説明

感光性組成物およびそれを用いたパターン形成方法

【課題】高い解像度と改善されたエッジラフネスとを備えるとともに、アルカリ現像可能な感光性組成物を提供する。
【解決手段】(1,3,5−トリス(パラ−(パラヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼン)を母核に有し、酸分解性置換基を有する化合物と、化学放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子などの製造工程における微細加工に用いられる感光性組成物、およびそれを用いたパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波素子や量子効果デバイス試作などにおいては、100nm以下の微細なパターニング特性が要求されている。レジストの成分として高分子化合物が含有された場合には、その分子サイズがエッジラフネスなどに影響を与えることが問題となりつつある。したがって、高分子化合物をベースとするレジストでは、解像度をそれ以上に改良することが困難になってきている。
【0003】
高解像性を得るため、環状フェノール誘導体を用いるEBレジストも研究されているものの、高い解像性に加えて十分な感度を有し、しかもアルカリ水溶液により現像可能なレジストは未だ得られていない。
【0004】
また、10個のベンゼン環から構成されるフェノール誘導体を用いたポジ型レジストが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。かかるレジストは、アルカリ水溶液で現像可能ではあるものの、これらを用いてもパターン形成は必ずしも十分満足のいくものではなく、基板への密着性についても言及されていない。しかも、合成が困難であるのに加えて十分な感度を得ることができなかった。
【0005】
一方、1つのベンゼン環から三方向にベンゼン環が連なった構造の化合物が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。かかる化合物は、合成中間体化合物として用いられており、ドラッグデリバリーシステムなどに有用とされているデンドリマーの合成に用いることが示されている。
【特許文献1】特開2003−183227号公報
【非特許文献1】Polymer Journal 32(3),255−262(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学放射線の照射に対して超高感度で反応し、高い解像度および改善されたエッジラフネスを備えるとともに、アルカリ現像可能な感光性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる感光性組成物は、下記一般式(BP)で表わされる化合物と
化学放射線により酸を発生する光酸発生剤と
を含有することを特徴とする。
【0008】
【化5】

【0009】
(上記一般式(BP)中、R1は酸分解性置換基であり、R1の一部は水素原子で置換されていてもよい。)
本発明の他の態様にかかる感光性組成物は、下記一般式(BN)で表わされる化合物と
化学放射線により酸を発生する光酸発生剤と、
酸触媒の作用によりヒドロキシ基と反応する架橋剤と
を含有することを特徴とする。
【0010】
【化6】

【0011】
(上記一般式(BN)中、R2は水素原子であり、R2の一部は酸分解性基で置換されていてもよい。)
本発明の一態様にかかるパターン形成方法は、基板上に前述の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に化学放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記基板を熱処理する工程と、
前記熱処理後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の露光部または未露光部を選択的に除去する工程と
を具備することを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化学放射線の照射に対して超高感度で反応し、高い解像度および改善されたエッジラフネスを備えるとともに、アルカリ現像可能な感光性組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
本発明の一実施形態にかかる感光性組成物は、前記一般式(BP)で表わされる化合物と、化学放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤とを含有する。こうした感光性組成物を含む感光性層の所定の領域に化学放射線を照射すると、露光部において選択的に光酸発生剤から酸が発生する。一般式(BP)には、R1として酸分解性基が導入されており、この酸分解性基は酸によって分解する。その結果、感光性層の露光部は、アルカリ水溶液に対する溶解性が高められ、アルカリ現像液により選択的に溶解除去することができる。すなわち、ポジ型の化学増幅型レジストである。
【0015】
前記一般式(BP)で表わされる化合物は、マトリックス化合物として感光性組成物に配合される。かかる化合物は、7個のベンゼンで構成され、中心のベンゼン環から3方向に連続して連なった構造の低分子化合物である。低分子化合物は、アモルファス性を示さず、結晶性を示すのが一般的である。それにもかかわらず、この化合物は、特異的にアモルファス性を示し、マトリックス化合物として好適な特性を有することが本発明者らによって見出された。
【0016】
しかも、前記一般式(BP)で表わされる化合物は分子間の立体障害が小さく、固体集合体を形成した際には個々の分子によって余分な隙間が生じにくい。このため、動きにくいと考えられることからガラス転移点が高い。さらに、中心のベンゼン環から3方向に飛び出したベンゼン環のパラ位に別のベンゼン環を有するため、ベンゼン環同士が共鳴効果を起こしやすい。加えて、末端のベンゼン環は、いずれもパラ位に(−OR1)を有することから、さらに共鳴効果が高められる。R1として水素が導入されている場合、すなわちヒドロキシ基(−OH)がベンゼン環に結合している場合には、その水素が脱離して(−O-)になりやすいと考えられる。
【0017】
特に化学放射線として電離放射線を照射した場合に水素が脱離しやすく、脱離した水素は、組成物中に配合された光酸発生剤からの酸の発生を促進させると考えられている。(例えば、J. Vac. Sci. Technol. B 15,2582(1997))。酸の発生が促進されて通常より多量の酸が発生するので、同量の酸を発生させるために必要とされる化学放射線の照射量は低減される。その結果、ポジ型化学増幅型レジストとしての感度は格段に向上する。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる感光性組成物は、分子サイズの小さい低分子化合物をマトリックス化合物として含有するので、分子量の小さい化合物のみで構成されることとなる。その結果、解像度を高めるとともにエッジラフネスを改善することができる。
【0019】
例えば高分子化合物は、分子サイズが大きく、分子鎖の絡まりあった網目構造の集合体のサイズが大きい。高分子化合物をマトリックス化合物として含有する感光性組成物の場合には、現像時に露光部の大きな集合体が脱離するため、これに基づいて側壁に大きなエッジラフネスを生ずることとなる。
【0020】
これに対して、低分子化合物は、分子サイズが小さく、分子鎖の絡まりあった集合体のサイズも小さい。このため、低分子化合物のみで構成される感光性組成物の場合には、現像時に露光部の脱離する集合体が小さく、その側壁に基づいたエッジラフネスが低減される。その結果、低分子化合物を用いた本発明の実施形態にかかる感光性組成物では、解像度が高められ、エッジラフネスを改善することが可能となった。
【0021】
1つのベンゼン環の周囲に複数のベンゼン環が結合された構造においては、パラ位の結合でなければ、非常に高い感度を得ることができない。また、パラ位の結合でなければ、ガラス転移点は高められないために酸が拡散しやすくなり、ラフネスの増大へ繋がるものと推測される。例えば、下記に示すような従来の構造の場合である。
【0022】
【化7】

