説明

心不全の処置における左室リモデリングを逆転させるための少なくとも1種のリモデリング物質と併用するラノラジンの使用

本発明は、治療有効量のラノラジンと少なくとも1種の併用リモデリング物質との併用投与により左室リモデリングを逆転する方法に関する。この併用リモデリング物質は、ACEインヒビター、ARB、またはβ遮断薬であり得る。本方法は、心不全の処置において有用性を見出す。本発明はまた、そのような併用投与に適した薬学的処方物に関する。一つの局面において、上記ACEインヒビターは、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリル、およびトランドラプリルからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2004年11月9日出願の米国仮特許出願第60/626,154号に対する優先権を主張しており、その仮特許出願の開示内容全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、治療有効量のラノラジンと少なくとも1種の併用リモデリング物質との併用投与によって、左室リモデリングを逆転させる方法に関する。この併用リモデリング物質は、ACEインヒビター、アンギオテンシンIIレセプター遮断薬(ARB)、またはβ遮断薬であり得る。本方法は、心不全の処置において有用性を見出す。本発明はまた、そのような併用投与に適した薬学的処方物に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
心不全は、工業化された社会における死亡および身体障害の主因である。心不全は、それ自体は疾患ではないが、心臓が血液の適切な供給を送り出して身体の組織および臓器の酸素要求量を満たすことができない状態である。その結果、多くの場合、体液が心臓および他の臓器(例えば、肺)に蓄積し、周囲の組織に拡散し、鬱血性心不全(CHF)を引き起こす。CHFは、多くの場合、心血管の問題の症状(例えば、冠状動脈疾患、心筋梗塞、心筋症、心臓弁異常など)である。
【0004】
心不全の重大な要素は、付随して起こる左室のリモデリングである。心筋が衰え、心筋が有する血液の適切な供給を送り出す能力が失われると、心臓、より具体的には左室(LV)が、補償しようとして拡大する。このリモデリングまたは拡大の程度は、心不全患者、特にCHFの患者における死亡率の上昇と相互に関連付けられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特定のβ遮断薬、およびアンギオテンシン転換酵素すなわち「ACE」のインヒビターが、LVリモデリングの進行を減速させ、さらには逆転させることが証明された。しかしながら、これらの物質は共に、望ましくない副作用を有し、これが投薬量を制限している。また、異なるβ遮断薬が有する逆リモデリングを誘発する能力の間には、かなりの変動がある。したがって、逆LVリモデリングを増強するための方法を提供する必要性がある。本発明では、ラノラジン(ranolazine)と併用リモデリング物質との投与が、好ましくない左室リモデリングの逆転を相乗的に増進することを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明の1つの実施形態において、好ましくない左室リモデリングを逆転するための方法を提供する。本方法は、治療有効量のラノラジンと少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質との、それらを必要とする哺乳動物への同時投与を包含する。この併用リモデリング物質は、ACEインヒビター、ARB、またはβ遮断薬であり得る。本方法は、鬱血性心不全(CHF)および/または慢性心不全の処置における使用に適している。ラノラジンと併用リモデリング物質とは、別個の投薬形態で投与されても単一の投薬形態で投与されてもよい。
【0007】
本発明の別の実施形態において、治療有効量のラノラジン、少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質、および少なくとも1種の薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的処方物を提供する。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態において、哺乳動物における心不全を処置するための方法を提供する。本方法は、治療有効量のラノラジンと少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質の、それらを必要とする哺乳動物への同時投与を包含する。本方法は、鬱血性心不全(CHF)および/または慢性心不全の処置における使用に適している。ラノラジンと併用リモデリング物質とは、別個の投薬形態で投与されても、単一の投薬形態で投与されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(発明の詳細な説明)
(定義および一般パラメータ)
本明細書中で使用される場合、次の語句は、一般的に、それらが使用される状況が他を示す場合を除き、以下に提示する意味を有することが意図される。
【0010】
「任意の」または「必要に応じて」は、その次に記載される出来事または状況が、起こっても起こらなくてもよく、その記載が、その出来事または状況が起こる場合および起こらない場合を含むことを意味する。
【0011】
用語「ACEインヒビター」は、アンギオテンシン転換酵素を阻害し、それにより、アンギオテンシンIのアンギオテンシンIIへの転換を減少させ得る物質をいう。補足的な作用として、ACEインヒビターはまた、ブラジキニンの分解を減少させる。適切なACEインヒビターとしては、これらに限定されないが、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリル(temocapril)、およびトランドラプリルが挙げられる。
【0012】
用語「ARB」は、アンギオテンシンIIレセプター遮断薬である物質をいい、アンギオテンシンアンタゴニストとも呼ばれる。ACEインヒビター同様、ARBはアンギオテンシンIIを減少させるが、ACEインヒビターが肺内の血流中でアンギオテンシンIIを減少させる代わりに、ARBは細胞壁でアンギオテンシンIIを減少させ、それにより、より全身性の様式で作用する。適切なARBとしては、これらに限定されないが、カンデサルタン(candesartan)、シレキセチル(cilexetil)、エプロサルタン(eprosartan)、イルベサルタン(irbesartan)、ロサルタン、オルメサルタン(olmesartan)、メドキソミル(medoxomil)、テルミサルタン(telmisartan)、バルサルタン(valsartan)、ゾラサルタン(zolasartin)、およびタソサルタン(tasosartan)が挙げられる。
