説明

微細構造体の製造方法およびその利用

【課題】 目的物質の結晶性の有無に関わらず、1ミクロン以下の周期を有し、さらに望ましくは100nm以下の周期を有する微細構造を形成可能であり、かつ、当該微細構造の配向を制御することも可能であり、さらに、微細構造の形成対象(基板等)の自由度を高めることが可能な微細構造体の製造技術を提供する。
【解決手段】 例えば基板の平滑な形成面に、ポリテトラフルオロエチレンを擦りつけて配向膜を形成し(配向膜形成工程)、当該配向膜の上に、上記微細構造体となる目的物質を溶媒に溶解した目的物質溶液の液膜を形成させ(液膜形成工程)、当該液膜から溶媒を蒸発させながら対流を誘起させる(対流誘起工程)。これにより、より好ましくは数十nmの周期で格子状の微細パターンを有する微細構造体を簡便、低コストかつ配向制御可能に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己組織化(自己集合化)現象を用いた、空間的規則性を有する物質の微細(微小)構造体の製造方法およびこれにより得られる微細構造体、並びにその代表的な利用に関するものであり、特に、各種光学材料や電子材料に好適に用いることができる微細構造体およびその製造方法と、その利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料や電子材料を用いて製造される各種電子・光学デバイスにおいては高性能化の要求がますます大きくなっている。具体的には、例えば、半導体装置等では集積度のより一層の向上が求められており、各種情報を取り扱うデバイスでは、情報量のさらなる高密度化、特に、画像を取り扱うデバイスであれば画像情報のさらなる高精細化が求められている。
【0003】
このような要求に対応する手法の一つとして、量子サイズ効果を利用する技術が提案されている。すなわち、光学材料や電子材料等に用いられる物質、例えば各種金属や半導体の結晶を1〜100nmの大きさ(説明の便宜上、この範囲の大きさを「数十nmレベル」と称する)に制御すれば、量子サイズ効果が発現するため、高性能デバイスの製造に上記量子サイズ効果を利用することが提案されている。
【0004】
上記数十nmレベルの微細構造に関わらず、一般に、微細構造を形成するためには、加工対象となる目的物質の大きさと形態とを制御する必要がある。このような技術としては、例えば、マスクを用いた蒸着法、光化学反応および重合反応を用いた光リソグラフィー技術、レーザーアブレーション技術等が挙げられる。
【0005】
また、最近では、微細構造を形成するための新たな技術動向として、ナノテクノロジー分野における自己組織化技術が注目を集めている。微細構造の形成に自己組織化技術を用いれば、このような微細構造を有する微細構造体の生産性を向上させたり、製造コストを低減させて経済性を向上させたりすることができる上に、当該微細構造体を形成する対象について選択肢が広がる。そのため製造技術としての自由度に優れているという利点がある。
【0006】
自己組織化により数十nmレベルの微細構造を形成する技術は、多くの場合、結晶成長を利用している。具体的には、例えば、特定の結晶性物質からなる半導体のロッド(棒状構造体)、ワイヤー(紐状構造体)、およびこれらを集合させた格子状構造体等を製造する技術が知られている。
【0007】
さらに、非結晶性物質の自己組織化についても種々の技術が提案されている。具体的には、例えば、非特許文献1〜4に開示されている技術や特許文献1に開示されている技術等が挙げられる。非特許文献1〜4に開示されている技術によれば、ハニカム状の穴が一定の周期で繰り返される微細構造を形成することが可能である。また、特許文献1に開示されている技術によれば、主として、直線が並んだ形の平行格子状のパターンが繰り返される微細構造を形成することが可能である。また、この技術では、立体物の表面上に膜面を形成することも可能である。
【0008】
また、結晶性物質により微細構造を形成するときに、当該微細構造の配向を制御することを可能とする技術も提案されている。例えば、非特許文献5では、結晶の配向生長を利用して微細構造の配向を制御している。
【特許文献1】特開2003−151766号公報(平成15年(2003)5月23日公開)
【非特許文献1】Chemistry Letters p.821−822(1996)
【非特許文献2】Thin Solid Films Vol.327−329, p829−832(1998)
【非特許文献3】Thin Solid Films Vol.327−329, p854−856(1998)
【非特許文献4】Chaos Vol.9,p308−314 (1999)
【非特許文献5】Nature Vol 352,p414−417 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の技術では、微細構造の形成に目的物質の結晶性が大きく影響したり、形成可能な微細構造の種類が限定されたりする上に、微細構造の配向を良好に制御することが困難となっている。そのため、微細構造体の製造技術として見れば実用性に劣るという課題を有している。
【0010】
具体的には、まず、上記非特許文献1〜4に開示されている技術では、微細構造としてハニカム状の穴の周期的なパターンが形成されることは確認されているが、それ以外の微細構造、例えば、棒状構造体を製造することは確認されていない。しかも、これらの技術では、0.1μmから数μmの範囲でパターンの周期を有する構造が報告されているのみであり、特に、上記数十nmレベルの微細構造を形成することは事実上できないため、技術的には、さらなる微細化を図ることが課題となっている。
【0011】
また、上記特許文献1に開示されている技術では、微細構造として格子状の周期的なパターンを形成することが可能であるが、やはり上記非特許文献1〜4に開示されている技術と同様に、報告されている微細構造は0.1μmから数μmの範囲にパターンの周期を有する構造である。それゆえ、この技術でもさらなる微細化が課題となっている。
【0012】
さらに、微細構造体を広範な目的で使用する場合には、当該微細構造体が備える微細構造は、周期的な格子状のパターンを有する構造(格子状構造)、または、棒状構造や紐状構造のように、集合することで格子状構造を形成可能な構造であることが好ましい。加えて、当該微細構造体を製造するに当っては、その周期的な構造の配向が制御可能であることがより一層好ましい。
【0013】
しかしながら、上記非特許文献1〜4に開示されている技術では、格子状構造も棒状構造や紐状構造も形成することはできない。一方、特許文献1に開示されている技術では、格子状のパターンを形成することが可能であるとともに、その配向も制御することは可能とされている。しかしながら、パターンの周期が数十nmレベルである微細構造を形成することは全く開示されていない。
【0014】
また、上記非特許文献5に開示されている技術は、上述したように、結晶の配向生長を利用している。そのため、この技術の適用範囲は、結晶性物質による微細構造体の製造に限定される。また、この技術では、結晶の配向は制御することができても、その粒子外形は制御することができないため、棒状構造や紐状構造、あるいはこれらが集合した格子状構造を形成することはできない。
【0015】
このように、自己組織化により形状の制御された微細構造体を製造する場合、周期的な構造を100nm以下とし、かつ、その配向を制御するには、対象となる物質が結晶性でなければならない。
【0016】
さらに、このような結晶性物質を結晶化して微細構造体を製造する場合、当該結晶性物質は、所望の性質を発揮するように、特定の結晶学的方向に沿って生長する性質を有するものでなければならない。このような結晶性物質は限定されているため、微細構造体の製造に利用可能な物質は限定されている。
【0017】
また、一般に、目的物質の溶液を用いて自己組織化により基板の表面に微細構造を形成する場合、基板となる物質と溶液との間の濡れ性等を適切に組み合わせる必要がある。そのため、利用可能な目的物質と溶媒、基板の組み合わせが厳しく制約されている。さらに、非結晶性物質の場合、周期的な微細構造の大きさを十分に小さくすることは未だに実現されていない。