【0023】
(前記一般式中、Rは酸分解性基である。)
こうした構造の場合には、中心のベンゼン環から3方向にひろがるベンゼン環のメタ位に別のベンゼン環を有するため、ベンゼン環同士の共鳴効果は低い。末端のベンゼン環は、パラ位(−OR)を有しているものの、Rとして水素原子が導入されていたところで、その水素は脱離しにくい。すなわち、(−O-)が生じにくいものと推測され、感度を高めることができず低感度になる。また、分子構造中の分岐鎖が多いことから、分子間の立体障害が大きくなることが避けられない。固体集合体を形成した際には、個々の分子により余分な隙間が容易に形成され、動きやすくなると考えられることからガラス転移点が低い。
【0024】
このように、従来の構造の化合物は、低感度でガラス転移点も低いため、こうした化合物をマトリックス化合物として含有する感光性組成物では、過剰の酸拡散によるエッジラフネスを低減することができない。
【0025】
本発明の一実施形態にかかる感光性組成物には、特定の構造を有する化合物が含有されるので、解像度を高め、エッジラフネスを改善できるとともに超高感度を実現することが可能となったものである。
【0026】
上述したように、一般式(BP)で表わされる化合物においては、各末端のベンゼン環のパラ位に結合した(−OR1)のR1には、酸分解性基が導入される。酸分解性基としては、例えば、エーテル類、エステル類、アルコキシカルボネート類、シリルエーテル類、アセタール類、ケタール類、サイクリックオルソエステル類、シリルケテンアセタール類、非環状アセタール類、非環状ケタール類、サイクリックアセタール類、サイクリックケタール類、およびシアノヒドリン類等が挙げられる。
【0027】
エーテル類としては、具体的には、t−ブトキシカルボニルエーテル、t−ブトキシメチルエーテル、4−ペンテニロキシメチルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、テトラヒドロチオピラニルエーテル、3−ブロモテトラヒドロピラニルエーテル、1−メトキシシクロヘキシルエーテル、4−メトキシテトラヒドロピラニルエーテル、4−メトキシテトラヒドロチオピラニルエーテル、1,4−ジオキサン−2−イルエーテル、テトラヒドロフラニルエーテル、テトラヒドロチオフラニルエーテル、2,3,3a,4,5,6,7,7a−オクタヒドロ−7,8,8−トリメチル−4,7−メタノベンゾフラン−2−イルエーテル、t−ブチルエーテル、トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、トリイソプロピルシリルエーテル、ジメチルイソプロピルシリルエーテル、ジエチルイソプロピルシリルエーテル、ジメチルセキシルシリルエーテル、およびt−ブチルジメチルシリルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
エステル類として、具体的には、t−ブチルエステル、エチルエステル、メチルエステル、ベンジルエステル、イソプロピルエステル、テトラヒドロピラニルエステル、テトラヒドロフラニルエステル、メトキシエトキシメチルエステル、2−トリメチルシリルエトキシメチルエステル、3−オキソシクロヘキシルエステル、イソボルニルエステル、トリメチルシリルエステル、トリエチルシリルエステル、イソプロピルジメチルシリルエステル、ジ−t−ブチルメチルシリルエステル、オキサゾール、3−アルキル1,3−オキサゾリン、4−アルキル−5−オキソ−1,3オキサゾリン、および5−アルキル−4−オキソ−1,3−ジオキソランなどが挙げられる。
【0029】
アルコキシカルボネート類としては、具体的には、t−ブトキシカルボネート、メトキシカルボネート、およびエトキシカルボネートなどが挙げられる。
【0030】
シリルエーテル類としては、具体的には、トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、ジ−t−ブチルシリルエーテル、1,3,1′,1′,3′,3′−テトライソプロピルジシロキサニリデンエーテル、およびテトラ−t−ブトキシジシロキサン−1,3−ジイリデンエーテルなどが挙げられる。
【0031】
アセタール類としては、具体的には、メチレンアセタール、エチリデンアセタール、2,2,2−トリクロロエチリデンアセタール、アダマンチルオキシエチル、アダマンチルメトキシエチル、アダマンチルエトキシエチル、およびビシクロノナン3,7−カルボラクチルオキシエチルなどが挙げられる。
【0032】
ケタール類としては、具体的には、1−t−ブチルエチリデンケタール、イソプロピリデンケタール(アセトナイド)、シクロペンチリデンケタール、シクロヘキシリデンケタール、およびシクロヘプチリデンケタールなどが挙げられる。
【0033】
サイクリックオルソエステル類としては、具体的には、メトキシメチレンアセタール、エトキシメチレンアセタール、ジメトキシメチレンオルソエステル、1−メトキシエチリデンオルソエステル、1−エトキシエチリデンオルソエステル、1,2−ジメトキシエチリデンオルソエステル、1−N,N−ジメチルアミノエチリデンオルソエステル、および2−オキサシクロペンチリデンオルソエステルなどが挙げられる。
【0034】
シリルケテンアセタール類としては、具体的には、トリメチルシリルケテンアセタール、トリエチルシリルケテンアセタール、およびt−ブチルジメチルシリルケテンアセタールなどが挙げられる。
【0035】
非環状アセタール類や非環状ケタール類としては、具体的には、1,3−ジオキサン、5−メチレン−1,3−ジオキサン、5,5−ジブロモ−1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−ブロモメチル−1,3−ジオキソラン、4,3′−ブテニル−1,3−ダイオキソラン、および4,5−ジメトキシメチル−1,3−ダイオキソランなどが挙げられる。
【0036】
サイクリックアセタール類やサイクリックケタール類としては、具体的には、1,3−ジオキサン、5−メチレン−1,3−ジオキサン、5,5−ジブロモ−1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−ブロモメチル−1,3−ジオキソラン、4,3′−ブテニル−1,3−ダイオキソラン、および4,5−ジメトキシメチル−1,3−ダイオキソランなどが挙げられる。
【0037】
シアノヒドリン類としては、具体的には、O−トリメチルシリルシアノヒドリン、O−1−エトキシエチルシアノヒドリン、およびO−テトラヒドロピラニルシアノヒドリンなどが挙げられる。
【0038】
光酸発生剤から発生した酸の触媒反応下の結合解裂エネルギーが最も小さく、保護基の脱離反応が容易に生じて感度の向上につながることから、酸分解性基としてはアセタール類が好ましい。
【0039】
上述したような酸分解性基には、脂環式骨格が含まれることが好ましい。化学放射線を真空中で照射する場合には、脱ガスが発生して、照射装置の内部を汚すことが問題とされているが、脂環式骨格によってこれを回避することができる。具体的には、脂環式骨格は、一般に200℃以上の高沸点を示すため、その脱ガスの発生を抑えられる効果が得られる。脂環式骨格は特に限定されないが、なかでも、アダマンタンおよびハイパーラクトンが好ましい。
【0040】
アダマンタンは、疎水性が強いことから、低い保護率で現像液に対し高い抑止効果を示し、ヒドロキシ基を多く残すことができる。その結果、シリコン基板への密着性を高く保って、コントラストを高くできる点で有利である。一方、ハイパーラクトンは親水性を有しているので、アダマンタンの場合とは逆に、高い保護率でもレジスト膜の表面エネルギーを高く保つことができる。すなわち、高いコントラストを維持したまま、シリコン基板などに対する密着性が高められる。このように、アダマンタンおよびハイパーラクトンは、いずれもコントラストの向上に寄与する。
【0041】
これらを考慮すると、酸分解性基としては、以下に示す構造が好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
(上記式中、rは、0〜5の整数である。s,tおよびuは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ0または1の整数である。ただし、s,tおよびuの合計は1〜3の整数である。)
具体的には、下記(AC−5)、(AC−6)、(AC−7)および(AC−8)で表わされる構造が挙げられる。
【0044】
【化9】