【0013】
用語「β遮断薬」は、βアドレナリン作動性レセプターに結合し、βアドレナリン作動性刺激の作用を阻害する物質をいう。β遮断薬はまた、AV結節伝達を増加させる。さらにβ遮断薬は、心拍数を制御するシナプス後神経終末に対するノルエピネフリンの作用を遮断することにより、心拍数を減少させる。β遮断薬はまた、後脱分極が媒介する自動性を阻害する細胞内Ca++過負荷を軽減する。β遮断薬の例としては、これらに限定されないが、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、エスモロール、ソタロール、カルベジロール、メドロキサロール、ブシンドロール、レボブノロール、メチプラノロール、セリプロロール、およびプロパフェノンが挙げられる。
【0014】
「非経口投与」は、患者への注射による治療薬の全身送達をいう。
【0015】
用語「治療有効量」は、以下に既定されるような処置を必要とする哺乳動物に投与した場合に、そのような処置をもたらすのに十分な式Iの化合物の量をいう。治療有効量は、使用される治療薬の比活性、患者の疾患状態の重篤度、ならびに患者の年齢、身体状態、他の疾患状態の存在および栄養状態に応じて変化する。さらに、患者が受けているかも知れない他の薬物治療が、投与すべき治療薬の治療有効量の決定に影響する。
【0016】
用語「処置」または「処置する」は、哺乳動物における疾患のあらゆる状態処置をいい:
(i)疾患を予防すること、すなわち、疾患の臨床症状を発現させないこと;および/または
(ii)疾患を阻害すること、すなわち、臨床症状の発現を停止すること;
(iii)疾患を緩和すること、すなわち、臨床症状の軽減をもたらすこと
を含む。
【0017】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」は、あらゆる溶媒、分散媒、被覆物、抗菌物質および抗真菌物質、等張剤および吸収遅延物質などを含む。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および物質の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒体または物質が活性成分と適合性でない場合を除き、治療組成物におけるその使用が是認される。補足的な活性成分もまた、組成物中に組み込まれ得る。
【0018】
用語「好ましくない左室リモデリング」は、心室の大きさの変化、壁の厚さの変化、および左室の他の寸法変化、ならびに、拡張期および/または収縮期の機能の低下によって明示され得る心筋障害に応答して起こる左室の他のあらゆる変化をいう。
【0019】
(発明の方法)
本発明は、好ましくない左室リモデリングを逆転させる方法に関する。本方法は、それらを必要とする哺乳動物への治療有効量のラノラジンと少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質の同時投与を包含する。この併用リモデリング物質は、ACEインヒビター、ARBまたはβ遮断薬であり得る。本方法は、鬱血性心不全(CHF)および/または慢性心不全の処置における使用に適している。
【0020】
ラノラジンおよび併用リモデリング物質は、別個の投薬形態で投与されても、単一の投薬形態で投与されてもよい。別個の投薬形態として投与される場合、別個の成分は任意の順序で投与され得、同時にまたは時間をずらして服用され得る。
【0021】
ラノラジン(±)−N−(2,6−−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)−プロピル]−1−ピペラジンアセトアミドは、現在、アンギナの処置についての臨床試験が進行中の抗虚血物質である。化合物自体は、米国特許第4,567,264号に開示されており、その明細書が、参考として本明細書中に援用される。ラノラジンの徐放性処方物が好ましく、これらは、米国特許第6,503,911号、米国特許第6,369,062号、および米国特許第6,617,328号で開示されている。
【0022】
ラノラジンが有する心不全の処置における利益を提供する能力は、これまでに、米国特許第6,528,511号および米国特許第6,528,511号、ならびにSabbah et al.(2002)J.Card.Fail.,8(6):416−22で開示されている。これらの参考文献において、心不全の処置におけるラノラジンの使用が、LVの機能を改善するこの化合物の能力によって支持される。しかしながら、本発明より前には、併用リモデリング物質と共に投与される場合の、この化合物が有する逆LVリモデリングを誘発する相乗的な能力は知られていなかった。
【0023】
ラノラジンと同時投与される物質とは、単一かまたは複数の用量のいずれかで、類似した有用性を有する物質の容認されている任意の投与様式、(例えば、参考として援用される特許および特許出願に記載されるような投与様式、口腔投与、動脈内注射による投与、静脈内投与、腹腔内投与、非経口投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、あるいは、例えばステントなどの含浸もしくは被覆デバイス、または動脈に挿入された円筒状高分子を通じた投与を含む)によって患者に与えられ得る。
【0024】
1つの投与様式は、非経口であり、特に注射によるものである。本発明の新規の組成物を注射による投与のために組み込み得る形態としては、水性の懸濁剤または乳剤、ゴマ油、トウモロコシ油、綿実油もしくは落花生油を含む油性の懸濁剤または乳剤、エリキシル剤、マンニトール、デキストロースもしくは滅菌水溶液、および類似した薬学的ビヒクルが挙げられる。生理食塩水中の水溶液もまた、注射用に好都合に使用されるが、本発明の状況においてはそれほど好ましくない。エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど(およびそれらの適切な混合物)、シクロデキストリン誘導体ならびに植物油もまた使用し得る。適切な流動性を、例えば、被覆物(例えば、レシチン)の使用により、分散の場合に必要とされる粒径の維持により、そして界面活性剤の使用により、維持し得る。微生物の活動の防止は、種々の抗菌物質および抗真菌物質、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによりもたらされ得る。
【0025】
滅菌注射可能溶液を、必要とされる量の成分を、上記に列挙されるような種々の他の成分と共に適切な溶媒中に組み込み、必要に応じ、続いて濾過滅菌することにより調製する。一般的には、分散剤(dispersion)を、塩基性分散媒および上記に列挙された成分からの必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクルに種々の滅菌活性成分を組み込むことにより調製する。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合には、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥技術であり、それにより、先に滅菌濾過した活性成分の溶液から活性成分と任意のさらなる所望の成分との粉末を生成する。
