
【0008】
1つの実施形態においては、ペプチドはN末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはC末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドは少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0009】
本発明の他の態様は、本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドを担持する発現ベクターに関する。
【0010】
本発明の他の態様は、エイズまたは腫瘍を治療することを目的とした医薬組成物に関する。医薬組成物は(1)10〜100アミノ酸長を有しかつ(a)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(b)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(c)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを有するペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および(2)医薬品として許容できる担体を含む。
【0011】
本発明の他の態様はエイズを治療することを目的とした方法に関する。方法は、少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0012】
本発明の他の態様は腫瘍を治療することを目的とした方法に関する。方法は、少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】合成HIV−1 NefSMRwtペプチド(拮抗物質)およびHIV−1 NefSMRmtペプチド(ネガティブコントロール)(パネルA);GFPと融合したHIV−1 NefSMRwtペプチドまたはGFPと融合したHIV−1 NefSMRmtペプチドを発現するベクター構造物(パネルB);およびHIV−1 NefSMRwt(パネルC)またはSMRmtペプチド(パネルD)をトランスフェクトしたMDA−MB−231細胞におけるエキソソームのマーカーであるアセチルコリンエステラーゼの量を示す複合図である。非トランスフェクトMDA−MB−231細胞をネガティブコントロールとして用いた。細胞は無血清培地で48時間培養した。上清1mLを400,000×gで遠心した。上清ペレットまたは細胞ライセートの沈殿体積をPAGE上で泳動させ、ブロットし、抗AchE mAb(アセチルコリンエステラーゼ−1:1000希釈、エキソソームマーカー)でプローブした。細胞ライセートを抗チューブリンmAb(1:4000)で再プローブした。デンシトメトリーによりバンドを測定し、細胞内チューブリンに対して正規化した。本明細書では、データは非トランスフェクト対照に対する百分率として示した。
【図1−2】同上
【図2】HEK293細胞においてHIV−1 NefSMRwtペプチドがNefGFPの放出に拮抗することを示す図である。
【図3A】Jurkat細胞においてHIV−1 NefSMRwtペプチドがNefGFPの放出に拮抗することを示す図である。
【図3B】同上
【図4A】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるp24濃度のELISA分析を示す複合図である。
【図4B】Jurkat細胞において、SMRwtペプチドによってp24の放出が遮断されるが(パネルA)、SMRmtペプチドによっては遮断されないこと(パネルB)を示す共焦点顕微鏡写真の組合せである。
【図4C】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−1)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−1)によるトランスフェクト後6日目のJurkat細胞におけるウイルス粒子分布を示す共焦点顕微鏡および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図4D】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−2)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−2)によるトランスフェクト後14日目のJurkat細胞におけるウイルス粒子分布を示す共焦点および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図4E】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−1)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−1)によるトランスフェクト後6日目のJurkat細胞、およびR7およびSMRwtペプチド(パネルA−2)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−2)によるトランスフェクト後14日目のJurkat細胞におけるJurkat細胞内構造におけるウイルス粒子分布を示す共焦点および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図5】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたJurkat細胞におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図6】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたHEK293細胞におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図7】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたTHP−1単球におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図8】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたU937単球におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図9】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるNefおよびp24のウェスタンブロット分析を示す複合図である。
【図10】R7ウイルスDNA/SMRwtペプチド(パネルA)またはR7ウイルスDNA/SMRmtペプチド(パネルB)のいずれかをトランスフェクトしたMagi/CXCR4細胞の写真の組合せである。
【図11】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるMagi分析ウイルス感染性を示す複合図である。
【図12】SMRwtまたはSMRmtペプチドをトランスフェクトされた細胞の細胞毒性分析の結果を示す写真の組合せである。パネルA−1およびパネルB−1:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞のヨウ化プロピジウム染色。パネルA−2およびパネルB−2:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞の二酢酸フルオレセイン染色。パネルA−3およびパネルB−3:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞の位相差顕微鏡像。
【図13】SMRwtまたはSMRmtペプチドによる免疫沈降(パネルA)およびウエスタンブロットによる75kDのSMR特異性タンパク質の特定を示す写真の組合せである。
【図14】Mortalin抗体のNef分泌阻害を示す図である。
【図15】Nef分泌に対するSMRペプチドまたは未知化合物の効果をモニタリングするためのコトランスフェクト分析を示す図である。
【図16】腫瘍小胞分泌に対するSMRペプチドまたは未知化合物の効果をモニタリングするためのコトランスフェクト分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は多くの異なる形態で具現してもよいが、その一方で本明細書には本発明の具体的な好ましい実施形態が詳細に記載される。この記載は本発明の原則の例示であり、かつ例示された具体的な実施形態に本発明を限定することを意図していない。
【0015】
細胞トラフィック経路はHIVのライフサイクルおよび腫瘍発生に関与していることが知られている(Grossman他(2002)Nat.Med.8,319−323)。たとえば、ある種の腫瘍細胞より放出されるエキソソームは宿主の免疫系を調節不全とし、これにより腫瘍の成長および増殖を可能とする。現在、微粒子トラフィック経路を標的としかつ細胞からの微粒子放出を操作/阻害する実践的な技術はない。本発明は細胞因子と相互作用するHIV−Nefシークエンスを利用し、かつトラフィック経路を操作して細胞の微粒子を生成する能力を遮断する。
【0016】
(ペプチド)
本発明の1つの態様は、細胞からの微粒子の放出を阻害する新規ペプチドに関する。ペプチドは10〜100アミノ酸長を有し、(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(3)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。以下で用いるところの用語「微粒子」は細胞トラフィック経路に関与する微小担体を指す。微粒子は、典型的にはサイトソル分画を含有する脂質二重膜より構成され、かつ一般的に直径が200nm未満である。微粒子の例はエキソソーム、テキソソームおよびTexまたは腫瘍エキソソームを含むが、これに限定されない。
【0017】
1つの実施形態においては、ペプチドは配列番号1のモチーフを少なくとも2つ含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0018】
本発明のペプチドは化学的に合成されても、または組換えDNA技術(例:宿主細胞より発現および精製される)によって生成されてもよい。ペプチドを合成するかまたは組換えDNA技術によりペプチドを生成するための方法は、当業者に周知である。
【0019】
(発現ベクター)
本発明の他の態様は、本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドを担持する発現ベクターに関する。
【0020】
用語「発現ベクター」は、宿主細胞におけるポリヌクレオチドの発現に適した形態で本発明の新規ペプチドをコードするポリペプチドを含む非ウイルスまたはウイルスベクターを指す。非ウイルスベクターの1種は、その中に追加的DNAセグメントを結合することのできる環状二重らせんDNAループを含む「プラスミド」である。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であるので、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用いることができる。
【0021】
発現ベクターは、発現に用いる宿主細胞に基づいて選択され、かつ発現させるポリヌクレオチド配列と機能的に結合する1つまたはそれ以上の制御配列を含む。発現ベクターのデザインは、形質転換する宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどのような因子に依存することがあることは、当業者に理解されるであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、これにより本発明の新規ペプチドなどのタンパク質またはペプチドを生成することができる。
【0022】
本明細書で用いるところの用語「調節配列」または「制御配列」は、特定の宿主生命体において機能的に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。用語「調節/制御配列」はプロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節エレメント(例:ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図している。調節/制御配列は、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構造的発現を誘導するもの、および一定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例:組織特異的制御配列)を含む。
【0023】
ある核酸配列が他の核酸配列との機能的関係に置かれる場合、前者が後者に「機能的に結合」される。たとえば、プレ配列または分泌リーダーペプチドのためのDNAがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、それはポリペプチドのためのDNAと機能的に結合され;プロモーターまたはエンハンサーがコード配列の転写に影響する場合、それはコード配列と機能的に結合され;あるいはリボソーム結合部位が翻訳を促進するよう配置される場合、それはコード配列と機能的に結合される。一般に、「機能的に結合された」は結合されたDNA配列が近接し、かつ分泌リーダーの場合、隣接しかつリーディングフェーズ内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接する必要がない。結合は好適な制限部位に結合することにより達成される。そのような部位が存在しない場合、従来の実践にしたがって合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを用いる。
【0024】
1つの実施形態においては、哺乳類発現ベクターは特定の細胞型において優先的にポリヌクレオチドの発現を誘導することができる(例:ポリヌクレオチドを発現させるには組織特異性調節エレメントが用いられる)。組織特異性調節エレメントは技術上既知であり、かつ上皮細胞特異性プロモーターを含むこともある。その他の適切な組織特異性プロモーターの非制限的な例は肝特異性プロモーター(例:アルブミンプロモーター)、リンパ特異性プロモーター、T細胞受容体および免疫グロブリンのプロモーター、ニューロン特異性プロモーター(例:ニューロフィラメントプロモーター)、膵特異性プロモーター(例:インスリンプロモーター)、および乳腺特異性プロモーター(例:乳ホエイプロモーター)を含む。発生制御プロモーター(例:α−フェトプロテインプロモーター)も包含される。
【0025】
他の実施形態においては、発現ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターの例はレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、およびアルファウイルスベクターを含むが、これに限定されない。ウイルスベクターはアストロウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、トガウイルスベクターを含むこともできる。
【0026】
本発明の発現ベクターは、制御発現系を用いて本発明のペプチドを発現してもよい。治療遺伝子の発現を制御する系が開発され、かつ現行のウイルスおよび非ウイルス遺伝子送達ベクターに組み入れられている。これらの系を以下に簡単に記述する:
【0027】
Tet−on/off系。Tet系は、E.coli Tn10トランスポゾンのテトラサイクリン耐性オペロンに由来する2つの調節エレメント:Tetリプレッサータンパク質(TetR)およびTetRが結合するTetオペレーターDNA配列(tetO)に基づく。系は2つの構成成分「レギュレーター」および「レポーター」プラスミドからなる。「レギュレーター」プラスミドは、単純ヘルペスウイルスのVP16活性化ドメインに融合された変異型Tetリプレッサー(rtetR)を含むハイブリッドタンパク質をコードする。「レポーター」プラスミドは、選択する「レポーター」遺伝子を制御するtet応答性エレメント(TRE)を含む。rtetR−VP16融合タンパク質はTREとのみ結合することができるので、テトラサイクリンの存在下で「レポーター」遺伝子の転写を活性化させる。系は、レトロウイルス、アデノウイルスおよびAAVを含む数多くのウイルスベクターに組み込まれている。
【0028】
エクジソン系。エクジソン系はショウジョウバエに認められる脱皮誘導系を元にしているが、哺乳類細胞において発現の誘導を可能とするために変更されている。系はショウジョウバエステロイドホルモンエクジソンのアナログであるムリステロンAを用い、ヘテロ二量体核受容体を介して目的の遺伝子の発現を活性化する。発現レベルは基底レベルの200倍を上回り、哺乳類細胞の生理学に影響を示さないと報告されている。
【0029】
プロゲステロン系。プロゲステロン受容体は、通常は刺激されて特異的DNA配列と結合し、さらにそのホルモンリガンドとの相互作用を介して転写を活性化する。逆に言えば、プロゲステロン拮抗物質ミフェプリストン(RU486)はホルモン誘導性核輸送およびそれに続くDNA結合を遮断することができる。刺激を受けて、RU486との相互作用を介して結合することができるプロゲステロン受容体の変異型が生成されている。特異的で調節可能な転写因子を生成するために、プロゲステロン受容体のRU486結合ドメインを酵母転写因子GAL4のDNA結合ドメインおよびHSVタンパク質VP16の転写促進ドメインと融合させる。キメラ因子はRU486が存在しなければ不活性である。しかし、ホルモンの添加によりキメラたんぱく質の立体配置の変化が誘導され、かつこの変化によってGAL4結合部位への結合およびGAL4結合部位を含有するプロモーターからの転写の活性化が可能となる。
【0030】
ラパマイシン系。FK506およびラパマイシンなどの免疫抑制剤は、特異的細胞タンパク質と結合しかつその二量体化を促進することにより活性化する。たとえば、ラパマイシンがFK506結合タンパク質(FKBP)と結合すると、他のラパマイシン結合タンパク質FRAPとヘテロ二量体化するが、薬剤を除去することによってこれを逆行させることができる。薬剤を添加することによって2つのタンパク質を結合させる能力により、転写を含む数多くの生物学的プロセスの調節が強化される。キメラDNA結合ドメインはFKBPと融合されており、これにより融合タンパク質の特異的DNA結合配列への結合が可能となる。転写活性化ドメインもFRAPに融合されている。これら2つの融合タンパク質が同一の細胞において共発現しているとき、ラパマイシンの添加を介したヘテロ二量化によって、完全に機能的な転写因子を形成することができる。その後、二量体化したキメラ転写因子を、合成DNA結合配列のコピーを含む合成プロモーター配列と結合することができる。この系はアデノウイルスおよびAAVベクターに良好に組み込むことができる。マウスおよびヒヒのいずれにおいても長期的制御が可能な遺伝子発現が達成されている。
