説明

心収縮能及び心不全傾向の調節

本発明の方法及び構成は、トランスジェニック動物におけるPKCαの発現を変化させる際の用途を見出す。本発明の構成には、単離されたトランスジェニック動物細胞、トランスジェニック組織、トランスジェニック動物、及びトランスジェニックマウスが含まれる。本発明のトランスジェニック動物は、変化したPKCα活性を示す。該方法は、PKCαの発現が変化したトランスジェニック動物の作製を可能にする。本発明は、心収縮能のモジュレーションを可能にする。具体的には、本発明は、トランスジェニック動物の心筋症易発症性を変化させる方法を提供する。本発明のトランスジェニック動物は、抗心筋症化合物を同定する際の用途を見出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心収縮能及び心筋症表現型のモジュレーション、心収縮能及び心筋症表現型の予防及び治療、並びに心収縮能及び心筋症表現型に関連したトランスジェニックマウスに関する。
(政府補助金情報)
本発明は、NIH助成金(NIH Grant)番号HL62927、HL26057、及びHL64018に基づく政府支援を受けて実施された。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
推定500万人のアメリカ人が心不全に苦しめられており、200億ドルを超える年間コストで毎年新たに約400,000人が診断されている(ロイド‐ジョーンズ(Lloyd-Jones)ら、(2002)サーキュレーション(Circulation)106:3068〜3072)。過去20年以上にわたって用いられた主な治療的戦略は、心収縮能の薬理学的操作に基づくものであった(レム,W.J.(Remme,W.J.)(2001)心臓血管薬物治療(Cardiovasc.Drugs Ther.)15:375〜377、フェルカー(Felker)ら(2001)米国心臓雑誌(Am.J.Heart)142:393〜401、パッカー,M.(Packer,M.)(2001)米国医学雑誌(Am.J.Med.)110別冊7A(110 Suppl 7A):81S〜94S)。心不全は、進行性の収縮性喪失、心室腔の拡張、末梢血管抵抗の増大、及び/又は体液恒常性の調節異常によって特徴付けられる。初めは、心ポンプ機能を向上させる手段として陽性変力剤が用いられたが、該陽性変力剤は、長期生存率を悪化させるので、現在では重度の急性心不全の患者にしか使用されない(フェルカー(Felker)ら(2001)米国心臓雑誌(Am.J.Heart)142:393〜401)。ごく最近になって、心不全の望ましい治療としてβ−アドレナリン受容体の薬理学的遮断が現れたが、β−遮断薬が、心収縮能を低減することによって心筋に有益であるのか(短期的)、又は心収縮能を増強することによって心筋に有益であるのか(長期的)どうかは、依然として明確になっていない(パッカー,M.(Packer,M.)(2001)米国医学雑誌(Am.J.Med.)110別冊7A(110 Suppl 7A):81S〜94S、ブリストー,M.W.(Bristow,M.W.)(2000)サーキュレーション(Circulation)101:558〜569、ブザモンド(Bouzamondo)ら(2001)基礎臨床薬理学(Fundam.Clin.Pharmacol.)15:95〜109)。ヒトの心臓不全に随伴した他の2つの特徴は、カルシウム恒常性の調節異常、並びにGαq−及びGαs−結合受容体の両方を通じてシグナル伝達する神経内分泌刺激剤の増加である。
【0003】
心臓の異常又は心臓の機能不全によって現れるヒトの様々な疾病及び状態は、心不全を引き起こすことがある。心不全は、心臓が身体の循環要件を満たすのに十分な血液を送り出すことができない生理学的状態である。遺伝的に多様性のあるヒトにおけるそのような疾病及び状態の研究は、困難且つ予測不可能である。したがって、心筋症の潜在的治療剤の同定を容易にするモデル系が必要とされる。
【0004】
神経液性因子の配列によって刺激されるとき、又は心室壁の張力の増大に直面したとき、心筋は、適応性肥大反応を起こす。心臓肥大症は、高血圧、機械的負荷、心筋梗塞、心不整脈、内分泌腺疾患、及び/又は心収縮タンパク質遺伝子における遺伝子突然変異から発生するものを含めた、多くの形態の心臓病に対する心臓の適応反応である。肥大反応は、初めは、心拍出量を増加させる代償性メカニズムであるが、持続的な肥大は、心不全及び突然死をまねく可能性がある。
【0005】
心臓肥大症の原因及び結果については書籍化されているが、細胞膜で起こる肥大シグナルを心筋細胞遺伝子発現の再プログラミングに結びつける根本的なメカニズムは、依然としてあまり理解されていない。これらのメカニズムの解明は、心臓血管生物学における中心的課題であり、心臓肥大症及び心不全の予防又は治療のための新しい戦略を計画するのに重要である。
【0006】
心臓肥大症のシグナルとして細胞内Ca2+に関わる研究がなされてきた。筋細胞の伸張、又は機能心臓標本(working heart preparations)に加わる負荷の増大に応答して、細胞内Ca2+濃度が増加する(マーバン(Marban)ら(1987)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)84:6005〜6009、ブスタマンテ(Bustamante)ら(1991)心臓血管薬理学雑誌(J.Cardovasc.Pharmacol.)17:S110〜S113、及びホンゴー(Hongo)ら(1995)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)269:C690〜C697)、これは、心拍出量の増加を伴って生理学的応答を調整する際のCa2+の役割と一致する。
【0007】
肥大刺激は、成熟心筋における遺伝子発現の再プログラミングをまねき、その結果、β−ミオシン重鎖(MHC)及びα−骨格アクチンのような胎児タンパク質イソ型をコードする遺伝子は、上方制御され、他方、対応する成熟イソ型であるα−MHC及びα−心臓アクチン(cardiac actin)は、下方制御される。また、血管拡張及びナトリウム利尿によって血圧を低下させる、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿因子、及びb型ナトリウム利尿ペプチドも、肥大シグナルに応答して心臓内で急速に上方制御される。(コムロ(Komuro)及びヤザキ(Yazaki)(1993)生理学評論年報(Ann.Rev.Physiol.)55:55〜75)。肥大時のこれらの心臓遺伝子の協調的調節に関与するメカニズムは、まだわかっていない。
【0008】
これらに限定するものではないが、特定のG−タンパク質イソ型、低分子量GTPase(Ras、RhoA、Rac)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、プロテインキナーゼC(PKC)、カルシニューリン、gp130−STAT、インスリン様増殖因子−I受容体、線維芽細胞増殖因子、及びトランスホーミング増殖因子βを含めた多数のシグナル伝達分子が、この疾病反応続発症の重要なトランスデューサとして特徴付けられている。例えば、AngII、PE、及びET−1についての細胞表面受容体の結合は、ホスホリパーゼCの活性化をまねき、それが、ジアシルグリセロール及びイノシトール三リン酸の産生、細胞内Ca2+の動員、並びにプロテインキナーゼCの活性化をもたらす。心臓肥大症の間にこれらのシグナル伝達経路が相互作用する程度は、まだわかっていない(モルケンチン(Molkentin)ら(2001)生理学評論年報(Annu.Rev.Physiol.)63:391〜426)。
【0009】
カルシウム及び/又は脂質活性化セリン−トレオニンキナーゼのプロテインキナーゼC(PKC)ファミリーは、ほぼすべての膜関連シグナル変換経路の下流で機能する(モルケンチン(Molkentin)ら(2001)生理学評論年報(Annu.Rev.Physiol.)63:391〜426)。約12の異なるアイソザイムは、それらの活性化特性によって大まかに分類されるPKCファミリーを含む。従来のPKCアイソザイム(PKCα、βI、βII、及びγ)は、カルシウム及び脂質活性型であり、一方、新規のアイソザイム(ε、θ、η、及びδ)並びに異型アイソザイム(ζ、ι、υ、及びμ)は、カルシウム非依存性であるが、別個の脂質によって活性化される(デンプシー(Dempsey)ら(2000)米国生理学雑誌、肺の分子生理学(Am.J.Physiol.Lung Mol.Physiol.)279:247〜251)。活性化されると、PKCアイソザイムは、RACK(活性Cキナーゼ受容体:Receptor forActivatedCKinases)と呼ばれるドッキングタンパク質との直接相互作用を通じて別個の細胞内部位へと転位し、それが、特異的基質認識及びその後のシグナル変換を可能にする(モクリー−ローゼン,D(Mochly-Rosen,D)(1995)サイエンス(Science)268:247〜251)。
【0010】
PKC活性を、肥大、拡張型心筋症、虚血性障害、又はマイトジェン刺激と関連付ける報告がなされてきた(デウィント(DeWindt)ら(2000)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)275:13571〜13579、グー(Gu)及びビショップ(Bishop)(1994)循環研究(Circ.Res.)75:926〜931、ジャリリ(Jalili)ら(1999)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)277:H2298〜H2304、タケイシ(Takeishi)ら(1999)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)276:H53〜H62)。例えば、げっ歯類では、血流力学的圧力過負荷刺激が、PKCα、β、γ、ε、及びθの転位を促進する。種々の培養心筋細胞では、作動薬及び応力刺激も、PKCアイソザイム転位の強力な活性剤である。アイソザイム特異的ペプチド阻害物質は、PKC阻害のより大きな特異性をもたらすために、培養心筋細胞及びトランスジェニックマウスで使用されてきた。具体的には、心筋細胞におけるPKCβ C2ドメインペプチドの過剰発現は、ホルボールエステル媒介性のカルシウムチャネル活性を阻止し(チャン(Zhang)ら(1997)循環研究(Circ.Res.)80:720〜729)、一方、PKCε阻害又は活性化ペプチドは、変力作用及び虚血誘発性の細胞傷害に影響を及ぼした(グレイ(Gray)ら(1997)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)272:30945〜30951、ジョンソン(Johnson)ら(1996)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)271:24962〜24966、ドーン(Dorn)ら(1999)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci USA.)96:12798〜12803)。さらに、培養成体ウサギ心室筋細胞へのPKCεのアデノウイルス媒介性遺伝子移入は、基礎筋細胞収縮性及びカルシウム・トランジェントを増大させた。筋細胞での結果は、PKCεが心収縮能を向上させる働きをすることを示唆している(ボーデ(Baudet)ら(2001)心臓血管研究(Cardiovasc.Res.)50:486〜494)。
【0011】
ホルボールエステルは、多数のPKCアイソザイムの即時活性とほぼ一致して、後生動物細胞に急性の生物学的影響を及ぼす。心筋細胞では、PMAは、これらに限定するものではないが、PKCα、β、δ、及びεの転位並びに活性化を含めた、多くのPKCアイソザイムの強力な誘導剤である(ブラス(Braz)ら(2002)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)156:905〜919)。ゆえに、急性PMA投与を使用して、心臓の変力作用及び収縮性の変化に対するPKC転位の、即時の、ただし非特異的な影響を調べることができる。急性ホルボールエステル投与は、PKCアイソザイムが心臓全体又は単離筋細胞の収縮性能を幾らか調節するという仮説を評価するために使用されてきた。例えば、ニワトリ単離心室筋細胞を使用して、PMA処置は、細胞短縮の大きさの、濃度及び時間依存性の低下をもたらし、薬物1μMで最高54%の低下に達した(レザーマン(Leatherman)ら(1987)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)253:H205〜209)。この効果に一致して、PMAは、細胞内カルシウム濃度及びカルシウムの再取り込み速度の低下をもたらした。対照的に、心臓からの乳頭筋のPMA前処理は、α1−アドレナリン受容体媒介性の陽性変力作用を可能にし、PMAを使用する非選択的効果を明示した(オータニ(Otani)ら(1988)循環研究(Circ.Res.)62:8〜17)。成体ラット由来の単離心室筋細胞で実施された分析で、PMAが、急性のマイナスの収縮効果を有することが示された(カポグロッシ(Capogrossi)ら(1990)循環研究(Circ.Res.)66:1143〜1155)。これらの著者は、1mMカルシウム中で成熟筋細胞の1Hzにおける定常フィールド刺激を使用し、その後、PMA(10-7M)を適用して、対照の約60%までの攣縮振幅(twitch amplitude)の低下をもたらした。単一の心筋細胞では、カルシウムに対する筋フィラメント反応性は、PMAによる作用を受けなかったが、陰性変力作用は、カルシウム・トランジェントの大きさの低下に起因したものであった。この報告とは対照的に、わずかに異なるホルボールエステルである12−O−テトラデカノイルホルボール13−アセテート(TPA)を使用する別個の研究で、細胞短縮の有意な増大、及び弛緩時の細胞の長さの変化速度の増大が示され、PKCアイソザイムの活性化による収縮性の向上が示唆された(マクラウド(MacLeod)ら(1991)生理学雑誌(J.Physiol.)444:481〜498)。単離心筋細胞及びモルモットの全心臓の両方におけるより入念な研究で、10-12MのPMAでは有意な陽性変力性反応が示されたが、10-10MのPMAよりも高い濃度では陰性変力性反応が示された(ウォード(Ward)及びモファット(Moffat)(1992)分子細胞心臓学雑誌(J.Mol.Cell Cardiol.)24:937〜948)。以上の結果は、ホルボールエステル媒介性の心収縮能変化が複雑であることを示唆している。
【0012】
心臓内のPKCアイソザイム発現が変化したトランスジェニックマウスが作製されてきた。マウス心臓におけるPKCβの野生型又は構成的に活性な欠損変異体のいずれかの過剰発現は、心筋症を誘発することが報告されたが(ワカサキ(Wakasaki)ら(1997)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)94:9320〜9325、ボーマン(Bowman)ら(1997)臨床研究雑誌(J.Clin.Invest.)100:2189〜2195)、ごく最近の研究は、より低いレベルの発現又は成体発症PKCβ活性が虚血回復に有益であることを示唆している(ティアン(Tiang)ら(1999)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)96:13536〜13541、ファン(Huang)ら(2001)米国生理学雑誌、細胞生理学(Am.J.Physiol.Cell.Physiol.)280:C1114〜C1120)。また、3つのグループが、心臓内のPKCε又はPKCδ活性が変化したトランスジェニックマウスを報告している。マウス心臓におけるPKCε又はPKCδ活性化ペプチドの発現は、各アイソザイムの生理的活性化及び穏やかな肥大反応に関連付けられた(モクリー−ローゼン(Mochly-Rosen)ら(2000)上記参照、チェン(Chen)ら(2001)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)98:11114−11119)。同様に、マウス心臓における活性変異体PKCε cDNAの過剰発現は、顕著な心臓肥大症を誘発することが報告されたが(タケイシ(Takeishi)ら(2000)循環研究(Circ.Res.)86:1218〜1223)、そのような結果は、PKCε過剰発現及び活性の絶対レベルに依存すると思われる(パス(Pass)ら(2001)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.)280:H946〜H955)。多数の研究で、様々なPKCアイソザイムと心臓肥大症又は虚血性障害との間の関係が実証されてきたが、特定のPKCアイソザイムの必要且つ十分な機能は、今なお討論されている。例えば、マウス心臓におけるPKCβ、δ、又はεのトランスジェニック過剰発現は、心臓肥大症を発症させる可能性があるが、これら3つのイソ型についての遺伝子標的化は、心臓に明らかな作用を及ぼさず、また、PKCβヌルマウスも、肥大反応を起こす能力を欠いていなかった(ローマン(Roman)ら(2001)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.)280:H2264〜H2270)。総合すると、これらの結果は、心収縮能の調節因子としてのPKCアイソザイムの役割に関する当該技術分野における混乱を強調している。また、レジテ(Legites)ら(分子内分泌学(Mol.Endocrinol.)16、847〜858)によってPKCαノックアウトマウスが作製され、PKCαがPI3Kを通じたインスリンシグナル伝達を向上させることを示した。
【0013】
PKCαは、大小の哺乳類の心臓で発現する優勢なPKCイソ型であるが、この臓器におけるその機能についてはほとんど理解されていない(パス(Pass)ら(2001)上記参照、ピン(Ping)ら(1997)循環研究(Circ.Res.)81:404〜414)。PKCα活性と心臓肥大症若しくは心不全との関係を示す多数の相関研究が公開されているが、因果関係又はメカニズムデータは、ほとんど報告されていない。培養新生仔心筋細胞と、PKCα、β、δ、及びεの野生型又はドミナントネガティブ変異体のいずれかを発現する組み換えアデノウイルスとを使用して、PKCアイソザイム機能の機能獲得及び機能喪失分析が実施された。PKCαが幾らかERK1/2を通じて培養新生仔筋細胞の肥大成長を調節することが報告されたが、心収縮能におけるその役割は、まだわかっていない(ブラス(Braz)ら(2002)上記参照)。同様に、培養新生仔心筋細胞においてPKCαに対するアンチセンス・ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、作動薬刺激後に肥大遺伝子発現を低減した(カーケラ(Kerkela)ら(2002)分子薬理学(Mol.Pharmacol.)62:1482〜1491)。しかし、これらの観察結果には、インビボでのPKCαの機械的評価を含むものはない。
【0014】
心収縮能を潜在的に調節する際に様々なPKCイソ型が果たす役割については、ほとんど理解されていない。PKCイソ型は、cTnIのような筋節タンパク質を直接リン酸化することで知られ、アクチン−ミオシン相互作用による最大ATPase活性の割合に作用することが報告されている(デ・トンベ(de Tombe)及びソラロ(Solaro.)(2000)生体工学年報(Ann.Biomed.Eng.)28:991〜1001)。しかし、十分に特徴付けられたPKAの作用とは対照的に、収縮性タンパク質のPKC媒介性リン酸化反応が心臓の性能を有意に変化させるかどうかは、まだ明らかではない。
【0015】
ゆえに、インビボでのPKCαの役割のメカニズム評価が望ましい。心臓組織におけるPKCα活性を調節する方法を開発することが重要である。また、PKCαを調節する抗心筋症化合物を同定し、且つ心筋症を研究するための、モデルトランスジェニック系を開発することも重要である。
【0016】
ヒトにおける心不全の治療は、1つには、わかっている場合、根本的な原因に基づき、また、疾病の重篤度、既存の投薬法、及び他の合致する危険因子(例えば、冠動脈疾患、高血圧、弁の欠損、又は高脂血症)を含めた他の因子に基づく。患者での進行した心不全は、急性症状及び慢性症状の両方から成る場合があり、それが様々な治療を必要とする場合がある。ゆえに、最近の心不全の戦略は、急性非代償性心不全(ADHF:acute decompensated heart failure)又は心不全の慢性リモデリング効果を標的とする。ADHFの治療は、いまだ満たされていない医療ニーズであり、米国で毎年約100万人の病院受け入れ患者がADHFと一次診断されており、また、二次診断でさらに200万の患者が入院している(ディ・ドメニコRJ(DiDomenico RJ)ら(2004)薬物療法年報(Ann Pharmacother.)38:649〜660)。ADHFは、心臓の急性損傷に起因した機能障害、例えば、心筋梗塞や不整脈を特徴とし、又は、慢性心不全の合併症、例えば、進行性LVリモデリング、心拡大、及び筋細胞喪失によって引き起こされることがある(クレランドJG(Cleland JG)ら(2001)進行性心臓血管疾患(Prog.Cardiovasc.Dis.)43:433〜455)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
いずれの場合にも、成功を収めるには、患者に迅速な介入が必要である。現在のADHFの治療は、緊急処置室に到着したときの症状によるところが大きいが、心筋の性能を改善し、且つ十分な心拍出量を維持するために、変力物質(ドブタミン及びミルリノンなど)、静脈内利尿薬(フロセミドなど)、並びに/又は血管拡張薬(ネシリチド(Nesiritide)(RTM)など)が挙げられる(ディ・ドメニコRJ(DiDomenico RJ)ら、上記参照)。これらの薬物を使用する治療の目標は、心収縮及び弛緩を即時的に向上又は回復させ、且つ症状の改善をもたらすことである。ADHFに加えて、病因に関わらず、生存に必要であると医療上見なされるときには、前述した薬物を心機能障害(敗血症が原因の左心室機能障害など)のいずれの状況で投与してもよい。慢性心不全では、投薬計画が全く異なり、一般に、アンギオテンシン変換酵素阻害物質、アンギオテンシン受容体遮断薬、利尿薬、及び/又はβ−アドレナリン受容体遮断薬のような薬剤が含まれる。これらの薬物は、ADHFの場合には投与されず、実際、この状況では逆効果になり得るものもある(例えば、β−アドレナリン受容体遮断薬)。これらの薬物は、心収縮又は弛緩の即時改善をほとんど若しくは全くもたらさないが、心不全患者で生存率及び心臓リモデリングを改善することが実証されている(アロノフ WS.(Aronow WS.)(2003)心臓疾患(Heart Dis.)5:279〜294)。したがって、心不全における十分な急性及び慢性的利益をもたらすために、新規標的及びそれらの調節剤を識別する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、PKCαが心収縮能及び心筋症を調節し、したがって急性非代償性心不全(ADHF)及び慢性心不全の両方を調節するという、新規発見に基づく。それゆえに、PKCα活性のモジュレーションが、心臓変力作用及び心室性能を高める治療手段を提供し得ると考えられている。本発明のトランスジェニック動物は、心収縮能によって調節される疾患及び心臓肥大症を含めた心筋症の予防並びに治療のための化合物を同定する際に有用である。これらの動物は、また、肥大シグナルに対する応答に関与したシグナル変換経路を調べる、調査目的にも有用である。本発明は、また、PKCα活性の薬理学的調節剤をスクリーニングするためにインビボPKCα活性を測定するプロセスについても詳述する。
【0019】
