説明

感光性樹脂組成物および液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 高精度に流路、吐出口が形成された液体吐出ヘッドを高い生産効率で得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】 液体を吐出する吐出口と連通する液体の流路の壁を備えた流路壁部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、特定の化合物を含む組成物の層を基板上に設ける工程と、
前記組成物の層を露光し、露光された部分を除去して、前記組成物の層から前記流路の型を形成する工程と、カチオン重合性の樹脂と、カチオン重合開始剤と、を含んだ前記流路壁部材となる被覆層を前記型を被覆するように設ける工程と、前記被覆層を露光し、露光が行われなかった部分を除去して前記吐出口を形成する工程と、前記型を除去して前記流路を形成する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性樹脂組成物およびこれを用いた液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの一例としてのインクジェット記録ヘッドを作製する方法が特許文献1に開示されている。これは、まず始めに液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子が形成された基板上に、溶解除去可能な樹脂組成物にてインクの流路の型を形成する。そしてこの型をインク流路の壁となる流路壁形成材料で被覆し、該流路壁形成材料に吐出口を形成した後に型を溶出して流路を形成するという方法である。溶解除去可能な樹脂組成物としてポジ型のフォトレジストを、また流路壁形成材料としてエポキシ樹脂をベースとするカチオン重合型のネガ型レジストを、それぞれ用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−286149号公報
【特許文献2】特開2002−72480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体吐出ヘッドの吐出性能を向上させるために、流路を高精細なものにしようとして、高密度に流路を配置することや、流路の形成位置の位置精度を向上させることなどが求められている。これらの要求は、液体吐出ヘッドの用途の拡大や、写真画質のカラー画像記録に対するユーザーニーズの向上に伴い、今後ますます大きくなると考えられる。
【0005】
上述の要求を満たすために、液体吐出ヘッドの製造過程において、精度の高い縮小投影型の露光装置を使用したフォトリソグラフィーの手法によって流路の型を形成することが望ましい。しかし特許文献1で使用されているポジ型レジストは、ポジ化の反応機構が主鎖分解反応によるため厚膜で使用した場合の感度が低く、縮小投影型の露光装置で通常出力可能な露光量では、露光時間が非常に長いものとなってしまう。
【0006】
そこで本発明者らは、新たに特許文献2に記載の、ポリヒドロキシスチレン系の樹脂と、光酸発生剤と、を含む化学増幅型ポジ型レジストを流路の型形成用の材料に使用して、特許文献1に記載の方法にて液体吐出ヘッドを製造することを検討した。
【0007】
そうしたところ、製造した液体吐出ヘッドの吐出口が所望の形状とならない場合があった。本発明者らの研究によれば、ポジ型レジストをポジ化させるために使用される光酸発生剤から発生した酸が流路の型中に残存し、この酸が流路壁形成材料中のエポキシ樹脂と反応したために、流路壁形成材料の解像性に影響を与えたことが原因であることが分かった。
【0008】
そこで本発明は、高精度に流路、吐出口が形成された液体吐出ヘッドを高い生産効率で得られる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体を吐出する吐出口と連通する液体の流路の壁を備えた流路壁部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、一部のフェノール性水酸基の水素原子が酸で解離する基で置換されたポリヒドロキシスチレン系樹脂と、ビニルエーテル基を2個以上有する化合物と、光のエネルギーを受けることで、式(1)で表される酸を発生する化合物と、
A−SOH・・・(1)