【0031】
本発明の発現ベクターの細胞内への送達は、感染(ウイルスベクターについて)、転写(非ウイルスベクターについて)および当業者に周知の他の方法により達成することができる。他の送達方法および媒体の例は、死菌ウイルス結合あるいは非結合ポリカチオン濃縮DNA、リガンド結合DNA、リポソーム、真核細胞送達媒体細胞、光重合ハイドロゲル材料の沈着、ハンディ遺伝子導入パーティクルガン、電離放射線、核荷電中和または細胞膜との融合を含む。粒子を介した遺伝子導入を用いてもよい。簡単に述べると、従来の調節配列を含む従来型ベクターにDNA配列を挿入して高レベル発現とし、さらにその後ポリリジン、プロタミンおよびアルブミンなどのポリマーDNA結合カチオンなどの合成遺伝子導入分子と共にインキュベートし、アシアロオロソムコイド、インスリン、ガラクトース、ラクトースまたはトランスフェリンなどの細胞標的リガンドと結合させることができる。裸DNAも用いてよい。裸DNAの取り込み効率は生体分解性ラテックスビーズを用いて改善してもよい。疎水性を高め、かつこれによりエンドソームの崩壊および細胞質へのDNAの放出を促進するビーズの処理によって方法をさらに改善してもよい。
【0032】
ある実施形態においては、本発明の新規ペプチドは分泌を阻害する1つまたはそれ以上の他の薬剤と共に標的細胞に導入される。このような薬剤の例はH+/Na+およびNa+/Ca2+チャネル阻害物質ジメチルアミロリド、およびK+/H+ATPアーゼ阻害物質オペラゾールを含むが、これに限定されない。
【0033】
(医薬組成物)
本発明の他の態様は、エイズまたは腫瘍を治療することを目的とした医薬組成物に関する。医薬組成物は(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および(2)医薬品として許容できる担体を含む。
【0034】
ある実施形態においては、医薬組成物は分泌を阻害する1つまたはそれ以上の他の薬剤をさらに含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の他の薬剤はジメチルアミロリドまたはオメプラゾールまたはその両者を含む。
【0035】
本明細書で用いるところの用語「医薬品として許容できる担体」は、医薬品としての投与に適合したあらゆるおよび全ての溶媒、溶解補助剤、充填剤、安定化剤、結合剤、吸収剤、基剤、緩衝化剤、滑沢剤、放出制御媒体、希釈剤、乳化剤、湿潤剤、滑沢剤、分散媒体、コーティング、抗菌または抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などを含むことを意図している。医薬品として活性な物質に対するこのような媒体および薬剤の使用は技術上周知である。何らかの従来の媒体または薬剤が活性化合物に適合しない場合を除き、組成物におけるその使用は意図される。追加的な薬剤も組成物に組み入れることができる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路と適合するよう製剤化される。投与経路の例は静脈内、皮内、皮下、口腔内(例:吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸内などの非経口投与を含む。非経口、皮内または皮下適用に用いられる溶液または懸濁液は以下の成分を含むことができる:注射用蒸留水、生理食塩水、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌薬;アスコルビン酸または重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸またはリン酸などの緩衝化剤および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧調節剤。pHは塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基によって調節することができる。非経口製剤はガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、またはマルチドーズバイアルに封入することができる。
【0037】
注射用途に適した医薬組成物は無菌水性溶液または分散液および無菌注射溶液または分散液の即時調整に適した無菌粉末を含む。静脈内投与については、適切な担体は生理食塩水、静菌水、クレモフォールEL(商標)(BASF、ニュージャージー州パッシパニー)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。いずれの場合も、注射用組成物は無菌でありかつ注射器で容易に扱えるほどの流動性がなければならない。製造および保存条件下で安定であり、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染作用から守られなければならない。担体は、たとえば水、エタノール、ポリオール(たとえばグリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物などを含有する溶媒または分散媒体とすることができる。適切な流動性は、たとえばレクチンなどのコーティングの使用、分散の場合においては報いられた粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの多様な抗菌および抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合、たとえばマンニトール、ソルビトールなどの糖類、ポリアルコール類および塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物中に含むことが望ましいであろう。注射用組成物の長時間吸収は、組成物にモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を含めることにより引き起こすことができる。
【0038】
無菌注射溶液は、必要に応じ、必要とされる量の活性化合物(例:SRPPフラグメントまたは抗SRPP抗体)を、上に列挙される成分の1つまたは複数の組合せを有する適切な溶媒に混合し、その後濾過滅菌することによって調整することができる。分散液は、一般的に、基剤分散媒体および上に列挙するもののうち必要とされる他の成分を含む無菌媒体に活性化合物を混合することによって調製される。無菌注射溶液の調製を目的とした無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ濾過滅菌した活性成分およびその他の所望の成分の溶液からそれらの粉末を得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0039】
経口組成物は、一般的に不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入するかまたは圧縮して錠剤とすることができる。経口治療投与の目的のために、活性化合物を賦形剤と混合し、かつ錠剤、トローチまたはカプセルの形態で用いることができる。経口組成物は、流動担体中の組成物を口腔内に適用し、さらに素早く動かした後吐き出すかまたは嚥下することを特徴とする洗口剤として用いるために、流動担体を用いて調製することもできる。医薬品として適した結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含むことができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチなどは以下の成分のいずれか、または類似した性質の化合物を含有することができる:微結晶性セルロース、トラガントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたは乳糖などの賦形剤;アルギン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはStertesなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料などの香料。
【0040】
吸入による投与のために、化合物は二酸化炭素などのガスなどの適切な噴霧剤を含む圧縮容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーまたはネブライザーの形態で送達される。
【0041】
全身投与も経粘膜的または経皮的手段によるものとすることができる。経粘膜または経皮投与のためには、透過すべきバリアに適した浸透剤を製剤において用いる。このような浸透剤は一般的に技術上既知であり、かつたとえば経粘膜投与を目的として界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は点鼻薬または坐薬の使用によって達成することができる。経皮投与を目的として、一般的に技術上既知であるように生物活性化合物を軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに製剤化する。
【0042】
化合物は、直腸送達を目的とした坐剤(例:カカオ脂および他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を使用)または保持浣腸の形態に調製することもできる。
【0043】
1つの実施形態においては、生体活性化合物を含みうる治療部分は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤など、体内からの迅速な消失に対して化合物を保護するであろう担体と共に調整される。酢酸エチレンビニル共重合体、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ酪酸などの生体分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。このような製剤の調製方法は当業者にとって明らかであろう。材料はAlza社およびNova Pharmaceutical社より購入することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞を標的としたリポソームを含む)も医薬品として許容できる担体として用いることができる。これらは当業者にとって既知の方法に従って調整することができる。
【0044】
経口または非経口組成物を、投与しやすさおよび用量の一定化を目的としてユニット用量形態に製剤化することは特に有益である。本明細書で用いるところのユニット用量形態は、治療する対象に対してユニット用量として適合化した物理的に別個の単位を含み;各ユニットは、必要とされる医薬品担体と共に所望の治療効果を生成するために算出された規定量の活性化合物を含む。本発明のユニット用量形態についての規格は、活性化合物の独自の特性および達成すべき特定の治療効果、および個体の治療を目的とするような活性化合物を配合する技術に固有の限界によって決定されかつこれに直接依存する。
【0045】
そのような化合物の毒性および治療効果は、たとえばLD50(母集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(母集団の50%に対して治療的に有効な用量)を判定することなどを目的とした、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって判定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療係数であり、かつLD50/ED50比として表すことができる。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を用いてもよい一方で、非罹患細胞に対する潜在的な障害を最小化するためにこのような化合物の標的を罹患組織部位とし、これにより副作用を軽減する送達系を設計するために注意を払うべきである。
【0046】
細胞培養分析および動物試験から得られるデータは、ヒトに対して用いるための幅広い用量範囲の製剤化において用いることができる。このような化合物の用量は、好ましくは毒性をほとんど伴わずにED50を含む血流濃度の範囲内にある。用量は、用いる剤型および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変動してもよい。本発明の方法において用いられるあらゆる化合物に対して、始めに細胞培養分析より治療的に有効な用量を推定することができる。動物モデルにおいて、細胞培養において決定したIC50(すなわち症状の最大阻害の1/2を達成する濃度の被験化合物)を含む循環血漿濃度範囲を達成する用量を製剤化してもよい。このような情報は、ヒトに対して有効な用量をより正確に判定するために用いることができる。血漿レベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィなどで測定することができる。
【0047】
医薬組成物は、投与の指示書と共に容器、包装またはディスペンサーに収容することができる。
【0048】
本発明の他の態様は、本発明のペプチドの発現または活性を調節するための医薬組成物を調製するための方法を含む。そのような方法は、医薬品として許容できる担体を、本発明のペプチドの発現または活性を調節する薬剤と共に製剤化することを含む。そのような組成物は他の活性薬剤をさらに含むことができる。したがって本発明は、医薬品として許容できる担体を、本発明のペプチドの発現または活性を調節する薬剤および1つまたはそれ以上の追加的生物活性薬剤と共に配合することにより、医薬組成物を調製するための方法もさらに含む。
【0049】
(エイズおよび腫瘍を治療するための方法)
本発明の他の態様はエイズを治療することを目的とした方法に関する。方法は、VGFPVモチーフを少なくとも1つ含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0050】
1つの実施形態においては、ペプチドは少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0051】
本発明の他の態様は腫瘍を治療することを目的とした方法に関する。方法は、N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0052】
1つの実施形態においては、ペプチドは配列番号1モチーフを少なくとも2つ含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列番号2を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0053】
本発明は、限定的なものと解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。全ての参照文献、特許および公開特許明細書の内容は本明細書全体にわたって引用され、さらに図および表は本明細書に参照文献として援用される。
【実施例1】
【0054】
(腫瘍細胞における小胞分泌の阻害)
(1−1.細胞および培養)
MDA−MB−231細胞は、それぞれヒト乳腺癌およびヒト乳癌細胞に由来し、米国培養細胞系統保存機関(バージニア州マナッサス)から入手した。細胞は、ストレプトマイシン(100U/mL)、ペニシリン(100U/mL)、L−グルタミン(2mM)およびHEPES緩衝化生理食塩水(30μM)を添加したRPMI 1640培地(Invitrogen、カリフォルニア州パロアルト)で維持した。
【0055】
(1−2.抗体)
以下の抗体を使用した:(i)マウスモノクローナル(MEM−28)抗CD45抗体(Abcam.Inc、マサチューセッツ州ケンブリッジ);(ii)マウスモノクローナル抗HIV−1 Nef抗体(Immuno Diagnostic.Inc、マサチューセッツ州);(iii)モノクローナル抗アセチルコリンエステラーゼ(AchE)抗体、クローンAE−1(CHEMICON、カリフォルニア州);(iv)モノクローナル抗チューブリン抗体、クローンB−5−1−2(SIGMA、ミズーリ州)および(v)セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG H鎖+L鎖(H+L)(Pierce、イリノイ州ロックフォード)。
【0056】
(1−3.MDA−MB−231細胞からのエキソソームの分離および精製)
Chariot(商標)法(Active Motif.Co、カリフォルニア州カールズバッド)により、MDA−MB−231細胞(3×105)に、SMRwt(H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH)(配列番号3)、SMRmt(H2N−AGFPVAAAGFPVDYKDDDDK−OH)(配列番号4)、pQBI−SMRwt−GFP(図1パネルB)またはpQBI−SMRmt−GFP(図Figure1、パネルB)をトランスフェクトした。2つのペプチドは商業的に製造された(図1、パネルA)。SMR配列はペプチドのN末端で2回反復され、反復は短いジアラニンによって分けられる。SMR配列に続いてペプチドの検索を可能とするC末端FLAG配列がある。しかし、C末端にはあらゆる配列の挿入が可能である。pQBI−SMRwt−GFP(配列番号5)およびpQBI−SMRmt−GFP(配列番号6)構造は、SMRwt配列またはSMRmt配列の単一コピーをそれぞれpQBIベクター(Qbiogen社)のT7プロモーターとGFPコード配列の間に挿入することによって生成された。
【0057】
簡単に言うと、Chariot溶液10μLを含有する無血清培地200μLにペプチド1μgを加えてよく混合し、室温で30分間インキュベートした。細胞培養プレートを洗った。Chariot(商標)/DNA/ペプチド複合体、続いて無血清培地1600μLををプレートに加えた。5%CO2中で細胞を37℃で1時間培養した。完全増殖培地1mLをプレートに添加し、さらに5%CO2中でプレートを37℃で48時間培養した。2000×gで5分間遠心分離して細胞を培養上清より取り除いた。次に、上清を10,000gで30分間遠心して細胞デブリを除去した。10,000g上清1mLを遠心管に移し、50,000×g、100,000×gおよび400,000×g、4℃で2時間遠心してエキソソームをペレット化した。非トランスフェクトMDA−MB−231細胞から同様に調整した上清をネガティブコントロールとして用いた。
【0058】
(1−4.免疫ブロット分析)
