説明

情報伝送装置

【課題】安全性が要求される鉄道保安システムにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送してシステムの稼働率は向上させる。
【解決手段】地上装置1の送信機5は、入力した送信データに誤り訂正符号を付加して送信語を生成して通信路8に送信する。車上装置3の受信機6は、通信路8から受信した受信語に対してシンドロームを計算し、計算したシンドロームを用いて受信語の誤り訂正処理を行う。また、計算したシンドロームを用いて誤り訂正の状況を評価し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より良好な場合に誤り訂正処理をした受信データの出力を許可し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より悪くなっているとき誤り訂正処理をした受信データの出力を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば列車の速度を制限速度に制御する列車制御装置などのように安全性が要求されるシステムにおける情報伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタル信号の情報を伝送する場合、通信路でノイズ等が原因になって伝送する情報に誤りが加わり受信側で正常な情報が得られない場合がある。この情報を通信路を介して伝送したときに、通信路中で生じた誤りを訂正するため誤り訂正符号が使用されている。例えば特許文献1や特許文献2に示すように、送信器に誤り訂正符号器を設け、送信すべき情報を符号化して送信語を生成して通信路に送信する。受信機の誤り訂正復号器はパリティ検査行列を基に受信語のシンドロームを生成し、生成されたシンドロームを基に受信語の誤りを訂正している。
【0003】
しかしながら、安全性が要求される列車制御装置などでレールを通信路として地上と列車間で情報を伝送する場合、誤り訂正符号の導入には慎重な立場がとられていた。これは地上と列車間の情報伝送は劣悪な通信路を使用しているため、誤り訂正を行った結果、危険側の制御を行うのではないかという懸念を払拭できないためである。このため現在では誤り検出を行い再送要求する方法や、同じ電文を例えば3連送して多数決を取る方法が用いられている。また、特許文献3に示すように、地上の多重系計算機で全系の処理計算結果と共に全系の健全性判定結果を車上装置に送信し、車上装置は全系の健全性判定結果を多数決処理して処理計算結果の使用可否を判定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この列車制御装置などで劣悪な通信路により情報を伝送する場合にも誤り訂正符号が導入できるとシステムの稼働率は向上することができる。
【0005】
そこで、この発明は、安全性が要求される列車制御装置など鉄道保安システムにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送することができる情報伝送装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の情報伝送装置は、送信機と通信路及び受信機とを有し、鉄道保安システムの情報伝送装置において、送信機は入力した送信データに誤り訂正符号を付加して送信語を生成して通信路に送信する誤り訂正符号器を有し、受信機は、シンドローム計算部と誤り訂正処理部と誤り状態評価部及び出力データ制御部を有し、シンドローム計算部は、通信路から受信した受信語に対してシンドロームを計算して誤り訂正処理部と誤り状態評価部に出力し、誤り訂正処理部は、入力したシンドロームを用いて受信語の誤り訂正処理を行い出力データ制御部に出力し、誤り状態評価部は、入力したシンドロームを用いて誤り訂正の状況を評価し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より良好な場合に、出力データ制御部に出力許可信号を出力し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より悪くなっているとき出力データ制御部に出力禁止信号を出力し、出力データ制御部は、誤り状態評価部から出力許可信号が入力しているときだけ誤り訂正をした受信語を出力データとして出力することを特徴とする。
【0007】
