説明

感光性樹脂組成物及びこれを用いた回路形成用基板

【課題】吸湿膨張係数が小さく、現像液に対する溶解性が良好なパターンを形成し得る感光性樹脂組成物、この感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法及び回路形成用基板を提供する。
【解決手段】(a)下記式(A)で表わされる構造単位を有するポリマーと、(b)活性光線照射によりラジカルを発生する化合物で、下記式(B)で表される構造を含む化合物と、(c)アリールスルホンアミド誘導体とを含有してなる感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路形成用基板に用いられる感光性樹脂組成物、特に近年高容量化や小型化が急がれているハードディスクドライブ用サスペンションに用いられる感光性樹脂組成物、この感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法及び回路形成用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜には優れた耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つポリイミド樹脂が用いられている。しかし近年半導体素子の高集積化、大型化が進む中、封止樹脂パッケージの薄型化、小型化が要求され、LOC(リード・オン・チップ)や半田リフローによる表面実装等の方式が採用され、これまで以上に機械特性、耐熱性等に優れたポリイミド樹脂が必要とされるようになってきた。
【0003】
一方、ポリイミド樹脂自身に感光特性を付与した感光性ポリイミドが用いられてきているが、これを用いるとパターン作製工程が簡略化でき、煩雑な製造工程の短縮が行えるという特徴を有する。従来の感光性ポリイミド又はその前駆体を用いた耐熱性フォトジストや、その用途については良く知られている。ネガ型では、ポリイミド前駆体にエステル結合又はイオン結合を介してメタクリロイル基を導入する方法(例えば、特許文献1〜4参照)、光重合性オレフィンを有する可溶性ポリイミド(例えば、特許文献5〜10参照)、ベンゾフェノン骨格を有し、かつ窒素原子が結合する芳香環のオルソ位にアルキル基を有する自己増感型ポリイミド(例えば、特許文献11、12参照)等がある。
【0004】
近年、以下に述べるハードディスクドライブの磁気ヘッドを実装するサスペンション上の回路形成用基板に、このような感光性ポリイミドを適用することが注目されている。
【0005】
ハードディスクドライブの高記憶容量化や高速化等の点から、磁気ヘッドとしては従来のMIG(メタルインギャップ)や磁気誘導型である薄膜に代わって、磁気抵抗型のMR(Magneto Resistive)素子と薄膜を一体化させた、所謂MR−薄膜複合型ヘッドが注目されている。
【0006】
従来のヘッドが磁気信号の読み書きを1ヘッドで兼用させるのに対し、MRヘッドは読み書きを1ヘッド内で分業させるために、端子の数は2倍(必要に応じてさらにアース端子も加わる)となって、ヘッドとディスク本体を接続するワイヤーの細線化が必要となる。
【0007】
しかしながら、細線化を行うとワイヤーが腐食しやすくなり、また、インピーダンスの整合も取り難くなったり、ヘッドの実装も難しくなるという問題を生じるようになる。このような新たな問題点を解決するための方法として、ヘッドを実装するサスペンション上に直接回路を形成する方法が提案されている(特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3712164号公報
【特許文献2】特開2006−173655号公報
【特許文献3】特開2008−1876号公報
【特許文献4】特開2008−1877号公報
【特許文献5】特開平10−36506号公報
【特許文献6】特開2000−159887号公報
【特許文献7】特開2000−290372号公報
【特許文献8】特開2006−328407号公報
【特許文献9】特許第3860359号公報
【特許文献10】特開2006−328407号公報
【特許文献11】特開2008−251121号公報
【特許文献12】特開2008−310946号公報
【特許文献13】特開昭48−16620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような回路形成用基板には、回路の層間絶縁膜又は保護層として優れた耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つポリイミド樹脂層が用いられている。しかしながら、ポリイミド樹脂層の吸水率が高いと、例えばハードディスクドライブ本体にサスペンションとしてこのような回路形成用基板を組み込んだ場合に、ポリイミド樹脂層への水の吸脱着に伴う寸法変化が大きくなって、サスペンション自体が反ってしまい、アライメント精度が低下すると共に、ディスクと本体との間隔が変化してデバイスとしての性能不良を起こすという問題点があった。
【0010】
また、吸水率の低いポリイミド樹脂はフッ素を含有するものが多く、また、構造が剛直であるため、ポリイミド樹脂を感光性にした場合、現像液である有機溶剤への溶解性が著しく低いことや、露光部と未露光部に像形成に十分な溶解速度差が得られない等の問題点もあった。
【0011】
本発明は、以上のような従来の課題を解決するためになされたものであって、吸湿膨張係数が小さく、現像液に対する溶解性が良好なパターンを形成し得、さらに上記サスペンション等の回路形成用基板の層間絶縁膜又は保護膜用途として適切な諸特性を有する感光性樹脂組成物、この感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法及び回路形成用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下の感光性樹脂組成物等が提供される。
1.(a)下記式(A)
【化1】

(式(A)中、式(A)中、Rは3価又は4価の有機基、Rは2価の有機基、Rは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基又はOで表される基であり、Mは、水素イオン又は炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物のイオンであり、Rの少なくとも1つは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基か、Oで表される基であってかつMが炭素炭素二重結合を有する化合物のイオンであり、nは1又は2である。)で表わされる構造単位を有するポリマーと、(b)活性光線照射によりラジカルを発生する化合物で、下記式(B)で表される構造を含む化合物と、(c)アリールスルホンアミド誘導体とを含有してなる感光性樹脂組成物。
【化2】

