説明

情報記録装置および情報記録方法

【課題】 レーザ光の高出力化によらずに、光ディスクに対する情報の書き込み速度を向上させることが可能な情報記録装置および情報記録方法を提供すること。
【解決手段】 回転しているディスクDに情報を記録する情報記録装置10であり、ディスクDを一定のしきい値よりも低い温度の範囲内で温度上昇させるための第1のレーザ光を照射させるための予熱用ビーム照射手段40と、ディスクDのうち、第1のレーザ光が照射された後の部分に対して、ディスクDを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させるための第2のレーザ光を照射させるための記録用ビーム照射手段30と、予熱用ビーム照射手段40および記録用ビーム照射手段30のうち、少なくとも記録用ビーム照射手段30からのレーザ光の出射を制御する制御手段70と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク等に情報を記録するための情報記録装置および情報記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD−RW、DVD−RAM、DVD−RWといった、相変化記録方式による書き換え可能な光ディスクが種々存在する。相変化記録方式の光ディスクでは、現状では、一般にゲルマニウム・アンチモン・テルリウム合金を記録材料として用いている。この記録材料は、結晶状態とアモルファス状態との間の遷移(詳しくは、アンブレラ・フリップ・フロップ状態が生じている)を行うことを可能としている。そのため、光ディスクでは、この遷移によって生じる記録材料の物理的な性状の変化(光の反射率の変化等)を用いて、情報を書き換えることを可能としている。
【0003】
このような光ディスクにおいては、情報の書き込み速度の高速化が望まれている。特に、光ディスクでも、ブルーレイディスク、HD−DVDのような大容量の光ディスクにおいては、書き込まれる情報量の多さに対応させて、書き込み速度の高速化が一層望まれている。なお、光ディスクに情報を書き込む場合の技術文献としては、特許文献1に開示されているものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−171636号公報(要約、段落番号0003、図1他参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1では、レーザ光を分割手段により分割すると共に、分割されたレーザ光のパワーを制御することにより、消去用のレーザ光と、書き込み用のレーザ光とを前後させて設けている。しかしながら、かかる技術内容は、いわゆるオーバーライトに関するものであり、書き込みにおける高速化を図るには十分ではない。
【0006】
ここで、光ディスクが高速で回転する場合でも、レーザ光による書き込みを良好に行えるようにするために、高出力のレーザ光を、安定した状態で出射させる、という手法も考えられる。しかしながら、レーザ光の高出力化には、一定の限界があるため、この手法では、書き込み速度の向上に、一定の制限がある。また、光学部品にも熱的な限界があり、かかる熱的な側面からも、レーザ光の高出力化に限界がある。
【0007】
このように、レーザ光のパワー的な側面と、光学部品の熱的な側面とから、光ディスクの書き込み速度には、一定の理論的な限界があり、その解決が望まれている。
【0008】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、レーザ光の高出力化によらずに、光ディスクに対する情報の書き込み速度を向上させることが可能な情報記録装置および情報記録方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、回転しているディスクに情報を記録する情報記録装置において、ディスクに対して、該ディスクを一定のしきい値よりも低い温度の範囲内で温度上昇させるための第1のレーザ光を照射させるための予熱用ビーム照射手段と、ディスクのうち、上記第1のレーザ光が照射された部分に対して、該ディスクを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させるための第2のレーザ光を照射させるための記録用ビーム照射手段と、予熱用ビーム照射手段および記録用ビーム照射手段のうち、少なくとも記録用ビーム照射手段からのレーザ光の出射を制御する制御手段と、を具備するものである。
【0010】
