説明

情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】両面研磨装置を用いたガラス基板の磁気薄膜層形成予定面のみに研磨を行なった場合であっても、磁気薄膜層形成予定面に微小な凹凸の発生を抑制することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF1、前記予定面14と第1研磨部材203との間の水平方向に生じる摩擦力をF2とし、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF3、この予定面14と第2研磨部材204との間の水平方向に生じる摩擦力をF4とした場合、F1/F2およびF3/F4の値が、0.8以上1.75以下となる条件の下で、磁気薄膜層形成予定面14の研磨を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のハードディスクドライブの高性能化、特に、記録密度の向上により、ガラス基板の両面を用いなくても片面で十分な記憶容量が用意できるようになってきた。情報記録媒体用ガラス基板(メディア基板)の片面のみに磁気薄膜層を形成する場合であれば、ガラス基板の品質も主に片面のみが要求されるため、ガラス基板の製造工程を省きコストを削減することができる。
【0003】
片面利用の場合に、磁気薄膜層が形成されない面は、表面粗さ等の面精度を必要としない。その結果、磁気薄膜層が形成されない面には、鏡面研磨工程を省略することができる。特開2010−257561号公報(特許文献1)には、両面研磨装置を用いたガラス基板の製造工程が開示されている。
【0004】
2つのキャリアの間に板状体を配設することにより、磁気薄膜層が形成される面のみの研磨ができ、多数のガラス基板を同時に研磨できることから、情報記録媒体用ガラス基板の製造コストの削減を図っている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示される製造方法では、ガラス基板の表面に微小な凹凸(うねり)が発生することが知見された。原因を究明した結果、研磨中に板状体とガラス基板とが摺動することによりガラス基板が回転する。ガラス基板が回転すると、ガラス基板に微細な震動が発生し、これが微小な凹凸の発生原因になっていることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−257561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、両面研磨装置を用いたガラス基板の磁気薄膜層形成予定面のみへ研磨において、磁気薄膜層形成予定面に微小な凹凸が発生する点にある。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、本発明の磁気記録媒体用ガラス基板の製造方法は、両面研磨装置を用いたガラス基板の磁気薄膜層形成予定面のみに研磨を行なった場合であっても、磁気薄膜層形成予定面に微小な凹凸の発生を抑制することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法においては、両面研磨装置を用い、研磨剤を供給しながら複数枚のガラス基板のそれぞれの磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう工程を有する、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、以下の工程を備える。
【0010】
上記両面研磨装置は、第1研磨部材を有する下定盤と、上記第1研磨部材に対向配置され、第2研磨部材を有する上定盤と、上記下定盤と上記上定盤との間に挟み込まれ、複数枚の上記ガラス基板のぞれぞれの上記磁気薄膜層形成予定面を上記第1研磨部材側に向けて保持し、上記下定盤側に配置される第1キャリアと、上記下定盤と上記上定盤との間に挟み込まれ、複数枚の上記ガラス基板のぞれぞれの上記磁気薄膜層形成予定面を上記第2研磨部材側に向けて保持し、上記上定盤側に配置される第2キャリアと、上記第1キャリアと上記第2キャリアとの間に配置される補助プレートとを備える。
【0011】
上記両面研磨装置を用いて、複数枚の上記ガラス基板のそれぞれの上記磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう工程は、上記第1キャリアに保持される上記ガラス基板の上記磁気薄膜層形成予定面とは反対側の面と上記補助プレートの表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF1とし、上記第1キャリアに保持される上記ガラス基板の上記磁気薄膜層形成予定面と上記第1研磨部材との間の水平方向に生じる摩擦力をF2とした場合の摩擦力の比をF1/F2とする。
【0012】
上記第2キャリアに保持される上記ガラス基板の上記磁気薄膜層形成予定面とは反対側の面と上記補助プレートの表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF3とし、上記第2キャリアに保持される上記ガラス基板の上記磁気薄膜層形成予定面と上記第2研磨部材との間の水平方向に生じる摩擦力をF4とした場合の摩擦力の比をF3/F4とする。