(式(B)中、Rは1価の芳香環又はヘテロ環であり、置換基を有していてもよい。)
2.前記アリールスルホンアミド誘導体(c)が、ベンゼンスルホンアミド誘導体である1に記載の感光性樹脂組成物。
3.式(A)で表わされる構造単位中、Rが、下記式(2)又は(3)で表わされる構造である1又は2記載の感光性樹脂組成物。
【化3】

(式(2),(3)中、複数あるRは各々独立にフッ素原子、又は酸素原子、硫黄原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1〜10の1価の有機基を表す。m、nは各々独立に0〜4の整数を表す。)
4.式(A)で表わされる構造単位中、Rが、下記式(4)で表わされる構造である1乃至3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【化4】

(式(4)中、Rは各々独立にフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。)
5.前記化合物(b)が、オキシムエステル構造を含む化合物である1乃至4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
6.前記化合物(b)が、下記式(5)で表される5に記載の感光性樹脂組成物。
【化5】

(式(5)中、R10〜R16は各々独立に一価の基を表す)
7.前記化合物(b)が下記式(6)で表される6に記載の感光性樹脂組成物。
【化6】

8.前記化合物(b)が、前記ポリマー(a)100質量部に対して0.1〜20質量部含まれる1乃至7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
9.前記アリールスルホンアミド誘導体(c)が、前記ポリマー(a)100質量部に対して2〜30質量部含まれる1乃至8のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
10.回路形成用基板の層間絶縁膜又は保護膜用である1乃至9のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
11.前記回路形成用基板が、ハードディスクドライブ用サスペンションの支持基板である10に記載の感光性樹脂組成物。
12.1乃至11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を、ハードディスクドライブ用サスペンションの支持基板上に塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成する工程と、前記感光性樹脂膜を露光する工程と、前記露光後の感光性樹脂膜を現像する工程と、前記現像後の感光性樹脂膜を加熱処理する工程とを含むパターン形成方法。
13.12に記載のパターン形成方法により得られるパターンの層を、層間絶縁膜又は保護膜として有する回路形成用基板。
14.支持基板と、層間絶縁膜と、導電層と、保護膜をこの順に含み、前記層間絶縁膜と保護膜の少なくとも1つが1乃至11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物から形成されたものである回路形成用基板。
15.ハードディスクドライブ用サスペンションである13又は14記載の回路形成用基板。
【発明の効果】
【0013】
本発明による感光性樹脂組成物は、現像液に対する溶解性が良好であり、吸湿率の低いパターンを形成することができる。
【0014】
また、本発明によるパターン形成方法は、感光性樹脂を露光、現像する際に、現像液に対する溶解性が良好なため、パターンの形成時間の短縮、作業性の向上により製造コストを低下させることができる。
【0015】
さらに、本発明による回路形成用基板は、回路の層間絶縁層又は保護層として、良好な形状と特性のパターンを有することにより、信頼性が高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図7】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態における感光性樹脂組成物を使用したハードディスクドライブ用サスペンションを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明にかかる感光性樹脂組成物、この感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法及び回路形成用基板の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が制限されるものではない。
【0018】
(a)成分(ポリマー)
式(A)で表わされる構造単位を有するポリマーにおいて、式(A)中のRは、3価又は4価の有機基である。この基は一般に、原料として使用するテトラカルボン酸(二無水物)又はトリカルボン酸(無水物)の、カルボキシ基及び酸無水物基以外の残基であり、ベンゼン環等の芳香環を有する基であることが好ましい。具体的には後述するテトラカルボン酸二無水物の残基等が挙げられる。
【0019】
また、式(A)中のRは、2価の有機基である。この基は一般に、原料として使用するジアミンのアミノ基以外の残基であり、具体的には後述するジアミンの残基等が挙げられる。
【0020】
式(A)中、nは、1又は2である。nが2のとき複数のRは同一でも異なってもよい。
【0021】
式(A)におけるRは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基、又はOで表される基である。Oは、水素又は炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基と、酸素がイオン結合した基である。少なくとも1つのRは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基か、Oで表される基であってかつMが炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の基である。
ここで炭素炭素不飽和二重結合を有する基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基等を含む基等が挙げられるが、反応性等の点でアクリロイル基、メタクリロイル基を含む基が好ましい。Rの具体例としては、アクリロキシアルキルオキシ基(CH=CH−COO−R’−O−。R’はアルキレン基(例えば炭素原子数1〜10)等)、メタクリロキシアルキルオキシ基(CH=C(CH)−COO−R’−O−。R’はアルキレン基(例えば炭素原子数1〜10)等)、アクリロキシアルキルアミノ基(CH=CH−COO−R’−NH−。R’はアルキレン基(例えば炭素原子数1〜10)等)、メタクリロキシアルキルアミノ基(CH=C(CH)−COO−R’−NH−。R’はアルキレン基(例えば炭素原子数1〜10)等)等の一価の有機基が挙げられる。中でも炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物が共有結合により隣接するCOとエステル結合を形成する基であることが好ましい。炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物が隣接するカルボニル基とエステル結合を形成するには、例えば、これらの有機基を有するアルコール類と、ポリマーの酸部を構成するテトラカルボン酸二無水物とを反応させる。また、炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物がイオン結合したOで表される基として、ジアルキルアミノアルキルアクリレート又はジアルキルアミノアルキルメタクリレート(例えば各アルキルの炭素原子数1〜10)がイオン結合した基(CH=CH−COO−R’−NH(C2n+1、CH=C(CH)−COO−R’−NH(C2n+1、nは、正の整数(例えば1〜10)であり、R’はアルキレン基である(例えば炭素原子数1〜10))が挙げられる。
【0022】
これらの中で、Rの少なくとも1つが、炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物がイオン結合したOで表される基であるものが反応性等の点で好ましく、特に、下記式(1)で表される構造単位を有するポリマーが好ましい。
【0023】
【化7】

