説明

微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法

【課題】微細な凹凸パターンが表面に形成された無機系材料表面、特にTiO2、SiO2表面を効率よく作製する方法を提供する。
【解決手段】陽極酸化ポーラスアルミナを用いて形成したモールドの構造を、主たる構成成分が無機物である無機系材料の表面に転写することにより、該材料の表面に微細パターンを形成することを特徴とする、微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法に関し、とくに、特定のインプリント用モールドを用いて表面に微細な凹凸パターンを形成するようにした微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノインプリント法は、サブミクロンからナノメータースケールの微細な凹凸パターンを基板等の材料表面に一括成形することが可能であることから、撥水・撥油性膜や反射防止膜、細胞培養シートなど様々な機能性デバイスを作成するための手法として期待されている。ナノインプリント法は、通常、ポリマー材料の表面にナノパターンを形成するための手法として広く検討がなされているが、TiO2やSiO2をはじめとする無機材料に微細な凹凸パターンを形成するための手法としても期待できると考えられる。例えばTiO2からなる材料に微細な凹凸パターンを有する表面を高スループットで形成することが可能になれば、高効率な光触媒特性を有する表面の構築が可能になると考えられ、このことは、反射防止特性を付与した光触媒表面、濡れ性を制御した光触媒表面の形成、さらには、色素増感型太陽電池の電極材料やフォトニック結晶を簡便かつ高スループットに作製するための手法として有効であると期待できると考えられる。
【0003】
無機系材料にインプリントを行う手法として、スピンオングラス等のゾルーゲル系の材料を用いた手法が提案されている、この手法を用いれば、基板上に無機材料からなるパターンが形成可能であるが、従来から検討されてきた各種リソグラフィー技術をはじめとする微細加工法で形成されたモールドを用いた場合では、大面積の凹凸パターンを形成することは困難である。インプリント用のモールド材料として自己組織化的に細孔が規則配列したホールアレー構造材料である陽極酸化ポーラスアルミナを適用すれば、大面積の微細パターンが形成可能であることが明らかとなっている。しかしながら、陽極酸化ポーラスアルミナを用いたナノインプリントを、ポリマー材料の表面への微細な凹凸パターンの形成に適用した例は知られているが(例えば、特許文献1)、ゾルーゲル系の材料や、無機系微粒子と有機系バインダーを含有した材料に適用した例は報告されていない。
【特許文献1】特開2007−86283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、幅広い分野への応用展開が期待される表面微細パターンが形成された無機系材料、特にTiO2、SiO2をインプリント法によって効率よく形成する際の上記問題点を解決するために、アルミニウム材を陽極酸化することによって得られるポーラスアルミナをモールドとして用いることで、微細パターンを表面に有する無機系材料を容易に得るための手法について鋭意検討を行った結果完成されたものである。その目的は、サイズの均一な細孔または、突起が所定の形態で配列した微細な凹凸パターンが表面に形成された無機系材料表面、特にTiO2、SiO2表面を効率よく作製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような発見に基づいて完成されたものである。均一なサイズの細孔が規則的に配列した陽極酸化ポーラスアルミナをモールドとしたナノインプリントプロセスについて詳細に検討を行った結果、従来より報告されているポリマー材料に代えて、無機系材料を含有する溶液等に構造転写を行うことで、微細表面凹凸パターンを有した、主たる構成成分が無機物からなる材料を得られることが見出された。
【0006】
本発明に係る微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法は、陽極酸化ポーラスアルミナを用いて形成したモールドの構造を、主たる構成成分が無機物である無機系材料の表面に転写することにより、該材料の表面に微細パターンを形成することを特徴とする方法からなる。すなわち、陽極酸化ポーラスアルミナを用いて形成された特定のモールドを用いて、後述するような無機系材料の表面にモールドの微細凹凸構造を転写する方法である。
【0007】
本発明に係る無機系材料の製造方法においては、陽極酸化ポーラスアルミナ自体を構造転写用のモールドとして用いることもできるし、陽極酸化ポーラスアルミナを利用して作製したモールドを構造転写に用いることもできる。例えば、陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型として、その細孔内へ物質の充填を行った後、鋳型を溶解除去することで得られるピラーアレー構造体をモールドとして用いた場合においても、インプリントプロセスにより、表面に微細な凹凸パターンを有した無機系材料の作製を行うことが可能である。
【0008】
また、陽極酸化とエッチング処理を繰り返すことで得られるテーパー形状の細孔を有するポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製したネガ型であるピラーアレー構造体をインプリント用モールドとして用いることが、モールドと構造転写を行う無機系材料の剥離特性を向上させる観点からより好ましい。
【0009】
構造転写は、例えば、モールドの表面に無機物を含有する溶液無機系材料溶液を塗布して行う。陽極酸化ポーラスアルミナ、またはそれを鋳型として作製したモールドを用いて無機物を含有する溶液に構造転写を行う際に、溶液を、乾燥、加熱、光照射の少なくともいずれかによって固化させた後、固化した無機系材料からモールドを、あるいはモールドから固化した無機系材料を剥離することで微細凹凸パターンを有する無機系材料を得ることができる。無機物を含有する溶液が固化する際に体積収縮を起こす条件を適用すれば、モールドと無機系材料の離型をより容易に行うことが可能となる。
