説明

微細形状の加工方法

【課題】基体に形成した凹部内に追加エッチングを行い、微細パターンを付与することを可能にした、微細形状の加工方法を提供する。
【解決手段】基体10に凹部13を形成する工程と、基体10の凹部13内に、液滴吐出法によってレジスト液16を選択的に配し、レジスト膜17を形成する工程と、レジスト膜17を露光・現像してパターニングし、レジストパターン18を形成する工程と、レジストパターン18をマスクにして凹部13内をエッチングし、凹部13内に微細パターンを付与する工程と、を備えた微細形状の加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体に形成した凹部内にさらに微細形状を付与する、微細形状の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体微細加工技術を応用したマイクロマシニング技術を用い、大きさが数100[μm]程度の非常に微小な構造体を製造する、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれる技術が注目を集めている。このような微小構造体、すなわちMEMSデバイスは、各種センサや光通信分野における光スイッチ、高周波(RF)部品など、種々のものに応用が検討されている。
一方、このようなMEMS加工技術の発展に伴い、微細化や複雑化(高集積化)に対応したシリコン基板のエッチング加工における、レジスト技術、およびこれを用いたフォトリソグラフィー技術の開発が急務になっている。
【0003】
一般に、フォトリソグラフィー工程に先だってウエハ(シリコン基板)表面にレジスト膜を形成するレジスト技術としては、主にスピンコート法が用いられている。このスピンコート法は、ウエハを回転させながらウエハ中心部表面にレジスト液を滴下し、遠心力で均一な膜を形成するレジスト塗布方法である。このような塗布方法では、回転の遠心力でレジスト液を延展し、均一な膜状に形成するため、レジスト液の粘性が重要となる。そこで、レジスト液の粘性を所定の粘性に保つため、ウエハ面に滴下したレジスト液を所定の温度に制御する方式が、特許文献1に提案されている。
また、加熱した高圧ガスをウエハ裏面に吹き付け、ウエハ本体の温度調整を行うことが、特許文献2に提案されている。
【0004】
これら特許文献1や特許文献2に記載されたスピンコート法では、例えばウエハに形成した溝(凹部)の底面にさらに細い溝パターンを形成し、微細形状を加工しようとした場合、ウエハ面上に形成された溝の深さが約30μm以下と比較的浅い場合には、溝を埋めて平坦なレジスト塗布面を形成することが可能になる。しかし、溝の深さがさらに深くなると、溝内にレジスト塗布面を形成するのが困難になる。これは、例えばレジストの温度調整を行っても、スピンコート法では深い溝内に十分な量のレジストを入れるのが困難になり、僅かに入ったレジストも溝底面内に濡れ広がらず、底面の隅部(角部)に偏って溜まってしまうからである。
【0005】
そこで、近年では、特に深溝段差へのレジスト塗布に好適な方法として、スプレーコート法が提供されている。このスプレーコート法は、ウエハを低速回転させながら霧状のレジストをウエハの外周部側から中心部に向かって噴霧し、ウエハのほぼ全面に均一な薄膜を形成する方法であり、微細で複雑な形状のパターンに対しても有効な方法であるされている。
【特許文献1】特開平11−276972号公報
【特許文献2】特開平10−261579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溝パターンの内壁面や底面に新たなパターンや配線による微細形状を加工したい場合、これらの面にもレジストを均一に塗布する必要がある。しかしながら、スプレーコート法では、ウエハを加熱する手段やレジストを所定温度に保温する手段がなく、したがってレジストに含まれる揮発性溶剤の気化速度に固着時間が依存するため、固着時間の制御が難しいという課題があった。つまり、深溝パターンなどではその底面角部にレジストが多く溜まり易く、反対に溝のトップエッジ部ではレジストが固着する前に流れてしまって付着されないなどの課題があった。
【0007】
また、特に凹部パターンの深さが例えば約30μm以上に深くなると、凹部パターンにレジストを充填して凹部パターンを埋めてしまうとフォトリソグラフィーの際の露光光がレジストの深い部分にまで透過せず、深い部分を露光できなくなってしまう。したがって、前記した従来の二つの手法では、特に深い溝(凹部)の底に、パターン解像が可能なレベルの薄い厚さでレジスト膜を均一に形成することができないのが現状である。
【0008】