【0018】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、目的物質の結晶性の有無に関わらず、1ミクロン以下の周期を有し、さらに望ましくは100nm以下の周期を有する微細構造を形成可能であり、かつ、当該微細構造の配向を制御することも可能であり、さらに、微細構造の形成対象(基板等)の自由度を高めることが可能な微細構造体の製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、高分子材料からなる配向膜を形成した基板表面に目的物質の溶液の被膜(液膜)を形成し、この液膜から溶媒を蒸発させながら対流を誘起させることで数十nmレベルの周期的な微細構造を形成可能であり、かつ、その配向も制御することが可能である上に、広範な基板を使用可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明にかかる微細構造体の製造方法は、上記の課題を解決するために、一定の周期で微細パターンが繰り返される構造を有しており、当該微細パターンの周期間隔が少なくとも1μm以下となっている微細構造体の製造方法であって、平滑な形成面に、少なくとも高分子材料からなる配向膜を形成する配向膜形成工程と、当該配向膜の上に、上記微細構造体となる目的物質を溶媒に溶解した目的物質溶液の液膜を形成する液膜形成工程と、当該液膜から溶媒を蒸発させながら対流を誘起させる対流誘起工程とを含むことを特徴としている。
【0021】
上記製造方法においては、上記高分子材料としてフッ素樹脂が用いられることが好ましく、上記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることがより好ましい。
【0022】
また、上記製造方法においては、上記配向膜形成工程では、上記形成面に高分子材料を擦りつけることにより配向膜を形成することが好ましく、上記配向膜形成工程は、平滑な形成面を有する基板に対して施されることが好ましい。
【0023】
また、上記製造方法においては、上記液膜形成工程では、形成面を目的物質溶液に浸漬するか、あるいは、形成面に目的物質溶液を塗布、噴霧または滴下することにより液膜を形成することが好ましく、上記液膜形成工程と対流誘起工程とが同時に行われることがより好ましい。
【0024】
上記製造方法により得られる上記微細構造体は、棒状または紐状、あるいはこれらを集合させた格子状の形状を有しており、それゆえ、本発明には、上記製造方法により製造される微細構造体も含まれる。また、本発明の代表的な利用技術としては、微細構造体を用いてなる電子および/または光学デバイスを挙げることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、上記のように、ガラス等の平滑な基板上にフッ素樹脂等の高分子材料を擦りつけて配向膜を形成し、この上に、目的物質の溶液をキャストして液膜を形成し、この液膜から、対流を誘起するように溶媒を蒸発させる。これにより、数十〜数百nmの間隔で、棒状構造、または、格子状の微細パターンが周期的に配列した微細構造を形成することができる。しかも、目的物質の結晶性の有無にかかわらず上記微細構造が形成できるとともに、当該微細構造の配向も制御することができる。
【0026】
特に、上記格子状の微細パターンを形成する棒状構造の太さは50nm以下とすることができる上に、結晶性物質でも非結晶物質でも微細構造を形成することが可能となる。そのため、目的に応じた適切な材料を用いて量子サイズ効果を有する微細構造体を製造することができる。
【0027】
また、レジストや蒸着法等を使用せずに、溶液による自己組織化現象を利用して、所望の方向へ空間規則性を有する周期的な格子状構造やそれを構成する棒状構造を形成することができる。そのため、簡便な工程、低コスト、省資源、省エネルギーで、ナノメートルオーダーの周期的な微細構造を形成することができる。
【0028】
このように、本発明は、新たに見出されたタイプの自己構造形成現象を用いた新規な技術であり、製造される微細構造体は、ナノテクノロジーにおけるボトムアップ型基板技術として有効に利用することとができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図6に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
(I)本発明にかかる微細構造体の製造方法
本発明にかかる微細構造体の製造方法は、平滑な形成面に、少なくとも高分子材料からなる配向膜を形成する配向膜形成工程と、当該配向膜の上に、上記微細構造体となる目的物質を溶媒に溶解した目的物質溶液の液膜を形成する液膜形成工程と、当該液膜から溶媒を蒸発させながら対流を誘起させる対流誘起工程とを含んでいる。得られる微細構造体は、一定の周期で微細パターンが繰り返される構造(周期的な微細構造)を有しているものであるが、本発明では、微細パターンとして格子状パターンまたはこれを構成する棒状構造が形成可能であり、かつ、微細パターンの周期間隔が少なくとも1μm以下、好ましくは数十〜数百nmの範囲内、より好ましくは100nm以下となっている。
【0031】
〔目的物質およびその溶液〕
本発明において、微細構造を形成する目的物質としては特に限定されるものではなく、製造する微細構造体の用途や種類等に応じて好適な物質を選択して用いることができる。特に、本発明では、目的物質の結晶性の有無にかかわりなく微細構造体を製造することができるので、従来の技術と比べてより広範な物質を利用することができる。
【0032】
上記目的物質の代表的な具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の結晶性高分子;ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等の非結晶性高分子、;1,6−ジ(N−カルバゾリル)−2,4−ヘキサジイン、ポルフィリン、フタロシアニン等の低分子有機化合物;水酸化カルシウム、ステアリン酸ナトリウム等の金属塩;金、銀等の金属コロイド粒子;高分子のラテックス;カーボンナノチューブ等のナノ構造体;等を挙げることができる。
【0033】
上記目的物質は溶液または分散液として調製されて、液膜形成工程により配向膜上に液膜として形成される。上記溶液または分散液を調製するために用いられる溶媒(または分散媒体)は特に限定されるものではなく、目的物質を十分に溶解または分散できるとともに、対流誘起工程にて対流を誘起するように蒸発可能なものであればよい。ただし、基板を溶解したり腐食したり、あるいは基板に浸透するものは適さないため、選択の際は、基板の材質も考慮する必要がある。なお、以下の説明では特に言及しない限りにおいて、溶媒および分散媒体のことを単に「溶媒」と呼ぶ。
【0034】
具体的な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;その他の有機溶媒;水;等を挙げることができる。これら溶媒は単独で用いることもできるし、2種類以上を組み合わせた混合物として用いることもできる。
【0035】
なお、基板と溶媒との濡れ性については特に限定されるものではない。前述したように、溶液を用いた自己組織化による微細構造の形成では、基板と溶媒との濡れ性が重要となるが、本発明では濡れ性を考慮する必要はないため、従来よりも使用する溶媒の自由度を高めることができる。
【0036】
本発明では、目的物質を溶液としてもよいし分散液としてもよいが、分散液として用いる場合には、目的物質の粒子が少なくとも100nm以下であることが好ましい。これにより得られる微細構造の大きさをより小さくすることができる。また、分散液の場合、溶媒中で粒子が安定して分散できるように、公知の界面活性剤や乳化剤を添加してもよい。これらの添加量は特に限定されるものではなく、目的物質の粒子を有効に分散可能であり、かつ、液膜形成工程や対流誘起工程に悪影響を及ぼさない範囲内であればよい。
【0037】