【0026】
経口投与は、これらの成分の投与のための別の経路である。投与は、カプセル剤または腸溶錠などを介し得る。ラノラジンおよび少なくとも1種の同時投与される物質を含む薬学的組成物を作成するには、通常は、活性成分を賦形剤によって希釈し、そして/またはカプセル、サシェ、紙もしくは他の容器の形態であり得るようなキャリア内に封入する。賦形剤が希釈剤として機能する場合、この賦形剤は固体、半固体もしくは液体の物質(上記のとおり)であり得、これが、活性成分のビヒクル、キャリアまたは媒体として機能する。したがって、これらの組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ、サシェ、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアゾール剤(固体としてまたは液体媒体中に含んで)、軟膏(例えば、10重量%までの活性化合物を含む)、軟質および硬質のゼラチンカプセル、滅菌注射可能溶液、ならびに滅菌包装した粉末の形態であり得る。
【0027】
適切な賦形剤の一部の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギナート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。処方物はさらに:潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油);湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;保存剤(例えば、安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピル);甘味剤;および矯味矯臭剤を含み得る。
【0028】
本発明の組成物を、当該技術分野で公知の手順を使用することにより、患者への投与後に活性成分の即時放出、持続放出または遅延放出を提供するように処方し得る。上記で検討したように、ラノラジンの生物学的利用能の低下を考慮すると、徐放性の処方物が一般的には好ましい。経口投与のための制御放出薬物送達システムとしては、浸透圧ポンプシステム、および高分子被覆レザバもしくは薬物−高分子マトリックス処方物を含む溶解システムが挙げられる。制御放出システムの例が、米国特許第3,845,770号;米国特許第4,326,525号;米国特許第4,902,514号;および米国特許第5,616,345号に与えられている。
【0029】
本組成物は、好ましくは、単位投薬形態で処方される。用語「単位投薬形態」は、ヒト被験体および他の哺乳動物のための単回投薬に適した物理的に別個の単位であり、各単位が適切な薬学的賦形剤と共に所望の治療効果を生ずるように算定された所定量の活性物質を含むもの(例えば、錠剤、カプセル剤、アンプル)をいう。本発明の活性物質は、広範な投薬量域にわたり有効であり、一般的に、薬学的有効量で投与される。しかしながら、実際に投与される各活性物質の量は、処置される状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物およびそれらの相対活性、個々の患者の年齢、体重および応答、その患者の症状の重篤度などを含む関連状況を考慮して、医師により決定されることが理解される。
【0030】
錠剤などの固体組成物を調製するために、主要な活性成分を薬学的賦形剤と混合して、本発明の化合物の均一混合物を含む固体の予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物を均一という場合、この組成物が等しい効果を有する単位投薬形態(例えば、錠剤、丸剤およびカプセル剤)に即座に細分化され得るように、活性成分がその組成物全体に均等に分散していることを意味する。
【0031】
本発明の錠剤または丸剤は被覆され得、そうでない場合は、長期的な作用の利点を与える投薬形態を提供するように、または胃の酸性条件から保護するように調合され得る。例えば、錠剤または丸剤は、内部投薬成分および外部投薬成分を含み得、後者は前者を覆う外被の形態である。ラノラジンと同時投与物質(単数または複数)とは、胃における分解に耐え、内部成分が変化せずに十二指腸に入ることまたは内部成分の放出を遅延させることを可能とする役目を果たす腸溶性の層によって分離され得る。種々の物質を、そのような腸溶性の層または被覆物に使用し得、そのような物質としては、多数のポリマー酸、ならびにポリマー酸と、セラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースのような物質との混合物が挙げられる。
【0032】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は本発明の実施において十分に機能するように本発明者により開示される技術を代表しており、したがって、その実施のための好ましい形態を構成すると考え得ることが、当業者に理解されるべきである。しかしながら、開示される特定の実施形態において多くの変更が成され得、それでもなお本発明の精神および範囲から逸脱することなく同じかまたは類似した結果が得られ得ることを、本開示にかんがみて、当業者は理解すべきである。
【0033】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は本発明の実施において十分に機能するように本発明者により開示される技術を代表しており、したがって、その実施のための好ましい形態を構成すると考え得ることが、当業者に理解されるべきである。しかしながら、開示される特定の実施形態において多くの変更が成され得、それでもなお本発明の精神および範囲から逸脱することなく同じかまたは類似した結果が得られ得ることを、本開示にかんがみて、当業者は理解すべきである。
【実施例】
【0034】
本発明のβ遮断薬、ACEインヒビターおよびARBは、当該技術分野において周知であり、市販されている。ラノラジンを、従来的な方法、例えば、米国特許第4,567,264号に開示された様式により調製し得、この米国特許の開示内容全体が本明細書中に参考として援用される。
【0035】
(実施例1)
以下の実施例は、多発性続発性冠状動脈内微小塞栓形成により生ずる慢性心不全のイヌにおける左室(LV)機能障害およびLV心房リモデリングの進行に対する、ラノラジン単独での効果、およびアンギオテンシン転換酵素(ACE)インヒビターと併用した効果、およびβ遮断薬と併用した効果を検定する。
【0036】
(動物の調製)