ところで、近年ではMEMS加工技術の発展に伴ってパターン形状の微細化、高集積化が進んでいることから、溝等の凹部パターンを深くしてその壁面や底面に追加エッチングを行い、これによって新たなパターンや配線を形成したいとの要望がある。
しかしながら、従来の方法では、前記したようにレジストを薄く、かつ均一に形成するのが困難であるため、このような要望に応えられないのが現状である。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、基体に形成した凹部内に追加エッチングを行い、微細パターンを付与することを可能にした、微細形状の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の微細形状の加工方法は、基体に凹部を形成する工程と、前記基体の前記凹部内に、液滴吐出法によってレジスト液を選択的に配し、レジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を露光・現像してパターニングし、レジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをマスクにして前記凹部内をエッチングし、該凹部内に微細パターンを付与する工程と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
この微細形状の加工方法によれば、基体の凹部内に、液滴吐出法によってレジスト液を選択的に配するので、前記凹部が例えば深さ30μm以上の深いパターンであっても、この凹部パターン内に所望量のレジスト液を選択的に配することが可能になる。したがって、得られるレジスト膜を薄く、かつ均一に形成することができる。よって、このレジスト膜を用いてレジストパターンを形成し、さらにこれを用いてエッチングすることにより、凹部内に微細パターンを付与することが可能になる。
【0012】
また、特に凹部が複数ある場合に、例えばこれら凹部間で異なる量のレジスト液を配することにより、形成するレジスト膜の厚さを異ならせることができる。したがって、例えば厚さの異なるレジストパターンを用い、凹部間でエッチング時間を変えてエッチングを行うことにより、凹部間でエッチングの深さを変え、異なる微細形状を付与することが容易になり、エッチング加工の自由度を高めることができる。
【0013】
また、前記のレジスト膜を形成する工程では、インクジェト装置を用いてレジスト液を選択的に配するのが好ましい。
インクジェット装置を用いることにより、基体とインクジェットヘッドとの間の相対位置を容易に制御することができ、したがってレジスト液を前記凹部内に容易にしかも精度良く配することが可能になる。
【0014】
また、前記のレジスト膜を形成する工程では、前記基体に形成した前記凹部の位置情報に基づいて前記インクジェト装置からレジスト液を吐出することにより、該レジスト液を前記凹部内に選択的に配するのが好ましい。
基体に凹部を形成した際の位置情報を予めインクジェット装置に記憶させておくことにより、基体とインクジェットヘッドとの間の相対位置を容易に制御することができ、したがってレジスト液を前記凹部内に容易にしかも精度良く配することが可能になる。
【0015】
また、前記基体がシリコンウエハであってもよい。
シリコンウエハに対しての凹部形成の設計データから凹部の位置情報を求め、これをインクジェット装置に記憶させておくことにより、前記したように基体とインクジェットヘッドとの間の相対位置を容易に制御することができ、したがってレジスト液を前記凹部内に容易にしかも精度良く配することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の微細形状の加工方法を詳しく説明する。
図1(a)〜(c)は、本発明の微細形状の加工方法を、シリコンウエハ(基体)に対して深い溝(凹部)を形成し、さらにこの溝内に微細形状を付与する微細加工に適用した場合の一実施形態を説明するための模式図であり、図1(a)はシリコンウエハ10の平面図、図1(b)はチップ形成領域の平面図、図1(c)は図1(b)のA部についての斜視図である。
【0017】
図1(a)に示すようにシリコンウエハ(基体)10には、多数のチップ形成領域11(11a、11b)が形成されている。本実施形態ではまず、このシリコンウエハ10の各チップ形成領域11に、図1(b)に示すようにそれぞれアライメントマーク12を公知の手法で形成するとともに、溝パターンの第1の凹部13と、開口形状がH状の溝パターンである第2の凹部14とを形成する。なお、これら第1の凹部13および第2の凹部14については、その開口形状が異なるだけで、深さについては同じパターンであり、したがって同一の工程で形成する。