本発明の構成には、トランスジェニックマウス、トランスジェニック細胞、及びトランスジェニック組織が含まれる。一実施形態では、本発明のトランスジェニックマウス、細胞、及び組織は、PKCαヌクレオチド配列(配列番号:1、NCBI受入番号X04796)又はそれらの断片若しくは変異型に作用可能に結合した、心臓組織に選択性のある調節配列を含む発現カセットを含む。変異型は、配列番号:7に記載されており、ドミナントネガティブ効果を示すポリペプチド(配列番号:8)をコードする。発現カセットを発現する細胞は、変化したPKCα発現又は活性を示す。他の態様では、本発明のトランスジェニックマウスは、変化した心収縮能を示す。他の態様では、本発明のマウスは、変化した心筋症易発症性を示す。
【0020】
他の態様では、トランスジェニックマウス、トランスジェニック細胞、及びトランスジェニック組織は、少なくとも1つの切断PKCα遺伝子を含む。一態様では、切断は、PKCα発現レベルを低下させる又はなくすのに十分である。他の態様では、本発明のPKCαヌルマウスは、変化した心収縮能を示す。他の態様では、本発明のマウスは、変化した心筋症易発症性を示す。
【0021】
一態様では、心収縮能を調節する化合物を同定する方法であって、PKCα遺伝子を発現する第1及び第2の細胞、組織、若しくはマウスを提供する工程と、前記第1の細胞に関心化合物を投与する工程と、第1及び第2の細胞の両方を適した所定の期間にわたってインキュベートする工程と、前記第1及び前記第2の細胞におけるPKCαの活性を測定する工程と、前記第2の細胞におけるPKCαの活性と比較して前記第1の細胞におけるPKCαの活性を調節する化合物を、心収縮能の調節剤として同定する工程とを含む方法が開示される。
【0022】
他の態様では、心筋症を調節する化合物を同定する方法であって、PKCαタンパク質を発現する第1及び第2の細胞を提供する工程と、前記第1の細胞に関心化合物を投与する工程と、第1及び第2の細胞の両方を適した所定の期間にわたってインキュベートする工程と、前記第1及び前記第2の細胞におけるPKCαの活性を測定する工程と、前記第2の細胞におけるPKCαの活性と比較して前記第1の細胞におけるPKCαの活性を調節する化合物を、心筋症の調節剤として同定する工程とを含む方法が開示される。
【0023】
他の態様では、PKCα活性を調節する化合物を同定する方法であって、PKCαタンパク質を発現する第1及び第2の細胞を提供する工程と、前記第1の細胞に関心化合物を投与する工程と、第1及び第2の細胞の両方を適した所定の期間にわたってインキュベートする工程と、前記第1及び前記第2の細胞におけるPKCαの活性を測定する工程と、前記第2の細胞におけるPKCαの活性と比較して前記第1の細胞におけるPKCαの活性を調節する化合物を、PKCα活性の調節剤として同定する工程とを含む方法が開示される。
【0024】
心収縮能、心筋症、及びPKCα活性を調節する化合物を同定するための前述のアッセイでは、適したレベルのPKCαタンパク質を発現するいずれの細胞を使用することもでき、例えば、標準的な実験室で得られる細胞株、心筋細胞株、若しくは任意の動物由来の初代細胞、又は組織を使用することができる。トランスジェニックマウス又はノックアウトマウス由来の細胞及び組織、トランスジェニック動物自体、並びに本発明のドミナントネガティブ変異体は、目的に適している。
【0025】
PKCα活性の調節剤には、これらに限定するものではないが、酵素活性、転位活性、及び様々なRACKへの結合を含めた、様々なPKCα活性の阻害物質又は活性化物質が含まれる。
【0026】
他の態様では、前述の方法を使用して同定される化合物を、本明細書に記載のような様々な細胞培養、培養組織、又は心収縮能若しくは心筋症の動物モデルを用いるアッセイを使用してさらに検証することができる。
【0027】
他の実施形態では、本発明は、心臓組織におけるPKCα活性を選択的に調節する方法を提供する。該方法は、少なくとも1つの細胞のゲノム内に安定に組み込まれた発現カセットを含むトランスジェニックマウスを提供することを含む。安定に組み込まれた発現カセットは、配列番号:1に記載のPKCαヌクレオチド配列又はそれらの断片若しくは変異型に作用可能に結合した、心臓に選択性のある調節配列を含む。注目の変異型としては、これらに限定するものではないが、配列番号:7に記載のヌクレオチド配列を有する部位特異的変異体のようなドミナントネガティブ突然変異が挙げられる。本発明は、マウスの心臓組織におけるPKCα発現レベルを決定する工程をさらに含む。該方法の一態様では、マウスは、変化した心収縮能を示す。他の態様では、マウスは、変化した心筋症易発症性を示す。
【0028】
一実施形態では、本発明は、マウスにおけるPKCα発現を調節する方法を提供する。該方法は、少なくとも1つの細胞のゲノム内に少なくとも1つの切断PKCα遺伝子を含むトランスジェニックマウスを提供する工程を含む。本発明は、マウスにおけるPKCα発現レベルを決定する工程をさらに含む。
【0029】
一実施形態では、本発明は、動物において異常な心収縮能が原因で起こる急性心不全を治療又は予防する方法を提供する。該方法は、PKCα調節化合物を動物に投与する工程を含む。本発明の一態様では、PKCα調節化合物は、動物の心臓組織に投与される。本発明の一態様では、PKCα調節化合物は、PKCα阻害物質である。本発明の一態様では、該方法は、動物の心収縮能を高める。適した動物としては、これらに限定するものではないが、マウス、モルモット、ハムスター、ヒト、ウサギ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシ、ラット、サル、チンパンジー、ヒツジ、及びゼブラフィッシュが挙げられる。
【0030】
他の実施形態では、本発明は、動物において心筋症を治療又は予防する方法を提供する。該方法は、PKCα調節化合物を動物に投与する工程を含む。本発明の一態様では、PKCα調節化合物は、動物の心臓組織に投与される。本発明の一態様では、PKCα調節化合物は、PKCα阻害物質又は作動薬である。本発明の一態様では、該方法は、動物の心筋症易発症性を低下させる。適した動物としては、これらに限定するものではないが、マウス、モルモット、ハムスター、ヒト、ウサギ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシ、ラット、サル、チンパンジー、ヒツジ、及びゼブラフィッシュが挙げられる。
【0031】
心収縮能又は心筋症の治療で使用してよいPKCα阻害物質としては、これらに限定するものではないが、核酸、抗体、小分子、活性化及び阻害ペプチド、並びにRo−32−0432、LY333531、及びRo−31−8220が挙げられる。
【0032】
本発明は、また、PKCα調節化合物を同定する方法を実施するためのキットも提供する。本発明の一態様では、PKCα調節化合物を同定するキットは、PKCα指標ポリペプチドを含む。本発明の一態様では、PKCα調節化合物を同定するキットは、PKCα指標ポリペプチドを含む細胞を含む。
【0033】
【表1】

【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、急性心不全における心収縮能、一般には心不全における心筋症のモジュレーションを提供する。本発明の構成には、PKCαヌクレオチド配列、又はPKCαヌクレオチド配列に切断のある動物のいずれかを含むトランスジェニック動物が含まれる。本発明は、これらのマウスから単離された細胞及び組織をさらに含む。本発明は、PKCα活性、PKCα発現レベル、心収縮能、並びに心筋症及び急性心不全の易発症性を調節する方法を提供する。本発明は、PKCα調節化合物を同定する方法を実施するためのキットを提供する。
【0035】
本発明は、PKCα遺伝子(配列番号:1)を目標とした構成及び方法に関する。一実施形態では、動物が、PKCαヌクレオチド配列に作用可能に結合した心臓に選択性のある調節配列を含む発現カセットで、安定に形質転換される。一実施形態では、本発明の動物は、配列番号:7に記載のドミナントネガティブ変異型のようなPKCαヌクレオチド配列の断片若しくは変異型に作用可能に結合した心臓に選択性のある調節配列を含む発現カセットで、安定に形質転換される。他の実施形態では、本発明の動物は、PKCα発現レベルが低下するように天然PKCαヌクレオチド配列を切断する単離された核酸分子で、安定に形質転換される。一態様では、心臓に選択性のある調節配列は、心臓に選択性のあるプロモーター配列である。
【0036】
一実施形態では、トランスジェニック動物の生殖系列細胞のゲノムは、注目のヌクレオチド配列を含む。トランスジェニック細胞は、少なくとも1つの発現カセット又は切断カセットを含む本発明のトランスジェニック動物から単離される細胞である。トランスジェニック組織、例えば、心臓組織は、トランスジェニック細胞を含む組織である。
【0037】
切断カセットに関与する諸実施形態では、注目のヌクレオチド配列には、核酸分子がそれへと形質転換される細胞のゲノムDNA内で自然に発生するヌクレオチド配列が隣接していてよい。
【0038】
また、PKCαヌクレオチド配列の断片若しくは変異型及びそれらによってコードされるタンパク質も、本発明に包含される。「断片」とは、ヌクレオチド配列の一部分又はアミノ酸配列の一部分、したがってさらに、それらによってコードされるタンパク質を意味する。ヌクレオチド配列の断片は、天然タンパク質の生物活性を保持する、したがってPKCα活性を示すタンパク質断片をコードする場合がある。或いは、ヌクレオチド配列の断片は、ハイブリダイゼーションプローブとして有用である。PKCαの生物学的に活性な部分は、本発明のPKCαヌクレオチド配列の1つの一部分を単離し、PKCαタンパク質のコードされた部分を発現させ(例えば、インビトロでの組み換え発現によって)、且つPKCαタンパク質のコードされた部分の活性を評価することによって調製することができる。
【0039】
また、配列表に列記した以外の種、特に哺乳類種由来のPKCα遺伝子及びタンパク質が本発明において有用であることも、当業者には認識されよう。さらに、既知の種の配列由来のプローブを用いて、既知の配列に相同なcDNA又はゲノム配列を同一種又は代替種から周知のクローニング法によって得ることができることも、当業者には認識されよう。そのようなPKCαホモログ及びオルソログは、本発明のPKCα遺伝子及びタンパク質の定義に包含される。
【0040】
ゆえに、プロテインキナーゼC−αヌクレオチド配列の断片は、プロテインキナーゼC−α(PKCα)の生物学的に活性な部分をコードすることができ、又は、以下に開示する方法を用いてハイブリダイゼーションプローブ若しくはPCRプライマーとして使用できる断片であってよい。PKCαの生物学的に活性な部分は、本発明のPKCαヌクレオチド配列の1つの一部分を単離し、PKCαタンパク質のコードされた部分を発現させ(例えば、インビトロでの組み換え発現によって)、且つPKCαタンパク質のコードされた部分の活性を評価することによって調製することができる。プロテインキナーゼC−αヌクレオチド配列の断片である核酸分子は、少なくとも16、20、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950、3000、3050、3100、3150、3200、3250、3300、3350、3400、3450、3500、若しくは3524個のヌクレオチドを含み、又は、最大で、本明細書に開示の完全長プロテインキナーゼC−αヌクレオチド配列に存在するヌクレオチドの数までのヌクレオチドを含み、或いは、PKCαゲノム遺伝子座由来の追加の配列を、単独で、又は前述の配列との組み合わせで含有する。
【0041】
「変異型」とは、実質的に類似した配列を意味する。ヌクレオチド配列の場合、保存変異型には、遺伝コードの縮重の理由から、本発明のPKCαポリペプチドのうちの1つのアミノ酸配列をコードする配列が含まれる。これらのような天然に発生する対立遺伝子多型は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び当該技術分野において既知のハイブリダイゼーション技術のような、既知の分子生物学技術を用いて同定することができる。オルソログ及び他の変異型を単離するには、特定の配列、配列長、GC含量、及び他のパラメータによって主に決定される、一般に厳密なハイブリダイゼーション条件が使用される。変異型ヌクレオチド配列には、また、例えば、部位特異的突然変異誘発を用いて生み出されるような、合成的に誘導されたヌクレオチド配列も含まれる。変異型は、また、ゲノム遺伝子座由来の追加の配列を、単独で、又は他の配列との組み合わせで含有してもよい。
【0042】
変異タンパク質は、天然タンパク質から1つ以上のアミノ酸の欠損(いわゆる切断)若しくは付加によって、1つ以上のアミノ酸の欠損若しくは付加によって、又は天然タンパク質中の1つ以上の部位での1つ以上のアミノ酸の置換によって誘導することができる。本発明に包含される変異タンパク質は、生物活性を保持してもよく、保持しなくてもよい。このような変異型は、例えば、遺伝的多型に由来するもの、又は人間の操作によって得られるものであってよい。代表的な変異PKCαタンパク質は、配列番号:7に記載のヌクレオチド配列によってコードされる。配列番号:7に記載のヌクレオチド配列によってコードされる変異タンパク質は、ドミナントネガティブ効果を示す。
【0043】
本発明のタンパク質は、アミノ酸置換、欠損、切断、及び挿入を含めた様々な方法で変化させてよい。例えば、PKCαタンパク質のアミノ酸配列変異型は、DNAの突然変異によって調製することができる。突然変異誘発及びヌクレオチド配列の変化のための方法は、当該技術分野において既知である。例えば、クンケル(Kunkel)(1985)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)82:488〜492、クンケル(Kunkel)ら(1987)酵素学諸法(Methods in Enzymol.)154:367〜382、米国特許第4,873,192号、ウォーカー(Walker)及びガストラ(Gaastra)編(1983)分子生物学技術(Techniques in Molecular Biology)(マクミラン・パブリッシング・カンパニー(MacMillan Publishing Company)、ニューヨーク)、並びにそれらで引用される参考文献を参照のこと。目的のタンパク質の生物活性に作用しない適切なアミノ酸置換に関する指針は、デイホフ(Dayhoff)ら(1978)タンパク質配列及び構造アトラス(Atlas of Protein Sequence and Structure)(米国立生物医学研究財団(Natl.Biomed.Res.Found.)、ワシントンDC)のモデルに見出される。
【0044】
変異型ヌクレオチド配列及びタンパク質は、また、DNAシャフリングのような変異誘発及びリコンビノジェニック(recombinogenic)処置で誘導される配列及びタンパク質も包含する。そのような処置によって、1つ以上の異なるPKCαコード配列を操作して、所望の特性を有する新しいPKCαを作り出すことができる。このように、組み換えポリヌクレオチドのライブラリーは、かなりの配列同一性を有し、且つインビトロ又はインビボで相同的に組み換えることのできる配列領域を含む、関連配列ポリヌクレオチドの集合から生成される。例えば、この手法を使用して、目的のドメインをコードする配列モチーフを、本発明のPKCα遺伝子と他の既知のPKCα遺伝子との間でシャッフルして、目的の変化した特性をもつタンパク質、例えばドミナントネガティブ突然変異についての、新しい遺伝子コード化を得てもよい(オオバ(Ohba)ら(1998)分子細胞生物学(Mol.Cell.Biol.)18:51199〜51207、マツモト(Matsumoto)ら(2001)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)276:14400〜14406)。そのようなDNAシャフリングのための戦略は、当該技術分野において既知である。
【0045】
「配列同一性のパーセンテージ」若しくは「配列同一性」は、ある比較ウィンドウ若しくはスパンにわたって、最適に位置合わせされた2つの配列又は部分配列を比較することによって決定され、その際、比較ウィンドウ内の配列の部分が、所望により、2つの配列の最適なアラインメントのための基準配列(付加又は欠損を含まない)と比較して、付加又は欠損(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。パーセンテージは、一致した位置の数を得るために、両方の配列に同一の残基(例えば、核酸塩基若しくはアミノ酸残基)が存在する位置の数を決定し、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数によって除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0046】
配列同一性パーセンテージは、スミス(Smith)及びウォーターマン(Waterman)高等応用数学(Adv.Appl.Math.)2:482〜485(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、又はニードルマン(Needleman)及びヴンシュ(Wunsch)、分子生物学雑誌(J.Mol.Biol.)48:443〜445(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって計算することができ、これらのアルゴリズムは、手作業で、又はコンピュータ実装によって実施される(GCGウィスコンシン・ソフトウェア・パッケージ(GCG Wisconsin Software Package)のギャップ・アンド・ベストフィット(GAP & BESTFIT)、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group))。
【0047】
相同性又は配列同一性を決定する好ましい方法は、配列相似性検索に適応された、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、及びtblastx(カーリン(Karlin)ら(1990)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)87、2264〜2268、及びアルチュール(Altschul)(1993)分子進化学雑誌(J.Mol.Evol.)36、290〜300)によって採用されるアルゴリズムを使用する、BLAST(ベーシック局所アラインメント検索ツール:Basic Local Alignment Search Tool)分析によるものである。BLASTプログラムによって使用される手法は、初めに、問い合わせ配列とデータベース配列との間の類似セグメントを検討し、次いで、識別された一致すべての統計的有意性を評価し、最後に、事前に選択された有意性の閾値を満たす一致だけをまとめるものである。ヒストグラム、記述(descriptions)、アラインメント、期待値(expect)(すなわち、データベース配列に対する、報告される一致についての統計的有意性閾値)、カットオフ、マトリックス、及びフィルタに関する検索パラメータは、一般に、blastp、blastx、tblastn、及びtblastxのためのデフォルト−スコアリングマトリックスBLOSUM62(default-scoring matrix BLOSUM62)で設定される(ヘニコフ(Henikoff)ら(1992)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)89、10915〜10919)。
【0048】
本明細書で記載するとき、PKCα遺伝子及びタンパク質、それらの対立遺伝子多型及び他の変異型(例えば、スプライス変異)、他の種由来のそれらのホモログ及びオルソログ、並びに様々な断片及び変異体は、配列変異を示す。通常、これらの配列は、本発明の遺伝子及びタンパク質に対して、少なくとも約75%の配列同一性、好ましくは少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の配列同一性を示す。
【0049】
本発明のPKCα配列は、注目の動物で発現させるために発現カセットで提供される。カセットには、本発明のPKCα配列に作用可能に結合した5’及び3’調節配列が含まれることになる。「作用可能に結合した」とは、異種ヌクレオチド配列の転写及び翻訳が調節配列の支配下にあることを意味する。このように、本発明のPKCαヌクレオチド配列のためのヌクレオチド配列は、注目の動物で、より具体的には動物の心臓で発現させるために、心臓組織に選択性のあるプロモーターとともに発現カセットで提供されてよい。
【0050】
このような発現カセットには、調節領域の転写調節を受けるために、ヌクレオチド配列の挿入のための少なくとも1つの制限酵素認識部位が設けられる。発現カセットは、さらに、選択可能なマーカー遺伝子を含有してもよい。
【0051】
発現カセットには、5’から3’への転写方向に、転写及び翻訳開始領域、並びに注目の異種ヌクレオチド配列が含まれることになる。転写開始及び制御のための部位を含有することに加えて、発現カセットは、また、転写終結に必要な配列、並びに転写領域内に翻訳のためのリボソーム結合部位を含有することもできる。発現のための他の調節制御要素には、開始及び終止コドン、並びにポリアデニル化シグナルが含まれる。当業者は、発現ベクターで有用な多数の調節配列を認識している。そのような調節配列は、例えば、サンブルック(Sambrook)ら(1989)分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)第2版、コールドスプリングハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor,N.Y.)に記載されている。
【0052】
プロモーターヌクレオチド配列に作用可能に結合した本発明のPKCα配列を含む発現カセットは、また、遺伝子を有機体へと同時形質転換するために少なくとも1つの追加ヌクレオチド配列も含有してよい。別法として、(1つ又は複数の)追加配列を別の発現カセット上に与えることもできる。
【0053】
本明細書に記載のポリヌクレオチドがそれに作用可能に結合できる調節配列には、mRNA転写を誘導するプロモーターが含まれる。それらには、これらに限定するものではないが、バクテリオファージλ由来のレフト・プロモーター、lac、TRP、及び大腸菌由来のTACプロモーター、SV40由来の早期及び後期プロモーター、CMV前初期プロモーター、アデノウイルス早期及び後期プロモーター、並びにレトロウイルスの長い末端反復が挙げられる。
【0054】
本発明のPKCαヌクレオチド配列が、心臓組織に選択性のあるいかなるプロモーターにも作用可能に結合でき、且つ心臓組織で発現できることが認識されている。「心臓組織」とは、これだけに限定するものではないが、肺関連心筋(pulmonary myocardium)のような、発生的に心臓に関連した組織を含め、心臓から得られるあらゆる組織を意味する。
【0055】
転写レベルを高めるために、又は組織特異性を変化させるために、プロモーターと併せてエンハンサー及び/若しくは組織選択性要素を使用してよいことが認識されている。例えば、心臓に選択性のある他のプロモーターから上流の定量的又は組織特異的要素を、心臓に選択性のある転写を増加させるために、PKCα過剰発現マウスを作製するために使用されるα−MHCプロモーター領域と組み合わせてよい。そのような要素は特徴付けられており、例えば、ネズミ(murine)TIMP−4プロモーター、A及びB−型ナトリウム利尿ペプチドプロモーター、ヒト心臓トロポニンIプロモーター、マウスS100A1プロモーター、サケ心臓ペプチドプロモーター、GATA応答要素、心臓に選択性のある誘導型プロモーター、ウサギβ−ミオシンプロモーター、並びにマウスα−ミオシン重鎖プロモーターがある(ラーコネン(Rahkonen)ら(2002)生物化学・生物物理学雑誌(Biochim Biophys Acta)1577:45〜52、スエロフ(Thuerauf)及びグレンボスキー(Glembotski)(1997)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)272:7464〜7472、ラポワント(LaPointe)ら(1996)高血圧(Hypertension)27:715〜722、グレピン(Grepin)ら(1994)分子細胞生物学(Mol.Cell Biol.)14:3115〜29、デロー(Dellow)ら(2001)心臓血管研究(Cardiovasc.Res.)50:3〜6、キーウィッツ(Kiewitz)ら(2000)生物化学生物物理学雑誌(Biochim Biophys Acta)1498:207〜19、マジャラーティ−パルヴィエイネン(Majalahti-Palviainen)ら(2000)内分泌学(Endocrinology)141:731〜740、シャロン(Charron)ら(1999)分子細胞生物学(Molecular & Cellular Biology)19:4355〜4365、遺伝子バンク(Genbank)U71441、米国特許仮出願第60/393,525号及び同第60/454,947号、並びに米国特許出願第10/613,728)。