【0045】
上述したような酸分解性基がR1に導入されているので、前記一般式(BP)で表わされる化合物は、露光により現像液に溶解性を呈するというポジ型の特性を備える。R1の一部は、水素原子で置換されていてもよい。この場合には、基板との密着性を高めることができる。
【0046】
酸分解性基の種類に応じて異なるが、一般的にはR1の5〜95%が水素原子で占められていれば、上述したような効果が得られる。具体的には、例えば、酸分解性基が上記一般式(AC−5)、(AC−6)および(AC−7)などの疎水性の高い置換基の場合には、水素原子の含有量は、60〜95%程度であることが好ましい。また、酸分解性基R1が上記一般式(AC−7)のような親水性の高い置換基の場合には、水素原子の含有量は、20〜80%程度であることが好ましい。置換の割合は、酸分解性基の種類に応じて適切に選択すればよい。
【0047】
前記一般式(BP)で表わされる化合物は、マトリックス化合物として本発明の実施形態にかかる感光性組成物に配合される。必要に応じて、2種以上のマトリックス化合物が含有されてもよい。
【0048】
酸分解性基の分解は、光酸発生剤から発生する酸によって生じる。光酸発生剤は、化学放射線の作用により酸を発生する化合物である。化学放射線とは、具体的には紫外線および電離放射線をさし、光酸発生剤としては、スルホニル、ヨードニウム、およびその他のオニウム塩化合物やスルホニルエステルが好ましく用いられる。光酸発生剤の好ましい具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
【化14】

【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

【0057】
【化18】

【0058】
ここで、R10、R11およびR12は、同一でも異なっていてもよく、置換または非置換のアルキル基、および置換または非置換のアリール基から選択される。
【化19】

【0059】
ここでZは、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルコキシ基、置換または非置換のアリール基、およびハロゲン原子から選択される置換基であり、X+−は任意のカチオン基である。nは、そのカチオン基の全体電荷が+1になるような1〜3の整数である。
【0060】
【化20】

【0061】
光酸発生剤は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。光酸発生剤の含有量は、一般には、感光性組成物に含まれる固形成分の全重量の0.1〜10.0重量%とすることができる。固形成分とは、感光性組成物から有機溶媒成分を除いた組成物をさす。光酸発生剤の含有量が少なすぎる場合には、十分な感度を得ることが困難となる。特に電離放射線による照射では、紫外線に比べて、多くの光酸発生剤を要する。一方、光酸発生剤が多すぎる場合には、例えばArFエキシマー光などによる露光の場合では、光酸発生剤そのものの光吸収により露光波長における感光性組成物の光透過性が損なわれることがある。光酸発生剤は、固形成分の0.3〜5.0重量%の量で配合されることが、より好ましい。
【0062】
本発明の一実施形態にかかるポジ型感光性組成物には、必要に応じてさらに添加物を配合することができるが、これについては後述する。
【0063】
次に、本発明の他の実施形態にかかる感光性組成物について説明する。他の実施形態にかかる感光性組成物は、下記一般式(BN)で表わされる化合物と、化学放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤と、酸触媒の作用によりヒドロキシ基と反応する架橋剤とを含有する。
【0064】
【化21】