(式(1)中、R、R、M、nは、式(A)と同じである。)
【0024】
上記式(A)又は(1)で表されるポリマーは、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を付加重合させて得るポリアミド酸に、感光性を付与させるために、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するアミン化合物を添加撹拌することで、前記ポリアミド酸にアミン化合物をイオン結合させて得ることができる。こうして得られるポリマーは、式(A)又は(1)で表される構造単位を有し、かつ、ポリマー中に必ず、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基を有する化合物のイオンを有する。
【0025】
上記式(A)又は(1)において、[CO−R−CONH−R−NH]で示される構造単位の数をmとするとその数は、特に制限はないが、m=30〜150であることが好ましい。また、ポリマー中には、前記式(A)又は(1)で表される構造単位以外の構造単位を有していてもよいが、通常は前記式(A)又は(1)で表される構造単位からなり、その両末端に水素原子、OH基等の末端基を有するものであることが好ましい。式(A)又は(1)の構造単位以外の構造単位として、式(A)又は(1)においてCOR又は-COOの側鎖を全く持たない構造単位や、COR又は-COOが全て-COOH(カルボキシ基)である構造単位等が挙げられる。その含有量は、式(A)又は(1)の構造単位以外の構造単位の数をtとしたとき、tが前記mと同数以下であることが好ましく、tはm+tの合計に対して0.3以下であることが好ましい。
【0026】
(a)成分の重量平均分子量(Mw)は10,000〜200,000程度であることが好ましい。(a)成分がO-+を含む場合、イオン結合により炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物が結合する前の状態、即ちポリアミド酸の状態での重量平均分子量(Mw)が、10,000〜90,000であることが好ましい。尚、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン換算して算出することができる。
【0027】
前記テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルフォニルジフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
前記ジアミン化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−(又は3,4’−、3,3’−、2,4’−)ジアミノジフェニルメタン、4,4’−(又は3,4’−、3,3’−、2,4’−)ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(又は3,4’−、3,3’−、2,4’−)ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−(又は3,4’−、3,3’−、2,4’−)ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ベンゾフェノンジアミン、3,3’−ベンゾフェノンジアミン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジ(3−アミノフェノキシ)フ
ェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、5,5’−メチレン−ビス−(アントラニル酸)、3,5−ジアミノ安息香酸、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル−6,6’−ジスルホン酸等の芳香族ジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノ−s−トリアジン、2,7−ジアミノベンゾフラン、2,7−ジアミノカルバゾール、3,7−ジアミノフェノチアジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−チアジアゾール、2,4−ジアミノ−6−フェニル−s−トリアジン等の複素環式ジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、下記式(4)
【0029】
【化8】

(式(4)中、R,R,R及びRは、各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し、o及びpは、各々独立に1〜10の整数である)で示されるジアミノポリシロキサン等の脂肪族ジアミン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
上記のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物はそれぞれ単独及び/又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0031】
上記したジアミン化合物の中で下記式(2)又は(3)で表されるジアミン残基を有するものは、感光性樹脂として好適な透明性を与える他、サスペンションの層間絶縁膜又は保護膜用途として好適な低熱膨張性、低吸湿膨張性を与えるので好ましい。
【0032】
【化9】

(式(2),(3)中、複数あるRは、各々独立にフッ素原子、又は酸素原子、硫黄原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい、炭素数1〜10の1価の有機基である。m、nは、各々独立に0〜4の整数を表す。)
【0033】
これらの中でも、Rが、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基から選ばれる基であることが、低吸湿膨張性の観点で好ましい。特に好ましくはRが、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0034】
また、式(2)において、低熱膨張性、低吸湿膨張性を与えるという点で、2つのRが、両ベンゼン環を繋ぐ結合に対してオルト位に位置することが好ましい。そのような構造の中でも好ましいものは、以下の式(4)にて表されるジアミン残基である。
【0035】
【化10】

(式(4)中、Rは各々独立にフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。)
【0036】
ポリアミド酸に感光性を付与させるために添加するアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するアミンとしては、例えば、N,N−ジエチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するアミンを、上記のポリアミド酸100質量部に対して、20〜200質量部添加して(a)成分を形成することが好ましい。
【0037】
(b)成分(感光剤)
(b)成分は、活性光線照射によりラジカルを発生する化合物で、下記式(B)で表される構造を含む。
【0038】
【化11】

(式(B)中、Rは1価の芳香環又はヘテロ環であり、置換基を有していてもよい)
【0039】
(b)成分は、この構造を有し活性光線照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば特に制限はない。
【0040】
例えば、後に述べるオキシムエステル類に分類される化合物の他にも、以下のような化合物を好ましいものとして挙げることが出来る。
【0041】
ベンゾフェノン、N,N′−テトラメチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)等のN,N′−テトラアルキル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパノン−1等の芳香族ケトン、アルキルアントラキノン等の芳香環と縮環したキノン類、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾインエーテル化合物、ベンゾイン、アルキルベンゾイン等のベンゾイン化合物、ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体、また下記式(10)にて表される化合物。
【0042】
【化12】