ペレットを1×SDS−PAGEローディングバッファーに再懸濁し、SDS−PAGEで分離した。各サンプル20μLを、SDS−PAGEによって4−20%Tris−HCl Criterionプレキャストゲル(Bio−Red Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で分離し、さらに電気泳動によりニトロセルロース膜に移行させた。膜をTBSで5分間洗い、さらにその後5%脱脂粉乳TTBS溶液(0.1%Tween20含有TBS)中で室温として1時間振盪することによりブロックし、さらに一次抗体(1:10000希釈抗アセチルコリンエステラーゼ(AchE)mAb)、続いてHRPコンジュゲートIgG Ab(H+L)を用い、4℃で一晩振盪することによりイムノブロット用に処理した。タンパク質バンドはウエスタンブロッティングルミノール試薬(Santa Cruz Biotechnology,Inc.カリフォルニア州サンタクルス)で検出した。AchE検出の後、ブロットを剥離し、CD45で再ハイブリダイゼーションした。ウエスタンブロッティングルミノール試薬でタンパク質バンドを検出した後、写真フィルム(BioMaxフィルム;Fisher Scientific、ペンシルバニア州ピッツバーグ)に露光させた。画像をスキャンしてAdobe Photoshop6.0に取り込み、Adobe Illustratorソフトウェア(バージョン8.0;Adobe Systems)で調節し、さらにScion Image Jソフトウェアリリースβ3b(ScionCorporation、メリーランド州フレデリック)を用いてデンシトメトリーを実施した。
【0059】
図1に示すように、拮抗ペプチド(HIV−1NefSMRwt;図1、パネルC)は、細胞内およびMDA−MB−231細胞由来の細胞上清においてAChEをノックダウンした(腫瘍小胞の分泌の指標)。データは両コンパートメントにおける用量依存性も示す。ネガティブコントロール(HIV−1 NefSMRmut、図1、パネルD)は細胞内または上清コンパートメントのいずれにおいてもAChEに効果を示さなかった。
【0060】
上記の結果は、HIV−1 NefSMRwtペプチドが腫瘍細胞からのエキソソーム小胞の放出に拮抗することを示す。これらの小胞は、癌患者の免疫系を調節不全にして腫瘍の生存および増殖を可能とすることが示されている。エキソソーム放出の拮抗によって免疫系がそれ自体を修復しかつ腫瘍を攻撃/殺傷することが可能となるであろう。
【実施例2】
【0061】
(HIV−1 Nefトランスフェクト細胞における小胞分泌阻害)
遺伝学的研究によってSMRモチーフの変異がNEF分泌を停止させることが明示された一方で、この効果がSMR結合部位の破壊によるものであるのか、それともNefタンパク質のミスフォールディングに至る単純な構造的な変化であるのかは不明である。それゆえ、一連のコトランスフェクト実験を実施した。Chariotを用いて、pQBI−HIV Nef−GFP(野生型Nefタンパク質を発現)0.5μg、およびHIV NefSMRwtまたはSMRmutペプチドまたはsM1ペプチド(完全な無作為化対照ペプチドALAETCQNAWA(SEQ ID NO:7))0.5μgのいずれかを、HEK293細胞にコトランスフェクトした。簡単に言うと、Chariot試薬を用いて、野生型Nef−GFPクローンおよびSMRペプチドを室温で30分間複合体化した。無血清培地中のHEK293細胞にDNA/ペプチド/Chariot複合体を加え、細胞を培養皿に播種した。37℃で2時間培養した後、培養皿に血清培地を添加し、さらに細胞を37℃で48時間培養した。次に培地を捕集し、分光蛍光計を用いて分泌を測定した。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果はNefGFP+sM1ペプチド(ネガティブコントロール、100%)の蛍光に対する百分率として表示する。
【0062】
図2に示すように、HIV−1 NefSMRwtペプチド(左より1つ目の棒グラフ)はNefGFPの細胞外上清への放出に拮抗する。NefGFPは細胞外上清においてエキソソーム様小胞内に存在することが示されている。ネガティブコントロールHIV−1 NefSMRmutおよびsM1は小胞の放出に影響を示さなかった。
【0063】
これらの結果より、拮抗物質がHIV−1 Nefトランスフェクト細胞の放出を遮断することが証明される。データより、これらの小胞は、腫瘍細胞が放出するものと同様に、免疫系を殺傷または調節不全とし、HIVが増殖しかつ最終的にエイズの発病に至ることを可能とする。エキソソーム放出の拮抗によって、免疫系がそれ自体を修復してエイズへの進行を阻止することを可能とするであろう。
【0064】
もう1つの実験においては、Chariotを用いて、HIV−1wtNef−GFP 500ngおよびSMRwtペプチド7.8〜500ngでJurkat細胞をコトランスフェクトした。図3Aに示すように、SMRwtペプチドはJurkat細胞の小胞分泌を阻害する。図3Bは、Jurkat細胞においてSMRwtペプチドが用量依存的に小胞分泌を阻害することを示す用量−反応曲線である。
【実施例3】
【0065】
(HIV感染細胞からの小胞分泌およびウイルス粒子放出の阻害)
(3.1 実験I)
I.Jurkat細胞を以下に示すようにコトランスフェクトした:(Chariotキットによるトランスフェクト効率30〜40%)
#1. pNL4−3+Nef SMR wt(拮抗物質) 4プレート
#2. pNL4−3+Nef SMR mt(非機能的拮抗物質) 4プレート
#3. pNL4−3+sM1(ネガティブコントロールペプチド) 4プレート
【0066】
pNL4−3はウイルスゲノムを含有するクローンである。細胞にトランスフェクトすることでウイルスゲノムの発現、および最終的にはウイルス粒子形成および放出を可能とする。p24タンパク質(ウイルスタンパク質)を介して、細胞外上清におけるウイルス粒子生成量を測定する。サンプルは感染より48時間後および96時間後に捕集した。
【0067】
感染の48時間後に各群より2プレートを取り出し、以下の方法で測定した:
a.p24分析
b.Nef分析
c.感染性分析
感染の96時間後に各群より他の2プレートを取り出し、以下の方法で測定した:
a.p24分析
b.Nef分析
c.感染性分析
【0068】
表Iに示すように、ペプチド拮抗物質(NefSMRwt)の存在下でウイルス生成量は96時間目に激減し、ネガティブコントロールペプチド(NefSMRmut)については影響が見られなかった。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の生成および/または放出を遮断することが示唆される。
【0069】
【表1】
【0070】
(3.2 実験II)
Chariot(商標)キットを用いて、Jurkat細胞、HEK293細胞、THP−1単球およびU937単球に、R7またはNefSMRwt(拮抗物質)またはR7+NefSMRmt(非機能的拮抗物質)をコトランスフェクトした。トランスフェクト効率は30〜40%であった。
【0071】
R7はウイルスゲノムを含有するクローンである。細胞にトランスフェクトすることによりウイルスゲノムの発現、および最終的にはウイルス粒子形成および放出を可能とする。p24タンパク質(ウイルスタンパク質)を介して細胞外上清におけるウイルス粒子生成量を測定する。
【0072】
トランスフェクトより2時間、3日、6日、9日、13日、15日、17日、20日、23日、27日および36日後に、各プレートより上清を0.5mL捕集し、新鮮な培地0.5mLと混合し、p24 ELISA分析により測定した。各プレートより上清1.5mLを捕集し、TLA100ローター中で400,000×g、1時間遠心してペレットを作成した。ペレットはp24mAbおよびNef mAbによるウエスタンブロットに用いた。
【0073】
図4Aに示すように、ネガティブコントロール(R7/SMRmt)においては、トランスフェクトより3日後にJurkat細胞のp24濃度が上昇したものの、SMRwt(拮抗物質)培養中ではトランスフェクトより13日後まで上昇しなかった。同様の結果はHEK293細胞およびTHP−1単球でも認められた。SMRwtトランスフェクトU937単球には少量のp24が存在しており、細胞がSMRwt拮抗物質を除去できなかったことが示唆される。これらのデータは、SMRwtがウイルス増殖または感染細胞からの放出のある面と拮抗することを示唆する。しかし、SMRwtの影響は一時的なものと見られる。JurkatおよびHEK細胞は時間と共にペプチドを分解することができるのに対し、U937単球はペプチドを分解できないと見られる。ペプチドの一時的な効果は、非分解性ペプチドの使用(例:イオウ結合を有するペプチドまたはd−エナトマーペプチドの使用)によって克服してもよい。図4Bは、Jurkat細胞においてR7/SMRwtペプチド(パネルA)はp24の放出を遮断するが、R7/SMRmtペプチド(パネルB)は遮断しないことを示す、トランスフェクト後3、6、10、14、17日目の共焦点顕微鏡写真の組合せである。結果は、ELISA/ウエスタン/およびMAGI分析より得られた結果と適合した。青色の染色は核染色であり、赤色の染色は細胞質染色であり、緑色FITC染色はHIVp24タンパク質である。拮抗物質処理細胞の3、6、10日目の画像では、ネガティブコントロール処理細胞の同画像と比較して、細胞質内にp24が大量に蓄積しているのが確認されている。14日目および17日目においては、p24はネガティブコントロール処理の画像のそれと同様に見え始めている。我々はペプチドの細胞内レベルが枯渇することによりウイルスの放出の開始が可能となると考えるので、これはMAGI/ウエスタン/ELISAデータにおいてp24が放出されたと見られるという事実と一致する。
【0074】
図4C〜4EはR7/SMRwtまたはR7/SMRmtをトランスフェクトしたJurkat細胞の、トランスフェクト後6日目(図4C)および14日目(図4D)の電子顕微鏡写真である。6日目には、R7/SMRwt処理細胞の内部において、ウイルス粒子またはヌクレオカプシドが細胞質内およびMVP内に蓄積しているのを認めることができる。これらの細胞の外面上にはウイルス粒子が蓄積しているのを認めることができない(図4C、パネルA−1および)。対照的に、R7/SMRmt処理した細胞の内部に認められるMVBは非常に少数であり、ウイルス粒子の大半は細胞の外面上に蓄積しかつ細胞の南極に分極しているのが認められる(図4C、パネルB−1)。14日目には、ウイルス粒子が、ネガティブコントロールR7/SMRmt処理した細胞(図D、パネルB−2)に認められるのと同様に、R7/SMRwt処理細胞(図4D、パネルA−2)の細胞外面上で膜表面全体で分極せずに大量に蓄積しているのを観察することができる。電子密度の高い「ウイルス粒子」が上記のように蓄積しているのを示すために、6日目および14日目の拮抗物質およびネガティブコントロールペプチド像の高倍率画像を示す(図4E)。エビデンスより、EMで測定するところの感染細胞からのウイルスの放出がSMRwt拮抗物質により遅延することが示される。
【0075】
ウエスタンブロット分析の結果を図5〜8に示す。結果を図9に要約する。図3〜9に示すように、ペプチド拮抗物質(NefSMRwt)の存在下におけるウイルス生成量は0または0近くまで激減する。ネガティブコントロールペプチド(NefSMRmut)については効果が認められなかった。細胞ライセートの分析により、p24の生成は全ての測定条件において同一であることが示され、ウイルスタンパク質発現には影響しないことが示唆される。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の放出を遮断することが示唆される。これは、おそらくはウイルスコンポーネントの細胞質膜へのトラフィックに対する拮抗による。最終的に、これは(i)HIV感染を遮断しかつ(ii)エイズへの進行を阻止するであろう。
【0076】
(3.3 実験III)
Magi/CXCR4細胞を、R7ウイルスDNA/SMRwtペプチドまたはR7ウイルスDNA/SMRmtペプチドのいずれかをトランスフェクトしたJurkat細胞、HEK293細胞、THP−1単球またはU937単球に由来する調整済上清に48時間曝露した。次にこれらの細胞を固定し、X−Galで染色した。図10Aは、R7/SMRwtをトランスフェクトしたJurkat細胞に由来するp24上清の1ng/mL希釈に曝露したMagi/CXCR4細胞を示す。図10Bは、R7/SMRmtをトランスフェクトしたJurkat細胞に由来するp24上清の1ng/mL希釈に曝露したMagi/CXCR4細胞を示す。生産的にR7感染した細胞は、これを青色染色することにより光学顕微鏡下で容易に視覚化される。倍率は×20。R7およびペプチド拮抗物質(SMRwt)で処理した細胞はいずれも青色染色細胞数の激減を示した一方で、R7およびネガティブコントロールペプチド(SMRmt)で処理した細胞は多数の青色染色細胞を示すことに留意されたい。これは、R7/ネガティブコントロールペプチド処理細胞由来の調節済上清にウイルスがあり、R7/拮抗物質処理細胞由来の調節上清にはウイルスがないことを示す。
【0077】
これらのMagi培養の青色染色細胞を定量した。データをトランスフェクト後の時間の関数としてプロットした。図11に示すように、NefSMRwtトランスフェクトJurkat細胞またはNefSMRwtトランスフェクトTHP−1単球に由来する上清の存在下で、感染細胞の個数は有意に減少する。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の放出を遮断することが示唆される。これは、おそらくはウイルスコンポーネントの細胞質膜へのトラフィックに対する拮抗による。最終的に、これはHIV感染を遮断しかつエイズへの進行を阻止するであろう。
【0078】
要約すると、これらの実験より、この技術を用いて、タンパク質またはエピトープが細胞より容易に精製できるよう、細胞にあらゆるタンパク質またはエピトープを生成および細胞外分泌させることが可能であることが証明される。小胞を標的化するエピトープ(例:腫瘍マーカーに対する抗体エピトープ)および抗腫瘍タンパク質またはエピトープと共に充填する場合、これを化学療法に用いることもできる。さらに、この技術を用いて、自己小胞を用いるようベクターを特定の患者細胞にトランスフェクトすることも可能である。
【0079】
タンパク質は小胞の外膜にも位置しているため、免疫応答を誘導するために用いることも可能である。したがって、たとえば、流感エピトープをベクターに充填して小胞の外面に発現させ、流感ウイルスに対する免疫応答を誘導してもよい。
【実施例4】
【0080】
(HIV−1 GAGWT−GFP誘導分泌に対する分泌拮抗物質(HIV Nef SMRwtペプチド)の影響)
Chariotを用いて、pQBI−HIV Gag−GFP0.5μg(野生型Nefタンパク質を発現)、およびHIV−1 Nef SMRwtまたはSMRmutペプチド、sM1ペプチドまたは非トランスフェクト対照のいずれか0.5μgによって細胞をコトランスフェクトした。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果を表IIに示す。任意に1×と設定した非トランスフェクト対照(ネガティブコントロール、100%)に対する粒子分泌レベルを示す。
【0081】
【表2】
【0082】
Gagトランスフェクト細胞より、Gagがいわゆる「ウイルス様粒子」に分泌されることが示されている。これらのウイルス様粒子は小胞に非常に類似している。ウイルス(Gag型小胞として記載されるもの)が細胞からエキソソーム経路を経て放出されることが示唆されている。分泌拮抗物質SMRwtはGagウイルス様粒子放出に対して影響を示さない。これは、Gagトラフィック経路とNefトラフィック経路が少なくとも1つの点で異なることを示唆している。この点は、拮抗物質が操作する経路内のその因子である。
【実施例5】
【0083】
(WTNefタンパク質の存在下におけるHIV−1 GAGWT−GFP誘導分泌に対する分泌拮抗物質(HIV Nef SMRwtペプチド)の影響)
Chariotを用いて、pQBI−HIV Gag−GFP構造物、wtNef−RFP、および拮抗物質(SMRwtペプチド)、ネガティブコントロールSMRmtペプチド、またはランダムペプチドsM1のいずれを細胞に48時間トランスフェクトした。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果を表IIIに示す。任意に1×と設定した非トランスフェクト対照(ネガティブコントロール、100%)に対する粒子分泌レベルを示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表IIIに示すように、SMRwt拮抗ペプチドはwtNef−RFPの存在下でGagウイルス様粒子の放出を遮断する。これらの結果より、細胞内にGagのみが存在するときSMRwtはGagVLP形成および放出にに拮抗しないが、しかし細胞内にGagおよびNefの両者が存在するときSMRwtはGag VLP形成および放出に拮抗することが示される。Nefは、Gagの放出を、Gagが細胞内に単独で存在する場合に取る経路と異なる経路に誘導していることが示唆される。SMRwtペプチドがHIVウイルス放出を遮断できるが、(Gagのみが存在するときに)Gagウイルス様粒子の放出は遮断できない理由も説明する。
【0086】
表IIIに示すように、wtNef−RFPの存在下でSMRwt拮抗ペプチドはwtNef−REPの存在下でGagウイルス様粒子の放出を遮断する。
【実施例6】
【0087】
(SMRwtペプチドの細胞毒性分析)
Chariotを用いて、SMRwtまたはSMRmut(ネガティブコントロール)ペプチドを単独でJurkat細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を48時間増殖させた。細胞を二酢酸フルオレセイン(FD;生細胞によって取り込まれてFITCに変換され細胞に緑色の蛍光を発生させる)およびヨウ化プロピジウム(PI;死細胞の多孔性膜を透過して拡散し、それらの細胞の内部より赤色の蛍光を発生させる)で細胞毒性分析した。
【0088】
図12に示すように、SMRwtトランスフェクト細胞から検出された死細胞は非常に少数に過ぎなかった(<2%)(パネルA−1)。さらに、SMRwtトランスフェクト細胞における死細胞の個数はSMRmutトランスフェクト細胞にみられるものと同様である(パネルB−1)。これらの結果は、SMRwt拮抗物質にはJurkat細胞に対する細胞毒性がほとんどないことを示唆している。
【実施例7】
【0089】
(拮抗物質と相互作用する細胞因子の同定)
(A:SMRwtペプチドと結合しかつ分泌を調節する細胞因子の同定)
Jurkat細胞ライセートに対し、SMRmtとSMRwtペプチドをFLAG免疫沈降と併用して互いに比較し、SMRwt拮抗物質と相互作用するがSMRmtネガティブコントロールとは相互作用しなかった細胞因子を捕捉した。拮抗物質と相互作用する細胞因子をFLAG IP分析法により測定した。簡単に述べると、細胞ライセートをFLAGタグSMRペプチドとカップリングしたAminoLink Plus樹脂と混合する。SMR−特異性細胞タンパク質(ROY)が樹脂上のSMRペプチドと結合する。非特異的不純物(G−BIV)を樹脂から洗い落とし、遠心分離により除去する。SMR特異性細胞タンパク質(ROY)を溶離させ、捕集する。一部の強力に結合した不純物(V)も溶離させ、捕集する。
【0090】