[式中Aは、置換または未置換の芳香族炭化水素であり、芳香族炭化水素の置換基はフッ素を含まないものとする。]を含む樹脂組成物からなる樹脂層が設けられた基板を用意する工程と、前記樹脂層を露光し、露光された部分を除去して、前記樹脂層から前記流路の型を形成する工程と、カチオン重合性の樹脂と、カチオン重合開始剤と、を含んだ前記流路壁部材となる被覆層を前記型を被覆するように設ける工程と、前記被覆層を露光し、前記被覆層の露光が行われなかった部分を除去して前記吐出口となる開口を形成する工程と、前記型を除去して前記流路を形成する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高精度に流路、吐出口が形成された液体吐出ヘッドを高い生産効率で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの模式的斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す模式的切断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を具体的に説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0013】
また、本発明の液体吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッドの他、カラーフィルターの製造等の産業用途として使用可能である。
【0014】
図1は本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法により製造される液体吐出ヘッドの一例を示す一部透かしの模式的断面図である。液体吐出ヘッドは、液体を吐出するために利用されるヒーター等のエネルギー発生素子2を複数有する基板1を有し、さらに基板1上に液体の流路9と、流路9と連通しインクを吐出するための吐出口5と、を備えた流路壁部材7を有する。また、基板1には、液体を流路9に供給する供給口6が設けられている。
【0015】
次いで、図2を参照して本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例について説明する。図2は本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法を説明するための模式的断面図であり、図1のA−Bを通り、基板1に垂直な位置で切断した場合の各工程での切断面を表わす模式的切断面図である。
【0016】
まず、図2(a)に示されるようにエネルギー発生素子2を表面に有する基板1を用意する。エネルギー発生素子2には素子を動作させるための制御信号入力電極(図示せず)が接続されている。基板1に供給口を異方性エッチングにより形成する場合は、基板1は結晶方位100のシリコン単結晶体であることが好ましい。エネルギー発生素子2は、液体を吐出させるための吐出エネルギーが液体に与えられ、液体が吐出口から吐出可能なものであれば、特に限定はされない。例えば、エネルギー発生素子2として発熱抵抗素子が用いられる場合、該発熱抵抗素子が近傍の液体を加熱することにより、液体に状態変化を生起させ吐出エネルギーを発生する。
【0017】
前記基板1上に、樹脂組成物を塗布などにより設け、樹脂組成物の樹脂層3を設ける(図2(b))。
【0018】
この樹脂層3を形成する樹脂組成物は以下の(Z1)、(Z2)および(Z3)を成分として含む。
【0019】
(Z1)酸で解離する基によりフェノール性水酸基の少なくとも一部の水素原子が保護されたポリヒドロキシスチレン系樹脂
(Z2)ビニルエーテル基を2個以上有する化合物
(Z3)光からのエネルギーを受けることで、式(1)で表される酸を発生する化合物
A−SOH・・・(1)
[式中Aは、置換または未置換の芳香族炭化水素であり、芳香族炭化水素の置換基はフッ素を含まないものとする。]
樹脂組成物の各構成成分について詳細に説明する。
【0020】
樹脂層3を必要に応じて加熱すると、樹脂組成物の(Z1)成分と(Z2)成分とが架橋構造を形成する。そのため溶剤に対する耐性が向上し、後述する流路壁形成用の材料を上から塗布しても溶解しにくい。また、この材料に光を照射すると、(Z3)成分(以下酸発生剤)から発生した酸により、(Z1)成分と(Z2)成分との架橋部や、(Z1)成分の酸解離性基が分解し、アルカリ可溶になるためアルカリ溶媒の現像液によりパターンを得ることができる。
【0021】
まず、(Z1)成分について詳細に説明する。(Z1)成分は、酸解離性基がアルカリに対する溶解抑制能を有し、露光前はアルカリに対して実質的に不溶であるが、露光後の露光部では酸発生剤から発生した酸の作用により酸解離性基が解離し、アルカリ水溶液への溶解度が増大する。この酸解離性基については特に制限はないが、酸解離性、耐熱性、フォトリソ工程後のパターン形状を考慮すると低級アルコキシアルキル基、第三級アルコキシカルボニル基、第三級アルコキシカルボニルアルキル基が好ましい。また、第三級アルキル基及び環状エーテル基なども同様の観点から好ましい。
【0022】