イヌにおける慢性LV機能障害および不全は、以前にSabbah et al.(1991)Am.J.Physiol.260:H1379−H1384に記載されるように、ポリスチレンラテックス微小球(直径77〜109μm)を用いた多発性続発性冠状動脈内塞栓形成により生じた。冠状動脈微小塞栓形成を、全身麻酔および無菌状態下で心臓カテーテル法の間に実施した。ヒドロモルホン(0.22mg/kg)、ジアゼパム(0.2〜0.6mg/kg)およびペントバルビタールナトリウム(50〜100mg)の静脈内注射の組み合わせを使用して、麻酔を誘導した。麻酔の水準を、1%〜2%イソフランを使用して、この研究を通じて維持した。左右心臓カテーテル法を、大動脈切開および静脈切開により実施した。各カテーテル法後、6−0シルクを使用して脈管を修復し、4−0縫合糸で皮膚を閉鎖した。血管造影により決定されるLV駆出率が30%と40%との間となったときに、微小塞栓形成を中止した。最後の塞栓形成後、確実に最後の微小塞栓形成により生じた梗塞を完治させ、心不全を確立させるために2週間の期間をおいた。次いで、研究プロトコルを実施した。
【0037】
(研究対象動物)
健康で、条件付けられ、実験目的で繁殖した、体重が19kgと25kgとの間にある雑種イヌ。
【0038】
(研究プロトコル)
無作為盲検プラセボ制御研究デザインを使用した。合計28匹のイヌが、慢性心不全を生じさせるために、上記のような多発性続発性冠状動脈内微小塞栓形成を受けた。最後の塞栓形成から2週間後、イヌを無作為に抽出して4つの研究グループ(処置群)に分けた。イヌを無作為に抽出して、ラノラジンのみ(375mg、1日2回、n=7)、酒石酸メトプロロール(25mg、1日2回、n=7)と併用するラノラジン(375mg、1日2回)、エナラプリル(10mg、1日2回、n=7)と併用するラノラジン(375mg、1日2回)、またはプラセボ(ラノラジンビヒクル、1日2回、n=7)を用いて3ヶ月の経口治療を施した。血行動態測定、血管造影測定、心エコー測定、ドップラー測定および神経ホルモン測定を、無作為抽出(最後の塞栓形成から2週間後)の前および治療の完了後(治療開始から3ヵ月後)に実施した。最後の血行動態および血管造影研究が完了した後に、イヌを安楽死させ、心臓を摘出し、組織を調製し、後の組織学的および生化学的評価のために保管した。この研究の1次終点および2次終点は、以下の通りであった:
(1次終点)
血管造影により決定されるLV駆出率の評価に基づく進行性LV機能障害の予防または弱化。
【0039】
血管造影により決定されるLV拡張終期の容積およびLV収縮終期の容積の測定に基づく進行性LVリモデリングの予防または弱化。
【0040】
(2次終点)
1)LVピーク−dP/dt、2)拡張早期のLV時定数(Tau)、3)僧帽弁速度PE/PA、および4)LV拡張終期の円周方向壁応力(circumferential wall stress)の評価に基づく進行性のLV拡張期の機能障害の予防または弱化。
【0041】
心筋細胞肥大の弱化の程度、置換性線維形成の容積分率、間質性線維形成の容積分率、毛細管密度、および酸素拡散距離。
【0042】
血漿神経ホルモン(血漿ノルエピネフリン(PNE)、血漿レニン活性(PRA)および血漿心房性ナトリウム利尿因子(ANF))の循環レベルの変化、ならびに経心筋(transmyocardial)血漿ノルエピネフリンの変化(動脈と冠静脈洞との差異)。
【0043】
(血行動態測定)
血行動態測定は全て、麻酔したイヌの左右心臓カテーテル法の間に実施した。全ての血行動態パラメータを確実に正常限界範囲内にするために、ベースライン測定を、あらゆる微小塞栓形成の前に、実施した。正常でないイヌを研究から除外した。以下のパラメータを、3回全ての研究期間に全てのイヌについて測定した:心拍数、平均大動脈血圧、等容性収縮期のLV血圧の最高変化率(ピーク+dP/dt)、等容性弛緩期のLV血圧の最高変化率(ピーク−dP/dt)、およびLV拡張終期の血圧。
【0044】
(心室造影測定)
左心室造影記録を、血行動態測定の完了後に心臓カテーテル法の間に実施した。心室造影記録を、イヌを右側を下にして寝かせ、20mlの造影物質(RENO−M−60,Squibb Diagnostics)の高圧注入の間に1秒間当たり30コマで、35mmの撮影用フィルム(cine)に記録した。画像拡大の修正を、LVの高さに配置した放射線不透性グリッドを使用して実施した。LV収縮終期および拡大終期の容積を、エリアレングス法(4)を使用して、血管造影のシルエットから算定した。期外収縮心拍および期外収縮後心拍を分析から除外した。LV駆出率を、拡張終期容積と収縮終期容積との差異と、拡張終期容積との比の100倍として算定した。拍出量を、LV拡張終期容積と収縮終期容積との間の差異として算定した。心拍出量を、拍出量に心拍数をかけて算定し、心係数を、心拍出量を体表面積で除して算定した。
【0045】
(心エコーおよびドップラー測定)
心エコーおよびドップラー研究を、3.5MHZ変換器を備えた77030A超音波装置(Hewlett−Packard)を使用して、全ての特定の研究時点において全てのイヌについて実施した。全ての心エコー測定を、イヌを右側臥位の姿勢で寝かせて実施し、後のオフライン分析のためにPanasonic 6300 VHSレコーダーで記録した。横断(transverse)2次元心エコー図を、LV乳頭筋の高さで得て、LV断面積の短縮(fractional area of shortning)を算定するために使用した。後者を拡張周期LV内腔面積から収縮終期内腔面積を差し引き、拡張終期内腔面積で除し、それを100倍して算定した。2腔像2次元心エコー図もまた得て、LV拡張終期の円周方向壁応力の算定のために使用されるLVの長半軸および短半軸を確かめた。壁応力を以下の通り算定した:応力=Pb/h(1−h/2b)(1−hb/2a2)であり、ここでPはLV拡張終期血圧であり、aはLV長半軸であり、bはLV短半軸であり、hはLV壁厚である。
【0046】
僧帽弁流入速度を、パルス波ドップラー心エコーにより測定した。速度波形を使用して、拡張早期の最高僧帽弁流入速度(PE)、LA収縮期の最高僧帽弁流入速度(PA)、PEとPAとの比率、および早期僧帽弁流入減速時間を算定した。機能的僧帽弁逆流(MR)の存在の有無を、心尖部2腔像と心尖部4腔像との両方を使用して、ドップラーカラーフローマッピング(Hewlett−Packard model 77020A Ultrasound System)で決定した。存在する場合、機能的MRの重篤度を、逆流ジェット面積と左心房の面積との比率の100倍に基づいて定量化した。次いで、両像から算定された比率を平均して、機能的MRの重篤度についての単一の代表値を得た。
【0047】
(血液神経ホルモンおよび電解質の測定)