除去した2つのペプチドをSDS PAGEで分離した((図13、パネルA)。SMRwtレーンに出現したがSMRmtレーンには出現しなかったバンドを切り取り、精製した。この方法で5本のバンドを特定、精製した(図13、パネルA)。MALDI TOF MS/MSおよびLC/MS/MSを用いてこれらのタンパク質生成物を同定したところ、モータリン/GRP75;ミオシン10;ビメンチン;GRP78;HSC70であることが確認された。これらのタンパク質のうち、モータリン/GRP75はシャペロンのHsp70ファミリーのメンバーである。ミトコンドリアおよび細胞質のいずれにもあり、ストレス応答から細胞内トラフィック、抗原プロセシング、および細胞増殖、分化および腫瘍化の調節におよぶ複数の機能において意味づけられている。モータリンはp53と相互作用し、アポトーシスおよび小胞輸送(MAC複合体)に関与していることが示されている。また、腫瘍細胞から放出される微小胞にも認められる。
【0091】
ゲルに対してα−モータリン抗体によるウエスタンプローブも実施した。細胞ライセート、拮抗物質溶離物および拮抗物質親和性樹脂を含むレーンでは分子量約75kDaのタンパク質が検出されたが(図13、パネルB、レーン1、3および5)、ネガティブコントロールまたはネガティブコントロールペプチド溶離物のレーン(図13、パネルB、レーン2および4)では検出されなかった。
【0092】
(モータリン抗体の小胞分泌阻害)
モータリン/GPR75抗体とwtNefGFP対照のJurkat細胞へのChariotトランスフェクトを用い、内因性モータリン/GRP75タンパク質をノックダウンしてNef誘導性分泌の効果を観察した(図14)。ネガティブコントロールとしてマッチング細胞にチューブリン抗体をChariotトランスフェクトした。我々は、モータリン/GFP75抗体がNef誘導性分泌を遮断する一方で、a−チューブリン抗体がNef誘導性分泌に影響を示さないことを確認した。これにより、モータリンはNef誘導性エキソソーム分泌において重要であることが示された。モータリン抗体は溶離バンドにハイブリダイゼーションする。
【0093】
モータリンはグルコース調節タンパク質75(GRP75)、またはペプチド結合タンパク質74(PBP74)としても知られる。モータリンは679アミノ酸長であり、熱ショックタンパク質70ファミリーの非誘導性メンバーである。大腸菌DnaKを含む他のファミリーメンバーとの高度な同一性を有する。モータリンの結晶構造は推定されていないものの、Hsp70ファミリー内での進化的保持から、プロテアーゼ感受性部位によって結合されたN末端APTアーゼヌクレオチド結合ドメイン(NBD)およびC末端基質結合ドメイン(SBD)の2つの主要ドメインを有すると予測される。NBDがファミリー全体で高度に維持されている一方で、SBDは大きな多様性を示し、おそらくは基質特異性におけるHsp70ファミリーメンバーの変異を説明すると思われる。そのシャペロン活性はATP−加水分解機能と密接に関連している。
【0094】
モータリンはミトコンドリア、さらには初期エンドサイトーシス小胞などの多様な細胞質小胞に局在していることが確認されている(たとえばKanai他、Genes Cells,2007,12:797−810;Kaul他、Exp.Gerontol.,2002,37:1157−1164;Singh他、Exp Cell Res,1997,234:205−216およびVan Buskirk他、J Immunol.1991,146:500−506を参照)。モータリンは数種類のタンパク質(例:p53およびFGF−1)と直接結合し、かつ非古典的経路(すなわちエキソソーム経路)を介してその細胞内トラフィックを調節する(たとえばKaul他、J Biol Chem,2005,280:39373−39379;Mizukoshi他、Biochem Biophys Res Commun,2001,280:1203−1209;Mizukoshi他、Biochem J,1999,343:461−466;およびPrudovsky他、J Cell Biochem,2008,103:1327−1343を参照)。宿主の免疫系からの攻撃下にある細胞はモータリン発現を介して膜小胞を放出し、またモータリンはそれらの小胞内に確認されている(Pilzer他、Int Immunol,2005,17:1239−1248)。モータリンは多様な腫瘍細胞によって放出されるエキソソーム中にも確認されている(Choi他、J Proteome Res,2007,6:4646−4655;Staubach他、Proteomics,2009)。
【0095】
モータリンは細胞内で複数の主要な機能を果たすことが確認されている(Kaul他、Exp Ger ontol,2007,42:263−274の総説)。タンパク質のインポートおよびエキスポートの細胞内移動系において主要なハウスキーピング機能を果たす。モータリンは、熱によっては誘導されないものの、軽度ストレス応答によって誘導され、ストレスおよびアポトーシスに対する警護の役割を果たすことを可能とする。モータリンの発現低下、または変異型モータリンの発現は老化を引き起こす一方で、モータリン発現の上昇は癌である変異型を伴う不死に至る。
【0096】
エビデンスより、正常細胞からガン細胞への形質転換、さらにはそれらの細胞の化学療法抵抗性におけるモータリンの意味が明確化されている。多様な起源の腫瘍細胞においてモータリンが過剰発現しているのが確認されている(Wadhwa他、Int J Cancer,2006,118:2973−2980)。マウスのモータリンは、正常細胞ではミトコンドリアを細胞内位置としているが、ガン細胞ではその位置がサイトソルに変わっていることが確認されている(Wadhwa他、J Biol Chen 1998,273:29586−29591)。モータリンはp53と相互作用することが確認されている。さらに、この相互作用により細胞質におけるp53の隔離が促進され、これによりその核活性が阻害され(Kaul他、Supra 2007,42:263−274;Yi他、Mol Cell Proteomics,2008,7:315−325;Czarnecka他、Cancer Biol Ther,2006,5:714−720)、一部の腫瘍において放射線療法および化学療法に対する抵抗性を誘導する。最終的に、上で論じたように、モータリンはエキソソーム放出に至る細胞内トラフィックと関連し、かつエキソソーム小胞内に存在することが示されている(Pilzer他pringer Semin Immunopathol,2005,27:375−387;Choi他、J Proteome Res,2007,6:4646−4655;Staubach他、Proteomics,2009)。腫瘍細胞(例:乳房腫瘍)は、腫瘍抗原を担持するエキソソームを調節された様式で分泌することが示されており、かつこれらの抗原を提示するかまたはそれらを抗原提示細胞に伝達することができる(Yu他、J Immunol,2007,178:6867−6875)。これらの腫瘍エキソソームは、免疫細胞の殺傷または調節不全によって免疫抑制を引き起こし、これにより腫瘍の増殖を可能とする免疫優越状態を促進する。このように、腫瘍は多様な機構を介してモータリンを操作し、その健全性を高める。
【0097】
熱ショック70ファミリータンパク質は乳癌と関連することが示されている。それらは分化不良、リンパ節転移、細胞増殖の亢進、アポトーシスの遮断、およびより重度の乳癌病期と明確に関連している。これらの形態学は全て臨床的予後不良の指標である(Calderwood他、Int J Hyperthermia,2008,24:31−39;Calderwood他、Trends Biochem Sci,2006,31:164−172;Ciocca他、Cell Stress Chaperones,2005,10:86−103)。さらに、多くの細胞腫においてモータリンの過剰発現が発癌に寄与していることが明示されており、特に乳癌細胞において確認されている(Wadhwa他、Int J Cancer,2006,118:2973−2980)。
【0098】
モータリンが癌免疫療法の潜在的な標的であることは文献より明らかであり、かつ治療法を開発することを期待した数多くの研究がある(Wadhwa他、Cancer Therapy,2010,1:173−178;Walker他、Am J Pathol,2006,168:1526−1530;Deocaris他、Cancer Lett,2007,252:259−269;Pilzer他、Int J Cancer,2009;Parolini他、J Biol Chem,2009)。たとえば、MKT−077はガン細胞の選択的な死を引き起こすミトコンドリア探索非局在化カチオン色素である(Deocaris他、Cancer Lett,2007,252:259−269)。その細胞標的は発癌性Ras、F−アクチン、テロメラーゼ、およびモータリン(hmot−2)/mthsp70を含む(Parolini他、J Biol Chem,2009)。MKT−077はモータリンのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と結合し、かつタンパク質の三次構造変換を引き起こし、そのシャペロン機能を不活性化し、ヒト腫瘍細胞株の老化を誘導する。臨床試験においては、この分子は腎毒性を引き起こすことが確認されているものの、現在は低用量であればより毒性が低くなる可能性を示唆するいくつかのエビデンスがある。
【実施例8】
【0099】
(小胞/ウイルス放出を阻害するその他の薬剤)
HIV Nef SMRwtペプチドは、FDAによって他の状態において用いるために承認され、かつウイルス放出および小胞放出の遮断において有効性を有すると確認されている薬剤と共に用いてもよい。そのような薬剤の例は:ジメチルアミロリドおよびオメプラゾールである。
【0100】
分泌を遮断する薬剤をスクリーニングするために用いることのできるコトランスフェクト分析が開発されている。手順1(図15)においては、何らかの蛍光タグと結合したNefGFP、NefRFPまたはNefを細胞株にトランスフェクトし、48時間の培養時間中に細胞を薬剤または化学物質で処理する。その後、トランスフェクトより48時間後に、調節済上清の蛍光分子を(多様な方法により)測定する。手順2(図16)においては、N−Rh−PEなどの蛍光ラベルで細胞を処理し、内因的に生成されたエキソソームを標識する。細胞は、化学物質または小分子ペプチド拮抗物質の存在下または非存在下で少なくとも24時間培養させる。次に、調節済上清のN−Rh−PE標識微小胞/エキソソームを(多様な方法により)分析する。調節済上清に蛍光タグがないことは、化学物質がエキソソーム分泌系路を遮断してその経路のNef誘導を遮断したという徴候である。分泌を遮断する薬剤のスクリーニングのための抗スループット測定法を開発するために、この手順を改変すべきである。
【0101】
上の記述は、当業者に本発明を実践する方法を教示する目的のためのものであり、本記載を読むときに当業者に明らかになるであろうこれら全ての明確な改変および変法の詳細を述べることを意図していない。しかし、そのような明確な改変および変法が、以下の請求項によって定義される本実施形態の範囲に含まれることを意図している。文脈より特に反対のことが示されない限り、請求項は請求された構成要素、および意図された目的に合致するために有効なあらゆる手順におけるステップを網羅することを意図している。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、2009年6月12日に出願された米国仮出願番号第61/213,471号および2010年5月20日に出願された米国出願番号第12/783,829からの優先権を主張する。前述の明細書の全文は本明細書に参照文献として援用される。
【0002】
本発明は、全般的に医学的治療、特に微粒子の分泌を阻害することによりエイズまたは腫瘍を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
膜小胞は、一般的に直径が200nm未満である球状の膜微粒子である。微粒子はサイトソル分画を含有する脂質二重膜より構成される。より具体的には、個々の膜小胞は細胞によって細胞内コンパートメントから細胞の細胞質膜との融合を経て生成され、これによりそれらは生体の細胞外生体液または培養細胞の上清に放出される。これらの小胞/微粒子は数多くの様式で放出されうる。古典的な分泌系路は、主として小胞体(ER)膜を介して受容体を担持する従来の膜シグナルを処理する(Lee他、(2004)Annu.Rev.Cell Dev.Biol.20,87−123)。
【0004】
分泌タンパク質は輸送小胞内に封入され、ゴルジ装置に送達され、最終的には細胞外空隙に放出される。
【0005】
一方で、非古典的分泌系路が存在しかつサイトソル非シグナル担持分子の細胞外空隙への移動を媒介する(Lippincott−Schwartz他(1989)Cell 56,801−813;およびMisumi他(1986)J Biol.Chem.261,11398−11403)。これら2つは、分泌型リソソーム(Muesch et al.,(1990)TrendsBiochem.Sci.15,86−88)およびエキソソーム(Johnstone et al.,(1987)J.Biol.Chem.262,9412−9420)などのエンドサイトーシス膜系の細胞内小胞を包含し、後者は後期エンドソームまたは多胞体(MVB)の内部小胞である。細胞毒性Tリンパ球の分泌型リソソームなどの特殊化されたエンドサイトーシス構造が形質膜と融合するとき、リソソームの内容物は細胞の外部とのアクセスを得る。MVBが形質膜と融合するとき、後期エンドサイトーシス構造の管腔内容物は細胞外空隙に放出され、これにより内部多胞体エンドソームがその担持分子と共に細胞外空隙へと放出される(エキソソームと呼ばれる)。他の非古典的経路は、チャネルを伝導するタンパク質または膜小疱形成と呼ばれるプロセスを用いた、サイトソル因子の形質膜を横切る直接的移動を包含する(Nickel,W.(2005)Traffic.6,607−614)。膜小疱形成は、形質膜由来の微小胞の細胞外空隙への漏出を特徴とする。
【0006】
多様な生理学的状況において異なる細胞種から微粒子が放出されることが証明されている。腫瘍細胞は、腫瘍抗原を担持し、かつこれらの抗原を提示するかまたはそれらを抗原提示細胞に転送することのできるエキソソーム、テキソソーム、Texまたは腫瘍テキソソームなどの微粒子を、制御された様式で分泌することが証明されている(Yu他(2007)J.Immunol.178,6867−6875)(国際公開特許第WO99/03499号)。これらの微粒子は腫瘍細胞によって放出されかつ免疫細胞の殺傷または調節不全によって免疫抑制を引き起こし、腫瘍の増殖を可能とする。これらのFasLまたはTNF含有エキソソームの放出は、それにより腫瘍が免疫優越/免疫抑制状態を促進する1つの機構であることが確認されている。一方で、HIV感染細胞がNef含有小胞を放出することが示されている(Guy他(1990)Virology176,413−425;およびCampbell他(2008)Ethn.Dis.18,S2−S9)。我々は、これらの粒子がHIVによって同様に用いられて免疫系を調節不全とし、HIVの生存を可能にしていると推定する。最後に、エンドソームトラフィック経路も感染細胞からのウイルス粒子放出に関与していることが示唆されている(Sanfridson他(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 94,873−878;およびEsser他(2001)J Virol.75,6173−6182)。したがって、HIV感染時に、いくつかの小胞放出経路に関与しているエンドソーム経路が、免疫系の調節および感染細胞のウイルス粒子放出において二重の役割を果たす。微粒子/小胞放出を減衰または阻害するために用いることが可能な有効な方法を有することは特に重要であろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの態様は、細胞からの微粒子の放出を阻害する新規ペプチドに関する。ペプチドは10〜100アミノ酸長を有し、かつ(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(3)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。
【0008】
1つの実施形態においては、ペプチドはN末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはC末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドは少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0009】
本発明の他の態様は、本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドを担持する発現ベクターに関する。
【0010】
本発明の他の態様は、エイズまたは腫瘍を治療することを目的とした医薬組成物に関する。医薬組成物は(1)10〜100アミノ酸長を有しかつ(a)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(b)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(c)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを有するペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および(2)医薬品として許容できる担体を含む。
【0011】
本発明の他の態様はエイズを治療することを目的とした方法に関する。方法は、少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0012】
本発明の他の態様は腫瘍を治療することを目的とした方法に関する。方法は、少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】合成HIV−1 NefSMRwtペプチド(拮抗物質)およびHIV−1 NefSMRmtペプチド(ネガティブコントロール)(パネルA);GFPと融合したHIV−1 NefSMRwtペプチドまたはGFPと融合したHIV−1 NefSMRmtペプチドを発現するベクター構造物(パネルB);およびHIV−1 NefSMRwt(パネルC)またはSMRmtペプチド(パネルD)をトランスフェクトしたMDA−MB−231細胞におけるエキソソームのマーカーであるアセチルコリンエステラーゼの量を示す複合図である。非トランスフェクトMDA−MB−231細胞をネガティブコントロールとして用いた。細胞は無血清培地で48時間培養した。上清1mLを400,000×gで遠心した。上清ペレットまたは細胞ライセートの沈殿体積をPAGE上で泳動させ、ブロットし、抗AchE mAb(アセチルコリンエステラーゼ−1:1000希釈、エキソソームマーカー)でプローブした。細胞ライセートを抗チューブリンmAb(1:4000)で再プローブした。デンシトメトリーによりバンドを測定し、細胞内チューブリンに対して正規化した。本明細書では、データは非トランスフェクト対照に対する百分率として示した。
【図1−2】同上
【図2】HEK293細胞においてHIV−1 NefSMRwtペプチドがNefGFPの放出に拮抗することを示す図である。
【図3A】Jurkat細胞においてHIV−1 NefSMRwtペプチドがNefGFPの放出に拮抗することを示す図である。