低級アルコキシアルキル基としては、例えば1‐エトキシ‐1‐エチル基、1‐メトキシ‐1‐プロピル基などが挙げられる。第三級アルコキシカルボニル基としては、例えばtert‐ブトキシカルボニル基、tert‐アミルオキシカルボニル基などが挙げられる。第三級アルコキシカルボニルアルキル基としては、例えばtert‐ブトキシカルボニルメチル基、tert‐ブトキシカルボニルエチル基、tert‐アミルオキシカルボニルメチル基、tert‐アミルオキシカルボニルエチル基などが挙げられる。第三級アルキル基としては、例えばtert‐ブチル基、tert‐アミル基などが挙げられる。環状エーテル基としては、例えばテトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基などがある。
【0023】
(Z1)成分としては、水酸基の10〜80%の水素原子が低級アルコキシアルキル基、第三級アルコキシカルボニル基、および第三級アルコキシカルボニルアルキル基から選ばれる少なくとも1つの酸解離性基で置換されたポリヒドロキシスチレンが挙げられる。また(Z1)成分としては、水酸基の10〜80%の水素原子が第三級アルキル基および環状エーテル基から選ばれる少なくとも1つの酸解離性基で置換されたポリヒドロキシスチレンが挙げられる。
【0024】
これらは、10%以上酸解離性基で置換されていると、アルカリへの溶解抑制で顕著な効果を発揮する。そのため、解像性が高くなる点で好ましい。また、(Z2)成分との架橋点を多くするという考え方から80%以下であることがこのましい。この中で好ましいのは、水酸基の10%以上80%以下の水素原子が1‐エトキシ−1−エチル基で置換されたポリヒドロキシスチレンである。また、同様に水酸基の10%以上80%以下の水素原子がtert‐ブトキシカルボニル基で置換されたポリヒドロキシスチレンが好ましい。また同様に、水酸基の10%以上80%以下の水素原子がtert‐ブトキシカルボニルメチル基で置換されたポリヒドロキシスチレンが好ましい。また同様に水酸基の10%以上80%以下の水素原子がtert‐ブチル基で置換されたポリヒドロキシスチレン、水酸基の10%以上80%以下の水素原子がテトラヒドロピラニル基で置換されたポリヒドロキシスチレンも好ましい。これらポリヒドロキシスチレンは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、共重合していてもよい。これらポリヒドロキシスチレン系樹脂成分の重量平均分子量としては、2000以上50000以下、好ましくは5000以上25000以下である。また、分子量分布(Mw/Mn)は1.0以上5.0以下、好ましくは1.0以上2.0以下である。ただしMwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
【0025】
次に、本発明の(Z2)成分について説明する。(Z2)成分は、架橋剤として機能する、2つ以上のビニルエーテルをもつ化合物である。(Z1)成分と熱架橋するものであればその範囲内で特に制限なく用いることができるが、特に好ましいのは、下記式(4)で表されるビニルエーテル化合物である。
R−(O−CH=CH2)n・・・(4)
[式中のnは、2〜4の整数であり、Rは置換基を有していても良い炭素原子数1〜30のアルキレン基を示す。]
【0026】
さらに好ましくは、Rがエーテル基を有しているビニルエーテル化合物である。親水性の高いエーテル基を有すると、(Z1)成分と混ざりやすく、平滑な樹脂膜を形成するのに適しているため、好適に用いられる。例えば、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラメチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールエトキシレートジビニルエーテル、などのジビニルエーテル類が好ましい。また、トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールエタンエトキシレートトリビニルエーテルなどのトリビニルエーテル類が好ましい。また、ペンタエリスリトールエトキシレートトリビニルエーテル、トリメチロールプロパンエトキシエトキシレートトリビニルエーテルトリメチロールプロパンエトキシエトキシエトキシレートトリビニルエーテルなどのトリビニルエーテル類が好ましい。エリスリトールエトキシレートペンタビニルエーテルなどのペンタビニルエーテル類を挙げることができる。この中でも、特に下記式(5)で表されるトリビニルエーテルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
【化1】

【0028】
[式中n、m、lは0を含む正の整数で、n+m+l=1〜12を示す。]