本発明において、上記溶液または分散液の調製方法は特に限定されるものではなく、溶液の場合は、目的物質および溶媒の組み合わせに応じて、当該目的物質の溶解度等を考慮して公知の方法で溶液として調製すればよい。同様に、分散液の場合も、目的物質の溶媒への分散性等を考慮して公知の方法で分散液として調製すればよい。また、目的物質溶液または分散液の濃度は特に限定されるものではないが、通常は、1.0×10-10 〜1.0重量%の範囲内であることが好ましく、1.0×10-4 〜0.1重量%の範囲内であることがより好ましい。目的物質溶液(または分散液)がこのような希薄溶液(または分散液)でないと、対流誘起工程において有効に微細構造を形成することができなくなる。
【0038】
なお、説明の便宜上、本明細書では、「溶液」のみ記載されている箇所については、目的物質および溶媒の組み合わせに応じて「分散液」と言い換えることができる。すなわち、本発明で用いている「溶液」という文言には、目的物質が溶液(分散媒体)に分散している「分散液」の形態も含まれる。また、本発明にかかる製造方法には、必要に応じて、目的物質溶液を調製する工程が含まれていてもよい。
【0039】
〔基板〕
本発明では、好ましくは、平滑な表面を有する基板を用いて微細構造体を製造する。つまり、基板の平滑な表面を微細構造体の形成面として用いる。ここで、基板の具体的な材質に限定されるものではなく、平滑な表面を形成可能であり、用いる溶媒に対して安定であり、配向膜形成工程、液膜形成工程、対流誘起工程等の各工程に耐久性を有するものであればよい。
【0040】
特に、本発明では、後述するように、配向膜の材質として好ましくはポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、基板の温度を概ね180℃以上にすることが必要となる。それゆえ、少なくとも180℃以上の加熱に耐える材質であることが好ましい。より具体的には、180℃の温度で十分な硬度、強度、剛性を有していることが好ましい。
【0041】
このような物質としては、具体的には、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラス系材料;雲母の劈開面、シリコンウエファー等のシリカ系材料;各種金属;ポリイミド等の耐熱性(有機)高分子材料;酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ等のその他の無機材料;等を挙げなどが挙げられる。
【0042】
基板の形状は平板状であればよく、そのサイズも特に限定されるものではなく、微細構造体の種類や製造設備等に応じて適切な大きさのものを用いればよい。また、本発明では、微細構造体の形成面は平滑であればよいので、その形状は必ずしも平板状である必要はなく、配向膜が形成可能な平滑性を有していれば局面や角を有する面等であってもよく、基板のような二次元的な構造を有するものでなく、立体的な構造を有するもの(立体物)であってもよい。
【0043】
〔配向膜形成工程〕
配向膜形成工程は、微細構造体の形成面に、少なくとも高分子材料からなる配向膜を形成する工程である。ここで、配向膜の材質である高分子材料としては、基板の形成面において有効に配向膜として形成可能であり、後段の液膜形成工程や対流誘起工程において安定に存在し、微細構造の形成に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはフッ素樹脂が用いられる。中でも、ポリテトラフルオロエチレンを特に好ましく用いることができる。
【0044】
上記配向膜の膜厚は特に限定されるものではなく、分子レベルの凹凸を有する配向膜であればその厚みはどのような厚みであってもよい。上記ポリテトラフルオロエチレンの配向膜の場合では、0.5nm以上の膜厚であればよい。また、配向膜は基板の表面を完全に覆っている必要はなく、後述する実施例1に示すように部分的に基板の表面が露出していても良い。
【0045】
上記配向膜の具体的な形成方法は特に限定されるものではないが、上記形成面に高分子材料を擦りつけることにより配向膜を形成する方法を好適に用いることができる。このとき擦りつける高分子材料の形状は特に限定されるものではなく、形成面の形状や基板の形状等に応じて適宜好ましい形状のものを用いればよい。後述する実施例では、棒状のポリテトラフルオロエチレンを用いている。
【0046】
ところで、平滑な基板上に予めポリテトラフルオロエチレンを擦りつける等して分子レベルの凹凸を有する配向膜を形成し、その上に様々な結晶性物質を、溶液、溶融物、蒸着等の手法により配向生長させることが可能であることは知られている(非特許文献5参照)。例えば、後述する実施例で形成されるポリテトラフルオロエチレンの配向膜は非特許文献5において開示されている手法と同一であるが、当該配向膜の作用は全く異なる。
【0047】
つまり、非特許文献5に開示されている技術では、ポリテトラフルオロエチレンの配向膜は、結晶性物質における特定の結晶学的方向を、当該配向膜の配向方向と平行に配列させる作用を有している。これに対して、本発明における配向膜は、格子状の微細パターンを形成する物質において結晶性は不要であって、配向膜の上に形成された液膜から溶媒が蒸発する際の対流により微細パターンが生じる。
【0048】
以下、ポリテトラフルオロエチレンの配向膜を形成する場合を例に挙げて、配向膜形成工程をより詳細に説明する。ポリテトラフルオロエチレンの配向膜は、基板の温度を180℃〜360℃の範囲内、好ましくは250℃〜340℃の範囲内に制御し、当該基板の表面(形成面)上にポリテトラフルオロエチレンの固まりを押しつけながら滑らせることにより形成される。基板の温度が180℃未満では、ポリテトラフルオロエチレンの薄膜を形成することができない。また、360℃を超えるとポリテトラフルオロエチレンの融点よりも高すぎるため、配向が損なわれたり表面形状が荒れたりしてしまうなどの問題が生じる。
【0049】
上記配向膜を形成する前には、形成面を適切な手法で洗浄することが好ましい。これにより形成面上に安定して配向膜を形成することができる。後述する実施例では、アルカリ洗浄液でガラス基板の表面を洗浄してからポリテトラフルオロエチレンの配向膜を形成しているが、これに限定されるものではなく、形成面の材質等に応じて適切な洗浄方法・洗浄条件を選択すればよい。
【0050】
上記形成面にポリテトラフルオロエチレンを擦りつける条件は特に限定されるものではなく、形成面の種類(すなわち基板の種類)に応じて、配向膜を形成することが可能な適切な条件を設定すればよい。例えば、後述する実施例では、ポリテトラフルオロエチレンの棒を所定の圧力および速度で押しつけながら移動させることにより配向膜を形成している。
【0051】
ポリテトラフルオロエチレンの配向膜を平板状の基板に形成する方法について、図6に基づいてより具体的に説明する。図6では、基板2は加熱手段6により所定の温度まで加熱される。この加熱手段6の種類は特に限定されるものではなく、基板2の種類に応じて公知の加熱装置を用いることができる(後述する実施例ではホットプレートを用いている)。ポリテトラフルオロエチレンの固体(この場合は棒状)5は最初図中左の位置にあるが、圧迫移動装置7によって基板2に押しつけられながら図中右方向に滑らされる。その結果として、ポリテトラフルオロエチレンの薄膜(配向膜)1が基板2上に形成される。
【0052】
なお、上記の例では、加熱した状態でポリテトラフルオロエチレンの固まりを擦りつけて配向膜を形成することができれば、形成面は任意の曲面形状等であってもよい。また、後段の液膜形成工程において液膜が形成かつ保持可能であり、対流誘起工程において対流を生じさせるように液膜から溶媒を蒸発可能であれば、形成面の形状は特に限定されるものではない。したがって、微細構造体を形成する対象物は必ずしも平板状の基板に限定されるものではない。
【0053】
形成されたポリテトラフルオロエチレンの薄膜が配向膜か否かは、微分干渉光学顕微鏡により当該薄膜の表面を観察することにより確認することができる。配向膜であれば、その表面にスジ状の凹凸を観察することができる。
【0054】
〔液膜形成工程〕