【図3B】同上
【図4A】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるp24濃度のELISA分析を示す複合図である。
【図4B】Jurkat細胞において、SMRwtペプチドによってp24の放出が遮断されるが(パネルA)、SMRmtペプチドによっては遮断されないこと(パネルB)を示す共焦点顕微鏡写真の組合せである。
【図4C】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−1)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−1)によるトランスフェクト後6日目のJurkat細胞におけるウイルス粒子分布を示す共焦点顕微鏡および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図4D】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−2)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−2)によるトランスフェクト後14日目のJurkat細胞におけるウイルス粒子分布を示す共焦点および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図4E】R7およびSMRwtペプチド(パネルA−1)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−1)によるトランスフェクト後6日目のJurkat細胞、およびR7およびSMRwtペプチド(パネルA−2)またはR7およびSMRmtペプチド(パネルB−2)によるトランスフェクト後14日目のJurkat細胞におけるJurkat細胞内構造におけるウイルス粒子分布を示す共焦点および電子顕微鏡写真の組合せである。
【図5】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたJurkat細胞におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図6】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたHEK293細胞におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図7】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたTHP−1単球におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図8】R7/SMRwt(パネルA)またはR7/SMRmt(パネルB)をトランスフェクトされたU937単球におけるNefおよびp24のウエスタンブロット分析を示す写真の組合せである。
【図9】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるNefおよびp24のウェスタンブロット分析を示す複合図である。
【図10】R7ウイルスDNA/SMRwtペプチド(パネルA)またはR7ウイルスDNA/SMRmtペプチド(パネルB)のいずれかをトランスフェクトしたMagi/CXCR4細胞の写真の組合せである。
【図11】Jurkat細胞(パネルA)、HEK293細胞(パネルB)、THP−1単球(パネルC)およびU937単球(パネルD)におけるMagi分析ウイルス感染性を示す複合図である。
【図12】SMRwtまたはSMRmtペプチドをトランスフェクトされた細胞の細胞毒性分析の結果を示す写真の組合せである。パネルA−1およびパネルB−1:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞のヨウ化プロピジウム染色。パネルA−2およびパネルB−2:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞の二酢酸フルオレセイン染色。パネルA−3およびパネルB−3:SMRwtおよびSMRmtペプチドをそれぞれトランスフェクトされた細胞の位相差顕微鏡像。
【図13】SMRwtまたはSMRmtペプチドによる免疫沈降(パネルA)およびウエスタンブロットによる75kDのSMR特異性タンパク質の特定を示す写真の組合せである。
【図14】Mortalin抗体のNef分泌阻害を示す図である。
【図15】Nef分泌に対するSMRペプチドまたは未知化合物の効果をモニタリングするためのコトランスフェクト分析を示す図である。
【図16】腫瘍小胞分泌に対するSMRペプチドまたは未知化合物の効果をモニタリングするためのコトランスフェクト分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は多くの異なる形態で具現してもよいが、その一方で本明細書には本発明の具体的な好ましい実施形態が詳細に記載される。この記載は本発明の原則の例示であり、かつ例示された具体的な実施形態に本発明を限定することを意図していない。
【0015】
細胞トラフィック経路はHIVのライフサイクルおよび腫瘍発生に関与していることが知られている(Grossman他(2002)Nat.Med.8,319−323)。たとえば、ある種の腫瘍細胞より放出されるエキソソームは宿主の免疫系を調節不全とし、これにより腫瘍の成長および増殖を可能とする。現在、微粒子トラフィック経路を標的としかつ細胞からの微粒子放出を操作/阻害する実践的な技術はない。本発明は細胞因子と相互作用するHIV−Nefシークエンスを利用し、かつトラフィック経路を操作して細胞の微粒子を生成する能力を遮断する。
【0016】
(ペプチド)
本発明の1つの態様は、細胞からの微粒子の放出を阻害する新規ペプチドに関する。ペプチドは10〜100アミノ酸長を有し、(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(3)少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。以下で用いるところの用語「微粒子」は細胞トラフィック経路に関与する微小担体を指す。微粒子は、典型的にはサイトソル分画を含有する脂質二重膜より構成され、かつ一般的に直径が200nm未満である。微粒子の例はエキソソーム、テキソソームおよびTexまたは腫瘍エキソソームを含むが、これに限定されない。
【0017】
1つの実施形態においては、ペプチドは配列番号1のモチーフを少なくとも2つ含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0018】
本発明のペプチドは化学的に合成されても、または組換えDNA技術(例:宿主細胞より発現および精製される)によって生成されてもよい。ペプチドを合成するかまたは組換えDNA技術によりペプチドを生成するための方法は、当業者に周知である。
【0019】
(発現ベクター)
本発明の他の態様は、本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび本発明の新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドを担持する発現ベクターに関する。
【0020】
用語「発現ベクター」は、宿主細胞におけるポリヌクレオチドの発現に適した形態で本発明の新規ペプチドをコードするポリペプチドを含む非ウイルスまたはウイルスベクターを指す。非ウイルスベクターの1種は、その中に追加的DNAセグメントを結合することのできる環状二重らせんDNAループを含む「プラスミド」である。プラスミドはベクターの最も一般的に用いられる形態であるので、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用いることができる。
【0021】
発現ベクターは、発現に用いる宿主細胞に基づいて選択され、かつ発現させるポリヌクレオチド配列と機能的に結合する1つまたはそれ以上の制御配列を含む。発現ベクターのデザインは、形質転換する宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベルなどのような因子に依存することがあることは、当業者に理解されるであろう。本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入し、これにより本発明の新規ペプチドなどのタンパク質またはペプチドを生成することができる。
【0022】
本明細書で用いるところの用語「調節配列」または「制御配列」は、特定の宿主生命体において機能的に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。用語「調節/制御配列」はプロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節エレメント(例:ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図している。調節/制御配列は、多くの種類の宿主細胞においてヌクレオチド配列の構造的発現を誘導するもの、および一定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を誘導するもの(例:組織特異的制御配列)を含む。
【0023】
ある核酸配列が他の核酸配列との機能的関係に置かれる場合、前者が後者に「機能的に結合」される。たとえば、プレ配列または分泌リーダーペプチドのためのDNAがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、それはポリペプチドのためのDNAと機能的に結合され;プロモーターまたはエンハンサーがコード配列の転写に影響する場合、それはコード配列と機能的に結合され;あるいはリボソーム結合部位が翻訳を促進するよう配置される場合、それはコード配列と機能的に結合される。一般に、「機能的に結合された」は結合されたDNA配列が近接し、かつ分泌リーダーの場合、隣接しかつリーディングフェーズ内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは隣接する必要がない。結合は好適な制限部位に結合することにより達成される。そのような部位が存在しない場合、従来の実践にしたがって合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを用いる。
【0024】
1つの実施形態においては、哺乳類発現ベクターは特定の細胞型において優先的にポリヌクレオチドの発現を誘導することができる(例:ポリヌクレオチドを発現させるには組織特異性調節エレメントが用いられる)。組織特異性調節エレメントは技術上既知であり、かつ上皮細胞特異性プロモーターを含むこともある。その他の適切な組織特異性プロモーターの非制限的な例は肝特異性プロモーター(例:アルブミンプロモーター)、リンパ特異性プロモーター、T細胞受容体および免疫グロブリンのプロモーター、ニューロン特異性プロモーター(例:ニューロフィラメントプロモーター)、膵特異性プロモーター(例:インスリンプロモーター)、および乳腺特異性プロモーター(例:乳ホエイプロモーター)を含む。発生制御プロモーター(例:α−フェトプロテインプロモーター)も包含される。
【0025】
他の実施形態においては、発現ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターの例はレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、およびアルファウイルスベクターを含むが、これに限定されない。ウイルスベクターはアストロウイルス、コロナウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、トガウイルスベクターを含むこともできる。
【0026】
本発明の発現ベクターは、制御発現系を用いて本発明のペプチドを発現してもよい。治療遺伝子の発現を制御する系が開発され、かつ現行のウイルスおよび非ウイルス遺伝子送達ベクターに組み入れられている。これらの系を以下に簡単に記述する:
【0027】
Tet−on/off系。Tet系は、E.coli Tn10トランスポゾンのテトラサイクリン耐性オペロンに由来する2つの調節エレメント:Tetリプレッサータンパク質(TetR)およびTetRが結合するTetオペレーターDNA配列(tetO)に基づく。系は2つの構成成分「レギュレーター」および「レポーター」プラスミドからなる。「レギュレーター」プラスミドは、単純ヘルペスウイルスのVP16活性化ドメインに融合された変異型Tetリプレッサー(rtetR)を含むハイブリッドタンパク質をコードする。「レポーター」プラスミドは、選択する「レポーター」遺伝子を制御するtet応答性エレメント(TRE)を含む。rtetR−VP16融合タンパク質はTREとのみ結合することができるので、テトラサイクリンの存在下で「レポーター」遺伝子の転写を活性化させる。系は、レトロウイルス、アデノウイルスおよびAAVを含む数多くのウイルスベクターに組み込まれている。
【0028】
エクジソン系。エクジソン系はショウジョウバエに認められる脱皮誘導系を元にしているが、哺乳類細胞において発現の誘導を可能とするために変更されている。系はショウジョウバエステロイドホルモンエクジソンのアナログであるムリステロンAを用い、ヘテロ二量体核受容体を介して目的の遺伝子の発現を活性化する。発現レベルは基底レベルの200倍を上回り、哺乳類細胞の生理学に影響を示さないと報告されている。
【0029】
プロゲステロン系。プロゲステロン受容体は、通常は刺激されて特異的DNA配列と結合し、さらにそのホルモンリガンドとの相互作用を介して転写を活性化する。逆に言えば、プロゲステロン拮抗物質ミフェプリストン(RU486)はホルモン誘導性核輸送およびそれに続くDNA結合を遮断することができる。刺激を受けて、RU486との相互作用を介して結合することができるプロゲステロン受容体の変異型が生成されている。特異的で調節可能な転写因子を生成するために、プロゲステロン受容体のRU486結合ドメインを酵母転写因子GAL4のDNA結合ドメインおよびHSVタンパク質VP16の転写促進ドメインと融合させる。キメラ因子はRU486が存在しなければ不活性である。しかし、ホルモンの添加によりキメラたんぱく質の立体配置の変化が誘導され、かつこの変化によってGAL4結合部位への結合およびGAL4結合部位を含有するプロモーターからの転写の活性化が可能となる。
【0030】
ラパマイシン系。FK506およびラパマイシンなどの免疫抑制剤は、特異的細胞タンパク質と結合しかつその二量体化を促進することにより活性化する。たとえば、ラパマイシンがFK506結合タンパク質(FKBP)と結合すると、他のラパマイシン結合タンパク質FRAPとヘテロ二量体化するが、薬剤を除去することによってこれを逆行させることができる。薬剤を添加することによって2つのタンパク質を結合させる能力により、転写を含む数多くの生物学的プロセスの調節が強化される。キメラDNA結合ドメインはFKBPと融合されており、これにより融合タンパク質の特異的DNA結合配列への結合が可能となる。転写活性化ドメインもFRAPに融合されている。これら2つの融合タンパク質が同一の細胞において共発現しているとき、ラパマイシンの添加を介したヘテロ二量化によって、完全に機能的な転写因子を形成することができる。その後、二量体化したキメラ転写因子を、合成DNA結合配列のコピーを含む合成プロモーター配列と結合することができる。この系はアデノウイルスおよびAAVベクターに良好に組み込むことができる。マウスおよびヒヒのいずれにおいても長期的制御が可能な遺伝子発現が達成されている。
【0031】
本発明の発現ベクターの細胞内への送達は、感染(ウイルスベクターについて)、転写(非ウイルスベクターについて)および当業者に周知の他の方法により達成することができる。他の送達方法および媒体の例は、死菌ウイルス結合あるいは非結合ポリカチオン濃縮DNA、リガンド結合DNA、リポソーム、真核細胞送達媒体細胞、光重合ハイドロゲル材料の沈着、ハンディ遺伝子導入パーティクルガン、電離放射線、核荷電中和または細胞膜との融合を含む。粒子を介した遺伝子導入を用いてもよい。簡単に述べると、従来の調節配列を含む従来型ベクターにDNA配列を挿入して高レベル発現とし、さらにその後ポリリジン、プロタミンおよびアルブミンなどのポリマーDNA結合カチオンなどの合成遺伝子導入分子と共にインキュベートし、アシアロオロソムコイド、インスリン、ガラクトース、ラクトースまたはトランスフェリンなどの細胞標的リガンドと結合させることができる。裸DNAも用いてよい。裸DNAの取り込み効率は生体分解性ラテックスビーズを用いて改善してもよい。疎水性を高め、かつこれによりエンドソームの崩壊および細胞質へのDNAの放出を促進するビーズの処理によって方法をさらに改善してもよい。
【0032】
ある実施形態においては、本発明の新規ペプチドは分泌を阻害する1つまたはそれ以上の他の薬剤と共に標的細胞に導入される。このような薬剤の例はH+/Na+およびNa+/Ca2+チャネル阻害物質ジメチルアミロリド、およびK+/H+ATPアーゼ阻害物質オペラゾールを含むが、これに限定されない。
【0033】
(医薬組成物)
本発明の他の態様は、エイズまたは腫瘍を治療することを目的とした医薬組成物に関する。医薬組成物は(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および(2)医薬品として許容できる担体を含む。
【0034】
ある実施形態においては、医薬組成物は分泌を阻害する1つまたはそれ以上の他の薬剤をさらに含む。1つの実施形態においては、1つまたはそれ以上の他の薬剤はジメチルアミロリドまたはオメプラゾールまたはその両者を含む。
【0035】
本明細書で用いるところの用語「医薬品として許容できる担体」は、医薬品としての投与に適合したあらゆるおよび全ての溶媒、溶解補助剤、充填剤、安定化剤、結合剤、吸収剤、基剤、緩衝化剤、滑沢剤、放出制御媒体、希釈剤、乳化剤、湿潤剤、滑沢剤、分散媒体、コーティング、抗菌または抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などを含むことを意図している。医薬品として活性な物質に対するこのような媒体および薬剤の使用は技術上周知である。何らかの従来の媒体または薬剤が活性化合物に適合しない場合を除き、組成物におけるその使用は意図される。追加的な薬剤も組成物に組み入れることができる。
【0036】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路と適合するよう製剤化される。投与経路の例は静脈内、皮内、皮下、口腔内(例:吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸内などの非経口投与を含む。非経口、皮内または皮下適用に用いられる溶液または懸濁液は以下の成分を含むことができる:注射用蒸留水、生理食塩水、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌薬;アスコルビン酸または重硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸またはリン酸などの緩衝化剤および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの浸透圧調節剤。pHは塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基によって調節することができる。非経口製剤はガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、またはマルチドーズバイアルに封入することができる。