【0013】
F1/F2の値およびF3/F4の値が、0.8以上1.75以下の条件の下で、上記ガラス基板の上記磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう。
【0014】
他の形態では、上記補助プレートは、両表面にそれぞれ補助膜を有し、上記補助膜のAsker−C硬度は、対向する上記第1研磨部材または上記第2研磨部材の硬度よりも、0以上6以下の範囲の硬度である。
【0015】
他の形態では、上記第1キャリア、上記第2キャリア、および、上記補助プレートには、それぞれ上記研磨剤を通過させる貫通孔を有する。
【発明の効果】
【0016】
この発明に基づいた情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によれば、両面研磨装置を用いたガラス基板の磁気薄膜層形成予定面のみに研磨を行なった場合であっても、磁気薄膜層形成予定面に微小な凹凸の発生を抑制することが可能な、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における情報記録媒体用ガラス基板の斜視図である。
【図2】実施の形態における情報記録媒体の斜視図である。
【図3】実施の形態における情報記録媒体の製造方法を示すフロー図である。
【図4】両面研磨装置の概略構成を示す模式図である。
【図5】両面研磨装置の下定盤側を見た平面図である。
【図6】特許文献1に開示される両面研磨装置の縦断面図である。
【図7】実施例に用いる両面研磨装置の縦断面図である。
【図8】実施例1から実施例3、および比較例1、2における、補助プレート側摩擦力(F1,F3)、研磨部材側摩擦力(F2,F4)、摩擦力の比、補助プレート側硬度、研磨部材側硬度、微小うねりの値、平坦度の値、および浮上テスト結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に基づいた実施の形態および実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態および実施例の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態および実施例の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0019】
(情報記録媒体1の構成)
図1および図2を参照して、情報記録媒体用ガラス基板1Gおよび情報記録媒体1の構成について説明する。図1は、情報記録媒体用ガラス基板1Gの斜視図、図2は、情報記録媒体の斜視図である。
【0020】
図1に示すように、情報記録媒体1に用いられる情報記録媒体用ガラス基板1G(以下、「ガラス基板1G」と称する。)は、中心に孔11が形成された環状の円板形状を呈している。ガラス基板1Gは、外周端面12、内周端面13、表主表面14、および裏主表面15を有している。ガラス基板1Gとしては、アモルファスガラス等を用い、外径約65mm、内径約20mm、厚さ約0.8mm、表面粗さは、約2.0Å以下である。
【0021】
図2に示すように、情報記録媒体1は、上記したガラス基板1Gの表主表面14上に磁気薄膜層23が形成されている。本実施の形態では、表主表面14上にのみ磁気薄膜層23を形成し、裏主表面15上に磁気薄膜層23を設けることは予定していない。
【0022】
磁気薄膜層23の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法、スパッタリングにより形成する方法、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。
【0023】
スピンコート法での膜厚は約0.3〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成がよい。
【0024】
磁気薄膜層23に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNi、Crを加えたCo系合金などが好適である。近年では、熱アシスト記録用に好適な磁性層材料として、FePt系の材料が用いられるようになってきている。
【0025】
磁気ヘッドの滑りをよくするために磁気薄膜層23の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0026】
必要により下地層、保護層を設けてもよい。情報記録媒体1における下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0027】
下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0028】
磁気薄膜層23の摩耗、腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成としてもよい。
【0029】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO)層を形成してもよい。