【0018】
すなわち、これら第1の凹部13、第2の凹部14については、従来と同様にシリコンウエハ10にスピンコート法でレジスト液を塗布し、熱処理して硬化させる。次いで、得られたレジスト膜を露光・現像処理してパターニングする。その後、図1(c)に示すように、得られたレジストパターン15をマスクにしてシリコンウエハ10をエッチングし、溝状の第1の凹部13を形成する。また、図示しないものの、同一の工程により、第2の凹部14を形成する。
【0019】
このとき、シリコンウエハ10に対しての凹部形成の設計データから、各チップ形成領域11の位置データ(位置情報)と、各チップ形成領域11におけるアライメントマーク12、および第1の凹部13、第2の凹部14のそれぞれ形成位置に関するデータ(位置情報)とを求めておき、これらを後述するインクジェット装置の制御部に記憶させておく。
【0020】
また、第1の凹部13や第2の凹部14については、本実施形態ではその深さdを、例えば100μmから300μm程度の深さに形成するとともに、その開口幅wを、例えば100μm程度とする。これら第1の凹部13や第2の凹部14を形成するためのエッチングについては、従来公知の手法を採用することができ、例えば、誘導結合(ICP)方式のエッチング装置を用い、SFガスプラズマを用いることで行うことができる。
【0021】
この誘導結合(ICP)方式のエッチングでは、SFガスプラズマによって生成したFラジカル(F)およびFイオンにより、シリコンウエハ10のエッチングを行う。このシリコンウエハ10のエッチングのメカニズムについては、主にシリコンとFラジカルとの化学反応によって起こる。このようにしてエッチングを行うと、このエッチングはシリコンに対して等方性エッチングとして作用する。
【0022】
そこで、SFガスプラズマによるエッチングとは別にCガスプラズマを用い、これから生成したCxFyラジカルを重合させることにより、シリコンウエハ10上にフルオロカーボンからなるポリマーを堆積し、形成する凹部内にポリマー膜を形成する。このように、SFガスプラズマによるエッチングとCガスプラズマによるポリマーの堆積とを交互に繰り返し、凹部内の内壁面をポリマー膜で保護した状態でSFガスプラズマによるエッチングを行うことにより、このエッチングを、シリコンウエハ1に対して異方性エッチングとして作用させることができる。これにより、所望の深溝形状の第1の凹部13、第2の凹部14を形成することができる。
【0023】
なお、本実施形態では、第1の凹部13、および第2の凹部14を形成するために用いたレジストパターン15を除去することなくそのまま残し、後述する凹部内のエッチングの際にマスクとして利用する。
次に、このようにして第1の凹部13、第2の凹部14を形成したシリコンウエハ10を、例えばヘキサメチルジシラザン(HMDS)雰囲気下にて100℃に加熱したホットプレート上に30秒程度置き、その表面(凹部13、14を形成した側の面)を親油化(疎水化)処理する。このように親油化処理することにより、特に前記凹部13、14内の、レジスト液に対する密着性を高めることができる。
【0024】
次いで、第1の凹部13内、および第2の凹部14内のそれぞれに、液滴吐出法によってレジスト液を選択的に配する。液滴吐出法としては、インクジェット法やデンペンサ法を用いることができるが、本実施形態では、特にインクジェット装置を用いたインクジェット法により、レジスト液を選択的に配する。図2は、本実施形態で使用するインクジェット装置の一例を示す模式図である。
【0025】
図2に示すようにインクジェット装置IJは、インクジェットヘッド1と、X軸方向駆動軸4と、Y軸方向ガイド軸5と、制御部CONTと、ステージ7と、クリーニング機構8と、基台9と、ヒータ6とを備えて構成されたものである。
ステージ7は、この液滴吐出装置IJによりインク(レジスト液)が配置される基板P(シリコンウエハ10)を保持するものであって、基板Pを基準位置に固定する不図示の固定機構を備えたものである。
【0026】
インクジェットヘッド1は、複数の吐出ノズルを備えたマルチノズルタイプのインクジェットヘッドであり、長手方向とX軸方向とを一致させている。複数の吐出ノズルは、インクジェットヘッド1の下面にX軸方向に並んで一定間隔で設けられている。インクジェットヘッド1の吐出ノズルからは、ステージ7に支持されている基板Pに対して、レジスト材料を溶剤で溶解あるいは分散してなるレジスト液が、吐出されるようになっている。
【0027】
X軸方向駆動軸4には、X軸方向駆動モータ2が接続されている。X軸方向駆動モータ2はステッピングモータ等からなり、制御部CONTよりX軸方向の駆動信号が供給されると、X軸方向駆動軸4を回転させるようになっている。このX軸方向駆動軸4が回転すると、インクジェットヘッド1はX軸方向に移動するようになっている。