この(乙2)成分のビニルエーテル化合物は、前記(乙1)成分100質量部に対し、通常0.1〜300質量部の範囲で選ばれ、好ましくは1〜200質量部である。
【0029】
最後に(Z3)成分について説明する。
【0030】
(Z3)成分は、光のエネルギーを受けることで下記式(1)で表される酸、を発生する化合物である。
A−SOH・・・(1)
[式中Aは、置換または未置換の芳香族炭化水素であり、芳香族炭化水素の置換基はフッ素を含まないものとする。]
【0031】
(Z3)成分は、光を直接吸収することで自身が励起されて酸を発生する、あるいは光エネルギーを吸収した増感剤を介して(乙3)成分が励起されることで酸を発生する。
【0032】
(Z3)には、熱架橋化された後の樹脂層3を十分にポジ化でき、かつ上層に設けられることになる流路壁を形成するための光カチオン重合性の材料に対して影響が小さい酸、を発生する化合物であることが望まれる。
【0033】
その観点から、本発明においては(Z3)成分として式(1)で表される酸を発生する化合物を使用する。
【0034】
式(1)で示される酸はそのpKaが−1.5以上3.0以下の範囲であるため、適していると推察される。この理由として、pKa−1.5未満では、酸として強く、流路壁形成用の材料中のカチオン重合性の基である例えばエポキシ基との反応が旺盛で、本来得たい流路壁ではない部分も硬化させてしまう恐れがあるからである。また、pKaが3.0より大きい場合では、発生する酸が弱く、樹脂層3中の熱架橋後の組成物のポジ化反応が十分ではなく、ポジ型の樹脂層3が低感度になってしまう恐れがある。なお、上記酸(1)は芳香族炭化水素の置換基にフッ素を含むとpKaが−1.5より小さくなる可能性が高いため、芳香族炭化水素の置換基にはフッ素を含まないものとする。
【0035】
このような(Z3)成分の材料として、特に好ましいのはトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤である。このトルエンスルホン酸を発生させる酸発生剤の例としては、式(2)で示される化合物群に含まれる各化合物などを挙げることができるが、熱安定性にすぐれているため下記式(2)のうちの式(a)〜(d)で示される化合物が好ましい。さらにその中でも、スルフォウム塩はヨードニウム塩と比較して熱的安定性に優れることから、式(a)で示される化合物または式(b)で示される化合物が好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
この(Z3)成分の光酸発生剤は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。その含有量は、(Z1)成分100質量部に対し、少なくとも0.5以上20質量部以下の範囲であれば十分その特性が発揮されるがこれに限定されない。
【0038】
樹脂層3を形成するための樹脂組成物には、さらに所望により混和性のある添加物、例えばレジスト膜の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、安定剤、着色剤、界面活性剤などの慣用されているものを添加含有させることができる。また、樹脂層3を露光するための露光波長にあわせて適宜選択して増感剤を添加しても良い。
【0039】
樹脂層3の形成方法としては、樹脂組成物を基板1上に塗布した後、90〜180℃で30〜600秒間加熱して層を形成することが挙げられる。これにより、(Z1)ポリヒドロキシスチレン系樹脂と、(Z2)ビニルエーテル基を2個以上有する化合物と、が熱架橋を行う。より好ましくは120℃〜170℃で60〜480秒間である。樹脂層3の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、2〜50μmである。また別の基材上で組成物に対して加熱処理を行い熱架橋までを行った後の樹脂層を、基板1上に転写して樹脂層3を形成してもよい。
【0040】
次に、樹脂層3に光を照射する。露光部3aは上述した作用により現像液に対しての溶解性が増す。一方、部分的に遮光されたことで露光されなかった未露光部3bは流路の型8となる。所望の露光ができるものであればどのような露光装置を用いても良いが、ミックス&マッチの観点から、後述の流路壁形成用の材料を露光するために使用する露光機と同じ装置であることが好ましい。光源としてi線を使用することはもちろん可能であり、メカ精度の高い縮小投影型の露光機を使用可能である。
【0041】
次いで、露光後の樹脂層をホットプレート上で50〜150℃、より好ましくは、60〜110℃で30〜600秒間、PEB(ポストエクスポージャーベーク)する。
【0042】