上記液膜形成工程では、形成面を目的物質溶液に浸漬するか、あるいは、形成面に目的物質溶液を塗布、噴霧または滴下することにより液膜を形成する。ここで言う液膜とは、配向膜上に形成された、目的物質溶液の被服層(または塗膜)を指すものとする。上記配向膜上に液膜を形成する方法は特に限定されるものではなく、上記のように、目的物質溶液に、配向膜の形成された基板を浸漬し、それを引き上げる方法(いわゆる浸漬塗布法またはディッピング法);バーコーター、ロールコーター、ブラシ等の各種塗工手段による塗布法;エアブラシ、アトマイザー等による噴霧法;滴下;等の方法を挙げることができる。通常は、ディッピング法および噴霧法がより好ましく用いることができる。
【0055】
なお、液膜を形成する場合、基板および配向膜全体を均一に液膜で覆うように、当該液膜を形成する必要は無いが、微細構造の微細パターンのサイズとその周期を制御するためには、液膜の膜厚やその他の形成条件は適切に制御されることが好ましい。一般に、液膜の膜厚は、0.01〜100μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜10μmの範囲内であることがより好ましい。ただし、好適な範囲は溶液の濃度や対流誘起工程の温度等の諸条件により幅広く変化するので、本発明で用いる液膜の膜厚は上記範囲に限定されるものではない。
【0056】
液膜形成工程における目的物質溶液の温度は、目的物質の溶媒中の溶解(または分散)状態が良好となるような温度であればよく、特に限定されるものではない。また、形成された液膜は、水平となるように保持されている必要はなく、傾斜していてもよい。本発明では、後述する対流誘起工程において、液膜から溶媒が蒸発する際に、目的物質溶液内の化学ポテンシャルの差に起因するマランゴニ対流が重要であるため、重力の方向が液膜に対してどのような向きにあっても利用することができる。
【0057】
〔対流誘起工程〕
上記対流誘起工程では、前段の液膜形成工程にて配向膜上に形成された液膜から溶媒を蒸発させることにより対流、具体的にはマランゴニ対流(場合によってはベナール対流)を誘起し、これにより、少なくとも1μm以下の周期的な微細構造を形成する。マランゴニ対流とは、温度勾配あるいは濃度勾配により生じる界面(液体−液体、あるいは液体−気体)張力の差により生じる表面近傍の流体の流れのことであり、本発明では、液膜から溶媒を蒸発させることによりマランゴニ対流を生じさせ、これにより格子状の微細パターンを周期的に形成することが可能になると考えられる。またベナール対流とは、上面で冷却され密度が増した流体が下降するために生じる対流で、重力の影響を無視できない場合には考慮される。
【0058】
本工程において、液膜から溶媒を蒸発させる方法は特に限定されるものではなく、加熱、減圧、およびこれらの組み合わせ等、公知の手法を用いることができる。例えば、後述する実施例では、ホットプレート等の加熱手段により加熱する手法を用いている。また、後述する実施例では、配向膜の形成された基板を加熱しながら液膜を形成している。すなわち、液膜形成工程と対流誘起工程とを同時に行っている。このように、目的物質の種類や製造しようとする微細構造体の種類等に応じて、液膜形成工程および対流誘起工程は同時に行ってもよいし、別の工程として明確に区別して行ってもよい。
【0059】
また、本工程では、微細構造を形成する際に、溶媒を蒸発させる速度を調節することにより、微細パターンの均一性や形成周期のサイズ等を調節することができる。そのために、基板、溶液、雰囲気の温度および周囲の気圧や雰囲気中の溶媒の蒸気圧等の諸条件を適宜制御すればよい。このように諸条件を制御することにより、微細パターンの間隔や周期の大きさを様々に変化させた微細構造体を製造することが可能である。
【0060】
このように諸条件を制御することにより、微細パターンの周期や当該微細パターンを形成する棒状あるいは紐状構造の太さを様々に変化させた微細構造体を製造することが可能である。また、位置に応じて微細パターンの周期や棒状構造の太さが連続的に変化するような微細構造体を製造することも可能である。特に、本発明では、微細構造として格子状の微細パターンの繰り返し構造を形成することができるが、格子の周期は少なくとも10〜500nmの範囲内で、格子を形成する棒状構造の太さは1nm〜200nmの範囲内で変化させるように制御することができる。
【0061】
本発明では、配向膜の表面に形成される高さ数nm〜数百nmの微細な筋状構造が、対流誘起工程において液膜からの溶媒の蒸発に影響を与える。すなわち、蒸発過程にある目的物質溶液の輪郭をその筋状構造に沿ってある程度の時間固定する。その間、目的物質溶液の内部から輪郭部に向かう流動が生じ、蒸発に伴う対流と相まって、目的物質溶液中に溶解していた目的物質を、筋状構造に沿って棒状に基板表面に析出させることができるため、周期性を有する格子状の微細パターンを形成することが可能になる。
【0062】
(II)本発明にかかる微細構造体
本発明にかかる微細構造体は、上記製造方法によって製造されるものであり、具体的には、周期的な棒状構造、紐状構造、あるいはこれらを集合させた格子状構造を有しているものである。
【0063】
本発明により製造される微細構造体は、上記のように、特に、周期的に格子状の微細パターンが繰り返される微細構造(格子状構造)またはそれを形成する棒状構造が形成され、しかもこれら構造の形成周期は、少なくとも1μm以下、好ましくは数十〜数百nmの範囲内、より好ましくは数十nmとなっている。
【0064】
また、本発明により製造される微細構造体は目的物質が結晶性のものであっても、製造直後は非結晶性、あるいは非常に結晶性の低い状態になっている。
【0065】
前述したように、微細構造体を広範な目的で使用する場合には、当該微細構造体が備える微細構造は、周期的な格子状のパターンを有する構造(格子状構造)、または、棒状構造や紐状構造のように、集合することで格子状構造を形成可能な構造であることが好ましい。本発明では、このような周期的な格子状構造を有する微細構造体を簡素、低コスト、かつ省エネルギーで製造することができるだけでなく、格子状構造の配向を制御することもでき、さらには、用いる目的物質の自由度も従来よりも広範なものとなっている。それゆえ、本発明の利用分野は、従来の技術と比べても非常に広いものとなっている。
【0066】
従来では、同様なスケールのパターンを形成する場合には、X線や電子線などの波長が短い(すなわち高エネルギーの)放射線を用いた大掛かりな装置が必要となり、また、多くの作業工程を必要としていた。したがって、コストの点で問題があり、CPU等の高付加価値製品を製造するためだけに用いられていた。これに対して本発明では、放射線の発生装置は不要であり、製造程も高分子を基板に擦りつけて配向膜を形成し、その上に溶液をキャストして蒸発させるだけであるため、非常に簡便となっている。それゆえ、本発明は非常に簡便かつ安価に微細なパターンを形成できるため、コストの厳しい用途にも用いることができる。
【0067】
また、溶媒の蒸発を利用した自己組織化による周期的な微細パターンの形成技術としては、前記特許文献1に開示されている技術が知られているが、この技術は、2つの面をほぼ密着させてずらしながら溶媒を蒸発させるため、加工可能な面の形状に制約がある。前記特許文献1に開示されている技術は、原理があまり明確ではないが、公開公報においては0.1nm〜100mmの広範囲で微細構造が形成できると記載されているものの、実施例では、12μmの例しか挙げられていないため、数十nmレベルで微細パターンを形成できるか否かは不明である。
【0068】
本発明よりも桁違いに大きなスケールでは、マランゴニ対流(表面張力の違いによって起こる、無重力下でも生じる対流)によって引き起こされる指状パターン形成が知られているが、従来技術の微細パターンは数十〜数百μmのレベルであり、本発明で形成可能な数十nmレベルの微細パターンよりサイズが2〜3桁大きい。本発明の原理はマランゴニ対流が関係していると想定されるが、従来技術の微細パターン形成技術とは作用が異なっている。
【0069】
(III) 本発明の利用
本発明にかかる微細構造体の製造方法およびこれにより得られる微細構造体の利用分野は特に限定されるものではなく、量子サイズ効果を利用できるような分野に広く用いることができる。代表的な例としては、当該微細構造体を用いてなる電子および/または光学デバイスを挙げることができる。
【0070】