このように構成した場合には、予熱用ビーム照射手段を用いて第1のレーザ光を照射することにより、一定のしきい値よりも低い温度範囲内で、ディスクの照射スポットにおける温度上昇が生じる。そして、温度上昇が生じた光ディスクの照射スポットに対して、記録用ビーム照射手段を用いて第2のレーザ光を照射することにより、一定のしきい値以上まで温度上昇させ、ディスクに対して情報を記録させることができる。
【0011】
ここで、第1のレーザ光でディスクを一度加熱することにより、第2のレーザ光によるディスクの加熱時間を短縮することが可能となる。それにより、ディスクの回転を高速化させることが可能となり、書き込み時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0012】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、予熱用ビーム照射手段と記録用ビーム照射手段とは、同一のレーザ光出力部からレーザ光が出力されると共に、このレーザ光の光学経路の途中には分光器が配置されていて、この分光器によってレーザ光が第1のレーザ光と第2のレーザ光とに分光されるものである。
【0013】
このように構成した場合には、予熱用ビーム照射手段と記録用ビーム照射手段とで、別々のレーザ光出力部を設ける必要がない。そのため、1つのレーザ光出力部のみを設ければ良く、部品コストを低減することが可能となる。また、2つのレーザ光出力部を設ける場合と比較して、設置スペースを低減することが可能となり、光ピックアップの小型化が可能となる。
【0014】
さらに、他の発明は、回転しているディスクに情報を記録する情報記録方法において、ディスクに対して、該ディスクを一定のしきい値よりも低い温度の範囲内で温度上昇させるための第1のレーザ光を照射させるための予熱工程と、ディスクのうち、予熱工程により第1のレーザ光が照射された部分に対して、該ディスクを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させるための記録工程と、を具備するものである。
【0015】
このように構成した場合には、予熱工程によりディスクが第1のレーザ光の照射により、一定のしきい値よりも低い温度範囲内で、ディスクの照射スポットにおける温度上昇が生じる。そして、温度上昇が生じた光ディスクの照射スポットに対して、記録工程で第2のレーザ光を照射することにより、ディスクを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させ、ディスクに対して情報を記録させることができる。
【0016】
ここで、第1のレーザ光でディスクを一度加熱することにより、第2のレーザ光によるディスクの加熱時間を短縮することが可能となる。それにより、ディスクの回転を高速化させることが可能となり、書き込み時間の短縮化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、レーザ光の高出力化によらずに、光ディスクに対する情報の書き込み速度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態に係る情報記録装置10について、図1から図4に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る情報記録装置のうち、光学系の概要を示す図である。
【0019】
図1に示すように、情報記録装置10の光学系20は、記録用ビーム照射手段30と、予熱用ビーム照射手段40と、受光部50と、を具備している。これらのうち、記録用ビーム照射手段30は、第1レーザ光出力部31と、第1コリメータレンズ32と、偏光ビームスプリッタ33と、1/4波長板34と、第1対物レンズ35と、を具備している。
【0020】
かかる記録用ビーム照射手段30のうち、第1レーザ光出力部31は、記録用/再生用のレーザ光を出力する部分である。この第1レーザ光出力部31は、半導体レーザ等のレーザ発振器(図示省略)を用いている。また、第1コリメータレンズ32は、第1レーザ光出力部31から出力されたレーザ光を、所定の平行光に整えるための部分である。また、偏光ビームスプリッタ33は、S偏光のみを反射して、1/4波長板34に入射させる。このとき、P偏光は、偏光ビームスプリッタ33をそのまま通過する。なお、偏光ビームスプリッタ33の代わりに、ハーフミラーを用いる構成を採用する等しても良い。
【0021】
さらに、1/4波長板34では、入射されるレーザ光の位相が90度だけずらされる。また、第1対物レンズ35では、1/4波長板34を出射したレーザ光を、所定の直径の光束として、光ディスクDの記録膜の所定位置に照射させる。
【0022】