【0037】
注射用途に適した医薬組成物は無菌水性溶液または分散液および無菌注射溶液または分散液の即時調整に適した無菌粉末を含む。静脈内投与については、適切な担体は生理食塩水、静菌水、クレモフォールEL(商標)(BASF、ニュージャージー州パッシパニー)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。いずれの場合も、注射用組成物は無菌でありかつ注射器で容易に扱えるほどの流動性がなければならない。製造および保存条件下で安定であり、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染作用から守られなければならない。担体は、たとえば水、エタノール、ポリオール(たとえばグリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物などを含有する溶媒または分散媒体とすることができる。適切な流動性は、たとえばレクチンなどのコーティングの使用、分散の場合においては報いられた粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの多様な抗菌および抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合、たとえばマンニトール、ソルビトールなどの糖類、ポリアルコール類および塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物中に含むことが望ましいであろう。注射用組成物の長時間吸収は、組成物にモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤を含めることにより引き起こすことができる。
【0038】
無菌注射溶液は、必要に応じ、必要とされる量の活性化合物(例:SRPPフラグメントまたは抗SRPP抗体)を、上に列挙される成分の1つまたは複数の組合せを有する適切な溶媒に混合し、その後濾過滅菌することによって調整することができる。分散液は、一般的に、基剤分散媒体および上に列挙するもののうち必要とされる他の成分を含む無菌媒体に活性化合物を混合することによって調製される。無菌注射溶液の調製を目的とした無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ濾過滅菌した活性成分およびその他の所望の成分の溶液からそれらの粉末を得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0039】
経口組成物は、一般的に不活性希釈剤または食用担体を含む。それらはゼラチンカプセルに封入するかまたは圧縮して錠剤とすることができる。経口治療投与の目的のために、活性化合物を賦形剤と混合し、かつ錠剤、トローチまたはカプセルの形態で用いることができる。経口組成物は、流動担体中の組成物を口腔内に適用し、さらに素早く動かした後吐き出すかまたは嚥下することを特徴とする洗口剤として用いるために、流動担体を用いて調製することもできる。医薬品として適した結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含むことができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチなどは以下の成分のいずれか、または類似した性質の化合物を含有することができる:微結晶性セルロース、トラガントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたは乳糖などの賦形剤;アルギン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはStertesなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味料;またはペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料などの香料。
【0040】
吸入による投与のために、化合物は二酸化炭素などのガスなどの適切な噴霧剤を含む圧縮容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーまたはネブライザーの形態で送達される。
【0041】
全身投与も経粘膜的または経皮的手段によるものとすることができる。経粘膜または経皮投与のためには、透過すべきバリアに適した浸透剤を製剤において用いる。このような浸透剤は一般的に技術上既知であり、かつたとえば経粘膜投与を目的として界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は点鼻薬または坐薬の使用によって達成することができる。経皮投与を目的として、一般的に技術上既知であるように生物活性化合物を軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに製剤化する。
【0042】
化合物は、直腸送達を目的とした坐剤(例:カカオ脂および他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を使用)または保持浣腸の形態に調製することもできる。
【0043】
1つの実施形態においては、生体活性化合物を含みうる治療部分は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤など、体内からの迅速な消失に対して化合物を保護するであろう担体と共に調整される。酢酸エチレンビニル共重合体、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ酪酸などの生体分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。このような製剤の調製方法は当業者にとって明らかであろう。材料はAlza社およびNova Pharmaceutical社より購入することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞を標的としたリポソームを含む)も医薬品として許容できる担体として用いることができる。これらは当業者にとって既知の方法に従って調整することができる。
【0044】
経口または非経口組成物を、投与しやすさおよび用量の一定化を目的としてユニット用量形態に製剤化することは特に有益である。本明細書で用いるところのユニット用量形態は、治療する対象に対してユニット用量として適合化した物理的に別個の単位を含み;各ユニットは、必要とされる医薬品担体と共に所望の治療効果を生成するために算出された規定量の活性化合物を含む。本発明のユニット用量形態についての規格は、活性化合物の独自の特性および達成すべき特定の治療効果、および個体の治療を目的とするような活性化合物を配合する技術に固有の限界によって決定されかつこれに直接依存する。
【0045】
そのような化合物の毒性および治療効果は、たとえばLD50(母集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(母集団の50%に対して治療的に有効な用量)を判定することなどを目的とした、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって判定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療係数であり、かつLD50/ED50比として表すことができる。大きな治療係数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を用いてもよい一方で、非罹患細胞に対する潜在的な障害を最小化するためにこのような化合物の標的を罹患組織部位とし、これにより副作用を軽減する送達系を設計するために注意を払うべきである。
【0046】
細胞培養分析および動物試験から得られるデータは、ヒトに対して用いるための幅広い用量範囲の製剤化において用いることができる。このような化合物の用量は、好ましくは毒性をほとんど伴わずにED50を含む血流濃度の範囲内にある。用量は、用いる剤型および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変動してもよい。本発明の方法において用いられるあらゆる化合物に対して、始めに細胞培養分析より治療的に有効な用量を推定することができる。動物モデルにおいて、細胞培養において決定したIC50(すなわち症状の最大阻害の1/2を達成する濃度の被験化合物)を含む循環血漿濃度範囲を達成する用量を製剤化してもよい。このような情報は、ヒトに対して有効な用量をより正確に判定するために用いることができる。血漿レベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィなどで測定することができる。
【0047】
医薬組成物は、投与の指示書と共に容器、包装またはディスペンサーに収容することができる。
【0048】
本発明の他の態様は、本発明のペプチドの発現または活性を調節するための医薬組成物を調製するための方法を含む。そのような方法は、医薬品として許容できる担体を、本発明のペプチドの発現または活性を調節する薬剤と共に製剤化することを含む。そのような組成物は他の活性薬剤をさらに含むことができる。したがって本発明は、医薬品として許容できる担体を、本発明のペプチドの発現または活性を調節する薬剤および1つまたはそれ以上の追加的生物活性薬剤と共に配合することにより、医薬組成物を調製するための方法もさらに含む。
【0049】
(エイズおよび腫瘍を治療するための方法)
本発明の他の態様はエイズを治療することを目的とした方法に関する。方法は、VGFPVモチーフを少なくとも1つ含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0050】
1つの実施形態においては、ペプチドは少なくとも2つのVGFPV(配列番号1)モチーフを含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列VGFPVAAVGFPV(配列番号2)を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0051】
本発明の他の態様は腫瘍を治療することを目的とした方法に関する。方法は、N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0052】
1つの実施形態においては、ペプチドは配列番号1モチーフを少なくとも2つ含む。他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列番号2を含む。さらに他の実施形態においては、ペプチドはアミノ酸配列H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH(配列番号3)を含む。
【0053】
本発明は、限定的なものと解釈すべきでない以下の実施例によってさらに例示される。全ての参照文献、特許および公開特許明細書の内容は本明細書全体にわたって引用され、さらに図および表は本明細書に参照文献として援用される。
【実施例1】
【0054】
(腫瘍細胞における小胞分泌の阻害)
(1−1.細胞および培養)
MDA−MB−231細胞は、それぞれヒト乳腺癌およびヒト乳癌細胞に由来し、米国培養細胞系統保存機関(バージニア州マナッサス)から入手した。細胞は、ストレプトマイシン(100U/mL)、ペニシリン(100U/mL)、L−グルタミン(2mM)およびHEPES緩衝化生理食塩水(30μM)を添加したRPMI 1640培地(Invitrogen、カリフォルニア州パロアルト)で維持した。
【0055】
(1−2.抗体)
以下の抗体を使用した:(i)マウスモノクローナル(MEM−28)抗CD45抗体(Abcam.Inc、マサチューセッツ州ケンブリッジ);(ii)マウスモノクローナル抗HIV−1 Nef抗体(Immuno Diagnostic.Inc、マサチューセッツ州);(iii)モノクローナル抗アセチルコリンエステラーゼ(AchE)抗体、クローンAE−1(CHEMICON、カリフォルニア州);(iv)モノクローナル抗チューブリン抗体、クローンB−5−1−2(SIGMA、ミズーリ州)および(v)セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG H鎖+L鎖(H+L)(Pierce、イリノイ州ロックフォード)。
【0056】
(1−3.MDA−MB−231細胞からのエキソソームの分離および精製)
Chariot(商標)法(Active Motif.Co、カリフォルニア州カールズバッド)により、MDA−MB−231細胞(3×105)に、SMRwt(H2N−VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK−OH)(配列番号3)、SMRmt(H2N−AGFPVAAAGFPVDYKDDDDK−OH)(配列番号4)、pQBI−SMRwt−GFP(図1パネルB)またはpQBI−SMRmt−GFP(図Figure1、パネルB)をトランスフェクトした。2つのペプチドは商業的に製造された(図1、パネルA)。SMR配列はペプチドのN末端で2回反復され、反復は短いジアラニンによって分けられる。SMR配列に続いてペプチドの検索を可能とするC末端FLAG配列がある。しかし、C末端にはあらゆる配列の挿入が可能である。pQBI−SMRwt−GFP(配列番号5)およびpQBI−SMRmt−GFP(配列番号6)構造は、SMRwt配列またはSMRmt配列の単一コピーをそれぞれpQBIベクター(Qbiogen社)のT7プロモーターとGFPコード配列の間に挿入することによって生成された。
【0057】
簡単に言うと、Chariot溶液10μLを含有する無血清培地200μLにペプチド1μgを加えてよく混合し、室温で30分間インキュベートした。細胞培養プレートを洗った。Chariot(商標)/DNA/ペプチド複合体、続いて無血清培地1600μLををプレートに加えた。5%CO2中で細胞を37℃で1時間培養した。完全増殖培地1mLをプレートに添加し、さらに5%CO2中でプレートを37℃で48時間培養した。2000×gで5分間遠心分離して細胞を培養上清より取り除いた。次に、上清を10,000gで30分間遠心して細胞デブリを除去した。10,000g上清1mLを遠心管に移し、50,000×g、100,000×gおよび400,000×g、4℃で2時間遠心してエキソソームをペレット化した。非トランスフェクトMDA−MB−231細胞から同様に調整した上清をネガティブコントロールとして用いた。
【0058】
(1−4.免疫ブロット分析)
ペレットを1×SDS−PAGEローディングバッファーに再懸濁し、SDS−PAGEで分離した。各サンプル20μLを、SDS−PAGEによって4−20%Tris−HCl Criterionプレキャストゲル(Bio−Red Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で分離し、さらに電気泳動によりニトロセルロース膜に移行させた。膜をTBSで5分間洗い、さらにその後5%脱脂粉乳TTBS溶液(0.1%Tween20含有TBS)中で室温として1時間振盪することによりブロックし、さらに一次抗体(1:10000希釈抗アセチルコリンエステラーゼ(AchE)mAb)、続いてHRPコンジュゲートIgG Ab(H+L)を用い、4℃で一晩振盪することによりイムノブロット用に処理した。タンパク質バンドはウエスタンブロッティングルミノール試薬(Santa Cruz Biotechnology,Inc.カリフォルニア州サンタクルス)で検出した。AchE検出の後、ブロットを剥離し、CD45で再ハイブリダイゼーションした。ウエスタンブロッティングルミノール試薬でタンパク質バンドを検出した後、写真フィルム(BioMaxフィルム;Fisher Scientific、ペンシルバニア州ピッツバーグ)に露光させた。画像をスキャンしてAdobe Photoshop6.0に取り込み、Adobe Illustratorソフトウェア(バージョン8.0;Adobe Systems)で調節し、さらにScion Image Jソフトウェアリリースβ3b(ScionCorporation、メリーランド州フレデリック)を用いてデンシトメトリーを実施した。
【0059】
図1に示すように、拮抗ペプチド(HIV−1NefSMRwt;図1、パネルC)は、細胞内およびMDA−MB−231細胞由来の細胞上清においてAChEをノックダウンした(腫瘍小胞の分泌の指標)。データは両コンパートメントにおける用量依存性も示す。ネガティブコントロール(HIV−1 NefSMRmut、図1、パネルD)は細胞内または上清コンパートメントのいずれにおいてもAChEに効果を示さなかった。
【0060】
上記の結果は、HIV−1 NefSMRwtペプチドが腫瘍細胞からのエキソソーム小胞の放出に拮抗することを示す。これらの小胞は、癌患者の免疫系を調節不全にして腫瘍の生存および増殖を可能とすることが示されている。エキソソーム放出の拮抗によって免疫系がそれ自体を修復しかつ腫瘍を攻撃/殺傷することが可能となるであろう。
【実施例2】
【0061】
(HIV−1 Nefトランスフェクト細胞における小胞分泌阻害)
遺伝学的研究によってSMRモチーフの変異がNEF分泌を停止させることが明示された一方で、この効果がSMR結合部位の破壊によるものであるのか、それともNefタンパク質のミスフォールディングに至る単純な構造的な変化であるのかは不明である。それゆえ、一連のコトランスフェクト実験を実施した。Chariotを用いて、pQBI−HIV Nef−GFP(野生型Nefタンパク質を発現)0.5μg、およびHIV NefSMRwtまたはSMRmutペプチドまたはsM1ペプチド(完全な無作為化対照ペプチドALAETCQNAWA(SEQ ID NO:7))0.5μgのいずれかを、HEK293細胞にコトランスフェクトした。簡単に言うと、Chariot試薬を用いて、野生型Nef−GFPクローンおよびSMRペプチドを室温で30分間複合体化した。無血清培地中のHEK293細胞にDNA/ペプチド/Chariot複合体を加え、細胞を培養皿に播種した。37℃で2時間培養した後、培養皿に血清培地を添加し、さらに細胞を37℃で48時間培養した。次に培地を捕集し、分光蛍光計を用いて分泌を測定した。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果はNefGFP+sM1ペプチド(ネガティブコントロール、100%)の蛍光に対する百分率として表示する。
【0062】