【0056】
心臓組織に選択性のある様々なプロモーター要素が文献に記載されており、それらを本発明で使用することができる。それらには、これらに限定するものではないが、次の遺伝子、ミオシン軽鎖−2、α−ミオシン重鎖、AE3、心臓トロポニンC、及び心臓α−アクチンからの、組織選択性のある要素が挙げられる。例えば、フランツ(Franz)ら(1997)心臓血管研究(Cardiovasc.Res.)35:560〜566、ロビンス(Robbins)ら(1995)ニューヨーク科学アカデミー年報(Ann.N.Y.Acad.Sci.)752:492〜505、リン(Linn)ら(1995)循環研究(Circ.Res.)76:584〜591、パーマセック(Parmacek)ら(1994)分子細胞生物学(Mol Cell Biol.)14:1870〜1885、ハンター(Hunter)ら(1993)高血圧(Hypertension)22:608〜617、及びサルトレッリ(Sartorelli)ら(1992)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)89:4047〜4051を参照のこと。
【0057】
他の実施形態では、コード領域は、1つ又は複数の誘導型調節要素に作用可能に結合されている。様々な誘導プロモーターシステムが文献に記載されており、それらを本発明で使用することができる。既知の有用な条件付システムは、2元的であり、テトラサイクリン若しくはその類似体の付加又は除去によって発現を可逆的に誘発するために細胞及び動物の両方で使用されてきた、テトラサイクリン系システムである。そのような2次元システムの他の例は、バクテリオファージP1のcre/loxPリコンビナーゼシステムである。cre/loxPリコンビナーゼシステムの説明については、例えば、ラクソー(Lakso)ら(1992)PNAS89:6232〜6236を参照のこと。
【0058】
プロモーター要素の他の部類は、低酸素状態に応答して、作用可能に結合した注目のヌクレオチド配列の転写を活性化させるものである。これらには、低酸素誘導因子−1によって少なくとも幾らか調節されるプロモーター要素が含まれる。低酸素応答要素としては、これらに限定するものではないが、エリスロポエチン低酸素応答エンハンサー要素(HREE1:erythropoietin hypoxia response enhancer element)、筋肉ピルベートキナーゼHRE、β−エノラーゼHRE、及びエンドセリン−1HRE要素、並びにこれらの配列を含むキメラヌクレオチド配列が挙げられる。バン(Bunn)及びポイントン(Poynton)(1996)生理学評論(Physiol.Rev.)76:839〜885、ダックス(Dachs)及びストラトフォード(Stratford)(1996)英国癌雑誌(Br.J.Cancer)74:S126〜S132、ギルモン(Guillemon)及びクラスノウ(Krasnow)(1997)細胞(Cell)89:9〜12、ファース(Firth)ら(1994)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)91:6496〜6500、チアン(Jiang)ら(1997)癌研究(Cancer Res.)57:5328〜5335、米国特許第5,834,306号)を参照のこと。
【0059】
転写を促進する制御領域に加えて、発現ベクターには、また、リプレッサ結合部位及びエンハンサーのような、転写を調節する領域も含めてよい。例としては、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス前初期エンハンサー、ポリオーマエンハンサー、アデノウイルスエンハンサー、及びレトロウイルスLTRエンハンサーが挙げられる。
【0060】
適切な場合、本発明のPKCαヌクレオチド配列及びいずれか追加の(1又は複数の)ヌクレオチド配列を、形質転換動物での発現増加のために最適化してもよい。すなわち、これらのヌクレオチド配列は、マウスにおける発現改善のための、マウス選択性のあるコドン(mouse-preferred codons)のような、発現改善のための、種に選択性のあるコドンを使用して合成することができる。種に選択性のあるヌクレオチド配列を合成する方法は、当該技術分野において利用可能である。例えば、ワダ(Wada)ら(1992)核酸研究(Nucleic Acids Res.)20(別冊(Suppl.))2111〜2118、バトカス(Butkus)ら(1998)臨床実験薬理生理学別冊(Clin Exp Pharmacol Physiol Suppl.)25:S28〜33、及びサンブルック(Sambrook)ら(1989)分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)第2版、コールドスプリングハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor,N.Y.)を参照のこと。
【0061】
細胞宿主での遺伝子発現を高める、さらなる配列改変が知られている。これらには、偽のポリアデニル化シグナル、エクソン−イントロンスプライス部位シグナル、トランスポゾン様反復をコードする配列、及び遺伝子発現に有害な場合のある十分に特徴付けられた他の配列の除去が含まれる。異種ヌクレオチド配列のG−C含量は、所与の宿主細胞で発現する既知の遺伝子を参照することによって計算される、該細胞宿主に平均的なレベルに調整されてよい。可能な場合、配列は、予測されるヘアピン二次mRNA構造を回避するように改変される。
【0062】
特定の細胞小器官、特に、ミトコンドリア、核、小胞体、若しくはゴルジ装置を対象とした、又は細胞の表面若しくは細胞外で分泌された、異種PKCαヌクレオチド配列の生成物発現が望ましい場合、発現カセットは、さらに、トランジットペプチドのためのコード配列を含んでよい。このようなトランジットペプチドは、当該技術分野において既知であり、それらには、これらに限定するものではないが、アシルキャリアタンパク質やRUBISCOの小サブユニットなどに関するトランジットペプチドが含まれる。
【0063】
切断カセットは、「ノックアウト」、「欠損」、若しくは「ヌル」変異体を作製するために、動物細胞のゲノムから目的の配列を分断且つ/又は除去するために使用される。「標的化ベクター」及び「切断カセット」とは、5’隣接領域、切断領域、及び3’隣接領域を含む単離された核酸分子を意味する。切断カセット及びその使用方法は、当該技術分野において既知である。ドーシュマン(Doetschman)ら(1987)ネイチャー(Nature)330:576〜578、ドーシュマン(Doetschman)ら(1988)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci)85:8583〜87、シュワルツ(Schwartz)ら(1991)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)88:10416〜20、オリバー(Oliver)ら(1997)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)94:14730〜14735、ナージ(Nagy)ら編(2003)マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)、コールドスプリングハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor,N.Y.)を参照のこと。
【0064】
レポーター遺伝子又は選択可能なマーカー遺伝子を、発現カセットに含めてよい。当該技術分野において既知の適したレポーター遺伝子の例は、例えば、オースベル(Ausubel)ら(2002)分子生物学における最近のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)(ニューヨーク州ニューヨーク)に見出すことができる。形質転換された細胞又は組織の選択のための選択可能なマーカー遺伝子には、抗生物質耐性を与える遺伝子を含めることができる。トランスジェニックイベントの回復で有用性を提供できる、ただし最終生成物では必要ない場合のある他の遺伝子としては、これらに限定するものではないが、GUS(β−グルクロニダーゼ)、蛍光タンパク質(例えば、GFP)、CAT、及びルシフェラーゼのような例が挙げられる。
【0065】
宿主細胞に移入するためのポリヌクレオチドの取り込みに適した送達ビヒクルとしては、これらに限定するものではないが、ウイルスベクター及び非ウイルスベクターが挙げられる(フェルマ(Verma)及びソミア(Somia)(1997)ネイチャー(Nature)389:239〜242)。
【0066】
ポリヌクレオチドの送達のための様々な非ウイルスビヒクルは、当該技術分野において既知であり、本発明に包含される。単離された核酸分子を、裸のDNAとして細胞に送達することができる(WO97/40163)。別法として、ポリヌクレオチドを、これらに限定するものではないが、カチオン性脂質、天然及び合成ポリマーを含めた生体適合性ポリマー、リポタンパク質、ポリペプチド、多糖類、リポ多糖体、人工ウイルスエンベロープ、金属粒子、タンパク質導入ドメイン、並びにバクテリアを含め、様々な物質(送達形態)に様々な方法で関連付けられた細胞に送達することもできる。送達ビヒクルを、微粒子にすることができる。また、これら様々な物質の混合物又は結合物も、送達ビヒクルとして使用することができる。ポリヌクレオチドを、非共有結合的又は共有結合的にこれらの送達形態に関連付けることができる。リポソームは、特定の細胞タイプ、例えば心筋細胞を標的とすることができる。
【0067】
ウイルスベクターとしては、これらに限定するものではないが、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスのようなポックスウイルス、及びアデノ随伴ウイルスを含めたパルボウイルスに基づくようなDNAウイルスベクター、並びに、これらに限定するものではないが、レトロウイルスベクターを含めたRNAウイルスベクターが挙げられる。レトロウイルスベクターとしては、ネズミ白血病ウイルス、及びヒト免疫不全ウイルスのようなレンチウイルスが挙げられる。ナルディーニ(Naldini)ら(1996)サイエンス(Science)272:263〜267を参照のこと。
【0068】
ポリヌクレオチドを含む非ウイルス送達ビヒクルは、リン酸カルシウム共沈法、電気穿孔法、電気透過化(electropermeablization)、リポソーム媒介トランスフェクション、弾丸トランスフェクション(ballistic transfection)、微粒子衝撃(microparticle bombardment)、ジェット注入、並びに針及び注射器注入を含めたパーティクルガン法(biolistic processes)によるトランスフェクション、若しくはマイクロインジェクションによるトランスフェクションのような、当該技術分野において既知のいずれか適した方法によって、宿主細胞及び/又は標的細胞に移入することができる。多数のトランスフェクション方法が当業者に知られている。
【0069】
ウイルス性送達ベクターは、感染によって細胞に移入することができる。別法として、ウイルスベクターを、細胞への送達に関して前述した非ウイルス性送達ベクターのいずれかに組み込むこともできる。例えば、ウイルスベクターをカチオン性脂質と混合することができ(ホジソン(Hodgson)及びソライマン(Solaiman)(1996)ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnol.)14:339〜342)、又はラメラリポソームと混合することができる(ウィルソン(Wilson)ら(1977)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.)74:3471〜3475、並びにファーラー(Faller)ら(1984)ウイルス学雑誌(J.Virol.)49:269〜272)。
【0070】
インビボ送達の場合、当業者に既知のいずれかの方法によって、ベクターを個体又は有機的組織体に移入することができる。
【0071】
発現ベクターで有用な調節配列又は他の配列のいずれも、トランスジェニック配列の一部を形成することができる。これには、既に含まれていない場合、イントロン配列及びポリアデニル化シグナルが含まれる。一実施形態では、動物細胞を、注目のヌクレオチド配列を含む安定に形質転換された少なくとも1つの発現カセットを含むトランスジェニック動物を作り出すために使用できる、受精卵母細胞又は胚幹細胞にすることができる。別法として、宿主細胞を、細胞の特定のサブセットを発生させる幹細胞又は他の初期組織前駆体(early tissue precursor)にすることもでき、また、動物においてトランスジェニック組織を作り出すために使用することもできる。相同的組み換えベクターの説明については、トーマス(Thomas)ら(1987)細胞(Cell)51:503も参照のこと。ベクターは、胚幹細胞株に移入され(例えば、電気穿孔法によって)、移入された遺伝子がその中でゲノムと組み換えを起こした細胞が選択される(例えば、リー,E.(Li,E.)ら(1992)細胞(Cell)69:915を参照)。選択された細胞は、次いで、動物(例えば、マウス)の胚盤胞に注入されて凝集キメラを形成する(例えば、ブラッドリー,A.(Bradley,A.)奇形癌及び胚幹細胞:実際の手法(Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach)、E.J.ロバートソン(E.J.Robertson)編(IRL、オックスフォード、1987)113〜152ページを参照)。次いで、キメラ胚を適した偽妊娠の受容雌動物に移植することができ、その胚を妊娠満了させる。組み換えられたDNAをその生殖細胞中に保有する後代を使用して、トランス遺伝子の生殖細胞系列移行(germ line transmission)によって組み換えられたDNAをすべての細胞が含有する動物を繁殖させることができる。相同的組み換えベクター及び相同的組み換え動物を構築する方法は、さらに、ブラッドリー,A.(Bradley,A.)(1991)生物工学における最近の見解(Current Opinion in Biotechnology)2:823〜829、及びPCT国際公開特許WO90/11354、WO91/01140、及びWO93/04169に記載されている。
【0072】
胚操作及びマイクロインジェクションによってトランスジェニック動物、特に、マウスのような動物を作製する方法は、当該技術分野で一般的になってきており、例えば、米国特許第4,736,866号、同第4,870,009号、同第4,873,191号、同第6,201,165号、及びナージ(Nagy)ら編(2003)マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)、コールドスプリングハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor,N.Y.)に記載されている。
【0073】
本明細書に記載の非ヒトトランスジェニック動物のクローンも、ウィルマット(Wilmut)ら(1997)ネイチャー(Nature)385:810〜813及びPCT国際公開特許WO97/07668及びWO97/07669に記載されている方法に従って作り出すことができる。簡潔に言えば、トランスジェニック動物由来の細胞、例えば体細胞を単離し、細胞増殖周期を出てG0相に入るように誘導することができる。次いで、その静止細胞を、例えば電気パルスを用いて、該静止細胞が単離されたのと同じ種の動物由来の除核卵母細胞に融合させることができる。再構成された卵母細胞は、次いで、桑実胚又は胚盤胞に成長するように培養された後、偽妊娠の受容雌動物に移入される。この受容雌動物から生まれる子は、該細胞、例えば体細胞がそれから単離された動物のクローンになる。
【0074】
トランスジェニック動物の他の例としては、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ブタ、モルモット、ハムスター、ウシ、ヤギ、ウサギ、及びラットが挙げられる。トランスジェニックウサギを提供する方法は、マリアン(Marian)ら(1999)臨床研究雑誌(J.Clin.Invest.)104:1683〜1692及びジェームズ(James)ら(2000)サーキュレーション(Circulation)101:1715〜1721に記載されている。
【0075】
「PKCα活性」とは、本明細書に記載の野生型PKCαが示すあらゆる活性を意味する。このような活性としては、これらに限定するものではないが、キナーゼ活性、活性Cキナーゼの受容体(RACK)結合活性、発現、細胞画分から顆粒画分への転位、及び筋細胞膜への転位が挙げられる。PKCα活性のモジュレーションとしては、これらに限定するものではないが、キナーゼ活性、RACK結合、又はPKCα発現レベル若しくは細胞分布のモジュレーションのような、PKCα活性のモジュレーションが挙げられる。
【0076】
キナーゼ活性の分析方法は、当該技術分野において既知であり、それには、これらに限定するものではないが、リンペプチド(phosphor-peptide)に対する抗体による免疫沈降、蛍光偏光、放射性同位体によるフィルタ結合アッセイ、シンチレーション近接アッセイ、複合抗体(conjugated antibodies)による96ウェルアッセイ、時間分解蛍光アッセイ、薄層クロマトグラフィー、免疫沈降及び免疫複合体アッセイ、非トリクロロ酢酸ホスホアミノ酸測定、並びにプロテインキナーゼアッセイが挙げられる。ブラス(Braz)ら(2002)細胞生物学雑誌(J.Cell Biol.)156:905〜919、ピン(Ping)ら(1999)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)276:H1468〜H1481、米国特許出願第20030036106号、米国特許第5447860号、ウォーカー・ジョン(Walker,John)編(2002)CD−ROMにおけるタンパク質プロトコル・バージョン2(Protein Protocols on CD-ROM v.2)、及びオースベル(Ausubel)ら編(1995)分子生物学における最近のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)(グリーン・パブリッシング・アンド・ワイリー−インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley-Interscience)、ニューヨーク)を参照のこと。
【0077】
RACKとのPKCαの関係を分析する方法は、当該技術分野において既知であり、それには、これらに限定するものではないが、ELISA、タンパク質相互作用的トラッピング(protein interactive trapping)、X線結晶学、NMR、超遠心分離、免疫沈降、共免疫沈降、架橋、酵母2ハイブリッドアッセイ、及び親和性クロマトグラフィーが挙げられる。例えば、モクリー−ローゼン(Mochly-Rosen)(1995)生化学会会報(Biochem Soc.Trans.)23(3):596〜600、ウォーカー・ジョン(Walker,John)編(2002)CD−ROMにおけるタンパク質プロトコル・バージョン2(Protein Protocols on CD-ROM v.2)、及びオースベル(Ausubel)ら編(1995)分子生物学における最近のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)(グリーン・パブリッシング・アンド・ワイリー−インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley-Interscience)、ニューヨーク)を参照のこと。
【0078】
本発明は、PKCα指標ポリペプチドの転位を監視する方法を提供する。「指標ポリペプチド」とは、細胞内の場所を監視するのに適したあらゆるポリペプチドを意味する。適した指標ポリペプチドとしては、前述したレポーター遺伝子を含有する融合ポリペプチド、例えば、これらに限定するものではないが、蛍光タンパク質(例えば、GFP)、β−ガラクトシダーゼ、c−jun、c−myc、親和性ポリペプチドタグ(Hisタグなど)、放射性標識ポリペプチド、ビオチン標識ポリペプチド、抗原標識ポリペプチド、及び染料標識ポリペプチドが挙げられる。適した指標ポリペプチドとしては、関心ポリペプチドに特異的な抗体が挙げられる。
【0079】
一実施形態では、本発明は、動物におけるPKCα発現を変化させる方法を提供する。一実施形態では、PKCα発現は、その動物全体を通じて調節される(例えば、切断変異体)。一実施形態では、PKCα発現は、心臓に選択性のある形で調節される。「心臓に選択性のある(cardiac -preferred)」とは、異種PKCαの発現が心臓組織において最も多量であることを意味する、ただし、他の種類の組織、特に、発生的に心臓組織に関連した組織でも発現が起こる場合がある。
【0080】
発現レベルを決定する方法は、当該技術分野において既知であり、それには、これらに限定するものではないが、定性的ウエスタンブロット分析、免疫沈降、放射線学的アッセイ、ポリペプチド精製、分光測光分析、アクリルアミドゲルのクマシー染色、ELISA、RT−PCR、2−Dゲル電気泳動、マイクロアレイ分析、インサイチュウハイブリダイゼーション、化学発光、銀染色、酵素アッセイ、ポンソーS染色、多重RT−PCR、免疫組織化学アッセイ、ラジオイムノアッセイ、比色分析、免疫放射定量測定アッセイ、陽電子放出断層撮影、ノーザンブロット法、蛍光分析、及びSAGEが挙げられる。例えば、オースベル(Ausubel)ら編(2002)分子生物学における最近のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、ワイリー−インターサイエンス(Wiley-Interscience)、ニューヨーク州ニューヨーク、コリガン(Coligan)ら(2002)タンパク質科学における最近のプロトコル(Current Protocols in Protein Science)、ワイリー−インターサイエンス(Wiley-Interscience)、ニューヨーク州ニューヨーク、及びサン(Sun)ら(2001)遺伝子治療(Gene Ther.)8:1572〜1579を参照のこと。
【0081】
発現を増加又は減少させて形質転換動物の心臓組織における表現型の変化をもたらすために、PKCαヌクレオチド配列をそれらの天然プロモーターとともに使用してよいことが認識されている。
【0082】