次いで、現像液を使用して現像することにより露光部3aを除去して、樹脂層3から液体の流路の型8を形成する(図2(c))。
【0043】
現像には0.1〜10質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液のようなアルカリ性水溶液などが使用できる。他に、アルカリ性水溶液以外のエタノールやIPA(イソプロピルアルコール)のようなポリヒドロキシスチレンを溶解可能な有機溶媒を用いてももちろん良い。さらに、純水等によりリンス処理を行ってもよい。
【0044】
次に、型8が設けられた基板1上に、流路形成用の型8を被覆するように、流路壁部材を形成するための光カチオン重合型感光性樹脂組成物からなる被覆層4を形成する(図2(d))。被覆層4を構成する光カチオン重合型感光性樹脂組成物はカチオン重合性基をもつカチオン重合性の樹脂と光カチオン重合開始剤とを含有する。カチオン重合性基をもつカチオン重合性の樹脂としては、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂が挙げられる。
【0045】
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物を挙げることができる。また、フェノールノボラックあるいはo−クレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応物や、特開平2−140219号公報に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等があげられるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0046】
また、上述のエポキシ樹脂においては、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。これは、エポキシ当量が2000を越えると、硬化反応の際に架橋密度が低下し、密着性、耐液性に問題が生じる場合があるからである。
【0047】
上述のエポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光の照射を受けることにより酸を発生する化合物を用いることができ、具体的には芳香族スルフォニウム塩、芳香族ヨードニウム塩が挙げられる。より具体的には株式会社ADEKAより市販されているSP−150、SP−170、SP−172等を好適に用いることができる。
【0048】
さらに被覆層4を構成する光カチオン重合型感光性樹脂組成物に対して必要に応じて添加剤など適宜添加することが可能である。例えば、エポキシ樹脂の弾性率を下げる目的で可撓性付与剤を添加すること、あるいは下地との更なる密着力を得るためにシランカップリング剤を添加することなどが挙げられる。
【0049】
被覆層4を型8上に設ける方法としては、例えば、光カチオン重合型感光性樹脂組成物をキシレン、ジグライム等の溶媒に適宜溶解し、スピンコート法等により型8及び基板1上に塗布することが挙げられる。その後、プリベークすることで被覆層4を形成することができる。被覆層4の厚さとしては、流路壁にある程度の機械的強度が必要なことから型8上の厚さとして2μm以上であることが好ましい。また、厚さの上限は、後で形成する吐出口の現像性が損なわれない範囲であれば、特に制限されるものではないが、例えば、型8上の厚みとして100μm以下であると現像性は十分であると考えられる。
【0050】
次に、被覆層4に光を照射し、被覆層4の露光が行われた部分を硬化させる(図2(e))。光が照射された部分では、光カチオン重合開始剤からカチオン活性種が生じ、光カチオン重合性の樹脂がカチオン重合を行うことにより硬化が進行する。吐出口を形成する予定の部位は後で現像により除去するので、露光されないようにマスクを用いて遮光する。必要に応じて加熱を行い、硬化を促進してもよい。
【0051】
その後MIBK(メチルイソブチルケトン)、キシレンなどにより現像を行い未露光部を除去して吐出口となる開口5aを被覆層4に形成する。必要に応じてIPA(イソプロピルアルコール)などによりリンス処理を行ってもよい(図2(f))。
【0052】
次いで基板にエッチングを行い供給口6を形成し、型8を適当な溶媒に溶解して除去することにより吐出口5と連通する流路9を形成し、流路壁部材7を得る。(図2(g))。この際、型8の架橋部を分解させる為、型8に光を照射し、光照射後に加熱処理を行った後、適当な溶媒に溶解させてももちろん良い。これ以外の方法であっても本発明の主旨を逸脱しないものであれば使用できる。また、ここでいう適当な溶媒とは、アルカリ水溶液でも有機溶媒でも良い。
【0053】