【0065】
(上記一般式(BN)中、R2は水素原子であり、R2の一部は酸分解性基で置換されていてもよい。)
こうした感光性組成物を含む感光性層の所定の領域に化学放射線を照射すると、露光部において選択的に光酸発生剤から酸が発生する。酸が架橋剤のヒドロキシ基と反応し、脱水反応が起こり、生成された架橋剤の末端のカルボカチオンが一般式(BN)のR2として導入された水素原子を引き抜き、架橋反応を起こす。その結果、感光性層の露光部では、架橋反応が生じてアルカリ水溶液に対する溶解性が低下するので、アルカリ現像液により、感光性層の未露光部を選択的に溶解除去することができる。すなわち、ネガ型の化学増幅型レジストである。
【0066】
前記一般式(BN)で表わされる化合物は、マトリックス化合物として感光性組成物に配合される。かかる化合物は、7個のベンゼンで構成され、中心のベンゼン環から3方向に連続して連なった構造の低分子化合物である。上述したとおり低分子化合物は、アモルファス性を示さず、結晶性を示すのが一般的である。しかしながら、この化合物は、一般式(BP)を表わされる化合物と同様に、特異的にアモルファス性を示し、マトリックス化合物として好適な特性を有することが本発明者らによって見出された。
【0067】
しかも、前記一般式(BN)で表わされる化合物は分子間の立体障害が小さく、固体集合体を形成した際には個々の分子によって余分な隙間が生じにくい。このため、動きにくいと考えられることからガラス転移点が高い。さらに、中心のベンゼン環から3方向に飛び出したベンゼン環のパラ位に別のベンゼン環を有するため、ベンゼン環同士が共鳴効果を起こしやすい。加えて、末端のベンゼン環は、いずれもパラ位に(−OR2)を有することから、さらに共鳴効果が高められる。R2として水素が導入されている場合、すなわちヒドロキシ基(−OH)がベンゼン環に結合している場合には、その水素が脱離して(−O-)になりやすいと考えられる。
【0068】
特に化学放射線として電離放射線を照射した場合に水素が脱離しやすく、脱離した水素は、組成物中に配合された光酸発生剤からの酸の発生を促進させると考えられていることは、上述したとおりである。酸の発生が促進されて通常より多量の酸が発生すれば、同量の酸を発生させるために必要とされる化学放射線の照射量は低減される。その結果、ネガ型化学増幅型レジストとしての感度は格段に向上する。また、ベンゼン環がヒドロキシ基(−OH)を有する場合には、架橋剤のカルボカチオンがその水素を引き抜く反応においても、同様に、その水素が脱離しやすいため、感度が高くなると考えられる。
【0069】
こうした条件を全て備えているので、化学式(BN)で表わされる化合物を含有する本発明の他の実施形態にかかる感光性組成物は、解像度を高めるとともにエッジラフネスを改善することができる。
【0070】
上述したポジ型の場合と同様、ネガ型の感光性組成物の場合も、マトリックス化合物として高分子化合物が含有されていると、現像時には未露光部の大きな集合体が脱離することになる。これに基づいて、側壁に大きなエッジラフネスを生ずる。これに対し、低分子化合物のみで構成される感光性組成物を用いた場合では、分子サイズが小さく、分子鎖の絡まりあった集合体のサイズも小さい。このため、現像時に未露光部の脱離する集合体が小さく、その側壁に基づいたエッジラフネスが小さくなる。その結果、解像度が高められ、エッジラフネスを改善することが可能となった。
【0071】
1つのベンゼン環の周囲に複数のベンゼン環が結合された構造であっても、すでに説明したように、パラ位の結合でなければ、非常に高い高感度性を得ることができない。また、パラ位の結合でなければ、ガラス転移点が低くなるため、酸が拡散しやすくなり、ラフネスの増大へと繋がることが予測される。
【0072】
本発明の他の実施形態にかかる感光性組成物には、特定の構造を有する化合物が含有されるので、解像度を高め、エッジラフネスを改善できるとともに超高感度を実現することが可能となったものである。
【0073】
上述したように、一般式(BN)で表わされる化合物においては、各末端のベンゼン環のパラ位に結合した(−OR2)のR2には水素原子が導入されるが、一部が酸分解性基で置換されていてもよい。酸分解性基が存在することによって、露光部と未露光部との現像液への溶解速度比、つまり溶解コントラストを調整することができる。また、表面エネルギーを調整することができるため、種々の基板との密着性が高められる。
【0074】
酸分解性基の種類に応じて異なるが、一般的にはR2の70〜99%が水素原子で占められていれば、上述したような効果が得られる。具体的には、例えば、酸分解性基が上記一般式(AC−5)、(AC−6)および(AC−7)などの疎水性の高い置換基の場合には、水素原子の含有量は、80〜99%程度であることが好ましい。また、酸分解性基が上記一般式(AC−7)のような親水性の高い置換基の場合には、水素原子の含有量は、70〜95%程度であることが好ましい。置換の割合は、酸分解性基の種類に応じて適切に選択すればよい。
【0075】
酸分解性基としては、すでに説明したような置換基を導入することができる。前述と同様の理由から、酸分解性基としては、前述の(AC−1)、(AC−2)、(AC−3)または(AC−4)で表わされる構造が好ましい。特に好ましいのは、前述の(AC−5)、(AC−6)、(AC−7)または(AC−8)で表わされる構造である。
【0076】
前記一般式(BN)で表わされる化合物に、光酸発生剤および架橋剤を配合して、ネガ型の感光性組成物が得られる。光酸発生剤としては、ポジ型の場合と同様の化合物を用いることができる。一般式(BP)で表わされる化合物は、マトリックス化合物として本発明の実施形態にかかる感光性組成物に配合される。必要に応じて、2種以上のマトリックス化合物が含有されてもよい。
【0077】
架橋剤としては、酸触媒の作用によってヒドロキシ基と反応する基を有する任意の化合物を用いることができる。具体的には、架橋剤としては、下記に示す化合物が挙げられる。
【0078】
【化22】