図2に示すように、HIV−1 NefSMRwtペプチド(左より1つ目の棒グラフ)はNefGFPの細胞外上清への放出に拮抗する。NefGFPは細胞外上清においてエキソソーム様小胞内に存在することが示されている。ネガティブコントロールHIV−1 NefSMRmutおよびsM1は小胞の放出に影響を示さなかった。
【0063】
これらの結果より、拮抗物質がHIV−1 Nefトランスフェクト細胞の放出を遮断することが証明される。データより、これらの小胞は、腫瘍細胞が放出するものと同様に、免疫系を殺傷または調節不全とし、HIVが増殖しかつ最終的にエイズの発病に至ることを可能とする。エキソソーム放出の拮抗によって、免疫系がそれ自体を修復してエイズへの進行を阻止することを可能とするであろう。
【0064】
もう1つの実験においては、Chariotを用いて、HIV−1wtNef−GFP 500ngおよびSMRwtペプチド7.8〜500ngでJurkat細胞をコトランスフェクトした。図3Aに示すように、SMRwtペプチドはJurkat細胞の小胞分泌を阻害する。図3Bは、Jurkat細胞においてSMRwtペプチドが用量依存的に小胞分泌を阻害することを示す用量−反応曲線である。
【実施例3】
【0065】
(HIV感染細胞からの小胞分泌およびウイルス粒子放出の阻害)
(3.1 実験I)
I.Jurkat細胞を以下に示すようにコトランスフェクトした:(Chariotキットによるトランスフェクト効率30〜40%)
#1. pNL4−3+Nef SMR wt(拮抗物質) 4プレート
#2. pNL4−3+Nef SMR mt(非機能的拮抗物質) 4プレート
#3. pNL4−3+sM1(ネガティブコントロールペプチド) 4プレート
【0066】
pNL4−3はウイルスゲノムを含有するクローンである。細胞にトランスフェクトすることでウイルスゲノムの発現、および最終的にはウイルス粒子形成および放出を可能とする。p24タンパク質(ウイルスタンパク質)を介して、細胞外上清におけるウイルス粒子生成量を測定する。サンプルは感染より48時間後および96時間後に捕集した。
【0067】
感染の48時間後に各群より2プレートを取り出し、以下の方法で測定した:
a.p24分析
b.Nef分析
c.感染性分析
感染の96時間後に各群より他の2プレートを取り出し、以下の方法で測定した:
a.p24分析
b.Nef分析
c.感染性分析
【0068】
表Iに示すように、ペプチド拮抗物質(NefSMRwt)の存在下でウイルス生成量は96時間目に激減し、ネガティブコントロールペプチド(NefSMRmut)については影響が見られなかった。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の生成および/または放出を遮断することが示唆される。
【0069】
【表1】
【0070】
(3.2 実験II)
Chariot(商標)キットを用いて、Jurkat細胞、HEK293細胞、THP−1単球およびU937単球に、R7またはNefSMRwt(拮抗物質)またはR7+NefSMRmt(非機能的拮抗物質)をコトランスフェクトした。トランスフェクト効率は30〜40%であった。
【0071】
R7はウイルスゲノムを含有するクローンである。細胞にトランスフェクトすることによりウイルスゲノムの発現、および最終的にはウイルス粒子形成および放出を可能とする。p24タンパク質(ウイルスタンパク質)を介して細胞外上清におけるウイルス粒子生成量を測定する。
【0072】
トランスフェクトより2時間、3日、6日、9日、13日、15日、17日、20日、23日、27日および36日後に、各プレートより上清を0.5mL捕集し、新鮮な培地0.5mLと混合し、p24 ELISA分析により測定した。各プレートより上清1.5mLを捕集し、TLA100ローター中で400,000×g、1時間遠心してペレットを作成した。ペレットはp24mAbおよびNef mAbによるウエスタンブロットに用いた。
【0073】
図4Aに示すように、ネガティブコントロール(R7/SMRmt)においては、トランスフェクトより3日後にJurkat細胞のp24濃度が上昇したものの、SMRwt(拮抗物質)培養中ではトランスフェクトより13日後まで上昇しなかった。同様の結果はHEK293細胞およびTHP−1単球でも認められた。SMRwtトランスフェクトU937単球には少量のp24が存在しており、細胞がSMRwt拮抗物質を除去できなかったことが示唆される。これらのデータは、SMRwtがウイルス増殖または感染細胞からの放出のある面と拮抗することを示唆する。しかし、SMRwtの影響は一時的なものと見られる。JurkatおよびHEK細胞は時間と共にペプチドを分解することができるのに対し、U937単球はペプチドを分解できないと見られる。ペプチドの一時的な効果は、非分解性ペプチドの使用(例:イオウ結合を有するペプチドまたはd−エナトマーペプチドの使用)によって克服してもよい。図4Bは、Jurkat細胞においてR7/SMRwtペプチド(パネルA)はp24の放出を遮断するが、R7/SMRmtペプチド(パネルB)は遮断しないことを示す、トランスフェクト後3、6、10、14、17日目の共焦点顕微鏡写真の組合せである。結果は、ELISA/ウエスタン/およびMAGI分析より得られた結果と適合した。青色の染色は核染色であり、赤色の染色は細胞質染色であり、緑色FITC染色はHIVp24タンパク質である。拮抗物質処理細胞の3、6、10日目の画像では、ネガティブコントロール処理細胞の同画像と比較して、細胞質内にp24が大量に蓄積しているのが確認されている。14日目および17日目においては、p24はネガティブコントロール処理の画像のそれと同様に見え始めている。我々はペプチドの細胞内レベルが枯渇することによりウイルスの放出の開始が可能となると考えるので、これはMAGI/ウエスタン/ELISAデータにおいてp24が放出されたと見られるという事実と一致する。
【0074】
図4C〜4EはR7/SMRwtまたはR7/SMRmtをトランスフェクトしたJurkat細胞の、トランスフェクト後6日目(図4C)および14日目(図4D)の電子顕微鏡写真である。6日目には、R7/SMRwt処理細胞の内部において、ウイルス粒子またはヌクレオカプシドが細胞質内およびMVP内に蓄積しているのを認めることができる。これらの細胞の外面上にはウイルス粒子が蓄積しているのを認めることができない(図4C、パネルA−1および)。対照的に、R7/SMRmt処理した細胞の内部に認められるMVBは非常に少数であり、ウイルス粒子の大半は細胞の外面上に蓄積しかつ細胞の南極に分極しているのが認められる(図4C、パネルB−1)。14日目には、ウイルス粒子が、ネガティブコントロールR7/SMRmt処理した細胞(図D、パネルB−2)に認められるのと同様に、R7/SMRwt処理細胞(図4D、パネルA−2)の細胞外面上で膜表面全体で分極せずに大量に蓄積しているのを観察することができる。電子密度の高い「ウイルス粒子」が上記のように蓄積しているのを示すために、6日目および14日目の拮抗物質およびネガティブコントロールペプチド像の高倍率画像を示す(図4E)。エビデンスより、EMで測定するところの感染細胞からのウイルスの放出がSMRwt拮抗物質により遅延することが示される。
【0075】
ウエスタンブロット分析の結果を図5〜8に示す。結果を図9に要約する。図3〜9に示すように、ペプチド拮抗物質(NefSMRwt)の存在下におけるウイルス生成量は0または0近くまで激減する。ネガティブコントロールペプチド(NefSMRmut)については効果が認められなかった。細胞ライセートの分析により、p24の生成は全ての測定条件において同一であることが示され、ウイルスタンパク質発現には影響しないことが示唆される。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の放出を遮断することが示唆される。これは、おそらくはウイルスコンポーネントの細胞質膜へのトラフィックに対する拮抗による。最終的に、これは(i)HIV感染を遮断しかつ(ii)エイズへの進行を阻止するであろう。
【0076】
(3.3 実験III)
Magi/CXCR4細胞を、R7ウイルスDNA/SMRwtペプチドまたはR7ウイルスDNA/SMRmtペプチドのいずれかをトランスフェクトしたJurkat細胞、HEK293細胞、THP−1単球またはU937単球に由来する調整済上清に48時間曝露した。次にこれらの細胞を固定し、X−Galで染色した。図10Aは、R7/SMRwtをトランスフェクトしたJurkat細胞に由来するp24上清の1ng/mL希釈に曝露したMagi/CXCR4細胞を示す。図10Bは、R7/SMRmtをトランスフェクトしたJurkat細胞に由来するp24上清の1ng/mL希釈に曝露したMagi/CXCR4細胞を示す。生産的にR7感染した細胞は、これを青色染色することにより光学顕微鏡下で容易に視覚化される。倍率は×20。R7およびペプチド拮抗物質(SMRwt)で処理した細胞はいずれも青色染色細胞数の激減を示した一方で、R7およびネガティブコントロールペプチド(SMRmt)で処理した細胞は多数の青色染色細胞を示すことに留意されたい。これは、R7/ネガティブコントロールペプチド処理細胞由来の調節済上清にウイルスがあり、R7/拮抗物質処理細胞由来の調節上清にはウイルスがないことを示す。
【0077】
これらのMagi培養の青色染色細胞を定量した。データをトランスフェクト後の時間の関数としてプロットした。図11に示すように、NefSMRwtトランスフェクトJurkat細胞またはNefSMRwtトランスフェクトTHP−1単球に由来する上清の存在下で、感染細胞の個数は有意に減少する。データより、拮抗物質が感染細胞からのウイルス粒子の放出を遮断することが示唆される。これは、おそらくはウイルスコンポーネントの細胞質膜へのトラフィックに対する拮抗による。最終的に、これはHIV感染を遮断しかつエイズへの進行を阻止するであろう。
【0078】
要約すると、これらの実験より、この技術を用いて、タンパク質またはエピトープが細胞より容易に精製できるよう、細胞にあらゆるタンパク質またはエピトープを生成および細胞外分泌させることが可能であることが証明される。小胞を標的化するエピトープ(例:腫瘍マーカーに対する抗体エピトープ)および抗腫瘍タンパク質またはエピトープと共に充填する場合、これを化学療法に用いることもできる。さらに、この技術を用いて、自己小胞を用いるようベクターを特定の患者細胞にトランスフェクトすることも可能である。
【0079】
タンパク質は小胞の外膜にも位置しているため、免疫応答を誘導するために用いることも可能である。したがって、たとえば、流感エピトープをベクターに充填して小胞の外面に発現させ、流感ウイルスに対する免疫応答を誘導してもよい。
【実施例4】
【0080】
(HIV−1 GAGWT−GFP誘導分泌に対する分泌拮抗物質(HIV Nef SMRwtペプチド)の影響)
Chariotを用いて、pQBI−HIV Gag−GFP0.5μg(野生型Nefタンパク質を発現)、およびHIV−1 Nef SMRwtまたはSMRmutペプチド、sM1ペプチドまたは非トランスフェクト対照のいずれか0.5μgによって細胞をコトランスフェクトした。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果を表IIに示す。任意に1×と設定した非トランスフェクト対照(ネガティブコントロール、100%)に対する粒子分泌レベルを示す。
【0081】
【表2】
【0082】
Gagトランスフェクト細胞より、Gagがいわゆる「ウイルス様粒子」に分泌されることが示されている。これらのウイルス様粒子は小胞に非常に類似している。ウイルス(Gag型小胞として記載されるもの)が細胞からエキソソーム経路を経て放出されることが示唆されている。分泌拮抗物質SMRwtはGagウイルス様粒子放出に対して影響を示さない。これは、Gagトラフィック経路とNefトラフィック経路が少なくとも1つの点で異なることを示唆している。この点は、拮抗物質が操作する経路内のその因子である。
【実施例5】
【0083】
(WTNefタンパク質の存在下におけるHIV−1 GAGWT−GFP誘導分泌に対する分泌拮抗物質(HIV Nef SMRwtペプチド)の影響)
Chariotを用いて、pQBI−HIV Gag−GFP構造物、wtNef−RFP、および拮抗物質(SMRwtペプチド)、ネガティブコントロールSMRmtペプチド、またはランダムペプチドsM1のいずれを細胞に48時間トランスフェクトした。これらの培養に由来する調整済上清のGFP蛍光をプレートリーダーで測定した。結果を表IIIに示す。任意に1×と設定した非トランスフェクト対照(ネガティブコントロール、100%)に対する粒子分泌レベルを示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表IIIに示すように、SMRwt拮抗ペプチドはwtNef−RFPの存在下でGagウイルス様粒子の放出を遮断する。これらの結果より、細胞内にGagのみが存在するときSMRwtはGagVLP形成および放出にに拮抗しないが、しかし細胞内にGagおよびNefの両者が存在するときSMRwtはGag VLP形成および放出に拮抗することが示される。Nefは、Gagの放出を、Gagが細胞内に単独で存在する場合に取る経路と異なる経路に誘導していることが示唆される。SMRwtペプチドがHIVウイルス放出を遮断できるが、(Gagのみが存在するときに)Gagウイルス様粒子の放出は遮断できない理由も説明する。
【0086】
表IIIに示すように、wtNef−RFPの存在下でSMRwt拮抗ペプチドはwtNef−REPの存在下でGagウイルス様粒子の放出を遮断する。
【実施例6】
【0087】
(SMRwtペプチドの細胞毒性分析)
Chariotを用いて、SMRwtまたはSMRmut(ネガティブコントロール)ペプチドを単独でJurkat細胞にトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を48時間増殖させた。細胞を二酢酸フルオレセイン(FD;生細胞によって取り込まれてFITCに変換され細胞に緑色の蛍光を発生させる)およびヨウ化プロピジウム(PI;死細胞の多孔性膜を透過して拡散し、それらの細胞の内部より赤色の蛍光を発生させる)で細胞毒性分析した。
【0088】
図12に示すように、SMRwtトランスフェクト細胞から検出された死細胞は非常に少数に過ぎなかった(<2%)(パネルA−1)。さらに、SMRwtトランスフェクト細胞における死細胞の個数はSMRmutトランスフェクト細胞にみられるものと同様である(パネルB−1)。これらの結果は、SMRwt拮抗物質にはJurkat細胞に対する細胞毒性がほとんどないことを示唆している。
【実施例7】
【0089】
(拮抗物質と相互作用する細胞因子の同定)
(A:SMRwtペプチドと結合しかつ分泌を調節する細胞因子の同定)
Jurkat細胞ライセートに対し、SMRmtとSMRwtペプチドをFLAG免疫沈降と併用して互いに比較し、SMRwt拮抗物質と相互作用するがSMRmtネガティブコントロールとは相互作用しなかった細胞因子を捕捉した。拮抗物質と相互作用する細胞因子をFLAG IP分析法により測定した。簡単に述べると、細胞ライセートをFLAGタグSMRペプチドとカップリングしたAminoLink Plus樹脂と混合する。SMR−特異性細胞タンパク質(ROY)が樹脂上のSMRペプチドと結合する。非特異的不純物(G−BIV)を樹脂から洗い落とし、遠心分離により除去する。SMR特異性細胞タンパク質(ROY)を溶離させ、捕集する。一部の強力に結合した不純物(V)も溶離させ、捕集する。
【0090】
除去した2つのペプチドをSDS PAGEで分離した((図13、パネルA)。SMRwtレーンに出現したがSMRmtレーンには出現しなかったバンドを切り取り、精製した。この方法で5本のバンドを特定、精製した(図13、パネルA)。MALDI TOF MS/MSおよびLC/MS/MSを用いてこれらのタンパク質生成物を同定したところ、モータリン/GRP75;ミオシン10;ビメンチン;GRP78;HSC70であることが確認された。これらのタンパク質のうち、モータリン/GRP75はシャペロンのHsp70ファミリーのメンバーである。ミトコンドリアおよび細胞質のいずれにもあり、ストレス応答から細胞内トラフィック、抗原プロセシング、および細胞増殖、分化および腫瘍化の調節におよぶ複数の機能において意味づけられている。モータリンはp53と相互作用し、アポトーシスおよび小胞輸送(MAC複合体)に関与していることが示されている。また、腫瘍細胞から放出される微小胞にも認められる。
【0091】
ゲルに対してα−モータリン抗体によるウエスタンプローブも実施した。細胞ライセート、拮抗物質溶離物および拮抗物質親和性樹脂を含むレーンでは分子量約75kDaのタンパク質が検出されたが(図13、パネルB、レーン1、3および5)、ネガティブコントロールまたはネガティブコントロールペプチド溶離物のレーン(図13、パネルB、レーン2および4)では検出されなかった。
【0092】
(モータリン抗体の小胞分泌阻害)
モータリン/GPR75抗体とwtNefGFP対照のJurkat細胞へのChariotトランスフェクトを用い、内因性モータリン/GRP75タンパク質をノックダウンしてNef誘導性分泌の効果を観察した(図14)。ネガティブコントロールとしてマッチング細胞にチューブリン抗体をChariotトランスフェクトした。我々は、モータリン/GFP75抗体がNef誘導性分泌を遮断する一方で、a−チューブリン抗体がNef誘導性分泌に影響を示さないことを確認した。これにより、モータリンはNef誘導性エキソソーム分泌において重要であることが示された。モータリン抗体は溶離バンドにハイブリダイゼーションする。
【0093】
モータリンはグルコース調節タンパク質75(GRP75)、またはペプチド結合タンパク質74(PBP74)としても知られる。モータリンは679アミノ酸長であり、熱ショックタンパク質70ファミリーの非誘導性メンバーである。大腸菌DnaKを含む他のファミリーメンバーとの高度な同一性を有する。モータリンの結晶構造は推定されていないものの、Hsp70ファミリー内での進化的保持から、プロテアーゼ感受性部位によって結合されたN末端APTアーゼヌクレオチド結合ドメイン(NBD)およびC末端基質結合ドメイン(SBD)の2つの主要ドメインを有すると予測される。NBDがファミリー全体で高度に維持されている一方で、SBDは大きな多様性を示し、おそらくは基質特異性におけるHsp70ファミリーメンバーの変異を説明すると思われる。そのシャペロン活性はATP−加水分解機能と密接に関連している。
【0094】