数種の神経ホルモンの血漿濃度の評価を、血行動態評価を補完するために実施した。測定を、血行動態および血管造影評価について記載された各研究時点において実施した。経心筋PNE濃度を、心臓カテーテル法の間に上行大動脈および冠静脈洞から血液サンプルを得て推定した。経心筋PNEを、2つのサンプル間の差異として算定した。静脈血サンプルを、放射線免疫アッセイを用いたノルエピネフリンの血漿濃度、血漿レニン活性および血漿心房性ナトリウム利尿因子の測定のために、心臓カテーテル法の前に意識のあるイヌから2連で得た。さらに、血液サンプルを、血清電解質(Na+、K+、クレアチニンおよびBUN)の決定のために、同じ時間間隔で得た。
【0048】
(組織形態計測学的評価)
血行動態および血管造影研究の完了後の屠殺する日に、イヌの胸部を左開胸術により切開し、心膜を切開し、心臓を迅速に摘出し、氷冷トリス緩衝液(pH7.4)に入れた。3つの2mm厚横断スライスをLVから得た;3つのスライスのうち1つは3分割した場合の底部であり、1つは3分割した場合の中間部であり、1つは3分割した場合の頂部であり、これらを10%ホルマリンに入れた。経壁ブロック(transmural block)も得て、イソペンタン中で液体窒素により−160℃に冷却して急速に冷凍し、必要となるまで−70℃にて保管した。LV組織サンプルも得て、後のスキャニング研究および透過型電子顕微鏡研究のためにグルタルアルデヒド(gluteraldehyde)中に保管した。
【0049】
各心臓から、LVの3つ全ての横断スライスを、1つは3分割した場合の底部、1つは3分割した場合の中間部、1つは3分割した場合の頂部から、各々約3mm厚で得た。比較のために、7匹の正常なイヌからの組織サンプルを得て、同一の様式で調製した。各横断スライスから、経壁組織ブロックを得て、パラフィンブロック中に包埋した。各ブロックから、6μm厚の切片標本を調製し、線維組織を同定するためにゴモリ3色染色法で染色した。置換性線維形成の容積分率、すなわち、3つの横断LVスライス中の瘢痕組織と生組織との割合を、コンピュータベースのビデオデンシトメトリー(MOCHA,Jandel Scientific,Corte Madera,CA)を使用して、線維組織が占める総表面積のパーセントとして算定した。LVを含まない壁組織ブロックを2番目の中間部心室横断スライスから得て、Tissue−Tek包埋剤(Sakura,Torrance,CA)を使用してコルク上に置き、液体窒素で予め冷却したイソペンタン中で迅速に冷凍し、使用するまで−70℃にて保管した。低温切片(cryostat section)を、約8μm厚で各ブロックから調製し、筋細胞の境界および毛細血管(5)を含む間質腔をの輪郭を描くために3.3U/mlのノイラミニダーゼ(neuroaminidase)V型(Sigma Chemical Co.,St.Louis.MO)で前処理し、その後、フルオレセイン標識ピーナッツ凝集素(Vector Laboratories Inc.,Burlingame,CA)で染色した。毛細血管を同定するために、切片を、ローダミン標識Griffonia simplicifolia lectin I(GSL−I)で2重に染色した。放射方向の10の顕微鏡視野(倍率×100、対物レンズ×40、接眼レンズ2.5)を、分析のために各切片から無作為に選択した。瘢痕組織(梗塞)を含む視野を除外した。平均筋細胞断面積を、コンピュータ支援面積測定を使用して、各イヌについて算定した。間質腔が占める総表面積および毛細血管が占める総表面積を、コンピュータベースのビデオデンシトメトリー(MOCHA,Jandel Scientific,Corte Madera,CA)を使用して、無作為に選択した各視野から測定した。間質コラーゲンの容積分率を、間質腔が占める総表面積のパーセントから毛細血管(5)が占める総面積のパーセントを差し引いたものとして算定した。毛細血管密度を、1mm当たりの毛細血管の数として算定した。酸素拡散距離を、2つの隣接する毛細血管の間の半分の距離として算定した。比較のために、同一の測定を、7匹の正常なイヌから得たLV組織を使用して実施した。
【0050】
(統計分析)
確実に全ての研究測定値をベースラインにおいて類似させるために、いずれの塞栓形成の前および治療の開始前の無作為抽出の際に、4つ全ての研究群の間で比較を行った。これらの比較のために、一元配置分散分析(ANOVA)を、αを0.05に設定して使用した。有意性が得られた場合は、グループワイズの比較(group wise comparisons)を、有意性をp≦0.05に設定したスチューデント・ニューマン・クールズ検定を使用して実施した。処置前および処置後の測定値の間の群内の比較を、p<0.05を有意であるとみなす、対応スチューデントt検定を使用して実施した。処置の効果を評価するために、処置前から処置後までの各測定値の変化(△)を、4つの研究群の各々について算定した。△についての有意な差異が群間に存在するかどうかを決定するために、ANOVAを、αを0.05に設定して使用した。有意性が得られた場合は、グループワイズの比較を、有意性をp≦0.05に設定したスチューデント・ニューマン・クールズ検定を使用して実施した。全てのデータを、平均±SEMとして報告する。
【0051】
(ベースライン測定)
いずれの微小塞栓形成にも先立って得られた血行動態、血液造影、心エコー、ドップラー、ならびに血漿神経ホルモンおよび電解質のベースライン測定値を表1〜表4に示す。4つの研究群の間に、いずれのベースライン測定値にも有意な差異は存在しなかった。
【0052】
(処置前測定)
無作為抽出の際に得られた血行動態、血液造影、心エコー、ドップラー、ならびに血漿神経ホルモンおよび電解質の測定値を表5〜表8に示す。4つの研究群の間に、いずれの処置前測定値にも有意な差異は存在しなかった。
【0053】
(群内比較−プラセボ(表5〜表8))
プラセボに対して無作為抽出されたイヌにおいて、心拍数、平均大動脈血圧およびLV拡張終期血圧について、処置前と処置後の間で差異は存在しなかった。しかしながら、LVピーク+dP/dtおよび−dP/dtの両方が、有意に低下した。この研究群では、3か月の処置の終わりに、LV拡張終期容積および収縮終期容積が有意に増大し、一方で、LV駆出率および拍出量が有意に低減した。心拍出量および心係数も低減する傾向にあったが、その低減は統計的な差異には到らなかった。心エコーおよびドップラーの結果は、LV断面積の短縮の有意な低減、僧帽弁流入PE/PA比および減速時間に有意な低減、そして機能的僧帽弁逆流の重篤度およびLV拡張終期の円周方向壁応力の有意な拡大を示した。血漿神経ホルモンおよび電解質に、有意な差異は存在しなかった。
【0054】
(群内比較−ラノラジンのみ(表5〜表8))