より具体的には、量子薄膜、量子ワイヤー、光学素子、表面吸着タンパク質検査装置、データ記録材料、マイクロ電子回路、およびそれらを作製するために用いるテンプレートや、ナノリソグラフィーのためのマスク等が挙げられる。
【0071】
あるいは、例えば、本発明を用いて、導電性高分子材料によりパターニングを行うことにより、微小サイズの導線を導電性高分子材料から製造することができる。また、エレクトロクロミック材料を用いることで、電流に応じたパターンの変化を利用した表示デバイスなどの作成も可能である。
【0072】
さらに、金属ナノ粒子を用いて形成された微細構造体には光学異方性があることから(後述する実施例7)、この特性を表示動作に利用した表示デバイスを作成することも可能である。
【0073】
また、本発明を用いた光学デバイスは、可視光線から紫外線、X線の波長領域における回折格子(グレーティング材料)や干渉フィルターとしての利用が可能である。また蛍光材料または燐光材料を利用すれば、規則的なパターンを持った露光材料や、ディスプレイ材料のフィルターとしての使用が可能である。規則的な微細パターンを制御することで、フォトニック結晶と同様の効果を、有機材料を用いて実現することも可能である。
【0074】
また、光、熱、電気、磁気といった物理的なエネルギーを加えることによって状態変化や化学変化を起こしうる材料を用いることで、決められた微細パターンに番地を割り当てることにより、記録材料を製造することも可能である。
【0075】
さらに、格子状構造を正孔輸送材料で形成し、電子輸送性材料を周囲に充填し、あるいは逆に格子状構造を電子輸送性材料で形成し、正孔輸送材料を周囲に充填し、そこに光励起する色素を導入することにより、光発電デバイスを構築することができる。
【0076】
このように、本発明を用いて、基板や立体物上に様々な微細構造体を製造してそれを表示デバイス、光学デバイス、電子デバイス、発光デバイス、光発電デバイス(まとめて電子デバイスおよび/または光学デバイスと称する)として用いることが可能である。これら電子デバイスや光学デバイスを製造する際、本発明により直接上記デバイスに用いられる構造を目的物質により形成する必要はない。例えば、目的物質により微細構造体を形成し、その後で放射線の照射あるいは加熱等の物理的手段、あるいは目的物質と他の物質を反応させるなどの化学的手段により目的物質を変化させ、上記デバイスで用いられる物質により形成された微細構造体を得ることができる。また、目的物質により構成された微細構造体をテンプレートとして、別の物質による微細構造体を製造することもできる。
【0077】
以下に本発明を用いた発光デバイスの一例について具体的に説明する。
【0078】
本発明を用いた発光デバイスは、陽極、陰極の一対の電極間に発光層もしくは発光層を含む有機層を有する素子であり、発光層のほか正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、保護層などを有してもよく、またこれらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであってもよい。各層の製造にはそれぞれ種々の材料を用いることができる。
【0079】
本発明を用いた発光デバイスにおいては、製造された微細構造体を発光デバイスの有機層として用いることが好ましく、製造された微細構造体を発光デバイスの発光層として用いることがより好ましい。
【0080】
陽極は正孔注入層、正孔輸送層、発光層などに正孔を供給するものであり、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物などを用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料である。具体的には、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;およびこれらとITOとの積層物;等を挙げることができる。これらの中でも、好ましくは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からITOが特に好ましい。
【0081】
陽極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲内のものが好ましく、50nm〜1μmの範囲内のものがより好ましく、100nm〜500nmの範囲内のものがさらに好ましい。
【0082】
陽極は通常、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、透明樹脂基板等の上に層として形成したものが用いられる。基板としてガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分であれば特に限定されるものではないが、ガラスを用いる場合には、通常0.2mm以上、好ましくは0.7mm以上のものを用いることが好ましい。
【0083】
陽極の作製は、材料によって公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で膜製造される。陽極は洗浄その他の処理により、素子の駆動電圧を下げたり、発光効率を高めたりすることも可能である。例えばITOの場合、UV−オゾン処理、プラズマ処理などが有効である。
【0084】
陰極は電子注入層、電子輸送層、発光層などに電子を供給するものであり、電子注入層、電子輸送層、発光層などの負極と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することができる。
【0085】
陰極の材料としては金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物を用いることができ、具体的には、例えば、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属及びそのフッ化物;Mg、Ca等のアルカリ土類金属及びそのフッ化物;金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金またはそれらの混合金属;リチウム−アルミニウム合金またはそれらの混合金属;マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属;インジウム、イッテリビウム等の希土類金属;等を挙げることができる。これらの中でも、好ましくは仕事関数が4eV以下の材料であり、より好ましくはアルミニウム、リチウム−アルミニウム合金またはそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属等である。
【0086】
陰極は、上記化合物及び混合物の単層構造だけでなく、上記化合物及び混合物を含む積層構造を取ることもできる。陰極の膜厚は材料により適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、通常10nm〜5μmの範囲内であることが好ましく、50nm〜1μmの範囲内であることがより好ましく、100nm〜1μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0087】
陰極の作製には、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法などの方法を用いることができ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。さらに、複数の金属を同時に蒸着して合金電極を製造することも可能であり、またあらかじめ調製した合金を蒸着させてもよい。陽極および陰極のシート抵抗は低い方が好ましい。
【0088】
発光層の材料は、電界印加時に陽極または正孔注入層、正孔輸送層から正孔を注入することができるとともに陰極または電子注入層、電子輸送層から電子を注入することができる機能や、注入された電荷を移動させる機能、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層を製造することができるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、アミン化合物、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物等を挙げることができる。