【0079】
こうした架橋剤の含有量は、架橋剤の種類等に応じて適宜選択することができるが、通常、マトリックス化合物の10〜50重量%程度である。少なすぎる場合には、感光性層の未露光部のアルカリ水溶液に対する溶解性を十分に低下させることができない。一方、過剰に含有されたところで顕著な効果は得られず、むしろ、架橋剤がマトリックス化合物間に取り込まれず、膜内で分離されて平滑なアモルファス膜を形成できなくなるといった不都合が生じるおそれがある。
【0080】
一般式(BN)のR2の全てに水素原子が導入された化合物をマトリックス化合物として用い、架橋剤として2、6−ビス(ヒドロキシメチル)−4−メチルフェノールを配合する場合には、この架橋剤は、マトリックス化合物の20〜40重量%の量で含有されることが好ましい。
【0081】
ポジ型およびネガ型のいずれの場合も、本発明の実施形態にかかる感光性組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、化学増幅型レジストの欠点である環境中の塩基性化合物の影響を低減させるために、微量の塩基性化合物を添加してもよい。
【0082】
塩基性化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、アニリン誘導体、アミン化合物、およびインデン誘導体などが挙げられる。ピリジン誘導体としては、例えばt−ブチルピリジン、ベンジルピリジン、および各種のピリジニウム塩などが挙げられ、アニリン誘導体としては、例えばN−メチルアニリン、N−エチルアニリン、およびN,N’−ジメチルアニリンなどが挙げられる。また、アミン化合物としては、例えばジフェニルアミンおよびN−メチルジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0083】
塩基性化合物の添加量は、一般に光酸発生剤のモル数を基準にして、10〜70モル%である。塩基性化合物の添加量が少なすぎる場合には、その効果を十分に得ることができず、一方、塩基性化合物が多すぎる場合には、感光性組成物の感度が低下することがある。塩基性化合物の添加量は、用いるパターニング装置等に応じて適宜調整することが望まれる。
【0084】
本発明の実施形態にかかる感光性組成物は、上述した各成分を溶剤に溶解し、メンブレンフィルターなどで濾過することによって調製することができる。溶剤としては、ケトン類、セロソルブ類、およびエステル類といった有機溶媒が挙げられる。具体的には、ケトンとしては、例えばシクロヘキサノン、アセトン、エチルメチルケトン、およびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。セロソルブル類としては、例えばメチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、およびブチルセロソルブアセテートなどが挙げられる。また、エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、γ−ブチロラクトン、および3−メトキシプロピオン酸メチルなどが挙げられる。上述したような溶剤は、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
感光性組成物の種類によっては、溶解性を向上させるためにジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、アニソール、モノクロロベンゼン、あるいはオルトジクロロベンゼンなどを、溶剤の一部として用いることもできる。さらには、低毒性溶媒として乳酸エチルなどの乳酸エステル、プロピレングリコールモノエチルアセテートなどを用いてもよい。
【0086】
本発明の実施形態にかかる感光性組成物を用いてパターンを形成するにあたっては、まず、感光性組成物を基板上に塗布して感光性層を形成する。基板としては、任意のものを用いることができる。基板としては具体的には、シリコンウェハー、ドーピングされたシリコンウェハー、表面に各種の絶縁膜、電極、または配線が形成されたシリコンウェハー、マスクブランクス、GaAsまたはAlGaAsなどのIII−V族化合物半導体ウェハーなどを挙げることができる。さらに、クロムまたは酸化クロム蒸着基板、アルミニウム蒸着基板、IBSPGコート基板、SOGコート基板、またはSiNコート基板を用いることもできる。
【0087】
こうした基板上に感光性組成物を塗布するには任意の方法を採用することができ、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード法、およびカーテンコーティングなどが挙げられる。
【0088】
塗布された感光性組成物を加熱乾燥して、感光性層が形成される。マトリックス化合物の酸分解性置換基や、光酸発生剤は未露光のときであっても、高温加熱で分解反応を起こし、反応してしまうことから、加熱乾燥の温度は170℃以下が好ましく、70〜120℃が好ましい。
【0089】
次に、感光性層の所定の領域に化学放射線を照射してパターン露光を行なう。露光は、所定のマスクパターンを介して、感光性層に化学放射線を照射することにより行なうことができる。あるいは、マスクパターンを用いずに、感光性層に電離放射線を直接走査させて露光を行なってもよい。
【0090】
露光に用いる電離放射線は、前記の感光性組成物が感度を有する波長を持つものであれば任意のものを用いることができる。具体的には、紫外線、水銀ランプのi線、h線、またはg線、キセノンランプ光、新紫外UV光(たとえばKrFまたはArFなどのエキシマーレーザー光)、X線、シンクロトロンオービタルラジエーション(SR)、電子線、γ線、およびイオンビームなどを用いることができる。
【0091】
露光後の基板に対しては、加熱処理(ベーキング処理)を行なう。加熱処理は、任意の方法で行なうことができるが、一般的には熱板上や加熱炉中での加熱、または赤外線照射などにより加熱することができる。化学増幅型のレジスト組成物を用いたパターン形成においては、酸触媒反応を促進させるために加熱処理を行なうが、酸が過剰に拡散するのを抑えるために、加熱処理の温度は150℃以下に抑えることが望まれる。
【0092】
続いて、感光性層をアルカリ現像液により現像する。アルカリ現像液としては、有機アルカリ水溶液および無機アルカリ水溶液のいずれを用いてもよい。有機アルカリ水溶液としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、およびコリン水溶液などが挙げられ、無機アルカリ水溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
【0093】
アルカリ現像液の濃度は限定されないが、感光性層の露光部と未露光部との溶解速度差を大きくして、十分な溶解コントラストを確保するために、15モル%以下の濃度であることが好ましい。この濃度は、マトリックス化合物に導入された保護基の量に応じて調整することが必要である。
【0094】
このように、アルカリ現像液としてpH11以下の水性現像液を用いることもできる。また、これらの現像液には、必要に応じて任意の添加剤を添加することもできる。例えば、界面活性剤を添加して現像液の表面張力を下げたり、中性塩を加えて現像を活性にすることもできる。また、現像液の温度も任意であり、冷水を用いることも温水を用いることもできる。
【0095】
本発明のパターン形成方法においては、必要に応じて、さらに工程を加えることもできる。例えば、基板上に感光性層を塗設する前に平坦化層形成させる工程、露光光の反射を低減させるための反射防止層を形成させる工程、現像処理後の基板を水などで洗浄して、現像液などを除去するリンス工程、および、ドライエッチング前に紫外線を再度照射する工程などを、前述の工程に組み合わせることができる。
【0096】
すでに説明したように、ポジ型の感光性組成物の場合には、現像処理によって感光性層の露光部が選択的に溶解除去されることによって、レジストパターンが形成される。ネガ型の感光性組成物の場合には、感光性層の露光部で架橋が生じているので、未露光部が選択的に溶解除去されることによって、レジストパターンが形成される。本発明の実施形態にかかる感光性組成物が用いられるので、本発明の方法によって、エッジラフネスが低減されたパターンを、高い解像度および感度で形成することが可能である。
【0097】
以下、本発明の具体例を示す。
【0098】
(合成例1)
市販の1,3,5−トリス(パラ−ブロモフェニル)ベンゼン(5.43g)と4−(メトキシフェニル)ボロン酸(6.08g)と炭酸カリウム(5.53g)とを三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。ここに、脱水トルエン100mlを加えて、よく撹拌し、さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.2g)を加えた。得られた混合物を、90℃で8時間撹拌した。
【0099】
室温に冷却したところ、灰白色の沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過して大量のトルエンに溶解し、100℃で撹拌した後、熱ろ過してろ液を得た。エバポレーターにより、ろ液から溶媒を除去して、やや灰色がかった白色の残留物が得られた。
【0100】
残留物をトルエンから再結晶して吸引ろ過して、真空中60℃で乾燥後、純粋な白色生成物が生じた(収量3.15g、収率50.4%)。1H−NMR測定の結果、白色生成物は、下記化学式で表わされる(1,3,5−トリス(パラ−(パラ−メトキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下TMTPPBと称する))と同定された。
【0101】
【化23】