【0028】
Y軸方向ガイド軸5は、基台9に対して動かないように固定されている。ステージ7は、Y軸方向駆動モータ3を備えている。このY軸方向駆動モータ3は、ステッピングモータ等からなり、制御部CONTからY軸方向の駆動信号が供給されると、ステージ7をY軸方向に移動するようになっている。
【0029】
制御部CONTは、インクジェットヘッド1に液滴の吐出制御用の電圧を供給する。また、この制御部CONTは、X軸方向駆動モータ2に対してインクジェットヘッド1のX軸方向への移動を制御する駆動パルス信号を供給するとともに、Y軸方向駆動モータ3に対してステージ7のY軸方向への移動を制御する駆動パルス信号を供給するようになっている。さらに、制御部CONTは記憶部(図示せず)を有し、この記憶部には、前記した各チップ形成領域11の位置データ(位置情報)と、各チップ形成領域11におけるアライメントマーク12、および第1の凹部13、第2の凹部14のそれぞれ形成位置に関するデータ(位置情報)とが入力されている。このような構成のもとにインクジェットヘッド1は、前記データに基づき、第1の凹部13内や第2の凹部14内に精度良くレジスト液を配することができるようになっている。
【0030】
クリーニング機構8は、インクジェットヘッド1をクリーニングするもので、Y軸方向駆動モータ(図示せず)を備えたものである。このY軸方向駆動モータの駆動によってクリーニング機構8は、Y軸方向ガイド軸5に沿って移動するようになっている。なお、このクリーニング機構8の移動も、制御部CONTによって制御されるようになっている。
ヒータ6は、ここではランプアニールにより基板Pを熱処理する手段であり、必要に応じ、基板P上に塗布されたレジスト液(インク)に含まれる溶剤の蒸発及び乾燥を行うものである。このヒータ6の電源の投入及び遮断も、制御部CONTによって制御されるようになっている。
【0031】
液滴吐出装置IJは、インクジェットヘッド1と基板Pを保持するステージ7とを相対的に走査しつつ、基板Pに対して液滴を吐出するものである。ここで、以下の説明では、Y軸方向を走査方向、Y軸方向と直交するX軸方向を非走査方向とする。
インクジェットヘッド1の吐出ノズルは、非走査方向であるX軸方向に一定間隔で並んで設けられている。なお、図2では、インクジェットヘッド1は基板Pの進行方向に対して直角に配置されているが、インクジェットヘッド1の角度を調整し、基板Pの進行方向に対して交差させるようにしてもよい。このようにインクジェットヘッド1の角度を調整すれば、ノズル間のピッチを調節することができる。また、基板Pとノズル面との距離を任意に調節可能としてもよい。
【0032】
インクジェットヘッド1は、本実施形態ではピエゾ方式によってインク(レジスト液)を吐出するものである。図3は、ピエゾ方式によるインクの吐出原理を説明するための図であり、図3に示すようにインクジェットヘッド1には、インク(レジスト液)を収容する液体室21に隣接してピエゾ素子22が設置されている。液体室21には、インクを収容する材料タンクを含む液体材料供給系23を介してインクが供給される。
【0033】
ピエゾ素子22は駆動回路24に接続されており、この駆動回路24を介してピエゾ素子22に電圧を印加し、ピエゾ素子22を変形させることにより、液体室21が変形し、吐出ノズル25からインクが吐出されるようになっている。この場合に、印加電圧の値を変化させることにより、ピエゾ素子22の歪み量が制御される。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子22の歪み速度が制御される。
【0034】
このようなピエゾ方式による液滴吐出は、材料に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えにくいという利点を有する。なお、本発明では、インクジェットヘッド1の吐出方式として、前記のピエゾ方式(電気機械変換方式)以外にも、例えば帯電制御方式、加圧振動方式、電気熱変換方式、静電吸引方式などを採用することができる。ここで、帯電制御方式は、インクに帯電電極で電荷を付与し、偏向電極でインクの飛翔方向を制御してノズルから吐出させるタイプのものである。
【0035】