【0010】
微細パターンが構造転写される無機系材料は基板によって保持することができる。例えば、基板を介して無機系材料をモールドに押し付けたり、基板上に保持された無機系材料に対してモールドを押し付けたりすることができる。基板としては、例えばポリマーシートまたはガラス板を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
また、本発明では、とくに光触媒特性を有する無機系材料に構造転写を行うことができる。光触媒特性を有する無機系材料は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化銀、酸化マンガン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化マンガン、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化銅、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化タングステンの少なくともいずれかを含有するものからなる。このような光触媒特性を示す材料に構造転写を行うことで、比表面積の大きい材料の形成を高スループットで行うことができる。
【0012】
このように、本発明を用いれば、簡便なプロセスで基板上に、高効率な光触媒コート層を形成することができる。得られた凹凸パターンは、光触媒としてだけでなく、色素増感型太陽電池の電極材料やフォトニック結晶など光機能デバイスとしての応用も期待できる。
【0013】
また、とくに本発明における構造転写をSiO2を主成分とする無機系材料に適用すれば、反射防止コーティングや、フォトニック結晶として有用な凹凸パターンを基板上に高スループットで形成することも可能である。
【0014】
インプリント処理によって形成される微細凹凸パターンの形状は、出発構造として用いる陽極酸化ポーラスアルミナの表面幾何学構造に依存する。そのため、モールド用素材の陽極酸化において、シュウ酸電解液を用い化成電圧30Vから40V、硫酸電解液を用い化成電圧10Vから30V、リン酸電解液を用い化成電圧180Vから200Vの条件下で得られる陽極酸化ポーラスアルミナを用いることで、規則性の高い凹凸パターンを得ることができる。
【0015】
さらには、陽極酸化に先立ち、アルミニウム材の表面にテクスチャリング処理により微細で規則的な窪み配列を形成して陽極酸化を行うことで、各窪みが陽極酸化の初期において細孔発生の開始点として機能することから、任意の配列パターンで細孔が理想的に配列した陽極酸化ポーラスアルミナが形成できるようになり、これを本発明に適用することで、理想配列凹凸パターンを有する無機系材料の微細パターンの形成も可能になる。細孔が規則的に配列した陽極酸化ポーラスアルミナでは、各細孔は膜面に対して完全に直行していることから、モールドと無機系材料の剥離が容易になるといった利点もある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法によれば、無機系材料の表面に目標とする微細凹凸パターンを効率よく高スループットで確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明において得られる無機系材料の凹凸パターンの形成方法を示したものである(第1実施態様)。微細な細孔の配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナ1をモールドとして用い、それを基板2上の無機物を含有する溶液3(無機系材料溶液)に押し付け、溶液3が固化した後、剥離することにより、陽極酸化ポーラスアルミナ1の構造に対応した微細凹凸パターンを表面に有する無機系材料4を得ることができる。図示例では、無機系材料4の表面に、ピラーアレー構造としての微細凹凸パターンが形成される。
【0018】
図2に、本発明の第2実施態様に係る方法を示しており、陽極酸化ポーラスアルミナ11からなる鋳型の細孔内へ物質12を充填し、充填物質12に対し鋳型(陽極酸化ポーラスアルミナ11)を溶解除去することで、モールド13を作製する。作製したモールド13をのピラーアレー構造を用いてインプリント処理を行うことにより、微細凹凸パターンを表面に有する無機系材料14を得ることができる。モールド13をのピラーアレー構造は、無機系材料14のホールアレー構造として転写される。図示例では、基板15を用いているが、インプリント処理によっては使用しなくてもよい場合もある。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により更に本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0020】
実施例1〔TiO2ピラーアレーの作製〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、500 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1 Mの濃度に調整したリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で30秒間陽極酸化を行った。その後、10重量%リン酸水溶液に25分間浸漬し孔径拡大処理を施した。この操作を5回繰り返し、最後に再び30秒間陽極酸化を行うことでテーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。得られた陽極酸化ポーラスアルミナの表面を、フッ素系の表面処理剤で処理し離型層を形成した後、TiO2微粒子を含有した溶液を塗布したガラス基板に押し付けた。モールドを押し付けたまま、100℃で加熱し、溶液が完全に固化した後、モールドを剥離し微細パターンを有するTiO2を得た。図3に、TiO2ピラーアレーの電子顕微鏡による観察結果を示す。
【0021】
実施例2〔SiO2ピラーアレーの作製〕