(式(10)中、R50は、炭素数1〜20のアルキル;1個以上の酸素原子によって中断された炭素数2〜20のアルキル;炭素数1〜12のアルコキシ;炭素数1〜4のアルキルで置換されたフェニル;フェニル;炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜12のアルコキシ、ハロゲン、シクロペンチル、シクロヘキシル、炭素数1〜12のアルケニル、1個以上の酸素原子によって中断された炭素数2〜18のアルキル及び/又は炭素数1〜4のアルキルで置換されたフェニル;又はビフェニリルであり、R51は、式(11)で表される基であるか、上記R50と同じの基であり、R52〜R54は各々独立に炭素数1〜12のアルキル、炭素数1〜12のアルコキシ又はハロゲンである。)
【0043】
【化13】

(式(11)中、R55〜R57は、上記式(10)のR52〜R54と同じである)
【0044】
これらの中でも特にオキシムエステル類は、感度に優れ、上述した式(2)又は(3)で表されるジアミン残基を有するポリマー、特には(4)で表されるジアミン残基を有するポリマーを含む感光性樹脂組成物において格段に良好なパターンを与え、より好ましい。特に式(4)で表されるジアミン残基を有する(a)成分の場合、しばしば良好な感光特性が得られないことがあるが、そのような(a)成分であっても良好な感度、残膜率が得られる観点で、特に好ましいオキシムエステル類は、下記式(5)にて表される化合物である。
【0045】
【化14】

式(5)中、R10〜R16は各々独立に一価の基を表す。
前記一価の有機基として好ましいものは各置換基で異なり、以下のようなものが挙げられる。
【0046】
10は、
フェニル基(但し、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子、−OR30’、−SR31’もしくは−N(R32’)(R33’)の1個以上で置換されてもよい。R30’〜R33’は、炭素数1〜20のアルキル基である)、
炭素数1〜20のアルキル基(但し、アルキル基の炭素数が2〜20の場合、主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子を有するか、及び/又は1個以上の水酸基で置換されてもよい。)、
炭素数5〜8のシクロアルキル基、
炭素数2〜20のアルカノイル基、
ベンゾイル基(但し、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、−OR30’、−SR31’もしくは−N(R32’)(R33’)の1個以上で置換されてもよい。R30’〜R33’は、炭素数1〜20のアルキル基である)、
炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基(但し、アルコキシル基の炭素数が2〜11の場合、該アルコキシル基は主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子を有するか、及び/又は1個以上の水酸基で置換されてもよい。)、
フェノキシカルボニル基(但し、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子、−OR30’もしくは−N(R32’)(R33’)の1個以上で置換されてもよい。R30’、R32’、R33’は、炭素数1〜20のアルキル基である)、
シアノ基、
ニトロ基、
−CON(R32)(R33)、
炭素数1〜4のハロアルキル基、
−S(O)m−R20(但し、R20は、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜12のアルキル基で置換されてもよい炭素数6〜12のアリール基を示し、mは1又は2である。)、
炭素数1〜6のアルコキシスルホニル基、
炭素数6〜10のアリーロキシスルホニル基、又は
ジフェニルホスフィノイル基を示し;
【0047】
11は、炭素数2〜12のアルカノイル基(但し、ハロゲン原子もしくはシアノ基の1個以上で置換されてもよい。)、
その二重結合がカルボニル基と共役していない炭素数4〜6のアルケノイル基、
ベンゾイル基(但し、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、−OR30、−SR31もしくは−N(R32)(R33)の1個以上で置換されてもよい)、
炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基、又は
フェノキシカルボニル基(但し、炭素数1〜6のアルキル基もしくはハロゲン原子の1個以上で置換されてもよい。)を示し;
【0048】
12、R13、R14、R15及びR16は、各々独立に
水素原子、
ハロゲン原子、
炭素数1〜12のアルキル基、
シクロペンチル基、
シクロヘキシル基、又は
フェニル基(但し、−OR30、−SR31もしくは−N(R32)(R33)の1個以上で置換されてもよい)、
ベンジル基、
ベンゾイル基、
炭素数2〜12のアルカノイル基、
炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基(但し、アルコキシル基の炭素数が2〜11の場合、該アルコキシル基は主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子を有するか、及び/又は1個以上の水酸基で置換されてもよい。)、
フェノキシカルボニル基、
−OR30(但し、−OR30は、フェニル環中もしくはフェニル環への置換基中の一つの炭素原子と結合して5員環もしくは6員環を形成してもよい。)、
−SR31(但し、−SR31は、フェニル環中もしくはフェニル環への置換基中の一つの炭素原子と結合して5員環もしくは6員環を形成してもよい。)、
−S(O)R31(但し、−SR31は、フェニル環中もしくはフェニル環への置換基中の一つの炭素原子と結合して5員環もしくは6員環を形成してもよい。)、
−SO31(但し、−SR31は、フェニル環中もしくはフェニル環への置換基中の一つの炭素原子と結合して5員環もしくは6員環を形成してもよい。)、又は
−N(R32)(R33)(但し、−NR32及び/又は−NR33は、フェニル環中もしくはフェニル環への置換基中の一つの炭素原子と結合して5員環もしくは6員環を形成してもよい。)を示し、かつ
12、R13、R14、R15及びR16の少なくとも一つは
−OR30、−SR31又は−N(R32)(R33)であり;
【0049】
30は、
水素原子、
炭素数1〜12のアルキル基、
置換された炭素数2〜6のアルキル基{但し、置換基は、水酸基、メルカプト基、シアノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数3〜6のアルケニルオキシ基、2−シアノエトキシ基、炭素数4〜7の2−(アルコキシカルボニル)エトキシ基、炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基、カルボキシル基もしくは炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基の1個以上からなる。}、
主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子を有する炭素数2〜6のアルキル基、
炭素数2〜8のアルカノイル基、
−(CHCHO)nH(但し、nは1〜20の整数である。)、
炭素数3〜12のアルケニル基、
炭素数3〜6のアルケノイル基、
シクロヘキシル基、
フェニル基(但し、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシル基で置換されてもよい。)、
炭素数7〜9のフェニルアルキル基、又は
−Si(R40(R413−r(但し、R40は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、R41はフェニル基を示し、rは1〜3の整数である。)を示し;
【0050】
31は、
水素原子、
炭素数1〜12のアルキル基、
炭素数3〜12のアルケニル基、
シクロヘキシル基、
置換された炭素数2〜6のアルキル基{但し、置換基は、水酸基、メルカプト基、シアノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数3〜6のアルケニルオキシ基、2−シアノエトキシ基、炭素数4〜7の2−(アルコキシカルボニル)エトキシ基、炭素数2〜5のアルキルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基、カルボキシル基もしくは炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基の1個以上からなる。}、
主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子もしくは硫黄原子を有する炭素数2〜12のアルキル基、
フェニル基(但し、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシル基で置換されてもよい。)、又は
炭素数7〜9のフェニルアルキル基を示し;
【0051】
32及びR33は、各々独立に
水素原子、
炭素数1〜12のアルキル基、
炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、
炭素数2〜10のアルコキシアルキル基、
炭素数3〜5のアルケニル基、
炭素数5〜12のシクロアルキル基、
炭素数7〜9のフェニルアルキル基、
フェニル基(但し、炭素数1〜12のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシル基の1個以上で置換されてもよい。)、
炭素数2〜3のアルカノイル基、
炭素数3〜6のアルケノイル基、又は
ベンゾイル基を示すか、あるいは
32とR33が一緒になって炭素数2〜6のアルキレン基(但し、主鎖炭素原子間に1個以上の酸素原子もしくは−NR30−を有するか、及び/又は水酸基、炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数2〜4のアルカノイルオキシ基もしくはベンゾイルオキシ基の1個以上で置換されてもよい。)を示す。
【0052】
とりわけこれらの中でも、R12、R13、R14、R15及びR16の少なくとも一つが−SR31のものは、感度、残膜率が特に優れるので、好ましい。
【0053】
式(5)において、R10は好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくは炭素数4〜7のアルキル基、特に好ましくはヘキシル基である。好ましくはR1216のうち4つが水素であり、より好ましくはR12,R13,R15,R16が水素であり、残りが、−SR31である。この−SR31は、好ましくはシクロヘキシル基、フェニル基、又は炭素数7〜10のフェニルアルキル基であり、より好ましくはフェニル基、又は炭素数7〜10のフェニルアルキル基であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0054】
さらに特にハードディスクサスペンションの保護膜用に相応しい低吸湿膨張係数を上昇させない、ときにはさらに低下させる働きを有するものとして、極めて好ましいものは下記式(6)の構造を持つ化合物である。
【0055】
【化15】