その後、前記基板1をダイシングソー等により切断分離、チップ化し、エネルギー発生素子2を駆動させるための電気的接合を行う。さらに、液体供給のための外部部材を供給口6に接続して、液体吐出ヘッドが完成する。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に記載する方法で、実施例、比較例の液体吐出ヘッドを製造した。
【0055】
(実施例1)
まずエネルギー発生素子2が一方の面側に複数設けられているSiの基板1を用意した(図2(a))。
【0056】
次いで、型形成用の樹脂組成物として、以下に示す樹脂組成物を用意した。
【0057】
(Z1)フェノール性水酸基の30%の水素原子がtert‐ブチル基で置換されたポリヒドロキシスチレン(t−Bu) 100質量部
(Z2)トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル(BEI) 100質量部
(Z3)TPS−1000(商品名 みどり化学(株)製) 2質量部
なお、樹脂組成物の光感度を向上させるため(Z1)成分の質量に対して1質量部各実施例、各比較例とも共通に光増感剤(SP−100 商品名 ADEKA(株)製)を加えている。なお光増感剤はアントラセン化合物である。
【0058】
ここで、TPS−1000が、光の作用を受けて生じる酸はトルエンスルホン酸であり、トルエンスルホン酸のpKaは―0.43±0.50(pKaDB(商品名 富士通(株)製を用いて算出した値)である。
【0059】
次いで、該樹脂組成物を基板1上に塗布し、150℃で5分間ベークすることにより、樹脂層3を膜厚5μmで形成した(図2(b))。なおこの樹脂組成物中の溶媒成分は、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)である。
【0060】
その後、i線ステッパー(キヤノン(株)製)を用いて樹脂層3を露光した(図2(c))。
【0061】
その後、80℃で5分間PEBを行い、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド2.34重量%水溶液を使用して現像し、純水によるリンスを行って型8を得た(図2(d))。
【0062】
次いで、カチオン重合性樹脂としてエポキシ樹脂を使用した流路壁形成用の光カチオン重合性樹脂組成物(以下の組成)を型8上にスピンコートして被覆層4を形成した。なお溶媒としてはジグライムを使用した。
【0063】
(流路壁形成用の光カチオン重合性樹脂組成物)
カチオン重合性樹脂:表1に記載のエポキシ樹脂 100質量部
光カチオン重合開始剤:SP―172(商品名 ADEKA(株)製)2質量部
シランカップリング剤:A−187(商品名 日本ユニカー(株)製)5質量部
なお以降の実施例、比較例において、カチオン重合性樹脂:光カチオン重合開始剤:シランカップリング剤の質量比は、100:2:5である。
【0064】
次いで、i線ステッパー(キヤノン(株)製)を用いて露光(図2(e))し、90℃で4分間のPEB後、MIBKを現像液として吐出口となる直径15μmの開口5aを形成した(図2(f))。
【0065】
次いで、供給口6を形成し、型8を除去して流路9を形成した(図2(g))。最後に、流路壁部材をより確実に硬化させるために、200℃1時間の加熱を行った。以上により液体吐出ヘッドを得た。
【0066】
(実施例2)
流路壁形成用のエポキシ樹脂をEHPE3150からJER157(商品名 ジャパンエポキシレジン(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0067】
(実施例3)
型形成用の樹脂組成物中の(Z3)成分として、TPS−1000に変えてWPAG−367(商品名 和光純薬工業(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。ここで、WPAG−367に、光を照射することよって生じる酸はトルエンスルホン酸であり、トルエンスルホン酸のpKaは―0.43±0.50(pKaDB(商品名 富士通(株)製を用いて算出した値)である。
【0068】
(実施例4)
型形成用の樹脂組成物中の(Z3)成分として、TPS−1000に変えてWPAG−367を使用し、流路壁形成用のエポキシ樹脂をEHPE3150に変えてJER157とした以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0069】
(実施例5)
型形成用の樹脂組成物中の(Z1)成分として、t―Buに変えてフェノール性水酸基の30%の水素原子がtert‐ブトキシカルボニル基で置換されたポリヒドロキシスチレン(TBOC)を使用した。それ以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0070】
(実施例6)