【0102】
(合成例2)
前述の合成例1で得られたTMTPPB(2g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。その中へ脱水ジクロロメタン(120ml)を加えて撹拌し、基質を溶解した。次に、1Mトリブロモホウ素/ジクロロメタン溶液(22.4ml)を除々に滴下し、40℃で8時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、75mlの純水を徐々に加えて1〜2時間撹拌した。
【0103】
酢酸エチルで3回抽出して有機層を得、この有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥後の有機層をろ過して無水硫酸ナトリウムを除去し、エバポレーターで乾固させて固体を得た。得られた固体を少量の冷メタノールで洗って吸引ろ過し、60℃で乾燥させて純粋な生成物が得られた(収量1.11g、収率59.4%)。
【0104】
1H−NMR測定の結果、生成物は、下記化学式で表わされる(1,3,5−トリス(パラ−(パラ−ヒドロキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下THTPPBと称する))と同定された。TG/DTA、DSC測定解析から、ガラス転移点(Tg)は145℃であり、融点(Tm)は240℃であった。
【0105】
【化24】

【0106】
(合成例3)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。THFを加えて溶解し、撹拌しつつシリンジを用いて、K2CO3、18−クラウン−6、およびジターシャリーブチルカルボネートを順次滴下した。これを、40℃、8時間撹拌した。
【0107】
次に、蒸留水を過剰に加え、酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチルを濃縮し、テトラヒドロキシフラン/メタノール混合溶媒から再結晶して、白色粉末が得られた。(収量0.26g、収率85.5%)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる1,3,5−トリス(パラ−(パラ−ターシャリーブトキシカルボニルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下TBOTPPBと称する)と同定された。
【0108】
【化25】

【0109】
(合成例4)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)を三口フラスコに収容し、アルゴン置換した。ジメチルホルムアミドを加えて溶解し、60℃に保った。ジターシャリーブチルカルボネートを加え、十分に撹拌した後、トリエチルアミンを滴下して7時間撹拌した。
【0110】
次に、蒸留水を過剰に入れ、酢酸エチルで3回抽出した。その酢酸エチル溶液を濃縮し、メタノールから再結晶して、白色粉末が得られた。(収量0.23g)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる(部分保護化トリス(パラ−(パラ−ターシャリーブトキシカルボニルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下Semi−TBOTPPBと称する)と同定されたた。1H−NMR測定解析から、全ヒドロキシ基に対する保護率は63.6%であった。
【0111】
【化26】