なお、光ディスクDの記録膜に対して情報を書き込む場合には、レーザ光は、第1レーザ光出力部31、第1コリメータレンズ32、偏光ビームスプリッタ33、1/4波長板34、第1対物レンズ35を順次経過する光学経路のみを経れば良い。このため、光ディスクDの記録膜に対して、情報を書き込むための構成を最低限具備すれば良いタイプにおいては、偏光ビームスプリッタ33および1/4波長板34を省略する構成を採用しても良い。しかしながら、本実施の形態では、情報の記録および読み取りの両方を行える、一般的なタイプの情報記録装置10について説明する。この情報記録装置10において、光ディスクDの記録膜に既に記録されている情報を読み取る場合には、上述の光学経路でレーザ光が光ディスクDの記録膜に対して出射された後に、さらに光ディスクDの記録膜から反射されるレーザ光が、第1対物レンズ35、1/4波長板34、偏光ビームスプリッタ33を通過する。
【0023】
ここで、1/4波長板34をS偏光のレーザ光が再び通過することによりP偏光となり、このP偏光は、偏光ビームスプリッタ33をそのまま通過する。それにより、P偏光のレーザ光は、受光部50に入射され、入射された光を電気信号に変換することにより、光ディスクDの記録膜に記録されている情報の読み取りが為される。なお、受光部50としては、フォトセンサ、フォトダイオード等、各種の受光素子を用いることが可能である。
【0024】
また、予熱用ビーム照射手段40は、上述の記録用ビーム照射手段30と類似する構成となっており、第2レーザ光出力部41と、第2コリメータレンズ42と、第2対物レンズ43と、を有している。しかしながら、予熱用ビーム照射手段40は、記録用ビーム照射手段30のように、レーザ光の反射が必要でないため、上述の偏光ビームスプリッタ33および1/4波長板34に対応する構成は有していない。
【0025】
また、記録用ビーム照射手段30の第1対物レンズ35、および予熱用ビーム照射手段40の第2対物レンズ43は、共にレンズアクチュエータ60により駆動される。レンズアクチュエータ60は、例えばフォーカシング/トラッキングを行うためのコイル/磁石等を具備していて、電流の導通に伴なう磁力の発生によって、第1対物レンズ35および第2対物レンズ43を移動させている。
【0026】
また、情報記録装置10は、制御手段に対応する制御部70も有している。制御部70は、第1レーザ光出力部31からの記録用のレーザ光(第2のレーザ光に対応)、および第2レーザ光出力部41からの予熱用のレーザ光(第1のレーザ光に対応)の照射タイミングを制御するものである。すなわち、図2において、光ディスクDの記録膜の同一トラックのうち、予熱用のレーザ光が記録用のレーザ光よりも先に照射される場合、記録用のレーザ光の照射タイミングを、光ディスクDの記録膜の回転速度に対応させて、遅延させる必要がある。
【0027】
ここで、予熱用のレーザ光/記録用のレーザ光が照射されるトラックの回転速度をV、予熱用のレーザ光の照射スポットと記録用のレーザ光の照射スポットの間の距離をLとすると、T=L/Vの時間差がある。そのため、制御部70は、予熱用のレーザ光の照射後、この時間差Tだけ遅延させて、記録用のレーザ光をトラックに照射している。
【0028】
また、情報記録装置10は、光学系20以外にも、光ディスクDを搭載するターンテーブル80、およびターンテーブル80を回転駆動させるためのスピンドルモータ81等を具備している。なお、スピンドルモータ81を上述の制御部70に接続するようにしても良い。また、この他の構成として、ターンテーブル80の回転数を検知するための回転数検知手段を設けるようにしても良い。
【0029】
また、光ディスクDの記録膜に対して予熱用のレーザ光/記録用のレーザ光を照射した場合の、光ディスクDの記録膜の温度と時間との関係を、図3に示す。また、予熱用のレーザ光を照射せずに記録用のレーザ光を照射する、従来の記録膜の温度と時間との関係を図4に示す。図3に示すように、予熱用のレーザ光が照射される予熱帯域においては、記録膜は、記録可能温度(図3における破線部分;この破線部分が、一定のしきい値に対応)まで到達しない。しかしながら、この後に記録用のレーザ光が照射されることにより、小さな第1レーザ光出力部31は、少ないパワーで記録可能温度を超えることが可能となっている。なお、予熱用のレーザ光が照射されてから、記録用のレーザ光が照射されるまでの間の時間は僅かであり、光ディスクDの記録膜における温度低下は小さなものとなっている。
【0030】
また、図3と図4とを比較すると、予熱用のレーザ光の照射を開始してから一定のしきい値まで温度が上昇する時間は、本発明の上方記録装置10を用いた場合の時間t1(図3参照)の方が、従来の情報記録装置を用いた場合の時間t2よりも、明らかに短くなっている。
【0031】