ラノラジンを用いた単剤療法(monotherapy)に対して無作為抽出されたイヌにおいて、心拍数、平均大動脈血圧、LVピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtついての差異は存在しなかったが、LV拡張終期血圧が有意に低減した。この研究群では、3か月の処置の終わりに、LV拡張終期容積および収縮終期容積は変化しなかったが、LV駆出率、拍出量および心係数が有意に拡大した。心拍出量もまた拡大する傾向にあったが、その拡大は統計的な差異には到らなかった。心エコーおよびドップラーの結果は、LV断面積の短縮、僧帽弁流入PE/PA比、減速時間、および機能的僧帽弁逆流の重篤度に有意な変化を示さなかった。しかしながら、LV拡張終期の円周方向壁応力は有意に低減した。血漿神経ホルモンおよび電解質においては、有意な差異は見られなかった。
【0055】
(群内比較−ラノラジン+エナラプリル(表5〜表8))
ラノラジンとエナラプリルとの併用療法に対して無作為抽出されたイヌにおいて、心拍数、平均大動脈血圧、LVピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtついての差異は存在しなかったが、LV拡張終期血圧が有意に低減した。この研究群では、3か月の処置の終わりに、LV拡張終期容積は変化せず、収縮終期容積が有意に低減し、一方で、LV駆出率、拍出量および心係数が有意に拡大した。心拍出量もまた拡大する傾向にあったが、その拡大は統計的な差異には到らなかった。心エコーおよびドップラーの結果は、LV断面積の短縮および減速時間について有意な拡大を示した。PE/PA比は拡大する傾向にあったが、その拡大は統計的な差異には到らなかった。機能的僧帽弁逆流の重篤度およびLV拡張終期の円周方向壁応力は有意に低減した。血漿神経ホルモンおよび電解質においては、有意な差異は見られなかった。
【0056】
(群内比較−ラノラジン+メトプロロール(表5〜表8))
ラノラジンおよびメトプロロールとの併用療法に対して無作為抽出されたイヌにおいて、心拍数、平均大動脈血圧、LVピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtついての差異は存在しなかったが、LV拡張終期血圧が有意に低下した。この研究群では、3か月の処置の終わりに、LV拡張終期容積および収縮終期容積が有意に低減し、一方で、LV駆出率、拍出量および心係数が有意に拡大した。心拍出量もまた拡大する傾向にあったが、その拡大は統計的な差異には到らなかった。心エコーおよびドップラーの結果は、LV断面積の短縮、PE/PA比および減速時間において有意な拡大を示した。機能的僧帽弁逆流の重篤度およびLV拡張終期の円周方向壁応力は有意に低減した。血漿神経ホルモンおよび電解質においては、有意な差異は見られなかった。
【0057】
(処置効果−群間比較(表9〜表12))
処置効果データを表9〜表12に示し、個々のイヌのデータを付表1に示す。処置効果分析は、心拍数および平均大動脈血圧について、4つの群の間の差異を示さなかった。プラセボと比較すると、LV拡張終期血圧、ピーク+dP/dtおよびピーク−dP/dtが、ラノラジンのみで処置したイヌ、およびラノラジンとエナラプリルかもしくはメトプロロールとを併用して処置したイヌで有意に拡大した。LV拡張終期容積、収縮終期容積、駆出率、拍出量および心係数は全て、プラセボと比較すると、3つの処置群全てにおいて有意に改善した。心拍出量もまた、プラセボと比較すると、処置群において拡大する傾向にあったが、その拡大は統計的な差異には到らなかった。LV容積の低減およびLV駆出率の拡大は、ラノラジンのみに対して無作為抽出されたイヌと比較すると、併用療法に対して無作為抽出されたイヌにおいて有意に大きかった。
【0058】
プラセボと比較すると、ラノラジンのみは、LV断面積の短縮を有意に拡大し、LV拡張終期の円周方向壁応力を有意に低減した。PE/PA比、MRの重篤度、および減速時間は、プラセボと比較すると、ラノラジンのみで改善する傾向にあったが、この改善の程度は統計的な差異には到らなかった。プラセボと比較すると、併用療法は、LV断面積の短縮、PE/PA比、機能的僧帽弁逆流の重篤度、減速時間、およびLV拡張終期の円周方向壁応力を、有意に改善した。血漿神経ホルモンおよび電解質について、4つの群の間に有意な差異は存在しなかった。
【0059】
(組織形態計測学的発見)
組織形態計測学的データを、表13に示す。正常なイヌと比較すると、プラセボで処置したイヌは、筋細胞断面積、置換性および間質性線維形成の容積分率、ならびに酸素拡散距離において有意な拡大を示すと共に、毛細血管密度において有意な低減を示した。ラノラジンのみを用いた処置、ならびに併用療法を用いた処置が、プラセボと比較した上記の組織形態計測学的測定値の全てを有意に改善した。改善の程度は、ラノラジンのみで処置したイヌよりも、併用療法で処置したイヌで有意に大きかった。
【0060】
中程度の心不全のイヌについて実施したこの研究の結果は、ラノラジンを用いた単剤療法がLV機能の保存およびLVリモデリングの弱化により証明されるように、心不全の進行を妨げる。ACEインヒビターまたはβ遮断薬と併用した場合、ラノラジンは、LVの大きさの低減、ならびに筋細胞肥大、間質性線維形成、毛細血管密度および酸素拡散距離の改善によって証明されるように、LV収縮期および拡張期の機能を明らかに改善し、全体的および細胞レベルのLVリモデリングの逆転を誘発する。これらの結果は、慢性心不全の処置のための補助療法としてのラノラジンの使用を支持している。
(表1:いずれの微小塞栓形成よりも前に実施されたベースラインにおける血行動態測定)
【0061】
【表1】

LV=左室;RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール
(表2:いずれの微小塞栓形成よりも前に実施されたベースライン血管造影測定)
【0062】
【表2】

LV=左室;RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール
(表3:いずれの微小塞栓形成よりも前に実施されたベースラインにおける心エコーおよびドップラー測定)
【0063】
【表3】

LV=左室;RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;EDWS=拡張終期の円周方向壁応力
(表4:いずれの微小塞栓形成よりも前に実施されたベースラインにおける神経ホルモンおよび電解質測定)
【0064】
【表4】

LV=左室;RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;ANF=心房性ナトリウム利尿因子;PNE=血漿ノルエピネフリン
(表5:無作為抽出時(PRE)および治療の3ヵ月後(POST)における血行動態測定)
【0065】
【表5】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;HR=心拍数(拍数/分);mAoP=平均大動脈血圧(mmHg);LVEDP=LV拡張終期血圧(mmHg);+dP/dt=ピークLV+dP/dt(mmHg/秒);−dP/dt=ピークLV−dP/dt(mmHg/秒);=p<0.05
(表6:無作為抽出時(PRE)および治療の3ヵ月後(POST)における血管造影測定)