【0030】
(ガラス基板1Gの製造工程)
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る情報記録媒体1の製造方法を説明する。図3は、情報記録媒体1の製造方法を示すフロー図である。
【0031】
まず、ステップ10(以下、「S10」と略す。ステップ20以降も同様。)の「ガラス溶融工程」において、基板を構成するガラス素材を溶融する。次に、S20の「プレス成形工程」において、溶融ガラスを下型上に流し込み、上型によってプレス成形する。以上により、環状の円板形状を有するガラス基板1Gが準備される。
【0032】
ガラス素材としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、およびボロシリケートガラスなどを用いることができる。
【0033】
続いて、「研削工程」において、プレス成形されたガラス基板の板厚の調整を行い、更に、S30の「粗研磨工程」において、ガラス基板の表面が研磨加工され、ガラス基板の平坦度などが予備調整される。次にS40の「化学強化工程」において、ガラス基板1Gの2つの主表面に対して表面強化層が形成される。
【0034】
「化学強化工程」の具体的としては、化学強化液として、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)との混合溶液などを用いる。化学強化液を300℃以上に加熱し、ガラス基板1Gを予熱し、化学強化溶の液中に約3時間〜約4時間浸漬する。
【0035】
化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板1Gの表層のリチウムイオンおよびナトリウムイオンが、化学強化溶液中の相対的にイオン半径の大きなナトリウムイオンおよびカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板1Gの表面が強化される。
【0036】
「化学強化工程(S40)」により、ガラス基板1Gの2つの主表面には、それぞれ厚さが、約30μm程度の表面強化層が形成される。なお、ガラス基板1Gの主表面の平坦性および強度において優れた特性を得るには、ガラス基板1Gにはアルミノシリケートガラスを用いることが好ましい。
【0037】
S50の「精密研磨工程」において、ガラス基板1Gに研磨加工が施される。その後、S60の「洗浄工程」において、ガラス基板1Gは洗浄される。以上の工程により、情報記録媒体1に適用可能なガラス基板1Gが得られる。
【0038】
S70の「成膜工程」において、磁気薄膜層23が、ガラス基板1Gの主表面14のみに形成される。最後に、S80の「後熱処理工程」において、結晶磁界異方性向上のための加熱処理を施す。加熱温度は、約600℃である。以上により、情報記録媒体1が完成する。
【0039】
(実施例)
次に、図4から図7を参照して、本実施の形態における「精密研磨工程(S50)」の実施例について説明する。図4は、両面研磨装置の概略構成を示す模式図、図5は、両研磨装置の下定盤側を見た平面図、図6は、背景技術における両面研磨装置の縦断面図、図7は、実施例に用いる両面研磨装置の縦断面図である。
【0040】
この「精密研磨工程(S50)」においては、以下に示す両面研磨装置200を用いて、研磨剤を供給しながら複数枚のガラス基板1Gのそれぞれの磁気薄膜層形成予定面(14)のみの研磨を行なう。
【0041】
図4および図5を参照して、両面研磨装置200は、円板状の下定盤201と、この下定盤201に対向配置される上定盤202とを備える。下定盤201と上定盤202とは図示しない回転駆動装置により、相互に反対方向に回転する。
【0042】
下定盤201と上定盤202との間には、ガラス基板1Gを保持する貫通孔からなる保持孔205hが複数設けられたキャリア205が挟み込まれる。キャリア205は複数設けらる。キャリア205の外周面には、歯部が形成されいる。両面研磨装置200の中心に設けられる太陽歯車(図示省略)と外周に設けられる内歯車(図示省略)とに、キャリア205の外周面に設けられた歯部が噛み合い、キャリア205は自転しながら公転する。
【0043】
図6は、特許文献1に開示された両面研磨装置300の縦断面図である。下定盤201には、第1研磨部材203が固定され、上定盤202には、第2研磨部材204が固定されている。
【0044】
下定盤201と上定盤202との間には、第1キャリア205aと第2キャリア205bとが挟みこまれ、さらに、第1キャリア205aと第2キャリア205bとの間には、補助プレート206が挟み込まれている。
【0045】
第1キャリア205aには、複数枚のガラス基板1Gのぞれぞれの磁気薄膜層形成予定面14が第1研磨部材203側に向けて保持されている。ガラス基板1Gの磁気薄膜層が形成されない主表面15は、補助プレート206に直接当接している。
【0046】
第2キャリア205bには、複数枚のガラス基板1Gのぞれぞれの磁気薄膜層形成予定面14が第2研磨部材204側に向けて保持されている。ガラス基板1Gの磁気薄膜層が形成されない主表面15は、補助プレート206に直接当接している。
【0047】