以上のような構成を有する情報記録装置10を用いて、光ディスクDに対して情報を記録する場合の手法について、以下に説明する。
【0032】
スピンドルモータ81を駆動させて、光ディスクDが所定の回転数で回転している状態において、制御部70は、第2レーザ光出力部41に対して予熱用のレーザ光を発生させるための制御信号を送信する。それにより、第2レーザ光出力部41からは、所定の出力のレーザ光が出力され、図2に示すように、光ディスクDの記録膜のうち、所定のトラック近傍は、レーザ光が照射される。
【0033】
なお、以下の説明においては、光ディスクDの記録膜のうち、予熱用のレーザ光が照射される部位を、予熱用スポットと呼ぶ。この予熱用スポットは、一定の直径を有しているが、光ディスクDが回転しているので、相対的に見ると、予熱用スポットが光ディスクDの記録膜上を順次移動するように見える。この点は、後述する記録用スポットも同様である。なお、予熱用スポットおよび後述する記録用スポットが移動する向きは、図2において右向きに向かうように矢示されている。
【0034】
ここで、第2レーザ光出力部41は、光ディスクDの記録膜の温度を、情報書き込みのしきい値に達する手前の温度まで上昇させるためのレーザ光を出力する部分である。そのため、光ディスクDの記録膜のうちの予熱用スポットは、しきい値よりも低い温度まで加熱される。すなわち、トラック上の所定の部位は、光ディスクDの記録膜のうち予熱用スポットが通過するまでの時間において、しきい値に達しない所定の温度まで加熱される。
【0035】
かかる予熱用のレーザ光の照射後に、予熱用のレーザ光が照射されている部位のうち所定の部位には、記録用のレーザ光が照射される。すなわち、制御部70は、第1レーザ光出力部31に対して、記録用のレーザ光を発生させるための制御信号を送信する。それにより、第1レーザ光出力部31からは、所定の出力のレーザ光が出力され、このレーザ光が光ディスクDの記録膜に照射される。なお、図2に示すように、光ディスクDの記録膜のうち、記録用のレーザ光が照射される部位を、記録用スポットと呼ぶ。
【0036】
ここで、第1レーザ光出力部31は、光ディスクDの記録膜の温度を、情報書き込みのしきい値を超える温度まで上昇させるためのレーザ光を出力する部分である。かかる温度上昇においては、既に予熱用のレーザ光が照射されて、温度が所定まで上昇している部位に、再度記録用のレーザ光を照射する状態となる。そのため、光ディスクDの記録膜のうちの記録用スポットは、比較的弱い出力の、記録用のレーザ光の照射によって、しきい値を超える温度まで加熱される。
【0037】
なお、光ディスクDの回転数が早い場合、記録用のレーザ光を従来通りの出力としても、記録用スポットの温度をしきい値以上に上昇させることが可能となり、光ディスクDの記録膜に対して十分に書き込み可能となる。また、光ディスクDの記録膜の温度は、情報書き込みのしきい値を超える温度まで上昇させる場合には限られず、記録膜の温度が、しきい値と等しくなる温度まで加熱されるようにしても良い。
【0038】
このような構成の情報記録装置10によれば、予熱用のレーザ光を光ディスクDの記録膜に対して照射し、その後に予熱用スポットに対して記録用のレーザ光を照射する。それにより、光ディスクDの記録膜に対しての情報の書き込み時間の短縮を図ることが可能となる。また、情報の書き込み時間の短縮を図ることにより、光ディスクDの回転を高速化させることが可能となり、情報の書き込み時間を短縮することが可能となる。そのため、光ディスクDの記録膜に対して、大量の情報を高速で記録させることが可能となる。
【0039】
また、第1レーザ光出力部31等を高出力化することなく、光ディスクDの記録膜に対する情報の書き込み速度を向上させることが可能となる。そのため、高出力に対応するレーザ出力部を設ける必要がなく、その分だけコストを低減することが可能となる。また、高出力に対応させずに済むため、光学部品の熱的限界が低くて済む。
【0040】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について、図5および図6に基づいて説明する。なお、本実施の形態においては、上述の第1の実施の形態における同一の構成/部材については、同一の符号を用いて説明する。
【0041】
図5に示すように、本実施の形態における情報記録装置11では、光学系21は、上述の第1の実施の形態における情報記録装置10の光学系20のように、第1レーザ光出力部31、第2レーザ光出力部41といった、2つのレーザ光出力部31,41を具備する構成とはなっておらず、単一のレーザ光出力部31aのみを具備する構成となっている。
【0042】