【0066】
【表6】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;EDV=LV拡張終期容積(ml);ESV=LV収縮終期容積(ml);EF=LV駆出率(%);SV=拍出量(ml);CO=心拍出量(L/分);CI=心係数(L/分/m);=p<0.05
(表7:無作為抽出時(PRE)および治療の3ヵ月後(POST)における心エコーおよびドップラー測定)
【0067】
【表7】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;FAS=LV断面積の短縮(%);MR=僧帽弁逆流の重篤度(%);DT=減速時間(m秒);EDWS=LV拡張終期の円周方向壁応力(gm−cm);=p<0.05
(表8:無作為抽出時(PRE)および治療の3ヵ月後(POST)における神経ホルモンおよび電解質測定)
【0068】
【表8】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;Creat=血清クレアチニン(mg/dL);BUN=血中尿素窒素(mg/dL);PNE=血漿ノルエピネフリン(pg/ml);PRA=血漿レニン活性(ng/ml/時間);ANF=心房性ナトリウム利尿因子(pg/ml);T−PNE=経心筋ノルエピネフリン
(処置効果の表)
(表9:4つの研究群の間の血行動態測定における処置前から処置後の変化(△)の比較(処置効果))
【0069】
【表9】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;HR=心拍数(拍数/分);mAoP=平均大動脈血圧(mmHg);LVEDP=LV拡張終期血圧(mmHg);+dP/dt=ピークLV+dP/dt(mmHg/秒);−dP/dt=ピークLV−dP/dt(mmHg/秒);=p<0.05対プラセボ
(表10:4つの研究群の間の血管造影測定における処置前から処置後の変化(△)の比較(処置効果))
【0070】
【表10】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;EDV=LV拡張終期容積(ml);ESV=LV収縮終期容積(ml);EF=LV駆出率(%);SV=拍出量(ml);CO=心拍出量(L/分);CI=心係数(L/分/m);=p<0.05対プラセボ;†=p<0.05対RANのみ
(表11:4つの研究群の間の心エコーおよびドップラー測定における処置前から処置後の変化(△)の比較(処置効果))
【0071】
【表11】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;FAS=LV断面積の短縮(%);MR=僧帽弁逆流の重篤度(%);DT=減速時間(m秒);EDWS=LV拡張終期の円周方向壁応力(gm−cm);=p<0.05対プラセボ
(表12:4つの研究群の間の神経ホルモンおよび電解質測定における処置前から処置後の変化(△)の比較(処置効果))
【0072】
【表12】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;Creat=血清クレアチニン(mg/dL);BUN=血中尿素窒素(mg/dL);PNE=血漿ノルエピネフリン(pg/ml);PRA=血漿レニン活性(ng/ml/時間);ANF=心房性ナトリウム利尿因子(pg/ml);T−PNE=経心筋ノルエピネフリン
(表13:組織形態計測学的測定)
【0073】
【表13】

RAN=ラノラジン;ENA=エナラプリル;MET=メトプロロール;MCSA=筋細胞断面積;VFRF=置換性線維形成の容積分率;VFIF=間質性線維形成の容積分率;CD=毛細血管密度;ODD=酸素拡散距離;=p<0.05対正常;†=p<0.05対プラセボ;‡=p<0.05対RANのみ。
【0074】
(実施例2)
ACEインヒビターのエナラプリルおよびβ遮断薬のメトプロロールがLV逆リモデリングにもたらす効果についての過去のデータを、実施例1においてラノラジンのみ、ラノラジンおよびエナラプリル、ならびにラノラジンおよび酒石酸メトプロロールについて得られたデータと比較した。エナラプリルおよびメトプロロールのデータは、Sabbah et al.(1994)Circ.89:2852−2859から引用した。比較結果を、図1および図2にグラフで示した。
【0075】
図1は、いかに、ラノラジンも、エナラプリルも、メトプロロールも、いずれも独立してLV拡張終期の容積を減少させ得なかったが、ラノラジンとエナラプリルとの併用投与、ならびにラノラジンとメトプロロールとの併用投与が、LV拡張終期の容積を減少させ得たか、すなわちLVリモデリングを逆転させ得たかということを図示している。
【0076】
図2は、いかに、ラノラジンも、エナラプリルも、メトプロロールも、いずれも独立してLV収縮期容積を減少させ得ないようである、ラノラジンとエナラプリルとの併用投与、ならびにラノラジンとメトプロロールとの併用投与が、LV拡張終期の容積を減少させ得るか、すなわちLVリモデリングを逆転させ得るかということを図示している。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、ラノラジンと、ラノラジンおよびエナラプリルと、ラノラジンおよび酒石酸メトプロロールとの、拡張終期の容積に関する比較研究の結果をグラフにより示している。エナラプリルおよび酒石酸メトプロロールに関する過去のデータもまた示されている。
【図2】図2は、ラノラジンと、ラノラジンおよびエナラプリルと、ラノラジンおよび酒石酸メトプロロールとの、拡張終期の容積に関する比較研究の結果をグラフにより示している。エナラプリルおよび酒石酸メトプロロールに関する過去のデータもまた示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくない左室リモデリングを逆転するための方法であって、治療有効量のラノラジンおよび少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質を、それらを必要とする哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビター、ARB、またはβ遮断薬を含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビターを含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記ACEインヒビターが、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリル、およびトランドラプリルからなる群から選択される、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ARBを含む、