この発明の他の情報伝送装置は、送信機と通信路及び受信機とを有し、鉄道保安システムの情報伝送装置において、送信機は入力した送信データを基に誤り訂正符号を付加して送信語を生成して通信路に送信する誤り訂正符号器を有し、受信機は、誤り訂正復号器と誤り訂正状態抽出部と誤り状態評価部及び出力データ制御部を有し、誤り訂正復号器は、通信路から受信した受信語を復号して誤り訂正状態抽出部と出力データ制御部に出力し、誤り訂正状態抽出部は、通信路から受信した受信語と誤り訂正復号器から入力した誤り訂正の受信語を比較して訂正ビット数を抽出して誤り状態評価部に出力し、誤り状態評価部は、誤り訂正状態抽出部から入力した訂正ビット数とあらかじめ設定されている基準値とを比較し、訂正ビット数が基準値以下である場合は出力データ制御部に出力許可信号を出力し、訂正ビット数が基準値を超えている場合は出力データ制御部に出力禁止信号を出力し、出力データ制御部は、誤り状態評価部から出力許可信号が入力しているときだけ誤り訂正をした受信語を出力データとして出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、送信データに誤り訂正符号を付加して生成された送信語を受信してシンドローム等による誤り訂正処理を行ったとき、誤り訂正の状態を評価して安全な通信が行える状態かどうかを判定して送信された情報の出力を制御することにより、安全性が要求される鉄道保安システムなどにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送することができ、システムの稼働率は向上することができる。
【0009】
また、レールを利用した劣悪な通信路により情報を伝送する場合にも信頼度の高い情報伝送を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】列車制御装置の情報伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図3】列車制御装置の他の情報伝送装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、列車制御装置は、地上装置1と列車2に搭載された車上装置3を有する。地上装置1は制御情報生成部4と送信機5を有する。車上装置3は受信機6と車上制御装置7を有する。地上装置1の制御情報生成部4は列車2の速度を制限速度に制御するデジタル信号の送信データを生成し、生成した送信データを送信機5に出力する。送信機5は入力した送信データを処理して列車制御情報をレール8に送信する。車上装置3の受信機6は受信コイル9を介してレール8に送信されている列車制御情報を受信して処理し車上制御装置7に出力する。車上制御装置7は入力した列車制御情報に基づいて列車2の速度を制御する。
【0012】
この列車制御装置で地上から列車2に列車制御情報を送信する情報伝送装置を構成する地上装置1の送信機5とレールからなる通信路8と車上装置3の受信機6の構成を図2のブロック図に示す。
【0013】
送信機5は誤り訂正符号器10を有する。誤り訂正符号器10は入力した送信データに誤り訂正符号を付加して送信語を生成し、生成した送信語をレールからなる通信路8に送信する。
【0014】
受信機6はシンドローム計算部11と誤り訂正処理部12と誤り状態評価部13及び出力データ制御部14を有する。シンドローム計算部11は通信路8から受信した受信語に対してパリティ検査行列からシンドロームを計算して誤り訂正処理部12と誤り状態評価部13に出力する。誤り訂正処理部12は入力したシンドロームを用いて受信語の誤り訂正処理を行い出力データ制御部14に出力する。誤り状態評価部13は入力したシンドロームを用いて誤り訂正の状況を評価する。すなわち、シンドロームには誤り位置と誤りの大きさが含まれているので、誤り状態評価部13はシンドロームから誤りの位置や個数を抜き出して誤りの位置や誤りの頻度などの誤り訂正状態を評価し、誤りの位置が固定していなく、誤りの頻度があらかじめ設定された基準値以下であるかどうかを判定し、誤りの位置が固定していなく、誤りの頻度が基準値以下である場合は安全とみなして出力データ制御部14に出力許可信号を出力する。また、誤り状態評価部13で誤り訂正状態を評価した結果、誤りの位置や頻度が基準値を越えている場合は危険側になるとみなして出力データ制御部14に出力禁止信号を出力する。この誤り状態評価部13で評価する指標は、訂正ビット数と誤り間隔、誤り発生位置等を用いることができる。また、誤り状態評価部13で評価する基準値は理論的に導き出しても良いし、いくつかの実験により決定しても良い。さらに、誤り状態評価部13の評価には、緩やかな判定が許される場合には移動平均などのフィルタ処理やニューラルネットワーク若しくは遺伝的アルゴリズムを活用しても良い。
【0015】
出力データ制御部14は誤り状態評価部13から出力許可信号を入力すると誤り訂正処理部12から入力した誤り訂正後の受信語を出力データとして車上制御装置7に出力する。また、出力データ制御部14は誤り状態評価部13から出力禁止信号を入力すると誤り訂正処理部12から入力した誤り訂正後の受信語を出力データとして車上制御装置7に出力しないで無信号とする。車上制御装置7は出力データ制御部14から入力している送信データが無信号になると列車2の速度を安全側に制御する。
【0016】
このようにシンドロームによる誤り訂正の状態を評価して安全な通信が行える状態かどうかを判定して送信された出力データの出力を制御することにより安全性を確保することができる。