PKCαの変化した心臓選択性発現を示すトランスジェニック動物は、これだけに限定するものではないが心収縮能のような心機能に作用する化合物を同定するアッセイを実施するのに有用である。心収縮能を決定するためのアッセイは、当該技術分野において既知であり、それには、これらに限定するものではないが、短縮アッセイ、ピーク短縮、ピークまでの時間、最大弛緩の1/2までの時間、収縮及び弛緩速度アッセイ、心臓変時性(cardiac chronotropy)の変化、心臓拡張機能(cardiac lusitropy)の変化、並びに心臓全体の収縮(gross heart contraction)アッセイが挙げられる。PKCα発現の変化した心臓選択性発現は、心筋症易発症性の変化をまねくことがある。本発明の一態様では、本発明は、心収縮能を即時的に調節する方法を提供する。本発明の他の態様では、本発明は、心筋症を即時的に調節する方法を提供する。即時的なモジュレーション又は変化は、PKCα調節剤の投与後、1秒、10秒、30秒、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60分、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、若しくは31日以内に始まる。モジュレーションの持続時間は、これらに限定するものではないが、ナノ秒、秒、及び分の増分のような短い持続時間から、これらに限定するものではないが、時、日、及び週の増分のような中間の持続時間、これらに限定するものではないが、月、及び年の増分のような長い持続時間まで、最長でレシピエントの寿命を包含する期間に及ぶ。
【0083】
本発明の状況では、「心収縮能」又は「心筋収縮能」は、心機能の指標として定義されており、それには、これらに限定するものではないが、心拍出量、駆出分画、短縮率、心仕事量、心係数、変時性、拡張機能(lusitropy)、周辺繊維の短縮速度、心拍数に関して補正された周辺繊維の短縮速度、1回拍出量、心収縮又は弛緩速度、心室間圧力の1次微分(最大dP/dt及び最小dP/dt)、心室容積、心機能の臨床評価(例えば、負荷心エコー検査及びトレッドミル歩行)、並びにこれらのパラメータの変動又は標準化が挙げられる。これらのパラメータを、ヒト又は動物で同様に測定して、心筋機能を評価し、心臓疾患の診断及び予後診断に役立てることができる。
【0084】
「心筋症」は、心筋組織若しくは心機能異常に関与するあらゆる疾患又は状態である。これらに限定するものではないが、心筋組織に関与する疾患としては、これらに限定するものではないが拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、気絶心筋、及び心筋炎を含めた心筋疾患、心不全、急性心不全、リウマチ熱、横紋筋腫、肉腫、これらに限定するものではないが、心房中隔欠損、心室中隔欠損、動脈管開存、及び房室中隔欠損のような左右短絡−遅発性チアノーゼ、ファロー四徴症、大血管転位、総動脈幹、三尖弁閉鎖、及び全肺静脈還流異常症のような右左短絡−早発性チアノーゼ、大動脈縮窄症、肺動脈弁狭窄及び閉鎖、並びに大動脈弁狭窄及び閉鎖のような先天性の閉塞異常を含めた、先天性心臓疾患、心臓移植に関与する疾患、動脈性高血圧、周産期心筋症、アルコール性心筋症、頻脈、上室性頻脈症、徐脈、心房粗動、胎児水腫、不整脈(arrhythmias)、期外収縮性不整脈、胎児心不整脈、心内膜炎、心房細動、特発性拡張型心筋症、シャーガス心臓病、QT延長症候群、ブルガダ(Brugada)症候群、虚血、低酸素症、心室細動、心室性頻脈症、再狭窄、うっ血性心不全、失神、不整脈(arrythmias)、心膜疾患、心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症、並びに、狭心症、ウイルス性心筋炎、及び心筋組織に関与する非増殖性細胞疾患が挙げられる。
【0085】
「変化した易発症性(susceptibility)」とは、本発明のトランスジェニック動物が心筋症表現型を示す程度において、本発明のトランスジェニック動物が、非トランスジェニック動物とは異なることを意味する。心筋症表現型は、これらに限定するものではないが、胚、生後、成体、及び動物が寿命末期に近づいたときを含めて、発達のどの段階に存在してもよい。一実施形態では、心筋症表現型は、これらに限定するものではないが、食餌、運動、化学治療、又は外科処置のような外部刺激によって誘発されてもよい。
【0086】
心筋症表現型としては、これらに限定するものではないが、肥大、心室中隔肥大のようなモルホロジー(morphology)、左心室収縮末期最大dP/dt若しくは拡張末期径(τ)、乳頭筋寸法、左心室流出路閉塞、心室中隔部肥大(midventricular hypertrophy)、心尖部肥大、非対称性肥大、同心性心室質量拡大(concentric enlarged ventricular mass)、偏心性心室質量拡大(eccentric enlarged ventricular mass)、サルコメア構造(sarcomere structure)、筋原線維機能、受容体発現、心拍数、心室収縮期圧、心室拡張期圧、大動脈収縮期圧、大動脈拡張期圧、収縮性、間質性線維症、心筋細胞錯綜配列(cardiomyocyte disarray)、Ca2+感受性、Ca2+放出、Ca2+取込み、カテコリン(catecholine)感受性、α−アドレナリン感受性、β−アドレナリン感受性、ドブタミン感受性、チロキシン感受性、アンギオテンシン変換酵素阻害物質感受性、アミオダロン感受性、リドカイン感受性、糖タンパク質受容体拮抗薬感受性、アナボリックステロイド感受性、カルニチン輸送異常、左心室拡張、左心室駆出分画減少、左心房拡張、利尿薬感受性血液量異常(volemia)、虚血、白血球流動性、多形核白血球(PMN:polymorphonuclear leukocyte)膜流動性、PMN細胞質Ca2+含量、高度心室中隔欠損(high interventricular septal defect)、ロゼット阻害効果(rosette inhibition effect)、収縮力伝達、心筋線維錯綜配列(myocardial fiber disarray)、心室の硬さの増大、弛緩の低下、小血管病、呼吸困難、狭心症、失神直前の状態、頻脈、失神、昏睡、呼吸窮迫症、白苔の発生(ruffled fur)、猫背の姿勢(hunched posture)、末梢浮腫、腹水、肝腫大、肺水腫(edematous lung)、心拡大、器質化血栓形成、心臓重量/体重比、圧力上昇速度、圧力低下速度、細胞の攣縮(cell twitch)の測定などが挙げられる。例えば、ブラウンワルド(Braunwald)ら(2002)サーキュレーション(Circulation)106:1312〜1316、ワイグル(Wigle)ら(1995)サーキュレーション(Circulation)92:1680〜1692、並びにピー(Pi)及びウォーカー(Walker)(2000)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol)279:H26〜H34を参照のこと、なお、これらの全体を本明細書に参考として組み込む。
【0087】
心筋症表現型を判定する方法は、当該技術分野において既知であり、それには、これらに限定するものではないが、経胸壁心エコー、経食道心エコー、運動負荷試験、尿/カテコールアミン分析、EIA、光学顕微鏡検査、心臓カテーテル法、動的心電図、ランケンドルフ吊下心臓標本(Langendorff hanging heart preparation)、機能心臓標本、MRI、多重RT−PCR、陽電子放出断層撮影、血管造影、磁気共鳴スピンエコー、短軸MRIスキャン、ドップラー流速録音、ドップラーカラー血流イメージング、タリウム負荷試験、心臓超音波、胸部X線、酸素消費量試験、電気生理学的試験、聴診、走査型EM、重量分析、ヘマトキシリン・エオジン染色、除膜線維分析、透過型電子顕微鏡検査、免疫蛍光分析、トリクローム染色、マッソン(Masson)のトリクローム染色、フォンコッサ(Von Kossa)染色、2D心エコー、心拍陣痛計(cardiotocography)、ベースラインMモード心エコー、及び心筋乳酸産生アッセイが挙げられる。例えば、ブラス(Braz)ら(2002)細胞生物学雑誌(J.Cell.Biol.)156:905〜919、ブラウンワルド(Braunwald)ら(2002)サーキュレーション(Circulation)106:1312〜1316、ソハール(Sohal)ら(2001)循環研究(Circulation Res.)89:20〜25、ナグー(Nagueh)ら(2000)サーキュレーション(Circulation)102:1346〜1350、サンベ(Sanbe)ら(2001)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)276:32682〜32686、サンベ(Sanbe)ら(1999)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)274:21085〜21094、ワイグル(Wigle)ら(1995)サーキュレーション(Circulation)92:1680〜1692、ピー(Pi)及びウォーカー(Walker)(2000)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol)279:H26〜H34、並びにワン(Wang)ら(2001)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.)269:H90〜H98を参照のこと、これらの全体を本明細書に参考として組み込む。
【0088】
用語「治療」は、本明細書では、最低でも、本発明の化合物の投与が、ホスト、好ましくは哺乳類被験体、より好ましくはヒトにおいて、疾病若しくは疾患を軽減することを意味するために使用される。ゆえに、用語「治療」には、特にホストが疾病にかかりやすい状態にあるが、まだ疾病と診断されていないときの、該ホストにおける感染性疾患の発生の予防、感染性疾患の阻害、及び/又は感染性疾患の軽減若しくは改善が含まれる。本発明の方法が疾患の予防を目的とする限り、用語「予防」が疾病状態を完全に阻止する必要はないことが理解される。(ウェブスターの第九大学生用辞典(Webster's Ninth Collegiate Dictionary)を参照のこと。)むしろ、本明細書で使用するとき、予防という用語は、疾病が発症する前に本発明の化合物を投与できるように、当業者が疾患にかかりやすい集団を識別する能力を指す。この用語は、疾病状態を完全に回避することを意味するものではない。
【0089】
心臓の収縮及び弛緩障害の治療のためのPKCα阻害物質の同定は、既知の方法によって同定することができる。PKCα阻害物質は、PKCαの酵素活性を評価することによって同定することができる。これは、多数の市販のキットを用いて達成されてもよい。これらのキットには、これらに限定するものではないが、発光性、蛍光性、放射性、又は他の測定可能且つ定量化可能なエンドポイントを含めた「標識」基質を使用するものがある。或いは、本発明に記載のように、単独で、又は細胞若しくは組織中でのPKCαの分布及び活性を決定するために、PKCαタンパク質自体を、これらに限定するものではないが、発光性、蛍光性、又は放射性イオン若しくは分子を含めた追跡可能マーカに結合させることもできる。PKCαが細胞内に多くの既知の基質を有するので、PKCα基質のリン酸化反応又は脱リン酸化反応を測定することによってPKCα活性を評価することができる。標識若しくは非標識リン酸化反応部位特異的抗体、発光性、蛍光性、放射性生体標識、又は他の手段を用いてPKCα基質のリン酸化/脱リン酸化状態を測定して、PKCαの基質に対する活性を評価してよい。別法として、(1つ若しくは複数の)基質の再分布が、また、PKCα活性の変化に対するその応答を測定する手段として役立つこともある。基質が、キナーゼ、ホスファターゼ、又は他の酵素である場合、確立された技術によって基質の活性を測定してよい。
【0090】
心機能異常を患うヒトにおいて有益なPKCα阻害物質の同定は、PKCαが存在すると判定された単離細胞若しくは単離組織を使用して達成されてもよい。例えば、PKCα阻害物質は、哺乳類又は他の有機体から単離された細胞、好ましくは心筋細胞において試験されてよく、標準的な技術(チョードリB(Chaudhri B)ら(2002)米国生理学雑誌、心臓循環生理学(Am J Physiol Heart Circ Physiol.)283:H2450〜H2457)によって細胞の短縮パーセント(%FS):短縮若しくは再伸長速度(±dL/dt)を測定することによって、PKCα阻害物質の効果を決定する。別法として、筋肉、好ましくは心臓由来の筋肉を単離してもよく、標準的な技術(スラックJP(Slack JP)ら(1997)生物化学雑誌(J Biol Chem.)272:18862〜18868)によって、PKCα阻害物質が存在する状態及び存在しない状態で収縮機能の測定値が評価される。PKCα阻害物質は、本発明で概要を述べたように、心拍数、血圧、収縮及び弛緩速度(+dP/dt及び−dP/dt)、左心室圧力、並びにこれらのパラメータの微分を含め、即時的な血行動態を測定することによって同定されてよい。PKCα阻害物質は、これらの方法によって、これらに限定するものではないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒト、ウサギ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシ、サル、チンパンジー、ヒツジ、ハムスター、及びゼブラフィッシュの様々な遺伝株を含め、適した且つ正常な動物において同定されてよい。PKCα阻害物質は、これらの方法によって、これらに限定するものではないが、MLP(-/-)KOマウス、タイプ1セリン/トレオニンホスファターゼ過剰発現マウス(PP1c)、及びPKCα過剰発現トランスジェニックマウスのような、トランスジェニック若しくはノックアウトマウスの様々な遺伝株を含め、心不全又は心機能異常の適した動物モデルにおいて同定することができる。さらに、PKCα阻害物質は、これらに限定するものではないが、自然発症高血圧性心不全ラット若しくはダール食塩感受性ラットを含め、遺伝子欠損又は多重遺伝子欠損に起因した心不全及び心機能異常の自然発症又は自然モデルにおいて同定されてもよい。さらに、PKCα阻害物質は、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウシ、サル、チンパンジー、ヒツジ、ハムスター、及びゼブラフィッシュでの、これらに限定するものではないが、心筋梗塞モデル、冠状動脈微小塞栓症モデル、大動脈狭窄モデル、動静脈瘻モデル、又は他の圧力若しくは容量過負荷モデルを含め、外科的に誘発された心機能異常モデルにおいて同定されてもよい。
【0091】
一実施形態では、本発明のトランスジェニック動物、組織、又は細胞を使用して、PKCα調節化合物を同定してよい。「PKCα調節化合物」は、PKCα活性を調節する化合物である。PKCα調節化合物としては、これらに限定するものではないが、ジアシルグリセロール、ホスファチジルセリン、Ca2+、PMA、CGP54345、ビスインドリルマレイミド、AAP10、スタウロスポリン、H−7(シグマ社(Sigma Co.))、ジアゾキシド、DiC8、アラキドン酸、Go−6976(PKC(PKCαを含める))、CGP54345、HBDDE(また、PKCγ)、並びにRo−32−0432(また、PKCβ)が挙げられる。PKCα活性を分析する方法は、本明細書で別記する。関心化合物が本発明のトランスジェニック動物に及ぼす効果を監視するために、当該技術分野において既知のいずれのPKCα活性分析方法を使用してもよい。
【0092】
PKCα阻害物質としては、これらに限定するものではないが、キナーゼ阻害物質、プロテインキナーゼC阻害物質、及びPKCα特異的阻害物質が挙げられる。「キナーゼ阻害物質」とは、PKCαを含めた多様なキナーゼを阻害する化合物を意味する。「プロテインキナーゼC阻害物質」とは、他のキナーゼに対するその効果に比べて、プロテインキナーゼCの活性を選択的に阻害する化合物を意味する。「PKCα特異的阻害物質」とは、他のプロテインキナーゼCアイソザイムを含めた別のキナーゼの活性を低減するよりも、PKCα活性を大きく低減する化合物を意味する。既知のPKCα阻害物質としては、これらに限定するものではないが、アイシス・ファーマスーティカルズ(Isis Pharmaceuticals)から市販されている、アンチセンスヌクレオチド配列及びアンチセンス分子を有する核酸分子、並びにリシン368アルギニン突然変異のようなPKCαのドミナントネガティブ突然変異が挙げられる(ブラス(Braz)ら(2002)細胞生物学雑誌(J.Cell.Biol.)156:905〜919)。
【0093】
PKCαヌクレオチド配列についてメッセンジャーRNA(mRNA)の少なくとも一部分に相補的なアンチセンス構造を、構築することができる。アンチセンスヌクレオチドは、対応するmRNAとハイブリダイズするように構築される。アンチセンス配列の修飾は、その配列が対応するmRNAにハイブリダイズし、且つ該mRNAの発現に干渉する限り、実施されてよい。このように、対応するアンチセンス配列に対して少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性を有するアンチセンス構造を使用してよい。さらに、アンチセンスヌクレオチドの一部分を、標的遺伝子の発現を切断するために使用してもよい。一般に、少なくとも50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、又は200ヌクレオチド以上の配列を使用してよい。ゆえに、アンチセンスDNA配列を心臓組織に選択性のあるプロモーターに作用可能に結合させて、心臓組織における天然タンパク質の発現を低減又は阻害することができる。
【0094】
アンチセンス技術に加えて、遺伝子の発現は、ショートヘアピンRNA(shRNA)、RNA干渉(RNAi)、低分子RNA(short terminal RNA)(stRNA)、マイクロRNA(miRNA)、又は低分子干渉RNA(short interfering RNA)(siRNA)を含めた、二本鎖RNAによって抑制することができる(シュッツェN.(Schutze N.)(2004)分子細胞内分泌学(Mol Cell Endocrinol.)213、115〜119)。これらのRNA干渉手法は、様々なサイズのRNAを使用できるが、一般的には15〜28ヌクレオチドに限られており、まだ明らかではないメカニズムによって作用する。この技術は、遺伝子機能を阻害するための手段としてインビトロ及びインビボでうまく使用されてきた(マキャフリー(McCaffrey)APら(2002)ネイチャー(Nature)418、38〜39)。
【0095】
収縮性の亢進及び心不全の進行について評価される基準としては、これらに限定するものではないが、β−受容体数、β−受容体結合、アデニリルシクラーゼ活性、安静時のcAMPレベル、フォルスコリン投与後のcAMPレベル、PKA活性、PKAタンパク質レベル、L型カルシウムチャネル電流密度、SERCA2aタンパク質レベル、及びホスホランバンmRNAレベル若しくはタンパク質のホスホランバンリン酸化反応が挙げられる。
【0096】
本発明のアッセイに従ってスクリーニングできる化合物としては、これらに限定するものではないが、植物若しくは動物抽出物のような天然物、合成化学物質、タンパク質を含めた生物学的活性材料、可溶性ペプチドのようなペプチド、例えば、これらに限定するものではないが、ランダムペプチドライブラリ、並びにD−若しくはL−型アミノ酸でできたコンビナトリアル・ケミストリーから誘導される分子ライブラリのメンバー、リン酸化ペプチド(これらに限定するものではないが、ランダム若しくは部分縮重の指向性リン酸化ペプチドライブラリを含める)、抗体(これらに限定するものではないが、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト、抗イディオタイプ、若しくは一本鎖抗体、並びにFab、F(ab’)2、及びFab発現ライブラリ断片、並びにそれらのエピトープ結合断片)、有機及び無機分子を含めた、既知の化合物のライブラリが挙げられる。
【0097】
試験化合物のより習慣的な供給源に加えて、コンピュータモデリング及び探索技術によって、本発明のタンパク質のリガンド結合部位からの構造情報を用いた試験化合物の合理的な選択が可能になる。そのような試験化合物の合理的な選択は、治療用化合物を同定するためにスクリーニングしなければならない試験化合物の数を削減することができる。本発明のタンパク質の配列がわかっていれば、可能性のあるリガンドのスクリーニングに使用できるそれらの結合部位のモデルの作製が可能になる。このプロセスは、当該技術分野において既知の幾つかの方式で達成することができる。好ましい手法は、テンプレート((1若しくは複数の)類似タンパク質の結晶構造又はNMRベースモデル、アミノ酸構造の変換、並びに分子力学及び視覚的検査によってモデルをリファインすることで得られる)に対してタンパク質配列の配列アラインメントを作り出すことを伴う。強い配列アラインメントが得られない場合、疎水性へリックスのモデルを構築することによってモデルを作製してもよい。また、残基と残基との接触を指し示す突然変異データを使用して、これらの接触が達成されるようにへリックスを互いに対して位置決めしてもよい。また、このプロセスの間、へリックス内の結合部位キャビティへの既知のリガンドのドッキングを使用して、リガンドの結合を安定化させる相互作用を発達させることによってヘリックスの位置決めに役立たせてもよい。モデルは、分子力学を使用したリファインメント及び標準的な相同性モデリング技術を使用したループ構築によって完成させることができる。モデリングに関する一般的な情報は、シェーネベルク,T.(Schoneberg,T.)ら、分子及び細胞内分泌学(Molecular and Cellular Endocrinology)151:181〜193(1999)、フラワー,D.(Flower,D.)、生物化学・生物物理学雑誌(Biochimica et Biophysica Acta)1422:207〜234(1999)、並びにセクストン,P.M.(Sexton,P.M.)、薬物の発見及び開発における最近の見解(Current Opinion in Drug Discovery and Development)、2(5):440〜448(1999)に見出すことができる。
【0098】
モデルが完成したら、本発明のスクリーニング方法によってスクリーニングすべき化合物の数を削減するために、該モデルを、DOCKプログラム(UCSFモレキュラー・デザイン・インスティテュート(UCSF Molecular Design Institute)、カリフォルニア州94143−0446サンフランシスコ、533パルナッソス・アベニュー、U−64、ボックス0446(533 Parnassus Ave,U-64,Box 0446,San Francisco,California 94143-0446)のような既存の幾つかのコンピュータプログラムのうちの1つと併せて使用することができる。その変形形態の幾つかでは、それが、立体フィッティング及び結合部位に対する粗い静電的相補性について、市販及び/又は専売化合物のデータベースをスクリーニングすることができる。使用できる他のプログラムは、FLEXX(トライポス社(Tripos Inc.)、ミズーリ州セントルイス1699サウスハンリーロード(1699 South Hanley Rd.,St.Louis,MO))である。
【0099】
本明細書で使用するとき、用語「製薬上許容できるキャリア」は、薬剤の投与と適合性のある、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤などを包含することが意図されている。製薬上活性な物質のためのこのような媒質及び剤の使用は、当該技術分野において既知である。従来のいずれの媒質若しくは剤も、活性化合物との適合性がない場合を除き、本発明の組成物で使用することができる。また、補助的な活性化合物も、組成物に組み込むことができる。本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路と適合性があるように配合される。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与が挙げられる。非経口、皮内、若しくは皮下適用に使用される溶液又は懸濁液としては、次の構成成分、注射用の水、食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、若しくは他の合成溶媒のような無菌希釈剤、ベンジルアルコール若しくはメチルパラベンのような抗菌剤、アスコルビン酸若しくは亜硫酸水素ナトリウムのような酸化防止剤、エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤、アセテート、シトレート、若しくはホスフェートのような緩衝剤、並びに、塩化ナトリウム若しくはデキストロースのような張度調節用の剤を挙げることができる。pHは、塩酸若しくは水酸化ナトリウムのような酸又は塩基を用いて調整することができる。非経口用調製剤は、ガラス若しくはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、又は繰り返し投与用バイアル瓶に封入することができる。