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記ARBが、カンデサルタン、シレキセチル、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、メドキソミル、テルミサルタン、バルサルタン、ゾラサルタン、およびタソサルタンからなる群から選択される、方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、β遮断薬を含む、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記β遮断薬が、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、エスモロール、ソタロール、カルベジロール、メドロキサロール、ブシンドロール、レボブノロール、メチプラノロール、セリプロロール、およびプロパフェノンからなる群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項2に記載の方法であって、前記左室リモデリングが、鬱血性心不全(CHF)および/または慢性心不全の結果である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記ラノラジンと前記併用リモデリング物質とが、別個の投薬形態として投与される、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記ラノラジンと前記併用リモデリング物質とが、単一の投薬形態として投与される、方法。
【請求項12】
治療有効量のラノラジン、少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質、および少なくとも1種の薬学的に受容可能なキャリアを含む、薬学的処方物。
【請求項13】
請求項12に記載の処方物であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビター、ARB、またはβ遮断薬を含む、処方物。
【請求項14】
請求項13に記載の処方物であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビターを含む、処方物。
【請求項15】
請求項14に記載の処方物であって、前記ACEインヒビターが、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリル、およびトランドラプリルからなる群から選択される、処方物。
【請求項16】
請求項13に記載の処方物であって、前記併用リモデリング物質が、ARBを含む、処方物。
【請求項17】
請求項16に記載の処方物であって、前記ARBが、カンデサルタン、シレキセチル、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、メドキソミル、テルミサルタン、バルサルタン、ゾラサルタン、およびタソサルタンからなる群から選択される、処方物。
【請求項18】
請求項13に記載の処方物であって、前記併用リモデリング物質が、β遮断薬を含む、処方物。
【請求項19】
請求項18に記載の処方物であって、前記β遮断薬が、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、エスモロール、ソタロール、カルベジロール、メドロキサロール、ブシンドロール、レボブノロール、メチプラノロール、セリプロロール、およびプロパフェノンからなる群から選択される、処方物。
【請求項20】
心不全を処置するための方法であって、治療有効量のラノラジン、および少なくとも1種の治療有効量の併用リモデリング物質を、それらを必要とする哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビター、ARB、またはβ遮断薬を含む、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ACEインヒビターを含む、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記ACEインヒビターが、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、テモカプリル、およびトランドラプリルからなる群から選択される、方法。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、ARBを含む、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記ARBが、カンデサルタン、シレキセチル、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、メドキソミル、テルミサルタン、バルサルタン、ゾラサルタン、およびタソサルタンからなる群から選択される、方法。
【請求項26】
請求項21に記載の方法であって、前記併用リモデリング物質が、β遮断薬を含む、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、前記β遮断薬が、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルテオロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロプラノロール、ソタロール、チモロール、エスモロール、ソタロール、カルベジロール、メドロキサロール、ブシンドロール、レボブノロール、メチプラノロール、セリプロロール、およびプロパフェノンからなる群から選択される、方法。
【請求項28】
請求項21に記載の方法であって、前記心不全が、鬱血性心不全(CHF)または慢性心不全である、方法。
【請求項29】
請求項20に記載の方法であって、前記ラノラジンと前記併用リモデリング物質とが、別個の投薬形態として投与される、方法。
【請求項30】
請求項20に記載の方法であって、前記ラノラジンと前記併用リモデリング物質とが、単一の投薬形態として投与される、方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−519770(P2008−519770A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540416(P2007−540416)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/040824
【国際公開番号】WO2006/053161
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(504003226)シーブイ・セラピューティクス・インコーポレイテッド (62)
【氏名又は名称原語表記】CV Therapeutics, Inc.
【Fターム(参考)】