この構成からなる特許文献1に開示された両面研磨装置を用いて、複数枚のガラス基板1Gのぞれぞれの磁気薄膜層形成予定面14の研磨を行なった場合には、補助プレート206に直接当接している、ガラス基板1Gの磁気薄膜層が形成されない主表面15が補助プレート206に対して摺動し、ガラス基板1Gがキャリア保持孔205h内で回転する。ガラス基板1Gが回転すると、ガラス基板1Gに微細な震動が発生し、これが磁気薄膜層形成予定面14への微小な凹凸の発生原因にとる。
【0048】
図7に本実施例における両面研磨装置200を示す。図6に示した、両面研磨装置300においては、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF1、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第1研磨部材203との間の水平方向に生じる摩擦力をF2とし、その比をF1/F2とする。
【0049】
また、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF3とし、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第2研磨部材204との間の水平方向に生じる摩擦力をF4とし、その比をF3/F4とし、F1/F2およびF3/F4の関係に着目し、下記の実施例1、実施例2、および比較例に示す条件の下で、磁気薄膜層形成予定面14への微小な凹凸の発生について検討した。
【0050】
摩擦力の評価については、摩擦力を測定すべき部材上に外径65mm、内径20mm、板厚0.8mm、表面粗さ2.0Å未満の基板を乗せ、荷重を3kgかけた状態で、ばねばかりを用いて水平方向に10cm移動させ、ばねばかりの最大値を計測した。
【0051】
実施例1として、補助プレート206の両表面に補助膜206aを貼り付けた。補助膜206aには、第1研磨部材203および第2研磨部材204と同等の摩擦力を有する膜を用いた。なお、第1研磨部材203および第2研磨部材204には、および補助膜206aには、FILWEL社製スウェードパッドNP225(Asker−C硬度76)を用いた。第1研磨部材203、第2研磨部材204および、補助膜206aの摩擦力は、約0.8kgfであった。
【0052】
なお、第1キャリア205a、第2キャリア205b、および補助プレート206には、それぞれ研磨剤を通過させる貫通孔h1,h2を有することが好ましい。貫通孔h1,h2を設けることで、潤滑剤がガラス基板1Gに行き渡り、研磨中の研磨レートを安定させることができる。
【0053】
実施例2として、補助プレート206の両表面に、第1研磨部材203および第2研磨部材204よりも摩擦力の大きい補助膜206aを貼り付けた。補助膜206aには、Asker−C硬度が88のスウェードパッドを用いた。補助膜206aの摩擦力は、約1.4kgfであった。
【0054】
実施例3として、補助プレート206の両表面に補助膜206aを貼り付けた。第1研磨部材203および第2研磨部材204には、スウェードパッドNP225を用いた。補助膜はAsker−C硬度が82であるスウェードパッドを用いた。
【0055】
比較例1として、補助プレート206の両表面には何も貼り付けず、補助プレート206の両表面にガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15を直接当接させた。補助プレート206の素材にはポリカーボネートを用いた。補助膜206aの摩擦力は、約0.5kgfであった。
【0056】
比較例2として、補助プレート206の両表面に補助膜206aを貼り付けた。第1研磨部材203および第2研磨部材204には、スウェードパッドNP225を用いた。補助膜は摩擦力が強い特殊なスウェードパッドを用いた。
【0057】
実施例1から実施例3および比較例1、2で研磨したガラス基板1Gにおいて、微小うねりの値Xの平均値を以下のように評価した。なお、微小うねりの測定位置は、ガラス基板の外周から中心方向に5mmの位置、合計20枚を4箇所ずつ測定した。なお、微小うねりの測定には、Zygo社製 光学計測機Newview5000を用いた。
【0058】
X≦0.8Åの場合は、評価「A」
0.8Å≦X<1.2Åの場合は、評価「B」
1.2Å≦Xの場合は、評価「C」
実施例1から実施例3および比較例1、2で研磨したガラス基板1Gにおいて、平坦度の値Yの平均値を以下のように評価した。なお、平坦度の測定には、Phase Shift Technology社製 平坦度計測機Optiflatを用いた。
【0059】
Y≦0.5μmの場合は、評価「A」
0.5μm≦Y<1.2μmの場合は、評価「B」
1.2μm<Yの場合は、評価「C」
また、実施例1から実施例3および比較例1、2で研磨したガラス基板1Gに、磁気薄膜層を形成して情報記録媒体としたガラス基板に対して、浮上テストを行なった。浮上テストでは基板上に試験用ヘッドを浮上させ、ヘッドと磁気記録媒体が接触する際の浮上量が5nm以下となるものを「合格」とした。「合格率」とは、10回実施した全テストに対する合格したテストの百分率を意味する。
【0060】