このようなインクジェット装置IJにより、図4(a)、(b)に示すようにシリコンウエハ10の第1の凹部13内、さらには第2の凹部14(図示せず)内にそれぞれレジスト液16を配すると、前記したようにこのインクジェット装置IJには、制御部CONTの記憶部に、前記した各チップ形成領域11の位置データ(位置情報)と、各チップ形成領域11におけるアライメントマーク12、および第1の凹部13、第2の凹部14のそれぞれ形成位置に関するデータ(位置情報)とが入力されているので、インクジェットヘッド1は、前記データに基づき、第1の凹部13内や第2の凹部14内に精度良くレジスト液16を配することができる。
【0036】
また、インクジェット法(液滴吐出法)によってレジスト液16を選択的に配するので、前記凹部13、14の深さが100μmから300μmと深いパターンであっても、これら凹部13、14内に所望量のレジスト液16を選択的に配することができる。したがって、図4(b)に示すようにレジスト液16から得られるレジスト膜17を、後述する露光処理が良好に行えるような十分な薄さで、かつ均一で平坦な膜に形成することができる。
【0037】
なお、凹部13、14内に配したレジスト液16からレジスト膜17を得るには、前記ヒータ6でシリコンウエハ10を熱処理してもよいが、本実施形態では、80〜150℃に温度設定されたホットプレート上に前記シリコンウエハ10を移動し、30〜90秒程度保持することにより、レジスト液16中から溶剤を除去する。その後、室温と同じ温度に設定されたクーリングプレート上に前記シリコンウエハ10を移動し、冷却することにより、レジスト膜17を得る。
このようにして形成されたレジスト膜17は、前記したように予め第1の凹部13内、第2の凹部14内が親油化(疎水化)処理されているので、これら凹部13、14内に良好に密着したものとなる。
【0038】
なお、このような第1の凹部13内、および第2の凹部14内へのレジスト液の選択的塗布については、シリコンウエハ10の各チップ形成領域11の全てについて行うが、それに先立ち、図1(a)中のチップ形成領域11aに形成したアライメントマーク12を例えばオフアクシスのカメラでそれぞれ検出し、シリコンウエハのローテーション補正を行う。その後、チップ形成領域11bに形成したアライメントマーク12を同様に検出し、ファインアライメントを実施することにより、シリコンウエハ10の位置合わせを行う。アライメント精度については、例えばX+3σ≦2μmとするのが好ましい。
このようにしてシリコンウエハ10の位置合わせを行った後、前記したようにインクジェット装置IJを用い、第1の凹部13内、第2の凹部14内にそれぞれレジスト液を所定量、選択的に配する。
【0039】
次いで、前記のシリコンウエハ10を露光装置にセットし、第1の凹部13内のレジスト膜17、および第2の凹部14内のレジスト膜17に対して、所望のパターンが結像するように露光処理を行う。すると、前記したようにレジスト膜17は十分に薄く、しかも均一で平坦になっているので、露光光が膜厚方向全てに透過し、膜厚全体を解像可能に露光する。
【0040】
次いで、現像処理を行うことにより、例えば図4(c)に示すように凹部13(14)の底面上に線状のレジストパターン18を複数並列させて形成する。
その後、これらレジストパターン18および前記のレジストパターン15をマスクにして前記凹部13(14)内をエッチングし、さらにレジストパターン18、レジストパターン15を除去することにより、図5に示すように該凹部13(14)内に、例えば開口幅が10μm程度の複数の細溝19からなる微細パターンを付与する。なお、ここでのエッチングとしては、公知のRIE(反応性イオンエッチング)や、前記した誘導結合(ICP)方式のエッチング装置によるエッチングなど、形成する微細パターンに応じて種々の手法を採用することができる。
【0041】
このような微細形状の加工方法によれば、シリコンウエハ10の凹部13(14)内に、インクジェット法(液滴吐出法)によってレジスト液を選択的に配するので、凹部13(14)が深さ30μm以上の深いパターンであっても、この凹部パターン内に所望量のレジスト液16を選択的に配することができる。したがって、得られるレジスト膜17を薄く、かつ均一で平坦に形成することができる。よって、このレジスト膜17を用いてレジストパターン18を形成し、さらにこれを用いてエッチングすることにより、凹部13(14)内に例えば複数の細溝19からなる微細パターンを付与することができる。
【0042】
また、基体としてシリコンウエハ10を用い、その凹部形成の設計データから凹部の位置情報を求めてこれをインクジェット装置IJに記憶させているので、シリコンウエハ10とインクジェットヘッド1との間の相対位置を容易に制御することができ、これによりレジスト液16を前記凹部13(14)内に容易にしかも精度良く配することができる。したがって、レジスト液16のロスを無くしてコストの低減化を図ることができる。