【0112】
(合成例5)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)をフラスコに収容し、酢酸エチル(3.0g)を加えて溶解した。ここに、アダマンチルビニルエーテル(0.69g)を加えて十分に撹拌し、ジクロロ酢酸(0.014g)を滴下して一昼夜撹拌した。
【0113】
これを、0.5%水酸化ナトリウム水溶液(6.0g)中に加え、酢酸エチルで3回抽出した。その酢酸エチル溶液を純水で数回洗浄し、濃縮して、ヘキサンで沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥させて白色粉末が得られた。(収量0.21g)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる(部分保護化トリス(パラ−(パラ−アダマントキシエチルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下AVETPPBと称する)と同定された。1H−NMR測定解析から、全ヒドロキシ基に対する保護率は45.9%であった。
【0114】
【化27】

【0115】
(合成例6)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)をフラスコに収容し、酢酸エチル(3.0g)を加えて溶解した。ここに、ハイパーラクチルビニルエーテル(0.21g)を加えて十分に撹拌し、ジクロロ酢酸(0.014g)を滴下し一昼夜撹拌した。
【0116】
これを、0.5%水酸化ナトリウム水溶液(6.0g)中に加え、酢酸エチルで3回抽出した。その酢酸エチル溶液を純水で数回洗浄し、濃縮して、ヘキサンで沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥させて白色粉末が得られた。(収量0.24g)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる(部分保護化トリス(パラ−(パラ−ハイパーラクチルエチルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下HPVETPPBと称する)と同定された。1H−NMR測定解析から、全ヒドロキシ基に対する保護率は28.3%であった。
【0117】
【化28】

【0118】
(合成例7)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)をフラスコに収容し、酢酸エチル(3.0g)を加えて溶解した。ここに、アダマンチルメチルビニルエーテル(0.20g)を加えて十分に撹拌し、ジクロロ酢酸(0.014g)を滴下して一昼夜撹拌した。
【0119】
これを、0.5%水酸化ナトリウム水溶液(6.0g)中に加え、酢酸エチルで3回抽出した。その酢酸エチル溶液を純水で数回洗浄し、濃縮して、ヘキサンで沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥させて白色粉末が得られた。(収量0.23g)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる(部分保護化トリス(パラ−(パラ−アダマンチルメトキシエチルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下AMVETPPBと称する)と同定された。1H−NMR測定解析から、全ヒドロキシ基に対する保護率は9.7%であった。
【0120】
【化29】

【0121】
(合成例8)
前述の合成例2で得られたTHTPPB(0.20g)をフラスコに収容し、酢酸エチル(3.0g)を加えて溶解した。ここに、アダマンチルエチルビニルエーテル(0.21g)を加えて十分に撹拌し、ジクロロ酢酸(0.014g)を滴下して一昼夜撹拌した。
【0122】
これを、0.5%水酸化ナトリウム水溶液(6.0g)中に加え、酢酸エチルで3回抽出した。その酢酸エチル溶液を純水で数回洗浄し、濃縮して、ヘキサンで沈殿させた。沈殿物を回収し、乾燥させて白色粉末が得られた。(収量0.22g)
1H−NMR測定の結果、白色粉末は、下記化学式で表わされる(部分保護化トリス(パラ−(パラ−アダマンチルエトキシエチルオキシフェニル)フェニル)ベンゼン(以下AEVETPPBと称する)と同定された。1H−NMR測定解析から、全ヒドロキシ基に対する保護率は21.7%であった。
【0123】
【化30】

【0124】
以上のように、7個のベンゼン環で構成される化合物を合成した。各化合物を、溶剤としてのメトキシプロピオン酸メチルに溶解し、光酸発生剤および塩基性化合物を配合してレジスト液を調製した。光酸発生剤としてはトリフェニルスルホニウムトリフレートを用い、塩基性化合物としてはトリブチルアミンを用いた。
【0125】
レジスト液の処方を、下記表1に示す。表中、括弧内の数値は配合量で表わす。以下の実施例において、マトリックス化合物の配合量は溶剤に対する重量%、光酸発生剤の配合量はマトリックス化合物に対する重量%である。また、塩基性化合物の配合量は、光酸発生剤に対するモル%である。
【0126】
【表1】

【0127】
(実施例1〜9)
上述のように調製されたレジスト液を用いてレジスト膜を形成し、パターニングを行なった。具体的には、レジスト液をスピンコーティングによりシリコンウェハー上に塗布して、膜厚200nm程度のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を、110℃で90秒間ベーキングした後、KrFエキシマレーザーステッパーでパターン露光を行なった。
【0128】
必要に応じて露光後ベーキング処理を施した後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により現像を行ない、ポジ型のパターンを得た。処理の条件および結果を下記表2にまとめる。なお、全保護体を用いた実施例1において、パターンの剥がれがあり、他実施例の部分保護体を用いた場合では、パターンの剥がれがなかった。
【0129】
【表2】

【0130】
また、架橋剤としての2、6−ビス(ヒドロキシメチル)−4−メチルフェノールを用いて、下記表3に示す処方でレジスト液10を調製した。架橋剤の配合量は、溶剤に対する重量%であり、ここで得られたレジスト液10は、ネガ型レジストである。
【0131】
【表3】

【0132】
(実施例10)
レジスト液10を用いてレジスト膜を形成し、パターニングを行なった。具体的には、レジスト液10をスピンコーティングによりシリコンウェハー上に塗布して、膜厚200nm程度のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、KrFエキシマレーザーステッパーでパターン露光を行なった。露光後ベーキング処理をした後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により現像を行ない、ネガ型のパターンを得た。処理の条件および得られた結果を、下記表4にまとめる。
【0133】
【表4】