【0017】
次に送信データを畳込み符号で符号化してビタビ復号法で復号してシンドロームを使うことができない場合について、図3のブロック図を参照して説明する。送信機5の誤り訂正符号器10は送信データ畳込み符号で符号化して送信語を生成し、生成した送信語をレールからなる通信路8に送信する。
【0018】
車上装置の受信機6aは誤り訂正復号器15と誤り訂正状態抽出部16と誤り状態評価部13a及び出力データ制御部14を有する。誤り訂正復号器15は通信路8から受信した受信語をビタビ復号法により復号して誤り訂正状態抽出部16と出力データ制御部14に出力する。誤り訂正状態抽出部16は通信路8から受信した受信語と誤り訂正復号器15から入力した誤り訂正の受信語を比較して訂正ビット数等を抽出して誤り状態評価部13に出力する。誤り状態評価部13aは誤り訂正状態抽出部16から入力した訂正ビット数等とあらかじめ設定されている基準値とを比較し、訂正ビット数等が基準値以下である場合は安全とみなして出力データ制御部14に出力許可信号を出力し、訂正ビット数等が基準値を越えている場合は危険側になるとみなして出力データ制御部14に出力禁止信号を出力する。
【0019】
このように訂正ビット数を抽出することによりシンドロームの代わりに誤り訂正の状態を評価でき、ブラックボックス化された処理ルーチンを使用する場合や実績のある処理ルーチンの使用による評価検証のコスト削減に有効である。
【符号の説明】
【0020】
1;地上装置、2;列車、3;車上装置、4;制御情報生成部、5;送信機、
6;受信機、7;車上制御装置、8;レール(通信路)、9;受信コイル、
10;誤り訂正符号器、11;シンドローム計算部、12;誤り訂正処理部、
13;誤り状態評価部、14;出力データ制御部、15;誤り訂正復号器、
16;誤り訂正状態抽出部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2002−261653号公報
【特許文献2】特開2006−244259号公報
【特許文献3】特開2008−254556号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機と通信路及び受信機とを有し、鉄道保安システムの情報伝送装置において、
前記送信機は、入力した送信データに誤り訂正符号を付加して送信語を生成して前記通信路に送信する誤り訂正符号器を有し、
前記受信機は、シンドローム計算部と誤り訂正処理部と誤り状態評価部及び出力データ制御部を有し、
前記シンドローム計算部は、前記通信路から受信した受信語に対してシンドロームを計算して前記誤り訂正処理部と前記誤り状態評価部に出力し、
前記誤り訂正処理部は、入力したシンドロームを用いて受信語の誤り訂正処理を行い前記出力データ制御部に出力し、
前記誤り状態評価部は、入力したシンドロームを用いて誤り訂正の状況を評価し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より良好な場合に、前記出力データ制御部に出力許可信号を出力し、誤り訂正の状況があらかじめ設定された基準状態より悪くなっているとき前記出力データ制御部に出力禁止信号を出力し、
前記出力データ制御部は、前記誤り状態評価部から出力許可信号が入力しているときだけ誤り訂正をした受信語を出力データとして出力することを特徴とする情報伝送装置。
【請求項2】
送信機と通信路及び受信機とを有し、鉄道保安システムの情報伝送装置において、
前記送信機は、入力した送信データを基に誤り訂正符号を付加して送信語を生成して前記通信路に送信する誤り訂正符号器を有し、
前記受信機は、誤り訂正復号器と誤り訂正状態抽出部と誤り状態評価部及び出力データ制御部を有し、
前記誤り訂正復号器は、前記通信路から受信した受信語を復号して前記誤り訂正状態抽出部と前記出力データ制御部に出力し、
前記誤り訂正状態抽出部は、前記通信路から受信した受信語と前記誤り訂正復号器から入力した誤り訂正の受信語を比較して訂正ビット数を抽出して前記誤り状態評価部に出力し、
前記誤り状態評価部は、前記誤り訂正状態抽出部から入力した訂正ビット数とあらかじめ設定されている基準値とを比較し、訂正ビット数が基準値以下である場合は前記出力データ制御部に出力許可信号を出力し、訂正ビット数が基準値を超えている場合は前記出力データ制御部に出力禁止信号を出力し、
前記出力データ制御部は、前記誤り状態評価部から出力許可信号が入力しているときだけ誤り訂正をした受信語を出力データとして出力することを特徴とする情報伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−20537(P2011−20537A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166522(P2009−166522)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】