【0056】
前記(b)成分は、前記(a)成分100質量部に対して、0.1〜20質量部添加することが好ましい。この使用量が、0.1質量部未満では、光感度が劣る傾向があり、20質量部を超えると、フィルムの機械特性が劣る傾向がある。より好ましくは2〜10質量部である。
【0057】
(c)アリールスルホンアミド誘導体(溶解促進剤) (c)成分は現像液に対する溶解促進剤であり、後述する露光後の感光性樹脂膜を現像する工程において、感光性樹脂膜の現像液に対する溶解性を促進する。(c)成分は、感光性樹脂膜とその下層、例えば有機層、銅層、ステンレス層等との接着性に悪影響を与えない。従って、例えば有機層としてポリイミド樹脂層を有するものやステンレス製のハードディスクドライブのサスペンション等に特に有効である。
【0058】
(c)成分はベンゼンスルホンアミド誘導体が好ましい。その例として、ベンゼンスルホンアミド、トルエンスルホンアミド、メトキシベンゼンスルホンアミド、1−ナフタレンスルホンアミド、2−ナフタレンスルホンアミド、ベンゼンスルホニルアニリド、トルエンスルホニルアニリド、メトキシ−トルエンスルホニルアニリド、アセチル−トルエンスルホニルアニリド、トルエンスルホニル−N−メチルアミド、トルエンスルホニル−N−エチルアミド、トルエンスルホニル−N−プロピルアミド、トルエンスルホニル−N−ブチルアミド、トルエンスルホニル−N−フェニルアミド、トルエンスルホニル−N−ジメチルアミド、トルエンスルホニル−N−ジエチルアミド、トルエンスルホニル−N−ジフェニルアミド等を挙げることができる。中でもN−フェニルベンゼンスルホンアミドが特に効果が高いので好ましい。
【0059】
(c)成分の添加量は、上記(a)成分100質量部に対して、2〜30質量部添加するのが好ましく、さらに好ましくは3〜15質量部である。 (c)成分の添加量が2質量部未満であると、感光性樹脂が現像液に溶解せず、パターンを形成することが困難になる場合があり、一方、(c)成分の添加量が30質量部を超えると、形成されたパターンが脆くなる場合がある。
【0060】
本発明の感光性樹脂組成物は溶媒を含むことができる。
ポリアミド酸を合成する際及び感光性樹脂組成物の成分として用いる溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、スルホラン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で、又は二種以上組み合わせて使用される。
【0061】
溶媒の使用量は上記(a)成分100質量部に対して100〜500質量部添加されることが好ましい。
【0062】
本発明の感光性樹脂組成物は、一般にワニスの形態で提供される。また、感光性樹脂組成物には、増感剤、遮光剤、重合禁止剤、架橋剤、安定化剤、接着助剤等を必要によって添加してもよい。
【0063】
ここで重合禁止剤は、この感光性樹脂組成物の解像性を高めるとともに、保存時の安定性を高めるために用いられる。このようなラジカル重合禁止剤又はラジカル重合抑制剤としては、例えば、p−メトキシフェノール、ジフェニル−p−ベンゾキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ピロガロール、フェノチアジン、レゾルシノール、オルトジニトロベンゼン、パラジニトロベンゼン、メタジニトロベンゼン、フェナントラキノン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、クペロン、フェノチアジン、2,5−トルキノン、タンニン酸、パラベンジルアミノフェノール、ニトロソアミン類等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0064】
ラジカル重合禁止剤又はラジカル重合抑制剤の使用量は、(a)成分の総量100質量部に対して、0.01〜30質量部とすることが好ましく、0.05〜10質量部とすることがより好ましい。この使用量が、0.01質量部未満であると、保存時の安定性が劣る傾向があり、30質量部を超えると、光感度及び機械特性が劣る傾向がある。
【0065】
本発明の組成物は、溶媒を除いて、例えば、75%重量以上、85重量%以上、95重量%以上、100重量%が、(a)〜(c)成分からなる。本発明の組成物は、これらの成分の他に、上記の添加剤等本発明の新規で基本的な特性を実質的に損なわない物質を含むことができる。
【0066】
[パターン形成方法]
本発明によるパターン形成方法について説明する。本発明のパターン形成方法では、上述した感光性樹脂組成物を、例えばスプレー法、スクリーン印刷法、回転塗布法等によってハードディスクドライブ用サスペンションの支持基板、例えばサスペンション形成用ステンレス基板上に塗布する。次に、感光性樹脂組成物中の有機溶剤を加熱、乾燥することにより除去し、粘着性のない塗膜である感光性樹脂膜を得る。この塗膜上に、パターン状に活性光線を照射し、例えば、スルーホールのパターンを形成する。照射する活性光線としては、紫外線、遠紫外線、可視光線、電子線、X線等がある。活性光線の照射後、未照射部分を適当な現像液で除去することにより、所望のレリーフパターンを得る。
【0067】
現像液としては、特に制限はないが、1,1,1−トリクロロエタン等の難燃性溶媒、炭酸ナトリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液等のアルカリ水溶液、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の良溶媒、これら良溶媒と低級アルコール、水、芳香族炭化水素等の貧溶媒との混合溶媒等が用いられる。現像後は必要に応じて貧溶媒等でリンスを行う。
【0068】
このようにして得られたレリーフパターンを、例えば、80〜400℃で5〜300分間、加熱することにより、イミドを閉環させ、ポリイミドパターンを得ることができる。
【0069】
本発明によるパターン形成方法は、感光性樹脂膜の感度が良好なので、パターンの形成時間を短縮することができ、作業性が向上する。加えて、製造コストを低下させることができる。
【0070】
次に、本発明によるパターン形成方法の一例として、ハードディスクドライブのサスペンションにパターンを形成する工程を図面に基づいて説明する。
【0071】
図1〜図9は、感光性樹脂のパターンを形成する工程を説明する概略断面図である。これらの図1〜図9において、サスペンションを構成する支持基板1として例えばステンレス箔を用意し(図1)、次にこの支持基板1上に、上述した感光性樹脂組成物をスピンコーター等を用いて塗布し(図2)、露光、現像を行うことにより絶縁層2を形成する(図3)。
【0072】
次に、絶縁体である絶縁層2上にめっき膜を成長させるために、下地となる金属層としてシード層3を形成する(図4)。シード層3としては、クロム薄膜及び銅薄膜の2層を高周波スパッタリング法等により形成することができる。次に、シード層3上にレジスト(感光性樹脂組成物)4を塗布し、所定のパターンで露光、現像を行い(図5)、レジストパターンの開口部5に、順次電解めっき法により銅、ニッケル、金等の多層構造の回路導体を積層して回路層6を形成する(図6)。
【0073】
回路層6を形成した後、レジスト4を剥離し、シード層3をエッチングにより除去する(図7)。次に、回路層6を保護するために、上述と同じ感光性樹脂組成物を回路層6上に塗布し、露光、現像を行って保護層7を形成する(図8)。その後、保護層7及び支持基板1の所定部分を覆うカバー8を設け、ジンバルを形成することができる(図9)。
【0074】
[回路形成用基板]
本発明による感光性樹脂組成物は、上述したパターン形成方法によりパターンを形成するために使用され、得られたパターンは、回路形成用基板の基板の層間絶縁膜又は保護膜として用いられる。即ち、本発明による感光性樹脂組成物は、回路形成用基板のステンレス基板等の金属基板上に形成される層間絶縁膜の材料や、前記金属基板又は樹脂基板上に形成した電気的信号線の保護膜を形成するための材料として使用される。
【0075】
例えば、本発明の回路形成用基板は、ステンレス等の支持基板と、上記の感光性樹脂組成物から得られる層間絶縁膜と、銅層等の導電層と、上記の感光性樹脂組成物から得られる保護膜をこの順に含む。層間絶縁膜の上に、クロム層又はチタン層を介して銅層を形成してもよい。
【0076】
図10は、本発明による感光性樹脂組成物を使用してパターンを形成したハードディスクドライブのサスペンションの一例を示す概略平面図である。図10において、サスペンション10は、磁気ディスクへのデータの書き込み及び読み出し機能を備えた磁気ヘッドを搭載し、磁気ディスクと磁気ヘッドとの間隙を数十nmに精度良く制御する部材であり、ステンレス等で製造された板状部材11から構成されている。サスペンション10を構成する板状部材11の先端には、切り込み12によってジンバル13が一体に形成されており、ジンバル13上には、磁気ヘッドを有するスライダ(図示しない)が固定される。
【0077】
また、板状部材11上には、感光性樹脂組成物から作製された絶縁層(図示しない)が形成されており、その上に銅導体層14からなる所定のパターン回路が実装され、さらにその上に感光性樹脂組成物から作製された保護膜15が形成されている。尚、板状部材11上に所定のパターン回路が実装されているので、このサスペンション10はいわゆる「回路付きサスペンション」と呼ばれる。
【0078】
本発明の感光性樹脂組成物は、前記絶縁層や保護膜用として用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
合成例1(ポリアミド酸の合成) N−メチル−2−ピロリドン150mlに2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン32.0g(100mmol)を添加して溶解させた後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4g(100mmol)を添加して重合させ、標準ポリスチレン換算により求めた重量平均分子量が55700のポリアミド酸を得た。これをポリマー溶液Iとする。
【0081】
合成例2(ポリアミド酸の合成) N−メチル−2−ピロリドン150mlにp−フェニレンジアミン2.16g(20mmol)と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン32.0g(80mmol)を添加して溶解させた後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物25.6g(100mmol)を添加して重合させ、標準ポリスチレン換算により求めた重量平均分子量が62000のポリアミド酸を得た。これをポリマー溶液IIとする。
【0082】
実施例1〜6、比較例1〜4
(感光性樹脂組成物の作製)
得られたポリマー溶液I又はIIにN,N−ジメチルプロピルメタクリレート(DPM)を、用いたアミド酸のカルボキシル基とモル等量加え、さらに表1に記載した所定量の成分を加えて撹拌し、感光性樹脂溶液を得た。表1において、括弧内の数値は、ポリマー溶液I又はIIとDPMから得られるポリマー(a)100質量部に対する質量部である。
【0083】
【表1】