【0134】
表2、4の結果から明らかなように、本発明の実施形態にかかる感光性組成物を用いてパターン形成を行なった場合、いずれもアルカリ現像によるパターン形成が可能である。光酸発生剤の感光機構を考慮すると、軟X線(13nm)のEUV光にも感光することは容易に推測できる。すなわち、将来のEUVリソグラフィーにも本発明の実施形態にかかる感光性組成物は応用することが充分可能である。
【0135】
次に、下記表5に示す処方でレジスト液を調製した。なお、光酸発生剤としてはトリフェニルスルホニウムトリフレートを用い、塩基性化合物としてはトリブチルアミンを用いた。
【0136】
【表5】

【0137】
(実施例11〜16)
前述のレジスト液11〜16を用いて、電子線描画試験を行なった。具体的には、レジスト液をスピンコーティングによりシリコンウェハー上に塗布して、膜厚100nm程度のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、低加速電子線描画装置(電子線の加速電圧は5keV)でパターン描画を行なった。
【0138】
必要に応じて露光後ベーキング処理を施した後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により現像し、ポジ型のパターンを得た。処理の条件および得られた結果を、表6にまとめる。
【0139】
【表6】

【0140】
ラフネスの評価は、次に示すラインワイズラフネス(LWR)評価の方法で行なった。レジスト膜を電子線描画してベーキング処理、TMAH水溶液による現像処理を行なって、線幅100nmで一定のラインアンドスペースパターンを得た。得られたパターンを、350nm×200nm(ROI)の範囲でLWRの値(3σ値)を算出した。
【0141】
上記表6中の比較例1で用いたレジスト17は、マトリックス化合物として分子量20000の部分的にターシャリーブトキシカルボニルオキシ化したポリヒドロキシスチレン(以下TBOPHSと称する)を用いて、以下の処方により調製した。光酸発生剤としてはトリフェニルスルホニウムトリフレートを用い、塩基性化合物としてはトリブチルアミンを用いた。
【0142】
【表7】

【0143】
上記表6の結果から明らかなように、本発明の実施形態にかかる感光性組成物は、いずれもアルカリ水溶液による現像が可能である。しかも、ラフネスが許容範囲内に低減されたレジストパターンを、高い感度で形成することができ、優れた解像性が得られることがわかる。
【0144】
(実施例17)
レジスト液3をシリコンウェハー上にスピンコーティングにより塗布して、膜厚200nm程度のレジスト膜を形成した。得られたレジスト膜を110℃で90秒間ベーキングした後、紫外線で全面露光し、ベーキング処理をした後、2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液により全面現像を行ない、残膜率50%の一定値の膜を得た。
【0145】
その表面の500nm×500nmの領域をAFM測定装置(Nanoscope III、ノンコンタクトモード、スーパーシャープシリコンチップ[SSS−NCH−50]をカンチレバーに使用)で測定して、250nm×250nmの領域でAFM測定装置付属の解析ソフトで表面ラフネス(Ra値)の評価を行なった。得られた結果を表8にまとめる。
【0146】
【表8】

【0147】
上記表8中の比較例2で用いたレジスト18は、マトリックス化合物として前述のTBOPHSを用いて、以下の処方により調製した。なお、光酸発生剤としてはトリフェニルスルホニウムトリフレートを用い、塩基性化合物としてはトリブチルアミンを用いた。
【0148】
【表9】

【0149】
上記表8の結果から明らかなように、本発明の実施形態にかかる感光性組成物を用いた場合には、表面ラフネスを低減することができる。表面ラフネスはエッジラフネスに相当すると考えられるため、本発明の実施形態にかかる感光性組成物を用いることによって、ラフネスが小さいことを再度確認することができる。参考までに光酸発生剤の感光機構を考えると容易に推測できる軟X線(13nm)のEUV光の感光に対してもラフネスが小さいことを推測できる。
【0150】
上述したように、本発明の実施形態にかかる感光性組成物は、将来のEUVリソグラフィーにおいても、低減されたラフネスでレジストパターンを形成することが可能であり、その工業的価値は絶大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(BP)で表わされる化合物と
化学放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤と
を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化1】

(上記一般式(BP)中、R1は酸分解性置換基であり、R1の一部は水素原子で置換されていてもよい。)
【請求項2】
下記一般式(BN)で表わされる化合物と
化学放射線の作用により酸を発生する光酸発生剤と、
酸触媒の作用によりヒドロキシ基と反応する架橋剤と
を含有することを特徴とする感光性組成物。
【化2】

(上記一般式(BN)中、R2は水素原子であり、R2の一部は酸分解性基で置換されていてもよい。)
【請求項3】
前記酸分解性基は、エーテル類、エステル類、アルコキシカルボネート類、シリルエーテル類、アセタール類、ケタール類、サイクリックオルソエステル類、シリルケテンアセタール類、サイクリックアセタール類、サイクリックケタール類、およびシアノヒドリン類からなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記酸分解性基は、脂環式骨格を含むことを特徴とする請求項3に記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記脂環式骨格は、アダマンタンおよびハイパーラクトンから選択されることを特徴とする請求項4に記載の感光性組成物。
【請求項6】
前記酸分解性基は、以下に示す群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の感光性組成物。
【化3】

(上記式中、rは、0〜5の整数である。s,tおよびuは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ0または1の整数である。ただし、s,tおよびuの合計は1〜3の整数である。)
【請求項7】
前記酸分解性基は、以下に示す群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の感光性組成物。
【化4】

【請求項8】
基板上に請求項1乃至7のいずれか1項に記載の感光性組成物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層の所定の領域に化学放射線を照射してパターン露光する工程と、
前記基板を熱処理する工程と、
前記熱処理後の感光性層をアルカリ水溶液で現像処理して、前記感光性層の露光部または未露光部を選択的に除去する工程と
を具備することを特徴とするパターン形成方法。

【公開番号】特開2009−80203(P2009−80203A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248023(P2007−248023)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】