しかしながら、本実施の形態では、レーザ光出力部31aから出力され、コリメータレンズ32aを通過したレーザ光を分光させるための、分光器90を具備している。そして、レーザ光出力部31aから出力されたレーザ光が、この分光器90を通過することにより、単一のレーザ光が2つのレーザ光に分光される。
【0043】
ここで、分光器90としては、グレーティング、プリズム等を用いるものがある。また、分光器90としては、現状のトラッキング補正用のためレーザ光を分岐させるための手段を用いるようにしても良い。
【0044】
なお、分光器90から分光された、それぞれのレーザ光の以後の光学経路における各素子は、上述の第1の実施の形態におけるものと同様である。すなわち、本実施の形態の情報記録装置11も、偏光ビームスプリッタ33と、1/4波長板34と、第1対物レンズ35を具備している。そして、分光器90から分光された後の一方のレーザ光は、これら偏光ビームスプリッタ33、1/4波長板34、第1対物レンズ35を通過する。
【0045】
また、本実施の形態の情報記録装置11は、第2対物レンズ43を具備しており、分光器90で分光された他方のレーザ光は、この第2対物レンズ43を通過後に、光ディスクDの記録膜に照射される。
【0046】
ここで、図6に示すように、予熱用スポットは、記録用スポットと比較して、スポット径が大きく設けられている。この予熱用スポットのスポット径は、nビットをカバー可能な大きさである。この大きさは、記録用のレーザ光が照射される記録用スポットの温度を、一定以上に上昇させることが可能な程度となっている。すなわち、1つのレーザ光出力部から出力されるレーザ光を分光する場合、光ディスクDの記録膜には、予熱用スポットと記録用スポットとが同時に存在する状態となる。この場合、光ディスクDの記録膜の予熱漏れを防止するように、予熱用スポットのスポット径が十分な大きさに調整されている。
【0047】
以上のような構成を有する情報記録装置11では、光ディスクDの記録膜に対して、予熱用スポットと記録用スポットとが同時に形成される状態となる。この場合、予熱用スポットのスポット径が十分に大きいため、記録用のレーザ光の照射時に、その部分の予熱が不充分で、書き込み不良が生じるのを防ぐことが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態においても、予熱用のレーザ光で光ディスクDを一度加熱することにより、記録用のレーザ光による光ディスクDの加熱時間を短縮することが可能となる。それにより、光ディスクDの回転を高速化させることが可能となり、書き込み時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0049】
加えて、本実施の形態のように、記録用ビーム照射手段30と予熱用ビーム照射手段40とは、同一のレーザ光出力部31aからレーザ光が出力されると共に、このレーザ光の光学経路の途中には分光器90が配置されている。それにより、分光器90によってレーザ光が記録用のレーザ光と予熱用のレーザ光とに分光される。このため、記録用ビーム照射手段30と予熱用ビーム照射手段40とで、別々のレーザ光出力部31,41を設ける必要がない。そのため、1つのレーザ光出力部31aのみを設ければ良く、部品コストを低減することが可能となる。また、2つのレーザ光出力部31,41を設ける場合と比較して、設置スペースを低減することが可能となり、光ピックアップの小型化が可能となる。
【0050】
以上、本発明の第1の実施の形態および第2の実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0051】
上述の各実施の形態では、予熱用スポットが1つのみ設けられる場合について説明している。しかしながら、予熱用スポットは1つのみ設けられる場合には限られず、2つ以上設けられるようにしても良い。図7にこの場合の様子を示す。この図7に示す場合、予熱用のレーザ光を2つに分割するための分光器が新たに必要となる。なお、分光器は、上述の第2の実施の形態で述べたのと同様のものを用いるようにすれば良い。かかる図7に示す場合、上述の予熱用スポットのスポット径は、上述の各実施の形態で説明したものよりも小さくすることが可能である。
【0052】
また、図8に示すように、予熱用スポットと記録用スポットの一部が重複するようにしても良い。このようにしても、光ディスクDに予熱用スポットと記録用スポットとの両方が形成されるため、予熱用のレーザ光の照射により光ディスクDの書き込み部位をある程度まで温度上昇させながら、記録用のレーザ光の照射により光ディスクDに対して情報を書き込むことが可能となる。なお、上述の各実施の形態で説明した構成における光学経路の調整で、図8に示すような部分的な重複は実現可能であるが、その他に、反射ミラーを追加する等して、図8に示すような部分的な重複を実現しても良い。