【0100】
注射用途に適した医薬組成物としては、無菌水溶液(水溶性の場合)、又は、無菌の注射可能溶液若しくは分散体の即時調製用の分散体及び無菌粉末が挙げられる。静脈内投与の場合、適したキャリアとしては、生理食塩水、静菌性の水、クレモフォアELTM(Cremophor ELTM)(BASF、ニュージャージー州パーシッパニー)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いかなる場合にも、組成物は、無菌でなければならず、注射針を容易に通過可能な程度まで流動的であるべきである。それは、製造及び貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌及び菌類のような微生物の汚染作用を受けないように保護されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、並びにこれらの適した混合物を含有する、溶媒又は分散媒であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散体の場合には必要な粒径の維持によって、また界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物中に、等張剤、例えば、糖、マンニトールやソルビトールのようなポリアルコール、及び塩化ナトリウムを含めることが好ましい。吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによって、注射可能組成物の長期にわたる吸収をもたらすことができる。
【0101】
無菌の注射可能溶液は、必要な量の活性化合物(例えば、カルボキシペプチダーゼタンパク質若しくは抗カルボキシペプチダーゼ抗体)を、必要に応じて以上に列記した成分のうちの1つ又はそれらの組み合わせとともに、適切な溶媒に組み込み、続いてろ過滅菌することによって、調製することができる。一般に、分散体は、活性化合物を、基本分散媒と以上に列記したうちの必要な他の成分とを含有する無菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌の注射可能溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌ろ過されたそれらの溶液から、活性成分に加えていずれか追加の所望の成分を粉末の形態にすることのできる、真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0102】
口腔用組成物には、一般に、不活性希釈剤又は食用のキャリアが含まれる。それらは、ゼラチンカプセルに封入することができ、又は圧し固めて錠剤にすることができる。経口投与の場合、剤を、胃を通り抜けられるように腸溶性の形態に収めることができ、又は、既知の方法によって消化管の特定の領域で放出されるようにさらにコーティング若しくは混合することができる。治療的な経口投与の目的では、活性化合物を、賦形剤とともに組み込むことができ、錠剤、トローチ剤、又はカプセルの形態で使用することができる。口腔用組成物は、また、マウスウォッシュとして使用するために流体キャリアを用いて調製することもでき、その際、流体キャリア中の化合物は、口腔に適用され、ブクブクうがいをして(swished)から、吐き出され、又は飲み込まれる。製薬上適合性のある結合剤及び/又は補助物質を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ剤などは、次の成分、微結晶セルロース、トラガカントガム、若しくはゼラチンのような結合剤、デンプン若しくはラクトースのような賦形剤、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)(登録商標)、又はコーンスターチのような崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、コロイド状二酸化ケイ素のような流動促進剤、スクロース若しくはサッカリンのような甘味剤、又は、ペパーミント、サリチル酸メチル、若しくはオレンジフレーバのような着香剤、或いは同様の性質の化合物のいずれかを含有することができる。
【0103】
吸入による投与の場合、化合物は、適した噴射剤、例えば二酸化炭素のようなガスを含有する加圧容器若しくはディスペンサ、又はネブライザからの、エアゾールスプレーの形態で供給される。
【0104】
全身投与は、また、経粘膜又は経皮的手段によることもできる。経粘膜又は経皮的投与の場合、通過すべきバリアに適した浸透剤が配合中で使用される。そのような浸透剤は、一般に当該技術分野において既知であり、それには、例えば、経粘膜の場合、デタージェント、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレー又は座薬を使用して達成することができる。経皮的投与の場合、活性化合物は、当該技術分野において一般に知られているように、軟膏、膏薬、ゲル、又はクリームに配合される。
【0105】
化合物は、また、座薬の形態(例えば、カカオバター及び他のグリセリドのような従来の座薬基剤を用いて)、又は直腸送達用の保留浣腸の形態で調製することもできる。
【0106】
一実施形態では、活性化合物は、インプラント及びマイクロカプセル化デリバリーシステムを含め、制御放出製剤のように、該化合物が身体から急速に排泄されるのを防ぐキャリアとともに調製される。エチレンビニルアセテート、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸のような、生分解性・生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような配合の調製方法は、当業者には明らかである。材料は、また、アルザ社(Alza Corporation)及びノバ・ファーマスーティカルズ社(Nova Pharmaceuticals,Inc.)から商業的に得ることもできる。また、リポソーム懸濁液(ウイルス性抗原に対するモノクローナル抗体とともに感染細胞を標的としたリポソームを含む)も、製薬上許容できるキャリアとして使用することができる。これらは、当業者に既知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号に記載の方法に従って調製することができる。
【0107】
投与を容易にするために、また投薬量を一様にするために、口腔用又は非経口組成物を投薬単位形態に配合することが特に有利である。本明細書で使用するとき、「投薬単位形態」は、治療すべき被験体にとって1回投薬量として適している物理的に別個の単位を指しており、各単位が、必要な医薬品キャリアと関連して所望の治療効果を生み出すように計算された、所定の分量の活性化合物を含有する。本発明の投薬単位形態についての仕様は、活性化合物の独特の特徴及び達成すべき特定の治療効果、並びに個人個人の治療のためにそのような活性化合物を配合する技術分野に固有の限界によって決定付けられ、また直接それらによって左右される。
【0108】
本発明の方法によって同定される抗心筋症化合物は、ヒトの治療で使用されてよい。
【0109】
(方法)
実施例1.トランスジェニックマウスの作製
胚幹細胞における標準の相同的組み換えによって、PKCα遺伝子を欠損の標的とし、続いてキメラマウスを作り出し、それを繁殖させ、標的対立遺伝子を取り出して生殖細胞系列に移した。PKCα中のATP結合カセットをコードするエクソンを欠損させて、タンパク質発現に関するヌル対立遺伝子を得た。PKCα過剰発現トランスジェニックマウスの作製のために、PKCαをコードするcDNAをネズミα−ミオシン重鎖プロモーター含有発現ベクターへとサブクローン化し、新しい受精卵母細胞に注入した。MLP、PP1c、及び圧力過負荷外科モデル(TAC)は、すべて別記した(アーバー(Arber)ら(1997)細胞(Cell)88:393〜403、カール(Carr)ら(2002)分子細胞生物学(Mol.Cell.Biol.)22:4124〜4135、及びリャン(Liang)ら(2003)EMBO.J.22:5079〜5089)。一貫性のために、すべての研究でオスだけを使用した。すべての動物実験は、所内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を受けた。
【0110】
実施例2.心エコー分析
すべての遺伝子型又は治療群からのマウスをイソフルランで麻酔し、15−MHZマイクロプローブを備えたヒューレットパッカード5500(Hewlett Packard 5500)機器を使用して心エコーを実施した。各群につき別個の4匹のマウスから3回ずつMモードで心エコー測定値を取得した。本研究で使用される単離された摘出マウス心臓標本については、これまでに詳細に記載されており(ギューリック(Gulick)ら(1997)循環研究(Circ.Res.)80:655〜664)、ここで使用した閉胸式機能心臓モデルと同様である(ローレンツ(Lorenz)ら(1997)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)272:H1137〜H1146)。
【0111】
実施例3.組織学的肥大マーカ遺伝子分析
心臓を、指示した時点で採取し、10%ホルマリン−PBS溶液中で固定し、パラフィンに包埋した。各群からの連続5μm心臓切片を分析した。試料を、ヘマトキシリン・エオジン染色又はマッソン(Masson)のトリクローム染色で染色した。肥大分子マーカの心臓での遺伝子発現を、これまでに記載されているように、RNAドットブロット分析によって評価した(ジョーンズ(Jones)ら(1996)臨床研究雑誌(J.Clin.Invest)98:1906〜1917)。
【0112】
実施例4.アデノウイルス感染後の単一成体ラット心筋細胞における収縮性
スプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット心臓から心室筋細胞を単離し(ウェストフォール(Westfall)ら(1997細胞生物学諸法(1997 Methods Cell Biology)52:307〜322)、5%血清を含むDMEM中でラミニンコーティングされたカバースリップ上で2時間平板培養した。次いで、培地を、組み換えウイルスベクターを含有する無血清DMEMに取り替えた。1時間後に無血清DMEMを添加し、培地を2日ごとに交換した。単離細胞の約70〜85%が棒状であり、心臓当たり1〜2×106の棒状筋細胞がある。短縮アッセイに使用する筋細胞を、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mMヘペス(Hepes)、0.2mg/mLアルブミン、及び10mMグルタチオンが追加された培地199内で電気的に刺激した(ウェストフォール(Westfall)及びボートン(Borton)(2003)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)278:33694〜33700)。培養の1日後、筋細胞を、白金電極を備えた刺激チャンバに移動し、筋細胞の25%未満に攣縮を生み出す電圧で0.2Hzにおいて2.5ms刺激した。刺激チャンバ内の培地は、12時間ごとに取り替えた。収縮機能の研究では、カバースリップを、サルコメア短縮測定のためのM199を含有する熱制御チャンバ内に設置した。サルコメア長を、可変視野率CCDビデオカメラ(アイオンオプティクス(Ionoptix)、マサチューセッツ州ミルトン(Milton))によって測定し、サルコメア長検出ソフトウェアで記録した。筋細胞を0.2Hzで刺激し、サルコメア短縮を60秒間記録した。ピーク短縮、ピークまでの時間、最大弛緩の半分までの時間、並びに収縮及び弛緩速度の測定値を、10回の収縮についての信号平均から得た。これらの研究の結果を、一元配置分散分析及びポストホック・ニューマンクールズ(post-hoc Newman-Keuls)試験によって比較した。
【0113】
実施例5.電気生理学的記録
3月齢の野生型又は非トランスジェニック(Ntg)マウス及びPKCα−KOマウスの心室から心筋細胞を分離し、これまでに記載されているように、電気生理学的記録を実施した(ペトラシェフスカヤ(Petrashevskaya)ら(2002)心臓血管研究(Cardiovasc.Res.)54:117〜132、及びマサキ(Masaki)ら(1997)米国生理学雑誌(Am.J.Physiol.)272:H606〜H612)。簡潔には、心臓に、逆行性冠動脈潅流を、無Ca2+タイロード溶液によって10分間実施し、コラゲナーゼタイプII(ワージントン(Worthington)、1.0mg/ml)を含有する、5mMタウリン及び10mMのBDM(2,3−ブタン、ジオン−モノキサミン(monoxamine))が追加されたタイロード溶液(250μMのCa2+)で、95%O2及び5%CO2を吹き込みながら37℃で8〜12分間実施した。潅流後、心臓を取り出し、心室組織を低Cl-・高K+−KB培地中で機械的に細かく切断した。次いで、細かく切断された心室組織を、静かに濾過し、電気生理学的研究まで4℃で保管した。実験には、明確な横紋をもち、自発収縮又は顕著な肉芽形成(granulation)のない、Ca2+耐性細胞だけを選択した。
【0114】
実験は、分離した心筋細胞に20〜24℃で実施した。電流の記録は、すべて、全細胞において、1.60ODホウケイ酸ガラス電極(ガーナー・グラス・カンパニー(Garner Glass Company))を用いてパッチクランプ法の電圧−クランプ構成で得た。細胞の電気容量は、0mVの保持電位から25mV過分極試験パルス(25ms)によって誘発される非代償性の容量トランジェントのもとで面積を積分することによって計算した。抵抗は、2〜11MΩの範囲内であった。これらの研究で提示されるデータのほとんどは、0.5〜3MΩの抵抗を有する電極を用いて得られた。記録電極と筋細胞膜との間に高抵抗シールが形成された後、膜パッチを切断する前に、電極容量を完全に電子的に埋めた。保持電位−60mVから10mVの増分で−50mV〜+40mVの脱分極電圧ステップ(380ms)によって、ICa電流を誘発させた。記録された電流を、4極ローバス・ベッセルフィルタ(four-pole low-bass Bessel filter)に通して2kHzでフィルタ処理し、5kHzでデジタル化した。実験は、pClamp5.6ソフトウェア(アクソン・インスツルメンツ(Axon Instruments))を使用して制御し、クランプフィット(Clampfit)6.0.3.を使用して分析した。CaCl21.8mM、テトラエチル−アンモニウムクロリド(TEA−Cl)135mM、4−アミノピリジン(4−AP)5mM、グルコース10mM、HEPES10mM、MgCl2(pH7.3)を含有する外部溶液を使用して、Ca2+電流を記録した。ピペット溶液は、セシウムアスパルテート100mM、CsCl20mM、MgCl21mM、Mg−ATP2mM、Na2−GTP0.5mM、EGTA5mM、HEPES5mM(CsOHによりpH7.3)を含有した。これらの溶液が、Na+及びK+チャネル電流のような他の膜電流からICaを分離し、また、Na+/Ca2+交換体を通じてCa2+流出も分離した。
【0115】
実施例6.カルシウム・トランジェント測定
カルシウム・トランジェント測定の評価のためのマウス左心室筋細胞の単離を、これまでに記載されているように実施した(チュー(Chu)ら(1996)循環研究(Circ.Res.)79:1064〜1076)。Ca2+トランジェントは、室温で心筋細胞から測定した。簡潔には、麻酔をかけた(ペントバルビタールナトリウム、70mg/kg、腹腔内投与(i.p.))成体マウスから、マウス心臓を摘出し、ランゲンドルフ潅流装置内に設置し、37℃において無Ca2+タイロード溶液で3分間潅流した。標準タイロード溶液は、140mMのNaCl、4mMのKCl、1mMのMgCl2、10mMのグルコース、及び5mMのHEPESを含有し、pH7.4であった。次いで、潅流を、75単位/mLのタイプ1コラゲナーゼ(ワージントン(Worthington))を含有する同一の溶液に切り替えて、心臓が弛緩状態になるまで潅流を続けた(約10〜15分)。左心室組織を摘出し、細かく切断し、ピペット分離し、240μmスクリーンに通して濾した。次いで、細胞懸濁液を、順に、25、100、200μM、及び1mMのCa2+−タイロード中で洗浄した。細胞内Ca2+シグナルを得るために、細胞をfura−2(Fura−2/AM、2μM)のアセトキシメチルエステル形態によって室温で30分間インキュベートし、1.8mMのCa2+−タイロード溶液に再懸濁させた。筋細胞懸濁液をプレキシグラスチャンバ内に入れ、それを倒立エピ蛍光顕微鏡(ニコン・ダイアフォト200(Nikon Diaphot 200))のステージ上に位置決めし、1.8mMのCa2+−タイロード溶液によって室温(22℃〜23℃)で潅流した。筋細胞収縮を、グラスS5刺激装置(Grass S5 stimulator)(0.5Hz、方形波)によってフィールド刺激し、細胞を、デルタスキャン・デュアルビーム分光蛍光光度計(Delta Scan dual-beam spectrophotofluorometer)(フォトン・テクノロジー・インターナショナル(Photon Technology International))によって340及び380nm5で交互に興奮させた。Ca2+トランジェントを、得られる510nm発光の340/380nm比として記録した。340/380nm比並びにCa2+シグナルが80%減衰する時間及びτによって推定される、ベースライン及び振幅を獲得した。すべてのデータは、フェリックス(FeliX)及びアイオンウィザード(Ionwizard)からのソフトウェアを使用して分析された。
【0116】
実施例7.インビトロでのI−1のPKCαリン酸化反応
PKCキナーゼ反応混合物には、10μMの阻害物質−1、20mMのMOPS、pH7.2、25mMのβ−グリセロールホスフェート、1mMのMgCl2、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム、1mMのDTT、1mMのCaCl2、0.1mg/mLのホスファチジルセリン、0.01mg/mLジアシルグリセロール、100μMのATP、及び0.6mCi/mL[32P]ATPが含まれた。PKCをウサギ心筋から単離し(ウジェット(Woodgett)及びハンター(Hunter)(1987)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)262:4836〜4843)、組み換え野生型及びSer−67−Ala阻害物質−1を大腸菌から単離した(ビブ(Bibb)ら(2001)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)276:14490〜14497)。30℃で反応させ、特定の時点でアリコートを採取し、タンパク質試料緩衝剤の添加によって停止させた。SDS−PAGE及び放射能の直接定量によって化学量論(stoichiometries)を決定した。
【0117】
実施例8.心筋細胞初代培養
これまでに記載されているように、日齢1〜2日のスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット新生仔の酵素分離によって、新生仔ラット心筋細胞の初代培養を得た(デ・ウィント(De Windt)ら(2000)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)275:13571〜13579)。心筋細胞を、無血清条件下で、ペニシリン/ストレプトマイシン(100U/mL)及びL−グルタミン(2mmol/L)が追加されたM199培地で培養した。
【0118】
実施例9.複製欠損アデノウイルス
心筋細胞におけるPKCαのアデノウイルスコード野生型又はドミナントネガティブ変異体の特性評価については、既に記載されている(ブラス(Braz)ら(2002)細胞生物学雑誌(J.Cell Biol.)156:905〜919)。ドミナントネガティブPKCα cDNAは、アミノ酸位置368でのATP結合ドメインにおけるリシンからアルギニンへの突然変異から成っていた。各組み換えアデノウイルスを、プラーク単離し、拡張させ、HEK293細胞中で力価試験を行った。典型的な実験は、37℃の加湿6%CO2インキュベータ内で2時間にわたって、100プラーク形成単位のmoiで6個の新生仔ラット心筋細胞を感染させるものであった。続いて、分析前に細胞をさらに24時間にわたって無血清M199培地で培養した。これらの条件下では、細胞の95%が組み換えタンパク質の発現を示した。
【0119】
実施例10.PKC転位アッセイ及びイムノブロット分析
可溶性画分及び顆粒画分を、これまでに記載されているように調製した(ブラス(Braz)ら(2002)細胞生物学雑誌(J.Cell Biol.)156:905〜919)。タンパク質試料を、SDS−PAGE(10%ゲル)に供し、ハイボンド−P膜(Hybond-P membrane)(アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech))に移動し、7%ミルク中でブロッキングし、PKCα、β、δ、ε、SERCA2、カルセケストリン、PLB、ホスホ−セリン−16PLB、阻害物質−1、及びPP1cαに対する一次抗体でインキュベートした。ホスホ特異的I−1抗体については、既に記載されている(ビブ(Bibb)ら(2001)生物化学雑誌(J.Biol.Chem.)276:14490〜14497)。一次抗体を、3%ミルク中で4℃で一晩インキュベートした。二次抗体IgG(アルカリホスファターゼが結合した抗マウス、抗ウサギ、又は抗ヤギ)を、0.5〜3%ミルク中で室温で1時間インキュベートした。化学蛍光検出を、ビストラECF試薬(Vistra ECF reagent)(RPN5785、アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech))によって直接実施して、ホスファーイメージャー(PhosphorImager)で走査し、又はECL(アマシャム・ファルマシア・バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech))によって化学発光を実施し、フィルム上で露光させた。
【0120】
実施例11.免疫沈降及びタンパク質ホスファターゼ活性アッセイ
β−ガラクトシダーゼ、I−1、PKCα、及びPKCα−dnをコードするアデノウイルスで感染させた心筋細胞から、タンパク質抽出物を生成した。抽出物を、アガロースビーズに結合したPPIcαで免疫沈降させ、続いてI−1に対してウエスタンブロッティングを実施した。リン酸化タンパク質基質の調製及びタンパク質ホスファターゼの放射能アッセイは、タンパク質セリン/トレオニンホスファターゼ(PSP:Protein Serine/Threonine Phosphatase)アッセイシステム(ニューイングランド・バイオラボ社(New England BioLabs,Inc.))の指示通りに調製した。
【0121】
実施例12.カフェイン誘発性カルシウム・トランジェント