【0089】
発光層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲内であることが好ましく、5nm〜1μmの範囲内であることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲内がさらに好ましい。
【0090】
発光層に含有する発光材料(自らが発光素子の発光に寄与する物質)は、一重項励起子から発光するもの、三重項励起子から発光するもの、両者から発光するもの等、何れの発光材料であっても用いることができる。特に三重項励超子からの発光が含まれる発光材料との組み合わせでその効果がより一層有効に発揮されるため好ましい。
【0091】
発光層の製造方法は、本発明により得られる微細構造体を当該発光層に適用しない場合、特に限定されるものではないが、抵抗加熱蒸着、電子ビーム、スパッタリング、分子積層法、コーティング法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)、LB法、インクジェット法などの方法が用いられ、好ましくは抵抗加熱蒸着、コーティング法が用いられる。
【0092】
正孔注入層、正孔輸送層の材料は、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれか有しているものであればよい。具体的には、例えば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー等を挙げることができる。
【0093】
正孔注入層、正孔輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲内であることが好ましく、5nm〜1μmの範囲内であることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲内であることがさらに好ましい。正孔注入層、正孔輸送層は上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0094】
正孔注入層、正孔輸送層の製造方法としては、本発明により得られる微細構造体を当該各層に通用しない場合、真空蒸着法やLB法やインクジェット法、前記正孔注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)等を好適に用いることができる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解または分散することができ、樹脂成分としては、具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等を挙げることができる。
【0095】
電子注入層、電子輸送層の材料は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれか有しているものであればよい。具体的には、例えば、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルビジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錆体等を挙げることができる。
【0096】
電子注入層、電子輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲内であることが好ましく、5nm〜1μmの範囲内であることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲内であることがさらに好ましい。電子注入層、電子輸送層は上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0097】
電子注入層、電子輸送層の製造方法としては、本発明により得られる微細構造体を当該各層に適用しない場合、真空蒸者法やLB法やインクジェット法、前記電子注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコー卜法、キャスト法、ディップコート法など)等を用いることができる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解または分散することができ、樹脂成分としては例えば、正孔注入輸送層の場合に例示したものが連用できる。
【0098】
保護層の材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。具体的には、例えば、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag,Al,Ti、Ni等の金属;MgO、SiO、SiO2 、Al23、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe23、Y2O、TiO2等の金属酸化物;MgF2、LiF,AlF3、CaF2等の金属フッ化物;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア等の高分子;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体等のハロゲン系高分子;吸水率1%以上の吸水性物質;吸水率0.1%以下の防湿性物質;等を挙げることができる。
【0099】
保護層の製造方法についても特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、真空蒸者法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシ法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励超イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、インクジェット法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0100】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1〜5、図7(a)・(b)〜図12に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0101】
〔実施例1〕
アルカリ洗浄剤として水酸化カリウムの1重量%溶液を水とエタノールの混合溶液(重量混合比1:10)を溶媒として調製した。そのアルカリ洗浄剤中に光学顕微鏡用のスライドガラス(基板)を1時間以上浸漬した後取り出し、蒸留水によりアルカリ洗浄剤を洗い流した。当該スライドガラスを風乾後、300℃に加熱したホットプレート上に載せて、その上からポリテトラフルオロエチレンの棒を圧力0.8MPa、速度2.6cm/secで押しつけながら移動させた。これらの操作により、当該スライドガラス上にポリテトラフルオロエチレンの配向膜を形成した。微分干渉光学顕微鏡により、当該配向薄膜によるスジ状の凹凸を確認した(配向膜形成工程)。この場合、当該配向膜は基板表面を完全に覆わず、一部基板表面が露出していた。
【0102】
次に、溶媒としてパラキシレン(和光純薬製、特級)を用い、これを加熱し沸騰させ、直鎖状ポリエチレン(Fluka製、GPC校正用標準試料、Mw=36,500)を溶解し、3.3×10-4重量%の溶液(目的物質溶液)を調製した。上記ガラス基板上のポリテトラフルオロエチレン配向膜をホットプレート上で所定の温度(80℃〜110℃)に加熱し、その上に約140℃に加熱した上記ポリエチレンの溶液を噴霧した(液膜形成工程・対流誘起工程)。
【0103】
これに得られた微細構造体に金およびカーボンを真空蒸着し、レプリカ法によってガラス基板から試料を剥離し、透過型電子顕微鏡によって観察した。その結果、図1に示すような格子状の微細パターンの周期的な形成が確認された。
【0104】