モータリンはミトコンドリア、さらには初期エンドサイトーシス小胞などの多様な細胞質小胞に局在していることが確認されている(たとえばKanai他、Genes Cells,2007,12:797−810;Kaul他、Exp.Gerontol.,2002,37:1157−1164;Singh他、Exp Cell Res,1997,234:205−216およびVan Buskirk他、J Immunol.1991,146:500−506を参照)。モータリンは数種類のタンパク質(例:p53およびFGF−1)と直接結合し、かつ非古典的経路(すなわちエキソソーム経路)を介してその細胞内トラフィックを調節する(たとえばKaul他、J Biol Chem,2005,280:39373−39379;Mizukoshi他、Biochem Biophys Res Commun,2001,280:1203−1209;Mizukoshi他、Biochem J,1999,343:461−466;およびPrudovsky他、J Cell Biochem,2008,103:1327−1343を参照)。宿主の免疫系からの攻撃下にある細胞はモータリン発現を介して膜小胞を放出し、またモータリンはそれらの小胞内に確認されている(Pilzer他、Int Immunol,2005,17:1239−1248)。モータリンは多様な腫瘍細胞によって放出されるエキソソーム中にも確認されている(Choi他、J Proteome Res,2007,6:4646−4655;Staubach他、Proteomics,2009)。
【0095】
モータリンは細胞内で複数の主要な機能を果たすことが確認されている(Kaul他、Exp Ger ontol,2007,42:263−274の総説)。タンパク質のインポートおよびエキスポートの細胞内移動系において主要なハウスキーピング機能を果たす。モータリンは、熱によっては誘導されないものの、軽度ストレス応答によって誘導され、ストレスおよびアポトーシスに対する警護の役割を果たすことを可能とする。モータリンの発現低下、または変異型モータリンの発現は老化を引き起こす一方で、モータリン発現の上昇は癌である変異型を伴う不死に至る。
【0096】
エビデンスより、正常細胞からガン細胞への形質転換、さらにはそれらの細胞の化学療法抵抗性におけるモータリンの意味が明確化されている。多様な起源の腫瘍細胞においてモータリンが過剰発現しているのが確認されている(Wadhwa他、Int J Cancer,2006,118:2973−2980)。マウスのモータリンは、正常細胞ではミトコンドリアを細胞内位置としているが、ガン細胞ではその位置がサイトソルに変わっていることが確認されている(Wadhwa他、J Biol Chen 1998,273:29586−29591)。モータリンはp53と相互作用することが確認されている。さらに、この相互作用により細胞質におけるp53の隔離が促進され、これによりその核活性が阻害され(Kaul他、Supra 2007,42:263−274;Yi他、Mol Cell Proteomics,2008,7:315−325;Czarnecka他、Cancer Biol Ther,2006,5:714−720)、一部の腫瘍において放射線療法および化学療法に対する抵抗性を誘導する。最終的に、上で論じたように、モータリンはエキソソーム放出に至る細胞内トラフィックと関連し、かつエキソソーム小胞内に存在することが示されている(Pilzer他pringer Semin Immunopathol,2005,27:375−387;Choi他、J Proteome Res,2007,6:4646−4655;Staubach他、Proteomics,2009)。腫瘍細胞(例:乳房腫瘍)は、腫瘍抗原を担持するエキソソームを調節された様式で分泌することが示されており、かつこれらの抗原を提示するかまたはそれらを抗原提示細胞に伝達することができる(Yu他、J Immunol,2007,178:6867−6875)。これらの腫瘍エキソソームは、免疫細胞の殺傷または調節不全によって免疫抑制を引き起こし、これにより腫瘍の増殖を可能とする免疫優越状態を促進する。このように、腫瘍は多様な機構を介してモータリンを操作し、その健全性を高める。
【0097】
熱ショック70ファミリータンパク質は乳癌と関連することが示されている。それらは分化不良、リンパ節転移、細胞増殖の亢進、アポトーシスの遮断、およびより重度の乳癌病期と明確に関連している。これらの形態学は全て臨床的予後不良の指標である(Calderwood他、Int J Hyperthermia,2008,24:31−39;Calderwood他、Trends Biochem Sci,2006,31:164−172;Ciocca他、Cell Stress Chaperones,2005,10:86−103)。さらに、多くの細胞腫においてモータリンの過剰発現が発癌に寄与していることが明示されており、特に乳癌細胞において確認されている(Wadhwa他、Int J Cancer,2006,118:2973−2980)。
【0098】
モータリンが癌免疫療法の潜在的な標的であることは文献より明らかであり、かつ治療法を開発することを期待した数多くの研究がある(Wadhwa他、Cancer Therapy,2010,1:173−178;Walker他、Am J Pathol,2006,168:1526−1530;Deocaris他、Cancer Lett,2007,252:259−269;Pilzer他、Int J Cancer,2009;Parolini他、J Biol Chem,2009)。たとえば、MKT−077はガン細胞の選択的な死を引き起こすミトコンドリア探索非局在化カチオン色素である(Deocaris他、Cancer Lett,2007,252:259−269)。その細胞標的は発癌性Ras、F−アクチン、テロメラーゼ、およびモータリン(hmot−2)/mthsp70を含む(Parolini他、J Biol Chem,2009)。MKT−077はモータリンのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と結合し、かつタンパク質の三次構造変換を引き起こし、そのシャペロン機能を不活性化し、ヒト腫瘍細胞株の老化を誘導する。臨床試験においては、この分子は腎毒性を引き起こすことが確認されているものの、現在は低用量であればより毒性が低くなる可能性を示唆するいくつかのエビデンスがある。
【実施例8】
【0099】
(小胞/ウイルス放出を阻害するその他の薬剤)
HIV Nef SMRwtペプチドは、FDAによって他の状態において用いるために承認され、かつウイルス放出および小胞放出の遮断において有効性を有すると確認されている薬剤と共に用いてもよい。そのような薬剤の例は:ジメチルアミロリドおよびオメプラゾールである。
【0100】
分泌を遮断する薬剤をスクリーニングするために用いることのできるコトランスフェクト分析が開発されている。手順1(図15)においては、何らかの蛍光タグと結合したNefGFP、NefRFPまたはNefを細胞株にトランスフェクトし、48時間の培養時間中に細胞を薬剤または化学物質で処理する。その後、トランスフェクトより48時間後に、調節済上清の蛍光分子を(多様な方法により)測定する。手順2(図16)においては、N−Rh−PEなどの蛍光ラベルで細胞を処理し、内因的に生成されたエキソソームを標識する。細胞は、化学物質または小分子ペプチド拮抗物質の存在下または非存在下で少なくとも24時間培養させる。次に、調節済上清のN−Rh−PE標識微小胞/エキソソームを(多様な方法により)分析する。調節済上清に蛍光タグがないことは、化学物質がエキソソーム分泌系路を遮断してその経路のNef誘導を遮断したという徴候である。分泌を遮断する薬剤のスクリーニングのための抗スループット測定法を開発するために、この手順を改変すべきである。
【0101】
上の記述は、当業者に本発明を実践する方法を教示する目的のためのものであり、本記載を読むときに当業者に明らかになるであろうこれら全ての明確な改変および変法の詳細を述べることを意図していない。しかし、そのような明確な改変および変法が、以下の請求項によって定義される本実施形態の範囲に含まれることを意図している。文脈より特に反対のことが示されない限り、請求項は請求された構成要素、および意図された目的に合致するために有効なあらゆる手順におけるステップを網羅することを意図している。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞において微粒子の放出を阻害することを目的としたペプチドであって、前記ペプチドが10〜100アミノ酸長を有し、かつ、(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(3)少なくとも2つの配列番号1モチーフを含む前記ペプチド。
【請求項2】
少なくとも2つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項3】
N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項4】
C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項5】
VGFPVAAVGFPV(配列番号2)のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項6】
VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK(配列番号3)の配列よりなる、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載の前記ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号2をさらに含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項8に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号3をさらに含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項11】
制御配列と機能的に結合した請求項7に記載の前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
医薬組成物であって:
(1)配列番号1含有ペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および
(2)医薬品として許容できる担体を含み;
前記配列番号1含有ペプチドが(a)N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(b)C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(c)少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記VEFPV(配列番号1)含有ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項15】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項16】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項17】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項18】
エイズを治療するための方法であって:
そのような治療を必要とする対象に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を投与することを含む前記方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが少なくとも2つのVGFPV配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むことを特徴とする前記ペプチド。
【請求項23】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項24】
腫瘍を治療するための方法であって:
そのような治療を必要とする対象に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を投与することを含む前記方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項27】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項28】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号2を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項29】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項1】
細胞において微粒子の放出を阻害することを目的としたペプチドであって、前記ペプチドが10〜100アミノ酸長を有し、かつ、(1)N末端に少なくとも1つのVGFPV(配列番号1)モチーフ、または(2)C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(3)少なくとも2つの配列番号1モチーフを含む前記ペプチド。
【請求項2】
少なくとも2つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項3】
N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項4】
C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項5】
VGFPVAAVGFPV(配列番号2)のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項6】
VGFPVAAVGFPVDYKDDDDK(配列番号3)の配列よりなる、請求項1に記載の前記ペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載の前記ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号2をさらに含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項8に記載のポリヌクレオチドであって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号3をさらに含むことを特徴とする前記ポリヌクレオチド。
【請求項11】
制御配列と機能的に結合した請求項7に記載の前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
医薬組成物であって:
(1)配列番号1含有ペプチドまたはそのようなペプチドをコードする発現ベクター、および
(2)医薬品として許容できる担体を含み;
前記配列番号1含有ペプチドが(a)N末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(b)C末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフ、または(c)少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記VEFPV(配列番号1)含有ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項14】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項15】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項16】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項17】
請求項12に記載の医薬組成物であって、前記配列番号1含有ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記医薬組成物。
【請求項18】
エイズを治療するための方法であって:
そのような治療を必要とする対象に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を投与することを含む前記方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが少なくとも2つのVGFPV配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むことを特徴とする前記ペプチド。
【請求項23】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記方法。
【請求項24】
腫瘍を治療するための方法であって:
そのような治療を必要とする対象に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含みかつ10〜100アミノ酸長を有するペプチドの有効量を投与することを含む前記方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドが少なくとも2つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドがN末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項27】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドがC末端に少なくとも1つの配列番号1モチーフを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項28】
請求項18に記載の方法であって、前記ペプチドがアミノ酸配列番号2を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項29】
請求項24に記載の方法であって、前記ペプチドが配列番号3の配列をさらに含むことを特徴とする前記方法。
【図1−1】
【図1−2】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1−2】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−529293(P2012−529293A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514976(P2012−514976)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035698
【国際公開番号】WO2010/144231
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(510117838)
【氏名又は名称原語表記】MOREHOUSE SCHOOL OF MEDICINE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/035698
【国際公開番号】WO2010/144231
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(510117838)
【氏名又は名称原語表記】MOREHOUSE SCHOOL OF MEDICINE
【Fターム(参考)】
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