カフェイン誘発性カルシウム・トランジェントを、4匹のPKCαヌルマウス由来の合計37個の筋細胞、及び3匹の野生型マウス由来の19個の対照筋細胞で測定した。コラゲナーゼ消化後、筋細胞にIndo−1AM(25μg/2mL)を室温で12分間負荷した。細胞内カルシウム・トランジェント(Indo−1蛍光比によって測定される)を、20mMカフェイン添加前及び添加中に、休止状態(電気刺激なし)で記録した。
【0122】
実施例13.心機能性評価
4匹の野生型マウス及び4匹のPKCα−/−(PKCαヌル)トランスジェニックマウスから心臓を単離した。単離した心臓に、8×10-11〜8×10-7Mにわたる異なる9つの濃度でPMAを注入した。各濃度の即時PMA注入は、7分間実施された。収縮期及び拡張期それぞれにおける最大及び最小dP/dtについて心臓を測定した。そのような実験の1つで得られた結果を図36に示す。
【0123】
実施例14.PKCアイソザイム存在量評価
標準曲線を使用して、健康なヒトの心臓におけるPKCアイソザイムの相対存在量を評価した。バクテリア内で生成された組み換えヒトタンパク質PKCα、PKCβI、PKCβII、PKCγ、及びPKCεを、民間業者から購入した。既知の濃度の3つのアリコートを調製した。
【0124】
成人したヒトの心室組織を、病気に罹っていない6人から外植した。全細胞タンパク質溶解物を調製した。3つの標準PKCアリコート及び心臓タンパク質を、同一のゲル上でポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。タンパク質を膜に転写した。膜をブロッキングし、PKCα、PKCβI、PKCβII、PKCγ、及びPKCεアイソザイムに特異的な抗体でインキュベートした。このような実験で得られたデータを図37に示す。
【0125】
実施例15.心機能評価
エクスビボ機能心臓標本を使用して即時PKCα阻害が心機能及び収縮性に及ぼす影響を直接調べる手段として、比較的選択性のあるPKCα/β阻害化合物であるRo−32−0432[2−{8−[(ジメチルアミノ)メチル]−6,7,8,9−テトラヒドロピリド[1,2−a]インドール−3−イル}−3−(1−メチルインドール−3−イル)マレイミド、HCl塩][3−{8−[(ジメチルアミノ)メチル]−6,7,8,9−テトラヒドロピリド[1,2−a]インドール−10−イル}−4−(1−メチルインドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン、HCl塩]を使用した。機能心臓標本は、心臓の固有のポンプ機能と、インビボで薬物が注入された場合に起こり得るような全血管抵抗の考えられる変化とを切り離す。
【0126】
野生型成体マウスの機能心臓に、ビヒクル対照(10%DMSO)、或いはRo−32−0432を10%DMSOに溶かしたものを4×10-10〜4×10-6Mにわたる濃度で注入した。4匹の動物をRo−32−0432群で分析し、ビヒクル対照群の3匹の動物と比較した。濃度の時間的変化(増加していく異なる濃度10個につき7分間)全体を通じた値を統計的な目的で合計すると、平均投与量約1×10-8Mに相当した。ビヒクル対照及び実験群は、処置開始前には、それぞれ、毎分363+/−15及び295+/−26拍の心拍数を示した。ビヒクル及び薬物処置群の平均心拍数は、それぞれ、毎分351+/=3及び292+/−6拍であった。心拍数が低いにも関わらず、Ro−32−0432注入群は、最大dP/dtとして測定される即時的な収縮機能の亢進、及び発生左心室圧の増大を示した。Ro−32−0432処置群における即時的な収縮性能の約20%の変化は、PKCαヌルマウスで観察された心機能の亢進に類似している。このような実験の1つで得られたデータを図38に示す。
【0127】
実施例16.PKCα指標ポリペプチドの転位
PKCαをコードするヌクレオチド配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするヌクレオチド配列に作用可能に結合させることによって、PKCα指標を調製した。PKCα−GFPヌクレオチド配列を含む発現カセットを調製した。PKCα−GFP発現カセットを含むアデノウイルスを調製した。
【0128】
新生仔ラット心筋細胞をプラスチックディッシュ内で培養し、適切な密度に達するまでインキュベートした。心筋細胞にPKCα−GFPをコードするアデノウイルスを感染させた。培養物を24時間インキュベートした。24時間後、DMSOだけで(ビヒクル処置)、又はDMSO及びPMAで、細胞を60分間インキュベートした。細胞を固定し、共焦点顕微鏡によって調査した。PMA刺激された細胞は、きわめて局在的な点状の染色パターンを示し、一方、ビヒクルだけで刺激された細胞は、比較的拡散したPKCα−GFP局在性を示す。
【0129】
実施例17.麻酔ラットにおけるPKCα阻害物質のインビボ評価
選択されたPKCα阻害物質を、心収縮能及び血行動態に及ぼす影響について、ナイーブラット及び心筋梗塞(MI)ラットの両方で評価する。
【0130】
体重225〜500gの雄のスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)又はルイス(Lewis)ラットをイソフルランで麻酔し、以下のようにMIを誘発する。第四又は第五肋間で開胸し、心臓を露出させ、心膜を開く。その起始部から2〜4mmのところで左下降冠動脈の周りに5−0縫合糸を巻き、外れないように縛る。肋骨、筋肉、及び皮膚を別々に閉じ、動物を回復させる。術後20〜23週に、該動物を使用して、PKCα阻害物質が心収縮能及び血行動態に及ぼす影響を評価する。
【0131】
阻害物質が心収縮能及び血行動態に及ぼす影響を、ナイーブラット及びMIラットで次のように評価する。動物をイソフルランで麻酔する。大腿動脈を分離し、体血圧測定のためにカニューレ挿入する。頚静脈を分離し、阻害物質の静脈内注入のためにカニューレ挿入する。右頚動脈を分離し、ミラー(Millar)コンダクタンスカテーテルを心臓の左心室(LV)へと挿入する。LV圧力波形から、LV収縮期圧、拡張末期圧、+最大dP/dt、−最小dP/dt、及び心拍数を導出する。体血圧波形から平均動脈血圧を導出する。データを継続して記録し、コンピュータデータ収集ソフトウェア(ノトコード(Notocord)又はパワーラボ(Powerlab))を使用して導出する。
【0132】
安定化期間後、PKCα阻害物質を、0.1、0.3、1.0、3.0、10、30、100、300、及び1000nmol/kg/分の注入用量でナイーブラットに注入する。各用量の注入は、少なくとも5分間にわたって行う。MIラットでは、注入用量は、少なくとも5分間にわたって、10、30、100、300、及び1000nmol/kg/分である。等価の注入体積を、別個のビヒクル対照ナイーブ動物及びMI動物に投与する。試験注入の終わりに、5.0μg/kg/分のドブタミンを注入する。
【0133】
実施例18.抗心筋症化合物の同定方法
このアッセイは、様々な心筋症表現型に使用することができる。注目のPKCαヌクレオチド配列を、心臓組織に選択性のあるプロモーターを含有する発現ベクターへとクローニングする。注目のヌクレオチド配列に作用可能に結合した、プロモーターを含む発現カセットを、制限酵素で消化する。制限反応生成物を、アガロースゲル上で電気泳動し、発現カセットをアガロースから精製する。発現カセットを、当業者に既知の方法に従ってマイクロインジェクション用に調製する。発現カセットを使用してトランスジェニックマウスを提供する。トランス遺伝子の存在を、サザンブロット分析を使用して確認する。
【0134】
年齢が一致するトランスジェニックマウスの2つの集団を構築する。一方の集団の食餌には注目の化合物を補う。第2の集団の食餌にはプラセボを補う。2つのマウス集団を適切な時間飼育し、実験を終了する。マウスを、本明細書で別記する左心室/体の重量比を使用して、肥大のような心筋症表現型について監視する。各集団のマウスによって呈される心筋症表現型を比較する。別法として、これらに限定するものではないが、注射器若しくは浸透圧ミニポンプ又は他の手段による化合物の動脈内又は静脈内注射、経口栄養補給(oral gavage)、腹腔内注射、或いは皮下注射を含め、確立された方法及び技術を使用して、化合物を動物に直接投与してもよい。
【0135】
(実験結果及び考察)
以下の諸図では、特に指示のない限り、データを平均値の標準誤差とともに示す。
【0136】
図1.触媒ATP結合カセットをコードするエクソンがネオマイシン耐性マーカによる置換によって欠損するように、PKCα遺伝子座(Prkcaとも呼ぶ)を、胚幹細胞における相同的組み換えの標的とした(パネルAに示す)。ゲノム標的化を、EcoRVで消化されたDNA及びベクター相同性領域の外側の5’プローブによるサザンブロッティングによって検出し(パネルBに示す)、正確な標的化及び選択されたエクソンの欠損を証明した。正確に標的化された胚幹細胞を使用して、従来技術でルーチン的に採用される一般的な技術を用いて、生殖細胞系列を含有するPKCα標的化マウスを作製した。PKCα+/−マウスを交雑して、予想されるメンデルの頻度でPKCα−/−後代を作り出した。パネルCは、野生型マウス、PKCα+/−マウス、及びPKCα−/−マウス由来の心臓タンパク質抽出物からのPKCαタンパク質レベルについてのウエスタンブロッティングを示しており、PKCαタンパク質が、PKCα−/−マウスでは完全になくなり、PKCα+/−マウスでは非標的化野生型マウスと比較して約50%減少することを明示している。
【0137】
図2.他のPKCアイソザイムが心臓内のPKCαの喪失を代償する可能性を評価するために、大動脈弓横行部狭窄(TAC:transverse aortic constriction)によって2週間圧力過負荷に曝された2月齢のPKCα−/−マウス、又はシャム対照動物から得られた心臓から、ウエスタンブロッティングを実施した。また、野生型対照動物にも、TAC又はシャム手術を実施した。これらの心臓からのタンパク質抽出物を、可溶性画分(S)又は顆粒画分に分離し、選択されたPKCアイソザイムについてウエスタンブロットに供した。データは、PKCα−/−マウスが完全にPKCαタンパク質を欠いているが、PKCβ、δ、及びεレベル又は転位効率が作用を受けなかったことを明示している。これらの結果は、代替的なPKCアイソザイムが心臓におけるPKCαの喪失を明らかに代償するとは考えにくいことを示す。
【0138】
図3.6匹のPKCα−/−マウス及び6匹の非標的化野生型マウスの閉胸観血的血行動態評価で、ベースラインでの最大dP/dtが15〜20%増加し、続いてドブタミンによるβ−アドレナリン受容体刺激を実施する際に対応並列増加することが明示された。これらの結果は、PKCα−/−マウスがインビボで過剰収縮心臓をもつことを示す。
【0139】
図4.考えられる血行力学的代償性反応以外の心臓固有の機能を評価するために、PKCα−/−マウス又は野生型マウス(各群に4つの心臓)から、2月齢及び10月齢においてエクスビボ順行性(anterograde)機能心臓調製を実施した。機能的能力の等しい評価を保証するために、各心臓を毎分約400拍でペーシングした。PKCα−/−心臓は、月齢を一致させた野生型同腹仔対照と比較して、2月齢及び10月齢でそれぞれ最大dP/dtの15%増加及び32%増加を示した(パネルA)。また、PKCα−/−マウスでは、対応する発生左心室圧の増大も観察された(パネルB)。これらの結果は、さらに、PKCα−/−マウスが過剰収縮心臓を有し、一体の動物全体で見られる他のメカニズムによって欠損が代償されないことを示す。
【0140】
図5.6匹のPKCα−/−マウス及び6匹の非標的化野生型マウスの閉胸観血的血行動態評価で、心拍数(パネルA)又は平均動脈血圧(パネルB)に変化がないことが明示された。これらの結果は、PKCα−/−心臓で観察された収縮性の亢進が、血圧又は心拍数の二次変化によるものではないことを示す。
【0141】
図6.心臓におけるPKCαタンパク質の除去に随伴した機能獲得表現型を評価するために、心臓に特異的なα−ミオシン重鎖プロモーターの制御下で野生型PKCα cDNAを過剰発現するトランスジェニックマウスを作製した(パネルA)。野生型マウス又はPKCα過剰発現トランスジェニックマウスの心臓タンパク質抽出物からの定量的ウエスタンブロッティングで、PKCβ、δ、又はεの代償性変化なしに、トランスジェニック心臓におけるPKCαタンパク質の5倍の過剰発現が明示された(パネルB、上側)。野生型マウス、PKCαトランスジェニックマウス、又はPKCα−/−マウスから得られる心臓タンパク質抽出物のウエスタンブロッティングで、PKCαの自己リン酸化反応の増加が示され、トランス遺伝子による活性の増大を示唆した(パネルB、下側)。PKCα−/−心臓抽出物を、ウエスタンブロッティング処置における移動対照(migration control)として使用した。これらの結果は、PKCαトランスジェニックマウスが心臓内で著しく大きいPKCα活性をもつことを示す。
【0142】
図7.PKCαトランスジェニックマウスは、心筋症の徴候を示す。4月齢までに、PKCαトランスジェニックマウスは、月齢及び系統を一致させた野生型対照と比較して、心エコーによって測定される短縮率の低下を示し、PKCα活性の増大がインビボで心収縮能を低下させることを示唆した(パネルA)。この結論は、また、エクスビボ機能心臓標本によって評価される最大dP/dtの評価によっても裏付けられ(パネルB)、これもやはり、野生型対照と比較したPKCαトランスジェニックマウスの心機能性能の低下を示す。以上の実験では、各群(A及びB)に4匹の動物を使用した。
【0143】
図8.PKCαトランスジェニックマウスは、6及び8月齢まで心臓肥大症の徴候を示さず、図7には収縮性能が低下した少し後の時間を記載した。6及び8月齢までに徐々に心臓肥大症の徴候を示すのは、収縮性能が低下した結果であり、全体として、心臓におけるPKCα活性の向上が心筋症を引き起こすことを示す。各群に4匹の動物を使用した。
【0144】
図9.PKCα遺伝子標的化マウス及びトランスジェニックマウスは、対照的な心収縮能表現型を示したが、PKCα活性の慢性変化に随伴した副次的効果の可能性を無視することはできない。この懸念事項に対処するために、野生型成体ラット心筋細胞でPKCα活性又は阻害の急性モデルを設定し、続いて単一細胞の収縮反応性を調べた。野生型又はドミナントネガティブPKCαのアデノウイルス媒介性遺伝子移入は、ピーク短縮によって測定したときに、それぞれ、筋細胞収縮性を低下及び向上させた(P<0.05)。また、最大短縮速度も同様に作用を受け、対照成熟筋細胞での値4.04±0.23μm/秒と比較して、野生型及びドミナントネガティブPKCαアデノウイルス感染筋細胞では、それぞれ、3.16±0.25μm/秒及び5.48±0.36μm/秒であった(P<0.05)。これらのデータは、PKCα活性の急性変化が筋細胞収縮性に影響を及ぼすことを示しており、これは図1〜8に示した遺伝的マウスモデルと一致する。
【0145】
図10.PKCα−/−心臓は、SERCA2又はカルセケストリンタンパク質レベルの変化なしに、ウエスタンブロッティングによる移動遅延をもたらすホスホランバン(PLB)の過剰リン酸化反応と、セリン−16における直接リン酸化反応の増加とを示した(パネルA、B)。PLBの五量体形態は、より強く移動の相違を表すことが示されている。興味深いことには、PLB過剰リン酸化反応の観察される特性は、また、PLBタンパク質レベルの低下にも関連していて、PLB/SERCA2タンパク質比が50〜70%減少しており、これが、SERCA2をより活性にすると予想される(パネルA)。PLBの収縮効果を変化させることで知られる部位である、セリン16におけるPLBリン酸化反応の直接測定値は、野生型(Wt)対照心臓と比較して、PKCα−/−マウス心臓で増大した(パネルC、D)。これらの結果は、PKCαタンパク質の喪失が、SERCA2a活性の阻害におけるPLBの効果の低下を通じて心収縮能を高める、潜在的メカニズムを示す。
【0146】
図11.急性感染成体ラット心筋細胞で、PKCαとPLBとの間の全般的な調節パラダイムも観察された。具体的には、アデノウイルス媒介性遺伝子移入によるドミナントネガティブPKCα発現は、セリン−16におけるPLBのリン酸化反応の増大に関連していた。まとめると、これらの結果は、PKCαシグナリングの変化がPLBリン酸化状態及びタンパク質レベルに影響を及ぼすことを示しており、PKCα除去又は過剰発現が収縮性に作用し得るメカニズムを示唆している。
【0147】
図12.野生型心臓とPKCα−/−心臓との間で、RNAドットブロッティング(パネルA)又は半定量的RT−PCR(パネルB)によるPLB又はSERCA2mRNAレベルの変化は検出されず、図10に示したPLBタンパク質の観察された下方制御が、転写後のメカニズムに起因することが示唆された。このPLBタンパク質レベルの低下は、その最終的な解離によってSR中で安定なSERCA2複合体を形成することによる、タンパク質安定性の低下に起因すると仮定される。
【0148】
図13.心臓に、より高いPKCα活性及びタンパク質をもつ、PKCαトランスジェニックマウスは、PKCα−/−マウスと比較して、対照的なPLB変化を示した。具体的には、心臓で、PLBリン酸化反応が減少したが、全タンパク質は、2.1倍増加した(P<0.05)(パネルA〜D)。観察されたPLBの脱リン酸化状態は、全タンパク質の増加と相まって、SERCA2活性を有意に阻害した。ゆえに、PKCαの過剰発現は、心収縮能を低減する。PLBの五量体形態は、タンパク質移動のシフトを証明することが示されている。
【0149】
図14.PLBリン酸化反応の変化は、SERCA2機能を直接変化させるはずであり、したがって、筋小胞体内のカルシウム負荷及びカルシウム・トランジェントの大きさに作用するはずである。PKCα−/−マウスから単離された成熟心筋細胞は、カルシウム・トランジェントの高まりを示し、筋小胞体内のカルシウム負荷の増大を示唆した(パネルA)。Fura−2を負荷されたPKCα−/−細胞は、カルシウムのピーク放出の52%増加、並びに、時定数τの20%減少に対応する17%速いカルシウム再取り込み(T80)を明示した(6匹の野生型マウスから細胞数n=36、及び4匹のPKCα−/−マウスから細胞数n=33)(パネルB)。これらのデータは、SERCA2a機能の向上及び筋小胞体内のカルシウム負荷の増大と一致し、ゆえに、心筋の高心拍出量状態を反映している。
【0150】
図15.これらの結果は、PKCα−/−心筋細胞で観察されるカルシウム・トランジェントの増大が、筋小胞体内のカルシウム負荷の増加に起因することを示唆している。Indo−1を負荷された心筋細胞における、カフェイン投与によって誘発されるピークカルシウム放出の直接測定で、野生型(Wt)対照と比較して、PKCα−/−マウスから著しく大きい筋小胞体カルシウム負荷が明示された(P<0.05)(パネルAは、代表的なカルシウムトレーシングを示し、パネルBは、カフェイン誘発性カルシウム放出ピークでの定量的データを示す)。
【0151】
図16.図14に示したカルシウム・トランジェントの観察された増加は、また、1つには、筋細胞膜内のL型カルシウム電流の増加に起因した可能性もある。ただし、平均ICa密度の直接測定値は、野生型心筋細胞とPKCα−/−心筋細胞との間で差がなかった。
【0152】
図17.β−アドレナリン受容体シグナリング又はプロテインキナーゼA活性の対応する変化なしに、PLBリン酸化反応で観察された変化は、PLBに作用するホスファターゼについての潜在的な役割を示唆した。この潜在的なエフェクター経路を調査するために、野生型心臓及びPKCα−/−心臓から(それぞれ心臓数N=4)、PP1及びPP2A特異的ホスファターゼアッセイを実施した。全タンパク質ホスファターゼ活性は、PKCα−/−心臓で約18%低下し、一方、PP1特異的活性は、30%よりも多く低下し、PP2A特異的活性には有意差がなかった。これらの結果は、PKCαの喪失が心臓内のPP1活性の低下に関連していることを示す。
【0153】
図18.PKCα−/−マウス心臓で示されたデータと相反して、PKCα過剰発現トランスジェニックマウスは、心臓におけるPP1活性の有意な増大を示したが、PP2A活性には変化がなかった。これらの結果は、心臓内のPKCα活性の増大がPP1活性の特異的増大に関連していることを示す。データは、相対的なホスファターゼ活性として表される。
【0154】
図19.図17及び18に示したデータと一致して、培養心筋細胞の急性アデノウイルス感染は、ドミナントネガティブPKCα変異体の発現とともにPP1活性の60%低下、及び野生型PKCα過剰発現とともにPP1活性の30%向上を示した(3回の実験から)。PP1活性の変化に一致するPKCαの急性変化は、PKCαが、以後の図で詳述するメカニズムを通じて、PP1活性を直接調節し得ることを示唆している。
【0155】
図20.PP1活性は、阻害タンパク質−1(I−1)のような部類の阻害タンパク質によって調節される。I−1は、PP1に直接結合して、PP1活性の阻害をもたらすが、I−1がPP1に結合する能力は、誘導型シグナルからのそのリン酸化状態に左右される。PKCαがI−1を直接リン酸化し、ゆえにPP1とのその関連を調節し得るという仮説を調べるために、32P−ATPの存在下でバクテリア生成I−1及び精製PKCを用いて、インビトロリン酸化反応実験を実施した。野生型I−1タンパク質は、インビトロで、PKCによる化学量論的レベルで時間依存式に直接リン酸化した。I−1内の推定PKCリン酸化反応部位の分析で、セリン−67におけるコンセンサスモチーフが明らかとなった。組み換えS67A変異体I−1タンパク質は、同量の野生型タンパク質と比較して、PKCによって約50%低いリン酸化反応を示した。
【0156】
図21.PP1活性がPKCαによって変化した潜在的メカニズムをさらに調べるために、PP1cプルダウンに曝されたアデノウイルス感染心筋細胞から、一連のI−1免疫沈降実験を実施し、続いてI−1ウエスタンブロッティングを実施した(入力レーンは免疫沈降させなかった)。データは、野生型PKCα過剰発現が、I−1がPP1cと相互作用するの能力を特異的に約50%低下させ、一方、ドミナントネガティブPKCα(dn)が複合体形成を70%よりも多く増加させたことを明示している。全PP1cレベルは、各免疫沈降反応で差がなかった。
【0157】
図22.I−1がPP1と相互作用して該PP1を阻害する能力は、また、I−1中のトレオニン−35のプロテインキナーゼA媒介性リン酸化反応によっても調節される。この部位におけるリン酸化反応は、PKCαによるセリン−67のリン酸化反応に随伴した効果に反して、I−1を、より強力なPP1の阻害物質にし、ゆえにその活性を低減させる。本発明者らは、各部位に対して生成されたホスホ特異的抗体を使用して、トレオニン−35又はセリン−67におけるI−1リン酸化反応に対する野生型又はドミナントネガティブPKCα発現の効果を調査した。アッセイの感度を高めるために、培養心筋細胞を、Adβgal、AdPKCα−wt、又はAdPKCα−dnとともに、AdI−1(Ad=アデノウイルス)に感染させた。PKCαモジュレーションに応答したトレオニン−35リン酸化反応の変化は、観察されなかった。しかし、AdPKCα−dn発現は、I−1セリン−67リン酸化反応を70%よりも多く有意に減少させ、一方、AdPKCα−wtは、リン酸化反応を60%よりも多く増大させた。
【0158】
図23.図20〜22で提示したデータを、内因性I−1リン酸化反応が心臓抽出物から分析されたPKCαトランスジェニックマウス及び遺伝子標的化マウスを使用して、インビボで拡張させた。セリン−67ホスホ特異的抗血清によるウエスタンブロッティングで、PKCα−/−心臓からリン酸化反応の有意な減少(50%超過)が明示され、一方、PKCαトランスジェニック心臓は、リン酸化反応を増加させた(2倍)(P<0.05)。
【0159】
図24.図20〜23に示したデータと一致して、拡張した不全ヒト心臓から得られたタンパク質抽出物によるウエスタンブロッティングも、また、正常なドナーヒト心臓と比較して、I−1セリン−67リン酸化反応の増加を示した(パネルB)。これらのデータは、また、同一のタンパク質抽出物からウエスタンブロッティングによって評価したときのPKCαタンパク質レベルの全体的な増加と一致する(P<0.05)(パネルA)。これらの結果は、不全心筋症ヒト心臓が、PKCαレベル及びI−1でのセリン67リン酸化反応の増加を示すことを示している。