合格率が95%以上の場合は、評価「AA」
合格率が90%以上95%以下の場合は、評価「A」
合格率が80%以上90%以下の場合は、評価「B」
合格率が80%以下の場合は、評価「C」
図8に、実施例1から実施例3および比較例1、2で研磨したガラス基板1Gの、補助プレート側摩擦力(F1,F3)、研磨部材側摩擦力(F2,F4)、摩擦力の比、補助プレート側硬度、研磨部材側硬度、微小うねりの値、平坦度の値、および浮上テスト結果を示す。
【0061】
「摩擦力の比」とは、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F1と、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第1研磨部材203との間の水平方向に生じる摩擦力F2との比を意味し、F1/F2で表される。
【0062】
同様に、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F3と、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第2研磨部材204との間の水平方向に生じる摩擦力F4との比を意味し、F3/F4で表される。
【0063】
(実施例1の評価結果)
実施例1では、「摩擦力の比(F1/F2)、(F3/F4)」は、1.00である。第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F1の方が、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第1研磨部材203との間の水平方向に生じる摩擦力F2よりも大きい。
【0064】
同様に、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F3の方が、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第2研磨部材204との間の水平方向に生じる摩擦力F4よりも大きい。
【0065】
これにより、研磨中においては、ガラス基板1Gは、磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15が、補助プレート206の表面に設けられた補助膜206aに保持された状態となる。研磨中にガラス基板1Gが回転することが抑制されることになる。また、ガラス基板1Gに生じる振動が補助膜206aによって吸収される。
【0066】
実施例1におけるガラス基板1Gにおいては、微小うねりの値および平坦度の値のいずれにおいても、評価「A」が得られている。また、浮上テストの評価も「AA」である。
【0067】
(実施例2の評価結果)
実施例2は摩擦力の比が1.38であった。微小うねり・平坦度はいずれも良好で、浮上テストの評価は「AA」であった。
【0068】
(実施例3の評価結果)
実施例3では、「摩擦力の比(F1/F2)、(F3/F4)」は、1.75と、実施例1の「摩擦力の比(F1/F2)、(F3/F4)」の値よりも大きな値を得ている。この実施例3におけるガラス基板1Gにおいては、微小うねりの値は、評価「A」が得られているが、平坦度の値は、評価「B」である。その結果、浮上テストの評価「A」である。平坦度の評価が、実施例1よりも低下したのは、補助膜206aによる摩擦力が大きくなったためと考えられる。
【0069】
ガラス基板1Gと補助膜206aとの間で、水平方向の摩擦力が大きすぎると、ガラス基板1Gの移動に関する自由度が小さくなり、平坦度が悪化するからと考えられる。これに対し、実施例1では、磁気薄膜層形成予定面14との摩擦力の差が小さいため、磁気薄膜層形成予定面14と反対側の面15とで、ガラス基板1Gの移動の程度を同程度にしているため、平坦度と表面粗さとの評価の向上の両立を可能としている。
【0070】
なお、上記実施例1および3においては、補助プレート206の表面に補助膜206aを設けた場合について説明しているが、補助プレート206の表面に、補助膜206aと同等の摩擦力を生じるような層を形成することも可能である。
【0071】
(比較例1の評価結果)
比較例1では、「摩擦力の比(F1/F2)、(F3/F4)」は、0.63である。第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F1が、第1キャリア205aに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第1研磨部材203との間の水平方向に生じる摩擦力F2よりも小さい。
【0072】
同様に、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15と補助プレート206の表面との間の水平方向に生じる摩擦力F1が、第2キャリア205bに保持されるガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14と第2研磨部材204との間の水平方向に生じる摩擦力F2よりも小さい。
【0073】