【0084】
B1:式(6)の構造を有する化合物(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGACURE OXE−01)
B2:チバスペシャリティーケミカルズ製IRGACURE OXE−02(エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)B3:ビス(シクロペンタジエニル)ビス(2,6−ジフルオロ−3(1H−ピル−イル)フェニル)チタニウム2質量部とジエチルアミノ−3−テノイルクマリン0.5質量部とを併せて使用
C1:N−フェニルベンゼンスルホンアミド
【0085】
(感光性樹脂組成物の評価)
以下のようにして感光性樹脂組成物を評価した。結果を表2に示す。
(1)溶解速度
得られた感光性樹脂組成物をシリコン基板上に回転塗布し、70℃で2分間、85℃で2分間ホットプレート上で乾燥させて膜厚12μmの感光性樹脂膜を得た。この感光性樹脂膜にフォトマスクを介してi線波長、露光量500mJ/cmで露光した。その後105℃で1分間の加熱を行った直後に、γ−ブチロラクトンによる現像液でパドル現像して未露光部分を溶解させ、未露光部分が完全に溶解した後に、基板の現像液を振り切って、イソプロピルアルコールによるリンスを行った。このとき現像開始から未露光部分が完全に溶解するまでの時間を測定し、溶解時間と未露光部分の膜厚から溶解速度を算出した。
【0086】
(2)引張り強度、伸び、弾性率
得られた感光性樹脂組成物を、シリコンウエハ上に回転塗布して、70℃で2分間、85℃で2分間加熱し、膜厚20μmの塗膜を形成した。
その後、前記塗膜をイナートガスオーブン中、窒素雰囲気下、200℃で30分加熱した後、さらに350℃で1時間加熱して硬化膜を得た。この硬化膜をシリコン基板ごとフッ酸水溶液に浸漬し、基板から硬化膜を剥離し、水洗、乾燥した。 この剥離したフィルムを幅10mm、長さ60mmに切断し評価試料とし、材料試験機(島津製作所製オートグラフAGS−H N100)を用いて、チャック間距離20mm、負荷速度5mm/minの条件で、引張り強度、伸び、弾性率を測定した。
【0087】
(3)熱膨張係数と吸湿膨張係数
熱膨張係数は、(2)で剥離したフィルムを幅5mm、長さ20mmに切断し評価試料とし、水蒸気雰囲気熱機械分析装置(リガク製、TMA8310)を用いて測定した。昇温速度5℃/min、引張り加重10g/0.05mmにて、100〜200℃の間の平均の線膨張係数を測定した。
【0088】
吸湿膨張係数は、剥離したフィルムを幅5mm、長さ20mmに切断し評価試料とし、水蒸気雰囲気熱機械分析装置(リガク製、TMA8310)を用いて測定した。温度25℃、湿度20%RHで、2時間その状態を維持して試料を安定にした。次に、湿度80%RHの状態に保持し、試料が安定になるまで1時間その状態を維持した。試料長の差を湿度の変化で除し、吸湿膨張係数とした(引張り加重(25g/0.05mm))。
【0089】
(4)残膜率
得られた感光性樹脂組成物をシリコン基板上に回転塗布し、70℃で2分間、85℃で2分間ホットプレート上で乾燥させて膜厚12μmの感光性樹脂膜を得た。この感光性樹脂膜にフォトマスクを介してi線波長、露光量500mJ/cmで露光した。その後105℃で1分間の加熱を行った直後に、γ−ブチロラクトンによる現像液でパドル現像して未露光部分を溶解させ、未露光部分が完全に溶解した後に、基板の現像液を振り切って、イソプロピルアルコールによるリンスを行った。感光性樹脂膜の膜厚と未露光部分の現像後膜厚から残膜率を算出した。
残膜率(%)=未露光部分の膜厚(現像後)/感光性樹脂膜厚×100
【0090】
【表2】