また、このような格子状構造を形成する際に、各工程の条件の関係を検討したところ、図2に示すように、格子状構造の棒状構造の平均太さと、ホットプレートの温度の間に相関関係が見られた。図2の相関関係は、本発明による周期的な格子状構造を形成する際、溶媒を蒸発させる温度により当該棒状構造の太さが制御可能であることを示す。図1に見られる格子状の微細パターンからは、制限視野電子回折において、ポリテトラフルオロエチレン結晶に起因する回折ピークの他には結晶性の回折ピークは検出されなかった。このことはポリエチレンが非結晶状態にあることを示す。
【0105】
〔比較例1〕
ホットプレートの温度を80℃としてポリエチレンの格子状構造を形成し、その後、スライドガラスに付着した状態で150℃において1分間加熱溶解し、その後室温に冷却した以外は、上記実施例1と同様にして微細構造体を製造し、金およびカーボンの蒸着を施し、透過型電子顕微鏡により観察した。
【0106】
その結果、格子状の微細パターンは観察されず、ポリエチレンが溶解したために生じた塊状の構造が見られた。制限視野電子回折において、この塊状の構造からポリエチレン結晶に起因する回折ピークが確認された。このことは実施例1にて観察された格子状構造を形成するポリエチレン分子が変質せず、十分な結晶性を持っていたことを示す。
【0107】
〔比較例2〕
上記スライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜をホットプレート上で80℃に加熱し、その上に約140℃に加熱したパラキシレン(ポリエチレンを含まない溶媒のみ)を噴霧した。その後、実施例1と同様して、基板の表面に金およびカーボンの蒸着を施し、透過型電子顕微鏡により観察した。
【0108】
その結果、格子状の微細パターンは観察されず、図3に示すように、配向したポリテトラフルオロエチレンのスジ状構造のみが観察された。このことは実施例1にて観察された格子状構造を形成していた物質が確実にポリエチレンであったことを裏付けている。
【0109】
〔実施例2〕
溶媒としてメチルエチルケトン(和光純薬製)を用い、これにポリスチレン(Scientific Polymer Products Inc.製、Mw=45,000)を溶解し、4.2×10-3重量%の溶液(目的物質溶液)を調製した。実施例1と同様にしてスライドガラス(基板)上にポリテトラフルオロエチレン配向膜を形成し、これを室温またはホットプレート上で所定の温度(80℃〜110℃)に加熱し、その上に上記ポリスチレン溶液を噴霧した。その後、実施例1と同様にして金およびカーボンを蒸着させ、透過型電子顕微鏡により観察した。その結果、いずれのホットプレート温度においても図4に示すような格子状の微細パターンの形成が確認された。
【0110】
〔実施例3〕
実施例2と同様に調製したポリスチレン溶液を実施例1と同様にして作製したスライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜上に室温で滴下し、その蒸発する過程を微分干渉光学顕微鏡により観察した。その結果、ポリスチレン溶液の液膜の輪郭部に、図5上に示すような、対流により形成された密度の揺らぎが確認された。図5下は、図5上に示す顕微鏡写真の一部で横方向に切った断面の様子を示している。同図では、基板(スライドガラス)2の上に形成されたポリテトラフルオロエチレンの配向膜1上に、さらにポリスチレンのメチルエチルケトン溶液3の液膜が形成され、当該液膜中に溶液の対流4が形成されていることを示している。
【0111】
〔実施例4〕
蒸留水を沸騰させながらポリビニルアルコール(Aldrich製)を溶解し、3.8×10-3重量%の溶液(目的物質溶液)を調製した。実施例1と同様にして作製したスライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜をホットプレート上で80℃に加熱し、その上に上記ポリビニルアルコール溶液を滴下し水分を蒸発させた。その後、実施例と同様して金およびカーボンを蒸着させ、透過型電子顕微鏡により観察した。その結果、図4と類似した格子状の微細パターンの形成が確認された。制限視野電子回折において、この格子状構造から、ポリビニルアルコール結晶の回折ピークは観察されなかった。このことはポリビニルアルコールが非結晶状態にあることを示す。
【0112】
〔実施例5〕
アセトン(和光純薬製)に1,6−ジ(N−カルバゾリル)−2,4−ヘキサジイン(1,6-di(N-carbazolyl)-2,4-hexadiyne、DCHD)を溶解し、0.25重量%の溶液を調製した。このDCHD溶液中に、実施例1と同様にして作製したスライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜を浸漬し、取り出した後風乾した。その後、実施例1と同様にして金およびカーボンを蒸着させ、透過型電子顕微鏡により観察した。その結果、図1と類似した格子状の微細パターンの形成が確認された。制限視野電子回折において、この格子状構造から、DCHD結晶の回折ピークは観察されなかった。このことはDCHDが非結晶状態にあることを示す。
【0113】
〔実施例6〕
実施例1と同様にポリテトラフルオロエチレンの配向膜をスライドガラス上に作成した。上記ガラス基板上の配向膜をホットプレートで70℃に加熱し、その上に平均粒径が5nm、15nm、50nmの金コロイド分散液(British BioCell International, Ltd.製、型番は各々EMGC5、EMGC15、EMGC50)を各々滴下し、分散媒体の水を蒸発させた。その後、実施例1と同様にしてカーボンを真空蒸着し、レプリカ法によってガラス基板から試料を剥離し、透過型電子顕微鏡によって観察した。その結果、平均粒径5nm、15nm、50nmそれぞれの金コロイドの配列構造が確認された。図7(a)・(b)に、その一例として15nmの金コロイドの配列構造を示す。なお、図7(b)は、図7(a)の部分拡大図である。
【0114】
〔実施例7〕
実施例6において用いた平均粒径5nm、15nm、50nmの金コロイド分散液を、実施例1と同様にして作製したスライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜上に室温で各々滴下し、分散媒体の水を蒸発させた。そして、ガラス基板をそのまま微分干渉顕微鏡で観察した。その結果、平均粒径5nm、15nm、50nmいずれの金コロイドについても配列構造が確認された。図8(a)・(b)にその一例を示す。図8(a)は平均粒径5nmの金コロイドの配列構造であり、図8(b)は平均粒径50nmの金コロイドの配列構造である。なお、図中の矢印は、配向膜の配向方向を示す。
【0115】
また、各サンプルのガラス基板に、実施例1と同様にしてカーボンを真空蒸着し、レプリカ法によってガラス基板から試料を剥離し、透過型電子顕微鏡によって観察した。図9(a)・(b)に、その一例として平均粒径50nmの金コロイドの配列構造を示す。なお、図9(b)は、図9(a)の部分拡大図である。図9(a)・(b)からも、金コロイドの配列構造を確認することができた。
【0116】
さらに、上記透過型電子顕微鏡用試料を偏光顕微鏡によって観察したところ、直交した偏光板の光軸に対して45度の方向に微細構造体が配向した場合には透過光強度が極大になり、偏光板の光軸と微細構造体の配向が平行(あるいは垂直)の場合には透過光強度が極小になる現象が観察された。図10(a)・(b)および図11(a)・(b)にこの現象を示す。図10(a)・(b)は、平均粒径50nmの金コロイドの配列構造を偏光顕微鏡を用いて観察した顕微鏡画像であり、図中の矢印は配向膜の配向方向を示す。なお、図10(a)は偏光板の光軸がそれぞれ紙面左右方向と紙面上下方向とにある偏光板(直交偏光板)の間に挟持された状態の画像であり、図10(a)は偏光板の光軸がともに紙面上下方向にある偏光板(平行偏光板)の間に挟持された状態の画像である。図11(a)・(b)は、図10(a)・(b)のそれぞれの視野を45度回転させた状態で観察した顕微鏡画像である。図10(a)と図11(a)とを比較すると、図11(a)における微細構造体(配列構造)の透過光強度が、図10(a)よりも低下していることが示された。