【0160】
図25.培養下の成体ラット心筋細胞におけるPKCαタンパク質の共焦点免疫組織化学は、膜及びZ線へのPMA誘発性転位を示す。刺激されてない細胞では、PKCαは、細胞全体にわたって局在するが、PMAによる急性刺激は、筋小胞体内のz線での豊富なPLB及びSERCA2に一致する構造への急速な転位を引き起こす。これらのデータは、PKCαが、活性化されると、適切な細胞内局在に転位して、筋小胞体内のカルシウム処理に作用することを示す。
【0161】
図26.ここで、本発明者らは、PKCα遺伝子標的化マウスで観察される比較的穏やかな過剰収縮状態が心不全に有益であるかもしれないという仮説を検証した。PKCα−/−マウス及び野生型同腹仔対照を、長期的な大動脈バンド誘発性の心不全に曝した。8週齢の時点から12週にわたってマウスに胸腔内TACを実施し、その後、機能心臓標本によって心機能を評価した。野生型マウス由来の心臓は、シャム手術を行った同年齢の対照と比較して、最大dP/dtの50%減少及びLVPの35%低下を示したが、PKCαヌルマウスは、いずれのパラメータでも有意な低下を示さなかった(各集団で心臓数N=4)。これらの結果は、PKCα−/−マウスが、圧力過負荷誘発性の心臓代償不全及び収縮性の喪失に対する耐性をもつことを示す。
【0162】
図27.図26で記載した長期的な大動脈バンド誘発性の心不全後の収縮性効果をさらに調べるために、心エコーも実施した。8週齢の時点から12週にわたってPKCαヌルマウス及び野生型同腹仔対照に胸腔内TACを実施し、その後、心エコーによって心機能を評価した。12週のTACに曝された野生型マウス由来の心臓は、同一の刺激に曝されたPKCα−/−と比較して、左心室拡張末期(LVED)及び左心室収縮期末期(LVES)の心室腔寸法の顕著な増大を示した(パネルA)。また、心臓の左心室短縮率(FS)も、PKCα−/−マウスと比較して、野生型TACマウスではより顕著に低下し、心室性能の損失がはるかに少ないことを示した(パネルB)。これらの結果は、さらに、PKCα−/−マウスが、インビボで、圧力過負荷誘発性の心臓代償不全及び収縮性の喪失に対する耐性をもつことを示す。
【0163】
図28.筋肉リムタンパク質(MLP:muscle lim protein)遺伝子の除去に起因した拡張型心筋症のマウスモデルを、また、第2の心不全モデルとしても分析した。心エコーによって、2月齢のMLPヌルマウスは、野生型対照マウス又はPKCα−/−マウスと比較して、機能的能力の低下及びより大きい左心室腔拡張を示した(パネルA、B)。しかし、PKCαがヌルであるMLPヌルマウスは、より少ない心室拡張(LVED及びLVES)並びに短縮率の保持のような、心不全症状の有意な改善を示した(パネルA、B)。これらの結果は、PKCαの喪失が、インビボで心筋症及び心不全の別のマウスモデルにおいて心機能異常並びにリモデリングを防ぐことを示す。
【0164】
図29.単離されたエクスビボ機能心臓標本を使用して、MLP−/−マウスにおける収縮性も評価した。これらのデータは、最大dP/dt又は発生左心室圧(LVP)の変化によって測定したときに、PKCαについてもヌルである(ダブルヌル)マウスでは阻止された、MLP−/−マウスでの心収縮能の有意な低下を示した。これらの結果は、さらに、PKCαの喪失が、エクスビボで心筋症及び心不全のMLPマウスモデルにおいて心機能異常を防ぐことを示す。
【0165】
図30.MLP−/−バックグラウンド内でPKCαの欠損による心不全の予防及び心収縮能の低下は、心筋症の他の側面が軽減された可能性があることを示唆した。MLP−/−マウスと比較して、ダブルヌルマウス(PKCαも欠損)は、MLPヌル表現型の特徴を表す反応性肥大の喪失を示した。ゆえに、PKCα欠損による収縮性の向上は、心臓重量(HW)対体重(BW)比の増加に関連した拡張型心筋症の徴候を阻止した。
【0166】
図31.図30に示したデータと一致して、シングルMLP−/−マウスは、縦断面の拡張且つ拡大した心筋に関連した組織学的疾病を患っていたが、ダブルヌルマウス(PKCαも欠損)は、実質上病状を示さなかった。これらの結果は、PKCα欠損が組織病理学及び全体的な形態的変化に関連した拡張型心筋症の徴候を防ぐという主張をさらに裏付ける。
【0167】
図32.心臓で3倍多くのPP1触媒サブユニットを発現するトランスジェニックマウスは、3月齢までに機能的能力の低下及び心筋症を示すことが知られている。PKCαが心臓でPP1活性を直接的に調節し得ることを示唆する我々のデータを所与として(図18〜24)、本発明者らは、PKCαの喪失が、PP1の穏やかな過剰発現に随伴した活性の上昇を幾らか阻害することになると推測した。PP1トランスジェニックマウスと交雑したPKCαヌルマウスは、心臓でのPP1活性の有意な低下を明示した。PP1トランスジェニックマウス由来の心臓は、野生型マウス由来の心臓と比較して約2.5倍のPP1活性の上昇を示した。再び、PKCα−/−マウス由来の心臓は、心臓PP1活性の有意な低下を示した。PP2Aの変化は、観察されなかった。これらの結果は、PKCαの喪失が、心臓における過剰発現PP1の効果を低減することを示す。
【0168】
図33.3月齢までに、PP1トランスジェニックマウスは、心エコーによって評価される心室性能の有意な低下を示した。しかし、図32でPP1の活性を低減することが示された、PP1トランスジェニックバックグラウンド内でのPKCαの欠損は、心室性能の損失を効果的に防止した。これらの結果は、PKCαが、インビボでPP1トランスジェニックマウスにおいて観察された心筋症効果及び収縮性不足を防止できることを示す。
【0169】
図34.3月齢において、PP1トランスジェニックマウスは、また、エクスビボ機能心臓標本を用いて測定したときに、収縮性の低下も示した。しかし、PP1トランスジェニックバックグラウンド内でのPKCαの欠損は、同様に、最大dP/dt、最小dP/dt、及び発生左心室圧(LVP)の変化によって測定される、収縮性の喪失を防止した。これらの結果は、PKCαが、エクスビボでPP1トランスジェニックマウスにおいて観察された心筋症効果及び収縮性不足を逆転できるという結論をさらに裏付ける。
【0170】
図35.心不全及び心筋症による死亡に対するPKCα阻害の利益を実証するために、死を、また、エンドポイントとして定量化した。図26及び27で記載した12週のTAC実験を、また、対照野生型マウス並びにPKCα−/−マウスの両方で動物の死亡について監視した。データは、TACを実施したPKCα−/−マウスと比較して、12週クールのTACにわたってTACを実施した野生型マウスでは、有意に多くの死亡が観察されたことを示す。いずれの遺伝子型も、シャム対照マウスでは死亡が観察されなかった。これらの結果は、PKCαの喪失が、マウスにTAC誘発性心不全を起こさせず、最終的にはマウスを早死にさせないことを示す。加えて、MLP−/−マウスで死亡数も評価した。図35Bは、提示した他の群と比較して、MLP−/−マウスが高い死亡率を有することを示す。MLP−/−マウスにおける高い死亡率は、MLP及びPKCαの両方を欠いたマウス(ダブルヌル)では低下する。データは、MLP除去及び心不全の状況でのPKCα除去/阻害が、延命効果をもたらすことを示す。
【0171】
図36.心収縮能の調節因子としてのPKCαの潜在的役割をより入念に評価するために、本発明者らは、エクスビボ機能心臓標本における野生型又はPKCα−/−心臓へのPMAの急性投与を使用した。ホルボールエステルと呼ばれる、PKCを活性化する部類の化合物を使用して、心収縮能における急性のPKC依存的変化を引き出した。ここで、単離した心臓に、8×10-11〜8×10-7Mにわたる異なる9つの濃度でPMAを注入した(パネルA、B)。データは、急性PMA注入が、8×10-11〜8×10-9Mにわたる濃度では、最大dP/dt又は最小dP/dtのいずれに関しても野生型マウス心臓の収縮性能に実質的に影響を及ぼさないことを示す(パネルA、B)。しかし、8×10-9Mよりも高い濃度は、野生型マウス心臓における機能的性能の著しい低下を生み出して、PKC活性がこの標本で心収縮能を低減し得ることを示唆した(パネルA、B)。しかし、同濃度のPMAに曝されたPKCαヌル心臓は、低投与量のPMAに対しては急速な陽性変力作用を示し、最高濃度のPMAでは機能的性能の穏やかな低下しか示さなかった(図36A、B)。これらの結果は、PMA誘発性の心収縮能低下が、PKCαによって直接的に左右されることを示す。このようなデータは、PMAによっても活性化される他のPKCアイソザイムとは異なる、収縮性の即時的な負の調節としてのPKCαの重要な役割を裏付ける。
【0172】
図37.PKCαが、心収縮能を即時的に変化させる新規標的として役立つ、したがって心不全に作用する可能性があるので、ヒトの心臓由来の他の典型的なPKCアイソザイムに対するPKCαの相対存在量を調べることが興味深いことであった。PKCα、βI、βII、γ、及びεについて、ウエスタンブロッティングによるタンパク質含量対シグナル強度の標準曲線を作成できるように、組み換えヒトタンパク質標準(バクテリア内で生成)を民間業者から購入した。これらのタンパク質標準を、同一ゲル上で泳動し、6個の正常なヒト心臓から得られる全細胞タンパク質試料としてウエスタンブロッティングによる抗体検出に供した(パネルA、B)。データは、PKCαがヒト心臓で分析された他のPKCアイソザイムよりも著しく高いレベルで発現することを明示している(パネルA、B)。これらの結果は、PKCαがヒト心臓において顕著なPKCイソ型であることを示唆している。
【0173】
図38.エクスビボ機能心臓標本を使用して即時PKCα阻害が心機能及び収縮性に及ぼす影響を直接調べる手段として、比較的選択性のあるPKCα/β阻害化合物であるRo−32−0432[2−{8−[(ジメチルアミノ)メチル]−6,7,8,9−テトラヒドロピリド[1,2−a]インドール−3−イル}−3−(1−メチルインドール−3−イル)マレイミド、HCl塩]を使用した。野生型成体マウス心臓に、ビヒクル対照(10%DMSO)、或いはRo−32−0432を10%DMSOに溶かしたものを4×10-10〜4×10-6Mにわたる濃度で注入した。濃度の時間的変化(増加していく異なる濃度10個につき7分間)全体を通じた値すべてを統計的な目的で合計すると、平均投与量約1×10-8Mに相当した。ビヒクル対照及び実験群は、処置開始前には、それぞれ、毎分363+/−15及び295+/−26拍の心拍数を示した。ビヒクル及び薬物処置群の平均心拍数は、それぞれ、毎分351+/−3及び292+/−6拍であった。心拍数が低いにも関わらず、Ro−32−0432注入群は、最大dP/dtとして測定される即時的な収縮機能の20%の亢進、及び発生左心室圧の20%の増大を示した(P<0.05)(パネルA、B)。4匹の動物をRo−32−0432群で分析し、ビヒクル対照群の3匹の動物と比較した。Ro−32−0432処置群における即時的な収縮性能の約20%の変化は、本明細書で前述した、PKCαヌルマウスで観察された心機能の亢進に類似している。総合すると、これらの結果は、Ro−32−0432を使用したPKCαの即時阻害が、心機能及び収縮性を効果的に亢進させることを示す。
【0174】
図39.PKCアイソザイム転位は、しばしば活性化に関連しており、PKC阻害剤は、この転位イベントを妨害することができる。PKCα転位を入念に監視する手段、又は新生仔心筋細胞培養物における転位の阻害を入念に監視する手段として、PKCα−緑色蛍光タンパク質(GFP)融合発現アデノウイルスを作り出した。ビヒクル処置(DMSO)に応答して、PKCα−GFPは、処置していないものに比べて影響を受けず、穏やかな筋原繊維化(mild sarcomeric organization)とともに、細胞全体にわたってかなり拡散した局在性を示した。しかし、60分間のPMA刺激は、PKCα−GFPの活発な再分布を引き起こし、その結果、拡散した局在バックグラウンドは、全体的な蛍光の少ない、きわめて局在化した点状の染色パターンに置き換わった。そのような再分布の最終的な結果は、各細胞内の局在的蛍光特性の変化であり、大規模スクリーニングアッセイで容易に検出することができる。ゆえに、PKCα−GFPの細胞再分布に基づいて、適切なPKCα阻害化合物を迅速に同定することができる。
【0175】
図40A及び40B.インビボでPKCα阻害物質が収縮性を調節する能力を実証するために、PKC阻害物質LY333531、(S)−13[(モノメチルアミノ)メチル]−10,11,14,15−テトラヒドロ−4,9:16,21−ジメテノ(dimetheno)−1H、13H−ジベンゾ[E,K]ピロロ−[3,4−H][1,4,13]オキサジアザ−シクロヘキシジン−1,3(2H)−ジオン(バーキーJL(Burkey JL)ら(2002)生体異物(Xenobiotica.)32、1045〜1052)を、実験の項に記載したように、正常なラット(n=3)に投与した。LY333531を、pH5.0で、50mMアセテート緩衝液に溶かした20%スルホブチルエーテル−B−シクロデキストリンナトリウム塩(カプチゾール(Captisol))に溶解させた。化合物を図40A及び図40Bの各濃度で5分間にわたって注入した。1000nmol/kg/分の投与量では、LY333531は、最大dP/dt(図40A)及び最小dP/dt(図40B)の有意な増大を明示した。図40Aは最大dP/dtを示し、図40Bは最小dP/dtを示しており、横座標上に示した、化合物なし(ベースライン、B/L)と、それに続く0.1、0.3、1、3、10、30、100、300、及び1000nmol/kg/分のLY333531注入とが含まれる。次いで、薬物を5分間停止し(P/D)、ドブタミン(Dob)を5.0μg/kg/分で5分間にわたって投与した。図40Bでは、簡単のために、最小dP/dtの値を絶対値又は数値で表す。投与量1000nmol/kg/分では、ベースライン測定と比較して、最大dP/dtが28%増加し、最小dP/dtが17%増加した、これは、PKCαヌルマウスにおけるデータ並びに単離された動作心臓標本(work-performing heart preparations)でのRo−32−0432の投与におけるデータと一致する。図40A及び40Bでは、星印は、ダネットの多重比較(Dunnett's Multiple Comarisons)ポストホック試験を用いた一元配置分散分析(ANOVA)によって決定される、ベースライン値からの統計的有意差(P<0.05)を示す。1000nmol/kg/分における心収縮及び心弛緩のこの増加は、心拍数に及ぼす影響がない(ベースライン:毎分315±17拍 対 1000nmol/kg/分:毎分294±8拍、統計的に有意ではない)、又は左心室収縮期血圧に及ぼす影響がない(ベースライン:90±3mmHg 対 1000nmol/kg/分:毎分105±6拍、統計的に有意ではない)状態で起こった。これらのデータは、正常なラットにおけるPKCα阻害が、陽性の心臓変力作用(収縮)及び拡張機能(lusitropy)(弛緩)をもたらすことを示す。LY333531の活性な代謝産物であるLY338522も、PKCイソ型を阻害する際に有効であることが示されている(バーキーJL(Burkey JL)ら(2002)生体異物(Xenobiotica.)、32、1045〜1052)。
【0176】
図41.心筋梗塞モデルにおいてインビボでのPKCαの効果を実証するために、Ro−31−8220、3−[1−[3−(アミジノチオ)プロピル−1H−インドール−3−イル]−3−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)マレイミド、ビスインドリルマレイミドIX、メタンスルホネート、既知のPKC阻害物質(ハンZ(Han Z)ら(2000)細胞の死と分化(Cell Death Differ.)、7、521〜530)を、心筋梗塞を誘発するための手術に供されたラット(MIラット)(n=4)に注入した。Ro−31−8220を、pH5.0で、50mMアセテート緩衝液に溶かした20%スルホブチルエーテル−B−シクロデキストリンナトリウム塩(カプチゾール(Captisol))に溶解させた。実験の項に記載したように、Ro−31−8220をインビボで送達した。Ro−31−8220を注入した結果、最大dP/dtのパーセント増加が投与量依存的に向上し(21%)、投与量300nmol/kg/分において統計的有意性に達した(P<0.05)(図41、一元ANOVA及びダネットの多重比較ポストホック試験)。図41は、横座標上に示した、ベースライン(B/L)と、それに続く10、30、100、300、及び1000nmol/kg/分のRo−81−8220注入とによる、最大dP/dtのパーセント増加を示す。次いで、薬物を5分間停止し(P/D)、ドブタミン(Dob)を5.0μg/kg/分で5分間にわたって投与した。これらのデータは、PKCαの阻害が、心不全ラットモデルにおいて陽性変力作用をもたらすことを示す。Ro−31−8220を注入した場合に観察される変力作用的利益は、ADHFにおいて臨床的に投与された変力物質であるドブタミンの場合に見られた利益よりも大きかった。これらのデータは、ADHFで観察されるような、収縮若しくは弛緩における心筋機能異常に苦しむヒトへのPKCα阻害物質の送達が、これらの患者に機能的利益、すなわち、医療処置の望ましい成果をもたらすことを示唆している。
【0177】
特に記載する場合を除き、分量、パーセンテージ、部分、及び割合を含めたすべての量は、「約」という言葉によって加減されるものと理解され、量は、有効数字を示すことを意図したものではない。
【0178】
特に記載する場合を除き、冠詞「a」、「an」、及び「the」は、「1つ又はそれ以上」を意味する。
【0179】
引用したすべての文献は、関連部分において本明細書に参考として組み込まれるが、いかなる文献の引用も、それが本発明に対する従来技術であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0180】
本発明の特定の実施形態について説明し記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正が可能であることが当業者には自明である。したがって、当該範囲内にあるそのようなすべての変更及び修正を、冒頭の特許請求の範囲で扱うものとする。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】ネズミPKCα遺伝子切断トランスジェニックマウスの作製及び特性評価を示す。実験の詳細については、本明細書で別記する。パネルAは、ネズミPKCαゲノム遺伝子座、及び、ATP結合エクソン(E)をネオマイシン耐性遺伝子(neo)に置き換えるために使用される標的化ベクターの略図を描写する。SalI、EcoRV、及びClaI制限酵素部位のおおよその場所が示されている。また、トランスジェニックマウスを識別するためのゲノムプローブとして使用されるヌクレオチド配列のおおよその場所も示されている。配列番号:9及び10は、欠損エクソンのヌクレオチド及びアミノ酸配列を提供し、配列番号:11〜14は、PCR生成物を作り出すために使用されるプライマーである。パネルBは、胚幹細胞のサザンブロットアッセイの結果を描写する。レーン1は、野生型細胞由来のDNAを含有し、レーン2は、トランスジェニック細胞由来のDNAを含有する。パネルCは、野生型マウス、異型接合マウス(PKCα+/−)、及びPKCα−/−トランスジェニックマウスの心臓由来のタンパク質調製物中のPKCαのウエスタンブロット分析の結果を描写する。野生型マウス由来のタンパク質は、レーン1〜2に示され、PKCα+/−マウス由来のタンパク質は、レーン3〜4に示され、PKCα−/−マウス由来のタンパク質は、レーン5〜6に示されている。
【図2】野生型マウス及びPKCα−/−マウスの心臓由来のタンパク質調製物中のPKCα、PKCβ、PKCδ、及びPKCεのウエスタンブロット分析の結果を描写する。野生型マウス由来のタンパク質は、レーン1〜4に示され、PKCα−/−マウス由来のタンパク質は、レーン5〜8に示されている。レーン1、2、5、及び6のタンパク質は、シャム処置を受けた動物の心臓から得た。レーン3、4、7、及び8のタンパク質は、大動脈弓横行部狭窄(TAC)を受けた動物の心臓から得た。タンパク質は、可溶性画分(S)(レーン1、3、5、及び7)並びに顆粒画分(P)(レーン2、4、6、及び8)に分離してから、ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【図3】ベースラインでの、又は増加していくドブタミン(β−作動薬)注入量に応答した、麻酔をかけた閉胸マウスにおける最大dP/dtとしての心室性能の観血的血行動態評価から得られた結果を示す。最大dP/dtの増分は、mmHg/秒である。ドブタミン投与量は、ドブタミン(ng)/マウス(g)/分として示される。野生型マウスから得られた結果を丸で示す(N=6)。PKCα−/−マウスから得られた結果を三角で示す(N=6)。実験の詳細については、本明細書で別記する。
【図4】野生型マウス(Wt)及びPKCαホモ接合体欠損マウス(PKCα−/−)における心室性能の分析結果を示す。野生型マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示す。PKCα−/−マウスから得られた結果を、斜交平行模様のバーで示す。各パネルで、初めの2つのバーは、2月齢のマウスから得られたデータを示し、後の2つのバーは、10月齢のマウスから得られたデータを示す。(各群のマウス数N=4)。パネルAは、エクスビボ機能心臓から得られた最大dP/dtを示す。パネルBは、mmHgで測定したときの左心室圧(LVP)を示す。
【図5】野生型(NTG、丸)マウス、及びPKCαホモ接合体欠損(PKCαヌル、三角)マウスから得られた結果を示す。パネルAは、増加していくドブタミンに応答した心拍数(HR:heart rate)を毎分心拍数(bpm)で示す。パネルBは、増加していくドブタミンに応答した平均動脈圧(MAP:mean arterial pressure)をmmHgで示す。(また、プロプラノロール及び反復ドブタミン投与に応答した心拍数及び平均動脈圧も評価した。)実験の詳細については、本明細書で別記する。
【図6】PKCαトランスジェニックマウスの作製及び特性評価を示す。実験の詳細については、本明細書で別記する。パネルAは、ウサギPKCα遺伝子(配列番号:1)に作用可能に結合した、心臓組織に選択性のあるα−ミオシン重鎖(α−MHC)プロモーター(ジェンバンク(Genbank)U71441、配列番号:15)の略図を描写する。パネルBは、野生型マウス及びPKCαトランスジェニックマウスの心臓由来のタンパク質調製物中のPKCイソ型のウエスタンブロット分析の結果を描写する。注目のイソ型(PKCα、PKCβ、PKCδ、及びPKCε)をブロットの左側に示す。レーン1及び2は、野生型(NTG)マウス由来のタンパク質を含有し、レーン3及び4は、PKCαトランスジェニックマウス(PKCα TG)由来のタンパク質を含有する。PKCαトランスジェニックマウスは、また、PKCα過剰発現マウスとも呼ばれる。パネルCは、PKCα自己リン酸化反応部位への抗体によるウエスタンブロット分析の結果を描写する。タンパク質は、非トランスジェニックマウス(レーン1及び2)、PKCα−/−マウス(レーン3及び4)、並びにPKCα過剰発現トランスジェニックマウス(レーン5及び6)から得た。
【図7】心室性能評価の結果を示す。野生型マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、PKCαトランスジェニックマウスから得られた結果を黒塗りのバーで示す。パネルAは、心エコーによる短縮率パーセンテージの評価結果を示す。パネルBは、最大のdP/dt(最大dP/dt)として、単離された機能心臓による心室性能の分析から得られた結果を示す。
【図8】刺激していない雄のPKCαトランスジェニックマウスにおける心臓肥大症の心臓重量(HW)対体重(BW)比分析から得られた結果を描写する。各時点(2、4、6、及び8ヶ月)で4匹のマウスを評価した。