さらに、従来のようにレジストの粘性などの化学現象を主に用いることがないため、レジストを配するときにウエハを回転させる、傾ける、熱をかけるなどの処理が不要になる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態のように凹部が複数ある場合に、これら第1の凹部13と第2の凹部14との間で異なる量のレジスト液を配することにより、形成するレジスト膜17の厚さを異ならせることもできる。その場合に、厚さの異なるレジストパターン18を用い、凹部13と凹部14との間でエッチング時間を変えてエッチングを行うことにより、凹部13、14間でエッチングの深さを変え、異なる微細形状を付与することができる。よって、本発明によれば、エッチング加工の自由度を高めることができる。
【0044】
また、前記実施形態では、凹部13(14)内をエッチングする際、凹部13(14)内以外のシリコンウエハ10の表面を覆うマスクとして、凹部13、14をエッチング加工する際に用いたレジストパターン15をそのまま用いたが、他に例えば、レジストパターン15を一旦除去した後、再度スピンコート法で凹部13(14)内を除く位置にレジスト膜を形成し、これをマスクとしてもよい。また、液滴吐出法(インクジェット法)で凹部13(14)内にレジスト液を選択的に配する際、凹部13(14)内を除く位置にも液滴吐出法でレジスト液を配し、レジスト膜を形成してこれをマスクとしてもよい。
【0045】
さらに、前記実施形態では、基体としてシリコンウエハを用いたが、例えば所定機能を有するシリコン製のチップを基体とし、これに別の機能を付加する目的でその凹部内に微細形状を付与する場合に、本発明を適用するようにしてもよい。
また、本発明は、MEMSデバイスの加工以外にも、ICチップの三次元実装におけるエッチング加工や、半導体装置の製造方法など種々の微細加工に適用することができ、さらには、凹部内に配線を形成する場合などにも適用可能である。配線を形成する場合には、スパッタ法等によって凹部内にAl等の金属材料(導電材料)を成膜しておき、その後、本発明の加工方法を用いることにより、凹部内に所望の配線を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)〜(c)は本発明の加工方法の一実施形態を示す工程説明図である。
【図2】インクジェット装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】インクジェットヘッドによるインクの吐出原理を説明するための図である。
【図4】(a)〜(c)は凹部内へのレジストパターン形成を模式的に示す図である。
【図5】凹部内に複数の微細パターンを形成した状態を示す要部斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
10…シリコンウエハ(基体)、11、11a、11b…チップ形成領域、13…第1の凹部、14…第2の凹部、16…レジスト液、17…レジスト膜、18…レジストパターン、19…細溝(微細パターン)、IJ…インクジェット装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に凹部を形成する工程と、
前記基体の前記凹部内に、液滴吐出法によってレジスト液を選択的に配し、レジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜を露光・現像してパターニングし、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクにして前記凹部内をエッチングし、該凹部内に微細パターンを付与する工程と、を備えたことを特徴とする微細形状の加工方法。
【請求項2】
前記のレジスト膜を形成する工程では、インクジェト装置を用いてレジスト液を選択的に配することを特徴とする請求項1記載の微細形状の加工方法。
【請求項3】
前記のレジスト膜を形成する工程では、前記基体に形成した前記凹部の位置情報に基づいて前記インクジェト装置からレジスト液を吐出することにより、該レジスト液を前記凹部内に選択的に配することを特徴とする請求項2記載の微細形状の加工方法。
【請求項4】
前記基体がシリコンウエハであることを特徴とする請求項3記載の微細形状の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272910(P2008−272910A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122205(P2007−122205)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】