型形成用の樹脂組成物中の(Z1)成分として、t―Buに変えてTBOCを使用した。また流路壁形成用のエポキシ樹脂をEHPE3150に変えてJER157とした以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0071】
(実施例7)
型形成用の樹脂組成物中の(Z1)成分として、t―Buに変えてTBOCを使用し、(Z3)成分として、TPS−1000に変えてWPAG−367を使用した以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0072】
(実施例8)
型形成用の樹脂組成物中の(Z1)成分として、t―Buに変えてTBOCを使用し、(Z3)成分として、TPS−1000に変えてWPAG−367を使用し、また流路壁形成用のエポキシ樹脂をEHPE3150に変えてJER157とした。それ以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0073】
(比較例1)
型形成用の樹脂組成物中の光酸発生剤成分として、実施例1で(Z3)成分として使用したTPS−1000に変えてTPS―109(商品名 みどり化学(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。ここで、TPS−109に光を照射することよって生じる酸はパーフルオロブタンスルホン酸であり、パーフルオロブタンスルホン酸のpKaは―0.43±0.50(pKaDB(商品名 富士通(株)製を用いて算出した値)である。
【0074】
(比較例2)
型形成用の樹脂組成物中の光酸発生剤成分として、実施例1で(Z3)成分として使用したTPS−1000に変えてTPS―109(商品名 みどり化学(株)製)を使用した以外は実施例5と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0075】
(比較例3)
型形成用の樹脂組成物中の光酸発生剤成分として、実施例1で(Z3)成分として使用したTPS−1000に変えてTPS―Acetate(商品名 みどり化学(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成を試みた。ここで、TPS―Acetateに光を照射することよって生じる酸は酢酸であり、酢酸のpKaは4.79±0.10(pKaDB(商品名 富士通(株)製を用いて算出した値)である。
【0076】
しかしながら、流路の型が所望の形に形成できず液体吐出ヘッドの作成を中断した。
【0077】
以上、各実施例の製造方法により得られた液体吐出ヘッドと、比較例の製造方法により得られた液体吐出ヘッドと、のそれぞれの液体吐出ヘッドについて、吐出と流路との連通部分(図2(g)の点鎖線で囲まれた部分C)を走査型電子顕微鏡で観察し、評価した。評価は以下の通りである。
○:吐出口と流路との連通部に余分な残渣が見られず、当該部位の吐出口エッジはシャープである。
△:吐出口と流路との連通部にかかる固体膜が見られる。
【0078】
各実施例で使用した材料と評価結果をまとめたものを表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表中の略記、商品名については以下の通りである。
【0081】
[型形成用の樹脂組成物]
(Z1)成分として
t−Bu:フェノール性水酸基の30%の水素原子がtert‐ブチル基で置換されたポリヒドロキシスチレン
TBOC:フェノール性水酸基の30%の水素原子がtert‐ブトキシカルボニル基で置換されたポリヒドロキシスチレン
(Z2)成分として
BEI:トリメチロールプロパンエトキシレートトリビニルエーテル
実施例の(Z3)成分、比較例の光酸発生剤として使用した化合物の説明を表2に示す。
【0082】
なお、TPS−1000は上述の式(2)中の式(a)で表される化合物であり、WPAG−367は式(2)中の式(b)で表される化合物である。
【0083】
【表2】

【0084】
※pKaDB(商品名 富士通(株)製)を用いて算出した値
【0085】
[流路壁形成用材料]
(エポキシ樹脂)
EHPE3150・・・(多官能エポキシ樹脂 商品名 ダイセル化学工業(株)製)
JER157・・・(ビスフェノールA型ノボラック型多官能エポキシ樹脂 ジャパンエポキシレジン(株)製)
【0086】
比較例1、2で観察された吐出口と流路間の膜は、流路壁部材と同じ材料で、被覆層の硬化物であると考えられる。これは、比較例1、2において、型形成用材料の光酸発生剤として使用したTPS−109から発生した酸の作用により、被覆層中の露光を行わないことで硬化をさせず、除去すべきところが硬化してしまったと考えられる。この原因はTPS―109から発生する酸であるパーフルオロブタンスルホン酸のpKaが−3.57±0.50と−1.5以下であり非常に酸として強いことによる。型8中に残存したこの強い酸と流路壁形成材料中のエポキシ樹脂のエポキシ基とが反応してしまい、被覆層中の未露光部でも硬化が進行し現像液に不溶になってしまったと考えられる。