これにより、研磨中においては、ガラス基板1Gは、磁気薄膜層形成予定面14とは反対側の面15が、補助プレート206の表面に設けられた補助膜206aに十分保持されず、研磨中にガラス基板1Gが回転すると考えられる。
【0074】
比較例1におけるガラス基板1Gにおいては、微小うねりの値は、評価「C」となり、平坦度の値は、評価「A」である。その結果、浮上テストの評価「B」である。
【0075】
(比較例2の評価結果)
比較例2は摩擦力の比が2.13であった。平坦度が低く、浮上テストの評価は「C」であった。
【0076】
以上の考察から、「摩擦力の比(F1/F2)、(F3/F4)」は、0.8以上1.75以下の条件の下で、ガラス基板1Gの磁気薄膜層形成予定面14の研磨を行なうことが好ましいといえる。
【0077】
上記情報記録媒体1は、直径が65mm(2.5インチ)の場合について説明しているが、他のサイズ(1.8インチ、3.5インチ、5.25インチ)であっても、同様の採用効果を得ることが可能である。
【0078】
これにより、磁気ヘッドの浮上量が5nm以下のDFH機構を採用した情報記録装置において、片面側での記録密度が500Gbit/inch以上の高密度の情報記録媒体であっても、磁気ヘッドによる安定した情報の書込みおよび読出しを実行することが可能となる。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 情報記録媒体、1G 情報記録媒体用ガラス基板、1t 傾斜面、2 情報記録装置、2A 支軸、2B トラッキング用アクチュエータ、2C サスペンション、2D 磁気ヘッド、11 孔、12 外周端面、13 内周端面、14 磁気薄膜層形成予定面(表主表面)、15 反対側の面(裏主表面)、23 磁気薄膜層、200 両面研磨装置、201 下定盤、202 上定盤、203,204 研磨部材、205a 第1キャリア、205b 第2キャリア、205h 保持孔、206 補助プレート、206a 補助膜、207 研磨剤供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面研磨装置を用い、研磨剤を供給しながら複数枚のガラス基板のそれぞれの磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう工程を有する、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
前記両面研磨装置は、
第1研磨部材を有する下定盤と、
前記第1研磨部材に対向配置され、第2研磨部材を有する上定盤と、
前記下定盤と前記上定盤との間に挟み込まれ、複数枚の前記ガラス基板のぞれぞれの前記磁気薄膜層形成予定面を前記第1研磨部材側に向けて保持し、前記下定盤側に配置される第1キャリアと、
前記下定盤と前記上定盤との間に挟み込まれ、複数枚の前記ガラス基板のぞれぞれの前記磁気薄膜層形成予定面を前記第2研磨部材側に向けて保持し、前記上定盤側に配置される第2キャリアと、
前記第1キャリアと前記第2キャリアとの間に配置される補助プレートと、を備え、
前記両面研磨装置を用いて、複数枚の前記ガラス基板のそれぞれの前記磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう工程は、
前記第1キャリアに保持される前記ガラス基板の前記磁気薄膜層形成予定面とは反対側の面と前記補助プレートの表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF1とし、前記第1キャリアに保持される前記ガラス基板の前記磁気薄膜層形成予定面と前記第1研磨部材との間の水平方向に生じる摩擦力をF2とした場合の摩擦力の比をF1/F2とし、
前記第2キャリアに保持される前記ガラス基板の前記磁気薄膜層形成予定面とは反対側の面と前記補助プレートの表面との間の水平方向に生じる摩擦力をF3とし、前記第2キャリアに保持される前記ガラス基板の前記磁気薄膜層形成予定面と前記第2研磨部材との間の水平方向に生じる摩擦力をF4とした場合の摩擦力の比をF3/F4とした場合に、
F1/F2の値およびF3/F4の値が、0.8以上1.75以下となる条件の下で、前記ガラス基板の前記磁気薄膜層形成予定面の研磨を行なう、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記補助プレートは、両表面にそれぞれ補助膜を有し、
前記補助膜のAsker−C硬度は、対向する前記第1研磨部材または前記第2研磨部材の硬度よりも、0以上6以下の範囲の硬度である、請求項1に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1キャリア、前記第2キャリア、および、前記補助プレートには、それぞれ前記研磨剤を通過させる貫通孔を有する、請求項1または2に記載の情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77352(P2013−77352A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217299(P2011−217299)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】