実施例1と同様の方法によりテーパー形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。作製した陽極酸化ポーラスアルミナの表面に離型層を形成したのち、モールド表面にスピンオングラスを滴下し80℃の条件下で乾燥させることにより細孔内へ充填を行った後、ガラス基板上への剥離を行うために、乾燥固化後の試料の上に再度スピンオングラスを滴下し、その上にガラス基板を設置して80℃の条件下で加熱処理した。スピンオングラスが完全に固化した後、ガラス層をポーラスアルミナモールドより剥離し、400℃の条件下で1時間加熱処理を施すことでガラス化を行った。図4に、スピンオングラスを用いて得られたガラス表面の電子顕微鏡による観察結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明方法は、TiO2やSiO2等の無機系材料の表面に微細凹凸パターンを形成することが求められるあらゆる用途に適用可能であり、とくに高効率な光触媒特性を有する表面の構築が求められる用途に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施態様に係る方法を示す概略工程フロー図である。
【図2】本発明の第2実施態様に係る方法を示す概略工程フロー図である。
【図3】実施例1における電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図4】実施例2における電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 陽極酸化ポーラスアルミナ(モールド)
2、15 基板
3 無機系材料溶液
4、14 微細凹凸パターンを有する無機系材料
11 陽極酸化ポーラスアルミナ(鋳型)
12 充填物質
13 モールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化ポーラスアルミナを用いて形成したモールドの構造を、主たる構成成分が無機物である無機系材料の表面に転写することにより、該材料の表面に微細パターンを形成することを特徴とする、微細表面パターンを有する無機系材料の製造方法。
【請求項2】
陽極酸化ポーラスアルミナからなる鋳型の細孔内へ物質を充填した後、鋳型を溶解除去することで得られるモールドを用いる、請求項1に記載の無機系材料の製造方法。
【請求項3】
モールドの形成に、陽極酸化とエッチング処理を繰り返し施す操作で作製されるテーパー形状の細孔を有するポーラスアルミナまたはそれを鋳型として作製したネガ型を用いる、請求項1または2に記載の無機系材料の製造方法。
【請求項4】
モールドの表面に構造転写のために塗布した無機系材料溶液を、乾燥、加熱、光照射の少なくともいずれかによって固化させた後、固化した無機系材料とモールドを離型する、請求項1〜3のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項5】
構造転写される無機系材料を基板によって保持する、請求項1〜4のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項6】
前記基板として、ポリマーシートまたはガラス板を用いる、請求項5に記載の無機系材料の製造方法。
【請求項7】
光触媒特性を有する無機系材料に構造転写を行う、請求項1〜6のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項8】
光触媒特性を有する無機系材料が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化銀、酸化マンガン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化マンガン、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化銅、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化タングステンの少なくともいずれかを含有する、請求項7に記載の無機系材料の製造方法。
【請求項9】
SiO2を主成分とする無機系材料に構造転写を行う、請求項1〜6のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項10】
モールドの形成に、シュウ酸を電解液として用い、化成電圧30V〜40Vにおいて陽極酸化することで得られたポーラスアルミナを用いる、請求項1〜9のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項11】
モールドの形成に、硫酸を電解液として用い、化成電圧10V〜30Vにおいて陽極酸化することで得られたポーラスアルミナを用いる、請求項1〜9のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項12】
モールドの形成に、リン酸を電解液として用い、化成電圧180V〜200Vにおいて陽極酸化することで得られたポーラスアルミナを用いる、請求項1〜9のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。
【請求項13】
モールドの形成に、陽極酸化に先立ち、アルミニウムの表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生の開始点として作製した陽極酸化ポーラスアルミナを用いる、請求項1〜9のいずれかに記載の無機系材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−221061(P2009−221061A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68666(P2008−68666)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月1日 日本表面科学会発行の「2007年(平成19年)第27回表面科学講演大会要旨集」に発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】