【0091】
実施例1〜3では、(c)成分を添加することによって他の特性を維持したまま溶解速度が大きくなり、感光性樹脂の溶解性が改善した。溶解速度の増加量は(c)成分の添加量に比例していた。(b)成分をB2とした実施例4〜6でも同様に(c)成分の添加によって、感光性樹脂の溶解性が改善した。(c)成分の添加量と溶解速度の増加の関係も同様の傾向が見られた。比較例1、2では(c)成分を添加しなかったため、十分な溶解速度が得られなかった。
【0092】
また(b)成分とは異なる成分を用いた比較例3、4では、吸湿膨張係数が実施例と比べて大きくなった。そのため比較例1〜4では実用レベルに至らなかった。よって比較例ではハードディスクドライブ用サスペンションの層間絶縁膜又は保護膜用途には不適切であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の感光性樹脂組成物は回路形成用基板の層間絶縁膜又は保護膜に使用でき、特にハードディスクドライブ用サスペンションの層間絶縁膜又は保護膜に使用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 支持基板
2 絶縁層(感光性樹脂組成物)
3 シード層
4 レジスト(感光性樹脂組成物)
5 開口部
6 回路層
7 保護層(感光性樹脂組成物)
8 カバー
10 サスペンション
11 板状部材
12 切り込み
13 ジンバル
14 銅導体層
15 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(A)
【化16】