【0087】
また、比較例3では、型形成用材料を露光した後現像を行ったが、現像後除去したい部分の表層部しか除去することができず型8が形成できなかった。これは型形成用材料の光酸発生剤として使用したTPS−Acetateから発生する酢酸のpKaが4.79±0.10と3.0以上であり酸として弱く、露光部のポジ化反応が十分進行しなかったためであると考えられる。
【0088】
また、実施例1〜8では、液体吐出ヘッドの流路と吐出口との間に残膜がなく連通部のエッジのシャープな吐出口形状が得られた。使用した(Z3)成分から発生する酸は、pKaが−0.43±0.50で、−1.5以上3.0以内である。この酸の強度が型8形成のためのポジ化反応には十分であり、かつ残存物が被覆層4への与える影響が小さいという適正な強度であったため良好な結果が得られたと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 エネルギー発生素子
4 被覆層
5 吐出口
6 供給口
8 型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と連通する液体の流路の壁を備えた流路壁部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
一部のフェノール性水酸基の水素原子が酸で解離する基で置換されたポリヒドロキシスチレン系樹脂と、
ビニルエーテル基を2個以上有する化合物と、
光からのエネルギーによって式(1)で表される酸を発生する化合物と、
A−SOH・・・(1)
[式中Aは、置換または未置換の芳香族炭化水素であり、芳香族炭化水素の置換基はフッ素を含まないものとする。]
を含む樹脂組成物からなる樹脂層が設けられた基板を用意する工程と、
前記樹脂層を露光し、露光された部分を除去して、前記樹脂層から前記流路の型を形成する工程と、
カチオン重合性の樹脂と、カチオン重合開始剤と、を含んだ前記流路壁部材となる被覆層を前記型を被覆するように設ける工程と、
前記被覆層を露光し、前記被覆層の露光が行われなかった部分を除去して前記吐出口となる開口を形成する工程と、
前記型を除去して前記流路を形成する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記酸がトルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記酸を発生する化合物が、式(a)〜(k)で示される化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【化1】

【請求項4】
前記酸を発生する化合物が、式(a)〜(d)で示される化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【化2】

【請求項5】
前記酸を発生する化合物が、式(a)または式(b)で示される化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
i線で前記樹脂層を露光することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
i線で前記被覆層を露光することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記式(1)で表される酸のpKaが−1.5以上3.0以内であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
一部のフェノール性水酸基の水素原子が酸で解離する基で置換されたポリヒドロキシスチレン系樹脂と、
ビニルエーテル基を2個以上有する化合物と、
光からのエネルギーを受けることで、式(1)で表される酸を発生する化合物と、
A−SOH・・・(1)
[式中Aは、置換または未置換の芳香族炭化水素であり、芳香族炭化水素の置換基はフッ素を含まないものとする。]
を含む液体吐出ヘッドの流路形成用の感光性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213058(P2011−213058A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85464(P2010−85464)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】