【0117】
〔実施例8〕
アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン製、Nipol1562、平均粒径50nm、固形分41%)に蒸留水を加えて1万倍に希釈した希釈液を、実施例1と同様にして作製したスライドガラス上のポリテトラフルオロエチレンの配向膜上に室温で滴下し、分散媒体の水を蒸発させた。その後、白金パラジウムおよびカーボンを真空蒸着し、レプリカ法によってガラス基板から試料を剥離し、透過型電子顕微鏡によって観察した。観察結果を図12に示す。その結果、図12に示すように、平均粒径50nmのアクリロニトリル・ブタジエン共重合体ラテックスによって配列構造が得られることが示された。なお、図12の矢印は配向膜の配向方向を示す。
【0118】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明では、配向膜上に液膜を形成してから対流を生じさせるように溶媒を蒸発させる。そのため、目的物質の結晶性の有無にかかわらず配向制御可能で、簡便かつ低コストで周期的な微細構造を形成することが可能となる。そのため、本発明は、各種ナノテクノロジーに用いることができるだけでなく、その応用分野、具体的には、さらなる高性能化が求められる各種電子・光学デバイスやその部品に関わる分野に広く応用することが可能である。さらに、本発明によって得られる微細構造のうち、金属ナノ粒子を用いて形成される微細構造には、光学異方性があるため、本発明は、各種表示デバイスにも広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一実施例である、ポリエチレンにより形成された周期的な格子状構造を示す図であり(実施例1)、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは200nmを示す。
【図2】図1に示すポリエチレンにより形成された周期的な格子状構造を構成する棒状構造体の太さと、当該格子状構造を形成する際の基板温度の関係を示すグラフである。
【図3】比較例2において、溶媒のみにより処理を行ったポリテトラフルオロエチレン配向膜を示す図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは200nmを示す。
【図4】本発明の他の実施例である、ポリスチレンにより形成された周期的な格子状構造を示す図であり(実施例2)、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは1μmを示す。
【図5】本発明のさらに他の実施例である、ポリスチレン溶液により格子状構造を形成する過程で生じる対流の様子を示す図であり、上部は顕微鏡写真、下部は当該顕微鏡写真の一部で横方向に切った断面の様子を示す模式図であり、スケールバーは50μmを示す。
【図6】本発明の実施の一形態において、基板の表面(形成面)にポリテトラフルオロエチレンの配向膜を形成する状態を示す模式図である。
【図7】(a)・(b)は、本発明のさらに他の実施例である、金コロイドにより形成された配列構造(微細構造)を示す図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、(a)のスケールバーは500nmを示し、(b)のスケールバーは50nmを示す。
【図8】(a)・(b)は、本発明のさらに他の実施例である、金コロイドにより形成された配列構造(微細構造)を示す図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは10μmを示す。
【図9】(a)・(b)は、本発明のさらに他の実施例である、金コロイドにより形成された配列構造(微細構造)を示す図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、(a)のスケールバーは1μmを示し、(b)のスケールバーは50nmを示す。
【図10】(a)・(b)は、本発明のさらに他の実施例である、金コロイドにより形成された配列構造(微細構造)を示す図であり、(a)は直交偏光板の間に上記配列構造を挟持した状態を示した図であり、(b)は平行偏光板の間に上記配列構造を挟持した状態を示した図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは10μmを示す。
【図11】(a)・(b)は、図10(a)・(b)のそれぞれの視野を45度回転させた状態で観察した図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示す。
【図12】(a)・(b)は、本発明のさらに他の実施例である、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ラテックスにより形成された配列構造(微細構造)を示す図であり、矢印はポリテトラフルオロエチレンの配向方向を示し、スケールバーは10μmを示す。
【符号の説明】
【0121】
1 ポリテトラフルオロエチレンの配向膜
2 基板
3 ポリスチレンのメチルエチルケトン溶液
4 溶液の対流
5 固体状ポリテトラフルオロエチレン
6 加熱装置
7 圧迫移動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の周期で微細パターンが繰り返される構造を有しており、当該微細パターンの周期間隔が少なくとも1μm以下となっている微細構造体の製造方法であって、
平滑な形成面に、少なくとも高分子材料からなる配向膜を形成する配向膜形成工程と、
当該配向膜の上に、上記微細構造体となる目的物質を溶媒に溶解した目的物質溶液の液膜を形成する液膜形成工程と、
当該液膜から溶媒を蒸発させながら対流を誘起させる対流誘起工程とを含むことを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
上記高分子材料としてフッ素樹脂が用いられることを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
上記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項2に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
上記配向膜形成工程では、上記形成面に高分子材料を擦りつけることにより配向膜を形成することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
上記配向膜形成工程は、平滑な形成面を有する基板に対して施されることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項6】
上記液膜形成工程では、形成面を目的物質溶液に浸漬するか、あるいは、形成面に目的物質溶液を塗布、噴霧または滴下することにより液膜を形成することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
上記液膜形成工程と対流誘起工程とが同時に行われることを特徴とする請求項1ないし6の何れか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
上記微細構造体が、棒状または紐状、あるいはこれらを集合させた格子状の形状を有していることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の方法により製造される微細構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の微細構造体を用いてなる電子および/または光学デバイス。

【図2】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−255878(P2006−255878A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254042(P2005−254042)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】