(式(A)中、式(A)中、Rは3価又は4価の有機基、Rは2価の有機基、Rは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基又はOで表される基であり、Mは、水素イオン又は炭素炭素不飽和二重結合を有する化合物のイオンであり、Rの少なくとも1つは、炭素炭素不飽和二重結合を有する一価の有機基か、Oで表される基であってかつMが炭素炭素二重結合を有する化合物のイオンであり、nは1又は2である。)で表わされる構造単位を有するポリマーと、(b)活性光線照射によりラジカルを発生する化合物で、下記式(B)で表される構造を含む化合物と、(c)アリールスルホンアミド誘導体とを含有してなる感光性樹脂組成物。
【化17】

(式(B)中、Rは1価の芳香環又はヘテロ環であり、置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記アリールスルホンアミド誘導体(c)が、ベンゼンスルホンアミド誘導体である請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
式(A)で表わされる構造単位中、Rが、下記式(2)又は(3)で表わされる構造である請求項1又は2記載の感光性樹脂組成物。
【化18】

(式(2),(3)中、複数あるRは各々独立にフッ素原子、又は酸素原子、硫黄原子若しくはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1〜10の1価の有機基を表す。m、nは各々独立に0〜4の整数を表す。)
【請求項4】
式(A)で表わされる構造単位中、Rが、下記式(4)で表わされる構造である請求項1乃至3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【化19】

(式(4)中、Rは各々独立にフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。)
【請求項5】
前記化合物(b)が、オキシムエステル構造を含む化合物である請求項1乃至4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記化合物(b)が、下記式(5)で表される請求項5に記載の感光性樹脂組成物。
【化20】

(式(5)中、R10〜R16は各々独立に一価の基を表す)
【請求項7】
前記化合物(b)が下記式(6)で表される請求項6に記載の感光性樹脂組成物。
【化21】

【請求項8】
前記化合物(b)が、前記ポリマー(a)100質量部に対して0.1〜20質量部含まれる請求項1乃至7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記アリールスルホンアミド誘導体(c)が、前記ポリマー(a)100質量部に対して2〜30質量部含まれる請求項1乃至8のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
回路形成用基板の層間絶縁膜又は保護膜用である請求項1乃至9のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項11】
前記回路形成用基板が、ハードディスクドライブ用サスペンションの支持基板である請求項10に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を、ハードディスクドライブ用サスペンションの支持基板上に塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成する工程と、前記感光性樹脂膜を露光する工程と、前記露光後の感光性樹脂膜を現像する工程と、前記現像後の感光性樹脂膜を加熱処理する工程とを含むパターン形成方法。
【請求項13】
請求項12に記載のパターン形成方法により得られるパターンの層を、層間絶縁膜又は保護膜として有する回路形成用基板。
【請求項14】
支持基板と、層間絶縁膜と、導電層と、保護膜をこの順に含み、前記層間絶縁膜と保護膜の少なくとも1つが請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物から形成されたものである回路形成用基板。
【請求項15】
ハードディスクドライブ用サスペンションである請求項13又は14記載の回路形成用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−164454(P2011−164454A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28672(P2010−28672)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(398008295)日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】