【0053】
また、図9に示すように、予熱用スポットと記録用スポットの中心を略一致させると共に、予熱用スポットのスポット径を、記録用スポットのスポット径よりも大きくするようにしても良い。このようにしても、予熱用のレーザ光の照射により光ディスクDの書き込み部位をある程度まで温度上昇させながら、記録用のレーザ光の照射により光ディスクDに対して情報を書き込むことが可能となる。
【0054】
なお、この場合、上述の各実施の形態における第2対物レンズ43の焦点距離の調整/レンズ倍率の調整等を行うと共に、光学経路を調整することにより、図9に示すような中心の一致した状態で、2つの照射スポットが重なる状態が実現される。
【0055】
また、図10に示すように、予熱用スポットのスポット形状を、横長の楕円形状(ここでいう横長とは、トラックの延伸方向が楕円の長辺方向となる状態)とすると共に、記録用スポットのスポット形状を縦長の楕円形状(ここでいう縦長とは、トラックの延伸方向が楕円の短辺方向となる状態)とするようにしても良い。なお、シリンドリカルレンズを用いて、焦点距離を調整することにより、スポット形状を楕円形状とすることが可能であるが、その他、楕円コアを具備する光ファイバを設け、この光ファイバからレーザ光を出射させて、スポット形状を楕円形状としても良い。このようにする場合、予熱用のレーザ光が横長の状態で照射されるため、予熱用に出力されるレーザ光の予熱用としての利用効率を向上させることが可能となる。また、記録用のレーザ光が縦長であるため、光ディスクDの記録膜におけるトラックが少々ずれる場合でも、記録部位のトラックに対して、確実に記録させることが可能となる。
【0056】
また、図11に示すように、予熱用スポットおよび記録用スポットのスポット形状を、共に縦長の楕円形状としても良い。この場合も、上述の図11に示される場合と同様に、シリンドリカルレンズを用いて、焦点距離を調整することにより、スポット形状を楕円形状とすることが可能であるが、その他、楕円コアを具備する光ファイバを設け、この光ファイバからレーザ光を出射させて、スポット形状を楕円形状としても良い。このように構成する場合、光ディスクDの記録膜におけるトラックが少々ずれる場合でも、該トラックに対して確実に予熱用のレーザ光を照射させることが可能となると共に、記録部位のトラックに対して、確実に記録させることが可能となる。
【0057】
また、図12に示すように、記録が為されるトラックの前の周のトラックに対して、予熱用のレーザ光を照射するようにしても良い。この場合も、光学経路の調整で、図12に示すような予熱用スポットが記録用スポットの前周に位置する構成を実現することができる。このようにしても、光ディスクDが高速で回転することに鑑みると、記録用のレーザ光が照射される段階では、予熱用のレーザ光の照射による熱が十分に残存した状態とすることができ、その熱を利用しながら、記録用のレーザ光を照射して、光ディスクDに対して情報を書き込むことが可能となる。
【0058】
また、上述の各実施の形態においては、ディスクとして光ディスクDを用いる場合について説明している。しかしながら、ディスクは光ディスクDには限られず、光磁気ディスクをディスクとして、情報を記録するようにしても良い。
【0059】
さらに、上述の記録用ビーム照射手段30および予熱用ビーム照射手段40は、上述した以外の各種の光学素子を備える構成を採用しても良い。その他の光学素子としては、各種のミラー、レンズ、プリズム、回折格子、波長板等がある。また、上述の記録用ビーム照射手段30および予熱用ビーム照射手段40において、第1コリメータレンズ32と第2コリメータレンズ42、第1対物レンズ35と第2対物レンズ43との共用化を図るようにしても良い。
【0060】
また、CD−R/CD−RWドライブ、DVD−R/DVD−RW/DVD−RAMドライブ、ブルーレイディスクドライブ、HD−DVDドライブ等のような、各種のドライブ装置を情報記録装置10,11としても良いし、これら各ドライブに用いられる光ピックアップ部分のみを情報記録装置としても良い。光ピックアップ部分のみを情報記録装置とする場合には、上述の情報記録装置10,11の中から、ターンテーブル80、スピンドルモータ81等が除かれた構成となる。また、上述の各種のドライブを組み込んだ各種電気機器(例えばDVDレコーダ、パーソナルコンピュータ、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ等)を、情報記録装置10,11としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の情報記録装置および情報記録方法では、電気機器の分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る情報記録装置の光学系を中心とする構成を示す概略図である。