【図9】野生型成体ラット筋細胞に実施されたピーク短縮アッセイの結果を示す。細胞に、β−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス(Adβgal、白抜きのバー)、野生型PKCα(黒塗りのバー)、及びドミナントネガティブPKCα(dn−PKCα、縞模様のバー)を感染させた。分析した細胞数を各バーの下方に示す。
【図10】PKCα活性及びホスホランバンリン酸化状態の変化を伴う一連のアッセイからの結果を示す。実験の詳細については、本明細書で別記する。パネルAは、SERCA2、カルセケストリン(CSQ)、及びホスホランバン(PLB)に対する抗体でプローブした、2月齢における3つの野生型(Wt、レーン4〜6)及び3つのPKCα−/−(レーン7〜9)心臓由来のタンパク質のウエスタンブロットの結果を描写する。レーン1〜3(基準)には、指示した量のタンパク質を負荷した。また、SERCA2に対する全ホスホランバン(PLB)の相対定量も示す(パネルC)。野生型心臓からのデータを黒塗りのバーで示し、PKCα−/−心臓からのデータを白抜きのバーで示す。パネルBは、PLBセリン16ホスホ特異的抗体でプローブした、3つの野生型(Wt、レーン4〜6)及び3つのPKCα−/−(レーン7〜9)心臓由来のタンパク質のウエスタンブロットの定量的結果を描写する。レーン1〜3(基準)には、指示した量のタンパク質を負荷した。また、リン酸化PLB(phos−PLB)に対する全PLB(PLBtot)の相対定量も示す(パネルD)。野生型心臓からのデータを黒塗りのバーで示し、PKCα−/−心臓からのデータを白抜きのバーで示す。
【図11】指示した日数にわたる、β−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス(Adβgal)又はドミナントネガティブPKCαをコードするアデノウイルス(AdPKCα−dn)を感染させた野生型成体ラット心室筋細胞由来のタンパク質のウエスタンブロットの結果を描写する。ブロットは、PLBセリン16ホスホ特異的抗体でプローブした。
【図12】パネルAは、指示した年齢における、野生型(Wt)マウス及びPKCα−/−(ヌル)マウスのRNAドットブロット分析の結果を示す。ドットブロットは、ホスホランバン(PLB)、SERCA2、及びGAPDH特異的プローブでプローブした。パネルBは、2匹の野生型マウス及び2匹のPKCα−/−(ヌル)マウスのRT−PCR分析の結果を示す。実施したサイクル数が示されている。PLB、SERCA2a、及びリボソームタンパク質L7(L7)に特異的なプライマーを使用した。
【図13】PKCαレベル及びホスホランバンリン酸化状態の変化を伴う一連のアッセイからの結果を示す。パネルAは、SERCA2、カルセケストリン(CSQ)、及びホスホランバン(PLB)に対する抗体でプローブした、2月齢における3つの野生型(Wt)及び3つのPKCαトランスジェニック(PKCαTG)心臓由来のタンパク質のウエスタンブロットの結果を描写する。SERCA2aに対する全ホスホランバン(PLB)の相対定量化をパネルBに示す。野生型心臓からのデータを黒塗りのバーで示し、PKCαTG心臓からのデータを白抜き色のバーで示す。パネルCは、PLBセリン16ホスホ特異的抗体でプローブした、3つの野生型(Wt)及び3つのPKCαトランスジェニック(PKCαTG)心臓由来のタンパク質のウエスタンブロットの結果を描写する。初めの3つのレーン(標準)には、指示した量のタンパク質を装填した。また、リン酸化PLB(phos−PLB)に対する全PLB(PLBtot)の相対定量化もパネルDに示す。野生型心臓からのデータを黒塗りのバーで示し、PKCαTG心臓からのデータを白塗りのバーで示す。
【図14】PKCα−/−心筋細胞でのカルシウム・トランジェントを評価する一連のアッセイの結果を示す。実験の詳細については、本明細書で別記する。パネルAは、成熟野生型(WT)及びPKCα−/−(KO)心筋細胞(2月齢)からのカルシウム・トランジェントの代表的なFura−2(340/380)発光トレーシングを描写する。パネルBは、ピークカルシウム放出(左)、及び秒で測定した80%緩和時間(T80、右)を示す。野生型マウス由来の筋細胞から得られた結果を白抜きのバーで示す。PKCα−/−マウス由来の筋細胞から得られた結果を黒塗りのバーで示す。
【図15】パネルAは、カフェイン投与前後の野生型(Wt)及びPKCα−/−(KO)筋細胞からの代表的なIndo−1AM発光トレーシングを示す。カフェイン刺激点が示されている。パネルBは、筋細胞におけるカフェイン誘発Ca2+トランジェントの評価から得られた結果を示す。野生型筋細胞(Wt)を白抜きのバーで示し(n=19)、PKCα−/−(KO)筋細胞を黒塗りのバーで示す(n=37)。
【図16】−50mVから増分10mVで+40mVまでの脱分極電圧ステップで得られた、平均ピークカルシウム密度(ICa)のトレースを示す。野生型(NTG)細胞からの結果が左のトレースにあり、PKCα−/−(PKCα−KO)からの結果が右のトレースにある。
【図17】野生型マウス(Wt、黒塗りのバー)及びPKCα−/−マウス(PKCα−/−、白抜きのバー)に実施された、全ホスファターゼ、PP1特異的、及びPP2A特異的酵素アッセイの結果を描写する。
【図18】野生型(Wt、黒塗りのバー)又はPKCαトランスジェニック(過剰発現)心臓(α−TG、白抜きのバー)からの、PP1及びPP2A特異的酵素アッセイの結果を描写する。それぞれ3つの心臓からの別個のN=3アッセイである。
【図19】指示したアデノウイルス、すなわち:β−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルス(Adβgal、白抜きのバー)、PKCαを過剰発現するアデノウイルス(AdPKCαwt、黒塗りのバー)、及びPKCαドミナントネガティブアデノウイルス(AdPKCαdn、縞模様のバー)を急性感染させた新生仔心筋細胞からの、PP1及びPP2A特異的酵素アッセイの結果を示す。ホスファターゼ活性は、タンパク質1μg当たりの毎分カウント数(cpms)として提示される。
【図20】パネルAは、32P−ATPによるリン酸化反応に曝された大腸菌精製阻害物質−1野生型タンパク質、及び精製プロテインキナーゼCの、SDS−PAGEを示す。各レーンは、指示した時点(10、30、又は60分)からのアリコートを含有する。結果を、ゲルの下方のグラフにまとめる。グラフは、指示した時点におけるリン酸化された阻害物質−1タンパク質の量を描写する。パネルBは、32P−ATPによるリン酸化反応に曝された大腸菌精製I−1野生型(Wt)又はS67A変異体タンパク質、及び精製プロテインキナーゼCの、SDS−PAGEを示す。ゲルの下方のグラフは、リン酸化された阻害物質−1野生型又はS67Aタンパク質の相対量を示す。
【図21】パネルAは、阻害物質−1(I−1)に対する抗血清でインキュベートしたアデノウイルス感染新生仔心筋細胞培養物からの抽出物のウエスタンブロットを示す。抽出物は、β−ガラクトシダーゼ(βgal)、阻害物質−1(I−1)、PKCα野生型(PKCαwt)、PKCαドミナントネガティブ変異体(PKCαdn)、阻害物質−1及びβ−ガラクトシダーゼ(I−1 + β−gal)、阻害物質−1及びPKCα野生型(I−1 + PKCαwt)、並びに阻害物質−1及びPKCαドミナントネガティブ(I−1 + PKCαdn)を発現するアデノウイルスを感染させた培養物から調製した。抽出物をPP1cで免疫沈降させた。免疫沈降物を再懸濁させ、電気泳動に供し、膜に移動し、抗I−1抗血清でハイブリダイズした。PP1cタンパク質バンドを含有する膜ストリップを、PP1c抗血清でハイブリダイズした(I−1処理ウエスタンブロットの下方に示す)。ハイブリダイズしたタンパク質を定量化し、結果をパネルBにまとめた。パネルBは、各抽出物、すなわち:阻害物質−1及びβ−ガラクトシダーゼ(Ad−I−1 + Ad−β−gal、黒塗りのバー)、阻害物質−1及びPKCα野生型(Ad−I−1 + AdPKCαwt、白抜きのバー)、並びに阻害物質−1及びPKCαドミナントネガティブ(Ad−I−1 + AdPKCαdn、縞模様のバー)から沈降したI−1の相対量を描写する。
【図22】アデノウイルス感染新生仔心筋細胞培養物からの、トレオニン−35及びセリン−67に対するI−1ホスホ特異的抗体によるウエスタンブロットを示す。
【図23】野生型心臓、PKCα−/−心臓、及びPKCαトランスジェニック心臓からの、I−1ホスホ−セリン67についての独立したウエスタンブロットの定量化を示す。典型的なウエスタンブロットをグラフの下方に示す。
【図24】パネルAは、「正常な」ヒトドナー心臓(白抜きのバー、ドナー)又は不全の拡張した心筋症心臓(黒塗りのバー、HF)における全PKCαタンパク質レベルについてのウエスタンブロッティングの定量化を示す。パネルBは、「正常な」ドナー心臓(白抜きのバー、ドナー)及び不全心臓(黒塗りのバー、HF)におけるPKCαレベルとI−1セリン−67リン酸化反応との間のウエスタンブロット定量化を示す。
【図25】ベースライン(PKCα)での、又はPMA(PKCα、+PMA)後の、成体ラット心筋細胞におけるPKCαタンパク質の局在性の共焦点顕微鏡写真を示す。
【図26】TAC処置又はシャム手術の12週後の、野生型(Wt)マウス及びPKCα−/−マウスにおける心臓機能の評価の結果を描写する。野生型シャム手術マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、PKCα−/−シャム手術マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示し、野生型TACマウスから得られた結果を斜交平行模様のバーで示し、PKCα−/−TACマウスから得られた結果を縞模様のバーで示す。グラフの左側は、エクスビボ機能心臓標本の結果を示す(最大dP/dt、mmHg/秒で測定)。グラフの右側は、左心室圧(LVP)をmmHgで示す。
【図27】大動脈弓横行部狭窄(TAC)処置又はシャム手術の12週後の、野生型(Wt)マウス及びPKCα−/−マウスにおける心臓機能並びに肥大の評価の結果を描写する。野生型シャム手術マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、PKCα−/−シャム手術マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示し、野生型TACマウスから得られた結果を斜交平行模様のバーで示し、PKCα−/−TACマウスから得られた結果を縞模様のバーで示す。パネルAは、左心室拡張末期(LVED)及び左心室収縮末期(LVES)寸法をmmで示す。パネルBは、短縮率(FS)の心エコー分析の結果を示す。
【図28】野生型(Wt)マウス、MLP−/−マウス、及びMLP−/−PKCα−/−マウスにおける、心機能、肥大、並びに総体的な心臓モルホロジーの評価結果を描写する。野生型マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、PKCα−/−マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示し、MLP−/−マウスから得られた結果を交差斜線模様のバーで示し、PKCα−/−・MLP−/−マウスから得られた結果を縞模様のバーで示す。パネルAは、左心室拡張末期(LVED)及び左心室収縮末期(LVES)寸法をmmで示す。パネルBは、短縮率(FS)の心エコー分析の結果を示す。
【図29】野生型(Wt)マウス、MLP−/−マウス、及びMLP−/−PKCα−/−マウスにおける、心機能、肥大、並びに総体的な心臓モルホロジーの評価結果を描写する。野生型マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、MLP−/−マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示し、PKCα−/−・MLP−/−マウスから得られた結果を縞模様のバーで示す。グラフの左側は、エクスビボ機能心臓標本の結果を示す(最大dP/dt、mmHg/秒で測定)。グラフの右側は、左心室圧(LVP)をmmHgで示す。
【図30】心臓重量(HW)対体重(BW)比を示す(各群でN=4)。野生型マウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、PKCα−/−マウスから得られた結果を黒塗りのバーで示し、MLP−/−マウスから得られた結果を交差斜線模様のバーで示し、PKCα−/−・MLP−/−マウスから得られた結果を縞模様のバーで示す。
【図31】野生型(Wt)マウス、PKCα−/−マウス、MLP−/−マウス、及びMLP−/−・PKCα−/−マウスにおける、心臓の組織学的断面のヘマトキシリン・エオジン染色によって評価された、総体的な心臓モルホロジーを示す。
【図32】成体の野生型マウス(Wt、白抜きのバー)、PKCα−/−マウス(α−/−、斜交平行模様のバー)、PP1cトランスジェニックマウス(黒塗りのバー)、及びPKCα−/− × PP1cマウス(縞模様のバー)(各群でマウス数N=4)心臓由来のPP1及びPP2A特異的ホスファターゼアッセイの結果を示す。
【図33】指示したマウス群、すなわち:野生型マウス(Wt、白抜きのバー)、PP1cトランスジェニックマウス(PP1c、黒塗りのバー)、及びPKCα−/− × PP1cマウス(PP1−c α−/−、縞模様のバー)(それぞれN=4)からの、短縮率(FS)の心エコー評価を示す。
【図34】野生型(Wt、白抜きのバー)、PP1c(PP1c、黒色のバー)、及びPKCα−/− × PP1c(PP1c α−/−、縞模様のバー)における心室性能のエクスビボ機能心臓評価を示す。パネルAは、最大dP/dtを示す。パネルBは、最小dP/dtを示す。パネルCは、左心室圧(LVP)をmmHgで示す。
【図35】2つの心不全モデルにおける死亡数の分析を示す。パネルAは、TAC手術後の指示した時点での野生型(Wt、白抜きのバー)及びPKCα−/−(PKCα−/−、黒塗りのバー)のパーセント生存率を示す。パネルBは、指示した年齢での野生型マウス(Wt、白抜きのバー)、PKCα−/−マウス(PKCα−/−、黒塗りのバー)、MLP−/−マウス(MLP−/−、交差斜線模様のバー)、及びPKCα−/−/MLP−/−マウス(ダブル、縞模様のバー)のパーセント生存率を示す。
【図36】ホルボールミリステートアセテート(PMA:phorbol myristate acetate)を注入された単離心臓から得られた最大dP/dt(パネルA)及び最小dP/dt(パネルB)を示す。野生型心臓から得られた結果を白丸で示し、PKCα−/−心臓から得られた結果を黒丸で示す。各群で4つの心臓を分析した、エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。PMA投与量が示されている。
【図37】正常なヒトの心臓における、指示したPKCイソ型(PKCα、PKCβI、PKCβII、PKCγ、及びPKCε)のウエスタンブロット分析の結果を示す。Ca2+調節されたアイソザイムが括弧で囲まれている。パネルAでは、左の3つのレーンは、バクテリア内で生成された組み換えタンパク質標準を含有する(標準)。右の6つのレーンは、6つの正常ヒト心臓由来のタンパク質を含有する(ヒト心臓試料)。パネルBは、試料の全タンパク質含量に対する各アイソザイムの量の定量化を示す。各アイソザイムの量を、全溶解物50μg当たりのngで示す。注目のPKCイソ型を各バーの下方に示す。エラーバーは、平均値の標準誤差を表す。
【図38】エクスビボ機能心臓標本における急性心収縮能の評価から得られた結果を示す。対照群のマウスから得られた結果を白抜きのバーで示し、Ro−32−0432処理されたマウスから得られた結果を黒塗りのバーで示す。ベースラインの結果が示されている。Ro−32−0432又はビヒクル対照を注入して得られたデータを示す(注入)。濃度の時間的変化(増加していく異なる濃度10個につき7分間)全体を通じた値を統計的な目的で合計すると、平均投与量約1×10-8Mに相当した。Ro−32−0432−注入群だけが統計的に優位な増加を示した(p<0.05)。
【図39】DMSO(PKCα・GFP+ビヒクル)又はPMA(PKCα・GFP+PMA60分間)で処理された培養細胞中のPKCα指標ポリペプチド(PKCα・GFP)の共焦点顕微鏡写真を示す。
【図40A】正常なスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット及びルイス(Lewis)ラットにおける、インビボでの、最大dP/dt(図40A)によってそれぞれ表された、指示した投与量でのLY333531注入後の急性心臓変力作用的及び拡張的(lusitropic)機能の評価から得られた結果を示す。
【図40B】正常なスプラーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット及びルイス(Lewis)ラットにおける、インビボでの、最小dP/dt(図40B)によってそれぞれ表された、指示した投与量でのLY333531注入後の急性心臓変力作用的及び拡張的(lusitropic)機能の評価から得られた結果を示す。
【図41】心筋梗塞のラットモデルにおけるRo−31−8220注入後のベースライン(B/L)からの最大dP/dtのパーセント増加を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの細胞のゲノム内に少なくとも1つの安定に組み込まれた発現カセットを含むトランスジェニックマウスであって、前記発現カセットは、
(a)配列番号:1のヌクレオチド配列と、
(b)配列番号:1のヌクレオチド配列に対して少なくとも約90%の同一性を有するヌクレオチド配列と、
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の同一性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
(e)配列番号:1に記載のヌクレオチド配列の少なくとも約50の連続ヌクレオチドを含むヌクレオチド配列と、
(f)厳密な条件下で配列番号:1に記載のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列と、
(g)配列番号:7に記載のヌクレオチド配列と、
(h)(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、又は(g)のヌクレオチド配列のいずれか1つの相補体から成るヌクレオチド配列と、
から成る群から選択される注目のヌクレオチド配列に作用可能に結合した、心臓組織に選択性のある調節配列を含む、トランスジェニックマウス。
【請求項2】
心臓組織に選択性のある調節配列を含む発現カセットは、配列番号:1のヌクレオチド配列に作用可能に結合されている、請求項1に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項3】
心収縮能を調節する化合物を同定する方法であって、
(a)化合物をプロテインキナーゼC−αタンパク質と接触させる工程と、
(b)該化合物がプロテインキナーゼC−αに結合するかどうかを決定する工程と、
(c)プロテインキナーゼC−αに結合する化合物を心収縮能の調節剤として同定する工程とを含む方法。
【請求項4】
心筋症を調節する化合物を同定する方法であって、
(a)化合物をプロテインキナーゼC−αタンパク質と接触させる工程と、
(b)該化合物がプロテインキナーゼC−αに結合するかどうかを決定する工程と、
(c)プロテインキナーゼC−αに結合する化合物を心筋症の調節剤としての化合物として同定する工程とを含む方法。
【請求項5】
プロテインキナーゼC−αタンパク質は、細胞内で発現され、調節剤の効果は、化合物に接触していない細胞と比較したときのプロテインキナーゼC−α活性の変化として測定される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
(a)プロテインキナーゼC−αタンパク質の活性を調節する化合物を選択し、さらに、それらの化合物が心収縮能モデル系において心収縮能を調節するかどうかを決定する工程と、
(b)心収縮能モデル系において心収縮能を調節する試験化合物を、心収縮能を調節する候補化合物として同定する工程とをさらに含む、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項7】
(a)プロテインキナーゼC−αタンパク質の活性を調節する化合物を選択し、さらに、それらの化合物が心筋症モデル系において心筋症を調節するかどうかを決定する工程と、
(b)心筋症モデル系において心筋症を調節する試験化合物を、心筋症を調節する候補化合物として同定する工程とをさらに含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項8】
請求項5、6、又は7のいずれかに記載の方法におけるモデル系としての、請求項1若しくは2に記載のトランスジェニックマウス又はそれらの細胞若しくは組織の使用。
【請求項9】
少なくとも1つの細胞のゲノム内に少なくとも1つの切断プロテインキナーゼC−α遺伝子を含むトランスジェニックマウスであって、該切断は、プロテインキナーゼC−α発現レベルを低下させるのに十分である、トランスジェニックマウス。
【請求項10】
哺乳類において心収縮能によって調節される疾患を治療又は予防する薬剤を製造する際の、プロテインキナーゼC−α調節化合物の使用。
【請求項11】
哺乳類において心筋症を治療又は予防する薬剤を製造する際の、プロテインキナーゼC−α調節化合物の使用。
【請求項12】
急性心不全の治療又は予防を必要とする哺乳類において急性心不全を治療又は予防する薬剤を製造する際の、プロテインキナーゼC−α調節化合物の使用。
【請求項13】
請求項10、11、又は12のいずれかに記載のプロテインキナーゼC−α調節化合物の使用であって、該プロテインキナーゼC−α調節化合物は、Ro−32−0432、LY333531、及びRo−31−8220から成る群から選択されるプロテインキナーゼC−α阻害物質である、使用。
【請求項14】
心収縮能によって調節される疾患の治療又は予防を必要とする哺乳類において、該疾患を治療又は予防する方法であって、
(a)心収縮能によって調節される疾患の治療又は予防を必要とする動物を識別する工程と、
(b)プロテインキナーゼC−α調節化合物を前記哺乳類に投与する工程とを含む方法。
【請求項15】
心筋症の治療又は予防を必要とする哺乳類において心筋症を治療又は予防する方法であって、
(a)心筋症の治療又は予防を必要とする動物を識別する工程と、
(b)プロテインキナーゼC−α調節化合物を前記哺乳類に投与する工程とを含む方法。
【請求項16】
急性心不全の治療又は予防を必要とする哺乳類において急性心不全を治療又は予防する方法であって、
(a)急性心不全の治療又は予防を必要とする動物を識別する工程と、
(b)プロテインキナーゼC−α調節化合物を前記哺乳類に投与する工程とを含む方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40A】
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【図40B】
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【図41】
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【公表番号】特表2007−505628(P2007−505628A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527077(P2006−527077)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/030581
【国際公開番号】WO2005/027629
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【出願人】(302013874)ユニバーシティー オブ シンシナティ (2)
【Fターム(参考)】