【図2】図1の情報記録装置を用いた場合において、光ディスクの所定のトラックにおけるレーザ光の照射スポットを示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る情報記録装置の光学系を用いて、光ディスクの記録膜にレーザ光を照射したときの時間と温度上昇との関係を示す図である。
【図4】従来の情報記録装置の光学系を用いて、光ディスクの記録膜にレーザ光を照射したときの時間と温度上昇との関係を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る情報記録装置の光学系を中心とする構成を示す概略図である。
【図6】図3の情報記録装置において、光ディスクの所定のトラックにおけるレーザ光の照射スポットを示す図である。
【図7】本発明の変形例に係り、予熱用スポットが2つ設けられている状態を示す図である。
【図8】本発明の変形例に係り、予熱用スポットと記録用スポットの一部が重複する状態を示す図である。
【図9】本発明の変形例に係り、予熱用スポットと記録用スポットの中心を略一致させると共に、予熱用スポットのスポット径を、記録用スポットのスポット径よりも大きくした状態を示す図である。
【図10】本発明の変形例に係り、予熱用スポットのスポット形状を、横長の楕円形状とすると共に、記録用スポットのスポット形状を縦長の楕円形状とする状態を示す図である。
【図11】本発明の変形例に係り、予熱用スポットおよび記録用スポットのスポット形状を、共に縦長の楕円形状とした状態を示す図である。
【図12】本発明の変形例に係り、記録が為されるトラックの前の周のトラックに対して、予熱用のレーザ光を照射する状態を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10,11…情報記録装置
20,21…光学系
30…記録用ビーム照射手段
31…第1レーザ光出力部
32…第1コリメータレンズ
33…偏光ビームスプリッタ
34…1/4波長板
35…第1対物レンズ
40…予熱用ビーム照射手段
41…第2レーザ光出力部
42…第2コリメータレンズ
43…第2対物レンズ
50…受光素子
60…レンズアクチュエータ
70…制御部(制御手段に対応)
80…ターンテーブル
81…スピンドルモータ
90…分光器
D…光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しているディスクに情報を記録する情報記録装置において、
上記ディスクに対して、該ディスクを一定のしきい値よりも低い温度の範囲内で温度上昇させるための第1のレーザ光を照射させるための予熱用ビーム照射手段と、
上記ディスクのうち、上記第1のレーザ光が照射された部分に対して、該ディスクを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させるための第2のレーザ光を照射させるための記録用ビーム照射手段と、
上記予熱用ビーム照射手段および上記記録用ビーム照射手段のうち、少なくとも上記記録用ビーム照射手段からのレーザ光の出射を制御する制御手段と、
を具備することを特徴とする情報記録装置。
【請求項2】
前記予熱用ビーム照射手段と前記記録用ビーム照射手段とは、同一のレーザ光出力部からレーザ光が出力されると共に、このレーザ光の光学経路の途中には分光器が配置されていて、この分光器によって上記レーザ光が前記第1のレーザ光と前記第2のレーザ光とに分光されることを特徴とする請求項1記載の情報記録装置。
【請求項3】
回転しているディスクに情報を記録する情報記録方法において、
上記ディスクに対して、該ディスクを一定のしきい値よりも低い温度の範囲内で温度上昇させるための第1のレーザ光を照射させるための予熱工程と、
上記ディスクのうち、上記予熱工程により上記第1のレーザ光が照射された部分に対して、該ディスクを一定のしきい値以上の温度まで温度上昇させるための記録工程と、
を具備することを特徴とする情報記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−344323(P2006−344323A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170469(P2005−170469)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)
【Fターム(参考)】